(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】変位計測方法および絶対座標付与方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20241112BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20241112BHJP
G01C 7/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
G01C15/00 103A
G01C15/06 T
G01C7/06
(21)【出願番号】P 2021016138
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一雄
(72)【発明者】
【氏名】宮永 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】崔 瑛
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058167(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212102(JP,U)
【文献】特開2020-118580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0204417(US,A1)
【文献】特開2014-002027(JP,A)
【文献】特開2018-163063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 15/06
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dレーザースキャナを用いてトンネル内空の覆工コンクリートの時間経過に伴う変位を計測する変位計測方法であって、
トンネルの壁面に設けた基準点の絶対座標を測量機で測定する第一工程と、
シート状の第一ターゲットを前記基準点に重ねて設置する第二工程と、
前記3Dレーザースキャナで前記壁面をスキャニングして当該壁面の点群データを取得し、前記点群データにおける前記第一ターゲットの位置および前記基準点の絶対座標に基づいて当該点群データに絶対座標を付与する第三工程と、
前記第三工程から所定の期間経過後に、前記壁面を再びスキャニングして当該壁面の新たな点群データを取得し、前記新たな点群データとそれよりも前に取得した点群データとの比較によって変位を算出する第四工程と、を有し、
前記第一ターゲットには位置合わせ用の孔が形成されており、前記第二工程において、当該孔を前記基準点に一致させ
、
前記第二工程において、シート状の第二ターゲットを前記基準点に重ねない状態でトンネル軸方向に並べてさらに設置し、
前記第三工程では、前記3Dレーザースキャナの位置をトンネル軸方向に移動させながら繰り返し前記壁面をスキャニングしてトンネル軸方向に分割した所定区間の点群データを複数取得し、各々の点群データに含まれる前記第一ターゲットまたは前記第二ターゲットを用いて前記点群データを合成すると共に絶対座標を反映し、
前記第二ターゲットには、前記第一ターゲットが有する位置合わせ用の孔が形成されていない、
ことを特徴とする変位計測方法。
【請求項2】
3Dレーザースキャナによって計測した点群データに絶対座標を関連付ける絶対座標付与方法であって、
計測対象に設けた基準点の絶対座標を測量機で測定する第一工程と、
シート状の
第一ターゲットを前記基準点に重ねて設置する第二工程と、
前記3Dレーザースキャナで前記計測対象をスキャニングして当該計測対象の点群データを取得し、前記点群データにおける前記
第一ターゲットの位置および前記基準点の絶対座標に基づいて当該点群データに絶対座標を付与する第三工程と、を有し、
前記
第一ターゲットには位置合わせ用の孔が形成されており、前記第二工程において、当該孔を前記基準点に一致させ
、
前記第二工程において、シート状の第二ターゲットを前記基準点に重ねない状態で所定方向に並べてさらに設置し、
前記第三工程では、前記3Dレーザースキャナの位置を所定方向に移動させながら繰り返し前記計測対象をスキャニングして所定方向に分割した所定区間の点群データを複数取得し、各々の点群データに含まれる前記第一ターゲットまたは前記第二ターゲットを用いて前記点群データを合成すると共に絶対座標を反映し、
前記第二ターゲットには、前記第一ターゲットが有する位置合わせ用の孔が形成されていない、
ことを特徴とする絶対座標付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位計測方法および絶対座標付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの維持管理では、日常点検としては車上等からによる目視観察を行い、定期点検(5年毎)として近接目視観察および打音検査が実施されている。定期点検時に覆工コンクリートの剥落、浮き、およびひび割れや変状が確認された場合には、その経過観察や変状原因特定を目的として、内壁面の変位の計測が行われる場合がある。従来はコンバージェンスメジャーやレーザー変位計を用いた2点間の相対変位計測やトータルステーションを用いた任意点の変位計測が実施されていたが、近年では、トンネル内壁面の変位の計測に3Dレーザースキャナ(「LS」と表記する場合がある)が用いられる場合がある。3Dレーザースキャナは、離れた場所から高精度な3次元座標を点群として短時間に取得できる計測器械である。具体的には、周囲に多数のレーザー光を照射し、物体に当たって反射したレーザー光を受け取る。これにより、物体の表面の形状を、表面を覆い尽くすような点の座標の集合として計測できる。この計測された点の集合データは「点群データ」と呼ばれ、専用のソフトウェアを用いることで物体の距離等を求めることができる。点群データは相対座標(ローカル座標)であり、相対座標を絶対座標(グローバル座標)に変換する場合に、目印となるターゲットが使用される。ターゲットは3Dレーザースキャナによるスキャニングの前に予め設置され、何らかの方法でターゲットの絶対座標を取得しておく。
これに関連して、例えば特許文献1に記載される技術が開発されている。特許文献1に記載される技術は、トンネル座標(グローバル座標)が既知のターゲットをトンネルの壁面に設置し、トンネル内を3Dレーザースキャナでスキャニングしてターゲットのスキャン座標(ローカル座標)を取得する。そして、ターゲットのスキャン座標とトンネル座標に基づき、トンネル断面のスキャン座標をトンネル座標に変換する。ターゲットは、例えば外枠に回転軸で標識面となる本体を回転自在に取り付けたものであり、アンカーボルトによって壁面に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、LS用ターゲットとしてペーパーターゲットを使う場合で、ターゲットの中心位置の絶対座標を取得する方法として、例えばトータルステーション(「TS」と表記する場合がある)を用いてターゲットの中心位置を計測することが考えられる。具体的には、トータルステーションで後視点方法(既知点からの測角、測距)によって、TSの器械位置を同定し、ノンプリズムターゲット機能により、ペーパーターゲット中心位置の座標を取得することが想定される。しかし、ノンプリズムターゲットによる測距精度は「3mm」程度であり、トンネル坑内の暗い環境下ではさらに精度が劣る可能性が考えられる。
なお、球状のターゲット(基準球)の中心位置にTS用のプリズムを内蔵した製品や、球状のターゲット(基準球)から既知の距離にTS用のプリズムをボルト等によって固定した製品が販売されている。これらの製品を用いれば、ターゲットの中心位置の絶対座標を精度よく取得することが可能であるが、基準球は精度の高い真球である必要があるために基準球自体の価格が高く、それに加えてプリズム等を正確に取り付ける製造技術が要求されることから、製品価格がさらに高くなる。その為に、トンネルのような線状構造物で長い区間の壁面変位を計測する場合にはこれらの製品を用いることはコストの面で問題がある。つまり、点群データの合成方法の一つとして、ターゲットを使用する方法があり、この場合のターゲットは、点群データの合成にも使用される。例えば、1回のスキャニングで対象物の全ての形状を計測することができない場合、3Dレーザースキャナの位置を変えて対象物を複数回にわたって部分的にスキャニングし、その後で部分的に計測した点群データを専用のソフトウェアを用いて繋ぎ合わせる。その合成の基準として、例えば1回のスキャニングで三個のターゲットが使用される。トンネル内壁面の変位量の計測では、3Dレーザースキャナの位置を変えて繰り返し計測する必要があるので、計測の都度、評定点にターゲットを移動させるのは手間であり、また、全ての評定点に高価なターゲットを設置するのは費用の面で現実的ではない。その為、できるだけ安価なターゲットを用いることが望ましい。
このような観点から、本発明は、経済的であると共に精度よく点群データに絶対座標を付与することができる変位計測方法および絶対座標付与方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る変位計測方法は、3Dレーザースキャナを用いてトンネル内空の覆工コンクリートの時間経過に伴う変位を計測する変位計測方法である。この変位計測方法は、第一工程ないし第四工程を有する。
第一工程では、トンネルの壁面に設けた基準点の絶対座標を測量機で測定する。第二工程では、シート状の第一ターゲットを前記基準点に重ねて設置する。第三工程では、前記3Dレーザースキャナで前記壁面をスキャニングして当該壁面の点群データを取得し、前記点群データにおける前記第一ターゲットの位置および前記基準点の絶対座標に基づいて当該点群データに絶対座標を付与する。第四工程では、前記第三工程から所定の期間経過後に、前記壁面を再びスキャニングして当該壁面の新たな点群データを取得し、前記新たな点群データとそれよりも前に取得した点群データとの比較によって変位を算出する。前記第一ターゲットには位置合わせ用の孔が形成されており、前記第二工程において、当該孔を前記基準点に一致させる。
前記第二工程において、シート状の第二ターゲットを前記基準点に重ねない状態でトンネル軸方向に並べてさらに設置する。前記第三工程では、前記3Dレーザースキャナの位置をトンネル軸方向に移動させながら繰り返し前記壁面をスキャニングしてトンネル軸方向に分割した所定区間の点群データを複数取得し、各々の点群データに含まれる前記第一ターゲットまたは前記第二ターゲットを用いて前記点群データを合成すると共に絶対座標を反映する。前記第二ターゲットには、前記第一ターゲットが有する位置合わせ用の孔が形成されていない。
本発明に係る変位計測方法では、ターゲットとして安価なペーパーターゲットを使用できるので経済的である。また、「球体+プリズム製品」と同等の精度を確保でき、トンネル坑内において精度の高い計測を行うことができる。また、長い計測区間であっても安価なペーパーターゲットを使用できるので経済的である。
【0006】
本発明に係る絶対座標付与方法は、3Dレーザースキャナによって計測した点群データに絶対座標を関連付ける絶対座標付与方法である。この絶対座標付与方法は、第一工程ないし第三工程を有する。
第一工程では、計測対象に設けた基準点の絶対座標を測量機で測定する。第二工程では、シート状の第一ターゲットを前記基準点に重ねて設置する。第三工程では、前記3Dレーザースキャナで前記計測対象をスキャニングして当該計測対象の点群データを取得し、前記点群データにおける前記第一ターゲットの位置および前記基準点の絶対座標に基づいて当該点群データに絶対座標を付与する。前記第一ターゲットには位置合わせ用の孔が形成されており、前記第二工程において、当該孔を前記基準点に一致させる。
前記第二工程において、シート状の第二ターゲットを前記基準点に重ねない状態で所定方向に並べてさらに設置する。前記第三工程では、前記3Dレーザースキャナの位置を所定方向に移動させながら繰り返し前記計測対象をスキャニングして所定方向に分割した所定区間の点群データを複数取得し、各々の点群データに含まれる前記第一ターゲットまたは前記第二ターゲットを用いて前記点群データを合成すると共に絶対座標を反映する。前記第二ターゲットには、前記第一ターゲットが有する位置合わせ用の孔が形成されていない。
本発明に係る絶対座標付与方法では、ターゲットとして安価なペーパーターゲットを使用できるので経済的である。また、安価なペーパーターゲットを使用しても精度よく点群データに絶対座標を付与することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、経済的であると共に精度よく点群データに絶対座標を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る変位計測方法を用いた変位計測システムの概略構成図である。
【
図2】紙製のLS用ターゲット(ペーパーターゲット)の一例であり、(a)はペーパーターゲットの全体図であり、(b)はペーパーターゲットの要部拡大図である。
【
図3】LS用ターゲットの設置方法を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る変位計測方法を示すフローチャートの例示である。
【
図5A】本発明の実施形態に係る変位計測方法を説明するためのイメージ図である。
【
図5B】本発明の実施形態に係る変位計測方法を説明するためのイメージ図である。
【
図5C】本発明の実施形態に係る変位計測方法を説明するためのイメージ図である。
【
図5D】本発明の実施形態に係る変位計測方法を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0010】
<実施形態に係る変位計測システムについて>
図1を参照して、実施形態に係る変位計測方法を用いた変位計測システム1について説明する。
図1は、変位計測システム1の概略構成図である。
変位計測システム1は、トンネル坑内の変位(トンネル壁面の変形)を計測するシステムである。変位計測システム1は、トンネルの種類や用途を限定せずに様々な種類のトンネルや用途に用いることができる。本実施形態では、用途の一例としてトンネル完成後の保守による検査を例示して説明する。
図1に示すように、変位計測システム1は、測量機としてのトータルステーション2と、3Dレーザースキャナ3と、管理用装置4と、TS用ターゲット5と、LS用ターゲット6とを備える。トータルステーション2、3Dレーザースキャナ3、TS用ターゲット5およびLS用ターゲット6は、トンネル坑内に配置され、管理用装置4の配置場所は特に限定されない。トータルステーション2および3Dレーザースキャナ3と、管理用装置4とはデータ通信可能である。管理用装置4は、クラウドシステムの一部をなす構成要素であってもよい。なお、トータルステーション2および3Dレーザースキャナ3は、一つの計測機器として構成されてもよい。つまり、トータルステーションおよび3Dレーザースキャナの機能を備える計測機器を用いて変位計測システム1を実現することもできる。
【0011】
図1に示すトータルステーション2は、測量機の一種であり、水平角と鉛直角を計測する経緯儀としての機能と、光や電波を用いて距離を測る測距儀としての機能を備える。言い換えれば、トータルステーション2は、視準点までの距離、基準線に対する視準方向の水平角度、水平面に対する視準方向の角度(以下、まとめて「位置」と称す)を計測するものである。トータルステーション2は、例えばトンネルの壁面に設けた基準点(例えば「評定点」)の距離と角度を測定し、測定した距離と角度から基準点の絶対座標を算出する。壁面に設けた基準点にTS用ターゲット5の中心点を重ねて設置した場合、基準点と中心点は同じ位置となるので、基準点と中心点とを区別せずに説明する場合がある。なお、TS用ターゲット5を用いずに、壁面の基準点を測量機で直接測量してもよい。トータルステーション2は、TS用ターゲット5の中心点(つまり、トンネルの壁面に設けた基準点)の位置(距離、角度)およびこれから算出した絶対座標の少なくとも一方を管理用装置4に送信する。
TS用ターゲット5は、トータルステーション2による測量の対象に取り付けられて使用される。TS用ターゲット5は、例えばトンネルの壁面に設けた基準点(評定点)に設置される。TS用ターゲット5は、例えば、円と十字線とが組み合された指定マークを矩形状(正方形も含む)のシートに印したものである。指定マークの十字線の交点は、指定マークの中心点になっている。TS用ターゲット5は、光を反射する反射シートであるのが望ましく、また、トンネル内壁に貼り付けられるように裏面に接着剤が塗られた粘着式反射シートであるのがよい。なお、TS用ターゲット5は、必ずしも矩形状である必要はなく、その他の形状(例えば、四角形以外の多角形や円形)であってもよい。
【0012】
3Dレーザースキャナ3は、計測機器の一種であり、離れた場所から高精度な3次元座標を点群として短時間に取得する。具体的には、周囲に多数のレーザー光を照射し、物体に当たって反射したレーザー光を受け取る。これにより、物体の表面の形状を、表面を覆い尽くすような点の座標の集合(点群データ)として計測できる。点群データは相対座標(3Dレーザースキャナ3の設置位置を原点としたローカル座標)であり、相対座標を絶対座標(グローバル座標)に変換する場合に、目印となるLS用ターゲット6が使用される。LS用ターゲット6は、点群データの合成にも利用できる。3Dレーザースキャナ3は、スキャナ部の他に撮像部(例えばカメラ)を備えていてもよい。撮像部で撮像した画像は、例えばLS用ターゲット6の観測に使用される。詳細は後述する。3Dレーザースキャナ3は、取得した点群データ(相対座標を含む)や撮像した画像を管理用装置4に送信する。
LS用ターゲット6は、3Dレーザースキャナ3が取得した点群データの処理に際して目印(基準)として使用される。本実施形態では、複数設置するLS用ターゲット6の一部をTS用ターゲット5(つまり、トンネルの壁面に設けた基準点)に重ねて設置する。LS用ターゲット6の設置方法については後述する。LS用ターゲット6は、シート状を呈し、例えば表面に指定マークが印されている。最も安価なLS用ターゲットとして紙製のペーパーターゲットが知られており、LS用ターゲット6としてこのペーパーターゲットを用いると経済的である。
【0013】
図2に紙製のLS用ターゲット6(ペーパーターゲット)の一例を示す。
図2(a)は、LS用ターゲット6の全体図であり、
図2(b)は、LS用ターゲット6の領域Xの拡大図である。
図2に示すLS用ターゲット6は、所定サイズ(例えばA4サイズ)の白地の紙に黒色で印刷をし、反射防止ラミネート加工を施したものである。
LS用ターゲット6は、指定マーク61と、指定マーク61の下側に付された識別情報62とを有する。識別情報62は、LS用ターゲット6を識別するものであり、例えば数字や英字で構成される。
指定マーク61は、点群データの処理において目印となるものであり、本実施形態での指定マーク61は、黒色の三角形状の図形61a,61aが対向して配置されたものである(砂時計型の模様)。図形61a,61aは、二等辺三角形であり、サイズも同じである。
図2(b)に示すように、指定マーク61の中心には、位置合わせ用の孔61cが形成されている。孔61cは、円形状を呈し、孔61cの中心は、指定マーク61の中心に一致している。孔61cは、背面側に配置されるTS用ターゲット5の指定マーク(特に中心点)を視認できる程度のものであればよい(例えば、針等を用いてあけた小さな孔でよい)。孔61cのサイズを、背面側の指定マークが視認できる範囲で、できるだけ小さくすることにより、後記する座標処理での誤差が小さくなる。
図3を参照して、トンネルの壁面へのLS用ターゲット6の設置方法について説明する。
図3は、LS用ターゲット6の設置方法を説明するための図である。
図3に示すように、LS用ターゲット6の孔61cからTS用ターゲット5の指定マークを覗き込み、孔61cとTS用ターゲット5の指定マークの中心点とが一致するようにしてLS用ターゲット6を位置決めし、LS用ターゲット6をTS用ターゲット5に重ねるようにしてトンネルの壁面に貼り付ける。これにより、トンネルの壁面に設置した基準点(例えば評定点)と、TS用ターゲット5の指定マークの中心点と、LS用ターゲット6の指定マークの中心点との位置(絶対座標)が一致する。なお、孔61cの中心点をTS用ターゲット5の指定マークの中心点(つまり、トンネルの壁面に設置した基準点)に一致させることで、後記する座標処理での誤差が小さくなる。
【0014】
図1に示す管理用装置4は、変位計測システム1を管理する装置であり、点群データを処理する機能を備える。管理用装置4は、例えばパーソナルコンピュータ(Personal Computer)である。管理用装置4は、トータルステーション2から、TS用ターゲット5の中心点(つまり、トンネルの壁面に設けた基準点)の位置(距離、角度)およびこれから算出した絶対座標の少なくとも一方を取得する。また、管理用装置4は、3Dレーザースキャナ3から、点群データ(相対座標を含む)や撮像した画像を取得する。
管理用装置4は、例えば座標処理ソフトウェアや点群処理ソフトウェアなどを有する。座標処理ソフトウェアは、点群データの相対座標を絶対座標に変換する処理を実現するものである。点群処理ソフトウェアは、3Dレーザースキャナ3で取得した点群データの合成(結合)や、不要な点を除外する処理を実現するものである。例えば、管理用装置4は、CPU(Central Processing Unit)による座標処理ソフトウェアの実行処理によって座標処理機能(「座標処理部」と呼ぶ場合がある)を実現する。また、管理用装置4は、CPUによる点群処理ソフトウェアの実行処理によって点群処理機能(「点群処理部」と呼ぶ場合がある)を実現する。なお、ここで説明する座標処理方法および点群データの処理方法はあくまで例示であり、他の方法を用いることもできる。
【0015】
管理用装置4の座標処理部は、例えば3Dレーザースキャナ3で撮像した画像や計測した点群データからLS用ターゲット6を判別し、LS用ターゲット6に対応する相対座標にTS用ターゲット5を測定して得た中心点(基準点)の絶対座標を付与する。LS用ターゲット6の判別方法は特に限定されず、種々の方法を用いることができる。
例えば、座標処理部は、撮像部(例えばカメラ)で撮影した画像を用いた画像認識技術によりLS用ターゲット6の位置を判別する。この場合、LS用ターゲット6の形状やLS用ターゲット6に印される指定マーク61は、画像認識技術に対応したものである(例えば、特定の模様や色のパターンなど)。座標変換部は、画像認識技術で特定したLS用ターゲット6の位置と点群データとの対応関係から点群データ中でのLS用ターゲット6の位置を特定する。
また、座標処理部は、スキャナ部が取得した周囲の形状を用いたパターン認識技術によりLS用ターゲット6の位置を判別する。この場合、LS用ターゲット6の形状やLS用ターゲット6に印される指定マークは、パターン認識技術に対応したものである(例えば、特定の模様やパターンをレーザー光が反射しない色や表面加工によって実現したもの)。なお、観測者が、目視により点群データからLS用ターゲット6を観測してもよい。この場合、LS用ターゲット6の形状やLS用ターゲット6に印される指定マークは、点群データの中から目視で判別可能なものである(例えば、特定の模様やパターンをレーザー光が反射しない色や表面加工によって実現したもの)。
【0016】
管理用装置4の点群処理部は、複数回に分けて点群データを計測した場合に、例えば3Dレーザースキャナ3で撮像した画像や計測した点群データからLS用ターゲット6を判別し、判別したLS用ターゲット6を目印(基準)として複数の点群データを合成(結合)する。LS用ターゲット6の判別方法は特に限定されず、例えば座標処理部と同様の方法によってLS用ターゲット6を判別する。点群データの合成に用いるLS用ターゲット6の数は複数である必要があり、3Dレーザースキャナ3の傾斜補正機能の有無などにもよるが、例えば三個のLS用ターゲット6を使用する。
【0017】
<実施形態に係る変位計測方法について>
図4および
図5Dを参照して(適宜、
図1ないし
図3を参照)、実施形態に係る変位計測方法について説明する。
図4は、変位計測方法を示すフローチャートの例示である。
図5Aないし
図5Dは、変位計測方法を説明するためのイメージ図である。
図4に示すように、最初に観測者は、トンネル内の壁面にTS用ターゲット5を貼り付ける(S101)。例えば少なくとも三か所にTS用ターゲット5を貼り付ける。TS用ターゲット5をトンネルの壁面に貼り付けた状態を
図5Aに示す。なお、基準点を設定せずにTS用ターゲット5を貼り付けてもよく、その場合、TS用ターゲット5の指定マークの中心点が基準点となる。そして、観測者は、トータルステーション2を用いて三か所のTS用ターゲット5の位置(指定マークの中心点)を測量する(S102)。
【0018】
次に、観測者は、3Dレーザースキャナ用のペーパーターゲットの中心部に孔を空け、
図2に示すLS用ターゲット6を作成する(S103)。続いて、観測者は、あけた孔61cからTS用ターゲット5を覗き込んでTS用ターゲット5の中心点に孔61cを位置合わせし、LS用ターゲット6をTS用ターゲット5の上に貼り付ける(S104)。LS用ターゲット6をTS用ターゲット5の上に貼り付けた状態を
図5Bに示す。
また、観測者は、3Dレーザースキャナ用のペーパーターゲットを、計測区間内においてトンネル軸方向に並べて壁面に貼付する(S105)。S105で貼り付けるペーパーターゲットは、孔をあけていないものであり「孔なしターゲット7」と表記する。LS用ターゲット6や孔なしターゲット7は、一直線上に配置しなくてもよく、鉛直方向にずらして配置してもよい。また、LS用ターゲット6や孔なしターゲット7は、ある程度の間隔をあけて配置するのがよい。ただし、3Dレーザースキャナ3の計測精度を確保するためには、壁面に対するレーザーの入射角を例えば「45°以内」とする必要があるため(浅い角度だと、距離測定精度が著しく劣る)、ターゲットの位置と入射角の関係を総合的に判断することが必要である。なお、計測区間の最初と最後には、測量を行ったTS用ターゲット5に重ねたLS用ターゲット6を設置するのがよい。孔なしターゲット7をトンネルの壁面に貼り付けた状態を
図5Cに示す。
【0019】
次に、観測者は、3Dレーザースキャナ3を用いてトンネル壁面の形状データを計測(スキャニング)し、壁面の点群データを取得する(S106)。具体的には、3Dレーザースキャナ3をトンネル軸方向に移動させながら、繰り返し壁面をスキャニングしてトンネル軸方向に分割した所定区間の点群データを複数取得する。3Dレーザースキャナ3を用いた計測の様子を
図5Dに示す。
例えば、最初に3Dレーザースキャナ3を位置T1に据え付け壁面をスキャニングして、領域R1の範囲の点群データを取得する。このとき、領域R1に含まれるLS用ターゲット6はTS用ターゲット5に重ねてあるので、領域R1の範囲の点群データには絶対座標が付与できる。続いて、3Dレーザースキャナ3を位置T2に据え付け壁面をスキャニングして、領域R2の範囲の点群データを取得する。ここでは、合計で六か所のペーパーターゲット(三か所のLS用ターゲット6および三か所の孔なしターゲット7)が計測する領域R2に含まれている。領域R2に含まれるLS用ターゲット6はTS用ターゲット5に重ねてあるので、領域R2の範囲の点群データには絶対座標が付与できる。続いて、3Dレーザースキャナ3を位置T3に据え付け壁面をスキャニングして、領域R3の範囲の点群データを取得する。ここでは、合計で六か所のペーパーターゲット(六か所の孔なしターゲット7)が計測する領域R3に含まれている。このようにして繰り返し計測を行う。
【0020】
管理用装置4は、計測した全ての点群データを合成し、また、TS用ターゲット5に重なっていないペーパーターゲット(つまり、孔なしターゲット7)のみを含む点群データについては、その前または後で取得した点群データの絶対座標を反映する(S107)。例えば、領域R3の範囲の点群データには、領域R2の範囲の点群データを反映することにより絶対座標が付与できる。このようにして、孔なしターゲット7のみをスキャニングした点群データについても絶対座標を付与することができる。なお、計測区間の最後に設置したLS用ターゲット6に付与される絶対座標と整合させることにより補正するのがよい。
このようにして、基準となるトンネル壁面の変位計測が終了する。また、観測者は、所定の期間が経過した後でS106,S107の工程を再度行って新たな点群データを取得する。そして、新たに取得した点群データとそれよりも前に取得した点群データ(例えば、基準となる点群データ)との比較によって壁面の変位を算出する。なお、S101~S106までが、絶対座標付与方法の一例である。絶対座標付与方法は、TS用ターゲット5およびLS用ターゲット6を用いることで実現可能であり、トンネルに限らず適用できる。
【0021】
以上のように、実施形態に係る変位計測方法および絶対座標付与方法では、LS用ターゲット6として安価なペーパーターゲットを使用できるので経済的である。また、「球体+プリズム製品」と同等の精度を確保でき、精度よく点群データに絶対座標を付与することができるので、トンネル坑内において精度の高い計測を行うことができる。また、長い計測区間であっても安価なペーパーターゲットを使用できるので経済的である。LS用ターゲット6の材料費は、例えば数百円程度であり、一度に複数枚をトンネル壁面に貼っても安価に計測を実現できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を変えない範囲で実施することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 変位計測システム
2 トータルステーション(測量機)
3 3Dレーザースキャナ
4 管理用装置
5 TS用ターゲット
6 LS用ターゲット(第一ターゲット、ターゲット)
61 指定マーク
61c 孔
7 孔なしターゲット(第二ターゲット)