(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】窒素酸化物吸蔵材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/06 20060101AFI20241112BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241112BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B01J20/06 C
B01J20/30
C01G23/00 C
(21)【出願番号】P 2021002486
(22)【出願日】2021-01-11
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020033663
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】梶野 剛延
(72)【発明者】
【氏名】玉井 和樹
(72)【発明者】
【氏名】細川 三郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 庸裕
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226538(JP,A)
【文献】国際公開第2018/051890(WO,A1)
【文献】特開平04-161220(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013695(WO,A1)
【文献】渡邉力ほか,ペロブスカイト型Sr-Ti系複合酸化物の担体効果,第122回触媒討論会 討論会A予稿集,日本,触媒学会,2018年09月19日,P020,p.28
【文献】渡邉力ほか,Sr-Ti系複合酸化物担持Pd触媒による三元触媒反応,第124回触媒討論会 討論会A予稿集,日本,触媒学会,2019年09月11日,3E015
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces,米国,2019年,Vol. 11,p. 26985-26993
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/73,53/86-53/90,53/94,53/96
B01J 21/00-38/74
C01G 23/00-99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と
、Tiと
、Co及び/又はMnからなる3d遷移金属とを少なくとも含むルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物を含有し、
上記3d遷移金属がルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物のTiサイトの一部に置換固溶されている、窒素酸化物吸蔵材料。
【請求項2】
さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と
、Tiと
、Co及び/又はMnからなる3d遷移金属とを少なくとも含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含有する、請求項1に記載の窒素酸化物吸蔵材料。
【請求項3】
さらに貴金属を含有する、請求項
1又は2に記載の窒素酸化物吸蔵材料。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の窒素酸化物吸蔵材料の製造方法であって、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有する金属源と、Ti源と
、Co及び/又はMnを含む3d遷移金属源とを混合して混合物を作製する混合工程と、
上記混合物を焼成する焼成工程と、を有する、窒素酸化物吸蔵材料の製造方法。
【請求項5】
上記混合工程においては、さらに3d遷移金属源を混合する、請求項
4に記載の窒素酸化物吸蔵材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場における化学工程、内燃機関等から排出される排ガス中には、有害な窒素酸化物(つまり、NOx)が含まれる。そこで、排ガス中の窒素酸化物を浄化する技術が求められる。例えば内燃機関においては、燃焼効率の改善及び燃費の向上が望まれており、燃費向上等の観点から酸素過剰条件下で燃焼を行う希薄燃焼方式が用いられることがある。
【0003】
希薄燃焼方式においては、排ガス中の窒素酸化物が多くなる傾向がある。そのため、より浄化性能に優れた窒素酸化物吸蔵材料の開発が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物及び白金を担体に担持してなる排気ガス浄化用触媒に排ガスを接触させる排ガス浄化方法が提案されている。この排ガス浄化方法においては、白金によりNOがNO2に酸化され、さらにNO2がアルカリ土類金属酸化物に吸着されることにより窒素酸化物の浄化が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物から構成された窒素酸化物吸蔵材料は、NO2を吸蔵できるが、NOをほとんど吸蔵できない。NOの吸蔵のためには、上記のごとく白金などの貴金属触媒により、NOをNO2に酸化させることが求められる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、NO2とNOに対する優れた吸蔵性能を示す酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料、及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、Tiと、Co及び/又はMnからなる3d遷移金属とを少なくとも含むルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物を含有し、
上記3d遷移金属が上記ルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物のTiサイトの一部に置換固溶されている、窒素酸化物吸蔵材料にある。
【0009】
本発明の他の態様は、上記窒素酸化物吸蔵材料の製造方法であって、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有する金属源と、Ti源とを混合して混合物を作製する混合工程と、
上記混合物を焼成する焼成工程と、を有する、窒素酸化物吸蔵材料の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記窒素酸化物吸蔵材料は、上記所定の複合酸化物を含有し、複合酸化物がNO2とNOに対する吸蔵性能を示す。具体的には、複合酸化物は、NO2に対する吸蔵性能と、NOを酸化しNO2として吸蔵する性能を有する。そのため、窒素酸化物吸蔵材料は、例えば貴金属量を0にしたり、従来より少量にしても、NO、NO2を十分に吸蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)は、実施例1~4の窒素酸化物吸蔵材料のX線回折パターン図であり、
図1(b)は、
図1(a)の部分拡大図である。
【
図2】
図2は、CO
2、H
2O非混在下、温度300℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例1~4、比較例1)のNO
x吸蔵性能を示すグラフ。
【
図3】
図3は、CO
2、H
2O非混在下、温度50℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例1~4)のNO
x吸蔵性能を示すグラフ。
【
図4】
図4は、CO
2、H
2O混在下、温度300℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例2~4)のNO
x吸蔵性能を示すグラフ。
【
図5】
図5は、CO
2、H
2O混在下、温度50℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例2~4)のNO
x吸蔵性能を示すグラフ。
【
図6】
図6(a)は、実施例5~7の窒素酸化物吸蔵材料のX線回折パターン図であり、
図6(b)は、
図6(a)の部分拡大図であり、
図6(c)は、ペロブスカイト型構造及びルドルスデン・ポッパー構造の各種複合酸化物のX線回折パターンにおける特定ピークを示す図である。
【
図7】
図7は、CO
2、H
2O非混在下、温度300℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例5~7)NO
x吸蔵性能を示すグラフである。
【
図8】
図8は、SO
2混在下、温度300℃での窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例2~4)のNO
x吸蔵性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
窒素酸化物吸蔵材料に係る実施形態について説明する。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、下限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以上であることを意味し、上限として数値又は物性値を表現する場合、その数値又は物性値以下であることを意味する。
【0013】
以降の説明においては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属とTiとを少なくとも含む、ペロブスカイト型構造の複合酸化物のことを適宜「第1複合酸化物」という。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属とTiとを少なくとも含む、ルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物のことを「第2複合酸化物」という。
【0014】
窒素酸化物吸蔵材料は、第1複合酸化物及び第2複合酸化物の少なくとも一方の酸化物を含有する。つまり、窒素酸化物吸蔵材料は、第1複合酸化物と第2複合酸化物の両方を含有していてもよいし、第1複合酸化物と第2複合酸化物のうちのいずれか一方を含有していてもよい。このような窒素酸化物吸蔵材料は、NO2とNOに対する吸蔵性能を示す。これは、第1複合酸化物、第2複合酸化物が、NO2に対する吸蔵性能と、NOに対する酸化性能を有しているからである。また、第1複合酸化物、第2複合酸化物は、NOをそのまま吸蔵する性能も有していると考えられる。いずれにしても、第1複合酸化物、第2複合酸化物は、NO、NO2等のNOxに対して優れた吸蔵性能を有する。これにより、例えば貴金属量を0にしたり、少量にしても、窒素酸化物吸蔵材料はNO、NO2を十分に吸蔵することができる。これにより、高価な貴金属量を減らし、窒素酸化物吸蔵材料の製造コストを下げることができると共に、貴金属の酸化や凝集によって触媒活性が低下するリスクも低下する。また、窒素酸化物吸蔵材料は、例えば300℃以下という低温でNOxを十分に吸蔵することができる。一方、300℃を超える高温では、NOに対する酸化速度が向上し、窒素酸化物の中でも吸蔵材料への吸着力が強いNO3
-の生成が促進されることから、窒素酸化物吸蔵材料は、高温環境下ではさらに優れたNOx吸蔵性能を示すことができる。
【0015】
窒素酸化物吸蔵材料は、本発明の目的を阻害しない範囲で他の物質を含有することができる。このような物質としては、第1複合酸化物、第2複合酸化物の製造時に生じうる金属酸化物がある。具体的には、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属の酸化物、ランタノイドの酸化物、酸化チタン等がある。さらに、後述のように、第1複合酸化物、第2複合酸化物の例えばTiサイトに、Fe、Co、Mn等を置換固溶させる場合には、窒素酸化物吸蔵材料は、酸化鉄、酸化コバルト、酸化マンガン等を含有することもできる。窒素酸化物吸蔵材料のNOx吸蔵性能をより高くするという観点から、窒素酸化物吸蔵材料の主成分は、第1複合酸化物又は第2複合酸化物であることが好ましい。
【0016】
第1複合酸化物は、ペロブスカイト型構造を有し、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属とTiとを含む。例えば300℃以下の低温でのNOx吸蔵性能がより向上するという観点から、第1複合酸化物は、アルカリ土類金属を含むことが好ましく、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有することがより好ましく、Srを含むことがさらに好ましい。
【0017】
第1複合酸化物は、イオン半径がTi4+に近く価数変動を起こしやすい3d遷移金属をさらに含むことが好ましい。この場合には、低温でのNOx吸蔵性能がより向上する。低温でのNOx吸蔵性能がさらに向上するという観点から、3d遷移金属は、Cr、Ni、Cu、Fe、Co、及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であることが好ましく、Fe、Co、及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であることがより好ましく、Co及び/又はMnであることがさらに好ましく、Coであることがさらにより好ましい。なお、3d遷移金属は、ペロブスカイト型構造の第1複合酸化物におけるTiサイトの一部に置換固溶される。
【0018】
第1複合酸化物は、例えば一般式I:MTi1-aXaO3で表される。一般式Iにおいて、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素である。Xは、上記の3d遷移金属元素である。aは、0以上、1未満である。低温でのNOx吸蔵性能がより向上するという観点から、aは、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。一方、Tiサイトに3d遷移金属が固溶されつつもペロブスカイト構造を維持させるという観点から、aは、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.4以下であることがさらに好ましい。また、例えば一般式Iで表される第1複合酸化物は、本発明の目的を損ねない範囲において結晶構造中に酸素の格子欠陥(具体的には、酸素不定比性)を有していてもよい。
【0019】
第1複合酸化物は、結晶構造中にカチオン欠陥を有していてもよい。具体的には、第1複合酸化物は、例えば一般式I’:M1-δ1{TiaX(1-a)}1-δ2O3で表される酸化物であってもよい。一般式I’においてδ1、δ2の下限は0である。δ1、δ2の上限は、第1複合酸化物がペロブスカイト型構造を維持できる値であり、具体的には、いずれも例えば0.1である。一般式I’におけるM、X、aは、一般式Iと同様である。一般式I’において、δ1>0、δ2>0の場合には、例えば第1複合酸化物の製造時に欠損カチオンが金属酸化物として析出しているため、窒素酸化物吸蔵材料は、一般式I’で表される酸化物と、金属酸化物とを含みうる。金属酸化物としては、SrO等の金属元素Mの酸化物、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト等の金属元素Xの酸化物、酸化チタンなどが挙げられる。
【0020】
酸素欠陥、カチオン欠陥等を有する第1複合酸化物は、欠陥を有さない第1複合酸化物と同程度か、あるいはそれ以上の優れたNOx吸蔵性能を示すことができる。その理由は、次のためであると考えられる。一般に、酸素欠陥の導入は、金属酸化物における酸素の移動度を向上させるため、NOに対する酸化には有利である。つまり、第1複合酸化物が酸素欠陥を有する場合には、窒素酸化物吸蔵材料の、NOに対する酸化性能が向上し、NOx吸蔵性能が向上する。また、カチオン欠陥の導入は、第1複合酸化物における酸素空孔の欠損量や遷移金属の電子状態の制御を可能にし、結果として窒素酸化物吸蔵材料のNOx吸蔵性能の向上に繋がる。なお、後述の一般式II、一般式II’等で表される第2複合酸化物についても同様のことがいえる。
【0021】
第2複合酸化物は、ルドルスデン・ポッパー構造を有し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属とTiとを含む。つまり、窒素酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属とTiとを含むルドルスデン・ポッパー相を有する第2複合酸化物を含有する。低温でのNOx吸蔵性能がより向上するという観点から、第2複合酸化物は、アルカリ土類金属を含むことが好ましく、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有することがより好ましく、Srを含むことがさらに好ましい。
【0022】
第2複合酸化物は、さらに3d遷移金属を含むことが好ましい。この場合には、低温でのNOx吸蔵性能がより向上する。低温でのNOx吸蔵性能がさらに向上するという観点から、3d遷移金属は、Cr、Ni、Cu、Fe、Co、及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であることが好ましく、Fe、Co、及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の金属であることがより好ましく、Co及び/又はMnであることがさらに好ましく、Coであることがさらにより好ましい。なお、3d遷移金属は、ルドルスデン・ポッパー構造の第2複合酸化物におけるTiサイトの一部に置換固溶される。
【0023】
第2複合酸化物は、例えば一般式II:M3Ti2-bXbO7で表される。一般式IIにおいて、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素である。Xは、上記の3d遷移金属元素である。bは、0以上、2未満である。低温でのNOx吸蔵性能がより向上するという観点から、bは、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらに好ましい。一方、Tiサイトに3d遷移金属が固溶されつつもルドルスデン・ポッパー構造を維持させるという観点から、bは、1.2以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。また、例えば一般式IIで表される第2複合酸化物は、本発明の目的を損ねない範囲において結晶構造中に酸素の格子欠陥(具体的には、酸素不定比性)を有していてもよい。
【0024】
第2複合酸化物は、上記の第1複合酸化物と同様に、結晶構造中にカチオン欠陥を有していてもよい。具体的には、第2複合酸化物は、例えば一般式II’:M3-δ3{TibX(2-b)}2-δ4O7で表される酸化物であってもよい。一般式II’においてδ3、δ4の下限は0である。δ3、δ4の上限は、第2複合酸化物がルドルスデン・ポッパー構造を維持できる値であり、具体的にはδ3の上限は例えば0.3であり、δ4の上限は例えば0.2である。一般式II’におけるM、X、bは、一般式IIと同様である。一般式II’において、δ1>0、δ2>0の場合には、例えば第1複合酸化物の製造時に欠損カチオンが金属酸化物として析出しているため、窒素酸化物吸蔵材料は、一般式II’で表される酸化物と、金属酸化物とを含みうる。金属酸化物としては、SrO等の金属元素Mの酸化物、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト等の金属元素Xの酸化物、酸化チタンなどが挙げられる。
【0025】
窒素酸化物吸蔵材料は、低温でのNOx吸蔵性能に優れており、貴金属を含有していなくても十分にNOxを吸蔵することができる。一方、窒素酸化物吸蔵材料は、さらに貴金属を含有することができる。この場合には、例えば250℃以上の温度でのNOx吸蔵性能が向上する。貴金属としては、Pt、Pd、Rh等が例示される。
【0026】
窒素酸化物吸蔵材料は、例えば、工場における化学工程、内燃機関等から排出される排ガス中のNOxを除去するために用いられる。窒素酸化物吸蔵材料は、低温でNOxを十分に吸蔵できるため、特に、自動車などの車両用のエンジンから排出される排ガス中のNOxの除去に好適である。
【0027】
窒素酸化物吸蔵材料は、例えば担体に担持して使用される。担体としては、例えばハニカム構造のモノリス基材が用いられる。この場合には、窒素酸化物吸蔵材料は、例えばモノリス基材の多孔質の隔壁に担持される。担体は、例えばコージェライト、SiC等の耐熱性に優れた材質からなることが好ましい。
【0028】
窒素酸化物吸蔵材料は、例えば、混合工程と、焼成工程とを行うことにより製造される。混合工程では、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有する金属源と、Ti源とを混合する。以降の説明では金属源のことを「M源」という。M源、Ti源としては、例えば、各種塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。
【0029】
混合工程においては、さらに3d遷移金属源を混合することが好ましい。この場合には、3d遷移金属がTiサイトの一部に置換固溶された第1複合酸化物及び/又は第2複合酸化物を製造することができる。以降の説明では、3d遷移金属源のことをX源という。X源としては、例えば、各種塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。
【0030】
混合工程では、所望の複合酸化物が得られるような化学量論比でM源、Ti源、X源の配合割合を調整することができる。
【0031】
混合工程での各原料の混合は、乾式で行ってもよいし、アルコールやアセトンなどの有機溶剤を添加して行ってもよいし、水などの液体中で行ってもよい。好ましくは、M源、Ti源、X源として、水溶性の塩を使用し、水中で混合を行うことが好ましい。この場合には、M源、Ti源、X源の水溶液が得られる。これにより、焼成時における原料同士の反応性を高めることができる。液体中で混合を行う場合には、例えば錯体重合法、共沈法で第1複合酸化物、第2複合酸化物を生成させることができる。また、液体中で混合を行う場合には、焼成時における反応性を高めるために、混合工程後かつ焼成工程の前に乾燥を行うことにより固体状態の混合物を得ることが好ましい。
【0032】
共沈法、錯体重合法のように、液体中で混合を行う場合には、M原料としてM塩を用い、Ti原料としてTi塩を用い、X源としてX塩を用いることが好ましい。これにより、水等の液体中で金属イオンを形成させることができるため、金属が十分に混合された混合物が得られる。また、M塩、Ti塩、必要に応じて添加されるX塩を用い、さらにMとTi、あるいは、MとTiとXとの金属錯体を水中で形成させた後、ゲル化剤により水溶液をゲル化させることが好ましい。つまり、錯体重合法により窒素酸化物吸蔵材料を製造することが好ましい。この場合には
、例えば固相反応法に比べてNOxに対する吸蔵性能に優れた窒素酸化物吸蔵材料を得ることができる。これは、錯体形成により分散性よく分散したMイオン、Tiイオン、Xイオンがゲル化により固定されるため、十分に均質なゲルが得られ、焼成時における原料同士を反応性が高まるためであると考えられる。
【0033】
M塩、Ti塩、X塩としては、水中で、それぞれMイオン、Tiイオン、Xイオンを供給できるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、塩化物などの無機塩を用いることができ、酢酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、アルコキシド塩(つまり、金属アルコキシド)などを用いることもできる。化学的安定性が高く、秤量が容易という観点から、M塩としては、例えば炭酸ストロンチウムなどの炭酸塩、硝酸ストロンチウムなどの硝酸塩が好ましい。また、焼成時に不純物成分が除去されやすいという観点から、X塩としては、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸マンガンなどの硝酸塩が好ましい。MイオンやXイオンに対する反応性が高く,均一な前駆体が調製しやすいという観点から、Ti塩としてはアルコキシド塩、塩化物を用いることが好ましい。
【0034】
金属錯体を形成するためには、Mイオン、Tiイオン、必要に応じて添加されるXイオンなどの金属イオンを含有する水溶液中に、これらの金属イオンと錯体を形成することが可能な配位子を添加すればよい。なお、配位子を含有する水溶液に、金属イオンを添加してもよいし、配位子を含有する水溶液と、金属イオンを含有する水溶液とを混合してもよい。配位子の供給源としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸を用いることができる。工業的に広く使用され、安価であるという観点
からクエン酸が好ましい。ゲル化剤としては、たとえエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールを用いることができる。この場合には、エステル重合によりゲル化が可能になる。
【0035】
また、窒素酸化物吸蔵材料を固相反応法で作製することもできる。この場合には、上記のごとく混合工程を乾式で行う。具体的には、混合工程において、M源とTi源と必要に応じて添加されるX源との混合粉末を作製する。この場合には、原料の混合時に有機溶剤を添加することにより、均一性のよい混合粉を得ることができる。有機溶剤としては、アセトン、エタノール等を用いることができる。
【0036】
焼成工程では、混合物を焼成する。これにより、第1複合酸化物及び/又は第2複合酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料が得られる。焼成温度は、例えば500~1200℃である。比表面積の大きな窒素酸化物吸蔵材料が得られるという観点から、焼成温度は800~1000℃であることが好ましい。なお、焼成の前に仮焼を行ってもよい。
【0037】
焼成は、例えば大気雰囲気で行われる。また、水(具体的には水蒸気)を含む大気雰囲気で焼成を行うこともできる。水蒸気濃度は、例えば0~80体積%の範囲で調整することができる。水を含む大気雰囲気での焼成を、水熱合成法という。
【0038】
(実験例1)
本例では、ペロブスカイト型構造を有する窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、実施例1~4)を作製し、そのNOx吸蔵性能を評価する。実施例1~4の窒素酸化物吸蔵材料は、SrとTiとを含有するペロブスカイト型構造の第1複合酸化物を含有する。本例では、所謂錯体重合法により、第1複合酸化物を含む窒素酸化物吸蔵材料を作製した。なお、実施例1~5は参考例である。
【0039】
実施例1の窒素酸化物吸蔵材料はSrTiO3を含有する。実施例1の窒素酸化物吸蔵材料は、次のようにして作製した。
【0040】
まず、水180mlにクエン酸400mmolを溶解させた水溶液に、炭酸ストロンチウム(SrCO3)と、チタンテトライソプロポキシド(Ti[(CH3)2CHO]4)とを添加し、水溶液を温度80℃で2時間撹拌した。配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti=1:1であり、具体的には、SrCO3、Ti[(CH3)2CHO]4の添加量はいずれも20mmolである。所定温度で撹拌する操作のことを熟成という。熟成により錯体が十分に形成され、金属クエン酸錯体を得ることができる。
【0041】
次に、水溶液中にエチレングリコールを400mmol添加し、水溶液を温度130℃で4時間撹拌した。つまり、温度130℃で4時間熟成させた。このエチレングリコールの添加後の熟成により、エステル重合が進行し、水溶液がゲル化する。
【0042】
その後、大気中で、ゲルを温度350℃で、3時間仮焼した後、温度1000℃で2時間焼成した。これにより、酸化物を得た。この酸化物がSrTiO3からなる第1複合酸化物である。このようにして、実施例1の窒素酸化物吸蔵材料を製造した。
【0043】
実施例2の窒素酸化物吸蔵材料はSrTi0.8Fe0.2O3を含有する。その作製にあたっては、まず、実施例1と同様にして作製した、クエン酸を溶解させた水溶液に、炭酸ストロンチウム(SrCO3)と、チタンテトライソプロポキシド(Ti[(CH3)2CHO]4)と、硝酸鉄9水和物(Fe(NO3)3・9H2O)とを添加した。配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti:Fe=1:0.8:0.2であり、具体的には、SrCO3の添加量が20mmolであり、Ti[(CH3)2CHO]4の添加量が16mmolであり、Fe(NO3)3・9H2Oの添加量が4mmolである。次いで、実施例1と同様にして、錯体形成、ゲル化、仮焼、焼成を行うことにより、SrTi0.8Fe0.2O3からなる第1複合酸化物を得た。このようにして、実施例2の窒素酸化物吸蔵材料を製造した。
【0044】
実施例3の窒素酸化物吸蔵材料はSrTi0.8Co0.2O3を含有する。その作製にあたっては、まず、クエン酸を溶解させた水溶液に、炭酸ストロンチウム(SrCO3)と、チタンテトライソプロポキシド(Ti[(CH3)2CHO]4)と、硝酸コバルト6水和物(Co(NO3)3・6H2O)とを添加した。配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti:Co=1:0.8:0.2であり、具体的には、SrCO3の添加量が20mmolであり、Ti[(CH3)2CHO]4の添加量が16mmolであり、Co(NO3)3・6H2Oの添加量が4mmolである。次いで、実施例1と同様にして、錯体形成、ゲル化、仮焼、焼成を行うことにより、SrTi0.8Co0.2O3からなる第1複合酸化物を得た。このようにして、実施例3の窒素酸化物吸蔵材料を製造した。
【0045】
実施例4の窒素酸化物吸蔵材料はSrTi0.8Mn0.2O3を含有する。その作製にあたっては、まず、クエン酸を溶解させた水溶液に、炭酸ストロンチウム(SrCO3)と、チタンテトライソプロポキシド(Ti[(CH3)2CHO]4)と、硝酸マンガン6水和物(Mn(NO3)3・6H2O)とを添加した。配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti:Mn=1:0.8:0.2であり、具体的には、SrCO3の添加量が20mmolであり、Ti[(CH3)2CHO]4の添加量が16mmolであり、Mn(NO3)3・6H2Oの添加量が4mmolである。次いで、実施例1と同様にして、錯体形成、ゲル化、仮焼、焼成を行うことにより、SrTi0.8Mn0.2O3からなる第1複合酸化物を得た。このようにして、実施例4の窒素酸化物吸蔵材料を製造した。
【0046】
次に、実施例1~4の窒素酸化物吸蔵材料のX線回折分析を行い、X線回折パターンを得た。X線回折のことをXRDという。XRDパターンは、粉末XRD分析により得られる。測定条件は、特性X線:Cu-Kα、測定範囲:3≦2θ≦70、測定モード:スウィープスキャン10°/分である。
図1(a)、
図1(b)に、各実施例のXRDパターンを示す。
図1(b)は、
図1(a)における(110)面に由来するピーク位置の拡大図である。
図1(a)、
図1(b)より理解されるように、各実施例では、ペロブスカイト型構造を有する上記化学組成の複合酸化物が得られている。なお、実施例2~4では、実施例1に比べてTiサイトに由来するピーク位置が高角度側にシフトしている。これは、Tiサイトの一部にFe、Co、Mnがそれぞれ固溶しているためである。
【0047】
また、本例では、実施例との対比用の窒素酸化物吸蔵材料(具体的には、比較例1)を作製した。比較例1の窒素酸化物吸蔵材料は、Pt/Ba/Al2O3を含有している。窒素酸化物吸蔵材料中のBaは、2価の塩の形態で存在しており、具体的には、ガス雰囲気や温度条件によって、炭酸バリウム、水酸化バリウム、酸化バリウム等の形態をとりうる。比較例1は、以下のようにして作製した。まず、Al2O3をジニトロジアンミン白金水溶液と酢酸バリウム水溶液に浸漬し、蒸発乾固させることにより、重量比でPt:Ba:Al2O3=1:7:92となるように、PtとBaをAl2O3に吸着担持させた。その後、大気中で1000℃、2時間焼成した。
【0048】
実施例、比較例の窒素酸化物吸蔵材料のNOx吸蔵性能を以下のようにして評価した。まず、各窒素酸化物吸蔵材料を石英製の反応器内の中央に充填した。反応器は、高さ12mm、幅10mm、厚み1mmの四角筒状である。実施例の充填量は100ミリグラムであり、比較例の充填量は70ミリグラムである。
【0049】
この反応器内に、温度300℃又は50℃の条件下で窒素酸化物を含む混合ガスを流した。混合ガスの流れ方向は、反応器の高さ方向である。混合ガス組成は、NO:500体積ppm又は200体積ppm、O
2:10体積%又は3体積%、He:残部であり、流量は、100mL/分である。なお、比較例ではNO含有量が200体積ppmであり、O
2濃度が3体積%の混合ガスを用い、実施例ではNO含有量が500体積ppmであり、O
2濃度が10体積%の混合ガスを用いた。反応器の上流側から混合ガスを流し、窒素酸化物吸蔵材料を通過させてから下流側から排出させる。このとき、下流側から排出されるガス中に含まれるNO
x濃度をモニタリングした。NO
x吸蔵率が10%を下回ったときにおける窒素酸化物吸蔵材料のNO
x吸蔵量を算出した。その結果を表1、
図2、及び
図3に示す。
図2は、測定温度300℃における窒素酸化物吸蔵材料の単位面積当たりのNO
x吸蔵量を示し、
図3は、測定温度50℃における窒素酸化物吸蔵材料の単位面積当たりのNO
x吸蔵量を示す。なお、NO
x吸蔵率は、下流側から排出されるNO
x濃度から算出される。排出されるNO
x濃度が0の場合がNOx吸蔵率100%であることを意味し、排出されるNO
x濃度が10%増加した場合(具体的には、モニタリングされるNO
x濃度が50体積ppmに到達したとき)がNO
x吸蔵率90%であることを意味する。
【0050】
【0051】
表1、
図2より理解されるように、実施例1~4は、Ptなどの貴金属を含有していないにも関わらず、NO
x吸蔵量が高く、NO
x吸蔵性能に優れている。一方、比較例1は、貴金属を含有し、比表面積が大きく、さらにNO
x含有量が低い混合ガスを用いるという、実施例よりもNO
x吸蔵率が高くなる条件で測定したにも関わらず、NO
x吸蔵量が低い。実施例と比較例とのNO
x吸蔵量を同条件で測定した場合には、比較例1のNO
x吸蔵量は、いずれの実施例よりも低くなると考えられる。なお、窒素酸化物吸蔵材料の比表面積は、所謂BET法により測定される。
【0052】
第1複合酸化物のTiサイトの一部がFe、Co、Mn等の3d遷移金属元素で置換固溶された実施例2~4は、置換固溶されていない実施例1に比べてさらにNO
x吸蔵性能が増大している。表1、
図2より理解されるように、温度300℃では、置換固溶元素は、Fe、Co又はMnを含むことが好ましく、Co及び/又はMnを含むことがより好ましく、Coを含むことがさらに好ましい。
【0053】
表1、
図3より理解されるように、実施例1~4は、温度50℃という低温でもNO
xを吸蔵することができる。第1複合酸化物のTiサイトの一部がFe、Co、Mn等の3d遷移金属元素で置換固溶された実施例2~4は、置換固溶されていない実施例1に比べて温度50℃でのNO
x吸蔵性能がさらに増大している。なお、温度50℃での比較例1の結果を省略するが、温度50℃ではPtがNOを酸化できないため、比較例1のNO
x吸蔵量は、実施例1よりもさらに低くなる。表1、
図3より理解されるように、温度50℃では、置換固溶元素は、Fe、Co又はMnを含むことが好ましく、Fe及び/又はCoを含むことがより好ましく、Coを含むことがさらに好ましい。
【0054】
また、本例では、H
2O(具体的には水分)、CO
2が共存するガス雰囲気下におけるNO
x吸蔵性能を評価した。評価方法は、混合ガス組成をNO:500体積ppm、O
2:10体積%、CO
2:3体積%、H
2O:3体積%、He:残部とした点を除き、上述の方法と同様である。NO
x吸蔵率が10%を下回ったときにおける窒素酸化物吸蔵材料のNO
x吸蔵量を算出し、その結果を表2,
図4、
図5に示す。
図4は、測定温度300℃における窒素酸化物吸蔵材料の単位面積当たりのNO
x吸蔵量を示し、
図5は、測定温度50℃における窒素酸化物吸蔵材料の単位面積当たりのNO
x吸蔵量を示す。
【0055】
【0056】
表2、
図4、
図5より理解されるように、実施例2~4の窒素酸化物吸蔵材料のように、ペロブスカイト型構造の複合酸化物におけるTiサイトの一部が、Fe、Co、Mn等の3d遷移金属元素で置換固溶された第1複合酸化物は、水分や二酸化炭素に対して耐性がある。つまり、このような第1複合酸化物は、水分や二酸化炭素が存在しない環境下でのNO
x吸蔵性能に対する、水分や二酸化炭素が共存する環境下でのNO
x吸蔵性能の低下幅が小さい。3d遷移金属元素で置換固溶された第1複合酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料は、水分や二酸化炭素が共存するガス雰囲気で窒素酸化物を十分に吸蔵することができる。表2、
図4、
図5より理解されるように、NO
xと共に水分や二酸化炭素が混在するガス雰囲気(例えば車両からの排ガス)では、置換固溶元素は、Fe、Co又はMnを含むことが好ましく、Co及び/又はMnを含むことがより好ましく、Coを含むことがさらに好ましい。
【0057】
(実験例2)
本例では、ルドルスデン・ポッパー構造を有する窒素酸化物吸蔵材料(具体的には実施例5~7)を作製し、そのNOx吸蔵性能を評価する。実施例5~7の窒素酸化物吸蔵材料は、SrとTiとを含有するルドルスデン・ポッパー構造の第2複合酸化物を含有する。本例では、所謂共沈法により、第2複合酸化物を含む窒素酸化物吸蔵材料を作製した。
【0058】
実施例5の窒素酸化物吸蔵材料はSr3Ti2O7を含有する。実施例5の窒素酸化物吸蔵材料は、次のようにして作製した。
【0059】
まず、水酸化ナトリウム(NaOH)100mmol及び炭酸ナトリウム(Na2CO3)100mmolを水(H2O)100mLに溶解させた第1水溶液を準備した。また、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)と、塩化チタン(TiCl4)とを水100mLに溶解させた第2水溶液を準備した。第2水溶液での硝酸ストロンチウムと塩化チタンとの配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti=3:2であり、具体的には、Sr(NO3)2の添加量が30mmolであり、TiCl4の添加量が20mmolである。第2水溶液での金属濃度は0.5mol/Lとなる。
【0060】
次に、第1水溶液に第2水溶液を添加した後、水溶液を1時間混合した。混合により、沈殿物が生成する。濾過により沈殿物を回収し、さらに沈殿物を水洗した後、室温で3日間沈殿物を乾燥させた。この沈殿物は、第2複合酸化物の前駆体である。その後、大気中、1000℃で、混合物を2時間焼成した。これにより、Sr3Ti2O7からなる第2複合酸化物を得た。このようにして、実施例5の窒素酸化物吸蔵材料を製造した。
【0061】
実施例6の窒素酸化物吸蔵材料はSr3Ti1.6Mn0.4O7を含有する。実施例6の窒素酸化物吸蔵材料は、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)と、塩化チタン(TiCl4)と、硝酸マンガン6水和物(Mn(NO3)3・6H2O)とを水100mLに溶解させた第2水溶液を用いた点を除き、実施例5と同様にして窒素酸化物吸蔵材料を作製した。なお、第2水溶液での配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti:Mn=3:1.6:0.4であり、具体的には、Sr(NO3)2の添加量が30mmolであり、TiCl4の添加量が16mmolであり、Mn(NO3)3・6H2Oの添加量が4mmolである。第2水溶液での金属濃度は実施例5と同様に0.5mol/Lとなる。
【0062】
実施例7の窒素酸化物吸蔵材料はSr3Ti1.6Co0.4O7を含有する。実施例7の窒素酸化物吸蔵材料は、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)と、塩化チタン(TiCl4)と、硝酸コバルト6水和物(Co(NO3)3・6H2O)とを水100mLに溶解させた第2水溶液を用いた点を除き、実施例5と同様にして窒素酸化物吸蔵材料を作製した。なお、第2水溶液での配合比は、金属元素のモル比で、Sr:Ti:Co=3:1.6:0.4であり、具体的には、Sr(NO3)2の添加量が30mmolであり、TiCl4の添加量が16mmolであり、Co(NO3)3・6H2Oの添加量が4mmolである。第2水溶液での金属濃度は実施例5と同様に0.5mol/Lとなる。
【0063】
実施例5~7の窒素酸化物吸蔵材料のXRD分析を実験例1と同様に行い、XRDパターンを得た。その結果を
図6(a)、
図6(b)に示す。なお、
図6(c)には、2θ=30.5°~33.5°の範囲におけるSrTiO
3のXRDパターン、2θ=30.5°~33.5°の範囲におけるSr
4Ti
3O
10のXRDパターン、2θ=30.5°~33.5°の範囲におけるSr
3Ti
2O
7のXRDパターン、2θ=30.5°~33.5°の範囲におけるSr
2TiO
4のXRDパターンをそれぞれ示す。SrTiO
3は、ペロブスカイト型構造であり、Sr
4Ti
3O
10、Sr
3Ti
2O
7、及びSr
2TiO
4は、ルドルスデン・ポッパー構造である。ルドルスデン・ポッパー構造は、ペロブスカイト層と岩塩層とが交互に重なった構造を有する。
図6(c)におけるnは岩塩層に対するペロブスカイト層の数を意味し、ペロブスカイト型構造ではnは無限大となる。一般式では、Sr
n+1Ti
nO
3n+1と表される。
【0064】
図6(a)~(c)より理解されるように、実施例5~実施例7では、ルドルスデン・ポッパー構造を有する上記化学組成の第2複合酸化物が得られている。実施例5の窒素酸化物吸蔵材料は、Sr
3Ti
2O
7からなる単相(つまり、n=2のルドルスデン・ポッパー構造の単相)の第2複合酸化物を含有している。実施例6の窒素酸化物吸蔵材料は、n=1のルドルスデン・ポッパー構造を主相とし、n=3のルドルスデン・ポッパー構造を副相とする第2複合酸化物を含有している。実施例7の窒素酸化物吸蔵材料は、n=2のルドルスデン・ポッパー構造を主相とし、n=3のルドルスデン・ポッパー構造を副相とする第2複合酸化物を含有している。
【0065】
実施例、比較例の窒素酸化物吸蔵材料のNO
x吸蔵性能を実験例1と同様に評価した。温度条件は、300℃であり、H
2O、CO
2を含有しない混合ガスを用いた。その評価結果を表3、
図7に示す。
【0066】
【0067】
表1、表3、
図2、
図7より理解されるように、実施例5~7は、比較例1に比べてNO
x吸蔵性能が増大している。また、第2複合酸化物のTiサイトの一部がCo、Mn等の3d遷移金属元素で置換固溶された実施例6及び7は、置換固溶されていない実施例5に比べてさらにNO
x吸蔵性能が増大している。表3、
図7より理解されるように、置換固溶元素は、Co及び/又はMnを含むことがより好ましく、Coを含むことがさらに好ましい。
【0068】
(実験例3)
本例では、窒素酸化物と共にSO
2等の硫黄酸化物が共存する環境下でのNO
x吸蔵性能を評価する例である。本例では、窒素酸化物吸蔵材料としては、実験例1における実施例2~3を用いた。評価方法は、混合ガス組成をNO:500体積ppm、O
2:10体積%、SO
2:100体積ppm、He:残部とした点を除き、実験例1と同様である。NO
x吸蔵率が10%を下回ったときにおける窒素酸化物吸蔵材料のNO
x吸蔵量を算出し、その結果を表4、
図8に示す。測定温度は、300℃である。
【0069】
【0070】
表4、
図8より理解されるように、実施例2~4の窒素酸化物吸蔵材料のように、ペロブスカイト型構造の複合酸化物におけるTiサイトの一部が、Fe、Co、Mn等の3d遷移金属元素で置換固溶された第1複合酸化物は、SO
2に対して耐性がある。つまり、実験例1の結果と合わせると、第1複合酸化物は、水分、二酸化炭素だけでなく、SO
2等の硫黄酸化物に対しても耐性がある。第1複合酸化物は、水分、二酸化炭素、硫黄酸化物が存在しない環境下でのNO
x吸蔵性能に対する、水分、二酸化炭素、硫黄酸化物が共存する環境下でのNO
x吸蔵性能の低下幅が小さい。3d遷移金属元素で置換固溶された第1複合酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料は、水分、二酸化炭素、硫黄酸化物が共存するガス雰囲気で窒素酸化物を十分に吸蔵することができる(表1、表2、表4、
図4、
図8参照)。NO
xと共に水分や二酸化炭素や硫黄酸化物が混在するガス雰囲気(例えば車両からの排ガス)では、置換固溶元素は、Fe、Co又はMnを含むことが好ましく、Co及び/又はMnを含むことがより好ましく、Coを含むことがさらに好ましい。
【0071】
なお、上記窒素酸化物吸蔵材料が水分、二酸化炭素、SO2に対する耐性を示す理由は、必ずしも定かではないが、次のように推察される。水分、二酸化炭素、SO2等の阻害ガス及びNOの吸着サイトは、通常、いずれもアルカリ金属やアルカリ土類金属上である場合が多い。ところが、Tiを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物上ではTiや遷移金属サイトに選択的にNOが吸着し、阻害ガスがアルカリ金属やアルカリ土類金属に吸着していると考えられる。これは、ルドルスデン・ポッパー構造の複合酸化物でも同様である。このような理由から、ペロブスカイト型構造の第1複合酸化物だけでなく、ルドルスデン・ポッパー構造の第2複合酸化物も、水分、二酸化炭素、SO2に対して耐性を有すると推察される。
【0072】
本発明は上記実施形態、実施例などに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、実験例1では、錯体重合法により第1複合酸化物を作製したが、実験例2のような共沈法の他、固相反応法、水熱合成法により第1複合酸化物を作製することもできる。また、実験例2では、共沈法により第2複合酸化物を作製したが、実験例1のような錯体重合法の他、固相反応法、水熱合成法により第2複合酸化物を作製することもできる。実験例3についても同様である。
【0073】
また、実施例2~4では、上記一般式I:MTi1-aXaO3におけるa=0.2の場合を示しているが、ペロブスカイト型構造を維持できるという観点から、0≦a≦0.4の範囲で、a=0.2の場合と同様のNOx吸蔵性能を示すと考えられる。また、実施例6、7では、上記一般式II:M3Ti2-bXbO3におけるb=0.4の場合を示しているが、ルドルスデン・ポッパー構造を維持できるという観点から、0≦b≦0.8の範囲で、b=0.4の場合と同様のNOx吸蔵性能を示すと考えられる。
【0074】
また、実施例では、アルカリ土類金属の一種であるSrを含有する複合酸化物を含有する窒素酸化物吸蔵材料のNOx吸蔵性能の評価を行ったが、他のアルカリ土類金属元素を含む複合酸化物についても、実施例と同様の結果が得られると考えられる。また、MイオンとXイオンの種類や置換量を適切に選択することにより、実施例と同様のペロブスカイト構造やルドルスデン・ポッパー構造を形成できることに鑑みると、アルカリ金属、ランタノイドを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物についても、実施例と同様の結果が得られると考えられる。