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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】汚染水分解処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20230101AFI20241112BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20241112BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
C02F1/461 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021123124
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018824
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏之
(72)【発明者】
【氏名】中村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】吉木 宏之
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-055262(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117259(WO,A1)
【文献】特開2006-289236(JP,A)
【文献】特開2012-176347(JP,A)
【文献】特開2015-085297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-1/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る導電性を有し、多孔質部材よりなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と対向するよう配置された電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧に調節された生成領域部で前記電極から導電性を有する仕切り部材への通電により前記気体を用いて活性酸素種が生成され、 前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とする汚染水分解処理装置。
【請求項2】
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る多孔質部材からなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と当接して設けられた第一電極と、前記第一電極と対向するよう配置された第二電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧に調節された生成領域部で前記第二電極から第一電極への通電により前記気体を用いて活性酸素種を生成してなり、
前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、
前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とする汚染水分解処理装置。
【請求項3】
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る多孔質部材からなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と当接して設けられた網目状の電極と、前記網目状の電極と対向するよう配置された針状の電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記針状の電極から網目状の電極への通電により前記気体を用いて活性酸素種を生成してなり、
前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、
前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とする汚染水分解処理装置。
【請求項4】
前記反応領域部には、撹拌機が設けられ、前記撹拌機によって前記反応領域部内の汚染水を撹拌することができる、
ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の汚染水分解処理装置。
【請求項5】
前記反応領域部は、液体が流れる流水管で構成された、
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の汚染水分解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種によって汚染水を分解処理する汚染水分解処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサン(1,4-DXA)は、2017年4月に土壌環境基準に新たに追加された規制物質である。土壌環境基準における規制物質は土壌汚染対策法の規制物質としてきたことから、今後、1,4-DXAは土壌汚染対策法の規制物質となることが予測される。しかし、1,4-DXAは既存の規制物質と物性が大きく異なるため、効率的な分解方法が存在しないのが、現状である。一方で、1,4-DXAは化学工業や医薬品製造で利用されてきたことから、土壌汚染対策法の規制物質に追加された場合、1,4-DXA分解処理技術のニーズが高まることが予測される。
【0003】
ここで、1,4-DXAの性質としては高い親水性があり、かつ沸点が高く水とほぼ同じである。これは既存の規制物質とは異なる性質である。従来の加熱処理、ばっ気処理による浄化技術は既存の規制物質の性質を利用しているため、これらの性質を利用した従来の浄化技術の多くは1,4-DXAの浄化に対応することができない。
【0004】
そして従来の1,4-DXAに対する浄化方法に関しては、いくつかの先行技術が存在している。例えば、(1)1,4-DXA分解菌を用いた技術、(2)フェントン法、(3)過硫酸塩及び生石灰を用いた技術、(4)マイクロバブル及び過硫酸塩を用いた分解法、あるいは(5)土壌を抵抗体として電流を流し昇温によって1,4-DXAを分解する技術などである。
【0005】
しかしながら、従来の先行技術にはそれぞれ問題点が存在する。例えば、(1)の技術では、微生物による環境負荷が考えられ、複合汚染の対応が困難であり、また微生物の活動に必要な温調によるエネルギー消費の問題がある。また(2)、(3)の技術では、マンガンイオン、塩化物イオン等の共存物質の影響による効率の低下、また使用する化学物質による環境負荷などの問題が考えられる。さらに(4)の技術では、処理時間がかかる一方、処理効率が低い(40度に昇温し240分後に除去率80%程度)ことがあり、(5)の技術では、土壌を抵抗体として電流を流し昇温によって1,4-DXAを分解するため、エネルギー消費が大きいことが挙げられる。
【0006】
そこで、従来技術および先行開発事例の問題点を解決するために、酸化力が高い活性酸素種を用いることが考えられている。しかし活性酸素種を用いるためには、(a)活性酸素種を効率よく生成する方法や(b)活性酸素種は、非常に反応性が高いため浄化対象物への効率的な投入方法など課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-213478号公報
【文献】特開2013-86072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであって、環境負荷が小さく、汚染水の分解に要するエネルギー消費が少なくて済み、既存の分解技術より低コストで環境浄化が可能であり、汚染水の分解処理にかかる時間も短時間で基準値以下にすることができる汚染水分解処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る導電性を有し、多孔質部材よりなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と対向するよう配置された電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧に調節された生成領域部で前記電極から導電性を有する仕切り部材への通電により前記気体を用いて活性酸素種が生成され、 前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とし、
または、
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る多孔質部材からなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と当接して設けられた第一電極と、前記第一電極と対向するよう配置された第二電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧に調節された生成領域部で前記第二電極から第一電極への通電により前記気体を用いて活性酸素種を生成してなり、
前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、
前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とし、
または、
活性酸素種を生成する生成領域部と、前記生成された活性酸素種と汚染水とを反応させる反応領域部と、前記生成領域部と前記反応領域部とを仕切る多孔質部材からなる仕切り部材と、を有し、
前記生成領域部には、前記仕切り部材と当接して設けられた網目状の電極と、前記網目状の電極と対向するよう配置された針状の電極と、活性酸素種の生成に用いられ、かつ前記反応領域部の汚染水が生成領域部へ漏れ出ない気圧にすべく生成領域部へ気体を供給する気体供給管と、を有し、
前記針状の電極から網目状の電極への通電により前記気体を用いて活性酸素種を生成してなり、
前記生成された活性酸素種が前記生成領域部から前記仕切り部材の孔を通って前記反応領域部の方向へ気体に内包された状態で透過できるよう前記気体供給管からの気体供給量の調節操作で生成領域部の気圧を調節可能とし、
前記反応領域部に透過した活性酸素種を前記汚染水と反応させる、
ことを特徴とし、
または、
前記反応領域部には、撹拌機が設けられ、前記撹拌機によって前記反応領域部内の汚染水を撹拌することができる、
ことを特徴とし、
または、
前記反応領域部は、液体が流れる流水管で構成された、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境負荷が小さく、汚染水の分解に要するエネルギー消費が少なくて済み、既存の分解技術より低コストで環境浄化が可能であり、汚染水の分解処理にかかる時間も短時間で基準値以下にすることができるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による汚染水分解処理装置の概略構成を説明する構成説明図(その1)である。
図2】本発明による汚染水分解処理装置の概略構成を説明する構成説明図(その2)である。
図3】活性酸素種の反応速度定数と標準酸化電位を説明する説明図である。
図4】本発明の実験データを説明する説明図(その1)である。
図5】本発明の実験データを説明する説明図(その2)である。
図6】本発明による汚染水分解処理装置の概略構成を応用した構成を説明する構成説明図(その1)である。
図7】本発明による汚染水分解処理装置の概略構成を応用した構成を説明する構成説明図(その2)である。
図8】本発明による汚染水分解処理装置の概略構成を応用した構成を説明する構成説明図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の汚染水分解処理装置の構成を説明する概略説明図である。
符号1は、汚染水を分解処理する処理槽であり、前記処理槽1は、活性酸素種を生成する生成領域部2と、汚染水を分解処理する反応領域部3と、前記生成領域部2と前記反応領域部3とを仕切る仕切り部材とを有している。
【0013】
まず、生成領域部2の構成について説明する。
前記生成領域部2には、前記仕切り部材と当接して第一電極5が設けられている。前記第一電極5は、網目状(メッシュ状)をしており、酸化がされにくい金属性の物質が用いられている。
【0014】
そして、符号6は第二電極であり、前記第二電極6は前記第一電極5と対向するように配置されている。該第二電極6は、電極の先端が針状となっており、図1では前記針状の電極を多数設け、多重針状の電極としている。また、前記多重針状の電極に後述する電圧がかけられる構成としている。なお、図示していないが、前記多重針状の電極ごとにいくつかの集合体が構成され、該集合体ごとに後述する電圧がかけられる構成としてもよい。
【0015】
また、前記針状の第二電極6は、例えば円錐状をした電極を用いることが考えられるが、電極の先端が針状となっていればよく、電極自体の形状は円錐状に限定されるものではない。前記第二電極6の材質としては、ステンレスやタングステンなどの摩耗がしにくいものが用いられる。
【0016】
図1から理解されるように、前記第一電極5と前記第二電極6は、電源7に接続されている。前記電源7は、数百V~数十kV以上の高電圧を印加することができる高電圧の電源である。そして、前記高電圧の電源7は定電圧ではなく交流電圧またはパルス状の電圧波形とすることで、前記第一電極5と前記第二電極6との間でストリーマ放電や大気圧グロー放電などの通電を生成することができる。
【0017】
ここで、前記パルス状の電圧は、変調パルス電圧あるいはナノパルス電圧などを用いることが考えられる。なお、前記電源7は、前記処理槽1の外部に設けられた外部電源に接続し、電力を供給する構成としてもよい。
【0018】
そして、前記生成領域部2内には、活性酸素種を生成するために用いられる気体を供給する気体供給管8が設けられている。前記気体供給管8からは、例えば空気や酸素を含む気体などが供給される。
【0019】
次に、反応領域部3の構成について図1に基づいて説明する。
前記反応領域部3内に、汚染水を供給する汚染水供給管9が設けられており、前記汚染水供給管9から分解処理される汚染水が適時供給される。そして、前記汚染水が分解処理され、環境基準値、排水基準値または管理基準値以下となった液体を排液管10から排出する。なお、前記排液管10には、バルブ11が設けられており、該バルブ11の開閉により、前記排水基準値以下となった溶液の排出を操作することができる。
【0020】
そして、汚染水を分解処理する際に発生する気体を排出するために排気管12が設けられている。なお、図1では、汚染水供給管9と排気管12とをそれぞれ別に設けているが、前記汚染水供給管9と前記排気管12とを別々に設けずに1つの管で、前記反応領域部3内に汚染水の供給や、発生した気体の排気を行う構成としてもよい。
【0021】
また、前記排気管12と前記生成領域部2に設けられた気体供給管8とを連結させて、発生した気体が循環する構成とすることも考えられる。このような構成とすることにより、汚染水を分解処理する際に発生し排出される気体が再度活性酸素種の生成に利用することができる気体であれば、効率よく活性酸素種を生成することができるためである。
【0022】
前記反応領域部3には、撹拌機13が取り付けられている。前記撹拌機13は、前記反応領域部3内に貯留された汚染水を撹拌することにより、後述する活性酸素種が内包された気泡との接触頻度を増やし、効率よく汚染水を分解処理することができるのである。なお、図1では撹拌機13は上から吊り下げられた状態で設けられているが、例えば反応領域部3内の側面から水平に設けてもよく、汚染水を十分に撹拌できれば、撹拌機13の設置方法や設置箇所が特に限定されるものではない。
【0023】
次に、仕切り部材の一例である多孔質部材4の構成について説明する。
前記多孔質部材4としては、板状あるいはシート状の部材が用いられ、例えば厚み1mm以下のマイクロ/ナノポーラスを有する多孔質セラミックス膜(例えば、SPG膜)や多孔質ポリマー膜(例えば、ポアフロン)などが考えられる。
【0024】
前記多孔質部材4は、処理槽1内に前記生成領域部2と前記反応領域部3とを仕切るように設けられ、前記生成された活性酸素種が前記生成領域部2から前記反応領域部3への方向に透過できるよう仕切り構成されている。
【0025】
ここで、導電性を有する部材(例えば、金属や炭化ケイ素など)に大量の孔を有するよう加工し、導電性を有する多孔質部材4とすることもできる。前記導電性を有する多孔質部材4を用いることにより、前記生成領域部2内に第一電極5を設ける必要がなく、前記導電性を有する多孔質部材4を第一電極5の代替として用いることができる。その際、前記第一電極5に接続する電源7は、前記導電性を有する多孔質部材4に接続することとなる。
【0026】
活性酸素種が前記生成領域部2から前記反応領域部3への方向に前記多孔質部材4を透過する仕切り構成について簡単に説明する。
例えば、図1に示すように多孔質部材4を挟んで上方に汚染水を処理する反応領域部3を設け、下方に活性酸素種が生成される生成領域部2を設けた構成とした場合に、気体供給管8から供給する気体の量を調節することで、前記生成領域部2内の気圧を調節することができる。前記気体供給管8から供給する気体の量を多くすることにより、前記生成領域部2内の気圧が高くなり、活性酸素種を前記反応領域部3への方向(上の方向)に透過できる仕切り構成とすることが考えられる。なお、前記反応領域部3内に貯留された汚染水(液体)が下方の前記生成領域部2内に漏れ出ないように、前記生成領域部2内の気圧を調節する必要がある。
【0027】
ここで、生成領域部2内で活性酸素種を生成する生成方法について説明する。
まず、気体供給管8から空気あるいは酸素が含有された気体を生成領域部2内に供給し、メッシュ状の第一電極5および針状の第二電極6に数百V~数十kV以上の高電圧を印加する。そして高電圧を印加することにより、前記メッシュ状の第一電極5と前記針状の第二電極6との間にストリーマ放電、または大気圧グロー放電などの通電が発生する。さらに前記針状の第二電極6先端の高電界で加速したエネルギーの高い電子を前記供給された空気あるいは酸素が含有された気体中の酸素分子と衝突させることにより、高励起状態の原子状酸素O*(1D)および分子状酸素ラジカルO2(a1Δg)、OHラジカル等の活性酸素種を効率よく生成することができるのである。
【0028】
そして、前記生成領域部2内の気圧を調節可能とし、図2から理解されるように、前記生成された活性酸素種は前記メッシュ状の第一電極5と当接して設けられた多孔質部材4を気体とともに透過すると同時に、前記活性酸素種が気体の気泡に内包され、前記気泡化した状態で反応領域部3内に透過される。
【0029】
そして、前記反応領域部3内で前記気泡に内包された活性酸素種と汚染水中の被処理物質とが気液接触することにより、前記被処理物質が活性酸素種により酸化分解され、分解処理することができるのである。酸化分解は、前記多孔質部材4の近傍で盛んに起こるため、反応領域部3内に設けた撹拌機13で汚染水を撹拌することにより気液接触する頻度を増加させ、汚染水全体の分解処理を促進することができる。
【0030】
図3は、各種活性酸素種の反応速度定数と標準酸化電位を示した表である。図から理解されるように活性酸素種は極めて強い酸化力を有しており、結合しようとする働き、すなわち反応性が高い状態となっている。そのため、反応領域部3内で汚染水中の被処理物質と強く反応するため、浄化処理を効率的に行うことができるのである。
【0031】
次に、本発明の汚染水分解処理装置による実施例1について説明する。なお、本実施例1では、被処理物質として1,4-ジオキサン(1,4-DXA)を含有した模擬汚染水を用いており、初期の1,4-ジオキサン(1,4-DXA)濃度は1.02mg/Lとして分解処理を行った。
【0032】
まず、処理層1の汚染水供給管9から1,4-ジオキサン(1,4-DXA)を含有した模擬汚染水を流入し、反応領域部3内に前記模擬汚染水を貯留する。そして、生成領域部2内に気体供給管8から空気あるいは酸素を含む気体を導入し、メッシュ状の第一電極5および針状の第二電極6に数百V~数十kV以上の高電圧を印加する。なお、本実施例1では、メッシュ状の第一電極5を用いたが、該メッシュ状の第一電極5の代わりに導電性を有する多孔質部材4を用いてもよい。
【0033】
本実施例1では、前記気体供給管8から空気あるいは酸素を含む気体を導入して前記生成領域部2内の気圧を高くし、多孔質部材4を透過して反応領域部3内で気泡を形成するようにした後、50Hz変調パルス高電圧およびナノパルス高電圧を印加し、メッシュ状の第一電極5と針状の第二電極6との間にストリーマ放電、または大気圧グロー放電などの通電を発生させ、さらに前記針状の第二電極6先端の高電界で加速したエネルギーの高い電子を前記供給された空気あるいは酸素を含む気体中の酸素分子と衝突させることにより、高励起状態の原子状酸素O*(1D)および分子状酸素ラジカルO2(a1Δg)、OHラジカル等の活性酸素種を生成した。
【0034】
そして、前記生成された高励起状態の活性酸素種が多孔質部材4を空気あるいはその他の気体とともに透過した。前記活性酸素種が多孔質部材4を透過すると同時に、透過した空気あるいはその他の気体の気泡に前記活性酸素種が内包されて反応領域部3内に導入し、一定時間、反応領域部3内を撹拌機13により撹拌して分解処理を行った。また、前記排気管12と気体供給管8とを連結させて循環する構成とすることもできる。このような循環構造とするメリットは、生成領域部2内で発生するオゾンも有害物質の分解に有効であること、また排気中に存在する有害物質を循環させ、生成領域部2内に直接導入することで分解効率を上げる効果が期待できる。
【0035】
一定時間経過後、1,4-ジオキサン(1,4-DXA)濃度が環境基準値、排水基準値または管理基準値以下になった場合には、バルブ11を開放して排液管10から排水する。
【0036】
図4は上記実施例1で得られた結果を示したものであり、1,4-ジオキサン(1,4-DXA)の場合、排水基準は0.5mg/Lであり、環境基準は0.05mg/Lとなる。
第一電極5および第二電極6に印加する電圧を50Hz変調パルス高電圧とした場合は、模擬汚染水中の1,4-ジオキサン(1,4-DXA)濃度が約25分後に排水基準以下となり、約55分後には環境基準以下となることが確認された。また、印加する電圧をナノパルス高電圧とした場合は、模擬汚染水中の1,4-ジオキサン(1,4-DXA)濃度が約15分後に排水基準以下となり、約35分後には環境基準以下となることが確認された。一方オゾンを使用した分解処理の場合は、模擬汚染水中の1,4-ジオキサン(1,4-DXA)濃度が120分後でも排水基準以下にはならなかった。以上の結果より、従来の技術と比較して大幅に短い時間で分解処理することが確認された。
【0037】
図5は、被処理物質としてテトラクロロエチレンを含有した模擬汚染水を用いて、上記実施例1と同様の手順でナノパルス高電圧を印加して分解処理を行った結果を示した図である。なお、初期のテトラクロロエチレン濃度を0.733mg/Lとし、またテトラクロロエチレンの排水基準は0.1mg/L、環境基準は0.01mg/Lである。
本発明の分解処理装置によれば、テトラクロロエチレン濃度が約7分後に排水基準以下となり、約16分後には環境基準以下となることが確認された。
【0038】
次に、本発明の汚染水分解処理装置を応用した実施例2について、図6に基づいて説明する。実施例2は、上述した本発明の構成を応用したものであり、反応領域部3の代替として既設の管路などの汚染水が流れている既設の流水管14を用いて、前記流水管14内に生成した活性酸素種を導入することにより、前記既設の管路などの汚染水が流れている既設の流水管14内において汚染水の分解処理を行う実施例である。
【0039】
本構成は、流水管14内を流れている汚染水が前記流水管14内面と接することにより、前記流水管14内面と汚染水との間でせん断力が発生し、前記発生したせん断力を利用していると考えられる。空気あるいはその他の気体とともに前記活性酸素種が内包された気泡が多孔質部材4を透過する際に、前記せん断力を利用することにより前記気泡を小さくすることができ、気泡に内包された活性酸素種と汚染水内の被処理物質とが気液接触する機会を増やすことができるからである。これにより、より効率的に分解処理することができると考えられる。
【0040】
しかしながら、本実施例の大きな特徴は、前述した様に反応領域部3の代替として既設の管路などの汚染水が流れている既設の流水管14を用い、前記流水管14内に生成した活性酸素種を導入することにより汚染水の分解処理が行えることにあるのは言うまでもない。
【0041】
図6から理解されるように、生成領域部2は流水管14の上面に2つ接続した(取り付けた)構成としている。本実施例の場合は、流水管14の上面に生成領域部2が2つ接続されて構成されているが、生成領域部2が接続される箇所は、流水管14の上面に限定されず、下面あるいは側面など効率よく活性酸素種が導入できる位置であればよい。また、接続される生成領域部2の数についても2つに限定されず、1つでもいいし、3つ以上を接続してもいい。
【0042】
また図8は、前記生成領域部2をドーナツ状に構成し、該ドーナツ状の生成領域部2を前記流水管14の外周上に接続した(取り付けた)構成例である。このように構成することにより、前記ドーナツ状の生成領域部2内で生成された活性酸素種を、該生成領域部2を接続した前記流水管14の外周(360度)から供給することができるのである。なお、本構成例では、生成領域部2をドーナツ状としているが、ドーナツ状に限定されるものではなく、アーチ状(半円状に湾曲したもの)としてもいいし、生成領域部2の形状については何ら限定されるものではない。
【0043】
前記生成領域部2をドーナツ状などの形状にすることや接続する生成領域部2の数や範囲などは、流水管14内を流れる汚染水の濃度や流量などに応じて、効率よく活性酸素種を導入し分解処理できるように、適宜判断していくこととなる。
【0044】
ここで流水管14に生成領域部2を接続(取り付ける)方法としては、例えば、前記流水管14の壁面に、生成領域部2の開口部と同じ開口の大きさだけではなく、該開口部より大きな穴、あるいは小さい穴をあけてその部分に生成領域部2を接着剤などを用いて接着する方法あるいはボルトなどで機械的に締結する方法が考えられる。基本的には、生成領域部2の開口部と同じか又は該開口部より大きな穴を前記流水管14の壁面に設けることを想定しているが、前記流水管14の壁面に小径の孔をあけて、その部分に接続する(取り付ける)ことも考えられる。生成領域部2内の気体などが外部に漏れ出ない接続方法であれば、流水管14の壁面にあける穴の大きさに特に限定はなく、また接続方法は何ら限定されるものではない。
【0045】
そして、前記流水管14と生成領域部2との間には、多孔質部材4を介しており、前記多孔質部材4により仕切られた構成としている。前記多孔質部材4に当接するようにメッシュ状の第一電極5が設けられている。なお、上述したとおり、導電性を有する部材(例えば、金属や炭化ケイ素など)に大量の孔を有するよう加工し、導電性を有する多孔質部材4を用いることもできる。前記導電性を有する多孔質部材4を用いることにより、前記生成領域部2内に第一電極5を設ける必要がなく、前記導電性を有する多孔質部材4を第一電極5の代替として用いることができる。
【0046】
符号15はエアーポンプを示している。前記エアーポンプ15は、気体(気相)の循環を第一の目的としており、活性酸素種を生成するために空気あるいは酸素を含む気体を前記生成領域部2内に導入するためのものある。さらに、活性酸素種を流水管14(液相)内に押し出すためには、前記生成領域部2内の圧力が前記流水管14(液相)内の圧力を上回る必要があるため、前記生成領域部2内の気圧を前記エアーポンプ15により高めて、生成した活性酸素種を前記流水管14内に押し出す役割もある。
【0047】
次に、符号16はウォーターポンプを示している。前記ウォーターポンプ16は、流水管14内の汚染水の流速を早めるためのものである。流水管14内の汚染水の流速を早めることにより、せん断力を増加することができるのである。なお、流水管14内の汚染水の流速などが汚染水を分解処理するにあたって十分な場合は、実施例2の構成にウォーターポンプ16を設ける必要はない。
【0048】
流水管14内には、突起部17及び/またはベンチュリー管18が設けられている。前記突起部17は、前記流水管14内を流れる汚染水に乱流を発生させ、発生した乱流によりせん断力を高める効果を有している。また、前記ベンチュリー管18は、前記流水管14内を流れる汚染水の流速を速めることによりせん断力を高める効果を有している。
【0049】
本実施例2を用いた汚染水分解処理方法について簡単に説明する。
生成領域部2内にエアーポンプ15から空気あるいは酸素を含む気体を導入し、メッシュ状の第一電極5および針状の第二電極6に数~数十kV以上の高電圧を印加する。なお、メッシュ状の第一電極5を用いたが、該メッシュ状の第一電極5の代わりに導電性を有する多孔質部材4を用いてもよい。
【0050】
前記エアーポンプ15から空気あるいは酸素を含む気体を前記生成領域部2に導入して、前記生成領域部2内の気圧を高くし、多孔質部材4を透過して流水管14内で気泡を形成するようにした後、50Hz変調パルス高電圧およびナノパルス高電圧を印加し、メッシュ状の第一電極5と針状の第二電極6との間にストリーマ放電、または大気圧グロー放電などの通電を発生させ、さらに前記針状の第二電極6先端の高電界で加速したエネルギーの高い電子を前記供給された空気あるいは酸素を含む気体中の酸素分子と衝突させることにより、高励起状態の原子状酸素O*(1D)および分子状酸素ラジカルO2(a1Δg)、OHラジカル等の活性酸素種を生成する。
【0051】
そして、前記生成された高励起状態の活性酸素種が多孔質部材4を空気あるいはその他の気体とともに前記流水管14内に透過する際に、前記活性酸素種が多孔質部材4を透過すると同時に、透過した空気あるいはその他の気体の気泡に前記活性酸素種が内包されて前記流水管14内に導入され、汚染水の分解処理が行われる。
【0052】
上述した通り、活性酸素種が流水管14内に導入される際に、流水管14内を流れている汚染水が前記流水管14内面と接することにより、前記流水管14内面と汚染水との間でせん断力が発生し、前記発生したせん断力を利用したものである。空気あるいはその他の気体とともに前記活性酸素種が内包された気泡が多孔質部材4を透過する際に、前記せん断力を利用することにより前記気泡を小さくすることができ、気泡に内包された活性酸素種と汚染水内の被処理物質とが気液接触する機会を増やすことができる。これにより、より効率的に分解処理することができるのである。また、せん断力を増加するために、流水管14内にウォーターポンプ16、突起部17及びベンチュリー管18を設けてもよい。
【0053】
図7は、図6に基づいて説明した実施例2(応用例)の構成を、さらに応用して実施例3としたものである。実施例3は、実施例2の構成を持ち運びできる程度の大きさとしたものである。なお実施例2は、例えば管路などの既設の流水管14に生成領域部2を接続した(取り付けた)ものであるが、本実施例3は、持ち運びできる程度の大きさの流水管14に生成領域部2を接続し(取り付け)、汚染水分解処理装置としたものである。
【0054】
符号19は、既存の汚染水貯留槽であり、図7から理解されるように前記汚染水貯留槽19に持ち運び可能な汚染水分解処理装置を投入することにより、実施例2と同様の方法により分解処理することができる。
【0055】
以上より本発明によれば、化学物質や微生物を使用しないため環境負荷が極めて小さく、効率よく短時間で汚染水を分解処理することが可能であるため、汚染水の分解に要するエネルギー消費が少なくて済み、大掛かりな装置を用いる必要がないため低コストで環境の浄化が可能であり、汚染水の分解処理にかかる時間も短時間で基準値以下にすることができる優れた効果を有する。
【符号の説明】
【0056】
1 処理槽
2 生成領域部
3 反応領域部
4 多孔質部材
5 第一電極
6 第二電極
7 電源
8 気体供給管
9 汚染水供給管
10 排液管
11 バルブ
12 排気管
13 撹拌機
14 流水管
15 エアーポンプ
16 ウォーターポンプ
17 突起部
18 ベンチュリ―管
19 汚染水貯留槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8