(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】移動体並びにその制御装置、制御方法及び制御プログラム、モバイルマニピュレータ並びにシステム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241112BHJP
【FI】
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2020088077
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】315014671
【氏名又は名称】東京ロボティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】坂本 義弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高志
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-111011(JP,A)
【文献】特開2010-231698(JP,A)
【文献】特開平10-262882(JP,A)
【文献】特開2019-053507(JP,A)
【文献】特開2018-185633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間内を自律移動する移動体であって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、
前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御部と、をさらに備える、移動体。
【請求項2】
前記領域移動速度情報は、前記空間に対応する環境地図に設定された1又は複数の領域のそれぞれに前記移動体の移動速度が対応付けられた移動速度地図である、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記自己位置に基づき、前記自己位置から所定の移動終点又は移動終点へと至る途中の経由点までの経路を計画する、経路計画部をさらに備える、請求項1又は2のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項4】
前記自己位置特定部は、さらに、
前記移動体周辺の環境を認識して環境情報を生成する、環境認識部と、
前記環境情報に基づいて、前記移動体の自己位置を推定して前記自己位置を特定する、自己位置推定部と、を備える、請求項1~3のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項5】
前記移動体は、さらに、
前記移動体の内部又は外部に、前記環境地図へと領域及び対応する移動速度を設定することを可能とする設定入力部を備える、請求項
2に記載の移動体。
【請求項6】
前記設定入力部は、さらに、
前記領域に対応して前記領域の性質の設定を可能とする性質情報設定入力部と、
前記領域の性質に関する設定に基づいて、前記領域に対して所定の移動速度を自動設定する、移動速度自動設定部を備える、請求項5に記載の移動体。
【請求項7】
前記領域の性質は、領域が人間共存領域であることを含む、請求項6に記載の移動体。
【請求項8】
前記環境地図は、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)により生成されたものである、請求項2
又は5のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項9】
前記環境地図は、CADにより生成されたものである、請求項2
又は5のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項10】
前記環境地図は、さらに、前記移動体の移動制限の指標となるコスト情報を含む、請求項2
、5、8又は9のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項11】
前記コスト情報は、周辺の障害物からの距離が離れる程コストが小さくなるコスト情報である、請求項10に記載の移動体。
【請求項12】
前記減速制御部は、さらに、前記移動体が前記第1の領域から前記第2の領域へと進入する際又はその直前若しくは直後において、前記移動体の移動速度が前記第2の領域へと対応付けられた移動速度となるように制御する、請求項1に記載の移動体。
【請求項13】
前記移動体周辺の環境を認識して環境情報を生成する、環境認識部と、
前記環境情報に基づき、前記環境地図に存在しない未知障害物を検出する、未知障害物検出部と、
前記未知障害物の周辺の所定領域について未知障害物周辺移動速度を設定する、移動速度設定部と、をさらに備える、請求項
2、5、8~10のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項14】
前記移動速度設定部は、さらに、
前記未知障害物の位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である基本移動速度と、前記未知障害物周辺移動速度とを比較する、移動速度比較部と、
前記基本移動速度が前記未知障害物周辺移動速度より大きい場合には、前記未知障害物の周辺の所定領域について前記未知障害物周辺移動速度を設定し、前記基本移動速度が前記未知障害物周辺移動速度より小さい場合には、前記未知障害物の周辺の所定領域について前記基本移動速度を設定する、選択的移動速度設定部と、をさらに備える、請求項13に記載の移動体。
【請求項15】
前記移動体は、荷物を運搬可能に構成され、
前記荷物の運搬中は、前記移動体の移動速度を減少させるよう制御する、運搬時速度制御部、をさらに備える請求項1~14のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項16】
前記移動体は、荷物を運搬可能に構成され、
前記荷物の運搬中は、前記移動体の加速度及び/又は減速度を減少させるよう制御する、運搬時加速度制御部、をさらに備える請求項1~15のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項17】
前記経路計画部は、さらに、
前記自己位置から所定の移動終点又は移動終点へと至る途中の経由点までの移動時間が最短となるように経路を計画する、最短移動時間経路計画部を備える、請求項3に記載の移動体。
【請求項18】
前記移動体は、ロボットマニピュレータをさらに備える、請求項1~17のいずれか1つに記載の移動体。
【請求項19】
所定の空間内を自律移動する移動体の制御装置であって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、
前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御部と、をさらに備える、制御装置。
【請求項20】
所定の空間内を自律移動する移動体の制御方法であって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定ステップと、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定ステップと、
前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御ステップと、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出ステップと、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御ステップと、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御ステップと、をさらに備える、制御方法。
【請求項21】
所定の空間内を自律移動する移動体の制御プログラムであって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定ステップと、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定ステップと、
前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御ステップと、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出ステップと、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御ステップと、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御ステップと、をさらに備える、制御プログラム。
【請求項22】
所定の空間内を自律移動するモバイルマニピュレータであって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御部と、をさらに備える、モバイルマニピュレータ。
【請求項23】
所定の空間内を自律移動する移動体を含むシステムであって、
前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、
前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、
前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備え、
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御部と、
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合であって、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御部と、をさらに備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の環境内を自律移動する移動体、例えば、モバイルマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間共存の環境下において自律移動するロボットの開発が進められている。自律移動ロボットにおいては、空間を共有する人間や他の移動ロボット等との衝突等が生じないよう安全確保が不可欠となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、交差点等の人や移動障害物の飛び出しが予想される危険箇所において移動体を衝突回避させる移動制御技術が開示されている。同文献において、移動体は、測距センサを用いて環境内の物体検出を行い、所定の場合に前記物体の端点を危険箇所として抽出し、進入速度を落とす等して所定の衝突回避動作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自律移動ロボットの移動時の安全性の確保を目的とする従前の技術では、自律移動ロボットの作業性の低下を招くおそれがあった。
【0006】
例えば、特許文献1に記載の技術においては、測距センサによる環境内の物体検出の結果のみに基づいて危険箇所を検出しているため、環境内に人間や様々な形状の物体が配置された場合には物体の誤検出のおそれがあった。これにより、自律移動ロボットは、本来危険箇所でない箇所を危険な箇所と判断して、無用に減速等を行ってしまい、その結果、作業性を低下させるおそれがあった。また、そもそも物体検出により外形的に危険箇所と判断されても、実際には当該領域は人間や他の移動体等の立ち入りが禁止されており移動速度を低下させる必要性がない場合等も想定されるものの、同技術を用いると一律に速度を落とす等することとなり作業性を低下させるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述の技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、人間等と空間を共有する環境下において安全性と作業性を両立可能な移動体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術的課題は、以下の構成を有する移動体等により解決することができる。
【0009】
すなわち、本発明に係る移動体は、所定の空間内を自律移動する移動体であって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備えている。
【0010】
このような構成によれば、領域移動速度情報と自己位置とに基づいて、領域毎に適切な移動速度となるよう移動体の移動速度を制御することができるので、例えば、人間等の立ち入りが禁止されている領域など安全確保より作業性を優先可能な領域については大きな速度で移動体を移動させ、また、人間等と共有する領域など安全確保を優先すべき領域については小さな速度で移動体を移動させることができる。その結果、人間等と空間を共有する環境下において移動体の安全性と作業性を両立させることができる。
【0011】
前記領域移動速度情報は、前記空間に対応する環境地図に設定された1又は複数の領域のそれぞれに前記移動体の移動速度が対応付けられた移動速度地図であってもよい。
【0012】
このような構成によれば、自律移動を行う空間に対応した環境地図を基準として任意に移動速度地図を設定することができるので、環境に応じて適切に移動速度を設定することができる。
【0013】
前記自己位置に基づき、前記自己位置から所定の移動終点又は移動終点へと至る途中の経由点までの経路を計画する、経路計画部をさらに備える、ものであってもよい。
【0014】
このような構成によれば、自己位置に基づいて終点又は経由点までの経路を適切に計画することができる。
【0015】
前記自己位置特定部は、さらに、前記移動体周辺の環境を認識して環境情報を生成する、環境認識部と、前記環境情報に基づいて、前記移動体の自己位置を推定して前記自己位置を特定する、自己位置推定部と、を備える、ものであってもよい。
【0016】
このような構成によれば、環境情報に基づき自己位置推定を行いつつ移動することができる。
【0017】
前記移動体は、さらに、前記移動体の内部又は外部に、前記環境地図へと領域及び対応する移動速度を任意に設定することを可能とする設定入力部を備える、ものであってもよい。
【0018】
このような構成によれば、移動体の管理者等が任意に領域に対応する移動速度を設定することができる。
【0019】
前記設定入力部は、さらに、前記領域に対応して前記領域の性質の設定を可能とする性質情報設定入力部と、前記領域の性質に関する設定に基づいて、前記領域に対して所定の移動速度を自動設定する、移動速度自動設定部を備える、ものであってもよい。
【0020】
このような構成によれば、領域の性質さえ設定を行えば各領域に対して移動速度が設定されるので、移動速度の設定が容易となる。
【0021】
前記領域の性質は、領域が人間共存領域であることを含むものであってもよい。
【0022】
このような構成によれば、人間共存領域であることの設定を行うことで各領域に対して間接的に移動速度を設定することができるので移動速度の設定が容易となる。なお、人間共存領域であることは、実質的に同様の意味合いの設定、例えば、人間不在領域であること等を含むものである。また、必ずしも二値的に設定される必要はない。
【0023】
前記環境地図は、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)により生成されたものであってもよい。
【0024】
このような構成によれば、SLAMにより未知の空間であっても適切な環境地図を生成することができる。
【0025】
前記環境地図は、CADにより生成されたものであってもよい。
【0026】
このような構成によれば、CADによっても環境地図を生成することができる。
【0027】
前記環境地図は、さらに、前記移動体の移動制限の指標となるコスト情報を含む、ものであってもよい。
【0028】
このような構成によれば、環境地図に対してさらに移動制限の指標を取り入れることができ、それにより移動体の安全性を向上させることができる。
【0029】
前記コスト情報は、さらに、周辺の障害物からの距離が離れる程コストが小さくなるコスト情報を含む、ものであってもよい。
【0030】
このような構成によれば、コスト情報に基づき障害物からの距離を考慮しつつ、移動することができるので安全な移動を実現することができる。
【0031】
前記移動体が前記領域のうちの第1の領域から隣接する第2の領域へと進入することを検出する、領域遷移検出部と、前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合に、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より大きい場合、前記第1の領域内において前記移動体の減速を開始するよう制御する、減速制御部と、をさらに備える、ものであってもよい。
【0032】
このような構成によれば、移動体が高速領域から低速領域へと進入する場合には既に十分に減少した移動速度となっているので、低速領域における安全性をより高めることができる。
【0033】
前記減速制御部は、さらに、前記移動体が前記第1の領域から前記第2の領域へと進入する際又はその直前若しくは直後において、前記移動体の移動速度が前記第2の領域へと対応付けられた移動速度となるように制御する、ものであってもよい。
【0034】
このような構成によれば、移動体が高速領域から低速領域へと進入する場合には既に低速領域に対応付けられた移動速度となっているので、低速領域における安全性をより高めることができる。
【0035】
前記第1の領域から前記第2の領域への進入が検出された場合に、前記第1の領域に対応付けられた移動速度が、前記第2の領域に対応付けられた移動速度より小さい場合、前記第2の領域へと進入後に前記移動体の加速を開始するよう制御する、加速制御部を、さらに備える、ものであってもよい。
【0036】
このような構成によれば、移動体が低速領域から高速領域へと進入する場合には、高速領域へと進入してから加速を開始するので、この場合も低速領域における安全性は維持される。
【0037】
前記移動体周辺の環境を認識して環境情報を生成する、環境認識部と、前記環境情報に基づき、前記環境地図に存在しない未知障害物を検出する、未知障害物検出部と、前記未知障害物の周辺の所定領域について未知障害物周辺移動速度を設定する、移動速度設定部と、をさらに備えるものであってもよい。
【0038】
このような構成によれば、未知障害物の近傍に特有の移動速度、例えば、小さな移動速度で移動することができるので、より移動の安全性を高めることができる。
【0039】
前記移動速度設定部は、さらに、前記未知障害物の位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である基本移動速度と、前記未知障害物周辺移動速度とを比較する、移動速度比較部と、前記基本移動速度が前記未知障害物周辺移動速度より大きい場合には、前記未知障害物の周辺の所定領域について前記未知障害物周辺移動速度を設定し、前記基本移動速度が前記未知障害物周辺移動速度より小さい場合には、前記未知障害物の周辺の所定領域について前記基本移動速度を設定する、選択的移動速度設定部と、をさらに備えるものであってもよい。
【0040】
このような構成によれば、未知障害物近傍においては、未知障害物近傍の移動速度と未知障害物が配置される領域に対応付けられた移動速度のうち、いずれか小さい方の移動速度が選択して設定されるので、移動体の安全な移動を実現することができる。
【0041】
前記移動体は、荷物を運搬可能に構成され、前記運搬中は、前記移動体の移動速度を減少させるよう制御する、運搬時速度制御部、をさらに備えるものであってもよい。
【0042】
このような構成によれば、移動速度の低減により移動体の運動量を低減させることができるので、予期せぬ衝突等の際の安全性を高めることができる。
【0043】
前記移動体は、荷物を運搬可能に構成され、前記運搬中は、前記移動体の加速度及び/又は減速度を減少させるよう制御する、運搬時加速度制御部、をさらに備えるものであってもよい。
【0044】
このような構成によれば、加速度又は減速度を低減することで、荷物を搬送することによって増加した慣性の影響を低減させることができるので、荷物を落下させたり倒壊させてしまう可能性を低減することができる。また、予期しない衝突の際の安全性を向上させることができる。すなわち、移動の安全性をさらに高めることができる。
【0045】
前記経路計画部は、さらに、前記自己位置から所定の移動終点又は移動終点へと至る途中の経由点までの移動時間が最短となるように経路を計画する、最短移動時間経路計画部を備える、ものであってもよい。
【0046】
このような構成によれば、各領域に対応付けられた移動速度を考慮して最短時間で移動できる経路を計画するので、安全性を確保しつつ作業性を向上させることができる。
【0047】
前記移動体は、ロボットマニピュレータをさらに備える、ものであってもよい。
【0048】
このような構成によれば、ロボットマニピュレータを備えているので、移動に加えて、所定の作業や荷物の把持・運搬を行うことができる。
【0049】
本発明は、移動体の制御装置として観念することができる。すなわち、本発明に係る制御装置は、所定の空間内を自律移動する移動体の制御装置であって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備えている。
【0050】
本発明は、移動体の制御方法として観念することができる。すなわち、本発明に係る制御方法は、所定の空間内を自律移動する移動体の制御方法であって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定ステップと、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定ステップと、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御ステップと、を備えている。
【0051】
本発明は、移動体の制御プログラムとして観念することができる。すなわち、本発明に係る制御プログラムは、所定の空間内を自律移動する移動体の制御プログラムであって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定ステップと、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定ステップと、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御ステップと、を備えている。
【0052】
本発明は、モバイルマニピュレータとして観念することができる。すなわち、本発明に係るモバイルマニピュレータは、所定の空間内を自律移動するモバイルマニピュレータであって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備えている。
【0053】
本発明は、システムとして観念することができる。すなわち、本発明に係るシステムは、所定の空間内を自律移動する移動体を含むシステムであって、前記移動体の自己位置を特定する、自己位置特定部と、前記空間に設定された1又は複数の領域のそれぞれに対して前記移動体の移動速度を対応付けて設定された領域移動速度情報と、前記移動体の自己位置とに基づいて、前記自己位置に対応する前記領域に対応付けられた移動速度である領域移動速度を特定する、移動速度特定部と、前記領域移動速度に基づいて、前記移動体の移動速度を制御する、移動速度制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、人間等と空間を共有する環境下において安全性と作業性を両立可能な移動体等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図2】
図2は、モバイルマニピュレータの外観斜視図である。
【
図3】
図3は、移動速度地図を生成するためのゼネラルフローチャートである。
【
図4】
図4は、生成されるグローバル環境地図の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、移動速度地図の一例について示す図である。
【
図6】
図6は、モバイルマニピュレータにおける自律移動動作のゼネラルフローチャートである。
【
図7】
図7は、経路移動処理の詳細フローチャートである。
【
図8】
図8は、モバイルマニピュレータが領域を遷移する場合の説明図である。
【
図9】
図9は、未知障害物へと近付くモバイルマニピュレータの様子について示す説明図である。
【
図10】
図10は、未知障害物近傍の移動速度設定に関する説明図である。
【
図11】
図11は、荷物を把持するモバイルマニピュレータの加速の様子について示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付の
図1~
図11を参照しつつ詳細に説明する。
【0057】
(1.第1の実施形態)
第1の実施形態として、本発明を工場内を自律移動してアームやハンドを用いて作業を行うモバイルマニピュレータへと適用した例について説明する。なお、本実施形態においては移動体としてモバイルマニピュレータを例示するが、本発明はそれに限定されるものではない。従って、例えば、自動運転車、無人搬送車、電動車椅子、その他移動ロボット等にも適用可能である。
【0058】
(1.1 システムの構成)
図1及び
図2を参照しつつ、本実施形態に係る制御システム500の構成について説明する。
【0059】
図1は、制御システム500の全体構成図である。同図から明らかな通り、制御システム500は、複数のモバイルマニピュレータ100、サーバ200及びクライアント装置300が、互いに工場内のLANを経由して接続されることにより構成されている。
【0060】
サーバ200は、情報処理装置から成り、各種の情報を蓄積したり、モバイルマニピュレータ100やクライアント装置300からの要求に応じて各種の情報を提供する。
【0061】
なお、サーバ200は、各種プログラムを実行するCPU等から成る制御部、実行されるプログラムや各種のデータを記憶するROM、RAM又はフラッシュメモリ等から成る記憶部、外部装置との間の通信を行う通信ユニット、キーボードやマウス等からの入力を処理するための入力部、各種の画像表示を行う表示部等を備え、それらがバスを介して互いに接続されて構成されている。
【0062】
クライアント装置300は、情報処理装置から成り、サーバ200と連携してシステム管理者等に対して制御システム500に関する管理情報を提供すると共に、後述するように、ユーザに対して各種の設定入力を行うことを可能とする。
【0063】
なお、クライアント装置300は、各種プログラムを実行するCPU等から成る制御部、実行されるプログラムや各種のデータを記憶するROM、RAM又はフラッシュメモリ等から成る記憶部、外部装置との間の通信を行う通信ユニット、キーボードやマウス等からの入力を処理するための入力部、各種の画像表示を行う表示部等を備え、それらがバスを介して互いに接続されて構成されている。
【0064】
図2は、モバイルマニピュレータ100の外観斜視図である。同図から明らかな通り、本実施形態のモバイルマニピュレータ100は、略人型の形状を有しており、ロボット本体部10と、ロボット本体部10を支持する移動台車20と、ロボット本体部10の上端に設けられた頭部30と、ロボット本体部10の前面から延びる腕部40とから構成されている。
【0065】
ロボット本体部10を支持する移動台車20は、モバイルマニピュレータ100が置かれた面(床面)の上を移動する機能を有する全方位移動台車である。全方位移動台車とは、駆動輪として例えば複数のオムニホイールを備え、全方向に移動することができるように構成された台車である。全方位移動台車は、全方位台車、全方向移動台車、または全方向台車と称されてもよい。また、全方位移動台車は、360度の全方向への移動が可能であり狭い通路等でも自在に移動できる。本実施形態の移動台車20は、図示するように、外観に表されるスカート21の内側に、三つの駆動輪22と、駆動輪22をベルト等を介して駆動するための移動機構駆動手段2とから構成されてよい。本実施形態の移動機構駆動手段2は一または複数のモータから構成されるものとし、以下では、移動機構駆動手段2をモータ2とも称する。
【0066】
頭部30は、略人型のモバイルマニピュレータ100において、人の頭(首より上の部分)に相当する構成としてロボット本体部10の上端に設けられてよい。頭部30は、人が見た際にその正面を顔として認識できるように構成されるのが望ましい。頭部30は、正面が向く方向を制御可能に構成される。具体的には、本実施形態のモバイルマニピュレータ100は、一又は複数の頭部駆動手段3(アクチュエータ3)を備え、頭部駆動手段3を介して頭部を動かすことによりその正面の向きを制御できるように構成される。なお、以下では、頭部30の正面を顔部31と称する。
【0067】
本実施形態のモバイルマニピュレータ100は、頭部30を床面に対して水平方向(左右方向)に回転させる鉛直方向の回転軸を有し頭部30の左右方向への回転駆動を可能とする頭部駆動手段3(サーボモータ3a)を有する。これにより、モバイルマニピュレータ100は、頭部30のみを鉛直方向に対して左右へ回転駆動させることができる。ただし、サーボモータ3aの配置は、図示する配置に制限されず、顔部31の向きを左右方向に動かすことができる限り適宜変更されてよい。例えば、サーボモータ3aは、ロボット本体部10を移動台車20に対して左右へ回転駆動させるように設けられてもよい。この場合、サーボモータ3aは、頭部30をロボット本体部10とともに垂直方向に対して左右へ回転駆動させることにより顔部31の向きを変えることができる。
【0068】
また、モバイルマニピュレータ100は、頭部30を床面に対して上下方向に駆動させる水平方向の回転軸を有し頭部30の上下を仰ぎ見る動作を可能とする頭部駆動手段3(サーボモータ3b)を有してもよい。これにより、モバイルマニピュレータ100は、顔部31の向きを上下方向にも動かすことができる。
【0069】
移動台車20の前面上縁部の突部内には、環境認識手段32が設けられている。本実施形態において、環境認識手段32は、レーザー光を用いて対象物までの距離や方向を計測するライダー(LiDAR:Light Detection And Ranging)ユニットである。ただし、環境認識手段32は、ライダーユニットに限定されず他の種々のセンサ等を採用することができる。例えば、撮像素子を設けて画像処理により環境認識を行ってもよいし、レーダーやマイクロフォンアレイ等を用いてもよい。
【0070】
モバイルマニピュレータ100はロボット本体部10の前面に腕部40を備える。腕部40は、マニピュレータ機構を備え、運搬する物品等を把持するための把持機構41が自由端に相当する先端に設けられている。ただし、腕部40の形状、数、および配置は図示する態様に制限されず目的に応じて適宜変更されてよい。例えば、モバイルマニピュレータ100は、ロボット本体部10の両側面に腕部40を備える双腕ロボットとして構成されてもよい。
【0071】
以上が、本実施形態のモバイルマニピュレータ100の構成例である。なお、
図2では省略されているが、モバイルマニピュレータ100は、モバイルマニピュレータ100の動作を制御するのに必要となる他の構成、例えば、腕部40等を駆動する他のアクチュエータや、電力源となるバッテリ等を備えてもよい。
【0072】
(1.2 システムの動作)
次に、
図3~
図7を参照しつつ、制御システム500の動作について説明する。
【0073】
(1.2.1 準備段階の動作)
図3~
図5を参照しつつ、運用準備として、モバイルマニピュレータ100の制御に用いられる移動速度地図を生成する工程について説明する。なお、本実施形態においては、所謂SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)を利用してグローバル環境地図が生成される。
【0074】
図3は、移動速度地図を生成するためのゼネラルフローチャートである。同図から明らかな通り、まず、工場内の作業領域内において環境認識手段32を備えたモバイルマニピュレータ100を適宜走行させ環境情報を取得する(S11)。この環境情報の取得処理が完了すると、取得された環境情報は、まとめてサーバ200へと送信される(S12)。
【0075】
この環境情報を受信するまで待機状態(S14NO)であったサーバ200は、環境情報を受信すると(S14YES)、環境情報に基づいて、壁等の障害物を含み工場内の作業領域に対応するグローバル環境地図を生成し、記憶する処理を行う(S15)。なお、グローバル環境地図は当業者に知られる種々の手法を利用して生成可能である。
【0076】
図4は、生成されるグローバル環境地図の一例を示す図である。同図の例にあっては、同図左下の移動始点(S)から同図右上の移動終点(G)までモバイルマニピュレータ100を走行させて得られた環境情報に基づき、壁等の障害物に関する情報(図中の直線に相当)が取得されている。
【0077】
なお、本実施形態においては、グローバル環境地図をSLAMにより生成することとしたが、本発明はこのような構成に限定されない。従って、他の手法によりグローバル環境地図を生成してもよく、例えば、CADにより2次元又は3次元モデルの環境地図を生成してもよい。
【0078】
グローバル環境地図の生成・記憶処理が行われると、次に、サーバ200は、グローバル環境地図に基づいてグローバルコスト地図を生成し記憶する処理を行う(S16)。グローバルコスト地図は、モバイルマニピュレータ100の移動制限の指標となるコスト情報に基づいて生成され、例えば、本実施形態においては、グローバル環境地図において壁等の障害物に近いほど値が大きくなるコストをもとに構成される地図情報である。後述するように、モバイルマニピュレータ100が経路計画を行う際には、安全を考慮して、コストが小さくなる領域を優先して通るよう経路計画がなされる。
【0079】
グローバルコスト地図の生成・記憶処理が完了すると、サーバ200は、移動速度設定処理の準備が完了したことを示す設定準備完了信号をクライアント装置300へと送信する(S17)。この設定準備完了信号を受けて、それまで待機状態(S19NO)であったクライアント装置300は、移動速度の設定処理(S20)を開始する。
【0080】
移動速度の設定処理(S20)が開始すると、クライアント装置300の表示部の画面上には、サーバ200から提供されたグローバル環境地図及びコスト地図が表示される。この状態において、モバイルマニピュレータ100の管理者等のユーザは、クライアント装置300の入力部を介して、グローバル環境地図に対して1又は複数の領域を設定することができる。また、設定した領域のそれぞれに対して移動速度を設定することができる。このように設定されたグローバル環境地図上に設定された領域情報とそれと対応する移動速度情報はサーバ100へと送信される。
【0081】
その後、サーバ200は、受信した領域情報と対応する移動速度情報を移動速度地図として記憶部へと記憶する処理を行い、一連の処理は終了する。
【0082】
図5は、移動速度地図の一例について示す図である。同図においては、グローバル環境地図に対してA~Dで示す矩形状の4つの領域が設定されている。各領域には、モバイルマニピュレータ100が走行すべき移動速度がそれぞれ設定されており、例えば、領域Aには指定速度として1.0[m/s]、領域Bには0.3[m/s]、領域Cには0.5[m/s]及び領域Dには0.1[m/s]が設定されている。
【0083】
各移動速度は、モバイルマニピュレータ100の管理者等のユーザにより、当該領域が、人間と共有する領域であるか否か、他のモバイルマニピュレータ100等の移動障害物と共有する領域であるか否か、障害物の配置等といった種々の基準に基づいて任意に設定される。
【0084】
なお、本実施形態においては、領域と当該領域に対応する移動速度をそれぞれ設定する構成として説明したが、本発明はこのような構成に限定されない。従って、例えば、領域の性質を設定することにより当該領域に対応する移動速度を自動的又は間接的に設定するような構成としてもよい。領域の性質としては、例えば、人間共存領域であるか又は人間不在領域であるかといったものである。このような構成によれば、設定する各領域に対して容易に移動速度を設定することができる。
【0085】
(1.2.2 モバイルマニピュレータの動作)
次に、
図6及び
図7を参照しつつ、モバイルマニピュレータ100の運用段階の動作について説明する。
【0086】
図6は、モバイルマニピュレータ100における自律移動動作のゼネラルフローチャートである。同図から明らかな通り、処理が開始すると、モバイルマニピュレータ100は、終点情報の取得処理を行う(S31)。なお、終点情報とは、本実施形態においては、グローバル環境地図、グローバルコスト地図又は移動速度地図上の終点に相当する位置の座標情報である。
【0087】
この情報の取得は、本実施形態においては、クライアント装置300を介して予めサーバ200に記憶された終点情報を、ネットワークを経由して取得することにより行われる。ただし、終点情報の取得処理は、本実施形態の構成に限定されず、例えば、予め、モバイルマニピュレータ100に記憶された終点情報を読み出してもよい。
【0088】
なお、本実施形態においては、終点情報を取得する構成について説明するが、本発明はこのような構成に限定されず、例えば、当該終点へと至る途中に設定された経由点の情報をさらに取得してもよい。
【0089】
終点情報の取得処理が行われると、次に、ネットワークを経由して、サーバ200に記憶された各種設定情報の取得処理が行われる(S33)。より詳細には、グローバル環境地図、グローバルコスト地図、及び移動速度地図等の取得処理が行われる。
【0090】
この取得処理が完了すると、モバイルマニピュレータ100は、経路移動処理を開始する(S35)。
【0091】
図7は、経路移動処理(S35)の詳細フローチャートである。同図から明らかな通り、処理が開始すると、モバイルマニピュレータ100は、環境認識手段32を用いて環境情報を取得する処理を行う(S351)。
【0092】
環境情報を取得すると、モバイルマニピュレータ100は、次に、当該環境情報に基づいて自身の周囲のローカル環境の認識処理を行い、グローバル環境地図、グローバルコスト地図又は移動速度地図上における自己位置推定処理を行う(S352)。なお、この自己位置推定処理には、当業者に知られる種々の手法を適用可能である。
【0093】
この自己位置推定処理が行われた後、推定された自己位置と移動速度地図に基づいて移動速度を特定する処理が行われる(S353)。より詳細には、推定された自己位置座標に基づいて当該座標が属する領域を特定し、当該領域に対応付けられた移動速度を読み出すことで、推定自己位置における移動速度を特定する。
【0094】
移動速度特定処理の後、移動経路を計画する処理(パスプランニング)が行われる(S354)。本実施形態においては、環境情報からモバイルマニピュレータ100の周辺のローカルコスト地図を生成し、推定自己位置から終点までの経路を生成する。より詳細には、コストが所定の閾値以下であって、かつ、通過する領域に対応付けられた移動速度を考慮して終点までの到達時間が最小となる経路を計画する。ただし、経路計画手法はこのような手法に限定されず、当業者に知られるいずれの手法を利用してもよい。
【0095】
このような構成によれば、各領域に対応付けられた移動速度を考慮して最短時間で移動できる経路を計画するので、安全性を確保しつつ作業性を向上させることができる。なお、本実施形態において示す処理の順序は一例であり、例えば、移動速度特定処理(S353)と経路計画処理(S354)の順序は適宜入れ替えることが可能である。
【0096】
経路計画処理が完了すると、移動制御処理(S356)、すなわち、移動速度特定処理(S353)にて特定された移動速度で、経路計画処理(S354)にて計画された経路に沿って移動するよう移動機構駆動手段2を制御する処理が行われる。
【0097】
その後、移動制御処理が完了すると、モバイルマニピュレータ100が終点に到着したか否かの判定処理が行われる(S358)。すなわち、自己位置推定処理を行い、推定自己位置に相当する座標が終点座標に一致するか又は終点座標に十分に近づいたか否かの判定処理が行われ、推定自己位置に相当する座標が終点座標と未だ十分に近づいていない場合には(S358NO)、再び一連の処理(S351~S358)が繰り返される。一方、推定自己位置に相当する座標が終点座標に一致するか又は終点座標に十分に近づいた場合(S358YES)、経路移動処理は終了する。また、これに伴い、
図6に示したモバイルマニピュレータ100における自律移動動作のゼネラルフローチャートも終了する。
【0098】
このような構成によれば、移動速度地図と推定自己位置とに基づいて、領域毎に適切な移動速度となるようモバイルマニピュレータ100の移動速度を制御することができるので、例えば、人間等の立ち入りが禁止されている領域など安全確保より作業性を優先可能な領域については大きな速度でモバイルマニピュレータ100を移動させ、また、人間等と共有する領域など安全確保を優先すべき領域については小さな速度でモバイルマニピュレータ100を移動させることができる。その結果、人間等と空間を共有する環境下においてモバイルマニピュレータ100の安全性と作業性を両立させることができる。さらに、自律移動を行う空間に対応した環境地図を基準として任意に移動速度地図を設定することができるので、環境に応じて適切に移動速度を設定することができる。
【0099】
(2.変形例)
上述の実施形態に対して種々の変形を行うことが可能であるので、以下、変形例について説明する。
【0100】
(2.1 領域遷移の際の移動速度制御)
上述の実施形態においては、推定自己位置に基づき現在属する領域の移動速度に着目したが、本発明はこのような構成に限定されない。
【0101】
図8(A)は、モバイルマニピュレータ100が大きな移動速度が対応付けられた領域(高速領域)から小さな移動速度が対応付けられた領域(低速領域)へと進入する場合の説明図である。
【0102】
同図から明らかな通り、図中左から右へと移動するモバイルマニピュレータ100(図中のR)は、計画された経路上において高速領域から低速領域へと進入することを検出すると、a1の位置から減速を開始する。その後、継続的に減速を行い、高速領域から低速領域への境界であるa2の位置において低速領域に対応付けられた移動速度となる。低速領域進入後は、低速領域に対応付けられた移動速度で移動する。
【0103】
また、
図8(B)は、モバイルマニピュレータ100が低速領域から高速領域へと進入する場合の説明図である。
【0104】
同図から明らかな通り、図中左から右へと移動するモバイルマニピュレータ100(図中のR)は、低速領域から高速領域への境界を越えたb1の位置から加速を開始する。その後、加速を継続してb2の位置において高速領域に対応付けられた移動速度となり、その後は高速領域に対応付けられた移動速度で移動を行う。
【0105】
このような構成によれば、モバイルマニピュレータ100が高速領域から低速領域へと進入する場合には既に十分に減少した移動速度又は低速領域に対応付けられた移動速度となっているので、低速領域における安全性をより高めることができる。
【0106】
また、モバイルマニピュレータ100が低速領域から高速領域へと進入する場合には、高速領域へと進入してから加速を開始するので、この場合も低速領域における安全性は維持される。
【0107】
(2.2 未知障害物近傍における移動速度制御)
上述の実施形態においては、当初のグローバル環境地図に変更がない場合について説明したが、本発明はこのような構成に限定されない。
【0108】
図9は、当初のグローバル環境地図に存在しなかった未知の障害物(図中のO)へと図中の左から近付くモバイルマニピュレータ100(図中のR)の様子について説明する図である。同図において、モバイルマニピュレータ100が未知障害物を検出すると、未知障害物の近傍領域(図中のD)について移動速度を新たに設定する処理を行う。このとき設定される移動速度は、他の領域よりも相対的に小さな移動速度であって、例えば、0.3[m/s]であってもよい。
【0109】
このような構成によれば、未知障害物の近傍において小さな移動速度で移動することができるので、より移動の安全性を高めることができる。
【0110】
また、
図9に示した例においては、領域に対応付けられていた移動速度に拘わらず、未知障害物近傍の移動速度として設定された値を利用したが本発明はこのような構成に限定されない。
【0111】
図10(A)は、未知障害物近傍の移動速度設定に関して説明する図(その1)である。同図においては、領域D1内に未知障害物(図中のO)が配置されており、未知障害物の近傍には領域D2が設定されている。また、領域D1に対応付けられている移動速度は、領域D2に対応付けられる未知障害物近傍の移動速度よりも大きい。例えば、領域D1の移動速度は1.0[m/s]、領域D2の移動速度は0.3[m/s]である。
【0112】
このとき、モバイルマニピュレータ100は、未知障害物を検出すると、領域D2へと未知障害物近傍の移動速度を設定する。すなわち、この例にあっては、0.3[m/s]を設定する。
【0113】
図10(B)は、未知障害物近傍の移動速度設定に関して説明する図(その2)である。
図10(A)と同様に、領域D3内に未知障害物(図中のO)が配置されており、未知障害物の近傍には領域D4が設定されている。ただし、同図の例にあっては、領域D3に対応付けられている移動速度は、領域D4に対応付けられる未知障害物近傍の移動速度よりも小さい。例えば、領域D3の移動速度は0.1[m/s]、領域D4の移動速度は0.3[m/s]である。
【0114】
このとき、モバイルマニピュレータ100は、未知障害物を検出すると、領域D4へと領域D3に対応付けられた移動速度を設定する。すなわち、この例にあっては、領域D4には0.1[m/s]が設定される。
【0115】
このような構成によれば、未知障害物近傍においては、未知障害物近傍の移動速度と障害物が配置される領域に対応付けられた移動速度のうち、いずれか小さい方の移動速度が選択して設定されるので、モバイルマニピュレータ100の安全な移動を実現することができる。
【0116】
(2.3 荷物搬送時の移動速度制御)
上述の実施形態においては、モバイルマニピュレータが荷物を搬送している場合、例えば、荷物やワーク等を把持又は積載している場合について考慮されていないものの本発明はこのような構成に限定されない。
【0117】
例えば、モバイルマニピュレータ100は、荷物を把持又は積載しつつ移動する場合には、移動速度に対して所定の係数を乗じてもよい。すなわち、モバイルマニピュレータ100は、荷物を把持又は積載していることを検出すると、移動速度に対して一律に0.5(50%)の係数を乗じて移動速度を設定してもよい。例えば、荷物を把持又は積載しつつ、移動速度1.0[m/s]の領域を走行する場合には、1.0[m/s]に0.5を乗じて、0.5[m/s]で移動するように制御してもよい。
【0118】
このような構成によれば、移動速度の低減によりモバイルマニピュレータ100の運動量を低減させることができるので、予期せぬ衝突等の際の安全性を高めることができる。
【0119】
また、モバイルマニピュレータ100は、荷物を把持又は積載しつつ移動する場合には、加速度及び/又は減速度に対して所定の係数を乗じてもよい。例えば、モバイルマニピュレータ100は、荷物を把持又は積載していることを検出すると、移動時の加速度及び/又は減速度に対して一律に0.5(50%)の係数を乗じて設定してもよい。
【0120】
図11(A)は、低速領域から高速領域へと進入した直後の荷物を把持又は積載していない状態のモバイルマニピュレータ100の加速の様子について説明する図である。同図において位置e1は加速を開始した位置を示し、位置e2は高速領域に対応付けられた移動速度へと到達した位置を示す。すなわち、同図の例にあっては、所定の加速度による加速が完了するまでの距離はd1である。
【0121】
一方、
図11(B)は、低速領域から高速領域へと進入した直後の荷物を把持又は積載した状態のモバイルマニピュレータ100の加速の様子について説明する図である。同図において位置e1は加速を開始した位置を示し、位置e3は高速領域に対応付けられた移動速度へと到達した位置を示す。すなわち、同図の例にあっては、所定の係数を乗じて加速度が小さくなったことにより加速完了までの距離はd1より大きいd2となっている。
【0122】
このような構成によれば、加速度又は減速度を低減することで、荷物を把持又は積載することによって増加した慣性の影響を低減させることができるので、荷物を落下させたり倒壊させてしまう可能性を低減することができる。また、予期しない衝突の際の安全性を向上させることができる。すなわち、さらに移動の安全性を高めることができる。
【0123】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記の実施形態は、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせ可能である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、少なくともモバイルマニピュレータ等の自律移動体を製造する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0125】
10 ロボット本体部
2 移動機構駆動手段
20 移動台車
21 スカート
22 駆動輪
3 頭部駆動手段
30 頭部
31 顔部
32 環境認識手段
40 腕部
41 把持機構
100 モバイルマニピュレータ
200 サーバ
300 クライアント装置