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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 13/04 20060101AFI20241112BHJP
   B05B 12/00 20180101ALI20241112BHJP
   B05B 12/12 20060101ALI20241112BHJP
   B05B 15/628 20180101ALI20241112BHJP
   B05B 15/68 20180101ALI20241112BHJP
【FI】
B05B13/04
B05B12/00 A
B05B12/12
B05B15/628
B05B15/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020185418
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074959
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518227544
【氏名又は名称】竹延 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】竹延 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】伊東 真
(72)【発明者】
【氏名】河原 慎治
(72)【発明者】
【氏名】宮本 克己
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-008728(JP,A)
【文献】特開2001-205152(JP,A)
【文献】特開平06-220987(JP,A)
【文献】特開平10-111082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 13/04
B05B 12/00
B05B 12/12
B05B 15/628
B05B 15/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの動力により走行する台車と、
対象物に対して噴射物を噴射するノズルと、
前記ノズルを移動させるノズル移動機構であって、前記ノズルが装着された状態において前記噴射物の噴射方向に対して略垂直な方向に延在する延在部材を有し、当該延在部材に沿って前記ノズルを移動させるノズル移動機構と、
前記台車上において、前記ノズル移動機構の鉛直方向の位置を変更可能な駆動機構を有するとともに、前記ノズル移動機構を、前記噴射物の噴射方向が鉛直方向に対して略垂直な方向を向く第1状態を少なくとも含む状態で支持することが可能である第1支持機構と
前記ノズル移動機構により前記ノズルを一定速度で移動させながら、塗装する範囲内で前記ノズルから塗料を噴射し、前記ノズルからの塗料の噴射および前記ノズル移動機構による前記ノズルの移動を停止した状態で、前記第1支持機構が前記ノズル移動機構を支持する位置を上昇させる制御装置と、を備える噴射装置。
【請求項2】
前記第1支持機構は、前記ノズル移動機構を、前記噴射物の噴射方向が鉛直上方を向く第2状態をさらに含む状態で支持することが可能である請求項1に記載の噴射装置。
【請求項3】
前記台車上において、前記ノズル移動機構を、前記台車が走行する床面に前記噴射物の噴射方向が向く第3状態で支持する第2支持機構をさらに備える請求項1または2に記載の噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に対して噴射物を噴射する噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動的に、かつ高品質の塗装を行うことを目的とした自動塗装装置が開示されている。当該自動塗装装置は、塗料吹付ノズルを上下左右に自動的に移動させると共に、距離センサからの情報に基づきノズルを塗装面からほぼ一定の距離に維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-226156公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている自動塗装装置では、単独で塗装面を広範囲にわたって塗装することができず、複数台の装置を使用する、または装置を作業者が移動させることが必要となる場合があった。
【0005】
本発明の一態様は、より広範囲にわたって噴射物を自動的に噴射可能とすることが可能な噴射装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る噴射装置は、動力源からの動力により走行する台車と、対象物に対して噴射物を噴射するノズルと、前記ノズルを移動させるノズル移動機構であって、前記ノズルが装着された状態において前記噴射物の噴射方向に対して略垂直な方向に延在する延在部材を有し、当該延在部材に沿って前記ノズルを移動させるノズル移動機構と、前記台車上において、前記ノズル移動機構を、鉛直方向の位置について変更可能に支持する第1支持機構と、を備え、前記第1支持機構は、前記ノズル移動機構を、前記噴射物の噴射方向が鉛直方向に対して略垂直な方向を向く第1状態を少なくとも含む状態で支持することが可能である。
【0007】
上記の構成によれば、噴射装置において、ノズル移動機構は、噴射物の噴射方向が鉛直方向に対して略垂直な方向を向く第1状態で支持したノズルを所定の範囲内で移動させる。ノズルは、ノズル移動機構により所定の範囲内を移動しながら、当該所定の範囲に対応する領域に噴射物を噴射する。また、第1支持機構は、台車上において、ノズル移動機構の鉛直方向の位置を変更可能に支持する。さらに、台車は、動力源からの動力により走行する。したがって、噴射装置により、鉛直方向に垂直な対象物、例えば建造物の壁面などに対し、広範囲にわたって噴射物を自動的に噴射可能とすることができる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る噴射装置において、前記第1支持機構は、前記ノズル移動機構を、前記噴射物の噴射方向が鉛直上方を向く第2状態をさらに含む状態で支持することが可能であることが好ましい。
【0009】
上記の構成によれば、第1支持機構がノズル移動機構を、ノズルからの噴射物の噴射方向が鉛直上方を向く第2状態で支持した状態で、ノズルが噴射物を噴射することができる。したがって、鉛直下方を向いた対象物、例えば建造物の天井面などに対し、広範囲にわたって噴射物を自動的に噴射可能とすることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る噴射装置は、前記台車上において、前記ノズル移動機構を、前記台車が走行する床面に前記噴射物の噴射方向が向く第3状態で支持する第2支持機構をさらに備えることが好ましい。
【0011】
上記の構成によれば、第2支持機構がノズル移動機構を、台車が走行する床面にノズルからの噴射物の噴射方向が向く第3状態で支持した状態で、ノズルが噴射物を噴射することができる。したがって、鉛直上方を向いた対象物、例えば建造物の床面などに対し、広範囲にわたって噴射物を自動的に噴射可能とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、対象物に対し、広範囲にわたって噴射物を自動的に噴射可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)および(b)はいずれも、実施形態1に係る噴射装置の構成を示す斜視図である。
図2】噴射装置により壁面を塗装する場合における距離測定の例について説明するための平面図である。
図3】壁面を塗装する場合における噴射装置の初期位置の決定方法について説明するための平面図である。
図4】噴射装置を初期位置に移動させるための処理を示すフローチャートである。
図5】噴射装置が壁面を塗装する工程の流れを説明するための立面図である。
図6】壁面の全体を塗装する場合における処理を示すフローチャートである。
図7】(a)、(b)および(c)はそれぞれ、噴射装置による塗装パターンの、互いに異なる例を示す概略図である。
図8】塗装パターンの適用の例を示す立面図である。
図9】塗装パターンを作業者が自ら指示する場合における処理の例を示すフローチャートである。
図10】塗装パターンを示すデータが制御装置に予め入力されている場合における処理の例を示すフローチャートである。
図11】噴射装置の変形例を示す斜視図である。
図12】噴射装置の変形例を示す断面図であって、(a)は天井近傍の壁面を塗装する場合における、実施形態1に係る噴射装置の断面図であり、(b)および(c)はそれぞれ、天井近傍の壁面を塗装する場合における、変形例に係る噴射装置の断面図である。
図13】噴射装置の変形例を示す平面図である。
図14】実施形態2に係る噴射装置の構成を示す斜視図である。
図15】(a)、(b)および(c)は、第1支持機構によるノズル移動機構の支持の状態を第1状態から第2状態に切り替える手順を順に示す斜視図である。
図16】実施形態2に係る噴射装置が天井面を塗装する場合における、反射板の配置を示す平面図(床面の見下げ図)である。
図17】実施形態2に係る噴射装置が天井面を塗装する工程の流れを説明するための平面図(天井の見上げ図)である。
図18】実施形態3に係る噴射装置の構成を示す斜視図である。
図19】実施形態3に係る噴射装置が床面を塗装する場合における、反射板の配置を示す平面図(床面の見下げ図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態に係る噴射装置1について、詳細に説明する。噴射装置1は、建造物の壁面などの対象物に対して噴射物を噴射する装置である。噴射物の例としては、塗料、プライマー、または耐火剤などが挙げられる。以下の説明では、噴射物が塗料であるものとする。
【0015】
(噴射装置1の構成)
図1は、実施形態1に係る噴射装置1の構成を示す斜視図である。図1には、噴射装置1に係る斜視図が、それぞれ図1(a)および(b)として示されている。図2は、噴射装置1により対象物としての壁面500を塗装する場合における距離測定の例について説明するための平面図である。
【0016】
図1および図2に示すように、噴射装置1は、台車110と、動力源111と、ポンプ123と、コンプレッサ124と、ノズル125と、ノズル移動機構130と、第1支持機構140と、バッテリ161と、インバータ162と、第1方向距離センサ151と、第2方向距離センサ152と、を備える。また、噴射装置1は、当該噴射装置1の動作を制御する制御装置(不図示)を備える。
【0017】
台車110は、噴射装置1が備える各部材(動力源111、ポンプ123等)を搭載する。台車110は、動力源111からの動力により走行するAGV(Automated Guided Vehicle)である。具体的には、台車110は、動力源111からの動力により回転および方向を変更可能な複数の駆動輪112、および、駆動輪112による台車110の移動に伴い回転する複数の従動輪113により接地する。動力源111は、制御装置により制御されるモータであってよい。ただし、台車110は、駆動輪112の代わりに、キャタピラ、オムニクローラ、オムニホイール、あるいは駆動可能な球体または脚部により接地してもよい。
【0018】
ポンプ123は、塗料を吸引してノズル125へ供給する。塗料は、一斗缶121に保持された状態で台車110に搭載されている。ポンプ123には、塗料を吸引するための吸引ホース122の一端が接続されている。吸引ホース122の他端を一斗缶121内の塗料に浸漬した状態でポンプ123を駆動させることで、塗料が一斗缶121から吸引され、コンプレッサ124へ供給される。ポンプ123は、例えばエアレスポンプである。コンプレッサ124は、圧縮空気をノズル125へ供給することで、ノズル125の開閉を制御する。コンプレッサ124は、例えばベビーコンプレッサ(ベビコン)である。
【0019】
ノズル125は、供給された塗料を対象物に対して噴射する。具体的には、ノズル125は、ポンプ123から供給された塗料を噴霧するエアレススプレー方式で塗料を吹き付けるエアレスノズルである。ただし、ノズル125は、空気中で塗料を霧化して噴射するエアスプレー方式で塗料を噴射してもよい。ノズル125からの塗料の噴射方向は、図1(b)において矢印210で示されている。
【0020】
台車110は、塗料を保持する一斗缶121を2つ、互いに隣接した状態で搭載可能なスペースを有する。塗料を噴射する場合、吸引ホース122を一方の一斗缶121に導入し、当該一斗缶121に保持された塗料を噴射する。一斗缶121に保持された塗料を使い切った場合、吸引ホース122を他方の一斗缶121に導入し、当該他方の一斗缶121に保持された塗料を噴射する。元の一斗缶121については台車110から撤去し、代わりに新たな一斗缶121を台車110に搭載する。このため、一斗缶121を交換する場合に、(i)吸引ホース122の端部から塗料が落下する、(ii)吸引ホース122の端部自体が床などに接触する、などにより意図しない場所に塗料が付着しないように吸引ホース122を保持する手間が低減される。
【0021】
ノズル移動機構130は、ノズル125を移動させる。具体的には、ノズル移動機構130は、延在部材131および駆動部材132を有する。ノズル125は、駆動部材132に装着される。延在部材131は、駆動部材132にノズル125が装着された状態において、塗料の噴射方向に対して垂直な方向に延在する。駆動部材132は、延在部材131に沿って駆動する。これにより、ノズル移動機構130は、延在部材131に沿って、矢印221で示した方向にノズル125を移動させる。したがって、ノズル125は、所定の範囲内で一次元的に移動する。噴射装置1においては、ノズル125からの塗料の噴射中に当該ノズル125を移動させることで、ノズル125の移動範囲に対応する領域を塗装することができる。ノズル移動機構130は、ノズル125を一定の速度で移動させることが可能であり、かつノズル125に振動が生じにくいアクチュエータで構成されている。また、ノズル移動機構130は、リニアアクチュエータ、レシプロ、またはレシプロケータなどとも称されることがある。
【0022】
第1支持機構140は、ノズル移動機構130を、鉛直方向の位置について、矢印230に示した方向において変更可能に支持する。第1支持機構140は、例えば空圧、モータ、または油圧などの、制御装置により制御される駆動機構により、鉛直方向におけるノズル移動機構130の位置を変更する。また、第1支持機構140は、ノズル移動機構130を支持している高さを測定するセンサ(不図示)を備える。第1支持機構140によりノズル移動機構130の鉛直方向における位置を変更することで、噴射装置1は、ノズル移動機構130により塗装が可能な範囲よりも広範囲にわたって塗装を行うことができる。
【0023】
第1支持機構140によるノズル移動機構130の位置の変更は、ノズル125からの塗料の噴射を停止した状態で行う。このため、ノズル移動機構130の鉛直方向における位置を変更する速度は一定でなくてもよく、また位置を変更する過程においてノズル125が振動しても問題ない。したがって、第1支持機構140が備える駆動機構を、ノズル移動機構130と比較して安価なものとすることができる。噴射装置1においては、鉛直方向におけるノズル125の移動範囲を複数の段階に分け、第1支持機構140とノズル移動機構130とを連動させて段階ごとにノズル125を移動させる。これにより、塗装範囲における最下部から最上部までノズルを移動させる機構を、比較的低コストで実現できる。
【0024】
第1支持機構140は、例えば複数の筒状の部材が入れ子になった伸縮ポールである。この場合、筒状の部材のいずれかに対して他の部材が移動することで、第1支持機構140が伸縮し、ノズル移動機構130を支持する位置を変更することができる。
【0025】
また、第1支持機構140は、いわゆるはしご車のような構造であってもよい。この場合も、第1支持機構140は、ノズル移動機構130を支持する位置を変更することができる。
【0026】
第1支持機構140は、ノズル移動機構130を第1状態で支持することができる。第1状態は、ノズル125からの噴射物の噴射方向が鉛直方向に対して略垂直な方向を向く状態である。本明細書における「略垂直」とは、完全な垂直、すなわち90°だけでなく、例えば80°~100°といった、実質的に90°とみなせる角度も含む。換言すれば、ノズル125から噴射された塗料が対象物に到達することが担保される角度であればよい。第1状態は、例えば建造物の壁面に塗料を噴射することに適した状態である。
【0027】
第1支持機構140は、上記の第1状態に加えて、さらに別の状態でノズル移動機構130を支持可能であってもよい。すなわち、第1支持機構140は、ノズル移動機構130を、上記の第1状態を少なくとも含む状態で支持することが可能であればよい。
【0028】
バッテリ161は、インバータ162へ直流電力を供給する。インバータ162は、バッテリ161から供給された直流電力を交流電力に変換し、噴射装置1の各部へ供給する。
【0029】
第1方向距離センサ151は、所定の第1方向に存在する物体との距離を測定する距離センサである。第1方向は、第1支持機構140がノズル移動機構130を第1状態で支持する場合における塗料の噴射方向である。第1方向は矢印241で示されている。したがって、噴射装置1が壁面500を塗装する場合、第1方向距離センサ151は、噴射装置1と壁面500との間の距離を測定することとなる。第1方向距離センサ151は、最大で1000mm程度の距離を測定可能であればよい。図1に示す例では、噴射装置1は第1方向距離センサ151を2つ備える。しかし、噴射装置1が備える第1方向距離センサ151の数は3以上であってもよい。
【0030】
第2方向距離センサ152は、第1方向に垂直、かつ水平面内の方向である第2方向に存在する物体との距離を測定する距離センサである。第2方向は、第1支持機構140がノズル移動機構130を第1状態で支持し、噴射装置1が壁面を塗装する場合における、噴射装置1が走行する方向である。第2方向は矢印242で示されている。第2方向距離センサ152は、最大で20~30m程度の距離を測定可能である。
【0031】
第1方向距離センサ151および第2方向距離センサ152は、レーザ光を出射し、物体により反射されたレーザ光を受光することで、当該物体までの距離を測定する離隔センサである。この場合のレーザ光は例えば赤外光である。また、第1方向距離センサ151および第2方向距離センサ152は、レーザ光の代わりに超音波を用いるものであってもよい。
【0032】
図2に示すように、噴射装置1により壁面500を塗装する場合、噴射装置1の走行経路は、所定の初期位置を始点とする、壁面500から所定の距離だけ離隔した直線となる。所定の距離については、噴射装置1の設計者または作業者によって、壁面500を塗装する上で好適な距離に適宜設定されればよい。このような走行経路に沿って走行するために、噴射装置1の制御装置は、第1方向距離センサ151により壁面500との距離を測定し、当該距離が上記の所定の距離となるように台車110の走行方向を制御する。
【0033】
壁面500を塗装する場合、噴射装置1の走行経路の終端側の延長線上に、反射板400が配置される。反射板400は、走行経路における噴射装置1の位置を認識するための基準である。制御装置は、第2方向距離センサ152により反射板400との距離を測定し、当該距離に基づいて走行経路における噴射装置1の初期位置を決定する。初期位置の決定については後述する。
【0034】
反射板400の代わりに、AR(Augmented Reality)マーカーを用いてもよい。この場合、噴射装置1は、ARマーカーを撮像するためのカメラを備える。制御装置は、例えばカメラが撮像したARマーカーの大きさおよび角度に基づいて、噴射装置1の初期位置を決定することができる。ただし、反射板400を用いる方法の方がコストなどの面で優れている。
【0035】
制御装置は、走行経路における噴射装置1の走行距離が所定の閾値以上になった場合に、塗装が終了したと判定する。制御装置は、初期位置からの噴射装置1の走行距離を、駆動輪112の回転数に基づいて算出する。しかし、床面に対して駆動輪112の滑りが生じた場合には、算出される走行距離と実際の噴射装置1の走行距離との間にズレが生じる。このため、制御装置は、駆動輪112の回転数を用いて算出した走行距離を、第2方向距離センサ152により測定した反射板400との距離を用いて補正することで、より正確な走行距離を導出する。また、制御装置は、第2方向距離センサ152により測定した反射板400との距離のみによって噴射装置1の走行距離を導出してもよい。
【0036】
(初期位置の決定)
図3は、壁面500を塗装する場合における噴射装置1の初期位置の決定方法について説明するための平面図である。塗装の開始時には、図3に示すように、上述の走行経路に平行な方向における初期位置Pについては、塗装する範囲に対する噴射装置1の位置を作業者が測定して配置する。また、噴射装置1と壁面500との間の距離Dについては、測定を行わず、作業者が目分量で距離を合わせる。このとき、適切な距離に対して200mm程度の誤差は許容される。作業者が噴射装置1を移動させた後は、噴射装置1の制御装置が噴射装置1を、噴射装置1と壁面500との間の距離および角度についても適切である初期位置に移動させる。
【0037】
図4は、噴射装置1を初期位置に移動させるための、噴射装置1の制御装置による処理を示すフローチャートである。噴射装置1の初期位置における噴射装置1と壁面500との間の距離および角度については、第1方向距離センサ151のそれぞれが測定する距離についての適切な値の範囲が予め規定されている。上述したとおりに作業者が噴射装置1を配置した後、制御装置は、噴射装置1から反射板400までの距離を、第2方向距離センサ152により測定し(S101)、当該距離を第2方向における初期位置を示す距離として設定する(S102)。次に、制御装置は、噴射装置1から壁面500までの距離を、第1方向距離センサ151により測定する(S103)。制御装置は、それぞれの第1方向距離センサ151により測定した距離の大きさおよび大小関係に基づいて、壁面500に対する噴射装置1の距離および角度が適切な範囲であるか判定する(S104)。適切な範囲でない場合(S104でNO)、制御装置は、壁面500に対する噴射装置1の距離および角度を修正するための噴射装置1の走行方向および距離を決定し(S105)、当該方向へ噴射装置1を走行させる(S106)。ステップS106においては、噴射装置1は、反射板400に対して前進する方向および後退する方向のいずれに走行してもよい。ただし、作業者が噴射装置1を配置した位置から反射板400に対して後進する方向は、塗装時に噴射装置1が通過する領域ではないため、障害物が存在する可能性がある。このため、ステップS106においては、噴射装置1は、反射板400に対して前進する方向に走行することが好ましい。
【0038】
壁面500に対する噴射装置1の距離および角度が適切な範囲である場合(S104でYES)、制御装置は、第2方向距離センサ152により、反射板400までの距離を測定し(S107)、当該距離が適切な範囲であるか判定する(S108)。ここでいう「距離が適切な範囲である」とは、ステップS107において測定した距離が、ステップS102において設定した、第2方向における初期位置を示す距離に対して許容可能な誤差の範囲内であることを意味する。許容可能な誤差は、例えば20mm以内であり、より好ましくは10mm以内である。制御装置がステップS104において1回以上NOと判定した場合、ステップS107において制御装置が測定する距離は、ステップS101において測定した距離に対して許容可能な誤差の範囲内でない可能性が高い。
【0039】
反射板400に対する距離が適切な範囲でない場合(S108でNO)、制御装置は、噴射装置1から壁面500までの距離を第1方向距離センサ151により測定する(S109)。制御装置は、噴射装置1から反射板400までの距離を修正するための噴射装置1の走行方向および距離を、ステップS109において測定した距離を変化させないように決定し(S110)、当該方向へ噴射装置1を走行させる(S111)。その後、制御装置はステップS107から処理を繰り返す。
【0040】
噴射装置1から反射板400までの距離が適切な範囲である場合(S108でYES)、制御装置は、第1方向距離センサ151および第2方向距離センサ152により、噴射装置1から壁面500および反射板400までの距離を再度測定する(S112)。制御装置は、第1方向距離センサ151および第2方向距離センサ152により測定した全ての距離が初期位置における適切な範囲であるか判定する(S113)。いずれか1以上が適切な範囲でない場合(S113でNO)、制御装置はステップS103から処理を繰り返す。測定した全ての距離が初期位置における適切な範囲である場合(S113でYES)、制御装置は噴射装置1を初期位置に移動させる処理を終了する。
【0041】
(塗装時の動作)
図5は、噴射装置1が壁面500を塗装する工程の流れを説明するための立面図である。図5に示す例では、ノズル移動機構130におけるノズル125の初期位置は、ノズル移動機構130の下端部である。また、第1支持機構140は、初期状態において、ノズル移動機構130を最も低い位置で支持する。
【0042】
また、図5における矢印611~616のそれぞれが、ノズル移動機構130によるノズル125の1回の移動中における塗料の噴射により塗装される領域を示す。具体的には、ノズル125の1回の移動中における塗料の噴射の開始時に塗装される点が矢印611~616のそれぞれの始点、噴射の終了時に塗装される点が矢印611~616のそれぞれの終点である。ノズル移動機構130によるノズル125の1回の移動中における塗料の噴射により、これらのいずれかの始点と終点とを結ぶ線分を中心とする、一定の幅を有する領域が塗装される。
【0043】
壁面500を塗装する場合、まず、噴射装置1の制御装置は、塗装の過程において第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の割り付けを決定する。すなわち、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の段階数を決定する。また制御装置は、それぞれの位置においてノズル移動機構130による1回のノズル125の移動で塗装する範囲を決定する。高さの割り付けおよび塗装する範囲は、塗装する範囲の境界が人間の目線の高さからずれるように決定される。また、ノズル125の1回の移動距離が短いと、塗装が不安定になることが考えられる。このため、塗装する範囲は、ノズル125の適切な移動距離を確保できるように決定される。
【0044】
制御装置は、初期状態から、ノズル移動機構130によりノズル125を一定速度で移動させながら、塗装する範囲内でノズル125から塗料を噴射する。その結果、矢印611で示す領域が塗装される。
【0045】
次に、噴射装置1の制御装置は、ノズル125からの塗料の噴射、およびノズル移動機構130によるノズル125の移動を停止した状態で、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置を上昇させる。その後で、噴射装置1の制御装置は、ノズル移動機構130によりノズル125を一定速度で移動させながら、塗装する範囲内でノズル125から塗料を噴射する。その結果、矢印612で示す領域が塗装される。
【0046】
噴射装置1の制御装置は、矢印612の領域を塗装した後と同様に、ノズル125からの塗料の噴射、およびノズル移動機構130によるノズル125の移動を停止した状態で、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置をさらに上昇させる。その後、制御装置は、ノズル移動機構130によりノズル125を一定速度で移動させながら、塗装する範囲内でノズル125から塗料を噴射する。その結果、矢印613で示す領域が塗装される。
【0047】
図5に示す例では、矢印611~613で示す領域を塗装した時点で、その時点の噴射装置1の位置に対応する壁面500の下端から上端までを塗装したこととなる。制御装置は、ノズル125からの塗料の噴射、およびノズル移動機構130によるノズル125の移動を停止する。その後、制御装置は噴射装置1を一定距離のみ走行させる。ここで制御装置が噴射装置1を走行させる距離は、既に塗装した領域と次に塗装する領域とが重畳する幅を考慮して、噴射装置1の設計者により適宜決定されればよい。その後、制御装置は、ノズル移動機構130によりノズル125を一定速度で移動させながら、塗装する範囲内でノズル125から塗料を噴射する。その結果、矢印614で示す領域が塗装される。
【0048】
以後、制御装置は、(i)ノズル125からの塗料の噴射およびノズル移動機構130によるノズル125の移動を停止した状態での、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の変更と、(ii)ノズル移動機構130によりノズル125を一定速度で移動させながらの、塗装する範囲内でのノズル125からの塗料の噴射と、を繰り返す。その結果、矢印615および616で示す領域が塗装される。さらに制御装置は、上述した制御を繰り返すことで、壁面500の全体を塗装する。
【0049】
図6は、壁面500の全体を塗装する場合における、噴射装置1の制御装置による処理を示すフローチャートである。最初に制御装置は、上述した、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の割り付けを決定する(S201)。また、制御装置は、割り付けたそれぞれの位置においてノズル移動機構130による1回のノズル125の移動で塗装する範囲についても併せて決定する。次に、制御装置は、噴射装置1を初期位置に移動させる(S202)。ステップS202の具体的な処理は、図4に示したフローチャートのとおりである。
【0050】
制御装置は、第1支持機構140の高さを測定し(S203)、当該高さが次の塗装に適切な高さであるか判定する(S204)。ここでいう「次の塗装」とは、図5において矢印611~616のそれぞれで示したような、ノズル移動機構130によるノズル125の1回の移動に伴う塗装である。第1支持機構140の高さが適切でない場合(S204でNO)、制御装置は、第1支持機構140を適切な高さになるように伸縮させ(S205)、ステップS203から処理を繰り返す。第1支持機構140の高さが適切である場合(S204でYES)、制御装置は、第1支持機構140の高さに対応する壁面500の領域を塗装する(S206)。具体的には、制御装置は、ノズル移動機構130によりノズル125を移動させながら、ノズル125から塗料を噴射する。
【0051】
塗装の後、制御装置は、噴射装置1の現在位置における、鉛直方向についての塗装が終了したか判定する(S207)。具体的には、制御装置は、ステップS201で決定した、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の段階の全てで塗装を行ったか判定する。鉛直方向についての塗装が終了していない場合(S207でNO)、制御装置は、ステップS203から処理を繰り返す。鉛直方向についての塗装が終了している場合(S207でYES)、制御装置は、壁面500の全体についての塗装が終了しているか判定する(S208)。具体的には、制御装置は、初期位置からの噴射装置1の走行距離が、塗装が終了したと判定するための閾値以上であるか判定する。壁面500の全体についての塗装が終了している場合(S208でYES)、制御装置は処理を終了する。
【0052】
壁面500の全体についての塗装が終了していない場合(S208でNO)、制御装置は、第1方向距離センサ151、および第2方向距離センサ152により、噴射装置1から壁面500および反射板400までの距離を測定する(S209)。さらに制御装置は、ステップS209において測定した距離に基づいて、噴射装置1の走行方向および走行距離を決定する(S210)。具体的には、制御装置は、壁面500に対する噴射装置1の距離および角度が適切な範囲内であり、かつ走行前後で噴射装置1により塗装される領域が所定の幅だけ重畳するように、噴射装置1の走行方向および走行距離を決定する。このとき、制御装置は、駆動輪112の回転数に基づいて算出した累計走行距離と、第2方向距離センサ152が測定した反射板400までの距離に基づいて算出した走行距離とを比較し、比較結果に基づいて走行距離を調整する。その後、制御装置は、ステップS210において決定した走行方向および距離に従って噴射装置1を走行させ(S211)、ステップS203から処理を繰り返す。
【0053】
(複数のパターンで塗装する場合の動作)
図7は、噴射装置1による塗装パターンの例を示す概略図である。図7には、互いに異なる複数の塗装パターンの例が、図7(a)、(b)および(c)として示されている。建造物の壁面には、ドアまたは窓といった、塗装が不要な領域が存在する場合がある。このような領域に対応するため、噴射装置1には、ノズル125が鉛直方向に移動することにより塗装され得る領域の塗装について、図7に示すような複数のパターンを設定可能であることが好ましい。図7においては、実際に塗装される領域に網掛けが付されており、塗装されない領域は白抜きで示されている。図7(a)には、領域の全体が塗装されるパターン(当該領域内にドアまたは窓といった開口部がなく、塗装されない領域が存在しないパターン)が示されている。図7(b)には、領域の上側の一部のみが塗装されるパターン(ドアなどの、床面から一定の高さまでの開口部があり、その部分の塗装がなされないパターン)が示されている。図7(c)には、領域の上側および下側の一部のみが塗装されるパターン(窓などの、床および天井の両方から離隔した開口部があり、その部分の塗装がなされないパターン)が示されている。これらのパターンは、鉛直方向に沿ったノズル125の移動により塗装される領域についての、一次元的なパターンである。なお、パターンの種類は図7に示したものに限らない。
【0054】
図8は、塗装パターンの適用の例を示す立面図である。図8に示す例では、壁面500にドア510および窓520が設けられている。鉛直方向に平行な直線により壁面500を領域501~505に区分した場合、ドア510を含む領域502については、図7(b)に示したパターンが適用される。窓520を含む領域504については、図7(c)に示したパターンが適用される。ドア510および窓520のいずれも含まない領域501、503、505については、図7(a)に示したパターンが適用される。領域ごとにいずれのパターンを適用するかについては、作業者が壁面500を視認して指示を入力してもよく、パターンを示すデータが制御装置に予め入力されていてもよい。
【0055】
図9は、塗装パターンを作業者が自ら指示する場合における、噴射装置1の制御装置における処理の例を示すフローチャートである。まず、制御装置は、塗装に使用する複数のパターンのそれぞれについて、第1支持機構140の位置の割り付けを行う(S301)。ここでいうパターンは、図7に例示した、噴射装置1の位置ごとの一次元的なパターンである。パターンを示すデータは、予め人間の手で制御装置に入力される。ここでいう人間は、噴射装置1を使用して塗装を行う作業者であってもよく、作業者とは別の、噴射装置1による塗装を管理する人間であってもよい。また、制御装置は、パターンの設定と併せて、当該パターンのそれぞれにおける第1支持機構140の位置ごとの、ノズル移動機構130によるノズル125の移動範囲も決定する。次に、制御装置は、噴射装置1を初期位置に移動させる(S302)。ステップS302の具体的な処理は、図4に示したフローチャートのとおりである。
【0056】
制御装置は、噴射装置1の現在位置における塗装のパターンを作業者による入力により取得する(S303)。作業者による入力は、噴射装置1と無線または有線で接続された操作端末によって行われてもよく、噴射装置1自体に設けられた操作受付装置によって行われてもよい。制御装置は、取得したパターンに基づいて、図6に示したステップS204~S211と同様にして塗装を行う(S304~S311)。ただし、ステップS306においては、制御装置は、ノズル移動機構130によるノズル125の移動中に、ノズル125の高さおよびパターンに応じてノズル125からの塗料の噴射を停止させる。
【0057】
図10は、塗装パターンを示すデータが制御装置に予め入力されている場合における、噴射装置1の制御装置における処理の例を示すフローチャートである。まず、制御装置は、塗装に使用するパターンを設定する(S401)。ここでいうパターンは、図7に例示した一次元的なパターンではなく、それらを噴射装置1の一定の走行距離にわたって組み合わせた、壁面500の一定範囲についての二次元的(面的)なパターンである。次に、制御装置は、噴射装置1を初期位置に移動させる(S402)。ステップS402の具体的な処理は、図4に示したフローチャートのとおりである。
【0058】
制御装置は、ステップS401で設定した二次元的なパターン、および噴射装置1の位置に基づき、当該位置における塗装の一次元的なパターンを決定する(S403)。制御装置は、決定したパターンに基づいて、図9に示したステップS304~S311と同様にして塗装を行う(S404~S411)。ただし、ステップS408において制御装置は、壁面500の全体についての塗装が終了したかの判定ではなく、ステップS401で設定した2次元的なパターンの塗装が終了したかの判定を行う。
【0059】
なお、ノズル移動機構130の動作に異常が発生した場合には、エラーが出力される。また、第1支持機構140の伸縮に異常が発生した場合には、制御装置による処理が図6に示すステップS204などから先へ進まなくなり、エラーが出力される。エラーの出力先は、例えば作業者が使用する操作端末である。また、これらのエラーは、作業を遠隔で管理する管理者が使用する管理端末にも出力されてもよい。また、これらのエラーが出力された場合に、制御装置は、噴射装置1による塗料の噴射を停止してもよい。
【0060】
以上のとおり、噴射装置1においては、第1支持機構140がノズル移動機構130を第1状態で支持することで、鉛直方向に対して略垂直な方向に塗料を噴射することができる。さらに、第1支持機構140がノズル移動機構130を支持する位置の変更、および台車110の走行により、ノズル移動機構130によるノズル125の移動範囲よりも広範囲にわたって塗装することができる。したがって、噴射装置1によれば、広範囲にわたって塗料を自動的に噴射可能とすることができる。
【0061】
また、噴射装置1によれば、作業者が手作業で塗装する場合と比較して、均一に塗装することができる。したがって、手作業では均一に塗装するために2回重ね塗りが必要であるところを、噴射装置1によれば1回で塗装を完了できるため、作業時間を短縮できる。
【0062】
また、噴射装置1において、制御装置は、塗装を行った高さごとに塗装を行った時間を記録してもよい。この場合、噴射装置1は、当該時間を記録するための記録媒体、または、外部の記録媒体と通信するための通信装置を備えている。また、後述する実施形態2および3のように、天井面および/または床面を塗装する場合には、制御装置は、塗装面の種類ごとに塗装を行った時間を記録してもよい。この場合、塗装を行った時間についてのデータを、施工数量の把握、マーケティングなどに利用できる。また、人間が塗装を行った時間と比較することで、職人の育成速度、塗料の開発のトレンド、人間と噴射装置1とでの作業のシェアの割合などを把握することができる。
【0063】
(変形例1)
図11は、噴射装置1の変形例を示す斜視図である。図11に示す例では、噴射装置1Aは、噴射装置1の構成に加えて、カバー171および吸引装置172を備える。カバー171は、ノズル125から噴射される塗料について、意図しない方向への飛散を防止する。カバー171は、ノズル125に対して、ノズル125からの塗料の噴射方向とは逆側に配される。図11に示す例では、カバー171は、円筒の側面の一部の形状を有し、ノズル移動機構130と一体に第1支持機構140に支持される。しかし、カバー171の形状はこれに限らない。
【0064】
吸引装置172は、カバー171のノズル125側の空気を吸引する。これにより、ノズル125の近傍に、カバー171へ向かう気流が生じる。当該気流により、意図しない方向へ飛散しようとする塗料が吸引される。したがって、ノズル125から噴射される塗料の、意図しない方向への飛散を抑制することができる。
【0065】
(変形例2)
図12は、噴射装置1の変形例に係る噴射装置1Bおよび1Cを示す断面図である。図12においては、天井近傍の壁面500を塗装する場合における噴射装置1、1Bおよび1Cがそれぞれ、図12(a)、(b)および(c)として示されている。
【0066】
ノズル移動機構130は、ノズル125が移動可能な領域の外側に延在する部位を有する。このため、噴射装置1により天井面700の近傍を塗装する場合には、図12(a)に示すように、ノズル移動機構130によってノズル125が移動可能な位置の上限と天井面700との間に隙間が存在する。
【0067】
図12(b)に示すように、噴射装置1Bは、噴射装置1の構成に加えて、補助移動機構181をさらに備える。補助移動機構181は、ノズル125とノズル移動機構130との間に配される。補助移動機構181は、ノズル移動機構130による移動範囲の上端から、更に上側へノズル125を移動させる。噴射装置1Bによれば、噴射装置1と比較して、ノズル125を天井面700へ近づけることができる。このため、噴射装置1Bによれば、噴射装置1と比較して、壁面500を天井面700の近傍まで塗装することができる。
【0068】
図12(c)に示すように、噴射装置1Cは、噴射装置1の構成に加えて、角度変更機構182をさらに備える。角度変更機構182は、ノズル125とノズル移動機構130との間に配される。角度変更機構182は、塗料の噴射方向が鉛直上方へ向くようにノズル125を回転させる。噴射装置1Cによっても、噴射装置1と比較して、壁面500を天井面700の近傍まで塗装することができる。
【0069】
(変形例3)
図13は、噴射装置1の変形例に係る噴射装置1Dを示す平面図である。図13に示すように、噴射装置1Dは、第2方向距離センサ152の代わりにライダー153を備える点で噴射装置1と相違する。
【0070】
ライダー153は、所定の平面内における所定の角度範囲に存在する物体との距離を測定するセンサである。噴射装置1Dの制御装置は、ライダー153により、反射板400までの距離の測定に加えて、障害物450の検知も可能である。制御装置は、障害物450を検知した場合、噴射装置1Dの走行を停止するとともに、音または光などによって作業者に警報を発する。
【0071】
また、ライダー153が距離を測定する角度範囲によっては、噴射装置1Dの制御装置は、第1支持機構140がノズル移動機構130を第1状態で支持する場合における塗料の噴射方向に存在する物体との距離を、ライダー153により測定することもできる。すなわち、ライダー153は、第1方向距離センサ151と同じ方向についての距離センサとしても機能することができる。
【0072】
(変形例4)
噴射装置1は、ポンプ123により加圧された塗料を噴射可能な補助ノズル(不図示)をさらに備えていてもよい。この場合、噴射装置1は、ノズル125および補助ノズルのいずれから塗料を噴射するかを切り換えるためのスイッチを有する。補助ノズルは、作業者が手作業で塗装を行う場合に使用される。
【0073】
噴射装置1により建造物の内壁を塗装する場合、内壁の隅近傍など一部の領域について、作業者が補助ノズルを用いて塗装してもよい。作業者による塗装は、噴射装置1による塗装の直後に行われてもよく、時間が経過してから行われてもよい。また、作業者による塗装は、噴射装置1による塗装の前に行われてもよい。ただし、作業者による塗装は、噴射装置1による塗装よりも後に行われることが好ましい。この場合には、作業者は、噴射装置1が塗装した領域と作業者が塗装した領域との継ぎ目をぼかすように塗装することができる。
【0074】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0075】
図14は、実施形態2に係る噴射装置2の構成を示す斜視図である。噴射装置2は、第1支持機構140の代わりに第1支持機構140Aを備える点で、噴射装置1と相違する。第1支持機構140Aは、ノズル移動機構130を、上述した第1状態に加えて、ノズル125からの塗料の噴射方向が鉛直上方を向く第2状態をさらに含む状態で支持することが可能である。第2状態は、例えば建造物の天井に塗料を噴射することに適した状態である。図14には、第1支持機構140Aがノズル移動機構130を第2状態で支持している状態の噴射装置2を示している。第2状態におけるノズル125の移動方向は、図14において矢印222で示されている。
【0076】
第2状態においては、ノズル移動機構130は、水平面に平行な方向に延在する。図14に示す例では、第1支持機構140Aは、水平取付部材190を介してノズル移動機構130を支持している。水平取付部材190は、ノズル移動機構130を補強する部材である。このため、第1支持機構140Aがノズル移動機構130を第2状態で支持する場合に、ノズル移動機構130を安定して支持できる。なお、噴射装置2において、ノズル移動機構130は、水平面に対して傾斜した方向に延在してもよい。この場合、噴射装置2は、水平面に対して傾斜した天井面を塗装できる。
【0077】
水平取付部材190の長さは、当該水平取付部材190の強度、およびノズル移動機構130の長さを考慮して適宜設計されてよく、例えば1000~1500mm程度である。水平取付部材190は、第2状態において外観上水平であればよい。例えば水平取付部材190の長さが1000mmである場合、両端の高さの差が20mm以下であれば許容される。
【0078】
水平取付部材190は、第1支持機構140Aがノズル移動機構130を第2状態で支持する場合にのみ使用される部材である。このため、第1支持機構140Aがノズル移動機構130を第1状態で支持する場合などには、水平取付部材190を噴射装置2に搭載しておく必要はない。
【0079】
図15は、第1支持機構140Aによるノズル移動機構130の支持の状態を第1状態から第2状態に切り替える手順を示す斜視図である。図15には、第1状態から第2状態に切り替える手順が(a)、(b)および(c)に順に示されている。第1状態から第2状態に切り替える場合、まず、図15(a)に示すように、第1支持機構140Aからノズル移動機構130を取り外す。次に、図15(b)に示すように、第1支持機構140Aに水平取付部材190を取り付ける。その後、図15(c)に示すように、水平取付部材190にノズル移動機構130を取り付ける。
【0080】
以上の手順により、第1支持機構140Aによるノズル移動機構130の支持の状態を第1状態から第2状態に切り替えることができる。第1支持機構140Aによるノズル移動機構130の支持の状態を第2状態から第1状態に切り替える場合には、上述した手順を逆の順に実行すればよい。
【0081】
図16は、噴射装置2が天井面を塗装する場合における、反射板410の配置を示す平面図(床面の見下げ図)である。図16には、天井面700を塗装する場合に噴射装置2が走行する床面を鉛直上方から見た図が示されている。噴射装置2が天井面700を塗装する場合には、天井面700に対して塗料を安定的に噴射するため、ノズル移動機構130の高さを一定に維持しておく必要がある。したがって、噴射装置2は、図16に示すような走行領域800内を二次元的に走行することになる。走行領域800は、噴射装置2が塗装する領域に対応する、床面の領域である。反射板410は、走行領域800内における噴射装置1の位置を認識するための基準である。図16に示す例では、走行領域800の2辺に沿うように、帯状の反射板410を配置する。噴射装置2の制御装置は、第1方向距離センサ151および第2方向距離センサ152によりそれぞれの反射板410との距離を測定することで、走行領域800における噴射装置2の位置を認識することができる。
【0082】
噴射装置2においては、第2方向距離センサ152だけでなく、第1方向距離センサ151も反射板410との距離を測定する必要がある。このため、噴射装置2が備える第1方向距離センサ151は、噴射装置1が備えていたものとは異なり、20~30mの距離を測定可能な距離センサである。
【0083】
図17は、噴射装置2が天井面700を塗装する工程の流れを説明するための平面図(天井の見上げ図)である。図17においては、天井面700を、第1領域701、第2領域702、および第3領域703の、3つの領域に区分している。天井面700を塗装する場合には、噴射装置2の制御装置は、第1支持機構140Aにより、天井面700の高さに応じた一定の高さでノズル移動機構130を支持する。まず、噴射装置2の制御装置は、(i)ノズル移動機構130によりノズル125を移動させながらのノズル125からの塗料の噴射と、(ii)ノズル125の移動および塗料の噴射を停止させた状態での噴射装置2の走行と、を交互に行い、第1領域701を矢印621、622および623で示す領域を塗装する。このとき、噴射装置2の走行方向は、ノズル移動機構130によるノズル125の移動方向に垂直である。
【0084】
制御装置は、矢印621、622および623で示す領域を塗装した後、同様の動作を繰り返して第1領域701の全体を塗装する。第1領域701の端に到達すると、制御装置は、噴射装置2の姿勢を維持したままで駆動輪112の回転方向を90°変更し、第2領域702を塗装可能な位置へ走行した後、駆動輪112の回転方向をさらに90°(合計で180°)変更する。その後、噴射装置2の制御装置は、矢印621~623で示す領域を塗装した時と同様の制御により、矢印624~626で示す領域、およびその先の領域を第2領域702の端まで塗装する。さらにその後、噴射装置2の制御装置は、第1領域701の端部に到達した時と同様に噴射装置2を制御し、矢印627~629で示す領域、さらには第3領域703を塗装する。
【0085】
以上のとおり、噴射装置2においては、第1支持機構140Aによるノズル移動機構130の支持の状態を、第1状態および第2状態の2通りの状態に切り換え可能である。これらの状態を切り換え、制御装置により上述したとおり各部を制御することで、噴射装置2は、壁面および床面を広範囲にわたって自動的に塗装することができる。
【0086】
〔実施形態3〕
図18は、実施形態3に係る噴射装置3の構成を示す斜視図である。図18に示すように、噴射装置3は、噴射装置1の構成に加えて、第2支持機構145を備える。第2支持機構145は、台車110上において、ノズル移動機構130を、台車110が走行する床面にノズル125からの塗料の噴射方向が向く第3状態で支持することが可能である。第3状態は、例えば建造物の床面に塗料を噴射することに適した状態である。第3状態におけるノズル125の移動方向は、図18において矢印223で示されている。
【0087】
第2支持機構145は、第3状態でノズル移動機構130を支持する場合にのみ使用される。また、第2支持機構145が第3状態でノズル移動機構130を支持する場合には、第1支持機構140Aが第2状態でノズル移動機構130を支持する場合と同様、ノズル移動機構130は水平面に略平行な方向に延在する。このため、第2支持機構145には、水平方向におけるノズル移動機構130の全体を支持するための水平支持部材195が取り付けられている。
【0088】
図19は、噴射装置3が床面を塗装する場合における、反射板410の配置を示す平面図(床面の見下げ図)である。図19には、床面を塗装する場合に噴射装置3が走行する床面を鉛直上方から見た図が示されている。噴射装置3により床面を塗装する工程は、図17に示した、天井面700を塗装する工程と概ね同じであってよい。すなわち、噴射装置3は、走行領域800内を二次元的に走行する。ただし、噴射装置3が床面を塗装する場合、走行領域800は塗装する床面の領域と概ね一致する。床面を塗装する場合には、噴射装置3は、走行領域800のうち、既に塗装した領域を駆動輪112が通過しないように走行する必要がある。このため、制御装置は、噴射装置3の走行方向を変更する場合、駆動輪112の回転方向を切り換えるのではなく、噴射装置3自体を方向転換させ、常に噴射装置3の走行方向における後方にノズル125が位置するようにする。具体的には、噴射装置3は、駆動輪112を少なくとも2つ備える。2つの駆動輪112は、走行方向を前後方向とした場合における、左右方向の位置が互いに異なるように配される。制御装置は、駆動輪112の回転数を異ならせることで噴射装置3を方向転換させる。
【0089】
このため、噴射装置3により床面を塗装する場合には、噴射装置3が反転した状態であっても噴射装置3と反射板410との間の距離を測定できるよう、図19に示すように、走行領域800の4辺それぞれに沿うように反射板410を設ける必要がある。制御装置は、噴射装置3といずれか2つの反射板410との間の距離を計測することで、走行領域800内における噴射装置3の位置を認識できる。
【0090】
また、噴射装置3は、互いに逆方向の距離を測定する2組の第1方向距離センサ151、および、互いに逆方向の距離を測定する2つの第2方向距離センサ152を備えていてもよい。この場合、制御装置は、噴射装置3の向きに関わらず、いずれか1組の第1方向距離センサ151およびいずれか1つの第2方向距離センサ152により、噴射装置3と反射板410との距離を測定することができる。
【0091】
以上のとおり、噴射装置3においては、第1支持機構140がノズル移動機構130を第1状態で支持する状態と、第2支持機構145がノズル移動機構130を第3状態で支持する状態とを切り換え可能である。これらの状態を切り換え、制御装置により上述したとおり各部を制御することで、噴射装置3は、壁面および床面を広範囲にわたって自動的に塗装することができる。
【0092】
また、噴射装置3は、噴射装置2が第2支持機構145をさらに備える構成を有していてもよい。この場合、第1支持機構140Aがノズル移動機構130を第1状態または第2状態で支持する状態と、第2支持機構145がノズル移動機構130を第3状態で支持する状態とを切り換えることで、噴射装置3は、壁面、天井面および床面を塗装することができる。この場合には、水平支持部材195が水平取付部材190としても兼用されてもよい。
【0093】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A、1B、1C、1D、2、3 噴射装置
110 台車
111 動力源
125 ノズル
130 ノズル移動機構
140、140A 第1支持機構
145 第2支持機構
図1
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