(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ファイバー、ファイバー製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
D01F9/08 A
D01F9/08 B
(21)【出願番号】P 2022510035
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011047
(87)【国際公開番号】W WO2021193343
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020052418
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518050171
【氏名又は名称】新日本繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171974
【氏名又は名称】石川 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】深澤 裕
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-124253(JP,A)
【文献】特開2008-266038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F9/08-9/32
C04B5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭ガス化複合発電(IGCC)から排出される廃棄物50~100質量部、
石炭ガス化複合発電(IGCC)以外の石炭火力発電所からの廃棄物0~50質量部を原料とするファイバーの製造方法であって、
前記原料中の、
i)SiO
2及びAl
2O
3の合計の含有量は、40質量%以上70質量%以下であり、
ii) Al
2O
3/(SiO
2+Al
2O
3)(質量比)は、0.15~0.40の範囲であり、
iii)CaOの含有量は、
10質量%以上30質量%以下、であり、かつ、
前記原料を1300度以上1325度以下の温度まで昇温する工程(I)と、
前記工程(I)にて到達の前記原料の温度を50分以上120分以下の範囲で保持する工程(II)と、
前記工程(II)を経た前記原料の温度を、1400度を上限に昇温させながら形成孔から流出させ、ファイバー状に形成する工程(III)を有する、ファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバー、ファイバー製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭を燃料とする火力発電の一つの方式として、石炭ガス化複合発電(以下、IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)とも記載)が知られている。IGCCでは、石炭ガス化ガスを燃料としてガスタービンを駆動して電力を得ると共に、ガスタービンの排気熱を回収して蒸気を発生させ、発生した蒸気により蒸気タービンを駆動して電力を得ている。
【0003】
IGCCを使うことで、従来の石炭火力発電より高い熱効率で発電することが可能となる。具体的には、1400度~1500度級の商用IGCC場合、送電端で低位発熱量基準48~50%程度の熱効率が実現できる。これは従来の超臨界圧石炭火力発電(SC)や超々臨界圧石炭火力発電(USC)の40%程度の熱効率より高く、開発中の先進超々臨界圧石炭火力発電(A-USC)と同等の熱効率となる。また、IGCCは、従来の石炭火力発電では使うことが出来なかった低品位炭が利用できるため、燃料費のコスト削減や燃料調達先の多様化が期待できる。
【0004】
以上のように、IGCCは、高効率な次世代発電法として期待されている。しかしながら、IGCCを稼働させた際に発生する廃棄物については、粉砕等の加工を行いセメントの骨材として利用される程度にしか利用方法が確立しておらず(特許文献1参照)、更なる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、石炭ガス化複合発電から排出される廃棄物をより有効に利用できるファイバー、ファイバー製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明に係るファイバーは、石炭ガス化複合発電(IGCC)から排出される廃棄物を原料として含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、石炭ガス化複合発電から排出される廃棄物をより有効に利用できるファイバー、ファイバー製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1における原料(IGCC廃棄物)の成分組成を示す図である。
【
図2】実施例1で利用した電気炉の概要を示す図である。
【
図3】実施例1の溶融紡糸性の結果を示す表である。
【
図6】原料S1から形成されたファイバーのXRDスペクトラムである。
【
図7】原料S1から形成されたファイバーの拡大図(顕微鏡写真)である。
【
図8】実施例2に係る原料の混合比率(%)を示す図である。
【
図9】実施例2に係る廃棄物等の成分組成を示す図である。
【
図10】実施例2に係る原料の成分組成を示す図である。
【
図11】実施例2に係る原料の溶融紡糸性等の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明において、
SiO2をS成分と称し、SiO2の含有量を[S]と記載する場合がある。
Al2O3をA成分と称し、Al2O3の含有量を[A]と記載する場合がある。
CaOをC成分と称し、CaOの含有量を[C]と記載する場合がある。
【0011】
[実施形態1]
本実施形態1に係るファイバーは、石炭ガス化複合発電(IGCC)から排出される廃棄物(以下、IGCC廃棄物ともいう。IGCC廃棄物には、IGCCから排出されるスラグ、石炭灰などが含まれる)を原料とする。原料であるIGCC廃棄物は、SiO2及びAl2O3を主成分とし、ファイバー中のSiO2及びAl2O3の合計に占めるAl2O3の比率が特定の範囲内にあり、更にCaOを特定量含有する。
【0012】
本実施形態1に係るファイバーの原料は、IGCC廃棄物であり、原料中のSiO2及びAl2O3の合計の含有量は40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。[S]及び[A]の合計が40質量%未満、又は70質量%超のいずれの場合にも原料の溶融温度が高くなるか、または溶融物の粘度が高くなるため溶融紡糸性に劣る。なお、溶融紡糸とは、原料を熱で溶かした溶融物を口金に形成された孔(貫通孔)から排出して繊維状にした後、冷やして固める手法のことをいう。また、溶融紡糸性とは、溶融紡糸でのファイバーの製造しやすさのことをいう。
【0013】
本実施形態1に係るファイバーの原料は、SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合([A]/([A]+[S]))(質量比)は0.15~0.40の範囲内であることが好ましい。[A]/([A]+[S])(質量比)が0.15未満、又は0.40超のいずれの場合にもファイバーは、溶融温度が高くなるか、または溶融物の粘度が高くなるため溶融紡糸性に劣る。
【0014】
本実施形態1に係るファイバーの原料は、CaOの含有量は5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。CaOの含有量が5質量%未満であると、ファイバーの溶融温度が高くなるため省エネルギの観点から好ましくない。また、CaOの含有量は30質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
本実施形態1に係るファイバーの原料は、成分のSiO2、Al2O3、及びCaOが上述の組成条件を満足するように配合されていれば、原料に制約なく本実施形態1に係るファイバーを得ることができる。本実施形態1に係るファイバーの原料としては、石炭ガス化複合発電(IGCC)により排出される廃棄物(IGCC廃棄物)などを使用することが好ましい。IGCC廃棄物は、主成分としてSiO2、Al2O3を含むので、本実施形態1に係るファイバーを得るのに好適であることや原料コストを抑制することができることが理由である。
【0016】
なお、本実施形態1に係るファイバーは、不可避不純物を含むことを排除するものではない。主な不可避不純物としては、MgO、Na2O、K2O、TiO2、CrO2などがある。
【0017】
本実施形態1において、原料の成分比(質量比)と、原料を溶融して製造したファイバーの成分比(質量比)との間に実質的な差はみられない。このため、原料の成分比を、該原料を溶融して製造したファイバーの成分比とみなすことができる。
【0018】
本実施形態1に係るファイバーは、非晶性に富む。このため、ファイバーは、結晶相/非結晶相海面の剥離に起因する強度低下がほとんど無く、高強度のファイバーを得ることができる。
ここで、非晶質の尺度たる非晶化度はX線回析(XRD)スペクトラムにより、下記数式(1)にて算出される。
非晶化度(%)=[la/(la+lc)]×100・・・(1)
上記(1)式において、la及びlcは、それぞれ以下のとおりである。
la:非晶質ハローの散乱強度の積分値である。
lc:ファイバーについてX線回析分析を行ったときの結晶質ピークの散乱強度の積分値である。
本実施形態1に係るファイバーの非晶化度は、その組成にもよるが、通常90%以上の値を示す。ファイバーの非晶化度は、高い場合には95%以上にも達し、最も高い場合には実質的に非晶質相のみからなる。ここで、実質的に非晶質相のみからなるとは、X線回析スペクトラムには非晶質ハローのみが認められ、結晶質のピークが認められないことをいう。
【実施例1】
【0019】
以下、実施例1について説明する。
以下の試験例において、ファイバーの原料(原料S1)として、石炭ガス化複合発電(IGCC)により排出されるIGCC廃棄物を準備した。IGCC廃棄物は、国内の石炭ガス化複合発電(Integrated coal Gasification Combined Cycle)より排出されたものを用いた。なお、原料S1はIGCC廃棄物100%となっている。
【0020】
また、本実施例1では、蛍光X線分析法により原料S1(IGCC廃棄物)の成分を分析した。
図1に原料S1(IGCC廃棄物)の成分組成を示す。
【0021】
また、原料S1をファイバーに製造するのに電気炉を用いた。電気炉の概要を
図2に示す。電気炉1は、中央に内径dが10cmの貫通孔4が形成された高さHが60cm、外径Dが50cmの円筒体である。貫通孔4内には、吊り棒3により、内径2.1cm、長さ10cmのタンマン管2が吊るされる。該タンマン管2には原料30g(原料S1)が仕込まれる。タンマン管2の底部中央には、径2mmの孔が設けられており、加熱により配合物が溶融すると、重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から流出する。流出した溶融物は、外気に触れて冷却されて固化されファイバーとなる。ここで、流出した溶融物は、急速に冷却されるためファイバーは実質的に非晶質のみからなる。
【0022】
電気炉は、所定の昇温プログラムにより昇温されるが、タンマン管2内の溶融物の温度は炉内温度より略50度低い温度で追随することを予め確認している。
【0023】
実施例1での原料S1の溶融紡糸の条件及び溶融紡糸結果の結果を
図3に示す。
なお、本実施例1においては、溶融紡糸性の評価を以下の通りとした。
〇:連続した長い糸になる。
△:タンマン管底部に設けられた孔より溶融軟化した原料が出て、ごく短い繊維の発生があるものの連続した長い糸とならない。
×:タンマン管底部に設けられた孔から何も出ず、糸にならない。
【0024】
図3は、実施例A1、A2及び比較例E1~E3で使用した原料S1の温度保持(アニール)の有無、温度変化の有無、溶融紡糸性の結果をまとめた表である。
図4は、実施例A1、A2及び比較例E1~E3の炉内温度の時間変化を示した表である。
図4(a)は、実施例A1の炉内温度の時間変化を示した表である。
図4(b)は、実施例A2の炉内温度の時間変化を示した表である。
図4(c)は、比較例E1の炉内温度の時間変化を示した表である。
図4(d)は、比較例E2の炉内温度の時間変化を示した表である。
図4(e)は、比較例E3の炉内温度の時間変化を示した表である。
図5は、
図4に示した実施例A1、A2及び比較例E1~E3の炉内温度の時間変化をグラフ化したものである。
【0025】
(実施例A1)
原料S1をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を1350度まで昇温(原料S1の温度は1300度)した後、略1350度にて所定時間(55分)保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を変化させながら(温度変化「〇」)紡糸性を確認したところ、原料S1はファイバーとなった(溶融紡糸性「〇」)。
【0026】
(実施例A2)
原料S1をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を1375度まで昇温(原料S1の温度は1325度)した後、略1375度にて所定時間(120分)保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を変化させながら(温度変化「〇」)紡糸性を確認したところ、原料S1はファイバーとなった(溶融紡糸性「〇」)。
【0027】
(比較例E1)
原料S1をタンマン管内にセットした後、炉内温度を1350度まで昇温(原料S1の温度は1300度)した後、略1350度にて所定時間(94分)保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を変化させずに(温度変化「×」)紡糸性を確認したが、原料S1はファイバーとならなかった(溶融紡糸性「×」)。
【0028】
(比較例E2)
原料S1をタンマン管内にセットした後、炉内温度を1400度まで昇温(原料S1の温度は1350度)した後、炉内温度を変化させながら(温度変化「〇」)紡糸性を確認したが、タンマン管底部に設けられた孔より溶融軟化した原料が出て、ごく短い繊維の発生があるものの、原料S1はファイバーとならなかった(溶融紡糸性「△」)。また、1400度への昇温後、所定時間温度を保持する温度保持は行わなかった(温度保持「×」)。
【0029】
(比較例E3)
原料S1をタンマン管内にセットした後、炉内温度を1320度まで昇温(原料S1の温度は1270度)した後、略1320度にて所定時間(20分)保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度は変化させず(温度変化「×」)に紡糸されるかを確認したが、原料S1はファイバーとならなかった(溶融紡糸性「×」)。
【0030】
(考察)
実施例A1、A2及び比較例E1~E3から、石炭ガス化複合発電(IGCC)により排出されるIGCC廃棄物を原料としてファイバーを製造できることが示された。
IGCC廃棄物を原料としてファイバーを製造する場合の条件として、以下の条件が好ましいことが確認できた。
(1)1300度以上に加熱すること。
(2)ファイバーに成形する前に1300度以上の温度で所定時間(50分以上であることが好ましく、55分以上であることがより好ましい)保持すること。
(3)IGCC廃棄物の温度を変化(本実施例では、温度上昇)させながら形成孔から流出させること。
【0031】
図6は、原料S1から形成されたファイバーのXRDスペクトラムである。
図6に示すように、上記実施例A1で得られたファイバーのX線回析(XRD)スペクトラムには非晶質ハローのみが認められ、結晶質のピークが認められなかった。このことから、IGCC廃棄物から生成されたファイバーは、実質的に非晶質のみからなることがわかった。
【0032】
また、
図7は、
図6に示す原料S1から形成されたファイバーの拡大図(顕微鏡写真)である。
図7に示すように、外径が500μmを超えるファイバーを得ることができた。このファイバーは、
図6を参照して説明したように実質的に非晶質のみからなる。これは、溶融状態となったIGCC廃棄物がタンマン管2の底部中央に設けられた孔から流出した後、急冷されることで規則的な原子配列が取れず非晶質となるためであると考えられる。そして、今回の実施例1において、外径が500μmを超えるファイバーについて実質的に非晶質のみからなることが認められた。ここで一般に、ファイバーの外径が細いほど冷却される速度が速いと考えられることから
図7に示すファイバーの外径(505.97μm)よりも外径が細ければ実質的に非晶質のみからなると推定できる。より具体的には、外径が500μm以下のファイバーであれば実質的に非晶質のみからなると推定できる。
【0033】
[実施形態2]
本実施形態2に係るファイバーは、石炭ガス化複合発電(IGCC)から排出される廃棄物を原料として含む。具体的には、本実施形態2に係るファイバーは、石炭ガス化複合発電(IGCC)から排出される廃棄物に、石炭を燃料とするIGCCではない火力発電所から排出される廃棄物及び玄武岩の少なくとも一方を原料として含む。
なお、実施形態1と同様に、本実施形態2に係るファイバーの原料中のSiO2及びAl2O3の合計の含有量は40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。また、本実施形態2に係るファイバーの原料は、SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合([A]/([A]+[S]))(質量比)は0.15~0.40の範囲内であることが好ましい。また、本実施形態2に係るファイバーの原料は、CaOの含有量は5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、実施形態1に係るファイバーと同様に、本実施形態2に係るファイバーは、実質的に非晶質相のみからなることが好ましい。
【実施例2】
【0034】
以下、実施例2について説明する。
本実施例2では、ファイバーの原料として、IGCC廃棄物、石炭を燃料とするIGCCではない火力発電所から排出された廃棄物及び玄武岩を所定の混合比率(質量%)で混合したものを準備した。以下、
図8を参照して各原料S2~S11の混合比率を説明する(小数点以下を四捨五入しているため合計は必ずしも100%とはならない)。なお、
図8において、IGCCスラグは、IGCC廃棄物であることを示し、FA1~FA8は、IGCCではない石炭火力発電所の廃棄物であることを示している(FA1~FA8は、互いに異なる発電所である)。また、BA1は、玄武岩(バサルト)であることを示している。なお、本実施例2では、蛍光X線分析法により原料S2~S11の成分を分析した。また、原料S2~S11からファイバーを製造するのに
図2を参照して説明した電気炉を用いた。
【0035】
原料S2は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が50質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が50質量%の割合で混合されている。
【0036】
原料S3は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が75質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が25質量%の割合で混合されている。
【0037】
原料S4は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が90質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が10質量%の割合で混合されている。
【0038】
原料S5は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が30質量%、玄武岩(バサルト)が5質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が15質量%の割合、石炭火力発電所FA7から排出された廃棄物が50質量%で混合されている。
【0039】
原料S6は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が50質量%、石炭火力発電所FA3から排出された廃棄物が50質量%の割合で混合されている。
【0040】
原料S7は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が20質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が10質量%、石炭火力発電所FA3から排出された廃棄物が30質量%、石炭火力発電所FA4から排出された廃棄物が40質量%の割合で混合されている。
【0041】
原料S8は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が25質量%、石炭火力発電所FA4から排出された廃棄物が10質量%、石炭火力発電所FA6から排出された廃棄物が65質量%の割合で混合されている。
【0042】
原料S9は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が10質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が16質量%、石炭火力発電所FA3から排出された廃棄物が36質量%、石炭火力発電所FA6から排出された廃棄物が37質量%の割合で混合されている。
【0043】
原料S10は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が25質量%、石炭火力発電所FA4から排出された廃棄物が10質量%、石炭火力発電所FA6から排出された廃棄物が65質量%の割合で混合されている。
【0044】
原料S11は、石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物が60質量%、石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物が40質量%の割合で混合されている。
【0045】
また、本実施例2では、蛍光X線分析法により原料S2~S11となる廃棄物及び玄武岩(廃棄物等)の成分を分析した。分析には日本フィリップス株式会社の蛍光X線分析装置(Philips PW2404)を用い、蛍光X線分析装置の試料室を真空状態として廃棄物等の成分を分析した。
図9に実施例2に係る廃棄物等の成分組成を示す。なお、下記において0質量%とは計測不能なほど微量ということであり、厳密に「0」であることを意味しない。
【0046】
国内の石炭ガス化複合発電所(IGCC)から排出された廃棄物は、[F]が9質量%、[S]が54質量%、[A]が11質量%、[C]が17質量%、その他の含有量が9質量%である。
【0047】
玄武岩(バサルトBA1)は、[F]が19質量%、[S]が46質量%、[A]が11質量%、[C]が17質量%、その他の含有量が6質量%である。
【0048】
国内の石炭火力発電所FA1から排出された廃棄物は、[F]が13質量%、[S]が57質量%、[A]が17質量%、[C]が6質量%、その他の含有量が7質量%である。
【0049】
国内の石炭火力発電所FA2から排出された廃棄物は、[F]が55質量%、[S]が35質量%、[A]が5質量%、[C]が2質量%、その他の含有量が3質量%である。
【0050】
国内の石炭火力発電所FA3から排出された廃棄物は、[F]が2質量%、[S]が62質量%、[A]が27質量%、[C]が3質量%、その他の含有量が5質量%である。
【0051】
国内の石炭火力発電所FA4から排出された廃棄物は、[F]が97質量%、[S]が0質量%、[A]が0質量%、[C]が0質量%、その他の含有量が3質量%である。
【0052】
国内の石炭火力発電所FA5から排出された廃棄物は、[F]が21質量%、[S]が35質量%、[A]が12質量%、[C]が22質量%、その他の含有量が10質量%である。
【0053】
国内の石炭火力発電所FA6から排出された廃棄物は、[F]が1質量%、[S]が73質量%、[A]が22質量%、[C]が0質量%、その他の含有量が4質量%である。
【0054】
国内の石炭火力発電所FA7から排出された廃棄物は、[F]が1質量%、[S]が19質量%、[A]が17質量%、[C]が55質量%、その他の含有量が8質量%である。
【0055】
国内の石炭火力発電所FA8から排出された廃棄物は、[F]が0質量%、[S]が34質量%、[A]が13質量%、[C]が42質量%、その他の含有量が11質量%である。
【0056】
図10は、実施例2に係る原料S2~S11の成分組成を示す図である。
図10に示す成分組成は、
図8の各原料S2~S11の混合比率及び
図9の廃棄物等の成分組成から算出した。なお、小数点以下を四捨五入しているため合計は必ずしも100%とはならない。
【0057】
原料S2は、[F]が32質量%、[S]が45質量%、[A]が8質量%、[C]が10質量%、その他の含有量が6質量%である。また、[S]+[A]が53質量%、[A] /([S]+[A])が0.15である。
【0058】
原料S3は、[F]が21質量%、[S]が49質量%、[A]が10質量%、[C]が13質量%、その他の含有量が8質量%である。また、[S]+[A]が59質量%、[A] /([S]+[A])が0.16である。
【0059】
原料S4は、[F]が14質量%、[S]が52質量%、[A]が10質量%、[C]が16質量%、その他の含有量が8質量%である。また、[S]+[A]が63質量%、[A] /([S]+[A])が0.17である。
【0060】
原料S5は、[F]が12質量%、[S]が33質量%、[A]が13質量%、[C]が34質量%、その他の含有量が8質量%である。また、[S]+[A]が46質量%、[A] /([S]+[A])が0.28である。
【0061】
原料S6は、[F]が6質量%、[S]が58質量%、[A]が19質量%、[C]が10質量%、その他の含有量が7質量%である。また、[S]+[A]が77質量%、[A] /([S]+[A])が0.25である。
【0062】
原料S7は、[F]が47質量%、[S]が33質量%、[A]が11質量%、[C]が5質量%、その他の含有量が4質量%である。また、[S]+[A]が44質量%、[A] /([S]+[A])が0.25である。
【0063】
原料S8は、[F]が13質量%、[S]が61質量%、[A]が17質量%、[C]が5質量%、その他の含有量が4質量%である。また、[S]+[A]が78質量%、[A] /([S]+[A])が0.22である。
【0064】
原料S9は、[F]が11質量%、[S]が60質量%、[A]が20質量%、[C]が3質量%、その他の含有量が6質量%である。また、[S]+[A]が80質量%、[A] /([S]+[A])が0.25である。
【0065】
原料S10は、[F]が13質量%、[S]が61質量%、[A]が17質量%、[C]が5質量%、その他の含有量が4質量%である。また、[S]+[A]が78質量%、[A] /([S]+[A])が0.22である。
【0066】
原料S11は、[F]が27質量%、[S]が46質量%、[A]が9質量%、[C]が11質量%、その他の含有量が7質量%である。また、[S]+[A]が55質量%、[A] /([S]+[A])が0.16である。
【0067】
図11は、原料S2~S11の温度保持(アニール)の有無、温度変化の有無、溶融紡糸性の結果をまとめた表である。
図12は、実施例2の原料S2~S11の温度条件(炉内温度の時間変化)を示した表である。ここで、
図12(a)は、実施例A3、A4の炉内温度の時間変化を示した表である。
図12(b)は、比較例A5の炉内温度の時間変化を示した表である。
図12(c)は、比較例E4-9の炉内温度の時間変化を示した表である。
図12(d)は、比較例E10の炉内温度の時間変化を示した表である。
また、
図13は、実施例2の原料S2~S11の温度条件(炉内温度の時間変化)をグラフ化したものである。
【0068】
(実施例A3)
原料S2をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を15時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1450℃(原料温度1400℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物が固まり球状となったものが落下し、続けて溶融物がファイバー状に落下することでファイバーが生成された(溶融紡糸性「〇」)。また、原料S2から得られたファイバーのXRDスペクトラムを調べたところ、結晶質のピークが認められた(アモルファス性「×」)。
【0069】
(実施例A4)
原料S3をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を15時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1450℃(原料温度1400℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物が固まり球状となったものが落下し、続けて溶融物がファイバー状に落下することでファイバーが生成された(溶融紡糸性「〇」)。また、原料S3から得られたファイバーのXRDスペクトラムを調べたところ、ファイバーのX線回析(XRD)スペクトラムには非晶質ハローのみが認められ、結晶質のピークが認められなかった(アモルファス性「〇」)。
【0070】
(実施例A5)
原料S4をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を8時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物が固まり球状となったものが落下し、続けて溶融物がファイバー状に落下することでファイバーが生成された(溶融紡糸性「〇」)。また、原料S4から得られたファイバーのXRDスペクトラムを調べたところ、ファイバーのX線回析(XRD)スペクトラムには非晶質ハローのみが認められ、結晶質のピークが認められなかった(アモルファス性「〇」)。
【0071】
(比較例E4)
原料S5をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物が固まり球状となったものが落下したが、溶融物がファイバー状に落下することはなくファイバーは生成されなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0072】
(比較例E5)
原料S6をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物がファイバー状に落下しなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0073】
(比較例E6)
原料S7をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物がファイバー状に落下しなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0074】
(比較例E7)
原料S8をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物がファイバー状に落下しなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0075】
(比較例E8)
原料S9をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物がファイバー状に落下しなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0076】
(比較例E9)
原料S10をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約1375℃まで昇温(原料温度1325℃)した後、約1375℃にて1時間保持した(温度保持「〇」)。その後、炉内温度を5時間かけて約1375℃(原料温度1325℃)から約1400℃(原料温度1350℃)まで昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた。タンマン管の底部中央に設けられた孔からは、溶融物がファイバー状に落下しなかった(溶融紡糸性「×」)。なお、ファイバーが得られなかったためXRDスペクトラムは確認していない(アモルファス性「-」)。
【0077】
(比較例E10)
原料S11をタンマン管内にセットした。次に、炉内温度を室温(25℃)から約800℃(原料温度750℃)まで約20分かけて昇温した後、昇温速度を変えて炉内温度を約800℃(原料温度750℃)から約1350℃(原料温度1300℃)まで約60分かけて昇温した。その後更に、昇温速度を変えて炉内温度を約1350℃(原料温度1300℃)から約1375℃(原料温度1325℃)まで約340分かけて昇温しながら(温度変化「〇」)重力によりタンマン管の底部に設けられた孔から溶融物を流出させた(溶融紡糸性「「〇」、温度保持「×」)。また、原料S11から得られたファイバーのXRDスペクトラムを調べたところ、結晶質のピークが認められた(アモルファス性「×」)。
【0078】
(考察)
上記実施例2の結果から、石炭ガス化複合発電(IGCC)により排出されるIGCC廃棄物を含む原料からファイバーを製造できることが示された。より具体的には、IGCC廃棄物に加え、石炭を燃料とするIGCCではない火力発電所から排出される廃棄物及び玄武岩の少なくとも一方を含む原料からファイバーを製造できることが示された。
【0079】
また、上記実施例2の結果から、ファイバーの原料中のSiO2及びAl2O3の合計の含有量は40質量%以上70質量%以下であることが好ましいことがわかった。またファイバーの原料は、SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合([A]/([A]+[S]))(質量比)は0.15~0.40の範囲内であることが好ましいことがわかった。また、ファイバーの原料は、CaOの含有量は5質量%以上30質量%以下であることが好ましいことがわかった。
また、本発明に必須の構成ではないが、ファイバーは、結晶相/非結晶相海面の剥離に起因する強度低下がほとんど無く、高強度のファイバーを得るために、実質的に非晶質相のみからなることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
IGCC廃棄物を含む原料から得られたファイバーは、ロービング、チョップドストランド、織物、不織布等に加工し、被覆材や補強材として使用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 電気炉
2 タンマン管
3 吊り棒
4 開口部
5 ファイバー
D 電気炉外径
H 電気炉高さ
d 電気炉開口部内径