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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】油性食品
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/48 20060101AFI20241112BHJP
   A23G 1/44 20060101ALI20241112BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20241112BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A23G1/48
A23G1/44
A23J3/14
A23J3/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024519512
(86)(22)【出願日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2023041179
(87)【国際公開番号】W WO2024111492
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022186149
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】入澤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】武田 伸介
(72)【発明者】
【氏名】城谷 直紀
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-154756(JP,A)
【文献】特表2019-525773(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147754(WO,A1)
【文献】特開2002-209521(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00~1/56
A23J 3/14
A23C 11/00~11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%含有し、
蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%である、油性食品。
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【請求項2】
該植物性蛋白質素材が、豆類由来蛋白質素材である、請求項1に記載の油性食品。
【請求項3】
該植物性蛋白質素材の灰分含有量が、3~7重量%である、請求項1又は2に記載の油性食品。
【請求項4】
乳原料が1重量%未満である請求項1又は2に記載の油性食品。
【請求項5】
乳原料が1重量%未満である請求項3に記載の油性食品。
【請求項6】
下記A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%配合し、
蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%となるように調製する、油性食品の製造方法。
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【請求項7】
以下A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いることで、油性食品に乳風味を付与する方法。
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【請求項8】
以下A、B、C、D及びEの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品の食感改善方法。
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【請求項9】
以下A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品に水分が混入した場合の粘度上昇抑制方法。
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳や生クリーム、脱脂粉乳などの乳原料は、特有の乳風味と微かな甘さを有しており、嗜好されている。そのため、乳製品をはじめ、洋菓子、パン、デザートなどに利用されたり、調理用の風味付け、コクや濃厚感の付与などの用途に利用されたりと、幅広く利用されている。
一方で、動物性食品を含まない食生活への嗜好の高まり、乳アレルギーへの懸念、乳原料の価格高騰、環境問題への関心の高まりといった背景から、動物性である乳原料の代替となりうる植物性原料の開発も行われてきた。
飲料や乳製品などは、大豆などの菽穀類を用いた代替物が開示されている(特許文献1、特許文献2)。
乳製品を食生活の嗜好として食さない人や乳アレルギーのために食せない人の他に、乳糖不耐症患者が乳製品を含む食品の摂取を制限される場合がある。彼らは、乳糖を体内で消化しきれず、乳糖を含む乳製品を用いた食品を避ける必要が生じる場合がある。
このように乳製品を意図的に摂取しない人や、経済的あるいは社会的事情により、乳原料を植物性原料で代替する取組が増えている。
【0003】
チョコレートのうちミルクチョコレートについても、同様に植物性原料を用いた乳不使用チョコレートの開発が求められる。
特許文献3では、チョコレートの蛋白質を強化する目的で大豆蛋白質素材を用いる技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-013395号公報
【文献】特開昭57-033547号公報
【文献】国際公開第2015/156007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは背景技術から特許文献1及び2にあるように大豆等の菽穀類を用いて、風味剤の検討を行った。しかし、それらを用いて油性食品などを調製した際、特に乳代替物として食品に多く含有する場合に、唾液などの水分と接することにより、特有のねとつきや口中への張りつきが感じられ、口溶けが悪化する場合がある。
また、検討において乳原料を植物性原料に置き換えた時に、乳原料に由来する特有のコクや濃厚感が減少したり、素材そのものの風味が感じられ、乳原料らしい風味が感じられなかったりすることがあった。
特許文献3のように蛋白質強化を目的として大豆蛋白質などの植物性蛋白質素材を用いることはあったが、製菓用に用いる場合は、栄養を強化する食品よりも繊細な風味を求められる傾向にあり、乳原料を使用せずに良好な風味を実現することは困難であった。
【0006】
従って、本発明は乳原料を植物性原料に置き換えた場合であっても、ねとつきや口中への張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の植物性蛋白質素材を含有させ、油性食品中の灰分含有量を調整することで、ねとつきや口中への張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品が提供できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)下記A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%含有し、蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%である、油性食品、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa、
(2)該植物性蛋白質素材が、豆類由来蛋白質素材である、(1)に記載の油性食品、
(3)該植物性蛋白質素材がA、Bに加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす、(1)に記載の油性食品、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上、
(4)該植物性蛋白質素材の灰分含有量が、3~7重量%である、(3)に記載の油性食品、
(5)乳原料が1重量%未満である(1)又は(3)に記載の油性食品、
(6)下記A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%配合し、蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%となるように調製する、油性食品の製造方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa、
(7)配合する植物性蛋白質素材がA、Bの要件に加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす、(6)に記載の油性食品の製造方法、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上、
(8)以下A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いることで、油性食品に乳風味を付与する方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上、
(9)以下A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品の食感改善方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上、
(10)以下A~Eの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品に水分が混入した場合の粘度上昇抑制方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上、
である。
換言すると、本発明は、
(21)下記A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%含有し、
蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%である、油性食品、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
(22)該植物性蛋白質素材が、豆類由来蛋白質素材である、(21)に記載の油性食品、
(23)該植物性蛋白質素材がA及びBに加えて下記C及びDの要件をすべて満たす、(21)又は(22)に記載の油性食品、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
(24)該植物性蛋白質素材がA~Dに加えて下記Eの要件をすべて満たす、(21)又は(22)に記載の油性食品、
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
(25)該植物性蛋白質素材の灰分含有量が、3~7重量%である、(24)に記載の油性食品、
(26)乳原料が1重量%未満である(21)に記載の油性食品、
(27)乳原料が1重量%未満である(23)に記載の油性食品、
(28)乳原料が1重量%未満である(24)に記載の油性食品、
(29)下記A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を3~25重量%配合し、
蛋白質含有量が3~15重量%、灰分含有量が0.7~2重量%となるように調製する、油性食品の製造方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
(30)配合する植物性蛋白質素材がA、Bの要件に加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす、(29)に記載の油性食品の製造方法、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
(31)以下A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を用いることで、油性食品に乳風味を付与する方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
(32)(31)に記載の方法であって、A、Bの要件に加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いることで、油性食品に乳風味を付与する方法、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
(33)以下A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品の食感改善方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
(34)(33)に記載の方法であって、A、Bの要件に加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品の食感改善方法、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
(35)以下A及びBの要件を満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品に水分が混入した場合の粘度上昇抑制方法、
A:NSIが85を超える
B:ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDa
(36)(35)に記載の方法であって、A、Bの要件に加えて下記C、D及びEの要件をすべて満たす植物性蛋白質素材を用いる、油性食品に水分が混入した場合の粘度上昇抑制方法、
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上
D:5重量%水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
ということもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、乳原料を植物性原料に置き換えた場合であっても、口中でのねとつきや張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品を提供することができる。特に、乳原料を使用せずともミルクチョコレート様の風味など乳原料を用いたような風味を感じる油性食品を提供することができる。
また、本発明の油性食品は、保水力を植物性蛋白質素材のNSI等で調整することで、ねとつきや口中への張りつきを少なくすることができる。NSI等を調整することによって、加水した場合に植物性蛋白質が膨潤して体積が増加するのでなく、溶解するため、油性食品に水が混入した場合の粘度上昇が抑制される効果も得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のある態様では、含有する乳原料を植物性原料に置き換えた油性食品を提供することができる。また、ある態様では、乳原料を使用せずに、乳原料らしいコクや濃厚感を感じられる油性食品を提供することができる。
【0011】
○植物性蛋白質素材
本発明における植物性蛋白質素材は、植物由来の蛋白質に富む粉末状の素材であり、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、ササゲ等の豆類やキャノーラ種子、小麦、米、麻、クルミ等に由来する蛋白質が挙げられ、本発明の植物性蛋白質素材に必要な要件を満たす限り、その起源は特に限定されない。植物性蛋白質素材の種類としてはある態様では、植物性蛋白質素材の種類は、大豆、エンドウ及び緑豆から選択される1種以上の豆類由来の蛋白質素材を選択できる。またある態様では、植物性蛋白質素材の種類は、流通量が豊富で原料の確保がしやすい大豆に由来する蛋白質素材を選択できる。
【0012】
典型的な例として、植物性蛋白質素材の由来が大豆である場合、大豆原料として脱脂大豆フレークを用い、これを適量の水中に分散させて水抽出を行い、繊維質を主体とする不溶性画分を除去して得られる抽出大豆蛋白(脱脂豆乳)が、大豆蛋白質素材に包含される。また、該抽出大豆蛋白を塩酸等の酸によりpH4.5前後に調整し、蛋白質を等電点沈澱させて酸可溶性画分(ホエー)を除去し、酸不溶性画分(カード)を再度適量の水に分散させてカードスラリーを得、水酸化ナトリウム等のアルカリにより中和して中和スラリーを得、該中和スラリーから得られる分離大豆蛋白も、大豆蛋白質素材に包含される。
これらの抽出大豆蛋白や分離大豆蛋白は、溶液の状態において高温加熱処理装置によって加熱殺菌され、スプレードライヤー等により噴霧乾燥され、大豆蛋白質素材として最終的に製品化される。
ただし、上記の製造法に限定されるものではなく、大豆蛋白質の純度が大豆原料から高められる方法であればよい。また脱脂大豆からエタノールや酸によりホエーを除去して得られる濃縮大豆蛋白も大豆蛋白質素材に含まれる。これらのうち、分離大豆蛋白は、蛋白質含有量が通常固形分中90重量%程度と高い点において、抽出大豆蛋白よりもよく利用されている。
適当な植物性蛋白質素材を用いることで、ねとつきや口中への張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品を提供することができる。
【0013】
本発明の油性食品は、植物性蛋白質素材の油性食品中の含有量は、3~25重量%である。その他風味に応じて当業者によって任意に設定されうるが、具体的な態様では例えば3~20重量%、4~18重量%、4~15重量%、5~12重量%、6~10重量%である。
油性食品中に該植物性蛋白質素材を適当な量含む事で、ねとつきや口中への張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品を提供することができる。
【0014】
○要件A:NSI
本発明の植物性蛋白質素材は、NSIが85を超える。NSI(Nitrogen soluble index)は、窒素溶解度指数のことである。すなわち、所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(重量%)で表したものであり、85を超えるものであり、好ましくは88以上、より好ましくは90以上、さらに好ましくは93以上、95以上を選択することができる。本発明においては以下の方法に基づいて測定された値とする。
植物性蛋白質素材のNSIを適当に調整することで、ねとつきや口中への張りつきが少ない油性食品を提供することができる。
【0015】
○NSIの測定法
試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1,400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1,400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
【0016】
○要件B:重量平均分子量
本発明の植物性蛋白質素材は、ゲルろ過による分子量分布測定において、重量平均分子量が3kDa~300kDaである。
重量平均分子量は、下限は、好ましくは5kDa以上であり、より好ましくは6kDa以上であり、さらに好ましくは7kDa以上、8kDa以上、9kDa以上、10kDa以上、30kDa以上、50kDa以上、80kDa以上、100kDa以上も選択することができる。また、上限は好ましくは250kDa以下であり、より好ましくは230kDa以下であり、さらに好ましくは、210kDa以下、200kDa以下、180kDa以下、160kDa以下も選択することができる。
具体的な好ましい態様として、例えば、5kDa~300kDa、10kDa~300kDa、50kDa~300kDa、100kDa~300kDa、3kDa~250kDa、5kDa~250kDa、10kDa~250kDa、50kDa~250kDa、100kDa~250kDa、3kDa~200kDa、5kDa~200kDa、10kDa~200kDa、50kDa~200kDa、100kDa~200kDa、3kDa~180kDa、5kDa~180kDa、10kDa~180kDa、50kDa~180kDa、100kDa~180kDa、3kDa~160kDa、5kDa~160kDa、10kDa~160kDa、50kDa~160kDa、100kDa~160kDa等を選択することができる。
植物性蛋白質素材の重量平均分子量を適当に調整することで、ねとつきや口中への張りつきが少ない油性食品を提供することができる。
本発明においては、重量平均分子量は以下の測定条件に基づいて測定された値とする。
【0017】
〇重量平均分子量の測定条件
溶離液で蛋白質素材を0.1重量%濃度に調整し、0.2μmフィルターでろ過したものを試料液とする。2種のカラム直列接続によってゲルろ過システムを組み、はじめに分子量マーカーとなる既知のタンパク質等(表1)をチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。次に試料液をチャージし、各分子量画分の含有量比率%を全体の吸光度のチャート面積に対する、特定の分子量範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(1stカラム:「TSK gel G3000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、2ndカラム:「TSK gel G2000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、溶離液:1%SDS+1.17%NaCl+50mMリン酸バッファー(pH7.0)、23℃、流速:0.4ml/分、検出:UV220nm)。
【0018】
(表1)
分子量マーカー
【0019】
○油性食品
本発明において油性食品とは、油脂が連続相をなす食品であり、チョコレート類、バタークリーム、スプレッド類のことをいう。本発明においてチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会が規定するところの、「純チョコレート」「チョコレート」「準チョコレート」から、カカオバター以外の油脂とカカオ固形分以外の可食物よりなる「チョコレート様食品」、その他、例えば野菜粉末や果汁粉末を用いた抹茶風味やイチゴ風味といった、油脂をベースとして可食物を分散させた食品を総称するものであってもよい。
【0020】
油性食品及びチョコレート類に使用することができる油脂類としては、カカオ脂の他にハイエルシン菜種油、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂、カカオバター代用脂、ババス油、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の各種の動植物油脂及びそれらの硬化油、分別油、エステル交換油等が例示できる。
【0021】
本発明の油性食品は、蛋白質含有量が3~15重量%である。一般的な食品は食品表示法で「高たんぱく質」と標榜する場合に、蛋白質を100gあたり16.2g含有する必要がある。本発明の油性食品は、そのような「高たんぱく質」の食品とは異なる食品であって、嗜好品としてより繊細な風味を求められる。本発明の植物性蛋白質素材を含有する油性食品は、乳原料を用いたような自然な甘さと余韻を感じることができる。油性食品の蛋白質含有量は、好ましくは、4~14重量%、より好ましくは5~13重量%である。
【0022】
本発明の油性食品は、灰分含有量が0.7~2重量%である。好ましくは0.7~1.8重量%であり、より好ましくは0.7~1.6重量%であり、さらに好ましくは0.8~1.5重量%、0.8~1.4重量%が選択できる。適切な灰分含有量に調整することで、油性食品として乳原料を使用せずにコクを付与することができる。
なお、灰分含有量の測定方法としては、直接灰化法を用いることができる。
【0023】
本発明の植物性蛋白質素材の好ましい態様としては、先に示した要件A及びBの他、以下の要件C、D及びEを満たす。
C:蛋白質含有量が固形分換算で60重量%以上。
D:5重量%の水溶液のpHが7.0~8.0
E:灰分中のナトリウム重量比が0.3以上
【0024】
○要件C:蛋白質含有量
本発明の植物性蛋白質素材の蛋白質含有量は好ましくは、60重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上、85重量%以上、88重量%以上を選択することができる。
植物性蛋白質素材の蛋白質含有量を適当に調整することで、ねとつきや口中への張りつきが少ない油性食品を提供することができる。
なお、蛋白質含有量は、試料中の全窒素量をケルダール法により求めて係数6.25を乗じ、試料に対する百分率として測定し固形分換算で表したものである。
【0025】
○要件D:水溶液のpH
本発明の植物性蛋白質素材は、好ましくは、要件Dとして5重量%の水溶液のpHについて7.0~8.0の性質を有するものとすることができる。pHは、より好ましくは7.1~7.9、さらに好ましくは7.2~7.8である。
植物性蛋白質素材の5重量%水溶液のpHを適当に調整することで、ねとつきや口中への張りつきが少ない油性食品を提供することができる。
pHは室温で測定される値であって、pH測定装置を用いて測定できる。一例を挙げると、東亜ディーケーケー株式会社製のポータブルpH計HM-30P型を用いて、イオン交換水によって調製した5重量%の水溶液を測定することができる。
【0026】
○要件E:灰分中のナトリウム
本発明の植物性蛋白質素材は、好ましくは灰分中のナトリウム量が一定範囲の場合に、油性食品に良好なコクが付与することができる。本発明に用いられる植物性蛋白質素材に含まれる灰分の主な成分は、具体的には、ナトリウム、リン、カルシウム、カリウム、マグネシウムであるが、その中でもナトリウム量を調整することが、油性食品に良好なコクを付与するためには好ましい。好ましい態様として一例をあげれば、灰分中のナトリウム重量比が、0.3以上、より好ましくは0.31以上、0.32以上である。また、灰分中のナトリウム重量比の上限は好ましくは0.6以下、より好ましくは0.55以下、0.5以下である。
【0027】
植物性蛋白質素材に含まれる灰分含有量としては3~7重量%が好ましく、より好ましくは4~6.8重量%、さらに好ましくは4.5~6.7重量%、4.6~6.6重量%、4.8~6.5重量%である。植物性蛋白質素材に含まれる灰分によって、油性食品にコクが付与される。灰分含有量が多すぎると塩味やえぐみを感じるものとなり、適さない場合がある。
【0028】
本発明の油性食品に添加される上記要件A及びBを満たす植物性蛋白質素材あるいは、好ましい態様としてA~Eを全て満たす植物性蛋白質素材は、植物性蛋白質素材の製造メーカー、例えば不二製油株式会社等から購入する、又は製造メーカーに製造を依頼することによって、容易に入手することができる。
ちなみに、不二製油株式会社では上記A及びBの特性を備える、あるいはA~Eの全特性を備える新たな植物性蛋白質素材として、「プロリーナND」シリーズを試験製造できている。したがって、当業者はこれを指定すれば容易に当該製品又は試験サンプルを入手することができる。なお、従来の市販の大豆蛋白質素材である「フジプロF」、「フジプロE」、「フジプロCL」、「フジプロAL」、「プロリーナ700」、「プロリーナHD101R」、「プロリーナRD-1」、大豆ペプチド「ハイニュート」などは、何れも上記A~Eの全特性を満たす植物性蛋白質素材に該当しない。したがって、これらを用いたとしても本発明の油性食品を製造することはできない。大豆ペプチド「ハイニュート」のような重量平均分子量3kDa未満のものを添加した油性食品は、苦みが強く感じられ、風味不良となる場合がある。
【0029】
○植物性蛋白質素材の製造
以下に、本発明の要件A及びBを満たす、あるいは要件A~Eをすべて満たす植物性蛋白質素材を製造するための参考態様として大豆を例に以下に示す。ただし、本発明の技術的思想は上述した要件A~Eを満たす植物性蛋白質素材を油性食品に適用することを好ましい態様とするものであるから、植物性蛋白質素材の製法が特定の植物の種類や特定の製造態様に限定されないことは当然である。
大豆蛋白質素材を製造するには、下記のように従来の分離大豆蛋白を製造する工程をベースとすることができる。ただし、蛋白質を濃縮する方法は、一般的な酸沈殿による方法を採用できるし、膜ろ過による濃縮法や濃縮大豆蛋白から水抽出する方法なども採用できる。
蛋白質を抽出するための大豆原料としては、脱脂大豆を使用するのが一般的だが、全脂大豆や部分脱脂大豆も使用できる。全脂大豆や部分脱脂大豆を使用した場合には、抽出工程後に高速遠心分離を行って上層に分離した油分を除去し、低油分化できる。
次に大豆原料と水とを混合し、スラリー状態に分散させ、必要により撹拌しつつ蛋白質を抽出する。
次に、該スラリーから不溶性食物繊維(オカラ)を遠心分離機やろ過等の分離手段により除去し、抽出大豆蛋白溶液(豆乳)を得る。
次に、該抽出大豆蛋白溶液からオリゴ糖や酸可溶性蛋白質などの酸可溶性画分(ホエー)を除去し、大豆蛋白質の濃縮液を得る。典型的な手段としては酸沈殿法を用いることができ、該抽出大豆蛋白溶液のpHを塩酸やクエン酸等の酸により4~5の等電点付近に調整し、蛋白質を不溶化させ、沈殿させる。次に遠心分離やろ過等の分離手段により酸可溶性画分を除去し、酸不溶性画分である「カード」を回収して再度適量の水に分散させてカードスラリーを得る。なお、酸沈殿法以外の大豆蛋白質の濃縮手段としては、限外濾過等が挙げられる。
そして、得られたカードスラリーを最終的にpH7付近に調整した中和スラリーを得る。次に、該中和スラリーをプロテアーゼ等の蛋白質加水分解酵素で反応させ、所望の加水分解度となるような反応条件(温度、時間)で酵素分解を行う。次いで、高温加熱処理によって加熱殺菌を行った後、スプレードライヤー等で乾燥し、大豆蛋白質素材を得る。該植物性蛋白質素材は、その水溶液がおおよそpH6.5~8.0のpHを有する。スプレードライヤーによる乾燥の方法としては、ディスク型のアトマイザー方式や1流体、2流体ノズルによるスプレー乾燥の何れも利用できる。
【0030】
ここで、本発明の要件を全て満たす前記大豆蛋白質素材を得るために、下記の付加工程を採用してよい。すなわち第一に、少なくとも1回の加熱処理を行い、最終的に2回以上の加熱処理を行って製品化される。この2回以上の加熱処理は、何れも直接蒸気吹込み式高温瞬間加熱処理が好ましい。該加熱処理は、高温高圧の水蒸気を直接大豆蛋白溶液に吹き込み、加熱保持した後、真空フラッシュパン内において急激に圧力開放させるUHT殺菌の方式である。この加熱処理条件は、100~170℃、好ましくは110~165℃の範囲で、加熱時間は0.5秒~5分間、好ましくは1秒~60秒間が適当である。この際、加熱処理の対象となる大豆蛋白質を含む溶液又はスラリーは製造工程の各段階で調整されるpHに応じて3~12の範囲において加熱処理されるが、該加熱処理方式が採用される市販の加熱殺菌装置を用いることができ、VTIS殺菌装置(アルファラバル社製)やジェットクッカー装置等を用いることができる。
【0031】
本発明の油性食品は、通常チョコレート類を製造する方法に準じて製造すれば良い。例えば、カカオ原料(カカオマス、ココア、カカオバター)、植物性蛋白質素材、油脂類、必要により糖類、デキストリン類、粉乳類、食物繊維、果汁粉末、果実粉末、呈味材、乳化剤、香料、着色料等の副原料を任意の割合で配合した原料配合物を、常法によりロールリファイナーによる微粒化及びコンチング操作やミキシング操作を行うことで調製することができる。その他粉砕、混合工程を有する製法であれば限定はされないが、例えばボールミルを用いた粉砕及び混合工程による製造方法でも調製することができる。
【0032】
甘味料としては、公知の何れのものでも使用可能であるが、例えば、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化糖、水飴、トレハロース、マルチトール、ソルビトールなどの糖類やアスパルテーム、ステビア、グリチルリチン、ソーマチンなどから選ばれた1種または2種以上が適当である。
【0033】
本発明の油性食品は、必要に応じてデキストリン類を使用することができる。デキストリン類とは、例えば澱粉分解物、粉飴、マルトデキストリン、デキストリンといった澱粉を加水分解することで得られる原料のことをいう。本発明で使用するデキストリン類は、油性食品中に1~20重量%が好ましく、より好ましくは、2~18重量%である。
【0034】
乳原料を含む油性食品の特徴を、乳原料を使用せずに表現するためには、本発明の植物性蛋白質素材を用いる。また、本発明の植物性蛋白質素材とデキストリン類を組み合わせることで、乳原料を含む油性食品の特徴をより良く表現することができる。
植物性蛋白質素材との組合せで自然な甘さを感じることができれば、デキストリン類に限らず、その他の糖質や澱粉類などの炭水化物を併用することができるが、乳原料の自然な甘さを表現するにはデキストリン類の使用が好ましい。
【0035】
本発明の油性食品は、ある態様においては、実質的に乳原料を使用しない。一般的に乳原料を使用する、いわゆるミルクチョコレート類などの油性食品は、喫食する際に、カカオ原料由来の風味と糖由来の甘さ以外に、乳原料由来の微かな甘さやコクを感じる。また、油性食品が口中で無くなっていくときに、いわゆる余韻と言われる風味及び口溶けの後口を感じることができる。これらの特徴は、主に以下に起因すると考察される。まず、乳原料に含まれる糖質及び灰分によって甘さやコクを感じることができる。次に、風味及び口溶けの後口である余韻は、乳原料が唾液と接触することで、口中に程良く張りつき、程良く溶けていくことで感じることができる。
本発明の油性食品は、植物性蛋白質素材の灰分含有量を調整することで乳原料を使用したようなコクを感じることができる。さらに、植物性蛋白質素材のNSIや分子量を調整することで、余韻を乳原料の挙動に近づけることができる。従来NSIが高い植物性蛋白質素材はねとつきや口中への張りつきが強く、油性食品に使用するには適さないものであったが、本発明の植物性蛋白質素材のようにNSIを非常に高くし、重量平均分子量を調整することで、油性食品に良好な余韻を付与することができる。
【0036】
本発明において「乳原料を使用しない油性食品」とは、乳成分、または他の動物由来の乳成分を実質的に含まない油性食品を示している。「乳原料」または「乳成分」とは、従来から知られているミルクチョコレート類等に含まれる任意の乳製品類を指す。乳原料の例としては、これらに限定されないが、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、乳脂肪(無水乳脂肪を含む)、牛乳(濃縮され得る、糖分を加えたものを含む)などを、意味する。
乳原料はそのものを食した場合に、乳に含まれる乳糖に由来する微かな甘味を感じることができる。乳原料を使用しない場合には、乳原料らしい甘さを感じることができない。
乳原料を使用しないチョコレート類とは、それらの乳原料を実質的に含まず、カカオマス、ココアパウダーにカカオバター、植物油脂及び砂糖などの糖類の他、植物由来の粉体原料、乳化剤や香料などを適宜組み合わせて調製することができる。
なお、「実質的に含まない」とは、重量が1重量%未満を意味する。
【0037】
本発明の油性食品は、植物性蛋白質素材を用いることで乳原料らしい甘さを感じることができる。これは植物性蛋白質素材に少量含まれる炭水化物に由来する微かな甘さと、ナトリウムなどの灰分によって油性食品に含まれる糖分やデキストリン類の甘味を増強する効果によるものと考えられる。植物性蛋白質素材に含まれる炭水化物の微かな甘さを感じるためには、口中への張りつきを抑制する必要がある。そのため、乳原料を使用しない油性食品において乳原料らしい甘さとコクを感じられるように、植物性蛋白質素材の配合量、NSIの調整及び灰分含有量を調整することが必要となる。
【0038】
本発明の油性食品は、植物性蛋白質のNSIや重量平均分子量、pHなどを調整することで一定量の蛋白質含有量の場合に乳原料を使用しないものであってもミルクチョコレート様の風味や口溶けを実現させている。この特性は油性食品を加工する際の物性にも優れる。
従来の植物性蛋白質を使用した油性食品は、油性食品に水が混入することで植物性蛋白質が膨潤し、油性食品の粘度が上昇し、流動性が損なわれる。流動性が損なわれることで油性食品を成型したり、その他の可食物に被覆したりする際の作業性に不具合が生じる。しかし、本発明の油性食品の特徴である程良い口溶けは、水が混入した場合の粘度上昇が抑制される。
粘度上昇の抑制の程度は、植物性蛋白質素材を配合しない場合と同程度にすることができる。
【0039】
油性食品の流動性は一般的には粘度計を用いて測定することができる。粘度計は非ニュートン性の特徴を有する流体の粘性を測定するものであれば特に限定されないが、一般的にはB型粘度計のうちBM型、BH型、BL型などを用いることができ、直接粘度が測定できる。
また、流動性を評価する指標として降伏値や塑性粘度を用いられることがある。降伏値や塑性粘度は、ずり速度を変化させた場合のずり応力を測定し、その結果から算出することができる。測定と算出のために使用する機器は特に限定されないが、一例を挙げるとAntonPaar社製のRheolab-QCなどの機器を用いて測定するずり応力から算出することができる。算出のためには、Casson近似式などを採用することができる。
これらの流動性を確認することで、油性食品の粘度上昇の程度を評価することができる。
【0040】
本発明の油性食品は、水が混入した場合の粘度上昇が抑制できる。一例を挙げれば、水が1重量%油性食品に混入した場合に、BM型粘度計による測定粘度が混入前後の比で3.0以下に抑えられる。
また、水が1重量%油性食品に混入した場合に、ずり応力から算出することができる降伏値及び塑性粘度が、混入前後の比で同様に3.0以下に抑えることができる。
粘度上昇が抑制されることで、成型や可食物への被覆作業が不具合無く行うことができる。
【実施例
【0041】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中%及び部、比はいずれも重量基準を意味する。
また、表中に記載の%及び部は、特にことわりがない限り、製品基準の値を意味する。
【0042】
○試験材料
植物性蛋白質素材として、大豆蛋白質素材を用いて試験を行った。既存の大豆蛋白質素材として市販品A(プロリーナ700)及び市販品B(プロリーナHD101R)を用意した。また、新たに大豆蛋白質素材として製造した試作品C、D「プロリーナND」(仮称)を用意した。また、市販品Eとして、大豆ペプチドであるハイニュートAMを用意した。これらは全て不二製油株式会社に問合わせることにより入手できる。
これらの大豆蛋白質素材について、大豆蛋白質素材の固形分中の蛋白質含有量、NSI、重量平均分子量、灰分含有量、Na/灰分比、pHについて分析した。結果を表2に示した。
なお、pHは5重量%水溶液の測定値を示した。
【0043】
【表2】
【0044】
表2のように、本発明の植物性蛋白質素材である、試作品C、DはNSIが85を超える、重量平均分子量が3kDa~300kDaの範囲内である。一方、市販品A及びBはNSIが85以下となっており、また、市販品Eは重量平均分子量が3kDa未満となっていた。
【0045】
○油性食品の調製
表3の配合にて植物性蛋白質素材を8.0重量%にして、常法によりロールリファイナーによる微粒化及びコンチング操作やミキシング操作を行うことで油性食品を調製した。参考例として全粉乳を用いた油性食品も同様の操作で調製した。調製した油性食品にテンパリング操作を施して、モールド成型したものを5℃で冷却した。
固化した油性食品をモールドから抜き出して、20℃で7日間保存したものの成分分析及び風味を評価した。その結果を表4に記載した。
【0046】
風味評価は訓練されたパネラー3人の官能評価にて、以下の基準で行い、その合議によって決めた点数を最終評価とした。評価においては、乳原料を使用した参考例の評価を5点とし、それぞれを以下の様に評価した。
<甘みとコク>
5点:乳原料を使用した自然な甘さとコクを強く感じる。非常に良好。
4点:乳原料を使用したような自然な甘さとコクを感じる。良好。
3点:乳原料を使用した場合とは少し異なるが、自然な甘さとコクを感じる。許容範囲。
2点:乳原料を使用した自然な甘さとコクはほとんど感じない。
1点:乳原料を使用した自然な甘さとコクは感じない。不適。
<余韻>
5点:乳原料を使用した余韻を強く感じる。非常に良好。
4点:乳原料を使用したような余韻を感じる。良好。
3点:乳原料を使用したような余韻をやや弱いが感じる。許容範囲。
2点:乳原料を使用したような余韻はほとんど感じられない。
1点:乳原料を使用したような余韻は感じられない。不適。
<食感>
5点:ねとつき及び口中への張りつきは、感じられない。非常に良好。
4点:ねとつき及び口中への張りつきは、ほぼ感じられない。良好。
3点:ねとつき及び口中への張りつきを、少し感じる。許容範囲。
2点:ねとつき及び口中への張りつきを、感じる。
1点:ねとつき及び口中への張りつきを、強く感じる。不適。
それぞれ3点以上が合格基準であり、油性食品としての風味と、特に乳原料を配合しなくてもミルクチョコレート様の風味を有するものについて合格品質である、とした。
総合評価は、以下の基準を用いた。
<総合評価>
◎:<甘みとコク>、<余韻>及び<食感>が4点以上。非常に良好で合格品質。
○:<甘みとコク>、<余韻>及び<食感>が3点以上で、総合評価「◎」の基準を満たさない。良好で合格品質。
×:<甘みとコク>、<余韻>、<食感>いずれかが2点以下。不適で不合格。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表4に記載の油性食品中における蛋白質含有量は、カカオマス由来の蛋白質2.0重量%を含む。
植物性蛋白質素材を用いた場合に、試作品C又は試作品Dを使用すると、乳原料を配合しない油性食品でも乳らしい甘みとコク、余韻及び食感を感じることができた。一方比較例1~3では風味評価が悪く、乳原料を代替するような植物性蛋白質素材としては適さないものであった。
【0050】
「○油性食品の調製」に記載した方法と同様に表5に記載の配合で、植物性蛋白質素材を変更した油性食品を調製した。成分分析及び風味評価を実施した。その結果を表5に記載した。
豆乳粉末は、井村屋フーズ株式会社製豆乳パウダーIM100を使用した。
豆乳粉末の蛋白質含有量は50.7重量%(固形分中)、灰分含有量5.1重量%(製品中)、NSIは50.7であった。
デキストリンは、松谷化学工業株式会社製TK-16を使用した。
【0051】
【表5】
【0052】
試作品C及びDを用いると乳原料らしい風味が感じられるものであり、良好であった。
一方、豆乳粉末を用いた比較例は、豆乳由来の豆らしい風味を強く感じ、乳原料を配合した油性食品と感じられるような風味ではなかった。特に余韻の評価で実施例との差を感じた。
【0053】
「○油性食品の調製」に記載した方法と同様に表6に記載の配合で、植物性蛋白質素材の代わりに乳由来ホエイパウダー又はデキストリンを用いた油性食品を調製した。成分分析及び風味評価を実施した。その結果を表6に記載した。
ホエイパウダーは、よつば乳業株式会社製よつ葉ホエイパウダーを使用した。
【0054】
【表6】
【0055】
比較例のように植物性蛋白質素材を使用せずにホエイパウダーで灰分含有量を調整した場合でも、乳原料を使用したようなコクや余韻を感じられるものではなかった。デキストリンのみで植物性蛋白質素材を使用しない比較例では余韻が不充分であった。
【0056】
「○油性食品の調製」に記載した方法と同様に表7に記載の配合で、油分を調整した油性食品を調製した。成分分析及び風味評価を実施した。その結果を表7に記載した。
植物油脂としては、ヨウ素価68のパーム分別軟質油を使用した。
【0057】
【表7】
【0058】
油分を調整すると、甘さとコク、余韻及び食感に変化が出た。また、カカオバターよりも低融点の油脂を組み合わせた実施例7は、乳原料に含まれる乳脂のような口溶けを感じられて良好であった。
【0059】
「○油性食品の調製」に記載した方法と同様に表8に記載の配合で、油分を調整した油性食品を調製した。調製した油性食品を以下に記載する方法で流動性を測定し、その後水を1重量%添加して1分間スパテラでよく攪拌した。攪拌後の油性食品を再び流動性測定することで粘度上昇の程度を確認した。
植物油脂としては、実施例7と同様にヨウ素価68のパーム分別軟質油を使用した。
○流動性の評価
・BM型粘度計による粘度
油性食品200gを200cc容量の金属製トールビーカーに測りとり、3号ローター又は4号ローターを用い、12rpmの条件で45℃にて粘度を測定した。
ローターは、水を添加する前は3号ローターを用いて、水を添加した後は4号ローターを用いた。
・Rheolab-QCによる塑性粘度及び降伏値
CC27ローターを使用して、以下の手順で算出した。
(1)油性食品を50℃まで温めて完全に融解させた。
(2)室温に放置し、45℃に降温した。
(3)45℃での、ずり速度が2(1/s)~50(1/s)の時のずり応力を測定した。
(4)Casson近似式を用いて数式化することで、降伏値と塑性粘度を算出した。
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
植物性蛋白質素材を使用しない比較例7は、乳原料を使用したような甘さとコクなどを感じることはできなかったが、水を添加した後でもその前後比は3.0以下に抑制できていた。しかし市販品A又はBを用いた比較例8及び9は水を添加すると粘度が上昇し、成型や被覆作業に不具合が生じた。一方で、試作品Dを用いた実施例8は、乳原料を使用していないものでも良好な甘さとコク、余韻及び食感を呈しており、さらに水が混入した場合の粘度上昇が抑制されていた。
【0063】
○市販品での確認
植物性蛋白質素材のうち、大豆蛋白質素材としてプロリーナND(不二製油株式会社製)を用いて、油性食品の調製を行った。プロリーナNDは、品質が確立しており、不二製油株式会社に問い合わせることで容易に入手することができる。この大豆蛋白質素材のそれぞれの成分は、表10に示した。
なお、pHは5重量%水溶液の測定値を示した。
【0064】
【表10】
【0065】
表11の配合にて、常法によりロールリファイナーによる微粒化及びコンチング操作やミキシング操作を行うことで油性食品を調製した。調製した油性食品にテンパリング操作を施して、モールド成型したものを5℃で冷却した。
澱粉として、α化澱粉を使用した。
表11のPGPRとは、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを示し、阪本薬品工業株式会社製のものを使用した。
固化した油性食品をモールドから抜き出して、20℃で7日間保存したものの成分分析及び風味を評価した。風味評価の基準は、先の実施例と同様の基準を採用した。その結果を表11に記載した。
【0066】
【表11】
【0067】
市販品であるプロリーナNDを使用した油性食品でも良好な風味の油性食品を調製することができた。
【0068】
表11に記載の実施例11の油性食品を50℃で融解し、テンパリング操作を施して、10×10×10mmのキューブ状に成形した。成形した後、20℃で7日間保存したものを、マフィンの生地に対生地15重量%練り込んで、180℃で25分焼成し、チョコマフィンを作製した。
マフィンの生地は、ホットケーキミックス(森永製菓株式会社製)150部、卵60部、砂糖50部、無調整豆乳110部、植物性マーガリン50部を混合して調製した。
焼成後のキューブ状の油性食品は、融け流れることなく、キューブ状を維持していた。また、マフィンとともに喫食した際にも油性食品の甘さとコク、余韻を感じられた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は乳原料を植物性原料に置き換えた場合であっても、口中でのねとつきや張りつきが少なく、乳原料らしい甘さとコクや風味と口溶けの余韻を感じられる油性食品を提供することができる。