(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】延伸フィルム、それを用いた金属積層フィルム及びフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/32 20060101AFI20241112BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20241112BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241112BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20241112BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20241112BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01G4/32 511L
B32B15/085 Z
C08J5/18 CES
B29C55/02
C08L23/10
C08L101/02
(21)【出願番号】P 2024531718
(86)(22)【出願日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2024016112
【審査請求日】2024-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2023076076
(32)【優先日】2023-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023183547
(32)【優先日】2023-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 一雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 将希
(72)【発明者】
【氏名】石渡 忠和
(72)【発明者】
【氏名】末井 匠
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-135245(JP,A)
【文献】特開平02-135243(JP,A)
【文献】特開2017-019923(JP,A)
【文献】特開2015-146374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
B32B 15/085
C08J 5/18
B29C 55/02
C08L 23/10
C08L 101/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層を有する
フィルムコンデンサ用の延伸フィルムであって、
(1)前記A層は、100質量%中、55質量%以上
90質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、
10質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有し、
前記ポリプロピレン系樹脂の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)が3以上9.5以下であり、
(2)前記A層は、少なくとも一方向に延伸されている、
ことを特徴とする延伸フィルム
(但し、前記側鎖に脂環構造を有するポリマーの含有量が10質量%である場合を除く。)。
【請求項2】
前記A層は、100質量%中、55質量%以上
85質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、
15質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有する、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーは、ガラス転移温度が100℃以上180℃以下である、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
前記脂環構造は、シクロヘキサン構造を有する、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項5】
前記延伸フィルムの厚みが10μm以下であり、且つ全光線透過率が80%以上である、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の延伸フィルムと、前記フィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する、金属積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の延伸フィルムを備える、フィルムコンデンサ。
【請求項8】
請求項6に記載の金属積層フィルムを備える、フィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルム、それを用いた金属積層フィルム及びフィルムコンデンサに関し、特にコンデンサ用途に好適な耐熱性に優れた延伸フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンを主成分とする延伸フィルムは、防湿性を有し、さらに剛性、耐熱性等を有するため、包装用途をはじめ各種の工業用途に用いられている。近年、用途の拡大につれて高性能化が求められており、特に高温での剛性低下の抑制が期待されている。
【0003】
また、ポリプロピレンを主成分とする延伸フィルムは、その優れた電気特性により、フィルムコンデンサ用途に使用されている。電子機器、電気機器等において、例えば高電圧コンデンサ;各種スイッチング電源;コンバータ,インバータ等のフィルタ用コンデンサ,平滑用コンデンサ等として、ポリプロピレンを主成分とする延伸フィルムからなるフィルムコンデンサが使用されている。フィルムコンデンサは、近年需要が高まっている電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車において、例えば駆動モーターを制御するインバータ、コンバータ等に利用されている。
【0004】
フィルムコンデンサ、特に自動車用フィルムコンデンサは、高温環境で使用される場面が増えている。例えば、自動車の駆動モーターを制御する機器(インバータ、コンバータ等)においては、近年、耐熱性の高い半導体(シリコンカーバイド半導体など)の利用が増加している。これに伴い、これらの機器に利用されるコンデンサにも、例えば120℃以上、好ましくは130℃以上といった高い耐熱性が求められている。従来のポリプロピレンフィルムを用いたコンデンサは、その使用温度上限が約110℃といわれており、それを超える高温環境下において電気絶縁性を安定維持することは極めて困難である。
【0005】
耐熱性が高い樹脂フィルムの1つとして、耐熱性に優れ、特に水蒸気非透過性に優れたフィルムとして、ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィンと、水素化ブロック共重合体を含む樹脂組成物からなるフィルムが開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、耐熱性が高い樹脂フィルムの1つとして、ポリプロピレン系樹脂と、環状オレフィンモノマーを重合して得られる、ポリマーの主鎖に脂環構造を有する樹脂とを用いたフィルムが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-37532号公報
【文献】国際公開第2022/270577号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリプロピレンを主成分とする樹脂フィルムは、その使用温度が高くなると、剛性の低下、電気絶縁性の低下等の物性の低下が見られる傾向にある。そこで一般には、ポリプロピレンを主成分とする樹脂フィルムを少なくとも1方向、好ましくは2方向に延伸した延伸フィルムとすることで、剛性及び電気絶縁性を向上させ、使用温度が110℃を超える高温度領域でも、剛性及び電気絶縁性を維持させる。しかし、使用温度が120℃以上、さらには130℃以上の高温度となれば、延伸フィルムといえども、その剛性及び電気絶縁性を維持することは難しい。
【0009】
特許文献1に記載のフィルムでは、水素化ブロック共重合体を含有することで、水蒸気非透過性に優れているが、未延伸フィルムであるため、その剛性及び電気絶縁性は高いものとはいえない。また混合樹脂の延伸では、延伸時に層内に細孔を生じるなどして、剛性及び電気絶縁性が低下する場合が多く見られる。そのため細孔の発生を抑制しながらその物性を向上させるような延伸条件の探索には特段の検討を要するが、特許文献1では延伸条件に関する知見は何ら開示されていない。
【0010】
また、特許文献2に記載のフィルムでは高温での電気特性に優れた、混合樹脂から成る延伸フィルムが開示されているが、混合される環状オレフィン系樹脂が、ポリマーの主鎖に脂環構造を有する樹脂を用いるため樹脂が剛直である。よって、延伸時に層内に細孔を生じるなどして、後加工工程(例えばコンデンサフィルム用途における金属蒸着工程)において破断し易い、すなわち生産性に劣るという問題がある。
【0011】
特にフィルムコンデンサ用途では厚みが薄いことが求められ、例えば厚み10μm以下、好ましくは5μm以下が求められるが、この厚み領域になるとより破断し易くなる。特に低コスト化のために製膜速度及び蒸着速度を上げるとさらに破断し易くなるという生産上の問題を有する。
【0012】
よって、本発明は、110℃を超える高温環境下(特に120℃以上の高温環境下)においても、剛性の低下、電気絶縁性の低下等の物性の低下が抑制されており、かつ、それ自体の延伸性及び後加工工程通過性にも優れた延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、特定の組成からなり、かつ少なくとも1方向に延伸されているA層を少なくとも備える延伸フィルムであれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を重ねて本発明を完成するに至った。
【0014】
つまり、本発明は下記のフィルムコンデンサ用の延伸フィルム、それを用いた金属積層フィルム及びフィルムコンデンサに関する。
1.少なくともA層を有するフィルムコンデンサ用の延伸フィルムであって、
(1)前記A層は、100質量%中、55質量%以上90質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、10質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有し、前記ポリプロピレン系樹脂の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)が3以上9.5以下であり、
(2)前記A層は、少なくとも一方向に延伸されている、
ことを特徴とする延伸フィルム(但し、前記側鎖に脂環構造を有するポリマーの含有量が10質量%である場合を除く。)。
2.前記A層は、100質量%中、55質量%以上85質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、15質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有する、上記項1に記載の延伸フィルム。
3.前記ポリマーは、ガラス転移温度が100℃以上180℃以下である、上記項1又は2に記載の延伸フィルム。
4.前記脂環構造は、シクロヘキサン構造を有する、上記項1~3のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
5.前記延伸フィルムの厚みが10μm以下であり、且つ全光線透過率が80%以上である、上記項1~4のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
6.上記項1~5のいずれか一項に記載の延伸フィルムと、前記フィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する、金属積層フィルム。
7.上記項1~5のいずれか一項に記載の延伸フィルムを備える、フィルムコンデンサ。
8.上記項6に記載の金属積層フィルムを備える、フィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、110℃を超える高温環境下においても、剛性の低下、電気絶縁性の低下等の物性の低下が抑制されており、かつ、それ自体の延伸性及び後加工工程通過性にも優れた延伸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。本明細書中において、好ましい範囲について上限と下限が記載されている場合、その組み合わせは任意とすることができる。また、本明細書において、「A~B」で示される数値範囲は、特に断らない限り、端部の数値を含む範囲であり、「A以上B以下」を意味する。
【0017】
1.延伸フィルム
本発明は、その一態様において、少なくともA層を有する延伸フィルムであって、
(1)前記A層は、100質量%中、55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有し、
(2)前記A層は、少なくとも一方向に延伸されている、
ことを特徴とする延伸フィルム(以下、「本発明の延伸フィルム」ともいう。)に関する。以下、これについて説明する。
【0018】
1-1.ポリプロピレン系樹脂
本発明の延伸フィルムのA層は、A層の質量を100質量%として55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂を含有する。
【0019】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のプロピレン単独重合体;プロピレンと、他のオレフィン(例えばエチレン、1-ブテン等)との共重合体(共重合体の構成はランダム共重合体でも、少なくとも2つのポリマーブロックを有するブロック共重合体でもよい。);長鎖分岐ポリプロピレン;植物由来原料から製造されるポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0020】
ここで、前記ポリプロピレン系樹脂が、プロピレンと、他のオレフィンとの共重合体の場合、共重合体中のプロピレンの含有率は、ポリプロピレン系樹脂の質量を100質量%として50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。なお、前記ポリプロピレン系樹脂には、側鎖に脂環構造を有するポリプロピレン系樹脂は含まれない。
【0021】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、1種であってよく、2種以上であってもよい。
【0022】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の含有量は55質量%以上99質量%以下であればよいが、55質量%以上97質量%以下が好ましく、60質量%以上90質量以下%がより好ましく、65質量%以上85質量%以下がさらに好ましい。この場合、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上する。なお、延伸性が向上する効果については、本発明の延伸フィルムがA層以外に他の層(例えば後記するスキン層など)を有する多層フィルムの場合は、当該多層フィルム全体を延伸する態様である場合を含む(以下同様)。
【0023】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、230℃、2.16kg重の測定にて、0.5g/10分以上6g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上5g/10分以下がより好ましく、1.5g/10分以上4g/10分以下がさらに好ましい。この場合、フィルムの延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、延伸性が向上する。
【0024】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点は、155℃以上であることが好ましい。この場合、高温での電気絶縁性や延伸性が向上する。融点は、160℃以上180℃以下がより好ましく、163℃以上170℃以下がさらに好ましい。
【0025】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、メソペンタッド分率が95mol%以上99.9mol%以下であることが好ましい。95mol%以上であると本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性が向上し易く、99.9mol%以下であると延伸性が向上し易い。ポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率は、96mol%以上99.5mol%以下がより好ましく、97mol%以上99.2mol%以下がさらに好ましく、98mol%以上99mol%以下が特に好ましい。
【0026】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂のヘプタン不溶分(HI)は、94質量%以上99.9質量%以下であることが好ましい。94質量%以上であると延伸フィルムの剛性、電気絶縁性が向上し易く、99.9質量%以下であると延伸性が向上し易い。ポリプロピレン系樹脂のヘプタン不溶分は、96質量%以上99.5質量%以下がより好ましく、97質量%以上99.2質量%以下がさらに好ましく、98質量%以上99質量%以下が特に好ましい。
【0027】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、3万以上7万以下であることが好ましく、3.5万以上6.5万以下がより好ましい。このような数平均分子量(Mn)のポリプロピレン系樹脂をA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0028】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、25万以上50万以下であることが好ましく、30万以上45万以下がより好ましい。このような重量平均分子量(Mw)のポリプロピレン系樹脂をA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0029】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)は、3以上12以下であることが好ましく、5以上10以下であることがより好ましく、6以上9.5以下であることがさらに好ましい。このような分子量分布(Mw/Mn)のポリプロピレン系樹脂をA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0030】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂のz平均分子量(Mz)は、70万以上300万以下であることが好ましく、100万以上250万以下がより好ましい。このようなz平均分子量(Mz)のポリプロピレン系樹脂をA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0031】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂の、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比として算出される分子量分布(Mz/Mw)は、2以上7以下であることが好ましく、2.5以上6以下であることがより好ましく、3以上5以下であることがさらに好ましい。このような分子量分布(Mz/Mw)のポリプロピレン系樹脂をA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂は、従来公知の方法を用いて製造することができる。重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法及びスラリー重合法が挙げられる。重合は、1つの重合反応器を用いる一段重合であってよく、2以上の重合反応器を用いる多段重合であってもよい。また、反応器中に水素又はコモノマーを分子量調整剤として添加して重合を行ってもよい。重合触媒としては、従来公知のチーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を使用することができ、重合触媒には助触媒成分やドナーが含まれていてもよい。ポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率、メルトマスフローレート、分子量、及び分子量分布等は、重合触媒その他の重合条件を適宜調整することによって制御できる。
【0033】
1-2.側鎖に脂環構造を有するポリマー
本発明の延伸フィルムのA層は、A層の質量を100%として1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーを含有する。A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーは、1種であってよく、2種以上であってもよい。
【0034】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーの含有量は1質量%以上45質量%以下であればよいが、3質量%以上45質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量以下%がより好ましく、15質量%以上35質量%以下がさらに好ましい。この場合、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上する。
【0035】
ここで脂環構造とは、芳香族性を有しない飽和及び/又は不飽和の炭素環構造を1以上含む。炭素環構造は2以上であってもよい。炭素環構造は脂肪族炭化水素構造の分枝を有することができる。炭素環構造は直接に、又は炭化水素鎖を介してポリマー主鎖の炭化水素鎖に結合される。
【0036】
炭素環構造には例えば、単環の構造の例として、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカンなどのシクロアルカン構造や、シクロプロペン、シクロブテン、シクロプロペン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのシクロアルケン構造などが挙げられる。また、二環式の構造の例として、ビシクロウンデカン等の二環式アルカン構造、ノルボルネンやノルボルナジエン等の二環式アルケン構造等が挙げられ、好適に用いることができる。なかでも、炭素数4~8の炭素環構造を有することが延伸性の観点から好ましく、炭素数4~8の単環の炭素環構造を有することがより好ましく、炭素数4~8の単環のシクロアルカン構造の炭素環構造を有することがさらに好ましく、シクロヘキサン構造を有することが特に好ましい。
【0037】
ポリマー主鎖は脂肪族炭化水素を主構成成分とする。ポリマー主鎖は、環状炭化水素構造及び/又は芳香族炭化水素構造を構成単位として含んでもよいが、これらは含まれないことが好ましい。ポリマー主鎖の脂肪族炭化水素には脂肪族炭化水素構造及び/又は芳香族炭化水素構造の分枝があってもよい。
【0038】
側鎖に脂環構造を有するポリマーは、側鎖に脂環構造を有する構造を構成単位とする単独重合体であってよい。例えばビニルシクロオレフィンを単独重合したポリビニルシクロオレフィンであってよい。ポリビニルシクロオレフィンとしては例えば、ポリビニルシクロプロパン、ポリビニルシクロブタン、ポリビニルシクロペンタン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリビニルシクロヘプタン、ポリビニルシクロオクタン、ポリビニルシクロノナン、ポリビニルシクロデカン、ポリビニルシクロウンデカン、ポリビニルシクロドデカン等が挙げられる。単独重合体の場合、高温環境下での剛性及び電気絶縁性が高くなり易く好ましい。なかでも、ポリビニルシクロペンタン、ポリビニルシクロヘキサン、及びポリビニルシクロヘプタンが好ましく、ポリビニルシクロヘキサンが最も好ましい。
【0039】
(側鎖に脂環構造を有するポリマーの製造方法)
側鎖に脂環構造を有するポリマーの製造方法は、特に制限されず、ラジカル重合法、イオン重合法(アニオン重合法、配位アニオン重合法等)等、例えば塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の重合方式により、公知の方法を用いて製造することができる。
【0040】
具体的には、本発明に係る側鎖に脂環構造を有するポリマーは、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の公知の開始剤を用いて、脂環構造を有するモノマー(例えばビニルシクロオレフィン等)を、逐次重合させる方法;脂環構造を有するモノマーを逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法、等により重合反応を行って製造することができる。
【0041】
また、側鎖に脂環構造を有するポリマーは、芳香環構造を有するモノマー(例えばスチレン)を公知の方法で重合した後、水素添加反応を行うことによって製造することができる。水素添加反応は例えば、後述の、水素化ブロック共重合体の製造方法、に記載の方法により行うことができる。
【0042】
水素添加反応により製造する場合、その芳香環構造への水素添加率は、好ましくは50mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、さらに好ましくは85mol%以上であり、特に好ましくは90mol%以上であり、より特に好ましくは95mol%以上である。なお、水素添加率は100mol%であってもよい。水素添加率を上述の範囲とすることにより、延伸性が向上する傾向があるため好ましい。
【0043】
側鎖に脂環構造を有するポリマーは、側鎖に脂環構造を有する構造の構成単位と、1つ以上の他の構成単位とを有する共重合体であってよい。共重合体の構成はランダム共重合体でも、少なくとも2つのポリマーブロックを有するブロック共重合体でもよい。延伸性の観点からは共重合体が好ましく、ブロック共重合体がより好ましい。
【0044】
他の構成単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、側鎖を有していても有していなくてもよい。また側鎖を有する構成単位と側鎖を有さない構成単位との両方を含んでもよい。側鎖を有する構成単位の例としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等を構成単位とする例が挙げられる。他の構成単位は、不飽和炭化水素であって構わないが、電気絶縁性の観点からは飽和炭化水素が好ましい。
【0045】
ここで、側鎖に脂環構造を有するポリマー(以下、「前記ポリマー」ともいう)が、他の構成単位としてプロピレンを含有する場合、前記ポリマー中のプロピレンの含有率は、前記ポリマーの質量を100質量%として50質量%未満であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0046】
側鎖に脂環構造を有するポリマーは例えば、それぞれの構成単位を有するモノマーを、公知の方法で重合することにより得られる。また、側鎖に芳香環構造を有するポリマーを水素化することでも得ることができる。側鎖に芳香環構造を有するポリマーを水素化することで、工業的に安価に側鎖に脂環構造を有するポリマーを得られ易く好ましい。
【0047】
側鎖に芳香環構造を有するポリマーを水素化する場合、側鎖に芳香環構造を有するポリマーは、単独重合体であっても共重合体であってもよい。共重合体の場合は、ビニル芳香族ポリマーブロックと共役ジエンポリマーブロックとを少なくとも有するブロック共重合体が好ましい。これを水素化することで、水素化ビニル芳香族ポリマーブロックと水素化共役ジエンポリマーブロックとを少なくとも有する、水素化ブロック共重合体が得られる。
【0048】
以下、好ましい実施形態の1つである、水素化ビニル芳香族ポリマーブロックと水素化共役ジエンポリマーブロックとを少なくとも有する、水素化ブロック共重合体について、説明する。
【0049】
(水素化ビニル芳香族ポリマーブロック)
水素化ビニル芳香族ポリマーブロックは、ビニル芳香族化合物に由来しそれが水素化された構成単位を含む。水素化ビニル芳香族ポリマーブロックは、ビニル芳香族化合物由来の構成単位を50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。ビニル芳香族化合物由来の構成単位を50質量%以上とすることにより、高温環境下での剛性及び電気絶縁性が向上し易い。
【0050】
ビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ビニルトルエン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等が挙げられる。ビニル芳香族化合物は、好ましくはスチレン及びα-メチルスチレンから選択され、より好ましくはスチレンである。
【0051】
水素化ビニル芳香族ポリマーブロックは、上記ビニル芳香族化合物の1種のみから構成されていてもよく、2種以上から構成されていてもよい。
【0052】
水素化ビニル芳香族ポリマーブロックは、ビニル芳香族化合物由来の構成単位以外の、その他の構成単位を含むことができる。その他の構成単位としては、例えばイソプレン、ブタジエン、2,3-ジメチル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等に由来する構成単位が挙げられる。
【0053】
水素化ビニル芳香族ポリマーブロックの含有量は、水素化ビニル芳香族ポリマーブロック及び水素化共役ジエンポリマーブロックの合計100質量%に対して、好ましくは50質量%以上100質量%未満である。50質量%以上とすることにより、高温での剛性及び電気絶縁性が高くなり易い。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
【0054】
(水素化共役ジエンポリマーブロック)
水素化共役ジエンポリマーブロックは、共役ジエンに由来し、それが水素化された構成単位を含む。水素化共役ジエンポリマーブロックは、共役ジエン由来の構成単位を50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0055】
共役ジエンとしては、例えばブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。共役ジエンは、好ましくはブタジエン及びイソプレンから選択され、より好ましくはブタジエンである。
【0056】
水素化共役ジエンポリマーブロックは、側鎖を有さない共役ジエン由来の構成単位を含んでいてもよい。側鎖を有さない共役ジエンとしては、例えばブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。側鎖を有さない共役ジエンとしては、好ましくはブタジエンである。
【0057】
水素化共役ジエンポリマーブロックにおいて、共役ジエンの結合形態、すなわちミクロ構造は特に制限されない。例えば、ブタジエンの場合、1,2-結合及び1,4-結合の結合形態をとることができる。また、イソプレンの場合、1,2-結合、3,4-結合及び1,4-結合の結合形態をとることができる。これらの結合形態は、1種のみが存在していてもよく、2種以上が存在していてもよい。2種以上の結合形態が存在する場合、結合形態の存在の割合は、特に制限されない。
【0058】
水素化共役ジエンポリマーブロックは、共役ジエン由来の構成単位以外の、その他の構成単位を含むことができる。その他の構成単位としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、ビニルトルエン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等に由来する構成単位が挙げられる。
【0059】
水素化共役ジエンポリマーブロックの含有量は、水素化ビニル芳香族ポリマーブロック及び水素化共役ジエンポリマーブロックの合計100質量%に対して、好ましくは0質量%超過(例えば1質量%以上)50質量%以下である。50質量%以下とすることにより、高温での剛性や電気絶縁性が高くなり易く好ましい。より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0060】
(水素添加率)
本実施形態に係る水素化ビニル芳香族ポリマーブロックにおいて、水素化ビニル芳香族ポリマーブロックの芳香環の水素添加率は、好ましくは50mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、さらに好ましくは85mol%以上であり、特に好ましくは90mol%以上であり、より特に好ましくは95mol%以上である。なお、水素添加率は100mol%であってもよい。また、水素化共役ジエンポリマーブロックの共役ジエン由来の炭素-炭素二重結合の水素添加率は、好ましくは90mol%以上であり、より好ましくは95mol%以上である。なお、水素添加率は100mol%であってもよい。
【0061】
水素化ビニル芳香族ポリマーブロックの芳香環の水素添加率及び/又は水素化共役ジエンポリマーブロックの共役ジエン由来の炭素-炭素二重結合の水素添加率を上述の範囲とすることにより、延伸性が向上する傾向があるため好ましい。
【0062】
(水素化ブロック共重合体の結合様式)
水素化ブロック共重合体におけるポリマーブロックの結合様式は、線状、分岐状及び放射状のいずれであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0063】
例えば、水素化ビニル芳香族ポリマーブロックを「X」、水素化共役ジエンポリマーブロックを「Y」で表すと、結合様式としては、ジブロック共重合体(X-Y)、トリブロック共重合体(X-Y-X)、テトラブロック共重合体(X-Y-X-Y)、ペンタブロック共重合体(X-Y-X-Y-X、又はY-X-Y-X-Y)等が挙げられる。結合様式は、製造容易性の観点から、好ましくはジブロック共重合体、トリブロック共重合体、又はテトラブロック共重合体である。
【0064】
水素化ブロック共重合体の具体例としては、スチレン-イソプレンジブロック共重合体(SI)、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体(SB)、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体(SB/IS)、及びスチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBBS)等を水素化した水素化ブロック共重合体挙げられる。これらの中でも、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体(SB)を水素化した水素化ブロック共重合体が特に好ましい。
【0065】
(水素化ブロック共重合体の製造方法)
水素化ブロックコポリマーの製造方法は、特に制限されず、アニオン重合法などの公知の方法を用いることができる。
【0066】
具体的には、本発明に係る水素化ブロック共重合体は、アルキルリチウム化合物を開始剤として用いて、ビニル芳香族化合物と、共役ジエンとを逐次重合させる方法;アルキルリチウム化合物を開始剤として用いて、ビニル芳香族化合物と、共役ジエンとを逐次重合させ、次いでカップリング剤を加えてカップリングする方法;ジリチウム化合物を開始剤として用いて、共役ジエン、次いでビニル芳香族化合物を逐次重合させる方法などにより重合反応を行った後、水素添加反応を行うことによって製造することができる。
【0067】
アルキルリチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。
【0068】
カップリング剤としては、ジビニルベンゼン;エポキシ化1,2-ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、1,3-ビス(N,N-グリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどの多価エポキシ化合物;ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラクロロスズ等のハロゲン化合物;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル等のエステル化合物;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル等の炭酸エステル化合物;ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)エタン等のアルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0069】
ジリチウム化合物としては、ナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
【0070】
重合反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、開始剤に対して不活性で反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の飽和脂肪族炭化水素;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、重合反応の温度は、通常、ミクロ構造制御の観点から、好ましくは0~100℃であり、より好ましくは30~90℃であり、さらに好ましくは40~80℃であり、特に好ましくは50~80℃である。重合反応の時間は、ミクロ構造制御の観点から、好ましくは0.5~50時間である。
【0071】
また、重合反応の際に共触媒としてルイス塩基を用いてもよい。ルイス塩基としては、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等のアミン類などが挙げられる。これらのルイス塩基は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
水素添加反応は、重合反応に引き続き行ってもよく、重合反応後にブロック共重合体を一旦単離してから行ってもよい。
【0073】
重合反応後にブロック共重合体を一旦単離する場合、重合反応後に得られた重合反応液をメタノールなどのブロック共重合体の貧溶媒に注いでブロック共重合体を凝固させる、又は重合反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥させることにより、ブロック共重合体を単離することができる。
【0074】
ブロック共重合体の水素添加反応は、例えば水素添加触媒の存在下、反応温度20~200℃及び水素圧力0.1~20MPaの条件下で、0.1~100時間反応させることにより実施できる。
【0075】
水素添加触媒としては、ラネーニッケル;白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の担体に担持させた不均一触媒;遷移金属化合物(オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート等)とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物又は有機リチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウム等からなる有機金属化合物との組み合わせからなるメタロセン系触媒などが挙げられる。
【0076】
水素添加反応を重合反応に引き続き行う場合、水素化ブロック共重合体の単離は、水素添加反応液を、メタノールなどの水素化ブロック共重合体の貧溶媒に注いで凝固させる、又は水素添加反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥することにより単離することができる。
【0077】
本発明のA層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーのガラス転移温度(Tg)は、100℃以上180℃以下が好ましい。ガラス転移温度を100℃以上とすることで高温での剛性及び電気絶縁性が高くなり易くなり、180℃以下とすることで延伸性を良化させることができる。ガラス転移温度は、120℃以上165℃以下がより好ましく、130℃以上160℃以下がより好ましく、140℃以上155℃以下が特に好ましい。
【0078】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーのビカット軟化点(1kg、50℃/hr)は、100℃以上170℃以下が好ましい。ビカット軟化点を100℃以上とすることで高温での剛性及び電気絶縁性が高くなり易くなり、170℃以下とすることで延伸性を良化させることができる。ビカット軟化点は、120℃以上165℃以下がより好ましく、130℃以上160℃以下がより好ましく、140℃以上155℃以下が特に好ましい。
【0079】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーのガラス転移温度(Tg)及びビカット軟化点は、前述の側鎖に脂環構造を有する構造を構成単位の種類や、1つ以上の他の構成単位の種類や比率等により調整することができる。
【0080】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定的ではないが、5万以上40万以下であることが好ましい。このような重量平均分子量(Mw)の脂環構造を有するポリマーをA層が含むと、本発明の延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上し易い。
【0081】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーのメルトマスフローレート(MFR)は、260℃、2.16kg重の測定にて、1g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上20g/10分以下がより好ましく、3g/10分以上15g/10分以下がさらに好ましい。この場合、フィルムの延伸時に適度な樹脂流動性が得られ、延伸性が向上し易い。
【0082】
A層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーは、前述の方法で製造してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては例えば、ViviOn(登録商標)(USI Corporation製)が挙げられる。
【0083】
1-3.A層
本発明は、A層の質量を100質量%として、55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーを含有するA層を有する。前記A層は、少なくとも1方向に延伸されている。
【0084】
A層はさらに、フィルムの低温耐衝撃性の調整、表面粗さの調整、剛性、強度、伸度等の各種物性の調整や、ポリプロピレン系樹脂と側鎖に脂環構造を有するポリマーの混合性や、延伸性の調整等を目的に、他の樹脂を含有してもよい。
【0085】
他の樹脂の添加量は、A層の質量を100%として、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。他の樹脂としては、特に限定されず、延伸フィルム用途に適した、従来公知の樹脂を本発明においても適宜用いることができる。その例としては、例えばポリエチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のポリオレフィン系樹脂及びその共重合体樹脂、例えばエチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-(4-メチル-1-ペンテン)共重合体等の、α-オレフィン同士の共重合体等が挙げられる。また、ポリスチレン系樹脂やエラストマー、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ナイロン系樹脂及びその共重合体等が挙げられる。
【0086】
ここで、他の樹脂が、プロピレンを含む共重合体である場合、そのプロピレンの含有率は、他の樹脂の質量を100質量%として50質量%未満(例えば40質量%以下)であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0087】
他の樹脂としては市販品を用いてよく、例えばα-オレフィン同士の共重合体等として、タフマー(登録商標)(三井化学株式会社製)等が挙げられ、前述の目的に好適に使用できる。
【0088】
A層はさらに、無機粒子、有機粒子等の粒子を、単独又は2種以上を併用して含有することできる。粒子を含有することにより、延伸フィルムとした際の摩擦係数及び表面粗さを調整し、シワなどの無い巻き姿の良いフィルム巻取を得ることができる。また延伸フィルムをコンデンサ用途で用いる場合は、その電気特性(セルフヒーリング(自己修復)性)を向上させることができる。
【0089】
無機粒子としては、特に制限されず、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物;シリカ等のケイ素化合物等の粒子が挙げられ、好ましく使用できる。無機粒子としては、これら以外にも、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、アルミナ、コロイダルアルミナ、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ゼオライト、スメクタイト等の粒子が挙げられる。有機粒子としては、架橋性樹脂から成る樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子等が挙げられる。
【0090】
粒子の平均粒子径は、例えば0.05μm以上2.0μm以下である。平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上1.5μm以下であり、より好ましくは0.4μm以上1.2μm以下である。無機粒子及び有機粒子の平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0091】
粒子としては市販品を使用してもよく、例えばシーホスター(登録商標)(株式会社日本触媒製)等が挙げられ、前述の目的に好適に使用できる。
【0092】
粒子の含有率は、A層の質量を100質量%として、例えば0.1質量%以上2.0質量%以下であり、好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上1.2質量%以下である。
【0093】
A層はさらに、酸化防止剤を含有することできる。酸化防止剤は主に後述の2つの目的で使用される。1つの目的は、製膜用押出機内及び/又は溶融混錬機内での樹脂の熱劣化及び酸化劣化を抑制することであり、他の目的は、延伸フィルムの長期使用における劣化による強度等の物性の低下の抑制である。後者の例としては例えば、コンデンサ用途で使用する場合の、長期使用における劣化抑制及びコンデンサの電気特性の維持に寄与することである。主に前者の目的に寄与する酸化防止剤を「1次剤」ともいい、主に後者の目的に寄与する酸化防止剤を、「2次剤」ともいう。これらの2つの目的に、2種類以上の酸化防止剤を用いてもよいし、2つの目的に1種類の酸化防止剤を使用してもよい。
【0094】
1次剤としては、例えば、2,6-ジ-ターシャリー-ブチル-パラ-クレゾール(一般名称:BHT)が挙げられる。この酸化防止剤は、押出機内でほとんどが酸化・分解もしくは蒸散され、延伸フィルムとした後にはほとんど残存しない。したがって延伸後のA層がBHTを含む場合、その含有量は、A層の質量を100%として、通常100質量ppm未満である。
【0095】
2次剤としては、例えば、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤のうち、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-ターシャリー-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス245)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス259)、ペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチルー4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1035)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:イルガノックス1076)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)(商品名:イルガノックス1098)等が挙げられるが、耐熱性に優れたペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、とりわけ好ましい。(ここで、商品名:イルガノックス(登録商標)は何れもBASFジャパン株式会社製。)
【0096】
A層がヒンダードフェノール系酸化防止剤を1種類以上含有する場合、その含有量の合計は、A層の質量を100%として、好ましくは1000質量ppm以上7000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以上6000質量ppm以下であることが、適切な効果発現の観点から好ましい。なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、延伸フィルム製膜時の押出工程等で一部が酸化・分解され、延伸フィルムとした際の残存量は一般に、前述の含有量の60~80質量%である。
【0097】
A層はさらに、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば核剤、塩素吸収剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、着色剤等が挙げられる。A層中の前記添加剤の含有率は、例えば0質量%以上10質量%以下、0質量%以上5質量%以下、0質量%以上1質量%以下、0質量%以上0.5質量%以下、0質量%以上0.1質量%以下である。実質的な下限値としては0.01質量%程度である。
【0098】
本発明のA層の厚みは特に制限されない。好ましい厚みは用途によるが、例えば包装用途、セパレータ用途等では、5μm以上80μm以下、10μm以上50μm以下が好適に用いられる。コンデンサ用途では、コンデンサの体積を小さくし、かつ、静電容量を高める観点から、より薄い方が好ましい。この観点からは、好ましくは10μm以下、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは8μm以下、よりさらに好ましくは6μm以下、とりわけ好ましくは5μm以下、とりわけさらに好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下、である。また、延伸性及び金属蒸着工程の観点からは、延伸後において、例えば1μm以上、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは1.8μm以上、さらに好ましくは2μm以上、よりさらに好ましくは2.2μm以上である。
【0099】
1-4.延伸フィルム
本発明の延伸フィルムは、A層の質量を100質量%として、55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーを含有するA層を有し、前記A層が少なくとも1方向に延伸されている、延伸フィルムである。
【0100】
本発明の延伸フィルムは、A層からなる単層延伸フィルムであってよく、また複数の層及び/又はフィルムを従来公知の積層方法、例えば共押出法、ラミネート法、ヒートシール法、塗工法等を、単独又は併用して積層することにより得られる多層フィルムであってもよい。積層はA層を延伸する前に行ってもよく、また延伸した後に行ってもよい。
【0101】
多層フィルムは、例えば表層(スキン層:層b)とコア層(層a)からなる、層b/層a/層bの3層の層構成、片側の表層をさらに別の層(層c)とした層b/層a/層cの3層の層構成、コア層を2層とした層b/層a/層a/層cの4層構成や、一方のコア層を他のコア層(層a’)とした層b/層a/層a’/層cの4層構成、中間層をも置けた層b/層d/層a/層d/層b等とすることができ、また、層aを2層以上積層した2層以上の構成や、層aを10層以上積層した積層構造を含むいわゆる超多層フィルムでもよい。積層する各層は各々別の樹脂から構成されてもよく、同一の樹脂で構成されてもよい。
【0102】
本発明のA層は、層a、層a’ 、層b 、層c、層d等の何れとしても使用可能である。例えば表層として使用すれば延伸性に優れ、コア層として使用すれば、高温での剛性や絶縁性に優れる傾向がある。
【0103】
本発明の延伸フィルムに対するA層の厚みの割合は、本発明の効果を発現し易くするため、延伸フィルム厚み100%に対して、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0104】
本発明のA層をコア層として使用した場合、積層する好ましい表層の一例としては、ポリプロピレン系樹脂を主成分とし、顔料を含有する層が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂及び顔料は、A層と同様のものが使用できる。
【0105】
好ましい層構成は用途によるが、例えば包装用途、セパレータ用途等では、コア層とスキン層で機能分離する観点から2層以上が好ましい。コンデンサ用途では、厚みを薄くする観点からは単層が好ましく、電気絶縁性の観点からは2層以上とすることが好ましい。
【0106】
共押出法の具体例としては、溶融樹脂を金型手前のフィードブロック内で接触させるダイ前積層法、金型内部の経路で接触させるダイ内積層法、同心円状の複数リップから吐出し接触させるダイ外積層法等が挙げられる。例えばダイ内積層法の場合には、3層マルチマニホールドダイ等の多層ダイを用いることができる。
【0107】
本発明の延伸フィルムの厚みは特に制限されない。好ましい厚みは用途によるが、例えば包装用途、セパレータ用途等では、5μm以上80μm以下、10μm以上50μm以下が好適に用いられる。コンデンサ用途では、コンデンサの体積を小さくし、かつ、静電容量を高める観点から、より薄い方が好ましい。この観点からは、好ましくは10μm以下、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは8μm以下、よりさらに好ましくは6μm以下、とりわけ好ましくは5μm以下、とりわけさらに好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下、である。また、延伸性や金属蒸着工程の観点からは、延伸後において、例えば1μm以上、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは1.8μm以上、さらに好ましくは2μm以上、よりさらに好ましくは2.2μm以上である。
【0108】
本発明の未延伸フィルム、本発明の二軸延伸フィルム等の本発明のフィルム厚さは、外側マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製 高精度デジマチックマイクロメータ MDH-25MB)を用いて、JIS K 7130:1999 A法に準拠して測定する。
【0109】
本発明の延伸フィルムは、高温下における絶縁破壊強さが高い。絶縁破壊強さは、後述の実施例の方法に従って120℃及び135℃環境下でそれぞれ測定される。
【0110】
本発明の延伸フィルムの120℃環境での絶縁破壊強さは、好ましくは450VDC/μm以上、より好ましくは470VDC/μm以上、さらに好ましくは490VDC/μm以上、特に好ましくは500VDC/μm以上、より特に好ましくは510VDC/μm以上である。上記した各温度における絶縁破壊強さの上限は、特に制限されず、例えば700VDC/μm以下、650VDC/μm以下である。
【0111】
本発明のフィルムの135℃環境での絶縁破壊強さは、好ましくは420VDC/μm以上、より好ましくは440VDC/μm以上、さらに好ましくは460VDC/μm以上、特に好ましくは480VDC/μm以上、より特に好ましくは490VDC/μm以上である。上記した各温度における絶縁破壊強さの上限は、特に制限されず、例えば650VDC/μm以下、600VDC/μm以下である。
【0112】
本発明の延伸フィルムは、温度上昇による絶縁破壊強さの変化が少ないため好ましい。120℃環境での絶縁破壊強さに対する、135℃環境での絶縁破壊強さの比(135℃環境での絶縁破壊強さ/120℃環境での絶縁破壊強さ)である絶縁強度維持率(%)は、好ましくは87%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは89%以上、特に好ましくは90%以上である。上限は特に制限されず、例えば100%、99%、又は98%である。なお、120℃環境と135℃環境とでは、絶縁破壊強さに関する負荷が大きく異なる。そのため一般のポリプロピレンフィルムでは絶縁強度維持率が小さくなり、それを使用したコンデンサの電気特性の温度安定性が低下するため好ましくない。本発明の延伸フィルムは、120℃環境から135℃環境まで絶縁破壊強さの変化が抑制され、それを使用したコンデンサの電気特性の温度安定性が向上するため好ましい。
【0113】
本発明の延伸フィルムの高温環境下の剛性は、後述の実施例に記載の方法にて熱-機械測定装置(TMA)にて測定した伸長率で表される。延伸フィルムの剛性は、室温から130℃まで昇温した際の変化が小さいことが好ましく、伸長率は、4.5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい、3%以下が特に好ましい。伸長率を5%以下とすることで、延伸フィルムの高温での剛性が高く維持される。また高温での電気絶縁性も優れたものとなり、それを使用したコンデンサの電気特性の温度安定性が向上するため好ましい。伸長率の下限については、例えば0.2%以上、0.5%以上、1%以上である。0.2%以上とすることで、フィルムの延伸性が向上し易い。
【0114】
本発明の延伸フィルムは、後加工工程通過性が高い。本発明の延伸フィルムをコンデンサ用途で使用する場合、その後加工工程は主に金属層を積層するための蒸着工程である。蒸着工程通過性は、後述の実施例の方法に従って測定される。本発明の延伸フィルムは、例えば蒸着速度が150m/分と高速であっても、フィルム破断を発生せずに蒸着を実施することができる。
【0115】
本発明の延伸フィルムの用途は、特に制限されない。本発明のフィルムは、例えば、その耐熱性を生かして耐熱性に優れた包装フィルムやセパレータとして利用することができる。また、本発明の延伸フィルムはコンデンサ用フィルムとして、好適に利用することができる。特に、120℃以上の高温環境で使用され、小型、さらには、高容量(例えば、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上)のコンデンサに極めて好適に使用することができる。
【0116】
1-5.延伸フィルムの製造方法
本発明の延伸フィルムの原料(少なくとも前述のポリプロピレン系樹脂と、前述の側鎖に脂環構造を有するポリマーを含む)は、水分量が多い場合は乾燥した後、使用される。乾燥条件は特に制限されないが、例えば70~150℃、好ましくは80~130℃である。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜調整することができ、例えば2~30時間、好ましくは3~20時間である。
【0117】
原料は、原料毎に個別にフィルム製膜用押出機に投入してフィルム製膜用押出機内で混合してもよく、フィルム製膜用押出機に投入する前に混合して、原料混合物としてフィルム製膜用押出機に投入してもよい。
【0118】
原料混合物とする場合の混合方法としては、特に制限はないが、複数種の樹脂塊(ペレット等)を、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0119】
混合方法としては、溶融混錬(メルトブレンド)を用いてもよい。樹脂を均一に混錬できると、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性等が向上しやすいため、溶融混錬することが好ましい。
【0120】
溶融混錬の方法としては、一軸スクリュータイプ、二軸スクリュータイプ、又はそれ以上の多軸スクリュータイプの溶融混錬機等が使用可能である。なかでも二軸スクリュータイプの溶融混錬機が、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性等の向上効果が高く、好適に用いられる。二軸スクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプも使用可能であるが、樹脂劣化抑制の観点からは同方向回転が好ましい。溶融混錬機のスクリューの直径と長さの比(L/D)は、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは28以上である。L/Dを20以上とすることにより、樹脂がよく混合し、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が向上する。L/Dに上限は無いが、樹脂劣化抑制の観点からは80以下、好ましくは50以下である。
【0121】
溶融混錬時の温度は、樹脂劣化の抑制と混錬性の兼ね合いから、200℃~300℃が好ましく、220℃~280℃がより好ましい。溶融混錬の際、樹脂の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージすることが好ましい。
【0122】
本発明の原料及び/又は原料混合物は、フィルム製膜用押出機に供給され、押出成形される。押出成形する方法としては、特に制限されず、公知の押出成形方法を採用することができる。例えば、フィルム製膜用押出機へ供給した固体状の本発明の原料又は樹脂組成物を、加熱された溶融状態でスクリューにより混合した後、フィルターでろ過し、単層のTダイなどのダイスからフィルム状に押出し、所定の表面温度に設定した冷却ロールに接触固化させて成形する方法が挙げられ、本発明の未延伸フィルムが得られる。
【0123】
フィルム製膜用押出機としては、例えば一軸スクリュータイプ、二軸スクリュータイプ、三軸以上の多軸スクリュータイプが挙げられる。二軸以上の場合、スクリュー回転のタイプとしては、例えば同方向回転、異方向回転等が挙げられる。溶融温度は、好ましくは200~300℃、好ましくは230~280℃、より好ましくは240~275℃である。これにより樹脂を適度に混錬させることができ、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性等が向上しやすい。樹脂の溶融押出の際の劣化を抑制するため、押出機に窒素などの不活性ガスをパージすることが好ましい。
【0124】
溶融状態の本発明の樹脂をろ過するフィルターのろ過精度は、特に制限されないが、例えば2~30μm、好ましくは5~25μm、さらに好ましくは10~25μmである。
【0125】
ダイスの温度は、特に制限されないが、好ましくは200~300℃、好ましくは210~280℃、より好ましくは215~270℃、さらに好ましくは220~260℃である。
【0126】
ダイスから押出され溶融状態の本発明の樹脂を冷却ロールに接触固化させる際の密着方法は、特に制限されず、例えばエアナイフ、静電ピンニング、弾性体ロールニップ、金属ロールニップ、弾性金属ロールニップ等が挙げられる。冷却ロール表面温度は、例えば30~130℃、好ましくは35~120℃、より好ましくは40~110℃である。
【0127】
ダイスから押出され溶融状態の本発明の樹脂を冷却ロールに接触させる際のドラフト比は、1~20であることが好ましく、1.1~16であることがより好ましく、1.2~10であることがより好ましく、1.3~8であることがより好ましい。ドラフト比を当該範囲とすることにより、延伸フィルムの縦方向の配向を適切な範囲とし、延伸性を良化させることができる。ドラフト比は、溶融樹脂の密度d(g/cm3)、ダイスリップ出口部の幅W(cm)、ダイスリップ出口部の平均スリット間隙t(cm)、樹脂吐出量Q(g/分)、冷却成形ロールの周速V(cm/分)より、下記式にて計算される。
ドラフト比=dVWt/Q
【0128】
本発明の未延伸フィルムの厚みは、特に制限されないが、例えば20~300μmである。
【0129】
本発明の未延伸フィルムを延伸する方法としては、特に制限されず、公知の延伸方法を採用することができる。例えば、本発明の未延伸フィルムを加熱ロールで加熱して縦方向(流れ方向、MD)に延伸する方法(縦一軸ロール延伸方法);本発明の未延伸フィルムを所定の温度のオーブン内(一般的にテンターと称す)で横方向(幅方向、TD)に延伸する方法(横一軸延伸方法);縦一軸ロール延伸の後に横一軸延伸を行う方法(逐次二軸延伸方法);縦一軸ロール延伸の後に横一軸延伸を行い、さらに縦一軸(ロール又はテンター法)延伸を行う方法(多段式逐次二軸延伸方法);本発明の未延伸フィルムを所定の温度のテンター内で縦延伸及び横延伸を順次行う方法(テンター法逐次二軸延伸方法);発明の未延伸フィルムをテンター内で縦延伸及び横延伸を同時に行う方法(同時二軸延伸方法);等が挙げられる。本発明の未延伸フィルムを延伸する方法としては、縦一軸ロール延伸の後に横一軸延伸を行う方法(逐次二軸延伸方法)が、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性等に優れ、好ましい。
【0130】
縦一軸ロール延伸方法では、加熱ロールは複数用いて構わない。延伸点は1か所でもよく、2カ所以上でも構わない。延伸点が1か所の場合、その直前のロール(延伸前ロール)温度(TMD)、延伸点が2カ所以上の場合、その延伸倍率が最大となる箇所の延伸前ロールの表面温度(TMD)は、好ましくは125℃以上175℃以下、より好ましくは130℃以上170℃以下、さらに好ましくは135℃以上168℃以下、特に好ましくは140℃以上166℃以下である。縦方向の延伸倍率(延伸点が2カ所以上の場合はその積)は、1.5倍以上5.0倍以下が好ましく、2.0倍以上4.6倍以下がより好ましく、2.2倍以上4.2倍以下がさらに好ましい。当該温度範囲及び倍率範囲とすることにより、縦方向への配向が適切な範囲に抑制され、剛性、電気絶縁性、延伸性等に優れた延伸フィルムが得やすい。
【0131】
本発明のテンターは、加熱、延伸、及び後述の加熱処理、弛緩処理、冷却処理等をそれぞれ別々の温度で実施できるよう、3か所以上の温度ゾーンを有するテンターを使用するのが好ましく、5か所以上の温度ゾーンを有するテンターがより好ましい。
【0132】
テンター内で縦延伸を行う場合、その延伸時のオーブン温度(TMD)は、好ましくは125℃以上175℃以下、より好ましくは130℃以上170℃以下、さらに好ましくは135℃以上168℃以下、特に好ましくは140℃以上166℃以下である。縦方向の延伸倍率は、1.5倍以上5.0倍以下が好ましく、2.0倍以上4.6倍以下がより好ましく、2.2倍以上4.2倍以下がさらに好ましい。
【0133】
テンター内で横延伸を行う場合、その延伸時のオーブン温度(TTD)は、好ましくは140℃以上175℃以下、より好ましくは145℃以上170℃以下、さらに好ましくは150℃以上168℃以下、特に好ましくは155℃以上166℃以下である。横方向の延伸倍率は、5.0倍以上11.0倍以下が好ましく、6.0倍以上10.0倍以下がより好ましく、7.0倍以上9.5倍以下がさらに好ましい。当該温度範囲及び倍率範囲とすることにより、横方向への配向が適切な範囲に抑制され、剛性、電気絶縁性、延伸性等に優れた延伸フィルムが得やすい。
【0134】
前述の延伸温度(TMD、及びTTD)は、本発明のA層に含まれる側鎖に脂環構造を有するポリマーのガラス転移温度(Tg)に応じて調整されるのがより好ましい。TMDは、Tg-10℃以上Tg+25℃以下が好ましく、Tg-5℃以上Tg+20℃以下がより好ましく、Tg以上Tg+16℃以下がさらに好ましい。TTDは、Tg以上Tg+30℃以下が好ましく、Tg+5℃以上Tg+28℃以下がより好ましく、Tg+10℃以上Tg+25℃以下がさらに好ましい。当該温度範囲とすることにより、延伸フィルムの配向が適切な範囲に抑制され、剛性、電気絶縁性、延伸性等に優れた延伸フィルムが得られ易い。
【0135】
なお、前述の延伸温度(TMD及びTTD)が前述の温度範囲未満の場合や、樹脂のブレンド時や押出時の混錬性が悪い場合、あるいは押出成形時のドラフト比が不適切な場合等には、延伸時にA層内に細孔を生じる場合がある。細孔が多く生じると、延伸フィルムの剛性、電気絶縁性、延伸性が低下し易い傾向が有る。
【0136】
細孔が多く生じると延伸フィルムの全光線透過率が低下し易いため、本発明の延伸フィルムの全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。全光線透過率は、コンデンサの電気特性(保安性)の観点からは、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下がさらに好ましく、96%以下が特に好ましい。
【0137】
延伸フィルムの縦延伸倍率と横延伸倍率との積(後述の弛緩処理を実施する場合は、弛緩前の縦延伸倍率と弛緩前の横延伸倍率を使用して算出する)は、15倍以上48倍以下が好ましく、17倍以上42倍以下がより好ましく、19倍以上38倍以下がさらに好ましく、21倍以上35倍未満が特に好ましく、22倍以上34倍以下がより特に好ましい。当該温度範囲及び倍率範囲とすることにより、剛性、電気絶縁性、延伸性等に優れた延伸フィルムが得られ易い。
【0138】
面積倍率が12%以下の延伸フィルムや、未延伸フィルム(面積倍率は1%となる)は、剛性、電気絶縁性が低下し易い傾向がある。また、破断せずに延伸可能な面積倍率が12%以下であれば、その延伸性はあまり良好とは言えない。
【0139】
延伸された本発明のフィルムには、必要に応じて、弛緩処理(延伸後に、例えば延伸倍率の20%以内で倍率を下げる処理)、加熱処理、冷却処理を行ってもよい。これらは独立に行ってよく、また例えば弛緩処理と加熱処理を同時に行う、弛緩処理と冷却処理を同時に行う、等組み合わせて実施してもよい。弛緩処理、加熱処理、冷却処理の適切な実施により、延伸フィルムの平面性や、温度変化に対する寸法安定性、蒸着工程通過性等を向上させることができる。
【0140】
横方向への弛緩は、横延伸の最大倍率に対し、3%以上20%以下が好ましく、5%以上16%以下がより好ましく、6.5%以上14%以下がさらに好ましい。
【0141】
加熱処理温度は、好ましくは150℃以上180℃以下、より好ましくは155℃以上175℃以下、さらに好ましくは160℃以上172℃以下である。加熱処理時間は、1秒以上20秒以下が好ましく2秒以上15秒以下がより好ましい。
【0142】
本発明の延伸フィルムには、コロナ処理、静電気除去処理、加温処理等を行ってもよい。コロナ処理、静電気除去処理、加温処理等の適切な実施により、蒸着工程通過性を向上させることができる。加温処理温度は、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは25℃以上60℃以下、さらに好ましくは30℃以上55℃以下である。加温処理時間は、3時間以上50時間以下が好ましく、6時間以上30時間以下がより好ましい。
【0143】
2.金属積層フィルム
本発明は、その一態様において、本発明の延伸フィルムと、前記延伸フィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する、金属積層フィルム(本明細書において、「本発明の金属積層フィルム」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0144】
本発明の延伸フィルムには、例えば包装用フィルムとして使用する際の、酸素等のガスや水蒸気の透過性の調整のために、あるいはコンデンサとして使用する際の電極として、片面又は両面に金属層を設けることができる。
【0145】
本発明の延伸フィルムの表面に金属層を積層する方法としては、例えば、金属蒸着、スパッタリング等の真空めっき、又は金属含有ペーストの塗工・乾燥、金属箔や金属粉の圧着等の方法が挙げられる。なかでも生産性及び経済性などの観点から、真空蒸着法及びスパッタリング法がより好ましく、真空蒸着法がさらに好ましい。真空蒸着法としては、一般的にるつぼ方式やワイヤー方式などを例示することができるが、特に限定されることはなく、適宜最適なものを選択することができる。
【0146】
金属層に用いられる金属は、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケル等の金属単体、それらの複数種の混合物、及びそれらの合金などを使用することができるが、環境、経済性及び性能などを考慮すると、亜鉛及びアルミニウムの1種以上が好ましい。
【0147】
金属層の膜抵抗は、酸素等のガスや水蒸気の透過性の観点からは0.5~10Ω/□程度が、コンデンサの電気特性の観点からは1~60Ω/□程度が好ましい。コンデンサの電気特性の観点からは、セルフヒーリング(自己修復)特性の発現のため、膜抵抗は5Ω/□以上であることがより好ましく、10Ω/□以上であることがさらに好ましく、コンデンサとしての安全性の観点から、膜抵抗は50Ω/□以下であることがより好ましく、30Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0148】
真空蒸着法にて電極(金属蒸着膜)を形成する際、その膜抵抗は、例えば当業者に既知の非接触の渦電流方式や光透過率方式等によって蒸着中に測定することができる。金属蒸着膜の膜抵抗は、例えば蒸発源の出力を調整して蒸発量を調整することによって調節することができる。
【0149】
コンデンサ用途においては、延伸フィルムの片面に金属蒸着膜を形成する際、フィルムを巻回してコンデンサとした際の絶縁部となるように、一定幅の、金属が積層されない絶縁マージン(縦マージン)が形成される。
【0150】
さらに、金属層一体型フィルムの金属層とメタリコン電極との接合を強固にするため、ヘビーエッジ部を形成することが好ましい。ヘビーエッジ部の膜抵抗は通常1~8Ω/□程度であり、1~5Ω/□程度であることが好ましい。ヘビーエッジ部の金属膜の厚さは特に限定されないが、1~200nmが好ましい。
【0151】
コンデンサ用途においては、形成する金属蒸着膜の蒸着パターン(ヒューズパターン)には特に制限はないが、コンデンサの保安性等の特性を向上させる点からは、フィッシュネットパターン、Tマージンパターン等のパターン蒸着としてヒューズを形成することが好ましい。本発明の延伸フィルムの少なくとも片面にヒューズを含む蒸着パターンの金属蒸着膜を形成する場合には、得られるコンデンサの保安性が向上し、コンデンサの破壊、ショートの抑制等の点からも効果的であり、好ましい。
【0152】
ヒューズや、前述の絶縁マージンを形成する方法としては、蒸着時にテープによりマスキングを施すテープ法、オイルの塗布によりマスキングを施すオイル法等、公知の方法を何ら制限なく使用することができる。
【0153】
本発明の金属積層フィルム上には、金属層の物理的保護、吸湿防止、酸化防止等を目的として保護剤を塗布してもよい。保護剤としては、好ましくはシリコーンオイルやフッ素オイル等が使用できる。保護剤は金属層上に層として設けてもよく、金属層に含侵させてもよい。
【0154】
本発明の金属積層フィルムは、後述の本発明のコンデンサに加工され得る。本発明の金属積層フィルムは、例えば酸素や他のガスに対するバリアフィルム等として、包装用途等にも使用できる。
【0155】
3.フィルムコンデンサ
本発明は、その一態様において、本発明の延伸フィルム又は本発明の金属積層フィルムを含む、フィルムコンデンサ(本明細書において、「本発明のコンデンサ」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0156】
このようなコンデンサにおいては、本発明の延伸フィルムはコンデンサ用誘電体フィルムとして、例えば、(i)前述の金属積層フィルムを使用する方法、(ii)電極を設けない本発明の延伸フィルムと、両面を金属化した誘電体(誘電体としては例えば、本発明の延伸フィルムや、他のプラスチックフィルム等)、とを積層すること、(iii)電極を設けない本発明の延伸フィルムと、他の導電体(例えば、金属箔)とを積層すること、等の方法でコンデンサを構成できる。
【0157】
コンデンサを作製する工程では、フィルムの巻き付け加工が行われる。例えば、本発明の金属積層フィルムにおける金属層と、本発明の延伸フィルムとが交互に積層されるように、更には、絶縁マージン部が逆サイドとなるように、2枚1対の本発明の金属積層フィルムを重ね合わせて巻回する。この際、2枚1対の本発明の金属積層フィルムを1~2mmずらして積層することが好ましい。用いる巻回機は特に制限されず、例えば、株式会社皆藤製作所製の自動巻取機3KAW-N2型等を利用することができる。
【0158】
フィルムの巻き付け加工は上記方法に限定されず、他の方法、例えば、両面蒸着した本発明の延伸フィルム(その場合、ヘビーエッジは表面、裏面で反対側の端部に配置されるようにする)と、未蒸着の本発明の延伸フィルム(両面蒸着した本発明の延伸フィルムより2~3mm狭幅とする)を交互に積層して巻回してもよい。
【0159】
扁平型コンデンサを作製する場合、巻回後、通常、得られた巻回物に対してプレスが施される。プレスによってコンデンサの巻締まり・素子成形が促される。層間ギャップの制御・安定化を施す点から、与える圧力は、本発明の延伸フィルムの厚み等によってその最適値は変わるが、2~20kg/cm2である。
【0160】
続いて、巻回物の両端面に金属を溶射してメタリコン電極を設けることによって、コンデンサを作製する。
【0161】
コンデンサに対して、更に所定の熱処理が施される。すなわち、本発明では、コンデンサに対し、熱処理を施す工程(以下、「熱エージング」と称することがある)を含む。熱処理温度は、特に制限されないが、例えば80~190℃である。コンデンサに対して熱処理を施す方法としては、例えば、真空雰囲気下で、恒温槽を用いる方法や高周波誘導加熱を用いる方法等を含む公知の方法から適宜選択してもよい。熱処理を施す時間は、機械的及び熱的な安定を得る点で、1時間以上とすることが好ましく、5時間以上とすることがより好ましいが、熱シワや型付等の成形不良を防止する点で、20時間以下とすることがより好ましい。
【0162】
熱処理を施すことによって熱エージングの効果が得られる。具体的には、本発明の延伸フィルムに基づくコンデンサを構成するフィルム間の空隙が減少し、コロナ放電が抑制され、しかも本発明の延伸フィルムの内部構造が変化して結晶化が進む。その結果、電気絶縁性が向上するものと考えられる。熱処理の温度が所定温度より低い場合には、熱エージングによる上記効果が十分に得られない。一方、熱処理の温度が所定温度より高い場合には、本発明の延伸フィルムに熱分解や酸化劣化等が生じることがある。
【0163】
熱エージングを施したコンデンサのメタリコン電極には、通常、リード線又はバスバーが溶接される。また、耐候性を付与し、とりわけ湿度劣化を防止するため、コンデンサをケースに封入してエポキシ樹脂でポッティングすることが好ましい。
【0164】
本発明の延伸フィルムを利用した本発明のコンデンサは、高温環境で好適に使用され、小型、さらには、高容量(例えば、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上)のコンデンサとすることができる。従って、本発明のコンデンサは、電子機器、電気機器等に使用されている、高電圧コンデンサ;各種スイッチング電源;コンバータ,インバータ等のフィルタ用コンデンサ,平滑用コンデンサ等として利用することができる。また、本発明のコンデンサは、近年需要が高まっている電気自動車、ハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ用コンデンサ、コンバータ用コンデンサ等としても好適に利用することができる。
【実施例】
【0165】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、実施例10は参考例である。
【0166】
(1)測定方法
各種測定方法は、次のとおりである。
【0167】
(1-1)ポリプロピレン系樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mw)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mw)を測定した。
【0168】
具体的に、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC装置であるHLC-8121GPC-HT型を使用した。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel GMHHR-H(20)HTを3本連結して使用した。140℃のカラム温度で、溶離液として、トリクロロベンゼンを、1.0ml/minの流速で流して測定した。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成し、測定値をQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算して、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、z平均分子量(Mz)を得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。また、このMzとMwの値を用いて分子量分布(Mz/Mw)を得た。
【0169】
(1-2)ポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率
ポリプロピレン系樹脂を溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)を用いて、以下の条件で測定した。
高温型核磁気共鳴(NMR)装置:日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT-NMR)、JNM-ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト-ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1))
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4,500回
シフト基準:CH3(mmmm)=21.7ppm
立体規則性度を表すメソペンタッド分率は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrm等)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。mmmmやmrrm等に由来する各シグナルの帰属に関し、例えば、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁(1988)」等のスペクトルの記載を参考とした。
【0170】
(1-3)ポリプロピレン系樹脂のヘプタン不溶分(HI)
ポリプロピレン系樹脂を10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。
【0171】
(1-4)樹脂のメルトマスフローレート
各樹脂について原料樹脂ペレットの形態でのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックサを用いてJIS K 7210-1:2014に準じて測定した。具体的には、まず、試験温度(ポリプロピレン系樹脂は230℃、側鎖に脂環構造を有するポリマー及び主鎖に脂環構造を有するポリマーは260℃)にしたシリンダ内に、4gの原料を挿入し、2.16kg重の荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された原料樹脂の重量を測定し、MFR(g/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。
【0172】
(1-5)樹脂の融点、ガラス転移温度
パーキン・エルマー社製入力補償型DSC、DiamondDSCを用い、以下の手順により算出した。各樹脂を5mg量り取り、アルミニウム製のサンプルホルダーに詰め、DSC装置にセットした。窒素流下、30℃から230℃まで20℃/分の速度で昇温し、230℃で5分間保持し、20℃/分で30℃まで冷却し、30℃で5分間保持した。その後再び20℃/分で230℃まで昇温する際のDSC曲線より、融点及びガラス転移温度を求めた。詳細には、JIS-K7121の9.1(1)に定める溶融ピーク(複数の溶融ピークを示す場合は最大の溶融ピーク)を融点とし、JIS-K7121の9.3(1)に定める中間点ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0173】
(1-6)粒子の平均粒子径
粒子の平均粒子径を以下のようにして測定した。試料台上に、粉体を個々の粒子ができるだけ重ならないように散在させ、超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡装置((FE-SEM)日立ハイテクノロジーズ製S-5200)を用いて、少なくとも100個の粒子について、1万~3万倍で観察し、観察画像を取得した。その観察画像から画像解析ソフトを用いてその最長径を測定し、その測定値を平均し、平均粒子径を求めた。
【0174】
(2)樹脂組成物及び延伸フィルムの作製
(2-1)使用樹脂等
〔ポリプロピレン系樹脂〕
・原料A: ポリプロピレン系樹脂
A1: 株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン樹脂
プライムポリプロ(登録商標)
MFR: 3.5g/10min(測定温度230℃、2.16kg重)
融点: 164℃
メソペンタッド分率: 98.6mol%
ヘプタン不溶分: 98.1質量%
数平均分子量(Mn): 49000
重量平均分子量(Mw): 390000
z平均分子量(Mz): 1520000
分子量分布(Mw/Mn): 8.0
分子量分布(Mz/Mw): 3.9
A2: 株式会社プライムポリマー製 アイソタクチックポリプロピレン樹脂
プライムポリプロ(登録商標)
MFR: 5.6g/10min(測定温度230℃、2.16kg重)
融点: 162℃
メソペンタッド分率: 97.4mol%
ヘプタン不溶分: 97.8質量%
数平均分子量(Mn): 47000
重量平均分子量(Mw): 270000
z平均分子量(Mz): 750000
分子量分布(Mw/Mn): 5.7
分子量分布(Mz/Mw): 2.8
・原料B: 側鎖に脂環構造を有するポリマー
B1: USI Corporation製
ViviOn(登録商標)0645
ガラス転移温度: 146℃
MFR: 5.5g/10min(測定温度260℃、2.16kg重)
側鎖にシクロヘキサン構造を有する
(シクロヘキサン構造は芳香環構造への水素添加により形成され、その水素添加率は99mol%以上である)
B2: USI Corporation製
ViviOn(登録商標)1325
ガラス転移温度: 128℃
MFR: 13g/10min(測定温度260℃、2.16kg重)
側鎖にシクロヘキサン構造を有する
(シクロヘキサン構造は芳香環構造への水素添加により形成され、その水素添加率は99mol%以上である)
・原料C: 主鎖に脂環構造を有するポリマー
C1: ポリプラスチックス株式会社製
TOPAS(登録商標)COC6013S-04
ガラス転移温度: 138℃
MFR: 14g/10min(測定温度260℃、2.16kg重)
主鎖にノルボルネン構造を有する
・原料D: 粒子
D1: 株式会社日本触媒製 シリカ粒子
シーホスター(登録商標)KE-S100
平均粒子径: 1.0μm
【0175】
(2-2)樹脂組成物及び延伸フィルムの作製方法
[実施例1~6、実施例8~10、比較例1~2、比較例4]
[未延伸フィルムの作製]
原料A、B、C及びDを、各原料が表1に記載の配合部数になるよう計量し、タンブラーを用いてドライブレンドして得られたA層用原料混合物を、一軸スクリュータイプのフィルム製膜用押出機(株式会社ジーエムエンジニアリング製GM-50、L/D=32)に投入した。表1に記載の溶融温度に設定した押出機内で原料を溶融した後、濾過精度20μmのフィルターでろ過し、235℃に設定したTダイより押出した。
【0176】
溶融樹脂をエアナイフにて、表面温度90℃の鏡面金属ロール(冷却ロール)に接触固化し、フィルム状に成形して単層の未延伸フィルムを得た。
【0177】
この際のドラフト比が表1に記載の値となるように、Tダイのダイスリップ出口部の平均スリット間隙tを変更した。
【0178】
未延伸フィルムの厚みは、延伸後の厚みが目標値となるように、押出量と引取速度を変更して微調整した。
【0179】
[延伸フィルムの作製]
未延伸フィルムをロール方式の縦延伸機に導入し、5本の予熱ロールで順次加熱した後、表1に記載の温度(TMD)に表面温度を調整した延伸前ロールで加熱し、縦方向(MD)に、表1に記載の倍率にて縦一軸延伸した。次いでテンターに導入し、炉内温度を表1に記載の予熱温度に調整した予熱ゾーンで加熱した後、表1に記載の温度(TTD)に炉内温度を調整した延伸ゾーンにて、横方向(TD)に、表1に記載の倍率で延伸した。次いで170℃とした加熱ゾーン内で、幅(横方向)を10%緩和した。テンターから出た延伸フィルムの端部をスリットして620mm幅とし、エアナイフを使用した側の面にコロナ処理をした後、巻き取って延伸フィルムの巻回体を得た。フィルムの厚みは2.8μmとなるよう、押出量と引取速度を微調整した。実施例1~6、実施例8~10、比較例1、比較例4のいずれにおいてもフィルムの延伸性は良好であった。他方、比較例2のフィルムは、記載の倍率以上としようとすると破断が生じ、延伸性は良好とは言えなかった。
【0180】
[実施例7]
[未延伸フィルムの作製]
原料A1を75部、原料B1を25部計量し、タンブラーを用いてドライブレンドして得られたA層用原料混合物を、一軸スクリュータイプのフィルム製膜用押出機(株式会社ジーエムエンジニアリング製GM-50、L/D=32)に投入した。260℃に設定した押出機内で原料を溶融した後、濾過精度20μmのフィルターでろ過し、235℃に設定した3層マルチダイのコア層(A層)部へフィードした。
【0181】
原料A1を99.5部、原料Dを0.5部計量し、タンブラーを用いてドライブレンドして得られたB層用原料混合物を、一軸スクリュータイプのフィルム製膜用押出機(株式会社ジーエムエンジニアリング製GM-50、L/D=32)に投入した。表1に記載の溶融温度に設定した押出機内で原料を溶融した後、濾過精度20μmのフィルターでろ過した後2つの流路に分岐して、235℃に設定した3層マルチダイの両側のスキン層(B層)部へフィードした。
【0182】
3層マルチダイ内でB層/A層/B層の順に積層し、マルチダイより押出した。
【0183】
3層積層溶融樹脂をエアナイフにて、表面温度90℃の鏡面金属ロール(冷却ロール)に接触固化し、フィルム状に成形して3層の未延伸フィルムを得た。
【0184】
この際のドラフト比が4.0となるように、マルチダイのダイスリップ出口部の平均スリット間隙tを変更した。
【0185】
未延伸フィルムの厚みは、延伸後の厚みが目標値となるように、押出量と引取速度を変更して微調整した。
【0186】
未延伸フィルムの各層の厚みの比率は、B層:A層:B層が1:1.8:1となるよう、押出量を調節した。
【0187】
[延伸フィルムの作製]
未延伸フィルムをロール方式の縦延伸機に導入し、5本の予熱ロールで順次加熱した後、表面温度を150℃に調整した延伸前ロールで加熱し、縦方向(MD)に、倍率4.0倍にて縦一軸延伸した。次いでテンターに導入し、炉内温度を170℃に調整した予熱ゾーンで加熱した後、167℃に炉内温度を調整した延伸ゾーンにて、横方向(TD)に、倍率10.0倍で延伸した。次いで170℃とした加熱ゾーン内で、幅(横方向)を10%緩和した。テンターから出た延伸フィルムの端部をスリットして620mm幅とし、エアナイフを使用した側の面にコロナ処理をした後、巻き取って延伸フィルムの巻回体を得た。フィルムの厚みは2.8μmとなるよう、押出量と引取速度を微調整した。実施例7のフィルムの延伸性は良好であった。
【0188】
[比較例3]
原料A1を75部、原料B1を25部、を計量し、タンブラーを用いてドライブレンドして得られたA層用原料混合物を、一軸スクリュータイプのフィルム製膜用押出機(株式会社ジーエムエンジニアリング製GM-50、L/D=32)に投入した。260℃に設定した押出機内で原料を溶融した後、濾過精度20μmのフィルターでろ過し、235℃に設定したTダイより押出した。
【0189】
溶融樹脂をエアナイフにて、表面温度90℃の鏡面金属ロール(冷却ロール)に接触固化し、フィルム状に成形して単層の未延伸フィルムを得た。
【0190】
この際のドラフト比が40となるように、Tダイのダイスリップ出口部の平均スリット間隙tを変更した。
【0191】
未延伸フィルムの厚みが5μmとなるよう、押出量と引取速度を変更して微調整した。
【0192】
未延伸フィルムは、端部をスリットして620mm幅とし、エアナイフを使用した側の面にコロナ処理をした後、巻き取って未延伸フィルムの巻回体を得た。このように、比較例3では比較品として未延伸フィルムの巻回体を得た。
【0193】
【0194】
(3)延伸フィルムの物性及び特性の測定及び評価
(3-1)全光線透過率の測定
実施例及び比較例で得られた延伸フィルム(但し、比較例3は比較品のため未延伸フィルムである。以下同様。)の全光線透過率は、日本電色工業株式会社製ヘーズメーターNDH-5000を用いて、JIS-K7361に準拠して測定した。
【0195】
(3-2)絶縁破壊強さ、及び絶縁強度維持率の測定
実施例及び比較例で得られた延伸フィルムの高温下における絶縁破壊強さを次のようにして評価した。JIS C2151:2006の17.2.2(平板電極法)に準じた測定装置を用意した。但し下部電極として、JIS C2151:2006の17.2.2に記載の弾性体の替わりに導電ゴム(星和電機株式会社製E12S10)を電極として用い、アルミ箔の巻き付けは行わないものとした。
【0196】
測定環境は設定温度120℃又は135℃の強制循環式オーブン内とし、電極及びフィルムは同オーブン内で30分調温した後に使用した。電圧上昇は0Vから開始して100V/秒の速度とし、電流値が5mAを超えた時の電圧を絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧測定回数は20回とし、各絶縁破壊電圧値VDCを、延伸フィルムの厚み(μm)で割り、その20回の計算結果中の上位2点及び下位2点を除いた16点の平均値を、絶縁破壊強さ(VDC/μm)とした。
【0197】
上記測定により得られた、120℃環境での絶縁破壊強さに対する、135℃環境での絶縁破壊強さの比(135℃環境での絶縁破壊強さ/120℃環境での絶縁破壊強さ)として絶縁強度維持率(%)を算出した。
【0198】
(3-3)伸長率の測定(剛性の評価)
セイコーインスツルメンツ株式会社製、熱-機械測定装置(TMA)・TMA/SS6000型を用い、延伸フィルムの縦(MD)方向長さ25mm、横(TD)方向長さ4mmの短冊形にサンプリングした、実施例及び比較例の延伸フィルムを、石英引張プローブにセットする。延伸フィルムのMDの方向に、延伸フィルムの厚みに応じて厚み1μmに対し16.67mNの割合で静荷重を加えた状態で、25℃から10℃/分の昇温速度で加熱して、炉内温度130℃における、初期長さ(25℃)からの伸長率(%)を測定した。
【0199】
測定装置:セイコーインスツルメンツ株式会社製 TMA/SS6000型
測定プローブ:石英引張プローブ
測定モード:Fモード(荷重制御モード)
静荷重:延伸フィルムの厚みに応じて、厚み1μmに対し16.67mNの割合
初期チャック間距離:15mm
設定温度範囲:25℃~170℃
昇温速度:10℃/min
データサンプリングタイム:0.5sec
【0200】
(3-4)蒸着工程通過性の評価
実施例及び比較例の延伸フィルムの巻回体を用いて、真空蒸着法によって蒸着工程通過性を評価した。株式会社アルバック製真空蒸着装置EWE-060を用いて、負荷する張力を40N/mとし、蒸着速度は150m/分とし、蒸着時に延伸フィルムを密着して保持する冷却ロールへ、延伸フィルムを密着させるための電子線照射出力を-3.5KVとし、金属膜の表面抵抗率が20Ω/□になるように、延伸フィルムのコロナ処理面側にアルミニウム蒸着を施した。
【0201】
この際、延伸フィルム横方向両端部以外に、金属が積層されない4mm幅の絶縁マージン(縦マージン)を等間隔に9カ所設けた。横方向両端部2カ所及び縦マージン9か所の計11カ所の金属が積層されない部分は、金属が積層される部分に比較して、冷却ロールから剥離しにくくなる傾向がある。
【0202】
この剥離しやすさの差や、蒸着時に金属から与えられる熱の影響等により、延伸フィルムに破断が発生する場合がある。この条件で5000m長の蒸着を行い、下記基準によって、蒸着工程通過性を評価した。
〇:延伸フィルムに破断が1回も発生しない(0回であった)。
×:延伸フィルムに破断が1回以上発生する。
【0203】
(4)測定及び評価結果
実施例及び比較例の延伸フィルムの物性及び特性の測定及び評価結果を表2に示す。
【0204】
以上の評価結果より、A層の質量を100%として、55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有するA層を有し、前記A層が少なくとも1方向に延伸されている、延伸フィルム(実施例1~10)であれば、110℃を超える高温環境下においても、剛性の低下、及び電気絶縁性の低下が抑制されており、かつ、それ自体の延伸性及び後加工工程通過性にも優れることが分かった。
【0205】
【要約】
本発明は、110℃を超える高温環境下においても、剛性の低下、電気絶縁性の低下等の物性の低下が抑制されており、かつ、それ自体の延伸性及び後加工工程通過性にも優れた延伸フィルムを提供する。
本発明は、具体的には、少なくともA層を有する延伸フィルムであって、
(1)前記A層は、100質量%中、55質量%以上99質量%以下のポリプロピレン系樹脂と、1質量%以上45質量%以下の、側鎖に脂環構造を有するポリマーとを含有し、
(2)前記A層は、少なくとも一方向に延伸されている、
ことを特徴とする延伸フィルムを提供する。