IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイデルベルク ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図1
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図2
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図3
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図4
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図5
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図6
  • 特許-PSMAに対するヒト化抗体 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】PSMAに対するヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20241112BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241112BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241112BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N5/10
C12N15/62 Z
C07K16/30
A61P35/00
A61P13/08
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K47/68
A61K39/395 N
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021505326
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2019070407
(87)【国際公開番号】W WO2020025564
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】18186591.6
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505348522
【氏名又は名称】ハイデルベルク ファルマ リサーチ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ヘヒラー トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】パール アンドレアス
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-541711(JP,A)
【文献】特表2012-505654(JP,A)
【文献】特表2008-518619(JP,A)
【文献】Frontiers in Bioscience,2008年,Vol.13,p.1619-1633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のCDR H1配列、
配列番号2、配列番号7、配列番号9、および配列番号11に記載の配列のいずれかから選択されるCDR H2配列、および
配列番号3に記載のCDR H3配列
を含む可変重鎖(VH)ドメイン、ならびに
配列番号4、配列番号8および配列番号10に記載の配列のいずれかから選択されるCDR L1配列、
配列番号5および配列番号12に記載の配列のいずれかから選択されるCDR L2配列、および
配列番号6に記載のCDR L3配列
を含む可変軽鎖(VL)ドメインを含むが、
配列番号1に記載のCDR H1配列、配列番号2に記載のCDR H2配列、配列番号3に記載のCDR H3配列、配列番号4に記載のCDR L1配列、配列番号5に記載のCDR L2配列、および配列番号6に記載のCDR L3配列の組合せを含まず、
前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合する、ヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項2】
配列番号13、配列番号15、配列番号17および配列番号19に記載のいずれかの配列から選択される配列に対して、少なくとも90%、好ましくは95%の配列同一性を有するVHドメインを含む、請求項1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項3】
配列番号13、配列番号15、配列番号17および配列番号19に記載のいずれかの配列から選択されるVHドメイン配列を含む、請求項1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項4】
配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択される配列に対して、少なくとも90%、好ましくは95%の配列同一性を有するVLドメインを含む、請求項1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項5】
配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列を含む、請求項1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項6】
配列番号13に記載のVHドメイン配列および配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または
配列番号15に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または
配列番号17に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または
配列番号19に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列を含む、
請求項1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項7】
配列番号13に記載のVHドメイン配列および配列番号14に記載のVLドメイン配列を含み、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項8】
重鎖が配列番号21、配列番号23、配列番号25、または配列番号27のいずれかの配列を含む、請求項3に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項9】
軽鎖が配列番号22、配列番号24、配列番号26または配列番号28のいずれかの配列を含む、請求項5に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項10】
配列番号21、23、25または27のいずれかの配列を含む少なくとも1つの重鎖、および配列番号24、26または28のいずれかの配列を含む少なくとも1つの軽鎖を含む、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項11】
配列番号21に記載のVHドメイン配列および配列番号22に記載のVLドメイン配列を含み、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項12】
配列番号27を含む少なくとも1つの重鎖、および配列番号28を含む少なくとも1つの軽鎖を含む、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項13】
EC50<0.4μg/mlの親和性でPSMAの細胞外ドメインに結合する、請求項1~10のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項14】
抗体がグリコシル化されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項15】
グリカンが、重鎖のアスパラギン297におけるN-結合オリゴ糖鎖である、請求項14に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項16】
前記前立腺特異的膜抗原がヒト前立腺特異的膜抗原である、請求項1~15のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項17】
抗体がアイソタイプIgGである、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分。
【請求項18】
ヒト化抗体の抗原結合断片が可変ドメイン(Fv)、Fab断片およびF(ab)2断片からなる群より選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載のヒト化抗体の抗原結合断片。
【請求項19】
ヒト化抗体の抗原結合断片が一本鎖Fv(scFv)である、請求項1~18のいずれか一項に記載のヒト化抗体の抗原結合断片。
【請求項20】
治療薬に結合された、請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項21】
ヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分がリンカー部分を介して治療薬に結合された、請求項20に記載の抗体-薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項22】
少なくとも薬学的に許容される担体とともに、請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分を含む、PSMAの過剰発現に関連する医学的障害の治療のための医薬製剤。
【請求項23】
前記製剤が、少なくとも静脈内、筋肉内または皮下投与に適している、請求項22に記載の医薬製剤。
【請求項24】
前立腺癌の治療に使用するための、請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体もしくはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分、または請求項22もしくは23に記載の医薬製剤。
【請求項25】
請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分の有効量を含む、前立腺癌に罹患している患者を治療するための医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分をコードする核酸。
【請求項27】
請求項1~19のいずれか一項に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片もしくは抗原結合部分を産生することができる宿主細胞。
【請求項28】
宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項27に記載の宿主細胞。
【請求項29】
哺乳動物細胞がCHO細胞株である、請求項28に記載の宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合するヒト化および/または脱免疫化抗体、抗体断片または抗体誘導体、および前記抗体、抗体断片または抗体誘導体を前立腺癌および他の腫瘍性ならびに神経疾患の治療に使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)、N‐アセチル‐L‐アスパルチル‐L‐グルタミン酸ペプチダーゼI (NAALADase I)またはN‐アセチル‐アスパルチルグルタミン酸(NAAG)ペプチダーゼとしても知られる前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、ヒト葉酸ヒドロラーゼ(FOLH1)遺伝子によってコードされる酵素である。PSMAは、異なる生理的役割を果たす膜結合型細胞表面ペプチダーゼであり、前立腺、腎臓、小腸、中枢および末梢神経系などの様々な組織で発現する。悪性前立腺上皮細胞や、膠芽腫、乳癌、膀胱癌を含む多数の固形腫瘍悪性疾患の血管内皮細胞に高発現している。このタンパク質は、統合失調症およびALSを含む様々な神経疾患にも関与している。
【0003】
PSMAはクラスIIの膜貫通糖タンパク質で、N末端細胞質尾部は18アミノ酸(aa 1-18)と短く、膜貫通ヘリックスは1本(aa 19-43)で、細胞外部分はaa 44-750からなり、分子量は約84kDaである(Barinka et al.、 2004)。短いN末端細胞質尾部は、クラスリン、クラスリンアダプタータンパク質2、フィラミンA(FLNa)、およびカベオリン‐1などのPSMA結合基質の一部のエンドサイトーシスを支配する膜骨格タンパク質と相互作用することが示されている。細胞外部分はさらに3つのドメインに分けられる。プロテアーゼ(aa 57-116とaa 352-590)、頂端部分(aa 117-351)、C末端あるいは二量体化ドメイン(aa 591-750)である。これらの部分はまとめて基質/リガンド認識機能を果たしている(Barinkaら、2012)(図1)。aa配列とドメイン構成に関して、PSMAの3三次元細胞外構造はトランスフェリン受容体(Tfr)に似ている。PSMAは二量体の形成でのみ酵素活性を示す。グリコシル化だけでなく二量体化も正しい立体構造と分子の酵素活性に必須である。
【0004】
正常ヒト前立腺におけるPSMA発現と局在は、前立腺管を取り囲む上皮の細胞質と頂端側と関連している。前立腺組織の異形成性および腫瘍性形質転換は、PSMAの頂端膜から管腔表面への移動をもたらす。PSMAはもともと前立腺特異的であると考えられていたが、より最近の研究から、小腸上皮(刷子縁)細胞、近位尿細管細胞および唾液腺のほか、神経系でも発現していることが示されている。
【0005】
小腸では、PSMAは近位空腸の刷子縁に位置し、そこでポリ-γ-グルタミン酸葉酸上のヒドロラーゼとして作用し、モノグルタミン酸化葉酸を血流中に能動輸送する(Navratil et al.、 2014)。したがって、それは少なくともヒトとブタにおいて加水分解とエンドサイトーシスの両方の機能を示す。エンドサイトーシスによる内在化は、受容体を介したエンドサイトーシスによってクラスリン被覆ピットを介して起こる。神経系では、NAAG-ヒドロラーゼとも呼ばれるPSMAが、哺乳類の脳に広く分布する神経伝達物質であるNAAGをグルタミン酸とN-アセチルアスパラギン酸(NAA)に加水分解する触媒作用をもつ。異なる組織におけるPSMAの異なる役割は、PSMA発現細胞に特異的に薬物や小分子の送達を標的とする様々な治療アプローチの広範な探索のきっかけとなっている(Evansら、2016年)。
【0006】
PSMA発現レベルは、正常で健康な組織と比較して、由来の異なる悪性組織で高い(Evansら、2016; Haffnerら、2009)。この発現様式は、癌の進行と浸潤におけるPSMAの役割を直接的に意味し、この分子を固形癌の診断と治療のための望ましい標的とする。
【0007】
いくつかの理由から、PSMAは前立腺癌における理想的な標的である。まず、ほとんどすべての前立腺癌細胞で有意に過剰発現している。前立腺癌細胞上の発現のレベルは正常組織の100~1000倍である。PSMAはほぼ全ての前立腺癌で発現しており、PETでPSMA陰性であったのは原発前立腺癌または前立腺癌病変の5~10%のみであった(Eiberら、2017年)。
【0008】
第2に、進行期、高悪性度転移性疾患、ホルモン不応性前立腺癌および転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)において、その発現はさらに増加している。
【0009】
第三に、PSA、前立腺酸性フォスファターゼおよび前立腺分泌タンパク質のような他の前立腺関連抗原とは対照的に、II型内在性膜細胞表層タンパク質としてのPSMAは分泌されないため、従って、例えば抗体または他のリガンド媒介療法のための優れた標的である。細胞外ドメインの活性中心に結合した後、PSMAリガンドは細胞内に取り込まれる。その後のエンドソームリサイクルにより沈着が増加し、腫瘍の取り込み、貯留、およびその後の治療用途のための高い局所用量が増強される。
【0010】
一般に、前立腺癌転移は、骨髄およびリンパ節に頻繁に起こり、そこは高レベルの循環抗体を取り込み、リンパ腫や乳がんなどの他の腫瘍型ではモノクローナル抗体療法によく反応してきた位置である(Nanusら、2003年)。
【0011】
前立腺癌において、PSMAの発現はアンドロゲンにより負に調節される(イスラエルら、1993)。遺伝子転写解析は、アンドロゲンがPSMA遺伝子のプロモーターを抑制できることを実証した。したがって、アンドロゲン除去療法の開始は、PSMA発現の早期だが一時的なアップレギュレーション、延長アンドロゲン除去療法下でのダウンレギュレーション、最後にアンドロゲン耐性腫瘍におけるPSMAの過剰発現を誘導する。これらの効果は、治療法および診断の改善に活用できる可能性がある(Eiberら、2017年)。前立腺癌転移におけるPSMAの直接的な役割はまだ完全には解明されていないが、アンドロゲン感受性細胞に対するホルモンアンドロゲン除去療法はPSMAレベルを増大させることが示されており、PSMAの発現の増加により細胞は侵襲性が低くなった。一方、PSMAをノックダウンすると、浸潤活性が5倍に増加した。
【0012】
前立腺癌は、男性で最も多く診断される癌であり、西洋文化では2番目に多い死因である。疾患の進行に伴う有意な死亡率および罹病率のため、新たな標的治療が緊急に必要とされている。現在、前立腺癌の治療について評価されている様々な手法がある。小分子、アプタマーまたは抗体は、化学療法薬の標的送達のためにPSMAを利用するための特異的リガンドとして使用されている(レビューのためにEvansら、2016を参照)。PSMAを介する自殺遺伝子療法と同様に、例えばRNAi、アンチセンスRNAまたはアプタマーに基づくPSMAを標的とした遺伝子療法アプローチが現在評価段階にある。前立腺癌の限局性疾患患者の約25%に現在使用されている放射性免疫療法において(Cooperbergら、2010年)、放射性核種にモノクローナル抗体またはアプタマーなどの標的リガンドを追加することにより、PSMAのような癌関連細胞表面抗原の標的化、ひいては望ましくない副作用および用量増強の低減が可能となる。PSMA陽性腫瘍細胞に対するCTL活性を誘導するための、PSMAに対するキメラ抗原受容体(CAR)を有する初代培養樹状細胞(DC)またはT細胞に基づく免疫療法は、臨床段階にある。
【0013】
PSMAと結合する抗体は、先行技術において記載されている。PSMAは、ヒト前立腺腺癌(LNCap)細胞株(Horoszewiczら、1986)から単離された、部分的に精製された細胞膜画分で免疫化されたマウスに由来するマウスモノクローナル抗体7E11によって最初に特徴付けられた。この最初に公開されたPSMAに対するモノクローナル抗体は、PSMAの細胞内ドメインのN末端(MWNLLH)を認識する(Troyerら、1995)。
【0014】
PSMAの細胞外ドメインに対する4つのマウスIgGモノクローナル抗体(J591、J415、J533およびE99)が調製されており、これは、7E11とは対照的に、細胞の外側に位置する2つの異なる非競合エピトープを認識する(Liuら、1997; Nanusら、2003)。
【0015】
Wolfら(2010a)は、3種類のマウス抗PSMAモノクローナル抗体3/A12、3/E7、および3/F11を作製し、PSMA陽性前立腺癌LNCaPサブ細胞株C4-2に強い結合を示し、平均最大半量飽和濃度は9~17nMであった(EP 1883698 B2)。この抗体により、試験した全正常および腫瘍性前立腺組織標本の上皮細胞が染色された。競合結合試験で明らかになったように、3種類のモノクローナル抗体は異なる細胞外PSMAエピトープに結合している。3/A12のエピトープは、抗体J591のそれに近いか部分的に重複していることが分かった。
【0016】
モノクローナル抗体3/F11からファージディスプレイ法により単離したD7と呼ばれる抗PSMA単鎖抗体断片(scFv)を用いて、シュードモナスエキソトキシンAのD7のcDNAへのC末端連結による免疫毒素の構築を行った。この免疫毒素はPSMA陽性前立腺癌増殖をin vitroならびにin vivoで阻害した(Wolfら、2010b)。
【0017】
未精製LNCaP細胞溶解物で免疫したマウスに由来するモノクローナル抗体3/A12、3/E7、3/F11で得られた結果とは対照的に、同じ研究者らは、精製PSMAで免疫したマウスから3種類のモノクローナル抗体K7、K12、およびD20を得た。これらのモノクローナル抗体は、単離した抗原に対してのみ高い反応性を示したが、生存LNCaP細胞とは弱い反応または反応を示さなかった(Elsasser-Beileら、2006)。
【0018】
Tykvartら(2014)により、13種類のPSMA特異的マウスモノクローナル抗体を、天然および変性抗原に対する結合活性の観点から特徴付けた。
【0019】
WO2001009192(Medarex)は、前立腺特異的膜抗原に対するヒトモノクローナル抗体の開発について記載している。ヒト抗PSMAモノクローナル抗体は、マウスを精製PSMAまたはPSMA抗原の濃縮調製物で免疫することにより作製した。このような精製された抗原は、イオン性界面活性剤による細胞溶解後に免疫吸着により精製されているので、変性PSMAである。
【0020】
WO1997035616(Pacific Northwest Cancer Foundation)は、前立腺特異的膜抗原の細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体について記載している。C末端ペプチドまたはPSMA発現腫瘍膜標本を用いて免疫化を行った。得られたモノクローナル抗体はPSMA発現細胞に特異的に結合しなかったため、診断または治療目的に用いることはできない。
【0021】
Banderら(2003)は、前立腺特異的膜抗原に対するモノクローナル抗体を開示した。免疫化は精製した抗原で行ったので、モノクローナル抗体は細胞結合に適しておらず、これらのモノクローナル抗体のいずれからもscFvは得られなかった。WO1998/03873では、前立腺特異的膜抗原の細胞外ドメインを認識する同じ抗体またはその結合部分を記載しているが、抗体の結合部分が実際に抗原に結合することを示すことはできなかった。
【0022】
抗体医薬品を開発する際には、免疫原性が極めて重要な関心事となる(Almagro and Fransson, 2008)。治療を目的として使用される全ての外因性タンパク質は、レシピエントにおいて抗薬物抗体生成を引き起こす危険性をもたらし(Schellekens 2002)、非ヒト由来の治療タンパク質および抗体の使用は、通常、抗薬物抗体の生成と関連することが見出されており、しばしば有害な免疫複合体の生成および/または治療薬の中和につながる。抗体の起源や性質に加えて、疾患の種類、投与経路、レシピエントの遺伝的背景など、他の因子が免疫原性に影響することが示されている。
【0023】
したがって、様々な理由から、先行技術から上述された抗PSMA抗体は、特に、その免疫原性の可能性、標的認識の欠如、または不十分な結合親和性のために、ヒト治療に適していない。
【0024】
(発明の概要)
先行技術にかんがみて、本発明の1つの目的は、従って、本願に記載されているように、高親和性、特にPSMAの細胞外ドメインのエピトープで前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合するヒト化抗体、抗体断片または抗体誘導体を提供することであった。
【0025】
本明細書に開示されている抗体、抗体断片またはその抗体誘導体は、特に適切なリガンド親和性を維持する好ましいVHおよびVLベースの抗原結合領域のヒト化配列を含む。前記ヒト化配列を得るためのアミノ酸配列改変は、CDR領域および/または元の抗体のフレームワーク領域、および/または抗体定常領域配列に起こり得る。
【0026】
本発明のさらなる目的の1つは、天然の細胞表面PSMAに特異的に結合し、したがって前立腺癌の標的抗原としてPSMAに焦点を当てた診断および治療への応用において価値を有する抗体を提供することであった。
【0027】
本発明のさらなる目的の1つは、前立腺癌または神経障害の治療方法に使用するための化合物を提供することであった。
【0028】
本発明のさらなる目的の1つは、PSMAを発現する前立腺癌細胞を破壊する化合物を提供することであった。
【0029】
本発明の別の目的は、ヒトにおける免疫原性は低いかまたは免疫原性がない抗体、抗体断片またはその抗体誘導体を提供することであった。好ましくは、この抗体はモノクローナル抗体、抗体断片またはその抗体誘導体である。
【0030】
本発明の別の目的は、好ましくはアマトキシンを含む、前立腺癌および他の疾患の治療方法に使用するための抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を提供することであった。
【0031】
本発明によるヒト化配列、特に標的分子への結合に関与するVHおよびVL領域のCDR配列が、実施例で実証されているように特異的かつ強力な結合を示し、抗体のヒト化後に通常必要とされるいかなる親和性成熟も伴わずに元のマウス抗体3F11の結合特徴を保持するか、またはそれを超えさえすることは、全く驚くべきことであった。当業者は、ヒト化バリアントの結合特性が、オリジナルのマウス抗体よりも優れた結合特性は言うまでもなく、類似したものになるとは予想していなかったであろう。可変ドメイン、特にCDRにおける配列変化を考慮すると、本明細書で示されたヒト化配列の有益な結合特徴は驚くべき技術的効果と考えられなければならない。
【0032】
さらに、本発明によるヒト化配列では、真核生物宿主細胞で発現させた場合、親抗体配列よりも有意に良好な発現収量が得られたことは、完全な驚きであった。したがって、本発明によるヒト化抗体のバイオテクノロジー産生、またはその抗体断片または抗体誘導体は、親抗体配列を用いるよりもかなり安価に行うことができる。
【0033】
これらおよび他の目的は、独立した請求項に従った方法および手段によって達成される。従属請求項は、具体的な実施形態に関連する。
【0034】
本発明およびその特徴の一般的な利点を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】ホモ二量体としてのPSMA膜貫通タンパク質の模式図(エバンスら、2016年から)。
図2】抗体の模式図。2本の同一の重鎖(H鎖)と2本の同一の軽鎖(L鎖)を示すIgG構造。H鎖には、3つのCドメイン(CH1~CH3)と1つのVHの4つのドメインがある。L鎖は1つのCLドメインと1つのVLドメインを持つ。Fv断片(四角で示す)は抗原と相互作用する分子の部分である。VLとVHの非共有結合対合によって構成される。Fv断片は、超可変ループの配置を示す抗原から見たところが示されている(Almagro and Fransson, 2008から)。
図3】抗体3F11のヒト化/脱免疫化バリアントの可変重鎖(VH)領域の配列アラインメント。マウス3F11-wtに対するアミノ酸置換は太字である。
図4】抗体3F11のヒト化/脱免疫化バリアントの可変軽鎖(VL)領域の配列アラインメント。マウス3F11-wtに対するアミノ酸置換は太字である。
図5】還元条件下でヒト化3F11抗体バリアント13-16の分析のためのSDS-PAGEおよびクーマシー染色。ゲル上のウェルあたり1μgの試料および対照を装填した。
図6】ヒト化3F11抗体バリアントの結合用量-応答曲線。シンボルは、1回の実験について正規化した結合データの複製試料(ヒト化試料でn=2、キメラ3F11-wt抗体でn=8)の平均±SEMを表す。MFI対対数用量変換データは、最大および最小MFI値を用いて正規化した。すべての場合においてR2≧0.99である。
図7】ヒト化3F11抗体バリアントに対するEC50結合。シンボルは平均EC50を表し、バーは95%信頼区間(CI)を示す。黒点線は3F11-wt抗体(n=8)の95%CIを示し、赤点線は1回の実験の3F11-var7(n=1)の95%CIを示す。最も高い結合活性(3F11-var7)を有するバリアントおよびwt抗体は、塗りつぶされたシンボルで強調される。
【発明の詳細な説明】
【0036】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は説明されたデバイスの特定の構成要素部分に限定されず、あるいはそのようなデバイスおよび方法は変化する可能性があるので、説明された方法のプロセス工程に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことを理解されたい。明細書および添付の請求項において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は文脈が明確に別途指示しない限り、単数形および/または複数形の参照を含むことに留意されたい。さらに、数値によって区切られるパラメータ範囲が与えられる場合、その範囲は、これらの限界値を含むものとみなされることを理解されたい。
【0037】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しない個々の実施形態として理解されることを意味しないことを理解されたい。一実施形態で議論される特徴は、本明細書に示される他の実施形態に関連しても開示されることを意味する。1つの場合において、特定の特徴が1つの実施形態で開示されず、別の実施形態で開示される場合、当業者は、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることを意味しないことを必ずしも意味しないことを理解するのであろう。当業者であれば、他の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の主旨であるが、単に明瞭にするため、および本明細書を管理可能な量に維持するために、これが行われていないことを理解されよう。
【0038】
さらに、本明細書で参照される先行技術文献の内容は、参照により援用される。これは、特に、標準的または通常方法を開示する先行技術文献を指す。その場合、参照による援用は、主に、十分な可能な開示を提供し、長時間の繰り返しを回避する目的を有する。
【0039】
本明細書中で使用する「抗体」という用語は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片またはそれに由来するcDNAによってコードされる1つ以上のポリペプチド鎖からなるタンパク質を意味する。前記免疫グロブリン遺伝子には、軽鎖カッパ、ラムダおよび重鎖アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミュー定常領域遺伝子ならびに多くの様々な可変領域遺伝子のいずれかが含まれる。
【0040】
基本的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは通常、軽鎖(L、分子量約25kDa)と重鎖(H、分子量約50~70kDa)の2本の同一なポリペプチド鎖対からなる四量体である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VHまたはVHと略す)と重鎖定常領域(CHまたはCHと略す)で構成されている。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわち、CH1、CH2およびCH3からなる。それぞれの軽鎖には、軽鎖可変領域(VLまたはV Lと略す)と軽鎖定常領域(CLまたはC Lと略す)が含まれている。VHおよびVL領域はさらに超可変性の領域に細分化することができ、これらはフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域の間に挿入された相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。各VHおよびVL領域は、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順にアミノ末端からカルボキシ末端に配列する3つのCDRおよび4つのFRから構成されている。重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを形成している。
【0041】
CDRは、抗体またはその抗原結合部分の結合にとって最も重要である。FRは、抗原の結合に必要な三次元構造が保持されていれば、他の配列に置き換えることができる。構築物の構造変化は、抗原への十分な結合の損失につながることが最も多い。
【0042】
(モノクローナル)抗体の用語「抗原結合部分」とは、その天然型において前立腺特異的膜抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上の断片を意味する。抗体の抗原結合部分の例としては、Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、F(ab’)2断片、ヒンジ領域でのジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片、VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、およびVHドメインと単離された相補性決定領域(CDR)からなるdAb断片が挙げられる。
【0043】
本明細書中で用いる「モノクローナル抗体(mAb)」とは、均質な抗体集団を有する抗体組成物、すなわち、全免疫グロブリンまたはその断片もしくは誘導体からなる均質な集団を意味する。特に好ましい、そのような抗体は、IgG、IgD、IgE、IgAおよび/またはIgM、またはそれらの断片または誘導体からなる群より選択される。
【0044】
本明細書中で使用される「断片」という言葉は、標的結合能を保持するこのような抗体の断片、例えば、CDR (相補性決定領域)、超可変領域、可変ドメイン(Fv)、IgG重鎖(VH、CH1、ヒンジ、CH2およびCH3領域からなる)、IgG軽鎖(VLおよびCL領域からなる)、および/またはFabおよび/またはF(ab)2を指す。
【0045】
本明細書中で使用される「誘導体」という用語は、構造的には異なるが、依然としていくつかの構造的関連性を有するタンパク質構築物、例えばscFv、Fabおよび/またはF(ab)2、ならびに二重特異性、三重特異性またはより高い特異性の抗体構築物を指す。これらの項目はすべて以下に説明する。
【0046】
当業者に知られている他の抗体誘導体は、ダイアボディ、ラクダ抗体、ドメイン抗体、scFvからなる2本の鎖を有する二価ホモ二量体、IgA(J鎖と分泌成分によって結合された2つのIgG構造)、サメ抗体、新世界霊長類のフレームワークに加えて非新世界霊長類CDRからなる抗体、CH3+VL+VHを含む二量体構築物、CDRを含む他の足場タンパク質フォーマット、および抗体コンジュゲート(薬物、毒素、サイトカイン、アプタマー、デソキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)などの核酸、治療用ポリペプチド、放射性同位元素または標識に連結されている例えば抗体、またはその断片もしくは誘導体)である。前記骨格タンパク質フォーマットは、例えば、アンキリンおよびアフィリンタンパク質などを含み得る。
【0047】
本明細書中で使用される、用語「Fab」は、抗原結合領域を含むIgG断片に関するものであり、前記断片は、抗体の各々の重鎖および軽鎖からの1つの定常および1つの可変ドメインで構成される。
【0048】
本明細書中で使用される、「F(ab)2」という言葉は、ジスルフィド結合によって互いに結合した2つのFab断片からなるIgG断片に関する。
【0049】
本明細書中で使用される「scFv」という言葉は、一本鎖可変断片が、通常セリン(S)および/またはグリシン(G)残基を含む短いリンカーと共に連結された、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の融合体であることに関する。このキメラ分子は、定常領域を除去し、リンカーペプチドを導入するにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。
【0050】
改変された抗体フォーマットは、例えば、二重または三重特異性抗体構築物、抗体ベースの融合タンパク質、免疫コンジュゲートなどである。
【0051】
IgG,scFv,Fabおよび/またはF(ab)2は当業者によく知られた抗体フォーマットである。関連する有効化技術は、それぞれの教科書から入手することができる。
【0052】
マウス由来のモノクローナル抗体(mAb)は、抗体を誘発する可能性のある別種由来のタンパク質を含むため、望ましくない免疫学的副作用を引き起こす可能性がある。この問題を克服するために、抗体のヒト化および成熟化方法は、非ヒト親抗体の特異性および親和性を理想的には依然として保持しながら、ヒトに適用した場合に最小限の免疫原性を有する抗体分子を生成するように設計されている(レビューはAlmagroおよびFransson 2008を参照のこと)。これらの方法を用いて、例えば、マウスMAbフレームワーク領域を対応するヒトフレームワーク領域に置き換える(いわゆるCDR移植)。WO200907861は、組換えDNA技術によって、非ヒト抗体のCDR領域をヒト定常領域に結びつけることによって、マウス抗体のヒト化形態の作製を開示する。Medical Research CouncilによるUS6548640にはCDR移植技術が記載されており、CelltechによるUS5859205にはヒト化抗体の産生が記載されている。
【0053】
しかしながら、CDRのコンホメーションを維持するためには、いわゆるVernierゾーンの支持フレームワーク残基のセットが重要であるため(Foote and Winters 1992)、CDR移植によるヒト化はしばしば結合親和性の有意な低下またはさらには損失をもたらす。これらの残基は、超可変ループ構造を安定化し、その位置を改変する役割を担い、抗体親和性を微調整する。ヒトフレームワークにマウス残基を再導入する(クイーンら1989)ことで、この課題に対処できる。このような置換は一般に「復帰変異(back-mutations)」と呼ばれる。
【0054】
免疫原性とは、抗原提示細胞(APC)に提示されたHLA (ヒト白血球抗原)クラスII分子に結合したペプチドを特異的なT細胞レセプターが認識することによって引き起こされるヘルパーT(Th)細胞応答を誘導する能力である。ペプチドは抗原提示細胞によって細胞内に取り込まれたタンパク質から産生され、エンドソームによる切断経路を介してプロセシングされる。HLAクラスII分子に十分な親和性をもつペプチドのみがAPCの細胞表面に提示され、おそらくTh応答を引き起こす可能性がある。
【0055】
脱免疫化として知られるプロセスを用いれば、Thエピトープを除去することによって免疫原性をさらに低下させることができる(Chamberlain 2002; Baker and Jones 2007)。これは、それぞれの治療タンパク質中のどのペプチドがHLAクラスII分子に結合できるかを予測し、続いてHLAクラスII分子に対するペプチド結合親和性を排除または低下させる置換を導入することにより達成される。
【0056】
いくつかのHLAクラスII遺伝子があり、HLAクラスII分子はアルファ鎖とベータ鎖からなり、それぞれが異なる遺伝子から発現し、変異が増加し(DRA/DRB、DQA/DQB、およびDPA/DPB)、ほとんどすべてが高度に多型である;DRAのみが非多型である。脱免疫化時の焦点は、DQおよびDPよりも高いレベルで発現することが知られているDRアロタイプにある。個々のエピトープの関連性の評価は、集団におけるアロタイプの重要性(発生頻度)とHLA‐ペプチド複合体結合強度の定性的評価と同様に、乱交雑の基準、すなわち、特定エピトープが結合するHLAアロタイプの数に基づいている。個々のT細胞集団は、抗体のような内因性タンパク質の「自己ペプチド」を認識しないように選択されてきたので、通常はTh応答を誘導すべきではない(既知の)自己ペプチドに対応するペプチドに対して、脱免疫するタンパク質をスクリーニングすることができる。
【0057】
本明細書中で使用される「ヒト化抗体」という言葉は、抗体、断片またはその誘導体に関するものであり、この用語は、抗体の定常領域および/またはフレームワーク領域の少なくとも一部、および任意にCDR領域の一部が、ヒト免疫グロブリン配列に由来するか、またはヒト免疫グロブリン配列に調整される。
【0058】
請求項に記載されている核酸またはアミノ酸配列の配列バリアントであって、クレームされている配列同一性%(相同性)により定義され、本発明に係る抗体、断片または抗体の誘導体の前記特性を維持するものも、本発明の範囲に含まれる。用語「配列同一性」は、配列アラインメントを実施する際の同一ヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージに関連する。
【0059】
本明細書中で使用される、用語「アミノ酸置換」は、タンパク質のアミノ酸配列の改変に関するものであり、ここで、1つ以上のアミノ酸が同じ数の異なるアミノ酸と置換され、元のタンパク質とは異なるアミノ酸配列を含むタンパク質が生成される。保存的アミノ酸置換は、類似の大きさ、電荷、極性および/または立体構造による、タンパク質の構造および機能に有意に影響しない置換に関係すると理解される。その意味での保存的アミノ酸の群、例えば、非極性アミノ酸であるGly、Ala、Val、IleおよびLeu;芳香族アミノ酸であるPhe、TrpおよびTyr;正電荷を帯びたアミノ酸であるLys、ArgおよびHis;ならびに負電荷を帯びたアミノ酸であるAspおよびGluを表す。
【0060】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗体断片または抗体誘導体に関する。
【0061】
以下では、好ましいCDR配列について考察する。CDRは、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインにできるように、適当なタンパク質フレームワークで構成されていることを理解することが大切である。
【0062】
本発明はまた、
-GX1TX2TX34(CDR H1)[式中、X1,X2,X3およびX4は各々Y、F、Wである]、
-GISPGDX5NX6NYX789FX10G(CDR H2)[式中、X5はG、Sであり、X6はT、Vであり、X7はN、Aであり、X8はE、Qであり、X9はN、Kであり、X10はK、Qである]、および
-DGNX11PX1213AMDS(CDR H3)[式中、X11,X12,X13は各々Y,F,Wである]
のCDR配列を含むVHドメインを含む、PSMAの細胞外ドメインに結合するヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体を提供する。
【0063】
本発明はまた、VHドメインがCDR H1配列GYTFTYF(配列番号1)を含む、前記ヒト化抗体、またはその抗体断片または抗体誘導体を提供する。
【0064】
本発明はさらに、PSMAの細胞外ドメインに結合する、前記ヒト化抗体、またはその抗体断片または抗体誘導体を提供し、ここで、VHドメインはCDR H2配列、配列番号2または配列番号7または配列番号9または配列番号11を含む。
【0065】
本発明はさらに、PSMAの細胞外ドメインに結合する、前記ヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関するものであって、ここで、VHドメインはCDR H3配列DGNFPYYAMDS (配列番号3)を含む。
【0066】
好ましい実施態様において、PSMAの細胞外ドメインへの結合、抗体、またはその抗体断片または抗体誘導体は、
・配列番号1および
・配列番号2または配列番号7または配列番号9または配列番号11
・および配列番号3
を含むVHドメインを含む。
【0067】
さらに好ましい実施形態では、PSMAの細胞外ドメインに結合する抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、配列番号13、15、17または19のいずれかを含むVHドメインを含む。
【0068】
本発明はまた、
-RSSQSLVHSX1GX2TX3LH(CDR L1)[式中、X1がN、Sであり;X2がN、Qであり;X3がY、F、Wである]、
-TVSNRX4S(CDR L2)[式中、X4がA、Y、F、Wである]、および
-SQSTHVPT(CDR L3)
のCDR配列を含むVLドメインを含み、PSMAの細胞外ドメインに結合する、ヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0069】
好ましい実施態様において、前記抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、CDR L1配列、配列番号4または配列番号8または配列番号10を含むVLドメインを含む。
【0070】
別の好ましい実施形態では、前記抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、CDR L2配列、配列番号5または配列番号12を含むVLドメインを含む。
【0071】
さらなる好ましい実施態様において、前記抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、
・配列番号4または配列番号8または配列番号10、および
・配列番号5または配列番号12、
・および配列番号6
の組合せを含むVLドメインを含む。
【0072】
本発明は特に、配列番号14、16、18または20のいずれかを含むVLドメインを含む抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0073】
本発明はまた、上記のVH CDR配列の少なくとも1つと、上記のVL CDR配列の少なくとも1つとの組合せを含む、抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0074】
本発明はまた、配列番号13、15、17および19からなる群から選択されるVHドメイン配列の少なくとも1つ、ならびに配列番号14、16、18および20からなる群から選択されるVLドメイン配列の少なくとも1つの組合せを含む、前記抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0075】
本発明はまた、EC50<0.4μg/mlの親和性、好ましくはEC50<0.3μg/mlの親和性、最も好ましくはEC50<0.4μg/mlの親和性で、PSMAの細胞外ドメインに結合する、上記の任意のそのような抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0076】
前記ヒト化抗PSMA抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体をグリコシル化することができる。グリカンは、重鎖のアスパラギン297のN-結合オリゴ糖鎖であり得る。
【0077】
前記前立腺特異的膜抗原は、哺乳類、非霊長類、霊長類、特にヒト前立腺特異的膜抗原であり得る。
【0078】
本発明による抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、モノクローナル抗体であり得る。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMアイソタイプであり得る。
【0079】
本発明は、可変ドメイン(Fv)、Fab断片およびF(ab)2断片からなる群より選択される抗体断片に関する。本発明はまた、好ましくは一本鎖Fv (scFv)である抗体誘導体に関する。
【0080】
好ましい実施態様においては、本出願に記載された、ヒト化抗体、またはscFvのようなその断片もしくは誘導体は、天然の細胞表面PSMAに特異的に結合するので、例えば前立腺癌の標的抗原としてPSMAに焦点を当てた診断および治療への応用において価値を有するであろう。PSMAは、特異的な三次および四次構造を有する前立腺癌細胞上で発現されるので、特に、この細胞立体構造に対する抗体は、生存可能な前立腺癌細胞およびPSMA発現組織を認識し、かつ強く結合することができる。従って、本研究の目的の1つは、前立腺癌の治療的および診断的ターゲティングに用いることができる、そのような抗体、またはその断片もしくは誘導体を生成することであった。
【0081】
好ましい態様において、本発明はさらに、場合によりリンカー部分を介して治療薬に結合された、上記のようなヒト化抗体、またはその断片もしくは誘導体を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC、または免疫コンジュゲートとも呼ばれる)に関する。
【0082】
前記治療薬は、例えば、薬物、化学療法剤、細胞毒性剤、例えば、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、毒素、増殖阻害剤、アプタマー、デソキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のような核酸、治療用ポリペプチド、または放射性物質であり得る。
【0083】
ADCは、治療薬と抗PSMA抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体との間のリンカー領域を含み得る。リンカーは、例えば、限定されるわけではないが、切断剤または酸性pH条件によって切断可能である。
【0084】
本発明の別の態様では、ヒト化抗PSMA抗体またはその断片もしくは誘導体が提供され、この抗体は医薬製剤中に処方されている。
【0085】
水性形態では、前記医薬製剤は、投与準備済でもよく、一方、凍結乾燥形態では、前記製剤は、例えば、限定されないが、例えば、ベンジルアルコール、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、レチニルパルミテート、およびセレンのような抗酸化剤、アミノ酸システインおよびメチオニン、クエン酸およびクエン酸ナトリウム、パラベン類メチルパラベンおよびプロピルパラベンのような合成防腐剤を含んでもよく、または含まなくてもよい注射用水を加えることによって、液状形態に移すことができる。
【0086】
前記医薬製剤は、さらに、例えばアミノ酸、糖ポリオール、二糖類および/または多糖類であり得る1つ以上の安定剤を含み得る。前記医薬製剤は、1つ以上の界面活性剤、1つ以上の等張化剤、および/または1つ以上の金属イオンキレート剤、および/または1つ以上の防腐剤をさらに含むことができる。
【0087】
本明細書に記載される医薬製剤は、少なくとも静脈内、筋肉内または皮下投与に適している。あるいは、本発明による抗体は、一定期間にわたる生物学的に活性な薬剤の持続的放出を可能にするデポ剤で提供されてもよい。
【0088】
本発明のさらに別の態様では、充填済み注射器もしくはペン、バイアル、または注入バッグのような一次包装が提供され、これは、本発明の以前の態様による前記製剤および/または前記ヒト化抗PSMA抗体、またはその断片または誘導体を含む。
【0089】
充填済み注射器またはペンは、凍結乾燥形態(次いで、投与前に、例えば注射用水で溶解されなければならない)、または水性形態のいずれかで製剤を含有していてもよい。前記注射器またはペンは、単回使用のみのディスポーザブルの物品であることが多く、容量が0.1~20mlの場合がある。しかしながら、注射器またはペンは、多回使用または多回投与注射器またはペンでもよい。
【0090】
前記バイアルはまた、凍結乾燥形態または水性形態の製剤を含有していてもよく、単回または複数回の使用装置として役立つことがある。複数回使用装置として、前記バイアルはより大きな容量を有することができる。前記輸液バッグは、通常、水性形態の製剤を含み、20~5000mlの容量を有し得る。
【0091】
前記医薬製剤は、PSMAの過剰発現に関連する医学的障害の治療を目的とし、少なくとも薬学的に許容される担体とともに、本明細書に記載されるヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体を含む。
【0092】
PSMAの過剰発現に関連する前記医学的障害は、例えば、前立腺癌または神経疾患であり得る。ヒト化抗PSMA抗体またはその断片もしくは誘導体は、体液性もしくは細胞性免疫機能を活性化することにより、または上述のように結合されたサイトトキシンもしくは放射能で腫瘍を標的とすることにより、抗腫瘍作用を媒介することができる。
【0093】
本発明は、前立腺癌の治療に使用するために本明細書に記載される抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0094】
本発明はまた、本明細書に記載されるように、抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体の有効量を投与することを含む、前立腺癌に罹患している患者を治療する方法に関する。
【0095】
本発明の別の態様は、単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片もしくは誘導体を含む腫瘍細胞の検出のための診断キットに関し、これにより、適切な検出試薬およびデバイスと結合した後に、その検出が可能になる。また、本発明は、同定される腫瘍細胞を単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片もしくは誘導体と接触させる腫瘍細胞のin vitro同定のための方法を提供し、これは適切な分析装置によって検出できる標識を担持する。この標識は、例えば、手術または生検後に得られたヒト組織の切片において、腫瘍細胞の診断的同定を可能にする。
【0096】
本発明はまた、前記ヒト化抗PSMA抗体、またはその断片もしくは誘導体を産生することができる宿主細胞、および本発明の前記抗体のコード配列を含む組換えプラスミドをトランスフェクトした細胞株に関する。
【0097】
本発明の別の好ましい実施形態によると、前記宿主細胞は哺乳動物細胞である。本発明のさらに別の好ましい実施態様によれば、前記宿主細胞は、例えばベビーハムスター腎臓細胞(例えば、BHK21)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、マウス骨髄腫細胞(例えば、SP2/0またはNS0)、ヒト胚性腎細胞(例えば、HEK-293)、ヒト網膜由来細胞(例えば、PER-C6)、および羊膜細胞(例えば、CAP)を含む群から選択される少なくとも1つである。
【0098】
1つの実施形態において、哺乳動物細胞はCHO細胞株(例えば、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DXB、またはCHO-dhfr-)である。
【0099】
本発明はまた、本出願に記載されるようなPSMAに結合する、ヒト化抗体、その抗体断片または抗体誘導体をコードする核酸に関する。
【0100】
1つの実施形態において、本発明は、
配列番号1に記載のCDR H1配列、
配列番号2、配列番号7、配列番号9、および配列番号11に記載の配列のいずれかから選択されるCDR H2配列、および
配列番号3に記載のCDR H3配列
を含む可変重鎖(VH)ドメイン、ならびに
配列番号4、配列番号8および配列番号10に記載の配列のいずれかから選択されるCDR L1配列、
配列番号5および配列番号12に記載の配列のいずれかから選択されるCDR L2配列、および
配列番号6に記載のCDR L3配列
を含む可変軽鎖(VL)ドメインを含むが、
配列番号1に記載のCDR H1配列、配列番号2に記載のCDR H2配列、配列番号3に記載のCDR H3配列、配列番号4に記載のCDR L1配列、配列番号5に記載のCDR L2配列、および配列番号6に記載のCDR L3配列の組合せを含まず、
前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合する、
ヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0101】
疑義を避けるために、前記CDRの考えられる24の組合せ(すなわち、1つのCDR H1、1つのCDR H2、1つのCDR H3、1つのCDR L1、1つのCDR L2、および1つのCDR L3の組合せ)はすべて、本明細書において個別に開示されるものとみなされる。
【0102】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号13、配列番号15、配列番号17、および配列番号19のいずれかの配列から選択される配列に対して少なくとも90%、好ましくは95%の配列相同性を有するVHドメインを含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0103】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号13、配列番号15、配列番号17、および配列番号19のいずれかの配列から選択されるVHドメイン配列を含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0104】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20のいずれかの配列から選択される配列に対して少なくとも90%、好ましくは95%の配列相同性を有するVLドメインを含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0105】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列を含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0106】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号13に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または配列番号15に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または配列番号17に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列、または配列番号19に記載のVHドメイン配列および配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20に記載のいずれかの配列から選択されるVLドメイン配列を含む、ヒト化抗体または抗体断片もしくはその抗体誘導体に関する。
【0107】
1つの実施形態において、本発明は、ヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関するものであり、ここで、重鎖が配列番号21、配列番号23、配列番号25、または配列番号27のいずれかの配列を含む。
【0108】
一実施形態では、本発明は、軽鎖が配列番号22、配列番号24、配列番号26、または配列番号28の配列のいずれかを含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0109】
一実施形態では、本発明は、配列番号21、23、25または27のいずれかの配列を含む少なくとも1つの重鎖、および配列番号22、24、26または28のいずれかの配列を含む少なくとも1つの軽鎖を含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0110】
好ましい態様において、本発明は、配列番号27を含む少なくとも1つの重鎖、および配列番号28を含む少なくとも1つの軽鎖を含む、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0111】
1つの実施形態において、本発明は、EC50<0.4μg/mlの親和性でPSMAの細胞外ドメインに結合する、本発明のヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0112】
1つの実施形態において、本発明は、抗体がグリコシル化されている、本発明のヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。前記グリコシル化は、重鎖のアスパラギン297のN-結合オリゴ糖鎖であるグリカンに関連し得る。
【0113】
1つの実施形態において、本発明は、ヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関するものであり、ここで、前記前立腺特異的膜抗原はヒト前立腺特異的膜抗原である。
【0114】
本発明のヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体は、モノクローナル抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体であり得る。前記モノクローナル抗体は、好ましくはアイソタイプIgGであり得る。
【0115】
本発明のヒト化抗体断片は、可変ドメイン(Fv)、Fab断片およびF(ab)2断片からなる群から選択することができる。
【0116】
本発明のヒト化抗体誘導体は、一本鎖Fv (scFv)であることができる。
【0117】
一実施形態では、本発明は、ヒト化抗体、またはその断片もしくは誘導体を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)に関し、本発明は、場合によりリンカー部分を介して、治療薬に結合体化される。
【0118】
1つの実施形態において、本発明は、少なくとも薬学的に許容される担体と一緒に、本発明のヒト化抗体またはその抗体断片もしくは抗体誘導体を含む、PSMAの過剰発現に関連する医学的障害の治療のための医薬製剤に関する。PSMAの過剰発現に関連する前記医学的障害は前立腺癌であり得る。本発明の前記医薬製剤は、少なくとも静脈内、筋肉内または皮下投与に適した製剤であり得る。
【0119】
1つの実施形態において、本発明は、前立腺癌の治療に使用する本発明のヒト化抗体、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体に関する。
【0120】
1つの実施形態において、本発明のヒト化抗体の有効量、またはその抗体断片もしくは抗体誘導体を患者に投与することを含む、前立腺癌に罹患している患者を治療する方法に関する。
【0121】
一実施形態では、本発明は、本発明のヒト化抗体その抗体断片もしくは抗体誘導体をコードする核酸に関する。
【0122】
1つの実施形態において、本発明は、本発明のヒト化抗体、その抗体断片もしくは抗体誘導体を産生することができる宿主細胞に関する。本発明の前記宿主細胞は哺乳動物細胞であり得る。本発明の前記哺乳動物細胞は、好ましくはCHO細胞株である。
【0123】
本発明の抗体または断片もしくは誘導体は、本発明の抗体のコード配列を含む発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクションすることによって産生することができる。発現ベクターまたは組換えプラスミドは、コード化抗体配列を、例えばCMVプロモーターのようなプロモータおよびエンハンサ配列を含む適切な調節性遺伝要素の制御下に置くことによって生産される。重鎖配列および軽鎖配列は、同時トランスフェクトされる個々の発現ベクター、または二重発現ベクターから発現され得る。前記トランスフェクションは、一過性のトランスフェクションまたは安定なトランスフェクションであり得る。トランスフェクトされた細胞は、続いて、トランスフェクトされた抗体構築物を産生するために培養される。安定なトランスフェクションを実施する場合、次に、適切に関連する重鎖および軽鎖を有する抗体を分泌する安定なクローンを、例えば、ELISA、サブクローン化、および将来の産生のために増殖するような適切なアッセイによるスクリーニングによって選択する。
【実施例
【0124】
本発明は図面および前記の説明において詳細に図示および説明されてきたが、そのような図示および説明は例示または例示的であり、限定的ではないと考えられるべきであり、本発明は開示された実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形形態は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から、請求される発明を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という語は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a(1つの)」または「an(1つの)」は複数形を除外するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを使用して利益を得ることができないことを示すものではない。特許請求の範囲のどの引用符号も、範囲を限定すると解釈するべきではない。
【0125】
本明細書に開示される全てのアミノ酸配列は、N末端からC末端まで示される;本明細書に開示される全ての核酸配列は、5’->3’で示される。
【0126】
実施例1:マウス抗体3F11のヒト化と脱免疫化
マウス抗PSMA抗体3/F11(Wolf et al., 2010a; EP 1883698 B2)は、ヒト生殖細胞系のセットから選択されたアクセプターフレームワークへの相補性決定領域(CDR)の移植によりヒト化に供された。
【0127】
85のHLAクラスIIアロタイプに対する親3/F11のEpibase(登録商標)イムノプロファイリングを行い、HLA-DRB1アロタイプに焦点を当てて、HLAアロタイプへの結合を除去または減少させると考えられる置換のためのエピトープまたは隣接エピトープのクラスターを分析した。VH/VL鎖間界面を構成するか、またはCDRのカノニカル構造の別個のセットに関与する重要な位置が同定された。ヒト生殖系列配列に対する親抗体配列の配列アラインメントに基づき、最も近いマッチング、アクセプターとしての最適なヒト生殖系列配列が同定され、フレームワーク全体にわたる特に配列同一性、同一または適合する鎖間界面残基、親CDRカノニカルコンホメーションを有する支持ループ、および発現された抗体中に見出される重および軽鎖生殖系列の組合せを配慮して同定された。3/F11は、それぞれ、VK2軽鎖生殖系列ファミリーVK2およびヒト重鎖生殖系列ファミリーVH1のヒト軽鎖生殖系列VK2-A17および重鎖生殖系列VH1-1-69に最も適合性があることがわかった。CDR移植については、選択されたアクセプターとは異なる親フレームワークのアミノ酸が対応するヒトアミノ酸と置換された。
【0128】
治療製品の開発中に問題を引き起こす可能性のある潜在的な翻訳後修飾部位(アスパラギン脱アミド化、アスパラギン酸異性化、C末端リジンクリッピング、遊離Cysチオール基、N-およびO-グリコシル化、N末端環化、酸化およびピログルタミン酸形成)について配列を分析した。3/F11とバリアントのFV‐領域の構造モデルを、in silicoモデリングプラットフォームを用いて生成し、完全FVだけでなくフレームワークとCDRのための候補構造断片をスコア化し、ランク付けした。
【0129】
効果的な方法で考えられる全ての置換の影響を評価するために、適切な場合には置換をグループ分けし、計4匹のヒト化/非免疫化軽鎖と4匹のヒト化/非免疫化重鎖を選択した。表2に遺伝子工学的に改変されたアミノ酸鎖の名称を、修飾の説明とともに列挙する。遺伝子工学的に改変された鎖のアミノ酸配列を表1に示す。ヒト化/非免疫化軽鎖および重鎖のそれぞれの配列アラインメントを、図3および4に示す。
【0130】
重鎖可変ドメインバリアント3F11-VH-1は、親マウスVH配列の3つのCDRすべてを含む。バリアント3F11-VH-2では、2つのCDRは親マウスVH配列と同一であるが、CDR H2は親マウス配列と4つの位置が異なる(aa 61-63: NEN > AQK、aa 65: K > Q)。バリアント3F11-VH-3では、やはり2つのCDRが親マウスVH配列と同一であるが、CDR H2は親マウス配列とは5つの位置が異なる(aa 58: T > V、aa 61-63: NEN > AQK、aa 65:K > Q)。バリアント3F11-VH-4では、ここでも2つのCDRが親マウスVH配列と同一であるが、CDR H2は親マウス配列とは6つの位置が異なる(aa 56: G > S、aa 58: T > V、aa 61-63: NEN > AQK、aa 65: K > Q)。
【0131】
軽鎖可変ドメインバリアント3F11-VL-1は、親マウスVL配列の3つすべてのCDRを含む。バリアント3F11-VL-2において、2つのCDRは親マウスVL配列と同一であるが、CDR L1はアミノ酸番号35(N > Q)における置換を含む。バリアント3F11-VL-3では、2つのCDRは親マウスVL配列と同一であるが、CDR L1は親マウス配列と2つの位置が異なる(aa 33: N > S、aa 35: N > Q)。バリアント3F11-VL-4では、CDR L1は親マウス配列と2つの位置(aa 33: N > S、aa 35: N > Q)が異なり、CDR L2は1つの位置(aa 60: F > A)が異なり、CDR L3は親マウス配列と同一である。
【0132】
(表2)
【0133】
3F11-VL-2は任意に次の変異を有する: aa 41: F>Y。3F11-VL-3は任意に次の変異を有する: aa 41: F>Y。3F11-VL-4は任意に以下の変異を有する: aa 41: F>Y; aa 42: L>Q、および/またはaa 90: V>T。
【0134】
置換組合せの影響を評価するために、表3に概要を示したようにバリアント組合せの実験デザインを設定した。4つのヒト化/脱免疫化重鎖および4つのヒト化/脱免疫化軽鎖の組合せにより、16の異なるヒト化/脱免疫化全長抗体が誘導され、これらは表3に示すように命名された。
【0135】
表3:3F11ヒト化/脱免疫化バリアントVHおよびVL鎖の組み合わせは、それぞれ、ヒト化バリアントドメインおよび全長抗体の16の異なるバリアントを形成する。3F11 wtは、マウスのVHおよびVL鎖で構成されている。
(表3)
【0136】
親およびヒト化/脱免疫化配列に対するHLA DRB1、DRB3/4/5、DQおよびDPの予測される重要なエピトープを表4に示す。表4の親抗体とバリアント抗体の相違は、それぞれの潜在的エピトープの除去を考慮するものである。
【0137】
表4:親およびヒト化/脱免疫化配列のHLA DRB1、DRB3/4/5、DQおよびDPの予測される重要なエピトープ数
(表4)
【0138】
実施例2:ヒト化抗PSMA抗体バリアントの発現と精製
抗体の重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインを合成し、GS Xceed(登録商標)ベクター(ロンザ)にサブクローニングした。軽鎖可変ドメインコード領域をpXC-Kappaに、重鎖可変ドメインコード領域をコード化する領域をpXC-IgG1zadeltaKベクターにそれぞれ移入した。
【0139】
単一遺伝子ベクター(SGV)を、200mlスケールで参照マウス抗体と一緒にチャイニーズハムスター卵巣GSノックアウト細胞(CHOK1SV GS‐KO)に一時的に同時トランスフェクトした。一過性のトランスフェクションを、最低2週間培養したCHOK1SV GS‐KO細胞を用いてエレクトロポレーション(Gene Pulse XCell, BioRad)により行った。細胞はトランスフェクションの24時間前に継代培養され、細胞生存率はトランスフェクション時に>99%であった。トランスフェクション後6日目に、細胞生存率および生存細胞濃度を採取時に測定した。細胞は4.4~7.5×106 生存細胞/mlであり、生存率は89.0~96.1%であった。
【0140】
清澄化した上清は、AKTA精製器上にあらかじめ充填した5ml HiTrap MabSelect SuREカラムを用いて、標準法により、タンパク質Aクロマトグラフィーにより精製した。10mMのギ酸ナトリウム、pH 3.5で溶出すると、2xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えて、速やかにタンパク質を含む画分のpHを調整し、1x PBS、5mMギ酸ナトリウム、pH 7.4の最終緩衝条件を得た。以下の表5は、3F11親マウス抗体および種々のヒト化抗体バリアントについての力価および生成物収率を示す。
【0141】
驚くべき影響として、本発明者らは、親マウス3F11抗体と比較して、いくつかのヒト化抗PSMA抗体バリアントについて有意に高い発現力価を観察した(表AA参照)。ヒト化バリアント3F11_var2、3F11_var6、3F11_var9、3F11_var11、3F11_var13、3F11_var15および3F11_var16を用いて、親マウス3F11抗体の3.88mg/literと比較して、9.5~13mg/literの発現力価が得られた。発現力価が3~4倍に上昇するため、ヒト化/非免疫化バリアントベースの治療薬の生産コストはかなり削減されることが期待できる。
【0142】
表5:ヒト化3F11抗体バリアントの特性評価の結果
(表5)
【0143】
実施例3:ヒト化抗PSMA抗体バリアントの生化学的特性
Zorbax GF-250(9.4mm ID x 25cm)カラム(Agilent)を用いたAgilent 1200シリーズシステム上で、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)およびサイズ排除(SE)-HPLCにより、精製サンプルを分析した。
【0144】
SDS-PAAゲルでは、非還元条件下で、対照抗体(IgG1)および親3F11に匹敵するすべてのバリアントについて>98kDaのシグナルが認められ、全長抗体と一致していた。還元条件下では、対照抗体および親3F11に匹敵するすべてのバリアントについて、それぞれ約28kDaのシグナルおよび約49kDaの1つのシグナルが認められ、これは抗体軽鎖および重鎖のサイズと一致している。代表的な結果を図5に示す。
【0145】
SE-HPLCにおけるヒト化3F11バリアントモノマー抗体(7.96-8.00分)の保持時間は、3F11マウス親抗体(7.968分)と同等であった。全試料のSE-HPLCクロマトグラフは、より低い保持時間(約7.2分)でさらなるマイナーなピークを示し、その面積は可溶性凝集体などのより高い分子量の不純物に相当する5.4%までであった。
【0146】
実施例4:ヒト化抗PSMA抗体バリアントを用いた細胞結合試験
すべてのヒト化3F11抗体バリアントの質および結合活性を、96-ウェルプレートに基づくアッセイフォーマットおよび細胞に基づくFACS分析において、ヒト前立腺癌細胞株LNCAP(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures, DSMZ no. ACC 256)を用いた細胞結合アッセイにおいて評価した。80~90%コンフルエンスでの前コンフルエンスLNCAP細胞を洗浄し、37℃、5% CO2で1時間インキュベートする前にトリプシンで平板から剥離し、細胞表面タンパク質を回復させた。細胞を洗浄し、染色培地(RPMI‐1640、25mM HEPES、3% h.i. FBSおよび0.02%アジ化ナトリウム)で1x106細胞/mlに調整した。50~0.0032μg/mlの範囲の種々の濃度のモノクローナル抗体試料(マウスwtおよび16ヒト化バリアント)を染色培地で調製し、氷上であらかじめ冷却した96‐ウェルプレート中で細胞とともに30分間インキュベートし、LNCAP細胞表面への抗体結合を可能にした。その後、細胞をPBSで4℃で洗浄して遊離抗体を除去し、結合抗体をFITCヤギ抗ヒトIgG H&L血清吸着処理済(Abcam)二次抗体で30分間氷上で標識した。最後に、細胞を洗浄し、固定し、細胞に結合した抗体に結合したFITC蛍光をフローサイトメトリー(GUAVA 8HTサイトメーター)により測定した。Incyte GuavaSoft 2.7ソフトウェア(Merck-Millipore)を用いてデータを分析した。得られた用量-応答データ(対数変換した用量対応答としてプロット)は、典型的に、可変勾配を有するシグモイド曲線を生じ、これはGraphPad Prismソフトウェアを用いて4パラメータロジスティック用量-応答方程式に適合した。最大標的細胞結合の半分を提供する抗体の濃度として定義されるEC50投与量を用いて、様々な抗体バリアントの生物活性を比較した。データポイントは、重複ウェルの平均値と平均値の標準誤差(SEM)を表す。親3F11 wt抗体と16のヒト化バリアントの結合曲線を図6に示す。
【0147】
全く驚くべきことに、細胞ベースの結合アッセイは、16の3F11ヒト化バリアントの全てが、親マウス抗体3F11で得られたよりも高い親和性でPSMA発現細胞に結合することを明らかにした。ヒト化バリアントの結合活性(EC50)は0.1784~0.3732μg/mlの範囲であり、ほとんどの場合、親抗体3F11(EC50=0.4189μg/ml)よりも有意に高かった(95%信頼区間、CIに基づく)。3F11‐var7は最も高い結合活性(EC50=0.1784μg/ml)を示し、次に3F11‐var8と3F11‐var6(EC50=0.2040μg/mlとEC50=0.2187μg/ml、表6参照)が密接に続いた。1回の実験から得られた結果を図7に示す。
【0148】
表6:ヒト化3F11抗体バリアントのEC50結合活性と95%CI
(表6)
【0149】
これらの知見は、ほとんどのヒト化バリアント(重鎖バリアント3F11_VH_1を含まないすべてのバリアント)がCDR間に及ぶフレームワーク領域に復帰変異(back-mutation)を必要とせず、とくに、親和性の有意な減少または損失のために抗体のヒト化後に通常必要とされることが知られている親和性成熟を経たバリアントはなかった。驚いたことに、本発明のヒト化バリアントの作製手順およびバリアントでは、このような追加の努力は必要ないことがわかった。
【0150】
実施例5:抗PSMA scFv構築物による細胞結合研究
3F11-VH-1および3F11-VL-1鎖(3F11-var1)、ならびに3F11-VH-4および3F11-VL-4鎖(3F11-var16)の組合せも一本鎖Fv (scFv)構築物の作製に用いた。両方の構築物について、それぞれの可変ドメイン配列を、VL-VH組成物において発現ベクターpHOG21へクローン化し、細菌細胞において発現させた。親和性精製後、両scFv構築物のLNCAPサブ細胞株C4-2のPSMA発現細胞への結合およびPSMA陰性DU145前立腺癌細胞への結合を試験した。両scFvコンストラクトはC4‐2細胞に強い結合を示したが、陰性対照DU145細胞には結合しなかった。
【0151】
参考文献:
【0152】
配列
下記の配列は、本出願の開示の一部を形成する。WIPO ST 25互換性のある電子化配列表もまた、この出願と共に提供される。疑義を避けるため、以下の表中の配列と電子化配列表中の配列との間に齟齬が存在する場合、この表中の配列は正しいものとみなされるものとする。
h/d:ヒト化/脱免疫化、CDR:相補性決定領域、FR:フレームワーク領域、CR:定常領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007586399000001.app