(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】血液脳関門透過、腫瘍標的化およびがん転移治療のための表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/04 20060101AFI20241112BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241112BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241112BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241112BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20241112BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20241112BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K47/04
A61P35/00
A61P35/04
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/10
A61K31/704
B82Y5/00
B82Y40/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020080729
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-03-14
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520153567
【氏名又は名称】ナノ ターゲティング アンド セラピー バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー チェンスン
(72)【発明者】
【氏名】チェン イーピン
(72)【発明者】
【氏名】ウー スーハン
(72)【発明者】
【氏名】モウ チュンユエン
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533543(JP,A)
【文献】Critical Features for Mesoporous Silica Nanoparticles Encapsulated into Erythrocytes,ACS Applied Materials & Interfaces,2019年01月09日,11, 5,4790-4798,https://doi.org/10.1021/acsami.8b18434
【文献】Re-examining the Size/Charge Paradigm: Differing in Vivo Characteristics of Size- and Charge-Matched Mesoporous Silica Nanoparticles,Journal of the American Chemical Society,2013年,135, 43,16030-16033,https://doi.org/10.1021/ja4082414
【文献】Targeted Treatment of Metastatic Breast Cancer by PLK1 siRNA Delivered by an Antioxidant Nanoparticle Platform,Mol Cancer Ther,2017年,16(4),763-772,https://doi.org/10.1158/1535-7163.MCT-16-0644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が有機修飾されたメソポーラスシリカナノ粒子であって、
pH7.4でのゼータ電位が-22mV~+25mVの範囲内であり、
透過型電子顕微鏡(TEM)で計測して20nm~50n
mの粒径を有し、
前記有機修飾は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分と、
(1)正荷電基含有分子
、(2)正荷電基含有オリゴマー
および(3)正荷電基含有ポリマー
のうちのいずれか1つとを含み、
前記
(1)正荷電基含有分子
、前記(2)正荷電基含有オリゴマー
および前記(3)正荷電基含有ポリマーは、前記PEGの層内に隠され、
前記
(1)正荷電基含有分子
、前記(2)正荷電基含有オリゴマー
および前記(3)正荷電基含有ポリマーに対する前記PEG部分のモル比は、15:1~
2:
1の範囲内である、
メソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項2】
TEMで計測して20nm~30n
mの粒径を有する、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項3】
pH7.4でのゼータ電位が-15mV~+7mVの範囲内である、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項4】
前記有機修飾は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、および、PEG-PPGコポリマーから選ばれる物質によって導かれる、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項5】
前記(1)正荷電基含有分子、前記(2)正荷電基含有オリゴマーおよび前記(3)正荷電基含有ポリマーのうちの何れか1つは、ポリエチレンイミン(PEI);N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(TA)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(EDPT)、N
1
-(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)および3-アミノプロピルトリエトキシシランから選択される、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項6】
前記ナノ粒子の前記表面は、
付加的なアルコキシルシラン末端(ポリ)アルキレン(ポリ)アミン
;プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン
、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、(3-トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸(THPMP)、メチルトリアセトキシシラン(MTAS)、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、双性イオン性シランなどの
付加的なオルガノアルコキシシランから選ばれる少なくとも1つの表面改質剤から導かれる修飾をさらに含む、
請求項
5に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項7】
前記
(1)正荷電基含有分子
、前記(2)正荷電基含有オリゴマー
および前記(3)正荷電基含有ポリマー
のうちのいずれか1つに対する前記PEG部分のモル比は
、10:1~
3:
1の範囲内である、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項8】
前記メソポーラスシリカナノ粒子は、前記メソポーラスシリカナノ粒子に載置される、および/または、装填される生理活性成分をさらに含む、請求項1に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項9】
前記生理活性成分は、小分子薬物、酵素およびタンパク薬物などのタンパク質、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物から選ばれる、請求項
8に記載のメソポーラスシリカナノ粒子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の表面修飾を有するメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)を調製する方法であって、
(a)ミセルを形成するために十分な濃度の界面活性剤を含むアルカリ性溶液を供給するステップと、
(b)前記アルカリ性溶液にシラン源を導入するステップと、
(c)少なくとも1つのPEG修飾シランと、少なくとも1つの正荷電基含有シランとを含む表面改質剤を前記アルカリ性溶液に導入するステップであって、前記正荷電基含有シランに対する前記PEG修飾シランのモル比は、15:1~
2:
1の範囲内であるステップと、
(d)前記アルカリ性溶液を水熱処理にかけるステップと、
(e)生成物を収集するステップと、
(f)前記生成物から残留界面活性剤を除去するステップと、
任意で、(g)前記生成物を精製または洗浄するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記界面活性剤は、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、または、その組み合わせを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記シラン源は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ケイ酸ナトリウム、または、その混合物を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記PEG修飾シランは、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン(PEG-トリメトキシシラン)であり、前記正荷電基含有シランは、トリメトキシシリルプロピル(ポリエチレンイミン)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)および3-アミノプロピルトリエトキシシランから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記表面改質剤は
、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン
、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、(3-トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸(THPMP)、メチルトリアセトキシシラン(MTAS)
、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)
および双性イオン性シラ
ンから選ばれる
少なくとも1つの薬剤をさらに含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項15】
前記シラン源は、TEOSとAPTMSとの混合物、THPMPとAPTMSとTEOSとの混合物、EDTASとAPTMSとTEOSとの混合物、PTEOSとTEOSとの混合物、または、PTMOSとTEOSとの混合物である、請求項
10に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか1項に記載のメソポーラスシリカナノ粒子を含み、被検体に全身投与または局所投与される被検体の細胞転移阻害剤。
【請求項17】
前記メソポーラスシリカナノ粒子は、1000m
2/g以
下のBET表面積を有する、請求項16に記載の被検体の細胞転移阻害剤。
【請求項18】
前記メソポーラスシリカナノ粒子は、500m
2
/g以下のBET表面積を有する、請求項16に記載の被検体の細胞転移阻害剤。
【請求項19】
前記細胞転移は
、がん細胞転移である、請求項16に記載の被検体の細胞転移阻害剤。
【請求項20】
前記細胞転移は、乳がん細胞転移である、請求項16に記載の被検体の細胞転移阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんを治療するための生理活性成分を運ぶドラッグデリバリーシステムとしての、または、がん転移を阻害するための活性薬剤としてのメソポーラスシリカナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)は、細孔容積が大きく、化学的/熱的に安定し、積載能力が高く、表面特性を調整でき、生体適合性に優れるといった特有の物理的/化学的性質を有することから、ドラッグデリバリーシステムとしての大いなる可能性をもつと考えられてきた。MSNは、さまざまな種類の治療薬剤を標的部位に送達することができるので、過去10年間、病気の治療に広く用いられてきた。病気の中でも、がんは、世界的に死因の2番目であり、2018年には、およそ960万人ががんで亡くなっている。ナノ粒子は、複数種類のがんを治癒させるという目的を果たしており、ナノ粒子の腫瘍標的化特性、および、制御された/持続的な薬物放出特性に基づく特殊な治療効果も実証されている。ナノ粒子の受動的な腫瘍標的化は、固形腫瘍の血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果、漏れやすい脈管構造、および、固形腫瘍内に有効なリンパ排液が欠如していることで、腫瘍内にナノ粒子が蓄積することによるものである。
【0003】
もう1つの課題は、血液脳関門(BBB)によって治療薬剤の大部分の脳への輸送が制限されることが原因であるアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、脳腫瘍などのアンメットメディカルニーズの高い分野である中枢神経系(CNS)の疾患を治療することである。基本的に、100%の高分子薬物、および、95%以上の小分子薬物は、脳内に入ることができない。中枢神経系(CNS)疾患の治療に対するBBB制限を克服する潜在的な方法として、多用途のナノ粒子ドラッグデリバリーシステムが考えられる。
【0004】
さらに、がん患者のがんが転移すると、患者が死ぬ可能性が劇的に増大するので、がん転移が起きるのを予防する、阻害する、または、抑制することにより、がん、特に転移がんの患者の予後を良くすることが重要である。
【0005】
よって、ドラッグデリバリーシステムまたは活性成分としての改良されたメソポーラスシリカナノ粒子、および、そのようなメソポーラスシリカナノ粒子を合成する確実な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、がんの治療および/またはCNS疾患の治療に適した腫瘍標的化特性および血液脳関門(BBB)透過特性の両方を有するドラッグデリバリーシステムとしての特殊な修飾を有するメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)に関する。
【0007】
本開示は、また、がん転移を予防、阻害、または、抑制するための治療薬としての、特殊な修飾を有するメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)に関する。
【0008】
本開示は、上記の方法によって調製された生成物も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】30nmのMSN-PEGのTEM画像を示す。
【
図1B】MSN-PEG+TA(2:1)のTEM画像を示す。
【
図2】30nmのMSN-PEGについての、肝臓に対する腫瘍に蓄積した粒子の比率(腫瘍/肝臓)を示す。
【
図3】30nmのMSN-PEG+TAナノ粒子についての、肝臓に対する腫瘍に蓄積した粒子の比率(腫瘍/肝臓)を示す。
【
図4A】二光子蛍光顕微鏡によって検出された脳血管における30nmのMSN-PEG+TAの三次元画像を示す。
【
図4B】二光子蛍光顕微鏡によって検出された脳血管における30nmのMSN-PEG+THPMPの三次元画像を示す。
【
図5A】細胞移動を阻害する効果を評価するためのインビトロ検査の結果を示す。
【
図5B】細胞移動を阻害する効果を評価するためのインビトロ検査の結果を示す。
【
図6A】マウスに対するMSNの毒性を評価するためのインビボ検査の結果を示す。
【
図6B】マウスに対するMSNの毒性を評価するためのインビボ検査の結果を示す。
【
図7】乳がんの肺への転移を阻害する効果を評価するためのインビボ検査の結果を示す。
【
図8】がん転移を阻害する効果を評価する発光図の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示内容の理解を容易にすべく、本明細書に用いられる用語を以下に定義する。
【0011】
明細書および請求項における単数形は、特に明示しない限り複数形も含む。また、記載のない限り、記載されたすべての例または例示のための単語(例えば、“などの”)は、本発明の範囲を限定するのではなく、本発明をよりわかりやすく例示するために用いているにすぎない。
【0012】
本明細書に記載されたいかなる数値範囲もすべての部分範囲を含むことが意図される、と理解されたい。例えば、“50~70℃”の範囲は、最小値である50℃と最大値である70℃との間のすべての部分範囲および特定の値を含み、例えば、58℃~67℃、53℃~62℃、60℃、または、68℃を含む。本開示の数値域は、連続しているので、最小値と最大値との間の各数値を含む。特に定めのない限り、本明細書に示されるさまざまな数値域は、おおよその範囲である。
【0013】
本発明によれば、用語“約”は、値をどのように測定または決定するかにもよるが、当業者によって測定された所定の値の許容偏差を意味する。
【0014】
本発明によれば、特に定めのない限り、本明細書で用いられる接頭辞“ナノ”は、約300nm以下のサイズを意味する。特に定めのない限り、本明細書で用いられる接頭辞“メソ”は、国際純正応用化学連合(IUPAC)による定義とは異なり、約5nm以下のサイズを意味する。
【0015】
本発明によれば、本明細書で用いられる用語“シラン”は、SiH4の誘導体を指す。通常、4つの水素の少なくとも1つは、以下に記載されるようなアルキル、アルコキシル、アミノなどの置換基と置換される。本明細書で用いられる用語“アルコキシシラン”とは、ケイ素原子に直接結合した少なくとも1つのアルコキシル置換基を有するシランを指す。本明細書で用いられる用語“オルガノアルコキシシラン”とは、ケイ素原子に直接結合した少なくとも1つのアルコキシル置換基、および、少なくとも1つのヒドロカルビル置換基を有するシランを指す。本明細書にて用いられる用語“ケイ酸塩源”とは、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート(テトラエトキシシラン、TEOS)、テトラメチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケートなどのオルトケイ酸の塩形態またはエステル形態として見なされ得る物質のことを指す。任意で、ヒドロカルビル置換基は、さらに置換されるか、または、ヘテロ原子に割り込まれてよい。
【0016】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“ヒドロカルビル”とは、炭化水素から誘導される一価の基のことを指す。本明細書にて用いられる用語“炭化水素”とは、炭素原子および水素原子のみからなる分子のことを指す。炭化水素の例は、これらに限定されないが、(シクロ)アルカン、(シクロ)アルケン、アルカジエン、芳香族などを含む。ヒドロカルビルが上記のようにさらに置換される場合、置換基は、ハロゲン、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基などであってよい。ヒドロカルビルが上記のようにヘテロ原子に割り込まれる場合、ヘテロ原子は、S、O、または、Nであってよい。本発明によれば、ヒドロカルビルは、好ましくは1~30の炭素原子からなる。
【0017】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“アルキル”とは、好ましくは1~30の炭素原子、より好ましくは1~20の炭素原子からなる飽和、直鎖、または、分岐鎖アルキルのことを指す。アルキルの例は、これらに限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、2-エチルブチル、n-ペンチル、イソペンチル、1-メチルペンチル、1,3-ジメチルブチル、n-ヘキシル、1-メチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、1-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、1,1,3-トリメチルヘキシル、1,1,3,3-テトラメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、1-メチルウンデシル、ドデシル、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルヘキシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシルなどを含む。
【0018】
本発明によれば、用語“アルキレン”は、上記のようなアルキルの二価の基を指す。用語「短鎖」は、ラジカル、または、反復単位が主鎖に多くても6つ、好ましくは、多くても4つの炭素原子を含んでいることを表す。
【0019】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“アルコキシル”または“アルコキシ”は、式“-O-アルキル”を有する基を意味する。この式における“アルキル”の定義は、上記のような“アルキル”の意味を有する。
【0020】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“シクロアルキル”とは、3~10の環炭素原子、より好ましくは3~8の環炭素原子、および、任意で環にアルキル置換基を含む飽和または一部不飽和の環状炭素ラジカルを意味する。シクロアルキルの例としては、これらに限定されないが、シクロプロピル、シクロプロペニル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-シクロヘキセン-1-イルなどが挙げられる。
【0021】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“ハロゲン”または“ハロ”は、フッ素、塩素、臭素、または、ヨウ素を示す。
【0022】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“アミノ”は、式-NR1R2からなる官能基を意味する。R1およびR2は、それぞれハロゲンまたは上記のようなヒドロカルビル基を示している。
【0023】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“水相”とは、水と実質的に混和できる位相を意味する。
水相の例としては、これらに限定されないが、水自体、水性緩衝液、ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液、アルカノリック水溶液などが挙げられる。水相は、合成の需要、および/または、水相に存在する物質の安定性に基づき、酸性、中性、または、アルカリ性に調整されてよい。
【0024】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“油相”とは、上記のような水相と実質的に混和しない位相を意味する。油相の例は、これらに限定されないが、ヘキサン、デカン、オクタン、ドデカン、シクロヘキサンなどの液体の置換または非置換(シクロ)アルカン、および、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの置換または非置換芳香族溶剤などが挙げられる。
【0025】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“生理活性成分”とは、生物体内で活性を有する物質を指す。生理活性成分の例は、これに限定されないが、小分子薬物、酵素およびタンパク薬物などのタンパク質、抗体、ワクチン、抗生物質、または、ヌクレオチド薬物などが挙げられる。
【0026】
本発明によれば、本明細書にて用いられる用語“固体シリカナノ粒子”は、表面が非ポーラス、特に、非メソポア構造を有するシリカナノ粒子を指す。
【0027】
本発明は、MSNのインビトロおよびインビボ作用が、MSNの腫瘍標的化能力(例えばEPR効果)およびBBB透過性の決定因子としての、サイズ、形状、表面電荷、および、官能基の空間分布を含むMSNの表面修飾および物理化学的性質によって制御され得る、という驚くべき発見をした。MSNの外面は、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、PEG-PPGコポリマーなどの短鎖ポリ(アルキレングリコール)(PAG)で修飾され、PAG層内に隠れた帯電分子は、特定のPAG/帯電分子モル比で導入される。それらの修飾、空間的配置、および、電荷によって、生理的環境における最小限の非特異的結合、および、適正な循環時間を含むMSNの特徴付けが明らかになり、MSNを血液から脳へと輸送することが可能になる。
【0028】
例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)などのポリ(アルキレングリコール)(PAG)による修飾は、MSNが血清タンパク質に吸収されることを防ぎ、細網内皮系によるクリアランスを抑制することができる。MSNの特性(例えば表面特性など)を修飾するためにさらなる改質剤が導入され得る。PEGが表面改質剤として用いられ、改質剤がPEG層の深部に隠れているのではなく、外面に露出している場合、MSNは、生理的環境においてタンパク質または細胞と非特異性結合し、その結果、急速にインビボクリアランスし、腫瘍内には蓄積されないことが観察されている。
【0029】
したがって、本開示は、電荷変調分子、特に、正荷電基を有し、MSNの表面における長さがPEGより短い改質剤を用いる。ペグ化MSN(MSN-PEG)のEPR効果への表面電荷の影響を評価すべく、本開示は、MSN-PEGに存在する帯電分子に対するPEGの比率を変調することによってさまざまな表面電荷を有する、サイズ、形状、流体力学的径、および、空間分布対応型MSNを合成する。担腫瘍マウスにおけるMSNの体内分布の研究により、MSNの投与および再循環の有効性に影響を及ぼす因子の1つは、ゼータ電位であることがわかった。例えば、修飾されたMSNのゼータ電位(pH7.4の状態)は、-22~+25mV、好ましくは、-22~+21mV、-21~+25mVなどの範囲であり得る。一実施形態では、30nmのMSN-PEG+TA(PEG、および、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(TA)で修飾したMSN)は、-22~+21mV、好ましくは、-15~+17mV、より好ましくは、約-13~+7mVの範囲の、または、他の例では、+4mVまでのゼータ電位を有し、優れたEPR効果を示す(例えば、肝臓信号に対する腫瘍信号の比率(腫瘍/肝臓)は、1より大きく、腫瘍/肝臓値は、MSN-PEGの腫瘍/肝臓値より大きい)。一実施形態では、50nmのMSN-PEG+TAは、-21~+25mV、好ましくは、-21~+18mVの範囲のゼータ電位(pH7.4の状態)を有し、優れたEPR効果を示す。
【0030】
表面修飾されたMSNの腫瘍標的化能力(EPR効果)に影響を及ぼす他の因子は、MSNにおける正荷電基に対するPEG基のモル比である。PEG/正荷電基のモル比は、元素分析によって決定される。PEG/正荷電基比は、特定の範囲内に収まり得る。一例では、比率は、0.5~15、好ましくは、約2~10、より好ましくは、2~6.5の範囲である。このような特定のPEG/荷電基比を有するMSNは、優れたEPR効果を示し得ることが観察されかつ予想される。
【0031】
ドラッグデリバリーシステムとしての機能を果たすMSNの有効性に影響を及ぼす他の因子は、これらに限定されないが、粒径、(表面)改質剤のタイプ、粒子の形態などを含む。
【0032】
本発明は、また、表面修飾MSNは、血液脳関門(BBB)を通過することができるという驚くべき発見をした。BBBは、循環する血液からのイオンおよび分子の脳内への移動を制御し、脳に病原体および毒剤が侵入することを防ぐ中枢神経系の極めて重要な生理的障壁である。しかしながら、BBBには、脳疾患を治療する際に、ほとんどの薬物がBBBによって妨げられるという問題点がある。BBBの問題を克服する従来の方法は、より小型の多用途ナノ粒子に限られており、BBBを通過するよう表面を機能化することが考えられる。しかしながら、BBB透過を制御することへの、ナノ粒子のこれらの様々な特徴付けの効果は、未だ明らかにされていない。CNS疾患へのドラッグデリバリーのためにBBB透過能力を有するユニークなシリカナノ粒子を開発すべく、本開示は、異なるサイズ、電荷、および、機能的リガンドを有するMSNを合理的設計で合成した。
【0033】
したがって、本開示は、BBBを通過する能力を有する、表面電荷が特定の範囲であるMSN-PEG+TAを実証する。一実施形態では、pH7.4の状態で-15~+21mV、好ましくは、-13~+17mV、より好ましくは、約-13~+7mVの範囲(一例では6.4mV)のゼータ電位を有する30nmのMSN-PEG+TAは、BBBを通過する能力を有する。上記のように、MSNの表面電荷は、異なる比率のPEG/帯電分子をMSNに結合させることによって変調されることができ、帯電分子は、PEG層内に存在する必要がある。MSNにおける正荷電基に対するPEG基のモル比であるPEG/正荷電基モル比は、元素分析によって決定される。PEG/正荷電基比は、特定の範囲内に収まり得る。一例では、比率は、0.5~15、好ましくは、約2~10、より好ましくは、2~6.5の範囲(一例では6.13)である。このようなPEG/荷電基比を有するMSNは、優れたBBB透過性を示し得ることが観察されかつ予想される。
【0034】
EPR効果およびBBB透過能力のどちらをも有するMSNは、脳関連のがん、および、CNS疾患の治療のための有望なドラッグデリバリーシステムとなる利点を示すであろう。示されるすべての例、材料、反応条件、または、パラメータは、本明細書に記載される例示的実施形態による材料または調製法を限定することを意図されない。
【0035】
表面修飾メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)およびその調製法
【0036】
一側面では、本開示は、表面が有機修飾され、pH7.4で-22mV~+25mVの範囲のゼータ電位を有し、粒径が50nm以下であるメソポーラスシリカナノ粒子を提供する。有機修飾は、ポリ(エチレングリコール)部分と、少なくとも1つの正荷電基含有オリゴマー/ポリマー部分とを含む。正荷電基含有オリゴマー/ポリマー部分に対するポリ(エチレングリコール)部分のモル比は、元素分析によって決定され得る特定の範囲、例えば、0.5~15の範囲内に収まり得る。
【0037】
一実施形態では、本開示のメソポーラスシリカナノ粒子は、30nm以下の粒径を有する。
【0038】
一実施形態では、本開示のメソポーラスシリカナノ粒子は、pH7.4で-15mV~+4mVの範囲のゼータ電位を有し、他の好適な実施形態では、pH7.4で-13mV~+7mVの範囲のゼータ電位を有する。
【0039】
一実施形態では、本開示のメソポーラスシリカナノ粒子は、正荷電基含有オリゴマー/ポリマー部分に対するポリ(エチレングリコール)部分の比率が、2~6.5の特定の範囲である。
【0040】
一実施形態では、MSNの表面修飾は、バイオアベイラビリティを向上させる少なくとも1つの部分と、表面電荷の特性を調整する少なくとも1つの部分とを含む有機修飾を含む。一実施形態では、バイオアベイラビリティを向上させる部分は、表面改質剤から導かれるまたは表面改質剤によって導入される。一実施形態では、表面電荷の特性を調整する部分は、電荷変調分子、特に、正荷電基含有オリゴマー/ポリマーから導かれる。一実施形態では、正荷電基含有オリゴマー/ポリマーは、窒素含有オリゴマー/ポリマーであり得る。
【0041】
一実施形態では、有機修飾は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、PEG-PPGコポリマーなどのポリ(アルキレングリコール)(PAG);ポリエチレンイミン(PEI);N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(TA)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(EDPT)、N1-(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンなどのアルコキシルシラン末端(ポリ)アルキレン(ポリ)アミン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、(3-トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸(THPMP)、メチルトリアセトキシシラン(MTAS)、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、双性イオン性シランなどのオルガノアルコキシシランから導かれるまたは選択される。
【0042】
一実施形態では、生理活性成分は、ナノ粒子に載置される。他の実施形態では、生理活性成分は、ナノ粒子内に装填される。さらなる他の実施形態では、生理活性成分は、ナノ粒子に載置されかつ装填される。
【0043】
メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)は、さまざまな有機官能基によって修飾され得る、明確に定義された構造および高密度の表面シラノール基を有する。異なるサイズのMSNは、アンモニアを塩基触媒として調製される。粒径は、アンモニアの濃度、シラン源の量および濃度、反応温度などを調整することによって制御される。
【0044】
一側面では、MSNは、以下のステップにより調製され得る。(a)ミセルを形成するために十分な濃度の界面活性剤を含むアルカリ性溶液を供給するステップと、(b)溶液にシラン源を導入するステップと、(c)少なくとも1つのPEG修飾シランと、少なくとも1つの正荷電基含有シランとを含む表面改質剤を溶液に導入するステップと、(d)溶液を水熱処理にかけるステップと、(e)生成物を収集するステップと、(f)生成物から残留界面活性剤を除去するステップと、任意で、(g)生成物を精製または洗浄するステップ。
【0045】
例によって、密閉されたビーカー内の所望の温度(50~60℃)の150mLの水酸化アンモニウム溶液(0.1~0.2M)に、0.29gの臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)を溶解した。15分撹拌した後、密封膜を取り除き、溶液を勢いよく攪拌しながら(600rpm)、2.5mLのエタノールを溶媒としたRITC(ローダミンイソチオシアネート)結合APTMS、および、2~2.5mLのエタノールを溶媒としたTEOS(0.8~0.9M)を加えた。1時間の撹拌の後、2mLのエタノール中で、TAシラン(N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)に対するPEGシランのモル比が異なる550μLのPEGシラン(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン)を反応させた(PEG/TA比は15:1,10:1,7:1,3:1,2:1,1:2であり、TAシランの量は0.04~1.2mL)。混合物を30分間撹拌した後、少なくとも12時間は撹拌せずに、混合物を所望の温度(50~60℃)で熟成させた。その後、溶液を密封し、70℃のオーブンに入れて24時間水熱処理にかけた。合成したままのサンプルを洗浄し、遠心分離またはクロスフローシステムによって収集した。MSNの細孔内の界面活性剤を取り除くため、合成したままのサンプルを初回は678μL、2回目は40μLの塩酸(37%)を含む40mLの酸性エタノール中で、それぞれ60℃、抽出時間は1時間でインキュベートした。生成物を洗浄し、遠心分離またはクロスフローシステムで収集し、最終的に90%エタノール中に保存した。異なる官能基で修飾したMSN-PEGを合成するためには、TAシランをPEIシラン、EDPTMSNシラン、または、他の官能基シランと置き換える。
【0046】
一実施形態では、シラン源は、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ケイ酸ナトリウム、または、その混合物を含む。一実施形態では、表面改質剤は、2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン(PEG-トリメトキシシラン)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、(3-トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸(THPMP)、メチルトリアセトキシシラン(MTAS)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、トリメトキシシリルプロピル(ポリエチレンイミン)、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、双性イオン性シラン、または、その混合物であってよい。
【0047】
MSNを調製するのに適した界面活性剤の例は、これらに限定されないが、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、および、非イオン界面活性剤が挙げられる。適切な界面活性剤は、pH値、イオン強度、温度、反応物、生成物などの反応条件に基づいて選択される。陽イオン界面活性剤の例は、これらに限定されないが、長鎖ヒドロカルビル基を有し、末端アミン基が、特定のpH値を下回ると正電荷を有する、例えば、オクテニジン二塩酸塩などのpH依存性第一級、第二級、または、第三級アミン(例えば、第一級および第二級アミンはpH<10で正荷電する)および、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化ベンゼトニウム(BZT)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、および、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DODAB)などの永久荷電第四級アンモニウム塩を含む。陰イオン界面活性剤の例は、これらに限定されないが、硫酸塩、スルホン酸塩、および、アンモニウムラウリル硫酸、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム、SLSまたはSDS)などのリン酸塩またはエステル、関連アルキルエーテル硫酸塩ラウレス硫酸ナトリウム(ラウレス硫酸ナトリウムまたはSLES)、ミレス硫酸ナトリウム、ドクサート(ジオクチルソジウムスルホサクシネート)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロブタンスルホン酸塩、アルキルアリールエーテルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩などを含む。非イオン界面活性剤の例は、これらに限定されないが、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、グルコシドアルキルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、グリセロールアルキルエステル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ブロックコポリマー、ポロキサマー、コカミドモノエタノールアミン(コカミドMEA)、コカミドジエタノールアミン(コカミドDEA)、酸化ラウリルジメチルアミン、または、ポリエトキシ化獣脂アミンを含む。
【0048】
MSNのサイズ
【0049】
アンモニアを塩基触媒として異なるサイズのMSNが調製され得る。一側面では、MSNは、高希釈状態、すなわち、界面活性剤の濃度が低い状態で調製される。本開示では、MSNは、20~200nm、好ましくは20~80nm、より好ましくは20~50nm、さらに好ましくは30~40nmの範囲の直径を有する。MSNのサイズは、アンモニウム濃度、アルコキシルシランの量および濃度、反応温度などを調整することによって制御され得る。理論に拘束されずに、アンモニア濃度が高いほど、MSNのサイズは大きくなり、アンモニア濃度が低いほど、MSNのサイズは小さくなり得る。アルコキシルシランの量が多いほど、MSNのサイズは大きくなり、アルコキシルシランの量が少ないほど、MSNのサイズは小さくなり得る。さまざまな実施形態では、0.14~0.5gのCTABを溶解した150mLの水酸化アンモニウム溶液のアンモニウム濃度は、0.05~1.5M、好ましくは、0.1~0.5M、より好ましくは、0.1~0.256Mであり、150mLの水酸化アンモニウム溶液に添加されるアルコキシルシランの量は、1mL~5mL、好ましくは、1mL~3mL、より好ましくは、2mL~2.5mLのエタノールを溶媒としたTEOS(約0.862M)の範囲である。反応温度は、30℃~60℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは50℃~60℃の範囲であり、これらの条件のいかなる組み合わせも本開示の一実施形態をなす。
【0050】
MSNの表面修飾
【0051】
MSNは、さまざまな有機官能基によって修飾され得る、明確に定義された構造および高密度の表面シラノール基を有する。官能基の例は、これらに限定されないが、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、PEG-PPGコポリマーなどのポリ(アルキレングリコール)(PAG);ポリエチレンイミン(PEI);N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(TA)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(EDPT)、N1-(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミンなどのアルコキシルシラン末端(ポリ)アルキレン(ポリ)アミン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシスチレンシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン(PTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、エチルトリアセトキシシラン(ETAS)、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸(EDTAS)、(3-トリヒドロキシシリル)プロピルメチルホスホン酸(THPMP)、メチルトリアセトキシシラン(MTAS)、(3-メルカトプロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)、双性イオン性シランなどのオルガノアルコキシシランが挙げられる。
【0052】
生物学的応用のために特に重要なナノ粒子のパラメータは、粒径および表面特性であり、循環半減期、薬物動態、および、ナノ粒子の生体内分布における重要な役割を果たすことが期待される。MSNのサイズは、体内における薬物動態および生体内分布に影響する。超小型のMSN(例えば、直径8nm未満)は、通常、腎臓ろ過によってすばやく取り除かれるが、それより大きいナノ粒子(例えば150nmより大きい)は、肝臓または脾臓内に存在する。例えば、20~100nmの範囲内の直径を有するナノ粒子は、より長い血中半減期を示し、これは、腫瘍血管系における開窓術によってナノ粒子の溢出傾向を促進する。さらに、小型(例えば50nm未満)で血中半減期の長いナノ粒子は、BBBを通過する能力が高くなり得る。官能基で修飾したMSNの表面は、MSNの性質およびそれによる生物学的応用能力も変えるだろう。例えば、ポリ(アルキレングリコール)(PAG)の官能基修飾により、粒子は、培地によく懸濁し、免疫原性が低く、体内での循環期間が長くなり得る。表面修飾しないMSNの表面は、通常、負の電荷を有するが、PEI、アルコキシルシラン末端(ポリ)アルキレン(ポリ)アミン、または、アミン含有オルガノアルコキシシランによる修飾によって、粒子は、正のまたは弱い負の表面電荷を有するか、または表面上で電気的に中性になり得る。カルボキシル基、ホスホリル基、スルホン酸基含有オルガノアルコキシシランによる修飾によって、粒子は、強い負の電荷を有するようになり得る。また、粒子表面での官能基の組み合わせは、複数の表面特性をもたらすだろう。したがって、粒子のサイズおよび表面特性は、生物学的応用の目的に基づいて設計または最適化されることができる。
【0053】
生理活性成分
【0054】
疾患の治療のため、少なくとも1つの生理活性成分が、例えば、MSN内の空間、または、MSNの表面に分布されるなど、MSNに載置、および/または、装填されてよい。
生理活性成分は、MSNのサイズ、および、該当する障害/疾患に基づいて適切に選択され得る。生理活性成分の例は、これらに限定されないが、エベロリムス、トラベクテジン、アブラキサン、TLK 286、AV-299、DN-I0l、パゾパニブ、GSK690693、RTA744、ON 0910.Na、AZD 6244(ARRY-142886)、AMN-107、TKI-258、GSK461364、AZD 1152、エンザスタウリン、バンデタニブ、ARQ-197、MK-0457、MLN8054、PHA-739358、R-763、AT-9263、FLT-3阻害剤、VEGFR阻害剤、EGFR-TK阻害剤、オーロラキナーゼ阻害剤、PIK-1モジュレーター、Bcl-2阻害剤、HDAC阻害剤、c-MET阻害剤、PARP阻害剤、Cdk阻害剤、EGFR TK阻害剤、IGFR-TK阻害剤、抗HGF抗体、PI3キナーゼ阻害剤、AKT阻害剤、JAK/STAT阻害剤、チェックポイント1または2阻害剤、接着斑キナーゼ阻害剤、Mapキナーゼキナーゼ(mek)阻害剤、VEGFトラップ抗体、ペメトレキセド、エルロチニブ、ダサタニブ(dasatanib)、ニロチニブ、デカタニブ(decatanib)、パニツムマブ、アムルビシン、オレゴボマブ、Lep-etu、ノラトレキシド、azd2171、バタブリン(batabulin)、オファツムマブ、ザノリムマブ、エドテカリン、テトランドリン、ルビテカン、テスミリフェン(tesmilifene)、オブリメルセン、チシリムマブ、イピリムマブ、ゴシポール、Bio 111、131-I-TM-601、ALT-110、BIO 140、CC 8490、シレンギチド、ジャイマテカン、IL13-PE38QQR、INO 1001、IPdR1 KRX-0402、ルカントン、LY317615、ニューラジアブ(neuradiab)、ビテスパン(vitespan)、Rta 744、Sdx 102、タランパネル、アトラセンタン、Xr 311、ロミデプシン、ADS-100380、スニチニブ、5-フルオロウラシル、ボリノスタット、エトポシド、ゲムシタビン、ドキソルビシン、リポソームドキソルビシン、5'-デオキシ-5-フルオロウリジン、ビンクリスチン、テモゾロミド、ZK-304709、セリシクリブ(seliciclib);PD0325901、AZD-6244、カペシタビン、L-グルタミン酸N-[4-[2-(2-アミノ-4,7-ジヒドロ-4-オキソ-1H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)エチル]ベンゾイル]-二ナトリウム塩、七水和物、カンプトテシン、PEG標識イリノテカン、タモキシフェン、クエン酸トレミフェン、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、DES(ジエチルスチルベストロール)、エストラジオール、エストロゲン、結合型エストロゲン、ベバシズマブ、IMC-1C11、CHIR-258、3-[5-(メチルスルホニルピペラジンメチル)-インドリル]-キノロン、バタラニブ、AG-013736、AVE-0005、酢酸ゴセレリン、酢酸ロイプロリド、パモ酸トリプトレリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、ラロキシフェン、ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド、酢酸メゲストロール、CP-724714;TAK-165、HKI-272、エルロチニブ、ラパチニブ(lapatanib)、カネルチニブ、ABX-EGF抗体、アービタックス、EKB-569、PKI-166、GW-572016、ロナファルニブ(Ionafarnib)、BMS-214662、ティピファニブ;アミホスチン、NVP-LAQ824、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、バルプロ酸、トリコスタチンA、FK-228、SU11248、ソラフェニブ、KRN951、アミノグルテチミド、アムサクリン(arnsacrine)、アナグレリド、L-アスパラギナーゼ、カルメット-ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、ブレオマイシン、ブセレリン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロドロネート、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエチルスチルベストロール、エピルビシン、フルダラビン、フルドロコルチゾン、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、ロイプロリド、レバミソール、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、6-メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、ニルタミド、オクトレオチド、オキサリプラチン、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、ポルフィマー、プロカルバジン、ラルチトレキセド、リツキシマブ、ストレプトゾシン、テニポシド、テストステロン、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、トレチノイン、ビンデシン、13-cis-レチノイン酸、フェニルアラニンマスタード、ウラシルマスタード、エストラムスチン、アルトレタミン、フロクスウリジン、5-デオキシウリジン、シトシンアラビノシド、6-メルカプトプリン、デオキシコホルマイシン、カルシトリオール、バルルビシン、ミスラマイシン、ビンブラスチン、ビノレルビン、トポテカン、ラゾキシン、マリマスタット、COL-3、ネオバスタット(neovastat)、BMS-275291、スクアラミン、エンドスタチン、SU5416、SU6668、EMD121974、インターロイキン-12、IM862、アンジオスタチン、ビタキシン、ドロロキシフェン、イドキシフェン(idoxyfene)、スピロノラクトン、フィナステリド、シメチジン(cimitidine)、トラスツズマブ、デニロイキンジフチトクス、ゲフィチニブ、ボルテゾミブ(bortezimib)、パクリタキセル、クレモホールフリーパクリタキセル、ドセタキセル、エポチロンB(epithilone B)、BMS-247550、BMS-310705、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、ピペンドキシフェン、ERA-923、アルゾキシフェン、フルベストラント、アコルビフェン、ラソフォキシフェン、イドキシフェン、TSE-424、HMR-3339、ZK186619、トポテカン、PTK787/ZK 222584、VX-745、PD 184352、ラパマイシン、40-O-(2-ヒドロキシエチル)-ラパマイシン、テムシロリムス、AP-23573、RAD001、ABT-578、BC-210、LY294002、LY292223、LY292696、LY293684、LY293646、ワートマニン、ZM336372、L-779,450、PEG-フィルグラスチム、ダルベポエチン、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、ゾレドロネート(zolendronate)、プレドニゾン、セツキシマブ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒストレリン、ペグ化インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2a、ペグ化インターフェロンα-2b、インターフェロンα-2b、アザシチジン、PEG-L-アスパラギナーゼ、レナリドミド、ゲムツズマブ、ヒドロコルチゾン、インターロイキン-11、デクスラゾキサン、アレムツズマブ、オールトランスレチノイン酸、ケトコナゾール、インターロイキン-2、メゲストロール、免疫グロブリン、ナイトロジェンマスタード、メチルプレドニソロン、イブリツモマブチウキセタン(ibritgumomab tiuxetan)、アンドロゲン、デシタビン、ヘキサメチルメラミン、ベキサロテン、トシツモマブ、亜ヒ酸、コルチゾン、エチドロネート(editronate)、ミトタン、シクロスポリン、リポソームダウノルビシン、エドウィナ-アスパラギナーゼ(Edwina-asparaginase)、ストロンチウム89、カソピタント、ネツピタント(netupitant)、NK-1受容体アンタゴニスト、パロノセトロン、アプレピタント、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン、メトクロプラミド、ロラゼパム、アルプラゾラム、ハロペリドール、ドロペリドール、ドロナビノール、デキサメタゾン、メチルプレドニソロン、プロクロルペラジン、グラニセトロン、オンダンセトロン、ドラセトロン、トロピセトロン、ペグフィルグラスチム、エリスロポエチン、エポエチンアルファ、ダルベポエチンアルファが挙げられる。
【0055】
EPR効果
【0056】
一般的に、EPR効果による受動標的化は、ナノキャリアの長い循環時間に高度に依存する。高い透過性および保持(EPR)効果に基づく腫瘍標的化へのアプローチは、(1)高密度のPEG化、(2)表面における官能基の空間的制御、(3)小さいメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)の生成、および、(4)タンパク質コロナ形成の制御であろう。特に重要な2つのパラメータは、粒径および表面特性であり、循環半減期、薬物動態、および、ナノ粒子の生体内分布における重要な役割を果たすことが期待される。一般的に、注入物質は、認識され、血清オプソニンによってすばやく結合され、その後、貪食され、肝臓および脾臓の両方に実質的に蓄積される(単核貪食細胞系としても知られる)。さらに、包括的な研究は、タンパク質コロナの中性は、標的化ナノ材料デリバリーの開発において重要な設計として強調し、表面不均一性における差が小さくても細胞および組織との相互作用を大きく異ならせる可能性があり得ることを証明した。したがって、EPR効果によるナノメディシンの開発に成功するためには、タンパク質コロナ組成の制御および理解が重要になるだろう。
【0057】
BBB透過効果
【0058】
血液脳関門(BBB)は、脳内に輸送される治療薬の大部分を制限する。ナノメディシンは、ナノ粒子のサイズ、形状、表面電荷、共役配位子を変調してBBB透過を向上させることができる。例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、グルタチオン、および、低密度リポタンパク質受容体などの内皮細胞における受容体に結合する標的化リガンドに抱合されるナノ粒子も、BBB透過を促進し得る。しかしながら、ナノ粒子の外面への標的化リガンドによる修飾は、血中のナノ粒子の懸濁および循環にも影響を及ぼし、ナノ粒子の血中クリアランスを加速させ得る。本発明では、BBB透過能力を向上させるべく、ペグ化されたMSNのサイズ、表面組成、および、ゼータ電位を変化させて制御しようとしている。それらの修飾、空間的配置、および、電荷によって、生理的環境における最小限の非特異的結合、および、適正な循環時間を含むMSNの特徴付けが明らかになり、MSNを血液から脳へと輸送することが可能になる。
【0059】
がん転移の阻害
【0060】
がん転移は、がんを患う患者の死亡率を高めることになる。驚くべきことに、発明者等は、通常は活性成分を送達するためだけに用いられていたMSNが、動物モデルを用いたインビトロ検査またはインビボ検査においてがん転移を阻害する効果をもたらし得るという発見をした。しかしながら、メソポーラスでない固体シリカナノ粒子(SSN)は、このような効果をもたらし得ない。理論に拘束されずに、MSNの多孔質構造は、がん転移を阻害する効果に貢献し得るものの、MSMそれ自体がインサイチュで腫瘍増殖を阻害することはないだろう。
【0061】
よって、メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)を被検体に投与するステップを含む、被検体の細胞転移を阻害する方法が提供される。一実施形態では、MSNは、PEG表面修飾を有することにより、バイオアベイラビリティが向上する。一実施形態では、MSNは、PEGおよびTA両方の表面修飾を有する。一実施形態では、MSNは、50nm以下、好ましくは、30nm以下の粒径を有する。一実施形態では、メソポーラスシリカナノ粒子は、1000m2/g以下、好ましくは、500m2/g以下のBET表面積を有する。一実施形態では、細胞転移は、例えば、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、メラノーマ、腎臓がんなどのがん細胞転移である。一実施系形態では、投与経路は、全身または局所投与である。一実施形態では、MSNは、併用療法のために他の化学療法薬、または、生物学的医薬品と共に用いられ得る。
【0062】
MSNのプレコート
【0063】
ナノ粒子をプレコートするためにタンパク質コロナを使用することは、ナノ粒子の生体内分布を導く、または、非標的器官への不要な蓄積を避けるための代替的方法である。インビボでのMSNの運命に関する一般的なタンパク質すべての生物学的機能が識別される。1つの試みは、予め処理した血漿でMSNをプレコートすることであり、この血漿は、ナノ粒子の血中クリアランスを加速させる一因となるとみられているある特定のタンパク質が欠乏している。他の試みは、コロナで見つかった特定のタンパク質でMSNをプレコートすることであり、このたんぱく質は、標的化能力を有するか、または、ナノ粒子にBBBを通過させやすくすることができる。
【0064】
EPR効果および/またはBBB透過効果に基づいて治療される見込みのある疾患は、これに限定されないが、脳関連のがん、および、CNS関連のがんである。特定の疾患は、これらに限定されないが、聴神経腫、星細胞腫、脊索腫、CNSリンパ腫、頭蓋咽頭腫、脳幹グリオーマ、上衣腫、混合膠腫、視神経膠腫、上衣下腫、髄芽腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍、乏突起膠腫、下垂体腫瘍、原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)、他の脳関連症状(シスト、神経線維腫症、偽脳腫瘍、結節硬化)神経鞘腫、若年性毛様細胞性星細胞腫(JPA)、松果体部腫瘍、および、ラブドイド腫瘍を含む。
【0065】
CNS関連の疾患の例は、これらに限定されないが、嗜癖、くも膜嚢胞、注意欠如多動性障害(ADHD)、自閉症、双極性障害、カタレプシー、うつ病、脳炎、てんかん/発作、感染症、閉込め症候群、髄膜炎、偏頭痛、多発性硬化症、脊髄症、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、トゥレット症候群、ベル麻痺、脳性麻痺、てんかん、運動ニューロン疾患(MND)、多発性硬化症(MS)、神経線維腫症、坐骨神経痛、帯状疱疹、および、卒中が挙げられる。
【0066】
ナノ粒子の輸送アッセイのためにインビトロBBBモデルが用いられる。これは、インビボでのBBB機能を刺激するために脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、および、星状膠細胞を共培養する。さらに、マウスの脳血管および脳組織における粒子蓄積を二光子蛍光顕微鏡で直接観察するため、蛍光標識したMSNが用いられる。
【0067】
以下の実施例は、本発明が属する技術の当業者が本発明をより良く理解できるように記載されたものであり、本発明の範囲を限定することは意図されない。
実施例
【0068】
材料、手順、および、テストモデル
【0069】
RITC結合APTMSの調製
【0070】
RITCにおけるイソチオシアネート基とAPTMSにおけるアミノ基との反応によってRITCがAPTMSに結合した。本明細書中で使用されるRITC結合APTMSは、5mLのエタノール中に8mgのRITCを添加し、このエタノール-RITC溶液に10μLのAPTMSを導入することによって調製された。混合物を暗所で少なくとも3時間撹拌し、利用前に、RITC結合APTMSを得た。
【0071】
透過型電子顕微鏡(TEM)
【0072】
シリカナノ粒子の外見を直接調査および検証するために、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いる。TEM画像は、100kVの加速電圧で動作する透過型電子顕微鏡Hitachi H-7100で撮影した。エタノール中に分散したサンプルを炭素被覆した銅格子に滴下し、TEM観察のために空気中で乾燥させた。
【0073】
動的光散乱(DLS)およびゼータ電位
【0074】
異なる溶液環境でのシリカナノ粒子のサイズ測定は、マルバーンゼータサイザーナノZS(マルバーン、イギリス)で動的光散乱(DLS)を用いて行なわれた。室温で、異なる溶液(pH7.4の水およびPBS緩衝液)に形成された(溶媒和)粒子のサイズを分析した。異なるpH値の水溶液中のシリカナノ粒子の表面電荷(ゼータ電位)をMPT-2装置と組み合わせたマルバーンゼータサイザーナノZSによって測定し、サンプル溶液をpH6~pH8で滴定し、異なるpH点のデータを記録した。
【0075】
元素分析
【0076】
シリカナノ粒子における炭素、窒素、酸素、および、水素の質量百分率を元素分析計(エレメンター Vario EL cube NCSH、ドイツ)によって決定した。
【0077】
ナノ粒子のEPR効果および生体内分布を検出するためのインビボイメージングシステム(IVIS)
【0078】
ナノ粒子のインビボ生体内分布画像をIVISイメージングシステム(Lumina)により得た。BALB/cマウス(4週齢)をバイオラスコから購入した。異所性移植のため、4T1(ATCC(登録商標)CRL-2539TM)腫瘍細胞を皮下注射して担腫瘍マウスを作製した。4T1細胞を2~3週間成長させた後、PBS中のサンプルに静脈注射した。注射から24時間後、主要器官(心臓、肺、脾臓、肝臓、および、腎臓)、腫瘍、尿、および、血液を注意深く収集し、収集したサンプルの蛍光画像、および、強度をIVISイメージングシステムにより得た。
【0079】
インビトロモデルにおける血液脳関門(BBB)
【0080】
ファーマコセル株式会社(長崎、日本)から購入したインビトロBBBモデルは、平板培養した脳の内皮細胞、周皮細胞、および、星状膠細胞が播種されたトランスウェルインサートを含む12ウェル培養皿を用い、三重細胞共培養によって構築される。実験に先立ち、BBBの培養皿を5%の二酸化炭素状態下、37℃で4日間インキュベートすることによって細胞間の密着結合を高めた。電荷修飾MSN-PEGナノ粒子を0.3mLのアッセイ培地に懸濁し、(0.33mg/mL)、その後、BBB層の先端側に添加し、モデルを6時間および24時間培養した。さらに、フルオレセインナトリウム(分子量376;NaFluo)を非特異的輸送マーカーとして作用させた。培養後、基底外側の培地を収集し、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)によってSi濃度を検出した。
【0081】
脳血管におけるナノ粒子を検出するための二光子蛍光顕微鏡
【0082】
健康なICRマウス(27~30g)に200mg/kgの電荷修飾MSN-PEGナノ粒子を静脈注射し、調節可能な励起周波数(800~1000nm)を有する多光子顕微鏡(オリンパス FVMPE-RS)によってマウスの耳たぶのダイナミックイメージングを行った。脳血管中をナノ粒子が循環しなくなってから、マウスに麻酔をかけ、開頭術を行った。本研究では、短期間で観察するために、脳の表面にカバーガラスを置く代わりに、生理食塩水を用いた。脳の血管系をイメージングするため、無菌食塩水に溶解した0.6mLの2.5%(w/v)フルオレセインイソチオシアネートデキストラン(FITCデキストラン、分子量70kDa)をマウスに静脈注射した。マウスの大脳における電荷修飾MSN-PEGナノ粒子の深さプロフィール画像は、脳の表面下0~300μm(軸間隔は1μm)から集められた。
【0083】
薬物動態、および、dox蓄積の定量化
【0084】
健康なBALB/cマウスに7.5mg/kgのDoxまたはDox@NTT0_18を単回静脈注射した。血漿および脳におけるDox濃度を決定すべく、注射から15分、30分、60分、180分、360分、および、1440分後にそれぞれ血液サンプルを採取し、サンプルを採取した後の動物をそれぞれ死亡させ、PBSで潅流して脳を採取した。分光光度計によりDox濃度を決定するため、サンプル(血漿および脳のそれぞれ)からDoxを抽出した。
【0085】
U87グリオーマ動物モデル
【0086】
10%のウシ胎仔血清および1%のペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン)を追加した最小必須培地(MEM)において、加湿された5%の二酸化炭素雰囲気の下、37℃で、U87-LUCグリオーマ細胞を培養した。細胞をトリプシン処理によって収穫し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1度洗浄し、後のマウス脳の線条体への移植のために、MEM中に再懸濁(1×105細胞/μL)した。無菌のメスのNU/NUマウス(5~7週齢)をバイオラスコ(台湾)から購入した。マウスを制御環境下に収容および維持し、全ての手順を、長庚大学動物委員会(Animal Committee of Chang Gung University)の動物の飼養に関するガイドラインに従って実施した。U87-LUC腫瘍細胞を移植するに当たり、マウスには2%イソフルランガスで麻酔を行い、定位固定フレーム上に固定した。頭蓋冠を覆う皮膚の矢状切開を行い、露出させた頭蓋において、ブレグマの1.5mm前側かつ2mm外側に対し、23Gの針を使用して孔を形成した。脳表面から2mm深部に、5μLのU87-LUCグリオーマ細胞懸濁液を注入した。注入は3分間行い、その後2分かけて針を引き抜いた。脳腫瘍の増殖をIVISおよびMRIでモニタした。
【0087】
実施例1
【0088】
ナノ粒子表面の官能基修飾に対してさまざまなPEG比率を有するメソポーラスシリカナノ粒子の調製
【0089】
メソポーラスシリカナノ粒子(MSN)は、さまざまな有機官能基によって修飾され得る、明確に定義された構造および高密度の表面シラノール基を有する。異なるサイズのMSNは、高希釈状態、すなわち、界面活性剤の濃度が低い状態で、アンモニアを塩基触媒として調製された。粒径は、アンモニア濃度、添加されるTEOS量、および、反応温度を調整することによって制御された。MSNの表面に正荷電基を提供するため、例示的な電荷修飾剤としてTAシラン(N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)を用いた。例によって、密閉されたビーカー内の所望の温度(50~60℃)の150mLの水酸化アンモニウム溶液(0.1~0.2M)に、0.29gのCTABを溶解した。15分撹拌した後、密封膜を取り除き、溶液を勢いよく攪拌しながら(600rpm)、2.5mLのエタノールを溶媒としたRITC結合APTMS、および、2~2.5mLのエタノールを溶媒としたTEOS(0.8~0.9M)を加えた。1時間の撹拌の後、2mLのエタノール中で、TAシランに対するPEGシランのモル比が異なる550μLのPEGシラン(2-[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]-トリメトキシシラン)を反応させた(PEG/TA比は15:1,10:1,7:1,3:1,2:1,1:2であり、TAシランの量は0.04~1.2mL)。混合物を30分間撹拌した後、少なくとも12時間は撹拌せずに、混合物を所望の温度(50~60℃)で熟成させた。その後、溶液を密封し、70℃のオーブンに入れて24時間水熱処理にかけた。合成したままのサンプルを洗浄し、遠心分離またはクロスフローシステムによって収集した。MSNの細孔内の界面活性剤を取り除くため、合成したままのサンプルを初回は678μL、2回目は40μLの塩酸(37%)を含む40mLの酸性エタノール中で、それぞれ60℃、抽出時間は1時間でインキュベートした。生成物を洗浄し、遠心分離またはクロスフローシステムで収集し、最終的に90%エタノール中に保存した。異なる官能基で修飾したMSN-PEGを合成するために、TAシランをPEIシラン、EDPTMSNシラン、または、他の官能基シランと置き換えた。
【0090】
実施例2
【0091】
TEMおよびDLS測定
【0092】
実施例1で合成されたMSNをTEM測定にかけ、結果を
図1に示す。粒径、および、その標準偏差を表1に示す。TEMの結果では、さまざまな修飾を有する30nmのMSNは、約25~35nmの平均粒径を有し、さまざまな修飾を有する50nmのMSNは、約40~60nmの平均粒径を有し、どちらの粒径の標準偏差も小さく、そのことは、粒子の均一性に反映していることを示唆している。
【表1】
【0093】
異なる分解能環境の動的光散乱(DLS)によって測定されたさまざまな修飾を有するMSNの粒径を表2に示す。DLSの結果は、すべてのMSNが緩衝液中約35nm~45nm、または、50~70nmの範囲内によく分散していることを示している。
【表2】
【0094】
元素分析
【0095】
MSN-PEG+TA合成過程では、MSNにおけるPEG/TA比を変調するための反応に、異なるモル比のPEGシランおよびTAシランを用いた。MSN-PEG+TAナノ粒子における官能基を定量化すべく、MSN-PEG+TAナノ粒子の元素組成を元素分析器で測定した。MSN-PEG+TAにおけるTA基に対するPEG基のモル比(PEG/TA)は、MSN-PEG+TA粒子の窒素および炭素の質量百分率から導かれる。元素分析から導かれたMSN-PEG+TA(1:2)、(2:1)、(10:1)のPEG/TA比は、約0.64、2.67、および、6.13である。
【0096】
実施例3
【0097】
生体内分布および腫瘍標的化能力への官能基の表面電荷および空間的配置の影響
【0098】
MSNは、EPR効果に基づく優れた腫瘍標的化能力を示し、考慮すべきいくつかの重要な決定要因があることが実証されている。(1)粒径は、100nm未満であり、好ましくは、約20nm~50nmの範囲であり、例えば、約30nmである。(2)外面は、PEGで覆われる必要があり、修飾は、PEG層内に隠される必要がある。
(3)表面電荷、および、PEG/電荷修飾部分の比率は、特定の範囲内に限定する必要がある。官能基の空間的配置の、EPR効果への影響を評価すべく、同様のサイズおよびゼータ電位を有するが正荷電分子の長さまたは分子量が異なるMSNを合成した。MSNをPEG化するためのPEGは、分子量459~591であり、表面修飾のための正荷電基は、トリメトキシシリルプロピル修飾したポリエチレンイミン(PEIシラン、分子量1500~1800)、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(TAシラン、分子量258)、または、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(EDPTMS、分子量222)である。分子量がより大きいPEIシランは、PEG層を超えて外面に露出することが予想されるが、TAおよびEDPシランは、PEGシランより分子量が小さいので、鎖の長さが短くなり、TAの第4級アミン、および、EDPの第1および第2級アミンは、PEG層内に隠れることが予想される。MSN-PEG+PEI、MSN-PEG+TA、および、MSN-PEG+EDPの合成的径(TEM)、水および緩衝液中における流体力学的径(DLS)、および、ゼータ電位は、ほぼ同一である(表3)。これらの粒子のEPR効果は、担腫瘍マウスの尾静脈から粒子を注射することによって検査される。注射後1日目に、腫瘍および器官への粒子の蓄積をIVISによって決定した。MSN-PEG+TA、および、MSN-PEG+EDPは、腫瘍内に強い蛍光信号を示し、肝臓の信号に対する腫瘍の信号の比率は、3を上回った。これは、粒子が腫瘍に蓄積し、優れたEPR効果があることを意味する。しかしながら、MSN-PEG+PEIは、MSN-PEG+TAと同様のサイズおよびゼータ電位を有するが、腫瘍に蓄積しない(表3)。EPR効果を変調させるには、官能基がPEG層に隠れているだけでなく、MSNの表面電荷も重要である。PEG化は、血液の循環および腫瘍内の蓄積を向上させることはよく知られているが、その向上は十分でない。粒子が蓄積する肝臓対腫瘍の比率(腫瘍/肝臓)は、30nmのMSN-PEGでは約1.2であり、50nmのMSN-PEGでは約0.35である(
図2)。表面官能基の組成およびゼータ電位を変調するための合成過程においてTA対PEG(PEG/TA)のモル比を異ならせることにより、EPR効果を著しく高めることができる。粒子の蓄積比の値(腫瘍/肝臓)は2~3上昇し、2~8.6倍の向上を示している。-15~+7mVに上昇したゼータ電位(pH7.4の状態)を有する15:1~2:1の比率のPEG/TA(合成過程における(PEGシラン/TAシラン)で修飾された30nmのMSN-PEG+TAナノ粒子は、MSN-PEG、MSN-TA(ゼータ電位+31)、および、PEG/TA(1:2)で修飾されたナノ粒子(ゼータ電位+21)より高い粒子蓄積比値(腫瘍/肝臓)を示している(
図3)。MSN-PEG+TAの粒径が50nmであり、PEG/TA比が7:1~2:1であり、ゼータ電位(pH7.4の状態)が+12から+18mVに上昇する場合も同様の結果が得られ、粒子は、50nmのMSN-PEGよりも高い腫瘍標的化能力を示した。結果は、MSN-PEG+TAの表面電荷およびPEG/TA比が特定の範囲であるとナノ粒子の腫瘍標的化能力が高まることを示している。
【表3】
【0099】
実施例4
【0100】
BBB透過能力への表面電荷の影響
【0101】
薬物輸送のBBB通過に有利なのは100nm未満のナノ粒子であるため、脳へ治療薬を送達することは、未だに大きな課題である。本発明では、PEG化されたMSNのサイズ、組成、および、ゼータ電位の、BBB透過への影響を、インビトロおよびインビボで調べた。異なる表面修飾を有する3つの異なるサイズ(10、30、50nm)のMSNを合成し、ラット(ウィスターラット)の脳毛細血管内皮細胞、脳周皮細胞、および、星状膠細胞の初代培養によって作製したインビトロBBBモデルであるBBBキットを用いてBBB透過能力を有する粒子をすばやくスクリーニングした。表面を正荷電TA分子で修飾した30nmのPEG化MSNは、インビトロアッセイにおいて、BBBの細胞層を比較的よく通過することを示した。インビボでのナノ粒子のBBB透過能力を理解すべく、二光子蛍光顕微鏡を用いて、マウスの脳の血管におけるナノ粒子の分布をモニタした。蛍光標識したナノ粒子を、尾静脈を介して投与した。注射から2日後、表面から0~300μmの深度内に位置する脳血管を検出した。一方、脈管構造をマッピングし、血管壁の境界を明らかにするため、FITCデキストランを静脈注射した。ナノ粒子からの蛍光信号がFITCデキストランの信号(緑信号)と重なると、黄色信号または赤信号が現れ、ナノ粒子が血管内にないことを意味し、BBBを通過して脳組織に入ることができたことを意味する。脳血管の3D画像は、脳血管壁および脳組織領域に分布したMSN-PEG+TAナノ粒子からの非常に多くの赤信号を示している(
図4A)。脳の組織切片におけるナノ粒子の分散パターンを観察することによって、MSN-PEG+TAの脳内分布をさらに調べた。脳組織の異なる場所で、ナノ粒子を検出した。
【0102】
結果は、特定の範囲のPEG/TA比(10:1~2:1)で修飾した30nmのMSN-PEG+TAは、BBBを通過して脳組織内に入る可能性を示した。しかしながら、負荷電THPMP分子で修飾されたナノ粒子(MSN-PEG+THPMP)は、BBB透過能力を示さなかった(
図4B)。インビボでのBBB透過能力を示すには、生理的環境において、ナノ粒子が最低限の非特異的結合および適切な循環時間を有さなくてはならない。さらに、ナノ粒子の生理化学的特性は、BBB通過する通過メカニズムを決定する。これまで、内皮細胞によるレセプターまたは吸収性媒介トランスサイトーシス、および、内皮細胞間の密着結合を開くことを含む、BBBを通過するナノ粒子のメカニズムを説明してきたが、生体用途のためにBBB透過能力を有するナノ粒子を開発することは、まだ困難である。本発明では、官能基(TA分子)をPEG層内に隠し、ゼータ電位(pH7.4の状態)を-13~+21mV(好ましくは約-13~+7mV)の範囲で変更するために表面のPEG/TA比を変調する(10:1~1:2、好ましくは、約10:1~2:1の範囲)することによって、CNS疾患および脳腫瘍の治療薬を脳に送達するためにナノ粒子がBBBを透過できるようになることを実証する。
【0103】
実施例5
【0104】
血漿および脳におけるDoxおよびDox@MSN-PEG+TAの薬物動態
【0105】
MSN-PEG+TAの血液循環時間の延長、および、BBB透過能力向上の予備的定量化のため、化学療法薬であるドキソルビシン(Dox)の薬物動態を、MSN-PEG+TAのカプセル化ありまたはなしで分析した。マウスに、静脈注射によってDoxまたはDox@NTT0_18(MSN-PEG+TA負荷Dox)を単回投与した(Dox投与量はすべて7.5mg/kg)。血漿および脳におけるDox濃度を決定すべく、注射の15、30、60、180、360、および、1440分後に血液サンプルを取り、各時点で動物を死亡させてPBSで潅流した。血漿および脳からDoxを抽出し、分光光度計を用いてDox濃度を測定した。カプセル化されたMSN-PEG+TA有り、無しの血漿におけるDoxの濃度対時間曲線も描いた。Dox溶液の注射後15分を過ぎても血漿内のDox濃度はほとんど検出できなかった(0.2μg/mL未満)が、Dox@NTT0_18を注射したマウスには6時間後もDoxが存在していた。これらの潅流マウスにおける脳分析では、Dox@NTT0_18の投与の方が、Dox溶液の投与よりも、脳内におけるDoxの蓄積が2~6.6倍も高いことを示した。これらの結果は、MSN-PEG+TAナノ粒子にカプセル化されたDoxが、血液循環時間を長くし、BBB透過性を高め得ることを明らかにしている。
【0106】
実施例6
【0107】
脳腫瘍の治療のためのDox@MSN-PEG+TA
【0108】
30nmのMSN-PEG+TA粒子は、腫瘍標的化(EPR効果)およびBBB透過特性を有する。これは、脳腫瘍の治療のためのドラッグデリバリーナノキャリアとしてのMSN-PEG+TAナノ粒子の利点である。Doxは、多発性がんの治療に承認されるよく知られた抗がん剤である。Doxは、インビトロでは、抗グリオーマ細胞活性を示すが、BBBを通過して脳内に入ることができなかった。また、Doxは、脳がんの治療には承認されていない。我々のMSN-PEG+TAナノ粒子は、脳がんの治療のためにDoxを脳内に送達する可能性をもたらす。Dox@MSN-PEG+TAは、DoxをMSN-PEG+TA溶液で1時間インキュベートし、水で2回洗浄してカプセル化されていないDoxを取り除くことによって合成され、遠心分離によって収集された。インビボでのDox@MSN-PEG+TAの抗脳腫瘍の有効性を評価すべく、U87-LUC脳細胞をヌードマウスに直交異方性移植してU87-LUC異種移植マウスモデルとした。U87-LUC細胞は、インビボでの腫瘍細胞の定量化のための発光酵素を表し得る。腫瘍移植から4日後、同じDox用量(10mg/kg)のフリーDoxおよびDox@MSN-PEG+TAと、約250mg/kgのMSN-PEG+TAとをそれぞれ、U87-LUC異種移植マウスモデルの尾静脈から4日ごとに3回投与し、調査期間中、体重および腫瘍サイズを測定した。治療期間中、DoxおよびDox@MSN-PEG+TAの腫瘍サイズは減少したが、Doxの高毒性がマウスを弱らせ、宿主を死に至らしめた。それに対し、Dox@MSN-PEG+TAで治療したマウスは、治療期間中に体重の減少が見られたが、投与を止めると回復した。Dox@MSN-PEG+TA治療群のマウスの脳のMRI画像は、13日目に著しい腫瘍の収縮を示し、34日目には、空所で示されるように腫瘍はほぼ検出できなくなった(図示せず)。Dox@MSN-PEG+TAで治療されたマウスの寿命は、腫瘍が消滅したために著しく延びた。
MSN-PEG+TAおよびDox@MSN-PEG+TAのEPR効果およびBBB透過能力を評価すべく、最後の注射から24時間後にマウスを死亡させ、脳を収集し、凍結切片を調製するため固定した。脳組織および腫瘍におけるMSN-PEG+TAおよびDox@MSN-PEG+TAの分布を、ナノ粒子で治療されたマウスの腫瘍切片から評価した。細胞の核を染色するためにDAPIを用い、DAPIで染色した細胞の過形成領域によって腫瘍組織を識別した(青で示す)。MSN-PEG+TAで治療したマウスは、腫瘍の中心および周辺にたくさんのナノ粒子(赤で示す)の蓄積が見られた。この現象は、MSN-PEG+TAのEPR効果とBBB透過性の組み合わせによるものであり得る(図示せず)。Dox@MSN-PEG+TAで治療したマウスの脳切片は、Dox@MSN-PEG+TAの抗脳腫瘍効果により、腫瘍領域がPBS群のものよりはるかに小さいことを示した。MSN-PEG+TAとDox@MSN-PEG+TAとは明らかに異なる。Dox@MSN-PEG+TAは、腫瘍領域に蓄積されるだけでなく、腫瘍領域でない場所にもみられる。Dox@MSN-PEG+TAの信号は、脳全体のさまざまな領域で検出できる(図示せず)。これらの結果は、腫瘍増殖中に漏れやすい脈管構造が形成されると、Dox@MSN-PEG+TAのEPR効果は、生体内分布を支配し、Doxを腫瘍領域に送達するので、腫瘍細胞を殺し、腫瘍を収縮させることを示している。一旦腫瘍が収縮してEPR効果が弱まると、Dox@MSN-PEG+TAナノ粒子のBBB通過現象が容易に観察される。臨床例では、腫瘍周辺のがん細胞は、正常な脳組織に浸潤する可能性があり、そうなると治療薬の送達が困難になる。なぜなら、正常な領域のBBBおよび血管は、インタクトであるため治療薬を遮断するからである。Dox@MSN-PEG+TAのBBB透過性は、浸潤するがん細胞を殺す、または、腫瘍除去手術後も残ったがん細胞を殺すためにDoxをBBBのインタクトな領域内に送達する可能性を有する。したがって、ドラッグデリバリーシステムとしてEPR効果およびBBB透過能力の両方を有するMSN-PEG+TAは、がん、特に脳関連のがん、および、CNS疾患の治療に有益である。
【0109】
実施例における材料、反応、条件、および、パラメータは、例示目的に過ぎず、材料または調製法を限定する意図はない。
【0110】
脳関連のがん、および、CNS関連のがんの例は、これらに限定されないが、聴神経腫、星細胞腫、脊索腫、CNSリンパ腫、頭蓋咽頭腫、脳幹グリオーマ、上衣腫、混合膠腫、視神経膠腫、上衣下腫、髄芽腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍、乏突起膠腫、下垂体腫瘍、原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)、他の脳関連症状(シスト(嚢胞)、神経線維腫症、偽脳腫瘍、結節硬化)神経鞘腫、若年性毛様細胞性星細胞腫(JPA)、松果体部腫瘍、および、ラブドイド腫瘍が挙げられる。
【0111】
CNS関連の疾患の例は、これらに限定されないが、嗜癖、くも膜嚢胞、注意欠如多動性障害(ADHD)、自閉症、双極性障害、カタレプシー、うつ病、脳炎、てんかん/発作、感染症、閉込め症候群、髄膜炎、偏頭痛、多発性硬化症、脊髄症、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、トゥレット症候群、ベル麻痺、脳性麻痺、てんかん、運動ニューロン疾患(MND)、多発性硬化症(MS)、神経線維腫症、坐骨神経痛、帯状疱疹、および、卒中が挙げられる。
【0112】
実施例7
【0113】
がん細胞転移を阻害するためのインビトロ検査
【0114】
MSNの治療によってがん転移を阻害する可能性を評価するために、創傷治癒アッセイを採用した。さまざまな表面修飾または粒径を有するMSN粒子をアッセイに用いる。固体シリカナノ粒子(SSN)すなわち、実質的に孔のないナノ粒子も比較例としてアッセイに用いられる。創傷治癒アッセイは、以下の工程で行われる。IbidiのCulture-Inserts 2ウェルを24ウェルプレートに移し、4T1細胞(2×104細胞/ウェル)をCulture-Insertsの2つのコンパートメントに播種し、24時間インキュベートした。インキュベート後、インサートを除去し、均一な創傷にした。ウェルをPBSで2回洗浄して分離した細胞を除去し、1%のウシ胎仔血清、および、200μg/mLのMSNまたはSSNと共にRPMI培地で培養した。0、16、および、24時間後に顕微鏡で画像を取得し、創傷部治癒率をImageJによりカウントした。パラメータの詳細を表4に示す。
【0115】
【0116】
図5Aは、16時間後と24時間後との、各サンプルの創傷部治癒率の比較を示す。結果は、さまざまな表面修飾およびサイズを有するMSNは、細胞移動を阻害する効果を示したが、SSNにはそのような効果は見られなかった。
【0117】
MSNの治療によるがん転移阻害の可能性を評価するために、ボイデンチャンバアッセイも採用した。MSNの細胞移動阻害能力を評価すべく、細胞を200μg/mLのMSNまたはSSNで24時間処理したのち、2×10
5の4T1細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種し、24時間インキュベートした。その後、細胞を回収し、ボイデンチャンバ(7×10
4細胞/ウェル)の上側に移した。ボイデンチャンバアッセイには中空のプラスチックチャンバを用い、一端側を多孔膜で密封し、チャンバをウェル上に設置し、RPMI培地を添加した。細胞をチャンバの上側に置き、細孔を介して膜の反対側に移動させた。24時間後、細胞を4%のホルムアルデヒド溶液で固定し、0.5%のクリスタルバイオレットで染色した。チャンバの上側の移動しなかった細胞を消毒綿で取り除き、移動した細胞の画像を顕微鏡で撮影した。
図5Bは、各サンプルの下層の細胞被覆部(移動細胞)のパーセントの比較を示す。結果は、PEG修飾、および、上記のようなTA修飾と組み合わせたPEG修飾を含む、さまざまな表面修飾、および、さまざまなサイズを有するMSNは、細胞移動を阻害する効果を示したが、SSNではそのような効果は見られなかったことを示した。このような結果は、シリカナノ粒子のメソ多孔性が細胞移動を阻害する効果に寄与し得るという証拠となり得る。
【0118】
実施例8
【0119】
マウスへのインビボ検査
【0120】
MSNの治療効果を評価するためにマウスにインビボ検査を行った。1.5×106のルシフェラーゼ-4T1がん細胞(ルシフェラーゼ標識乳がん細胞)を背中に移植したBALB/cマウスをインビボ検査モデルとして用いた。この自然がん転移モデルでは、移植した腫瘍が増殖するとすぐに、移植部位から二次的部位(転移部位:肺、リンパ節など)へとがん細胞が広がった。12日目、15日目、および、18日目に、25nmのMSN-PEG+TAをマウスに静脈注射(200mg/kg)、または、腫瘍内投与(20mg/kg)した。がん転移を追跡するため、21日目、28日目、32日目、35日目にIVISシステムによって発光図を撮影した。35日目に、マウスの肺を摘出し、墨で染色した。数分後、腫瘍組織が黒い肺における白い小節として現れる。腫瘍を数えることによって転移レベルを決定できる。週2回、マウスの体重および腫瘍体積を測定した。
【0121】
図6Aは、各群で測定したマウスの体重がほぼ一定に維持されていることを示し、これはMSN-PEG+TAがマウスに対して毒性を示し得ないことを意味する。その一方で、異なる日に測定された腫瘍体積は、インサイチュではMSN-PEG+TAが腫瘍増殖を阻止できない可能性があることを示した。
【0122】
図7は、肺へのがん転移レベルの結果を示しており、MSN-PEG+TAの静脈注射および腫瘍内投与のいずれも転移を阻止することを示している。
【0123】
図8は、25nmのMSN-PEG+TAを静脈注射または腫瘍内投与したマウスの背中から身体の他の部位(肺およびリンパ節)への転移レベルは、対照群のマウスより低いことを示す発光図である。
【0124】
当業者は、本出願の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明の教示および開示にさまざまな変更および修正がなされ得ることを理解すべきである。上記内容に基づき、それらの変更および修正は、添付の請求項および均等物において定義された範囲内に収まるという条件で、本願の範囲内に収まることが意図される。