(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】二酸化炭素の固定化方法、二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 40/02 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
C04B40/02
(21)【出願番号】P 2023090129
(22)【出願日】2023-05-31
【審査請求日】2023-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発/CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの開発/CARBON POOLコンクリートの開発と舗装および構造物への実装 委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【氏名又は名称】鳥野 正司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 好幸
(72)【発明者】
【氏名】坂本 守
(72)【発明者】
【氏名】吉野 玲
(72)【発明者】
【氏名】谷田貝 敦
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豪
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-040557(JP,A)
【文献】特開2021-155311(JP,A)
【文献】特開2022-126254(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115515701(CN,A)
【文献】特開2022-153131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0265019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 40/02
C01B 32/50
B01D 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体に、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1以上の炭酸塩の水溶液を供給する炭酸塩供給工程を含
み、前記水溶液のpHが11以上14以下である、前記セメント硬化体への二酸化炭素の固定化方法
(前記セメント硬化体が既設コンクリート構造物であって、当該既設コンクリート構造物の表面から内部に向かって所定の長さを有する孔を開け、当該孔に前記水溶液を供給する場合を除く。)。
【請求項2】
前記水溶液が炭酸カリウムを含み、当該水溶液中の炭酸カリウムの濃度が15質量%以上である、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記セメント硬化体への前記水溶液の供給方法が、前記セメント硬化体を前記水溶液中に浸漬する方法である、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記セメント硬化体への前記水溶液の供給方法が、前記セメント硬化体に前記水溶液を散水する方法である、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
二酸化炭素が固定化された部位における1トン当たりの固定化された二酸化炭素相当量が30kg以上である、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
カリウムイオンを含む水溶液に炭酸ガスを吸収させて炭酸カリウムの水溶液を得る炭酸ガス吸収工程を含み、
当該炭酸ガス吸収工程の操作が前記炭酸塩供給工程に先立って行われる、請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の二酸化炭素の固定化方法により全体または一部に二酸化炭素が固定化された、二酸化炭素固定化セメント硬化体。
【請求項8】
請求項1~6の何れかに記載の二酸化炭素の固定化方法によりセメント硬化体の全体または一部に二酸化炭素を固定化する工程を含む、二酸化炭素固定化セメント硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の固定化方法、当該固定化方法により二酸化炭素が固定化された二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球の温暖化を抑止するために、温室効果ガスの一種である二酸化炭素の排出を実質的にゼロにする脱炭素化が叫ばれている。脱炭素化の目標の達成のために、二酸化炭素の排出量を抑制することの他、排出された二酸化炭素を固体や液体中に固定化する二酸化炭素の固定(炭素固定)の技術にも注目が集まっている。
【0003】
建設現場では、建築あるいは土木構造物であるコンクリート等に二酸化炭素を固定化する試みが為されている。コンクリート中に二酸化炭素を固定化するには、セメント硬化体中に二酸化炭素を供給し、水酸化カルシウム等のセメント水和物から炭酸カルシウムを生成させる従来からの中性化/炭酸化反応を利用する技術が用いられる。
【0004】
しかし、二酸化炭素の濃度が低い場合、二酸化炭素の固定化には長い時間を要してしまう。固定化の時間を短縮するために二酸化炭素の濃度を高くすると、二酸化炭素が大気に漏れるリスクが生じるため、密閉型の養生設備などが必要になってくる(特許文献1参照)。そのため、二酸化炭素の固定化は、広く実用化させるには至っていない。
【0005】
一方、炭酸ガス(二酸化炭素)を取り込んだ水(炭酸水や炭酸ナノバブル水等)をセメント硬化体に供給することで二酸化炭素を固定化する液相炭酸化技術も検討されている(非特許文献1参照)。しかし、二酸化炭素を多く水に溶解させるとpHが低下し、炭酸イオン濃度が低くなってしまうため二酸化炭素の固定化効率はそれほど高くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】片村祥吾、池尾陽作、西岡由紀子、竹内勇斗著、「CO2固定による再生細骨材の改質とモルタル基礎物性に及ぼす影響」、日本コンクリート工学会発行、コンクリート工学年次論文集,Vol.44,No.1、2022年6月15日、p.1186-1191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、セメント硬化体に効率的に二酸化炭素を固定化できる二酸化炭素の固定化方法、当該固定化方法により二酸化炭素が固定化された二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の本発明の一例により解決される。即ち、本発明の一例は、以下に示す通りである。
<1>
セメント硬化体に、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1以上の炭酸塩の水溶液を供給する炭酸塩供給工程を含む、二酸化炭素の固定化方法。
<2>
前記水溶液が炭酸カリウムを含み、当該水溶液中の炭酸カリウムの濃度が15質量%以上である、<1>に記載の二酸化炭素の固定化方法。
<3>
前記セメント硬化体への前記水溶液の供給方法が、前記セメント硬化体を前記水溶液中に浸漬する方法である、<1>に記載の二酸化炭素の固定化方法。
<4>
前記セメント硬化体への前記水溶液の供給方法が、前記セメント硬化体に前記水溶液を散水する方法である、<1>に記載の二酸化炭素の固定化方法。
<5>
二酸化炭素が固定化された部位における1トン当たりの固定化された二酸化炭素相当量6が30kg以上である、<1>に記載の二酸化炭素の固定化方法。
<6>
カリウムイオンを含む水溶液に炭酸ガスを吸収させて炭酸カリウムの水溶液を得る炭酸ガス吸収工程を含み、
当該炭酸ガス吸収工程の操作が前記炭酸塩供給工程に先立って行われる、<1>>に記載の二酸化炭素の固定化方法。
<7>
<1>~<6>の何れかに記載の二酸化炭素の固定化方法により全体または一部に二酸化炭素が固定化された、二酸化炭素固定化セメント硬化体。
<8>
<1>~<6>の何れかに記載の二酸化炭素の固定化方法により全体または一部に二酸化炭素を固定化する工程を含む、二酸化炭素固定化セメント硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セメント硬化体に効率的に二酸化炭素を固定化できる二酸化炭素の固定化方法、当該固定化方法により二酸化炭素が固定化された二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法は、セメント硬化体に、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1以上の炭酸塩の水溶液(以下、「供給液体」と称する。)を供給する、炭酸塩供給工程を含む。また、本実施形態にかかる二酸化炭素固定化セメント硬化体の製造方法は、本実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法により全体または一部に二酸化炭素を固定化する工程を含む。
以下、本発明の一実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法、及び、二酸化炭素固定化セメント硬化体の製造方法についてまとめて説明する。
【0013】
[炭酸塩供給工程]
(セメント硬化体)
本実施形態に用いられるセメント硬化体は、二酸化炭素を固定化する対象物であり、セメントが硬化した物体であれば特に制限なく用いることができる。本実施形態に用いられるセメント硬化体として具体的には、セメントペーストやモルタルの硬化体、コンクリート、再生骨材、コンクリートスラッジなどを挙げることができる。
【0014】
本実施形態において、セメント硬化体は、粉体状、粒子状、ブロック状、棒状、板状、塊状、壁状、意匠性を有する形状、定形、不定形等どのような形状でも構わない。また、セメント硬化体は、何らかの物体や構造物等の一部であっても構わないし、動産であっても不動産であっても構わない。
【0015】
(供給液体)
本実施形態においてセメント硬化体に供給する供給液体は、炭酸ナトリウムの水溶液、炭酸水素ナトリウムの水溶液、炭酸カリウムの水溶液、炭酸水素カリウムの水溶液、あるいはこれらの炭酸塩が2以上混合した水溶液である。これらアルカリ金属(ナトリウム、カリウム)のイオンは、炭酸ガス(二酸化炭素)を多量に取り込むことができるため、効率的に二酸化炭素の固定化に資することができる。
【0016】
これらの中でも、カリウムはより多くの炭酸ガスを取り込むことができるため、供給液体として、炭酸カリウムや炭酸水素カリウムを含む水溶液であることが好ましく、炭酸カリウムを含む水溶液であることがより好ましく、炭酸カリウムの水溶液であることがさらに好ましい。また、炭酸カリウムの水溶液は、低濃度であってもpH11以上の高アルカリを示すことから、この点においても、後述する通り高アルカリを維持したい供給液体において、好ましい。
【0017】
二酸化炭素の固定化の効率を高めるためには、供給液体中のアルカリ金属炭酸塩(アルカリ金属炭酸水素塩を含む。以下「アルカリ金属炭酸塩」といった場合に同様。)の濃度が高い方が好ましく、具体的には1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。なお、供給液体中のアルカリ金属炭酸塩の濃度は、供給(接液)されるセメント硬化体が濡れていたり、水分を含んでいたりする場合には、その水分量を考慮して調整すればよい。
【0018】
また、炭酸カリウムは炭酸ナトリウムに比して水への溶解度が高いのでより高濃度とすることができ、供給液体中の炭酸カリウムの濃度としては、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態において供給液体の準備は、特に制限はなく、工業的な生産物や副生産物として得てもよいし、他社乃至他者等の外部から供給を受けても構わない。また、植物灰、バイオマス灰などに含まれる炭酸カリウムを水に溶かして、所定の炭酸イオンとカリウムイオンを含む供給液体を得ることもできる。その他、後述する炭酸ガス吸収工程の操作によって供給液体を得ても構わない。
【0020】
(セメント硬化体への供給液体の供給)
炭酸塩供給工程において、セメント硬化体への供給液体の供給方法としては、セメント硬化体に供給液体を接液させることができればよく、特に制限はない。具体的には、セメント硬化体を供給液体中に浸漬する方法,セメント硬化体に供給液体を散水する方法,供給液体にセメント硬化体を透過させる方法等を挙げることができる。
【0021】
セメント硬化体の大きさが小さい場合には、セメント硬化体の全表面から含侵させて効率的に二酸化炭素を固定化することができるため、セメント硬化体を供給液体中に浸漬する方法が好ましい。一方、セメント硬化体の大きさが大きい場合や何らかの物体や構造物等の一部である場合、あるいは、不動産である場合には、セメント硬化体に供給液体を散水する方法が好ましい。セメント硬化体への供給液体の散水方法としては、特に制限はなく、ホース等で供給液体を流しかける方法、スプレーや霧吹き等でシャワー状あるいはミスト状の供給液体を吹きかける方法等を挙げることができる。
【0022】
セメント硬化体への供給液体の供給に際しては、セメント硬化体の内部に供給液体を効率よく含浸させるために、加圧・減圧などによって含浸を促進させてもよい。
【0023】
本実施形態において供給される供給液体のpHとしては、9以上であることが好ましく、11以上14以下であることがより好ましい。本実施形態において供給される供給液体はpHが高いため、いったん非晶質炭酸カルシウムが生成される段階を経てから、結晶性の塩基性炭酸カルシウムや炭酸カルシウムが生成される。また、供給液体のpHが高いことで、固定化後の二酸化炭素が炭酸イオンの状態で存在することができ、また、酸性劣化などが生じにくい。
【0024】
セメント硬化体に供給液体を供給する(接液させる)ことで、非晶質炭酸カルシウムや塩基性炭酸カルシウムが効率よく生成され、二酸化炭素が効率的に固定化される。非晶質炭酸カルシウムや塩基性炭酸カルシウムは、元々セメント硬化体中に含まれるカルシウムイオンと、供給液体中に含まれる炭酸イオンと、が反応することで生成されるため、供給液体中の炭酸イオンが消費され、セメント硬化体中に安定的に二酸化炭素を固定化することが可能となる。
【0025】
セメント硬化体への供給液体の供給(接液)による二酸化炭素の固定化は、効率的であるとともに反応が早いため、固定化のための時間(養生時間、養生日数)を短縮することができる。供給液体の供給方法(接液方法)にもよるが、24時間程度の養生時間でも固定化の反応を進めることができる。したがって、養生時間としては、より短い時間、例えば18時間、12時間、8時間あるいは4時間等、24時間よりも短い時間に設定することもできる。炭酸ガスによる固定化では、固定化の反応がある程度進むまで、数日かそれ以上の日数を要することから、本実施形態(供給液体の供給による固定化)によれば、養生時間(養生日数)の大幅な短縮を実現できる。
【0026】
セメント硬化体に供給液体を供給する際の供給液体の温度としては、特に制限はなく、常温(例えば20℃~30℃)で構わない。より低温でも構わないが、あまりに低温だと反応性が低下するため、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。また、例えば高温状態で高濃度のアルカリ金属炭酸塩が含まれている場合には、その濃度が保持される温度を維持したまま供給し(接液させ)、その後当該温度を維持させてもよいし、成り行きに任せても構わない。
【0027】
また、セメント硬化体に供給液体を供給する際の環境温度としては、特に制限はなく、常温(例えば20℃~30℃)で構わない。セメント硬化体を供給液体中に浸漬する方法の場合には、環境温度の影響を受けにくいが、セメント硬化体に供給液体を散水する方法の場合、散水後に供給液体の温度が環境温度の影響を受けるため、供給液体の温度を維持したい場合には、供給液体と環境温度の温度を同じあるいは近い温度(例えば、±10℃以内、好ましくは±5℃以内)にしておくことが好ましい。
【0028】
[炭酸ガス吸収工程]
本実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法においては、カリウムイオンを含む水溶液に炭酸ガスを吸収させて炭酸カリウムの水溶液を得る炭酸ガス吸収工程を含んでも構わない。
【0029】
当該炭酸ガス吸収工程の操作は、炭酸塩供給工程に先立って行われる。そして、炭酸ガス吸収工程において得られた炭酸カリウムの水溶液は、次工程である炭酸塩供給工程において供給液体として利用される。
【0030】
カリウムイオンを含む水溶液としては、水酸化カリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液等を挙げることができる。
【0031】
炭酸ガス吸収工程の操作は、二酸化炭素の分離回収技術として、二酸化炭素濃度の高い排ガスに含まれる二酸化炭素をアルカリ性溶液に吸収させることで、他の成分と分離して回収するいわゆる「化学吸収法」として知られる操作の一部を炭酸ガス吸収工程の操作として本実施形態に適用することができる。
【0032】
特に、炭酸カリウム水溶液に二酸化炭素を吸収させる熱炭酸カリ吸収法を炭酸ガス吸収工程の操作として好適に適用することができる。熱炭酸カリ吸収法としては、例えば、Benfield法やCatacarb(登録商標)法を挙げることができる。炭酸ガス吸収工程の操作や条件等は、従来より公知であり、当該公知の工程や条件等本実施形態においても適用すればよい。
【0033】
炭酸ガス吸収工程の操作は、容易に閉鎖空間で実施することができる。次工程の炭酸塩供給工程も閉鎖空間で実施可能であり、仮に解放空間で炭酸塩供給工程の操作が為されたとしても二酸化炭素は供給液体に含まれるため炭酸ガスとして放散されるリスクが少ない。したがって、本実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法によれば、炭酸ガス吸収工程を含む全工程を通して、炭酸ガスを放散させるリスクが小さい。これに対して、炭酸ガスによる二酸化炭素の固定化は、閉鎖空間で実施することが容易ではない。
【0034】
[二酸化炭素固定化セメント硬化体]
上記実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法により全体または一部に二酸化炭素を固定化する工程を経ることにより、二酸化炭素固定化セメント硬化体を効率的に製造することができる。このようにして製造された二酸化炭素固定化セメント硬化体は、建設部材として利用することができる。二酸化炭素が固定化された物体や構造物等を建設部材として利用することで、二酸化炭素を半永久的に固定化することができる。なお、本実施形態において、「建設部材」とは、建築構造物または土木構造物の一部または全部、あるいは、建築構造物または土木構造物に用いられる建設資材(建築資材及び土木資材)を意味する。
【0035】
セメント硬化体としてセメントペースト、モルタル及びコンクリートの硬化体を用いた場合には、これらからなる、あるいは、これらを一部に含む建設部材として利用することができ、当該建設部材に二酸化炭素を固定化できるため環境にやさしい。また、セメント硬化体として再生骨材を用いた場合には、それ自体リサイクル品として省資源性に優れた骨材(建設資材)として利用することができ、当該骨材に二酸化炭素を固定化できるため省資源性も相まって環境にやさしい。
【0036】
さらに、セメント硬化体としてコンクリートスラッジを用いた場合には、細骨材や粗骨材などのコンクリート材料や再生路盤材(以上、建設資材)として再利用することができ、当該コンクリート材料や再生路盤材に二酸化炭素を固定化できるため環境にやさしい。
【0037】
本実施形態にかかる二酸化炭素の固定化方法によれば、セメント硬化体に効率的に二酸化炭素を固定化することができるため、これを建築部材として用いた場合に、当該建築部材に多くの二酸化炭素を固定化することができる。二酸化炭素が固定化された部位において、例えば、今までは固定化することが容易ではなかった1トン当たり30kg以上の二酸化炭素相当量を固定化させた建設部材を提供することができる。
【0038】
なお、「二酸化炭素相当量」とは、CaCO3として固定化された総炭酸量のうちCO2に相当する量をいい、一般に「CO2固定量」と表記されるものである。CO2固定量は、例えば、後述する実施例において実施した方法により測定することができる。
【0039】
以上説明した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、当該実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の二酸化炭素の固定化方法及び当該方法により二酸化炭素が固定化された建設部材の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、[試験1]の実施例1及び[試験2]の実施例2の操作は、並行して実施した。
【0041】
[試験1]
<実施例1>
(1)試料A(セメント硬化体)の準備
二酸化炭素の固定化対象のセメント硬化体が付着したリサイクル材料である再生細骨材L(JISA 5023付属書A 適合品)を用意した。
【0042】
試験に先立ち「JISA 1109:細骨材の密度及び吸水率試験方法」に準拠して測定したところ、表乾密度は2.23g/cm3、絶乾密度は1.99g/cm3、吸水率は12.50%(JISA 5023 再生細骨材L規格値:13.0%以下)、微粒分量は3.4%(同:10.0%以下)、粒度は5mm以下であった。
【0043】
用意した再生細骨材Lの試料Aは気乾状態とし、一部のサンプルを採取して後述するCO2含有率(試験前)を測定した。残りの試料Aについては縮分を行い、均等に100g以上(1試験当たり必要量)×10(養生時間5水準、n数=2)採取した。
【0044】
(2)供給液体A(炭酸カリウム水溶液)の準備
水100mlに対して炭酸カリウム30gを投入し、よく撹拌して炭酸カリウムを溶解させて、供給液体Aとしての炭酸カリウムの23質量%水溶液を調製した。
【0045】
(3)試料Aへの供給液体Aの供給(炭酸塩供給工程)
20℃、60%RHの環境下、400g以上の供給液体A(20℃)に対して約100gの試料Aを浸漬し静置した。養生(静置)時間は3時間、9時間、15時間、24時間(1日間)及び72時間(3日間)の5水準とし、それぞれn数=2で試験した。養生時間経過後、供給液体Aをスポイト等で除去し、試料Aを取り出した。
【0046】
(4)試料Aの乾燥
採取した試料Aは、アセトンに浸漬し6時間以上静置して、自由水を除去した。続けて真空乾燥炉で6時間以上真空引きし、絶乾状態にした。
【0047】
(5)試料Aの後処理
絶乾状態となった試料Aについて、適宜縮分を行いながらボールミルで100μm程度まで粉砕、その後真空乾燥し、分析試験用のサンプルとした。分析試験を行うまでは、試料Aをデシケーター内で保管した。
【0048】
<比較例1>
(1)試料B(セメント硬化体)の準備
実施例1における「(1)試料A(セメント硬化体)の準備」と同様にして、比較例1に供する試料Bを準備した(含水率及びCO2含有率の測定を含む)。ただし、採取した試料の数は、6(養生時間3水準、n数=2)とした。
【0049】
(2)試料Bへの炭酸ガスの供給(炭酸化養生)
適当な大きさのバットに試料Bを均一に敷き均し、炭酸化養生槽に静置し、炭酸化養生を開始する。炭酸化養生槽の養生環境は、二酸化炭素濃度17%、20℃、60%RHとした。養生(静置)時間は24時間(1日間)、48時間(2日間)及び72時間(3日間)の3水準とし、それぞれn数=2で試験した。養生時間経過後、試料Bを炭酸化養生槽から取り出し、適宜縮分を行った。この時、一部試料を採取して、養生後の含水率を測定した。
【0050】
(3)養生終了後の処理
実施例1における「(4)試料Aの乾燥」「(5)試料Aの後処理」と同様にして、試料Bを乾燥し、後処理を行って、デシケーター内で保管した。
【0051】
<CO2固定量の測定>
実施例1及び比較例1で得られた各試験後の試料A及び試料Bについて、CO2含有率(試験後)を測定した。実施例1及び比較例1の各試験前に行ったCO2含有率(試験前)を含め、CO2含有率は「湿式分析法」により行った。湿式分析法は、試料を塩酸で分解し、生成した二酸化炭素を塩化バリウム及び水酸化ナトリウム溶液中に導入して吸収させ、塩酸標準溶液で滴定することによってCO2含有率を測定する方法である。
【0052】
得られたCO2含有率(試験前)及びCO2含有率(試験後)の測定結果から、下記式(1)によってCO2の固定量を算出した。
【0053】
【0054】
上記式(1)中のそれぞれの項は、以下に示す通りである。
CO2Fix:CO2の固定量[kg/t]
CO2′:CO2含有率(試験前)[%]
CO2:CO2含有率(試験後)[%]
【0055】
実施例1及び比較例1の各養生日数についてn数=2で試験を行っているので、2回の測定値の平均をCO
2の固定量とした。得られたCO
2の固定量の結果は、下記表1及び
図1のグラフに示す通りである。
【0056】
【表1】
※表中の数値はCO
2固定量(kg/t)である。
【0057】
<実施例1・比較例1の結果の考察>
上記表1及び
図1のグラフからわかる通り、比較例1(CO
2ガス(濃度17%))によるCO
2固定量が養生時間24時間で16.3kg/t、養生時間72時間で27.3kg/tであるのに対し、実施例1(炭酸カリウム水溶液(濃度23%)への浸漬)では養生時間24時間で34.5kg/t、養生時間72時間で38.2kg/tとなり、炭酸カリウム水溶液のCO
2固定化の効率が非常に高いことがわかる。
【0058】
なお、実施例1では、養生時間が僅か3時間でもCO2固定量が20.7kg/tと比較例1の養生時間24時間よりも大きい。この結果から、CO2ガスによる固定化では反応が徐々に進むのに対して、炭酸カリウム水溶液では短い期間で即座に反応が進行していることがわかる。
【0059】
なお、実施例1においては、X線回折の結果、何れの養生時間のサンプルについても、CO2が固定化して安定相である炭酸カルシウムとして存在していることが確認された。比較例1においても、X線回折の結果、炭酸カルシウムの生成が確認されており、実施例1と比較例1はともに従来からの中性化/炭酸化反応と同様にセメント硬化体中に炭酸カルシウムの生成によるCO2の固定化が図られていることが確認された。
【0060】
[試験2]
<実施例2>
(1)試料C(セメント硬化体)の準備
実施例1における「(1)試料A(セメント硬化体)の準備」と同様にして、実施例2に供する試料Cを準備した(含水率及びCO2含有率の測定を含む)。ただし、採取した試料の数は、6(炭酸カリウム濃度3水準、n数=2)とした。
【0061】
(2)供給液体B~D(炭酸カリウム水溶液)の準備
炭酸カリウム濃度が30質量%、40質量%及び53質量%となるように、水に対する炭酸カリウム量を変えて炭酸カリウムを投入し、よく撹拌し炭酸カリウムを溶解させて、供給液体B(30質量%)、供給液体C(40質量%)及び供給液体D(53質量%)としての、3通り炭酸カリウムの水溶液を調製した。なお、炭酸カリウム濃度における53質量%は飽和炭酸カリウム水溶液濃度である。
【0062】
(3)試料Cへの供給液体B~Dの供給(炭酸塩供給工程)
20℃、60%RHの環境下、400g以上の供給液体B~D(20℃)のそれぞれに対して約100gの試料Cを浸漬し静置した。養生(静置)時間は24時間(1日間)とし、n数=2で試験した。養生時間経過後、供給液体B~Dをそれぞれスポイト等で除去し、試料Cを取り出した。以下、供給液体Bに浸漬した試料Cを試料CB、供給液体Cに浸漬した試料Cを試料CC、及び、供給液体Dに浸漬した試料Cを試料CDと表記する。
【0063】
(4)養生終了後の処理
実施例1における「(4)試料Aの乾燥」「(5)試料Aの後処理」と同様にして、試料CB、試料CC及び試料CDをそれぞれ乾燥し、後処理を行って、デシケーター内で保管した。
【0064】
<CO2固定量の測定>
実施例2で得られた各試験後の試料CB、試料CC及び試料CDについて、実施例1と同様にしてCO2含有率(試験後)を測定した。得られたCO2含有率(試験前)及びCO2含有率(試験後)の測定結果から、実施例1と同様にしてCO2の固定量を算出した。
【0065】
実施例2において、各炭酸カリウム濃度についてn数=2で試験を行っているので、2回の測定値の平均をCO
2の固定量とした。得られたCO
2の固定量の結果は、下記表2及び
図2のグラフに示す通りである。なお、表2及び
図2には、実施例1における養生時間24時間の結果も炭酸カリウム濃度23%のデータとして含めている。
【0066】
【表2】
※表中の数値はCO
2固定量(kg/t)である。
【0067】
<実施例2の結果の考察>
上記表2及び
図2のグラフからわかる通り、供給液体の炭酸カリウム濃度が高ければ高いほどCO
2固定化の効率が高まっており、飽和炭酸カリウム水溶液濃度である53質量%で最も高いCO
2固定化効率となっている。
【0068】
なお、実施例2においては、X線回折の結果、何れの炭酸カリウム濃度のサンプルについても、CO2が固定化して安定相であるカルサイト(炭酸カルシウム)として存在していることが確認された。
【0069】
[試験3]
<実施例3>
(1)試料D(セメント硬化体)の準備
ミキサー車の洗浄廃液から抽出されるコンクリートスラッジのスラッジケーキを用意した。用意したスラッジケーキの脱水プレス後の含水率は45.1%、CaO含有率は66.5%であった。
【0070】
スラッジケーキをジョークラッシャーで10mm以下に粉砕し、篩分けにより1.2~5mmに粒度調整し、砂状のコンクリートスラッジとした。得られたコンクリートスラッジをアセトンに浸漬し6時間以上静置して、自由水を除去した。続けて真空乾燥炉で6時間以上真空引きし、絶乾状態にして、二酸化炭素の固定化対象のセメント硬化体としてのコンクリートスラッジの試料Dを準備した。
【0071】
用意した試料Dは、一部のサンプルを採取して実施例1と同様にしてCO2含有率(試験前)を測定した。残りの試料Dについては縮分を行い、均等に200g程度(1試験当たり必要量。ただし、採取できるサンプル量による。)×8(K2CO3濃度2水準、養生日数2水準、n数=2)採取した。
【0072】
(2)供給液体E~G(炭酸カリウム水溶液)の準備
炭酸カリウム濃度が15質量%、27質量%及び53質量%となるように、水に対する炭酸カリウム量を変えて炭酸カリウムを投入し、よく撹拌し炭酸カリウムを溶解させて、供給液体E(15質量%)、供給液体F(27質量%)及び供給液体G(53質量%)としての、3通り炭酸カリウムの水溶液を調製した。
【0073】
なお、ここで得られた供給液体Gは、実施例2で得られた供給液体Dと同一であり、飽和炭酸カリウム水溶液濃度に相当する。また、供給液体Fの炭酸カリウム水溶液濃度27質量%はコンクリートスラッジ中のカルシウム量に対応する量を目安に設定した濃度であり、供給液体Eの15質量%はコンクリートスラッジ中のカルシウム量に対応する量の半分を目安に設定した濃度である。
【0074】
(3)試料Dへの供給液体E~Gの供給(炭酸塩供給工程)
20℃、60%RHの環境下、1000g以上の供給液体E~G(20℃)のそれぞれに対して約200gの試料Dを浸漬し静置した。養生(静置)日数は1日間と3日間の2水準とし、それぞれn数=2で試験した。養生日数経過後、供給液体E~Gをそれぞれスポイト等で除去し、試料Dを取り出した。以下、供給液体Eに浸漬した試料Dを試料DE、供給液体Fに浸漬した試料Dを試料DF、及び、供給液体Gに浸漬した試料Dを試料DGと表記する。
【0075】
(4)養生終了後の処理
実施例1における「(4)試料Aの乾燥」「(5)試料Aの後処理」と同様にして、試料DE、試料DF及び試料DGをそれぞれ乾燥し、後処理を行って、デシケーター内で保管した。
【0076】
<CO2固定量の測定>
実施例3で得られた各試験後の試料DE、試料DF及び試料DGについて、実施例1と同様にしてCO2含有率(試験後)を測定した。得られたCO2含有率(試験前)及びCO2含有率(試験後)の測定結果から、実施例1と同様にしてCO2の固定量を算出した。
【0077】
実施例3において、各炭酸カリウム濃度及び各養生日数についてn数=2で試験を行っているので、2回の測定値の平均をCO
2の固定量とした。得られたCO
2の固定量の結果は、下記表3及び
図3のグラフに示す通りである。
【0078】
【表3】
※表中の数値はCO
2固定量(kg/t)である。
【0079】
<実施例3の結果の考察>
上記表3及び
図3のグラフからわかる通り、何れの炭酸カリウム濃度においても短い養生時間(1日)で120g/t前後もの多くの二酸化炭素を固定化することができている。これは、セメント硬化体としてのコンクリートスラッジが多孔質で比表面積が大きいことに加え、水酸化カルシウムなどのセメント水和物由来のカルシウム成分を多く含むことから、短い養生時間でも十分に効率的に二酸化炭素を固定化できているためと推測される。養生時間をさらに延ばして3日にしたときに、炭酸カリウム濃度が高い方がさらに多くの二酸化炭素を固定化できるが、延長した養生期間においては、当初の養生期間に比して固定化の効率は低下している。
【0080】
なお、実施例3においては、X線回折の結果、何れの炭酸カリウム濃度乃至養生日数のサンプルについても、CO2が固定化して安定相であるカルサイト(炭酸カルシウム)として存在していることが確認された。
【要約】
【課題】セメント硬化体に効率的に二酸化炭素を固定化できる二酸化炭素の固定化方法、当該固定化方法により二酸化炭素が固定化された二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】セメント硬化体に、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1以上の炭酸塩の水溶液を供給する炭酸塩供給工程を含む、二酸化炭素の固定化方法、当該固定化方法により二酸化炭素が固定化された二酸化炭素固定化セメント硬化体及びその製造方法である。
【選択図】なし