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特許7586434熱間スタンプ成形用鋼材、熱間スタンプ成形方法、および熱間スタンプ成形部材
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  • 特許-熱間スタンプ成形用鋼材、熱間スタンプ成形方法、および熱間スタンプ成形部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】熱間スタンプ成形用鋼材、熱間スタンプ成形方法、および熱間スタンプ成形部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241112BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20241112BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20241112BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20241112BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21D9/46 T
C21D9/46 U
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021173301
(22)【出願日】2021-10-22
(62)【分割の表示】P 2019521175の分割
【原出願日】2016-09-08
(65)【公開番号】P2022023165
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2021-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】201610535069.3
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510000839
【氏名又は名称】東北大学
【氏名又は名称原語表記】Northeastern University
【住所又は居所原語表記】NO.11, LANE3, WENHUA ROAD, HEPING DISTRICT, SHENYANG, LIAONING, CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】519007592
【氏名又は名称】本▲鋼▼▲板▼材股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BENGANG STEEL PLATES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】NO. 16, RENMIN ROAD, PINGSHAN DISTRICT, BENXI, LIAONING 117000, P.R. CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】易 ▲紅▼▲亮▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 宏▲亮▼
(72)【発明者】
【氏名】常 智▲淵▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 迪
(72)【発明者】
【氏名】黄 建
(72)【発明者】
【氏名】王 国▲棟▼
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特許第4927236(JP,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0042110(KR,A)
【文献】特開2010-174283(JP,A)
【文献】特開2007-291464(JP,A)
【文献】特開2006-183139(JP,A)
【文献】特開2015-113500(JP,A)
【文献】特表2014-508854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
C21D1/18
C21D9/00
C21D8/00-8/04
C21D9/46-9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で以下の成分、
0.27~0.40%のC、
0.2~3.0%のMn、
0.11~0.4%のV、
0.16~0.8%のSi、
0~0.5%のAl、
0~2%のCr、
0~0.15%のTi、
0~0.15%のNb、
0~0.004%のB、および、
合計で2%未満のMo,Ni,Cu、を含み、
残部がFeおよび不可避な不純物である熱間スタンプ成形用鋼材を加熱することを含む鋼材オーステナイト化処理と、
前記鋼材オーステナイト化処理において加熱された前記熱間スタンプ成形用鋼材を熱間スタンプ成形して一次成形体を得ることを含む熱間スタンプ成形処理と、
前記一次成形体を焼き戻し加熱処理することを含む焼き戻し処理と、を含む方法で製造される熱間スタンプ成形部材であって、
前記熱間スタンプ成形用鋼材は、熱延鋼板、熱延酸洗い鋼板、冷延鋼板、アルミニウム-ケイ素層が形成された熱延鋼板もしくは冷延鋼板、または、有機コーティング層を備える鋼板、を含み、
旧オーステナイト粒子中および旧オーステナイト粒界にVCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物を析出し、
前記VCの炭化物の体積分率と、前記VとTi,Nbとの複合炭化物の体積分率と、の合計は0.1%より大きく、
前記旧オーステナイト粒子の前記VCの炭化物および/又は前記VとTi,Nbとの複合炭化物の粒子サイズは0.1~20nmであり、
1350MPa~1800MPaの降伏強度、1700~2150MPaの引張強度、および7~10%の伸び、を達成する熱間スタンプ成形部材。
【請求項2】
記旧オーステナイト粒界の前記VCの炭化物および/又は前記VとTi,Nbとの複合炭化物の析出粒子サイズは、1~80nmであることを特徴とする請求項に記載の熱間スタンプ成形部材。
【請求項3】
自動車の、Aピラー、Bピラー、バンパ、ルーフフレーム、アンダーボディフレーム、およびドアバンパバーを含む自動車高強度部材のために使用することができることを特徴とする請求項1に記載の熱間スタンプ成形部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微細粒子での熱間スタンプ成形用の鋼材、熱間スタンプ成形方法、および熱間スタンプ成形部材、に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
グローバルな省エネルギー、排出量削減、環境に優しい経済に対する差し迫った要望に対して、自動車産業は軽量化の方向で開発を進めているが、自動車の軽量性は安全を犠牲にするものではない。その反対に、自動車に対する衝突安全要件はますます高くなってきている。今日、自動車産業において、車両用の高強度、超高強度鋼材がそれらの高い強度と軽量性とにより益々注目を集めるものとなってきている。高強度のために、冷間スタンプ成形法が採用されるが、それによって、成形特性が低減し、大きなスタンプ成形力が必要とされ、亀裂が容易に生じる。更に、成形後、パーツのリバウンドが大きく、それによって、その形状と寸法精度とを補償することがほとんどできなくなる。
【0003】
ヨーロッパ発祥の熱間スタンプ成形技術は、上述した問題を解決する新しい成形技術である。この技術は、ブランクを完全にオーステナイト化された状態にまで加熱し、その後すぐにそれを均一冷却システムを有するダイに移して即座にスタンプ成形し、同時に、急冷処理を行って均一なマルテンサイト構造を備える超高強度スチールパーツを得る成形技術である。高温状態では、材料は良好なスタンプ成形性を有し、複雑な部材にスタンプ成形することができ、同時にリバウンド衝撃を無くして、それによってパーツは高い精度と良好な質とを備えたものとなる。現在、ヨーロッパおよび米国における主要な自動車製造業者は、この高強度鋼材熱間スタンプ成形技術をAピラー、Bピラー、バンパ、ルーフフレーム、アンダーボディフレーム、ドア衝突防止バー等の自動車部品の製造に成功裏に利用している。高い強度とマルテンサイト構造の存在とにより、自動車衝突安全における熱間スタンプ成形用のスチールの性能は、その靱性、冷間曲げ特性および疲労亀裂に対する耐性に依存する。現在、自動車産業において広く使用されている熱間スタンプ成形用のスチールは、22MnB5によって表される構造合金スチールであるが、これには、高いオーステナイト化温度(約850℃のAC3)、低い焼き入れ性、成形後の低い靱性、冷間曲げ特性が限られていること、疲労亀裂等の問題がある。
【0004】
中国特許第100370054号明細書は、アルミ合金でコーティングされた熱間スタンプ成形用の高強度鋼材を開示している。この特許文献は、1000MPa以上の強度を要件とし、この強度は炭素含有率が0.35%の場合には1800MPaであり、炭素含有率が0.5を超えるとその強度は1900~2100Mpa以上に達するが、同文献はその伸びと靱性には言及していない。事実、合金構成を有する前記材料は、前記強度値を達成するために焼き戻し熱処理を必要とし、靱性が不良であって、これは熱間スタンプ成形スチールおよび部材の1800MPa以上の伸び靱性要件を満たすことができず、又、高い炭素含有率は溶接性にとって不利である。
【0005】
中国特許出願公開第101583486号明細書は、コーティングストリップ材を製造する方法とその熱間スタンプ成形製品とを開示している。この文献の好適実施例には、その機械特性が1200MPaの降伏強度と、1500MPa以上の引張強度とに達することができるようにするために、熱間スタンプ成形後に熱処理が必要であると記載されているが、延性についての定量的な言及はない。文献は、ただ、延性を確保し、硫化物が含まれることによって引き起こされる亀裂の伝播を回避するために硫黄分を制御することを提案するに留まっているが(硫黄分を0.002重量%未満にすることを要求)、産業において硫黄分を20ppm未満に制御することは困難かつ費用がかかる。従って、硫黄元素含有率を制御することによっては延性が低いという問題を完全に解決することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許第100370054号明細書
【文献】中国特許出願公開第101583486号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って従来技術の前記問題に鑑み、本発明の課題の一つは、従来の熱間スタンプ成形用鋼材、熱間スタンプ成形方法および熱間スタンプ成形部材の欠点を改善し、熱間スタンプ成形法により有利な合金組成を備える熱間スタンプ成形用の鋼材と、更に、焼き戻し等の熱処理を必要とすることなく、熱間スタンプ成形後に高い靱性と疲労亀裂耐性を有する鋼材又は成形部材を生産することが可能な、より簡単な成形方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施例に依れば、重量で下記の成分を含む熱間スタンプ成形用鋼材が提供される。即ち、0.27~0.40%のC、0.2~3.0%のMn、0.11~0.4%のV、0~0.8%のSi、0~0.5%のAl、0~2%のCr、0~0.15%のTi、0~0.15%のNb、0~0.004%のB、合計で2%未満のMo,Ni,Cu、および焼き入れ性を改善するために有利なその他合金要素、そしてその他の不純物。
【0009】
本発明の前記熱間スタンプ成形用鋼材は、熱間スタンプ成形処理中において800~920℃の温度範囲を有し、好ましくは、オーステナイト化処理中にオーステナイト結晶粒界を有する。本発明の前記熱間スタンプ成形用鋼材の前記オーステナイト化加熱処理において、そのオーステナイト結晶粒界におけるVCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物の析出粒子サイズは、好ましくは、1~80nmである。前記熱間スタンプ成形処理において、本発明の熱間スタンプ成形用鋼材は、オーステナイト化後の冷却中に、結晶粒界を含むオーステナイト結晶中に、ある量のVCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物を析出し、そしてオーステナイト結晶中の炭化物粒径は0.1~20nmである。本発明の前記熱間スタンプ成形用鋼材中の、前記VCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物の体積分率は0.1%以上である。
【0010】
本発明の前記熱間スタンプ成形用鋼材は、熱間スタンプ成形後において、焼き戻し無しで、1300MPa~1700MPaの降伏強度、1800~2200MPaの引張強度、そして、6~9%の伸び、を達成することができ、焼き戻し熱処理後では、1350MPa~1800MPaの降伏強度、1700~2150MPaの引張強度、そして、7~10%の伸び、を達成することができる。
【0011】
本発明の前記鋼材は、熱延鋼板、熱延酸洗い鋼板、冷延鋼板、又はコーティング層を備える鋼板を含む。前記コーティング層を備える鋼板は、その上に金属亜鉛層が形成された、熱延鋼板又は冷延鋼板である、亜鉛コーティング鋼板であり、ここで、当該亜鉛コーティング鋼板は、溶融亜鉛メッキ、亜鉛メッキ焼鈍、亜鉛メッキ、又は亜鉛-鉄メッキから選択される少なくとも一つを含む。コーティング層を備える前記鋼板は、その上にアルミニウム-ケイ素層が形成された、熱延鋼板又は冷延鋼板、或いは、有機コーティング層を備える鋼板である。
【0012】
本発明の別の実施例により、下記の処理を含むことができる熱間スタンプ成形法が提供される。
【0013】
(a)鋼材オーステナイト化処理:これは、上述した合金組成を有する熱間スタンプ成形用鋼材、又は、そのプレフォーム部材、を提供し、それを800~920℃まで加熱し、この温度を1~10000秒維持し、ここで、前記処理における加熱方法は、非限定的に、例えば、ローラ加熱炉、ボックス型加熱炉、誘導加熱、抵抗加熱、を含みうる。
【0014】
(b)鋼材移送:これは、そのダイへの移送中において鋼材が550℃以上の温度を有するようにしながら上述した加熱された鋼材を熱間スタンプ成形ダイへと移送する。
【0015】
(c)熱間スタンプ成形:これは、スタンプ圧を1~40MPaとして、上述した鋼ブランクサイズに応じた合理的なプレス・トン数を設定し、前記ダイが開放された時に部材の温度が250℃未満となるように通常は4~40秒に制御される、板の厚みに応じた滞留時間を決定する、例えば、1.2mm厚のブランクは5~15秒の滞留時間であり、1.8mm厚のブランクは7~20秒の滞留時間、そして、前記ダイの冷却システムによってダイ表面温度を200℃未満に制御し、これによって、前記ダイにおける前記鋼材は少なくとも10℃/秒の平均冷却速度で250℃未満にまで急速に冷却される。
【0016】
本発明の別実施例に依れば、更に、以下の工程を含む焼き戻し方法が提供される。
【0017】
(a)前述した本発明の熱間スタンプ成形方法によって成形部材を得る工程。
【0018】
(b)前記塗装工程中に、前記成形部材を150~200℃まで加熱し、この温度を10~40分間維持する、若しくは、前記成形部材を0.001~100℃/秒の加熱速度で150~280℃にまで加熱し、この温度を0.5~120分間維持し、その後、それを任意の方法で冷却する工程。
【0019】
本発明の前記熱間スタンプ成形方法によって形成された前記熱間スタンプ成形部材は、非限定的に、自動車の、Aピラー、Bピラー、バンパ、ルーフフレーム、アンダーボディフレーム、ドアバンパバーを含む自動車高強度部材のために使用することができる。
【0020】
熱間スタンプ成形又はそれと同等の熱処理後、本発明の前記鋼材は、直接熱間スタンプ急冷後(焼き戻し無しで)、1300MPa~1700MPaの降伏強度、1800~2200MPaの引張強度、そして、6~9%の伸び、を達成することができる。本発明の焼き戻し処理後は、好ましくは、1500MPa~1900MPa-8%と1600MPa~2100MPa-7%に到達することが可能である。この特性は、従来技術の組成の直接急冷(焼き戻し無し)によっては達成することができない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、熱間スタンプ成形後の本発明の鋼材の前のオーステナイト結晶粒界形態を示す。
図2図2は、熱間スタンプ成形後の本発明の鋼材の析出粒子形態とサイズを示す。
図3図3は、本発明の好適実施例の熱間スタンプ成形方法の図解を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細説明
以下、実施例を例にとって本発明をより詳細に説明する。下記の実施例又は実験データは本発明を例示するためのものであって、当業者は本発明がこれらの実施例又は実験データに限定されるものではないことを認識すべきである。
【0023】
本発明の実施例に依れば、重量で下記の成分を含む熱間スタンプ成形用鋼材が提供される。即ち、0.27~0.40%のC、0.2~3.0%のMn、0.11~0.4%のV、0~0.8%のSi、0~0.5%のAl、0~2%のCr、0~0.15%のTi、0~0.15%のNb、0~0.004%のB、合計で2%未満のMo,Ni,Cu、および焼き入れ性を改善するために有利なその他合金要素、そしてその他の不純物。
【0024】
炭素含有率の増加に伴いマルテンサイト強度は改善するが、高い炭素含有率は双晶マルテンサイトの形成をもたらし、それによって材料の靱性が低下する。脆性破壊を防止するためには双晶マルテンサイトを焼き戻ししなければならない。本発明の鋼材は合金組成に対してV要素の特定の組成を添加し、これによって、熱間スタンプ成形処理中の完全オーステナイト化加熱温度範囲は800~920℃となる。VC析出の溶解度積の条件に応じて、0.11%以上のVと0.27%以上のCとが材に添加されるので、オーステナイト化処理中にオーステナイト結晶粒界においてある量のVCおよび/又は(V,Ti,Nb)Cの複合炭化物が存在し、そして第2相粒子によってオーステナイト粒子が有効にピン止め(effectively pin)され、これによって、前のオーステナイト粒子が精製される。従って、VCの析出は前のオーステナイト粒子のサイズの制御に対して重要な影響を有する。本発明の好適実施例に依れば、前のオーステナイト粒子サイズは3~6μmであり、前記粒子精製と強化とは降伏強度を改善するのみならず、靱性を増大することができる。図1は、熱間スタンプ成形後の本発明の鋼材の前のオーステナイト結晶粒界形態を図示している。
【0025】
もしも1800MPa以上の引張強度の達成が高炭素添加のみに依存するのであれば、形成されたマルテンサイトは双晶マルテンサイトを含み、その結果、それは靱性が不良で、焼き戻し処理後においてのみ延性破壊を有しうるものとなる。170℃で20分間(通常は、自動車塗装の場合170~200℃、10~30分間)の焼き戻し後、材料の降伏強度は50~100MPa増加し、引張強度は約50MPa低下し、伸びは、5%以上増加させることができる。従来技術(たとえば、新日鉄株式会社によって公表されている材料組成と特性)では、Fe-0.31C-1.3Mn-Ti-B%は、熱間スタンプ成形状態(急冷)において1700MPaの強度下での脆性破壊時に約3.5%の伸びを有し、170℃で20分間の焼き戻し後では1785MPaの強度と7%の伸びを有する。焼き戻し前の靱性不良によって部材の疲労亀裂のリスクが高まるのみならず、さらに、塗装処理に入る前に自動車部材を溶接することにより、熱間スタンプ成形状態(焼き戻し無し)での部材の靱性不良によって溶接アセンブリ処理中において亀裂を引き起こす傾向となる。
【0026】
本発明に依れば、前記鋼材合金組成に対して、0.11%以上のVと0.27%以上のCとが添加され、オーステナイト化処理後で熱間スタンプ成形ダイの急冷前の3~30秒の冷却処理中に0.1%以上の体積分率のVC又は(V,Ti,Nb)Cが更に析出し、均一に細かい第2相粒子によって引張強度を100MPa以上増大させることができ、そして、好ましくは、析出粒子サイズは1-20nmであり、平均粒子サイズは4.5nmであり、前記体積分率は約0.22%(0.22%は二次元から三次元への転換による炭素レプリカサンプル中の析出量から計算され、Thermal-Cacの算出体積分率は0.28%である)、ここで、1-10nmの発生頻度は94.4%にも達し、そして前記析出強化メカニズムにより、その析出強度強化は240MPaにも達することができる。VC又は(V,Ti)Cの析出によってオーステナイト中の炭素が消費され、その炭素含有率を低減し、それによって相変換後にマルテンサイト中に形成される双晶マルテンサイトのフラクション(部分)を減少させ、従って、本発明の前記VC析出に基づき、マルテンサイト自身の靱性を改善することができ、その中の炭素含有率の低下によってマルテンサイトの強度は低下するが、VC析出強化と前のオーステナイト粒子の微小粒子強化とによって材料の強度は高められる。図2は、熱間スタンプ成形後の本発明の鋼材の析出粒子形態とサイズを図示している。
【0027】
更に、VCとHは高い結合エネルギーを有し、不可逆的水素トラップであり、それらの周りの水素原子を容易に固定することができ、それによって、水素によって誘導される材料の疲労亀裂性を改善することができる(参照:Harshad Kumar Dharamshi Hansraj BHADESHIA.“Prevention of Hydrogen Embrittlement in Steels(スチールにおける水素脆弱化の防止),ISIJ International,Vol.56(2016),No.1,pp.24-36)。
【0028】
熱間スタンプ成形又はそれと同等の熱処理後、本発明の前記鋼材は、直接熱間スタンプ急冷後で焼き戻し無しで、1800~2200MPaの引張強度、1300MPa~1700MPaの降伏強度、そして、6~9%の伸び、を達成することができる。好ましくは、それは、1400MPa~1900MPa-8%と1450MPa~2100MPa-7%に到達することが可能であり、この特性は直接急冷(焼き戻し無し)時に従来技術の合金組成によっては達成不可能である。たとえ塗装処理によって焼き戻し処理の機能を実現することが可能であるとしても、一部の脆弱破壊が溶接処理中に発生しない溶接要件を満たすためには、熱間スタンプ成形後に焼き戻し加熱処理を行わなければならない。これに対して、本発明の主要な利点は、焼き戻し加熱処理の工程段階が無くなり、それによって成形処理が単純化されることにある。
【0029】
本発明の熱間スタンプ成形用の鋼材の具体的な製造方法は以下の通りである。
【0030】
(1)真空誘導炉又は転換炉による上記組成に厳密に従う製錬の製錬処理。
【0031】
(2)製錬スチールブランクを1100~1260℃の温度で加熱し、この温度を30~600分維持する加熱処理。
【0032】
(3)前記スチールブランクを1200℃未満の温度で圧延し、最終圧延温度を800℃以上に制御して熱延鋼材を得る熱延処理。
【0033】
(4)上記熱延鋼材を750℃未満の温度範囲でクリンピングするクリンプ工程、ここで、その構造は主としてフェライトとパーライトである。実際の必要性に応じて、上記熱延鋼材は更に、酸洗い(pickle)して熱延酸洗い鋼材を得ることも可能である。
【0034】
又、上記製造方法は、更に、単数又は複数の以下の工程を含むことが出来る。
【0035】
(5)上記熱延鋼材を酸洗いして冷延した後に冷延鋼材を得ることができる。
【0036】
(6)上記冷延鋼材をアニーリング(焼きなまし)した後、冷延アニーリング板を生産することができる。
【0037】
(7)上記冷延鋼材の表面にコーティング処理を施してコーティングされた鋼材を得ることができる。
【0038】
(8)上記熱延酸洗い鋼材の表面にコーティング処理を施してコーティングされた鋼材を得ることができる。
【0039】
図3は、本発明の好適実施例の熱間スタンプ成形処理図解を図示している。本発明の好適実施例に依れば、本発明の前記熱間スタンプ成形処理は下記の処理を含むことができる。
【0040】
(a)鋼材オーステナイト化処理:これは、本発明の第1態様によるあらゆる種類の熱間スタンプ成形用鋼材、又は、そのプレフォーム部材、を提供し、それを800~920℃まで加熱し、この温度を1~10000秒維持し、ここで、前記処理における加熱方法は、非限定的に、例えば、ローラ加熱炉、ボックス型加熱炉、誘導加熱、抵抗加熱、を含みうる。
【0041】
(b)鋼材移送:例えば、これは、そのダイへの移送中において鋼材が550℃以上の温度を有するようにしながら、限定されないがマニュプレータ又はロボットを使用して、上述した加熱された鋼材を熱間スタンプ成形ダイへと通常移送する、
【0042】
(c)熱間スタンプ成形:これは、スタンプ圧を1~40MPaとして、上述したスチールブランクサイズに応じた合理的なプレス・トン数を設定し、前記ダイが開放された時に部材の温度が250℃未満となるように4~40秒に制御される、板の厚みの応じた滞留時間を決定する、例えば、1.2mm厚のブランクは5~15秒の滞留時間であり、1.8mm厚のブランクは7~20秒の滞留時間、そして、前記ダイの急冷却システムによってダイ表面温度を200℃未満に制御し、これによって、ダイにおける鋼材は少なくとも10℃/秒の平均冷却速度で250℃未満にまで急速に冷却される。
【0043】
以下は本発明の鋼材の例示的実験データである。尚、当業者にとって、これらのデータが単に例示的なものであり、本発明の具体的成分と製造方法とはそれらに限定されるものではないことが明白であろう。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
本発明の好適実施例を以上に記載したが、本発明の概念から逸脱することのない任意の可能なバリエーション又は置換が本発明の保護範囲内に入ることが当業者によって理解されるべきである。
【0050】
〔その他の実施形態〕
(1)
本発明は、
重量で以下の成分、
0.27~0.40%のC、
0.2~3.0%のMn、
0.11~0.4%のV、
0~0.8%のSi、
0~0.5%のAl、
0~2%のCr、
0~0.15%のTi、
0~0.15%のNb、
0~0.004%のB、
合計で2%未満のMo,Ni,Cu、および、
不可避な不純物、を含むことを特徴とする熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0051】
(2)
本発明は、前記熱間スタンプ成形用鋼材は、熱間スタンプ成形処理中において800~920℃の加熱温度範囲を有し、オーステナイト化処理中にオーステナイト結晶粒界にVCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物を有することを特徴とする(1)に記載の熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0052】
本発明は、前記熱間スタンプ成形用鋼材の前記オーステナイト化処理中において、前記オーステナイト結晶粒界のVCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物の析出粒子サイズは、1~80nmであることを特徴とする(2)に記載の熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0053】
本発明は、前記熱間スタンプ成形用鋼材は、前記熱間スタンプ成形処理において、前記オーステナイト化処理後の冷却処理中に、粒界を含むオーステナイト結晶中に或る量の前記VCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物を析出し、前記オーステナイト結晶の炭化物粒子サイズは0.1~20nmであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0054】
本発明は、前記熱間スタンプ成形用鋼材中の、前記VCの炭化物および/又はVとTi,Nbとの複合炭化物の体積分率は0.1%以上であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0055】
本発明は、前記熱間スタンプ成形後において、前記熱間スタンプ成形用鋼材は、焼き戻し無しで、1300MPa~1700MPaの降伏強度、1800~2200MPaの引張強度、そして、6~9%の伸び、を達成し、焼き戻し加熱処理後では、1350MPa~1800MPaの降伏強度、1700~2150MPaの引張強度、そして、7~10%の伸び、を達成することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の熱間スタンプ成形用鋼材でありうる。
【0056】
本発明は、前記鋼材は、熱延鋼板、熱延酸洗い鋼板、冷延鋼板、又はコーティング層を備える鋼板を含むことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の鋼板でありうる。
【0057】
本発明は、コーティング層を備える前記鋼板は、その上に金属亜鉛層が形成された、熱延鋼板又は冷延鋼板である、亜鉛コーティング鋼板であり、ここで、当該亜鉛コーティング鋼板は、溶融亜鉛メッキ、亜鉛メッキ焼鈍、亜鉛メッキ、又は亜鉛-鉄メッキ、から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする(7)に記載の鋼板でありうる。
【0058】
本発明は、コーティング層を備える前記鋼板は、その上にアルミニウム-ケイ素層が形成された、熱延鋼板又は冷延鋼板、或いは、有機コーティング層を備える鋼板であることを特徴とする(7)に記載の鋼板でありうる。
【0059】
本発明は、以下の処理、
(a)(1)~(9)のいずれかに記載の熱間スタンプ成形用鋼材、又は、そのプレフォーム部材、を提供し、それを800~920℃まで加熱し、この温度を1~10000秒維持する鋼材オーステナイト化処理、
(b)ダイへの移送中において鋼材が550℃以上の温度を有するようにしながら前記加熱された鋼材を熱間スタンプ成形ダイへと移送する鋼材移送、
(c)スタンプ圧を1~40MPaとして、前記鋼ブランクサイズに応じた合理的なプレス・トン数を設定し、4~40秒に制御される前記板の厚みに応じた滞留時間を決定し、前記ダイの冷却システムによってダイ表面温度を200℃未満に制御し、これによって、前記ダイにおける前記鋼材は少なくとも10℃/秒の平均冷却速度で250℃未満にまで急速に冷却される熱間スタンプ成形、を含むことを特徴とする熱間スタンプ成形法でありうる。
【0060】
本発明は、前記処理(a)における加熱方法は、ローラ加熱炉、ボックス型加熱炉、誘導加熱、抵抗加熱、を含むことを特徴とする(10)に記載の熱間スタンプ成形法でありうる。
【0061】
本発明は、以下の工程、
(a)(1)~(10)のいずれかに記載の熱間スタンプ成形方法によって成形部材を得る工程、
(b)塗装工程中に、前記成形部材を150~200℃まで加熱し、この温度を10~40分間維持する、若しくは、前記成形部材を0.001~100℃/秒の加熱速度で150~280℃にまで加熱し、この温度を0.5~120分間維持し、その後、それを任意の方法で冷却する工程、を含むことを特徴とする焼き戻し方法でありうる。
【0062】
本発明は、(10)又は(11)に記載の熱間スタンプ成形方法を使用して、(1)~(6)のいずれかに記載の鋼材によって製造され、その特性は、1300MPa~1700MPaの降伏強度、1800~2200MPaの引張強度、そして、6~9%の伸び、を達成することを特徴とする熱間スタンプ成形部材でありうる。
【0063】
本発明は、(12)に記載の焼き戻し方法によって処理され、その特性は、1300MPa~1800MPaの降伏強度、1700~2150MPaの引張強度、そして、7~10%の伸び、を達成することを特徴とする(13)に記載の熱間スタンプ成形部材でありうる。
【0064】
本発明は、自動車の、Aピラー、Bピラー、バンパ、ルーフフレーム、アンダーボディフレーム、ドアバンパバーを含む自動車高強度部材のために使用することができることを特徴とする(13)又は(14)に記載の熱間スタンプ成形部材でありうる。
図1
図2
図3