(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】警報方法および警報システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
A61B5/00 102A
(21)【出願番号】P 2023556090
(86)(22)【出願日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2021040242
(87)【国際公開番号】W WO2023073988
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 翔太
(72)【発明者】
【氏名】弓削 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 臣恭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武志
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-54224(JP,A)
【文献】特開2021-461(JP,A)
【文献】特開2019-180700(JP,A)
【文献】特開2020-13493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
見守り対象者の体調不良、疾病または怪我の危険度の判断に用いられる情報として前記見守り対象者の生体情報および前記見守り対象者の周囲の環境情報の少なくとも1つを取得し、
この取得された情報に基づいて前記見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する危険度を算出し、
この算出された危険度の程度に基づいて前記見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する警報の範囲を変える、警報方法において、
複数の見守り対象者の位置情報を取得し、
前記位置情報に基づいて、各見守り対象者の周囲に存在する見守り対象者の人数である周囲人数を算出し、
前記周囲人数が少ないほど前記警報の範囲の閾値を低く設定することをさらに含む、警報方法。
【請求項2】
前記生体情報の履歴を記録し、
前記生体情報の履歴に基づいて前記警報の範囲の閾値を変更することをさらに含む、請求項1に記載の警報方法。
【請求項3】
前記生体情報は、前記見守り対象者の心拍数、皮膚温度、血圧、発汗量、運動強度、身長、体重および体脂肪率のいずれか1つまたはこれらの2つ以上の組み合わせである、請求項1
または2に記載の警報方法。
【請求項4】
前記環境情報は、温度、湿度、風速、日射量、輻射熱および天候のいずれか1つまたはこれらの2つ以上の組み合わせである、請求項1
~3のいずれかに記載の警報方法。
【請求項5】
前記見守り対象者および/または前記警報の範囲に含まれる人が有する携帯端末に前記警報の通知を送信することをさらに含む、請求項1
~4のいずれかに記載の警報方法。
【請求項6】
見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する警報を通知する警報システムであって、
前記見守り対象者の生体情報および前記見守り対象者の周囲の環境情報の少なくとも1つを取得する情報取得部と、
前記情報取得部により取得された情報に基づいて前記見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する危険度を算出する危険度算出部と、
前記危険度算出部により算出された前記危険度の程度に基づいて前記警報を通知する警報通知手段と、
複数の見守り対象者の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記位置情報取得部により取得された位置情報に基づいて、各見守り対象者の周囲に存在する見守り対象者の人数である周囲人数を算出する周囲人数算出部と、
を備え、
前記警報通知手段は、前記危険度の程度によって前記警報の範囲を変え、
前記危険度算出部は、前記周囲人数が少ないほど前記警報の範囲の閾値を低く設定する、警報システム。
【請求項7】
前記周囲人数は、各見守り対象者の位置に対する前記周囲に存在する見守り対象者の位置に基づいて算出される、請求項1に記載の警報方法。
【請求項8】
前記周囲人数は、同じ作業エリアで作業する見守り対象者の数である、請求項1に記載の警報方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する危険度を算出し、この危険度に基づいて警報を通知する警報方法および警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱中症による体調不良に関する警報を通知する警報方法を開示している。この警報方法では、作業者である見守り対象者の体温等の生体情報や湿度等の環境情報に基づいて見守り対象者の熱中症を判断し、この熱中症に関する警報を当該見守り対象者本人やその周囲で作業する他の見守り対象者に通知する。
【0003】
このような警報方法では、作業エリア内の見守り対象者およびその周囲の見守り対象者の熱中症を減少させることは可能であるが、作業エリアの外部に存在する監督者や医療者が熱中症の見守り対象者に対して適切な時期に適度な処置を施すことができない虞があった。
【0004】
また、特許文献1では、見守り対象者の疾病や怪我ついての判断や通知については何ら配慮されていなかった。
【0005】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に対して適切な時期に適度な処置を施すことが可能な警報方法および警報システムを提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明は、警報方法において、見守り対象者の体調不良、疾病または怪我の危険度の判断に用いられる情報として見守り対象者の生体情報および見守り対象者の周囲の環境情報の少なくとも1つを取得し、この取得された情報に基づいて見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する危険度を算出し、この算出された危険度の程度に基づいて見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に関する警報の範囲を変える。
【0008】
本発明によれば、見守り対象者の体調不良、疾病または怪我に対して適切な時期に適度な処置を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】一実施例の警報システムを用いた警報方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について説明する。
【0011】
図1は、工場の作業者である個々の見守り対象者P1に対して体調不良の1つの症状である熱中症についての危険度を算出し、この算出された危険度の程度に基づいて警報の範囲を変える警報システムを示している。
【0012】
まず、熱中症とは、高温多湿の環境下で運動や仕事の作業を行うときに体内の水分が発汗により失われ、体内の水分と塩分とのバランスが崩れることで、体内の調整機能が低下することにより発症する症状であり、例えばめまい、頭痛、痙攣(熱痙攣)、失神(熱失神)等の症状が挙げられる。例えば、熱痙攣は、高温多湿の環境下での運動や作業時に皮膚温度が上昇したときに、発汗作用が促進され、体内の水分と塩分とのバランスが崩れることにより生じる。また、熱失神は、同じく高温多湿の環境下での運動や作業時に皮膚温度が上昇したときに、心拍数が増加し、これに伴い、皮膚血管拡張反応が促進されて血液の流速が低下することで血液が脳へと流れ難くなることにより生じる。熱痙攣や熱失神を含む熱中症は、自分では気づき難く、また、適切な時期に適度な処置を施すのが難しいものである。
【0013】
警報システムは、手首の周囲に装着可能な携帯端末であるウェアラブルウォッチ1(以下、「ウォッチ1」と呼ぶ)と、クラウドサーバ上に設けられ、ウォッチ1から送信された情報の履歴を記録する情報履歴記録部2と、クラウドサーバ上に設けられ、ウォッチ1から送信された情報に基づいて熱中症の危険度を算出する危険度算出部3と、該危険度算出部3で算出された危険度の程度に基づいて警報を通知する警報通知手段である警報器5と、を備えている。
【0014】
ウォッチ1は、心拍数センサ、皮膚温度センサ、血圧センサ、発汗センサ、温度センサ、湿度センサおよび加速度センサを備えて構成されている。なお、温度センサおよび湿度センサは、ウォッチ1ではなく、工場内の適当な位置、例えば見守り対象者P1の近傍の位置に設けられても良い。ウォッチ1は、見守り対象者P1の熱中症の危険度の判断に用いられる情報を取得する情報取得部4を有している。情報取得部4は、見守り対象者P1の生体情報、本実施例では心拍数(心拍数の平均値)および加速度を取得する生体情報取得部4aと、見守り対象者P1の周囲の環境情報、本実施例では温度および湿度を取得する環境情報取得部4bと、を有している。なお、生体情報取得部4aおよび環境情報取得部4bは、必ずしもウォッチ1に内蔵されている必要はなく、クラウドサーバ上に設けられても良い。
【0015】
生体情報は、ウォッチ1の起動時に計測される起動時生体情報、例えば、心拍数、皮膚温度、血圧、発汗量および運動強度と、見守り対象者P1の基礎的生体情報、例えば身長、体重および体脂肪率と、見守り対象者P1の作業負荷を判断するのに用いられる加速度と、から基本的に構成されるが、これらのパラメータのうち少なくとも1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられれば良い。
【0016】
なお、血圧に関しては、例えば高血圧の人は塩分を控えることが多く、また、体が塩分と水分のバランスを維持するために、控えられた塩分に対して過剰な水分を体外に排出するので、高血圧の人は平均的な血圧の人よりも体内の水分量が少なくなる傾向にある。従って、高血圧の人は高温多湿の環境下で作業すると発汗により水分を失い、塩分と水分とのバランスを崩すことで熱中症の1つの症状である熱痙攣になり易いので、熱中症に関連する生体情報として血圧を用いることができる。
【0017】
また、運動強度は、運動の負荷やきつさを示すものであり、心拍数に基づいて算出される。
【0018】
環境情報は、温度(気温)、湿度、風速、日射量、輻射熱および天候から基本的に構成されるが、これらのパラメータのうち少なくとも1つまたは2つ以上の組み合わせが用いられれば良い。風速、日射量、輻射熱および天候は、ウォッチ1にインストールされたアプリケーションから取得される。
【0019】
情報履歴記録部2は、生体情報取得部4aから送信された心拍数および加速度の履歴と、環境情報取得部4bから送信された温度および湿度の履歴を記録し、この記録された履歴を危険度算出部3に送信する。
【0020】
危険度算出部3は、生体情報取得部4aから送信された心拍数および加速度と、環境情報取得部4bから送信された温度および湿度とに基づいて、熱中症に関する危険度を算出する。つまり、危険度算出部3は、心拍数、加速度、温度および湿度を総合的に評価して熱中症に関する1つの危険度を例えば0~100までの数値として数値化することにより危険度を算出している。この危険度は、心拍数、加速度、温度および湿度のそれぞれが大きくなるほど高くなる。より詳細には、温度および湿度が比較的高い高温多湿の環境下では心拍数が上昇し易く、また加速度が大きいときには仕事の負荷も高く、心拍数が上昇するので、上述したように皮膚血管拡張反応が促進されることで血液が脳に移動し難くなり、熱中症の1つの症状である熱失神が生じ易くなる。
【0021】
また、危険度算出部3は、算出された危険度が「危険無」、「小」、「中」および「大」のいずれかに該当するかを判定する。具体的には、危険度算出部3は、危険度が第1閾値よりも小さい場合には、危険度が「危険無」であると判定する。また、危険度算出部3は、危険度が第1閾値よりも大きく、かつ第1閾値よりも大きい第2閾値以下であるときには、危険度が「小」であると判定する。また、危険度算出部3は、危険度が第2閾値よりも大きく、かつ第2閾値よりも大きい第3閾値以下の場合には、危険度が「中」であると判断する。さらに、危険度算出部3は、危険度が第3閾値よりも大きい場合には、危険度が「大」であると判定する。
【0022】
また、危険度算出部3は、危険度が第1閾値以下となる場合、危険度が第1閾値よりも大きいと判定された後に第2閾値以下となる場合または危険度が第2閾値よりも大きいと判定された後に第3閾値以下となる場合(
図2参照)に、情報履歴記録部2からの心拍数、加速度、温度および湿度の履歴に基づいて第1~第3閾値を変更する。つまり、危険度算出部3は、上述の場合に、警報の範囲を決定するための第1~第3閾値を、心拍数の個人差と、暑熱順化即ち体が熱に慣れることとを踏まえた値に変更する。
【0023】
警報器5は、危険度算出部3での危険度の判定に基づいて警報の範囲を変える。より詳細には、危険度算出部3で危険度が「危険無」と判定された場合には、警報器5は作動しない。また、危険度算出部3で危険度が「小」と判定された場合には、警報器5は、見守り対象者P1本人のウォッチ1に警報を通知する。また、危険度算出部3で危険度が「中」と判定された場合には、警報器5は、見守り対象者P1の監督者、つまり、見守り対象者P1の上長であって見守り対象者P1に指示を出し、工程管理を行う者に警報を通知する。また、危険度算出部3で危険度が「大」と判定された場合には、警報器5は、医療所つまり医療行為を行う場所や、医療者つまり医療に関する免許を有し、医療行為を行う者に警報を通知する。
【0024】
次に、
図2を参照することにより、本実施例の警報システムを用いた警報方法について説明する。
【0025】
まず、ステップS1において、生体情報取得部4aは心拍数および加速度を取得し、環境情報取得部4bは温度および湿度を取得する。
【0026】
次に、ステップS2において、危険度算出部3は心拍数、加速度、温度および湿度に基づいて、熱中症に対する危険度を算出する。
【0027】
危険度の算出後には、ステップS3において、算出された危険度を第1閾値と比較する。危険度が第1閾値以下の場合には、危険度算出部3は危険度が「危険無」であると判定し、ステップS9に移行して情報履歴記録部2から心拍数、加速度、温度および湿度の履歴を取得し、ステップS10でこの履歴に基づいて第1~第3閾値を変更してから、ステップS1へ戻る。
【0028】
また、危険度が第1閾値よりも大きい場合には、危険度算出部3は危険度が「小」であると判定し、ステップS4において、警報器5は、見守り対象者P1本人に警報を通知する。これにより、見守り対象者P1は、水分補給をする、休息をとる等により熱中症に対して処置を行う。
【0029】
次に、ステップS5において、危険度を第2閾値と比較する。危険度が第2閾値以下の場合には、ステップS9に移行して情報履歴記録部2から心拍数、加速度、温度および湿度の履歴を取得し、ステップS10でこの履歴に基づいて第1~第3閾値を変更してから、ステップS1へ戻る。また、危険度が第2閾値よりも大きい場合には、危険度算出部3は危険度が「中」であると判定し、ステップS6において、警報器5は、監督者に警報を通知する。つまり、ステップS6において、警報器5は、監督者が有する携帯端末、例えば、ウェアラブルウォッチ、スマートフォン等に警報を通知する。これにより、監督者は、見守り対象者P1に熱中症に対する指示を出す。
【0030】
次に、ステップS7において、危険度を第3閾値と比較する。危険度が第3閾値以下の場合には、ステップS9に移行して情報履歴記録部2から心拍数、加速度、温度および湿度の履歴を取得し、ステップS10でこの履歴に基づいて第1~第3閾値を変更してから、ステップS1へ戻る。
【0031】
また、危険度が第3閾値よりも大きい場合には、危険度算出部3は危険度が「大」であると判定し、ステップS8において、警報器5は医療所や医療者に警報を通知する。つまり、警報器5は、医療所や医療者が有する携帯端末、例えば、ウェアラブルウォッチ、スマートフォン等に警報を通知する。これにより、医療所や医療者は、工場に救急車を手配する。
【0032】
上述したように、本実施例では、危険度算出部3は、情報取得部4によって取得された心拍数、加速度、温度および湿度を総合的に評価して数値化することで熱中症に関する危険度を算出し、この算出された危険度を第1~第3閾値と比較することで危険度の「小」、「中」または「大」を判定する。そして、危険度が「小」であると判定された場合には、警報器5は見守り対象者P1本人に警報を通知し、危険度が「中」である場合には、警報器5は監督者に警報を通知し、また、危険度が「大」である場合には、警報器5は医療所や医療者に警報を通知する。
【0033】
このように心拍数、加速度、温度および湿度を総合的に評価して個々人に適した熱中症の危険度を判定することで、見守り対象者P1に対して適切な時期に適度な措置を施すことができる。より詳細には、仮に心拍数、加速度、温度または湿度のいずれか1つが第2閾値よりも大きいときに監督者に警報を通知する場合には、監督者は、熱中症まで至っていない見守り対象者P1を通知する誤報のために何度も作業場に行かなければならないが、本実施例のように危険度を算出することで、監督者は、熱中症である可能性が非常に高い見守り対象者P1に対して必要最低限の確認をすれば良い。また、仮に心拍数、加速度、温度または湿度のいずれか1つが第3閾値よりも大きいときに医療所や医療者に警報を通知する場合には、誤報により救急車の不要な出動が多くなってしまうが、本実施例のように危険度を算出することで、措置が必要なときだけ救急者を出動させれば良い。従って、監督者、医療所や医療者の業務の負担を軽減しながら、熱中症である可能性が高い見守り対象者P1に対して効率的に措置を施すことができる。
【0034】
また、心拍数、加速度、温度および湿度に対して重み付けを適度に加えるようにすれば、見守り対象者P1に対してさらに効率的に措置を施すことができる。例えば暑熱順化した見守り対象者P1に対して温度の重み付けを低くして、心拍数の重み付けを高くすれば、見守り対象者P1の熱中症の危険度の算出の精度が向上するので、誤報の回数を減らしつつ、監督者、医療所や医療者が見守り対象者P1に対してより効率的に措置を施すことができる。
【0035】
さらに、本実施例では、危険度算出部3は、生体情報である心拍数および加速度の履歴に基づいて、警報の範囲を決定するための第1~第3閾値を変更する。
【0036】
このため、第1~第3閾値が作業時の見守り対象者P1の心拍数の個人差を踏まえた値となるので、個々の見守り対象者P1の熱中症の危険度が精度良く算出される。従って、熱中症に関する警報の誤報を減らし、監督者、医療所や医療者の負担を軽減することができる。
【0037】
また、本実施例では、環境情報である温度および湿度の履歴に基づいて、警報の範囲を決定するための第1~第3閾値を変更する。
【0038】
このため、第1~第3閾値が見守り対象者P1の暑熱順化を考慮した値となるので、暑さに強い見守り対象者P1に対して第1~第3閾値が高めに設定される。従って、監督者、医療所や医療者が熱中症の見守り対象者P1に対して措置を施す回数が減少し、監督者等の負担を軽減することができる。
【0039】
図3は、第2実施例の警報システムを概略的に示している。第2実施例では、1人の見守り対象者P1と、該見守り対象者の周囲で作業する複数、本実施例では3人の見守り対象者P2とが居る状況で、上記1人の見守り対象者P1の熱中症の危険度が算出される。また、本実施例では、GPS6と、位置情報取得部7と、周囲人数算出部8とが新たに設けられている。さらに、本実施例では、上記一実施例の危険度の程度を示す「中」が、後述する第4閾値によって「中小」および「中大」に細分化されている。
【0040】
GPS6は、工場内で作業する複数の見守り対象者、つまり1人の見守り対象者P1およびその周囲の3人の見守り対象者P2の位置を検出し、位置情報取得部7に送信する。また、GPS6を用いる代わりに、Bluetooth(登録商標)やビーコンを用いて見守り対象者P1,P2の位置を取得し、位置情報取得部7へ送信するようにしても良い。
【0041】
位置情報取得部7は、ウォッチ1に設けられており、GPS6によって検出された4人の見守り対象者P1,P2の位置を取得する。
【0042】
周囲人数算出部8は、位置情報取得部7の4人の見守り対象者P1,P2の位置に基づいて、1人の見守り対象者P1の周囲に居る見守り対象者P2の周囲人数を算出する。
【0043】
危険度算出部3は、周囲人数算出部8から取得した周囲人数に基づいて第1~第4閾値を変更する。例えば、周囲人数が3人の場合には、周囲人数が1,2人の場合と比べて、熱中症の検出対象となる1人の見守り対象者P1の熱中症の見落としが少なくなるから、第1~第4閾値が比較的高い値に設定される。一方、周囲人数が1人の場合には、周囲人数が2,3人の場合と比べて、上記1人の見守り対象者P1の熱中症の見落としが多くなるから、第1~第4閾値が比較的低い値に設定される。
【0044】
また、危険度算出部3は、心拍数、加速度、温度および湿度に基づいて算出された危険度が第2閾値よりも大きく、かつ第2閾値よりも大きい第4閾値以下の場合には、危険度が「中小」であると判定する。また、危険度算出部3は、危険度が第4閾値よりも大きく、かつ第4閾値よりも小さい第3閾値以下の場合には、危険度が「中大」であると判定する。
【0045】
上述したように、本実施例では、周囲人数算出部8は、複数の見守り対象者P1,P2の位置情報に基づいて、1人の見守り対象者P1の周囲に存在する見守り対象者P2の人数である周囲人数を算出する。そして、危険度算出部3は、算出された周囲人数に基づいて、警報の範囲を決定する第1~第3閾値を変更する。
【0046】
このため、周囲人数が比較的多い場合には、周囲の見守り対象者P2が熱中症の見守り対象者P1を発見し、対処し易くなるので、第1~第4閾値を高めに設定することで、監督者、医療所や医療者の負担を軽減することができる。
【0047】
また、第3実施例では、上記各実施例と異なり、疾病の1つの症状である心筋梗塞についての危険度を算出し、この算出された危険度の程度に基づいて警報の範囲を変える。本実施例では、危険度算出部は、生体情報取得部によって取得される加速度、心拍数および血圧を総合的に評価して数値化することで心筋梗塞についての危険度を算出する。ここで、パラメータとして加速度、心拍数および血圧を用いるのは、例えば加速度がゼロである状態が所定の時間継続した場合には、見守り対象者が工場内の作業エリアで倒れている可能性があり、このような状況で心拍数および血圧が比較的高ければ、見守り対象者が心筋梗塞を発症している虞があるからである。
【0048】
また、第3実施例における危険度の算出および警報の通知は、上記一実施例の
図2に示したフローチャートと同様の手順で行われる。
【0049】
また、第4実施例では、上記各実施例と異なり、怪我の1つの症状である腰痛についての危険度を算出し、この算出された危険度の程度に基づいて警報の範囲を変える。本実施例では、危険度算出部は、生体情報取得部によって取得される加速度を用いて腰痛についての危険度を算出する。ここで、パラメータとして加速度を用いるのは、例えば比較的重い製品を上下に動かす作業をする見守り対象者は、この作業を伴わない見守り対象者と比較して加速度が増加することが多く、この増加した加速度の状態が所定の時間にわたって継続されれば、腰に掛かる負担を予測することができるからである。
【0050】
また、第4実施例における危険度の算出および警報の通知は、上記一実施例の
図2に示したフローチャートと同様の手順で行われる。
【0051】
上記各実施例では、心拍数および加速度を含む生体情報と、温度および湿度を含む環境情報とに基づいて警報の範囲を変える例を説明したが、生体情報または環境情報のみに基づいて警報の範囲を変えるようにしても良い。例えば生体情報である心拍数に関しては、上述したように熱中症の1つの症状である熱失神を判断するのに適しているので、生体情報のみであっても熱中症の危険度を判定することができる。また、例えば環境情報である温度に関しては、例えば工場の溶接エリアでは、組み立てエリア等の他のエリアと比べて高温の環境下で作業する必要があり、この高温を考慮して工場内の温度の情報に基づいて閾値を適宜設定することにより、環境情報のみであっても熱中症の危険度を判定することができる。