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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】エレベーターシステム
(51)【国際特許分類】
   B66B 3/00 20060101AFI20241112BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20241112BHJP
   B66B 3/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B66B3/00 R
B66B5/02 S
B66B3/02 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024051321
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-03-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 浩也
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226149(JP,A)
【文献】特開2021-046304(JP,A)
【文献】特開2021-135172(JP,A)
【文献】特開2019-202852(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105173949(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00 - 3/02
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの昇降路内のかごの移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定された被検出体と、
前記かごに設置され、前記かごの位置に対応した前記絶対位置情報を読み取る2つのカメラを備えた検出装置と、
前記検出装置によって読み取られた前記絶対位置情報を処理する情報処理装置と、を備え、
前記検出装置は、前記絶対位置情報の読取位置が移動方向にオフセット距離だけ離間するように前記2つのカメラが配置され、
前記情報処理装置は、
前記2つのカメラの各々において前記絶対位置情報の読取エラーが発生した場合、エラー位置を含むエラー情報をそれぞれ記録する記録処理部と、
記録された前記エラー情報に基づいて、エラー位置にエラー回数を関連付けた集計データを集計する集計処理部と、
を備え
前記情報処理装置は、
集計期間におけるエラー回数が規定回数以上のエラー位置を前記集計データから抽出する抽出処理部と、
前記抽出処理部において抽出された前記エラー位置に基づいて、発報要否を判定する発報判定処理部と、を更に備え、
前記発報判定処理部は、
前記抽出処理部において抽出された2つの前記エラー位置の間の離間距離を演算し、演算された前記離間距離と前記オフセット距離との差が閾値よりも小さい場合に発報が必要と判定する
ように構成されるエレベーターシステム。
【請求項2】
前記発報判定処理部は、発報が不要と判定された場合、前記エラー位置の情報を保守点検リストに記録する
ように構成される請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
エレベーターの昇降路内のかごの移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定された被検出体と、
前記かごに設置され、前記かごの位置に対応した前記絶対位置情報を読み取る2つのカメラを備えた検出装置と、
前記検出装置によって読み取られた前記絶対位置情報を処理する情報処理装置と、を備え、
前記検出装置は、前記絶対位置情報の読取位置が移動方向にオフセット距離だけ離間するように前記2つのカメラが配置され、
前記情報処理装置は、
前記2つのカメラの各々において前記絶対位置情報の読取エラーが発生した場合、エラー位置を含むエラー情報をそれぞれ記録する記録処理部と、
記録された前記エラー情報に基づいて、エラー位置にエラー回数を関連付けた集計データを集計する集計処理部と、
を備え、
前記情報処理装置は、
エラー回数が規定回数以上となる連続したエラー区間を前記集計データから抽出するエラー区間抽出部と、
前記エラー区間抽出部において抽出された前記エラー区間の区間長に基づいて、発報要否を判定する発報判定処理部と、
を更に備えるエレベーターシステム。
【請求項4】
前記発報判定処理部は、
抽出された前記エラー区間の区間長が、前記オフセット距離よりも小さい規定距離よりも長い場合に発報が必要と判定する
ように構成される請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
前記区間長の時間変化量を演算し、前記時間変化量に基づいて、前記区間長が前記オフセット距離に到達する到達時間を演算する到達時間演算部を更に備え、
前記発報判定処理部は、
前記到達時間が規定時間より短い場合に発報が必要と判定する
を更に備える請求項に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
前記発報判定処理部は、発報が不要と判定された場合、前記エラー位置の情報を保守点検リストに記録する
ように構成される請求項から請求項の何れか1項に記載のエレベーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターのかごの絶対位置を検出する絶対位置測位システムを備えたエレベーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、位置検出装置を備えるエレベーター装置に関する技術が開示されている。この技術のエレベーター装置は、階床位置に対応する位置に設けられる第一の被検出体を検出する第一の位置検出器と、絶対位置を検出する第二の位置検出部と、第二の位置検出部の異常を判定する異常判定部と、を備えている。異常判定部は、通常運転中に、第一の位置検出器が第一の被検出体を検出した時点及び第一の位置検出器が第一の被検出体の検出を終了した時点での第二の位置検出器の出力値から算出される階床位置と、データベースに格納される階床位置データとの差分の大きさが許容値を越えている場合に、第二の位置検出器が異常であると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2021/002107号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昇降路全長に設置されたテープの情報をかごに設置されたカメラで読み取ることでかごの絶対位置を検出する絶対位置測位システム(APS)には、移動方向に規定のオフセット距離だけ離間するように配置された2つのカメラを備えたものがある。このようなAPSによれば、例えば経年劣化等による傷、汚れ、剥がれなどによって何れか一方のカメラにおいて読取エラーが発生したとしても、他方のカメラによって読み取られた位置情報を外挿することでエレベーターの運行を継続することができる。
【0005】
しかし、上記のAPSにおいて、双方のカメラにおいて同時に読取エラーが発生した場合、エレベーターの運行に支障が生じるおそれがある。このため、絶対位置測位システムを備えたエレベーターでは、APSの読取エラーの発生状況を分析して、利用者に対するサービス低下となり得る読取エラーに対して早期に対処することが望まれる。特許文献1の技術では、絶対位置を検出する位置検出装置の異常として、位置ずれを判定することはできるが、絶対位置の読取エラーを判定することができない。
【0006】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、絶対位置を検出する絶対位置測位システムの読取エラーの分析を行うことにより、利用者に対するサービス低下を防ぐようにするエレベーターシステムの技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のエレベーターシステムは、エレベーターの昇降路内のかごの移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定された被検出体と、かごに設置され、かごの位置に対応した絶対位置情報を読み取る2つのカメラを備えた検出装置と、検出装置によって読み取られた絶対位置情報を処理する情報処理装置と、を備え、検出装置は、絶対位置情報の読取位置が移動方向にオフセット距離だけ離間するように2つのカメラが配置され、情報処理装置は、2つのカメラの各々において絶対位置情報の読取エラーが発生した場合、エラー位置を含むエラー情報をそれぞれ記録する記録処理部と、記録されたエラー情報に基づいて、エラー位置にエラー回数を関連付けた集計データを集計する集計処理部と、を備え、情報処理装置は、集計期間におけるエラー回数が規定回数以上のエラー位置を集計データから抽出する抽出処理部と、抽出処理部において抽出されたエラー位置に基づいて、発報要否を判定する発報判定処理部と、を更に備え、発報判定処理部は、抽出処理部において抽出された2つのエラー位置の間の離間距離を演算し、演算された離間距離とオフセット距離との差が閾値よりも小さい場合に発報が必要と判定するように構成されるものである。
また、本開示のエレベーターシステムは、エレベーターの昇降路内のかごの移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定された被検出体と、かごに設置され、かごの位置に対応した絶対位置情報を読み取る2つのカメラを備えた検出装置と、検出装置によって読み取られた絶対位置情報を処理する情報処理装置と、を備え、検出装置は、絶対位置情報の読取位置が移動方向にオフセット距離だけ離間するように2つのカメラが配置され、情報処理装置は、2つのカメラの各々において絶対位置情報の読取エラーが発生した場合、エラー位置を含むエラー情報をそれぞれ記録する記録処理部と、記録されたエラー情報に基づいて、エラー位置にエラー回数を関連付けた集計データを集計する集計処理部と、を備え、情報処理装置は、エラー回数が規定回数以上となる連続したエラー区間を集計データから抽出するエラー区間抽出部と、エラー区間抽出部において抽出されたエラー区間の区間長に基づいて、発報要否を判定する発報判定処理部と、を更に備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、絶対位置を検出する絶対位置測位システムの読取エラーの分析を行うことにより、利用者に対するサービス低下を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るエレベーターシステムが備えるエレベーターの概略構成図である。
図2】APSセンサの構成例を説明するための図である。
図3】安全制御装置が備える機能ブロックを説明するための図である。
図4】情報処理装置によって実現される機能を示す機能ブロック図である。
図5】集計データの一例を示す図である。
図6】集計データの一例を示す図である。
図7】実施の形態1のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。
図8】実施の形態1のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。
図9】安全制御装置の情報処理装置におけるハードウェア資源の変形例を示す図である。
図10】読取エラーの位置の経時変化の一例を示す図である。
図11】実施の形態2のエレベーターシステムの情報処理装置によって実現される機能を示す機能ブロック図である。
図12】エラー区間の経時変化の一例を示す図である。
図13】実施の形態2のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
実施の形態1.
1-1.実施の形態1のエレベーターシステムの概略構成
図1は、実施の形態1に係るエレベーターシステムが備えるエレベーターの概略構成図である。実施の形態1に係るエレベーターシステム100のエレベーターは、複数の階床を有する建物などからなる施設に設置されている。施設において、エレベーターの昇降路2が設けられる。昇降路2は、複数の階床にわたる上下方向に長い空間である。
【0012】
エレベーターは、主要な構成として、巻上機3と、主ロープ4と、釣合いおもり5と、エレベーター制御装置6と、かご8と、絶対位置測位システム10と、安全制御装置30と、を備える。かご8は、昇降路2を移動方向である上下方向に走行することで、内部に乗車している利用者などを複数の階床の間で輸送する装置である。
【0013】
釣合いおもり5は、昇降路2を上下に移動する。かご8及び釣合いおもり5は、主ロープ4によって昇降路2に吊り下げられる。主ロープ4は、昇降路2の上部に設置された巻上機3の駆動綱車に巻き掛けられる。駆動綱車が回転すると、駆動綱車が回転した方向に応じた方向に主ロープ4が移動する。主ロープ4が移動する方向に応じてかご8は上昇或いは下降する。かご8の移動は、ガイドレール9によって案内される。
【0014】
エレベーター制御装置6は、エレベーターの動作を制御する制御盤に相当する。エレベーター制御装置6によって制御されるエレベーターの動作は、例えば扉の開閉、登録される呼びの管理、呼びに応答するかご8の走行、及び異常発生時の発報などを含む。
【0015】
絶対位置測位システム10は、昇降路2におけるかご8の移動方向の位置に対応した絶対位置情報を検出する絶対位置検出装置として機能するシステムである。絶対位置測位システムは、以下「APS」とも呼ばれる。APS10は、被検出体としてのAPSテープ12と、検出装置としてのAPSセンサ20と、を備える。
【0016】
APSテープ12は、昇降路2内の移動方向に沿って設けられた長尺体である。典型的には、APSテープ12は、昇降路2内の移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定されている。絶対位置情報は、APSテープ12の上下方向に頂部から底部にかけて、光学式特定を連続的に異ならせることによって設定された情報である。APSテープ12から読み取られる絶対位置情報は、以下「APSデータ」とも呼ばれる。APSテープ12の両端は、ガイドレール9に設置されたテンションロック14によって張力を付勢した状態でそれぞれ固定される。また、APSテープ12の途中は、ガイドレール9に設置された複数のガイドクリップ16によって左右方向のずれが規制される。
【0017】
図2は、APSセンサの構成例を説明するための図である。APSセンサ20は、APSテープ12からAPSデータを読み取るためのセンサである。APSセンサ20は、かご8の上において、ブラケット26によってAPSテープ12に向かい合う位置に設置される。
【0018】
APSセンサ20は、APSデータを読み取るための2つのカメラとして、第一カメラ22と第二カメラ24と、を備えている。第一カメラ22及び第二カメラ24は、APSデータの読取位置が移動方向に規定のオフセット距離だけ離間するように配置されている。ここで規定されたオフセット距離は、例えば65±5mmである。なお、正確なオフセット距離は、APS10の据付後に実測され、後述する安全制御装置30の記憶装置34に格納される。第一カメラ22及び第二カメラ24によって読み取られたAPSデータは、制御ケーブル7を介して後述する安全制御装置30へ伝送される。
【0019】
APS10のAPSテープ12にガイドシューの油跳ね、経年劣化による傷、汚れ、剥がれ等が発生すると、APSセンサ20による読み取りエラーが発生することがある。APSセンサ20は、第一カメラ22及び第二カメラ24において発生した読取エラーをそれぞれ検出する機能を備えている。APSセンサ20は、第一カメラ22又は第二カメラ24において読取エラーを検出した場合、読取エラーの発生したカメラを特定する情報を含むエラーデータを安全制御装置30へ伝送する。
【0020】
また、第一カメラ22において読取エラーが発生した場合、APS10は第二カメラ24によって読み取られたAPSデータに基づきかご8の絶対位置を検出することができる。また、第二カメラ24において読取エラーが発生した場合、APS10は第一カメラ22によって読み取られたAPSデータに基づきかご8の絶対位置を検出することができる。このように、APS10は、第一カメラ22及び第二カメラ24の双方において読取エラーが発生しない限り、かご8の絶対位置を検出することができる。
【0021】
安全制御装置30は、エレベーターの安全制御を担う制御装置である。図3は、安全制御装置が備える機能ブロックを説明するための図である。図3に示すように、安全制御装置30は、その機能として情報処理装置32と、記憶装置34と、を備える。
【0022】
情報処理装置32は、プロセッサ322と、メモリ324と、を備える。プロセッサ322は、各種処理を実行する。プロセッサ322は、例えばマイクロコンピュータである。メモリ324には、各種のプログラム及びデータが格納される。メモリ324としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。プロセッサ322が各種のプログラムを実行することにより、情報処理装置32の各種機能が実現される。情報処理装置32の機能については説明を後述する。
【0023】
記憶装置34は、後述する各種データが格納された装置である。記憶装置34は、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、等が例示される。なお、記憶装置34は、情報処理装置32の一部として構成されていてもよい。例えば、記憶装置34は、メモリ324であってもよい。
【0024】
1-2.情報処理装置32の機能
図4は、情報処理装置によって実現される機能を示す機能ブロック図である。この図に示すように、情報処理装置32は、各種処理を実行する機能ブロックとして、データ受付部40と、記録処理部41と、集計処理部42と、抽出処理部43と、発報判定処理部44と、を備える。以下、これらの機能ブロックでの具体的処理について説明する。
【0025】
1-2-1.データ受付部40
データ受付部40は、APS10のAPSセンサ20から伝送されるAPSデータ及びエラーデータを受け付ける処理を実行する機能ブロックである。この処理は、以下「データ受付処理」と呼ばれる。
【0026】
1-2-2.記録処理部41
記録処理部41は、APSデータのエラー情報を記録する処理を実行するための機能ブロックである。この処理は、以下、「記録処理」と呼ばれる。記録処理において、記録処理部41は、エラーデータ及びエラーデータの受付前後のAPSデータに基づいて、読取エラーが検出された絶対位置であるエラー位置の情報、読取エラーが検出されたカメラを特定するための情報、及びエラー発生時間を含むエラー情報を生成し、記憶装置34に記録する。
【0027】
1-2-3.集計処理部42
集計処理部42は、記録処理部41において記録されたエラー情報を用いて、エラー位置毎にエラー回数を関連付けた集計データを集計するための機能ブロックである。この処理は、以下「集計処理」と呼ばれる。
【0028】
図5は、集計データの一例を示す図である。この図に示す例では、エラー位置毎のエラー回数が棒グラフによって表されている。なお、図5では、第一カメラ22において検出された読取エラーのエラー回数と第二カメラ24において検出された読取エラーのエラー回数とがそれぞれ個別の棒グラフとして集計されているが、これらは合算して集計されていてもよいし、何れか一方のカメラにおける読取エラーのみが集計されていてもよい。
【0029】
1-2-4.抽出処理部43
抽出処理部43は、集計データのエラー回数が規定回数以上となるエラー位置を抽出する処理を実行するための機能ブロックである。この処理は、以下「抽出処理」と呼ばれる。ここでの規定回数は、APSテープ12の汚れ等の原因に起因する読取エラーと偶発的な読取エラーとを切り分けるためのエラー回数の閾値であり、例えば2回である。規定回数は、予め記憶装置34に記録されている。抽出処理によれば、APSテープ12の汚れ等の原因に起因する読取エラーの検出精度が高まる。なお、抽出処理において、規定回数は1回に設定されていてもよい。この場合、全ての読取エラーが抽出される。
【0030】
1-2-5.発報判定処理部44
発報判定処理部44は、保守員への発報要否を判定する処理を実行するための機能ブロックである。この処理は、以下「発報判定処理」と呼ばれる。発報判定処理において、発報判定処理部44は、抽出処理において抽出された複数のエラー位置間の離間距離をそれぞれ演算する。そして、発報判定処理部44は、演算した離間距離とオフセット距離との差が閾値よりも小さい場合に、発報が必要と判定する。
【0031】
図6は、集計データの一例を示す図である。この図に示す例のように、エラー位置の離間距離がオフセット位置と一致した場合、第一カメラ22及び第二カメラの双方において読取エラーが検出されるおそれがある。この場合、第一カメラ22及び第二カメラの何れかのAPSデータによる外挿ができないため、早急に保守員に発報して確認及び改善を促す必要がある。そこで、ここでの閾値は、エラー位置の離間距離がオフセット位置に概ね一致していることを判定するための閾値として予め定められた値が利用される。
【0032】
発報判定処理部44は、演算した離間距離とオフセット距離との差が閾値以上の場合、或いは図5に示す例のように単一のエラー位置のみが抽出された場合、第一カメラ22及び第二カメラの双方において読取エラーが検出されるおそれがないため、発報は不要と判定する。ただし、抽出されたエラー位置には、APSテープ12の汚れ等が発生していると推測されるため、定期的な保守点検時に状況を確認することが望ましい。そこで、発報判定処理部44は、発報が不要と判定されたエラー位置の情報を保守点検リストに追加する。この処理は、以下「保守点検リスト追加処理」と呼ばれる。ここでの保守点検リストは、定期的な保守点検時に確認すべき内容を記録したリストであって、例えば記憶装置34に格納されている。
【0033】
1-3.実施の形態1のエレベーターシステムによる具体的な処理例
次に、フローチャートを参照して、エレベーターシステムにおいて実行される具体的な処理例を説明する。図7は、実施の形態1のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。図7に示すルーチンは、安全制御装置30の情報処理装置32において、予め定められた制御周期で実行される。
【0034】
ステップS100において、エレベーターの走行中かどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS102に移行し、判定の成立が認められない場合、本ルーチンの処理は終了される。
【0035】
ステップS102において、データ受付処理が実行される。ここでは、データ受付部40において、APSセンサ20から伝送されるAPSデータ及びエラーデータが受け付けされる。ステップS102の処理が完了すると、処理はステップS104に進む。
【0036】
ステップS104において、本ルーチンのデータ受付処理において受け付けされたデータの中にエラーデータが含まれているかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS106に移行し、判定の成立が認められない場合、本ルーチンの処理は終了される。
【0037】
ステップS106において、記録処理が実行される。ここでは、記録処理部41は、受け付けされたエラーデータの受付前後のAPSデータに基づいて、読取エラーが検出されたエラー位置を演算する。そして、記録処理部41は、読取エラーが検出されたエラー位置の情報、読取エラーが検出されたカメラを特定するための情報、及びエラー発生時間を含むエラー情報を生成し、記憶装置34に記録する。ステップS106の処理が完了すると、本ルーチンの処理は終了される。
【0038】
図7に示すルーチンの処理が繰り返し実行されることにより、エラー情報が記憶装置34に蓄積される。
【0039】
図8は、実施の形態1のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。図8に示すルーチンは、安全制御装置30の情報処理装置32において、予め定められた制御周期で実行される。
【0040】
ステップS110において、集計処理が実行される。ここでは、集計処理部42は、予め定められた集計期間におけるエラー情報を用いて、エラー位置毎にエラー回数を関連付けた集計データを演算する。ステップS110の処理が完了すると、処理は次のステップS112に進む。
【0041】
ステップS112において、抽出処理が実行される。ここでは、抽出処理部43は、集計データの中からエラー回数が規定回数以上のエラー位置を抽出する。ステップS112の処理が完了すると、処理は次のステップS114に進む。
【0042】
ステップS114、S116、S118及びS120において、発報判定処理が実行される。先ずステップS114において、発報判定処理部44は、抽出処理によって抽出された複数のエラー位置の間の離間距離をそれぞれ演算する。次のステップS116において、発報判定処理部44は、演算された離間距離とオフセット距離との差分値が閾値より小さいかどうかを判定する。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS118に進む。
【0043】
ステップS118において、発報判定処理部44は、発報が必要と判定し、エレベーター制御装置6へ発報指令を送信する。これにより、エレベーター制御装置6は、発報指令を受けて発報を行う。一方、ステップS116の判定の成立が認められない場合、処理はステップS120に進む。ステップS120において、発報判定処理部44は、発報が不要と判定し、保守点検リスト追加処理を実行する。ここでは、発報判定処理部44は、記憶装置34に格納されている保守点検リストに当該エラー位置の情報を追加する。ステップS118又はS120の処理が完了すると、本ルーチンの処理は終了される。
【0044】
以上のようなエレベーターシステム100の処理によれば、APSセンサ20の第一カメラ22及び第二カメラ24の双方において読取エラーが発生する状況において、早急に保守員に発報して確認及び改善を促すことが可能となる。
【0045】
1-4.変形例
実施の形態1のエレベーターシステムは、以下のような変形した態様を採用してもよい。なお、これらの変形例は、後述する他の実施の形態のエレベーターシステムにも適用しうる。
【0046】
1-4-1.安全制御装置30
図9は、安全制御装置30の情報処理装置32におけるハードウェア資源の変形例を示す図である。図9に示す例では、情報処理装置32は、例えばプロセッサ322、メモリ324、及び専用ハードウェア326を含む処理回路328を備える。図9は、情報処理装置32が有する機能の一部を専用ハードウェア326によって実現する例を示す。情報処理装置32が有する機能の全部を専用ハードウェア326によって実現しても良い。専用ハードウェア326として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる
【0047】
安全制御装置30とエレベーター制御装置6とは、単一の制御装置として構成されていてもよい。また、安全制御装置30の情報処理装置32が備える機能の一部又は全部がエレベーター制御装置6に配置されていてもよい。
【0048】
1-4-3.発報判定処理部44
発報判定処理部44において実行される保守点検リスト追加処理は、必須の処理ではない。
【0049】
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1で開示される例と相違する点について特に詳しく説明する。実施の形態2で説明しない特徴については、実施の形態1で開示される例のいずれの特徴が採用されてもよい。
【0050】
2-1.実施の形態2のエレベーターシステムの特徴
APSテープ12にガイドシューの油跳ねが発生した場合、付着した油が徐々に下方へ拡がることによってAPSテープ12の読取エラーのエラー区間が経時的に拡がることが考えられる。図10は、読取エラーの位置の経時変化の一例を示す図である。この図に示すように、エラー区間の区間長が徐々に拡がり、最終的にオフセット距離まで到達すると、第一カメラ22及び第二カメラ24の双方のカメラによって読取エラーが検出されてしまい、APSセンサ20から有効なAPSデータを伝送できない状況となるおそれがある。このため、読取エラーの位置に経時的な変化が見られる場合、APSデータを伝送できない状況となる前に保守員に発報して確認及び改善を促すことが望ましい。
【0051】
そこで、実施の形態2のエレベーターシステムは、エラー区間の区間長の経時変化を監視し、第一カメラ22及び第二カメラ24の双方のカメラによって読取エラーが検出される状況を事前に検出する動作に特徴を有している。
【0052】
図11は、実施の形態2のエレベーターシステムの情報処理装置によって実現される機能を示す機能ブロック図である。この図に示すように、情報処理装置32は、各種処理を実行する機能ブロックとして、更にエラー区間抽出部45と、到達時間演算部46と、を備える。以下、これらの機能ブロック及び発報判定処理部44での具体的処理について説明する。
【0053】
2-1-1.エラー区間抽出部45
エラー区間抽出部45は、集計期間の集計データのエラー回数が規定回数以上となるエラー位置が規定長さ以上連続するエラー区間を抽出する処理を実行するための機能ブロックである。この処理は、以下「エラー区間抽出処理」と呼ばれる。ここでの規定回数及び規定長さは、予め記憶装置34に記録された閾値であって、その数値に限定はない。例えば、規定回数は、APSテープ12の汚れ等に起因する恒常的な読取エラーと汚れ等を伴わない偶発的な読取エラーとを切り分けるためのエラー回数として、例えば2回に設定されている。また、規定長さは、例えば10mmに設定されている。エラー区間抽出処理によれば、APSテープ12の連続的な読取エラーが抽出される。
【0054】
2-1-2.到達時間演算部46
到達時間演算部46は、エラー区間の区間長がオフセット距離に到達するまでの到達時間を演算するための機能ブロックである。この処理は、以下「到達時間演算処理」と呼ばれる。到達時間演算処理において、到達時間演算部46は、時間t1から時間t2までの集計期間の集計データに対するエラー区間抽出処理によって抽出されたエラー区間と、時間t1から時間t2以降の時間t3までの集計期間の集計データに対するエラー区間抽出処理によって抽出されたエラー区間と、を比較して、エラー区間の端位置に経時変化があるかどうかを判定する。
【0055】
典型的には、到達時間演算処理において、到達時間演算部46は、次式(1)に従い時間t3からx時間後のエラー区間の区間長y(x)を近似的に演算する。図12は、エラー区間の経時変化の一例を示す図である。図12において、図中(A)は時間t2でのエラー区間を表し、図中(B)は時間t3でのエラー区間を表している。また、図12及び次式(1)において、aはエラー区間の時間変化量であり、bは時間xが0のときの初期値である。また、h1は時間t2におけるエラー区間の上端位置であり、h2は時間t2におけるエラー区間の下端位置であり、h3は時間t3におけるエラー区間の下端位置である。
y(x)=ax+b ・・・(1)
時間変化量a=(h3-h2)/(t3-t2)
初期値b=h3-h1
【0056】
到達時間演算処理において、到達時間演算部46は、式(1)において演算したエラー区間の区間長y(x)がオフセット距離と一致する時間xを到達時間として演算する。
【0057】
2-1-3.発報判定処理部44
発報判定処理部44は、発報判定処理において、エラー区間の区間長がオフセット距離の規定割合以上となった場合に発報が必要と判定する。ここでの規定割合は、オフセット距離に対する規定距離の割合であって、1よりも小さい値、例えば1/2に設定される。
【0058】
また、発報判定処理部44は、発報判定処理において、到達時間演算処理において演算された到達時間が規定時間よりも短い場合に発報が必要と判定する。ここでの規定時間は、例えば24時間に設定される。
【0059】
2-2.実施の形態2のエレベーターシステムおいて実行される具体的処理
次に、フローチャートを参照して、実施の形態2のエレベーターシステムにおいて実行される具体的な処理例を説明する。図13は、実施の形態2のエレベーターシステムにおいて実行されるルーチンのフローチャートである。図13に示すルーチンは、安全制御装置30の情報処理装置32において定期的に実行される。
【0060】
ステップS200において、集計処理が実行される。ここでは、集計処理部42は、予め定められた集計期間におけるエラー情報を用いて、エラー位置毎にエラー回数を対応付けた集計データを演算する。ここでの集計期間は、例えば今回ルーチンの開始時までの期間である。ステップS200の処理が完了すると、処理は次のステップS202に進む。
【0061】
ステップS202において、エラー区間抽出部45は、集計処理によって集計された集計データに対してエラー区間抽出処理を実行し、エラー区間を抽出する。ステップS202の処理が完了すると、処理は次のステップS204に進む。
【0062】
ステップS204において、発報判定処理部44は、発報判定処理において、エラー区間抽出処理によって抽出されたエラー区間がオフセット距離の1/2よりも小さいかどうかを判定する。その結果、判定の成立が認められない場合、エラー区間がオフセット距離に到達する可能性があると判断されて、ステップS212の処理に進む。ステップS212において、発報判定処理部44は、発報が必要と判定し、エレベーター制御装置6へ発報指令を送信する。ステップS212の処理が完了すると、本ルーチンの処理は終了される。
【0063】
一方、ステップS204の判定の成立が認められた場合、処理はステップS206に進む。ステップS206において、エラー区間の端位置に経時的な変化があるかどうかが判定される。ここでは、到達時間演算部46は、前回ルーチンの開始までの集計期間に抽出されたエラー区間と今回ルーチンの開始までの集計期間に抽出されたエラー区間とを比較することによって、エラー区間の端位置に経時的な変化があるかを判定する。その結果、判定の成立が認められない場合、エラー区間がオフセット距離に到達する可能性がないと判断されて、処理はステップS214に進む。ステップS214において、発報判定処理部44は、保守点検リスト追加処理を実行し、記憶装置34に格納されている保守点検リストに当該エラー区間の情報を追加する。ステップS214の処理が完了すると、本ルーチンの処理は終了される。
【0064】
一方、ステップS206の判定の成立が認められた場合、処理はステップS208に進む。ステップS208において、到達時間演算部46は、到達時間演算処理を実行して到達時間を演算する。ここでは、到達時間演算部46は、前回ルーチンの開始時間、エラー区間の上端位置及び下端位置を、それぞれt2、h1及びh2とし、今回ルーチンの開始時間、エラー区間の上端位置及び下端位置を、それぞれt3、h1及びh3として式(1)に値を代入することにより、エラー区間の区間長y(x)を近似的に演算する。そして、到達時間演算部46は、演算されたエラー区間の区間長y(x)がオフセット距離となる時間xを到達時間として演算する。ステップS208の処理が完了すると、処理はステップS210に進む。
【0065】
ステップS210において、発報判定処理部44は、発報判定処理を実行して、到達時間が規定時間よりも短いかどうかを判定する。ここでの規定時間は、例えば24時間である。その結果、判定の成立が認められない場合、処理はステップS214に進み、判定の成立が認められた場合、処理はステップS212に進む。
【0066】
以上のようなエレベーターシステムの処理によれば、エラー区間が経時的に変化してAPSデータを伝送できない状況となる前に、保守員に発報して確認及び改善を促すことが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
2 昇降路、 3 巻上機、 4 主ロープ、 5 釣合いおもり、 6 エレベーター制御装置、 7 制御ケーブル、 8 かご 9 ガイドレール、 10 絶対位置測位システム(APS)、 12 APSテープ、 14 テンションロック、 16 ガイドクリップ、 20 APSセンサ、 22 第一カメラ、 24 第二カメラ、 26 ブラケット、 30 安全制御装置、 32 情報処理装置、 34 記憶装置、 40 データ受付部、 41 記録処理部、 42 集計処理部、 43 抽出処理部、 44 発報判定処理部、 45 エラー区間抽出部、 46 到達時間演算部、 100 エレベーターシステム、 322 プロセッサ、 324 メモリ、 326 専用ハードウェア、 328 処理回路
【要約】
【課題】絶対位置を検出する絶対位置測位システムの読取エラーの分析を行うことにより、利用者に対するサービス低下を防ぐ。
【解決手段】エレベーターシステムは、昇降路内のかごの移動方向の位置に対応して絶対位置情報が連続的に設定されたAPSテープと、かごに設置され、かごの位置に対応した絶対位置情報を読み取る2つのカメラを備えたAPSセンサと、APSセンサによって読み取られた絶対位置情報を処理する情報処理装置と、を備える。2つのカメラは、絶対位置情報の読取位置が移動方向にオフセット距離だけ離間するように配置されている。そして、情報処理装置は、2つのカメラの各々において読取エラーが発生した場合、エラー位置を含むエラー情報をそれぞれ記録する記録処理部と、記録されたエラー情報に基づいて、エラー位置にエラー回数を関連付けた集計データを集計する集計処理部と、を備える。
【選択図】図8
図1
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図13