(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】蛸節の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/044 20060101AFI20241112BHJP
A23B 4/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A23B4/044 503A
A23B4/00 505Z
(21)【出願番号】P 2024153759
(22)【出願日】2024-09-06
【審査請求日】2024-09-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行日 令和5年11月9日(2)刊行物 料理人のための薪火料理 AtoZ(3)公開者 株式会社グラフィック社(4)公開された発明の内容 株式会社グラフィック社が、書籍「料理人のための薪火料理 AtoZ」159頁にて、村野敏和が発明した蛸節の製造方法について公開した。その内容は、「タコをさばいて脚や胴に切り分ける。暖炉の右手の台の下に、熾火になりかけの煙が出ている薪を砕いて敷く。薪の上25cmの鉄枠に網を渡して、煙が当たる場所にタコを置く。この状態で1日につき約12時間増し、約1週間かけて、水分が完全に抜けるまで乾燥させる。途中、薪を取り替えるなどして煙を絶やさないようにする。退勤時など店を空ける時は火から下ろし、冷蔵庫で保存する。」というものである。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524150074
【氏名又は名称】村野 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100155158
【氏名又は名称】渡部 仁
(72)【発明者】
【氏名】村野 敏和
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-5445(JP,A)
【文献】特開昭61-141868(JP,A)
【文献】特開平6-253730(JP,A)
【文献】特開平6-54668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B4/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締めた蛸に対し塩揉み、水洗い及びぬめり取りを所定回数行う下処理工程と、
臭み消し材を入れた湯に、前記下処理工程を経て得られた蛸を足先から徐々に入れ、足先が丸まってきたら当該蛸を胴体及び頭部まで入れ、当該蛸を所定時間煮熟する煮熟工程と、
前記煮熟工程を経て得られた蛸のうち頭部、胴体及び足を切り分ける切分工程と、
前記切分工程を経て得られた複数の切り身を、薪火に対する位置を入れ替えながら薪火で所定時間燻し、燻した切り身を所定時間休ませる燻乾工程と、
前記燻乾工程を所定期間繰り返す反復工程と、
前記反復工程を経て得られた蛸節を水洗いし、含水包装体で当該蛸節を包み所定期間放置する水戻工程とを含むことを特徴とする蛸節の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛸節を製造する方法に係り、特に、加工が容易で味と香りがよい蛸節の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、節類として、鰹節、鮪節、鰯節、鯖節、秋刀魚節などが知られている。これに対し、蛸節はほとんど存在がなく、蛸の燻製や干物の技術(特許文献1、2)が知られている程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-5445号公報
【文献】特開平9-308434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛸節がほとんど存在していないのは、大きく2つの技術的課題があったからである。第1の課題は、加工の難しさである。蛸は水分が多く身が柔らかいため加工が難しく、水分量を保ちながらしっかりと乾燥させることも難しい。第2の課題は、味と香りである。蛸は特有の風味や臭みが強く、そのままでは使いにくい。
【0005】
そこで、本発明は、このような従来の技術の有する未解決の課題に着目してなされたものであって、加工が容易で味と香りがよい蛸節の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔発明1〕 上記目的を達成するために、発明1の蛸節の製造方法は、締めた蛸に対し塩揉み、水洗い及びぬめり取りを所定回数行う下処理工程と、臭み消し材を入れた湯に、前記下処理工程を経て得られた蛸を足先から徐々に入れ、足先が丸まってきたら当該蛸を胴体及び頭部まで入れ、当該蛸を所定時間煮熟する煮熟工程と、前記煮熟工程を経て得られた蛸のうち頭部、胴体及び足を切り分ける切分工程と、前記切分工程を経て得られた複数の切り身を、薪火に対する位置を入れ替えながら薪火で所定時間燻し、燻した切り身を所定時間休ませる燻乾工程と、前記燻乾工程を所定期間繰り返す反復工程と、前記反復工程を経て得られた蛸節を水洗いし、含水包装体で当該蛸節を包み所定期間放置する水戻工程とを含む。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、発明1の蛸節の製造方法によれば、加工が容易で味と香りがよい蛸節が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係る蛸節の製造方法を示す工程図である。
【
図2】燻製窯内に設置される棚10の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る蛸節の製造方法は、蛸の下処理を行う下処理工程と、下処理を行った蛸を煮熟する煮熟工程と、煮熟した蛸を切り分ける切分工程とを含む。切分工程で切り分けた蛸の身を「切り身」という。蛸節の製造方法は、さらに、切り分けた切り身を燻乾する燻乾工程と、燻乾工程を繰り返す反復工程と、切り身を水戻しする水戻工程と、水戻しした切り身を削る切削工程とを含む。
【0010】
図1を参照して各工程を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る蛸節の製造方法を示す工程図である。
【0011】
まず、
図1に示すように、ステップS100に移行して、下処理工程を行う。下処理工程では、蛸の目と目の間に包丁を入れ、蛸を締める。口の辺りから足に向かってよく塩を揉み込む。水でよく洗いぬめりを取る。塩揉み、水洗い及びぬめり取りの工程は、数回(例えば、3回程度)繰り返す。
【0012】
次いで、ステップS102に移行して、煮熟工程を行う。煮熟工程では、蛸の全身が入る容量の鍋を用意し、蛸の全身が浸る十分な量の水を鍋に入れ、お湯を沸かす。臭み消し材(例えば、ローリエや黒粒コショウ)を鍋に入れ、下処理工程を経て得られた蛸を足先から徐々に鍋に入れる。蛸の足先が綺麗に丸まってきたら蛸を胴体及び頭部まで鍋に入れる。蛸の足に竹串が軽く刺さるようになれば蛸を鍋から上げる。煮熟条件は、例えば、次のとおりである。煮熟時間は、蛸の重量が1kgの場合は約4~5分である。
【0013】
次いで、ステップS104に移行して、切分工程を行う。切分工程では、煮熟工程を経て得られた蛸を目の位置で頭部及び胴体と足とに切り分け、頭部及び胴体は、数個(例えば、4等分)に切り分け、胴体から内臓を取り除く。足は、数個(例えば、8本)に切り分ける。
【0014】
図2は、燻製窯内に設置される棚10の正面図である。
次いで、ステップS106に移行して、燻乾工程を行う。燻乾工程では、燻製窯を用いて切り身を燻す。燻製窯内には、
図2に示すように棚10が設置されている。棚10の側板内側には、網12を受け奥行方向に案内するためのレール14が設けられており、レール14は、縦方向に複数段設けられている。燻乾工程では、切分工程を経て得られた切り身を網12の上に1又は複数配置し、切り身を配置した網12をレール14上に案内して棚10に設置する。同様の工程を他の網12について行うことにより、棚10には、切り身を配置した複数の網12が縦方向多段に設置される。棚10の下部に薪16を設置し、薪16で火を焚く。薪は、主にナラ、ケヤキ、クヌギ、サクラなどの木材を割り、所定期間(例えば、1年程度)乾燥し選木したものを用いる。これにより、切り身は、網の下方から薪火の煙で燻される。下段の網12の方が上段の網12よりも薪火に近いため温度が高く、棚10の奥の方が手前よりも燻製窯の内壁に近接しているため内壁の輻射熱により温度が高くなる。燻す際は、切り身を上下左右に入れ替えながら切り身から水分を抜いていく。蛸の旨味を凝縮させるとともに水分を抜くことで腐りにくくするためである。また、燻乾による薪火の煙に含まれる有機化合物は、外部から雑菌が入らないようにコーティングの働きをし、薫臭を付けることで蛸の臭みを消すことができる。燻す条件は、例えば、次のとおりである。燻す時間は約12時間、薪と網の高さは約25cm、燻す温度は約45~55℃である。
【0015】
切り身を燻し続けると表面ばかりが焦げてしまい、切り身の水分が十分に抜けない。逆に火が弱すぎると表面にカビが生えてきてしまい、腐敗の原因になってしまう。そこで、燻乾工程では、切り身を十分な火力で所定時間燻しつつ、燻した後、切り身を所定時間休ませることを行う。休ませるとは、切り身を外気に晒して放置するか、風通しのよい場所で放置することをいう。休ませる条件は、例えば、次のとおりである。休ませる時間は約12時間である。
【0016】
次いで、ステップS108に移行して、反復工程を行う。反復工程では、燻乾工程及び待機工程を所定期間(例えば、1週間程度)繰り返す。休ませることにより切り身の内側の水分が表面に移動し、全体の水分がある程度均一になったところで、また燻す。これを何度も繰り返すことにより全体的に均等に乾燥させることができる。最終的な水分量は約14.4~14.6質量%が好ましい。
【0017】
次いで、ステップS110に移行して、水戻工程を行う。反復工程を経て得られた蛸節はとても硬い。そこで、水戻工程では、反復工程を経て得られた蛸節の表面を軽く洗い、一時的に水分を戻す。綺麗な濡れタオル等の包装体で蛸節を包み、所定期間(例えば、30分程度)放置する。
【0018】
次いで、ステップS112に移行して、切削工程を行う。切削工程では、チーズグレーター等の調理器具を使い、水戻工程を経て得られた蛸節を削る。これにより、蛸節の削り節が得られる。
【0019】
次に、本実施の形態の効果を説明する。
本実施の形態では、蛸の下処理を行う下処理工程と、下処理を行った蛸を煮熟する煮熟工程と、煮熟した蛸を切り分ける切分工程と、切り分けた切り身を燻乾する燻乾工程と、燻乾工程を繰り返す反復工程と、反復行程を経て得られた蛸節を水戻しする水戻工程と、水戻しした蛸節を削る切削工程とを含む。
【0020】
これにより、加工が容易で味と香りがよい蛸の削り節が得られる。
〔変形例〕
なお、上記実施の形態及びその変形例においては、水戻工程及び切削工程を設けたが、これに限らず、これら工程の一方又は両方を設けなくてもよい。すなわち、反復工程又は水戻工程の完了をもって蛸節の完成とすることができる。
【0021】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、煮熟条件、燻す条件及び休ませる条件を例示したが、これに限らず、任意の条件を設定することができる。
【0022】
また、上記実施の形態及びその変形例においては、棚10に複数の網12を設置して切り身を燻したが、これに限らず、1つの網12を設置して切り身を燻してもよい。
【0023】
また、上記実施の形態及びその変形例に限らず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で他の場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
10…棚、12…網、14…レール、16…薪
【要約】
【課題】 加工が容易で味と香りがよい蛸節の製造方法を提供する。
【解決手段】 蛸節の製造方法は、蛸の下処理を行う下処理工程と、下処理を行った蛸を煮熟する煮熟工程と、煮熟した蛸を切り分ける切分工程と、切り分けた切り身を燻乾する燻乾工程と、燻乾工程を繰り返す反復工程と、反復行程を経て得られた蛸節を水戻しする水戻工程と、水戻しした蛸節を削る切削工程とを含む。これにより、加工が容易で味と香りがよい蛸の削り節が得られる。
【選択図】
図1