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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/26 20060101AFI20241112BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20241112BHJP
   H01J 49/42 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
H01J49/26
H01J49/02
H01J49/42 150
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024500738
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2022005977
(87)【国際公開番号】W WO2023157086
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】坂越 祐介
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-082496(JP,A)
【文献】特開2001-332210(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0022244(US,A1)
【文献】国際公開第2021/106277(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室を形成するチャンバと、
該チャンバ内のイオン光軸に沿って配置されるイオン光学素子と、
該チャンバの外部に配置された電源から該イオン光学素子に給電するための給電線を備え、
該チャンバの上面及び下面を除く壁面の少なくとも一部には、該イオン光学素子を該チャンバ内に出し入れ可能な開口部が形成されると共に、該開口部を塞ぐ側面蓋を備え、
該給電線と該イオン光学素子とを接続するケーブルとを備え、
該給電線と該ケーブルとの接続位置及び該イオン光学素子と該ケーブルとの接続位置は、該イオン光学素子を該チャンバ内に収容した状態で、該開口部から該ケーブルの取り外しが可能な位置に設定されている質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、該給電線は、該チャンバの壁面を貫通するコネクタと、該チャンバ内に配置される中継部材とを結ぶ別のケーブルを有する質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置において、該中継部材は、該イオン光学素子と該開口部との間に配置されている、質量分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析装置において、該イオン光学素子及び該給電線に対して、該ケーブルは着脱可能なコネクタで接続されている、質量分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の質量分析装置において、該電源は、該開口部が形成された面側を除き、該チャンバの外側で該チャンバに隣接して配置されている、質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、該給電線が該チャンバの壁面を貫通する部分は、該開口部が形成された面側を除く位置に形成されている、質量分析装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、該イオン光学素子は、四重極マスフィルタである、質量分析装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の質量分析装置において、該質量分析装置は、液体クロマトグラフ又はガスクロマトグラフから供給される試料を分析する、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関し、特に、真空室を形成するチャンバ内に四重極マスフィルタやコリジョンセルなどのイオン光学素子を配置した質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置では、イオン源において試料中に含まれる化合物からイオンを生成し、その生成された各種イオンを四重極マスフィルタなどを利用して質量電荷比(m/z)に応じて分離し、その分離されたイオンをイオン検出器で検出するよう構成されている。質量分析装置に導入される試料としては、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフから導出される試料が利用される。また、イオンの分離には、四重極マスフィルタだけでなく、コリジョンセルを挟んでその前後に四重極マスフィルタが配置したものなどもある。
【0003】
質量分析装置では分析時に、試料由来の中性粒子やイオンが四重極マスフィルタを構成するロッド電極やコリジョンセル内に配置されているロッド電極などのイオン光学素子に付着する。イオン光学素子の汚染は、イオン光学素子が形成する電場の乱れの原因となり、その結果、検出感度や質量分解能など計測精度が低下する。このため、装置から四重極マスフィルタユニットやコリジョンセルを取り出し、それらを洗浄する等のメンテナンス作業が必要となる。通常のメンテナンス作業においては、真空チャンバの上部に開閉可能な蓋を設け、この蓋を開けた状態で四重極マスフィルタやコリジョンセルを上方向に取り外し又は上方向から装着できるよう構成されている。
【0004】
図1は、質量分析装置を液体クロマトグラフ(LC)の検出器として用いた液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)システムの一例である。質量分析装置1以外に、移動相を送給するポンプなどを含む送液ユニット3及び4、送給された移動相中に試料を注入するインジェクションユニット5、カラムを内装するカラムオーブンユニット2などの複数のユニットから構成される。近年では、システムの設置スペースの縮小が強く求められ、質量分析装置も小型化したものが開発されている。このため、図1のように、質量分析装置1の上に、液体クロマトグラフ装置の一部のユニットを配置したり、他の質量分析装置を積み重ねて配置することも行われている。
【0005】
図1のように質量分析装置1の上に他のユニット等を載置する場合は、質量分析装置内の真空チャンバの上部の蓋を開閉するには、質量分析装置1に載置されたユニット等を移動することが必要となり、イオン光学素子などのメテナンス作業が煩雑で時間が掛かる。特許文献1ではこの問題を解決するため、イオン光軸を挟む側面の一つに開口部と該開口部を塞ぐ側面蓋を設けることが提案されている。
【0006】
特許文献1では、図2及び3に示すように、真空チャンバVCの側面に開口部OPを形成し、該開口部を塞ぐ側面蓋VC1(点線で輪郭のみ表示)を設けている。図2では、四重極マスフィルタMFとイオン検出器IDが開口部から確認できる。真空チャンバVCの右側端面には真空チャンバの真空度を計測するためのイオンゲージIMが設置されている。また、図3では、開口部OPから、前段四重極マスフィルタMF1、コリジョンセルCC、後段四重極マスフィルタMF2、イオン検出器IDが確認できる。
【0007】
特許文献1では、四重極マスフィルタやコリジョンセルなどのイオン光学素子を開口部OPからの取り外しや装着を容易にするため、イオン光学素子を固定する台座から着脱を簡単に実施できる機構を備えている。具体的には、図4に示すように、四重極マスフィルタを構成する4本のロッド電極MFPを保持するロッドホルダRHを台座PDに固定する際に、固定バンドBAの一端を、真空チャンバの側壁S1(図面の左側)に形成された凹部HLに係止させ、該固定バンドの他端を、ネジSCで台座PDに固定している。
【0008】
従来は、四重極マスフィルタを台座に固定する際には、固定バンドの両端を台座にねじ止めしていたのに比較し、図4に示す構成では、開口部OPからネジSCを外すだけで容易に固定バンドを解除でき、四重極マスフィルタMFの取り外しや装着の手間を少なくすることができる。
【0009】
また、コリジョンセルCCの場合でも、図3に示すように、ロッド電極を保持するセル本体(CC)を台座PD2に、四重極マスフィルタと同様の構成を持つ固定バンドBA2やネジSCなどを用いて固定することで、開口部OPから容易に着脱することが可能となる。
【0010】
一方、イオン光学素子の多くには電気的配線が接続されており、イオン光学素子を装置本体から着脱するには、この配線も取り外しや装着を行う必要がある。また、真空チャンバVCの周囲には、図4に示すように、回路ユニットや真空ポンプユニットが符号20、30又は40のいずれかに配置されている。特に、四重極マスフィルタのロッド電極に電圧を供給する電源などは、組立性やメンテナンス性を考慮して、回路ユニット30の位置に配置されることが多いが、これに限定されず、符号20又は40に配置しても良い。このため、電源ユニットから真空チャンバVC内への配線は、真空チャンバVCの壁面を貫通するフィードスルー部が形成される。この「フィードスルー部」とは、ハーメチックコネクタや真空用コネクタなどを包含し、真空チャンバの壁面を貫通するコネクタ(給電線)を意味する。
【0011】
イオン光学素子を取り外す際には、予めフィードスルー部からイオン光学素子に接続される配線を取り外す必要がある。例えば、図4に示すように、四重極マスフィルタやコリジョンセルなどのイオン光学素子の奥側の壁面S1にフィードスルー部が配置した場合には、イオン光学素子が邪魔してフィードスルー部に接続される配線ケーブルを容易に外すことができない。このため、従来では、質量分析装置の上側に配置されている各種機器を除去し、真空チャンバVCの上面に設けられた開口部から手を入れて配線ケーブルを外していた。このため、イオン光学素子のメンテナンス作業が煩雑化すると共に、特許文献1のような真空チャンバVCの横側の側面に設けた開口部を十分に活用することが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2021-82496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、質量分析装置の上部に液体クロマトグラフやガスクロマトグラフなどの他のシステムユニットなどが載置されている場合であっても、四重極マスフィルタなどのイオン光学素子の電気的配線の着脱を容易に実施することができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、次のとおりである。
真空室を形成するチャンバと、該チャンバ内のイオン光軸に沿って配置されるイオン光学素子と、該チャンバの外側に配置された電源から該イオン光学素子に給電するための給電線を備え、該チャンバの上面及び下面を除く壁面の少なくとも一部には、該イオン光学素子を該チャンバ内に出入可能な開口部が形成されると共に、該開口部を塞ぐ側面蓋を備え、該給電線と該イオン光学素子とを接続するケーブルとを備え、該給電線と該ケーブルとの接続位置及び該イオン光学素子と該ケーブルとの接続位置は、該イオン光学素子を該チャンバ内に収容した状態で、該開口部から該ケーブルの取り外しが可能な位置に設定されている質量分析装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る質量分析装置の上記態様によれば、給電線とケーブルとの接続位置及びイオン光学素子と該ケーブルとの接続位置は、該イオン光学素子をチャンバ内に収容した状態で、真空チャンバに設けられた開口部から該ケーブルの取り外しが可能な位置に設定されているため、イオン光学素子に接続される電気的配線(ケーブル)の着脱を容易に実施することができる。特に、真空チャンバの上面側の開口部からケーブルの着脱作業を行う必要が無く、メンテナンス作業を簡便に実施することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】質量分析装置を用いた液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)システムの外観斜視図。
図2】特許文献1に開示された質量分析装置の一例を示す概略平面図。
図3】特許文献1に開示された質量分析装置の他の例(コリジョンセルを含む)を示す概略平面図。
図4】特許文献1に開示された質量分析装置の概略垂直断面図。
図5】質量分析装置の内部構造の一例を示す概略図。
図6】本発明の質量分析装置の一例を示す概略垂直断面図。
図7】本発明の質量分析装置の他の実施形態を示す概略垂直断面図。
図8】本発明の質量分析装置におけるフィードスルー部から中継部材までを接続する第1ケーブルの配線の様子を示す斜視図。
図9】本発明の質量分析装置における中継部材から四重極マスフィルタまでを接続する第2ケーブルの配線の様子を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の質量分析装置について、図5乃至9を用いて詳細に説明する。
図5は本発明が適用される質量分析装置の一例であり、その質量分析装置1の要部の構成図である。真空チャンバVCの内部は、第1中間真空室A1、第2中間真空室A2、及び高真空室A3の三室に区画されている。また、真空チャンバVCの前方には、内部にイオン化室IRを画成するイオン化ユニットが取り付けられている。第1中間真空室A1、第2中間真空室A2、及び高真空室A3はそれぞれ真空ポンプ(図示せず)により真空排気(矢印VP1~VP3参照)され、イオン化IRは外部に連通している。
【0018】
イオン化室IRにはイオン化プローブIPが設けられ、イオン化室IRと第1中間真空室A1との間は細径の脱溶媒管TUを通して連通している。第1中間真空室A1の内部には第1イオンガイドIG1が配置され、第1中間真空室A1と第2中間真空室A2とはスキマーSKの頂部に形成された小孔を通して連通している。第2中間真空室A2の内部には第2イオンガイドIG2が配置され、第2中間真空室A2と高真空室A3とはレンズ電極LEの中心に形成された小孔を通して連通している。高真空室A3の内部には、プリロッド電極とメインロッド電極とを含む四重極マスフィルタMFと、イオン検出器IDとが配置されている。
【0019】
図5に示すように、脱溶媒管TU、第1イオンガイドIG1、スキマーSK、第2イオンガイドIG2、レンズ電極LE、四重極マスフィルタMF、及びイオン検出器IDは、概ね直線状のイオン光軸Cに沿って配置されている。
【0020】
本発明における「イオン光学素子」とは、例えば電場の作用によりイオンの挙動を制御する、四重極マスフィルタ、イオンガイド、イオンレンズ、イオントラップ、デフレクタ、リフレクタなどを含む。また、イオンを解離させる空間を提供するコリジョンセルなども含む。特に本発明では、真空チャンバ内に配置され、フィードスルー部を介して給電されて動作するイオン光学素子には、本発明を適用することが可能である。
【0021】
図5の質量分析装置1は、図1に示した液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)システムに組み込まれる。LC-MSシステムにおける分析動作を簡単に説明する。
図1の送液ユニット3、4は単一の又は二液が混合された移動相を所定の流速(流量)で以てカラムに送給する。インジェクションユニット5は、予め用意された複数のサンプルから一つを選択して吸引し、所定のタイミングで、カラムに送給される移動相中に注入する。カラムオーブンユニット2においてカラムは、例えば略一定の温度に維持される。移動相の流れに押されてカラムにサンプルが導入されると、該サンプルに含まれる各種の成分(化合物)はカラムを通過する間に時間的に分離される。そして、分離された成分を含む溶出液がカラムの出口から排出され、質量分析装置1のイオン化プローブ15に導入される。
【0022】
イオン化プローブIPは溶出液を略大気圧雰囲気であるイオン化室IR内に噴霧し、該溶出液に含まれる試料成分をイオン化する。イオン化の手法は例えばエレクトロスプレーイオン化法や大気圧化学イオン化法などを用いることができる。生成されたイオンは脱溶媒管TUを通して第1中間真空室A1内へと送られ、さらに、第1イオンガイドIG1、スキマーSK、第2イオンガイドIG2、レンズ電極LEを経て高真空室A3まで送られる。この試料成分由来のイオンは四重極マスフィルタMFに導入され、四重極マスフィルタMFを構成するロッド電極に印加されている電圧に対応する特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極マスフィルタMFを通り抜け、それ以外のイオンは途中で発散する。イオン検出器IDは四重極マスフィルタMFを通り抜けて来たイオンを検出し、そのイオンの量に応じた検出信号を出力する。
【0023】
このようにして、このLC-MSシステムでは、サンプルに含まれる複数の成分を時間軸で分離したうえで、質量分析装置1によりその各成分の量(濃度)に応じた検出信号を得ることができる。上述したように、質量分析装置1の真空チャンバVCの内部では、試料成分由来のイオンは、イオン光軸C(Y軸方向)に沿って進行する。以上は、液体クロマトグラフと質量分析装置との組み合わせについて説明したが、本発明はガスクロマトグラフと質量分析装置との組み合わせに用いることも可能である。
【0024】
図6及び7は、本発明の質量分析装置の実施形態を示す概略垂直断面図である。
本発明の質量分析装置では、真空室を形成するチャンバVC内に、イオン光軸(図5の符号C参照)に沿ってイオン光学素子が配置されている。図6及び7では、イオン光学素子の一例として四重極マスフィルタを示している。四重極マスフィルタでは、4本のロッド電極MFPをロッドホルダRHで保持している。
【0025】
図6の実施例では、真空チャンバVCの横側の壁面に開口部OPが形成され、該開口部OPを塞ぐ側面蓋VC1が設けられている。真空チャンバVCの外側に配置された電源(不図示)と真空チャンバVC内に配置されたイオン光学素子(四重極マスフィルタ)とは、給電線で接続されている。電源は、図4の符号20、30又は40のいずれかの位置に配置されている。電源からの給電線が長くなると、容量成分が大きくなり高周波電圧を給電する上で好ましくない。このため、電源の配置に応じて、開口部OPが形成された壁面を除く、図6の点線領域A~Cの各部分にフィードスルー部が形成される。図6では、一例として、領域B(真空チャンバの下面)に給電線(フィードスルー部)FTを形成している。
【0026】
フィードスルー部FTとイオン光学素子に設けられた端子MTとは、ケーブルCAを用いて電気的に接続される。図6に示すように、ケーブルCAの両端にはコネクタCNが設けられ、各コネクタをシードスルー部FTの端部や端子MTに接合させ、電気的配線を行う。
【0027】
本発明では、給電線とケーブルとの接続位置や、イオン光学素子とケーブルとの接続位置は、イオン光学素子を真空チャンバVC内に収容した状態であっても、開口部OPから操作者が容易にアクセスでき、該ケーブルの取り外しが可能な位置に設定されている。図6では、側面蓋VC1を外すと、フィードスルー部FTとコネクタCNとの接続部や、端子MTとコネクタCNとの接続部が、開口部側に露出している。このため、操作者は容易に各接続部の接続を解除することができる。
【0028】
しかしながら、真空チャンバVC内にイオン光学素子が配置された状態では、領域Aや領域B又はCの奥側にフィードスルー部FTを配置すると、操作者からのアクセスが難しくなる。このような不具合を解消するため、本発明では、図7に示すように、給電線に、真空チャンバの壁面を貫通するコネクタ(フィードスルー部)と、該真空チャンバ内に配置される中継部材とを結ぶ別のケーブルを使用することも可能である。
【0029】
図7に示すように、壁面S1には、四重極マスフィルタなどのイオン光学素子に給電するためのフィードスルー部FTを備え、コネクターピンCP1が側壁を貫通している。コネクターピンCP1は、その周囲に絶縁部材を配置し、真空チャンバを形成する側壁と電気的に絶縁されている。
【0030】
真空チャンバVC内の底面には、ケーブル用の中継部材RBが配置されている。中継部材RBは、後述するように第2ケーブルのコネクタを着脱するため、チャンバ内に移動しないよう固定されている。
【0031】
フィードスルー部のコネクターピンCP1から中継部材RBまでは第1ケーブルCA1が接続されている。第1ケーブルCA1の一端にコネクタCN1を設け、コネクターピンCP1がコネクタCN1に差し込まれるよう構成されている。電気的・機械的な接続方法は、ピンとコネクタとの形状に限らず、当業者にとって公知の接続方法が採用可能である。
【0032】
第1ケーブルCA1と中継部材RBとの接続は、中継部材にピンやコネクタなどの金具を予め設け、それにケーブルの端部に設けた金具を接続することも可能である。ここでは、電気的な接続を確実に行うため、絶縁材料で形成される中継部材の本体に第1ケーブルの先端が貫通する穴を開け、第1ケーブルを該穴に貫通させた状態で、ネジ等の固定手段SC2で第1ケーブルを中継部材に固定している。
【0033】
図8は、フィードスルー部FTから中継部材RBまでの第1ケーブルの配線状態を示す斜視図である。中継部材RB自体は、真空チャンバVCに別のネジSC3などで固定されている。
【0034】
次に、中継部材RBから四重極マスフィルタ(ロッド電極MFP)までは、図7に示すように第2ケーブル(CA11,CA12)で接続されている。第2ケーブルの一端にはコネクタCN11が設けられ、中継部材RBに固定された第1ケーブルの先端T1に接続される。第2ケーブルの他端のコネクタは、四重極マスフィルタの電極端子に接続される。
【0035】
四重極マスフィルタでは、対向するロッド電極に同じ電圧が印加されることから、対向する電極を電気的に接続するプレート(PL1,PL2)が配置されている。第2ケーブルのコネクタCN21は、このプレート上に形成された端子(MT1,MT2)に接続されている。
【0036】
図9は、一本のロッド電極がイオン光軸方向の3つの電極部分を備えたものを用いた、四重極マスフィルタを例示している。1本のロッド電極は、3つの金属電極を絶縁体を挟んで直列に接続されている。図9では、1本のロッド電極において、両端の電極は同じ電圧を印加するため、両端の電極を繋ぐ配線ケーブル(CA01,CA02)が使用されている。各ケーブルの端部に設けたコネクタは、例えば、プレートPL1の端子MT01とプレートPL5の端子MT02に接続される。プレートPL2とプレートPL6も同様である。
【0037】
中継部材RBからの第2ケーブルCA11は、プレートPL1に設けられた端子MT1に接続される。同様に、中継部材RBと各ロッド電極のプレート(PL2,PL3,PL4)との間にも、同様に第2-ブル(CA12,CA13,CA14)が接続される。
【0038】
このような中継部材を用いることで、図7又は図9に示す第2ケーブル(CA11,CA12等)を外すだけで、四重極マスフィルタの電気的接続を容易に解除できる。しかも、第2ケーブルの着脱は、真空チャンバの側面に設けられた開口部から容易に操作できるため、メンテナンス作業を効率よく行うことができる。
【0039】
真空チャンバの側面の開口部からのアクセス性を高めるためには、図7に示すように、中継部材RBは、四重極マスフィルタなどのイオン光学素子が配置されている位置と開口部との間に配置されている。
【0040】
また、四重極マスフィルタなどのイオン光学素子や、中継部材RBと、第2ケーブルとの接続には、上述したように、第2ケーブルの着脱が可能なコネクタを用いる。これにより、より容易に電気的接続を解除又は接続することができる。
【0041】
図7及び図9では、第2ケーブルのコネクタが接続される端子は、開口部側を向いており、コネクタの着脱が容易になるよう構成されている。第2ケーブルの接続とは関係がない、例えば、図9のケーブル(CA01,CA02)は、四重極マスフィルタを取り出す際には、外す必要がない。このような着脱が不要な部分については、プレートに設けられる端子(MT01,MT02)の方向を上下方向又は開口部と反対側を向くように構成し、第2ケーブルと一緒に外さないように設定することも可能である。
【0042】
上述した説明では、フィードスルー部と中継部材との間には、第1ケーブルのみが配置されていたが、第1ケーブルの一部又は全部について、第1ケーブルを2つ以上に分割し、別の中継部材を介して接続するよう構成することも可能である。また、第2ケーブルについても、イオン光学素子を構成する部材の一部に別の中継部材を配置し、第2ケーブルを中継して配線するよう構成することも可能である。この場合は、真空チャンバに配置された中継部材とイオン光学素子に配置された中継部材との間を接続するケーブル(第2ケーブルの一部)を着脱することで、上記構成と同様の効果を得ることが可能である。
【0043】
また、本発明の構成に加え、特許文献1に開示するような固定バンド等の構成を組み合わせて適用することで、イオン光学素子の取り外し及び装着を、より効率よく作業を行うことが可能となる。
【0044】
本発明の質量分析装置に関する上述の説明は、実施形態の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、追加、修正を行っても本発明の技術的範囲に属することは明らかである。
【0045】
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが、当業者により理解される。
【0046】
(第1項)
真空室を形成するチャンバと、
該チャンバ内のイオン光軸に沿って配置されるイオン光学素子と、
該チャンバの外部に配置された電源から該イオン光学素子に給電するための給電線を備え、
該チャンバの上面及び下面を除く壁面の少なくとも一部には、該イオン光学素子を該チャンバ内に出し入れ可能な開口部が形成されると共に、該開口部を塞ぐ側面蓋を備え、
該給電線と該イオン光学素子とを接続するケーブルとを備え、
該給電線と該ケーブルとの接続位置及び該イオン光学素子と該ケーブルとの接続位置は、該イオン光学素子を該チャンバ内に収容した状態で、該開口部から該ケーブルの取り外しが可能な位置に設定されている質量分析装置である。
【0047】
この構成により、開口部からアクセス可能なケーブルを着脱するだけで、イオン光学素子の電気的・機械的接続を容易に接続解除できるため、真空チャンバの側面に設けた開口部から、容易に作業を行うことが可能となる。
【0048】
(第2項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該給電線は、該チャンバの壁面を貫通するコネクタと、該チャンバ内に配置される中継部材とを結ぶ別のケーブルを有する質量分析装置である。
【0049】
中継部材を用いることで、開口部からアクセスし難い場所に、給電線のコネクタ(フィードスルー部)が配置されている場合でも、中継部材をアクセス性の良い場所に配置することで、開口部から容易に電気的接続の解除などの作業を行うことが可能となる。
【0050】
(第3項)
上記第2項に記載の質量分析装置において、該中継部材は、該イオン光学素子と該開口部との間に配置されている質量分析装置である。
【0051】
この構成により、真空チャンバの側面に設けた開口部から、中継部材、特に中継部材に接続されたケーブル(イオン光学素子に繋がるケーブル)のコネクタへのアクセス性が改善する。
【0052】
(第4項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該イオン光学素子及び該給電線に対して、該ケーブルは着脱可能なコネクタで接続されている質量分析装置である。
【0053】
この構成により、イオン光学素子や中継部材からケーブルを、よりスムーズに着脱することができる。
【0054】
(第5項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該電源は、該開口部が形成された面側を除き、該チャンバの外側で該チャンバに隣接して配置されている質量分析装置である。
【0055】
上述した本発明の構成を採用することで、電源をどの位置に配置しても、開口部からケーブルを容易に着脱することが可能となる。
【0056】
(第6項)
上記第1項に記載の質量分析装置において、該給電線が該チャンバの壁面を貫通する部分は、該開口部が形成された面側を除く位置に形成されている質量分析装置である。
【0057】
上述した本発明の構成を採用することで、給電線のチャンバの壁面を貫通する部分(フィードスルー部)をどの位置に設けても、開口部からケーブルを容易に着脱することが可能となる。
【0058】
(第7項)
上記第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、該イオン光学素子は、四重極マスフィルタである質量分析装置である。
【0059】
この構成より、質量分析装置でも汚れやすく、分析性能にも影響する四重極マスタフィルタを清掃するため、質量分析装置本体から取り外し又は装着する作業を容易に実施することができる。
【0060】
(第8項)
上記第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、該質量分析装置は、液体クロマトグラフ又はガスクロマトグラフから供給される試料を分析する質量分析装置である。
【0061】
この構成により、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフと組み合わせて質量分析装置を使用する場合でも、四重極マスフィルタどのイオン光学素子を容易に清掃などのメンテナンスでき、高い分析性能を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 質量分析装置
2 カラムオーブンユニット
3,4 送液ユニット
5 インジェクションユニット
VC 真空チャンバ
VC1 側面蓋
A1 第1中間真空室
A2 第2中間真空室
A3 高真空室
IR イオン化室
IP イオン化プローブ
TU 脱溶媒管
IG1 第1イオンガイド
SK スキマー
IG2 第2イオンガイド
LE レンズ電極
MF 四重極マスフィルタ
MFP ロッド電極
RH ロッドホルダ
BA,BA1~3 固定バンド
SC,SC1~3 ネジ
ID イオン検出器
10 外装カバー
11 外装カバー(蓋)
20,30 回路ユニット
40 真空ポンプユニット
PD,PD1~3 台座部
HL 凹部
IM イオンゲージ
MF1 前段四重極マスフィルタ
CC コリジョンセル
MF2 後段四重極マスフィルタ
C イオン光軸
FT フィードスルー部
CP,CP1 コネクターピン
CN,CN1,CN11,CN21 コネクタ
PL1~PL6 プレート
CA1 第1ケーブル
CA11,CA12 第2ケーブル
T1 端子(第1ケーブルの端部)
MT,MT1,MT2,MT01,MT02 端子
CA,CA01,CA02 ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9