(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】イオン性金属錯体、陰イオン検出剤、陰イオン検出方法、及び芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 235/20 20060101AFI20241112BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20241112BHJP
C07C 31/08 20060101ALI20241112BHJP
C07C 309/46 20060101ALI20241112BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20241112BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20241112BHJP
G01N 21/82 20060101ALI20241112BHJP
C07F 15/02 20060101ALN20241112BHJP
C07F 19/00 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C07D235/20 CSP
C07C31/04
C07C31/08
C07C309/46
C07F1/08 Z
G01N21/78 Z
G01N21/82
C07F15/02
C07F19/00
(21)【出願番号】P 2021543017
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032463
(87)【国際公開番号】W WO2021039929
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019156194
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 満
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043122(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/017653(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/102356(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102603806(CN,A)
【文献】XU, X. et al,An unusual 3D porous network assembled by Tbmiz and Cu-I cluster,Chinese Journal of Structural Chemistry,2009年,Vol.28, No.11,pp.1465-1469
【文献】SU, C. et al,Ligand-Directed Molecular Architectures: Self-Assembly of Two-Dimensional Rectangular Metallacycles,Journal of the American Chemical Society,2003年,Vol.125, No.28,pp.8595-8613
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 235/20
C07C 31/04
C07C 31/08
C07C 309/46
C07F 1/08
G01N 21/78
G01N 21/82
C07F 15/02
C07F 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体カチオンと、
色素アニオン、金属錯体アニオン、及び金属塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種であるアニオン(A)と、
を含むイオン性金属錯体
であって、
前記金属錯体カチオンが、下記式(C)で表されるカプセル骨格を含む、
イオン性金属錯体。
【化1】
【化2】
式(C)中、2つのMは、それぞれ独立に、金属イオンを表し、4つのLは、それぞれ独立に、式(1)で表される二座配位子を表す。
式(1)中、
R
1
~R
8
、及び、R
13
~R
16
は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R
9
~R
11
は、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R
12
は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【請求項2】
前記アニオン(A)が、アゾ色素アニオン、Fe錯体アニオン、Cu錯体アニオン、Fe塩アニオン、及びCu塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のイオン性金属錯体。
【請求項3】
前記アニオン(A)が、下記アニオン(A-1)、下記アニオン(A-2)、下記アニオン(A-3)、下記アニオン(A-4)、[Fe
III(CN)
6]
3-、[Fe
II(CN)
6]
4-、多核Fe錯体アニオン、[Cl
3Fe
III-O-Fe
IIICl
3]
2-、[Fe
IICl
4]
2-、[Fe
IIICl
4]
-、[Cu(SO
4)
2(CH
3OH)
2(C
2H
5OH)
2]
2-、及び[Cu(SO
4)
2]
2-からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載のイオン性金属錯体。
【化3】
【請求項4】
前記式(C)中、前記2つの前記Mが、それぞれ独立に、平面四配位又は正八面体配位可能な金属イオンである
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のイオン性金属錯体。
【請求項5】
前記式(C)中、前記2つの前記Mが、それぞれ独立に、Cu
2+、Ni
2+、Pd
2+、Co
2+、又はZn
2+である
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のイオン性金属錯体。
【請求項6】
前記R
12が、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基である
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のイオン性金属錯体。
【請求項7】
水系試料中における陰イオンの検出に用いられる陰イオン検出剤であって、
請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載のイオン性金属錯体を含む陰イオン検出剤。
【請求項8】
前記陰イオンが、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、及び亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項
7に記載の陰イオン検出剤。
【請求項9】
水系試料中における陰イオンを検出する方法であって、
水系試料と、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載のイオン性金属錯体と、を接触させることにより、水系成分と固体成分との混合物を得る工程と、
前記水系成分の色を目視で確認すること、前記水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定すること、及び、前記水系成分中における前記アニオン(A)を検出することの少なくとも一つにより、前記水系試料中の前記陰イオンを検出する工程と、
を含む陰イオン検出方法。
【請求項10】
前記陰イオンが、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、及び亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項
9に記載の陰イオン検出方法。
【請求項11】
下記式(X1)で表される芳香族化合物。
【化4】
式(X1)中、
R
1X~R
8X、及び、R
13X~R
16Xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R
9X~R
11Xは、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R
12Xは、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン性金属錯体、陰イオン検出剤、陰イオン検出方法、及び芳香族化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水系試料中の陰イオンを検出するために、イオンクロマトグラフィー、マススぺクトル等の機器分析が行われている。
近年、機器分析に頼らない簡易な方法により、水系試料中の陰イオンを検出するための検出剤の検討がなされている。
例えば、特許文献1及び2には、3,5-ビス(イミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチルフェノール(略称bitph)に代表される芳香族化合物を含む検出剤を用い、水系試料中の、特定の陰イオン(例えば、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、及び硝酸イオン(NO3
-))を検出する方法が開示されている。これら特許文献1及び2には、この検出剤が、対象となる陰イオンを取り込んだ捕捉カプセル型分子を形成することにより、陰イオンの検出が可能となることが開示されている。
過塩素酸イオン(ClO4
-)は、子供の成長を阻害する懸念がある陰イオンである。過塩素酸イオンは、火薬などの原料として、日本、米国をはじめ、世界各地で大量に生産されている。
テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)は、半導体製造工程、めっき工程等における廃液に含まれるイオンである。
硝酸イオン(NO3
-)は、乳幼児のメトヘモグロビン血漿などを引き起こす懸念がある陰イオンである。硝酸イオンは、肥料などに由来して地下水に混入する。
【0003】
特許文献1:特許第5590654号公報
特許文献2:特開2012-26981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に記載の検出剤を用いた場合の反応とは異なる反応により、水系試料中における陰イオン(例えば、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、及び硝酸イオン)を検出できるイオン性金属錯体が求められる場合がある。
【0005】
本開示の一態様の課題は、従来の検出剤を用いた場合の反応とは異なる反応により、水系試料中における陰イオンを検出できるイオン性金属錯体を提供することである。
本開示の別の一態様の課題は、上記イオン性金属錯体を含む陰イオン検出剤を提供することである。
本開示の更に別の一態様の課題は、上記イオン性金属錯体を用いた陰イオン検出方法を提供することである。
本開示の更に別の一態様の課題は、上記イオン性金属錯体中の一成分として有用な芳香族化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための具体的な手段は以下のとおりである。
<1> 金属錯体カチオンと、
色素アニオン、金属錯体アニオン、及び金属塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種であるアニオン(A)と、
を含むイオン性金属錯体。
<2> 前記アニオン(A)が、アゾ色素アニオン、Fe錯体アニオン、Cu錯体アニオン、Fe塩アニオン、及びCu塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種である<1>に記載のイオン性金属錯体。
<3> 前記アニオン(A)が、下記アニオン(A-1)、下記アニオン(A-2)、下記アニオン(A-3)、下記アニオン(A-4)、[FeIII(CN)6]3-、[FeII(CN)6]4-、多核Fe錯体アニオン、[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]2-、[FeIICl4]2-、[FeIIICl4]-、[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]2-、及び[Cu(SO4)2]2-からなる群から選択される少なくとも1種である<1>又は<2>に記載のイオン性金属錯体。
【0007】
【0008】
<4> 前記金属錯体カチオンが、下記式(C)で表されるカプセル骨格を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のイオン性金属錯体。
【0009】
【0010】
式(C)中、2つのMは、それぞれ独立に、金属イオンを表し、4つのLは、それぞれ独立に、二座配位子を表す。
【0011】
<5> 前記式(C)中、前記2つの前記Mは、それぞれ独立に、平面四配位又は正八面体配位可能な金属イオンである<4>に記載のイオン性金属錯体。
<6> 前記式(C)中、前記2つの前記Mが、それぞれ独立に、Cu2+、Ni2+、Pd2+、Co2+、又はZn2+である<4>又は<5>に記載のイオン性金属錯体。
<7> 前記式(C)中、前記4つの前記Lが、それぞれ独立に、下記式(1)で表される二座配位子である<4>~<6>のいずれか1つに記載のイオン性金属錯体。
【0012】
【0013】
式(1)中、
R1~R8、及び、R13~R16は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R9~R11は、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R12は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【0014】
<8> 前記R12が、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基である<7>に記載のイオン性金属錯体。
【0015】
<9> 水系試料中における陰イオンの検出に用いられる陰イオン検出剤であって、
<1>~<8>のいずれか1つに記載のイオン性金属錯体を含む陰イオン検出剤。
<10> 前記陰イオンが、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、及び亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種である<9>に記載の陰イオン検出剤。
【0016】
<11> 水系試料中における陰イオンを検出する方法であって、
水系試料と、<1>~<8>のいずれか1つに記載のイオン性金属錯体と、を接触させることにより、水系成分と固体成分との混合物を得る工程と、
前記水系成分の色を目視で確認すること、前記水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定すること、及び、前記水系成分中における前記アニオン(A)を検出することの少なくとも一つにより、前記水系試料中の前記陰イオンを検出する工程と、
を含む陰イオン検出方法。
<12> 前記陰イオンが、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、及び亜硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種である<11>に記載の陰イオン検出方法。
【0017】
<13> 下記式(X1)で表される芳香族化合物。
【0018】
【0019】
式(X1)中、
R1X~R8X、及び、R13X~R16Xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R9X~R11Xは、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R12Xは、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【発明の効果】
【0020】
本開示の一態様によれば、従来の検出剤を用いた場合の反応とは異なる反応により、水系試料中における陰イオンを検出できるイオン性金属錯体が提供される。
本開示の別の一態様によれば、上記イオン性金属錯体を含む陰イオン検出剤が提供される。
本開示の別の一態様によれば、上記イオン性金属錯体を用いた陰イオン検出方法が提供される。
本開示の更に別の一態様によれば、上記イオン性金属錯体中の一成分として有用な芳香族化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の実施例101において、フェリ錯体(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrbNH
2)
4]・0.667[Fe
III(CN)
6])を用いた過塩素酸イオン(ClO
4
-)の検出における、硫酸第一鉄(II)アンモニウムが添加された各ろ液の写真である。
【
図2】本開示の実施例102において、オレンジ錯体1(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrbNH
2)
4]・2(A-1))を用いた過塩素酸イオン(ClO
4
-)の検出における、各ろ液の写真である。
【
図3】本開示の実施例105において、ClO
4
-濃度0.1mMの水溶液3にオレンジ錯体3(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrbNO
2)
4]・2(A-1))を添加してろ過し、得られたろ液に塩酸1滴を添加した液体の可視紫外吸収スペクトルである。
【
図4】本開示の実施例106において、ClO
4
-濃度1mMの水溶液にCu
2L
4-6核Fe錯体(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrmot)
4]・6核Fe錯体)を添加してろ過し、得られたろ液にフェナントロリン(0.0357g;0.18mmol)を添加した液体の可視紫外吸収スペクトルである。
【
図5】本開示の実施例112において、水溶液中におけるClO
4
-濃度と、水溶液にオレンジ錯体4(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrmot)
4]・2(A-1))を添加してろ過して得られたろ液の極大吸光度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、イオン性金属錯体中の各成分の量は、イオン性金属錯体中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、イオン性金属錯体中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、化学式中の「Me」及び「Et」は、それぞれ、メチル基及びエチル基を意味する。
【0023】
〔イオン性金属錯体〕
本開示のイオン性金属錯体は、
金属錯体カチオンと、
色素アニオン、金属錯体アニオン、及び金属塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種であるアニオン(A)と、
を含む。
【0024】
本開示のイオン性金属錯体は、従来の検出剤〔例えば、特許文献1及び2に記載の3,5-ビス(イミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチルフェノール(略称bitph)〕を用いた場合の反応とは異なる反応により、水系試料中における陰イオンを検出できるイオン性金属錯体である。
本開示のイオン性金属錯体において、アニオン(A)は、金属錯体カチオンに対する対アニオンである。本開示のイオン性金属錯体において、金属錯体カチオン及びアニオン(A)は、静電相互作用によって相互作用し得る。
【0025】
本開示のイオン性金属錯体を用いた陰イオンの検出は、以下のようにして行う。
まず、被検対象である水系試料と、本開示のイオン性金属錯体と、を接触させる。これにより、水系試料中に検出対象物である陰イオン(以下、「対象陰イオン」ともいう)が含まれる場合には、水系試料中の対象陰イオンと、本開示のイオン性金属錯体中のアニオン(A)と、のアニオン交換反応(以下、「対アニオン交換反応」ともいう)が起こる。この対アニオン交換反応により、イオン性金属錯体からアニオン(A)が放出され、アニオン(A)を含む水系成分が生成され、かつ、金属錯体カチオンと対象陰イオンとを含む固体成分が生成される。
次に、上記水系成分の色を目視で確認すること(以下、「方法1」ともいう)、上記水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定すること(以下、「方法2」ともいう)、及び、上記水系成分中における上記アニオン(A)を検出すること(以下、「方法3」ともいう)の少なくとも一つにより、水系試料中の陰イオンを検出する。
【0026】
方法1について、詳細には、水系成分の色を目視で確認し、水系成分の色が、アニオン(A)の色に着色されている場合には、被検対象である水系試料中に、対象陰イオンが存在していたことになる。方法1は、アニオン(A)が、色素アニオンを含む場合に特に好適である。
方法2について、詳細には、水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定し、アニオン(A)に由来する吸収が確認された場合には、被検対象である水系試料中に、対象陰イオンが存在していたことになる。方法2は、アニオン(A)が、色素アニオン、金属錯体アニオン、及び金属塩アニオンのいずれを含む場合においても好適である。
方法3について、詳細には、上記水系成分中に上記アニオン(A)が検出された場合には、被検対象である水系試料中に、対象陰イオンが存在していたことになる。方法3は、アニオン(A)が、金属錯体アニオン及び金属塩アニオンの少なくとも一方を含む場合に特に好適である。この場合、アニオン(A)の検出は、金属錯体検出用の指示薬又は金属塩検出用の指示薬を添加して行ってもよい。
水系試料中の陰イオンを検出するための方法1~方法3は、これらのうちの1種のみ用いてもよいし、これらのうちの2種又は3種を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
以上で説明したとおり、本開示のイオン性金属錯体を用いた陰イオンの検出における主たる反応は、水系試料中の対象陰イオンと、本開示のイオン性金属錯体中のアニオン(A)と、の対アニオン交換反応である。
【0028】
本開示のイオン性金属錯体を用いた陰イオンの検出に対し、例えば上記特許文献1及び上記特許文献2に記載のbitph〔即ち、3,5-ビス(イミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチルフェノール〕を用いた陰イオンの検出では、水系試料中で、bitphと、特定の金属イオンと、対象陰イオンと、を接触させることにより、対象陰イオンを取り込んだ捕捉カプセル型分子を形成させる。この捕捉カプセル型分子が形成された場合、水系試料が、捕捉カプセル型分子に由来する色(例えば紫色)に着色され得る。bitphを用いた陰イオンの検出は、上記接触後の水系試料の色を確認することにより行う(以上、特許文献1の段落0037及び段落0038、並びに、特許文献2の段落0030及び段落0031参照)。
即ち、上記bitphを用いた陰イオンの検出における反応は、捕捉カプセル型分子の形成反応である。
【0029】
本開示のイオン性金属錯体を用いた場合には、原理的に見て、bitphを用いた場合と比較して、より感度良く陰イオンを検出できることが期待される。
例えば、アニオン(A)としての色素アニオンの発色は、捕捉カプセル型分子に由来する発色と比較して強い傾向があるため、アニオン(A)が色素アニオンを含む場合には、bitphを用いた場合と比較して、より感度良く対象陰イオンを検出できる。
また、アニオン(A)としての金属錯体アニオン及び/又は金属塩アニオンは、上述した方法により、簡易に且つ感度良く検出できるので、アニオン(A)が金属錯体アニオン及び/又は金属塩アニオンを含む場合には、bitphを用いた場合と比較して、より感度良く対象陰イオンを検出できる。
【0030】
<好ましい対象陰イオン>
本開示のイオン性金属錯体を用いた陰イオンの検出における対象陰イオンとしては、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、硝酸イオン(NO3
-)、及び亜硝酸イオン(NO2
-)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。即ち、本開示のイオン性金属錯体は、水系試料中における、ClO4
-、BF4
-、NO3
-、及びNO2
-からなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンの検出に、特に好適に用いられる。
この理由は、以下のように推測される。
ClO4
-、BF4
-、NO3
-、及びNO2
-は、いずれも疎水性が高い陰イオンであることから、アニオン(A)と比較して疎水性が高い傾向がある。このため、対アニオン交換反応により、水系試料中に、相対的に疎水性が低い(即ち親水性が高い)アニオン(A)が、より放出されやすくなり、これにより、対象陰イオンの検出感度がより向上すると考えられる。
対象陰イオンは、ClO4
-、BF4
-、及びNO3
-を含むことがより好ましく、ClO4
-及びBF4
-を含むことが更に好ましく、ClO4
-を含むことが更に好ましい。
【0031】
<水系試料>
本開示において、被検対象である水系試料としては、溶媒として少なくとも水を含む試料であれば特に限定はない。
水系試料としては、溶媒中における水の比率が30質量%以上である水系試料が好ましく、溶媒中における水の比率が50質量%以上である水系試料がより好ましく、溶媒中における水の比率が80質量%以上である水系試料が更に好ましい。
水系試料は必要に応じ、水以外にも、溶媒として、極性プロトン性溶媒(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、酢酸、ギ酸、等)、極性非プロトン性溶媒(テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、等)、及び非極性溶媒(ベンゼン、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン等)の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0032】
水系試料の具体例としては、例えば、上水、下水、各種廃水(工業廃水等)、液状の中間生成物、工業用水、飲料水(硬水、地下水、ミネラルウォーター等を含む)、各種水溶液、医薬用水溶液、コロイド溶液(牛乳等)、食品や土壌等を含む懸濁液、等が含まれる。
【0033】
<アニオン(A)>
本開示のイオン性金属錯体は、色素アニオン、金属錯体アニオン、及び金属塩アニオンからなる群から選択される少なくとも1種であるアニオン(A)を含む。
【0034】
アニオン(A)のアニオンの価数には特に制限はない。
アニオン(A)のアニオンの価数は、例えば1価~4価である。
【0035】
アニオン(A)は、水溶性を有することが好ましい。アニオン(A)が水溶性を有する場合には、イオン性金属錯体からアニオン(A)が水系試料中により放出されやすくなるので、対象陰イオンの検出感度がより向上する。
本開示において、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して1g以上溶解する性質を意味する。
アニオン(A)は、25℃の水100gに対して3g以上(更に好ましくは5g以上)溶解する性質を有することが好ましい。
【0036】
(色素アニオン)
本開示のイオン性金属錯体におけるアニオン(A)は、色素アニオンを含み得る。
アニオン(A)に含まれ得る色素アニオンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
色素アニオンは、好ましくは、200nm~800nmの波長領域における最大吸光係数が500cm-1M-1以上である。これにより、方法1(上記水系成分の色を目視で確認すること)による対象陰イオンの検出容易性及び検出感度がより向上する。
ここで、200nm~800nmの波長領域における最大吸光係数(以下、「εmax」ともいう)は、上記波長領域における1つ又は2つ以上の吸収ピークに対応するモル吸光係数の最大値を意味する。
εmaxを示す波長(以下、「最大吸収波長」ともいう)は、300nm~800nmの波長領域内に存在することが好ましく、350nm~750nmの波長領域内に存在することがより好ましく、400nm~700nmの波長領域内に存在することが更に好ましい。
【0038】
色素アニオンのεmax(即ち、200nm~800nmの波長領域における最大吸光係数)は、水中に色素アニオンを溶解させて得られた水溶液を用いて測定する。
色素アニオンのεmaxの測定は、例えば、日本分光株式会社製 紫外可視近赤外分光光度計 V-570スペクトロメーターによって行う。
【0039】
色素アニオンのεmaxは、対象陰イオンの検出感度をより向上させる観点から、1000cm-1M-1以上が好ましく、5000cm-1M-1以上がより好ましく、10000cm-1M-1以上が更に好ましい。
色素アニオンのεmaxの上限は特に制限はないが、上限は、好ましくは100000cm-1M-1である。
【0040】
色素アニオンとして、好ましくは、アゾ色素アニオン(即ち、アニオン基を含むアゾ色素)である。
アゾ色素アニオン中のアニオン基は、1つのみであってもよいし、2つ以上であってもよい。また、アゾ色素アニオン中のアニオン基は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0041】
アニオン基としては、カルボキシラト基(-COO-基)又はスルホナト基(-SO3
-基)が好ましく、スルホナト基(-SO3
-基)がより好ましい。
【0042】
アゾ色素アニオンは、芳香環を含むことが好ましい。
単環(例えばベンゼン環)を「1つ」とカウントし、複環を「2つ以上」とカウントする場合において、芳香環を含むアゾ色素アニオン中の芳香環の数は、1つのみであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0043】
色素アニオンの分子量は、1000以下であることが好ましい。
【0044】
以下、色素アニオンの具体例(アニオン(A-1)~(A-4))を示すが、色素アニオンは、以下の具体例には限定されない。
【0045】
【0046】
アニオン(A-1)は、メチルオレンジ中のアニオンであり、
アニオン(A-2)は、アシッドオレンジ7中のアニオンであり、
アニオン(A-3)は、2-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシ-4-スルホ-1-ナフチルアゾ)-3-ナフトエ酸(略称:NN)中のアニオンであり、
アニオン(A-4)は、ジンコン中のアニオンである。
アニオン(A-1)のεmaxは、およそ25100cm-1M-1(最大吸収波長466.5nm)であり、
アニオン(A-2)のεmaxは、およそ15400cm-1M-1(最大吸収波長480nm)であり、
アニオン(A-3)のεmaxは、およそ13600cm-1M-1(最大吸収波長570nm)であり、
アニオン(A-4)のεmaxは、およそ34000cm-1M-1(最大吸収波長466nm)である。
【0047】
なお、メチルオレンジ(Methyl orange)、アシッドオレンジ7(Acid orange 7)、NN(別名:Calconcarboxylic acid又はPatton-Reeder Indicator)、及びジンコン(Zincon)の各々の構造は、以下のとおりである。
【0048】
【0049】
(金属錯体アニオン)
本開示のイオン性金属錯体におけるアニオン(A)は、金属錯体アニオンを含み得る。
本開示において、金属錯体アニオンとは、金属イオン及び配位子を含み、かつ、全体として負の電荷を有する金属錯体を意味する。
金属錯体アニオン中の金属イオンとしては、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Ni2+、Co2+、Zn2+等が挙げられる。金属錯体アニオン中の金属イオンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
金属錯体アニオン中の配位子は、OH-、CN-、Cl-、Br-、NCS-、SO4
2-、HPO3
2-、PO3
3-、CH3O-、C2H5O-、C3H7O-等のアニオン配位子である。
金属錯体アニオン中の配位子としては、H2O、CH3OH、C2H5OH、C3H7OH等の中性配位子が含まれていてもよい。
金属錯体アニオン中の配位子は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0050】
金属錯体アニオンとしては、Fe錯体アニオン(即ち、金属イオンがFe2+又はFe3+である金属錯体アニオン)又はCu錯体アニオン(即ち、金属イオンがCu2+である金属錯体アニオン)が好ましい。
【0051】
金属錯体アニオンの具体例としては、[FeIII(CN)6]3-(即ち、フェリシアン化物イオン)、[FeII(CN)6]4-(即ち、フェロシアン化物イオン)、多核Fe錯体アニオン、[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]2-、[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]2-等が挙げられるが、金属錯体アニオンは、これらの具体例には限定されない。
【0052】
ここで、多核Fe錯体アニオンとは、複数のFeカチオンと、アニオン配位子と、を含み、かつ、全体として負の電荷を有する金属錯体を意味する。
多核Fe錯体アニオン中のFeカチオンとして、好ましくは、Fe2+又はFe3+である。
多核Fe錯体アニオン中には、複数のFeカチオンとして、複数のFe2+のみが含まれていてもよいし、複数のFe3+のみが含まれていてもよいし、1つ以上のFe2+及び1つ以上のFe3+の両方が含まれていてもよい。
多核Fe錯体アニオン中のFeカチオンの数は、好ましくは2~20であり、より好ましくは4~12であり、更に好ましくは6~10であり、更に好ましくは6又は10である。
【0053】
多核Fe錯体アニオンは、複数のFeカチオンと、アニオン配位子と、中性配位子と、を含むことが好ましい。
アルコール配位子及びアニオン配位子の例は、それぞれ前述したとおりである。
【0054】
多核Fe錯体アニオンは、アニオン配位子として、
SO4
2-、CH3O-、C2H5O-及びC3H7O-からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、
SO4
2-と、CH3O-、C2H5O-及びC3H7O-からなる群から選択される少なくとも1種と、を含むことより好ましく、
SO4
2-と、CH3O-、C2H5O-又はC3H7O-と、を含むことが更に好ましい。
【0055】
多核Fe錯体アニオンは、中性配位子として、
H2O、CH3OH、C2H5OH及びC3H7OHからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、
CH3OH、C2H5OH及びC3H7OHからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、
CH3OH、C2H5OH又はC3H7OHを含むことが更に好ましい。
【0056】
多核Fe錯体アニオンの具体例として、環状10核Fe錯体アニオン、及び、6核Fe錯体アニオンが挙げられる。
環状10核Fe錯体アニオンの一例として、下記[FeII
10(SO4)10(CH3O)4(CH3OH)16]4-が挙げられる。
環状10核Fe錯体アニオンの他の例としては、
下記[FeII
10(SO4)10(CH3O)4(CH3OH)16]4-における、CH3OHをC2H5OHに変更し、かつ、CH3O-をC2H5O-に変更した例、
下記[FeII
10(SO4)10(CH3O)4(CH3OH)16]4-における、CH3OHをC3H7OHに変更し、かつ、CH3O-をC3H7O-に変更した例、
等も挙げられる。
6核Fe錯体アニオンの一例として、下記[FeII
6(SO4)6(OH)2(CH3OH)9]2-が挙げられる。
が挙げられる。
6核Fe錯体アニオンの他の例としては、
下記[FeII
6(SO4)6(OH)2(CH3OH)9]2-における、CH3OHをC2H5OHに変更した例、
下記[FeII
6(SO4)6(OH)2(CH3OH)9]2-における、CH3OHをC3H7OHに変更した例、
等も挙げられる。
【0057】
これらの多核Fe錯体アニオンの具体例の詳細な構造は、単結晶構造解析によって確認される(後述の実施例参照)。
【0058】
【0059】
【0060】
(金属塩アニオン)
本開示において、金属塩アニオンとは、金属イオン及びアニオンを含み、かつ、全体として負の電荷を有する金属を意味する。
金属塩アニオンにおける金属イオンとしては、Fe2+、Fe3+、Cu2+、Ni2+、Co2+等が挙げられる。
金属塩アニオンにおけるアニオンとしては、OH-、Cl-、SO4
2-、NCS-、SO4
2-、HPO3
2-、PO3
3-、CH3O-、C2H5O-、C3H7O-等が挙げられる。
【0061】
金属塩アニオンとしては、Fe塩アニオン(即ち、金属イオンがFe2+又はFe3+である金属塩アニオン)又はCu塩アニオン(即ち、金属イオンがCu2+である金属塩アニオン)が好ましい。
【0062】
金属塩アニオンの具体例としては、[FeIICl4]2-、[FeIIICl4]-、[Cu(SO4)2]2-等が挙げられる。
【0063】
<金属錯体カチオン>
本開示のイオン性金属錯体は、金属錯体カチオンを少なくとも1種含む。
本開示において、金属錯体カチオンとは、金属イオン及び配位子を含み、かつ、全体として正の電荷を有する錯体を意味する。
【0064】
金属錯体カチオンの分子サイズは、1nm以上であることが好ましい。
金属錯体カチオンの分子サイズが1nm以上である場合には、対象陰イオンの検出感度がより向上する。この理由としては、金属錯体カチオンの水に対する溶解度が低下すること、及び、金属錯体カチオンの間に、より大きな疎水空間を形成されやすくなり、対アニオン交換反応がより起こりやすくなることが考えられる。
更に、金属錯体カチオンの分子サイズが1nm以上である場合には、より短時間での対象陰イオンの検出に有利である。この理由としては、対アニオン交換反応の際にアニオン(A)が放出される通路(チャンネル)構造が形成され易くなり、その結果、対アニオン交換が容易に進行するためと考えられる。
【0065】
ここで、分子サイズとは、金属錯体カチオンの最大長さを意味する。分子サイズは、X線構造解析によって確認できる。
【0066】
金属錯体カチオンのカチオンの価数には特に制限はない。
金属錯体カチオンのカチオンの価数は、好ましくは1価~4価であり、より好ましくは2価~3価であり、更に好ましくは2価である。
【0067】
金属錯体カチオンは、対象陰イオンの検出感度をより向上させる観点から、下記式(C)で表されるカプセル骨格を含むことが好ましい。
下記式(C)で表されるカプセル骨格は、M2L4ケージ、M2L4骨格、M2L4型カプセル骨格等と称されている。
【0068】
【0069】
式(C)中、2つのMは、それぞれ独立に、金属イオンを表し、4つのLは、それぞれ独立に、二座配位子を表す。
【0070】
カプセル骨格の安定性の観点から、式(C)中、2つのMは、それぞれ独立に、
平面四配位又は正八面体配位可能な金属イオンであることが好ましく、
平面四配位又は正八面体配位可能な2価の金属イオンであることがより好ましく、
Cu2+、Fe2+、Ni2+、Pd2+、Co2+、Pt2+、又はZn2+であることが更に好ましく、
Cu2+、Ni2+、Pd2+、Co2+、又はZn2+であることが更に好ましく、
Cu2+であることが更に好ましい。
【0071】
式(C)中、4つのLは、それぞれ独立に、下記式(1)で表される二座配位子であることが好ましい。
【0072】
【0073】
式(1)中、
R1~R8、及び、R13~R16は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R9~R11は、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R12は、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【0074】
式(1)で表される二座配位子は、疎水的な骨格を有するため、式(C)中、4つのLが式(1)で表される二座配位子である場合には、カプセル骨格が疎水的となる。これにより、カプセル骨格と、疎水的な対象陰イオン(例えば、ClO4
-、BF4
-、NO3
-、及びNO2
-からなる群から選択される少なくとも1種)と、の親和性が向上するので、前述した対アニオン交換反応が起こりやすくなる。
このため、式(C)中、4つのLが、それぞれ独立に、下記式(1)で表される二座配位子である場合には、疎水的な対象陰イオン(例えば、ClO4
-、BF4
-、NO3
-、及びNO2
-からなる群から選択される少なくとも1種)の検出感度がより向上する。
【0075】
また、本開示のイオン性金属錯体における金属錯体カチオンが、カプセル骨格を含み、カプセル骨格が式(1)で表される二座配位子を含む場合には、金属錯体カチオンとアニオン(A)との間に共有結合などの強い化学結合が存在せず、金属錯体カチオンとアニオン(A)との間の主たる相互作用は、弱い静電的な相互作用、水素結合、又はファンデルワールス相互作用となる。このため、金属錯体カチオンとアニオン(A)との間の距離をある程度離すことができるので、前述した対アニオン交換反応が起こりやすくなる。これにより、対象陰イオンの検出感度がより向上する。
【0076】
式(1)中、R1~R8、及び、R13~R16は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。式(1)で表される二座配位子の合成容易性の観点から、式(1)中、R1~R8、及び、R13~R16の各々は、水素原子であることが好ましい。
【0077】
式(1)中、R9~R11は、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表す。式(1)で表される二座配位子の合成容易性の観点から、R9~R11の各々は、メチル基であることが好ましい。
【0078】
式(1)中、R12は、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【0079】
R12で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子がより好ましい。
【0080】
R12で表される置換アミノ基としては、アルキルアミノ基(即ち、モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基)又はアシルアミノ基(即ち、モノアシルアミノ基又はジアシルアミノ基)が好ましい。
アルキルアミノ基の構造中に含まれるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~6であり、更に好ましくは1~3である。
アシルアミノ基の構造中に含まれる炭化水素基(好ましくは、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基、又はアラルキル基)の炭素数は、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~6であり、更に好ましくは1~3である。
【0081】
式(1)中、R12としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基が好ましい。
R12が、ハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基である場合には、R12が水素原子である場合と比較して、金属錯体カチオンとアニオン(A)との間の距離をより離すことができるので、前述した対アニオン交換反応がより起こりやすくなる。これにより、対象陰イオンの検出感度がより向上する。
上記効果の観点から、式(1)中のR12としては、
ニトロ基、アミノ基、又は置換アミノ基が更に好ましく、
ニトロ基が特に好ましい。
【0082】
特に、R12がニトロ基である場合には、式(1)で表される二座配位子の結晶性が低下するので、本開示のイオン性金属錯体中からアニオン(A)がより放出されやすくなり、その結果、対アニオン交換の反応性及び対象陰イオンの検出感度が顕著に向上する。
また、ニトロ基の立体的な効果により、正電荷をもつカプセル骨格とアニオン(A)との相互作用が弱められ、アニオン(A)がより放出されやすくなり、その結果、対アニオン交換の反応性及び対象陰イオンの検出感度が顕著に向上する。
【0083】
以下、式(1)で表される二座配位子の具体例(化合物(1-1)~(1-30))を示すが、式(1)で表される二座配位子の具体例は、以下の具体例には限定されない。
【0084】
【0085】
例えば、
上記化合物(1-1)は、下記m-bbitrbNH2〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-アミノベンゼン〕であり、
上記化合物(1-2)は、下記m-bbitrbNO2〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼン〕である。
上記化合物(1-3)は、下記m-bbitrmot〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2-メチル-4,5,6-トリメトキシベンゼン〕である。
【0086】
【0087】
式(1)で表される二座配位子のうち、例えば、R1~R16の全てが水素原子である二座配位子(即ち、化合物(1-6))は、1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン(略称:m-bbitrb)である。m-bbitrbは、例えば、Liu, H.-K.; Hu, J.; Wang, T.-W.; Yu, X.-L.; Liu, J.; Kang, B. J. Chem. Soc., Dalton Trans. 2001, 359.に記載の合成方法に従って合成できる。
式(1)で表される二座配位子のうち、化合物(1-6)(m-bbitrb)以外の化合物は、m-bbitrbの合成方法において、出発物質の一部を変更する方法、生成物に置換基を導入する方法、及びこれらを組み合わせた方法によって合成できる。
【0088】
<内包アニオン>
式(C)で表されるカプセル骨格を含む態様の金属錯体カチオンは、この錯体の形成性及び安定性の観点から、カプセル骨格内に内包されたアニオン(本開示では「内包アニオン」ともいう)を含むことが好ましい。
内包アニオンとしては、SO4
2-、Cl-、Br-、I-、ClO4
-、BF4
-、CF3SO3
-等が挙げられる。
内包アニオンとしては、SO4
2-、Cl-、Br-、又はI-が好ましく、SO4
2-、Cl-又はBr-がより好ましく、SO4
2-が更に好ましい。
【0089】
<その他の成分>
本開示のイオン性金属錯体は、必要に応じ、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、中性化合物、金属錯体カチオン以外のカチオン、アニオン(A)以外のアニオン、等が挙げられる。
中性化合物の例としては、本開示のイオン性金属錯体の合成時に用いられた溶媒分子(例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等)が挙げられる。
【0090】
本開示のイオン性金属錯体の全体の電荷は、イオン性金属錯体の安定性の観点から、0(ゼロ)であることが好ましい。即ち、本開示のイオン性金属錯体は、電気的に中性のイオン性金属錯体であることが好ましい。
【0091】
<イオン性金属錯体の製造方法の一例(製法A)>
次に、本開示のイオン性金属錯体を製造するための製造方法の一例(以下、製法Aとする)を示すが、本開示のイオン性金属錯体を製造するための製造方法は、以下の一例には限定されない。
製法Aは、
上記カプセル骨格に内包アニオンが内包された構造を有する金属錯体カチオンと、対アニオンと、を含む原料錯体が、有機溶剤に溶解されている溶液Aを準備する工程と、
アニオン(A)を含む水溶液である溶液Bを準備する工程と、
溶液A及び溶液Bを混合する工程と、
を含む。
【0092】
原料錯体は、本開示のイオン性金属錯体中のアニオン(A)を、対アニオンに置き換えた錯体である。
原料錯体の一例として、以下の[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4が挙げられる。
以下の例では、内包アニオン及び対アニオンが、いずれもSO4
2-である。
原料錯体において、内包アニオン及び対アニオンは、必ずしも同一種のアニオンである必要はない。
内包アニオンの例は前述したとおりである。
対アニオンとしては、SO4
2-、Cl-、Br-、又はI-が好ましく、SO4
2-、Cl-又はBr-がより好ましく、SO4
2-が更に好ましい。
【0093】
【0094】
製法Aでは、溶液A及び溶液Bを混合する工程により、対アニオン交換反応により、カプセル骨格を含む態様の本開示のイオン性金属錯体が得られる。
例えば、原料錯体として上記[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4を用い、アニオン(A)として、アニオン(A-1)を用いた場合には、本開示のイオン性金属錯体として、以下の[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)が生成され得る。
この例では、電荷のバランスの観点から、2価カチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]1分子に対し、1価アニオンであるアニオン(A-1)2分子の割合となっている。
[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)の詳細な構造は、単結晶構造解析によって確認される(後述の実施例参照)。
【0095】
【0096】
溶液Aを準備する工程は、溶液Aを調製する工程であってもよいし、予め調製された溶液Aを準備するだけの工程であってもよい。
溶液Aにおける有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0097】
溶液A及び溶液Bを混合する工程は、溶液A及び溶液Bを混合することを含むが、更に、混合によって得られた液体を攪拌又は静置することを含んでいてもよい。
溶液A及び溶液Bを混合する工程における反応時間(対アニオン交換反応の反応時間)は、好ましくは0.2時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上、更に好ましくは3時間以上である。
【0098】
溶液Aを準備する工程は、原料錯体を製造することを含んでいてもよい。
原料錯体は、例えば、水中で、又は、水及び水溶性有機溶剤を含む水性溶媒中で、式(C)中のLで表される二座配位子と、内包アニオン及び金属イオン(式(C)中のMで表される金属イオン)を含む金属塩と、を反応させることによって製造できる。
この方法によれば、水に不溶な化合物(沈殿)として原料錯体を得ることができる。
このときの反応温度には特に限定はないが、例えば、10℃~80℃とすることが好ま
しい。
反応時間にも特に限定はないが、20分以上とすることが好ましい。
原料錯体の製造方法については、特許第5954829号公報及び特許第6188029号公報を適宜参照できる。
【0099】
〔陰イオン検出剤〕
本開示の一態様に係る陰イオン検出剤は、水系試料中における陰イオン(即ち、対象陰イオン)の検出に用いられる陰イオン検出剤であって、前述した本開示のイオン性金属錯体を含む陰イオン検出剤である。
本開示の一態様に係る陰イオン検出剤は、有効成分として、前述した本開示のイオン性金属錯体を含んでいればよい。本開示の一態様に係る陰イオン検出剤は、必要に応じ、本開示のイオン性金属錯体以外のその他の成分を含んでいてもよい。
本開示の一態様に係る陰イオン検出剤によれば、水系試料中における対象陰イオンを、効果的に検出できる。
【0100】
陰イオン検出剤における、水系試料、対象陰イオン、及びイオン性金属錯体の好ましい態様については、前述した「イオン性金属錯体」の項の記載を参照できる。
【0101】
〔陰イオン検出方法〕
本開示の一態様に係る陰イオン検出方法は、
水系試料中における陰イオン(即ち、対象陰イオン)を検出する方法であって、
水系試料と、上述した本開示のイオン性金属錯体と、を接触させることにより、水系成分と固体成分との混合物を得る工程と、
水系成分の色を目視で確認すること、水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定すること、及び、水系成分中におけるアニオン(A)を検出することの少なくとも一つにより、水系試料中の上記対象陰イオンを検出する工程と、
を含む。
本開示の一態様に係る陰イオン検出方法は、必要に応じ、その他の工程を含んでいてもよい。
【0102】
本開示の一態様に係る陰イオン検出方法は、上述した本開示のイオン性金属錯体を用いるので、従来の化合物〔具体的には、特許文献1及び2に記載の、例えば、3,5-ビス(イミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチルフェノール(略称bitph)〕を用いた場合の反応(即ち、捕捉カプセル型分子の形成反応)とは異なる反応(即ち、イオン交換反応)により、水系試料中における陰イオンを検出できる。
このため、本開示の一態様に係る陰イオン検出方法によれば、原理的に見て、bitphを用いた場合と比較して、より感度良く陰イオンを検出できることが期待される。
これらの効果の詳細については前述したとおりである。
【0103】
陰イオン検出方法における、水系試料、対象陰イオン、及びイオン性金属錯体の好ましい態様については、前述した「イオン性金属錯体」の項の記載を参照できる。
【0104】
以下、本開示の一態様に係る陰イオン検出方法の各工程について説明する。
【0105】
<混合物を得る工程>
混合物を得る工程は、水系試料と、上述した本開示のイオン性金属錯体と、を接触させることにより、水系成分と固体成分との混合物を得ることを含む。
水系試料については前述したとおりである。
水系成分は、上記接触後の水系試料である。水系試料に対象陰イオンが含まれていた場合には、上記接触による対アニオン交換反応によってイオン性金属錯体からアニオン(A)が放出される。従って、この場合の水系成分には、アニオン(A)が含まれる。
固体成分は、上記接触後のイオン性金属錯体である。水系試料に対象陰イオンが含まれていた場合には、上記接触による対アニオン交換反応によって、イオン性金属錯体中のアニオン(A)が対象陰イオンに入れ替わる。従って、この場合の固体成分には、対象陰イオンが含まれる。
【0106】
混合物を得る工程は、水系試料中に含まれ得る対象陰イオンと、本開示のイオン性金属錯体と、の接触後、対アニオン交換反応をより進行させるために、水系試料を放置してもよい。放置している間、水系試料を撹拌してもよいし、撹拌せずにそのまま静置してもよい。
放置時間(即ち、対アニオン交換反応の反応時間)は、1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上が更に好ましい。
放置時間の上限としては特に制限はないが、上限としては、24時間、12時間等が挙げられる。
【0107】
本開示のイオン性金属錯体との接触時の水系試料の温度は、好ましくは0~100℃であり、より好ましくは20~80℃であり、更に好ましくは50~70℃である。
本開示のイオン性金属錯体との接触後(即ち、上記放置中)の水系試料の温度についても同様である。
【0108】
<対象陰イオンを検出する工程>
対象陰イオンを検出する工程は、水系成分の色を目視で確認すること(方法1)、水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定すること(方法2)、及び、水系成分中におけるアニオン(A)を検出すること(方法3)の少なくとも一つにより、水系試料中の対象陰イオンを検出することを含む。
方法1~方法3によって水系試料中の上記対象陰イオンを検出できる理由については前述したとおりである。
【0109】
方法1を適用する場合、水系成分に対し、pH調製剤として、酸又は塩基を添加してもよい。これにより、水系成分のpHを、アニオン(A)の色が視認されやすいpHに調整してもよい。
例えば、アニオン(A)として、メチルオレンジ由来のアニオン(A-1)を用いる場合は、酸(例えば塩酸)を添加し、水系成分のpHを4以下に調整することが好ましい。これにより、水系成分の色が濃いオレンジ色となるので、水系成分の色をより視認しやすくなり、対象陰イオンの検出感度がより向上する。
【0110】
アニオン(A)として、金属錯体アニオン及び/又は金属塩アニオンを用いる場合において、方法3を適用する場合は、水系成分に対し、公知の検出用試薬を添加してもよい。
例えば、アニオン(A)が[FeIII(CN)6]3-を含む場合には、検出用試薬として、硫酸第一鉄(II)アンモニウムを用いることができる。
アニオン(A)が[FeII(CN)6]4-を含む場合には、検出用試薬として、硫酸第二鉄(III)を用いることができる。
アニオン(A)が前述した多核Fe錯体アニオンの具体例を含む場合には、検出用試薬として、フェナントロリンを用いることができる。
アニオン(A)が[FeIICl4]2-を含む場合には、検出用試薬として、フェナントロリンを用いることができる。
アニオン(A)が[FeIIICl4]-を含む場合には、検出用試薬として、チオシアン酸ナトリウム(NaNCS)又はフェリシアン酸カリウム(K2[FeII(CN)6])を用いることができる。
アニオン(A)が、[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]2-を含む場合には、検出用試薬として、チオシアン酸ナトリウム(NaNCS)又はフェリシアン酸カリウム(K2[FeII(CN)6])を用いることができる。
アニオン(A)が、[CuII(SO4)2(MeOH)2(EtOH)2]2-を含む場合には、検出用試薬として、K4[FeII(CN)6]を用いることができる。
アニオン(A)が[Cu(SO4)2]2-を含む場合には、検出用試薬として、アンモニアを用いることができる。
【0111】
<ろ過工程>
本開示の一態様に係る陰イオン検出方法は、混合物を得る工程と対象陰イオンを検出する工程との間に、ろ過により、混合物から固体成分を分離して水系成分を得るろ過工程を含んでいてもよい。
但し、ろ過工程は必須ではなく、上澄み液のデカントによる分離、遠心分離等、ろ過以外の方法により、混合物から水系成分を分離してもよい。
【0112】
〔芳香族化合物〕
本開示の一態様に係る芳香族化合物は、下記式(X1)で表される芳香族化合物である。
【0113】
【0114】
式(X1)中、
R1X~R8X、及び、R13X~R16Xは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、
R9X~R11Xは、それぞれ独立に、メチル基又はメトキシ基を表し、
R12Xは、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基を表す。
【0115】
式(X1)中の、R1X~R8X、及び、R13X~R16Xは、それぞれ、前述した式(1)中の、R1~R8、及び、R13~R16と同義である。
式(X1)で表される芳香族化合物は、R12Xが、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、又はメトキシ基に限定されていること以外は、前述の式(1)で表される二座配位子と同様の化合物である。
このため、式(X1)で表される芳香族化合物は、本開示のイオン性金属錯体中の一成分として有用である。
特に、R12Xが水素原子以外の基であることにより、本開示のイオン性金属錯体からのアニオン(A)の放出性により優れるので、本開示のイオン性金属錯体を用いた陰イオンの検出において、陰イオンの検出の容易性及び検出感度をより向上させることができる。
【0116】
式(X1)で表される芳香族化合物の具体例としては、前述した式(1)で表される二座配位子の具体例でもある、化合物(1-1)~化合物(1-5)、及び、化合物(1-25)~化合物(1-30)が挙げられる。ただし、式(X1)で表される芳香族化合物は、これらの具体例には限定されない。
【実施例】
【0117】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、溶液の調製、または測定に用いた水はすべてイオン交換水を用いた。
【0118】
〔実施例1〕
実施例1として、式(1)で表される二座配位子の具体例であり、かつ、式(X1)で表される芳香族化合物の具体例でもある、化合物(1-2)〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼン、略称m-bbitrbNO2〕の合成を行った。
以下、詳細を示す。
【0119】
(一段階目の反応)
以下の一段階目の反応を行った。
【0120】
【0121】
一段階目の反応の操作は以下のとおりである。
1,3,5-トリメチルベンゼン 12.0g(0.10mol)と、パラホルムアルデヒド6.15g(0.20mol)と、を氷酢酸50mLに溶解させ、そこに30質量%臭化水素酢酸溶液40mLを添加した。得られた溶液を、温度80℃で8時間還流し、その後、水100mLを添加した。得られた生成物を、吸引濾過によって集めた。その後、生成物を、水/アセトン溶液(9:1(体積比))混合溶媒に懸濁させ、1日静置し、未反応の臭化水素を完全に取り除いた。その後、吸引濾過によって再び生成物を集めた。これにより、生成物として、1,3-ビス(ブロモメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼンを得た。
【0122】
(二段階目の反応)
以下の二段階目の反応を行った。
【0123】
【0124】
二段階目の反応の操作は以下のとおりである。
1,3-ビス(ブロモメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン 12.3g(40.2mmol)を無水酢酸200mLに加え、加熱して溶かし、溶液1Aを得た。
別のビーカーに無水酢酸150mLを入れ、氷で冷やしながら硝酸(30質量%)20.8mLを滴下ロートを用いてゆっくり加え、溶液1Bを得た。
溶液1Bを溶液1Aに加え、5時間攪拌した。反応溶液を氷水2Lに加え、しばらく攪拌すると黄色の沈殿物が生成した。この沈殿物を濾過して集め、水で洗った後、熱メタノール/水で再結晶を行うことで黄白色の結晶を得た。これにより、黄白色の結晶として、1,3-ビス(ブロモメチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼンを得た(収率33%)。
【0125】
(三段階目の反応)
以下の三段階目の反応を行い、目的の化合物として、化合物(1-2)〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼン、略称m-bbitrbNO2〕を得た。
【0126】
【0127】
三段階目の反応の操作は以下のとおりである。
1,3-ビス(ブロモメチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼン 3.51g(10mmol)を、テトラヒドロフラン(THF)100mLに溶解させ、溶液1Cを得た。
ベンズイミダゾール2.36g(20mmol)、及び、KOH 2.23g(40mmol)をテトラヒドロフラン(THF)100mLに加え、4時間攪拌し、溶液1Dを得た。
溶液1Cを溶液1Dにゆっくりと加え、一晩攪拌した。生成した沈殿を濾過して集め、この沈殿をメタノール/水で再結晶し、1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼンを得た。
また、残った反応溶液を減圧下で濃縮し、得られた残留物をジクロロメタン(70mL×3回)/水(60mL)で分液し、ジクロロメタン層に目的物を抽出した。ジクロロメタン層を取り出し、硫酸マグネシウムで脱水した後、ジクロロメタン溶液を濃縮した。得られた粗生成物を、メタノール/水の混合溶媒を用いて再結晶することにより、1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼンを黄白色粉末として得た(収率78%)。
【0128】
以上により、目的の化合物として、化合物(1-2)〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-ニトロベンゼン、略称m-bbitrbNO2〕を得た。
この化合物のNMRデータは以下のとおりである。
【0129】
~NMRデータ~
7.84 (2H, dd, J= 6.5, 1.7 Hz), 7.45 (2H, s), 7.41 (2H, dd, J= 6.5, 1.7 Hz), 7.38-4.33 (4H, m), 5.37 (4H, s), 2.32 (6H, s), 2.24 (3H, s)
【0130】
〔実施例2〕
実施例2として、式(1)で表される二座配位子の具体例であり、かつ、式(X1)で表される芳香族化合物の具体例でもある、化合物(1-1)〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2,4,6-トリメチル-5-アミノベンゼン、略称m-bbitrbNH2〕の合成を行った。
以下、詳細を示す。
【0131】
実施例1と同様にして、m-bbitrbNO2を合成した。
m-bbitrbNO2を用い、以下のスキームにより、m-bbitrbNH2を得た。
【0132】
【0133】
この反応の操作は以下のとおりである。
m-bbitrbNO2 2.1282g(5.0mmol)及びアンモニウムホルメート(ammonium formate) 3.16g(50mmol)を、乾燥メタノール(dryMeOH)200mLに溶かし、ここにArをバブリングさせた。ここに、パラジウム炭素触媒(10質量%Pd/C)0.5gを加えてからArのバブリングを止め、ついで25℃で12時間攪拌した。12時間攪拌後の液体から、ろ過によってパラジウム炭素触媒を除去し、ろ液を濃縮した後、水(60mL)/ジクロロメタン(70×3mL)を用いて分液操作を行い、ジクロロメタン層に目的物を抽出した。得られた抽出液を、MgSO4で脱水した後、減圧下で濃縮することにより、目的の化合物(m-bbitrbNH2)を、白い粉末として得た(収率85%)。
この化合物のNMRデータは以下のとおりである。
【0134】
~NMRデータ~
7.83 (2H, d, J= 7.6 Hz), 7.49 (2H, d, J= 6.9 Hz), 7.45 (2H, s), 7.36-4.32 (4H, m), 5.34 (4H, s), 2.18 (6H, s), 2.17 (3H, s)
【0135】
〔実施例3〕
実施例3として、式(1)で表される二座配位子の具体例であり、かつ、式(X1)で表される芳香族化合物の具体例でもある、化合物(1-3)〔化合物名:1,3-ビス(ベンゾイミダゾール-1-イル-メチル)-2-メチル-4,5,6-トリメトキシベンゼン、略称m-bbitrmot〕の合成を行った。
以下、詳細を示す。
【0136】
(一段階目の反応)
以下の一段階目の反応を行った。
【0137】
【0138】
一段階目の反応の操作は以下のとおりである。
1,2,3-トリメトキシ-5-メチルベンゼン 9.111g(0.05mol)、1,3,5-トリオキサン4.51g(0.05mol)、及び、30質量%臭化水素酢酸(HBr/AcOH)(25mL)を混合し、80℃で2時間反応させた。その後、水80mLを添加して生成物を吸引濾過によって集めた。集めた生成物を、水/アセトン溶液(9:1(体積比))混合溶媒に懸濁させ、12時間静置することにより、未反応の臭化水素酢酸を完全に取り除いた。その後、吸引濾過によって再び生成物を集めた。これにより、黄白色固体として、1,3-ビス(ブロモメチル)-4,5,6-トリメトキシ-2-メチルベンゼンを得た(収率84%)。
【0139】
(二段階目の反応)
以下の二段階目の反応を行った。
【0140】
【0141】
二段階目の反応の操作は以下のとおりである。
1,3-ビス(ブロモメチル)-4,5,6-トリメトキシ-2-メチルベンゼン(1.527g;4.15mmol)を、乾燥アセトニトリル(dry MeCN)(100mL)に溶かし、溶液3Aを得た。
水酸化カリウム(0.952g;17.0mmol)とベンズイミダゾール(0.978g;8.30mmol)とを、乾燥アセトニトリル(dry MeCN)200mLに懸濁し、系内をアルゴン置換し、溶液3Bを得た。得られた溶液3Bを、25℃で30分間激しく攪拌後、ここに、溶液3Aを添加し、25℃で12時間攪拌させた。得られた反応溶液を減圧下で濃縮し、残渣をCH2Cl2/H2Oで分液し、目的物を有機層に抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、再び減圧下で濃縮することにより、粗生成物を得た。得られた粗生成物を、酢酸エチルで再結晶することにより、目的物であるm-bbitrmotを、白色粉末として得た(収率91%)。
この化合物のNMRデータは以下のとおりである。
【0142】
~NMRデータ~
δ= 7.80 (2H, t, J=4.1 Hz), 7.66 (2H, s), 7.46 (2H, t, J= 3.4 Hz), 7.30 (4H, ddd, J= 14.4, 6.9, 5.5), 5.31 (4H, s), 3.91 (3H, s), 3.82 (6H, s), 2.20 (3H, s)
【0143】
〔実施例101〕
実施例101として、本開示のイオン性金属錯体の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.667[FeIII(CN)6](以下、「フェリ錯体」ともいう)を合成し、得られたフェリ錯体を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
以下、詳細を示す。
【0144】
<[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4・6.28H2O・CH3OH(原料錯体1)の合成>
m-bbitrbNH2 0.791g(2mmol)をメタノール100mLに溶解させ、溶液101Aを得た。
CuSO4・5H2O 0.250g(1mmol)を水100mLに溶解させ、溶液101Bを得た。
溶液101A及び溶液101Bを混合し、得られた混合物を、12時間攪拌することにより、青色の沈殿物が得られた。
得られた青色の沈殿物をろ過して集めて乾燥させることにより、青色の粉末として、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4・6.28H2O・CH3OH(以下、「原料錯体1」ともいう)を得た。
【0145】
<[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.667[FeIII(CN)6](フェリ錯体)の合成>
原料錯体1(0.0403g;0.02mmol)を、DMF 10mLに溶解させ、溶液101Cを得た。
フェリシアン化カリウム(K3[FeIII(CN)6])(0.0066g;0.02mmol)を水10mLに溶解させ、溶液101Dを得た。
溶液101Cに溶液101Dをゆっくりと加え、12時間静置させた。12時間静置後の溶液中に沈殿した生成物をろ取し、水でよく洗い、緑色の粉末を得た(収率64%)。
【0146】
単結晶X線構造解析により、上記緑色の粉末は、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.667[FeIII(CN)6](フェリ錯体)であることが確認された。
単結晶X線構造解析は、(株)リガク製のX線構造解析装置(サターン二次元検出器システム)を用い、低温(-100℃)でモリブデンKαの線源を用いてX線の反射データを収集し、収集した反射データを(株)リガク製の Crystal Structure プログラムを用いて解析することにより行った(以下、同様である)。
【0147】
-単結晶X線構造解析結果-
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 14.3010(16) Å, b = 14.3056(7) Å, c = 14.7616(15) Å, α = 93.8920(18)°, β = 112.0960(3)°,γ = 93.9490(19)°, V = 2777.1(4) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 43755/10748/832, R1= 0.0940, wR2= 0.1960.
【0148】
上記フェリ錯体は、カプセル骨格にSO4
2-が内包されている構造の金属錯体カチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]2+と、アニオン(A)の一例である[FeIII(CN)6]3-と、を含む。
フェリ錯体において、2価のカチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]2+1分子に対する[FeIII(CN)6]3-の割合は、0.667分子となっている。これにより電荷のバランスがとられている。
【0149】
フェリ錯体における、1分子の[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]2+及び1分子の[FeIII(CN)6]3-からなる単結晶構造を以下に示す。この構造は、上記単結晶X線構造解析によって確認された。
【0150】
【0151】
<フェリ錯体を用いた過塩素酸イオンの検出に関する実験>
過塩素酸ナトリウムを100mLの超純水に溶解させ、ClO4
-濃度10mMの水溶液1(体積100mL)を調製した。
同様にして、ClO4
-濃度1mMの水溶液2(体積100mL)及びClO4
-濃度0.1mMの水溶液3(体積100mL)をそれぞれ調製した。
ブランクとして、超純水100mLを準備した。
【0152】
4つのサンプル瓶の各々に、フェリ錯体0.1gを入れた。
次に、4つのサンプル瓶に、それぞれ、水溶液1、水溶液2、水溶液3、及び超純水を10mLずつ加え、次いで振とう装置を用い、液温(即ち、反応温度)25℃、回転数100rpmにて12時間攪拌した。
次に、ろ過により、4つの液のそれぞれのろ液を得た。
【0153】
次に、各ろ液に対し、硫酸第一鉄(II)アンモニウム([FeIII(CN)6]3-用の指示薬)をスパチュラー一杯程度加えた後、各ろ液の色を目視で確認した。
【0154】
図1は、硫酸第一鉄(II)アンモニウムを加えた後の各ろ液の写真である。
図1中、左から順に、水溶液1由来のろ液、水溶液2由来のろ液、水溶液3由来のろ液、及び超純水由来のろ液である。
図1の写真はグレースケールで示しているが、水溶液1由来のろ液、水溶液2由来のろ液、及び水溶液3由来のろ液の色は、それぞれ、濃い青色、青色、及び薄い青色であった。これらの色は、各ろ液に、[Fe
III(CN)
6]
3-が溶解されていることを示す。各ろ液中の[Fe
III(CN)
6]
3-は、フェリ錯体中の[Fe
III(CN)
6]
3-とClO
4
-との対アニオン交換反応により、フェリ錯体から放出されたものである。
一方、超純水由来のろ液は、わずかに、硫酸第一鉄(II)アンモニウム由来の色(水色)に着色されていた。しかし、水溶液3(ClO
4
-濃度0.1mM)由来のろ液の色は、超純水由来のろ液の色よりも濃い青色であり、両者の色の違いを明確に区別できた。
【0155】
以上の結果から、フェリ錯体の添加により、水溶液1(ClO4
-濃度10mM)、水溶液2(ClO4
-濃度1mM)、及び水溶液3(ClO4
-濃度0.1mM)のそれぞれに、ClO4
-が含まれていたことが確認された。即ち、これらの水溶液中のClO4
-を検出できた。
以上の結果を、下記表1にまとめた。
表1のClO4
-検出結果欄中、「Y」は、ClO4
-を検出できたことを示し、「N」は、ClO4
-を検出できなかったことを示す(後述の表2以降も同様である)。
【0156】
【0157】
例えば上述したフェリ錯体のように、ClO4
-を感度良く検出できるイオン性金属錯体(例えば、上述したフェリ錯体)は、ClO4
-と同様の分子構造及び同程度の分子サイズを有するBF4
-も、感度良く検出できると考えられる。
【0158】
〔実施例102〕
実施例102として、本開示のイオン性金属錯体の別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)(以下、「オレンジ錯体1」ともいう)合成し、得られたオレンジ錯体1を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
以下、詳細を示す。
【0159】
<[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4・6.28H2O・CH3OH(原料錯体1)の合成>
実施例101における原料錯体1の合成と同様にして、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]SO4・6.28H2O・CH3OH(原料錯体1)を得た。
【0160】
<[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)の合成>
原料錯体1(0.0403g;0.02mmol)を、DMF 10mLに溶解させ、溶液102Aを得た。
メチルオレンジ(0.0131g;0.04mmol)を水10mLに溶解させ、溶液102Bを得た。
溶液102Aに溶液102Bをゆっくりと加え、12時間静置させた。12時間静置後の溶液中に沈殿した生成物をろ取し、水でよく洗い、オレンジ色の粉末を得た(収率90%)。
【0161】
単結晶X線構造解析により、上記オレンジ色の粉末は、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)(オレンジ錯体1)であることが確認された。
【0162】
-単結晶X線構造解析結果-
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 13.9849(12) Å, b = 14.7659(13) Å, c = 17.3428(17) Å, α = 76.159(8)°, β= 75.065(8)°,γ = 71.747(8)°, V = 3236.8(6) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 15257/5997/857, R1= 0.1058, wR2 = 0.2581.
【0163】
上記オレンジ錯体1は、カプセル骨格にSO4
2-が内包されている構造の金属錯体カチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]2+と、アニオン(A)の一例である色素アニオン(A-1)(即ち、メチルオレンジ中のアニオン)と、を含む。
オレンジ錯体1において、2価のカチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]1分子に対する色素アニオン(A-1)(1価のアニオン)の割合は、2分子となっている。これにより電荷のバランスがとられている。
【0164】
オレンジ錯体1における、1分子の[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]及び2分子の色素アニオン(A-1)からなる単結晶構造を以下に示す。この構造は、上記単結晶X線構造解析によって確認された。
【0165】
【0166】
<オレンジ錯体1を用いた過塩素酸イオンの検出に関する実験>
実施例101における「フェリ錯体を用いた過塩素酸イオンの検出に関する実験」と同様にして、ClO4
-濃度10mMの水溶液1(体積100mL)、ClO4
-濃度1mMの水溶液2(体積100mL)、及びClO4
-濃度0.1mMの水溶液3(体積100mL)をそれぞれ調製し、かつ、ブランクとして超純水100mLを準備した。
【0167】
4つのサンプル瓶の各々に、オレンジ錯体1(0.1g)を入れた。
次に、4つのサンプル瓶に、それぞれ、水溶液1、水溶液2、水溶液3、及び超純水を5mLずつ加え、次いで振とう装置を用い、液温(即ち、反応温度)25℃、回転数100rpmにて12時間攪拌した。
次に、ろ過により、4つの液のそれぞれのろ過を得、各ろ液の色を目視で確認した。
【0168】
図2は、各ろ液の写真である。
図2中、左から順に、水溶液1由来のろ液、水溶液2由来のろ液、水溶液3由来のろ液、及び超純水由来のろ液である。
図2の写真はグレースケールで示しているが、水溶液1由来のろ液の色は、オレンジ色であった。この色は、ろ液に、アニオン(A-1)が溶解されていることを示す。ろ液中のアニオン(A-1)は、オレンジ錯体1中のアニオン(A-1)とClO
4
-との対アニオン交換反応により、オレンジ錯体1から放出されたものである。
水溶液2由来のろ液、水溶液3由来のろ液、及び超純水由来のろ液の色は、無色であった。
【0169】
以上の結果から、オレンジ錯体1を添加して目視により色を確認するという簡単な方法により、水溶液1(ClO4
-濃度10mM)中のClO4
-を検出できることが確認された。
なお、水溶液2(ClO4
-濃度1mM)由来のろ液及び水溶液3(ClO4
-濃度0.1mM)由来のろ液の色は無色であったが、これらのろ液中にも、アニオン(A-1)が含まれていると推測される。従って、検出条件の調整により、水溶液2中のClO4
-及び水溶液3中のClO4
-も検出され得ると考えられる。
以上の結果を、下記表2にまとめた。
【0170】
【0171】
4つの液に対し、それぞれ塩酸を1滴ずつ加え、各ろ液の色を目視で確認した。
その結果、水溶液1由来のろ液の色は、より濃い色となり、ろ色の色をより視認しやすくなることが確認された。この理由は、メチルオレンジは、酸性の半ばではっきりと色が変化するためである。
【0172】
〔実施例103〕
実施例103として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrb)4]・2(A-1)(以下、「オレンジ錯体2」ともいう)を合成し、得られたオレンジ錯体2を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
詳細には、m-bbitrbNH2を、m-bbitrb(即ち、式(1)中のR1~R16の全てが水素原子である化合物)に変更したこと以外は実施例102中のオレンジ錯体1の合成と同様にして、[SO4⊂Cu2(m-bbitrb)4]・2(A-1)(オレンジ錯体2)を得た(収率71%)。
得られたオレンジ錯体2を用いたこと以外は、実施例102中のオレンジ錯体1を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験と同様にして、オレンジ錯体2を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
その結果、実施例102中のオレンジ錯体1を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験と同様に、オレンジ錯体2を添加して目視により色を確認するという簡単な方法により、水溶液1(ClO4
-濃度10mM)中のClO4
-を検出できることが確認された。
【0173】
〔実施例104〕
実施例104として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNO2)4]・2(A-1)(以下、「オレンジ錯体3」ともいう)を合成し、得られたオレンジ錯体3を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
【0174】
詳細には、m-bbitrbNH2を、m-bbitrbNO2に変更したこと以外は実施例102中のオレンジ錯体1の合成と同様にして、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNO2)4]・2(A-1)(オレンジ錯体3)を得た(収率73%)。
得られたオレンジ錯体3を用い、反応温度を30℃に変更し、オレンジ錯体3の使用量を0.15gに変更したこと以外は、実施例102中のオレンジ錯体1を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験と同様にして、オレンジ錯体3を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
結果を表3に示す。
【0175】
【0176】
表3に示すように、実施例104では、オレンジ錯体3を添加して目視により色を確認するという簡単な方法により、水溶液1(ClO4
-濃度10mM)中のClO4
-、及び、水溶液2(ClO4
-濃度1mM)中のClO4
-を検出できることが確認された。
実施例104では、実施例102及び103と比較して、ClO4
-の検出感度がより向上した。
【0177】
〔実施例105〕
反応温度を65℃に変更し、オレンジ錯体3の使用量を0.1gに変更したこと以外は実施例104と同様の操作を行った。
結果を表4に示す。
【0178】
【0179】
表4に示すように、実施例105では、オレンジ錯体3を添加して目視により色を確認するという簡単な方法により、水溶液1(ClO4
-濃度10mM)中のClO4
-、水溶液2(ClO4
-濃度1mM)、及び、水溶液3(ClO4
-濃度0.1mM)中のClO4
-を検出できることが確認された。
実施例105では、実施例102~104と比較して、ClO4
-の検出感度がより向上した。
【0180】
図3は、ClO
4
-濃度0.1mMの水溶液由来のろ液に塩酸を1滴加えた液体の可視紫外吸収スペクトルである。
可視紫外吸収スペクトルは、日本分光(株)製のV570 UV-Vis.NIR supectrometerにて測定した(後述の
図4に示す可視紫外吸収スペクトルも同様である)。
図3に示すように、アニオン(A)として放出されたアニオン(A-1)に由来する可視領域の吸収が確認された。
【0181】
〔実施例106〕
実施例106として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・6核Fe錯体(以下、「Cu2L4-6核Fe錯体1」ともいう)を合成し、得られたCu2L4-6核Fe錯体1を用いた過塩素酸イオン(ClO4
-)の検出に関する実験を行った。
【0182】
<Cu2L4-6核Fe錯体1の合成>
m-bbitrmot(0.0496g;0.1120mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(14mL)に溶解させて溶液106Aを得た。
CuSO4・5H2O(0.0260g;0.1041mmol)及びFeSO4・7H2O(0.0289g;0.1040mmol)を、メタノール(MeOH)(26mL)に溶解させて溶液106Bを得た。
溶液106A(2mL)及び溶液106B(2mL)を混合し、12時間静置させたところ、暗緑色結晶を得た(収率19%)。
X線構造解析の結果、暗緑色結晶は、
金属錯体カチオンの一例である[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+と、
アニオン(A)の一例である、前述した[FeII
6(SO4)6(OH)2(CH3OH)9]2-で表される6核Fe錯体アニオンと、
を含むイオン性金属錯体(ここでは、「Cu2L4-6核Fe錯体1」とする)であることが確認された。
X線構造解析で得られた、Cu2L4-6核Fe錯体1の構造は以下のとおりである。
【0183】
【0184】
X線構造解析で得られた、[FeII
6(SO4)6(OH)2(CH3OH)9]2-で表される6核Fe錯体アニオンの構造は以下のとおりである。
【0185】
【0186】
<Cu2L4-6核Fe錯体1を用いた過塩素酸イオンの検出に関する実験>
Cu2L4-6核Fe錯体1(0.0326g;0.01mmol)をサンプル瓶に二つ取り、一方に1mMに調製した過塩素酸ナトリウム水溶液(20mL)を添加し、他方にイオン交換水(20mL)を添加した。
各溶液を、5分間攪拌した後、ろ過によりろ液を得た。
各ろ液にフェナントロリン(0.0357g;0.18mmol)をそれぞれ添加し、目視により液体の色を観察した。
その結果、1mMの過塩素酸ナトリウム水溶液由来のろ液の色は、超純水由来のろ液の色よりも濃い色であり、両者の色の違いを明確に区別できた。
以上の結果から、Cu2L4-6核Fe錯体1の添加及び目視というより簡単な方法により、1mMの過塩素酸ナトリウム水溶液中のClO4
-を検出できることが確認された。
【0187】
図4は、ClO
4
-濃度1mMの水溶液由来のろ液に、フェナントロリン(0.0357g;0.18mmol)を添加した液体の可視紫外吸収スペクトルである。
図4に示すように、アニオン(A)として放出された6核Fe錯体アニオン([Fe
II
6(SO
4)
6(OH)
2(CH
3OH)
9]
4-)に由来する可視領域の吸収が確認された。
【0188】
〔実施例107〕
実施例107として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・環状10核Fe錯体(以下、「Cu2L4-環状10核Fe錯体1」ともいう)を合成した。
【0189】
m-bbitrmot(0.0496g;0.1120mmol)をメタノール(MeOH)(14mL)に溶解させて溶液107Aを得た。
CuSO4・5H2O(0.0260g;0.1041mmol)及びFeSO4・7H2O(0.0289g;0.1040mmol)を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(26mL)に溶解させて溶液107Bを得た。
溶液107A(2mL)及び溶液107B(2mL)を混合し、2か月静置させたところ、緑色結晶を得た(収率8%)。
X線構造解析の結果、緑色結晶は、
金属錯体カチオンの一例である[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+と、
アニオン(A)の一例である、前述した[FeII
10(SO4)10(CH3O)4(CH3OH)16]4-で表される環状10核Fe錯体アニオンと、
を含むイオン性金属錯体(ここでは、「Cu2L4-環状10核Fe錯体1」とする)であることが確認された。
X線構造解析で得られた、Cu2L4-環状10核Fe錯体1の構造は以下のとおりである。
【0190】
【0191】
X線構造解析で得られた[FeII
10(SO4)10(CH3O)4(CH3OH)16]4-で表される環状10核Fe錯体アニオンの構造は以下のとおりである。
【0192】
【0193】
Cu2L4-環状10核Fe錯体1を用いた場合にも、過塩素酸ナトリウム水溶液中のClO4
-を検出できると考えられる。
【0194】
〔実施例108〕
実施例108として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]を合成した。
【0195】
m-bbitrmot(0.0496g;0.1121mmol)をMeCN(14mL)に溶解させ、溶液108Aを得た。
CuSO4・5H2O(0.0260g;0.1041mmol)及びFeCl2・4H2O(0.0207g;0.1041mmol)をDMF(26mL)に溶解させ、溶液108Bを得た。
溶液108A(2mL)及び溶液108B(2mL)を、直管内でゆっくりと混合し、次いで一ヶ月静置させたところ、黒色のブロック状結晶が生成されていた。
X線構造解析により、黒色のブロック状結晶は、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+と[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]2-とを含む[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]であることが確認された。
【0196】
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 14.6468(4) Å, b = 15.9276(5) Å, c = 29.7110(8) Å, α = 76.326(3)°, β = 81.189(2)°,γ = 63.645(3)°, V = 6025.5(3) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 145389/31391/1634, R1 = 0.1140, wR2 = 0.2325.
【0197】
[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cl3FeIII-O-FeIIICl3]を用いた場合にも、過塩素酸ナトリウム水溶液中のClO4
-を検出できると考えられる。
【0198】
〔実施例109〕
実施例109として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]を合成した。
【0199】
m-bbitrmot(0.0496g;0.1121mmol)をエタノール(14mL)に溶解させ、溶液109Aを得た。
CuSO4・5H2O(0.0260g;0.1041mmol)をメタノール(26mL)に溶解させ、溶液109Bを得た。
溶液109A(2mL)及び溶液109B(2mL)を、直管内でゆっくりと混合し、次いで三日間静置させたところ、青色のブロック状結晶が生成されていた(収率21%)。
X線構造解析により、青色のブロック状結晶は、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+と[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]2-とを含む[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]であることが確認された。
【0200】
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 15.07860(10) Å, b = 15.59140(10) Å, c = 15.78900(10) Å, α = 64.337(4)°, β = 63.218(4)°,γ = 71.698(4)°, V = 2954.09(13) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 40772/13333/905, R1= 0.0698, wR2 = 0.1638.
【0201】
SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2]を用いた場合にも、過塩素酸ナトリウム水溶液中のClO4
-を検出できると考えられる。
【0202】
〔実施例110〕
実施例110として、本開示のイオン性金属錯体の更に別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.5[FeII(CN)6]を合成した。
【0203】
フェリシアン化カリウム(K3[FeIII(CN)6])(0.02mmol)を、フェロシアン化カリウム(K4[FeII(CN)6])(0.02mmol)に変更したこと以外は実施例101の「SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4」・0.667[FeIII(CN)6](フェリ錯体)の合成」と同様にして、[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.5[FeII(CN)6]を合成した(収率50%)。
[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・0.5[FeII(CN)6]の構造は、X線構造解析によって確認した。
【0204】
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 14.2229(10) Å, b = 14.2857(9) Å, c = 14.7754(11) Å, α = 93.898(2)°, β = 112.420(2)°,γ = 94.2833(13)°, V = 2752.3(3) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 44257/12922/781, R1= 0.1333, wR2 = 0.3530.
【0205】
〔実施例111〕
実施例111として、金属錯体カチオン中の金属イオンがNi2+であり、内包アニオンが2個のCl-であり、対アニオンが2個のCl-である、[Cl2⊂Ni2(m-bbitrmot)4Cl2]で表される原料錯体を合成した。
【0206】
m-bbitrmot(0.0496g,0.0112mmol)をアセトン(14mL)に溶解させ、溶液111Aを得た。
NiCl2(0.0114g,0.0880mmol)を、DMF(22mL)に溶解させ、溶液111Bを得た。
溶液111A(2mL)及び溶液111B(2mL)を、直管内でゆっくりと混合し、次いで二ヶ月静置させたところ、薄い緑色の板状結晶が生成されていた(収率24%)。
[Cl2⊂Ni2(m-bbitrmot)4Cl2]の構造は、X線構造解析によって確認した。
【0207】
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 14.4077(12) Å, b = 19.8094(16) Å, c = 22.0606(19) Å, α = 92.215 (2)°, β = 104.479(3)°,γ = 100.530(3)°, V = 5970.1(9) Å3, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined: 67005/24264/1534, R1 = 0.1119, wR2 = 0.1988.
【0208】
[Cl2⊂Ni2(m-bbitrmot)4Cl2]の対アニオンである2個のCl-を、対アニオン交換反応により、アニオン(A)に交換することにより、本開示のイオン性金属錯体の一例を製造できると考えられる。
この一例を用いた場合にも、過塩素酸ナトリウム水溶液中のClO4
-を検出できると考えられる。
【0209】
〔実施例112〕
本開示のイオン性金属錯体の別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・2(A-1)(以下、「オレンジ錯体4」ともいう)を合成した。
得られたオレンジ錯体4を用い、
過塩素酸イオンの検出に関する実験、
硝酸イオンの検出に関する実験、
亜硝酸イオンの検出に関する実験、
1ppm以下の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験、及び、
水道水中の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験
をそれぞれ行った。
以下、詳細を示す。
【0210】
<[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・2(A-1)(オレンジ錯体4)の合成>
実施例102における[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)(オレンジ錯体1)の合成と同様の方法により、本開示のイオン性金属錯体の別の一例である、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・2(A-1)(以下、「オレンジ錯体4」ともいう)を合成した。
以下、詳細を示す。
【0211】
実施例109と同様にして合成した[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・[Cu(SO4)2(CH3OH)2(C2H5OH)2](0.10mmol)を、DMF50mLに溶解させ、溶液112Aを得た。
メチルオレンジ(0.066g,0.20mmol)を水300mLに溶解させ、溶液112Bを得た。
溶液112Aに溶液112Bをゆっくりと加え、12時間静置させた。12時間静置後の溶液中に沈殿した生成物をろ取し、水でよく洗い、緑がかったオレンジ色の粉末を得た(収率70.1%)。
【0212】
単結晶X線構造解析により、上記緑がかったオレンジ色の粉末は、[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]・2(A-1)(オレンジ錯体4)であることが確認された。
【0213】
-単結晶X線構造解析結果-
triclinic, space group P-1 (no. 2), a = 16.8052(2) Å, b = 18.3370(2) Å, c = 22.4913(2) Å, α = 77.2170(10)°, β= 83.0480(10)°,γ = 80.0040(10)°, V = 6631.78(13) Å, T = 173 K, reflections collected/unique reflections/parameters refined : 237502/35401/1792, R = 0.0619, wR = 0.1301.
【0214】
オレンジ錯体4における、1分子の[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+及び2分子の色素アニオン(A-1)からなる単結晶構造を以下に示す。この構造は、上記単結晶X線構造解析によって確認された。
【0215】
【0216】
上記オレンジ錯体4は、カプセル骨格にSO4
2-が内包されている構造の金属錯体カチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+と、アニオン(A)の一例である色素アニオン(A-1)(即ち、メチルオレンジ中のアニオン)と、を含む。
オレンジ錯体4において、2価のカチオンである[SO4⊂Cu2(m-bbitrmot)4]2+1分子に対する色素アニオン(A-1)(1価のアニオン)の割合は、2分子となっている。これにより電荷のバランスがとられている。
オレンジ錯体4の単結晶構造は、カプセル骨格を形成する二座配位子が、m-bbitrbNH2ではなくm-bbitrmotであることを除けば、実施例102における[SO4⊂Cu2(m-bbitrbNH2)4]・2(A-1)(オレンジ錯体1)の単結晶構造と同様である。
【0217】
<オレンジ錯体4を用いた過塩素酸イオンの検出に関する実験>
ClO4
-濃度10mMの水溶液C-1(体積100mL)、ClO4
-濃度5mMの水溶液C-2(体積100mL)、ClO4
-濃度1mMの水溶液C-3(体積100mL)、ClO4
-濃度0.50mMの水溶液C-4(体積100mL)、及びClO4
-濃度0.50mMの水溶液C-5(体積100mL)をそれぞれ調製した。ブランクとして超純水100mLを準備した。
【0218】
オレンジ錯体4(0.05mmol)をDMF(50mL)に溶解させ、溶液X-4を調製した。
次に、6つのサンプル瓶に、それぞれ、水溶液C-1、水溶液C-2、水溶液C-3、水溶液C-4、水溶液C-5、及び超純水(ブランク)を、20mLずつ入れた。
次に、上記6つのサンプル瓶中の液体に、それぞれ、溶液X-4の溶液を1.0mLずつ加え、液温(即ち、反応温度)25℃の条件で、一晩静置した。一晩静置した後の各溶液をろ過し、得られた各ろ液の色を目視で確認した。
その結果、
ブランク由来のろ液の色は無色であり、
水溶液C-5由来のろ液の色は黄色であり、
水溶液C-4由来のろ液の色、水溶液C-3由来のろ液の色、水溶液C-2由来のろ液の色、及び、水溶液C-1由来のろ液の色は、いずれも濃い黄色であった。
以上の結果を、下記表5にまとめた。
【0219】
【0220】
表5に示すように、水溶液に対し、オレンジ錯体4のDMF溶液である溶液X-4を添加して得られる水系成分(ろ液)の色を目視で確認することにより、0.1mM以上の濃度のClO4
-を検出できる。
なお、詳細は後述するが、オレンジ錯体4によれば、0.1mMよりも低濃度のClO4
-も検出できる。
【0221】
<オレンジ錯体4を用いた硝酸イオンの検出に関する実験>
硝酸ナトリウムを超純水に溶解させることにより、
NO3
-濃度10mMの水溶液N-1(体積100mL)、
NO3
-濃度5mMの水溶液N-2(体積100mL)、
NO3
-濃度1mMの水溶液N-3(体積100mL)、
NO3
-濃度0.5mMの水溶液N-4(体積100mL)、及び
NO3
-濃度0.1mMの水溶液N-5(体積100mL)
をそれぞれ調製した。
ブランクとして超純水100mLを準備した。
【0222】
オレンジ錯体4(0.05mmol)をDMF(50mL)に溶解させ、溶液X-4を調製した。
次に、6つのサンプル瓶に、それぞれ、水溶液N-1、水溶液N-2、水溶液N-3、水溶液N-4、水溶液N-5、及び超純水(ブランク)を、20mLずつ入れた。
次に、上記6つのサンプル瓶中の液体に、それぞれ、溶液X-4の溶液を1.0mLずつ加え、液温(即ち、反応温度)25℃の条件で、一晩静置した。一晩静置した後の各溶液をろ過し、得られた各ろ液の色を目視で確認した。
その結果、
ブランク由来のろ液の色、及び、水溶液N-5由来のろ液の色は、いずれも無色であり、
水溶液N-4由来のろ液の色は薄い黄色であり、
水溶液N-3由来のろ液の色は黄色であり、
水溶液N-2由来のろ液の色及び水溶液N-1由来のろ液の色は、いずれも濃い黄色であった。
以上の結果を、下記表6にまとめた。
【0223】
【0224】
表6に示すように、水溶液に対し、オレンジ錯体4のDMF溶液である溶液X-4を添加して得られる水系成分(ろ液)の色を目視で確認することにより、0.5mM以上の濃度のNO3
-を検出できる。
【0225】
<オレンジ錯体4を用いた亜硝酸イオンの検出に関する実験>
亜硝酸ナトリウムを超純水に溶解させることにより、
NO2
-濃度10mMの水溶液M-1(体積100mL)、
NO2
-濃度5mMの水溶液M-2(体積100mL)、
NO2
-濃度1mMの水溶液M-3(体積100mL)、
NO2
-濃度0.5mMの水溶液M-4(体積100mL)、及び
NO2
-濃度0.1mMの水溶液M-5(体積100mL)
をそれぞれ調製した。
ブランクとして超純水100mLを準備した。
【0226】
オレンジ錯体4(0.05mmol)をDMF(50mL)に溶解させ、溶液X-4を調製した。
次に、6つのサンプル瓶に、それぞれ、水溶液M-1、水溶液M-2、水溶液M-3、水溶液M-4、水溶液M-5、及び超純水(ブランク)を、20mLずつ入れた。
次に、上記6つのサンプル瓶中の液体に、それぞれ、溶液X-4の溶液を1.0mLずつ加え、液温(即ち、反応温度)25℃の条件で、一晩静置した。一晩静置した後の各溶液をろ過し、得られた各ろ液の色を目視で確認した。
その結果、
ブランク由来のろ液の色、水溶液M-5由来のろ液の色、及び水溶液M-4由来のろ液の色は、いずれも無色であり、
水溶液N-3由来のろ液の色は薄い黄色であり、
水溶液N-2由来のろ液の色及び水溶液N-1由来のろ液の色は、いずれも黄色であった。
以上の結果を、下記表7にまとめた。
【0227】
【0228】
表7に示すように、水溶液に対し、オレンジ錯体4のDMF溶液である溶液X-4を添加して得られる水系成分(ろ液)の色を目視で確認することにより、1mM以上の濃度のNO2
-を目視で検出できることがわかる。
【0229】
<1ppm以下の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験>
1ppm以下の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験を行った。ここで、ppmは、質量基準である。ClO4
-濃度1ppmは、概ねClO4
-濃度0.01mMに相当する。
まず、過塩素酸ナトリウムを超純水(100mL)に溶解させることにより、ClO4
-濃度500ppmの水溶液を調製した。
次に、上記ClO4
-濃度500ppmの水溶液を超純水で希釈することにより、
ClO4
-濃度500ppb(ClO4
-濃度約0.005mMに相当)の水溶液T-1(体積20mL)、
ClO4
-濃度200ppbの水溶液T-2(体積20mL)、
ClO4
-濃度100ppbの水溶液T-3(体積20mL)、
ClO4
-濃度50ppbの水溶液T-4(体積20mL)、
ClO4
-濃度20ppbの水溶液T-5(体積20mL)、及び、
ClO4
-濃度10ppbの水溶液T-6(体積20mL)
を、それぞれ調製した。
ブランクとして超純水20mLを準備した。
【0230】
次に、ブランクを含む上記7種の液体に対し、それぞれ、溶液X-4の溶液(即ち、オレンジ錯体4(0.05mmol)をDMF(50mL)に溶解させた溶液)を1.0mLずつ加え、液温(即ち、反応温度)25℃の条件で、一晩静置した。一晩静置した後の各溶液をろ過し、得られた各ろ液の色を目視で確認した。
その結果、
ブランク由来のろ液の色は無色であり、
水溶液T-6由来のろ液の色、水溶液T-5由来のろ液の色、水溶液T-4由来のろ液の色は、いずれも薄い黄色であり、
水溶液T-3由来のろ液の色、水溶液T-2由来のろ液の色、及び、水溶液T-1由来のろ液の色は、いずれも黄色であった。
以上の結果を、下記表8にまとめた。
【0231】
【0232】
表8に示すように、水溶液に対し、オレンジ錯体4のDMF溶液である溶液X-4を添加して得られる水系成分(ろ液)の色を目視で確認することにより、10ppb以上の濃度のClO4
-を目視で検出できることがわかる。
【0233】
図5は、実施例112において、
水溶液中におけるClO
4
-濃度と、
水溶液にオレンジ錯体4(即ち、[SO
4⊂Cu
2(m-bbitrmot)
4]・2(A-1))を添加してろ過して得られたろ液の極大吸光度(詳細には、メチルオレンジに由来する吸収における極大吸収の吸光度)と、
の関係を示すグラフである。
図5に示すように、過塩素酸イオン濃度の上昇に伴い、極大吸光度が増加していることが確認された。
この結果から、水系成分の色を目視で確認する方法だけでなく、水系成分の可視紫外吸収スペクトルを測定することによっても、過塩素酸イオンの検出を行えることがわかる。
また、
図5のグラフを検量線として用いることで、未知のClO
4
-濃度の水溶液におけるClO
4
-濃度を求めることができることもわかる。
【0234】
<水道水中の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験>
使用した超純水の全てを日本国静岡県静岡市の水道水に変更したこと以外は、上記「1ppm以下の低濃度過塩素酸イオンの検出に関する実験」における水溶液T-4(ClO4
-濃度50ppb)及びブランクに関する実験と同様の操作を行った。
その結果、ブランク(水道水)では目視で着色が確認されなかったが、水溶液T-4(ClO4
-濃度50ppb。ただし水道水使用。)由来のろ液では、目視で黄色の着色が確認された。
即ち、オレンジ錯体4のDMF溶液である溶液X-4の添加により、蒸留水中に溶解されたClO4
-だけでなく、水道水中に溶解された低濃度(ppbオーダー)のClO4
-も検出できることがわかった。
【0235】
2019年8月28日に出願された日本国特許出願2019-156194号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。