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7586373反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20241112BHJP
【FI】
G03F1/24
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024506294
(86)(22)【出願日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2023008186
(87)【国際公開番号】W WO2023171583
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2022035462
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡東 健
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-180544(JP,A)
【文献】特開2018-169617(JP,A)
【文献】特表2022-505688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0146325(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、パターン膜とをこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランクであって、
前記パターン膜は、屈折率がそれぞれ異なる層を合計L層有する積層構造であり(但し、Lを2以上の自然数とする)、
前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の吸収係数をkとし、前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の膜厚をd(nm)とし、前記パターン膜の合計膜厚をdとし、露光波長をλ(nm)とし、Pを1-exp(-2π/λ*d)とした場合、下記式(1)を満たす、反射型マスクブランク。
【数1】
【請求項2】
前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の反射振幅をrをとした場合、下記式(2)を満たす、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【数2】
【請求項3】
前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の屈折率nが0.950以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記パターン膜における隣接する2層の吸収係数kの差|Δk|の少なくとも一つが0.0200以上である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の屈折率をniとし、
前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の膜厚dが下記式(3)を満たす、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.50・・・式(3)
但し、式(3)において、xを0以上の整数とする。
【請求項6】
前記パターン膜の反射率が1.3%以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記パターン膜の反射率が1%以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記パターン膜の合計膜厚dが45nm以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記多層反射膜と前記パターン膜との間に保護膜をさらに備える、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜がパターニングされたパターンを有する、反射型マスク。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜をパターニングする、反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法に関し、特に、半導体製造の露光プロセスで使用されるEUV(Etreme Ultra Violet:極端紫外)露光用マスクを製造するための原板であるEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク、並びに、該EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクにおけるパターン膜にマスクパターンを形成してなる反射型マスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造で使用される露光装置の光源には、波長193~365nmの紫外光が用いられている。波長が短いほど露光装置の解像度は高くなる。そこで、次世代の露光装置の光源として、中心波長13.5nmのEUV光が有望視されている。
【0003】
EUV光は、多くの物質に対し吸収されやすいので、屈折光学系の露光装置を用いることができない。このため、EUV光では反射型マスクが用いられている。
【0004】
このような反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターニングされている。多層反射膜と吸収体膜の間には、通常、マスクパターンを形成する際のエッチングから多層反射膜を保護するための保護膜(「キャップ層」ということもある)が形成されている。さらに、マスク加工後のパターン欠陥検査を容易にするため、吸収体膜の上に低反射層が形成されることもある。
【0005】
基板としては、露光時の熱膨張によるパターン歪を抑制する目的で合成石英に少量のチタンを添加した低熱膨張ガラスが用いられ得る。多層反射膜としては、モリブデン(Mo)膜とシリコン膜を交互に40周期程度積層した膜が用いられ得る。保護膜には厚さ1~5nmのルテニウム系材料が用いられ得る。ルテニウム(Ru)系材料は酸素を含まないガスに対し非常にエッチングされにくく、マスク加工時のエッチングストッパとして機能する。吸収体膜にはタンタル系材料が用いられ得る。
【0006】
露光装置の照明光学系より反射型マスクに入射したEUV光は、吸収体膜が存在しない開口部では反射され、吸収体膜が存在する非開口部では吸収され、マスクパターンが露光装置の縮小投影光学系を通してウエハ上に転写される。反射型マスクにEUV光は通常6度傾斜した方向から入射する。吸収体膜の膜厚が厚いと、吸収体膜の影となる部分が生じ、ウエハ上に忠実にマスクパターンを転写できなくなる。この問題は、マスクパターンの線幅が小さくなるほど顕著となるため、吸収体膜の膜厚をより薄くすることが求められている。
【0007】
また、バイナリ型マスクの場合、EUV露光において高精度のパターン転写を行うためには、非開口部の反射率を2%以下に抑える必要がある。
特許文献1では、所定の条件を満たすように光学設計された表面反射増強膜を吸収体膜上に形成することで、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜の表面で反射されるEUV光の振幅を大きくして、多層反射膜で反射されるEUV光との干渉効果を利用することにより、吸収体膜の膜厚をより薄くしつつ、非開口部の反射率を2%以下に抑えることを可能としている。なお、パターン膜は、吸収体膜と表面反射増強膜とで構成されている。
また、特許文献2では、吸収体膜として、低屈折材料膜と高屈折材料膜を交互に複数周期積層した積層膜を備えた反射型マスクブランクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2018-180544号公報
【文献】日本国特開2015-8283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般的に、反射型マスクブランクにおけるパターン膜の積層構造における隣接する層間の屈折率差Δnの絶対値は小さいので、パターン膜の積層構造の界面で反射されるEUV光の振幅(振幅)は、多層反射膜からの反射光の振幅(強度)よりも格段に小さい。よって、パターン膜の積層構造の界面で反射されるEUV光を用いて多層反射膜からの反射光を打ち消すという干渉効果を利用することのみによっては、EUV光の反射率がより低減された膜厚が薄いパターン膜を実現するには限界があった。
また、特許文献2において、マスク加工のために吸収体膜である積層膜をエッチングあるいは洗浄する際、積層膜の側壁にダメージが生じる問題があった。
【0010】
本発明の目的は、パターン膜の膜厚を薄くしつつ、パターン膜の反射率を十分に低減できる、反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法を提供することである。より具体的には、45nm以下の膜厚のパターン膜で1%以下の反射率を実現できる反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、屈折率がそれぞれ異なる層を合計L層有する積層構造であるパターン膜とをこの順に備える反射型マスクブランクにおいて、パターン膜が下記式(1)を満たすことにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
【数1】
【0013】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、パターン膜とをこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランクであって、前記パターン膜は、屈折率がそれぞれ異なる層を合計L層有する積層構造であり(但し、Lを2以上の自然数とする)、前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の吸収係数をkとし、前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の膜厚をd(nm)とし、前記パターン膜の合計膜厚をdとし、露光波長をλ(nm)とし、Pを1-exp(-2π/λ*d)とした場合、下記式(1)を満たす、反射型マスクブランク。
【0014】
【数2】
【0015】
[2]前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の反射振幅をrをとした場合、下記式(2)を満たす、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
【0016】
【数3】
【0017】
[3]前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の屈折率nが0.950以下である、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[4]前記パターン膜における隣接する2層の吸収係数kの差|Δk|の少なくとも一つが0.0200以上である、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[5]前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の屈折率をnと、前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の膜厚dが下記式(3)を満たす、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.50・・・式(3)
但し、式(3)において、xを0以上の整数とする。
[6]前記パターン膜の反射率が1.3%以下である、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[7]前記パターン膜の反射率が1%以下である、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[8]前記パターン膜の合計膜厚dが45nm以下である、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[9]前記多層反射膜と前記パターン膜との間に保護膜をさらに備える、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜がパターニングされたパターンを有する、反射型マスク。
[11]上記[1]~[9]のいずれかに記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜をパターニングする、反射型マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、パターン膜の膜厚を薄くしつつ、パターン膜の反射率を十分に低減できる反射型マスクブランク並びに反射型マスク及びその製造方法を提供することができる。
本発明の反射型マスクブランクは膜構成が単純なため、マスク加工も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の反射型マスクブランクの実施形態の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:37.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:3.3nm)との2層構造である例1の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図3図3は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:44.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:3.8nm)との2層構造である例2の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図4図4は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:32.6nm)とSiN膜(膜厚d:2.6nm)とTaN膜(基板と反対側:膜厚d:4.5nm)との3層構造である例3の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図5図5は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:28.4nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.1nm)との2層構造である例4の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図6図6は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:27.3nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:13.4nm)との2層構造である例5の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図7図7は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:28.2nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.4nm)との2層構造である例6の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図8図8は、パターン膜がCr膜(基板側:膜厚d:38.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:2.8nm)との2層構造である例7の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図9図9は、パターン膜がCr膜(基板側:膜厚d:33.1nm)とSi膜(膜厚d:3.1nm)とCr膜(基板と反対側:膜厚d:3.9nm)との3層構造である例8の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
図10図10は、パターン膜がSnO膜(基板側:膜厚d:24.1nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:2.2nm)との2層構造である例9の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書における、用語の定義や意味は以下の通りである。
本明細書において、好ましいとされているものは任意に採用でき、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
また、本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
また、本願明細書において、「exp(t)」は、「e」を意味するものとする。
さらに、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせ得る。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0021】
[反射型マスクブランク]
本実施形態の反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、パターン膜とをこの順に備え、必要に応じて、保護膜等のその他の層をさらに備える。
パターン膜は、マスク加工時に部分的にエッチングされる層であり、吸収体膜を含む。当該パターン膜は、吸収体膜の他に、バッファー層、低反射層、などを含んでもよい。
本実施形態の反射型マスクブランクは、吸収体膜が存在しない開口部では多層反射膜によりEUV光を反射し、吸収体膜が存在する非開口部ではパターン膜がEUV光の反射を低減させたバイナリ型である。
【0022】
図1は、本発明の反射型マスクブランクの実施形態の一例を示す概略断面図である。図1に示す反射型マスクブランク10は、基板11上に、多層反射膜12と、保護膜13と、パターン膜15としての吸収体膜14とがこの順に形成されている。
【0023】
<基板>
基板11は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たす。そのため、基板11は、低熱膨張係数(具体的には、20℃における熱膨張係数が、好ましくは0±0.05×10-7/℃、より好ましくは0±0.03×10-7/℃である)を有し、平滑性、平坦度、及びマスクブランク又はパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れる。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO-TiO系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属等の基板も使用できる。
【0024】
基板11は、表面粗さ(rms)0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有すると、パターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率及び転写精度が得られるため好ましい。
【0025】
基板11の大きさや厚さ等はマスクの設計値等により適宜決定される。
基板11の多層反射膜12が形成される側の表面に欠点が存在しないのが好ましい。しかし、欠点が存在していても、凹状欠点及び/又は凸状欠点によって位相欠点が生じなければよい。具体的には、凹状欠点の深さ及び凸状欠点の高さが2nm以下、かつこれら凹状欠点及び凸状欠点の半値幅は60nm以下が好ましい。凹状欠点の半値幅とは、凹状欠点の深さの1/2深さ位置での幅を指す。凸状欠点の半値幅とは、凸状欠点の高さの1/2高さ位置での幅を指す。
【0026】
<多層反射膜>
多層反射膜12は、高屈折率層と低屈折率層を交互に複数回積層させることにより、EUV光を反射して、高EUV光線反射率を達成する。多層反射膜12において、高屈折率層には、Moが広く使用され、低屈折率層にはSiが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。
【0027】
多層反射膜12は、反射型マスクブランクの反射層として所望の特性を有する限り特に限定されない。ここで、多層反射膜12に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を入射角6度で多層反射膜12表面に照射した際に、EUV波長領域の光のピーク反射率(すなわち、波長13.5nm付近の光線反射率の極大値。以下、本願明細書において、「EUV光のピーク反射率」という。)は60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。また、多層反射膜12の上に保護膜13を設けた状態でも、EUV光のピーク反射率は60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
【0028】
多層反射膜12を構成する各層の膜厚及び層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料及び反射層に要求されるEUV光線反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si多層反射膜を例にとると、EUV光線反射率の最大値が60%以上の多層反射膜12とするには、例えば、多層反射膜は膜厚2.3nm±0.1nmのMo層と、膜厚4.5nm±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30~60になるように積層させればよい。
多層反射膜12の膜厚は、例えば、反射型マスクブランクの厚み方向(Z方向)に沿って切った断面に対して透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0029】
多層反射膜12表面の酸化を防止するため、多層反射膜12の最上層は酸化されにくい材料の層とするのが好ましい。酸化されにくい材料の層は多層反射膜12のキャップ層として機能する。キャップ層として機能する酸化されにくい材料の層の具体例としては、Si層がある。多層反射膜12がMo/Si多層反射膜である場合、最上層をSi層とすることにより、該最上層がキャップ層として機能する。その場合、キャップ層の膜厚は、11±2nmが好ましい。
キャップ層の膜厚は、例えば、反射型マスクブランクの厚み方向(Z方向)に沿って切った断面に対して透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0030】
<保護膜>
保護膜13は、エッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収体膜14にパターン形成する際に、多層反射膜12がエッチングプロセスによりダメージを受けないよう、多層反射膜12の保護を目的として設けられる任意の層である。したがって、保護膜13の材質としては、吸収体膜14のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収体膜14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。上記の特性を満たすため、保護膜13は、Rh及びRuの少なくともいずれかを含むこと(Ru合金、Rh合金等であること)が好ましい。
【0031】
より具体的には、上記材料として、Ru金属単体、Ruと、Si、Ti、Nb、Mo、Rh、および、Zrからなる群から選択される1種以上の金属とを含むRu合金、ならびに、Rh金属単体、Rhと、Si、Ti、Nb、Mo、Ru、Ta、および、Zrからなる群から選択される1種以上の金属とを含むRh合金、上記Rh合金とNとを含むRh含有窒化物、および、上記Rh合金とNとOとを含むRh含有酸窒化物等のRh系材料が挙げられる。
また、上記目的を達成できる材料として、Alおよびこれらの金属とNとを含む窒化物、および、Al等も例示される。
なかでも、上記目的を達成できる材料としては、Ru金属単体、Ru合金、Rh金属単体、または、Rh合金が好ましい。Ru合金としては、Ru-Si合金、Ru-Rh合金が好ましく、Rh合金としては、Rh-Si合金、Rh-Ru合金が好ましい。
【0032】
保護膜13の膜厚は、1~10nmが好ましく、1~5nmがより好ましい。
保護膜13の膜厚は、例えば、反射型マスクブランクの厚み方向(Z方向)に沿って切った断面に対して透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0033】
保護膜は、単一の層からなる膜でもよいし、複数の層からなる多層膜でもよい。保護膜が多層膜である場合、多層膜を構成する各層は、上記好ましい材料からなることが好ましい。また、保護膜が多層膜である場合、多層膜の合計膜厚が、上記好ましい範囲の保護膜の膜厚であることも好ましい。
【0034】
保護膜は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等、公知の成膜方法を用いて成膜できる。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタガスとしてArガスを使用して成膜することが好ましい。
【0035】
<吸収体膜>
バイナリ型の吸収体膜14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収体膜14表面に照射した際の、EUV光のピーク反射率は、好ましくは1.3%以下であり、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.98%以下であり、特に好ましくは0.50%以下であり、最も好ましくは0.30%以下である。
なお、吸収体膜14の反射率は、例えば、EUV反射率計により測定することができる。
上記の特性を達成するため、吸収体膜14は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料が好ましい。本願明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料と言った場合、当該材料中Taを20at%以上含有する材料を意味する。
【0036】
吸収体膜14に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、Si、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、錫(Sn)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、炭素(C)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、Mo、Ru、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、Al、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、セレン(Se)、テルル(Te)、水素(H)及び窒素(N)のうち少なくとも1成分を含むことが好ましい。Ta以外の上記の元素を含む材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaSn、TaPdN、TaSn、TaCr、TaMn、TaFe、TaCo、TaAg、TaCd、TaIn、TaSb、TaW、などが挙げられる。
【0037】
吸収体膜14の膜厚は、20~90nmが好ましい。
なお、吸収体膜14の膜厚は、例えば、反射型マスクブランクの厚み方向(Z方向)に沿って切った断面に対して透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0038】
<パターン膜>
上述の吸収体膜を含むパターン膜は、屈折率がそれぞれ異なる層を合計L(但し、Lを2以上の自然数とする)層有する積層構造である。
Lは、2以上の自然数である限り、特に制限はないが、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。すなわち、Lは、例えば2~8である。
パターン膜としては、例えば、「TaN膜(基板側)とPt膜(基板と反対側)との2層構造」、「Cr膜(基板側)とRu膜(基板と反対側)との2層構造」、「Cr膜(基板側)とSi膜とCr膜(基板と反対側)との3層構造」、「SnO膜(基板側)とRu膜(基板と反対側)との2層構造」、などが好適に挙げられる。
【0039】
本実施形態の反射型マスクブランクは、パターン膜における基板と反対側からi層目(iは自然数)の層の屈折率をnとし、パターン膜における基板と反対側からi層目の層の吸収係数をkとし、パターン膜における基板と反対側からi層目の層の膜厚をd(nm)とし、パターン膜の合計膜厚をdとし、露光波長をλ(nm)とし、Pを1-exp(-2π/λ*d)とした場合、下記式(1)を満たし、下記式(1-1)を満たすことが好ましく、下記式(1-2)を満たすことがより好ましい。
式(1)を満たすことにより、パターン膜の膜厚を薄くしつつ、パターン膜の反射率を十分に低減できる反射型マスクブランクが得られる。なお、屈折率n及び吸収係数kは、例えば波長13.5nmにおける値である。
【0040】
【数4】
【0041】
【数5】
【0042】
【数6】
【0043】
パターン膜における基板と反対側からi層目の層の反射振幅をrをとした場合、反射波の打ち消し合いを利用する観点で、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(2-1)を満たすことがより好ましく、下記式(2-2)を満たすことが特に好ましい。
なお、パターン膜における基板と反対側からL層目の層の反射振幅rは|(nL-1-n)|/(nL-1+n)で算出される。
【0044】
【数7】
【0045】
【数8】
【0046】
【数9】
【0047】
パターン膜における基板と反対側から1層目の最表層の屈折率nとしては、特に制限はないが、真空との界面で反射振幅を発生させる観点で、好ましくは0.950以下、より好ましくは0.945以下、特に好ましくは0.940以下であり、最表層と第2層目の材料との反射振幅による反射波の打ち消し合いを利用する観点で、好ましくは0.830以上、より好ましくは0.860以上、特に好ましくは0.870以上である。
【0048】
パターン膜における基板と反対側から1層目の最表層の屈折率n及び膜厚dが、下記式(3)を満たすことが好ましく、下記式(3-1)を満たすことがより好ましく、記式(3-2)を満たすことが特に好ましい。
|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.50・・・式(3)
0.10<|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.30・・・式(3-1)
0.20<|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.10・・・式(3-2)
但し、式(3)、式(3-1)及び式(3-2)において、xは0以上の整数とする。
【0049】
パターン膜における隣接する2層の吸収係数kの差|Δk|としては、特に制限はないが、差|Δk|の少なくとも一つが、反射波の打ち消し合いを利用する観点で、好ましくは0.0200以上、より好ましくは0.0210以上、特に好ましくは0.0220以上である。一方、差|Δk|の上限値に関して特に制限はないが、好ましくは0.0700以下、より好ましくは0.0600以下、特に好ましくは0.0550以下である。
【0050】
パターン膜の反射率としては、十分に低減されている限り、特に制限はないが、好ましくは1.3%以下であり、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.98%以下であり、特に好ましくは0.50%以下であり、最も好ましくは0.30%以下である。
なお、パターン膜の反射率は、EUV反射率計により測定することができ、また、光学多層膜シミュレーションを実施することができる。
【0051】
パターン膜の合計膜厚dとしては、十分に低減されている限り、特に制限はないが、好ましくは45nm以下であり、より好ましくは43nm以下であり、さらに好ましくは42nm以下であり、特に好ましくは41nm以下である。
パターン膜の合計膜厚は、例えば、反射型マスクブランクの厚み方向(Z方向)に沿って切った断面に対して透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0052】
<バッファー層>
また、本発明の反射型マスクブランクでは、保護膜13と吸収体膜14との間にバッファー層が形成されていてもよい。
バッファー層とは、ドライエッチング並びに欠陥修正を行った時に多層反射膜を保護する層である。
バッファー層の材料としては、特に制限はなく、例えば、SiO、CrN、などが挙げられる。
【0053】
<低反射層>
さらに、本実施形態の反射型マスクブランクでは、吸収体膜14上に低反射層が形成されていてもよい。
低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。反射型マスクを作製する際、吸収体膜にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常193nm、257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この193nm、257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収体膜がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収体膜表面との反射率の差によって検査される。ここで、前者は保護膜表面である。したがって、検査光の波長に対する保護膜表面と、吸収体膜表面と、の反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査ができないことになる。検査光の波長に対する保護膜表面と、吸収体膜表面と、の反射率の差が小さい場合は、低反射層の形成により、検査時のコントラストが良好となる。
低反射層の材料としては、特に制限はなく、例えば、酸窒化タンタル、などが挙げられる。低反射層はパターン膜における基板と反対側から1層目の最表層に相当するため、式(3)を満たすことが好ましい。
【0054】
[反射型マスク]
本実施形態の反射型マスクは、本発明の反射型マスクブランクにおけるパターン膜がパターニングされたパターンを有する。即ち、本実施形態の反射型マスクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、パターン膜がパターニングされたパターンとをこの順に備え、必要に応じて、保護膜等のその他の層をさらに備える。
パターン以外の層(基板、多層反射膜、保護膜等のその他の層)については、反射型マスクブランクで説明した通りである。
パターンについては、後述の「反射型マスクの製造方法」にて説明する。
【0055】
[反射型マスクの製造方法]
本実施形態の反射型マスクの製造方法において、本実施形態の反射型マスクブランクにおけるパターン膜をパターニングする。即ち、上述の本実施形態の反射型マスクブランクを使用して、本実施形態の反射型マスクを作製することができる。EUVリソグラフィ用反射型マスクの製造には、高精細のパターニングを行うことができるフォトリソグラフィー法が最も好適である。
【0056】
本実施形態では、フォトリソグラフィー法を利用した反射型マスクの製造方法について、図1に示す反射型マスクブランク10を用いる場合を例に説明する。
【0057】
まず、図1に示した反射型マスクブランク10の最表面(パターン膜15の最上層である吸収体膜14)の上に、レジスト膜(図示せず)を形成する。レジスト膜の膜厚は、例えば、100nmとすることができる。次に、このレジスト膜に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像・リンスすることによって所定のレジストパターン(図示せず)を形成する。
【0058】
次に、パターン膜15(吸収体膜14)に対し、レジストパターン(図示せず)をマスクとして、SF等のフッ素系ガスを含むエッチングガスによるドライエッチングを実施することにより、パターン(図示せず)を形成する。パターン形成後にレジストパターン(図示せず)は除去される。
【0059】
ここで、パターン膜15(吸収体膜14)のエッチングレートは、パターン膜15(吸収体膜14)を形成する材料、及びエッチングガス等の条件に依存する。パターン膜15(吸収体膜14)は異なる材料の多層膜からなるので、異なる各材料の層ごとにエッチングレートやエッチングガス等の条件が変化することもある。
【0060】
上記によって、パターンが形成される。多層膜からなるパターン膜15(吸収体膜14)を、一種類のエッチングガスによるドライエッチングにより、連続的にエッチングすることができる場合には、工程簡略化の効果を得られる。次に、酸性又はアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行い、高い反射率を達成したEUVリソグラフィ用反射型マスクが得られる。
【0061】
なお、エッチングガスとしては、SFの他、CHF、CF、C、C、C、C、CH、CHF、C、及びF等のフッ素系ガス、並びにこれらのフッ素ガス及びOを所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。多層膜からなるパターン膜15(吸収体膜14)のエッチングの際には、加工に有用なガスであれば、他のガスを用いてもよい。他のガスとして、例えば、Cl、SiCl、CHCl、CCl、BCl等の塩素系のガス及びこれらの混合ガス、塩素系ガス及びHeを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガス及びArを所定の割合で含む混合ガス、フッ素ガス、塩素ガス、臭素ガス及び沃素ガスから選択される少なくとも一つを含むハロゲンガス、並びにハロゲン化水素ガスからなる群から選択される少なくとも一種類又はそれ以上が挙げられる。更に、これらのガスと、酸素ガスとを含む混合ガス等が挙げられる。
【0062】
以上説明したように、本明細書には以下の構成が開示されている。
<1>基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、パターン膜とをこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランクであって、前記パターン膜は、屈折率がそれぞれ異なる層を合計L層有する積層構造であり(但し、Lを2以上の自然数とする)、前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の吸収係数をkとし、前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の膜厚をd(nm)とし、前記パターン膜の合計膜厚をdとし、露光波長をλ(nm)とし、Pを1-exp(-2π/λ*d)とした場合、下記式(1)を満たす、反射型マスクブランク。
【0063】
【数10】
【0064】
<2>前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の反射振幅をrをとした場合、下記式(2)を満たす、上記[1]に記載の反射型マスクブランク。
【0065】
【数11】
【0066】
<3>前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の屈折率nが0.950以下である、上記<1>又は<2>に記載の反射型マスクブランク。
<4>前記パターン膜における隣接する2層の吸収係数kの差|Δk|の少なくとも一つが0.0200以上である、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
<5>前記パターン膜における前記基板と反対側からi層目の層の屈折率をnとし、前記パターン膜における前記基板と反対側から1層目の最表層の膜厚dが下記式(3)を満たす、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
|(λ/4n+λ/2n*x)-d|<2.50・・・式(3)
但し、式(3)において、xを0以上の整数とする。
<6>前記パターン膜の反射率が1.3%以下である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
<7>前記パターン膜の反射率が1%以下である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
<8>前記パターン膜の合計膜厚dが45nm以下である、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
<9>前記多層反射膜と前記パターン膜との間に保護膜をさらに備える、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランク。
<10>上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜がパターニングされたパターンを有する、反射型マスク。
<11>上記<1>~<9>のいずれか1つに記載の反射型マスクブランクにおける前記パターン膜をパターニングする、反射型マスクの製造方法。
【実施例
【0067】
以下、例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は下記例により限定されるものではない。
例1~3が比較例であり、例4~9が実施例である。
【0068】
(例1)
例1の反射型マスクブランクは、基板と、基板上に形成された多層反射膜と、多層反射膜上に形成された保護膜と、保護膜上に形成されたパターン膜としての吸収体膜とを備える。
SiO-TiO系のガラス基板(膜厚:6.3mm)を基板として選定し、シリコン膜(膜厚:4.5nm)及びモリブデン膜(膜厚:2.3nm)を交互に繰り返し単位数が40となるように積層した積層構造(膜厚:272nm)を多層反射膜として選定し、ルテニウム(Ru)膜(膜厚:2.5nm)を保護膜として選定し、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定した。なお、吸収体膜の基板側が窒化タンタル(TaN)膜であり、吸収体膜の基板と反対側がルテニウム(Ru)膜である。なお、ルテニウム膜の屈折率n及び吸収係数kとして波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.886、0.017)を用い、窒化タンタル(TaN)膜の屈折率n及び吸収係数kとして波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.947、0.031)を用いた。
その結果、式(1)の左辺=0.0109、式(2)の左辺=0.094、式(3)の左辺=0.52(但しx=0)であった(表1)。
図2は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:37.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:3.3nm)との2層構造である例1の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は2.62%であった(表1)。図2は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0069】
(例2)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:44.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.8nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:47.8nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。
その結果、式(1)の左辺=0.0104、式(2)の左辺=0.094、式(3)の左辺=0.02(但しx=0)であった(表1)。
図3は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:44.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:3.8nm)との2層構造である例2の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は1.36%であった(表1)。図3は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0070】
(例3)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、TaN膜(基板側:膜厚d:32.6nm)とSiN膜(膜厚d:2.6nm)とTaN膜(基板と反対側:膜厚d:4.5nm)との積層構造(L=3)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:39.7nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。なお、SiN膜の屈折率n及び吸収係数kとして、波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.973、0.009)を用いた。
その結果、式(1)の左辺=0.0113、式(2)の左辺=0.054、式(3)の左辺=0.93(但しx=0)であった(表1)。
図4は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:32.6nm)とSiN膜(膜厚d:2.6nm)とTaN膜(基板と反対側:膜厚d:4.5nm)との3層構造である例3の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は4.01%であった(表1)。図4は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0071】
(例4)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、TaN膜(基板側:膜厚d:28.4nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.1nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.5nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。なお、Pt膜の屈折率n及び吸収係数kとして、波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.891、0.060)を用いた。
その結果、式(1)の左辺=0.0153、式(2)の左辺=0.088、式(3)の左辺=0.71(但しx=1)であった(表1)。
図5は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:28.4nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.1nm)との2層構造である例4の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.84%であった(表1)。図5は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0072】
(例5)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、TaN膜(基板側:膜厚d:27.3nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:13.4nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.7nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。
その結果、式(1)の左辺=0.0156、式(2)の左辺=0.088、式(3)の左辺=2.01(但しx=1)であった(表1)。
図6は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:27.3nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:13.4nm)との2層構造である例5の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.94%であった(表1)。図6は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0073】
(例6)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、TaN膜(基板側:膜厚d:28.2nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.4nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.6nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。
その結果、式(1)の左辺=0.0154、式(2)の左辺=0.088、式(3)の左辺=1.01(但しx=1)であった(表1)。
図7は、パターン膜がTaN膜(基板側:膜厚d:28.2nm)とPt膜(基板と反対側:膜厚d:12.4nm)との2層構造である例6の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.85%であった(表1)。図7は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0074】
(例7)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、Cr膜(基板側:膜厚d:38.0nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:2.8nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.8nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。なお、Cr膜の屈折率n及び吸収係数kとして、波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.932、0.039)を用いた。
その結果、式(1)の左辺=0.0127、式(2)の左辺=0.086、式(3)の左辺=1.02(但しx=0)であった(表1)。
図8は、パターン膜がCr膜(基板側:膜厚d:38nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:2.8nm)との2層構造である例7の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.95%であった(表1)。図8は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0075】
(例8)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37.0nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、Cr膜(基板側:膜厚d:33.1nm)とSi膜(膜厚d:3.1nm)とCr膜(基板と反対側:膜厚d:3.9nm)との積層構造(L=3)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.1nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。Si膜の屈折率n及び吸収係数kとして、波長13.5nmにおける数値、(n,k)=(0.999、0.002)を用いた。
その結果、式(1)の左辺=0.0130、式(2)の左辺=0.105、式(3)の左辺=0.27(但しx=0)であった(表1)。
図9は、パターン膜がCr膜(基板側:膜厚d:33.1nm)とSi膜(膜厚d:3.1nm)とCr膜(基板と反対側:膜厚d:3.9nm)との3層構造である例8の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.82%であった(表1)。図9は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0076】
(例9)
例1において、窒化タンタル(TaN)膜(膜厚d:37nm)とルテニウム(Ru)膜(膜厚d:3.3nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:40.3nm)として選定する代わりに、SnO膜(基板側:膜厚d:24.1nm)とRu膜(膜厚d:2.2nm)との積層構造(L=2)をパターン膜(吸収体膜)(パターン膜の膜厚d:26.3nm)として選定したこと以外は、例1と同様とした。
その結果、式(1)の左辺=0.0213、式(2)の左辺=0.082、式(3)の左辺=1.62(但しx=0)であった(表1)。
図10は、パターン膜がSnO膜(基板側:膜厚d:24.1nm)とRu膜(基板と反対側:膜厚d:2.8nm)との2層構造である例9の反射型マスクブランクについて、露光波長λと反射率Rとの関係を示したグラフである。パターン膜の波長13.5nmにおける反射率は0.29%であった(表1)。図10は、光学多層膜シミュレーションを実施することにより得た。
【0077】
【表1】
【0078】
表1により、式(1)を満たす反射型マスクブランク(例4~例9)は、パターン膜の膜厚を薄くしつつ、パターン膜の反射率を十分に低減でき(反射率:0.29~0.95%)、一方、式(1)を満たさない反射型マスクブランク(例1~例3)は、パターン膜の反射率を十分に低減できていない(反射率:1.36~4.01%)ことが判る。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2022年3月8日出願の日本特許出願(特願2022-035462)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0080】
10 反射型マスクブランク
11 基板
12 多層反射膜
13 保護膜
14 吸収体膜
15 パターン膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10