(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】慢性肉芽腫症の処置
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241112BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20241112BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241112BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20241112BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N5/10 ZNA
A61P37/04
A61K35/15
A61K35/28
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2022520041
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 EP2020077638
(87)【国際公開番号】W WO2021064164
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-15
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501393966
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジラー, ウルリッヒ ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ライヒェンバッハ, ヤニーネ
(72)【発明者】
【氏名】ハンゼラー, ヴァルター
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】BRENDEL, C et al. ,Human miR223 promoter as a novel myelo-specific promoter for chronic grannulomatous disease gene therapy,Hum Gene Ther Methods,24(3),2013年06月,pp.151-159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターで形質導入され、単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞であって、前記レンチウイルスベクターは、
- gp91phoxおよびp47phoxから選択されるポリペプチ
ドをコードするコード核酸配列;
を、
-
配列番号01に記載のmiR223プロモーター配
列
の転写制御下で含む、単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【請求項2】
前記レンチウイルスベクターは、配列番号02に
記載の核酸配列を含
む、請求項1に記載の単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【請求項3】
前記細胞は、CD34陽性造血幹細胞である、請求項1または2のいずれか1項に記載のヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【請求項4】
治療用細胞調製物を調製するための方法であって、前記方法は、
a. gp91phoxおよびp47phoxから選択されるポリペプチドをコードする欠陥遺伝子と関連する遺伝子欠陥と関連する慢性肉芽腫症に罹患している患者から単離された、造血幹細胞を含む細胞の調製
物を提供する工程;
b. 前記細胞の調製物を、以下:
i. gp91phoxおよびp47phoxから選択されるポリペプチ
ドをコードするコード核酸配列を;
ii.
配列番号01に記載のmiR223プロモーター配
列
の転写制御下で含むレンチウイルスベクターで形質導入する工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
造血幹細胞を含む細胞の前記調製物が、CD34陽性造血幹細胞の調製物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
慢性肉芽腫症の処置または防止における使用のための、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離されたヒト造血幹細胞もしくは骨髄系前駆細胞、または請求項4
または5に記載の方法によって得られる細胞調製物。
【請求項7】
前記細胞は、自家細胞である、請求項
6に記載の慢性肉芽腫症の処置または防止において使用するための単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性肉芽腫症を処置するための手段および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
慢性肉芽腫症(CGD)は、サウジアラビアにおける1/19.230(Suliamanら. (2009) Pediatric Asthma, Allergy & Immunology 22, 21-26)からスウェーデンにおける1/450.000(Ahlinら. (1995) Acta Paediatr 84, 1386-1394)の間の発生率を有する先天性の免疫不全症の群を構成する。上記疾患は、罹患患者の身体が細菌および真菌感染から自身を防御できないことから、人生の早い時期に現れる。平均余命は、抗生物質および抗真菌剤での生涯にわたる予防的処置にもかかわらず、強く損なわれる(Kuhnsら. (2010) New Engl J Med 363 (27) 2600-10; van den Bergら. (2009) PloS one 4(4): e5234)。上記疾患の主要原因は、貪食細胞(顆粒球、単球、およびマクロファージ)が、貪食細胞のNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)オキシダーゼ酵素複合体内の欠陥に起因して、病原体不活性化のための活性酸素種(ROS)を生成する能力が大きく減少されるかまたはないことである。NADPHオキシダーゼ酵素複合体は、6個のサブユニット(gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2)からなる。全CGD患者のうちの約60%において、上記疾患は、X染色体上のgp91phoxサブユニットコード遺伝子(CYBB)内の変異によって引きおこされ、従って、X-CGDといわれる。患者のうちの別の約30%は、常染色体劣性NCF1遺伝子(p47phoxサブユニット)の変更(CGDのp47phox欠損型)を提示する一方で、その症例のうちのわずか5%は、p67phoxおよびp22phoxにおける常染色体劣性変異に起因する(Roosら. (2003) Microbes Infect 5: 1307-15)。
【0003】
遺伝子治療は、単一遺伝子疾患に罹患している患者の新たな処置選択肢である。現在の技術水準の遺伝子治療の原理は、変異した遺伝子の機能的バージョンを罹患細胞のゲノムに導入することである。現在の臨床アプローチは、アデノ随伴ウイルスベースのベクターによる、またはレトロウイルス(ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルス)ベクターによる治療用遺伝子の送達に大きく依拠する。その変異した遺伝子の挿入される機能的バージョン(導入遺伝子)は、新たな遺伝子生成物の発現を生じ、これは、天然の遺伝子生成物の非存在を代償する。2000年の最初の臨床上の成功以来、臨床上の成功が遺伝子治療のこの遺伝子追加アプローチによって達成された疾患数は、連続的に上昇している。
【0004】
デザイナーヌクレアーゼ(ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(Transcription activator-like effector nuclease)(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)CRISPR/Cas方法論)の最新の発展は、配列特異的遺伝子改変(欠失または修復)、およびDNAの配列特異的挿入を可能にする。治療目的での配列特異的遺伝子破壊は、臨床適用が既に見出されている(TALEN:W.Quasimら.(2015)Blood 126 :2016;ZNF:ClinicalTrials.gov Identifier NCT02500849およびCRISPR/Cas9:Cyranoski D.ら.Nature 539,479;ClinicalTrials.gov Identifier:NCT03057912)。現在では、ジンクフィンガーヌクレアーゼのみが、血友病B、MPS IおよびMPS IIを治癒するために、配列特異的挿入に関して臨床的に評価される(https://www.sangamo.com/product-pipeline)。
【0005】
目下のところ、CGDの唯一の治癒的治療は、ヒト白血球抗原(HLA)一致ドナーからの同種異系造血幹細胞(HSC)移植である。非血族の欧州系の家系の患者のうちの約75%までに関しては、HLA一致ドナーが同定され得る(Gragerら. (2014) N Engl J Med 371: 339-48)。残りの25%に関しては、自家HSCの遺伝子治療ベースの補正は、さらなる潜在的に治癒的な処置選択肢の代表である。
【0006】
CGDの遺伝子治療は、従って、HLA一致HSCドナーがいない患者にとって合理的選択肢である。X連鎖性CGDの女性キャリアから学習されるように、20%を上回るNADPHオキシダーゼ活性は、健常表現型と関連し得る(Bjorgvinsdottirら. (1997) Blood 89, 41-48; Kuhnsら. (2010) N Engl J Med 363, 2600-2610)。従って、およそ20%のNAPDHオキシダーゼ活性の遺伝子治療補正レベルは、臨床上の成功を達成するために十分と考えられる。
【0007】
X-CGD患者の最初の臨床上成功したフェーズI/II遺伝子治療治験は、2004年にUniversity Children’s Hospital ZurichおよびJohann Wolfgang Goethe University Hospital Frankfurtによって開始された(NCT 00927134; NCT 00564759)。この治験の中では、2名の小児が、チューリッヒで処置され、2名の成人患者がフランクフルトで処置された。その遺伝子治療ベクターは、導入遺伝子としてのgp91phoxコードcDNAを有するLTR駆動性(非自己不活性化(SIN))ガンマレトロウイルスベクターからなり、これは、遍在性の導入遺伝子発現を生じた。上記研究は、全4名の患者が既存の処置で難治性の感染症から回復したことから、臨床上成功した(Ottら. (2006) Nat Med 12: 401-409; Silerら. (2015) Curr Gene Ther 15: 416-427; Bianchiら. (2009) Blood 114: 2619-2622)。しかし、長期間の追跡から、2010年の治験の閉鎖をもたらす2件の重篤有害事象(SAE)が明らかになった:
・トランス活性化: ウイルスベクターがMDS1-EVI1遺伝子に隣接して組み込まれたクローンにおいて、ガンマレトロウイルスベクターの長い末端反復に存在するエンハンサー配列が、これらHSCクローンの選択上の利点をもたらすMDS1-EVI1がん原遺伝子のプロモーターと相互作用した(Evi1トランス活性化)。これは、4名の遺伝子治療処置した患者のうちの3名において、クローン優位(clonal dominance)、およびモノソミー7を伴うゲノム不安定性、および骨髄異形成症候群(MDS)の発生を引きおこした。
・サイレンシング: 上記ウイルスベクターのプロモーターは、徐々にメチル化され、これは、治療用導入遺伝子の発現の減少(導入遺伝子サイレンシング)を、およびCGDの再出現をもたらした。
【0008】
これらのSEAは、
(I)MDS1-EVI1遺伝子に近接したウイルスベクターの組み込みを防止する、異なる組み込みプロフィール(例えば、異なるウイルスベクターの使用)、
(II)トランス活性化の場合に、HSCクローンの潜在的な選択上の利点を防止するために、組織特異的導入遺伝子発現(すなわち、導入遺伝子発現を必要とする骨髄系由来細胞においてのみであって、ただしHSCにおいてではない)、および
(III)長期間の有効性を促進するために、時間をわたっての導入遺伝子発現のサイレンシングの防止、
を伴うレンチウイルス自己不活性化(SIN)ベクターに基づいて、より安全な遺伝子治療ベクターの開発を義務付けた。
【0009】
用語および定義
【0010】
用語「レンチウイルスベクター」とは、本明細書の文脈において使用される場合、レトロウイルスに由来し、ヒト遺伝子治療に適合させたビリオンまたはウイルスゲノムをいう。それは、コード配列およびヒト患者の細胞において作動可能なプロモーターを含む導入遺伝子を含む。レンチウイルス遺伝子治療は、当業者に周知である;そのトピックに関する近年の科学刊行物としては、Milone and O’Doherty, (2018) Leukemia 32, 1529-1541; Yaniez-Muniozら. (2006) Nature Medicine 12, 348-353; Aiutiら. (2013), Science 341(6148), DOI: 10.1126/science.1233151)が挙げられる。
【0011】
用語「機能的改変体」とは、本明細書の文脈において使用される場合、ポリペプチドをコードする遺伝子の改変体であって、ここでこの遺伝子の機能障害的または非機能的改変体が、上記患者に存在するが、上記機能障害的または非機能的改変体は、上記患者内で特定の生物学的機能に役立たないものをいう。健常個体の刺激された貪食細胞において、gp91phoxタンパク質(CYBB遺伝子によってコードされる)、p22phoxタンパク質(CYBA遺伝子によってコードされる)、p47phoxタンパク質(NCF1遺伝子によってコードされる)、p40phoxタンパク質(NCF4遺伝子によってコードされる)、p67phoxタンパク質(NCF2遺伝子によってコードされる)は、一緒になって、NADPHオキシダーゼといわれる1つの酵素複合体を形成する。このNADPHオキシダーゼは、触媒活性を有し、活性酸素種(ROS)の貪食細胞による生成に必須である。Rac2タンパク質(RAC2遺伝子によってコードされる)は、細胞刺激の際にNADPHオキシダーゼ酵素複合体の形成を誘導するために必要とされる。これらの遺伝子のうちのいずれかにおける変異は、誤って折りたたまれたタンパク質の合成または1つの遺伝子生成物の非存在を生じ得、これは最終的に、患者細胞が活性なNADPHオキシダーゼ複合体を形成できず、従って、それらがROSを生成できず、CGD表現型を引きおこすことを生じる。遺伝子治療ベクターによってコードされる機能的改変体は、機能障害的または非機能的改変体を補完するかまたはこれに置き換わり、NADPHオキシダーゼ機能を回復させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Suliamanら. (2009) Pediatric Asthma, Allergy & Immunology 22, 21-26
【文献】Ahlinら. (1995) Acta Paediatr 84, 1386-1394
【文献】Kuhnsら. (2010) New Engl J Med 363 (27) 2600-10
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
この背景に基づいて、本発明の目的は、慢性肉芽腫症における遺伝的疾患の処置のための効率的手段を提供することである。
【0014】
この目的は、独立請求項の主題によって、従属請求項に示されるさらなる有利な特徴とともに達成される。
【0015】
本発明の第1の局面は、単離されたヒト造血幹細胞(HSC)または前駆細胞、特に、CD-34陽性造血幹細胞に関し、ここで上記幹細胞または前駆細胞は、レンチウイルスベクターで形質導入されて、骨髄系細胞へと分化し得る。上記レンチウイルスベクターは、
- gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2を含む群から選択される機能障害的ポリペプチドの機能的改変体をコードする核酸配列;
を、
- ヒト細胞において作動可能なプロモーター配列であって、ここで上記プロモーターは、miR223プロモーター配列(配列番号01)を含むかまたはそれから本質的になるプロモーター配列、
の転写制御下で含む。
【0016】
miR223プロモーター配列(配列番号01)
【化1】
【0017】
ある特定の実施形態において、上記細胞は、慢性肉芽腫症の処置のために提供され、上記ベクターは、gp91phox(UniProt番号 P04839)、p22phox(UniProt番号 P13498)、p40phox(UniProt番号 Q15080)、p47phox(UniProt番号 P14598)、p67phox(UniProt番号 P19878)および/またはRac2(UniProt番号 P15153)の機能的改変体または複数の機能的改変体をコードする核酸配列を含む。
【0018】
ある特定の実施形態において、上記ベクターは、レンチウイルスプロモーター/エンハンサーエレメントを含まない。
【0019】
用語「エンハンサーエレメント」とは、本明細書の文脈において、特定の配列、特に、プロモーター配列の転写が起こる可能性を増大させるように、アクチベータータンパク質によって結合され得る短い核酸配列をいう。
【0020】
上記ベクターは、アルファレトロウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベースのベクターに基づき得るかまたは由来し得る。本発明の遺伝子治療ベクターのある特定の実施形態において、上記ベクターは、レンチウイルスベクターに基づくかまたは由来する。
【0021】
本発明の遺伝子治療ベクターの1つの実施形態において、上記ベクターは、配列番号02によって特徴づけられる核酸を含むかまたはそれから本質的になる。
【0022】
配列番号02:
Lenti_mir223_p47phox_PRE4_KAN(UZH1p47CGD) 8688bp(5’から3’方向においてフォントによって示される配列エレメント:)
小文字のフォント: CMVプロモーター; 小文字下線: レンチウイルスLTR: 5’U5; 小文字斜体: レンチウイルスリーダー配列; 大文字フォント: miR223プロモーター; 大文字下線: Kozak配列; 大文字斜体: p47phoxオープンリーディングフレーム; 小文字斜体下線: 制限部位; 小文字: WPREエレメント; 小文字斜体下線: 制限部位; 小文字下線: レンチウイルスLTR: 3’U3; 小文字斜体: レンチウイルスLTR: 3’R; 小文字斜体太字: レンチウイルスLTR: 3’U5; 小文字:
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
【化2-4】
【0023】
上記幹細胞または前駆細胞は、CGDに罹患している患者から得られ、本発明の遺伝子治療ベクターで形質導入される。
【0024】
ある特定の実施形態において、本発明に従う単離されたヒト骨髄系幹細胞または前駆細胞は、ヒトCD-34陽性細胞である。長期間再生息する(repopulating)造血幹細胞は、ヒトCD34+ 骨髄細胞集団において富化される一方で、正常成体マウスの長期間の生着能力を有する細胞は、Lin-、c-kit+、Sca-1+かつCD34-である(Sato T., Laver J.H. & Ogawa M. (1999) Blood 94: 2548-2554)。ヒトおよびマウス幹細胞は、表面マーカー発現においてのみならず、細胞拡大増殖およびウイルス形質導入のための増殖条件(培地、サイトカイン…)においても異なる。
【0025】
本発明のさらなる局面は、単球またはマクロファージ細胞へと分化し得るヒト前駆細胞を製造する方法に関する。上記方法は、
- CGDに罹患している患者から得られたCD34+ HSCをエキソビボで提供する工程、および
- 上記CD34+ HSCを、
○ gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2から選択されるポリペプチドの機能的改変体をコードするコード核酸配列であって;上記コード配列は、
○ ヒト細胞、特に骨髄系細胞において作動可能なプロモーター配列であって、ここで上記プロモーター配列は、miR223プロモーター配列(配列番号01)を含むかまたはそれから本質的になるプロモーター配列、
の転写制御下にある、コード配列、
を含むレンチウイルスベクター
で形質導入する工程を包含する。
【0026】
本発明はまた、慢性肉芽腫症と診断された患者の処置の方法に関する。この方法は、
- 上記患者から単離されたCD34+ HSCを提供する工程、
- このCD34+ HSCを、
○ gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2から選択されるポリペプチドの機能的改変体をコードするコード核酸配列であって;上記コード配列は、
○ ヒト細胞、特に骨髄系細胞において作動可能なプロモーター配列であって、ここで上記プロモーター配列は、miR223プロモーター配列(配列番号01)を含むかまたはそれから本質的になるプロモーター配列、
の転写制御下にある、上記コード配列、
を含むレンチウイルスベクターで形質導入する工程、
- 上記CD34+ HSCを上記患者に投与する工程、
を包含する。
【0027】
機能障害的ポリペプチドをコードする上記患者の天然の核酸配列(これは、CGDを引きおこす)は、CD34+ 細胞を本発明のベクターで形質導入することによって、機能的ポリペプチドをコードする「健常(healthy)」核酸配列によって補完される。そのように形質導入された(および補完された)HSCまたは前駆細胞は、次いで、患者の中に戻される。
【0028】
本発明のベクターは、骨髄系細胞(例えば、単球、マクロファージ、または好中球のような)へと分化し得る自家CD34+ HSCまたは造血前駆細胞を形質導入するために使用され得る。上記CD34+ 細胞は、上記遺伝的疾患に罹患している患者から得られる。形質導入されたHSCは、分裂および骨髄系細胞への分化を受けるために、上記患者に戻される。
【0029】
本発明によって処置される遺伝的疾患は、慢性肉芽腫症であり、上記ベクター、あるいは骨髄系細胞、特に、単球/マクロファージもしくは好中球へと分化し得るHSCまたは造血前駆細胞は、gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2を含む群から選択される遺伝子の機能的改変体または複数の機能的改変体をコードする核酸配列を含む。上記HCSまたは造血前駆細胞は、上記ベクターを含むかまたは上記ベクターによって形質導入される。
【0030】
本発明のさらなる局面によれば、骨髄系細胞におけるCGD表現型を補正するための方法が提供される。上記方法は、本発明のHCSまたは造血前駆細胞を提供する工程、および本発明のHCSまたは造血前駆細胞を、上記疾患に罹患している患者に投与する工程を包含する。
【0031】
ある特定の実施形態において、本発明のHCSまたは造血前駆細胞は、HCSまたは造血前駆細胞を、CGDに罹患している患者から得、上記HCSまたは造血前駆細胞を、本明細書で特定されるベクターで形質導入することによって提供される。
【0032】
骨髄系細胞における遺伝的疾患は、CGDであり、上記患者から得られたHCSまたは造血前駆細胞は、gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよび/またはRac2の機能的改変体または複数の機能的改変体をコードする核酸配列を含むベクターを含むかまたは上記ベクターで形質導入される。
【0033】
上記形質導入されたHCSまたは造血前駆細胞は、次いで、上記患者に戻される。
【0034】
項目
1. レンチウイルスベクターで形質導入され、単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞であって、上記レンチウイルスベクターは、
- gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2から選択されるポリペプチドの機能的改変体をコードするコード核酸配列;を、
- ヒト細胞、特に、骨髄系細胞において作動可能なプロモーター配列であって、ここで前記プロモーター配列は、miR223プロモーター配列(配列番号01)を含むまたはそれから本質的になるプロモーター配列、
の転写制御下で含む、単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【0035】
2. 前記レンチウイルスベクターは、配列番号02によって特徴づけられる核酸配列を含むまたはそれから本質的になる、項目1に記載の単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【0036】
3. 前記細胞は、CD34陽性造血幹細胞である、項目1または2のいずれか一項に記載のヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【0037】
4. 治療用細胞調製物を調製するための方法であって、前記方法は、
a. gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2から選択されるポリペプチドをコードする欠陥遺伝子と関連する遺伝子欠陥と関連する慢性肉芽腫症に罹患している患者から単離された、造血幹細胞を含む細胞の調製物、特に、CD34陽性造血幹細胞の調製物を提供する工程;
b.上記細胞の調製物を、
i. gp91phox、p22phox、p40phox、p47phox、p67phoxおよびRac2から選択されるポリペプチドの機能的改変体をコードするコード核酸配列;を、
ii. ヒト細胞、特に、骨髄系細胞において作動可能なプロモーター配列であって、ここで前記プロモーター配列は、miR223プロモーター配列(配列番号01)を含むまたはそれから本質的になるプロモーター配列、
の転写制御下で含むレンチウイルスベクターで形質導入する工程、
を包含する、方法。
【0038】
5. 慢性肉芽腫症の処置または防止における使用のための、項目1~3のいずれか1項に記載の単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞、または項目4に記載の方法によって得られる細胞調製物。
【0039】
6. 前記細胞は、自家細胞である、項目5に記載の慢性肉芽腫症の処置または防止における使用のための単離されたヒト造血幹細胞または骨髄系前駆細胞。
【0040】
本発明は、さらなる実施形態および利点が引き出され得る以下の例および図によってさらに例証される。これらの例は、本発明を例証することを意味するが、その範囲を限定することを意味するのではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1および2は、本発明における使用のためのベクターのある特定の実施形態を示す。
【0042】
【
図3】
図3は、ガンマレトロウイルス遺伝子治療の際のmiR223で駆動されるp47phox発現が、ヒト顆粒球におけるROS生成およびE.coli殺滅を回復させることを示す。
【0043】
【
図4】
図4は、単球のレンチウイルス形質導入の際の患者由来単球の形質導入後のp47phox欠損CGD患者のヒトマクロファージにおけるROS生成回復を示す。
【0044】
【
図5】
図5 細胞培養において4週間後のヒトCD34+ 細胞におけるサイレンシング感受性SFFVエンハンサー/プロモーター(CpGアイランド)およびp47phox導入遺伝子の一部のDNAメチル化。CD34+ 細胞を、ガンマレトロウイルスで形質導入し、4週間培養した。DNAを単離し、亜硫酸水素ナトリウムで処理し、PCR反応において増幅した。その後配列決定する。全ての横線は、情報内容がCpGジヌクレオチドに低減された配列決定結果を表す: 白丸=非メチル化CpG; 黒丸=メチル化CpG。
【0045】
【
図6】
図6 miR223プロモーターまたはSFFVプロモーターの制御下で蛍光緑色タンパク質(GFP)をコードするレンチウイルスベクターでの健常ドナーのヒトHSCの形質導入、続いて、液体細胞培養におけるCD11b+ 細胞への骨髄系分化の際のCD11b+ 細胞におけるmiR223で駆動されるGFP発現。
【実施例】
【0046】
実施例
【0047】
本発明は、特に、遺伝子治療ベクターにおけるmiR223プロモーターの使用が、トランス活性化および/またはエピジェネティック不活性化の公知の問題を有利に克服するという驚くべき知見に基づく。これは特に、常染色体劣性p47phox欠損CGDのためのLV-SIN遺伝子治療ベクターによって示された。注記すべきは、p47phox CGD処置のためのmiR223プロモーターの制御下でp47phoxをコードするレンチウイルスベクターでのヒトHSCのレンチウイルス形質導入は、以前に一度も示されなかった。
【0048】
導入遺伝子発現を特徴づけるために前臨床的に利用されるベクター
高度に骨髄系特異的な導入遺伝子発現を確認するデータを、ガンマレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターで生成した。利用されるガンマレトロウイルスベクターの例は、
図1に示される。ΔLNGFR-2A-p47phox融合構築物は、ともに1個のmRNA(v)に由来する2種の別個のタンパク質(細胞質p47phox、および細胞表面上のΔLNGFR)を生じる。利用されるレンチウイルスベクターの例は、
図2に示される。
【0049】
骨髄系細胞に発現を制限することによるHSCにおけるトランス活性化の防止
動物試験において示されるmiR223プロモーター活性の骨髄系特異性
系統陰性骨髄細胞を、p47phox -/- マウスから単離し、miR223プロモーター制御下にあるp47phoxまたはΔLNGFR-2A-p47融合構築物をコードするガンマレトロウイルスベクターで形質導入した(
図1)。レシピエント p47 -/- マウスを、致死的に照射し、形質導入した骨髄細胞を静脈内に再注入した。再注入の6週間後、p47phox発現およびROS生成は、顆粒球において回復した。これは、形質導入した骨髄細胞の成功裡の生着を示す(Brendelら. (2013) Hum Gene Ther Methods. 24: 151-159)。
【0050】
並行して、系統陰性骨髄細胞を、gp91phox-/- マウスから単離し、miR223プロモーター制御下でgp91phoxをコードするLV-SINベクターで形質導入した。レシピエント gp91phox -/- マウスを、致死的に照射し、形質導入した骨髄細胞を静脈内に再注入した。形質導入した細胞は生着し、これらマウスの末梢顆粒球において導入遺伝子発現およびROS生成の回復をもたらした(Brendelら. (2013) 同書)。
【0051】
導入遺伝子発現の分析から、導入遺伝子発現をほぼ排他的に骨髄系細胞へと制限する両方の動物実験において、miR223プロモーターによって付与される驚くほどの系統特異性が明らかになった(Brendelら. (2013) 同書)。
【0052】
初代由来患者材料におけるmiR223で駆動された導入遺伝子発現による貪食細胞機能の回復
上述の動物実験において、miR223で駆動されたgp91phox発現(レンチウイルスベクター)およびmiR223で駆動されたp47phox発現(ガンマレトロウイルスベクター)はともに、対応する動物モデルにおける遺伝子治療処置の際に貪食細胞においてROS生成を回復させた。
【0053】
ROS生成の再構成およびE.coli殺滅の再構成を、ガンマレトロウイルスベクターでのHSCの処置および細胞培養における細胞の分化の後に、ヒト顆粒球において試験した。生きている顆粒球において細胞質p47phox導入遺伝子発現を検出するために、本発明者らは、口蹄疫ウイルスに由来する2A配列を介してp47phoxに連結されたΔLNGFR表面マーカーからなる融合構築物をコードするガンマレトロウイルスベクターを生成した。この融合構築物は、1つの翻訳プロセスにおいて、1個のmRNA転写物から2種のタンパク質: 細胞質p47phoxタンパク質およびΔLNGFR表面マーカーの合成をもたらす。この共発現は、ΔLNGFR表面染色によるp47phoxの間接的検出を可能にする(Wohlgensingerら. (2010) Gene Ther. 17: 1193-1199)。利用されるガンマレトロウイルスベクターにおいて、本発明者らは、この融合構築物を、構成的に活性なSFFVプロモーターまたはmiR223プロモーターいずれかの制御下で発現させた。
【0054】
本発明者らは、これらのガンマレトロウイルスベクターでp47phox欠損CGD患者のヒトHSCを形質導入し、続いて、細胞培養において上記細胞を顆粒球へと分化させた。分化を、顆粒球CD11b表面マーカー発現のFACS測定によって確認した。ΔLNGFR表面マーカーの検出は、p47phox発現を間接的に示した。
【0055】
ROS生成を、PMAでのまたはE.coliでの細胞の刺激の際に、ジヒドロローダミン123酸化(DHR)アッセイによって検出した。エキソビボで分化した顆粒球におけるROS生成が、ΔLNGFR-陽性細胞においてのみ観察された(
図3)。
【0056】
分化した(CD11b+)かつΔLNGFR陽性顆粒球、ならびに分化しかつΔLNGFR陰性(形質導入していない)細胞を、FACS選別によって単離し、E.coli殺滅アッセイに、記載されるように適用した(Ottら. (2006) Nat Med 12: 401-409)。このアッセイにおいて、成功裡のE.coli殺滅は、OD420nmの上昇を生じる。重要なことには、ガンマレトロウイルス SIN p47phox miR223ベクターを使用すると、p47phox導入遺伝子発現、ROS生成およびE.coli殺滅は、導入遺伝子発現が、強い構成的に活性なSFFVプロモーターによって駆動されるガンマレトロウイルスSIN p47phoxベクターと類似の量へと回復した(
図3)。
【0057】
図3は、miR223で駆動されたp47phox発現が、ヒト顆粒球においてROS生成およびE.coli殺滅を回復させることを示す。p47phox CGD患者の系統陰性HSCを、SFFVまたはmiR223プロモーター制御下で、ΔLNGFR/p47phox共発現構築物とともにガンマレトロウイルスで形質導入し、CD11b+ 顆粒球へと分化させた。ΔLNGFR/p47phox発現顆粒球を、FACS選別し、E.coli殺滅アッセイに適用した。OD420nmの上昇は、E.coli殺滅の回復を示す。
【0058】
貪食細胞機能の回復はまた、初代由来p47phox CGD患者材料においても示される。lenti_miR223_p47_WPREmut6ベクター(
図2および4)を使用して、p47phox欠損CGD患者に由来する単球を形質導入した。形質導入した単球を、7日間にわたってマクロファージへと分化させたところ、CD14+/CD206+ マクロファージを生じた。p47phox導入遺伝子発現を、細胞内FACS染色によって確認し、PMA刺激の際のROS生成を、ニトロブルーテトラゾリウム(nitroblue teterazolium)(NBT)還元アッセイにおいて確認した(
図4)。
【0059】
図4は、p47phox欠損CGD患者のヒトマクロファージにおけるROS生成の回復を図示する。p47phox CGD患者の単球を、血液から単離し、上記LV-SIN lenti_miR223_p47_WPREmut6ベクターで形質導入し、マクロファージへと分化させた。CD14+/CD206+ マクロファージへの分化およびp47phox発現の回復を、FACSによって確認した(左)。PMA刺激の際のROS生成の回復を、NBTアッセイによって確認した。黄色の矢印: NBT陽性、すなわち、ROSを生成するマクロファージ、白の矢印: NBT陰性マクロファージ。
【0060】
導入遺伝子発現のエピジェネティック不活性化の防止
インビボでのおよび細胞培養におけるエピジェネティック不活性化の動態
最初の一時的に成功した臨床的X-CGD遺伝子治療試験において、導入遺伝子発現を、ウイルスLTR内のガンマレトロウイルスプロモーター/エンハンサーによって駆動した。導入遺伝子発現のエピジェネティック不活性化は、遺伝子治療の約1年後に始まり、その後1.5年以内に遺伝子マーキングと遺伝子機能との間で増大しつつある矛盾を表した(Silerら. (2015) Current Gene Therapy 15: 416-427)。利用したガンマレトロウイルスベクターのLTR内のプロモーター/エンハンサーの配列は、遍在的に活性なプロモーターとして種々のベクターにおいて利用されるSFFVプロモーター/エンハンサーに相当する。このSFFVプロモーターを、遺伝子治療処置の3ヶ月後および6ヶ月後に、CGD動物においてエピジェネティック改変に対するその感受性に関して試験した。マウスにおけるDNAメチル化によるエピジェネティックSFFVプロモーター不活性化は、3ヶ月後に既に検出可能であり、その後、経時的に増大した(Zhangら. (2010) Mol Ther 18: 1640-49)。
【0061】
胚性癌細胞株(Heら. (2005) J Virol 79: 13497-508)、胚性幹細胞(Liewら. (2007) Stem Cells 25: 1521-28)および人工多能性幹細胞(iPSC)(Hotta & Ellis (2008) J Cell Biochem 105: 940-8)のような非常に原始的な分化状態にある細胞は、それらの高度なDNAメチル化活性に関して公知である。P19胚性癌細胞によるレンチウイルスベクター内のSFFVプロモーターのエピジェネティック不活性化は、上記細胞の形質導入の6~12日後に既に検出可能である(Zhangら. (2010) 同書)。
【0062】
miR223プロモーターの新規な抗サイレンシング活性
本発明者らは、P19細胞およびp47phox iPSC細胞株においてDNAメチル化へのmiR223プロモーターの感受性を試験した。
【0063】
レンチウイルスベクター(
図2)内では、miR223プロモーター内で平均57.1%のCpGおよびSFFVプロモーター内で70%超のCpGが、20日後には、P19細胞においてメチル化された(未公開データ)。P19細胞は骨髄系系統へと(貪食細胞へと)分化できず、上記miR223プロモーターは骨髄系特異的プロモーターであるので、本発明者らは、p47phox CGD患者由来iPSCにおいてmiR223プロモーターの制御下でp47phoxをコードするそれらのレンチウイルスベクターを試験した(iPSC CGD1.1; Jiangら. (2012) Stem Cells 30: 599-611)。なぜならこれらの細胞は、高いDNAメチル化活性を有し、貪食細胞へと増殖され得るからである。
【0064】
iPSC CGD1.1細胞を、miR223プロモーターの制御下でp47phoxをコードするレンチウイルスベクター(以下の表1を参照のこと)で、感染多重度2(MOI 2、すなわち、細胞の2倍程度の多さのウイルス粒子)において形質導入した。
【0065】
形質導入後の+13日目に開始して、iPSCを、先ず、「胚様体」へと増殖させ、さらに、単球を放出する「単球工場」へと増殖させた。次いで、最初の単球を、形質導入後の+43日目で開始して採取できた。採取した単球を、M-CSFを補充した培地中での7日間のインキュベーションによってマクロファージへとさらに分化させた。
【0066】
ゲノムあたりの平均の遺伝子治療ベクターコピー数(VCN)を、iPSCにおいて+16日目に、および採取した単球においては+85日目にqPCRによって決定した。p47phox発現を、iPSCにおいて+6日目、+10日目、+16日目、+20日目に、胚様体内のCD133+ 幹細胞においては+23日目に、胚様体中のCD38dim/CD34+ 細胞においては+104日目に、CD14+ 細胞においては+52日目に、CD15+ 細胞においては+48日目に、CD206+ 細胞においては+68日目に、フローサイトメトリー(FACS)分析によって定量した。ベクターコピー数あたりのp47phox陽性細胞のパーセンテージ、およびp47phox陽性細胞のFACS由来平均蛍光強度(MFI)を、個々の細胞集団におけるmiR223プロモーター活性を比較するために決定した。
【0067】
種々の分化ステージにおけるp47phox発現分析から、幹細胞レベル(iPSC、CD133+ 細胞、CD34+ 細胞)(n=6)に関する平均において、miR223で駆動されたp47phox発現が、0.67±0.33(標準偏差)というベクターコピー数あたりのp47陽性細胞のパーセンテージで、ほとんど検出可能でないことを明らかにした。骨髄系分化の際に、p47phox発現は、5.26±0.66というベクターコピー数あたりのp47陽性細胞のパーセンテージで、強く増大した。p47phox発現細胞のパーセンテージにおけるこの上昇は、FACSシグナル強度(MFI)における強い増大と並行して推移した。これは、幹細胞レベルから骨髄系細胞への分化の際に、miR223プロモーターの活性化を強く示す。
【0068】
形質導入したp47phox CGD iPSCから生成した顆粒球、単球およびマクロファージにおけるp47phox生成の遺伝子治療媒介性回復は、ジヒドロローダミン123酸化(DHR)アッセイにおいて、およびニトロブルーテトラゾリウム還元(NBT)アッセイにおいて明らかにされるように、ROS生成の回復を生じた。
【0069】
iPSCと骨髄系細胞(顆粒球、単球、マクロファージ)との間の種々の分化レベルに対するmiR223プロモーター活性の分析と並行して、上記遺伝子治療ベクター内のmiR223プロモーターの、および形質導入される細胞のゲノム内の内因性miR223プロモーター遺伝子のDNAメチル化分析を、形質導入後の+20日目にiPSCにおいて、およびiPSC形質導入後の+85日目の分化時の形質導入されたiPSCから得た単球において行った。サイレンシング感受性SFFVプロモーターの制御下でp47phoxを含むベクターで形質導入した際のiPSCおよびiPSC由来の単球の分析は、コントロールとして供した。
【0070】
この分析(表1)から、幹細胞レベルでP19細胞と並行して、miR223プロモーターをコードする遺伝子治療ベクター内で、および形質導入された細胞のゲノムにおける天然の内因性miR223遺伝子プロモーター内でmiR223プロモーターのCpGジヌクレオチドの大部分(>80%)がメチル化されていることが明らかにされた。機能的レベルに関しては、p47phox発現分析によって示されるように、メチル化miR223プロモーターは不活性であった。
【表1】
表1: iPSC(人工前駆幹細胞(induced progenitor stem cell))レベル(+20日目)およびiPSC形質導入後+85日目のiPSC由来単球における遺伝子治療ベクターがコードしたmiR223プロモーターのおよび天然のmiR223遺伝子プロモーターのDNAメチル化分析。サイレンシング感受性SFFVプロモーターをコードするベクターを、コントロールとして供した。miR223プロモーターDNA脱メチル化における変化は、統計的に有意であった。
【0071】
驚くべきことに、本発明者らは、分析した遺伝子治療ベクター内で最初にメチル化されたmiR223プロモーター、および天然のゲノムmiR223遺伝子プロモーターがともに、骨髄系分化の際に脱メチル化されることを見出した(表1)。
【0072】
プロモーター活性における上昇に並行して、miR223プロモーター内のCpGジヌクレオチドメチル化のパーセンテージは、87%から31%へと低下した。
【0073】
本発明者らの以前のガンマレトロウイルスX-CGD(CGDのgp91phox欠損型)臨床遺伝子治療治験では、導入遺伝子発現は、構成的に活性な(SFFV)プロモーターによって駆動した。遺伝子治療ベクターがコードしたプロモーターメチル化の段階的な増大は、治療有効性における臨床的に段階的な減少を経時的に引きおこした(Ottら. (2006) Nat Med 12: 401-409; Silerら. (2015) Curr Gene Ther 15: 416-427)。この治験では、構成的に活性なプロモーターが、HSCにおいてメチル化され、遺伝子治療ベクター内でプロモーターがメチル化された状態で、従って、治療用導入遺伝子発現が減少した状態で骨髄からのHSCの放出を生じた。
【0074】
骨髄系特異的miR223プロモーターを遺伝子治療ベクター内で内部プロモーターとして利用すると、驚くべきことに観察されたメチル化パターンは、上記プロモーターが幹細胞レベルで不活性でありかつメチル化されていることを示す。分化の際にのみ、miR223プロモーターは活性化され、脱メチル化される。このことは、このプロモーターが、長期間の有効性を提供し得ることを強く示す。骨髄から放出されたHSCに由来する骨髄系細胞の連続フラックスが存在することから、これらの新たに生成した細胞では、miR223プロモーターは、骨髄から放出される前に活発に脱メチル化される。
【0075】
プロモーターDNAメチル化の動態
細胞培養実験において、本発明者らは、ガンマレトロウイルス形質導入によってヒトCD34+ 骨髄細胞においてSFFVプロモーターを導入し、上記細胞を4週間培養し、その後にDNAメチル化を定量した。本発明者らは、細胞培養において4週間後のヒトCD34+ 細胞におけるDNAメチル化の有意な量を検出できなかった(
図5)。
【0076】
マウス骨髄におけるインビボでのSFFVプロモーターのサイレンシングは、遺伝子治療の3ヶ月後に検出可能になり、以降3ヶ月間でさらに進行することが報告された(Zhangら. (2010) 同書)。
【0077】
レトロウイルスベクターは、早期着床前胚、胚性幹(ES)細胞および胚性癌(EC)細胞を含む多能性幹細胞において直ぐにサイレンシングされると報告される(Pannell D, Ellis J. (2001) Rev Med Virol 11: 205-217)。胚性癌細胞株P19は、サイレンシングに対する遺伝子治療ベクター内のプロモーターの感受性を試験するために集中的に使用されている(Knightら. (2012) J Virol 86: 9088-95; Brendelら. (2012) Gene Therapy 19: 1018-29; Zhang, Santilli & Thrasher (2017) Sci Rep. 7: 10213; Zhangら. (2010) 同書)。SFFVプロモーターのサイレンシングは、このモデルでは、12~17日後に既に終了されると一貫して報告されている。
【0078】
P19細胞は、分化され得ないことから、このモデルは、組織特異的プロモーターを試験するために適合していない。一方で、レトロウイルス発現が、細胞培養において任意の細胞タイプへと分化される能力を有する人工多能性幹細胞(iPSC)においてサイレンシングされることは公知である(Maheraliら. (2007) Cell Stem Cell 1: 55-70; Okita, Ichisaka & Yamanaka (2007) Nature 448: 313-317; Wernigら. (2007) Nature 448: 318-324)。iPSCを、CGD患者材料から生成した。これらのiPSCは、患者材料において見出されるものと同じ遺伝的欠陥を有することが示された。上記細胞を、成熟単球およびマクロファージへと分化し得、非CGD iPSCに由来する単球およびマクロファージとは対照的に、上記CGD iPSCに由来する単球およびマクロファージは、CGD患者に由来する単球およびマクロファージに関してあてはまるとおり、活性酸素種(ROS)の生成を示さない(Jiangら. (2012) Stem Cells 30:599-611)。
【0079】
SFFVプロモーターをCGD iPSCへとレトロウイルスで導入する際に、SFFVプロモーターは、ヒト骨髄ではインビボで、X-CGD臨床試験において10カ月後に始まってサイレンシングされ、マウス骨髄では3~6ヶ月後にサイレンシングされ、P19細胞では12~17日後にサイレンシングされ、CGD iPSCでは20日以内にサイレンシングされた(Haenselerら. (2018) Matters; doi.: 10.19185/matters.201805000005)。SFFVプロモーターを有するCGD iPSCの分化の際に、SFFVプロモーターで駆動された導入遺伝子発現は、最終分化した単球およびマクロファージにおいて強く減少した。このことは、1)iPSCが、強力なプロモーターサイレンシング活性を有する、2)SFFVプロモーターは、一旦サイレンシングされると、iPSCから単球への細胞分化の際にもサイレンシングされたままである(Haenselerら. (2018) Matters; doi.: 10.19185/matters.201805000005)ことを示す。iPSCは、システムの開発のために使用されており、これは、SFFVプロモーターのような遍在的に活性なプロモーターのサイレンシングを防止する。これらの抗サイレンシングシステムは、インスレーターの使用に(Sanchez-Hernandezら. (2018) Mol Ther Nucleic Acids 13: 16-28)または遍在性クロマチン開口エレメント(ubiquitous chromatin opening element)(UCOE)の使用に(Pfaffら. (2013) Stem Cells 31: 488-99; Ackermannら. (2014) Biomaterials 35: 1531-42; Hoffmannら. (2017) Gene Ther. 24: 298-307)、主に基づいた。
【0080】
まとめると、iPSCは、遺伝子治療ベクターメチル化の分析のための関連モデルであるが、このモデルは、サイレンシングに対する組織特異的プロモーターの感受性を分析するために一度も適用されてこなかった。
【0081】
組織特異的miR223プロモーターの、サイレンシングに対するその感受性に関する分析
miR223プロモーターのサイレンシングに対する感受性の分析のために、本発明者らは、p47phox欠損CGDに罹患している患者から発生され、CGD表現型を示す単球およびマクロファージへと分化し得るiPSC(p47phox CGD iPSC)を利用した(Jiangら. (2012) Stem Cells 30:599-611)。
【0082】
p47phox CGD iPSCを、本発明者らの遺伝子治療ベクター(UZH1p47CGD)で、またはSFFVプロモーターの構成的に活性なかつサイレンシング耐性のバージョンの制御下でp47phoxをコードするレンチウイルスベクター(Lenti UCOE 1662fwd SFFV p47)で、レンチウイルスで形質導入した(+1日目)。形質導入したiPSCは、先ず、胚様体(EB)へと分化し、次いで、単球およびマクロファージへとさらに分化した。1細胞あたりの平均的なベクターコピー数(VCN)を、qPCRによって、形質導入後に、+16日目にiPSCにおいて、および+85日目に単球において決定した。導入遺伝子発現を、形質導入後に、+23日目に胚様体中のCD133陽性幹細胞において、+104日目に胚様体内のCD38dim/CD34+ 細胞(これは、HSCに匹敵する細胞である)において、+52日目に単球において、および+68日目にマクロファージにおいてモニターした。p47phox発現を、CD34、CD38、CD14およびCD206表面染色との組み合わせにおいて、p47phoxタンパク質の細胞内染色の際のFACS分析によって検出した。形質導入効率における差異を補正するために、p47phox陽性細胞のパーセンテージを、VCNで除算した。
【0083】
p47phox導入遺伝子発現
iPSCにおいて、およびiPSCに由来するHSCのホモログ(すなわち、胚様体内のCD38
dim/CD34
high細胞(以降、この文脈において「HSC」と称される)において、本発明者らの遺伝子治療ベクターUZH1p47CGD内のmiR223プロモーターは、シグナル強度によって測定されるように顕著により弱いp47phox導入遺伝子発現を、およびベクターコピー数あたりのp47phox-陽性細胞の低いパーセンテージを生じた。対照的に、分化した単球およびマクロファージでは、シグナル強度およびベクターコピー数あたりのp47phox陽性細胞のパーセンテージは、形質導入した細胞において高かった(以下の表2を参照のこと)。
【表2】
表2: ベクターコピー数(CVN)あたりのp47phox陽性細胞のパーセンテージおよびフローサイトメトリー由来平均蛍光シグナル強度(MFI)によって特徴づけられる、iPSCおよびiPSC由来細胞集団におけるp47phox導入遺伝子発現を示す。ヒトp47phox陰性iPSCを、レンチウイルスで形質導入し、胚様体を介して単球およびマクロファージへと増殖させた。平均ベクターコピー数(VCN)を、iPSCにおいて、およびiPSC由来単球において決定した。導入遺伝子発現を、CD133+ 幹細胞において、胚様体内のHSC様CD34+ 細胞において、単球において、およびマクロファージにおいてモニターした。p47phox発現を、細胞内染色した際にFACS分析によって検出した。p47phox陽性細胞のパーセンテージを、VCNあたりのp47陽性細胞のパーセンテージの計算によって、形質導入効率に関して正規化した。miR223で駆動されたp47phox発現は、CD133+ 細胞においておよびCD34+ 細胞においてわずかな発現を、ならびにp47phox陽性細胞のパーセントによって明らかにされるように分化の際に発現において、MFIにおいても同様に上昇を示した。
【0084】
重要なことには、miR223プロモーターで駆動されたp47phox発現は、幹細胞において、低いバックグラウンドシグナル(パーセント陽性細胞/VCN)ならびに発現強度(MFI)をもたらした。幹細胞における低いバックグラウンドシグナルは、UZH1p47CGD遺伝子治療ベクターの優れた安全性プロフィールを示す。
【0085】
健常ドナーのヒトHSCを、SFFVまたはmiR223プロモーターの制御下でGFPをコードするレンチウイルスベクターで形質導入し、続いて、液体細胞培養においてCD11b陽性骨髄系細胞へと分化させた。GFPの発現を、FACS分析によってヒトHSC由来CD11b陽性細胞において分析した。GFP陽性ヒトHSC由来骨髄系細胞の検出(
図6、非公開データ)は、0.05というベクターコピー数(CVN)と一致し、CGD遺伝子治療処置に関して必要とされるとおりのヒトHSC由来骨髄系細胞においてmiR223プロモーターの導入遺伝子発現活性を示す。
【0086】
ROS生成の再構成:
ROS生成を、PMA(単球)またはPMA+fMLP(マクロファージ)での刺激の際に、DHR酸化によって、およびNBT還元アッセイによって、単球およびマクロファージにおいてモニターした。DHRアッセイにおいて、非蛍光性ジヒドロローダミンは、ROSによる酸化の際に蛍光性に変化する。蛍光シグナル強度を、FACS分析によって検出した。対応して、FACS分析において、右側へのシフトは、ROS生成の回復を示す。NBTアッセイでは、濃青色のホルマザン沈殿物の形成は、ROS生成を示す。形質導入されていないCGD iPSCに由来する単球/マクロファージを、陰性コントロールとして供した。CGD iPSCから得た単球/マクロファージを陽性コントロールとして供した。これは、SFFVプロモーターの遍在的に活性なかつサイレンシング耐性のバージョンの制御下でp47phoxをコードするベクター(Lenti UCOE1662fwd SFFV p47)で、形質導入した。
【0087】
本発明者らの遺伝子治療ベクターUZH1p47CGDによってmiR223で駆動されたp47phox発現は、ROS生成の再構成を生じ、従って、DHRアッセイにおいておよびNBTアッセイにおいてともに可視化されるように、CGD表現型の補正を生じた。
【0088】
iPSCモデルにおけるサイレンシング(DNAメチル化)分析:
本発明者らは、それらの遺伝子治療ベクター(UZH1p47CGD)のメチル化に関して、および貪食細胞へのiPSC分化の際の導入遺伝子発現活性に関して試験するために、p47-/- iPSCを利用した。p47phox陰性iPSCを、レンチウイルスで形質導入し、単球へと増殖させた。DNAを、形質導入したiPSC(+20日目)から、およびiPSC由来単球(+97日目)から単離した。DNAメチル化分析のために、単離したDNAを、亜硫酸水素ナトリウムに曝した(これは、非メチル化シトシンのみをウラシルへと変換する)。その後のPCR増幅は、ウラシルをチミジンへと変換する。元々の配列と亜硫酸水素塩での変換後の配列との比較は、DNAメチル化を明らかにする。すなわち、全てのメチル化配列において、シトシンが、配列決定によって検出されるのに対して、非メチル化配列では、チミジンが検出される。
【0089】
DNAメチル化分析を、miR223制御下でp47phoxをコードする遺伝子治療ベクター(UZH1p47CGD)での形質導入の際に、iPSCおよびiPSC由来単球において行った。メチル化分析は、全miR223プロモーター配列、およびp47phox導入遺伝子の一部を網羅した。さらに、本発明者らは、iPSCゲノムの天然のmiR223遺伝子プロモーター配列のDNAメチル化を分析した。
【0090】
重要なことには、iPSCでは、ウイルスがコードしたmiR223プロモーター、および天然のmiR223プロモーターの両方が、20日以内にほぼ完全にメチル化された。よって、CD133+ iPSCにおいて、およびiPSC由来CD34+CD38- 幹細胞において、p47phox導入遺伝子発現は、極めて低かった(上記の表1を参照のこと)。
【0091】
iPSCレベルに対しても、単球においても、遺伝子治療ベクターがコードしたmiR223プロモーター配列と天然のmiR223プロモーターとの間のメチル化の程度に、有意差はなかった。驚くべきことに、かつSFFVプロモーターで得た結果(Haenselerら. (2018) Matters; doi.: 10.19185/matters.201805000005)とは対照的に、本発明者らは、iPSCから最終分化した細胞への分化の際に、ウイルスのおよび天然のmiR223プロモーター両方のメチル化が有意に低下することを見出した。これは、分化の際の(表1)、および従って活性化の際の(表2)、活性な脱メチル化を示す。長期間のインビボ状況に外挿すると、この知見は、休止状態のHSCにおいてサイレンシングされるように、miR223プロモーターの長期間の活性を示し、miR223プロモーターは、HSC活性化および分化の際に活性になると予測される。先に言及されたように、SFFVの、またはChimプロモーター(Zhang, Santilli & Thrasher (2017) Sci Rep 7: 10213)のサイレンシングを防止し得るUCOEベースのシステムが、開発された。しかし、上記UCOEシステムは、レトロウイルス遺伝子治療ベクター内に埋め込まれており、レトロウイルス組み込み部位の近くにおいてDNAのDNAメチル化を変化させるというリスクを、HSCにおいても同様に有する。この活性は、HSCでは、全ての結果において遺伝子治療ベクターの組み込み部位に近いがん遺伝子を活性化し得る。UCOEシステムとは対照的に、幹細胞において、および分化の際にのみ周囲のメチル化パターンに適合されたベクターUZH1p47CGD内のmiR223プロモーターは、脱メチル化された。これは、顕著に安全な特徴である。
【配列表】