IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図1
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図2
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図3
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図4
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図5
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図6
  • 特許-プレス成形品の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B21D22/26 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023551205
(86)(22)【出願日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2023019071
(87)【国際公開番号】W WO2024047968
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2022135517
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-091379(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148618(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/049916(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/216317(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、天板部と、稜線部を介して形成された縦壁部とを有する本体部と、該本体部の端部に前記天板部、前記稜線部及び前記縦壁部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造方法であって、
天板部と、稜線部を介して形成される縦壁部を有し、前記外向きフランジ部に成形される外向きフランジ相当部の根元部に外側に膨らむ段差形状部を有する中間成形品を成形する中間成形工程と、
該中間成形品における前記外向きフランジ相当部を外側に曲げ起こして前記外向きフランジ部を成形して目標形状とする目標形状成形工程と、を備え、
前記目標形状成形工程における成形初期において、前記稜線部とコーナーフランジ相当部との接続部である段差形状部をダイに巻き付かせることを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記中間成形工程は、前記天板部、前記稜線部、前記縦壁部及び前記段差形状部を、一工程でプレス成形することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記中間成形工程は、前記天板部、前記稜線部及び前記縦壁部をプレス成形した後で、前記段差形状部をプレス成形することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の製造方法に関し、特に天板部と、天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを備え、天板部、稜線部及び縦壁部の端部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進む中で、二酸化炭素排出規制を受けて、燃費向上やEV化のために車体の軽量化も必要とされている。これら車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への引張強度590MPa級以上の高強度鋼板(ハイテン材とも称する)の適用が進んでいる。
【0003】
自動車部品には、例えば、図4に示すように、フロアクロスメンバーなど、天板部5と、縦壁部7と、天板部5と縦壁部7をつなぐ稜線部9とを備え、天板部5、稜線部9及び縦壁部7の端部に連続して形成された外向きフランジ部3を有するプレス成形品1がある。
【0004】
このようなプレス成形品1をプレス成形した場合、外向きフランジ部3における稜線部9に連続する部分(以下、「コーナーフランジ部」という)は、伸びフランジ変形となって、コーナーフランジ部3bの先端に割れが発生しやすくなる。
【0005】
従来、このような縦壁部7の端部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造方法に関し、特許文献1には、鞍型プレス成形品の製造方法が開示されている。特許文献1においては、ブランクの天板構成箇所を湾曲させ、ブランクの内面側から外面側へ向けた第一力を付与し、縦壁構成箇所の外面側の各々に、互いに向き合う方向の第二力及び前記第一力と逆向きの第三力の合成力を付与してプレス成形を行っている。特許文献1に開示の方法は、天板部、縦壁部及び外向きフランジ部を同時に成形する方法である。
【0006】
また、特許文献2には、他のプレス成形方法として、金属板を断面コ字形状に成形した後に、外向きフランジ部を曲げ起こすプレス成形方法が開示されている。特許文献2に開示の方法は、外向きフランジ部を曲げ起こす際に、天板部と縦壁部からフランジ部の成形を開始することにより、外向きフランジ部のひずみを、天板部側及び縦壁部側に分散できるとしている。
【0007】
特許文献3には、天板と縦壁とフランジとを有する被加工材に段差部を形成するせん断工程と、前記段差部の近傍にある不要部を切除する切除工程とによって、外向きフランジを形成するプレス成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2019/216317号
【文献】国際公開第2022/049916号
【文献】国際公開第2016/194963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示の方法では、金型構造がかなり複雑であって金型の製作費が嵩む。また、第一力と逆向きの第三力の合成力を付与するため、ブランクを十分かつ均等に押さえてプレス成形することが難しく、寸法精度の良いプレス成形品を得ることも難しい。
【0010】
この点、特許文献2に開示のように、金属板を断面コ字形状に成形した後に、外向きフランジ部を曲げ起こすプレス成形方法は、金型がシンプルで寸法精度を良くすることができる。しかし、さらに高強度化したハイテン材のプレス成形において、稜線部と外向きフランジ部のコーナーフランジ部との接続部(以下、単に「コーナーフランジ部の接続部」という場合あり)には座屈(しわ、折れ込み)が発生しやすい課題が生じた。
【0011】
また、特許文献3に開示の方法は、金型構成が複雑で、さらに切除工程が必須であるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、天板部と、天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを備え、天板部、稜線部及び縦壁部の端部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造に際して、複雑な構造の金型を用いることなく、コーナーフランジ部の接続部に座屈を発生させずに、寸法精度のよいプレス成形品を安定して製造できるプレス成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、
(1)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、少なくとも、天板部と、稜線部を介して形成された縦壁部とを有する本体部と、該本体部の端部に前記天板部、前記稜線部及び前記縦壁部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造方法であって、天板部と、稜線部を介して形成される縦壁部を有し、前記外向きフランジ部に成形される外向きフランジ相当部の根元部に外側に膨らむ段差形状部を有する中間成形品を成形する中間成形工程と、該中間成形品における前記外向きフランジ相当部を外側に曲げ起こして前記外向きフランジ部を成形して目標形状とする目標形状成形工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
(2)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、上記(1)に記載の発明において、前記中間成形工程は、前記天板部、前記稜線部、前記縦壁部及び前記段差形状部を、一工程でプレス成形することを特徴とするものである。
【0015】
(3)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、上記(1)に記載の発明において、前記中間成形工程は、前記天板部、前記稜線部及び前記縦壁部をプレス成形した後で、前記段差形状部をプレス成形することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と、天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを備え、天板部、稜線部及び縦壁部の端部に連続して形成された外向きフランジ部を有するプレス成形品の製造に際して、複雑な構造の金型を用いることなく、コーナーフランジ部の接続部に座屈を発生させずに、寸法精度のよいプレス成形品を安定して製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係るプレス成形品の製造方法の説明図である。
図2図2は、実施形態に係る目標形状成形工程の成形過程の解析結果を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る目標形状成形工程の成形過程を模式的に示した図である。
図4図4は、本発明が対象とするプレス成形品の一例の説明図である。
図5図5は、従来のプレス成形品の製造方法の説明図である。
図6図6は、従来例において外向きフランジ部を成形する成形過程の解析結果を示す図である。
図7図7は、従来例において外向きフランジ部を成形する成形過程を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るプレス成形品の製造方法の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明が対象としているプレス成形品の形状について、その一例を示した図4に基づいて説明する。本発明が対象としているのは、図4に示すように、外向きフランジ部3を有するプレス成形品1であって、天板部5と、縦壁部7と、天板部5と縦壁部7をつなぐ稜線部9とを有する本体部11を備えている。そして、プレス成形品1は、本体部11の端部に天板部5、稜線部9及び縦壁部7に連続して形成された外向きフランジ部3を有している。図4に示す例では、プレス成形品1は縦壁部7の下端に水平フランジ部13を備えている。なお、以下の説明においては、外向きフランジ部3における天板部5、稜線部9、縦壁部7のそれぞれに連続する部分を、それぞれ天板フランジ部3a、コーナーフランジ部3b、縦壁フランジ部3cと称する。
【0020】
図5は、プレス成形品1の従来の成形方法を示す図である。従来は、まず、図5(a)に示すように、天板部5と、稜線部9と、縦壁部7と、縦壁部7の下端に水平フランジ部13と、を有する中間成形品15を成形する。中間成形品15は、その端部において、天板部5、稜線部9及び縦壁部7が延出しており、この延出部が目標形状における外向きフランジ部3(天板フランジ部3a、コーナーフランジ部3b及び縦壁フランジ部3c)となる。よって、本実施形態では、延出部を外向きフランジ相当部17と称する。中間成形品15の各部は、同時にプレス成形してもよいし、各部ごとにプレス成形してもよい。その後、図5(b)に示すように、中間成形品15における外向きフランジ相当部17を外側に曲げ起こして外向きフランジ部3を形成して目標形状のプレス成形品1となる。
【0021】
外向きフランジ相当部17を曲げ起こす成形方法としては、例えば、特許文献2に開示されているように、最初に天板フランジ相当部17a及び縦壁フランジ相当部17cに対して曲げ力を入力する。そして、その後に、外向きフランジ相当部17を曲げ起こす成形方法では、コーナーフランジ相当部17bに曲げ力を入力するようにすればよい。
【0022】
図6は、板厚1.4mm、引張強度590MPa級鋼板を用いて、目標形状として、外向きフランジ部3の高さを18mm、天板部5、稜線部9及び縦壁部7と外向きフランジ部3との境界部のRが3mmの場合について、FEM解析した結果を示す図である。図6においては、外向きフランジ部3の成形前の中間成形品15の状態(図6(a))から、外向きフランジ部3を曲げ起こして成形下死点の状態(図6(d))までを、途中段階を含めて示している。
【0023】
外向きフランジ部3の先端には張力が作用し、板厚が減少する。一方、コーナーフランジ部3bの接続部35(図4参照)には大きな圧縮力が作用する。そのため、その圧縮力により板厚が増加して、成形下死点における最大板厚増加率が47%にもなって、しわや折れ込みが発生する(図6(d)参照)。ここで、板厚増加率とは、該当する部位における板厚とブランクである金属板の板厚との差を求めて、ブランクである金属板の板厚との比を算出したものである。
【0024】
図7は、従来のプレス成形において、しわや折れ込みが発生する過程をさらに詳しく検討し、検討結果を模式的に示した図である。図7は、図5に示すプレス成形品1の稜線部9に沿い矢印Aの方向に切断した切断面について、成形途中(38mmup)(図7(a))から成形下死点近傍(4mmup)(図7(e))に至るまでの、パンチ19、ダイ20、下パッド21、金属板23の状態を示している。なお、[30mmup]等の数値は、当該位置におけるダイ20の成形下死点までの板厚を考慮したプレス成形方向の距離である。したがって、例えば「30mmup」のときのダイ20の位置はプレス下死点よりプレス成形逆方向に+30mmとなる。
【0025】
図7に示すように、[38mmup]で金属板23の端部である外向きフランジ相当部17がパンチ19に接触し始め、[30mmup]で金属板23の外向きフランジ相当部17がダイ20方向に曲げ変形を受ける。その後、[24mmup]で外向きフランジ相当部17におけるダイ20から離れた位置が屈曲し、先端部がダイ20側に近づくように、折れ畳まれる。さらに、成形が進むと、[10mmup]で下パッド21とパンチ19の成形面との間に折れ込みが発生し、[4mmup]まで成形が進んでも折れ込みはそのまま残り、成形下死点でしわが発生したり折れ込みが残留したりする。
【0026】
このような成形形態となるのは、稜線部9の延長であるコーナーフランジ相当部17bは稜線部9が通っていて曲げに対する剛性が高いためダイ20に沿って巻き付かず、ダイ20から離れた位置で折れ込まれること(図7(c)参照)が一因である。また、本例においては、縦壁フランジ部3c(図6参照)がプレス成形品1の天板部5の面に対して直角ではなく、内方に傾斜している。そのため、プレス成形の初期において、パンチ19のフランジ成形部とダイ20のフランジ成形部との間に大きな隙間が生じるためである。
【0027】
コーナーフランジ相当部17bの接続部35の折れ込み防止対策を考えるに際して、本発明者は、図7の[30mmup]から[24mmup]における金属板23の変形に着目した。このような変形が生ずるのは、金属板23端部が自由変形することで折れ込みに至ったので、これを防止するには金属板23端部の自由変形を拘束することが考えられる。しかし、コーナーフランジ相当部17bをコーナーフランジ部3bへ成形する必要があるため、金属板23の端部を金型により完全に拘束することは、困難である。そこで、金属板23の外向きフランジ部3の根元に相当する部位を、プレス成形初期においてダイ20に巻き付かせることができれば、前述した折れ込みを防止できるとの発想に至った。本発明はかかる発想に基づくものであり、具体的には以下に示すものである。
【0028】
図1(a)に一例を示すように、中間成形品24における外向きフランジ相当部25(天板フランジ相当部25a、コーナーフランジ相当部25b及び縦壁フランジ相当部25c)の根元部には、外側に膨らむ段差である段差形状部27を設けている。そして、このような中間成形品24においては、外向きフランジ相当部25を外向きフランジ部3(天板フランジ部3a、コーナーフランジ部3b及び縦壁フランジ部3c)に成形して目標形状とする。このような中間成形品24においては、段差形状部27を設けることで、プレス成形初期にダイ20に巻き付きやすくなり、前述の折れ込みを防止できる。
【0029】
図2(a)~図2(d)は、中間成形品24の目標形状へのプレス成形過程をFEM解析した結果を示す図である。図2(a)は、段差形状部27を形成した中間成形品24(フランジ成形前)を示している。図2(b)~図2(d)は、フランジ部の成形過程を示している。
【0030】
外向きフランジ部3の先端には張力が作用し、板厚が減少する。また、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部33(図1(b)参照)に圧縮力が作用して板厚が増加する。一方、成形下死点における最大板厚増加率は28%であって、従来例を示した図6(d)の最大板厚増加率47%に比較して著しく低減し、しわを防止できることがわかる。この最大板厚増加率が低減する理由の一つとして、本発明では、図2(c)に示す[10mmup]において、従来の図6(c)に示す[10mmup]に比べて、稜線部9とコーナーフランジ相当部25bとの接続部31(図1(a)参照)の板厚増加部位が分散されることが挙げられる。
【0031】
図3は、本発明のプレス成形における、中間成形品24を目標形状に成形する成形過程を、模式的に示した図である。図3は、図1に示すように、稜線部9に沿い矢印Aの方向に切断した切断面について、[38mmup]から[4mmup]に至る過程でのパンチ19、ダイ20、下パッド21、金属板23の状態を示している。
【0032】
図3に示されるように、[38mmup]から[30mmup]において、稜線部9とコーナーフランジ相当部25bとの接続部31は、段差形状部27が形成されているため、ダイ20に巻き付くようになる。続いて、[30mmup]では外向きフランジ相当部25がパンチ19に接触し始めて、[24mmup]で金属板23の先端がダイ20側に曲げられる。その際、外向きフランジ相当部25の先端は、段差形状部27が形成されていることにより、ダイ20側に近づくことがない。そのため、稜線部9とコーナーフランジ相当部25bとの接続部31(図1(a)参照)が鋭角に折れ曲がることがない。この点、従来例を示した図7の[24mmup]では、外向きフランジ相当部25の先端が、ダイ20側に近づき、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部35(図4参照)が鋭角に折れ曲がっている。
【0033】
さらに、プレス成形が進むと、[10mmup]では外向きフランジ相当部25はダイ20とパンチ19の隙間で折れ畳まれることなく成形される。その後、[4mmup]まで成形が進んで、成形下死点で外向きフランジ部3となり、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部33(図1(b)参照)がしわとはならない。このように、本実施形態においては、段差形状部27を設けたことにより、成形初期において稜線部9とコーナーフランジ相当部25bとの接続部31がダイ20に巻き付くようになる。その結果、接続部が下パッド21とパンチ19の隙間に入り込んで折れ畳まれるようなことがなく、しわ発生が防止されたのである。
【0034】
なお、中間成形工程において成形される段差形状部27は、天板部5と縦壁部7と稜線部9の成形と同時にプレス成形することができる。一工程で成形することで、製造が効率的となる。あるいは、天板部5と縦壁部7と稜線部9を成形した後で、段差形状部27をプレス成形するようにしてもよい。
【0035】
また、外向きフランジ部3を成形する目標形状成形工程においては、特許文献2で開示されているように、最初に天板フランジ相当部25a及び縦壁フランジ相当部25cに対して曲げ力を入力する。そして、その後に、コーナーフランジ相当部25bに曲げ力を入力するようにするのが好ましい。このようにすることで、コーナーフランジ部3bの先端に割れが発生するのを防止できる。
【0036】
なお、上記の説明では、天板部5の両側に縦壁部7を有し、縦壁部7の下端に水平フランジ部13を有する稜線部9の直交断面がハット形状のものであったが、本発明はこれに限られない。すなわち、本発明は、水平フランジ部13のない稜線部9直交断面がコ字形状のものでもよく、あるいはハット形状やコ字型のものを天板部5における稜線部9方向に半割したZ字形状やL字形状のものでもよい。また、本発明の外側に膨らむ段差形状部を成形するには、曲げ成形や絞り成形がよい。段差形状部を曲げて外向きフランジ部3を成形するため、外向きフランジ部3の幅が広い場合にも成形しやすくなる。他方、特許文献3に記載のせん断成形により段差形状部を成形すると、材料の破断限界からフランジ部の幅に制約が生じて好ましくない場合がある。
【実施例
【0037】
本実施例では、本発明の効果を確認するために、本発明が対象としている図4に示すプレス成形品1のプレス成形解析及び実材のプレス成形を行った。ハイテン材としては、板厚1.4mmの980MPa級鋼板を用いた。プレス成形品1は、天板部5の幅が84mm、縦壁部7の高さが100mm、稜線部9の長さが180mmのハット形状のものである。外向きフランジ部3については、図1(b)に定義を示す外向きフランジ幅を16mmとし、稜線部9に沿い矢印Aの方向に切断した切断面における、根元部の板内側曲率半径Rを3mmとした。
【0038】
また、本実施例では、上記ハイテン材のブランクモデルを用いてプレス成形した中間成形品15(図5(a)参照)に対して、従来例及び発明例として外向きフランジ部3を成形するプレス成形解析を行った。従来例としては、図5及び図6に示すとおり、コーナーフランジ相当部17bの根元部に段差形状部27を設けることなく、外向きフランジ部3を成形するプレス成形解析を行った。また、発明例としては、中間成形品24に対して、図1(a)に示すとおり、コーナーフランジ相当部25bの根元部に段差形状部27を設け、外向きフランジ部3を成形するプレス成形解析を行った。また、発明例では、段差形状部27の高さ、すなわち段差形状部27と天板部5の高さの差を、1.0mmから2.5mmまで変更してプレス成形解析し、段差形状部27の高さの影響についても比較した。なお、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部33または接続部35の板厚増加率は、該接続部の板厚からブランクモデルの板厚を基準として求めた。解析の結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
段差形状部27を設けていない従来例であるNo.1の場合は、最大板厚増加率が47.6%と大きくなった。実プレス材では、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部35に座屈(しわと折れ込み)が発生した。これに対し、段差形状部27を設けた発明例No.2~No.5では、解析結果として、いずれも最大板厚増加率が大きく減少した。また、これらの実プレス材では、座屈が発生しなかった。なお、No.4の段差形状部27の高さが2.0mmの場合は、最大板厚増加率が25%と最も低減し、従来例の47.6%に比べてほぼ半減した。以上のように、本発明の中間成形品24に段差形状部27を設けることで、稜線部9とコーナーフランジ部3bとの接続部33の座屈を防止できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、複雑な構造の金型を用いることなく、コーナーフランジ部の接続部に座屈を発生させずに、寸法精度のよいプレス成形品を安定して製造することができるプレス成形品の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 プレス成形品
3 外向きフランジ部
3a 天板フランジ部
3b コーナーフランジ部
3c 縦壁フランジ部
5 天板部
7 縦壁部
9 稜線部
11 本体部
13 水平フランジ部
15 中間成形品(従来例)
17 外向きフランジ相当部(従来例)
17a 天板フランジ相当部(従来例)
17b コーナーフランジ相当部(従来例)
17c 縦壁フランジ相当部(従来例)
19 パンチ
20 ダイ
21 下パッド
23 金属板
24 中間成形品(発明例)
25 外向きフランジ相当部(発明例)
25a 天板フランジ相当部(発明例)
25b コーナーフランジ相当部(発明例)
25c 縦壁フランジ相当部(発明例)
27 段差形状部
31 中間成形品の稜線部とコーナーフランジ部との接続部(発明例)
33 プレス成形品の稜線部とコーナーフランジ部との接続部(発明例)
35 稜線部とコーナーフランジ部との接続部(従来例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7