(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】サンゴ育成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20241112BHJP
【FI】
A01K61/00 301
(21)【出願番号】P 2020147504
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】506122246
【氏名又は名称】エム・エムブリッジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232759
【氏名又は名称】日本防蝕工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 一禎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 充浩
(72)【発明者】
【氏名】請盛 宏明
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-022783(JP,A)
【文献】特開2005-160316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0196206(US,A1)
【文献】特開2007-267699(JP,A)
【文献】特開平06-169666(JP,A)
【文献】特開2008-271960(JP,A)
【文献】特開2013-128444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する線状部材により複数の管状の電着基盤同士が連結された連結体を形成する連結体形成工程と、
前記連結体を吊り下げた状態で海中におけるサンゴの成体の上方に配置し、サンゴの幼生を着床させるサンゴ着床工程と
を含
み、
前記連結体形成工程は、複数の鋼管同士を点付け溶接により接合することと、複数の前記鋼管に電流を流して海水中で電着を行うことで前記鋼管の表面に電着層を形成することと、前記電着層が付着した複数の前記鋼管の前記点付け溶接を切断することで個々の前記電着基盤とすることと、個々の前記電着基盤同士を前記線状部材により連結することと、を含む
サンゴ育成方法。
【請求項2】
前記サンゴ着床工程では、複数の前記連結体をサンゴ成体の上方に配置し、複数の前記連結体に電流を流す
請求項1に記載のサンゴ育成方法。
【請求項3】
前記サンゴ着床工程では、網で囲まれた領域に前記連結体を配置する
請求項1又は請求項2に記載のサンゴ育成方法。
【請求項4】
前記電着基盤として、表面に電着層が形成された角型の鋼管を用いる
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のサンゴ育成方法。
【請求項5】
前記サンゴ着床工程の後、前記連結体においてサンゴの幼生が着床した複数の前記電着基盤同士の連結を解除する連結解除工程と、
連結が解除された前記電着基盤を個別に海中に配置する電着基盤配置工程と
を更に含む請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のサンゴ育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サンゴ育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、埋め立てや地球の温暖化に起因する海水温度の上昇等によって、サンゴ群集の白化やサンゴの死滅といったサンゴ礁の衰退が問題となっている。このため、近年においては、サンゴを人工的に養殖して、サンゴ礁を回復させる試みが提案されている。例えば、海水中に基盤を配置し、当該基板にサンゴの幼生を着床させる方法が提案されている。このようなサンゴの幼生を着床させる基盤としては、例えば表面に電着層が形成された電着基盤を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術においては、サンゴの幼生を着床させた電着基盤を大量かつ効率的に生産することが求められている。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、サンゴの幼生を着床させた電着基盤を大量かつ効率的に生産することが可能なサンゴ育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るサンゴ育成方法は、導電性を有する線状部材により複数の管状の電着基盤同士が連結された連結体を形成する連結体形成工程と、前記連結体を吊り下げた状態で海中におけるサンゴの成体の上方に配置し、サンゴの幼生を着床させるサンゴ着床工程とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、サンゴの幼生を着床させた電着基盤を大量かつ効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るサンゴ育成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、連結体形成工程の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、サンゴ着床工程の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、連結解除工程の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、電着基盤配置工程の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、連結体形成工程の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、連結体形成工程の他の例を示す図である。
【
図8】
図8は、連結体形成工程の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係るサンゴ育成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
図1は、本実施形態に係るサンゴ育成方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るサンゴ育成方法は、連結体形成工程(ステップS10)と、サンゴ着床工程(ステップS20)と、連結解除工程(ステップS30)と、電着基盤配置工程(ステップS40)とを含む。
【0011】
図2は、連結体形成工程の一例を示す図である。
図2に示すように、連結体形成工程では、導電性を有する線状部材10により複数の管状の電着基盤20同士が連結された連結体30を形成する。線状部材10としては、例えば鉄線等が用いられる。
【0012】
電着基盤20は、表面に電着層22が形成された角型の鋼管21が用いられる。鋼管21の形状は、角型に限定されず、円形、多角形等、他の形状であってもよい。鋼管21は、
図2に示すように、中心軸方向の寸法L1を例えば10mm以上100mm以下、中心軸に直交する方向の寸法L2、L3をそれぞれ10mm以上100mm以下とすることができる。
【0013】
連結体形成工程では、まず、複数の鋼管21を酸洗いなどで表面処理した後、線状部材10によって連結する。鋼管21と線状部材10との間は、電通を図る目的で、例えば点溶接等により接合することができる。このとき、例えば、鋼管21の開口部分21aの軸方向を線状部材10の長手方向に沿うように配置した状態で接合することができる。次に、連結した複数の鋼管21を海中に配置する。次に、海中に配置した複数の鋼管21及び線状部材10に電流を流して電着を促進させて、鋼管21の表面に電着層22を形成する。電着層22を構成する電着鉱物としては、例えばCaCO3、Mg(OH)2、MgCO3等が挙げられる。
【0014】
このとき、鋼管21に流す電流の大きさは、例えば流電による放置電着を実施する場合には20mA/m2以上5000mA/m2以下の範囲で設定することができる。また、例えば電着促進を行う場合には1000mA/m2以上5000mA/m2以下の範囲で設定することができる。これにより、海中で複数の電着基盤20が形成される。電着の方式としては、例えば外部電源方式であってもよいし、流電陽極方式であってもよい。このようにして、複数の電着基盤20が線状部材10で連結された状態の連結体30が形成される。
【0015】
図3は、サンゴ着床工程の一例を示す図である。
図3に示すように、サンゴ着床工程では、連結体30を吊り下げた状態で海中に配置して、サンゴの幼生を着床させる。サンゴ着床工程では、サンゴの成体50の上方に連結体30を配置する。サンゴの成体50は、産卵して、サンゴ卵と精子とが一体となったバンドルを放出する。また、サンゴの成体50が産卵した後、バンドルがはじけて受精した卵の集合体であるスリックが浮遊する。上記のように連結体30を吊り下げてサンゴの成体50の上方に配置することにより、バンドル又はスリックが複数の電着基盤20に付着しやすくなる。
【0016】
サンゴ着床工程では、網40で囲まれた領域に連結体30を配置する。これにより、サンゴのバンドル及び受精した幼生の流出を抑制し、海中において魚等の捕食者からバンドル及び幼生を保護することができる。網40は、例えば
図3に示すような矩形状の領域を形成するように配置されてもよいし、他の形状の領域を形成するように配置されてもよい。
【0017】
サンゴ着床工程では、複数の連結体30をサンゴの成体50の上方に配置し、複数の連結体30に電流を流すようにしてもよい。このとき連結体30に流す電流は、例えば10mA/m2以上500mA/m2以下の範囲で設定することができる。これにより、電着基盤20の周辺環境のアルカリ化が促進される(すなわち、電着基盤20の周辺における海水のpHが上昇する)。このようにアルカリ化が促進されると、サンゴの石灰化に必要なエネルギーが小さくなるため、サンゴの幼生の成長を促進することができる。
【0018】
図4は、連結解除工程の一例を示す図である。
図4に示すように、連結解除工程では、サンゴの幼生が着床した状態の複数の電着基盤20(以下、サンゴ着床基盤25と表記する)同士の連結を解除する。連結解除工程では、例えば線状部材10のうちサンゴ着床基盤25同士の間の部分を切断することで連結を解除してもよいし、サンゴ着床基盤25と線状部材10との間の接合(点溶接等)を除去することで連結を解除してもよい。
【0019】
図5は、電着基盤配置工程の一例を示す図である。
図5に示すように、電着基盤配置工程では、連結が解除されたサンゴ着床基盤25を個別に海中に配置する。電着基盤配置工程では、例えば海中においてサンゴが群生する自然礁内にサンゴ着床基盤25を配置してもよいし、任意の領域にサンゴ着床基盤25を配置してもよい。サンゴ着床基盤25は、自然礁内に固定した状態で配置してもよいし、種苗生産治具等の治具60に固定した状態で配置してもよい。サンゴ着床基盤25を上記のように海中に配置することで、サンゴの幼生を成長させる。
【0020】
以上のように、本実施形態に係るサンゴ育成方法は、導電性を有する線状部材10により複数の管状の電着基盤20同士が連結された連結体30を形成する連結体形成工程と、連結体30を吊り下げた状態で海中におけるサンゴの成体の上方に配置して、サンゴの幼生を着床させるサンゴ着床工程とを含む。
【0021】
従って、複数の電着基盤20を1つの連結体としてサンゴの成体の上方に吊り下げた状態で配置することで、サンゴの成体から放出されるバンドルから変態したサンゴの幼生が複数の電着基盤20に付着しやすくなる。これにより、サンゴの幼生を着床させた電着基盤20(サンゴ着床基盤25)を大量かつ効率的に生産することができる。
【0022】
本実施形態に係るサンゴ育成方法において、サンゴ着床工程では、サンゴの成体の上方に連結体30を配置する。従って、サンゴ着床工程において、例えばサンゴから放出されるバンドルから変態したサンゴの幼生が複数の電着基盤20に付着しやすくなる。
【0023】
本実施形態に係るサンゴ育成方法において、サンゴ着床工程では、網40で囲まれた領域に連結体30を配置する。従って、サンゴ着床工程において、海中において魚等の捕食者からサンゴの幼生を保護することができる。
【0024】
本実施形態に係るサンゴ育成方法において、電着基盤20として、表面に電着層22が形成された角型の鋼管21を用いる。従って、角型とすることで鋼管21同士の接合時等に配置しやすくなり、管状とすることで外周及び内周に電着層22を形成可能となるため電着層22の表面積を大きくできる。
【0025】
本実施形態に係るサンゴ育成方法において、連結体形成工程は、複数の鋼管21を線状部材10によって連結することと、連結した複数の鋼管21を海中に配置することと、複数の鋼管21及び線状部材10に電流を流して電着を行い鋼管21の表面に電着層22を形成することにより当該海中で連結体30を形成することと、を含み、連結体30を形成した後、海中でサンゴ着床工程を連続して行う。従って、電着層22の形成からサンゴ着床工程までを海中で連続して行うことができるため、効率的にサンゴの育成を行うことができる。
【0026】
本実施形態に係るサンゴ育成方法は、サンゴ着床工程の後、連結体30においてサンゴの幼生が着床した複数の電着基盤20同士の連結を解除する連結解除工程と、連結が解除された電着基盤20を個別に海中に配置する電着基盤20配置工程とを更に含む。従って、サンゴを着床させたサンゴ着床基盤25を個別に用いることにより、サンゴ着床基盤25の配置場所、配置の状態等について幅広い態様でサンゴの育成を行うことができる。
【0027】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態において、連結体形成工程では、複数の鋼管21を線状部材10によって連結した状態とし、電着とサンゴ着床工程とを海中で連続して行う態様を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0028】
図6及び
図7は、連結体形成工程の他の例を示す図である。
図6に示すように、連結体形成工程において、まず、複数の鋼管21を例えばマトリクス状に配置し、各鋼管21同士を点付け溶接により接合する。これにより、複数の鋼管21が点溶接部23を介して電気的に接続される。
【0029】
次に、点溶接部23によって接合された複数の鋼管21の一部に、ボルト24を接続する。ボルト24は、例えば1つ又は複数の鋼管21に対して溶接することにより接合することができる。ボルト24は、例えば電通が取れる端子としての金属である。
【0030】
次に、複数の鋼管21及びボルト24の複合体26を海水中に配置する。この場合、複合体26を配置する場所については、海中に限定されず、海水を入れた水槽内等に配置してもよい。
【0031】
次に、海水中に配置した複合体26に電流を流して電着を行う。このとき、複合体26に流す電流の大きさは、例えば流電による放置電着を実施する場合には20mA/m2以上5000mA/m2以下の範囲で設定することができる。また、電着促進を行う場合には1000mA/m2以上5000mA/m2以下の範囲で設定することができる。複合体26に電流を流すことにより、複数の鋼管21の表面に電着層22が形成される。これにより、複数の鋼管21から複数の電着基盤20が形成される。なお、電着の方式としては、例えば外部電源方式であってもよいし、流電陽極方式であってもよい。
【0032】
次に、
図7に示すように、複数の電着基盤20同士を連結する点溶接部23を除去し、各電着基盤20を個別に取り出す。個別に取り出した電着基盤20は、上記の鉄線等の線状部材10により連結する。これにより、複数の電着基盤20が線状部材10により連結された状態の連結体30を形成することができる。
【0033】
このように、連結体形成工程において、複数の鋼管21同士を点付け溶接により接合し、複数の鋼管21に電流を流して海水中で電着を行うことで鋼管21の表面に電着層22を形成し、電着層22が付着した複数の鋼管21の点付け溶接を除去することで個々の電着基盤20とし、個々の電着基盤20同士を線状部材10により連結する。従って、大量の電着基盤20を効率的に製造することができるため、多数の連結体30を効率的に形成することができる。
【0034】
また、上記実施形態において、電着基盤20の原料として、鋼管21を用いる場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、線状の鋼材を編んだ電着網を用いて電着基盤20を作成してもよい。この場合、複数の電着網を線状部材10で連結して電着を行うことで、電着網を用いた電着基盤20を作成することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、鋼管21の開口部分21aの軸方向を線状部材10の長手方向に沿うように配置した状態で接合する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
図8は、連結体形成工程の他の例を示す図である。
図8に示すように、鋼管21の開口部分21aの軸方向を線状部材10の長手方向に交差(例えば、直交)した状態で接合してもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 線状部材
20 電着基盤
21 鋼管
22 電着層
23 点溶接部
24 ボルト
25 サンゴ着床基盤
26 複合体
30 連結体
40 網
50 サンゴの成体
60 治具
L1,L2,L3 寸法