(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】材料および摺動システム
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20241112BHJP
C10M 107/00 20060101ALI20241112BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20241112BHJP
F16C 33/12 20060101ALI20241112BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20241112BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20241112BHJP
C10M 173/00 20060101ALI20241112BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20241112BHJP
C10M 105/72 20060101ALI20241112BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241112BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241112BHJP
C10N 50/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M107/00
F16C33/10 Z
F16C33/12 A
C08L101/12
C10M105/38
C10M173/00
C10M107/02
C10M105/72
C10N30:06
C10N40:02
C10N50:00
(21)【出願番号】P 2021563866
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044601
(87)【国際公開番号】W WO2021117538
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019222532
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 (ACCEL)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】荒船 博之
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 麻由
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225693(WO,A1)
【文献】特開2014-169787(JP,A)
【文献】特表2014-514583(JP,A)
【文献】特開2014-145401(JP,A)
【文献】特開2008-267572(JP,A)
【文献】特開2018-076536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、前記膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
前記ブラシ層の表面上には、潤滑液を有し、
前記ブラシ層に含まれる膨潤液と、前記潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されている、
材料。
【請求項2】
前記潤滑液は、前記膨潤液に対して非相溶性の液体である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記膨潤液の前記高分子鎖集合体に対する親和性は、前記潤滑液の前記高分子鎖集合体に対する親和性よりも高い、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
前記潤滑液は、前記膨潤液と異なる液体1と、膨潤液の基液である液体2を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記潤滑液は、前記液体1中に前記液体2が飽和溶解している、請求項4に記載の材料。
【請求項6】
前記液体1は膨潤液に対して非相溶性の液体であり、
前記潤滑液は、前記液体1中に前記液体2が分散しているエマルションである、請求項4に記載の材料。
【請求項7】
前記潤滑液は、摩擦調整剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の材料。
【請求項8】
前記高分子鎖集合体を構成する高分子鎖が前記支持体上に固定されて前記支持体上にポリマーブラシが形成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の材料。
【請求項9】
前記高分子鎖集合体は、高分子鎖に前記高分子鎖集合体を構成する前記複数の高分子鎖が側鎖として結合しているボトルブラシ構造のポリマーである、請求項1~7のいずれか1項に記載の材料。
【請求項10】
摺動部材である、請求項1~9のいずれか1項に記載の材料。
【請求項11】
摺動面を有する部材と、前記部材の摺動面と対向する位置に設けられた対向部材とを有する摺動システムであって、
前記摺動面を有する部材上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、前記膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
前記ブラシ層と前記対向部材との間であって、前記ブラシ層の表面上には潤滑液を有し、
前記ブラシ層に含まれる膨潤液と、前記潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されている、
摺動システム。
【請求項12】
前記対向部材の表面に、膨潤液を含む複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体の層、または、膨潤液を含む高分子網目構造体の層を有する、請求項11に記載の摺動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む材料および摺動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンのコンプレッサー、スピーカーなど、生活に身近な機械製品には部品同士が組み合わさって動く「可動部」があり、ここで生じる摩擦が原因でエネルギーを損失していることが多い。こうした可動部で生じる摩擦の低減については、これまで、機械工学分野を中心に研究開発が進められてきた。しかし、機械工学分野で行われる摩擦の低減は、部品の表面を研磨するなど金属加工技術に頼る部分が大きく、そのための高度な技能が必要であるとともに、手間や時間、設備投資費もかかるという問題がある。
【0003】
近年では、ポリマーブラシやボトルブラシなどの、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体についての研究が進められており、このような高分子鎖集合体を部材の摺動面上に形成して摺動部材として用いることが検討されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/171071号
【文献】特開2019-065284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、摺動部材についての潤滑特性の更なる向上が望まれている。よって、本発明の目的は、優れた潤滑特性などを有する新規な材料および摺動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
摺動面を有する部材の摺動面上に、ポリマーブラシやボトルブラシなどの、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含むブラシ層を設けた摺動部材を用いて相手部材との摺動を行うにあたり、従前は、高分子鎖集合体に対して親和性の高い良溶媒を潤滑液として用い、この潤滑液でブラシ層を膨潤させて用いていた。
本発明者が更に検討を進めたところ、高分子鎖集合体を潤滑液とは異なる液体(以下、膨潤液ともいう)で膨潤させ、かつ、膨潤液と潤滑液との間で相分離を形成させて、膨潤液と潤滑液の液液相分離界面をブラシ層上に形成することにより、優れた潤滑特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。よって、本発明は以下を提供する。
<1> 支持体上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、上記膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
上記ブラシ層の表面上には、潤滑液を有し、
上記ブラシ層に含まれる膨潤液と、上記潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されている、
材料。
<2> 上記潤滑液は、上記膨潤液に対して非相溶性の液体である、<1>に記載の材料。
<3> 上記膨潤液の上記高分子鎖集合体に対する親和性は、上記潤滑液の上記高分子鎖集合体に対する親和性よりも高い、<1>または<2>に記載の材料。
<4> 上記潤滑液は、上記膨潤液と異なる液体1と、膨潤液の基液である液体2を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の材料。
<5> 上記潤滑液は、上記液体1中に上記液体2が飽和溶解している、<4>に記載の材料。
<6> 上記液体1は膨潤液に対して非相溶性の液体であり、
上記潤滑液は、上記液体1中に上記液体2が分散しているエマルションである、<4>に記載の材料。
<7> 上記潤滑液は、摩擦調整剤を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の材料。
<8> 上記高分子鎖集合体を構成する高分子鎖が上記支持体上に固定されて上記支持体上にポリマーブラシが形成されている、<1>~<7>のいずれか1つに記載の材料。
<9> 上記高分子鎖集合体は、高分子鎖に上記高分子鎖集合体を構成する上記複数の高分子鎖が側鎖として結合しているボトルブラシ構造のポリマーである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の材料。
<10> 摺動部材である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の材料。
<11> 摺動面を有する部材と、上記部材の摺動面と対向する位置に設けられた対向部材とを有する摺動システムであって、
上記摺動面を有する部材上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、上記膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
上記ブラシ層と上記対向部材との間であって、上記ブラシ層の表面上には潤滑液を有し、
上記ブラシ層に含まれる膨潤液と、上記潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されている、
摺動システム。
<12> 対向部材の表面に、膨潤液を含む複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体の層、または、膨潤液を含む高分子網目構造体の層を有する、<11>に記載の摺動システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、優れた潤滑特性を有する材料および摺動システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】試験例2におけるストライベック曲線であって、潤滑液1を用い、荷重4Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
【
図3】試験例2におけるストライベック曲線であって、潤滑液2を用い、荷重1N、2N、4N、10Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
【
図4】試験例2におけるストライベック曲線であって、潤滑液3を用い、荷重4N、10Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
【
図5】試験例3におけるストライベック曲線である。
【
図6】試験例4におけるストライベック曲線である。
【
図7】試験例5における対向部材として試験体5を用いた場合のストライベック曲線である。
【
図8】試験例5における対向部材として試験体6を用いた場合のストライベック曲線である。
【
図9】試験例6における潤滑液として潤滑液31を用いた場合の摩擦試験の試験結果である。
【
図10】試験例6における潤滑液として潤滑液32を用いた場合の摩擦試験の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および「メタクリレート」の両方、または、いずれかを意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の両方、または、いずれかを意味する。
【0011】
<材料>
本発明の材料は、
支持体上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
ブラシ層の表面上には、潤滑液を有し、
ブラシ層に含まれる膨潤液と、潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の材料は、支持体上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体と膨潤液とを含むブラシ層を有している。このブラシ層は、膨潤液によって膨潤されているので、ブラシ状の高分子鎖集合体を構成するそれぞれの高分子鎖が伸張されている。このため、圧縮弾性率が高く柔軟性に優れている。また、高分子鎖が伸張されていることにより、摺動時において、ブラシ状の高分子鎖集合体を構成するそれぞれの高分子鎖同士の相互貫入を抑制でき、相手部材との摺動時の摩擦係数をなどより低下できる。そして、本発明の材料では、ブラシ層の表面上に潤滑液を有し、ブラシ層に含まれる膨潤液と、潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されているので、この液液相分離界面を摺動時のせん断面として利用することができる。液状ゆえに流動性が高く、凝着性も低いので、相手部材との摺動時の摩擦係数をより低下できる。このため、本発明の材料は優れた潤滑特性を有している。
【0013】
なお、本発明で用いる高分子鎖集合体とは、複数の高分子鎖の集合体であって、全体としてブラシ様の形状をなしているものであり、高分子の溶液を単に塗布して形成した有機膜とは全く異なるものである。
【0014】
本発明の材料において、ブラシ層の膜厚(膨潤液で膨潤された状態の膜厚のことであり、以下、膨潤膜厚ともいう)は、より優れた潤滑特性が得られやすいという理由から1μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましく、2.5μm以上であることがより一層好ましく、3μm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば100μm以下とすることができ、50μm以下とすることもできる。
【0015】
本発明の材料において、ブラシ層の膨潤液で膨潤させる前の状態の膜厚(以下、乾燥膜厚ともいう)は、より優れた潤滑特性が得られやすいという理由から50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることが更に好ましく、500nm以上であることがより一層好ましく、1000nm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば100μm以下とすることができ、50μm以下とすることもできる。
【0016】
本発明の材料において、ブラシ層の膨潤率[(ブラシ層の膨潤膜厚/ブラシ層の乾燥膜厚)×100]は、より優れた潤滑特性が得られやすいという理由から、100%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましく、200%以上であることが更に好ましい。
【0017】
ブラシ層の乾燥膜厚および膨潤膜厚は、分光エリプソメトリー法などにより測定することができる。
【0018】
ブラシ層の圧縮弾性率は、摺動時の押圧に対して塑性変形や破壊を生じにくくできるという理由から、0.1MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましく、10MPa以上であることが更に好ましい。ブラシ層の圧縮弾性率は、AFMコロイドプローブ法にて測定することができる。
【0019】
本発明の材料は、優れた潤滑特性を有しているので、摺動部材として好ましく用いることができる。また、本発明の材料は、シール材、すべり軸受などに用いることもできる。
【0020】
図1に、本発明の材料の一実施形態の概略図を示す。
図1に示す材料1は、支持体10上にブラシ層20が形成されている。このブラシ層20は、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体21と膨潤液22とを含み、膨潤液22によって膨潤されている。ブラシ層20の表面上には潤滑液30を有している。そしてブラシ層に含まれる膨潤液と、潤滑液とが相分離した液液相分離界面40がブラシ層20上に形成されている。なお、潤滑液30は高分子鎖集合体や高分子網目体などに保持されていてもよい。
【0021】
なお、
図1に示す材料では、高分子鎖集合体21を構成する高分子鎖が支持体10上に固定されて、支持体10上に高分子鎖集合体によるポリマーブラシが形成されているが、ブラシ層20を構成する高分子鎖集合体21は、基材である主鎖の高分子鎖に高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖が側鎖として結合しているボトルブラシ構造のポリマーであってもよい。また、
図1では、高分子鎖集合体21を構成する高分子鎖の片側末端のみが支持体10上に固定されているが、高分子鎖の両末端のそれぞれが支持体10上に固定されて高分子鎖のループ構造が形成されていてもよい。
【0022】
以下、本発明の材料について詳細に説明する。
【0023】
<<支持体>>
本発明の材料は、支持体上にブラシ層を有する。支持体の種類は用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明の材料を摺動部材として用いる場合、支持体の種類としては、軸受、カム、バルブリフタ、フォロワ、シム、バルブ、バルブガイド、シリンダライナー、ピストン、ピストンリング、ピストンピン、クランクシャフト、歯車、ロータ、ロータハウジング、バルブ、バルブガイド、ポンプ、メカニカルシール等が挙げられる。
【0024】
支持体の材質は、有機材料、無機材料等から適宜選択することができる。有機材料としては、特に限定されず、各種樹脂およびゴムを制限なく用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれでもよい。熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂;などが挙げられる。ゴムとしては、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴムなどのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどのジエン系ゴム以外のゴムなどが挙げられる。無機材料としては、特に限定されず、セラミックス(例、アルミナセラミックス、バイオセラミックス、ジルコニア-アルミナ複合セラミックス等の複合セラミックス等)、金属(例、鉄、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)等の鉄合金、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン等の非鉄および非鉄合金等)、多結晶シリコン等のシリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、各種ガラス、石英、及びこれらの複合材料等が挙げられる。
【0025】
<<ブラシ層>>
本発明の材料を構成するブラシ層は、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体と膨潤液とを含み、膨潤液によって膨潤されている。
【0026】
[高分子鎖集合体]
ブラシ層を構成する高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖からなり、全体としてブラシ状の形状をなすものである。「高分子鎖」とは、複数の構成単位が鎖状に連なった構造を有する分子または分子の部分のことをいう。高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖は、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、高分子鎖は、複数の構成単位が鎖状に連なった構造を有していればよく、側鎖を有していてもよく、分岐構造を有していてもよく、架橋構造が形成されていてもよい。
【0027】
(高分子鎖)
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、非電解質高分子であっても電解質高分子であってもよく、疎水性高分子であっても親水性高分子であってもよい。
【0028】
非電解質高分子としては、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)等が挙げられる。電解質高分子としては、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA:poly (sodium sulfonated glycidyl methacrylate)やイオン液体型ポリマー等が挙げられる。疎水性高分子としては、ポリ(メチルメタクリレート)等のポリ(アルキル(メタ)アクリレート)などが挙げられる。親水性高分子としては、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)等のポリ(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、ポリエチレングリコール側鎖を有するポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。親水性高分子は、親水性モノマーを用いて合成してもよく、疎水性モノマーを用いて高分子を合成した後に、その高分子に親水性基を導入することによって合成してもよい。
【0029】
高分子鎖は、1種類のモノマーを重合させたホモ重合体であってもよく、2種類以上のモノマーを重合させた共重合体であってもよい。共重合体として、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラジエント共重合体等が挙げられる。
【0030】
高分子鎖の生成に用いるモノマーは、その重合により得られる高分子鎖を、グラフト鎖として、支持体や高分子鎖などの基材に結合できるものであることが好ましい。そのようなモノマーとして、付加重合性の二重結合を少なくとも1つ有するモノマーを挙げることができ、付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーであることが好ましい。付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、(メタ)アクリル酸系モノマー、スチレン系モノマー等が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリレート-2-アミノエチル、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1-(メタ)アクリロキシ-2-フェニル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)エタン、1-(4-((4-(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチル-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル-2-ペルフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロメチル-2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-アミノスチレン、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)スチレン、1-(2-((4-ビニルフェニル)メトキシ)-1-フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン等が挙げられる。
【0033】
また、付加重合性の二重結合を1分子中に1つ有する単官能性のモノマーとして、フッ素含有ビニルモノマー(ペルフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等)、ケイ素含有ビニル系モノマー(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、マレイミド系モノマー(マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等)、ニトリル基含有モノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、アミド基含有モノマー(アクリルアミド、メタクリルアミド等)、ビニルエステル系モノマー(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、オレフィン類(エチレン、プロピレン等)、共役ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレン等)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデン等)、ハロゲン化アリル(塩化アリル等)、アリルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、ビニルイソシアナート、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン等から誘導されたマクロモノマー等も用いることもできる。
【0034】
高分子鎖の生成には、疎水性モノマーおよび親水性モノマーから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0035】
疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(例、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルアクリレート等のアリールアクリレート;ベンジルアクリレート等のアリールアルキルアクリレート;メトキシメチルアクリレート等のアルコキシアルキルアクリレート等)、メタクリル酸エステル(例、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート等のメタクリル酸のアルキルエステル;フェニルメタクリレート等のアリールメタクリレート;ベンジルメタクリレート等のアリールアルキルメタクリレート;メトキシメチルメタクリレート等のアルコキシアルキルメタクリレート等)、フマル酸エステル(例、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジアリル等のフマル酸のアルキルエステル等)、マレイン酸エステル(例、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジアリル等のマレイン酸のアルキルエステル等)、イタコン酸エステル(例、イタコン酸のアルキルエステル等)、クロトン酸エステル(例、クロトン酸のアルキルエステル等)、メチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルベンゾエート、スチレンなどが挙げられる。また、疎水性モノマーとしては、アルキルスチレン、塩化ビニル、ビニルメチルケトン、ビニルステアレート、ビニルアルキルエーテル、及びそれらの混合物等も好ましい。
【0036】
親水性モノマーとしては、ヒドロキシ置換アルキルアクリレート(例、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエトキシエチルアクリレート、ポリエトキシプロピルアクリレート等)、ヒドロキシ置換アルキルメタクリレート(例、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエトキシエチルメタクリレート、ポリエトキシプロピルメタクリレート等)、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド(例、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等)、N-アルキルメタクリルアミド(例、N-メチルメタクリルアミド等)、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、アルコキシポリエチレングリコールアクリレート、アルコキシポリエチレングリコールメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、2-グルコシロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。また、親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びその四級アンモニウム塩等も好ましい。
【0037】
高分子鎖の生成には、側鎖に特定の基を有するモノマーも好適に用いることができる。例えば、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーは、生成した高分子鎖の側鎖の基を、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に転換することにより親水性付与することができる点で好ましい。カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとしては、例えば、tert-ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
また、高分子鎖の生成には、イオン液体型モノマーを用いることも好ましい。イオン液体型モノマーとして、特に限定されないが、例えば下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【0040】
式(1)において、mは1~10の整数を表し、nは1~5の整数を表す。R1は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、R2、R3およびR4は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基を表す。ただし、R2、R3およびR4におけるアルキル基は、その炭素原子や水素原子が、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子で置換されていてもよく、R2、R3およびR4は、その2つ以上が連結して環状構造を形成していてもよい。
【0041】
Yは一価のアニオンを表す。Yが表す一価のアニオンとしては、特に限定されないが、例えばBF4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、AlCl4
-、NbF6
-、HSO4
-、ClO4
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、CF3CO2
-、(CF3SO2)2N-、Cl-、Br-、I-等を挙げることができる。アニオンの安定性を考慮すると、BF4
-、PF6
-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3
-、またはCF3CO2
-であることが好ましい。
【0042】
イオン液体型モノマーは、式(1)で表される化合物のなかでも、特に下記式(2)~(9)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0043】
【0044】
式(2)~(9)において、m、R1、R2、Yは、式(1)のm、R1、R2、Yと同義である。Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0045】
これらの高分子鎖の生成に用いられるモノマーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
高分子鎖集合体には、高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間に架橋構造が形成されていてもよい。これにより、高分子鎖集合体の弾性率を制御することができる。高分子鎖同士の間に形成する架橋構造は、物理的架橋構造および化学的架橋構造のいずれであってもよい。架橋構造は、高分子鎖を生成するための重合反応と同時に形成してもよいし、高分子鎖を生成した後に形成してもよい。高分子鎖を生成するための重合反応と同時に行う架橋構造の形成は、重合反応液に、高分子鎖を生成するための単官能性モノマーに加えて、エチレングリコールジメタクリレート等のジビニルモノマーのような二官能性モノマーを適量添加することにより行うことができる。また、生成した高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間の架橋構造の形成は、架橋基を有するモノマーを用いて高分子鎖に架橋基を導入しておき、その架橋基と、他の高分子鎖の反応基との反応、その架橋基と基材の反応基との反応により行うことができる。架橋基としては、アジド基、ハロゲン基(好ましくはブロモ基)、アルコキシシリル基、イソシアネート基、ビニル基、チオール基等を挙げることができる。また、高分子鎖をリビングラジカル重合で生成した際に、グラフト鎖の末端に残る反応基を架橋基として用いることもできる。
【0047】
ブラシ層の高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、支持体上に固定されて、高分子鎖集合体によるポリマーブラシが支持体上に形成されていてもよい。また、高分子鎖集合体は、基材である高分子鎖に高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖が側鎖として結合しているボトルブラシ構造のポリマーであってもよい。また、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖が、支持体上に固定されてポリマーブラシを形成している場合、高分子鎖の片側末端のみが支持体上に固定されていてもよく、高分子鎖の両末端のそれぞれが支持体上に固定されていてもよい。高分子鎖の両末端が支持体上に固定されている場合は、高分子鎖はループ構造をなしており、このような高分子鎖集合体は、ループ構造のポリマーブラシをなしている。
【0048】
以下においては、ポリマーブラシとボトルブラシ構造を有するポリマーのそれぞれについて、その高分子鎖集合体の形成方法を説明する。
【0049】
[A]ポリマーブラシ
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖をグラフト鎖として基材である支持体などの担体に結合させるグラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、Grafting-from法やGrafting-to法で行うことができ、このうち、Grafting-from法を用いることが好ましい。ここで、Grafting-from法は、基材に重合開始基を導入して、その重合開始基からグラフト鎖を成長させる方法であり、Grafting-to法は、予め合成したグラフト鎖を、基材に導入した反応点に結合させる方法である。
また、高分子鎖集合体は、疎水性ブロックと親水性ブロックを有する高分子(ジブロック共重合体)の疎水性部分を、疎水性の基材または疎水性化された基材の表面に疎水結合させる方法によっても得ることができる。ジブロック共重合体としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)構造を疎水性ブロックとし、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA)構造を親水性ブロックとする共重合体を挙げることができる。PMMA構造とPSGMA構造との間には、他の高分子構造が介在していてもよい。この方法の詳細については、Nature, 425, 163-165 (2003)等を参照することができる。
【0050】
ポリマーブラシ型の高分子鎖集合体において、高分子鎖を固定する基材(担体)を構成する材料としては、特に限定はない。有機材料、無機材料等から適宜選択することができる。また、上述した支持体そのものを基材に用いてもよい。
【0051】
(グラフト重合法)
以下に、高分子鎖集合体を、グラフト重合法を用いて形成する方法を具体的に説明する。
【0052】
高分子鎖の生成
グラフト重合法で用いる高分子鎖の生成方法は、特に限定されないが、ラジカル重合法を用いることが好ましく、リビングラジカル重合法(LRP)法を用いることがより好ましく、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いることがさらに好ましい。リビングラジカル重合法は、高分子鎖の分子量や分子量分布をコントロールし易い、様々な種類の共重合体(例、ランダム共重合体、ブロック共重合体、組成傾斜型共重合体等)をグラフト鎖として生成できるという利点がある。また、リビングラジカル重合法によれば、高圧条件やイオン液体溶媒を用いることで、後述の濃厚ポリマーブラシを、その密度および厚さを精密に制御して生成することができる。ここで、リビングラジカル重合法を用いる場合のグラフト重合の方法は、Grafting-from法、Grafting-to法のいずれであってもよいが、Grafting-from法であることが好ましい。リビングラジカル重合法とGrafting-from法を組わせたグラフト重合法の詳細については、特開平11-263819号公報等を参照することができる。また、原子移動ラジカル重合法の詳細については、J. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)、Science, 272, 866 (1996)、Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)を参照することができる。
また、高分子鎖は、ニトロキシド媒介重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法、可逆移動触媒重合法(RTCP)、可逆的錯体形成媒介重合法(RCMP)等によっても生成することができる。
【0053】
ラジカル重合法で用いる触媒は、ラジカル重合を制御できるものであればよく、好ましくは遷移金属錯体である。遷移金属錯体の好ましい例として、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を挙げることができ、中でも、銅錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体またはニッケル錯体を用いることが好ましく、銅錯体を用いることがより好ましい。銅錯体は、1価の銅化合物と有機配位子の錯体であることが好ましい。1価の銅化合物として、塩化第一銅、臭化第一銅等を挙げることができる。有機配位子として、2,2’-ビピリジル若しくはその誘導体、1,10-フェナントロリンもしくはその誘導体、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン等)、L-(-)-スパルテイン等の多環式アルカロイド等を挙げることができる。2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl2(PPh3)3)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加するのが好ましい。2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl2(PPh3)2)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl2(PPh3)2)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr2(PBu3)2)等も触媒として好適である。
【0054】
重合反応は溶剤中で行うことが好ましい。溶剤として、炭化水素系溶剤(ベンゼン、トルエン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン)、ハイドロフルオロカーボン系溶剤(炭素数2~5のハイドロフルオロカーボン、炭素数6以上の及び6以上のハイドロフルオロカーボン)、ペルフルオロカーボン系溶剤(ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、水等を挙げることができる。これらの溶剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
重合開始基の導入
高分子鎖集合体を例えばGrafting-from法を用いて形成するには、基材に重合反応の開始点となる重合開始基を導入し、この重合開始基から、上記の重合方法を用いて高分子鎖をグラフト成長させる。重合開始基としては、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化スルホニル基等を挙げることができる。重合開始基は、グラフト鎖の密度(グラフト密度)およびグラフト重合により得られる高分子鎖の一次構造(分子量、分子量分布、モノマー配列様式)を精度よく制御できることから、基材表面に物理的若しくは化学的に結合されているのが好ましい。重合開始基を基材表面に導入(結合)する方法としては、化学吸着法、ラングミュアー・ブロジェット(LB)法等を挙げることができる。
例えば、シリコンウエハ(基材)表面へのクロロスルホニル基(重合開始基)の化学結合による導入は、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランや2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン等を、シリコンウエハ表面の酸化層と反応させることにより行うことができる。
【0056】
また、LB法により重合開始基を導入するには、重合開始基を含む膜形成材料を適切な溶媒(例、クロロホルム、ベンゼン等)に溶解する。次に、この溶液少量を清浄な液面、好ましくは純水の液面上に展開した後、溶媒を蒸発させるか、または隣接する水相に拡散させて、水面上に膜形成分子による低密度の膜を形成させる。続いて、仕切り板を水面上で機械的に掃引し、膜形成分子が展開している水面の表面積を減少させることにより膜を圧縮して密度を増加させ、緻密な水面上単分子膜を得る。次いで、適切な条件下で、水面上単分子膜を構成する分子の表面密度を一定に保ちながら、単分子層を堆積する基材を、水面上単分子膜を横切る方向に浸漬または引き上げることによって、水面上単分子膜を基材上に移し取り、単分子層を基材上に堆積する。LB法の詳細については、「福田清成他著、新実験化学講座18巻(界面とコロイド)6章、(1977年)丸善」、「福田清成・杉道夫・雀部博之編集、LB膜とエレクトロニクス、(1986年)シーエムシー」、或いは、「石井淑夫著、よいLB膜をつくる実践的技術、(1989年)共立出版」を参照することができる。
【0057】
重合開始基を基材表面に導入するに当たっては、基材に結合する基および基材と親和性を有する基の少なくとも一方と、重合開始基に結合する基および重合開始基と親和性を有する基の少なくとも一方を有する表面処理剤を用いて基材表面を処理することが好ましい。この表面処理剤は低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。表面処理剤として、例えば下記式(10)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
式(10)において、nは1~10の整数であり、3~8の整数であることが好ましい。R11、R12およびR13は、各々独立に置換基を表す。R11、R12およびR13の少なくとも1つは、アルコキシル基またはハロゲン原子であることが好ましく、R11、R12およびR13の全てがメトキシ基であるか、エトキシ基であることが特に好ましい。R14およびR15は、各々独立に置換基を表す。R14およびR15は、各々独立に炭素数1~3のアルキル基、または芳香族性官能基であることが好ましく、R14およびR15の両方がメチル基であることが最も好ましい。X11は、ハロゲン原子を表し、臭素原子であることが好ましい。
【0060】
表面処理剤として、重合開始基を含有するシランカップリング剤(重合開始基含有シランカップリング剤)を用いることも好ましい。これにより、表面処理と重合開始基の導入を同時に行うことができる。重合開始基含有シランカップリング剤としては式(10)で表される化合物などが挙げられる。重合開始基含有シランカップリング剤およびその製造方法の説明については、国際公開第2006/087839号トの記載を参照することができる。重合開始基含有シランカップリング剤の具体例として、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリメトキシシラン(BHM)、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)を挙げることができる。
【0061】
グラフト密度を調整する観点から、重合開始基含有シランカップリング剤を表面処理剤に用いる場合には、重合開始基を含有しないシランカップリング剤、例えば、公知のアルキルシランカップリング剤を併用することが好ましい。これにより、重合開始基含有シランカップリング剤と重合開始基を含有しないシランカップリング剤との割合を調整することで、グラフト密度を自在に変更することができる。例えば、シランカップリング剤のすべてが重合開始基含有シランカップリング剤である場合、その表面処理後にGrafting-from法にてグラフト重合を行うことにより、3%を超える表面占有率で高分子鎖を成長させることができる。なお、表面処理剤として重合開始基含有シランカップリング剤を使用する場合、その重合開始基含有シランカップリング剤を水の存在下で加水分解させてシラノールとし、部分的に縮合させてオリゴマー状態とした後に表面処理に供してもよい。具体的には、このオリゴマーを、例えばシリカ等の基材に水素結合的に吸着させた後、乾燥処理することで脱水縮合反応を起こさせ、重合開始基を基材に導入してもよい。
【0062】
(他の製造方法)
また、ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、次の製造方法によって製造することもできる。すなわち、基材を構成する有機材料(以下、基材重合体ともいう)と、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低く、のポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロック共重合体とを溶剤中で混合して混合液を調製する工程と、混合液中から溶剤を除去して、相分離を生じさせる工程とを備える製造方法により製造することができる。この製造方法によれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材に固定されているループ構造のポリマーブラシの高分子鎖集合体を製造することができる。
【0063】
基材重合体である基材を構成する有機材料については、特に限定されず、上述したものが挙げられる。
【0064】
ブロック共重合体としては、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有しているものであればよく、特に限定されないが、ループ構造を好適に形成できるという観点より、ポリマーブロックBは、基材重合体に対して非相溶であるものを用いることが好ましく、ポリマーブロックBが、基材重合体に対して非相溶であり、かつ、ポリマーブロックAが、基材重合体に対して相溶である組み合わせがより好ましい。
【0065】
ここで、ポリマーブロックAが、基材重合体に対して相溶であるとは、次の状態をいう。すなわち、ポリマーブロックAのみからなる重合体と、基材重合体とを、熱溶融混合や共溶液混合などにより混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去などにより固化することにより得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定した場合に、ポリマーブロックAのみからなる重合体のTgと、基材重合体のTgとの間の温度域に、これらとは異なるTgが観測できる場合に、相溶であると判断することができる。
【0066】
また、ポリマーブロックBが、基材重合体に対して非相溶であるとは、次の状態をいう。すなわち、ポリマーブロックBのみからなる重合体と、基材重合体とを、熱溶融混合や共溶液混合などにより混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去などにより固化することにより得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定した場合に、ポリマーブロックBのみからなる重合体のTgおよび基材重合体20のTg以外に、これらとは異なるTgが観測できない場合に、非相溶であると判断することができる。
【0067】
ポリマーブロックAおよびポリマーブロックBとしては、基材重合体に対する相溶性が上記の関係にあるものを用いればよいが、ループ構造を好適に形成できるという観点より、これらのSP値(溶解度パラメータ)に関し、ポリマーブロックAのSP値と、ポリマーブロックBのSP値との差は1.5(MPa)0.5以上であることが好ましく、3(MPa)0.5以上であることがより好ましく、5(MPa)0.5以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーブロックAのSP値に関し、ポリマーブロックAのSP値と、基材重合体とのSP値との差が0.5(MPa)0.5以下であることが好ましく、0.3(MPa)0.5以下であることがより好ましく、0.2(MPa)0.5以下であることがさらに好ましい。ポリマーブロックBのSP値に関し、ポリマーブロックBのSP値と、基材重合体のSP値との差が1.5(MPa)0.5以上であることが好ましく、3(MPa)0.5以上であることがより好ましく、5(MPa)0.5以上であることがさらに好ましい。なお、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックBのSP値は、たとえば、ポリマーハンドブック(第4版、Wiley-Interscience)に開示された値を用いることができる。
【0068】
ポリマーブロックAとしては、上述した特性を満たすものであればよく、特に限定されず、用いる基材重合体との関係で選択すればよいが、その具体例としては、上述した基材重合体を構成する樹脂またはゴムとして例示した樹脂またはゴムを構成する重合体セグメントからなるものなどが挙げられる。
【0069】
ブロック共重合体のポリマーブロックA部分の分子量(重量平均分子量(Mw))は、特に限定されないが、基材重合体と十分な相互作用を示し、これにより、ポリマーブロックBにより形成されるループ構造をより適切に支えることにより、耐久性をより高めることができるという観点より、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは1,000~50,000、さらに好ましくは1,000~20,000であり、さらにより好ましくは2,000~20,000、特に好ましくは2,000~6,000である。
【0070】
ポリマーブロックBとしては、上述した高分子鎖として説明したもののうち、基材重合体との間で上述した特性を満たすものが好ましく用いられる。
【0071】
基材重合体と、複数のブロック共重合体鎖とを溶剤中で混合する際に、用いる溶剤としては、特に限定されず、基材重合体と、ブロック共重合体鎖とを溶解あるいは分散可能な溶剤であれば何でもよい。たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等の含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル等のエステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0072】
このような溶剤中で、基材重合体と、複数のブロック共重合体鎖とを混合し、溶解あるいは分散させることで、混合液を得ることができる。次いで、得られた混合液を用いて、キャスト法やスピンコート法などにより製膜した後に、製膜した混合液中から溶剤を除去する。溶剤を介して基材重合体に対して分散状態にある複数のブロック共重合体鎖のうち一部が、溶剤が除去されることで、ポリマーブロックAについては、基材重合体と相溶した状態となったままで、ブロック共重合体鎖を構成するポリマーブロックBが、基材重合体と相分離して、ポリマーブロックAが基材重合体中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材重合体から露出した状態に変化させることができ、これにより、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体に固定されたループ構造を形成させることができる。
【0073】
溶剤を除去する方法としては、特に限定されず、用いる溶剤の種類に応じて選択すればよいが、50℃~100℃にて加熱する方法が好ましく、70~80℃にて加熱する方法がより好ましい。
【0074】
また、ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、次の製造方法によって製造することもできる。すなわち、基材重合体と、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロック共重合体とを加熱下で混合して溶融混合物を調製する工程と、溶融混合物を冷却させることで相分離を生じさせる工程とを備える製造方法により製造することもできる。この製造方法によっても、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材に固定されているループ構造のポリマーブラシの高分子鎖集合体を製造することができる。
【0075】
基材重合体と、複数のブロック共重合体とを加熱下で混合して溶融混合物を調製する際における加熱温度としては、特に限定されず、基材重合体またはブロック共重合体が溶融する温度、好ましくは基材重合体およびブロック共重合体鎖の両方が溶融する温度とすればよいが、好ましくは40~300℃、より好ましくは80~200℃である。
【0076】
得られた溶融混合物を用いて、キャスト法、スピンコート法またはディップコート法などにより製膜した後に、冷却させ、冷却により固化する過程において相分離を生じさせる。溶融混合されていることにより、基材重合体に対して分散状態にある複数のブロック共重合体のうち一部が、溶融状態から固体状態になる過程において、ポリマーブロックAについては、基材重合体と相溶した状態となったままで、ブロック共重合体を構成するポリマーブロックBが、基材重合体と相分離することで、ポリマーブロックAが基材重合体中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材重合体から露出した状態に変化させることができ、これによりループ構造を形成させることができるものである。
【0077】
溶融混合物を冷却する方法としては特に限定されないが、製膜した溶融混合物を室温下で静置する方法や、溶融混合物を構成する各成分の溶融温度よりも低い温度にて加温した状態で静置する方法などが挙げられる。
【0078】
(高分子鎖の数平均分子量および分子量分布指数)
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500~10,000,000であり、より好ましくは100,000~10,000,000である。
高分子鎖集合体における分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。
【0079】
高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、フッ化水素酸処理により基材から高分子鎖を切り出し、切り出した高分子鎖についてゲル浸透クロマトグラフィー法などのサイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析を行うことで測定することができる。
【0080】
また、グラフト重合法を用いて高分子鎖集合体を形成した場合には、高分子鎖の重合反応に際して生成するフリーポリマーが、基材に固定される高分子鎖と等しい分子量を有すると仮定して、そのフリーポリマーについてサイズ排除クロマトグラフィー法により、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を測定し、これをそのまま高分子鎖の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)として用いる方法も採用することもできる。なお、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、基材に固定される高分子鎖と重合反応時に生成するフリーポリマーでほぼ等しいことを確認している。
【0081】
フリーポリマーを用いる分子量の測定方法について具体的に説明する。高分子鎖を表面開始リビングラジカル重合で合成する際、重合溶液に遊離開始剤を添加すると、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖と同等の分子量および分子量分布を有するフリーポリマーを得ることができる。このフリーポリマーを、サイズ排除クロマトグラフィー法にて分析することにより、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を決定する。
【0082】
なお、サイズ排除クロマトグラフィー法での分析は、入手可能な分子量既知の同種単分散の標準試料を用いた較正法、多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量評価を行うものである。本明細書では、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の値は、多角度光散乱検出器ならびに各種標準試料の分子量検量線を用いて適切に算定した絶対値で示す。標準試料としては、ポリスチレン標準試料、ポリメチルメタクリレート標準試料、ポリエチレングリコール標準試料などが挙げられる。
【0083】
支持体表面における高分子鎖の密度は、0.01鎖/nm2以上であることが好ましく、0.05鎖/nm2以上であることがより好ましく、0.1鎖/nm2以上であることが更に好ましい。
【0084】
高分子鎖の密度は、単位面積当たりのグラフト量(W)と高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)を測定し、下記式を用いて求めることができる。
高分子鎖の密度(鎖/nm2)=W(g/nm2)/Mn×(アボガドロ数)
式において、Wは単位面積当たりのグラフト量を表し、Mnは高分子鎖集合体の数平均分子量を表す。
単位面積当たりのグラフト量(W)は、支持体がシリコンウエハのような平面基板の場合には、エリプソメトリー法により乾燥状態の膜厚、すなわち、高分子鎖集合体層の乾燥状態における厚みを測定し、バルクフィルムの密度を用いて、単位面積当たりのグラフト量(W)を算出することにより求めることができる。
高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)の測定方法については、上述した方法にて測定することができる。
【0085】
支持体表面における高分子鎖の表面占有率(ポリマーの断面積×高分子鎖の密度×100)は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。表面占有率は、支持体表面をグラフト点(1つ目の構成単位)が占める割合を意味し、最密充填で100%である。高分子鎖の密度の算出方法については、上述した方法にて測定することができる。ポリマーの断面積は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さとポリマーのバルク密度を用いて求めることができる。
【0086】
[B]ボトルブラシ構造を有するポリマー
次に、ボトルブラシ構造を有するポリマーについて説明する。
ボトルブラシ構造は、主鎖から複数の側鎖が分岐していて、全体としてボトルブラシ様の形状をなす分岐高分子構造のことをいう。ボトルブラシ構造を有するポリマーは、主鎖の高分子鎖が基材を構成し、側鎖が高分子鎖集合体を構成するが、さらに、ボトルブラシ構造を有するポリマーが支持体などに固定されていてもよい。
【0087】
ボトルブラシ構造を有するポリマーも、グラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、予め合成した反応性側鎖(グラフト鎖)を、主鎖となる幹ポリマーに結合させるGrafting-to法、マクロ開始剤(重合開始基を導入した幹ポリマー)の重合開始基から側鎖(グラフト鎖)を成長させるGrafting-from法、マクロモノマー(側鎖構成ポリマーの末端に重合性官能基を有するポリマー)を重合させるGrafting-through法を用いて行うことができる。また、これらの側鎖や幹ポリマーの合成には、リビングアニオン重合、開環メタセシス重合(ROMP)、あるいは汎用性の高いリビングラジカル重合法(LRP)を用いることができる。ボトルブラシ構造を有するポリマーの好ましい例として、式(11)で表される化合物を挙げることができる。
【0088】
【0089】
式(11)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R3は置換基を表し、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましい。R4及びR5は原子または原子団からなる末端基を表し、水素原子、ハロゲン、重合開始剤由来の官能基等が挙げられる。Xは、OまたはNHを表し、Yは、2価の有機基を表し、nは、10以上の整数を表し、Polymer Aは、高分子鎖を表す。式(11)で表される化合物では、nで括られた構成単位の繰り返し構造がボトルブラシ構造の主鎖に相当し、Polymer Aがボトルブラシ構造の側鎖に相当する。
【0090】
Yが表す有機基として、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基(RO)(Rは炭素数1~5のアルキレン基を表す)、このオキシアルキレン基が複数連結した連結構造、または、これらの有機基(炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基及びオキシアルキレン基の連結構造)のうちの少なくとも2つの組み合わせからなる2価の有機基等を挙げることができる。ここで、アルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、環状構造を有していてもよい。アルキレン基の具体例として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基を挙げることができる。このアルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、置換基で置換されていてもよい。置換基として、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を挙げることができ、これらの置換基はさらに置換基で置換されていてもよい。Polymer Aの説明と好ましい範囲、具体例については、上述した高分子鎖上記の(高分子鎖)の欄の記載を参照することができる。Polymer Aは、主鎖の構成単位同士で、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
ボトルブラシ構造を有するポリマーについて、主鎖を中心軸とし、その中心軸から側鎖(グラフト鎖)を直線状に延ばして、その先端を含む面(仮想外周部)を想定したとき、そのポリマーの外形は、その先端を含む面を側面とする円柱と捉えることができる。こうした外形を有するポリマーでは、側鎖(グラフト鎖)の長さが長くなる程、その側面における側鎖(グラフト鎖)の密度が低下し、側鎖(グラフト鎖)の構造上の自由度が高くなる。その結果、側鎖(グラフト鎖)は自由に折り畳まれ得ることになる。
【0092】
ボトルブラシ構造を有するポリマーにおいて、側鎖の表面占有率(σ*)は、下記式(1)で表される。
【0093】
【0094】
式(1)において、σは、下記式(2)で求められる、仮想外周部の側鎖の密度を表し、側鎖部分の繰り返し単位1個当たりの体積(V0[nm3])は、下記式(3)で求められる。
【0095】
【0096】
【0097】
式(2)において、αは、主鎖および側鎖部分の繰り返し単位の長さを表す。
【0098】
式(2)で求められる側鎖の密度(σ)は、ポリマー側面の、単位面積当たりの側鎖の数を示すため、式(1)で求められる側鎖の表面占有率(σ*)は、側鎖を主鎖から垂直方向に直線上に伸ばした状態での、ポリマー側面における側鎖先端部が占める割合を表す値である。側鎖の表面占有率(σ*)は0~100%の値を示し、数値が大きくなる程、ポリマー側面の側鎖先端部が占める割合が大きくなり、側鎖の自由度が制限されることになる。すなわち、側鎖の表面占有率は、側鎖の自由度を反映する数値であり、側鎖の表面占有率(σ*)が高い程、側鎖の構造上の自由度が制限される。その結果、側鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持することができ、その構造に特有の性質を示すと推測される。
【0099】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの側鎖の表面占有率は1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。
【0100】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの側鎖の密度は、0.01鎖/nm2以上であることが好ましく、0.05鎖/nm2以上であることがより好ましく、0.1鎖/nm2以上であることが更に好ましい。
【0101】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの数平均分子量は、1,000~10,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることがより好ましく、5,000~500,000であることがさらに好ましい。
【0102】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。
【0103】
[膨潤液]
次に、ブラシ層に含まれる膨潤液について説明する。膨潤液としては、ブラシ層を構成する高分子鎖集合体の種類に応じて適宜選択することができる。膨潤液は親水性の液状であってもよく、疎水性の液状であってもよい。膨潤液は、ブラシ層を構成する高分子鎖集合体に対する親和性の高い液体であることが好ましい。
【0104】
また、ブラシ層に含まれる膨潤液の高分子鎖集合体に対する親和性は、潤滑液の高分子鎖集合体に対する親和性よりも高いことが好ましい。この態様によれば、経時でのブラシ層の膨潤度の低下を抑制することもでき、優れた潤滑特性などを長期にわたって維持することができる。なお、「膨潤液の高分子鎖集合体に対する親和性が、潤滑液の高分子鎖集合体に対する親和性よりも高い」とは、膨潤液が潤滑液よりも高分子鎖集合体に対してより大きな膨潤度を与える液体であることを意味する。
潤滑液でのブラシ層を膨潤させた際のブラシ層の膨潤度(膨潤度1)に対する膨潤液でブラシ層を膨潤させた際のブラシ層の膨潤度(膨潤度2)の割合(膨潤度2/膨潤度1)は、1.01以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましく、1.1以上であることが更に好ましく、1.5以上であることが特に好ましい。ここで、ブラシ層の膨潤度とは、以下で定義される値である。
ブラシ層の膨潤度=試料液体で膨潤後のブラシ層の膜厚/ブラシ層の乾燥膜厚
【0105】
膨潤液の具体例としては、例えば、水、イオン液体、深共晶溶媒、鉱油(パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油など)、炭化水素系オイル(ポリブテン、ポリ-α-オレフィン(PAO)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなど)、ポリオールエステル(POE)、シリコーンオイル、フッ素系溶剤、及び、これらの液体の混合液などが挙げられる。
【0106】
膨潤液は、1種の液体のみで構成されていてもよく、2種以上の液体の混合物であってもよい。また、膨潤液には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、界面活性剤などが挙げられる。
【0107】
イオン液体とは、イオン性液体または常温溶融塩とも呼称される、イオン伝導性を有する低融点の塩である。イオン液体の多くは、カチオンとしての有機オニウムイオンと、アニオンとしての有機または無機アニオンとを組み合わせることにより得られる比較的低融点の特性を有するものである。イオン液体の融点は、通常100℃以下、好ましくは室温(25℃)以下である。イオン液体の融点は、示差走査熱量計(DSC)などにより測定することができる。
【0108】
イオン液体としては、下記式(20)で表される化合物を用いることができる。このイオン液体の融点は、50℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
【0109】
【0110】
式(20)において、R21、R22、R23およびR24は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基、またはR’-O-(CH2)n-で表されるアルコキシアルキル基を表し、R’はメチル基またはエチル基を表し、nは1~4の整数である。R21、R22、R23およびR24は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R21、R22、R23およびR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。但し、R21、R22、R23およびR24の少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。X21は窒素原子またはリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。
【0111】
R21、R22、R23およびR24における炭素数1~5のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
R21、R22、R23およびR24において、R’-O-(CH2)n-で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基またはエトキシメチル基、2-メトキシエチル基または2-エトキシエチル基、3-メトキシプロピル基または3-エトキシプロピル基、4-メトキシブチル基または4-エトキシブチル基等が好ましい。
R21、R22、R23およびR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成している化合物としては、X21に窒素原子を採用した場合には、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等を有する4級アンモニウム塩等が好ましく、X21にリン原子を採用した場合には、ペンタメチレンホスフィン(ホスホリナン)環等を有する4級ホスホニウム塩等が好ましい。また、4級アンモニウム塩としては、置換基として、R’がメチル基であり、nが2の2-メトキシエチル基を少なくとも1つ有するものが好適である。
Yにおける一価のアニオンとしては、BF4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、AlCl4
-、NbF6
-、HSO4
-、ClO4
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、CF3CO2
-、(CF3SO2)2N-、Cl-、Br-、I-等が挙げられ、BF4
-、PF6
-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3
-、またはCF3CO2
-であることが好適である。
【0112】
イオン液体としては、式(20)のR21がメチル基で、R23およびR24がエチル基で、R24がR’-O-(CH2)n-で表されるアルコキシアルキル基である構造の化合物が好ましく用いられる。
【0113】
式(20)で表される化合物のうち、好適に用いられる4級アンモニウム塩および4級ホスホニウム塩の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【0114】
【0115】
また、イオン液体としては、イミダゾリウムイオンを含むイオン液体や芳香族系カチオンを含むイオン液体を用いることもできる。
【0116】
ブラシ層を膨潤液で膨潤させる方法としては、特に限定されないが、例えば、部材上に形成した高分子鎖集合体を含む層の表面に膨潤液を塗布して、その後、静置する方法や、分子鎖集合体を含む層が形成された部材を、膨潤液中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0117】
<<潤滑液>>
本発明の材料は、ブラシ層の表面上に潤滑液を有する。そして、
図1に示すように、本発明の材料においては、ブラシ層に含まれる膨潤液と、ブラシ層上の潤滑液とが相分離しており、ブラシ層上に膨潤液と潤滑液との液液相分離界面が形成されている。
【0118】
潤滑液としては、膨潤液と相分離して上記液液相分離界面を形成しうるものが用いられる。潤滑液の具体例としては、例えば、水、イオン液体、深共晶溶媒、鉱油(パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油など)、炭化水素系オイル(ポリブテン、ポリ-α-オレフィン(PAO)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなど)、ポリオールエステル(POE)、シリコーンオイル、フッ素系溶剤、及び、これらの液体の混合液などが挙げられる。潤滑液は、1種の液体のみで構成されていてもよく、2種以上の液体の混合物であってもよい。また、潤滑液には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤の具体例としては、界面活性剤、摩擦調整剤などが挙げられる。摩擦調整剤としては、オレイン酸などの脂肪酸などが挙げられる。
【0119】
潤滑液は、ブラシ層に含まれる膨潤液に対して非相溶性の液体であることが好ましい。この態様によれば、より明確な液液相分離界面をブラシ層上に形成しやすく、相手部材との摺動時の摩擦係数をより低下できる。更には、経時でのブラシ層の膨潤度の低下を抑制することもでき、優れた潤滑特性を長期にわたって維持することもできる。なお、本明細書において、潤滑液が膨潤液に対して非相溶性の液体である場合とは、潤滑液が膨潤液に対して全く溶解しない液体である場合のみならず、膨潤液に対してわずかに溶解する液体も包含する。潤滑液が膨潤液に対して非相溶性の液体である場合、23℃の潤滑液に対する膨潤液の溶解度は1.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることが更に好ましく、0.05質量%以下であることがより一層好ましく、0.01質量%以下であることが更に一層好ましい。
【0120】
潤滑液は、膨潤液とは異なる液体1と、膨潤液の基液である液体2とを含むことが好ましい。このような潤滑液を用いた場合、例えば、摺動時の圧縮などによりブラシ層から潤滑液が外部に排出されても、潤滑液側からブラシ層へ潤滑液成分である上記液体2を補充できるので、経時でのブラシ層の膨潤度の低下を抑制でき、優れた潤滑特性を長期にわたって維持することができる。なお、本明細書において、膨潤液の基液とは、膨潤液に含まれる成分のうち、最も含有量が多い液体のことを意味する。膨潤液の基液は、1種の液体で構成されていてもよく、2種以上の液体の混合液であってもよい。
【0121】
膨潤液と異なる液体1と、膨潤液の基液である液体2を含む潤滑液の好ましい形態としては、以下の態様1、態様2の潤滑液が挙げられる。
態様1:膨潤液と異なる液体1中に、膨潤液の基液である液体2が飽和溶解している態様の潤滑液。
態様2:膨潤液と異なる液体1が膨潤液に対して非相溶性の液体であり、かつ、前述の液体1中に、膨潤液の基液である液体2が分散しているエマルションである態様の潤滑液。
【0122】
上記態様1の潤滑液において、23℃の上記液体1に対する上記液体2の溶解度は5.00質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以下であることがより好ましく、2.00質量%以下であることが更に好ましい。下限は、0.01質量%以上とすることができ、0.05質量%以上とすることができる。
【0123】
上記態様2の潤滑液において、23℃の上記液体1に対する上記液体2の溶解度は3.00質量%以下であることが好ましく、2.00質量%以下であることがより好ましく、1.00質量%以下であることが更に好ましく、0.50質量%以下であることがより一層好ましく、0.10質量%以下であることが更に一層好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
上記態様2の潤滑液は、更に界面活性剤を含むことも好ましい。この態様によれば、エマルションの安定化を図ることができる。
【0124】
<潤滑システム>
次に、本発明の摺動システムについて説明する。
本発明の摺動システムは、
摺動面を有する部材と、前述部材の摺動面と対向する位置に設けられた対向部材とを有する摺動システムであって、
摺動面を有する部材上に、複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体および膨潤液を含み、膨潤液によって膨潤されたブラシ層を有し、
ブラシ層と対向部材との間に潤滑液を有し、
ブラシ層に含まれる膨潤液と、潤滑液とが相分離して液液相分離界面が形成されていることを特徴する。
【0125】
ブラシ層及び潤滑液については上述した内容と同義である。
【0126】
摺動面を有する部材としては、特に限定はなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、軸受、カム、バルブリフタ、フォロワ、シム、バルブ、バルブガイド、シリンダライナー、ピストン、ピストンリング、ピストンピン、クランクシャフト、歯車、ロータ、ロータハウジング、バルブ、バルブガイド、ポンプ等が挙げられる。
【0127】
対向部材としては、特に限定はなく、用途に応じて適宜選択することができる。また、対向部材の表面に、上記膨潤液を含む複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体の層や、上記膨潤液を含む高分子網目構造体の層が形成されていてもよい。対向部材の表面に形成されたこれらの層に含まれる膨潤液は、潤滑液と同じものであってもよく、潤滑液とは異なるものであってもよい。また、対向部材の表面に潤滑液を含むゲル膜が設けられていてもよい。また、ゲル膜は、摺動面を有する部材と、対向部材との間に設けられていてもよい。
【0128】
上記ゲル膜としては、ボトルブラシ構造を有するポリマーと、補強フィラーとを含む膜を液体で膨潤させた材料が挙げられる。ボトルブラシ構造を有するポリマーとしては上述したものが挙げられる。ゲル膜に含まれる液体としては、上述した潤滑液や膨潤液の項で説明したものが挙げられる。補強フィラーとしては、繊維質物質、非多孔質性無機材料、高分子三次元網目構造を有する物質等が挙げられる。繊維質物質は繊維集合体からなる物質である。繊維集合体を構成する繊維は、セルロース、繊維状タンパク質、鉱物繊維、無機繊維、合成繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブのいずれであってもよいが、柔軟性を有することから、セルロース、繊維状タンパク質、合成繊維であることが好ましく、セルロースであることがより好ましい。セルロースは、セルロースナノファイバー(繊維径が1~500nmのセルロース繊維)であることが好ましい。セルロースナノファイバーとして、木材等の植物由来のものやバクテリア由来のものを挙げることができる。植物由来のセルロースナノファイバーは、生産性が高く、低コストであることから、実用性が高い。いずれに由来するものであっても、繊維が絡み合ったネットワーク構造を有しており、液体を含浸させると膨潤してゲル化し、ゲル化後においてもネットワーク構造を維持している繊維質物質を好ましく採用することができる。高分子三次元網目構造を有する物質としては、複数のポリマー鎖同士の間に架橋構造が形成されて三次元網目構造が構築された高分子からなる物質が挙げられる。非多孔質性無機材料としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ナノカーボン材料(グラフェン等)、クレイ、層状ケイ酸塩が挙げられる。
【0129】
摺動システムの具体例としては、車両等の車輪駆動系ユニット、電動モーターの軸駆動系、コンプレッサー、スピーカー等が挙げられる。
【実施例】
【0130】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0131】
(製造例1) 試験体1の製造
不活性ガス雰囲気下、フッ素樹脂容器に、メチルメタクリレート(以下MMA)の30.9g、エチル2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(以下EBIB)の0.000301g、臭化銅(I)(以下Cu(I)Br)の0.144g、臭化銅(II)(以下Cu(II)Br2)の0.0248g、4,4’-ジノニル-2,2’-ビピリジル(以下dNbipy)の0.909gおよびアニソールの32.0gを投入し、混合した。次いで、容器に(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下BPM)が表面に固定化されたガラスディスク(OPB-30C01-1、シグマ光機製)ないしはシリコン製ディスクを投入した。次いで、容器を密閉してアルミ袋で覆った後、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で5時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からディスクを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、ディスクの表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体1を得た。重合の転化率は13%であった。転化率は1H-NMR(JEOL製ECS400, d-chloroform使用)より算出した。
【0132】
ディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は830nm、数平均分子量が198万、分子量分布指数(PDI)が1.28、高分子鎖の密度が0.30鎖/nm2、高分子鎖の表面占有率は17%であった。なお、ポリマーブラシ層の乾燥膜厚はエリプソメータを用い分光エリプソメトリー法で測定した。ポリマーブラシ層の数平均分子量および分子量分布指数は、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用い、検出器として多角度光散乱検出器および示唆屈折率検出器を用いたゲル浸透クロマトグラフィー法で算出した。
【0133】
(製造例2) 試験体2の製造
製造例1と同様の手順にて、ディスク表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体2を得た。ディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は717nmであった。
【0134】
(製造例3) 試験体3の製造
不活性ガス雰囲気下、フッ素樹脂容器に、MMAの30.9g、Cu(I)Brの0.140g、Cu(II)Br2の0.0298g、dNbipyの0.909gおよびアニソールの32.0gを投入し、混合した。次いで、容器にBPMが表面に固定化されたガラスディスク(OPB-30C01-1、シグマ光機製)を投入した。次いで、容器を密閉してアルミ袋で覆った後、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で10時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からディスクを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、ディスクの表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体3を得た。重合の転化率は13%であった。ディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は1556nmであった。
【0135】
(製造例4) 試験体4の製造
不活性ガス雰囲気下、フッ素樹脂容器に、MMAの72.5g、EBIBの0.00706g、Cu(I)Brの0.336g、Cu(II)Br2の0.0582g、dNbipyの2.13gおよびアニソールの75.0gを投入し、混合した。次いで、容器にBPMが表面に固定化されたガラスディスク(OPB-30C01-1、シグマ光機製)を投入した。次いで、容器を密閉してアルミ袋で覆った後、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で4時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からガラスディスクを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、ガラスディスクの表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体4を得た。重合の転化率は10%であった。ガラスディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は778nm、数平均分子量が208万、分子量分布指数(PDI)が1.34であった。
【0136】
(製造例5) 試験体5の製造
不活性ガス雰囲気下、フッ素樹脂容器に、MMAの29.0g、EBIBの0.00282g、Cu(I)Brの0.135g、Cu(II)Br2の0.0233g、dNbipyの0.852gおよびアニソールの30.0gを投入し、混合した。次いで、容器にBPMが表面に固定化されたガラスレンズ(直径10mm、曲率半径6mm、SLB-10、シグマ光機製)を投入した。次いで、容器を密閉してアルミ袋で覆った後、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で4時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からガラスレンズを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、ガラスレンズの表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体5を得た。重合の転化率は17%であった。ガラスレンズ表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は988nm、数平均分子量が211万、分子量分布指数(PDI)が1.36であった。なお、ガラスレンズ表面のポリマーブラシ層の乾燥膜厚については、ガラスディスクの表面に上記と同じ条件で重合を行って形成したポリマーブラシ層の乾燥膜厚の値を用いた。
【0137】
(製造例6) 試験体6の製造
ガラスレンズ(直径10mm、曲率半径6mm、SLB-10、OptoSiguma製)を、アセトン中で30分間、クロロホルム中で30分間および2-プロパノール中で30分間それぞれ超音波洗浄を行ったのち、ガラスレンズの表面にUVオゾンを10分間照射した。次に、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)/エタノール/アンモニア水=1/89/10(質量比)の混合液に浸漬し、24時間浸漬してガラスレンズの表面に重合開始基を導入した。次に、不活性ガス雰囲気下、フッ素樹脂容器に、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)(以下、PEGMA)の79.4g、EBIBの0.000155g、Cu(I)Brの0.0788g、Cu(II)Br2の0.0051g、diNbipの0.514g、アニソールの80.0gを投入し、混合した。次いで、容器を密閉してアルミ袋で覆い、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で3時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からガラスレンズを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、ガラスレンズの表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体6を得た。ガラスレンズ表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は461nm、数平均分子量が269万、分子量分布指数(PDI)が1.12であった。なお、ガラスレンズ表面のポリマーブラシ層の乾燥膜厚については、ガラスディスクの表面に上記と同じ条件で重合を行って形成したポリマーブラシ層の乾燥膜厚の値を用いた。
【0138】
(製造例7) 試験体7の製造
製造例1と同様の手順にて、ガラスディスク表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体7を得た。ディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は568nmで、高分子鎖の密度が0.24鎖/nm2、高分子鎖の表面占有率は14%であった。
【0139】
(製造例8) 試験体8の製造
製造例1と同様の手順にて、ガラスディスク表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体8を得た。ディスク表面に形成されたポリマーブラシ層の乾燥膜厚は707nmで、高分子鎖の密度が0.30鎖/nm2、高分子鎖の表面占有率は17%であった。
【0140】
[試験例1]
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。
試験体2のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、エアダスターにて溶媒を除去した後、エリプソメータにてポリマーブラシ層の膜厚を測定した。イオン液体で膨潤後のポリマーブラシ層の膜厚は1783nm(膨潤度2.49倍)であった。
次に、イオン液体で膨潤されたポリマーブラシ層を有するディスクを、MEMP-TFSI飽和水(MEMP-TFSIを1.5質量%含む水溶液、25℃での粘度0.971mPa・s)、PAO10(ポリ-α-オレフィン、Durasyan 170、INEOS社、25℃での粘度110mPa・s)、または水中に30分間浸漬させた。次いで、エアダスターにて溶媒を除去した後、エリプソメータにてポリマーブラシ層の膜厚を測定した。
MEMP-TFSI飽和水に浸漬後のポリマーブラシ層の膜厚は1507nm(膨潤度2.10倍)であった。
PAO10に浸漬後のポリマーブラシ層の膜厚は1803nm(膨潤度2.51倍)であった。
水に浸漬後のポリマーブラシ層の膜厚は790nm(膨潤度1.10倍)であった。
なお、MEMP-TFSI飽和水およびPAO10はいずれも、MEMP-TFSIの溶解度が検出限界値以下(例えば0.01質量%以下)であり、MEMP-TFSIに対して実質的に非相溶性の液体である。
上記結果より、イオン液体で膨潤されたポリマーブラシ層に接触させる液体として、ポリマーブラシ層中の膨潤液との相溶性の低い液体を用いることで、あるいはイオン液体が飽和溶解した液体を用いることで、ポリマーブラシ層の膨潤度の低下を抑制することができることが分かる。
【0141】
[試験例2]
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。試験体1のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、この試験体1について、ボールオンディスク方式の摩擦試験により、摩擦特性の評価を行った。試験装置は、ブルカー社製トライボ試験機UMTを用い、対向部材には、ガラスレンズ(直径10mm、曲率半径6mm、SLB-10、シグマ光機製)を用い、垂直荷重1~10N、摩擦速度5.2~1538mm/秒、摩擦時間6.5~10分、試験温度23℃、潤滑液として以下の潤滑液1~3のいずれかの存在下で摩擦試験を実施した。
【0142】
潤滑液1:水(25℃での粘度0.89mPa・s)
潤滑液2:MEMP-TFSI飽和水(MEMP-TFSIを1.5質量%含む水溶液、25℃での粘度0.971mPa・s)
潤滑液3:PAO10(ポリ-α-オレフィン、Durasyan 170、INEOS社、25℃での粘度109.8mPa・s)
【0143】
結果を
図2~4に記す。
図2は、潤滑液1を用い、垂直荷重4Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
図3は、潤滑液2を用い、垂直荷重1N、2N、4N、10Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
図4は、潤滑液3を用い、垂直荷重4N、10Nの条件で摩擦試験を行ったストライベック曲線である。
図2~4中の、ηは各潤滑液の粘度(mPa・s)であり、νは摩擦速度であり、F
Nは垂直荷重であり、Coefficient of Frictionは、摩擦係数であって、摩擦力(F
X)/垂直荷重(F
N)である。摩擦力(F
X)は正回転および逆回転の平均である。
なお、潤滑液2、3を用いた場合は、ポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)と潤滑液2、3との間で相分離が生じ、液液相分離界面が形成されていた。一方、潤滑液1を用いた場合は、潤滑液1がポリマーブラシ層中の膨潤液に流出しており、液液相分離界面が形成されていなかった。
【0144】
図2~4に示すように、潤滑液として、ポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)に対して実質的に非相溶性の液体である潤滑液2、3を用いることにより、潤滑液1を用いた場合よりも摩擦係数(Coefficient of Friction)を小さくでき、潤滑特性に優れていた。
【0145】
[試験例3]
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。
試験体1のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、この試験体1について、ボールオンディスク方式の摩擦試験により、摩擦特性の評価を行った。試験装置は、ブルカー社製トライボ試験機UMTを用い、対向部材には、ガラスレンズ(直径10mm、曲率半径6mm、SLB-10、シグマ光機製)を用い、垂直荷重4Nまたは10N、摩擦速度5.2~1538mm/秒、摩擦時間6.5~10分、試験温度23℃、潤滑液として以下の潤滑液11~13のいずれかの存在下で摩擦試験を実施した。
【0146】
潤滑液11:POE(ポリオールエステル、直鎖型、JXTGエネルギー製 RB74AF、25℃での粘度38.5mPa・s)
潤滑液12:MEMP-TFSI飽和POE(POEにMEMP-TFSIを2質量%添加後、混合及び静置して調製した液)
潤滑液13:POE中にMEMP-TFSIが分散したエマルション(MEMP-TFSIの含有量は2質量%、POEにMEMP-TFSIを2質量%添加後、ボルテックス・ミキサーによる混合直後の液)
【0147】
結果を
図5に記す。
図5中の、ηは潤滑液11の粘度(mPa・s)であり、νは摩擦速度であり、F
Nは垂直荷重であり、Coefficient of Frictionは、摩擦係数であって、摩擦力(F
X)/垂直荷重(F
N)である。摩擦力(F
X)は正回転および逆回転の平均である。
なお、潤滑液11~13のいずれを用いた場合においても、ポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)と潤滑液11~13との間で相分離が生じ、液液相分離界面が形成されていた。
【0148】
図5に示すように、いずれも摩擦係数(Coefficient of Friction)が小さく、潤滑特性に優れていた。特に、潤滑液として、エマルションである潤滑液13を用いた場合においては、摩擦係数をより小さくでき、より優れた潤滑特性を示していた。
【0149】
[試験例4]
ブロックコポリマー(ポリラウリルメタクリレート(PLMA)とポリ(ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PPEGMA)のジブロック共重合体(PLMA-block-PPEGMA)、数平均分子量10500、分子量分布指数(PDI)1.24)を2質量%になるようにPAO10(ポリ-α-オレフィン、25℃での粘度109.8mPa・s)またはPAO100(ポリ-α-オレフィン、25℃での粘度2407.8mPa・s)に添加し、溶解させた。次に、MEMP-TFSIを10質量%添加した後、ホモジナイザー(IKA Ultra turrax T 25B)を用いて10000rpm、3分の条件でエマルジョン化して潤滑液21、22を製造した。なお、潤滑液21はPAO10を使用したものであり、潤滑液22はPAO100を使用したものである。
【0150】
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。
試験体3のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、この試験体3について、ボールオンディスク方式の摩擦試験により、摩擦特性の評価を行った。試験装置は、ブルカー社製トライボ試験機UMTを用い、対向部材には、ガラスレンズ(直径10mm、曲率半径6mm、SLB-10、シグマ光機製)を用い、垂直荷重0.1N、0.5N、1Nまたは4N、摩擦速度5.2~1538mm/秒、摩擦時間6.5~10分、試験温度23℃、潤滑液として上記潤滑液21~22のいずれかの存在下で摩擦試験を実施した。
【0151】
結果を
図6に記す。
図6中の、ηはPAO10またはPAO100の粘度(mPa・s)であり、νは摩擦速度であり、F
Nは垂直荷重であり、Coefficient of Frictionは、摩擦係数であって、摩擦力(F
X)/垂直荷重(F
N)である。摩擦力(F
X)は正回転および逆回転の平均である。
潤滑液21、22のいずれを用いた場合においても、ポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)と潤滑液との間で相分離が生じ、液液相分離界面が形成されていた。
【0152】
図6に示すように、いずれも摩擦係数(Coefficient of Friction)が小さく、潤滑特性に優れていた。
【0153】
[試験例5]
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。
試験体4のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、この試験体4について、ボールオンディスク方式の摩擦試験により、摩擦特性の評価を行った。試験装置は、ブルカー社製トライボ試験機UMTを用い、対向部材には、上記試験体5(ポリマーブラシ層が形成されたガラスレンズ)または上記試験体6(ポリマーブラシ層が形成されたガラスレンズ)を用い、垂直荷重5N、10N、20N、30Nまたは40N、摩擦速度5.2~1538mm/秒、摩擦時間6.5~10分、試験温度23℃、潤滑液として上記潤滑液2(MEMP-TFSI飽和水(MEMP-TFSIを1.5質量%含む水溶液、25℃での粘度0.971mPa・s)の存在下で摩擦試験を実施した。なお、試験体4および試験体5のポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)と潤滑液との間で相分離が生じ、液液相分離界面が形成されていた。
【0154】
対向部材として試験体5を用いた場合のストライベック曲線を
図7に記し、対向部材として試験体6を用いた場合のストライベック曲線を
図8に記す。
図7,8中の、ηは潤滑液2の粘度(mPa・s)であり、νは摩擦速度であり、F
Nは垂直荷重であり、Coefficient of Frictionは、摩擦係数であって、摩擦力(F
X)/垂直荷重(F
N)である。摩擦力(F
X)は正回転および逆回転の平均である。
【0155】
図7、8に示すように、対向部材の表面にポリマーブラシ層を形成することで摩擦係数(Coefficient of Friction)をより小さくでき、より優れた潤滑特性が得られた。
【0156】
[試験例6]
ポリマーブラシ層を膨潤させる液体(膨潤液)として、イオン液体であるN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSI)を用いた。
試験体7または試験体8のポリマーブラシ層の表面に、上記膨潤液を塗布してポリマーブラシ層を上記膨潤液で膨潤させた。次いで、これらの試験体について、ボールオンディスク方式の摩擦試験により、摩擦特性の評価を行った。試験装置は、ブルカー社製トライボ試験機UMTを用い、対向部材には、鋼鉄球(直径10mm)を用い、垂直荷重2~20N(500秒ごとに2Nずつ段階的に増加)、摩擦速度10mm/秒、試験温度40℃、試験体7については潤滑液31を用い、試験体8については潤滑液32を用いて摩擦試験を実施した。
【0157】
潤滑液31:MEMP-TFSI飽和水(MEMP-TFSIを1.5質量%含む水溶液)
潤滑液32:オレイン酸含有MEMP-TFSI飽和水(MEMP-TFSIを1.5質量%、オレイン酸を0.1質量%含む水溶液)
【0158】
結果を
図9、10に記す。
図9は、潤滑液31を用いた場合の試験結果であり、
図10は、潤滑液32を用いた場合の試験結果である。
図9~10中の、F
Zは垂直荷重であり、F
Xは摩擦力であって、正回転および逆回転の平均である。なお、潤滑液31、32を用いた場合のいずれにおいても、ポリマーブラシ層中の膨潤液であるイオン液体(MEMP-TFSI)と潤滑液との間で相分離が生じ、液液相分離界面が形成されていた。
【0159】
図9、10の結果から把握できるように、オレイン酸を含む潤滑液32を用いた場合においては、垂直荷重を段階的に増加させても、低摩擦を維持することができた。
【符号の説明】
【0160】
1:材料
10:支持体
20:ブラシ層
21:ブラシ状の高分子鎖集合体
22:膨潤液
30:潤滑液
40:液液相分離界面