(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】反復関連非ATG(RAN)翻訳を調節するためのEIF3の操作
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20241112BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241112BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241112BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20241112BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241112BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241112BHJP
C07K 2/00 20060101ALN20241112BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20241112BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61P25/00 ZNA
A61P25/14
A61P27/02
A61P21/02
A61P21/04
A61P25/28
A61K45/00
C12N15/113 Z
C07K2/00
C12N5/071
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022047328
(22)【出願日】2022-03-23
(62)【分割の表示】P 2018552049の分割
【原出願日】2017-04-04
【審査請求日】2022-04-21
(32)【優先日】2016-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507371168
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】ローラ・レイナム
(72)【発明者】
【氏名】ファトマ・アイハン
(72)【発明者】
【氏名】タオ・ズー
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501193(JP,A)
【文献】Molecular Cell, 2016, Vol. 62, No. 2, p. 314-322
【文献】Nucleic Acids Research, 2014, Vol. 42, No. 19, p. 11849-11864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088
A61P 25/00
A61P 27/00
A61P 21/00
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞において反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を調節する方法における使用のための、真核生物開始因子3サブユニットm(eIF3m)阻害剤を含む組成物であって、該方法
が、RANタンパク質を発現する細胞を有効量のeIF3m阻害剤と接触させることを含み、ここでeIF3m阻害剤
が、dsRNA、siRNA、shRNA、miRNA、人工miRNA(ami-RNA)、核酸アプタマー、およびアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)からなる群から選択される阻害性核酸であ
り、
eIF3m阻害剤が、eIF3mをコードする遺伝子の発現を減少させる、組成物。
【請求項2】
RANタンパク質が、ポリ-グルタミンではないか、またはRANタンパク質が、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、またはポリ-グルタミンである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
RANタンパク質が、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱性X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)、または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜ジストロフィー(例えば、CTG181)と関連する遺伝子によってコードされる、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
細胞が対象に位置し、所望により細胞が対象の脳に位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、「反復関連非ATG(RAN)翻訳を調節するためのEIF3の操作」とタイトル付けされた2016年4月4日付け米国仮出願番号第62/318,200号の35 U.S.C. 119(e)に基づく利益を主張し、その全体の内容を出典明示により本願明細書に包含させる。
【0002】
連邦支援研究
本願発明は、NIHによって授与されたR37NS040389に基づく政府の支援によってなされた。政府は本願発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
反復関連非ATG(RAN)翻訳の最初の発見以来、疾患関連反復の数が増えて、RAN翻訳を受けることが見いだされている。RANタンパク質毒性がトランスフェクト細胞およびモデル系において示されており、RAN翻訳の疾患病因への関連性を示唆しているが、RAN翻訳の最初の発見以来、RAN翻訳のメカニズムの理解は改善されていない。非ヘアピン形成CAA拡張ではなく、ヘアピン形成CAGが、トランスフェクト細胞においてRAN翻訳を受けることが観察されている。さらに、RAN翻訳を受けることが報告されている他のすべての反復拡張は、鎖内ヘアピンおよびG-四重鎖のような複雑なRNA構造を形成することもできることが観察されている。これらのデータは、RAN翻訳がRNA構造依存的に起こることを示唆している。さらに、より大きな反復拡張は、一般的に、トランスフェクト細胞におけるRANタンパク質蓄積のより高いレベルと関連し、反復の数の増加がRAN翻訳に都合が良いことを示唆する。RAN翻訳に関与するさらなるcis-およびtrans-因子は、まだ解明されていない。
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
いくつかの態様において、本開示の局面は、反復関連非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を有効量の真核生物開始因子3(eIF3)調節剤と接触させることによって、反復関連非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を調節する方法を提供する。
【0005】
いくつかの態様において、RANタンパク質は、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、poly-Leu-Pro-Ala-Cys(配列番号:6)(例えば、DM2と関連する)、poly-Gln-Ala-Gly-Arg(配列番号:5)(例えば、DM2と関連する)、poly-Gly-Pro、poly-Gly-Arg、poly-Gly-Ala(例えば、センス C9orf72 ALS/FTD)、またはpoly-Pro-Ala、poly-Pro-Arg、poly-Gly-Pro(例えば、アンチセンス C9orf72 ALS/FTD)である。いくつかの態様において、RANタンパク質はポリ-グルタミンではない。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約10から約100個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約20から約75個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約30から約200個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも35個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも100個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも200個のポリ-アミノ酸反復(例えば、少なくとも500、1000、2000、2500、5000、10000個などのポリ-アミノ酸反復)を含む。
【0006】
いくつかの態様において、RANタンパク質は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱性X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)、または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜ジストロフィー(例えば、CTG181)と関連する遺伝子によってコードされる。
【0007】
いくつかの態様において、eIF3調節剤は、タンパク質、例えば抗体、核酸、または小分子である。いくつかの態様において、eIF3調節剤は阻害性核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、および人工miRNA(ami-RNA)からなる群から選択される干渉RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、アンチセンス核酸、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、または核酸アプタマー、例えばRNAアプタマーである。いくつかの態様において、干渉RNAはsiRNAである。いくつかの態様において、干渉RNAは、eIF3をコードする核酸(例えば、eIF3サブユニットをコードする核酸)に特異的に結合する(例えば、ハイブリダイズする)。
【0008】
eIF3調節剤が、eIF3サブユニット(例えば、eIF3F核酸)をコードする核酸の発現またはeIF3タンパク質(例えば、eIF3fサブユニット)の発現を低下させることができると理解されるべきである。いくつかの態様において、eIF3調節剤は、eIF3a、eIF3b、eIF3c、eIF3d、eIF3e、eIF3f、eIF3g、eIF3h、eIF3i、eIF3j、eIF3k、eIF3l、およびeIF3mからなる群から選択されるeIF3サブユニットの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3fまたはeIF3mの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3調節剤は、eIF3A、eIF3B、eIF3C、eIF3D、eIF3E、eIF3F、eIF3G、eIF3H、eIF3I、eIF3J、eIF3K、eIF3L、およびeIF3Mからなる群から選択されるeIF3サブユニットをコードする核酸の発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3fまたはeIF3mの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3FまたはeIF3Mの発現を低下させる。
【0009】
いくつかの態様において、eIF3調節剤は、eIF3a、eIF3b、eIF3c、eIF3d、eIF3e、eIF3f、eIF3g、eIF3h、eIF3i、eIF3j、eIF3k、eIF3l、およびeIF3mからなる群から選択されるeIF3サブユニットの発現を増加させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3hの発現を増加させる。いくつかの態様において、eIF3調節剤は、eIF3A、eIF3B、eIF3C、eIF3D、eIF3E、eIF3F、eIF3G、eIF3H、eIF3I、eIF3J、eIF3K、eIF3L、およびeIF3Mからなる群から選択されるeIF3サブユニットをコードする核酸の発現を増加させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3fまたはeIF3mの発現を増加させる。いくつかの態様において、eIF3インヒビターは、eIF3FまたはeIF3Mの発現を増加させる。
【0010】
いくつかの態様において、細胞は対象に位置する。いくつかの態様において、細胞は、対象の脳、所望により脳の白質に位置する。いくつかの態様において、対象は動物である。いくつかの態様において、対象は哺乳動物である。いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0011】
いくつかの態様において、本開示の局面は、反復関連非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する対象に有効量の真核生物開始因子3(eIF3)調節剤を投与することによって、反復関連非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、RANタンパク質はポリ-グルタミンではない。いくつかの態様において、RANタンパク質は、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、ポリ-グルタミン、poly-Leu-Pro-Ala-Cys(配列番号:6)(例えば、DM2と関連する)、poly-Gln-Ala-Gly-Arg(配列番号:5)(例えば、DM2と関連する)、poly-Gly-Pro、poly-Gly-Arg、poly-Gly-Ala(例えば、センス C9orf72 ALS/FTD)、またはpoly-Pro-Ala、poly-Pro-Arg、poly-Gly-Pro(例えば、アンチセンス C9orf72 ALS/FTD)である。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも35個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約10から約100個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約20から約75個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、約30から約200個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも100個のポリ-アミノ酸反復を含む。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも200個のポリ-アミノ酸反復(例えば、少なくとも500、1000、2000、2500、5000、10000個などのポリ-アミノ酸反復)を含む。
【0013】
いくつかの態様において、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱性X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)、または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜ジストロフィー(例えば、CTG181)である。
【0014】
いくつかの態様において、eIF3調節剤は、タンパク質、例えば抗体、核酸、または小分子である。いくつかの態様において、eIF3調節剤は阻害性核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、およびami-RNAからなる群から選択される干渉RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、アンチセンス核酸、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、または核酸アプタマー、例えばRNAアプタマーである。いくつかの態様において、干渉RNAはsiRNAである。
【0015】
いくつかの態様において、eIF3調節剤はeIF3fの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3調節剤はeIF3mの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3調節剤はeIF3Fの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3調節剤はeIF3Mの発現を低下させる。いくつかの態様において、eIF3fの発現を低下させるeIF3調節剤およびeIF3mの発現を低下させるeIF3調節剤の両方が、対象に投与される。
【0016】
いくつかの態様において、方法は、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患に対するさらなる治療剤を投与することをさらに含む。いくつかの態様において、さらなる治療剤は、抗体(例えば、RAN反復拡張に特異的に結合する抗体または反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな(unique)領域に特異的に結合する抗体)またはさらなる阻害性核酸である。いくつかの態様において、抗体はpoly-Ser RAN反復拡張に特異的に結合する。いくつかの態様において、抗体はpoly-Ser RAN反復拡張を含むタンパク質のC-末端領域に結合する。
【0017】
いくつかの態様において、eIF3調節剤はeIF3hの発現を増加させる。
【0018】
いくつかの態様において、対象は動物である。いくつかの態様において、対象は哺乳動物である。いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0019】
いくつかの態様において、組成物は、eIF3の(例えばeIF3の1つ以上のサブユニットの)発現および/または活性を調節する1つ以上の(例えば、2、3、4、5、またはそれ以上の)薬剤を含む。
【0020】
いくつかの局面において、本開示は、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する対象に有効量のRAN反復拡張に特異的に結合する抗体、または反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域に特異的に結合する抗体を投与することを含む、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置するための方法を提供する。
【0021】
いくつかの態様において、抗体はポリ-セリン(poly-Ser)反復拡張に結合する。いくつかの態様において、抗体は反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域に結合する。いくつかの態様において、反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域は、配列番号:9に示されている配列であるか、またはそれを含む。
【0022】
いくつかの態様において、本開示によって記載される抗体(例えば、RAN反復拡張に特異的に結合する抗体、または反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域に特異的に結合する抗体)は、対象においてRANタンパク質凝集体を標的とする(例えば、に免疫特異的に結合する)。いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は細胞内RANタンパク質に結合する(例えば、細胞の細胞質または核においてRANタンパク質に結合する)。いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は細胞外RANタンパク質に結合する(例えば、細胞の細胞外膜の外側のRANタンパク質に結合する)。
【0023】
本願のこれらおよび他の局面は、本願明細書により詳細に記載されており、以下の非限定的な図面によって説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1A-1Cは、eIF3FノックダウンがpolyAla RANの減少を引き起こすことを示す。
図1Aは、使用されたプラスミドを示す概略図を示す。polyGlnフレームでのATG。配列は配列番号:18に対応する。
図1B-1Cは、eIF3Fノックダウン(KD)の存在下でpolyGluではなくpolyAlaの減少を示すウェスタンブロットを示す。
【0025】
【
図2】
図2A-2Dは、eIF3HノックダウンではなくeIF3FおよびeIF3MノックダウンがpolyAlaフレームにおいてRANを減少させることを示す。
図2Aは、eIF3複合体組織の概略図を示す。
図2BはRAN発現構築物を示す。ATGはpolyAlaフレームに存在する。配列は配列番号:18に対応する。
図2C-2Dは、polyAlaレベルがeIF3M siRNA処理で低下するが、eIF3H siRNA処理によって増加することを示す。
【0026】
【
図3】
図3A-3Cは、eIF3FがCAG拡張にわたって全3つのフレームにおいてRAN翻訳を制御することを示す。
図3Aは、近いコグネイト開始部位を有さないRAN発現構築物を示す。配列は配列番号:19に対応する。
図3Bは、RANが3つのフレームを減少させることを証明するウェスタンブロットを示す。polySerは、可溶性(上部)および不溶性(下部)画分の両方を示す。
図3Cは、eIF3Fタンパク質の効率的なノックダウンを示すウェスタンブロットを示す。
【0027】
【
図4】
図4A-4Bは、ATXN8の状況においてeIF3Fノックダウンの効果を示す。
図4Aは、ATXN8遺伝子およびCAG反復にわたって発現されるタンパク質を示す。アミノ酸および核酸配列(上から下)は、配列番号:11-13によって表される。
図4Bは、polyGlnおよびpolyAlaフレームにおいてAUGおよび近いコグネイトのために、ATXN8におけるpolySerフレームの発現がeIF3F-ノックダウン感受性であることを示す。
【0028】
【
図5】
図5A-5Bは、C9orf72(ALS)およびDM2状況におけるeIF3Fの効果を示す。
図5Aは、C9orf72ミニ遺伝子(上)およびeIF3F siRNAがGP RANタンパク質を低下させることを示すタンパク質ブロット(下)を示す。
図5Bは、DM2ミニ遺伝子(上)およびeIF3F siRNAがQAGR RANタンパク質を低下させることを示すタンパク質ブロット(下)を示す。
【0029】
【
図6】
図6A-6Eは、polySerタンパク質が脳の白質領域に蓄積することを示す。
図6Aは、ユニークなC-末端を有するpolySer RANタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:14)を示す。ウサギポリクローナル抗体を生成するために使用されるペプチド配列は、下線が引かれている(SSSKARFSNMKDPG、配列番号:15)およびRVNLSVEAGSQKRQSE、配列番号:16)である。
図6Bは、ATG開始N末端Flagエピトープタグ化polySer拡張タンパク質、次に内因性C-末端配列を発現するFlag-Ser-CT構築物の概略図を示す。配列は配列番号:20に対応する。免疫前血清ではなくFlag-Ser-CTでトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるα-Flagおよびα-SerCT1を用いた免疫蛍光(IF)染色の共局在化。
図6Cは、pcDNA3.1ではなくFlag-Ser-CTでトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるα-Flagおよびα-SerCT2を用いた免疫蛍光(IF)染色の共局在化を示す。
図6Dは、pcDNA3.1(第1レーン)ではなくFlag-Ser-CT(第2レーン)でトランスフェクトされたHEK293T細胞の溶解物におけるα-Flag(左)およびα-SerCT2(右)を用いた組換えpolySerタンパク質の検出を示す免疫ブロットを示す。
図6Eは、SCA8 BACマウス小脳の免疫組織化学(IHC)を示し、polySerではなくpolyGlnがPurkinje細胞に蓄積することを示す。対照的に、polySerが分子層および小脳白質において見られる。(挿入:分子層および白質のより高い倍率。
【0030】
【
図7】
図7は、polySer蓄積が年齢および疾患の重症度とともに増加することを示す。α-SerCTで染色された2月(左パネル)、6月(真ん中のパネル)、および最終段階でのSCA8 BACマウス(n=3)の前庭神経核、楔状束核、および運動皮質層II/IIIの典型的なイメージを示す。典型的な凝集体は矢印で示される。
【0031】
【
図8】
図8A-8Dは、SCA8 BACマウスが、polySer蓄積部位に白質異常を示すことを示す。
図8Aは、NTマウスではなく小脳および脳幹SCA8 BACマウスにおいて示されるとき、H&Eによって示される空胞化、ルクソールファストブルー染色(LFB)によって示される関連脱髄、および、α-SMI-32によって示される軸索変性 深層小脳白質におけるSerCTによって示されるpolySer蓄積で観察される部位を示す。
図8Bは、SCA8ヒト剖検組織において、LFBによって示される脱髄、およびα-SMI-32によって示される軸索変性、SerCT抗体により検出されるときpolySer蓄積を有する観察される部位を示す。
図8Cは、CC1(α-APC)抗体を用いた免疫組織化学(IHC)が、NTマウスと比較して、SCA8 BACマウスにおいて成熟乏突起膠細胞の有意に低下した数を示す(NT n=5、SCA8 BAC n=5;**** p<0.0001;平均±SEM;対応がないt検定)。
図8Dは、α-GFAP抗体を用いた免疫蛍光が、NTマウスと比較して、SCA8 BACマウスにおいてアストログリオーシスの有意な増加を示すことを示す(NT n=3、SCA8 BAC n=3、** p<0.01;平均±SEM;対応がないt検定)。
【0032】
【
図9】
図9A-9Fは、哺乳動物翻訳因子eIF3Fが対症的SCA8 BACマウスにおいてアップレギュレートされ、RAN翻訳を制御することができることを示す。
図9Aは、同腹子と比較して、SCA8 BACマウスにおいて相対的Eif3f発現レベルを示す棒グラフを示す。p<0.0001;平均±SEM;対応がないt検定)。
図9Bは、eiF3Fノックダウン実験のために使用される構築物を示す概略図を示す。すべての構築物は、3つのリーディングフレームのそれぞれにタグを有する。Mはメチオニン開始リーディングフレームを示す。配列はすべて配列番号18に対応する。
図9Cは、細胞がeIF3F siRNAと共トランスフェクトされるとき、ATG polySerではなくRAN poly-Serにおける減少を示すα-FLAG抗体を使用したpolySer発現のドットブロット検出を示す。
図9DはpolySer検出の定量を示す。*p<0.05;n.s.有意でない;平均±SEM;対応がないt検定。
図9Eは、細胞がeIF3F siRNAと共トランスフェクトされるとき、ATG polyAlaではなくRAN poly-Alaにおける減少を示すα-HA抗体を使用したpolyAla発現の検出を示す。
図9FはpolyAla検出の定量を示す。*p<0.05;n.s.有意でない;平均±SEM;対応がないt検定。
【0033】
【
図10】
図10A-10Cは、哺乳動物翻訳因子eIF3FがGGGGCC、CAGGおよびCCTG反復にわたって制御することができることを示す。
図10Aは、GGGGCCまたはCAGG構築物とeIF3F siRNAで共トランスフェクトされた細胞におけるRANタンパク質蓄積の減少ならびにCCTGおよびeIF3F siRNAで共トランスフェクトされた細胞におけるRANタンパク質蓄積の増加を示すα-FLAG抗体で検出されたRANタンパク質発現のタンパク質ブロッティングを示す。
図10Bは、タンパク質ブロットの定量を示す。*p<0.05;n.s.有意でない;平均±SEM;対応がないt検定。
図10Cは、eIF3Fノックダウンが、ATG開始コドンを欠く構築物から発現されたGPおよびQAGR RANタンパク質のレベルを減少させ、CCUG拡張RNAにわたって発現されたLPACテトラペプチドタンパク質のレベルを増加させることを示す。
【0034】
【
図11】
図11A-11Eは、poly-Ser反復に結合する抗-Ser抗体の開発を示す。
図11Aは、CAG反復から生じるセンスおよびアンチセンス転写産物から翻訳された推定タンパク質の概略図を示す。
図11Bは、抗-Ser抗体を生成するために使用されたペプチド配列(配列番号:17)(上)およびC-末端FLAGタグを有するpoly-Ser発現構築物(下)を示す。
図11Cは、抗-Ser抗体を用いた免疫ブロット法によって細胞において検出されたpoly-Serを示す。
図11Dは、抗-FLAGおよび抗-Ser抗体によるC-末端FLAG-tagを有するpoly-Serの免疫蛍光検出を示す。
図11Eは、抗-Ser抗体を用いたヒトSCA8およびコントロール剖検組織の免疫組織化学(IHC)染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
真核生物において、リボソーム、開始因子(eIF)および翻訳開始および伸長の特定の工程を含むタンパク質翻訳機構がよく保存されている。しかしながら、リボソームタンパク質、リボソームRNA、tRNAおよびeIF3サブユニットを含む翻訳機構の成分が細胞型および発生段階間で変化することが報告されている。本開示の局面によると、これらの因子の1つ以上(例えば、1つ以上のeIF3サブユニット)の細胞または組織特異的不均一性は、いくつかの態様において、脳においてRANタンパク質蓄積の可変性を構成する。
【0036】
真核生物開始因子3(eIF3)は、真核タンパク質翻訳の開始段階に関与する多タンパク質複合体である。一般的に、ヒトにおいて、eIF3は、13個の同一でないサブユニット(例えば、eIF3a-m)を含む。最大の最も複雑な開始因子である哺乳動物eIF3は、最大13個の同一でないサブユニットを含む。一般的に、eIF3fは、三重複合体の安定化、40SサブユニットへのmRNAの結合を媒介すること、および40Sおよび60Sリボソームサブユニットの解離を促進することを含む翻訳開始の多くの工程に関与する。いくつかの態様において、他の非保存哺乳動物eIF3サブユニットは、eIF3機能において調節的役割を果たすことができ、RAN翻訳に影響する(例えば、eIF3m)。いくつかの態様において、eIF3複合体は、RNA構造依存性様式においてウイルス性および細胞性IRESと相互作用することが観察されており、これが非標準的翻訳事象における役割であることを示している。いくつかの態様において、eIF3fは、RAN翻訳において重要な役割を果たし、eIF3F/eIF3fまたは他のeIF3サブユニット(例えば、eIF3M/eIF3m)の操作は、RANタンパク質発現を調節するのに有用であることができる。
【0037】
RANタンパク質翻訳
本開示の局面は、1つ以上のeIF3サブユニットが反復関連非ATG(RAN)タンパク質翻訳のレギュレーターであるということを見いだしたことに関する。「RANタンパク質(反復関連非ATG翻訳タンパク質)」は、AUG開始コドンの非存在下でヌクレオチド拡張を有する、双方向に転写されたセンスまたはアンチセンスRNA配列から翻訳されたポリペプチドである。一般的に、RANタンパク質は、ポリアミノ酸反復と呼ばれるアミノ酸の拡張反復を含む。例えば、「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」(ポリ-アラニン)(配列番号1)、「LLLLLLLLLLLLLLLLLL」(ポリ-ロイシン)(配列番号2)、「SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS」(ポリ-セリン)(配列番号3)、または「CCCCCCCCCCCCCCCCCCCC」(ポリ-システイン)(配列番号4)は、それぞれ20個のアミノ酸残基の長さであるポリアミノ酸反復である。RANタンパク質は、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、または少なくとも200個のアミノ酸残基の長さであるポリアミノ酸反復を有することができる。いくつかの態様において、RANタンパク質は、200個以上のアミノ酸残基の長さのポリアミノ酸反復を有する。
【0038】
一般的に、RANタンパク質は、DNAの異常な反復拡張(例えば、CAG反復)から翻訳される。いかなる特定の理論によっても束縛されることを望まずに、(例えば、細胞の核または細胞質における)RANタンパク質蓄積は、細胞機能を破壊し、細胞毒性を誘導する。したがって、いくつかの態様において、RANタンパク質の翻訳および蓄積は、疾患または障害、例えば神経変性疾患または障害と関連する。RANタンパク質翻訳および蓄積と関連する障害および疾患の例は、限定はしないが、脊髄小脳失調症8型(SCA8)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、脆弱X振戦失調症候群(FXTAS)およびC9ORF72筋萎縮性側索硬化症/前頭側頭型認知症(ALS/FTD)を含む。
【0039】
RANタンパク質翻訳または蓄積と関連する疾患および障害を処置する方法
いくつかの態様において、本開示により記載される組成物および方法は、細胞または対象(例えば、RAN翻訳と関連する障害または疾患を有する対象)におけるRANタンパク質翻訳または蓄積を低減または阻害するために有用である。いくつかの態様において、細胞はインビトロである。いくつかの態様において、対象は哺乳動物対象である。いくつかの態様において、対象はヒト対象である。
【0040】
いくつかの局面において、本開示は、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する対象に有効量の真核生物開始因子3(eIF3)調節剤を投与することによって、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法を提供する。
【0041】
いくつかの局面において、本開示は、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する対象に抗体(例えば、RAN反復拡張に特異的に結合する抗体または反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域に特異的に結合する抗体)を投与することによって、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、抗体は、poly-Ser RAN反復拡張に特異的に結合する。いくつかの態様において、抗体は、poly-Ser RAN反復拡張を含むタンパク質のC-末端領域に結合する。
【0042】
いくつかの態様において、反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱性X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜ジストロフィー(例えば、CTG181)である。
【0043】
本願明細書において使用される「有効量」は、RANタンパク質翻訳または蓄積と関連する疾患または障害(例えば、神経変性疾患)によって引き起こされる1つ以上の徴候または症状の処置または改善のような医学的に望ましい結果を提供するのに十分な治療剤の用量である。有効量は、処置される対象の年齢および健康状態、対象における疾患または障害の重症度(例えば、RANタンパク質蓄積量、またはかかる蓄積によって引き起こされる細胞毒性)、処置期間、任意の併用療法の性質、特定の投与経路、および医療従事者(health practitioner)の知識および専門知識の中の同様の因子などにより変わる。
【0044】
いくつかの態様において、本開示により記載される反復非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置するための方法は、1つ以上のさらなる治療剤を対象に投与することをさらに含む。適切なさらなる治療剤の同定および選択は、当業者の能力の範囲内であり、対象が罹患している疾患に応じて変わる。例えば、いくつかの態様において、ハンチントン病(例えば、テトラベナジン、アマンタジン、クロルプロマジンなど)、脆弱性X症候群(例えば、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、カルバマゼピン、メチルフェニデート、トラゾドンなど)、脊髄小脳失調症(例えば、バクロフェン、リルゾール、アマンタジン、バレニクリンなど)、または筋萎縮性側索硬化症(ALS)(例えば、リルゾールなど)、筋強直性ジストロフィー1型(タイドグロブス、メキシレチンなど)のための1つ以上の治療剤が対象に投与される。
【0045】
処置の投与は、当該分野で既知の任意の方法(例えば、Harrison’s Principle of Internal Medicine、McGraw Hill Inc.参照)により達成されてもよい。投与は局所的または全身的であってもよい。投与は、非経口(例えば、静脈内、皮下、または皮内)または経口であってもよい。異なる投与経路のための組成物は、当該技術分野において周知である(例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciences参照)。用量は、対象および投与経路に依存する。用量は、当業者により決定されることができる。
【0046】
投与経路は、限定はしないが、経口、非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、舌下、気管内、吸入、皮下、眼、膣および直腸を含む。全身経路は、経口および非経口を含む。吸入による投与のために、いくつかのタイプの装置が定期的に使用される。これらのタイプの装置は、定量吸入器(MDI)、呼吸作動(breath-actuated)MDI、乾燥粉末吸入器(DPI)、MDIと組み合わせたスペーサー/保持チャンバー、およびネブライザーを含む。
【0047】
いくつかの態様において、RANタンパク質発現と関連する疾患の処置は、それを必要とする対象の中枢神経系(CNS)に投与される。本願明細書において使用される「中枢神経系(CNS)」は、限定はしないが、神経細胞、グリア細胞、星状細胞、脳脊髄液などを含む、対象の脳および脊髄の全ての細胞および組織を意味する。対象のCNSへの治療剤の投与様式は、脳への直接注射(例えば、脳内注射、脳室内注射、脳実質内注射など)、対象の脊髄への直接注射(例えば、髄腔内注射、腰椎注射など)、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0048】
いくつかの態様において、本開示により記載される処置は、例えば静脈内注射により、対象に全身的に投与される。いくつかの態様において、対象のCNSへの分子の送達を改善するために、全身投与される治療分子(例えば、eIF3調節剤または抗RANタンパク質抗体)を修飾することができる。治療分子のCNS送達を改善する修飾の例は、限定はしないが、血液脳関門標的化剤(例えば、Georgivaら、Pharmaceuticals 6(4):557-583(2014)に開示されているように、トランスフェリン、メラノトランスフェリン、低密度リポタンパク質(LDL)、血管平滑筋腫、RVGペプチドなど)との共投与またはコンジュゲーション、BBB破壊剤(例えばブラジキニン)との共投与、および投与前のBBBの物理的破壊(例えば、MRIガイド下集束超音波(MRI-Guided Focused Ultrasound))などを含む。
【0049】
eIF3調節剤、または抗RANタンパク質抗体(例えば、RANタンパク質に結合する抗体)は、当該分野で既知の任意の適切な様式により送達されてもよい。いくつかの態様において、eIF3調節剤(例えば、eiF3干渉RNA、またはRANタンパク質に結合する抗体)は、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAVベクター)、レンチウイルスベクターなど)またはプラスミドベースのベクターのようなベクターにより対象に送達される。
【0050】
本開示の局面は、SCA8マウスおよびSCA8ヒト剖検組織における深層小脳白質内で、強固なSCA8 polySer RAN蓄積が検出されたという驚くべきことを見いだしたことに関する。したがって、本開示により記載される方法のいくつかの態様において、有効量のeIF3モジュレーターが対象の脳の白質に送達される。
【0051】
eIF3モジュレーター
いくつかの態様において、eIF3の1つ以上のサブユニットがRAN翻訳を制御する。いくつかの態様において、細胞または対象(例えば、RAN翻訳と関連する疾患または状態を有する対象)におけるRAN翻訳を調節するために、eIF3サブユニット(例えば、eIF3f、eIF3m、eIF3h、または他のeIF3サブユニット)の発現を調節する(例えば、発現を増加させる、または発現を減少させる)1つ以上の薬剤を使用することができる。いくつかの局面において、本開示は、いくつかの態様において、eIF3複合体(eIF3f)のFサブユニットのアイソフォームが、脳の特定の領域、例えばヒト脳の白質領域におけるRAN翻訳を制御するということを見いだしたことに基づいている。
【0052】
局面において、本開示は、1つ以上のタンパク質における反復関連非ATG(RAN)翻訳を制御するために、eIF3の1つ以上のモジュレーター(例えば、1つ以上のアクチベーター、または1つ以上のインヒビター)の対象(例えば、対象の細胞)への投与が使用されることができるということを見いだしたことに関する。本願明細書において使用される「eIF3のモジュレーター」は、eIF3タンパク質複合体またはeIF3複合体サブユニット(例えば、eIF3f、eIF3mなど)の発現レベルまたは活性に直接的または間接的に影響する薬剤を意味する。モジュレーターは、eIF3またはeIF3サブユニットのアクチベーター(例えば、eIF3またはeIF3サブユニットの発現または活性を増加させる)またはeIF3またはeIF3サブユニットのインヒビター(例えば、eIF3またはeIF3サブユニットの発現または活性を減少させる)であることができる。
【0053】
一般的に、直接的モジュレーターは、eIF3(またはeIF3サブユニット)、またはeIF3タンパク質複合体、またはeIF3サブユニットをコードする遺伝子と相互作用する(例えば、相互作用または結合する)ことにより機能する。一般的に、間接的モジュレーターは、eIF3またはeIF3サブユニットの発現または活性を制御する(例えば、eIF3またはeiF3サブユニットをコードする遺伝子またはタンパク質と直接相互作用しない)遺伝子またはタンパク質と相互作用することにより機能する。いくつかの態様において、eIF3のモジュレーターは選択的モジュレーターである。「選択的モジュレーター」は、一方のタイプのeIF3サブユニットと比較して、もう一方のタイプのeIF3サブユニットの活性または発現を優先的に調節するeIF3のモジュレーターを意味する。いくつかの態様において、eIF3のモジュレーターは、eIF3fの選択的モジュレーターである。
【0054】
eIF3インヒビターは、タンパク質(例えば、抗体)、核酸、または小分子であることができる。eiF3(例えば、eIF3サブユニット)を阻害するタンパク質の例は、限定はしないが、ポリクローナル抗eIF3抗体、モノクローナル抗eIF3抗体、麻疹ウイルスNタンパク質、ウイルスストレス誘導性タンパク質p56などを含む。eiF3(例えば、eIF3サブユニット)を阻害する核酸分子の例は、限定はしないが、eIF3サブユニットをコードする遺伝子を標的とするdsRNA、siRNA、miRNAなどを含む。eIF3の小分子インヒビターの例は、限定はしないが、mTORインヒビター(例えば、ラパマイシン、PP242)、S6キナーゼ(S6K)インヒビターなどを含む。
【0055】
いくつかの態様において、eIF3調節剤は阻害性核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、およびami-RNAからなる群から選択される干渉RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO))または核酸アプタマー(例えば、RNAアプタマー)である。一般的に、阻害性RNA分子は修飾されていなくても修飾されていてもよい。いくつかの態様において、阻害RNA分子は、1つ以上の修飾オリゴヌクレオチド、例えば、ホスホロチオエート、2’-O-メチルなどの修飾オリゴヌクレオチドを含み、かかる修飾は当該技術分野においてインビボでのオリゴヌクレオチドの安定性を改善するとして認識されてきた。
【0056】
いくつかの態様において、干渉RNAは、eIF3サブユニットをコードする核酸配列(RNA配列のような)の5~50個の連続ヌクレオチド(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、約30、約35、約40、または約50個の連続ヌクレオチド))と相補的な配列を含む。eIF3サブユニットをコードする核酸配列の例は、GenBankアクセッション番号NM_003750.2(eIF3a)、GenBankアクセッション番号NM_003751.3(eIF3b)、GenBankアクセッション番号NM_003752.4(eIF3c)、GenBankアクセッション番号NM_003753.3(eIF3d)、GenBankアクセッション番号NM_001568.2(eIF3e)、GenBankアクセッション番号NM_003754.2(eIF3f)、GenBankアクセッション番号NM_003755.4(eIF3g)、GenBankアクセッション番号NM_003756.2(eIF3h)、GenBankアクセッション番号NM_003757.3(eIF3i)、GenBankアクセッション番号NM_003758.3(eIF3j)、GenBankアクセッション番号NM_013234.3(eIF3k)、GenBankアクセッション番号NM_016091.3(eIF3l)、GenBankアクセッション番号NM_006360.5(eiF3m)などを含む。いくつかの態様において、干渉RNAはsiRNAである。いくつかの態様において、eIF3f siRNAが投与される(例えば、Dharmacon Cat #J-019535-08)。いくつかの態様において、eIF3m siRNAが投与される(例えば、Dharmacon Cat #J-016219-12)。いくつかの態様において、eIF3h siRNAが投与される(例えば、Dharmacon Cat #J-003883-07)。
【0057】
いくつかの態様において、eIF3fはRAN翻訳のネガティブレギュレーターであり、ヒトeIF3fのレベルの低下は細胞におけるRANタンパク質の蓄積の減少と関連する。いくつかの態様において、(例えば、RANタンパク質を発現する細胞における)RAN翻訳は、近いコグネイト(close cognate)からの翻訳またはAUG翻訳とは異なり、eIF3fノックダウンに感受性である。いくつかの態様において、RAN翻訳に使用される翻訳機構は、細胞におけるAUGおよび近傍AUG翻訳機構とは異なる。
【0058】
いくつかの態様において、(例えば、eIF3fの異所的発現を介した)eIF3fレベルまたは活性の増加は、RAN翻訳を増加させることができる。いくつかの態様において、これは、RAN翻訳効率を増加させるために、または細胞においてRAN翻訳を誘導するために(例えば、RAN翻訳の細胞モデルまたは動物モデルを作るために)有用であることができる。いくつかの態様において、eIF3fをインビトロ無細胞翻訳系に加えてRAN翻訳を支持または促進することができる。
【0059】
いくつかの態様において、eIF3の1つ以上のサブユニットの1つ以上のモジュレーター(例えば、1つ以上のアクチベーターまたは1つ以上のインヒビター)を、対象に投与して、核酸反復の拡張と関連する(例えば、反復関連非ATG翻訳と関連する)疾患を処置する。例えば、いくつかの態様において、対象に、eIF3の1つ以上のサブユニットの2、3、4、5、6、7、8、9または10のモジュレーターを投与する。
【0060】
C9-ALS/FTDのような特定のマイクロサテライト拡張障害において、GGGGCC反復拡張からのRANタンパク質は灰白質領域に蓄積することが示されている。3つのアンチセンスリーディングフレームのうちの2つは、インフレームAUG開始コドンを有する。本開示の局面によると、インフレームAUGおよび近傍AUGコドンは、この疾患(例えば、C9-ALS/FTD)における白質領域より広範囲のRANタンパク質蓄積を説明することができる。いくつかの態様において、RAN翻訳は上流のAUG開始コドンの存在下で起こり、eIF3f/Fの調節はそれらのリーディングフレームにおけるタンパク質蓄積(例えば、C9orf72 ALS/FTDのアンチセンスGGCCCC拡張転写産物から作られたPRおよびGP)に影響する。
【0061】
いくつかの態様において、eIF3fは、いずれの近傍コグネイト開始コドンも用いずにリーディングフレームに関するRAN翻訳を制御する。いくつかの態様において、いずれの近傍コグネイト開始コドンも用いずにリーディングフレームに関するRAN翻訳は、これらのフレームからのRANタンパク質の白質特異的な蓄積に寄与する。したがって、いくつかの態様において、対象の白質におけるRANタンパク質の蓄積は、本願明細書に記載のようにeIF3を調節することにより調節することができる。いくつかの態様において、eIF3f調節は、他の非白質組織におけるRANタンパク質蓄積を調節してもよい。
【0062】
いくつかの態様において、白質領域におけるeIF3fは、非病理学的条件下で、反復含有転写産物(ヒトゲノムの60%超が反復要素からなる)由来のペプチドを誘導してもよい。興味深いことに、最も豊富な白質特異的タンパク質の1つ、ミエリン塩基性タンパク質をコードするヒトMBP遺伝子は、第1のエキソン内で高度に多型であるが非病原性(TGGA)n反復を含有する(Boylanら、1990)。いくつかの態様において、反復拡張を含有するMPBおよび/または他の白質特異的遺伝子は、RAN翻訳を介して翻訳され、ヒト白質中のペプチドを生じさせることができる。本開示の局面によれば、かかるペプチドの翻訳は、本願明細書に記載のようにeIF3を介して制御することができる。
【0063】
抗RANタンパク質抗体
いくつかの局面において、本開示は、RAN反復拡張に特異的に結合する抗体、または反復拡張のC-末端であるRANタンパク質のユニークな領域に特異的に結合する抗体に関する。いくつかの態様において、抗体は、poly-Ser RAN反復拡張に特異的に結合する。いくつかの態様において、抗体は、poly-Ser RAN反復拡張を含むタンパク質のC末端領域に結合する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、細胞内RANタンパク質に結合する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、細胞外RANタンパク質に結合する。
【0064】
抗RAN抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることができる。典型的には、ポリクローナル抗体は、マウス、ウサギまたはヤギのような適切な哺乳動物の接種により生産される。回収できる血清の量が多いため、より大きな哺乳動物がしばしば好ましい。典型的には、抗原(例えば、poly-Ser反復領域を含む抗原)が哺乳動物に注入される。これは、Bリンパ球が抗原に特異的なIgG免疫グロブリンを生産するように誘導する。このポリクローナルIgGは、哺乳動物の血清から精製される。モノクローナル抗体は、一般に単一細胞株(例えば、ハイブリドーマ細胞株)により生産される。いくつかの態様において、抗RAN抗体が精製される(例えば、血清から単離される)。
【0065】
多くの方法が抗RAN抗体を得るために用いてよい。例えば、抗体は、組換えDNA法を用いて生産することができる。モノクローナル抗体はまた、既知の方法に従って、ハイブリドーマ(例えば、Kohler and Milstein (1975) Nature、256:495-499を参照)の生成により生産してもよい。次いで、この方法で形成されたハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴(例えば、OCTETまたはBIACORE)分析などの標準的な方法を用いてスクリーニングし、特定の抗原に特異的に結合する抗体を生産する1つ以上のハイブリドーマを同定する。特定の抗原(例えば、RANタンパク質)の任意の形態を、例えば組換え抗原、天然に存在する形態、その任意の変異体または断片を、免疫原として使用してもよい。抗体を作る1つの典型的な方法は、抗体またはその断片(例えばscFv)を発現するタンパク質発現ライブラリー、例えばファージまたはリボソームディスプレイライブラリーをスクリーニングすることを含む。ファージディスプレイは、例えば、Ladnerら 米国特許第5,223,409号; Smith(1985)Science 228:1315-1317; Clacksonら (1991)Nature、352:624-628; Marksら(1991)J.Mol. Biol.、222:581-597、WO 92/18619;WO 91/17271;WO 92/20791;WO 92/15679;WO 93/01288;WO 92/01047;WO 92/09690;およびWO 90/02809号中に記載されている。
【0066】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、特定の抗原(例えば、poly-Serのような1つ以上のRANタンパク質)を使用して、非ヒト動物、例えば齧歯類、例えば、マウス、ハムスター、またはラットを免疫化させることができる。1つの態様において、非ヒト動物はマウスである。
【0067】
他の態様において、非ヒト動物からモノクローナル抗体を得て、次いで当該分野で既知の組換えDNA技術を用いて修飾、例えばキメラ化する。キメラ抗体を作るための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851,1985;Takedaら、Nature 314:452,1985、Cabillyら、 米国特許第4,816,567号;Bossら、米国特許No.4,816,397号;Tanaguchiら、欧州特許公開EP171496;欧州特許公開第0173494号、英国特許第2177096B号を参照のこと。
【0068】
抗体はまた、当該分野で既知の方法によりヒト化することができる。例えば、所望の結合特異性を有するモノクローナル抗体を商業的にヒト化することができる(Scotgene、Scotland;およびOxford Molecular、Palo Alto、Calif)。トランスジェニック動物において発現されるような完全ヒト化抗体は、本発明の範囲内である(例えば、Greenら(1994)Nature Genetics 7,13;および米国特許第5,545,806号および第5,569,825号参照)。
【0069】
追加の抗体生産技術については、Antibodies:A Laboratory Manual、第2版を参照のこと。Edward A. Greenfield編、Dana-Farber Cancer Institute、(C)2014年。本願開示は、必ずしも抗体の特定の供給源、製造方法、または他の特別な特性に限定されない。
【0070】
本出願のこれらおよび他の局面は、以下の非限定的な実施例により例示される。
【実施例】
【0071】
実施例1
40以上の疾患がマイクロサテライト拡張突然変異によって引き起こされる。反復拡張突然変異がタンパク質を作るメカニズムは様々である。拡張突然変異は、ATG開始オープンリーディングフレームの一環として発現されるとき、拡張タンパク質にしがちな凝集体をコードすることができる。拡張は、近いコグネイトAUG様開始コドン(一般的にAUGから1つのヌクレオチドに変化しているもの)の存在下で、タンパク質をもたらすことができる。これらの場合、標準的タンパク質翻訳機構が典型的に使用される。さらに、ヘアピン形成拡張突然変異はまた、AUG開始コドンなしで、全3つのリーディングフレームにおいて拡張タンパク質を発現することもできる。このプロセスは、反復関連非ATG(RAN)翻訳と称され、脊髄小脳失調症8型、筋強直性ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症を含む神経学的疾患の数の増大が報告されている。
【0072】
この実施例は、(例えば、RNAi分子のような阻害剤を介する)eIF3複合体の調節がRAN翻訳に影響を及ぼすことを記載する。この実施例は、eIF3複合体のeIF3fおよびeIF3mタンパク質サブユニットをコードするeIF3FおよびeIF3M RNAのsiRNAノックダウンが、CAG、CAGG、CCUGおよびG4C2拡張突然変異にわたって発現されるRANタンパク質の定常状態レベルを低下させることを記載する。逆に、eIF3fおよびeIF3mの過剰発現は、いくつかの態様において、RAN翻訳を増加させる。この見いだしたことは、マイクロサテライト拡張突然変異によって引き起こされる広範なカテゴリーの疾患に対する潜在的な治療的関連性を有する。
【0073】
eIF3Fのレベルの減少は、AUGまたは近いコグネイトAUG様開始コドンの非存在下でRAN翻訳の下方調節をもたらす
RAN翻訳におけるeIF3Fの役割を調べるために、siRNAを用いて、HEK293T細胞におけるeIF3F発現をノックダウンした。共トランスフェクション実験を、反復を含むプラスミド、ATG-(CAG)expおよび対照siRNA、eIF3F siRNA、またはネガティブコントロールとして、MRI1 siRNA(eIF2Bサブユニット様タンパク質)を用いて行った。プラスミドATG-(CAG)nは、polyGlnフレームにおいてATG開始コドンを含む。この構築物から発現されたpoly-Ser拡張タンパク質は溶解性の問題を有するため、polyAlaをRAN翻訳のための読み出しとして使用した。コントロールおよびMRI1特異的siRNAトランスフェクションの両方と比較して、eIF3F特異的siRNAと共にATG-(CAG)nプラスミドでトランスフェクトされた細胞においてpolyAla発現の劇的な減少が観察された。対照的に、ATG開始polyGln発現はeIF3Fノックダウンによって影響されないようであり、標準的翻訳はeIF3Fレベルに対してRAN翻訳ほど感受性ではないことを示す(
図1A-1C)。
【0074】
eIF3Fと直接相互作用する2つの他のeIF3サブユニットであるeIF3mおよびeIF3hの効果を調べた。eIF3-m、-a、-c、-e、-l、-kサブユニットは、それらの重合ドメインの相互作用を介して集合されていることが示されている。-fと-hサブユニットは、互いに結合し、-fと-m間の相互作用を介して残りの複合体に結合される。eIF3mの下方調節は、polyAla RANタンパク質のレベルにおいて同様の減少を示す。このことは、eIF3fがeIF3mを介して残りの複合体に負荷されるため、eIF3f減少で見られる減少と一致する。
【0075】
第2の結合パートナーeIF3hは、eIF3H siRNAのノックダウンで、polyAla RANタンパク質のレベルを増加する逆効果を示し、eIF3hサブユニットがRAN翻訳を通常妨げることを示す(
図2A-D)。eIF3hサブユニットは、AUGまたは近いコグネイト開始コドンでの上流オープンリーディングフレーム(uORF)から翻訳を媒介することが報告されており、この因子がAUGまたは近いコグネイトコドンAUG様コドンでの開始に有利であり、RAN翻訳を負に制御することができることを示す。したがって、eiF3複合体の変異体は、いくつかの態様において、標準的およびRAN翻訳の効率に影響を与える。具体的には、eIF3hがコア複合体に存在しないとき、eIF3fは依然としてコアeIF3複合体に結合し、RAN翻訳に有利であり、標準的翻訳を下方調節することができる。
【0076】
eIF3fの調節効果がpolyAla特異的であるか否かを調べるために、反復の5’隣接配列上流に修飾HDL2を有する伸長CAG反復を含む第2のプラスミド(HDL2-mut)を調べた。この構築物は、リーディングフレームのいずれかにおいて終止コドンと反復領域との間にAUGまたは近いAUG開始コドンを含まない。eIF3f下方調節は、全3つのフレームにおいて減少したRANタンパク質蓄積をもたらす(
図3A-3B)。polySer RANタンパク質がポリアクリルアミドゲルにてうまく流れないため、不溶性および可溶性画分の両方で示される。eIF3fのタンパク質レベルの効率的なノックダウンもまた示される(
図3C)。
【0077】
ATXN8の状況内でRAN翻訳に対するeIF3fノックダウンの効果を調べた(
図4A-4B)。ATXN8遺伝子座からの5’隣接領域を有する構築物(KMQ-3T)を使用した。polyGlnを有するフレームにおいてATG開始コドンが存在する。このKMQ-3TプラスミドおよびeIF3f標的siRNAでの二重トランスフェクション実験は、polySerフレームからのタンパク質翻訳のみがeIF3fレベルに感受性であるが、polyGlnおよびpolyAlaはeIF3fのノックダウンの影響を受けなかったことを明らかにした。polyGln翻訳に関するこの結果は、フレーム内のAUG開始コドンが標準的翻訳を介してpolyGlnの発現を駆動することを示している。さらに、polyAlaを有するフレーム内において近いコグネイトAUAが存在する。AUAコドンは、ウサギ網状赤血球において標準的翻訳を開始するために約60%の効率で使用されることが示されており、この状況においてもpolyAlaフレームにおいて標準的翻訳を駆動することができる。したがって、eIF3fの調節効果は、報告された近いコグネイト開始部位のいずれも含まないpolySerフレームについてのみ存在する。
【0078】
ALSおよびDM2状況内でRAN翻訳に対するeIF3fノックダウンの効果を調べた。
図5A-5Bは、C9orf72(ALS)およびDM2状況におけるeIF3Fの効果を示す。
図5Aは、C9orf72ミニ遺伝子(上)およびeIF3F siRNAがGP RANタンパク質を低下させることを示すタンパク質ブロット(下)を示す。
図5Bは、DM2ミニ遺伝子(上)およびeIF3F siRNAがQAGR RANタンパク質を低下させることを示すタンパク質ブロット(下)を示す。
【0079】
総合すれば、トランスフェクト細胞におけるこれらの実験は、近いコグネイトコドン使用頻度およびmet-tRNA関連なしに開始するRAN翻訳が、eIF3fおよびeIF3mサブユニットと関連する特定の翻訳機構を使用することを示す。
【0080】
実施例2
PolySerタンパク質は脳の白質領域に蓄積する
PolySer RANタンパク質がSCA8に蓄積するか否かを試験するために、予測されたSCA8 PolySerタンパク質のユニークなC末端領域内の2つの非重複ペプチド配列に指向されたウサギポリクローナル抗体を生成した(
図6A)。予測されたC-末端領域を有するエピトープタグ付きPolySerタンパク質を発現するプラスミドでトランスフェクトされた細胞を用いて、これらの抗体の特異性を証明した(
図6B-6D)。免疫組織化学(IHC)を行い、SCA8 PolySer RANタンパク質をインビボで検出した。PolySer RANのIHC分布を、SCA8マウスにおけるSCA8 polyGln拡張タンパク質のものと比較した。両方のタンパク質はATXN8センス転写産物から発現されるが、これらの分布パターンは著しく異なる。連続した小脳切片上で行われたIHCは、polyGlnを示すが、polySer凝集体はPurkinje細胞に蓄積しない。対照的に、polyGln凝集体ではなくpolySerは、分子層および深層小脳白質に見られる(
図6E)。これらの領域におけるPolyGln染色は主に核である。対照的に、polySer凝集体は、これらの領域において核周囲局在または神経網内での局在を示す。マウスと同様に、SCA8 polySerおよびpolyGlnタンパク質は、ヒト剖検組織の別個の領域に蓄積し、主にpolySerが深層小脳白質において見られ、polyGlnがPurkinje細胞核に見られる。
【0081】
要約すれば、ATXN8転写産物から共に発現されるSCA8 polySerおよびpolyGlnタンパク質は、顕著に異なる蓄積パターンを示す。SCA8 RAN polySer凝集体は、主に、脳全体で白質および神経網領域に見られる。対照的に、polyGln凝集体は、小脳Purkinje細胞および脳全体で他のニューロンに見られる。これらのデータは、これらのタンパク質の細胞特異的発現、局在または代謝回転の違いがそれらの異なる細胞蓄積パターンをもたらすこと、およびpolySer RANタンパク質が白質領域に影響を及ぼすことによって疾患に寄与し得ることを示す。
【0082】
SCA8polySer凝集体は、年齢および疾患進行とともに増加する
polySer RANタンパク質凝集体負荷が時間および疾患進行とともに変化するかを調べるために、異なる年齢でのIHCを、2月齢(動物が明らかな異常を示さないとき)、6月齢(顕著な表現型が明らかであり、さらなるケアなしで致死的であろうとき)、および10月齢(動物が進行した末期疾患を示すとき)で行った。2月齢で、IHCは、脳幹においてまれに見出された非常に小さく、ピン様(pin-like)のpolySer凝集体を表したが(
図7)、前頭皮質において検出できなかった。6月齢で、脳幹においてpolySer RAN凝集体のサイズおよび数が実質的に増加し、小さな凝集体が今や前頭皮質全体で明らかになった。約10月齢(対症療法を伴う最終段階)で、polySer凝集体はサイズが増加し、脳幹および前頭皮質の両方においてより豊富であった(
図7)。
【0083】
要約すれば、polySer RANタンパク質負荷は、SCA8マウスにおいて年齢および疾患進行とともに増加する。脳幹の神経網内の初期のpolySer RANタンパク質蓄積は、2月の動物において見られる初期の運動異常と一致する。さらに、疾患の後期で前頭皮質全体でのpolySer RAN凝集体の検出は、SCA8患者において皮質関与の複数の報告と一致する。
【0084】
RAN polySer陽性白質領域は変性表現型を示す
強く障害されたSCA8マウスのH&E染色は、歯状核を含む小脳における皮質下および深部白質の広範な空胞化を示す(
図8A)。空胞化はまた、大脳皮質の皮質下白質領域および脳幹全体で白質路において観察された(
図8A)。小脳および脳幹の連続切片を調べて、脱髄および軸索変性がpolySer陽性領域に認められるか否かを観察した。ルクソールファストブルー(LFB)染色は、コントロールと比較してSCA8マウスからの小脳および脳幹の両方で脱髄を示す。一貫して、ニューロフィラメントHの脱リン酸化形態に対する抗体を用いるIHCは、軸索変性の証拠を示した(
図8A)。同様の変化が、polySer蓄積を有する部位で観察された脱髄および軸索変性を伴うヒト剖検組織で観察された(
図8B)。
【0085】
polySer陽性白質領域における乏突起膠細胞異常をさらに特徴付けるために、成熟乏突起膠細胞(CC1)の細胞質マーカーを用いたIHCをマウスで行った。脱髄データと一致して、これらのデータは、コントロールと比較して、SCA8動物の深層小脳白質領域における成熟乏突起膠細胞の数の減少を示す(
図8C)。さらに、深層小脳白質のGFAP染色は、相対GFAP染色の50%増加を有するNT動物と比較して、SCA8における反応性アストログリオーシスの証拠を示す(
図8D)。
【0086】
総合すれば、これらのデータは、SCA8マウスにおけるpolySer陽性白質領域が乏突起膠細胞喪失、アストログリオーシス、脱髄および軸索変性を示すことを示している。
【0087】
増加した白質発現での翻訳因子であるeIF3Fによって調節されるRAN翻訳
白質領域におけるSCA8 polySer RANタンパク質の蓄積は、RAN翻訳が特定の細胞型または脳領域においてより効率的であり得ることを示す。トランスクリプトミクスデータを分析し、真核生物翻訳因子であるeIF3Fが白質において上昇されることが観察された。RNAseqデータは、コントロールマウスと比較して、RANタンパク質凝集の増加と相関する疾患の後期段階中のeIF3F RNAレベルの2.13倍の増加を示した(
図9A)。これらのデータは、eIF3Fが疾患の後期段階でRAN翻訳を増加させ得ることを示し、また白質においてRAN polySer タンパク質の優先的蓄積を説明する。
【0088】
ATG開始コドンの有無にかかわらず構築物から発現された拡張タンパク質に対するeIF3Fノックダウンの効果を調べた一連の細胞培養実験を行った。polySerフレーム中のATG開始コドンの有無にかかわらずミニ遺伝子を用いたpolySer RANタンパク質発現に対するeIF3Fノックダウンの効果を調べた(
図9B)。eIF3FのsiRNAノックダウンは、コントロールsiRNAと比較してATG開始コドンを含まないA8およびCAG構築物を用いて発現されたpolySerタンパク質の定常状態レベルを47%(p<0.05)および34%(p<0.01)に低下させる(
図9C)。対照的に、eIF3Fノックダウンは、polySerフレーム中にATG開始コドンを含むDM1(M
s)-3T構築物でトランスフェクトされた細胞におけるpolySerレベルに影響しなかった(
図9D)。同様に、polyAlaリーディングフレーム中のATG開始コドンを含まない構築物(A8およびDM1)から発現されたpolyAla RANタンパク質の定常状態レベルは、eIF3Fノックダウンによって、それぞれ53%(p<0.05)および28%(p<0.05)に減少される(
図9Eおよび
図9F)。polySerの結果と同様に、ATG開始コドン(CAG-3T)の存在下でのeIF3Fノックダウンは、polyAlaの蓄積を減少させなかった。要約すると、これらのデータは、拡張されたCAGリピートにわたってpolyAlaタンパク質およびpolySerタンパク質のRAN翻訳が、eIF3Fと関与する代替タンパク質翻訳機構を使用することを示す。対照的に、インフレームATGコドンの存在は、eIF3Fレベルに感受性ではない標準的前開始複合体の補充を可能にする。
【0089】
他の疾患(例えば、C9ORF72、ALS/FTDおよびDM2)が見出される反復拡張モチーフと関連するG4C2、CAGGおよびCCUG拡張RNAを発現する構築物もまた試験した(
図10A)。タンパク質ブロッティングにより、GlyPro(G4C2)、GlnAlaGlyArg(配列番号:5)(CAGG)、LeuProAlaCys(配列番号:6)(CCUG)のタンパク質レベルを測定した。CAG拡張の結果と同様に、eIF3Fノックダウンは、ATG開始コドンを欠く構築物から発現されたGP(0.57 p<0.05)およびQAGR(0.12 p<0.05)RANタンパク質のレベルを減少させた。対照的に、eIF3Fノックダウンは、CCUG拡張RNAにわたって発現されたLPACテトラペプチドタンパク質のレベルを増加させた(2.8、p<0.05)(
図10B-10C)。
【0090】
総合すれば、これらのデータは、RAN翻訳を、複数のリーディングフレームにおいて、およびCAG、G4C2およびCAGG反復を含む複数の反復モチーフにわたって、低下させることができることを示す。
【0091】
材料および方法
DNA構築物およびsiRNA
Flag-polySer-CT構築物を、CAG指向においてp3XFlag-myc-CMV-24ベクター(Sigma、E 6151)に、188bpの下流配列を有する82反復のCAG拡張を含むATNX8ゲノム配列をサブクローニングすることによって作製した。このクローンを生成するために使用されたゲノムDNAを、SCA8 BAC拡張マウス(2878)からのゲノムDNAを使用する、および加えられたHindIII制限酵素部位を含む5’プライマー(5’AGCTGAAGCTTGTTAAAAGAAGATAATATATTTAAAAAATGCAG3’;配列番号:7)および加えられたEcoRI制限酵素部位を含む3’プライマー(5’AGTCTGAATTCCCTAGTTCTTGGCTCCAGACTAAC3’;配列番号:8)を使用するPCRにより増幅した。5’プライマーはまた、N-末端flagおよび反復領域との間のAGCリーディングフレームにおける終始コドンの挿入を回避するためにT/G塩基置換を含む。PCR産物をHindIII/EcoRIで切断し、同じ酵素で切断したp3XFlag-myc-CMV-24にクローニングした。polySer(AGC)フレーム中のN末端Flagエピトープタグ、82CAG反復およびpolySerフレーム内の最初の終始コドンにわたる3’隣接領域の存在を、サンガー配列決定によって確認した。ATG(CAG103)-3T、A8(KMQ)-3T、DM1-Ser(M)、GGGGCC-3Tを以前に作製した。ヒトeIF3Fを標的とするsiRNAおよびコントロール非標的siRNAを商業的な供給源から注文した。
【0092】
細胞培養およびトランスフェクション
HEK293T細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補ったDMEM中で培養し、37℃、5%CO2を含む湿潤雰囲気下でインキュベートした。プラスミドおよびsiRNAトランスフェクションをLipofectamine 2000(Invitrogen)で行った。後の分析のために、トランスフェクションの48時間後に細胞を回収した。KD実験のために、HEK293T細胞を、Lipofectamine 2000を用いて30nMのsiRNAで切断した。トランスフェクションの24時間後に、反復を含むプラスミドおよび30nMのsiRNAを共トランスフェクトした。トランスフェクションの最初の2回目のラウンド(the first second round)の48時間後に細胞を回収した。
【0093】
ウサギポリクローナル抗体の生産
polySer RANタンパク質に対するポリクローナルウサギ抗体を、New England Peptideによって作製した。ウサギ抗血清を、α-polySer1およびα-polySer2についてそれぞれ合成ペプチドAc-CSSSKARFSNMKD-アミド(配列番号:9)およびAc-CRVNLSVEAGSQKRQSE-アミド(配列番号:10)に対して作製した。
【0094】
マウスサンプル
この実施例において、FVBバックグラウンド上のSCA8 BACトランスジェニック系統(Bac exp2,2878)を使用した。SCA8 BAC導入遺伝子を有する半数体マウスを、遺伝子型決定PCRによって確認した。SCA8 BAC拡張マウスが5月齢の後に出現する重度の運動機能障害のために、追加の食物(GelDiet、Clear H2O)が>5ヶ月間、動物のケージの底に提供された。組織学的分析のために、体重1kgあたり100mgのケタミンおよび20mgのキシラジンを用いて動物を麻酔し、15mlの等張生理食塩水、続いて10mlの10%緩衝ホルマリンで上行大動脈を介して灌流した。
【0095】
組織学および免疫組織化学
polySer RANタンパク質の検出のために、脳を回収し、液体窒素で冷却した2-メチルブタン中で凍結させた。クライオスタットを用いて7マイクロメーターの矢状切片を切断し、10%緩衝ホルマリン中で15分間固定した。内因性ペルオキシダーゼブロックを3%H2O2メタノール中で5分間行った。非特異的結合をブロックするために、非血清ブロック(Biocare Medical、BS966M)を15分間適用した。一次抗血清を1:10の非血清ブロックに4℃で一晩、以下の希釈で適用した。α-polySer1(1:10000)、α-polySer2(1:5000)または対応する免疫前血清を同じ希釈率。切片を1X PBSで3回洗浄し、ビオチン標識ウサギ二次抗体(Biolegend、sig-32002)を室温で30分間適用した。セイヨウワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートされた連結試薬(Biolegend、93028)を室温で30分間適用し、ベクターノバレッド基質キット(Vector Laboratories、Inc.、SK4800)への曝露によって検出を行った。対比染色のために、ヘマトキシリン溶液(Vector Laboratories、Inc.、H3404)を20秒間適用した。スライドを勾配エタノールおよびキシレン溶液で脱水し、Cytoseal 60(電Electron Microscopy Sciences、18006)を用いてマウントした。
【0096】
固定された脳組織中のpolySer RANタンパク質の検出のために、動物を、1×PBSおよび10%緩衝ホルマリンで経心的に灌流した。脳を回収し、10%ホルマリン中で24時間貯蔵し、その後70%エタノールに取り除いた。組織学的処理およびパラフィン包埋後、7マイクロメーターの矢状切片をミクロトームを用いて切断した。切片をキシレン(15分間)で脱パラフィンし、アルコール勾配(10分間)で再水和させた。次に、切片を以下の抗原回復工程で処理した。第1に、1mM CaCl2、50mM トリス緩衝液(pH=7.6)中、37℃で30分間、1ug/mL プロテイナーゼK処理。第2に、熱源としてマイクロ波を使用して15分間10mM EDTA(pH=6.5)中で加圧。第3に、5分間95%ギ酸処理。内在性ペルオキシダーゼを3% H2O2メタノール中で10分間ブロックした。非特異的結合をブロックするために、非血清ブロック(Biocare Medical、BS966M)を15分間適用した。一次抗血清を、α-polySer1(1:5000)、α-polySer2(1:10000)または対応する免疫前血清を同じ濃度で、1:10の非血清ブロックに4℃で一晩適用した。切片を1X PBSで3回洗浄し、ビオチン標識ウサギ二次抗体(Biolegend、SIG32002)を室温で30分間適用した。セイヨウワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートされた連結試薬を室温で30分間適用し、Vector Red Substrate Kit(Vector Laboratories、Inc。、SK4800)への曝露によって検出を行った。ヘマトキシリン溶液を20秒間適用した(Vector Laboratories、Inc.、H3404)。
【0097】
穏やかな熱誘起抗原回復が、加圧器の代わりに蒸し器を使用して10mM クエン酸バッファー(pH=6.0)において行われたことを除いて、上記と同様の方法において、CC1(1:1000、Calbiochem)、SMI-32 (1:3000、Covance)およびα-Flag(1:1000、Sigma)抗体を使用する免疫染色実験を行った。ヘマトキシリンおよびエオシン染色のために、7ミクロンのマウスおよびヒトの脳切片をキシレンで脱パラフィンし、勾配エタノールで脱水した。次に、スライドをヘマトキシリン(modified Harris、Sigma Aldrich)に1分間浸し、10分間蒸留水で洗浄した。次に、スライドをEosin Y(Sigma Aldrich、71311)に30秒間浸漬し、10分間蒸留水で洗浄した。視覚化の前に、スライドを再水和し、カバースリップさせた。
【0098】
ルクソールファストブルー(LFB)染色のために、7ミクロンのマウスおよびヒト脳切片をキシレン中で脱パラフィンし、95%エチルアルコールに水和させた。切片を56℃で一晩LFB溶液(95% エチルアルコール中0.1% ルクソールファストブルー)中に放置した。次の日、スライドを95% エチルアルコールおよび蒸留水で濯いだ。次に、スライドを炭酸リチウム溶液および70% エチルアルコール(それぞれ30秒)で区別し、蒸留水で洗浄した。スライドをクレシルバイオレット溶液(蒸留水中0.1% クレシルバイオレット)で40秒間対比染色し、蒸留水で濯いだ。視覚化の前に、スライドを再水和し、カバースリップさせた。画像はOlympus BX51光学顕微鏡で捕捉した。
【0099】
統計分析
統計的有意性は、対応がないスチューデントt検定によって評価した。統計を、ソフトウェアパッケージ Prism 5(GraphPad Software)を用いて行った。
【0100】
ウェスタンブロッティング
細胞をプロテイナーゼ阻害剤(Roche)を含むRIPA(150mM NaCl、1%デオキシコール酸ナトリウム、1%Triton X-100、50mM Tris-HCl)(pH=7.5)緩衝液で4℃で30分間振盪して溶解した。ゲノムDNAを21ゲージの針によって剪断し、溶解物を4℃、15000gで15分間遠心分離する。上清を、可溶性画分として取り、Bradfordアッセイ(Biorad)によって定量した。溶解物を4%-12% Bis-Trisゲル(Biorad)に流し、ニトロセルロース膜に移した。膜を、Tween 20(PBST)を含むリン酸緩衝生理食塩水中の1%ミルク中で、4℃で一晩振とうさせて、抗体:抗-myc(1:2000、Sigma、F9291)、抗-Flag-HRP(1:3000、Sigma、A8592)、抗-HA(1:2000、Sigma、H6533)、抗-GAPDH(1:10000、Millipore、MAB374)α-polySer1(1:10000)で、ブロットした。膜を、PBST中で5分間3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートされた二次抗体溶液(1:2500、GE Healthcare、NA931V)に室温で45分間インキュベートした。膜をPBST中で再び洗浄し、1分間増強化学発光(ECL)のための基質の適用で展開した(PerkinElmer、NEL10400)。
【0101】
ペレットを2%SDSに再懸濁し、65℃でインキュベートした。得られたSDS可溶性画分を、真空下でBio-Dot 96ウェル精密濾過システム(Bio-Rad)を用いてニトロセルロース膜上に固定化した。膜をPBSTで洗浄し、ウェスタンブロッティングと同じプロトコールを用いてブロットした。
【0102】
実施例3
ポリ-セリン(polySer)RANタンパク質に結合する抗Ser抗体を産生した(
図11A-11C)。poly-Serは、センス指向においてCAG反復の第2のリーディングフレームの翻訳によって生産される(
図11A)。10個のセリン残基を含むペプチド配列(配列番号:17)を使用して、ウサギにおいてポリクローナル抗体(抗-Ser)を生産した。C-末端FLAGタグを有するpoly-Serタンパク質をコードする発現構築物もまた生産した。免疫ブロット分析は、poly-Serタンパクへの抗-Serの特異的結合を示す(
図11C)。
【0103】
HEK293T細胞を、polySerをコードする発現構築物でトランスフェクトし、免疫蛍光アッセイを行った。データは、poly-Serタンパク質が抗-FLAGおよび抗-Ser抗体の両方によって検出されたことを示す(
図11D)。抗-Ser抗体はまた、SCA8ヒト剖検組織においてpoly-Serタンパク質を染色したが、コントロールヒト剖検組織を染色しなかった(
図11E)。
【0104】
RAN polySerが主に白質領域に明確な蓄積パターンを示し、白質異常と共局在化することが観察された。早期白質の変化がSCA8において病原性の役割を果たすことが観察され、翻訳機構の調節がRAN翻訳を減少させるために実行可能な治療的選択肢であることが示された。ヒトSCA8脳におけるpolySer RANタンパク質の蓄積はまた、polySer RANタンパク質が免疫療法のための適切な標的であることを示す。
【0105】
多くの神経変性疾患は、不溶性の細胞内または細胞外凝集体におけるミスフォールドタンパク質の異常な蓄積を伴う。いくつかの態様において、ミスフォールドタンパク質凝集体の毒性は、不溶性凝集体の存在である。いくつかの態様において、ミスフォールドタンパク質凝集体の毒性は、それらの可溶性オリゴマーの存在である。したがって、いくつかの態様において、抗-RANタンパク質抗体(例えば、抗-Ser)は、対象においてRANタンパク質凝集体およびオリゴマーを標的とし(例えば、免疫特異的に結合し)、クリアにする。いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は、細胞内RANタンパク質に結合する(例えば、細胞の細胞質または核においてRANタンパク質に結合する)。いくつかの態様において、RANタンパク質(例えば、polyGA、poly-GP、poly-PAなど)は、細胞間で伝達される。いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は、細胞外RANタンパク質に結合する(例えば、細胞の細胞外膜の外側のRANタンパク質に結合する)。
【0106】
いくつかの態様において、抗RANタンパク質抗体は、病理学的タンパク質沈着物の抗体誘発食作用、凝集物の直接的抗体介在破壊、毒性可溶性タンパク質の中和、凝集タンパク質の中和、またはミスフォールドタンパク質の細胞間伝達の阻止を媒介する。
【0107】
他の態様
本明細書に開示された特徴の全ては、任意の組み合わせで組み合わされてもよい。本明細書に開示された各特徴は、同じ、等価な、または類似の目的を果たす代替の特徴により置き換えられてもよい。したがって、特に他に述べられない限り、開示された各特徴は、等価なまたは類似の特徴の包括的なシリーズの1つの例に過ぎない。
【0108】
上記の記載から、当業者は本開示の本質的な特性を容易に確認することができ、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、種々の用途および条件に本開示を適合させるために本開示の種々の変更および修飾を行うことができる。従って、他の態様も本開示の特許請求の範囲内にある。
【0109】
均等なもの
いくつかの発明の態様が本明細書において記載され説明されてきた一方で、当業者は、機能を実行し、および/または結果および/または本明細書において記載された利点の1つ以上を得るための様々な他の手段および/または構造を容易に想像するし、かかる変形および/または修飾の各々は、本明細書に記載された発明の態様の範囲内にあるとみなされる。より一般には、当業者は、本明細書に記載された全てのパラメーター、寸法、材料、および構成が例示的であることを意図され、実際のパラメーター、寸法、材料および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の適用に依存するであろうことを容易に認識する。当業者は、本明細書に記載の特定の発明の態様に対する多くの均等なものを、認識するかまたは単なる日常の実験を用いて確認することができる。故に、前述の態様は単なる一例として提示され、添付の特許請求の範囲およびそれと均等なものの範囲内で、発明の態様は、具体的に記載され請求された態様以外のように実施されてもよいことが理解されるべきである。本開示の発明の態様は、本明細書に記載された個々の各特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に向けられている。加えて、かかる特徴、システム、物品、キット、および/または方法が相互に矛盾しない場合、かかる特徴、システム、物品、キットおよび/または方法の2つ以上の任意の組み合わせが、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0110】
本明細書において定義され使用されている全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれた文書における定義、および/または定義された用語の通常の意味にて制御すると理解されるべきである。
【0111】
本明細書に開示された全ての文献、特許および特許出願は、それぞれが引用されている主題に関して出典明示により組み込まれており、ある場合には、文書の全体を含んでもよい。
【0112】
本明細書および特許請求の範囲において使用される不定冠詞「a」および「an」は、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0113】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、「および/または」なる語句は、そのように結合された要素、すなわち場合によっては結合的に存在し、場合によっては選言的に存在する要素の「一方または両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」を用いて列挙された複数の要素は、同じように、すなわちそのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。具体的に特定されたそれらの要素と関連してもしなくても、「および/または」句により具体的に特定される要素以外の他の要素が所望により存在してもよい。したがって、非限定的な例として、「含む(comprising)」などのオープンエンデッド(open-ended)な言語と併せて使用される場合、「Aおよび/またはB」への言及は、1つの態様において、Aのみ(所望により、B以外の要素を含む)を;他の態様において、Bのみ(所望によりA以外の要素を含む)を;さらに別の実施形態において、AおよびBの両方(所望により他の要素を含む);等を意味することができる。
【0114】
本明細書および特許請求の範囲において使用される「または」は、上記で定義した「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離している場合、「または」または「および/または」は包括的である、すなわち、要素の数またはリストの1を超えたも含む少なくとも1つの包含物であり、および、所望により追加のリストにない項目を含むと解釈されるべきである。「1つだけ」または「正確に1つ」、または、特許請求の範囲において使用される「からなる」のような反対に明確に示された用語のみが、要素の数またはリストの正確に1つの要素の包含物を意味する。一般に、本明細書において使用される「または」なる語は、「いずれかの」、「1つの」、「ただ1つの」、または「正確に1つの」などの排他的な用語により先行される場合、排他的な選択(すなわち「一方またはもう片方だが両方ではない」)を示すとしてのみ理解される。特許請求の範囲において使用される「本質的にからなる」は、特許法の分野において使用されるその通常の意味を有する。
【0115】
1つ以上の要素のリストを参照して、本明細書および特許請求の範囲において使用される「少なくとも1つの」なる語句は、要素のリストにおけるいずれか1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、必ずしも要素のリスト内に具体的にリストされた要素のそれぞれおよび全ての少なくとも1つを含むとは限らず、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外しないと理解されるべきである。この定義はまた、要素が、具体的に特定されたそれらの要素に関連してもしなくても、「少なくとも1つの」なる語句が意味する要素のリスト内で具体的に特定された要素以外に所望により存在してもよいことを可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、等価に「AまたはBの少なくとも1つ」または、等価に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの態様において、Bが存在しない(および所望によりB以外の要素を含む)少なくとも1つの、所望により1つ以上のAを意味することができ;別の態様において、Aが存在しない(および所望によりA以外の要素を含む)少なくとも1つの、所望により1を超えたBを意味することができ;さらに別の態様において、少なくとも1つ、所望により1を超えたAおよび、少なくとも1つ、所望により1を超えたB(および所望により他の要素を含む)等を意味することができる。
【0116】
反対に明確に示されない限り、複数のステップまたは動作を含む本明細書において請求されるいずれの方法においても、該方法のステップまたは動作の順序は、必ずしもステップまたは動作が列挙される順序に限定されないことが理解されるべきである。
【0117】
本明細書および特許請求の範囲において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」などの全ての移行句(transitional phrases)は、オープンエンデッドである、すなわち限定されないが含むことを意味すると理解されるべきである。「からなる(consisting of)」および「本質的にからなる(consisting essentially of)」なる移行句のみが、米国特許庁特許審査基準第2111.03項に記載されているように、それぞれクローズド(closed)またはセミクローズド(semi-closed)な移行句である。代替の態様において、オープンエンデッドな移行句(例えば、「含む(comprising)」)を使用して本明細書に記載された態様もまた、該オープンエンデッドな移行句により記述される特徴「からなる」および「本質的にからなる」としても考慮されることが理解されるべきである。例えば、本開示が「AおよびBを含む組成物」を記載する場合、本開示はまた、代替の態様「AおよびBからなる組成物」および「本質的にAおよびBからなる組成物」を考慮する。
【配列表】