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特許7586521鎮痙組成物および陰圧療法を用いて痙縮を治療するための方法
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  • 特許-鎮痙組成物および陰圧療法を用いて痙縮を治療するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】鎮痙組成物および陰圧療法を用いて痙縮を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20241112BHJP
   A61H 7/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/4168 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/433 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K31/197
A61H7/00 322E
A61K31/05
A61K31/195
A61K31/352
A61K31/4168
A61K31/4178
A61K31/433
A61K31/5513
A61P21/00
A61P25/00
A61K45/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022579117
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 IB2021055515
(87)【国際公開番号】W WO2021260556
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】63/042,246
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520107881
【氏名又は名称】オティビオ・エーエス
【氏名又は名称原語表記】OTIVIO AS
【住所又は居所原語表記】Drammensveien 130,N-0277 Oslo,Norway
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マティエセン、イアコブ
(72)【発明者】
【氏名】インマン、ラウラ アンネ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502924(JP,A)
【文献】特表2016-539167(JP,A)
【文献】米国特許第3465748(US,A)
【文献】国際公開第2019/064288(WO,A1)
【文献】米国特許第7833179(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61H 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
者における痙縮を治療または予防する方法において使用するための鎮痙組成物であって、
該方法が、
結果有効用量の前記鎮痙組成物を投与するステップ;および
前記患者に陰圧療法を適用するステップ
を含み、
前記陰圧療法が、前記患者の肌の領域を、その肌の領域が外部の状態から密閉されるように囲いの中に入れるステップ;および前記肌の領域に圧力療法装置を用いて陰圧をかけるステップを含み、
前記圧力療法装置が、
前記患者の肌の領域を内部領域に包み込むように設けられ、前記内部領域への開口を備える圧力チャンバと、
周囲圧力から前記圧力チャンバを閉鎖するように前記圧力チャンバに固定されたシール部と、
前記内部領域と連通された前記内部領域の圧力を増加および減少するように構成されたポンプユニットとを備え;
前記陰圧が脈動圧力であり、前記脈動圧力が第1の所定の時間間隔の間に前記肌の領域に対して陰圧を生成することと、第2の所定の時間間隔の間に前記陰圧を解除することを含み;
前記痙縮が、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症(MS)、または他の神経変性疾患の結果であり;かつ
前記鎮痙組成物が、バクロフェン、チザニジン、ガバペンチン、ジアゼパム、ナビキシモルス、ダントロレン、またはクロニジンを含む、鎮痙組成物
【請求項2】
前記投与するステップが、患者における痙縮の増大の検出の後に続く請求項1記載の鎮痙組成物
【請求項3】
前記陰圧は、-20mmHgおよび-80mmHgの間にある請求項1または2記載の鎮痙組成物
【請求項4】
前記第1の所定の時間間隔は、前記第2の所定の時間間隔とは異なる請求項1~のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項5】
前記第1の所定の時間間隔および前記第2の所定の時間間隔は各々、前記患者の心拍よりも大きな継続時間を有する請求項1~のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項6】
前記患者の前記肌の領域は、前記患者における痙縮に対応する請求項1~のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項7】
前記患者に陰圧療法を適用するステップは、少なくとも30分間の治療を含む請求項1~のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項8】
前記患者に陰圧療法を適用するステップは、少なくとも40分間の治療を含む請求項記載の鎮痙組成物
【請求項9】
前記患者に陰圧療法を適用するステップは、少なくとも1時間の治療を含む請求項記載の鎮痙組成物
【請求項10】
前記患者に陰圧療法を適用するステップは、1日あたり少なくとも2回の治療を含む請求項1~のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項11】
前記適用するステップおよび/または前記投与するステップは、前記患者の睡眠の前に適用される請求項1~10のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項12】
前記適用するステップは、前記患者の少なくとも2つの肢に対して行われる請求項1~11のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項13】
前記適用するステップは、有効量の陰圧療法を前記患者の肢に適用することを含み、
前記肢は、痙縮に影響を受けているかまたは痙縮の領域に最も近い肢である
請求項1~12のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項14】
前記痙縮は、多発性硬化症(MS)の結果である請求項1~13のいずれか1項に記載の鎮痙組成物
【請求項15】
前記方法は、前記患者における静脈-動脈反射の間欠的な活性化を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の鎮痙組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、痙縮の治療および/または痙縮および疼痛の予防を含む、神経変性疾患および関連する症状を治療するための方法、組成物、および関連する装置に関する。本方法、組成物および装置は、患者の体の痙縮および疼痛を回復させるためおよび/または患者の体における痙縮および疼痛の将来的な発現を予防するために、加えて、神経変性疾患の神経症状を改善するために、陰圧を患者の体に適用することを含むように構成され得る。
【背景技術】
【0002】
痙縮は、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症(MS)および付加的な神経変性疾患を含む、中枢神経系に影響を及ぼす損傷および疾患の一般的な症状である。痙縮という用語は、一般的に、筋硬直、クランプ(cramps)、過度の動きと反射、クローヌスまたはスパズム(spasms)に関連するような、筋肉の不随意かつ持続的な収縮を指すのに使用され、中枢神経が損傷した個体の障害の主な原因である。
【0003】
特定の例として、MSは、免疫介在疾患と一般的に呼ばれる神経系の慢性疾患であり、当該疾患においては、免疫系が誤って中枢神経系を攻撃すると考えられ、神経線維の周りの保護ミエリン鞘、希突起膠細胞、および/またはその下にある神経線維を損傷し得る。結果生じる脱髄、炎症および神経線維への損傷は、痙縮、疲労、筋力低下、視覚障害、不安定歩行、しびれ、うずき、めまい、鬱病、疼痛、および他のいくつかを含む、様々な症状を引き起こし得る。
【0004】
MSの症状は、予測不可能であり、患者ごとに、また一人の患者でも経時的に変化する一方で、大多数の患者は、症状がやがて着実に進行する。現在、MSのための認知されている治癒法はなく、知られている治療法は、概して、当該疾患の進行および/または症状の悪化を遅らせることだけに向けられている。
【0005】
痙縮は、全てのMS症状のうちで最も流行しかつ困難なものの1つであり、完全には理解されていないが、一般に、MS患者において、神経系による筋肉の協調が害され、多すぎる筋肉が不随意に収縮したり、または不適切な筋肉が不随意に収縮したりする場合に生じると考えられている。軽症の場合、痙縮は、圧迫感、筋硬直、疼痛、または増大した筋緊張の感覚として目立つのみであり得るが、痙縮は、しばしば進行性のものであり、固定された四肢、収縮された関節、痛みを伴うスパズム、または経時的な制御できない他の筋収縮へと高まり得る。
【0006】
痙縮は、不随意運動と随意運動の両方を含む任意の態様の可動性を一般的に妨げ得る。MSの症状がどのように関連しているかが不確定である一方で、痙縮は、他の症状および合併症に寄与するか、さもなければ悪化させる場合があると考えられている。例えば、痙縮、および神経の関連する変性は、正常な動きを難しくし、また健常個体が睡眠中および座っている間の両方における何千もの小さな動きを減らすことにより、疲労、筋力低下、しびれ、うずき、めまい、床ずれ、関節痛、および他の疼痛のような症状の発症および進行に寄与し得る。
【0007】
夜間に起こる痙縮も、一般的に、MS患者において、例えば、夜間に患者を目覚めさせる痙攣による、または患者が眠るのに十分に快適であることを妨げる緊張した筋肉による睡眠不足および/または低い睡眠の質に寄与し、それによって、疲労、疼痛、衰弱、めまいおよび/または鬱病を強めたり引き起こしたりする。
【0008】
痙縮それ自身の発現も、突然の動きまたは姿勢変化、温度変化、感染、皮膚炎、疼痛およびストレスなどの付加的な要因または誘因によって影響される。不運にも、痙縮の誘発と合併症とが重なると、症状の危険な悪化および/またはエスカレーションを引き起こし得る。
【0009】
全体的に見てMSと同様に、既存の痙縮治療の主な目的は、理学療法、薬物治療、電気刺激療法、または外科手術を通じてできるだけ負の影響を減らすことである。痙縮を和らげるための理学療法の使用は、一般的に、運動中の痙縮誘発を避けるように注意する必要があるために妨げられる可能性のある、ストレッチや関節可動域運動などの、柔軟性を高め得る運動や動きに焦点を当てている。残念なことに、理学療法は、全てのMS患者において痙縮を低減させず、ある患者にとっては、当該患者の身体的な状態、付加的な機器および管理に対する要件、および症状の増進の起こり得る誘発のために、運動レジメンを維持するのは困難であり得る。
【0010】
痙縮を治療する際の薬物療法の使用は、痙縮の作用を他の重症度の低い副作用に一時的ながら置き換える神経信号の抑制または調節に依存することが多い。例えば、バクロフェンおよびチザニジンは、脊髄における病理学的過活動の単シプナスまたは多シプナス反射弓の減退によって、またはシプナス前抑制による脊髄反射および脊柱上反射の抑制によって痙縮を軽減する2つの薬である。これら作用は、一般に痙縮に関連する特定の疼痛および収縮を薬物療法に関連する一般的な眠気および筋力低下に置き換え、正常および痙縮の両方の筋肉の弛緩を引き起こす場合がある。
【0011】
痙縮からの同様の軽減を達成するために必要とされる用量の増加が、ますますより大きな副作用を引き起こすので、薬物療法の使用は、症状が進行するにつれて特に困難になる。そうなので、薬および化学組成物を用いた治療は、薬のプラスの効果とマイナスの効果とのバランスをとることに基づかなければならず、痙縮の強さの時々刻々の変化および症状の経時的な進行のためにこのバランスを維持することは困難であり得る。
【0012】
電気刺激療法および外科的介入は、MS患者における神経線維の直接の管理および抑制に、特に焦点が当てられている。電気刺激は、信号が脳に伝えられる仕方に影響を及ぼすために神経に使用され、潜在的には、疼痛を和らげるが、プラスの効果はよく確立されておらず、痙縮の発現を低減させることなく疼痛の軽減に限定される。外科的治療は、痙縮の永続的な軽減のために神経根または腱を切断することを必要とし、重度の永続的な副作用をもたらす結果になる。外科的介入によって、患者が、対象とされた筋肉における痙縮に苦しまないのと同時に、神経変性が体内で持続するあいだ、患者は同じ筋肉の実質的な制御または実用性を失うことになる。
【0013】
同一ではないが、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、および神経系の他の疾患または損傷に関連する痙縮の発生は、MSに関連する痙縮の発生のように、治療するまたはさもなければ和らげることは同様に困難である。痙縮を和らげる一般的な努力は、痙縮に関連する疼痛および不快感を軽減する目的で上記した治療のいくつかの組み合わせを採用するが、根源にある痙縮それ自体の実質的な回復(reversal)を示すと認知されている治療は存在しない。特定の患者に対する治療プランは、患者の痙縮の進行と、治療による副作用の変化とを補うために入念に監視および調整もされなければならない。
【0014】
副作用を軽減して痙縮を治療する方法が依然として必要である。理想的な治療は、痙縮に関連する疼痛および困難の軽減だけでなく、その発現の頻度および重症度の低減、ならびに運動制御に対する関連する障害の低減も成し遂げるだろう。特に、神経損傷および/または随意筋制御の喪失などの、痙縮を引き起こす根底にある要因に取り組むことができる治療が望まれるであろう。痛みの症状だけを治療するよりもむしろ痙縮の根底にある原因に取り組むことによって、動きやすさや生活の全体的な質に対する更なる改善が、そのような改善の望みがこれまでなかった患者に対して達成できる。
【0015】
痙縮および関連する神経変性疾患の既存の治療は、神経における変性の進行を緩和する、止める、または反転する治療方法の恩恵を被るだろう。服用レベルおよび関連する副作用を軽減するために、筋肉および脊髄における神経機能を相乗的に改善することによってなどの、既存の薬物治療および理学療法の有効性を改善できる治療方法が必要とされている。
【0016】
さらに、所定の患者の特定のニーズや症状になお適応可能でありながら、介護者または医療従事者に必要とされる介入のレベルを上げることなく実施できる簡単な解決策が必要とされている。そのような治療および解決策は、特に、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、およびMSを含む中枢神経系に影響を与える損傷または疾患を被った患者において、痙縮の治療および解決策を現在の技術水準を超えて明らかに改善するだろう。
【発明の概要】
【0017】
本開示は、中枢神経系の疾患または中枢神経系への損傷に関連する痙縮を患う患者が陰圧療法を用いて治療できるという発見を含む。驚くべきことに、本開示の実施形態に係る陰圧療法が痙縮を患う患者に適用されると、痙縮の持続期間、強さおよび頻度が、著しく軽減され得ることが判明した。本開示の実施形態は、治療レジメにおける陰圧療法と既存の薬物療法との組み合わせから、痙縮および関連する症状の新しくかつ予期せぬ改善をさらに発見した。陰圧療法と薬物療法との組み合わせは、驚くべきことに、薬物療法による副作用の発生を減らし、薬のより少ない有効用量を可能にする。驚くべきことに、これらの改善は、複数の状態および複数の薬の範囲にわたって示されている。
【0018】
本開示の目的は、特に、中枢神経系の損傷および疾患を患う患者において、筋硬直、クランプ、過度の動きと反射、クローヌス、またはスパズムに関連するような、筋肉の不随意かつ持続的な収縮を含む、痙縮および関連する状態を治療することである。本開示は、痙縮を治療するために陰圧療法を施す方法にも関する。
【0019】
本開示は、増加した血流、増加した組織の酸素化、および陰圧療法から結果として得られる感覚フィードバックの繰り返される変化と、痙縮の強さ、持続期間、および頻度の低減との間の関連性を説明する。
【0020】
本明細書に記載される実施形態によれば、陰圧療法が、痙縮の発現を防ぐための予防的処置として、患者に発現したことがあるかまたは現在発現している痙縮の即座の治療として、または痙縮という結果となり得る根底にある状態(例えば、MS、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)の患者に対する包括的かつ正規の治療計画の一部として適用できる。
【0021】
本発明の第1の態様は、患者における痙縮を治療または予防する方法であって、患者に陰圧療法を施すことを含む方法を提供する。当該方法は、陰圧療法の定期的な施行と組み合わせた医薬組成物の使用または投与をさらに含んでもよい。そのような医薬組成物には、バクロフェン、チザニジン、ガバペンチン、ジアゼパム、ナビキシモルス、ダントロレン、クロニジン、カンナビノイド(OCE、THC、Sativexなど)、副腎皮質ステロイド、シトキサン、イムラン、アンピラ、追加のインターフェロンベータ薬剤、および本開示から当業者によって理解される他の薬剤を含む、鎮痙組成物または神経学的効果で知られている他のものが含まれ得る。オクレリズマブ、グラチラマー酢酸塩(Copaxone、Glatopa)、または他の免疫抑制組成物などのさらなる医薬組成物が、治療レジメ(異なる方法ではあるが)における陰圧療法との組み合わせの恩恵を被ることができる。
【0022】
実施形態においては、圧力療法装置が、使用者に圧力療法を適用するために、特に、患者の体の肢または領域を覆って配置され得る。陰圧を受ける患者の体の肢または領域は、痙縮の発現に対応するかまたはその近くにあるとして選択されてもよい。圧力療法装置は、所定の時間の間に所定のレベルの圧力で患者の体の肢または領域に陰圧を適用するように構成され得る。
【0023】
本開示によれば、陰圧療法は、痙縮を有するかまたは発現している肢の末端、または痙縮の部位に最も密接に関連する肢の末端に適用できる。実施形態では、陰圧療法が、1つの肢だけに適用される場合を考えているが、本開示は、それに限定されず、患者の体の1つまたは複数の部位に圧力療法を逐次的におよび/または同時に適用すること、を含むことができる。
【0024】
驚くべきことに、本開示の実施形態に係る陰圧療法の適用は、特定の1つまたは複数の肢だけに陰圧療法が適用される場合であっても、患者の体における痙縮の全体的な軽減をもたらすことができるということが発見された。症状の全身的な改善は、本開示に係る陰圧療法を受けた体の肢、領域または部位の範囲を越えて、神経機能および/または健康状態の実質的な改善を証明する。
【0025】
本開示の実施形態に係る陰圧療法は、脈動圧力または間欠圧力の適用を含むことができる。脈動圧力は、第1の時間間隔(first time interval)の間に陰圧を生成することと、第2の時間間隔(second time interval)の間に当該陰圧を解除することを含んでもよい。第2の時間間隔の間の陰圧の解除は、異なる陰圧、大気圧、環境圧、または陽圧などの、第1の時間間隔の間の陰圧とは異なる圧力を適用するように構成できる。第1の時間間隔は、第2の時間間隔よりも長くてもよいし、同じ長さであってもよいし、短くてもよい。
【0026】
本方法の実施形態においては、患者への陰圧療法の適用の継続期間は、症状の持続期間に限定されてもよいし、または患者の必要に応じて所定の期間に構成されてもよい。陰圧の適用の頻度は、症状の頻度に限定されてもよいし、または患者の必要に応じて所定のスケジュールに構成されてもよい。1つの実施例において、陰圧は、睡眠の前、起床時、および/または既知の痙縮誘因の発生の際に定期的に適用されてもよい。あるいは、本開示に係る陰圧療法は、毎日または1日に2回などの、規則的なスケジュールに基づいて適用されてもよい。陰圧療法は、治療の規則的なスケジュールの一部として、毎日、1日おきまたは毎週同じ時間に、適用されてもよい。陰圧療法の定期的な適用は、要望に応じて、または、時間の経過に伴う定期的な治療スケジュールの変更による、例えば、症状が改善したので回数を減らすことによる、などの付加的な適用を除外しないことを留意する。
【0027】
本開示に係る陰圧療法を用いた痙縮の治療は、個々の患者の必要に応じて痙縮を実質的に軽減または予防するための簡単で適応可能な方法をもたらすことが好適に見い出された。本開示の方法は、将来の発現およびそれらの重症度を軽減しながら、痙縮の既存の適応症を迅速に治療することが見い出された。驚くべきことに、本出願に係る陰圧療法を含む方法の利益は、痙縮の症状についてだけでなく、神経変性疾患の付加的な症状にまで拡張されて、患者に全身的な改善をもたらすことが示された。
【0028】
本開示の方法は、同時に適用された医薬組成物または治療に関連する副作用を軽減しながら、任意の新たな有害な副作用ももたらすことなく、体の影響を受ける部位と影響を受けない部位との両方に利益を好適にもたらし、患者のコンプライアンスおよび帰結を好適に改善する。完全には理解されていない一方で、陰圧療法を用いた痙縮の治療は、少なくとも上記の症状の相互に関連する進展のために、MSに関連する他の症状、関連する疾患および/または損傷した中枢神経も改善することができる。
【0029】
本開示の方法は、痙縮に対する他の既知の治療または療法、あるいは痙縮を誘発する要因を軽減するための既知の方法と、同時にまたはそれに続けて適用できる。好適には、陰圧療法の、特に医薬組成物と協調的な適用は、有効投与量を減らすことなどによって、その関連する副作用を軽減しながら医薬組成物の有効性を高める。
【0030】
本開示に係る陰圧療法には、加熱または冷却ユニット、振動ユニット、矯正装置、支持具(brace)、電気刺激ユニットなどを加えることができる。
【0031】
別の態様においては、本開示の方法は、患者への治療の効果をモニターするように、および/または治療を患者に適合させるように配置されたセンサとともに適用できる。例えば、血流センサ、温度センサ、電気センサなどが、陰圧療法の患者への効果をモニターするため、かつ患者の必要に応じて圧力、継続期間、または他のパラメータを調整するために、制御モジュールまたは他のコンピューティングデバイスの使用などを通じて使用できる。
【0032】
多様な実施形態によれば、本出願の方法を行うために圧力療法装置を動作させるために、制御装置を設けることができる。制御装置を、スマートフォン、ラップトップ、タブレットコンピュータ、または類似の装置などのモバイルデバイスとして設けることができる。制御装置は、圧力療法装置において陰圧の適用を制御するために、および/または陰圧装置の使用をモニターし、適切な治療または患者のコンプライアンスを保証するように臨床医などに報告するために配置できる。
【0033】
本開示のこれらおよび他の特徴、態様、利点は、以下の記載、添付の特許請求の範囲、および添付の図面に関して、よりよく理解されるようになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】圧力療法装置の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示は、種々の変更および代替的な構成が可能である一方で、以下には、特定の例示的な実施形態が記載される。しかし、開示されている実施形態に本開示を限定することを意図してはおらず、それどころか、本開示の主旨および範囲内にありかつ添付の特許請求の範囲によって定められる、全ての変更、代替的な構成、組み合わせおよび均等物を含めることを意図していることを理解されるべきである。
【0036】
用語は、記載された意味を有するとして本特許において定義されていない限りは、その一般的なまたは通常の意味を越えて、明示的にまたは間接的に、そのような用語の意味を限定することを意図していないことが理解されるだろう。
【0037】
本開示の例示的な実施形態は、MSの結果として痙縮を経験する患者を治療するためとして説明されているが、本開示の実施形態は、本願の背景技術において議論されているように、中枢神経系の様々な種類のおよび様々な重症度の疾患または外傷の結果として生じる痙縮を治療するようにも適合させることができる。同じように、本開示の実施形態は、疼痛、限られた柔軟性、疲労、鬱病、筋肉および肢における神経支配または感覚の喪失など、MSおよび関連する疾患もしくは損傷の付加的な症状を、上記した更なる症状が痙縮に関連付けられるかどうかにかかわらず、治療するために適合させることができる。陰圧療法を用いる痙縮を治療するための方法のステップは、治療のための独立したステップとして構成でき、あるいは他の治療または療法と統合させるように容易に適合させることもできる。
【0038】
本開示に係る「鎮痙組成物」は、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症(MS)およびさらなる神経変性疾患を含む、中枢神経系に影響を及ぼす損傷または疾患における痙縮の治療に使用される任意の既知の医薬組成物を含むことができる。例えば、鎮痙組成物は、バクロフェン、チザニジン、ガバペンチン、ジアゼパム、ナビキシモルス、ダントロレン、クロニジン、カンナビノイド(OCE、THC、Sativex、など)、副腎皮質ステロイド、シトキサン、イムラン、アンピラ、フマル酸ジメチル(Tecfidera)、フマル酸ジロキシメル(Vumerity)、フェニブット、追加のインターフェロンベータ薬剤、および類似の薬理学的組成物を含むことが可能であり、注射可能な処置、経口処置または点滴処置にかかわらず投与される。鎮痙組成物の投与量は、当業者のレベルに応じていればよいが、本開示の利点を考慮して更に減らしてもよい。
【0039】
更なる薬理学的組成物は、神経系への自己免疫攻撃を抑制するように作用する「免疫抑制組成物」として考えてもよく、鎮痙組成物を用いた場合とは異なる仕方ではあるが、治療レジメにおいて陰圧療法と組み合わせると利益を得ることができる。免疫抑制組成物は、脳損傷、脊髄損傷、脳性麻痺、脳卒中、線維筋痛症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、視神経脊髄炎、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症(MS)およびさらなる神経変性疾患を含む、中枢神経系に影響を及ぼす損傷およびは疾患における治療または再発の予防に使用される任意の既知の薬理学的組成物を含むことができる。例えば、免疫抑制組成物は、オクレリズマブ、グラチラマー酢酸塩(Copaxone、Glatopa)、フィンゴリモド(Gilenya)、テリフルノミド(Aubagio)、シポニモド(Mayzent)、クラドリビン(Mavenclad)、ナタリズマブ(タイサブリ)、アレムツズマブ(Campath、Lemtrada)または他の免疫抑制性薬理学的組成物を含むことが可能であり、注射可能な処置、経口処置、または点滴処置にかかわらず投与される。免疫抑制組成物の投与量は当業者のレベルに応じていればよいが、本開示の利点を考慮して更に減らしてもよい。
【0040】
用語「朝」は、本明細書においては、患者が一晩の睡眠から目覚めた後の1日で早い時間、一般的には、午前6時と午前11時の間頃の時間を記述するのに使用される。1つの実施形態において、陰圧療法は、一晩の睡眠から起きる前後、午前8時30分に施されてもよい。用語「夕方」は、本明細書においては、患者が睡眠のために夜に寝床に入る前の1日のうちの比較的遅い時間、一般的には、午後7時と午後10時の間頃の時間を記述するのに使用される。1つの実施形態において、陰圧療法は、患者が横になって眠る前後、午後7時に施されてもよい。
【0041】
本開示において使用されるような「肢」の言及は、本開示において記載されるような圧力療法装置に容易に導入できる人体また動物の体の任意の部分であり得る。肢は、腕または脚、腕または脚の一部(例えば、前腕部、手、下腿、または足)、または体の複数のそのような部分を含み得る。圧力療法装置は、下腿および足に向けられた実施形態の文脈中で説明されるが、本明細書において記載される多くの特徴は、本開示の方法を行うために、他の肢や体の部分を固定する(secure)圧力療法装置および構成要素に拡張できる。
【0042】
説明のために、本開示の実施形態は、人体の一般的な解剖学的用語を参照してもよい。そのような解剖学的用語は、複数の体の部位をお互いから区別するために提供されるが、本開示の範囲を限定すると考えられるものではない。用語「近位」および「遠位」は、一般的に、肢の胴体への接続位置と相対的なその肢上の位置に対応する場所を指す。用語「上部」および「下部」は、「近位」および「遠位」位置における漸次的変化を含意するために「近位」および「遠位」と組み合わせて使用され得る。
【0043】
患者における痙縮を治療または予防する方法の実施形態は、患者の筋肉において痙縮の影響を低減するかまたは痙縮の発現を元に戻す(reversing)ために提供され、本方法は、陰圧療法を患者に施すことを含む。更なる実施形態は、患者における痙縮および関連する症状を治療するための鎮痙組成物の使用を含むことができ、陰圧療法は、鎮痙組成物の効果を改善するために患者に施される。
【0044】
本方法の実施形態は、有利には、薬または侵襲的手術の必要性を低減しかつ関連する副作用の発生を低減しながら痙縮の治療を可能にする。さまざまな実施形態によれば、何人かの患者では、薬や外科的治療を全く使用することなく痙縮を治療できさえする。本方法は、患部組織および神経系の対応する部分の両方との相互作用を通じて更に痙縮を治療し、単に疼痛を軽減するというよりもむしろ痙縮の根底にある原因および関連する影響の治療を可能にする。そのため、開示される方法は、歩行能力の改善、安定性の改善、疼痛の軽減、睡眠の改善、気分の改善、疲労の軽減、およびさらなる全身性の改善という予想外の結果をもたらす。
【0045】
記載される実施形態の更なる利益は、末梢血流の改善、より健康な動脈、内皮機能の改善、乳酸の減少、ミトコンドリア活性の改善、および慢性炎症の軽減および予防を含み得る。
【0046】
MSならびに痙縮の原因となる中枢神経系の関連する損傷および疾患は、一般的に、神経信号を調節する中枢神経系の能力を損傷させ、その結果、筋肉の不随意の痛みを伴う収縮または弛緩を生じると考えられている。痙縮の考えられる原因のうち、患者の体の部位における局所的な状態が悪化すると、その結果、伝達物質の分解、放出、または取込みの阻害はもちろん、イオンチャンネルの望ましくない開放となると考えられている。局所的な状態は、不適切な感覚フィードバック、過敏症、または痙縮の原因となる機能不全信号を伝えるか、またはそれらに寄与する感覚器終末に影響を与え得る。
【0047】
いかなる理論にも拘束されることなく、陰圧療法による痙縮の治療の予想外の驚くべき効果は、一部は、患者の末梢神経系からの感覚フィードバックの繰り返される変化の生成の結果として生じると考えられる。この感覚入力が、脊髄の神経網に作用して、痙縮の発現に寄与する中枢神経系の介在ニューロン、運動ニューロン、または他の要素の過剰興奮性に影響すると考えられる。
【0048】
特に、体の静脈における血管神経が活性化され、かなりな程度血管拡張されるが、これは陰圧環境によって引き起こされる血流の増加が、中枢神経系によって受信された感覚入力に、略直接的に特大の影響を与えることを意味する。陰圧療法によって引き起こされる血管神経、皮膚の感覚神経、および筋肉の神経を刺激するという組み合わされた効果は、強い信号または感覚入力が一定間隔または断続的な間隔で体の大部分にわたってまたは体の大部分内にもたらされるように、患者の体および/または血管系の大部分にわたって同時に拡張し得る。
【0049】
陰圧療法によって引き起こされる強い間欠的な感覚入力が、一般に痙縮と関連する機能不全のまたは不完全な神経信号を遮断することができ、かつ繰り返し使用により神経信号を調節する中枢神経系の能力を予想外に高めることができると考えられる。このようにして、陰圧療法によってもたらされた感覚入力が、驚くべきことに、神経系の部分、特に、痙縮に関連する部分を本質的に「リセットする」、および/または伝達物質の分解、放出または取込みの阻害はもちろん、イオンチャンネルの望ましくない開放の発生を減らすために神経系のこれら部分を事実上「働かせる」のに役立つことができ、神経の感覚フィードバック、感度、および信号機能を改善する。
【0050】
神経系への説明された有利な効果は、関連する症状および状態はもちろん痙縮への驚くべき組み合せのまたは相乗的な効果を達成するために、鎮痙組成物の投与と協調させることができる。いかなる特定の理論によっても拘束されるものではないが、鎮痙組成物は、痙縮の頻度および/また程度を減らすために、神経系における受容体を活性化または作動させることよって機能することができ、感覚入力および本開示の陰圧療法に関連する処理を同時に改善することが、驚くべきことに、受容体の活性化または作動効果を高めることができる。鎮痙組成物の結果有効取り込みの増加は、結果有効投与量および対応する副作用が、鎮痙組成物および陰圧療法の併用の結果として減少し得るように、受容体の健康または協調の増加の産物であり得る。いくつかの鎮痙組成物およびそれらの関連する効果の概要は、以下の表Iに提供される(Patejdl Robert, Zettl Uwe K., Spasticity in multiple sclerosis: Contribution of inflammation, autoimmune mediated neuronal damage and therapeutic interventions, Autoimmunity Reviews(2017)も参照)。
【0051】
MSまたは関連する状態から結果として生じる痙縮を治療するための本開示に従う鎮痙組成物の使用は、好ましくは、陰圧療法の同時適用を含むことができる。例えば、鎮痙組成物は、患者への陰圧療法と鎮痙組成物との併用が、望ましくない副作用を軽減するかまたは予防しながら同等のまたはより大きな利益を達成するために減らされた用量を投与することを可能とするように、結果有効用量およびスケジュールにしたがって毎日患者に投与してもよい。別の例において、陰圧療法は、規則正しいスケジュールに従って患者に施すことができ、鎮痙組成物は、低用量から開始して最適な効果が達成されるまで漸増させる個々の用量漸増によって患者に投与することができる。
【0052】
特に、鎮痙組成物の使用は、用量が以前の投与レベルから減らされるか予測レベルに対して減らされるかにかかわらず、患者への投与に必要な用量を減らすことができる。陰圧療法の適用を用いるMSまたは関連する状態の治療のための鎮痙組成物の使用は、症状の更なる改善または症状の進行の反転(reversal)さえも結果として生じ得るように、鎮痙組成物との相乗効果を更に示すことができる。
【0053】
同様にして、鎮痙組成物と陰圧療法の併用の上記利益を考慮する当業者は、免疫抑制組成物と陰圧療法とを組み合わせることにより、鎮痙組成物を用いてもまたは用いなくても結果として生じる有益な結果を期待するであろう。MSおよび関連する状態を治療する際に使用される免疫抑制組成物は、神経系への自己免疫攻撃を阻害するのに役立つ一方で、本開示の方法に従う陰圧療法の同時適用は、上述の利益に照らして、神経系への損傷を修復または抑制するのに役立ち得る。
【0054】
MSに関連する痙縮および類似の状態の治療のための陰圧療法の使用において特に興味があるのは、通常、中枢パターン発生器(CPG)と呼ばれる肢を制御するための筋肉の律動的な活性化を引き起こす神経網への増大した感覚入力の影響である。これら発生器は、一般的に、末梢神経系からの感覚入力を含む様々な因子によって影響されると考えられている。
【0055】
MSおよび関連する状態を患う患者において、運動ニューロンの望ましくない活性を通常は制限または限定する(抑制介在ニューロンからの)抑制信号は、中枢神経への損傷のために低減され、CPGを活性して痙縮へと導く運動ニューロンの活性の増大を許すと考えられる。陰圧療法の施行から結果として生じる強い感覚入力は、バックグラウンドの運動ニューロンの過剰活性化または過感受性が防止されるように、抑制介在ニューロンからの抑止効果を同期および/または増強すると考えられる。抑制介在ニューロンによる抑止効果のそのような同期および/または増強は、治療のための鎮痙組成物に依存する患者集団に特に有益であり得る。上記で議論したように、陰圧療法から結果生じる抑制介在ニューロンによる抑制効果の同期および/または増強の驚くべき改善が、鎮痙組成物の対応する抑制効果または神経学的効果を高めることができ、痙縮および関連する状態の治療における鎮痙組成物に対するより早くてより効率的な応答へと導き得る。
【0056】
痙縮を患う患者への更なる利益は、より健康的な機能へと導く末梢組織の状態の全体的な増大を含むと信じられる。特に、組織の酸素化および血流の増加は、末梢組織が、痙縮に関連する収縮をそうでなければ引き起こし得る関連する伝達物質をより良好に調整および制御することを可能にし得る。血流と痙縮との間の関連、および末梢感覚入力と痙縮との関連に対応する追加の利益が、予測され、本開示の方法に係る陰圧療法を用いる痙縮の治療によって実現することができる。
【0057】
本開示の実施形態に係る陰圧療法は、脈動圧力の適用、または連続した期間中の2つ以上の異なる圧力を繰り返し交互に導入することを含むことができる。脈動圧力は、第1の時間間隔の間に陰圧を生成し、第2の時間間隔の間に陰圧を解除することを含み得る。第2の時間間隔の間の陰圧の解除は、異なる陰圧、大気圧、環境の圧力、または陽圧などの、第1の時間間隔の陰圧とは異なる圧力を適用するように構成できる。第1の時間間隔は、第2の時間間隔よりも長くてよいし、同じ長さでもよいし、短くてもよい。
【0058】
1つの例において、脈動圧力は、適用される圧力の導入と、略大気圧に戻すための適用される圧力の解除とを交互に行うこと含むことができる。適用される圧力は、陽圧であってもまたは陰圧であってもよい。陰圧を使用する実施形態においては、陰圧が導入されて陰圧が生じている期間が、陰圧期間である。同様に、陽圧を使用するシステムにおいて、陽圧が導入されて陽圧が生じている期間が、陽圧期間である。各場合において、適用さる圧力が解除され、大気圧が戻されて大気圧が生じている間の時間は、大気圧期間である。
【0059】
本明細書において議論される実施形態は、陰圧の適用に言及して議論される。本開示は、陰圧ではなく陽圧を使用する装置および方法が除外されると解釈されるべきではない。更に、開示されている実施形態は、圧力の使用に限定されず、間欠的に体内において血管拡張反射を活性化するための代替の方法も含むことができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、複数の、連続する、交互に変わる陰圧期および大気圧期間が、圧力チャンバ内において肢に、当該肢を当該チャンバから外すことなく適用される。陰圧期間および大気圧期間は、同じまたは異なる持続期間のものであり得る。いくつかの実施形態において、陰圧期間および大気圧期間は、2010年11月16日に発行されて参照によりその全体が本明細書に組み込まれている共通に所有される米国特許第7,833,179号明細書に記載されているものなどの既知の方法に従って選択することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、陰圧期間は、持続期間が1秒および20秒の間であり、大気圧期間は、持続期間が2秒および15秒の間である。更に、いくつかの実施形態において、陰圧期間は、持続期間が5秒および15秒の間であり、大気圧期間は、持続期間が5秒および10秒の間である。そして、いくつかの好ましい実施形態においては、陰圧期間は、持続期間がおおよそ10秒であり、大気圧期間は、持続期間がおおよそ7秒である。
【0062】
圧力チャンバの内に適用される圧力は、使用時に固定または選択することができる。本開示に係る装置および方法の実施形態は、-150mmHg以下の陰圧、とりわけ、-80mmHg(-10.7kPa)以下の陰圧を適用することを備える。いくつかの実施形態において、陰圧は、-60mmHg(-8.0kPa)以下であり得る。いくつかの実施形態は、おおよそ-40mmHg(-5.3kPa)の陰圧を使用する。
【0063】
好ましい陰圧は、より大きな陰圧の適用により生じ得る合併症を減らすために選択される。いくつかの実施形態において、陰圧は、起こり得る合併症の危険性を最小にしながら肢の表面における局所的な血管拡張を促進するために選択される。陰圧を脈動させることが血流を促進させることが判明されており、好ましくは、0~-40mmHg(0~-5.3kPa)の脈動陰圧が圧力チャンバにおいて生成される。
【0064】
1つの実施形態において、陰圧療法は、陰圧療法を適用するための圧力療法装置を患者の体の部位、例えば、下腿または腕などの患者の肢に配置することを含んでもよい。患者の体の部位は、その部位における痙縮の発現、または痙縮を経験している患者の体の部位への近接により、陰圧療法を受けるために選択されてもよい。1つの例において、患者の上腿または背下部において発現している痙縮を治療するために、患者の下腿に陰圧療法を施してもよい。
【0065】
実施形態によれば、圧力療法装置は、患者の体の部位に陰圧を適用するための任意の適切な装置を含み得る。図1は、2021年3月9日に発行され参照によってその全体が本明細書に組み込まれている共有米国特許第10,940,075号明細書からの圧力療法装置100の一例を示す。
【0066】
図1に示すように、圧力療法装置は、圧力チャンバ110を含むことができる。圧力チャンバ110は、圧力チャンバ110の第1および第2の端部112、114と、前面および後面116、118との間に患者の肢を包み込むために配置されてもよい。図1の実施形態において、第2の端部114は、圧力チャンバ110の内側の内部領域122、124への開口120を画定する。
【0067】
圧力チャンバ110の内部領域124は、圧力チャンバ110の側部116、118において導管188を通じてポンプユニット190と連通することができ、ポンプユニット190は、圧力チャンバ110の内部領域122、124の圧力を増加および減少するように構成される。可膨張式パッド140は患者の肢を把持することができ、その一方で、シール150が患者の肢周りをしっかりと固定し、かつ圧力チャンバ110を周囲圧力から閉鎖するように、シール150は圧力チャンバに固定され、開口120を囲みかつ圧力チャンバ110を超えて近位方向に延在する。
【0068】
図1に示されるように、圧力チャンバ110は、第2の端部114に支持面130を備えることができる。支持面130は、平坦底部132と角度付け部134とを備えることができ、圧力チャンバ110に固定される独立したパーツとして成形できる。平坦底部132は、使用者が圧力療法装置100の使用中において快適に座らせられることができるように、圧力チャンバ110が所定の姿勢において安定して維持することを可能にする。角度付け部134は、圧力チャンバ110が傾いた姿勢において安定して配置できるようにして、前面および後面116、118に存在してもよい。角度付け部134は、圧力チャンバ110が容易に回転できるように湾曲させてもよいし、または所定の姿勢において安定性をもたらすために平坦であってもよい。肢は、そのとき、圧力チャンバ110内の位置決め機構172に接触してもよく、圧力チャンバ110は、下面130の平坦部上で横になるために回転してもよい。
【0069】
支持面130は、1つまたは複数のモジュール構成要素を受けるためのモジュール空間180を備えることができる。1つの実施形態において、モジュール構成要素は、取り換え可能であってもよいし、振動構成要素、加熱構成要素、冷却構成要素などを含んでもよい。
【0070】
シール150は、近位端部152と遠位端部154とを含む円錐台形状を有し得る。近位端部152は、肢が、より開口120の後方部分に配置されるように、遠位端部154の中心軸に対して偏心した中心軸を有することができる。使用者の肢の周りに固定されると、プルタブ157は、使用者が肢の周りでシール150を把持して開くことができるようにシール150の遠位長さに沿って延在するように構成できる。シール150の近位端部152は、肢の配置または取り外しのためにシール150の開口を広げ、遠位方向に巻き戻すことができる。突起156は、使用者が肢の配置の間にシール150を押さえておく必要がないように、シール150を丸められている位置において摩擦により保持するように遠位端部154に配置できる。この特徴により、肢または圧力チャンバ110を巧みに操りながらシールを操作するのに十分な体力、器用さ、または可動性を持たない個人による圧力療法装置100の使用が可能となる。
【0071】
多様な実施形態によれば、ポンプユニット190は、患者への治療の効果をモニターするためおよび/または治療を患者に適合させるように配置されたセンサを含むか、または当該センサと動作可能に接続できる。例えば、血流センサ、温度センサ、電気センサなどが、患者への陰圧療法の効果をモニターするために、かつ患者の必要に応じて圧力、継続時間、または他のパラメータを調整するために、ポンプユニット190と関連付けられた制御モジュールまたは他のコンピューティングデバイスの使用などを通じて使用できる。ポンプユニット190の制御装置は、本願の方法を行うために圧力療法装置を動作させるために設けることができる。制御装置は、スマートフォン、ラップトップ、タブレットコンピュータ、またはポンプユニット190内部のまたはポンプユニット190に動作可能に接続される類似の装置などのモバイルデバイスとして設けることができる。制御装置は、圧力療法装置において陰圧の適用を制御するためおよび/または陰圧装置の使用をモニターし、かつ適切な治療または患者のコンプライアンスを保証するように臨床医などに報告するために配置できる。
【0072】
1つの実施形態において、陰圧療法を用いた痙縮の治療は、痙縮の最初の兆候で開始することができる。痙縮の兆候は、筋緊張の亢進、クランプ、スパズムまたは他の不随意筋収縮を含み得るが、チクチクする感覚、または筋肉における痙縮に先行するかまたは付随するとして患者によって特定される他の感覚を更に含み得る。
【0073】
患者に適用される陰圧療法の継続期間は、症状が完全に治まるまで陰圧療法の適用が続けられるようにして、患者が経験している痙縮に対応してもよい。代替的には、症状の停止を超える所定の時間、例えば、症状の停止後5分、10分または20分が選択されてもよい。
【0074】
当該方法の別の態様において、陰圧療法は、痙縮の症状の発現を予防するための予防措置として適用されてもよい。1つの例において、患者は、温度変化または姿勢の変更を含む痙縮の既知の誘因の前に、または感染または疼痛などそれ以外の制御できない痙縮の誘因に対応して、陰圧療法を用いた治療を受けることができる。1つの態様において、陰圧療法を用いる患者の定期的な治療が考えられ、この場合、患者は、少なくとも1日に1回、一定の期間に陰圧療法を利用する。
【0075】
実施形態は、本明細書において記載されているように、痙縮または関連する状態の治療のための鎮痙組成物の使用を含むこともできる。当該方法は、鎮痙組成物の効果を高めるために、鎮痙組成物を投与することおよび陰圧療法を適用することを含むことができる。1つの例において、患者は、鎮痙組成物の毎日の投与と、本願に係る陰圧療法の毎日の適用とを含む治療を受けることができる。鎮痙組成物の投与量は、当該組成物の陰圧療法との相加または相乗効果のために、低減することができる。1つの態様において、鎮痙組成物は、陰圧療法が同時にまたは同日内になど、鎮痙組成物の投与に対応して適用できるようにして、要求に応じて投与されてもよい。
【0076】
多様な実施形態において、陰圧療法は、患者への鎮痙組成物の投与から24時間以内、とりわけ18時間以内、12時間以内、8時間以内、6時間以内、4時間以内、3時間以内、1時間以内、または鎮痙組成物を投与時に当該患者に適用してもよい。鎮痙組成物の投与は、特定の食事の後、毎朝、または毎晩など規則的なスケジュールで行われてもよい。陰圧の適用は、鎮痙組成物の投与と同時に行われても良く、または起床時の鎮痙剤の投与と睡眠のために横になった際の陰圧療法の適用などの関連するスケジュールなどで行われてもよい。
【0077】
鎮痙組成物の初回投与は、結果有効用量でかつ本出願を検討している当業者によって理解されるような結果として有効な方法で行われてもよいが、その後の投与がより低い投与量で行われる場合がある。例えば、初回用量は、陰圧療法を同時に適用して、6ヵ月未満の期間、3ヵ月未満の期間、1ヵ月未満の期間、または2週間未満の期間投与され得る。したがって、その後のより低い用量の鎮痙組成物は、陰圧療法の同時適用および初回投与の6ヵ月後、3ヵ月後、1ヵ月後、または2週間後に投与されてもよい。
【0078】
1つの態様において、陰圧療法は、睡眠障害による痙縮の発現を予防するために睡眠の前に患者に施されてもよい。別の態様において、陰圧療法は、患者の筋肉の最初の動きおよび体重負荷に関連する痙縮の発現を防止するために、睡眠から起き上がる前に患者に施されてもよい。
【0079】
陰圧療法を用いる痙縮の予防的処置は、患者の体の少なくとも1つの部位に、少なくとも20分間、少なくとも30分間、少なくとも40分間、または少なくとも1時間適用できる。いくつかの実施形態によれば、予防的治療は、患者の体の少なくとも1つの部位に対して1日に1回の治療、1日に2回の治療、または1日に少なくとも2回の治療を含むことができる。陰圧療法が、1つの肢だけに適用され実施形態を考えているが、本開示は、そのような実施形態に限定されず、患者の体の1つまたは複数の部位への圧力療法の逐次的および/または同時適用を含むことができる。
【0080】
陰圧療法を用いる開示された予防的処置は、MSなどの中枢神経系の疾患または損傷の持続期間の間に、治療レジメの定期的で継続した部分として提供されてもよい。特に、一部の患者における痙縮または関連する症状の対応する増大なしで治療の頻度および継続期間を低減し得る可能性があるが、予防または回復の最大レベルを達成するために定期的で継続した方法で治療が適用されることが好ましい。
【0081】
本開示の方法は、有害な副作用なしに体の病変部位と非病変部位との両方に対して利益を有利にもたらし、患者のコンプライアンスおよび帰結を改善する。完全には理解されていないが、陰圧療法を用いた痙縮の治療は、MSまたは損傷した中枢神経系に関連し、少なくとも上記の症状の相互に関連する進行による他の症状も改善され得る。同様に、陰圧療法とともに投与される鎮痙組成物を用いた痙縮の治療は、MSまたは損傷した中枢神経系に関連し、少なくとも上記の相互に関連する影響による他の症状、および鎮痙組成物および陰圧療法の利益も改善され得る。
【0082】
本開示から当業者によって理解されるように、陰圧療法を用いた痙縮を治療する上記の方法は、痙縮の他の既知の治療または療法、または痙縮の誘因を軽減するための既知の方法と同時に、または続けて適用されてもよい。例えば、本開示に従う陰圧療法は、加熱または冷却ユニット、振動ユニット、矯正装置、支持具、電気刺激装置などが加えられてもよい。
【0083】
別の態様において、本開示の方法は、患者への治療の効果をモニターするように、および/または治療を患者に適合させるように配置されるセンサを用いて適用されてもよい。例えば、血流センサ、温度センサ、電気センサなどが、患者への陰圧療法の効果をモニターするため、かつ患者の必要に応じて圧力、継続期間、または他のパラメータを調整するために、制御モジュールまたは他のコンピューティングデバイスの使用などを通じて使用できる。
【0084】
制御装置は、本願の方法を行うために圧力療法装置を動作させるために設けてもよい。制御装置は、スマートフォン、ラップトップ、タブレットコンピュータ、または類似の装置などのモバイルデバイスとして設けることができる。制御装置は、圧力療法装置において陰圧の適用を制御するために、および/または陰圧装置の使用をモニターし、適切な治療または患者のコンプライアンスを保証するように臨床医などに報告するために配置できる。
【0085】
1つの実施形態において、制御装置は、圧力療法装置の作動の前、その作動の間、またはその作動の後、患者に課題(challenge)または質問を発するように構成された課題-応答モジュール含むことができる。課題または質問は、患者の症状または治療パラメータに関する情報を含むことができ、患者の応答が、更なる処理または編集などのために、リモートサーバに供給されてもよい。多様な実施形態によれば、課題に対する応答が、圧力療法装置の動作のために要求されてもよい。リモートサーバにおける応答の更なる処理または編集が、圧力療法装置の動作時における制御装置による使用のため、または推奨する治療またはスケジュールを患者に提供するための動作パラメータを決定するために使用できる。
【0086】
複数の症例研究が、鎮痙組成物の陰圧療法との併用を含む、痙縮を治療するための本開示に係る陰圧療法の効果を証明するために用いられ、肯定的な初期の帰結をもたらしている。
【0087】
そのような1つの症例研究において、夜通しの筋クランプの形態でMS関連痙縮を患う患者に、脈動陰圧の形式で陰圧療法が施された。患者は、脚に痙縮に関連する重度のクランプの病歴を示した。一般的に、クランプはゆっくりと始まり、5~10分間にわたって四肢から脚の上へと広がるにつれてその重症度が増加する。同時であるか別々であるかにかかわらず、通常両脚が影響を受けた。患者の痙縮の症状の影響に加えて、当該患者は、夜に最も頻繁に発作を起こし、関連して眠りの質の低下に苦しんでいた。
【0088】
陰圧療法を用いる治療の前に、患者は、筋弛緩剤または鎮痙組成物の使用に頼っており、当該筋弛緩剤の使用では疼痛の軽減のために一般的に少なくとも20分を要し、ある日からその翌日までのクランプの頻度の低減という結果にはならなかった。クランプほど深刻ではなかったが、当該薬剤は、避けた方が好ましい共通の副作用を示した。
【0089】
25日間という初期の期間にわたって、本開示に係る陰圧療法は、痙縮の予防的な処置として施された。当該処置は、脈動陰圧を1つまたは複数の肢に、1時間、40分間、または30分という期間適用するよう構成された。患者は、施された処置を記録し、痙縮に関連するクランプを、軽度、中等度、または重度として分類した。処置の期間は、クランプまたは痙縮に関連する他の影響は、おおよそ8時間という期間を含む夜の間、処置対象の脚に感じられなかった。筋弛緩剤、または鎮痙組成物の使用は、良い効果を低減させることなく、観察される副作用の軽減を示しながら、その頻度と用量が低減された。
【0090】
対照的に、陰圧療法が施されなかった場合、両方の脚または片方だけの脚のいずれかに、クランプが共通に発症し、陰圧療法を使用した処置から経過した時間の長さに依存して、その重症度が増加した。従って、筋弛緩剤、または鎮痙組成物の使用は、同様に悪い影響を受け、陰圧療法を使用した処置から経過した時間の長さに依存して疼痛軽減のための時間の長さの増加を必要とした。
【0091】
記録された処置レジメン、および痙縮クランプの分類結果を、表IIにおいて以下に示す。


【0092】
患者は、発症している痙縮クランプに対する陰圧療法の施行が、日中の使用中などにおいて、5分未満でクランプを軽減するのに効果的であることを更に報告した。
【0093】
別の研究において、末梢動脈疾患を患う個人16人の標本母集団を治療するために本開示の圧力療法装置を用いることにより、使用者の肢に対する様々な圧力レベルの効果が分析された。研究の標本母集団のうちの90%超は、軽度の跛行を患っており、慢性の肢虚血に関してフォンテイン分類のうちのステージIIに分類された。
【0094】
圧力レベル-10mmHg、-20mmHg、-40mmHgおよび-60mmHgの血流への影響の一対比較、および脚および足のレーザードップラー流束測定が行われ、以下の表IIIに示されるように、血流およびドップラー流束の統計的に有意な増加が示された。
【0095】
証明されているように、おおよそ-40mmHg(-5.3kPa)の陰圧を用いた圧力療法装置の実施形態は、末梢動脈疾患を患う患者の肢を流れる血流の有意な改善を示す。
【0096】
本開示において示されるように、驚くべきことに、血流と酸素化の増加が、中枢神経系の損傷または疾患に関連する痙縮を患う患者における痙縮の軽減および治療にさらに効果的であり得ることが判明した。開示された実施形態に係る陰圧療法の使用は、単に疼痛の軽減または筋弛緩の増大を提供するだけではなく、驚くべきことに、MSまたは中枢神経系に影響を及ぼす関連する疾患および損傷を患う患者において神経制御を改善するという新しい予期せぬ結果を示した。本出願に開示された発見の前に達成されたかまたはさもなければ期待される類似の利益はなかった。
【0097】
更なる観察研究において、本開示の方法に係る陰圧療法は、MSと診断された7名の患者に適用された。7名の患者のうち、3名は、具体的には二次性進行型MS(SPMS)と診断され、2名は、具体的には再発寛解型MS(RRMS)と診断され、1名は、具体的には一次性進行型MS(PPMS)と診断され、1名は、特定の分類と具体的には診断されなかった。患者の各々は、以前に、鎮痙組成物を用いて彼らの状態の治療を受けており、鎮痙組成物の使用が当該研究の間に継続されたが、何人かの患者において、投与量の低減が観察された。
【0098】
本開示の方法に係る陰圧療法の適用は、好ましい結果となる。7名の患者のうちの6名が、痙縮に関する問題があることを報告し、当該6名の患者のうちの4名(67%)が、陰圧療法の後に脚において少なくとも硬直および/またはスパズムの発現が改善されたことを報告した。3名の患者は、脚におけるクランプに関する問題があることを報告し、当該3名のうち2名(67%)が、陰圧療法の後クランプの発現が改善されたことを報告した一方で、3人目は本開示の方法のパラメータに基づく治療を利用しなかった。患者のうち5名が、感覚障害、感覚低下(痺れと記載される)または知覚異常(チクチクした痛み、電気的なショック、灼熱感または穿痛感と記載される)のいずれかに関する問題があることを報告し、当該5名の患者のうち4名が、陰圧療法後の改善(80%)を報告した。
【0099】
患者のうち4名は、彼らの肢におけるある程度の疼痛に関する問題があることを報告し、当該4名の各々(100%)は、陰圧療法後の改善を報告した。患者のうち3名が、彼らのMSの顕著な症状としての疲労に関する問題があることを報告し、当該3名のうち2名が、陰圧療法後の疲労レベルの改善(67%)を報告した。患者のうち4名が、脚に現れるMSの症状による睡眠障害および低い睡眠の質に関する問題があることを報告し、当該4名の各々(100%)が、陰圧療法後の睡眠の質の改善を報告した。更に、患者のうち3名が、気分の改善(42%)を報告し、患者のうち4名が、機能性の改善(57%)を報告し、患者の内5名が、生活の質の改善(71%)を報告した。報告された改善は、明らかに、本開示の実施形態に係る陰圧療法の適用を通じたMS患者の治療からの新しい予期せぬ結果の証拠である。
【0100】
上記症例研究は、痙縮の予防および進行中の痙縮の治療を含む、本開示に係る陰圧療法を用いた痙縮の治療の有利な点を明らかに証明する。類似する有利な点は、先行技術において、全く考えられてもいなければ実現もされていない。
【0101】
上記の議論から容易に明らかなように、陰圧療法の継続時間、圧力、タイミングおよび位置ならびに関連する装置が調整でき、様々な体の部分および様々なレベルの痙縮を有する非常に様々な使用者が、本方法から恩恵を被ることができることが理解される。本開示に係る陰圧療法が、痙縮のための既知の他の治療と併用するために調整できることも理解される。
図1