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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】配線基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/20 20060101AFI20241112BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H05K3/20 C
H05K3/38 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021567623
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048490
(87)【国際公開番号】W WO2021132479
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019239765
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513114571
【氏名又は名称】株式会社マテリアル・コンセプト
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ホアン チ ハイ
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-322834(JP,A)
【文献】特開2016-110690(JP,A)
【文献】特開2004-281658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板と金属配線とを有する配線基板であって、
前記金属配線は、金属粒子の焼結体を含み、
前記焼結体は、前記樹脂基板に向かう開口部を備えた複数の空隙を有しており、
前記開口部から前記空隙の中へ前記樹脂基板の一部が入り込んでおり、
樹脂表面層が、前記焼結体において前記樹脂基板と接する境界面と反対側に位置する表面を被覆している、配線基板。
【請求項2】
前記金属粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記空隙の割合は、1体積%以上30体積%以下である、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記空隙は、その一部が連結して、前記開口部から入り込んだ前記樹脂基板の一部が連結している、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項5】
前記焼結体の前記空隙に導電性を有する金属元素を含む、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載された配線基板を製造する方法であって、
焼結用部材の上に前記焼結体を形成する焼結体形成工程と、
前記焼結用部材の上において、前記焼結体の表面及び前記焼結体の周囲に、樹脂成分を含む溶液を塗布する塗布工程と、
前記樹脂成分を硬化させて樹脂基板を形成する硬化工程と、
前記焼結体及び前記樹脂基板を前記焼結用部材から剥離する剥離工程と、
を備える、配線基板の製造方法。
【請求項7】
前記溶液は、樹脂の前駆体物質又は樹脂の重合性単量体を含む、請求項6に記載の配線基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載された配線基板を製造する方法であって、
樹脂基板を準備する工程と、
前記樹脂基板に前記焼結体を形成する焼結体形成工程と、
を備える、配線基板の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂基板の上に樹脂成分を含む溶液を塗布し、前記樹脂成分を硬化させて、界面樹脂層を形成する工程を含み、前記焼結体形成工程は、前記界面樹脂層の上に前記焼結体を形成することを含む、請求項8に記載の配線基板の製造方法。
【請求項10】
前記溶液は、樹脂の前駆体物質又は樹脂の重合性単量体を含む、請求項9に記載の配線基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は、可撓性を有する有機物絶縁フィルムを基板とするものであって、この絶縁フィルム上に金属配線を形成したものである。
【0003】
基板上に金属配線を形成する方法としては、サブトラクティブ法、セミアディティブ法及びアディティブ法の3種類が挙げられる。
【0004】
具体的に、サブトラクティブ法では、金属箔を基板に張り付けて、フォトリソグラフィー工程によって配線を形成させる。また、セミアディティブ法では、シード層となる薄膜をスパッタ法等で基板上に被着した後に、電解めっきを行って配線を形成させる(例えば、特許文献1、2を参照)。しかしながら、サブトラクティブ法とセミアディティブ法は、いずれもフォトリソグラフィー工程を必要とするため、工程数が多い。それに加えて、廃液処理を必要とする等、コスト及び環境に対する負荷が大きい。
【0005】
一方で、アディティブ法は、インクジェットやスクリーン印刷によって金属配線を基板上に直接描画して、金属配線を形成する方法であり、フォトリソグラフィー工程が不要であるという利点がある。しかし、金属配線を基板上に直接形成するだけでは、金属配線と基板との密着強度が弱いので、金属配線が容易に剥離するという問題がある。そこで、金属配線と基板との密着強度を高めるために、基板上に予めNi-Cr合金薄膜を密着層として形成し、その後に金属配線を形成する方法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。しかし、このような方法では、密着層のNi-Cr合金薄膜を配線形状となるようにエッチングするため、フォトリソグラフィー工程を必要とする。よって、密着層を形成する方法においても、サブトラクティブ法及びセミアディティブ法と同様に、工程数が多く、また、廃液処理が必要であるため、高コスト及び環境負荷が大きいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭62-72200号公報
【文献】特開平5-136547号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y.Cao,J.Tian,and X.Hu,This Solid Films,Vol.365(1),pp.49-52(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性とを兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性が高い配線基板を提供するとともに、そのような配線基板を、フォトリソグラフィー工程を用いることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、樹脂基板と金属粒子の焼結体とを備える配線基板において、焼結体が複数の空隙を有し、その空隙の開口部から樹脂基板の一部が入り込んでいる構造を備えることにより、目的とする機能を有する配線基板を得ることができること、並びに、そのような配線基板は、金属粒子の焼結体と樹脂基板とを形成して製造できること見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下の実施形態を提供する。
【0010】
(1)樹脂基板と金属配線とを有する配線基板であって、前記金属配線は、金属粒子の焼結体を含み、前記焼結体は、前記樹脂基板に向かう開口部を備えた複数の空隙を有しており、前記開口部から前記空隙の中へ前記樹脂基板の一部が入り込んでなる、
配線基板。
【0011】
(2)前記金属粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む、前記(1)に記載の配線基板。
【0012】
(3)前記空隙の割合は、1体積%以上30体積%以下である、前記(1)または(2)に記載の配線基板。
【0013】
(4)前記空隙は、その一部が連結して、前記開口部から入り込んだ前記樹脂基板の一部が連結している、前記(1)~(3)のいずれかに記載の配線基板。
【0014】
(5)前記焼結体において前記樹脂基板と接する境界面と反対側に位置する表面に、樹脂表面層が形成された、前記(1)~(4)のいずれかに記載の配線基板。
【0015】
(6)樹脂基板と金属粒子の焼結体を含む金属配線とを有する配線基板を製造する方法であって、焼結用部材の上に前記焼結体を形成する焼結体形成工程と、前記焼結用部材の上において、前記焼結体の表面及び前記焼結体の周囲に、樹脂成分を含む溶液を塗布する塗布工程と、前記樹脂成分を硬化させて樹脂基板を形成する硬化工程と、前記焼結体及び前記樹脂基板を前記焼結用部材から剥離する剥離工程と、を備える、配線基板の製造方法。
【0016】
(7)前記溶液は、樹脂の前駆体物質又は樹脂の重合性単量体を含む、前記(6)に記載の配線基板の製造方法。
【0017】
(8)樹脂基板と金属粒子の焼結体を含む金属配線とを有する配線基板を製造する方法であって、樹脂基板を準備する工程と、前記樹脂基板の上に前記焼結体を形成する焼結体形成工程と、を備える、配線基板の製造方法。
【0018】
(9)前記樹脂基板の上に樹脂成分を含む溶液を塗布し、前記樹脂成分を硬化させて、界面樹脂層を形成する工程を含み、前記焼結体形成工程は、前記界面樹脂層の上に前記焼結体を形成することを含む、前記(8)に記載の配線基板の製造方法。
【0019】
(10)前記溶液は、樹脂の前駆体物質又は樹脂の重合性単量体を含む、(9)に記載の配線基板の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂基板に由来する柔軟性と金属配線に由来する高い電気伝導性とを兼ね備えながら、金属配線と絶縁性の樹脂基板との間の密着性を高めた配線基板を提供することができる。また、本発明に係る配線基板の製造方法によれば、そのような配線基板を、フォトリソグラフィー工程を用いることなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る配線基板の断面を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る配線基板の製造方法を説明するための模式図であり、(a)及び(b)は、焼結体形成工程を示し、(c)は、樹脂の塗布工程を示し、(d)は、樹脂の硬化工程を示し、(e)は、剥離工程を示す図である。
図3A】実施例2の試料における樹脂基板及び焼結体の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図3B図3Aにおける焼結体の断面組織を拡大した図である。
図3C図3Bについて2値化処理が行われた組織を示す図である。
図4】実施例2の試料における樹脂基板と焼結体との境界近傍の断面を示す図である。
図5】実施例2の試料における焼結体の樹脂表面層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
1.配線基板
以下、本実施形態に係る配線基板について、図1を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る配線基板において焼結体を備える部分の縦断面図である。
【0024】
本実施形態に係る配線基板1は、樹脂基板2と金属配線とを有する配線基板であって、前記金属配線は、金属粒子の焼結体3を含むものである。そして、焼結体3は、複数の空隙4a,4b,4c,4dを有している。本明細書では、空隙4a,4b,4c,4dをまとめて、空隙4と記載することもある。空隙4は、その少なくとも一部に、樹脂基板2に向かう開口部41a,41b,41c,41dを備えており、開口部41a,41b,41cから空隙4の中へ、樹脂基板2の一部21a,21b,21cが入り込んでいる。図1に示すように、樹脂基板の一部21a,21b,21cは、空隙4a,4b,4cの中に屈曲して入り込んでいる。このような形態を有することにより、絶縁性の樹脂基板と焼結体との接触部が増加する。さらに、焼結体と樹脂基板とが剥離する場合、空隙内に入り込んだ樹脂が変形する必要があることから、焼結体と樹脂基板との剥離が抑制される。そのため、本実施形態の構造を備えることにより、焼結体と樹脂基板との間の密着性を高めることができる。
【0025】
また、開口部41a,41bから入り込んだ樹脂基板2の一部21a,21bは、その両者同士が空隙4の中で連結していることが好ましい。このような連結構造を備えることにより、焼結体と樹脂基板との接触部分が増加する。さらに、焼結体と樹脂基板とが剥離する場合、空隙の中で連結してなる樹脂基板が切断される必要があることから、焼結体と樹脂基板との剥離が抑制される。そのため、本実施形態の構造を備えることにより、焼結体と樹脂基板との間の密着性を高めることができる。
【0026】
本実施形態に係る配線基板は、樹脂基板と焼結体との間に界面樹脂層が介在する形態を含んでいてもよい。
【0027】
[空隙率]
また、焼結体は、その空隙の割合が合計で1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。本明細書では、当該空隙の割合を「空隙率」という。空隙率が1体積%以上であることにより、樹脂基板の一部が空隙の中に入り込むことができる開口部を有する。、樹脂基板に向かう開口部を備えた空隙の割合が増加して、樹脂基板の一部が空隙の中へ入り込みやすくなり、その結果、樹脂基板と焼結体との間の密着性を高めることができる。よって、空隙率は、1体積%以上が好ましく、さらに、7体積%以上、10体積%以上であることが好ましい。
【0028】
他方、空隙率が30体積%を超えると、焼結体を破断させる恐れがあり、焼結体の導電性の低下を招く恐れがある。焼結体の破断耐性及び導電性を高める観点から、空隙率は、30体積%以下であることが好ましく、さらに、27体積%以下、25体積%以下であることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る空隙の割合である「空隙率」は、次のように算出されるものとする。すなわち、焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、当該断面の外周で縁取られる内部の面積を「全断面積」として得るとともに、当該内部に分布する空隙の面積を「空隙面積」として得る。そして、以下に示す式(1)で与えられる数値を、10個の断面で平均して求めた数値が空隙率である。
空隙率(%)=(空隙面積/全断面積)×100 ・・・式(1)
【0030】
また、本実施形態に係る空隙率は、走査型電子顕微鏡による観察画像において、焼結体端部(焼結体表面および樹脂基板との界面)を含まない領域を選択し、選択した領域の画像面積が焼結体全断面積の1/3から2/3の範囲となる条件で算出されるものとする。
【0031】
[樹脂基板]
樹脂基板2は、主として樹脂を含む基板であり、この樹脂基板2上に金属粒子の焼結体3を形成して、配線基板1を構成するためのものである。
【0032】
樹脂基板を構成する樹脂は、特に限定されない。ポリイミド、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する樹脂を用いることができる。
【0033】
樹脂基板は、配線基板の用途に応じて、樹脂以外に、酸化防止剤、難燃剤、無機物粒子からなるフィラー等を含むことができる。
【0034】
樹脂基板の厚さは、特に限定されない。例えば、樹脂基板の厚さが5μm以上であると、曲げや引張変形に対する基板の破断を防止することができる。そのため、5μm以上が好ましく、10μm以上、または、15μm以上がさらに好ましい。他方で、樹脂基板の厚さが過大であると、樹脂材料に由来する可撓性が低下する。そのため、樹脂基板の厚さは、100μm以下が好ましく、75μm以下、または、50μm以下がさらに好ましい。
【0035】
また、本実施形態に係る樹脂基板は、焼結体と接触する境界面に界面樹脂層が設けられた形態を含んでいる。
【0036】
[焼結体]
本実施形態に係る配線基板における焼結体は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属粒子によって構成されるものであり、配線基板において導電経路の金属配線として機能するものである。
【0037】
焼結体における金属粒子として、銅を用いることにより、低い電気抵抗を示す金属配線を低いコストで提供できる。また、当該金属粒子として、銀を用いることにより、高温焼結時においても配線が酸化しない。さらに、当該金属粒子として、ニッケルを用いることにより、高電流密度の負荷状態で発生するエレクトロマイグレーション不良を抑制できる。
【0038】
金属粒子は、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される複数の金属粒子から構成されてもよい。この場合の焼結体は、その一部または全部が合金化していてもよい。
【0039】
焼結体の内部に空隙が含まれる場合、機械的強度が低い部分が存在する。このような部分として、例えば、金属粒子同士が焼結した箇所が細く形成される「ネック」と呼ばれる部位が挙げられる。配線基板に可撓性を有する樹脂基板を選択することにより、フレキシブル回路として使用できるそのような用途で変形に伴って配線基板を変形させると、ネックに力が集中して、局所破壊を起こしやすくなる。
【0040】
そこで、焼結体が多孔質構造を有する場合には、多孔質構造の間隙に、導電性を有する金属元素を含むことが好ましく、特に焼結体を構成する金属元素と同じ金属元素のめっきを含むことが好ましい。当該金属元素は、銅、銀、錫、及びニッケルからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。このような金属めっきの存在により、変形の際にネックへ集中する力を分散することができ、屈曲や伸縮等の変形に対する耐久性が向上する。さらに、導電性を有する金属元素によって空隙が充填されることから、焼結体の電気抵抗率が低下する。
【0041】
なお、焼結体を構成する金属元素の種類や、配線基板が置かれる環境によっては、不可避的に焼結体中の金属元素が酸化することがある。したがって、焼結体は、導電性が担保される限りにおいて、例えば、原子数換算で最大20%以下の金属原子が酸化していてもよい。また、焼結体は、銅、銀、錫、及びニッケル以外の各種添加物や不可避的不純物を、焼結体(100質量%)に対し、30質量%程度含んでいてもよい。不可避的不純物には、酸化物における酸素元素も含まれる。
【0042】
[樹脂表面層]
本実施形態に係る配線基板は、焼結体において樹脂基板と接する境界面と反対側に位置する表面に、樹脂表面層を含む形態であることが好ましい。本明細書では、焼結体の表面に形成される樹脂層を「樹脂表面層」という。焼結体には、一定以上の空隙率で複数の空隙が分布している。そのため、本実施形態に係る配線基板を焼結用部材の上で製造する過程において、樹脂基板の樹脂が焼結体内の連結した空隙を通過し、焼結体と焼結用部材との界面まで濡れ広がる。その結果、樹脂基板と接する境界面と反対側に位置する焼結体の表面に、樹脂表面層が形成される。このような樹脂表面層を含む配線基板は、大気中で加熱された環境下で使用された場合、焼結体の表面が樹脂表面層で被覆されているので、表面の酸化が抑制され、良好な耐久性を示す点で好ましい。
【0043】
2.配線基板の製造方法
(1)製造方法の実施形態例1
本実施形態に係る配線基板の製造方法は、樹脂基板と金属粒子の焼結体を含む金属配線とを有する配線基板を製造する方法であって、焼結用部材の上に前記焼結体を形成する焼結体形成工程と、前記焼結用部材の上において、前記焼結体の表面及び前記焼結体の周囲に、樹脂成分を含む溶液を塗布する塗布工程と、前記樹脂成分を硬化させて樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、前記焼結体及び前記樹脂層を前記焼結用部材から剥離する剥離工程と、を備える。
【0044】
(2)製造方法の実施形態例2
本実施形態に係る配線基板を製造する別の方法として、樹脂基板と金属粒子の焼結体を含む金属配線とを有する配線基板を製造する方法であって、樹脂基板を準備する工程と、前記樹脂基板の上に樹脂成分を含む溶液を塗布する工程と、前記樹脂成分を硬化させて樹脂界面層を形成する硬化工程と、前記樹脂界面層の上に前記焼結体を形成する焼結工程と、を備える製造方法であってもよい。
【0045】
予めフィルム形状や板形状などに作製した樹脂基板を準備し、当該樹脂基板の上に金属含有ペーストを塗布し、乾燥、焼成工程を経て、金属粒子の焼結体を作製することができる。このとき、金属含有ペーストの焼成温度は、樹脂基板の熱による変質を防ぐことができる温度であり、例えば、ポリイミド基板であれば、略450℃以下とする必要がある。
【0046】
また、前記樹脂基板の上に樹脂成分を含む溶液を塗布し、前記樹脂成分を硬化させて、界面樹脂層を形成する工程を含み、前記焼結工程は、前記界面樹脂層の上に前記焼結体を形成することを含む製造方法であってもよい。樹脂基板と焼結体との密着性を高めるために、樹脂基板の上に樹脂前駆体あるいは樹脂溶液を塗布し、所定の熱処理工程を経て界面樹脂層を形成する。その後、当該界面樹脂層の上に金属含有ペーストを塗布し、乾燥及び焼成工程を経て、金属粒子の焼結体を作製してもよい。樹脂前駆体としては、例えば、ポリアミック酸を使用できる。樹脂溶液としては、例えば、ポリイミドワニスを使用できる。
【0047】
そして、上記「(1)製造方法の実施形態例1」及び「(2)製造方法の実施形態例2」のような配線基板の製造方法によれば、上記「1.配線基板」に記載した特徴を有する配線基板が得られる。すなわち、樹脂基板と金属配線とを有する配線基板であって、前記金属配線は、金属粒子の焼結体を含み、前記焼結体は、前記樹脂基板に向かう開口部を備えた複数の空隙を有しており、前記開口部から前記空隙の中へ前記樹脂基板の一部が入り込んでなる配線基板が得られる。
【0048】
以下、図2を用いて、本実施形態に係る配線基板の製造方法について説明する。図2は、当該製造方法を説明するための模式図である。以下、上記「製造方法の実施形態例1」に基づいて説明する。本発明に係る製造方法は、実施形態例1に限定されるものでない。上記「製造方法の実施形態例2」によっても本発明の特徴を有する配線基板を提供することができる。
【0049】
[焼結体形成工程]
本実施形態に係る焼結体形成工程を図2の(a)及び(b)に示す。焼結体形成工程は、焼結用部材5の上に、金属粒子の焼結体6を形成する工程である。当該金属粒子として、銅、銀及びニッケルからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0050】
なお、以下、焼結用部材5の上に焼結体6を形成する方法の一例を説明する。本発明に係る製造方法は、以下の具体例に限定されない。本発明の効果を阻害しない限りにおいて、公知又は非公知のあらゆる例を採用することができる。
【0051】
(焼結用部材)
焼結用部材は、この焼結用部材の上に塗布された金属粒子を含む金属含有ペースト、その乾燥物、及びそれが焼結されて形成された焼結体がある程度接着し、その後の工程において容易に剥離しないものを選択することが好ましい。
【0052】
焼結用部材の素材や種類は、金属含有ペーストを高温で焼結するときに、金属と反応しない材料が良い。例えば、無機材料からなる無機基板を用いることができ、炭化物基板、窒化物基板及び酸化物基板のいずれかを用いることができる。具体的には、無機材料としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)、ケイ酸ガラス(SiO)、マグネシア(MgO)、アルミナ(Al)、ムライト(Al+SiO)、シリコン(Si)等が挙げられる。さらに、モリブデン、タングステン、などのシート状に成型が可能かつペースト中の金属と反応しない金属を用いることができる。焼結体及び樹脂基板からなる配線基板を焼結用部材から剥離する際の剥離性が良好である点で、マグネシア(MgO)またはケイ酸ガラス(SiO)の素材が好ましい。
【0053】
また、焼結用部材として、グラファイト基板を用いてもよい。グラファイト基板を焼結用部材に用いる場合、配線基板における樹脂層の上にグラファイト粒子が付着することがあり、配線基板の用途によっては、樹脂層の機能(例えば電気的絶縁性)が損なわれることがある。このような場合には、焼結用部材の表面を炭化物、窒化物、酸化物等の絶縁体で被覆して用いることもできる。
【0054】
この例に示すように、焼結用部材は、金属含有ペースト、その乾燥物及び焼結体との密着性や、得られる配線基板の用途を考慮して、焼結用部材の表面を修飾又は被覆してもよい。なお、修飾又は被覆は、有機及び無機のいずれであってもよい。
【0055】
焼結用部材の表面の平均粗さ(Ra)は、25μm以下であることが好ましい。当該平均粗さ(Ra)が25μm以下であることにより、焼結用部材の表面に形成される樹脂層の表面の平滑性を担保して、樹脂層の引張変形や曲げ変形に対して断裂する起点が発生することを防止することができる。
【0056】
(金属含有ペースト)
金属含有ペーストは、銅、銀又はニッケルからなる群から選択される1種以上を含む金属の焼結体を形成するために用いるものである。具体的に、金属含有ペーストは、例えば少なくとも金属粒子又は金属酸化物粒子、バインダー樹脂及び溶媒を含むものである。
【0057】
(金属粒子又は金属酸化物粒子)
金属粒子は、銅、銀又はニッケル以外の金属元素を含んでもよい。銅、銀及びニッケル以外の金属元素の含有量は、金属焼結体中に含まれる全ての金属元素に対し、その状態にかかわらず金属換算で、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であってもよい。
【0058】
金属含有ペースト中のガラスフリット等のガラス成分の含有量としては、特に限定されない。金属含有ペースト中に含まれる全ての金属元素に対し、その状態にかかわらず金属換算で、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下0.5質量%以下、または、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。金属含有ペースト中のガラス成分の含有量が5質量%を超えると、金属含有ペーストにより焼結体を形成する焼結工程において、このガラス成分と焼結用部材とが過度に反応する。そのため、樹脂層を焼結用部材から引き剥がす際に、焼結体が焼結用部材の表面に残留する恐れがあり、好ましくない。また、ガラス成分の含有量が、0.5質量%以下、または0.1質量%以下であることにより、焼結体における電気抵抗率の増加を抑制することができる。
【0059】
金属粒子又は金属酸化物粒子の平均粒子径(D50)は、特に限定されない。当該平均粒子径(D50)は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。当該平均粒子径(D50)が0.1μm以上であることにより、焼結用部材5の表面凹凸の影響を受けて断線部が生じて配線としての機能が損なわれたり、開口する空隙も粒子径と同等の小さなサイズとなり樹脂基板の一部が入り込むことが困難になったりすることを防止できる。当該平均粒子径(D50)が20μm以下であることにより、空隙の屈曲部を形成することができる。なお、本実施形態に係る金属粒子又は金属酸化物粒子の平均粒子径(D50)は、50体積%粒子径をいい、レーザー回折法によって測定される粒子径をいう。
【0060】
金属粒子又は金属酸化物粒子の含有量としては、特に限定されない。例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、80質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0061】
(バインダー樹脂)
金属含有ペーストに配合されるバインダー樹脂は、焼結によって分解される樹脂材料であれば、特に限定されない。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。酸素や一酸化炭素と反応してペースト中から容易に消失する傾向を有するセルロース系樹脂が好ましい。セルロース系樹脂においては、エチルセルロースが好ましい。
【0062】
バインダー樹脂の含有量は、特に限定されない。例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。焼結体にバインダー樹脂が残留すると、電気抵抗率を増加させる。大気下で焼結を行う場合、バインダー樹脂が大気中の酸素と反応して燃焼させることにより、焼結体に残留するバインダー樹脂の量を低減させて、焼結体の電気抵抗率を低減させることができる。そのため、バインダー樹脂の含有量は、5質量%以下であることが好ましい。、バインダー樹脂の含有量が5質量%以下であることにより、バインダー樹脂成分が焼結体中に残留することを抑制して、焼結体の電気抵抗率に与える影響を無視できるようにすることができる。一方で、金属含有ペースト中のバインダー樹脂が0.1質量%以上であることにより、金属含有ペーストの粘度を高め、ペーストの塗布性又は印刷性を高めることができる。そのため、バインダー樹脂の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0063】
(溶剤)
金属含有ペーストに含有される溶剤は、適正な沸点、蒸気圧、粘性を有するものであれば、特に限定されない。例えば、炭化水素系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤、環状エーテル系溶剤、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系化合物、多価アルコールのエステル系溶剤、多価アルコールのエーテル系溶剤、テルペン系溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中で、沸点が200℃近傍にあるテキサノール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール等が好ましい。
【0064】
金属含有ペーストに含有される溶剤の含有量は、特に限定されない。例えば、金属含有ペースト100質量%に対し、2質量%以上25質量%以下であることが好ましい。溶剤の含有量が25質量%以下であることにより、金属含有ペーストの粘度が減少し、所望の印刷形状より拡大することを抑制できる。一方で、溶剤の含有量が2質量%以上であることにより、金属含有ペーストの印刷性を高めることができる。
【0065】
本実施形態における「有機ビヒクル」とは、バインダー樹脂、溶媒及びその他必要に応じて添加される有機物を全て混合した液体をいう。有機ビヒクルとしては、通常、バインダー樹脂と溶剤とを混合して調製したものを用いることができる。さらに、有機ビヒクルに金属塩とポリオールを混合してもよい。
【0066】
金属含有ペーストの製造方法は、特に限定されない。例えば、上述したバインダー樹脂と溶媒を混合し、さらに金属粒子を添加して、遊星ミキサー等の装置を用いて混練することができる。必要に応じて三本ロールミルを用いて、金属粒子の分散性を高めることもできる。
【0067】
焼結用部材の上に、金属含有ペーストを塗布又は印刷して、配線や電極等の所定形状となるように形成する。具体的に、塗布又は印刷の方法としては、スクリーン印刷、ディスペンサー印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0068】
(焼結)
焼結用部材の上に、金属含有ペーストを塗布又は印刷した後、焼結用部材を600℃以上800℃以下の温度で加熱して焼結体を得る。
【0069】
焼結は、窒素雰囲気下、又は還元雰囲気下で、一段階で行ってもよいし、酸化雰囲気下での加熱後に還元雰囲気での加熱を二段階で行ってもよい。なお、加熱を二段階で行う場合、二段階の両方の加熱温度は、600℃以上800℃以下の温度とする。
【0070】
以下、加熱を二段階で行う場合のガス雰囲気について説明する。
【0071】
酸化雰囲気中の酸化性ガスは、例えば、酸素又は大気等を用いることができる。また、酸化性ガス以外のガスと酸化性ガスとを混合して用いることができる。酸化性ガス以外のガスは、不活性ガス(例えば窒素ガスやアルゴンガス)を用いることができる。
【0072】
酸化雰囲気中の酸素の濃度は、特に限定されない。酸素分圧で示すと、50Pa以上であることが好ましく、60Pa以上または70Pa以上であることがさらに好ましい。雰囲気の圧力が大気圧(10Pa)である場合、これらの酸素分圧を体積比の濃度に換算すると、500ppm以上であることが好ましく、600ppm以上、または700ppm以上であることがさらに好ましい。
【0073】
酸素濃度が500ppm以上であることにより、金属含有ペースト中のバインダー樹脂を十分に燃焼して消去することができる。一方で、酸化性ガスの濃度が8000ppmを超えると、金属含有ペーストの表面近傍でのみ急速に反応が生じる恐れがある。焼結体内部まで十分に焼結させるため、酸素ガス濃度が8000ppm以下であることが好ましい。
【0074】
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、ギ酸、アンモニア等を用いることができる。また、還元性ガス以外のガスとしては、不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガスを用いることができる。
【0075】
還元性ガスの濃度は、特に限定されない。還元雰囲気の圧力が大気圧(10Pa)である場合、還元性ガスの濃度は、体積比で0.5%以上であることが好ましく、1%以上、または2%以上であることがさらに好ましい。体積比で0.5%未満であると、焼結体における銅、銀又はニッケル等金属酸化物の還元が充分に行われず、金属酸化物が残存するため、焼成後の金属配線は、高い電気抵抗率を呈する恐れがある。
【0076】
金属粒子を含むペーストを用いる場合は、窒素雰囲気下で焼結してもよい。または、金属酸化物粒子を含むペーストを用いる場合は、還元雰囲気下で焼結してもよい。いずれの場合も焼結温度は600℃以上850℃以下が好ましい。
【0077】
[塗布工程]
本実施形態に係る塗布工程を図2の(c)に示す。塗布工程は、焼結用部材5の上において、焼結体6の表面及び焼結体6の周囲に、樹脂成分を含む溶液7を塗布する工程である。
【0078】
本実施形態に係る塗布工程の樹脂成分は、樹脂の前駆体物質又は樹脂の重合性単量体を用いることができる。溶媒を除去する乾燥処理または更なる処理によって硬化する樹脂又はその前駆体物質を用いることができる。
【0079】
重合性単量体としては、重合又はさらなる処理によって硬化する樹脂の単量体であれば特に限定されない。例えば、ポリイミド、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する樹脂の単量体が挙げられる。
【0080】
また、樹脂の「前駆体物質」とは、何らかの処理を施すことにより、硬化して、可撓性を有する樹脂が得られる物質をいう。前駆体物質は、例えば、樹脂としてポリイミドを用いる場合のポリアミック酸が挙げられる。このポリアミック酸は、イミド化処理を施すことによりポリイミドに変化する物質であり、ポリイミドの前駆体物質であるといえる。なお、本実施形態に係る前駆体物質には、重合した後に、何らかの処理を施して硬化するような単量体も含まれる。
【0081】
溶剤は、特に限定されない。樹脂成分の溶解度や塗布方法に応じた粘度などを考慮して適宜選択することができる。例えば、ポリイミド樹脂の場合は、N-メチルピロリドンを溶剤とすることができる。
【0082】
樹脂成分を含む溶液の粘度は、特に限定されない。例えば、0.5Pa・s以上であることが好ましく、2Pa・s以上であることがより好ましい。一方、50Pa・s以下であることが好ましく、25Pa・s以下であることがより好ましい。溶液の粘度が0.5Pa・s以上、50Pa・sであることにより、焼結体の空隙に樹脂基板の一部が入り込むことができる。さらに、溶液の粘度が2Pa・s以上、25Pa・s以下であることにより、焼結体の空隙に入り込んだ樹脂基板の一部同士が連結し、高い密着強度と高い破断伸びを得ることができる。
【0083】
塗布の方法としては、特に限定されない。例えば、スリットコーター、バーコーター、スピンコーターなどを用いることができる。
【0084】
以上のように、樹脂成分を含む溶液を焼結用部材の上に塗布した後、乾燥させる。乾燥の方法は、特に限定されず、例えば、常温、大気圧下で乾燥させてもよいし、加熱及び減圧の少なくともいずれかを行ってもよい。
【0085】
乾燥後の樹脂成分含有層の厚さは、ほぼ樹脂基板の厚さに等しくなる。乾燥後の樹脂成分含有層の厚さは、特に限定されない。例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上、または15μm以上であることがさらに好ましい。一方、100μm以下であることが好ましく、75μm以下、または50μm以下であることがさらに好ましい。乾燥後の樹脂成分含有層の厚さが5m以上であることにより、曲げや引張変形に対する基板の破断を防止できる。一方で、乾燥後の樹脂成分含有層の厚さが100m以下であることにより、優れた可撓性を付与することができる。
【0086】
[硬化工程]
本実施形態に係る硬化工程を図2(d)に示す。硬化工程は、塗布または印刷された樹脂成分含有溶液の中に含まれる前駆体物質又は重合性単量体などの樹脂成分を樹脂に変換して、その樹脂が硬化した状態の樹脂基板層8を形成する工程である。
【0087】
硬化方法としては、特に限定されず、それぞれのモノマーの化学種に応じて加熱したり、各種触媒を用いたりすればよい。例えば、前駆体物質としてポリアミック酸を用い、樹脂としてのポリアミドを形成する場合には、加熱による脱水反応を経由してもよい。
【0088】
本実施形態に係る配線基板の製造方法は、硬化工程において、樹脂基板の樹脂が焼結体内の連結した空隙を通過し、焼結体と焼結用部材との界面まで濡れ広がる。その結果、樹脂基板と接する境界面と反対側に位置する焼結体の表面に、樹脂表面層が形成される。
【0089】
[剥離工程]
本実施形態に係る剥離工程を図2の(e)に示す。剥離工程は、焼結体6及び樹脂層8を焼結用部材5から剥離する工程である。例えば、樹脂層8の端部を掴み、剥離させる方向に引くことにより、焼結体6及び樹脂層8を焼結用部材5から剥離することができる。
【実施例
【0090】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0091】
[実施例1~4、比較例1~2]
(試料の調製)
焼結用部材としてマグネシア板を用いた。この焼結用部材の表面に、スクリーン印刷法によって銅ペーストを印刷した。銅ペーストとしては、平均粒径が1μmの球状粒子80質量%と、バインダー樹脂と溶媒の混合体からなるビヒクル20質量%とを含有するものを用いた。印刷した銅ペーストは、100℃の大気中で乾燥を行った後、窒素雰囲気にて熱処理を施して焼結を行い、次いで室温まで冷却した。表1に示すように、熱処理温度を600℃から850℃の範囲において、また、熱処理時間を30分から60分の範囲において適宜変化して実施することにより、実施例1~4及び比較例1~2の空隙率が異なる焼結体を得た。得られた焼結体の銅配線の概略寸法は、線幅が200μm、高さが13μm、長さが6cmであった。
【0092】
実施例1~4及び比較例1~2の各試料について、焼結体(銅配線)を有する焼結用部材の表面に、溶剤量を調整して粘度を10Pa・sとしたポリイミドワニス(宇部興産株式会社の製品「ユピア」)を塗布した。次いで、窒素雰囲気において280℃で10分の熱処理を施し、その後350℃で30分の熱処理を施して、ポリイミドワニスを硬化させて、フィルム状のポリイミド樹脂基板を形成した。当該樹脂基板の厚さは、焼結体と接触する中心部で25μm、端部で31μmであった。室温まで冷却した後に、銅焼結体とポリイミド樹脂基板とからなる積層体を焼結用部材から剥離させた。その後、得られた積層体に対して、平坦な断面を得るためのクロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製のIB-19530CP)を用いてイオンビーム加工処理を施した。
【0093】
(断面観察)
得られた銅焼結体及びポリイミド樹脂基板からなる積層体は、その大きさが約20mm×約15mmであった。銅配線が形成された長手方向において、その中心付近で垂直に切断し、断面観察用のサンプルを得た。電界放射型の走査電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する。)を用いて、積層体の断面組織を観察した。実施例2の試料を観察した断面組織を図3Aに示す。銅焼結体11の上側が焼結用部材に接していた部分である。銅焼結体の全体が樹脂基板12内に埋設されていることを確認できた。図3Aにおいて点線で示した枠で囲まれた銅配線領域のみを含む画像部分を切り出した(図3B)。そして、画像解析ソフトウェア(Image J)を用いて2値化して、図3Cに示すような白黒画像を得た。図3Cの黒い部分の面積比率をImage Jで算出して空隙率(%)を求めた。
【0094】
空隙率の算出に際しては、試料の断面組織において任意に10個の箇所を選定し、それぞれの空隙率を求めて、その平均値を本実施例における焼結体の空隙率とした。
【0095】
図4は、図3Aの銅焼結体11と樹脂基板12との境界面近傍を拡大して示した図である。図4の境界面16に表示した点線は、銅焼結体の断面の外周縁に沿って線を描いたものであり、銅焼結体と樹脂基板との境界を示している。この境界線より内側に位置して銅焼結部分が存在しない領域が銅焼結体の空隙に相当する。また、このSEM画像を目視で観察し、当該境界面16より内側に樹脂が存在する場合は、空隙の中に樹脂が入り込んだ状態であると判定した。例えば、図4の境界面16付近に存在する空隙13および空隙14の内部には、樹脂基板12に向かう開口部9,10を備えており、樹脂基板の樹脂の一部が空隙13,14の中に入り込んでいた。さらに、空隙13と空隙14とは、銅焼結体の内部において連結しており、それぞれの空隙の中に入り込んだ樹脂15も連結していた。
【0096】
本明細書では、樹脂基板の樹脂の一部が銅焼結体の空隙の中に入り込んだ状態である場合は、その配線基板が「樹脂の入り込み」を有するという。また、焼結体における複数の空隙の中に入り込んだ樹脂同士が連結してなる場合は、その配線基板が「樹脂の連続性」を有するという。
【0097】
(電気抵抗率の測定)
実施例2の試料の電気抵抗率を、プローブ間隔が1mmの直流四探針法を用いて測定した。
【0098】
(密着性の評価)
密着性の評価するためのサンプルを作製した。マグネシア基板上の10mm角の領域に銅ペーストを塗布した後、焼成して平板状の銅焼結体を得た。その後、粘度15 Pa・sのポリイミドワニスを塗布して、熱処理を行い、室温まで冷却した後、焼結用部材から剥離した。得られた銅焼結体と樹脂基板とが積層されたサンプルを用いて、ASTM D 3359-79に準じてテープテストを行い、樹脂基板から剥離した銅焼結体の剥離部の面積を測定して面積率(%)を求めて、銅焼結体と樹脂基板との密着性を評価した。密着性は、以下に示すように剥離部の面積率(%)に応じて0~5までの6段階で評価した。なお、5が最高、0が最低の密着強度である。
5:0
4:0%超5%未満
3:5%以上15%未満
2:15%以上35%未満
135%以上65%未満
0:65%以上
【0099】
(破断伸びの測定)
また、銅焼結体の長手方向に引張り試験を行い、伸びひずみの増加に伴う電気抵抗の変化を測定した。その結果、伸びひずみが18%の時点で電気抵抗が初期値に対して40%増加した。さらに伸びひずみを増加すると、電気抵抗が急激に増加し、銅焼結体の破断を確認した。本実施例では、電気抵抗の急激な増加が観測されたときの伸びひずみ(%)を「破断伸び」とした。
【0100】
以上の評価結果を表1に示す。望ましい結果は、電気抵抗率が4μΩ・cm以下、密着性評価が3以上、破断伸びが8%以上である。より望ましい結果は、電気抵抗率が3μΩ・cm以下、密着性評価が5、破断伸びが13%以上である。
【0101】
【表1】
【0102】
[実施例5~8、比較例3~4]
実施例5~8、比較例3~4では、650℃、30分の焼成を行って空隙率が28%の銅焼結体を得たこと、及びポリイミドワニスの粘度を0.6から63Pa・sの範囲で変化させたこと以外は、実施例2と同様の条件で試料を作製した。なお、ポリイミドワニスの粘度は、ワニスに含まれるN-メチルピロリドン(NMP)の含有量(ワニスに対する質量%で表記する。)を調整することにより変化させた。得られた試料について、空隙内への樹脂の入り込み、空隙内の樹脂の連続性、密着性及び破断伸びを評価した。この結果を表2に示す。望ましい結果は、密着性評価が3以上、破断伸びが8%以上である。より望ましい結果は、密着性評価が5、破断伸びが13%以上である。
【0103】
【表2】
【0104】
(耐久性の評価)
[実施例9]
実施例2と同様の方法で複数個の銅焼結体のサンプルを作製し、銅焼結体の断面組織をSEMで観察した。図5は、銅焼結体11が樹脂基板と接触する境界面16と反対側に位置する表面付近を拡大して示した図である。焼結体の表面には樹脂表面層17が形成されており、その樹脂表面層17の厚さは、約0.8μmであった。これらのサンプルを大気中にて200℃、250℃及び300℃において10分間の加熱処理を施して冷却した後、銅焼結体の表面を目視で観察した。加熱処理の前後で、銅焼結体の表面において変色を観察されず、表面酸化が抑制された。この点で、本発明に係る配線基板は、使用環境に対して良好な耐久性を有することを確認できた。
【0105】
実施例9の銅焼結体には実施例2と同程度の空隙率で複数の空隙が分布する。そのため、ポリイミドワニスを加熱して硬化するときに、樹脂基板の樹脂が銅焼結体内の連結した空隙を介して銅焼結体と焼結用部材との界面まで濡れ広がったことにより、焼結体の樹脂表面層が形成されたと推測される。
【0106】
[比較例5]
比較例1と同様の方法で複数個の銅焼結体のサンプルを作製し、実施例9と同様の手順で、銅焼結体の表面付近の断面組織をSEMで観察し、さらに加熱処理を施して、銅焼結体の表面を目視で観察した。その結果、銅焼結体の表面には樹脂表面層が観察されなかった。さらに、200℃、250℃及び300℃の各温度の加熱処理を行った後の銅焼結体は、その表面がいずれも黒灰色に変化し、表面が酸化された。
【0107】
比較例5の銅焼結体は、実施例9よりも焼結処理が進行するので、比較例1と同様に空隙の分布割合が小さい。そのため、この銅焼結体には、樹脂基板の樹脂が通過できる程度の連結した空隙が存在しておらず、樹脂表面層の形成に至らなかったと推測される。
【符号の説明】
【0108】
1 配線基板
2 樹脂基板
21a,21b,21c 樹脂基板の一部
3 焼結体
4,4a,4b,4c,4d 空隙
41a,41b,41c,41d 開口部
5 焼結用部材
6 焼結体
7 溶液
8 樹脂基板層
9,10 開口部
11 銅焼結体
12 樹脂基板
13,14 空隙
15 樹脂
16 境界面(点線)
17 樹脂表面層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5