(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】セラミックス粒子、セラミックス粒子集合体、およびセラミックス粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/32 20060101AFI20241112BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20241112BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20241112BHJP
C30B 1/10 20060101ALI20241112BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20241112BHJP
C04B 35/626 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C30B29/32 C
C01G23/00 C
C01G23/047
C30B1/10
C04B35/465
C04B35/626 200
(21)【出願番号】P 2020114248
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 良夫
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩代
(72)【発明者】
【氏名】谷田 登
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-314190(JP,A)
【文献】特開2013-043788(JP,A)
【文献】特開2010-120786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/32
C01G 23/00
C01G 23/047
C30B 1/10
C04B 35/465
C04B 35/626
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含む金属酸化物で形成され、単結晶であって、該単結晶内に閉気孔を含み、前記閉気孔内の気体の主成分が窒素ガスである、セラミックス粒子。
【請求項2】
前記閉気孔の内表面が面方位を有する、請求項1に記載のセラミックス粒子。
【請求項3】
前記面方位が、(hkl)におけるh、k、lのうちのいずれか一つ、または二つがゼロの面、(111)面、または(112)面である、請求
項2に記載のセラミックス粒子。
【請求項4】
前記閉気孔の形状が六面体である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミックス粒子。
【請求項5】
1000℃に加熱したときに、全閉気孔に占める破損した閉気孔の個数割合が10%以下である、請求項1~4のいずれかに記載のセラミックス粒子。
【請求項6】
前記チタンを含む金属酸化物は、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ランタン、および酸化チタンよりなる群から選択される1以上である、請求項1~5のいずれかに記載のセラミックス粒子。
【請求項7】
前記セラミックス粒子の平均粒子径が1μm以下で、かつ閉気孔の平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下である、請求項1~6のいずれかに記載のセラミックス粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のセラミックス粒子を複数含む、セラミックス粒子集合体。
【請求項9】
セラミックス粒子集合体に含まれる前記セラミックス粒子の体積分率が、80%以上である、請求項8に記載のセラミックス粒子集合体。
【請求項10】
相対密度が、セラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子が閉気孔を含まないときの真密度に対して95%以下である、請求項8または9に記載のセラミックス粒子集合体。
【請求項11】
更に樹脂を含む、請求項8~10のいずれかに記載のセラミックス粒子集合体。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれかに記載
のセラミックス粒子、または
請求項8~11のいずれかに記載のセラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子の製造方法であって、
チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を、900℃以上で、アンモニアと酸素を含む雰囲気中にて熱処理する工程を含み、
前記アンモニアの供給量を、熱処理後の排ガス中に未反応のアンモニアが含まれる量とする、セラミックス粒子の製造方法。
【請求項13】
前記排ガス中のアンモニア含有量が、体積分率で5~90%である、請求項12に記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理する工程の後、酸素含有雰囲気下で加熱する工程を含む、請求項12または13に記載のセラミックス粒子の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理前に、前記チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を酸素含有雰囲気下で加熱する工程を含む、請求項12~14のいずれかに記載のセラミックス粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス粒子、セラミックス粒子集合体、およびセラミックス粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスの応用用途は、例えば電機部品、日用品、触媒等の多岐にわたる。これらの用途におけるセラミックス機能の発現や高度化には、その微細構造の制御が非常に重要である。セラミックスの微細構造の一つとして例えば多孔体が挙げられる。
【0003】
従来知られているセラミックスの多孔体は、孔が基材の表面に形成された類型1と、微小な粒子を凝集させて凝集体内に空隙として孔が形成された類型2に分けられる。前記類型1として、模式的に示した
図1が挙げられる。
図1は、化学的性質の異なる2相以上の相を含むバルク体に対し、特定の相を溶解させるエッチングを施すことや、電気化学的な腐食を施すことなどにより得られる。または、単相のバルク体に対し、レジストを塗布した後にエッチングを施すことで所定位置に孔を形成する手法により得られる。例えば、非特許文献1には、電気化学的な手法で、基材に多孔体構造を形成する技術が開示されている。
【0004】
類型1の他の形態として、模式的に示した
図2が挙げられる。
図2の形態は、基材表面に針状の結晶等を成長させて得られた構造である。例えば、特許文献1の
図3(a)には、酸化亜鉛の針状結晶を基板上に析出成長させた構造が開示されている。この類型の構造は、開気孔のみが存在する構造となる。この類型の構造物は、高い表面積が求められる用途、例えば触媒、吸着材などの応用に好適である。
【0005】
類型2の形態として、模式的に示した
図3が挙げられる。
図3に示される通り、類型2は、粒子の凝集体としての多孔体構造である。この多孔体構造は、焼結助剤を添加する等により、固体中の物質輸送が抑制された比較的低温での焼結を実施することで、緻密化することなく、得ることができる。例えば、特許文献2には、セラミックス多孔体の形成技術が開示されている。この特許文献2では、樹脂と酸化物粉体を混合して成形した後に焼成し、樹脂を燃焼除去することで多孔体を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-144384号公報
【文献】特開2006-342054号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】瀬川浩代,呉松竹,井上悟、陽極酸化法によるナノ構造の制御と機能化.MATERIALS INTEGRATION(マテリアルインテグレーション)、25[10](2012)32-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多孔体の主たる用途・目的として、特に部材の軽量化が挙げられる。部材の軽量化の一例として、電子部品に供される部材、電子セラミックスの軽量化が挙げられる。一方、電子セラミックスには電極を接続させる必要がある。しかし、前述の類型1または類型2の多孔体は、開気孔を有するため表面が平坦でなく、よって、電子セラミックスの表面に均一に電極を付することが困難である。つまり前述の類型1または類型2の多孔体は、電極を接続させる必要のある素子等の電子部品に適していない。
【0009】
また、前述の類型2の多孔体、特に、粒子の凝集体は、比較的緩やかな条件で焼成等を行い凝集体の緻密化を抑制することで製造される。その結果、得られる凝集体は、高温焼成して得られる緻密体よりも、粒界の結合が弱く機械的強度は低い。前述の特許文献2でも焼成は低温で行われており、得られたセラミックス多孔体は、アルミナ粒子間に強固な結合が形成されているとは言い難い。よって、一定以上の強度が求められるセラミックス多孔体を得るには、更に検討が必要であると思われる。なお、多孔体として軽石が知られている。しかし、その材質は一般的に機械的な変形に対して弱く、構成する粒子が容易に離脱するため、一定以上の強度が求められるセラミックス多孔体として使用できない。
【0010】
さらに、前述の類型1または類型2の多孔体は、高温環境に曝されることで粒子の凝集が進行、つまり緻密化が促進され、多孔体としての性質を損ない易い。このことから、特性として、熱的安定性に優れている、つまり高温環境でも構造の変化がほとんど生じないことが求められる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高い機械的強度を有し、熱的安定性に優れ、かつ部材の軽量化を実現することのできる、セラミックス粒子、これを含むセラミックス粒子集合体、およびセラミックス粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの要旨によれば、チタンを含む金属酸化物で形成され、単結晶であって、該単結晶内に閉気孔を含む、セラミックス粒子が提供される。
【0013】
本発明のもう1つの要旨によれば、本発明に係るセラミックス粒子を複数含む、セラミックス粒子集合体が提供される。
【0014】
本発明のもう1つの要旨によれば、本発明に係る、セラミックス粒子、またはセラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子の製造方法であって、
チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を、900℃以上で、アンモニアと酸素を含む雰囲気中にて熱処理する工程を含み、
前記アンモニアの供給量を、熱処理後の排ガス中に未反応のアンモニアが含まれる量とする、セラミックス粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い機械的強度を有し、熱的安定性に優れ、かつ部材の軽量化を実現することのできる、セラミックス粒子、これを含むセラミックス粒子集合体、およびセラミックス粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、従来の多孔体の構造である類型1の構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、従来の他の多孔体の構造である類型2の構造を示す模式図である。
【
図3】
図3は、従来の他の多孔体の構造である類型2の他の構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明のセラミックス粒子の構造を例示する模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態であるチタン酸カルシウム粒子の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態である酸化チタン単結晶の破断面の光学顕微鏡の一例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の一実施形態であるチタン酸カルシウム粒子の閉気孔の電子線エネルギー損失分光スペクトル分析の分析位置を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の一実施形態であるチタン酸カルシウム粒子の閉気孔以外の部分の電子線エネルギー損失分光スペクトル分析の分析位置を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態であるチタン酸バリウム粒子のEELS分析位置を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態である酸化チタン単結晶の、窒素分子に由来するラマンスペクトルの強度マッピング像を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態であるチタン酸バリウム粒子の平均粒子径分布図である。
【
図13】
図13は、本発明のセラミックス粒子集合体の構造を例示する模式図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態であるチタン酸バリウム粒子の集合体の熱履歴と脱離ガス成分分析結果を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例におけるセラミックス粒子の熱履歴と離脱ガス成分分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは鋭意検討した結果、チタンを含む金属酸化物で形成され、その結晶構造が、単結晶であり、かつ該単結晶内に閉気孔を含むセラミックス粒子が、高い機械的強度を有し、かつ熱的安定性にも優れ、部材の軽量化を実現できることを見出した。以下、上記セラミックス粒子、これを含むセラミックス粒子集合体、およびセラミックス粒子の製造方法の順に説明する。なお以下では、本発明の実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
[セラミックス粒子(一次粒子)]
(セラミックス粒子の結晶構造)
本発明のセラミックス粒子は、単結晶であって、該単結晶内に閉気孔を含む。本発明のセラミックス粒子は、好ましくは、前記閉気孔の内表面が面方位を有している。一般に、空洞を有する粒子を高温にさらすと、空洞の内表面のエネルギーを低減する方向に作用、例えば内表面の再構築が生じうる。しかし、内表面の表面エネルギーが小さく安定した形状であれば、高温等の負荷時に、内表面の大規模な再構成が抑止されうる。本発明では、前記閉気孔の内表面が、好ましい態様として、晶癖を反映した面方位を有することで、閉気孔の内表面が熱的により安定となっていると考えられる。これに対し、前述の類型2では、複数の結晶粒子で囲まれることで閉気孔が形成される場合があるが、結晶粒子同士が結合していない箇所が生じうる。よって類型2で形成された閉気孔は不安定であり、機械的強度と熱的安定性が低いと考えられる。
【0019】
図4は、本発明のセラミックス粒子の構造を例示する模式図である。本発明のセラミックス粒子は、前記類型1および類型2と異なり、単結晶の粒子内部に閉気孔を含む。本明細書における「閉気孔」とは、セラミックス粒子内に存在し、セラミックス粒子表面と通じていない空洞をいう。これに対して、例えば前記類型1の様にセラミックス粒子表面に通じている空洞を「開気孔」という。
【0020】
本明細書における「単結晶」とは、(i)結晶学的な3つの単位並進ベクトルのみによって粒子内の原子の周期配列が規定されている単結晶、または、(ii)強弾性体のドメイン構造や強誘電体のドメイン構造、あるいは、結晶学的な鏡像関係有して結合した双晶構造を含んでいる単結晶をいう。前記(ii)は、一般的な透過電子顕微鏡を用いた制限視野回折の条件で行う電子線回折分析で、各双晶ドメインが単結晶として認識される結晶である。また本明細書における「粒界」とは、強誘電体、強弾性体ドメイン壁や鏡像関係を持った単結晶同士が接合する双晶面は含まれず、焼結で形成される小傾角粒界や界面に鏡像関係が成立しない無秩序な粒子配向を伴う粒界を指す。
【0021】
本発明に係るセラミックス粒子は単結晶である。これによって、
図3に示されるような、複数の粒子の結合により得られる閉気孔を有し、機械的強度の劣る多結晶体とは区別される。
図3に示した多結晶体の閉気孔は、粒界を伴っている。そのため、
図3のような閉気孔の存在は、機械的強度を低下させる、閉気孔の中のガスが、原子配列の乱れた複数の粒界を通じた拡散によって閉気孔外に逃げる、などの状況をもたらす。一方、
図4に示す閉気孔は、前記複数の粒界を含まず、外部から完全に遮断された構造を有する。よって、機械的強度に優れる。また、
図4に示す粒子は、単結晶粒子であるために、閉気孔の内表面が安定な晶癖面で形成される。すなわち、閉気孔の内表面が化学的に安定な面であるため、熱を加えても壊れにくい等のメリットを有する。
【0022】
閉気孔の形状は特に問わない。前記閉気孔は、球状、楕円球状、多面体、錐体、立方体、直方体等の多面体、円筒体、円錐体、角錐体、球体、半球体、楕円体、半楕円体
不規則な形状の輪郭及びこれらのいずれかの組合せの群から選択される形状が挙げられる。閉気孔を形成する内表面は凹凸を有していてもよい。
【0023】
閉気孔は、前述の通り、その内表面の一部に面方位を有していることが好ましい。この様に面方位を有している閉気孔の形状として、例えば、直方体、立方体等を含む六面体が挙げられる。
【0024】
図5は、本発明の一実施形態であるチタン酸カルシウム粒子の透過型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。電子線回折測定と高分解能電子顕微鏡観察によって、チタン酸カルシウム粒子7は、単結晶であることが確認されている。
図5において、ほぼ矩形のコントラストが複数確認される。このほぼ矩形のコントラストは、チタン酸カルシウム粒子7内に形成された閉気孔8である。この閉気孔8が存在することにより部材の軽量化、光学特性の改善等を実現できる。
【0025】
図5において、9は単結晶であるチタン酸カルシウム粒子の結晶軸を示している。
図5において例えば閉気孔8は、いずれも、軸方向9とそれに直交するもう一つの軸方向で形成される矩形の形状を有している。閉気孔の内表面の面方位は(001)や(010)であることがわかる。すなわち
図5から、セラミックス粒子内に存在する閉気孔の内表面は面方位を有していることがわかる。
【0026】
前記面方位は、(hkl)におけるh、k、lのうちのいずれか一つ、または二つがゼロの面、(111)面、または(112)面でありうる。
図5の矢印9をa軸とすると、この矢印9と直角方向の軸がb軸であり、a軸、b軸および紙面に垂直な軸がc軸である。このa軸、b軸、c軸は電子線回折で判定することができる。
図5において、観察される閉気孔のほとんどが、a軸とb軸の長さの比率は種々であるが、いずれも内表面がa軸方向とb軸方向にある。または、後記の
図11に示すセラミックス粒子において、x軸がa軸17、z軸がb軸18、y軸がc軸19を示す。なお、本発明において「面方位を有する」とは、各面に対して±30°まで傾斜した範囲も含まれる。
【0027】
(セラミックス粒子のサイズ)
前記セラミックス粒子(一次粒子)のサイズは特に限定されない。前記セラミックス粒子の一実施形態として、平均粒子径が例えば1μm以下、更には500ナノメートル以下の微細な粒子が挙げられる。前記セラミックス粒子の別の実施形態として、平均粒子径が例えばミリオーダーまたはセンチオーダーの粗大な粒子が挙げられる。
【0028】
前記セラミックス粒子のサイズは、例えば走査電子顕微鏡の画像から、粉体や凝集体の中に含まれるセラミックス粒子(一次粒子)の平均粒子径を求める方法、または、レーザー散乱などの粉体評価装置で測定することが挙げられる。
図12は、粉体状のセラミックス粒子集合体を構成するセラミックス粒子(一次粒子)の粒子径の測定結果を例示した図である。
図12は、詳細には、SEMで観察した画像に直線を引き、直線と粒子表面が交わる点を拾い出して、その点と点の平均値を求めて、平均粒子径としている。
図12から、無作為に抽出した全ての粒子の粒径が500ナノメートル以下であり、平均粒子径を示すピークは200~300ナノメートル程度であり、平均粒子径は294ナノメートルである。セラミックス粒子が、例えば、球状または多角形状でなく、デンドライトまたは雪の結晶のような形状であった場合も、上記方法で平均粒子径を測定することが可能である。なおレーザー散乱方式で粒度分布を測定する装置で測定した場合であっても、同様の結果となりうる。
【0029】
前記セラミックス粒子の一実施形態として、平均粒子径が1μm以下、更には平均粒子径が500ナノメートル以下であって、かつその内部に、例えば、平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下の閉気孔を有するものが挙げられる。または、セラミックス粒子が、例えば、上述した平均粒子径がミリオーダーまたはセンチオーダーのバルク状の粗大な粒子である場合、その内部に、最大寸法が最長辺で100マイクロメートル以上の閉気孔を有するものがありうる。または、前記粗大な粒子に、平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下の微細な閉気孔のみが存在する場合、または、前記粗大な閉気孔と微細な閉気孔のどちらもが存在する場合がありうる。
【0030】
また
図5において最も大きい閉気孔8は、最長辺で100ナノメートル以下である。すなわち
図5は、閉気孔の平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下である、本発明のセラミック粒子の一実施形態を示したものである。
【0031】
図6は、本発明の一実施形態である酸化チタン単結晶の破断面の光学顕微鏡写真の一例を示す図である。
図6は、前記
図5と異なり、比較的粗大な閉気孔を示している。この
図6は、(010)面を表面とする厚さ500マイクロメートルのルチル型酸化チタン単結晶板の破断面の光学顕微鏡写真である。この単結晶板は閉気孔を有しており、ここでは<010>軸と<001>軸からなる面で破断した破断面を観察した光学顕微鏡写真が示されている。写真の上下方向が<001>軸であり、左右方向が単結晶板の厚さ方向であり、<100>軸に対応する。単結晶の(010)表面から約50~100マイクロメートルの深さ位置において、<001>方向の長さが約300マイクロメートルとなる閉気孔15が存在している。すなわち
図6は、閉気孔の平均寸法が最長辺で100マイクロメートル以上である、本発明のセラミック粒子の一実施形態を示したものである。
【0032】
前記
図5と
図6の対比から、閉気孔のサイズが大きくなると、閉気孔の内表面の方向性は小さくなるが、前記
図6から、閉気孔がセラミックス粒子表面に平行な内表面を含む傾向を読み取ることはできる。
【0033】
また、
図5と
図6で閉気孔の形状に違いが見られる。
図5では、正方形に近い閉気孔の存在が示されており、一方、
図6では、軸比が大きな長方形の閉気孔が示されている。これは、両者の結晶構造の違いに対応している。
図5のチタン酸カルシウムは、ペロブスカイト型の結晶構造であるのに対して、
図6の酸化チタンはルチル型である。ペロブスカイト型は特異軸のない立方体に近い結晶構造であるのに対して、ルチル型構造はc軸を特異軸とする結晶構造である。その結晶の対称性が気孔の形状に反映されたため、
図6では、特異軸であるc軸の方向に長い閉気孔となっている。特に、閉気孔形成の主要因が、固体内の元素の拡散の発現にある場合、結晶内の拡散係数の異方性の影響を受けた閉気孔の形状となりやすい。
【0034】
特定の形状の閉気孔が形成される理由として次のようなことが考えられる。例えば、閉気孔の内表面が安定面となる結果、閉気孔の形状が、上記六面体の形状となりうることが考えられる。または、前述の通り固体内の元素の拡散、例えば酸素の拡散が早い軸に平行な方向に閉気孔の形状が長くなりやすいことが考えられる。上述の通り、ルチル型チタニアの場合、酸素拡散の拡散速度の異方性によって、c軸方向に長い扁平な孔が形成されている。
【0035】
本発明のセラミックス粒子は、前述の通り単結晶内に閉気孔を含んでおり、該閉気孔内の気体の主成分は窒素ガスである。
【0036】
一般に、反応性ガスで満たされた閉気孔が高温状態や長期間の光照射に曝された場合、閉気孔の内表面を構成する結晶と反応性ガスとの化学反応が生じて閉気孔の安定性が損なわれ、閉気孔が消失する可能性がある。これに対して、本発明のセラミックス粒子は、閉気孔内の気体の主成分が窒素ガスである。窒素ガスは、窒素原子の三重結合で形成された分子であり、これを乖離するには非常に大きな熱量が必要となる、安定なガスである。よって、閉気孔内が窒素ガスで満たされることにより、閉気孔の内表面と閉気孔内のガスとの化学反応が起こりにくく、閉気孔を安定して維持できる。その結果、軽量化、高い熱的安定性、および高い機械的強度の達成と維持を実現できる。
【0037】
前記閉気孔内の窒素ガスの存在は、電子線エネルギー損失分光測定(EELS、Electron Energy-Loss Spectroscopy)において、窒素分子によるエネルギー損失が観察されることで確認できる。
【0038】
図7に、本発明の一実施形態であるチタン酸カルシウム粒子の電子線エネルギー損失分光スペクトル分析結果の一例を示す。
図7Aはチタン酸カルシウム粒子における分析位置を示し、
図7Bは該分析位置のEELS分析結果を示す。
図7Bにおいて、チタン酸カルシウム粒子本来の構成元素である、チタンの信号、酸素の信号、およびカルシウムの信号以外に、窒素の高い信号(スペクトル)が確認された。観測された窒素のスペクトルは、窒化物や酸窒化物に含まれる窒素イオンとは異なる、窒素分子に特有のスペクトル形状であった。このスペクトルは、前記閉気孔を貫通した電子ビームの電子線エネルギー損失分光スペクトルである。本発明では、後述の通り、セラミックス粒子の固体部分のチタンを含む金属酸化物由来のピークを除き、ピークが最も高いものを「主成分」という。この
図7からは、窒素分子のピークが最も高いことから、閉気孔の主成分が窒素ガスであることがわかる。EELSによれば、エネルギー位置から、窒素が、原子状態または分子状態にあるかを判別でき、
図7からは、窒素が安定な窒素分子の状態にあることを確認できた。
【0039】
図8に、上記
図7との比較のために測定した、閉気孔でない箇所、つまりチタン酸カルシウム部分のEELS分析結果の一例を示す。
図8Aはチタン酸カルシウム粒子における分析位置を示し、
図8BはEELS分析結果を示す。
図8Bでは、チタン酸カルシウム粒子本来の構成元素である、チタンの信号、酸素の信号、およびカルシウムの信号が確認され、窒素の信号は前記
図7よりも十分小さかった。
【0040】
図9は、上記チタン酸カルシウム粒子と同じ条件で製造したチタン酸バリウム粒子における分析位置を示している。
図9中、符号1は閉気孔の内部を示し、符号2は閉気孔でない箇所、つまりチタン酸バリウム部分を示している。これらの分析位置について、EELS分析を行った結果を
図10に示す。
図10Aは、符号1の測定結果であり、閉気孔内の窒素ガスに起因する窒素の信号が高いことがわかる。これに対して
図10Bは、符号2の閉気孔でない箇所のEELS分析結果を示しており、上記
図10Aの様な高い窒素の信号はみられないことを確認した。なお、このEELS分析では分析位置が微小であるため、前記
図7、前記
図8およびこの
図10に示される通り、閉気孔の分析結果には、閉気孔周囲のチタン酸カルシウム部分またはチタン酸バリウム部分に起因する信号も多少含まれ、一方、チタン酸カルシウム部分またはチタン酸バリウム部分の分析結果には、多数存在する閉気孔中の窒素の信号も多少含んでいた。
【0041】
前記EELSの分析は次の装置を用いて測定できる。すなわち、日本電子(JEOL)製JEM-ARM200G型透過電子顕微鏡(200kV、球面収差補正機構、円環型STEM検出器、冷陰極型電界放出型電子源等を標準装備)に、同社のJED-2300型EDX検出器(SDD)、及び米国Gatan社製高精細TVカメラ(One View)、及びEELS検出器(ENFINIUM)を装備したシステムを使用した。TEM/STEM像並びにEELSデータの取得と解析にはGatan社のソフト「Digital Micrograph」を使用した。または、日本電子(JEOL)製JEM-2100F型透過電子顕微鏡(200kV、円環型STEM検出器、ショットキー型電界放出型電子源等を標準装備)に、同社のJED-2300型EDX検出器(SDD)、及び米国Gatan社TVカメラ(ORIUS)、及びEELS検出器(ENFINA1000)を装備したシステムを使用し、TEM/STEM像並びにEELSデータの取得と解析にはGatan社のソフトを使用した場合も同様の分析ができた。
【0042】
前記
図7Bにおいて、窒素分子のスペクトルが観測されたことは、前記
図5に示されたコントラスト(矩形状の黒色部分)の位置が閉気孔であることを意味する。前記コントラストが開気孔である場合、窒素ガスを封止することはできない。このことから、前記
図5の前記閉気孔8は窒素ガスで満たされていることを確認した。
【0043】
閉気孔内の窒素ガスは、ラマン分光測定によって窒素分子の振動スペクトルが観察されることで確認することもできる。言い換えれば、ラマン分光で窒素ガスの信号が得られることで、材料の状態評価や特性評価を行うことができる。ラマン散乱分光では、3次元のマッピング測定を実施可能であり、閉気孔の空間分布をも捉えることが可能である。
【0044】
図11は、本発明の一実施形態である酸化チタン単結晶の、窒素分子に由来するラマンスペクトルの強度マッピング像を示す図であって、前記
図6の観察で用いた酸化チタン単結晶中の閉気孔の窒素ガスの分析結果を示している。
図11において、15で示す黒色部分は、窒素ガスに由来するラマンスペクトルの強度が高い部位を示す。つまり
図11は、酸化チタン単結晶に含まれる閉気孔内に、窒素ガスが充填されていることを示す。また
図11の目盛軸から、閉気孔15は最長辺が100マイクロメートル以上の孔であることがわかる。すなわち、この
図11は、閉気孔の平均寸法が最長辺で100マイクロメートル以上である、本発明のセラミック粒子の一実施形態を示したものである。
【0045】
上記ラマン分析の詳細条件は次の通りである。すなわち、疑似共焦点光学系(空間分解能1μm以下)の三次元マッピング機能を備えたRenishaw社のinVia型ラマン分光装置を使用し、励起光源を532nmのDPSSレーザーとし、光学系の波数分解能が0.3cm-1となる条件で、同装置に組み込まれた自動マッピングステージを使い、窒素分子に対応するラマンシフト2330cm-1の散乱ピーク強度を三次元マッピングした。
【0046】
以上に示す通り、本発明のセラミックス粒子内の閉気孔は、EELSまたはラマン分光分析の少なくともいずれかにより、窒素分子が存在していることを確認できる。閉気孔のサイズに応じて上記分析方法を選択できる。本発明では、閉気孔内のガス分析において、EELSまたはラマンの測定結果で、セラミックス粒子の固体部分のチタンを含む金属酸化物由来のピークを除き、ピークが最も高いものを「主成分」という。閉気孔内のガスとして、主成分の窒素ガス以外のガスが含まれていてもよい。不可避的には、プラスチック成分(炭化水素系)、反応炉を構成するろ材の成分を含みうる。
【0047】
上記の通りセラミックス粒子内のガス組成を評価することで、材料特性を定量的に記述することが可能となる。また、材料特性値が得られることにより、該材料を用いた、例えば素子等の特性が推定可能となり、素子等の設計をより正確に行うことが可能となる。
【0048】
閉気孔のサイズは、上記透過型電子顕微鏡で観察して測定する方法以外に、樹脂に包埋して研磨して粒子断面を出してから、断面を走査電子顕微鏡で観察することも可能である。
【0049】
本発明のセラミックス粒子の一実施形態として、閉気孔の平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下であることが挙げられる。多孔体は一般に光を散乱する性質を持つ。特に、可視光等の光の波長よりも小さな気孔が存在することで、光の散乱特性を制御することが可能である。また、微細な閉気孔を配置することで、同様の気孔率でありながら、破壊時の亀裂進展を抑制する機能も期待される。本発明のセラミックス粒子は、例えば、閉気孔の平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下であると、これらの機能を発揮させることができる。
【0050】
または、本発明のセラミックス粒子の別の一実施形態として、閉気孔の平均寸法が最長辺で100マイクロメートル以上であることが挙げられる。例えば素子の軽量化を図る場合、より大きな空洞を備えた単結晶の利用が有効である場合がある。微細な閉気孔を配置する場合、閉気孔を隔てる内表面の数が必然的に増加し、結果として軽量化に限界が生じる。よって、本発明のセラミックス粒子は、軽量化という視点から、平均寸法が最長辺で100マイクロメートル以上の大きな閉気孔を有していてもよい。
【0051】
(セラミックス粒子の材質(成分))
本発明のセラミックス粒子は、チタンを含む金属酸化物で形成される。このチタンを含む金属酸化物は、チタンと酸素を必須とする。チタンを含む金属酸化物は、チタン以外の金属元素として更に、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、およびランタニド元素よりなる群から選択される1以上の元素が含まれていてもよい。例えば、(Ba1-xSrx)TiO3等を用いてもよい。
【0052】
上記構造を容易に形成する観点からは、チタンを含む金属酸化物として、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ランタン、および酸化チタンよりなる群から選択される1以上や、さらにそこにマンガンなどのチタンを置換するドーピング元素が含まれたものが好ましい。上記チタン酸ランタンとして、LaTiO3といったチタンが3価になっている化合物でなく、La2Ti2O7等のチタンが4価である化合物が挙げられる。より好ましくはチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化チタンのうちの1以上であり、更に好ましくはチタン酸バリウム、チタン酸カルシウムであり、最も好ましくはチタン酸バリウムである。
【0053】
また、上記の主成分に加え、材料特性を制御するために必要な場合には、マンガンなどのチタンを置換するドーピング元素が含まれていても良い。ここでいう「ドーピング元素」とは、チタン等のセラミックス粒子を構成する元素と置換する元素であって、前記セラミックス粒子を構成する元素と原子価の異なる元素をいう。ドーピング元素として、例えば、4価のチタンと置換する3価のマンガン、2価のカルシウムと置換する3価のランタン等が挙げられる。
【0054】
前記チタンを含む金属酸化物は、塗料、含量、触媒、誘電体、熱電材、電極剤、光機能などの多くの機能を発揮させることが可能である。上記機能を有するチタンを含む金属酸化物として、例えば、光触媒特性を持った酸化チタンや、強誘電性を有するチタン酸バリウムなどのチタン含有酸化物が挙げられる。本発明のセラミックス粒子の構造とすることで、上記特性に加え、更に軽量化、熱特性の制御等を行うことができ、結果として用途や性能の更なる拡大を実現できる。
【0055】
本発明のセラミックス粒子は、1000℃に加熱したときに、全閉気孔に占める破損した閉気孔の個数割合が10%以下でありうる。例えば、穴の壁が薄かった場合、壁が割れてしまい、開気孔が生じてしまう粒子がある程度の確率で存在しうる。例えば、壁が破れてしまった孔として、
図6の左上隅の孔のような形状となることがありうる。
【0056】
[セラミックス粒子集合体]
本発明の一実施態様として、上記セラミックス粒子を複数含む、セラミックス粒子集合体が挙げられる。
【0057】
上記セラミックス粒子は、閉気孔を有するため、セラミックス粒子集合体として、例えば上記セラミックス粒子を複数結合させれば、前述の類型2と異なり、高強度かつ軽量化を併せて達成した部材、素材、素子を実現できる。
【0058】
前記セラミックス粒子集合体の一実施形態として、
図13に、本発明のセラミックス粒子集合体の構造の模式図を例示する。
図13は、結晶基質6とその内部に閉気孔5を有するセラミックス粒子が複数凝集して形成されたセラミックス粒子集合体(二次粒子)を模式的に示しているが、本発明の実施態様は、この様に前記セラミックス粒子のみで形成されたセラミックス粒子集合体に限定されない。
【0059】
前記セラミックス粒子集合体の別の実施形態として、前記セラミックス粒子と、本発明で規定する以外のセラミックス粒子が含まれていてもよい。例えば、本発明のセラミックス粒子と同じ組成または異なる組成であって、本発明と結晶構造の異なる(すなわち、単結晶でない、及び/又は、閉気孔を有さない)セラミックス粒子を含んでいてもよい。前述の本発明のセラミックス粒子と異なる組成として、例えば、チタン酸ストロンチウムと、酸化ビスマスとを複合化したセラミックスが考えられる。
【0060】
また、前記セラミックス粒子集合体の別の実施形態として、前記セラミックス粒子と、セラミックスとは材質の異なる例えば樹脂等の任意成分との、複合材料であってもよい。
【0061】
前記任意成分として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ系樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱硬化型ウレタン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂等の樹脂;酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化セリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、珪酸等の焼結助剤;各種金属および酸化物等の導電性材料または絶縁性材料;光学調整剤;帯電防止剤;着色剤(有機系または無機系の顔料、染料等)等を更に含みうる。前記樹脂は、有機バインダーとして使用することもできる。
【0062】
例えば、粒子間の結合を強固にする目的で、上記有機バインダーとして樹脂を使用したり、セラミックス粒子集合体の導電率、誘電率などを制御する目的で、上記導電性材料等を含有させることができる。または例えば、ガラス材料を加え、その後に比較的低い温度で加熱して緻密化を図ることができる。または、光散乱粒子の様な光学調整剤を加えて屈折率を制御することが挙げられる。高屈折率材料は、重元素を含むことが一般的であるため、その軽量化が必要となる場合、高屈折率材料と本発明のセラミックス粒子を組み合わせることで、光散乱能を保ちつつ軽量化できる。
【0063】
(セラミックス粒子集合体に含まれる、本発明で規定のセラミックス粒子の割合)
セラミックス粒子集合体に占める前記セラミックス粒子の割合は限定されない。例えば、一実施形態として、セラミックス粒子集合体に占める前記セラミックス粒子の体積分率が、80%以上であることが挙げられる。すなわち、セラミックス粒子集合体には、例えば体積分率で20%以下の範囲内で、上記焼結助剤等の添加物が許容される。前記セラミックス粒子の体積分率は、更には、85%以上、より更には90%以上、より更には95%以上であり、100%、つまりセラミックス粒子集合体がセラミックス粒子のみで形成されていてもよい。
【0064】
なお、セラミックス粒子集合体で形成された部材として、たとえば積層セラミックスコンデンサを構成する積層体や複合体が挙げられる。この場合、前記積層セラミックスコンデンサにおける、セラミックス粒子の体積分率は50%を下回る場合もありうる。
【0065】
セラミックス粒子集合体に含まれる上記セラミックス粒子以外の任意成分は、例えば、体積分率で、20%以下とすることができる。前記任意成分は、体積分率で、更には15%以下、更には10%以下、更には5%以下であり、0%であってもよい。
【0066】
[特性]
(機械的強度)
本発明のセラミックス粒子は、機械的強度が高い。前記
図3に示した多孔体の場合、外部から荷重が加わると、粒界が壊れ崩れる。それに対して、前記
図4に示した本実施形態における多孔体は、粒界割れが起こらず強度を確保できる。
【0067】
(熱的安定性)
更に、前記セラミックス粒子は、熱的安定性に優れる。前述の類型2の構造、すなわち、多数の粒子で構成される焼結セラミックスの様な構造は、複数の凝集した結晶粒子で囲われた多結晶型の気孔が一般的である。その場合、気孔は結晶粒界と接する。一般に、乱れた構造を有する結晶粒界は、セラミックス中の物質輸送経路としての役割を担う傾向がある。よって、昇温に伴って、粒界構造の変化や、閉気孔に蓄えられた気体と外気との間の物質交換が起こることが想定される。また、閉気孔を有する構造は、熱が加わることで、表面エネルギー低減のための表面再構成が生じたり、閉気孔の内表面とガスの化学反応等により、閉気孔の形態を維持できず、構造変化により気孔が消失、または、結晶の一部が破壊されて開気孔に変化することが生じうる。
【0068】
一般的に、セラミックス部材の合成は、1000℃程度の高温で行われる。よって、1000℃程度の高温を経た後も、閉気孔が維持される、すなわち熱的安定性に優れることが求められる。本発明のセラミック粒子は、1000℃に加熱したときに、全閉気孔に占める破損した閉気孔の個数割合が10%以下に抑えられている。
【0069】
図14は、本発明の一実施形態であるチタン酸バリウム粒子の集合体の熱履歴と脱離ガスの成分分析結果を示す図である。この
図14は、後記の実施例1に記載の方法で得られたチタン酸バリウムのセラミックス粒子を80体積%以上含むセラミックス粒子集合体を、真空中で1200℃に達するまで加熱したときの脱離ガスの成分分析結果である。なお、前記集合体には、閉気孔を有していないセラミックス粒子、焼結助剤等の、本発明で規定する以外の物質も含まれうる。
【0070】
図14において、質量数14のシグナルと質量数28のシグナルは平行に推移していることから、それぞれ窒素原子と窒素分子に対応したものであって、質量数28のシグナルは窒素と同じ質量数の一酸化炭素(CO)ではなく、また質量数14のシグナルは炭化水素が分解したフラグメントのCH
2でもないことを確認し、窒素ガスが離脱している様子を示していることを確認した。更に、1000℃以上で脱離が顕著であるため、1000℃以上で窒素の脱離があることを確認した。
【0071】
図14から、1000℃付近において、わずかに窒素ガス成分の脱離が観測されている。この1200℃までの加熱を経たセラミックス粒子の電子顕微鏡観察を行ったところ、前記窒素ガスの脱離は、セラミックス粒子の一部の閉気孔が破壊されて脱離した窒素ガスをとらえたものであって、ほとんどの閉気孔は維持されたままであった。
【0072】
すなわち、本発明のセラミックス粒子は、閉気孔が高い熱的安定性を有しており、こうした高い熱的安定性を示すセラミックス粒子、および該セラミックス粒子を含むセラミックス粒子集合体は、上述したセラミックス部材の合成後も、軽量化や光散乱等の閉気孔による効果を十分に発揮できる。
【0073】
(軽量化)
また、本発明のセラミックス粒子を含むセラミックス粒子集合体は、軽量化を実現できる。本発明のセラミックス粒子集合体の一実施形態として、相対密度が、セラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子が閉気孔を含まないときの真密度に対して95%以下であるものが挙げられる。
【0074】
セラミックスの機能は、一般的にその化学組成と結晶構造によって決定される。例えば、(Ba1-xSrx)TiO3(0≦x≦1)で示されるセラミックスの場合、Srの含量xを大きくすることで、その質量数の差から、セラミックスの軽量化を図ることが可能である。しかし、Sr含量xが0.3よりも大きくなると、室温での強誘電体としての特徴が損なわれる。つまり、BaTiO3の化学式量が233.2であるのに対し、バリウムをストロンチウムで30%置き換えた(Ba0.7Sr0.3)TiO3の化学式量は218.3であり、化学式量の対比において約6.5パーセントの軽量化で室温での強誘電性が損なわれる。このような場合、本発明の通り、閉気孔を有するセラミックス粒子とすることによって、強誘電体としてのキュリー温度を低下させることなく軽量化を図ることができる。
【0075】
上記相対密度は、より好ましくは93%以下、更に好ましくは90%以下、より更に好ましくは85%以下である。
【0076】
上記相対密度は、セラミック粒子がチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ランタン、および酸化チタンよりなる群から選択される1以上で形成されている場合に実現しやすいため好ましい。
【0077】
本発明の一実施形態として、セラミックス粒子集合体の相対密度を測定した結果を表1に示す。表1は、後記の実施例1に記載の方法で得られたチタン酸バリウムのセラミックス粒子を80体積%以上含むセラミックス粒子集合体の相対密度を測定した結果である。上記測定は、2回行い、いずれも5.5グラム毎立方センチメートルの密度が得られた。この密度は、チタン酸バリウムの理論密度である6.02に対して、約92%の相対密度である。表1の測定2から、セラミックス粒子集合体のうち、チタン酸バリウムセラミックス粒子が占める体積は約0.452立方センチメートルである。このことからセラミックス粒子集合体は、全体の体積のうち、0.041立方センチメートルが閉気孔、すなわち、全体の体積のうちの10.2体積%が閉気孔であった。
【0078】
【0079】
なお、セラミックス粒子(一次粒子)のサイズが、例えばミリまたはセンチのオーダーといった大きいサイズである場合、閉気孔は粒子内の中心付近まで形成されず、表面に近い領域にのみ形成される場合がある。このような場合、相対密度は、セラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子が閉気孔を含まないときの真密度にほぼ近い値を示す。一方、一次粒子径が1μm以下、更に例えば500ナノメートル以下であれば、粒子の中心部にまで閉気孔を形成することが可能であり、上記相対密度を達成することが容易となる。
【0080】
[セラミックス粒子の製造方法]
前記セラミックス粒子、またはセラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子の製造方法は、チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を、900℃以上で、アンモニアと酸素を含む雰囲気中にて熱処理する工程を含み、前記アンモニアの供給量を、熱処理後の排ガス中に未反応のアンモニアが含まれる量とする。
【0081】
類型2の様に複数の粒子を凝集させて閉気孔を形成するのではなく、セラミックス粒子内に閉気孔を形成するには、粒子を構成するセラミックス(固体)中にガスを析出させる必要がある。そのための有効な手段として、本発明の方法が挙げられる。
【0082】
本発明では反応性ガスとしてアンモニアを使用する。900℃以上の高温でのアンモニアを含む雰囲気は、実効的な窒素の化学ポテンシャルが高まった環境である。900℃以上の高温でアンモニアを含む雰囲気にセラミックス原料粒子を曝すことによって、アンモニアがセラミックス(固体)粒子表面と反応してアンモニア分子を乖離すると考える。そしてその結果、生じた窒素イオンがセラミックス(固体)中に拡散し、セラミックス(固体)中で再び会合し、高濃度の窒素ガスとして再析出、つまり乖離しにくい安定な気相分子として析出することで、窒素ガスで満たされた閉気孔が形成されると考える。
【0083】
なお、反応性ガスであるアンモニアの代わりに窒素ガス中で加熱しても、上記反応機構は生じない。また、反応性ガスとして酸素ガスのみを用いた場合、酸素ガスは比較的容易に乖離するため、酸素イオンとなって固体に取り込まれ、閉気孔が形成される可能性もある。しかし閉気孔を形成した酸素ガスは、セラミックス(固体)と反応しやすいため、セラミックス(固体)内部を拡散し、結果として最表面から放散され、閉気孔が閉じると考えられる。一般的に、空洞内が真空である場合、表面積を減少させることで系をエネルギー的に安定化させるという熱力学的現象によれば、加熱すると空洞が消滅しやすい傾向にあるが、本発明の方法によれば、上記安定な窒素ガスで満たされるため、空洞の消滅も生じないと考える。
【0084】
本発明では、アンモニアとともに、酸素を含む雰囲気で反応を行う。例えば、酸化カルシウムをアンモニア中で加熱すると窒化カルシウムが形成される様に、アンモニア雰囲気中で加熱すると窒化が促進されやすい。しかし、アンモニアと酸素の混合ガスを含む雰囲気とすることにより、セラミックス(固体)粒子の窒化を抑制しつつ、セラミックス(固体)内部への窒素の輸送を増進させ、窒素を結晶粒子内で窒素ガスとして再析出させて、窒素ガスで満たされた閉気孔を形成することができる。窒素分子は乖離しにくい分子の代表であり、ひとたび閉気孔に取り込まれれば、それが乖離して窒素イオンとなり、固体中を拡散して外部に放散されることはない。
【0085】
上記酸素が共存することにより、窒化を抑制させる効果を十分発揮させることができる。上記酸素をガスとして供給する場合、例えば、供給するアンモニアに対して、体積分率で0.5%以上の酸素を供給することが挙げられる。一方、アンモニアの自然発火を抑制する観点から、供給するアンモニアに対する酸素の体積分率は10%以下とすることが挙げられる。しかし酸素は、ガスとして供給する場合に限られない。例えば、反応管として、ジルコニアの反応管を用いる場合、アンモニアはガスとして導入し、酸素は反応管を形成するジルコニアを介し、外気から供給することも考えられる。
【0086】
一方、上記反応機構を実現させるには、十分な量の窒素イオンを固体内に拡散させる必要がある。固体中の窒素イオン濃度が低い場合、固体中での窒素イオンの会合の確率が極めて低くなり、結果として、窒素ガスで満たされた閉気孔は形成され難く、孤立した窒素イオンが不純物として含まれるにとどまる。
【0087】
特に、セラミックス(固体)中に窒素イオン(N3-)として導入された窒素は、固体中を拡散する間に、ある確率をもって別のN3-と接近する。接近した際に、2個のN3-同士が結合して、N2分子となりうる。閉気孔を形成するには、このN2分子の析出を活発化する、すなわち、N3-同士が接近する確率を高める必要がある。この確率は、N3-の存在濃度や、セラミックス(固体)内の環境、すなわち、フェルミレベル、周囲に存在する欠陥や不純物と相関する。よって反応では、高濃度のN3-を固体中に取り込ませる環境、かつ、N3-同士が会合してN2分子を形成できる環境での熱処理が肝要となる。
【0088】
アンモニアの供給量は、反応装置内での熱によるアンモニアの自発的分解も考慮して決定する必要がある。アンモニアが熱によって自発的に分解し、窒素分子と水素分子を形成すると、反応性ガスとしての活性を損なう。よって、上記アンモニアの熱分解を考慮し、反応装置内で、アンモニアが熱分解される反応速度を上回る、すなわち、アンモニアの消費があった後も、未反応のアンモニアが残存する程度の、多量のアンモニアを、反応装置に供給する必要がある。排ガス中に、熱処理で未反応のアンモニア、すなわち、熱処理で分解・吸収されずに排出されるアンモニアが含まれるようにする。
【0089】
アンモニアの供給量は、前記排ガス中のアンモニア含有量が5%以上となるよう調整することが好ましい。前記排ガス中のアンモニア含有量は、より好ましくは10%以上である。一方、前記排ガス中のアンモニア含有量は、90%以下であることが好ましい。前記排ガス中のアンモニア含有量は、より好ましくは5~40%、さらに好ましくは10~30%である。
【0090】
上記アンモニアの供給の具体的な実施態様として、一定以上のアンモニアを反応装置に流通し続けることが好ましい。より具体的に、自発分解と閉気孔形成のための結晶粒子内への取り込みの2つ反応が同時に進む課程で、アンモニアの消費があった後も、未反応のアンモニアが残存する程度の、多量のアンモニアを反応装置に流し続ける必要がある。つまり本発明では、新鮮なアンモニアを常に流し、熱処理での反応で生じる排ガスに、熱処理で分解・吸収されなかったアンモニアを含む状態とするため、反応装置から、排出される反応済みの排ガスの組成を分析し、該排ガス中の未反応のアンモニア量を確認し、未反応のアンモニアが排ガス中から検出されるだけの十分な量のアンモニアを反応装置に導入することが必要である。
【0091】
上述の通り閉気孔形成のためには、セラミックス(固体)内で、窒素イオン同士が会合し、窒素分子を形成する必要がある、例えば窒素イオンの拡散速度が高い場合、窒素イオンがセラミックス粒子内に導入しても、セラミックス粒子内部に向かって拡散し、セラミックス粒子を突き抜ける等して結晶内の窒素イオン濃度の上昇が起こりにくくなる、すなわち、窒素イオン同士の会合の確率が低下して、窒素分子の形成が起こりにくい。一方、窒素イオンの拡散速度が遅い場合、表面部に導入した窒素イオンが内部に拡散するよりも早く、次の窒素が表面から入り、粒子の表面部での窒素分子の析出が生じやすく、セラミックス粒子内部での閉気孔の生成が生じ難くなる。よって、閉気孔の形成には、原料として用いるセラミックス粒子の有する、拡散係数(物質輸送特性)、窒素イオンの平衡固溶限界などの固体としての物性値、粒径を考慮するとともに、供給するアンモニアガスの流量、反応温度を考慮して、製造工程を設計する必要がある。
【0092】
セラミックス原料粒子は、単結晶である必要はない。例えば焼結体、または粉体を使用することもできる。
【0093】
閉気孔を形成しようとするセラミックス原料粒子の結晶方位を制御することで、閉気孔の面方位も制御することができる。例えば後記する実施例5で製造した酸化チタンからなるセラミックス粒子の
図6の写真では、セラミックス原料粒子の表面に対して平行に近い扁平な閉気孔が形成されている。これは、正方晶である酸化チタンをセラミックス原料粒子に用いており、このセラミックス原料粒子ではc軸方向にガスの拡散係数が大きいという結晶方位に由来する拡散の傾向により、セラミックス原料粒子の表面に対して平行に近い扁平な閉気孔が形成されたと考えられる。すなわち、
図6の紙面左右方向には拡散が遅く、c軸方向に相当する紙面の上下方向には拡散が早いため、導入された窒素イオンは、表面近傍に留まり、かつ、その表面と平行である面内方向には活発に窒素が拡散するために、表面に平行な空孔が閉気孔として形成される。
【0094】
この様に、所望の方向の形状を示す閉気孔を形成するには、窒素の拡散係数を考慮し、セラミック原料粒子として、上記所望の方向となるよう切り出した結晶を用いることが好ましい。
【0095】
所望のセラミックス粒子を得るために、該セラミックス粒子の製造に用いるセラミック原料粒子に処理を施す工程を含んでいてもよい。
【0096】
セラミックス原料粒子とアンモニアの反応は、まず、反応性ガスのセラミックス粒子表面への吸着と、アンモニアの乖離から開始される。セラミック原料粒子の表面が、表面吸着や分子の乖離に対して活性度が高い場合、上述した窒素イオンの導入が促進され、閉気孔を形成できる。すなわちセラミック原料粒子の表面反応性が大切である。しかしセラミック原料粒子が、例えば安定性の高い結晶面で形成された自形粒子の場合、アンモニアの分解による窒素イオンの拡散が阻害され、結果として閉気孔を有するセラミックス粒子を形成できない場合がある。
【0097】
このような場合、例えば、上記安定的なセラミックス原料粒子を予め機械粉砕して活性な表面を露出させるなど、予備的な処理(前処理)を行うことができる。
【0098】
また、可視光との相互作用を生むには波長程度、すなわち500nm程度の粒径が望ましい。一方、セラミックス原料粒子が微細である場合、溶液からの析出で合成され、水分を含んでいる場合がある。よって、原料粒子の粒径が100nm前後または100nmを下回る場合、別の前処理として、セラミックス原料粒子の脱水、表面の改質とサイズの粗大化を目的に、酸素含有雰囲気下で加熱、例えば1000℃で4時間くらいの大気中熱処理を施すことが好ましい。
【0099】
また、上記セラミックス粒子の製造方法は、前記アンモニア含有雰囲気下で熱処理後、酸素含有雰囲気下で加熱する工程を含んでいてもよい。例えば可視光での光学応用に用いる場合、基質が透明性を示すことが求められる場合がある。閉気孔を形成するには、酸素欠損が発生するような条件での処理を必要としうる。セラミックス原料粒子を構成する酸化物によっては、高濃度のアンモニア雰囲気で処理したときに、酸素空孔の形成により透明性が損なわれ、着色する場合がある。しかし形成された閉気孔は熱的に安定であるため、上記の通り、閉気孔形成後に酸素含有雰囲気下で加熱する工程を設け、酸素欠損を解消することができる。例えば大気中での熱処理の様に比較的高い酸素分圧で、例えば600℃での加熱を1時間行う、すなわち、酸素欠損を解消するための処理を実施することによって、黒味を抜いて透明化や白色化を実現し、光学特性を調整することができる。
【0100】
(セラミックス粒子集合体の製造方法)
前記方法で得られたセラミックス粒子のみで集合体を形成させる場合、例えば、該集合体の製造方法として、前記セラミックス粒子を集合体の形状に成形してから、閉気孔を潰さない様な比較的低い温度、例えば約800℃で焼結させて、セラミックス粒子集合体を得ることが挙げられる。
【0101】
前記セラミックス粒子集合体として、前記セラミックス粒子と樹脂を含む集合体を得る場合であって、樹脂を有機バインダーとして用いる場合には、セラミックス粒子と、有機バインダーとを混錬(混錬時に必要に応じて溶媒を加えてもよい)し、成形し、光照射または放置により固化させること等が挙げられる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0103】
形状が不定形であってサイズが平均粒子径2ミクロンの粒子からなるチタン酸バリウム原料粉体を、1000℃に加熱した反応管内で、空気とアンモニアを含むガスを流通させながら熱処理した。詳細には、前記反応管として、耐火物で形成され、内径50ミリのものを用いた。また前記反応管から排出されるガスを、一般的なガスクロマトグラフ装置で分析した。前記熱処理を、詳細には、反応管の温度が1000℃に達し、かつ空気を0.02リットルとし、アンモニアガスの流量を毎分0.5リットルまで加えた状態で、60時間行って、反応物である粉末を得た。
【0104】
前記熱処理装置(反応管)からの排ガスには、アンモニアの分解によって生じた窒素ガスと水素ガス、未反応のアンモニア、および、混合した空気中の酸素と、前記水素ガスとの反応で生じた水蒸気が含まれていた。排ガスの成分をガスクロマトグラフ装置で分析した結果、体積分率で、窒素が23%、アンモニアが23%、酸素が0.2%、水蒸気が0.8%含まれていることが確認された。つまり実施例1では、上記の通り排ガス中に未反応のアンモニアが含まれるような組成のガスを流通させて、反応させた。
【0105】
上記反応物である粉末について、密度の測定を行うとともに、X線回折測定を行った。
【0106】
(密度の測定)
ヘリウムガスを媒体とした密度測定を実施した。密度は、株式会社島津製作所製のアキュピック型乾式密度計を用い、室温で測定を行った。ヘリウムガスを使って粉末の閉気孔を含む体積を精密に測定し、粉末の質量を既に把握の場合、粉末の質量を上記体積で割ることで、粉末の密度が得られる。一方、X線回折では、BaTiO3が報告された文献値と一致していることから、格子定数と化学組成によって求められる理論密度が得られる。その理論密度と、密度計で測定した測定密度との比較から、閉気孔の割合が求まる。
その結果を表1に示す。処理前の密度に対して、密度が10%減少した粉末を得た。
【0107】
(X線回折測定)
X線回折測定には、リガク製のSmart Lab型の粉末X線回折装置を使い、室温で測定した。測定では、Cu-Kα線を線源として利用した測定で、θ-2θ法による測定を行った。なお、測定方法はこれに限定されず、他社の装置を使っても問題なく、また線源が別の線源であってもよい。X線回折測定を実施し、観測された回折パターンは、処理を行う前の純粋なチタン酸バリウムと変わらないパターンであった。
【0108】
上記密度の測定とX線回折測定の結果から次のことが確認された。すなわち、X線回折測定の結果から、相の変化は認められなかったため、観測された密度の変化はチタン酸バリウム粉体を構成する結晶粒子に閉気孔が形成されたことによるものであった。つまりこの実施例1では、セラミックス原料粒子としてチタン酸バリウム原料粉体を、アンモニアと酸素を含む雰囲気中で熱処理を施すことで、相分離を生じさせることなく、密度を約8パーセント低減した軽量なチタン酸バリウム粉体が得られた。
【0109】
(透過型電子顕微鏡による観察)
透過型電子顕微鏡による閉気孔の観察を行った。詳細には、反応物である粉末を、瑪瑙乳鉢を用いて摺り潰した後に、透過型電子顕微鏡を用いてその構造を観測した。その結果、単結晶粒子の像には、数十ナノメートルほどの複数の四角形のコントラストが見られ、そのコントラストは、(001)面を特徴とするものであった。
【0110】
また、上記透過型電子顕微鏡による観察で、前記
図5や
図7と同様の観察結果が得られ、得られたセラミックス粒子が単結晶であることを確認した。
【0111】
(電子線エネルギー損失分光測定による閉気孔の観察)
この四角形のコントラスト部分に電子線を照射して電子線エネルギー損失分光の測定を行った。その結果、得られたスペクトルは、窒素分子の電子線損失に対応したスペクトルとなっていた。
【0112】
上記透過型電子顕微鏡観察と、上記電子線エネルギー損失分光の測定から、この結晶粒子は、晶癖に対応した(001)面を内表面とする閉気孔を有しており、その閉気孔の中には、窒素ガスが満たされていることがわかった。すなわち、得られた軽量化したチタン酸バリウム粉体は、乳鉢を用いた粉砕によってもその粒子が破壊されて閉気孔が開気孔に変換される確率が極めて低く、閉気孔を有しつつ高機械強度を示す軽量化されたチタン酸バリウムであった。
【0113】
(高温加熱による評価)
反応物である粉末を、真空中で1200℃までの加熱を施し、その加熱中の脱離ガスを分析した。
その結果、
図15に例示する熱脱離スペクトルを得た。
図15には、熱処理パターンも併せて示している。この
図15から、試料温度が1000℃に達したころに、僅かな窒素ガスの脱離が認められた。一方、1200℃までの加熱で僅かな窒素ガスの脱離が認められた粉末の電子顕微鏡観察を行ったが、閉気孔が壊れてガスが脱離した痕跡は見つけられなかった。また、前記窒素ガスの脱離が認められた粉末以外の、上記1200℃まで加熱後の粉末についても電子顕微鏡観察を行ったが、閉気孔の破裂による粒子形状の変化や閉気孔の消滅は認められなかった。
【0114】
上記熱脱離スペクトルと上記電子顕微鏡観察の結果から、本実施例では、晶癖面で覆われた窒素ガスを成分とするガスを内包した閉気孔が形成されることで、1000℃までの加熱では閉気孔が破壊されない軽量化されたチタン酸バリウムが得られた。なお、上記僅かな窒素ガスの脱離が認められた粉末では、真空中かつ試料温度が1000℃に達したころに壁面が薄く壊れやすいごく一部の閉気孔が破裂して、閉気孔内部の窒素ガスが解放されたことにより、窒素ガスが検出されたと考えられる。
【実施例2】
【0115】
反応時間を40時間とする以外は実施例1と同様にして、チタン酸バリウム粉体の熱処理を行って、反応物である粉末を得た。
【0116】
得られた粉末のX線回折測定を行ったところ、相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸バリウムと同じ結晶相であった。
【0117】
(透過型電子顕微鏡観察)
熱処理時にガス流にさらされていた粉体の表層部近傍箇所から観察用試料を採取し、透過型電子顕微鏡を用いてその構造を観測した。その結果、最長辺が約200ナノメートルの(111)面を双晶境界とした相晶を含む単結晶粒子であった。この単結晶粒子の像には、
図5に示した様態と類似の様態、すなわち、数十ナノメートルほどの複数の四角形のコントラストが見られ、そのコントラストは、(001)面を特徴とするものであった。
【0118】
(電子線エネルギー損失分光の測定)
この四角形のコントラスト部分に電子線を照射して電子線エネルギー損失分光の測定を行った。その結果、得られたスペクトルは、
図7に類似しており、カルシウムのピークに代わってバリウムのピークが観察され、かつ、窒素分子の電子線損失に対応したピークを含むスペクトルであった。
【0119】
上記透過型電子顕微鏡観察と、上記電子線エネルギー損失分光の測定から、この結晶粒子は、晶癖に対応した(001)面を内表面とする閉気孔を有しており、かつ、その閉気孔は窒素ガスで充満していることがわかった。すなわち本実施例では、晶癖面で覆われ窒素ガスを主成分とするガスを内包した閉気孔が形成されることで軽量化した、チタン酸バリウム粒子が得られた。
【実施例3】
【0120】
原料としてチタン酸カルシウム粉体を用いた以外は、実施例2と同様にして熱処理を行い、反応物である粉末を得た。
【0121】
得られた粉末のX線回折測定を行ったところ、相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸カルシウムと同じ結晶相であった。
【0122】
実施例2と同様に、熱処理時にガス流にさらされていた粉体の表層部近傍箇所から観察用試料を採取し、透過型電子顕微鏡を用いてその構造を観測した。その結果、最長辺が約200ナノメートルの単結晶粒子であった。この単結晶粒子の像には、
図5に示した様態と類似の、複数の四角形のコントラストが見られ、そのコントラストは、(001)面を特徴とするものであった。
【0123】
また実施例2と同様に、上記四角形のコントラスト部分に電子線を照射して電子線エネルギー損失分光の測定を行った。その結果、窒素分子の電子線損失に対応したピークを含むスペクトルが得られた。
【0124】
上記透過型電子顕微鏡観察と、上記電子線エネルギー損失分光の測定から、この結晶粒子は、晶癖に対応した(001)面を内表面とする閉気孔を有しており、その閉気孔の中には、窒素ガスが満たされていることがわかった。すなわち本実施例では、晶癖面で覆われた窒素ガスを主成分とするガスを内包した閉気孔が形成されることで軽量化した、チタン酸カルシウム粒子が得られた。
【実施例4】
【0125】
原料としてチタン酸ストロンチウム粉体を用いた以外は、実施例2と同様にして熱処理を行い、反応物である粉末を得た。
【0126】
得られた粉末のX線回折測定を行ったところ、相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸ストロンチウムと同じ結晶相であった。
【0127】
実施例2と同様に、熱処理時にガス流にさらされていた粉体の表層部近傍箇所から観察用試料を採取し、透過型電子顕微鏡を用いてその構造を観測した。その結果、最長辺が約200ナノメートルの単結晶粒子であった。この単結晶粒子の像には、
図5に示した様態と類似の、数十ナノメートルほどの複数の四角形のコントラストが見られ、そのコントラストは、(001)面を特徴とするものであった。
【0128】
また実施例2と同様に、上記四角形のコントラスト部分に電子線を照射して電子線エネルギー損失分光の測定を行った。その結果、窒素分子の電子線損失に対応したピークを含むスペクトルが得られた。
【0129】
上記透過型電子顕微鏡観察と、上記電子線エネルギー損失分光の測定から、この結晶粒子は、晶癖に対応した(001)面を内表面とする閉気孔を有しており、その閉気孔の中には、窒素ガスが満たされていることがわかった。すなわち本実施例では、晶癖面で覆われた窒素ガスを主成分とするガスを内包した閉気孔が形成されることで軽量化した、チタン酸ストロンチウム粒子が得られた。
【実施例5】
【0130】
酸化チタンからなり、縦と横がそれぞれ10ミリメートルで厚さが約0.5ミリメートルの単結晶を、1000℃にて、アンモニアを毎分100立方センチメートル、空気を20立方センチメートルの流量で雰囲気制御したアンモニアを含む雰囲気中で40時間にわたって熱処理して、反応後の単結晶体を得た。
【0131】
(光学顕微鏡観察)
得られた単結晶体を破断し、その内部構造を、光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、
図6に示す様に、単結晶の(010)表面から約50~100マイクロメートルの深さ位置において、<001>方向の長さが約300マイクロメートルとなる閉気孔15が観察された。
【0132】
(ラマン散乱によるマッピング観察)
得られた単結晶体に対して、ラマン散乱によるマッピングを実施し、
図11の様な結果を得た。
図11において、閉気孔の内部から、窒素分子の分子振動に対応したラマン散乱のシグナルが観測された。なお、大気中の窒素ガスは、この測定方法では観測されていない。
【0133】
上記光学顕微鏡観察と、上記ラマン散乱によるマッピングの測定から、結晶に形成された気孔は閉気孔であり、この閉気孔の内部は窒素ガスで満たされていたことがわかる。すなわち、この実施例では、100マイクロメートルを越える大きな閉気孔を有する軽量化された酸化チタン単結晶が得られた。
【実施例6】
【0134】
酸化チタン粉体(サイズは、実施例5と同じ)を、1000℃にて、アンモニアを毎分500立方センチメートル、空気を10立方センチメートルの流量で制御した雰囲気中で、40時間の熱処理を行って、粉末を合成した。更にその後、600℃で大気中1時間の熱処理を施して、酸素欠損を解消し、黒味の抜けた粉末を得た。すなわち、閉気孔形成後、更に、酸素含有雰囲気下で加熱する工程を設けて、光学特性を調整した。
【0135】
得られた粉体のX線回折測定を行った結果、相分解の様子は認められず、処理前の酸化チタンと同じ結晶相であった。
【0136】
得られた粉体のラマン散乱分光分析を行った結果、窒素分子に特徴的なシグナルが観測された。上記ラマン散乱によるマッピングの測定から、実施例6では、窒素分子を含む閉気孔を有する酸化チタン粉体、すなわち、軽量化された酸化チタン粉体が得られたことを確認した。
【実施例7】
【0137】
前記実施例1と同様の条件で得られた、閉気孔内に窒素ガスが含まれるチタン酸バリウム粉末を体積比で10%の割合となるよう、エポキシ樹脂と混練し、十分に脱気して固化させることで、チタン酸バリウムを凝集させた凝集体を得た。
【0138】
この凝集体を研磨し、研磨表面を電子顕微鏡で観察したところ、閉気孔を有するチタン酸バリウムがエポキシ樹脂によって結合、凝集された構造であることが確認された。本実施例では、エポキシ樹脂を加えることにより、高屈折率であってかつ軽量化されたセラミックス粒子集合体が得られた。
【実施例8】
【0139】
実施例8では、チタン酸ストロンチウム原料粒子として、市販の試薬を用いたが、この市販の試薬は、電子顕微鏡観察によって、比較的(001)面が発達した1辺が100±50ナノメートル程の立方体状の粒子からなる粉体であることが確認された。その粒径や粒子形状から、溶液からの析出で合成された試薬である可能性が示唆された。よって、熱処理を施し、灼熱による脱水を施す必要があると考え、このチタン酸ストロンチウム原料粒子を、1000℃で約4時間の大気中での熱処理(前処理)を施してから、実施例4と同様の条件で熱処理することによって、粉末を合成した。
【0140】
得られた粉末のX線回折測定を行ったところ、1000℃で約4時間の大気中での熱処理、実施例4と同様の条件での熱処理の何れにおいても相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸ストロンチウムと同じ結晶相であった。1000℃で大気中での熱処理(前処理)によって、前記
図3の様な密度の低い多結晶の凝集体が得られたが、その後に、実施例4と同様の条件で熱処理を施すことで、実施例4と同様の閉気孔を有する単結晶からなる粉体が得られた。
【比較例1】
【0141】
チタン酸バリウム原料粒子を、1000℃にて、純粋なアンモニアガスのみを毎分200立方センチメートル流した雰囲気中で40時間熱処理した。その結果、Ba2TiO4とTiNとの混合物に変質し、軽量化されたチタン酸バリウムは得られなかった。得られた粉体はTiNに由来する黒色を呈した。
【比較例2】
【0142】
チタン酸バリウム原料粒子を、1000℃にて、大気中で40時間にわたって熱処理して反応物であるセラミックス粒子を得た。
【0143】
得られたセラミックス粒子のX線回折測定を行った結果、相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸バリウムと同じ結晶相であった。また、透過型電子顕微鏡を用いてその構造を観測したところ、上記熱処理によりセラミックス粒子の凝集が生じており、該凝集により複数のセラミックス粒子で囲まれた気孔の形成は確認された。しかし比較例2では、閉気孔の形成は認められなかった。
【比較例3】
【0144】
チタン酸ストロンチウム原料粒子を、1000℃にて、純水素ガス中で20時間にわたって熱処理することによって、粉末を合成した。
【0145】
得られた粉体のX線回折測定を行った結果、相分解の様子は認められず、処理前のチタン酸バリウムと同じ結晶相であった。また、熱処理後の結晶への水素の拡散状態を確認したが、高濃度の水素の拡散は確認されず、閉気孔の形成も確認されなかった。つまり、水素ガスの分解成分の結晶内への拡散とその再析出が起こらなかったために、閉気孔が形成されることはなかった。水素中での熱処理は、水素の侵入よりも、酸素の脱離による酸素空孔の生成を促進するものであり、開気孔の形成には効果を発揮しない。
【比較例4】
【0146】
チタン酸ストロンチウム原料粒子として、市販の試薬であって、電子顕微鏡観察で(001)面が発達した立方体状の粒子形状が確認されたものを用いた。このチタン酸ストロンチウム原料粒子を、錠剤形に成形し、900℃において、アンモニアを含まない空気中で焼成することで、焼結体を得た。この焼結体の相対密度は、約90%であった。更に、得られた焼結体を破断して、その断面を観察したところ、
図3に示すような粒子同士の間に気孔が存在する構造となっており、また、
図4の様な構造をもった粒子の形成は認められなかった。
【比較例5】
【0147】
酸化チタン粉体約25グラムを、1000℃にて、アンモニアを毎分100立方センチメートル、空気を20立方センチメートルの流量で雰囲気制御したアンモニアを含む雰囲気中で、16時間にわたって熱処理して、熱処理済みの粉体を得た。熱処理中の排ガスの組成分析をしたところ、排ガス中のアンモニア濃度は2%未満の低濃度であった。
【0148】
得られた粉体に対して、X線回折測定を実施したところ、得られた粉体の結晶相は、熱処理前と同じく、ルチル型の酸化チタンであった。この粉体に対してラマン散乱による分析を実施したところ、窒素分子の分子振動に対応したラマン散乱のシグナルは観測されなかった。すなわち、窒素分子を含む閉気孔の構造が形成されていないことが確認された。
【0149】
前記実施例5では、酸化チタン単結晶を熱処理しており、その質量は約0.2グラムである。それに対して、本比較例では、約25gの粉体を処理した。粉体は高い表面積を持つ上に、投入した粉体の量が単結晶の量の100倍以上となっていたことから、投入したアンモニアがほぼ完全に分解され、閉気孔形成のための十分量のアンモニアが供給されず、閉気孔が形成されなかったと考えられる。従って、所望の閉気孔を有するセラミックス粒子の製造にあたっては、排気ガス組成を分析し、排気ガス中のアンモニアが十分な濃度となることを確認して製造を実施する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のセラミックス粒子およびセラミックス粒子集合体は、微細な空孔構造を形成することのできるため、軽量化、断熱を含む熱伝導特性を制御した素材、素子等の部材を構成する多孔体材料として有用である。また、熱伝導を低減する構造が求められる熱電素子の材料としても有用である。
【0151】
さらに、従来の多孔体材料と異なり、開気孔を抑制することができる。つまり、表面積を低減することで、表面吸着による外部擾乱や表面反応による経時劣化を抑制した多孔体を実現することができる。例えば該多孔体は、電極を接続して使用する電子セラミックスとして用いることができる。さらには、閉気孔が光線を散乱する効果を有しているため、光学特性の調整材として使用することもできる。または、多くの微細な開気孔を設け、該開気孔に触媒を担持させることによって、反応活性点が多く、表面化学活性の高い触媒を提供することができる。
【0152】
本発明のセラミックス粒子が例えばチタン酸バリウムで構成される場合、該チタン酸バリウムの粒界の特性を利用した、PTCR(Positive Temperature Coefficient of Resistivity、抵抗の正の温度特性)セラミックスとして有用である。PTCRセラミックスは、温度センサーとして用いられるため、熱容量を小さくすることによって、敏感な温度検知を実現できる可能性がある。そのため、中空の閉気孔を有し、かつ、マンガンやニオブなどの適切なドーピングを施したチタン酸バリウムセラミックスを形成することで、軽量であり、かつ、熱容量の小さなPTCRセラミックスを製造することができる。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
<1>
チタンを含む金属酸化物で形成され、単結晶であって、該単結晶内に閉気孔を含む、セラミックス粒子。
<2>
前記閉気孔の内表面が面方位を有する、<1>に記載のセラミックス粒子。
<3>
前記閉気孔内の気体の主成分が窒素ガスである、<1>または<2>に記載のセラミックス粒子。
<4>
前記面方位が、(hkl)におけるh、k、lのうちのいずれか一つ、または二つがゼロの面、(111)面、または(112)面である、<2>または<3>に記載のセラミックス粒子。
<5>
前記閉気孔の形状が六面体である、<2>~<4>のいずれかに記載のセラミックス粒子。
<6>
1000℃に加熱したときに、全閉気孔に占める破損した閉気孔の個数割合が10%以下である、<1>~<5>のいずれかに記載のセラミックス粒子。
<7>
前記チタンを含む金属酸化物は、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ランタン、および酸化チタンよりなる群から選択される1以上である、<1>~<6>のいずれかに記載のセラミックス粒子。
<8>
前記セラミックス粒子の平均粒子径が1μm以下で、かつ閉気孔の平均寸法が最長辺で100ナノメートル以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のセラミックス粒子。
<9>
<1>~<8>のいずれかに記載のセラミックス粒子を複数含む、セラミックス粒子集合体。
<10>
セラミックス粒子集合体に含まれる前記セラミックス粒子の体積分率が、80%以上である、<9>に記載のセラミックス粒子集合体。
<11>
相対密度が、セラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子が閉気孔を含まないときの真密度に対して95%以下である、<9>または<10>に記載のセラミックス粒子集合体。
<12>
更に樹脂を含む、<9>~<11>のいずれかに記載のセラミックス粒子集合体。
<13>
<1>~<12>のいずれかに記載の、セラミックス粒子、またはセラミックス粒子集合体に含まれるセラミックス粒子の製造方法であって、
チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を、900℃以上で、アンモニアと酸素を含む雰囲気中にて熱処理する工程を含み、
前記アンモニアの供給量を、熱処理後の排ガス中に未反応のアンモニアが含まれる量とする、セラミックス粒子の製造方法。
<14>
前記排ガス中のアンモニア含有量が、体積分率で5~90%である、<13>に記載のセラミックス粒子の製造方法。
<15>
前記熱処理する工程の後、酸素含有雰囲気下で加熱する工程を含む、<13>または<14>に記載のセラミックス粒子の製造方法。
<16>
前記熱処理前に、前記チタンを含む金属酸化物で形成されたセラミックス原料粒子を酸素含有雰囲気下で加熱する工程を含む、<13>~<15>のいずれかに記載のセラミックス粒子の製造方法。
【符号の説明】
【0153】
1 開気孔
2 バルク体
3 針状材質
4 基板材質
5 閉気孔
6 結晶基質
X 単結晶体
7 チタン酸カルシウム結晶粒子
8、15 閉気孔
9 結晶粒子のa軸方向
16 酸化チタン単結晶
17 a軸
18 b軸
19 c軸