(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現するための発現カセット及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241112BHJP
C12N 15/79 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20241112BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/79 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N15/35
C12N7/01
(21)【出願番号】P 2023504515
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 CN2021120828
(87)【国際公開番号】W WO2023039936
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】202111105263.5
(32)【優先日】2021-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522281981
【氏名又は名称】勁帆生物医薬科技(武漢)有限公司
【氏名又は名称原語表記】Genevoyager (WUHAN) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Wuhan Area of Free Trade Zone) 311-22 Experimental Building, Nuclear Magentic Spectrometer lndustrial Base, No.128 Guanggu 7th Road, East Lake New Technology Development District Wuhan, Hubei 430000 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】肖 何
(72)【発明者】
【氏名】何 暁斌
(72)【発明者】
【氏名】黄 剛
(72)【発明者】
【氏名】胡 穎
(72)【発明者】
【氏名】潘 杏
(72)【発明者】
【氏名】黄 荷
(72)【発明者】
【氏名】杜 亮
(72)【発明者】
【氏名】王 梦蝶
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113166731(CN,A)
【文献】米国特許第08945918(US,B2)
【文献】MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY,1989年,Vol.9, No.6,pp.2765-2770
【文献】www.moleculartherapy.org,2008年,Vol.16, No.5,pp.924-930,doi:10.1038/mt.2008.35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 5/10
C12N 7/01
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現するための発現カセットであって、
5'から3'まで操作可能に結合した、
昆虫細胞内で転写を駆動可能なプロモーターと、
人工的に構築した配列と、
1番目の翻訳開始コドンが欠失した重複オープンリーディングフレームと、
を含み、前記人工的に構築した配列は、昆虫細胞内でスプライシング活性を有する天然の又は人工的に改変されたイントロンを含み、前記イントロンは、翻訳開始コドンATGを含み、又は前記イントロンは、ATGにおける隣接する任意の2つのヌクレオチドの間に位置し、
イントロンの選択的スプライシング作用により、前記人工的に構築した配列における翻訳開始コドンAUGが保持又は欠失し、或いは前記人工的に構築した配列に翻訳開始コドンAUGが形成され、これによって、1つの重複オープンリーディングフレームを介して長さの異なるタンパク質を生成することを特徴とする、発現カセット。
【請求項2】
前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した、
前記イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
前記イントロンの3'部分と、
2A自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
前記2A自己切断ペプチドは、T2Aペプチド、P2Aペプチド、E2Aペプチド又はF2Aペプチドであることを特徴とする、請求項2に記載の発現カセット。
【請求項4】
前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した、
第1イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
第2イントロンの5'部分と、
第1イントロンと第2イントロンによって共有されるイントロンの3'部分と、
を含み、前記第2イントロンの5'部分の内部には、終止コドンがあり、前記終止コドンと前記翻訳開始コドンATGとの間のヌクレオチド数は、3の倍数であることを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記イントロンの5'端ヌクレオチドは、GTNNであり、前記イントロンの3'端ヌクレオチドは、NNAGであり、NはA、T、C、Gの4種類のヌクレオチドのうちのいずれか1種であることを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子又はAAVのrep遺伝子であることを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記プロモーターは、polhプロモーター又はp10プロモーターであることを特徴とする、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子であり、前記プロモーターは、p10プロモーターであり、或いは、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのrep遺伝子であり、前記プロモーターは、polhプロモーターであることを特徴とする、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の発現カセットを含むことを特徴とする、核酸分子。
【請求項10】
第1発現カセットと第2発現カセットとを含む核酸分子であって、
前記第1発現カセット及び前記第2発現カセットは、それぞれ請求項1から8のいずれか1項に記載の発現カセットであり、前記第2発現カセットによって発現される遺伝子は、前記第1発現カセットによって発現される遺伝子と異なることを特徴とする、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項11】
前記第2発現カセットは、前記第1発現カセットに対してアンチセンス方向であり、或いは、前記第2発現カセットは、前記第1発現カセットに対してセンス方向であることを特徴とする、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
外来遺伝子、及び前記外来遺伝子の両端に位置するAAV逆位末端反復配列をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の核酸分子。
【請求項13】
前記外来遺伝子は、レポーター遺伝子であり、
前記レポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼコード遺伝子、β-ガラクトシダーゼコード遺伝子、β-グルクロニダーゼコード遺伝子、ウミシイタケルシフェラーゼコード遺伝子、アルカリホスファターゼコード遺伝子、ホタルルシフェラーゼコード遺伝子、緑色蛍光タンパク質コード遺伝子及び赤色蛍光タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも1種であり、或いは
前記外来遺伝子は、薬物ポリペプチドをコードする遺伝子であり、前記薬物ポリペプチドは、リポタンパク質エステラーゼ、アポリポタンパク質、サイトカイン、インターロイキン及びインターフェロンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか1項に記載の発現カセットを含むことを特徴とする、ベクター。
【請求項15】
前記ベクターは、昆虫細胞適合性ベクターであることを特徴とする、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
昆虫細胞内で組換えアデノ随伴ウイルスを調製するための請求項14に記載のベクターの使用。
【請求項17】
インビトロでのAAVカプシドの調製における請求項14に記載のベクターの使用であって、
前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子であることを特徴とする、使用。
【請求項18】
請求項1から8のいずれか1項に記載の発現カセットを含むことを特徴とする、昆虫細胞。
【請求項19】
前記発現カセットは、前記昆虫細胞のゲノムに組み込まれることを特徴とする、請求項18に記載の昆虫細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学技術分野に属し、より具体的には、昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現するための発現カセット及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus,AAV)(アデノ関連ウイルスとも呼ばれる)は、パルボウイルス科ディペンドウイルス属に属し、現在発現された構造が最も簡単な単一鎖DNA欠損型ウイルスであり、複製にはヘルパーウイルス(通常、アデノウイルス)を必要とする。組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、宿主範囲が広く、免疫原性が低い、安全性が高く、動物内での外来遺伝子の長期で安定的な発現を媒介できるなどの利点を有するため、現在、遺伝子治療分野では最も有望なベクターの一つである。最初の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)媒介遺伝子治療薬が承認されて以来、大規模なAAVベクター製造技術に対する需要がますます高まっている(Yla-Herttuala S.,2012,Mol Ther,20:1831-1832)。
【0003】
現在、rAAVを生産するシステムは主に2つある。1つは、哺乳動物細胞(例えば、293細胞、COS細胞、HeLa細胞、KB細胞等)を用いる通常生産システムである。もう1つは、昆虫細胞を用いる生産システムである。哺乳動物細胞生産システムにおいて、単一細胞のrAAV粒子の収量が低く、培養中で汚染のリスクが高い。これは、rAAVの哺乳動物細胞での大規模生産及び応用を制限する。組換えアデノ随伴ウイルスゲノムにおいてcap遺伝子はウイルスVPカプシドタンパク質をコードし、3種類の構造タンパク質を含み、それぞれVP1、VP2及びVP3である。野生型ウイルス由来のAAVにおけるVP1、VP2及びVP3の化学量論比は約1:1:10である。このような化学量論比は、組換えAAVの取得にとって非常に重要である。哺乳動物細胞培養系において、3種類のAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2及びVP3;化学量論比1:1:10)を取得した。これは、哺乳動物細胞のイントロンの2つのスプライスアクセプター配列の交互使用及びVP2次善開始コドンACGの使用に依存する。しかし、哺乳動物細胞と昆虫細胞は、イントロンのスプライシングメカニズムが異なるため、哺乳動物細胞に現れる発現態様が昆虫細胞内で複製されない。その結果、野生型AAVは、昆虫細胞内で適切なカプシドにパッケージングすることができない。
【0004】
上記の問題を克服するために、Urabeらは昆虫細胞の生産システムを開発した。具体的には、VP1の開始コドンAUGを次善開始コドンACGで置換し、単一のポリシストロニックmRNAを構築する。このポリシストロニックmRNAは、スプライシングする必要がなく、3種類のAAV2のVPタンパク質を全て発現することができる(Urabeら、2002,Hum Gene Ther,13:1935-1943)。しかし、AAVの血清型が多くて日々増えていき、Urabeらの改変方法は全ての血清型に適用することができない。例えば、UrabeらがACGをVP1カプシドタンパク質開始コドンとして用いたバキュロウイルス系で産生したAAV5粒子は、感染性が十分ではなかった。また、中国特許CN106544325Aで提供される方法では、異なる次善開始コドンCTGを用いてVP1の発現を強化する。このような設計によりAAV5粒子の感染性が向上したが、VP1/VP2/VP3の相対含有量の調節には柔軟性が欠如する。また、この方法も血清型特異的配列調整に必要な柔軟性が欠如する。中国特許CN101522903Aで提供される方法において、polhプロモーター配列を含む人工イントロンをVP1のオープンリーディングフレームに挿入し、2つのプロモーターによりVP1及びVP2/VP3をそれぞれ発現させる。このような設計により、同一のリーディングフレームでのVP1/VP2/VP3の発現が実現され得るが、この方法は、VP1/VP2/VP3の相対量を効果的に調節することができないとともに、異なる血清型中のVP1/VP2/VP3のカプシドタンパク質の違いが大きいことで生産効率が低下する。
【0005】
AAV昆虫細胞生産系において、UrabeらはRep78及びRep52の独立した2つの発現カセットを構築し、同一のバキュロウイルスベクターに挿入した。Rep78の低発現がAAVのパッケージングに有利であり、Rep52はPolhプロモーターを使用する一方、Rep78はPolhプロモーターよりも起動活性が低い△IE1プロモーターを使用する(Urabeら、2002,Hum Gene Ther,13:1935-1943)。しかし、研究により、Urabeらによって開発されたAAV Repタンパク質発現方法には、バキュロウイルスベクターの継代が不安定であるとの問題が存在することが発見された。この問題を解決するために、中国特許CN103849629Aには、AAV Rep78タンパク質の翻訳開始コドンをACGに置換する昆虫細胞内でのAAVの産生方法が開示される。この方法は、同一のリーディングフレームでのRep78及びRep52タンパク質の発現を実現できるが、Rep78及びRep52タンパク質の相対発現の調節作用が欠如する。
【0006】
そこで、昆虫細胞内で組換えアデノ随伴ウイルスを安定して大規模で生産できる手段及び方法の開発は、非常に重要である。
【発明の概要】
【0007】
従来技術の欠陥に対して、本発明の目的は、昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現するための発現カセット及びその使用を提供することである。本発明では、イントロンの選択的スプライシング調節作用により、転写後修飾の過程においてVP1タンパク質コード配列の翻訳開始コドンAUGを選択的に保持、欠失又は形成し、昆虫細胞内でcap遺伝子重複オープンリーディングフレームにおいてVPタンパク質(VP1/VP2/VP3)が正確な化学量論で発現されることが実現される。同様に、イントロンの選択的スプライシング調節作用により、転写後修飾の過程においてRep78タンパク質コード配列の翻訳開始コドンAUGを選択的に保持、欠失又は形成し、昆虫細胞内でrep遺伝子重複オープンリーディングフレームにおいてRepタンパク質(Rep78/Rep52)が適切な比率で発現されることが実現される。昆虫細胞内で安定して大規模で高いパッケージング率及び感染活性を有する様々な血清型の組換えアデノ随伴ウイルスを生産する問題を解決することを目的とする。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明では、昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現するための発現カセットであって、
5'から3'まで操作可能に結合した、
昆虫細胞内で転写を駆動可能なプロモーターと、
人工的に構築した配列と、
1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームと、
を含み、前記人工的に構築した配列は、昆虫細胞内でスプライシング活性を有する天然の又は人工的に改変されたイントロンを含み、前記イントロンは、翻訳開始コドンATGを含み、又は前記イントロンは、ATGにおける隣接する任意の2つのヌクレオチドの間に位置し、
転写後修飾の過程において、イントロンの選択的スプライシング作用により、前記人工的に構築した配列における翻訳開始コドンAUGが保持又は欠失し、或いは前記人工的に構築した配列に翻訳開始コドンAUGが形成され、これによって、前記重複オープンリーディングフレームにおける異なるタンパク質コード遺伝子の翻訳発現の調節が実現される、発現カセットが提供される。
【0009】
好ましくは、前記人工的に構築した配列は、5' 5'から3'まで操作可能に結合した、
前記イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
前記イントロンの3'部分と、
2A自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
を含む。
【0010】
好ましくは、前記2A自己切断ペプチドは、T2Aペプチド、P2Aペプチド、E2Aペプチド又はF2Aペプチドである。
【0011】
好ましくは、前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した、
第1イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
第2イントロンの5'部分と、
前記イントロンの3'部分と、
を含み、前記第2イントロンの5'部分の内部には、終止コドンがあり、前記終止コドンと前記翻訳開始コドンATGとの間のヌクレオチド数は、3の倍数である。
【0012】
好ましくは、前記イントロンの5'端ヌクレオチドはGTNNであり、前記イントロンの3'端ヌクレオチドはNNAGであり、NはA、T、C、Gの4種類のヌクレオチドのうちのいずれか1種である。
【0013】
好ましくは、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子又はAAVのrep遺伝子である。
【0014】
好ましくは、前記プロモーターは、polhプロモーター又はp10プロモーターである。
【0015】
好ましくは、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子であり、前記プロモーターは、p10プロモーターである。
【0016】
好ましくは、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのrep遺伝子であり、前記プロモーターは、polhプロモーターである。
【0017】
本発明の別の態様において、第1発現カセットを含む核酸分子が提供される。前記第1発現カセットは、前記発現カセットである。
【0018】
好ましくは、前記核酸分子は、第2発現カセットをさらに含む。前記第2発現カセットは、前記発現カセットであり、前記第2発現カセットで発現される遺伝子は、前記第1発現カセットで発現される遺伝子と異なる。
【0019】
好ましくは、前記第2発現カセットは、前記第1発現カセットに対してアンチセンス方向である。
【0020】
好ましくは、前記第2発現カセットは、前記第1発現カセットに対してセンス方向である。
【0021】
好ましくは、前記核酸分子は、外来遺伝子と、前記外来遺伝子の両端に位置するAAV逆位末端反復配列(inverted terminal repeat sequence)とをさらに含む。
【0022】
好ましくは、前記外来遺伝子は、レポーター遺伝子であり、前記レポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼコード遺伝子、β-ガラクトシダーゼコード遺伝子、β-グルクロニダーゼコード遺伝子、ウミシイタケルシフェラーゼコード遺伝子、アルカリホスファターゼコード遺伝子、ホタルルシフェラーゼコード遺伝子、緑色蛍光タンパク質コード遺伝子及び赤色蛍光タンパク質コード遺伝子のうちの少なくとも1種である。
【0023】
好ましくは、前記外来遺伝子は、薬物ポリペプチドをコードする遺伝子である。前記薬物ポリペプチドは、リポタンパク質エステラーゼ、アポリポタンパク質、サイトカイン、インターロイキン及びインターフェロンのうちの少なくとも1種である。
【0024】
本発明の別の態様において、前記発現カセットを含むベクターを提供する。
【0025】
好ましくは、前記ベクターは、昆虫細胞適合性ベクターである。
【0026】
好ましくは、前記ベクターは、プラスミド及びウイルスのうちの少なくとも1種である。
【0027】
本発明の別の態様において、昆虫細胞内で組換えアデノ随伴ウイルスを製造するための前記ベクターの使用を提供する。
【0028】
本発明の別の態様において、AAVカプシドのインビトロ製造における前記ベクターの使用が提供される。前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子である。
【0029】
本発明の別の態様において、前記発現カセットを含む昆虫細胞が提供される。
【0030】
好ましくは、前記発現カセットは、前記昆虫細胞のゲノムに組み込まれる。
【0031】
好ましくは、前記昆虫細胞は、ツマジロクサヨトウ細胞、イラクサギンウワバ細胞、キイロショウジョウバエ細胞又は蚊細胞である。
【0032】
本発明の別の態様において、前記昆虫細胞及び培地を含む細胞培養物が提供される。
【0033】
好ましくは、前記培地は、AAVゲノムを含む。
【0034】
本発明の別の態様において、組換えアデノ随伴ウイルス粒子を産生可能な条件下で前記昆虫細胞を培養して回収することにより製造された組換えアデノ随伴ウイルス粒子が提供される。
【0035】
本発明は、従来技術に比べて以下の有益な効果を有する。
(1)本発明の発現カセットは、昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子によってコードされる様々なポリペプチド(例えば、組換えアデノ随伴ウイルスのVPタンパク質(VP1、VP2、VP3)及びRepタンパク質(Rep78、Rep52))を発現するために適用することができ、野生型AAV中のVP1タンパク質コード配列又はRep78タンパク質コード配列のオリジナルの翻訳開始コドンATGを改変する必要がなく、イントロン配列を人工に設計し、VPタンパク質(VP1、VP2、VP3)又はRepタンパク質(Rep78、Rep52)を適切な比率で発現するように調節することにより、昆虫細胞内で安定して大規模で組換えアデノ随伴ウイルスを生産することが実現される。本発明は、VP1タンパク質オープンリーディングフレームにおける翻訳開始コドンの下流に昆虫細胞イントロンを挿入し、このイントロンにプロモーターを挿入し、4つのプロモーター(2つのp10及び2つのpolhプロモーター)を用いてそれぞれVP1、VP2/VP3、Rep78及びRep52タンパク質を転写して翻訳する中国特許CN101522903A中と異なる。本発明で提供されるイントロン選択的スプライシング調節策略は、イントロンのスプライシング作用により転写後のmRNAを選択的にスプライシングし、適切な比率の2種以上のmRNAを取得し、それぞれVP1、VP2/VP3、Rep78及びRep52タンパク質に翻訳することである。本発明で提供される方法は、VP1、VP2及びVP3タンパク質の化学量論比及びRep78/Rep52の相対発現をより効果的に制御することができる。
【0036】
(2)本発明では、イントロン選択的スプライシング策略により、昆虫細胞内での組換えアデノ随伴ウイルスの生産を実現するとともに、様々なAAV血清型に適用することにより、rAAV製造の柔軟性がより高く、応用範囲がより広くなる。
【0037】
(3)本発明では、AAVのcap遺伝子、rep遺伝子及び外来遺伝子を有するITRコア発現エレメントを同一の組換えバキュロウイルスベクターに構築し、このベクターを用いて昆虫宿主細胞にトランスフェクションすることにより、組換えAAVウイルス粒子を安定的で高収率で生産することができる。cap遺伝子発現カセットにおけるイントロン配列を調整することにより、VP1及びVP2/VP3の相対発現量を調節し、異なるVP1取り込み量のウイルス粒子を取得することができ、これによって、異なる需要に応じてrAAVウイルスの感染活性を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の野生型AAV中のcap遺伝子及びrep遺伝子の発現調節の模式図である。
【
図2】本発明の実施例1におけるcap遺伝子発現カセットIの発現調節の模式図である。内容Aは、cap遺伝子発現カセットIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程において第1个開始コドンAUGを含むイントロンにスプライシングが発生しない場合のVP1タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程において1番目の開始コドンAUGを含むイントロンにスプライシングが発生した後のVP2、VP3タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図3】本発明の実施例3におけるcap遺伝子発現カセットIIの発現調節の模式図である。内容Aは、cap遺伝子発現カセットIIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程において第1イントロン及び第2イントロンのいずれにもスプライシングが発生しない場合にVPタンパク質の翻訳が途中で終止したことを示す模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程において第2イントロンにスプライシングが発生した後のVP1タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Dは、転写後修飾の過程において第1イントロンにスプライシングが発生した後のVP2、VP3タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図4】本発明の実施例5におけるcap遺伝子発現カセットIIIの発現調節の模式図である。内容Aは、cap遺伝子発現カセットIIIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程においてイントロンが切断して除去されていない場合のVP2、VP3タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程においてイントロンが切断して除去された後のVP1タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図5】本発明の実施例2におけるrep遺伝子発現カセットIの発現調節の模式図である。内容Aは、rep遺伝子発現カセットIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程において1番目の開始コドンAUGを含むイントロンにスプライシングが発生しない場合のRep78タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程において1番目の開始コドンAUGを含むイントロンにスプライシングが発生した後のRep52タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図6】本発明の実施例4におけるrep遺伝子発現カセットIIの発現調節の模式図である。内容Aは、rep遺伝子発現カセットIIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程において第1イントロン及び第2イントロンのいずれにもスプライシングが発生しない場合にVPタンパク質の翻訳が途中で終止したことを示す模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程において第2イントロンにスプライシングが発生した後のRep78タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Dは、転写後修飾の過程において第1イントロンにスプライシングが発生した後のRep52タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図7】本発明の実施例6におけるrep遺伝子発現カセットIIIの発現調節の模式図である。内容Aはrep遺伝子発現カセットIIIのDNA鎖の模式図である。内容Bは、転写後修飾の過程においてイントロンにスプライシングが発生しない場合のRep52タンパク質の翻訳発現の模式図である。内容Cは、転写後修飾の過程においてイントロンにスプライシングが発生した後のRep78タンパク質の翻訳発現の模式図である。
【
図8】本発明の実施例7におけるcap遺伝子発現カセットIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc1、Ac2、Ac3、Ac4及び比較例で調製された組換えバキュロウイルスベクターAc0によって発現されたVPタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図9】本発明の実施例7におけるrep遺伝子発現カセットIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc5によって発現されたRepタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図10】本発明の実施例7におけるcap遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc6、Ac7及び比較例で調製された組換えバキュロウイルスベクターAc0によって発現されたVPタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図11】本発明の実施例7におけるrep遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc8によって発現されたRepタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図12】本発明の実施例7におけるcap遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc9、Ac10及び比較例で調製された組換えバキュロウイルスベクターAc0によって発現されたVPタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図13】本発明の実施例7におけるrep遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc11によって発現されたRepタンパク質のWestern Blot検出図である。
【
図14】
図14A、14B及び14Cは、本発明の実施例10における組換えAAVバクミドCRI-0、CRI-1、CRI-2、CRI-3、CRI-4、CRI-5、CRI-6、CRI-7及びCRI-8を宿主細胞にトランスフェクションした後に精製した組換えAAVウイルス粒子をSDS-PAGE銀染色する検出図である。3種類のカプシドタンパク質VP1/VP2/VP3を示す。
【
図15】本発明の実施例10における組換えAAVバクミドCRI-0、CRI-1、CRI-2、CRI-3、CRI-4、CRI-5、CRI-6、CRI-7及びCRI-8を宿主細胞にトランスフェクションした後に精製した組換えAAVウイルス粒子を293T細胞に感染させる効果図である。
【
図16】
図16A、16B及び16Cは、本発明の実施例11における組換えAAVバクミドCRI-9、CRI-10、CRI-11、CRI-12、CRI-13、CRI-14、CRI-15、CRI-16及びCRI-17を宿主細胞にトランスフェクションした後に精製した組換えAAVウイルス粒子をSDS-PAGE銀染色する検出図である。3種類のカプシドタンパク質VP1/VP2/VP3を示す。
【
図17】本発明の実施例11における組換えAAVバクミドCRI-9、CRI-10、CRI-11、CRI-12、CRI-13、CRI-14、CRI-15、CRI-16及びCRI-17を宿主細胞にトランスフェクションした後に精製した組換えAAVウイルス粒子を293T細胞に感染させる効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、図面及び実施例を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。以下の実施例は、本発明を説明するものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0040】
用語の説明
【0041】
本明細書で使用される用語「操作可能に結合」とは、ポリヌクレオチド(又はポリペプチド)配列は、機能的関係で結合されることをいう。2つのヌクレオチド配列が機能的関係にある場合、この2つのヌクレオチド配列は、「操作可能に結合」されている。例えば、転写調節配列(例えば、プロモーター)は、ある遺伝子コード配列の転写に影響を与える場合、この遺伝子コード配列に操作可能に結合される。
【0042】
用語「発現カセット」とは、宿主細胞に導入する際にコード配列と調節配列とを操作可能に結合した核酸構築体を指し、それぞれRNA又はポリペプチドの転写及び/又は翻訳をもたらす。発現カセットは、転写を開始させるプロモーター、標的遺伝子オープンリーディングフレーム及び転写ターミネーターを含むとして理解されるべきである。通常、プロモーター配列は、標的遺伝子の上流に位置し、標的遺伝子からの距離は、発現制御に適合である。
【0043】
用語「オープンリーディングフレーム」(Open Reading Frame,ORF)は、構造遺伝子の正常ヌクレオチド配列であり、タンパク質又はポリペプチドをコードする機能を有し、開始コドンから始まって終止コドンで終わり、それらの間に翻訳を終了させる終止コドンが存在しない。1本のmRNA鎖において、リボソームは開始コドンから翻訳し始め、mRNA配列に沿ってポリペプチド鎖を合成して伸長し続け、終止コドンに当たると、ポリペプチド鎖の伸長反応が終了する。
【0044】
用語「ベクター」とは、遺伝物質を転送、転移及び/又は貯蔵し、並びに遺伝物質を発現させ、及び/又は遺伝物質を宿主細胞の染色体DNAに組み込むように設計される核酸分子(例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、人工染色体、ファージベクター及び他のウイルスベクター)を指す。ベクターは、通常、少なくとも3つの基本ユニット(即ち、複製起点、選択マーカー及びマルチクローニングサイト)から構成される。
【0045】
用語「イントロン」は、介在配列とも呼ばれ、遺伝子又はmRNA分子におけるコード機能を有しないセグメントを指し、真核生物細胞DNAにおける介在配列である。イントロン配列は、mRNA前駆体に転写され、スプライシングにより除去され、最終的に成熟mRNA分子に存在しない。スプライシング過程が自発的であるか又はスプライソソームの加工を必要とするかによって、イントロンをセルフスプライシングイントロン及びスプライソソームイントロンに分ける。セルフスプライシングイントロンは、リボザイムであり、自体の作用によって切除されてmRNAから分離できる特殊なイントロンである。本発明に係るイントロンは、スプライソソームイントロンである。このようなイントロンの除去は、スプライソソームの関与を必要とし、イントロン配列の両端にスプライスドナー配列及びスプライスアクセプター配列があり、それぞれ切断部位及び再結合部位に隣接する。スプライソソームは、核内低分子RNA(small nuclearRNA,snRNA)及びタンパク質因子から動的に構成されるリボ核タンパク質複合体である。スプライソソームは、mRNA前駆体のスプライス部位を認識し、スプライシング反応を触媒し、イントロンを完全に切除し、上下流のRNA配列を再結合する。
【0046】
用語「AAV血清型」:AAVが発見されて以来、100種類以上のAAV血清型又は変異体は、アデノウイルス、ヒト又は霊長類、及び一部の哺乳類から分離されており、そのうち、主に使用されているのはAAV1-9である。このなる血清型のrAAVベクターは、主な違いがカプシドタンパク質にある。異なるAAV血清型は、感染効率及び組織特異性には違いがある。
【0047】
全ての既知のアデノ随伴ウイルス血清型は、ゲノム構造が非常に類似する。AAVは、一本鎖DNAウイルスであり、ゲノム構造が簡単で、全長が約4.7kbであり、
図1に示すように、そのゲノムには、rep遺伝子発現カセット、cap遺伝子発現カセット及びゲノムの両端に位置するAAV逆位末端反復配列(inverted terminal repeats,ITR)が含まれる。ITRは、ゲノム両端にある125個のヌクレオチドの回文構造であり、能形成一个自己相補的な逆T型ヘアピン構造を形成することができ、DNA複製の開始及び組換えAAVゲノムを感染性ウイルス粒子にパッケージングするのに必要なシスエレメントである。AAVは、欠損型ウイルスとして、ヘルパーウイルスが存在しないと独立して複製することができない。したがって、AAVは宿主細胞の染色体にターゲット挿入されて潜伏状態となるしかできない。ヘルパーウイルスの存在下では、rep遺伝子の発現量の増加は、宿主細胞染色体に組み込まれた(導入された)AAVゲノムを救い出して大量に複製してAAV DNAを得ることができ、一本鎖rAAVゲノムは、VPカプシドタンパク質の作用下でパッケージングされて感染性を有するウイルス粒子となる。Cap遺伝子は、構造的VPカプシドタンパク質をコードし、3つの重複オープンリーディングフレームを含み、それぞれ3種類のサブユニットVP1、VP2、VP3をコードする。VP1、VP2及びVP3は、異なる開始コドンを含み、1つの終止コドンを共用し、VP1とVP2とはVP3配列を共用する。VP1のN末端には1つの保存されたホスホリパーゼA2配列を有する。この配列は、ウイルスの体内からの逃避に関与し、その感染性にとって非常に重要である。VP2タンパク質は、組み立て又は感染にとっては不可欠なものではない。VP3タンパク質のコアは、保存されたβバレルモチーフからなり、異なる血清型AAV及び宿主細胞作用受容体の違いを決定する。野生型AAVにおける3種類のタンパク質の正確な比率は3:3:54、約1:1:10である。Rep遺伝子は、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40の4つの重複多機能タンパク質をコードする。Rep78及びRep68タンパク質は、AAVの複製及び組み込みに関与し、ITRにおける特定の配列に結合することができる。Rep52及びRep40タンパク質は、ヘリカーゼ及びATPアーゼの活性を有し、一本鎖ゲノムの複製に関与するとともに、ウイルスの組み立てにも関与する。哺乳動物細胞や昆虫細胞にもかかわらず、Rep78及びRep52タンパク質をコードするスプライシングされていないmRNAは、rAAV調製の需要を満たすのに十分である。
【0048】
本発明でいう核酸分子は、DNA分子であってもよく、RNA分子であってもよい。当業者に知られているように、RNA配列は、DNA配列と基本的に同じであるか又はある程度の配列同一性を有し、DNA配列中のチミン(T)は、RNA配列中のウラシル(U)に同等であると考えられ得る。
【0049】
本発明でいうイントロンは、天然イントロンであってもよく、人工的に改変されたイントロンであってもよい。昆虫細胞内でスプライシング活性を有するが、その由来は昆虫細胞に限定されない。
【0050】
本発明で提供される昆虫細胞内で重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子を発現する発現カセットは、5'から3'まで操作可能に結合した、
昆虫細胞内で転写を駆動可能なプロモーターと、
人工的に構築した配列と、
1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームと、
を含む。
前記人工的に構築した配列は、昆虫細胞内でスプライシング活性を有する天然の又は人工的に改変されたイントロンを含み、前記イントロンは翻訳開始コドンATGを含むか、又は前記イントロンはATGにおける隣接する任意の2つのヌクレオチドの間に位置する。
転写後修飾の過程において、イントロンの選択的スプライシング作用により、前記人工的に構築した配列における翻訳開始コドンAUGは保持又は欠失し、或いは前記人工的に構築した配列に翻訳開始コドンAUGが形成されることで前記重複オープンリーディングフレームにおける異なるタンパク質コード遺伝子の翻訳発現の調節が実現される。
【0051】
いくつかの実施例において、イントロン選択的スプライシング作用により、イントロンを含む発現カセットは、昆虫細胞におけるAAV VPカプシドタンパク質の正確な発現又はRepタンパク質の優性発現に適用することができる。ここで、cap遺伝子における重複オープンリーディングフレームは、AAVカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードし、rep遺伝子における重複オープンリーディングフレームは、Rep78及びRep52タンパク質をコードする。
【0052】
いくつかの実施例において、イントロン選択的スプライシング作用により、イントロンを含む発現カセットは、昆虫細胞内で多種類のシミアンウイルス40(SV40)のVPカプシドタンパク質を発現するために適用できる。SV40は、5.2kb共有結合閉環の環状ゲノムを有する二本鎖DNAウイルスであり、同様に3種類のカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3を含む。VP3タンパク質は、VP2タンパク質の短縮形であり、VP3とVP2は終止コドンを共用する。VP1コード配列の5'部分とVP2、VP3コード配列の3'部分とは重複するが、同じオープンリーディングフレームを有しない。哺乳細胞において、これらのVPタンパク質の発現は、イントロンスプライシングメカニズムによって調節される。本発明の発現カセットは、昆虫細胞内でSV40カプシドタンパク質を発現するために使用される場合、この発現カセットにおける1番目の翻訳開始コドンのみが欠失したORFは、VP2タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したVPタンパク質コード配列であり、VP2、VP3タンパク質の相対発現調節は、本発明のイントロンスプライシング策略により実現することができる。
【0053】
いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子である。前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したVPタンパク質コード配列である。前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
イントロンの3'部分と、
2A自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
を含む。
【0054】
本発明では、野生型AAV VP1タンパク質コード配列自体のN端のイントロンスプライス部位を変異させることにより、昆虫細胞中のスプライソソームは、このスプライス部位を認識することができず、開始コドンATG下流のイントロンの5'部分(スプライスドナー配列又はスプライスアクセプター配列)とATG下流のイントロンの3'部分(スプライスアクセプター配列又はスプライスドナー配列)は、完全なイントロンスプライス部位を形成する。
図2に示すように、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームが第1イントロンスプライス部位を認識し、スプライシング反応を触媒する場合、mRNAの最先端のAUG-開始部位が除去され、リボソームが5'から3'までVP2タンパク質の開始コドンを認識する場合、VP2タンパク質は翻訳発現され得る。VP2開始コドンは準最適コドンACGであり、リボソームのスキャンニング漏れを引き起こすため、VP3タンパク質は翻訳発現され得る。イントロンスプライス部位が認識されない場合、AUG-開始部位が除去されず、mRNAが最初(1番目)のAUGから翻訳し、VP1タンパク質が発現される。イントロンが一定の確率のスプライシング作用を有することで、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3の相対発現量が制御される。しかし、VP1タンパク質が翻訳発現されるときに、mRNAにおける1番目のAUG開始コドンからVP1タンパク質のN端配列までの別の配列(即ち、イントロン配列の一部)も翻訳されるため、VP1タンパク質の正常発現に影響を与える。そのため、本発明で提供される発現カセットに2A自己切断ペプチド(2A self-cleaving peptides)のコード配列が導入されている。
【0055】
2A自己切断ペプチドは、長さが18-22アミノ酸残基のペプチド断片であり、細胞内に2Aペプチドが含まれる組換えタンパク質の自己切断を誘導することができる。このようなペプチドは、配列モチーフを有し、通常、最後のグリシン(G)とプロリン(P)との結合箇所でリボソームが結合できないことで「切断」の効果が引き起こされ、2A自己切断ペプチドのC端とVP1タンパク質のN端は断裂して正常なVP1タンパク質が得られる。異なるウイルスによって、現在一般的に使用されている2Aペプチドは、T2A、P2A、E2A及びF2Aであり、それらのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号36から配列番号39に示される。これらの4つの2Aペプチドは、いずれも本発明に適用できる。本発明の実施例ではT2Aを例としている。
【0056】
いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子である。前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したVPタンパク質コード配列である。前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
第1イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
第2イントロンの5'部分と、
イントロンの3'部分と、
を含む。
前記第2イントロンの5'部分の内部には終止コドンがあり、この終止コドンは、TAA、TAG又はTGAであってもよい。終止コドンと前記翻訳開始コドンATGとの間のヌクレオチド数は3の倍数である。
【0057】
本発明では、野生型AAV VP1タンパク質コード配列自体のN末端のイントロンスプライス部位を変異させることにより、昆虫細胞中のスプライソソームは、このスプライス部位を認識することができず、開始コドンATG上流の第1イントロンの5'部分とATG下流のイントロンの3'部分とは完全な第1イントロンスプライス部位を形成し、ATG下流の第2イントロンの5'部分とイントロンの3'部分とは完全な第2イントロンスプライス部位を形成する。
図3に示すように、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームが第1イントロンスプライス部位を認識し、スプライシング反応を触媒する場合、mRNAの最先端の開始部位が除去され、リボソームが5'から3'までVP2タンパク質の開始コドンを認識する場合、VP2タンパク質は翻訳発現され得る。VP2開始コドンは準最適コドンACGであり、リボソームのスキャンニング漏れを引き起こすため、VP3タンパク質は翻訳発現され得る。昆虫細胞中のスプライソソームが第2イントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒し、開始部位が除去されない場合、mRNAは、最初(1番目)のAUGから翻訳し、VP1タンパク質が発現される。昆虫細胞中のスプライソソームには、第1イントロンをスプライシングするスプライス部位も、第2イントロンをスプライシングするスプライス部位もない場合、mRNAは1番目のAUGから翻訳し始め、第2イントロンの5'部分内部の終止コドンに到達したら終止し、つまり、翻訳が途中で終止し、VP1、VP2及びVP3タンパク質を翻訳しない。異なるイントロンの異なる確率のスプライシング作用により、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3の相対発現量を制御する。
【0058】
いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのcap遺伝子である。前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したVPタンパク質コード配列である。前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
アデニンヌクレオチド(A)、前記イントロン、チミンヌクレオチド(T)及びグアニンヌクレオチド(G);或いは
アデニンヌクレオチド(A)、チミンヌクレオチド(T)、前記イントロン及びグアニンヌクレオチド(G)を含む。
【0059】
本発明では、野生型AAV VP1タンパク質コード配列自体のN端のイントロンスプライス部位を変異させることにより、昆虫細胞中のスプライソソームはこのスプライス部位を認識することができず、
図4に示すように(イントロンがATGのAT間に挿入されることを例とする)、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームがVP1タンパク質翻訳開始コドンAUGに挿入されたイントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒し、イントロンが切断されると、完全なAUG翻訳開始部位が形成され、mRNAが1番目のAUGから翻訳し始め、VP1タンパク質が発現される。イントロンスプライス部位が認識されない場合、イントロンは切断されず、完全なAUG翻訳開始部位が形成することができず、リボソームが5'から3'までVP2タンパク質の開始コドンを認識する場合、VP2タンパク質は翻訳発現され得る。VP2開始コドンは、準最適コドンACGであり、リボソームのスキャンニング漏れを引き起こすため、VP3タンパク質は翻訳発現され得る。イントロンが一定の確率のスプライシング作用を有することで、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3の相対発現量が制御される。
【0060】
いくつかの実施例において、いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのrep遺伝子であり、前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したRepタンパク質コード配列であり、前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
イントロンの3'部分と、
2A自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列と、
を含む。
【0061】
本発明では、野生型AAV Rep78タンパク質コード配列中のRep52タンパク質翻訳開始コドン上流にある可能な1つ又は複数の翻訳開始部位を変異させることにより、昆虫細胞中のリボソームはこれらの部位を認識することができず、翻訳開始コドンATG上流のイントロンの5'部分及びATG下流のイントロンの3'部分は完全なイントロンスプライス部位を形成し、
図5に示すように、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームがこのイントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒すると、mRNAの最先端のAUG-開始部位が除去され、リボソームは5'から3'までRep52タンパク質の開始コドンを認識し、Rep52タンパク質は翻訳発現され得る。イントロンスプライス部位が認識されない場合、AUG-開始部位は除去されず、mRNAは1番目のAUGから翻訳し始め、2A自己切断ペプチドが自己せん断機能を有するため、2A自己切断ペプチドのC端から断裂してRep78タンパク質が放出される。イントロンが一定の確率のスプライシング作用を有するため、Rep78タンパク質及びRep52タンパク質の相対発現量は制御される。
【0062】
いくつかの実施例において、いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのrep遺伝子であり、前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したRepタンパク質コード配列であり、前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
第1イントロンの5'部分と、
翻訳開始コドンATGと、
第2イントロンの5'部分と、
イントロンの3'部分と、
を含む。
前記第2イントロンの5'部分内部には終止コドンがあり、この終止コドンはTAA、TAG又はTGAであってもよい。終止コドンと前記翻訳開始コドンATGとの間のヌクレオチド数は3の倍数である。
【0063】
本発明では、野生型AAV Rep78タンパク質コード配列におけるRep52タンパク質翻訳開始コドン上流の可能な1つ又は複数の翻訳開始部位を変異させることにより、昆虫細胞中のリボソームはこれらの部位を認識することができず、翻訳開始コドンATG上流の第1イントロンの5'部分及びATG下流のイントロンの3'部分は完全な第1イントロンスプライス部位を形成し、ATG下流の第2イントロンの5'部分及びイントロンの3'部分は完全な第2イントロンスプライス部位を形成し、
図6に示すように、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームが第1イントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒すると、mRNAの最先端のAUG-開始部位が除去され、リボソームは5'から3'までRep52タンパク質の開始コドンを認識する場合、Rep52タンパク質は翻訳発現され得る。昆虫細胞中のスプライソソームが第2イントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒し、AUG-開始部位が除去されない場合、mRNAは1番目のAUGから翻訳し、Rep78タンパク質は発現される。昆虫細胞中のスプライソソームには、第1イントロンをスプライシングするスプライス部位も第2イントロンスをスプライシングするプライス部位もない場合、mRNAは1番目のAUGから翻訳し始め、第2イントロンの5'部分内部の終止コドンに到達したら終止し、つまり、翻訳が途中で終止し、Rep78及びRep52タンパク質を翻訳しない。異なるイントロンの異なる確率のスプライシング作用により、Rep78タンパク質及びRep52タンパク質の相対発現量を制御する。
【0064】
いくつかの実施例において、前記重複オープンリーディングフレームを含む遺伝子は、AAVのRep遺伝子である。前記1番目の翻訳開始コドンのみが欠失した重複オープンリーディングフレームは、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したRepタンパク質コード配列である。前記人工的に構築した配列は、5'から3'まで操作可能に結合した
アデニンヌクレオチド(A)、前記イントロン、チミンヌクレオチド(T)及びグアニンヌクレオチド(G);或いは
アデニンヌクレオチド(A)、チミンヌクレオチド(T)、前記イントロン及びグアニンヌクレオチド(G)を含む。
【0065】
本発明では、野生型AAV Rep78タンパク質コード配列におけるRep52タンパク質翻訳開始コドン上流の可能な1つ又は複数の翻訳開始部位を変異させることにより、昆虫細胞中のリボソームはこれらの部位を認識することができず、
図7に示すように(同図には、イントロンがATGのAT間に挿入されたことを例とする)、転写後修飾の過程において、昆虫細胞中のスプライソソームがRep78タンパク質翻訳開始コドンAUGに挿入されたイントロンスプライス部位を認識してスプライシング反応を触媒してイントロンに切断が発生すると、完全なAUG翻訳開始部位が形成され、mRNAは1番目のAUGから翻訳し始め、Rep78タンパク質は発現される。イントロンスプライス部位が認識されず、イントロンが切断されない場合、完全なAUG翻訳開始部位が形成することができず、リボソームは5'から3'までRep52タンパク質の開始コドンを認識し、Rep52タンパク質は翻訳発現され得る。イントロンが一定の確率のスプライシング作用を有することにより、Rep78タンパク質及びRep52タンパク質の相対発現量が制御される。
【0066】
いくつかの実施例において、好ましくは、前記イントロンの5'端のヌクレオチドはGTNNであり、前記イントロンの3'端のヌクレオチドはNNAGである。ここで、Nは、A、T、C、Gの4種類のヌクレオチドのうちのいずれか1種を示す。より具体的には、前記第1イントロンの5'端及び第2イントロンの5'端ヌクレオチドはいずれもGTNNであり、前記イントロンの3'端のヌクレオチドはNNAGである。このようにして、VP1、VP2及びVP3タンパク質は、化学量論比により近い比率で翻訳発現されるように調節され得る。適切なカプシドへのパッケージングに有利である。同様に、Rep78タンパク質の翻訳発現量はRep52タンパク質よりも低く、比較的高いベクター収量に有利である。
【0067】
いくつかの実施例において、前記イントロンのヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号15、配列番号16、配列番号20又は配列番号21に示される配列である。当業者に知られるように、前記イントロン配列の変化形態は、本発明の技術的手段に適用できる。いくつかの構造において、本発明のイントロンヌクレオチド配列と同一性を有する配列を使用することができる。例えば、5'端が配列GTAAGTATCGと少なくとも40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の同一性を有する配列、5'端が配列GTAAGTATTCと少なくとも40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の同一性を有する配列、3'端が配列CCTTTTCCTTTTTTTTTCAGと少なくとも40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の同一性を有する配列、3'が配列AAACATTATTTATTTTGCAGと少なくとも40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の同一性を有する配列、又は3'端が配列CATTTTGGATATTGTTTCAGと40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%の同一性を有する配列が挙げられる。
【0068】
いくつかの実施例において、cap遺伝子によってコードされるVPカプシドタンパク質は、任意のAAV血清型のカプシドタンパク質、例えば、AAV血清2型、AAV血清5型、AAV血清8型、AAV血清9型などであってもよい。本発明に係るイントロン配列及びスプライシング策略は、従来の多種類のAAV血清型のVPカプシドタンパク質の正確な発現に適用できる。
【0069】
いくつかの実施例において、昆虫細胞内でcap遺伝子及びrep遺伝子の転写を駆動可能なプロモーターは、polhプロモーター又はp10プロモーターであってもよい。好ましくは、cap遺伝子発現カセットは、p10プロモーターを使用し、rep遺伝子発現カセットは、polhプロモーターを使用する。
【0070】
本発明は、前記cap遺伝子発現カセット及び/又はrep遺伝子発現カセットを含む核酸分子をさらに提供する。核酸は、直列、即ち、同極性又はアンチセンス方向で配置される発現カセットを含んでもよい。そのため、cap遺伝子発現カセットは、rep遺伝子発現カセットに対してアンチセンス方向であってもよく、rep遺伝子発現カセットに対してセンス方向であってもよい。
【0071】
本発明は、組換えアデノ随伴ウイルスベクター、好ましくは、昆虫細胞に適合するベクターをさらに提供する。前記ベクターは、cap遺伝子発現カセット及びrep遺伝子発現カセットを含む。このcap遺伝子発現カセットは、好ましくは本発明で構築された発現カセットであり、rep遺伝子発現カセットは、好ましくは本発明で構築された遺伝子発現カセットである。理解できるように、このrAAVベクターは、外来遺伝子及び前記外来遺伝子の両端に位置するAAV逆位末端反復配列をさらに含む。ITRは、AAVの複製とパッケージング及びターゲット挿入(Targeted integration)に作用し、ベクターが宿主細胞内で安定した環状ポリマー及びクロマチン様構造を形成するのに役に立ち、宿主細胞内で長期的に安定して存在することができ、外来遺伝子も持続的で安定して発現することができる。前記外来遺伝子は、少なくとも興味のある遺伝子(Gene of Interest,GOI)産物をコードする1つのヌクレオチド配列であってもよい。前記興味のある遺伝子産物は、治療的遺伝子産物であってもよく、具体的には、ポリペプチド、RNA分子(siRNA)又は他の遺伝子産物であってもよい。例えば、リポタンパク質エステラーゼ、アポリポタンパク質、サイトカイン、インターロイキン又はインターフェロンであってもよいが、これらに限定されない。ベクター変換及び発現を評価するレポータータンパク質、例えば、蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質GFP、赤色蛍光タンパク質RFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ或アルカリホスファターゼであってもよいが、これらに限定されない。
【0072】
一方、本発明は、昆虫細胞での組換えアデノ随伴ウイルスの製造における前記組換えアデノ随伴ウイルスベクターの使用をさらに提供される。このベクターを昆虫細胞に導入することにより、VP1、VP2、VP3タンパク質が正確な化学量論比1:1:10で発現され、これによって、パッケージングして組換えアデノ随伴ウイルスが産生され、パッケージング率が高い。既知のAAV血清型はほとんど(例えば、AAV2、AAV5、AAV8及びAAV9)極めて優れた感染性を有し、Rep78及びRep52タンパク質の発現量は合理的な範囲内に制御されることで、昆虫細胞内でAAVベクターを安定して大量で産生することができる。また、cap遺伝子発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルスベクターは、インビトロでのAAVカプシドの調製に適用できる。
【0073】
一方、本発明は、昆虫細胞をさらに提供する。この昆虫細胞は、AAVのcap遺伝子及び/又はrep遺伝子の発現カセットを含み、外来遺伝子の発現カセットをさらに含んでもよい。これらの発現カセットのうちの少なくとも1種は、宿主昆虫細胞のゲノムに組み込んで安定的に発現することができ、昆虫細胞にこれらの発現カセットを含む核酸を瞬時に運んでもよい。
【0074】
いくつかの実施例において、前記昆虫細胞は、任意の昆虫細胞であってもよく、例えば、ツマジロクサヨトウ細胞(Spodoptera frugiperda cell)、イラクサギンウワバ細胞、キイロショウジョウバエ細胞又は蚊細胞であってもよいが、これらに限定されない。好ましくは、ツマジロクサヨトウ細胞sf9である。
【0075】
一方、本発明は、前記昆虫細胞及び培地を含む細胞培養物をさらに提供する。
いくつかの実施例において、前記培地は、AAVゲノムを含む。
【0076】
一方、本発明は、組換えアデノ随伴ウイルス粒子を産生可能な条件下で前記昆虫細胞を培養し、回収することにより製造される組換えアデノ随伴ウイルス粒子をさらに提供する。
【0077】
以下、具体的な実施例により上記の技術的手段を詳しく説明する。
【0078】
実施例1:AAV血清9型cap遺伝子発現カセットを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)cap遺伝子発現カセットIの構築
図2に示すように、このcap遺伝子発現カセットIは、5'から3'まで順にp10プロモーターと、イントロンと、T2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列と、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。p10プロモーターのヌクレオチド配列は配列番号1に示される。cap遺伝子発現カセットIにおいて、本実施例では4種類のイントロンが提供され、そのヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号2から配列番号5に示される。これらのイントロンのいずれにも翻訳開始コドンATGが含まれる。T2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は配列番号6に示される。AAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号7に示され、そのアミノ端には、コード配列内に存在する可能性がある切断部位を除去するために少なくとも1つのヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、それぞれ構築物9K-1、9K-2、9K-3及び9K-4を得た。それらのヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号8から11に示される。
【0079】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
前記構築物9K-1をpFastBacベクターにクローニングし、転移プラスミドを調製した。前記プラスミドをそれぞれDH10Bac菌株に形質転換し、Tn7転位により組換えバキュロウイルスベクターAc1を得た。同様に、9K-2を含む組換えバキュロウイルスベクターAc2、9K-3を含む組換えバキュロウイルスベクターAc3、及び9K-4を含む組換えバキュロウイルスベクターAc4を得た。
【0080】
実施例2:AAV血清2型rep遺伝子発現カセットIを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)rep遺伝子発現カセットIの構築
図5に示すように、このrep遺伝子発現カセットIは、5'から3'まで順にpolhプロモーターと、イントロンと、T2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列と、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。polhプロモーターのヌクレオチド配列は配列番号12に示される。本実施例のrep遺伝子発現カセットにおけるイントロンのヌクレオチド配列は配列番号5に示され、このイントロンには翻訳開始コドンATGが含まれる。T2Aペプチドをコードするヌクレオチド配列は配列番号6に示される。AAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号13に示され、そのRep78翻訳開始コドンとRep52翻訳開始コドンとの間には、この領域に存在する可能性がある翻訳開始部位を除去するために複数のヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、それぞれ構築物2R-1を得た。それらのヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号14に示される。
【0081】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に、2R-1を含む組換えバキュロウイルスベクターAc5を製造した。
【0082】
実施例3:AAV血清9型cap遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)cap遺伝子発現カセットIIの構築
図3に示すように、このcap遺伝子発現カセットIIは、5'から3'まで順にp10プロモーターと、人工的に構築した配列と、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。p10プロモーターのヌクレオチド配列は配列番号1に示される。cap遺伝子発現カセットIIにおいて、本実施例では2種類の人工的に構築した配列が提供され、そのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号15及び配列番号16に示され、これらの人工的に構築した配列のいずれにも翻訳開始コドンATGが含まれ、また2つのイントロンスプライス部位が含まれる。AAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号7に示され、そのアミノ端には、コード配列内に存在する可能性がある切断部位を除去するために少なくとも1つのヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、それぞれ構築物9K-5及び9K-6を得た。それらのヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号17及び18に示される。
【0083】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に、それぞれ9K-5を含む組換えバキュロウイルスベクターAc6及び9K-6を含む組換えバキュロウイルスベクターAc7を製造した。
【0084】
実施例4:AAV血清2型rep遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)rep遺伝子発現カセットIIの構築
図6に示すように、このrep遺伝子発現カセットIIは、5'から3'まで順にpolhプロモーターと、人工的に構築した配列と、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。polhプロモーターのヌクレオチド配列は配列番号12に示される。本実施例のrep遺伝子発現カセットIIにおける人工的に構築した配列のヌクレオチド配列は配列番号16に示される。この人工的に構築した配列には翻訳開始コドンATGが含まれ、また、2つのイントロンスプライス部位が含まれる。AAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号13に示され、Rep78翻訳開始コドンとRep52翻訳開始コドンとの間に、この領域に存在する可能性がある翻訳開始部位を除去するために複数のヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、構築物2R-2を得た。そのヌクレオチド配列は、配列番号19に示される。
【0085】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に製造して2R-2を含む組換えバキュロウイルスベクターAc8を得た。
【0086】
実施例5:AAV血清9型cap遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)cap遺伝子発現カセットIIIの構築
図4に示すように、このcap遺伝子発現カセットIIIは、5'から3'まで順にp10プロモーターと、アデニンヌクレオチド(A)と、イントロンと、チミンヌクレオチド(T)と、グアニンヌクレオチド(G)と、VP1タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。p10プロモーターのヌクレオチド配列は、配列番号1に示される。cap遺伝子発現カセットIIIにおいて、本実施例では2種類のイントロンが提供され、そのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号20及び配列番号21に示される。AAV血清9型VPタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号7に示され、そのアミノ端には、コード配列内に存在する可能性がある切断部位を除去するために少なくとも1つのヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、それぞれ構築物9K-7及び9K-8を得た。それらのヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号22及び23に示される。
【0087】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に、それぞれ9K-7を含む組換えバキュロウイルスベクターAc9及び9K-8を含む組換えバキュロウイルスベクターAc10を製造した。
【0088】
実施例6:AAV血清2型rep遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターの構築
(1)rep遺伝子発現カセットIIIの構築
図7に示すように、このrep遺伝子発現カセットIIIは、5'から3'まで順にpolhプロモーターと、Aと、イントロンと、TGと、Rep78タンパク質翻訳開始コドンATGのみが欠失したAAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列とを含む。polhプロモーターのヌクレオチド配列は配列番号12に示される。本実施例のrep遺伝子発現カセットIIIにおけるイントロンのヌクレオチド配列は配列番号21に示される。AAV血清2型Repタンパク質をコードするヌクレオチド配列は配列番号13に示され、Rep78翻訳開始コドンとRep52翻訳開始コドンとの間には、この領域に存在する可能性がある翻訳開始部位を除去するために複数のヌクレオチドの変異が存在する。前記配列を人工的に直接合成し、又は重複伸長PCR法により増幅して結合することにより、構築物2R-3を得た。そのヌクレオチド配列は、配列番号24に示される。
【0089】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に、2R-3を含む組換えバキュロウイルスベクターAc11を製造した。
【0090】
比較例:組換えバキュロウイルスベクターAc0及びrep遺伝子発現カセットの構築
(1)cap遺伝子発現カセットの構築
本比較例では、Urabeら(Urabeら、2002,Hum Gene Ther,13:1935-1943)の方法に従ってcap遺伝子発現カセットを構築した。このcap遺伝子発現カセットのプロモーターとして、p10プロモーターを使用し、発現カセットにおけるcap遺伝子はAAV血清9型VPタンパク質をコードし、コード配列におけるVP1の翻訳開始コドンATGを準最適コドンACGに変異させた。このcap遺伝子発現カセットは、番号が9K-0であり、そのヌクレオチド配列が配列番号25に示される。
【0091】
(2)組換えバキュロウイルスベクターの構築
実施例1のステップ(2)と同様に9K-0を含む組換えバキュロウイルスベクターAc0を製造した。
【0092】
(3)rep遺伝子発現カセットの構築
中国特許CN103849629Aの方法に従ってrep遺伝子発現カセットを構築し、このrep遺伝子発現カセットのプロモーターとしてpolhプロモーターを使用し、発現カセットにおけるrep遺伝子は、AAV血清2型Repタンパク質をコードし、AAV Rep78タンパク質のオリジナルの翻訳開始コドンATGをACGに置換した。このrep遺伝子発現カセットの番号は2R-0である。
【0093】
実施例7:VPタンパク質(VP1、VP2、VP3)及びRepタンパク質(Rep78、Rep52)の発現状況の検出
実施例1-6及び比較例で製造された組換えバキュロウイルスベクターAc0、Ac1、Ac2、Ac3、Ac4、Ac5、Ac6、Ac7、Ac8、Ac9、Ac10及びAc11をそれぞれ宿主細胞系にトランスフェクションして培養することで組換えバキュロウイルスを得た。VPタンパク質(VP1、VP2、VP3)及びRepタンパク質(Rep78、Rep52)の発現を検出した。具体的な操作手順は以下の通りである。
前記組換えバキュロウイルスベクターDNAを抽出してSf9昆虫細胞にトランスフェクションし、組換えバキュロウイルスBEVを調製した。トランスフェクション後のSf9昆虫細胞は、BEVを成功に産生した。大量に複製増殖したBEVは、さらに感染することでSf9細胞に顕著な細胞変性効果(cytopathic effect,CPE)が発生した。CPEが発生したSf9細胞の培養上清を収集した。培養上清に大量のBEV(0世代目BEV(P0))が含まれる。また、大量のrAAVを含むSf9細胞を収集した。調製されたBEV-P0を感染多重度(MOI=1)で浮遊培養されたSf9細胞に感染させ、感染の72時間後に、細胞活性は50%以下に低下した。細胞培養液を1000gで5min遠心分離し、培養上清及び細胞沈殿をそれぞれ収集し、上清を1世代目BEV-P1として標識した。引き続き拡大培養し、調製されたBEV-P1を感染多重度(MOI=1)で浮遊培養されたSf9細胞に感染させ、感染の72時間後に、細胞活性は50%以下にて低下した。細胞培養液を1000gで5min遠心分離し、細胞沈殿を収集してWestern BlotによりVPタンパク質(VP1、VP2、VP3)及びRepタンパク質(Rep78、Rep52)の発現状況を検出した。
【0094】
図8は、cap遺伝子発現カセットIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc1、Ac2、Ac3、Ac4及び対照組換えバキュロウイルスベクターAc0のVPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、上記の組換えバキュロウイルスベクターは、いずれも適切な比率でVP1、VP2及びVP3を産生することができる。Ac4は、Ac1-Ac3と比較してVP1の産生がより高い。VP1の高い取り込みは、より高い感染活性を引き起こす可能性がある。より高いVP1産生の原因は、Ac4に含まれるイントロンが他のベクターよりも低いスプライシング活性を有するためである。
【0095】
図9は、rep遺伝子発現カセットIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc5のRepタンパク質(Rep78及びRep52)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、組換えバキュロウイルスベクターAc5は、Rep78及びRep52タンパク質を産生することができ、Rep78タンパク質の発現量は、Rep52タンパク質よりも低い。
【0096】
図10は、cap遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc6、Ac7及び対照組換えバキュロウイルスベクターAc0のVPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、Ac0、Ac6及びAc7はいずれも適切な比率でVP1、VP2及びVP3を産生することができる。Ac7は、Ac6と比較してVP1の生産がより高い。VP1の高い取り込みは、より高い感染活性を引き起こす可能性がある。より高いVP1産生の原因は、Ac7に含まれる第2イントロンスプライスドナー及びイントロンスプライスアクセプターの選択的スプライシング活性がより高いためである。
【0097】
図11は、rep遺伝子発現カセットIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc8のRepタンパク質(Rep78及びRep52)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、組換えバキュロウイルスベクターAc8は、Rep78及びRep52タンパク質を産生することができる。
【0098】
図12は、cap遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc9、Ac10及び対照組換えバキュロAc0のVPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、Ac0及びAc9、Ac10は、いずれも適切な比率でVP1、VP2及びVP3を産生することができる。Ac10は、Ac9と比較してVP1産生がより高い。VP1の高い取り込みは、より高い感染活性を引き起こす可能性がある。より高いVP1産生の原因は、Ac10に含まれるイントロンのスプライシング活性がAc9よりも高いためである。
【0099】
図13は、rep遺伝子発現カセットIIIを含む組換えバキュロウイルスベクターAc11のRepタンパク質(Rep78及びRep52)のWestern Blot検出図である。同図から分かるように、組換えバキュロウイルスベクターAc11は、適切なRep78及びRep52タンパク質を産生することができる。
【0100】
実施例8:昆虫細胞内でAAVウイルスを生産するための組換えAAVバクミドの構築
本実施例では、昆虫細胞内でAAVウイルスを生産するための組換えAAVバクミドの構築方法は、本社の特許CN112553257Aに記載の実施例1に従う。手順は以下の通りである。
(1)AAV必須機能エレメントcap及びrep遺伝子発現カセットを含む相同組換えベクターを構築し、次にRed相同組換えにより大腸菌においてこの相同組換えベクターにおける必須機能エレメントをバキュロウイルスゲノムにおける必須遺伝子Ac135(116492...117391)のC末端に挿入し、cap及びrep遺伝子発現カセットを含む組換えバキュロウイルスベクター(番号:Bac-Cap-Rep)を得た。
(2)ITRコアエレメント(ITR-GOI)を含むシャトルベクターの構築
ITRコアエレメントの番号はI-G-1であり、そのヌクレオチド配列は、配列番号26に示される。本実施例において、ITRコアエレメントにおけるGOIとして、赤色蛍光タンパク質mcherry遺伝子発現カセットを使用し、即ち、miniEf1aプロモーターによりmcherry発現を制御し、これによってrAAVの活性検出に便利である。ITR及び赤色蛍光タンパク質発現カセットをシャトルベクターpFastDual上に構築した。
(3)前記ステップ(2)で構築されたシャトルベクターを用いてBac-Cap-Rep組換えバクミドを含むコンピテントセルを形質転換し、Tn7組換えによりITR-GOIをBac-Cap-Rep組換えバクミドにおけるTn7部位に挿入し、最終的にrAAVの生産に必要な機能タンパク質成分及びITRコアエレメントを含む組換えバキュロウイルスゲノムの組換えバクミド(番号:Bac-Cap-Rep-ITR-GOI)を得た。
本実施例で構築された異なる9種類の組換えAAVバクミドは、いずれもcap遺伝子発現カセット、rep遺伝子発現カセット及びITRコアエレメントを含む。詳細を表1に示す。
【0101】
【0102】
実施例9:AAV組換えバキュロウイルスの調製
実施例4で調製された組換えAAVバクミドCRI-0、CRI-1、CRI-2、CRI-3、CRI-4、CRI-5、CRI-6、CRI-7及びCRI-8をそれぞれ宿主細胞系にトランスフェクションして培養し、AAV組換えバキュロウイルスを得た。
前記組換えバクミドDNAを抽出し、Sf9昆虫細胞にトランスフェクションし、組換えバキュロウイルスBEV及びrAAVを調製した。トランスフェクション後のSf9昆虫細胞は、BEVを成功に産生した。大量に複製増殖したBEVのさらなる感染によりSf9細胞に顕著な細胞変性効果(CPE)が発生した。CPEが発生したSf9細胞の培養上清を収集し、そこに大量のBEV(即ち、0世代目BEV(P0))が含まれる。また、大量のrAAVを含むSf9細胞を収集した。調製されたBEV-P0を感染多重度(MOI=1)で浮遊培養されたSf9細胞に感染させ、感染の72時間後に、細胞活性は50%以下に低下した。細胞培養液を1000gで5min遠心分離し、培養上清及び細胞沈殿をそれぞれ収集した。上清を1世代目BEV-P1として標識し、細胞をBEV-P0でパッケージングしたrAAVとして標識した。
【0103】
実施例10:組換えAAVウイルス粒子の精製及びそのパッケージング率、ウイルス力価の検出
実施例9の操作に従って、BEV-P2の種ウイルスを用いて感染多重度(MOI=1)で浮遊培養されたSf9細胞に感染させてrAAVのパッケージングを行い、パッケージング体積が300mL-400mLとなるまで引き続き拡大培養した。感染した3日後、細胞活性を監視した結果、活性は50%未満であった。遠心分離してそれぞれ細胞沈殿及び上清を得た。得られた細胞沈殿及び上清をそれぞれ精製し、細胞を3回繰り返して凍結融解して分解させて溶解させ、5000rpmで10min遠心分離し、上清を収集し、上清にヌクレアーゼ(Benzonase)を加え、37℃の水浴で60min処理した後、5000rpmで10min遠心分離した。収集した細胞溶解液及び収集した上清をPEGで沈殿させ、再懸濁させた後、イオジキサノールで密度勾配遠心分離により精製した(Aslanidiら,2009,Proc.NatlAcad.Sci.USA,206:5059-5064)。最終的に精製した製品ウイルスを80μL-190μLのPBSで再懸濁させ、精製した製品ウイルスを10μL取り、SDS-PAGEゲルにかけ、銀染色を行った。
【0104】
図14A、14B、14Cは、組換えAAVバクミドCRI-0、CRI-1、CRI-2、CRI-3、CRI-4、CRI-5、CRI-6、CRI-7及びCRI-8を宿主細胞にトランスフェクションした後、精製した組換えAAVウイルスをSDS-PAGE銀染色した検出図である。結果から分かるように、本発明で構築された組換えAAVバクミドは、イントロンスプライシング調節作用により昆虫細胞内でのVP1、VP2及びVP3タンパク質の適切な比率での発現が達成され、これによってウイルス粒子にパッケージングすることができる。ここで、CRI-4、CRI-6及びCRI-7のウイルス粒子は、それぞれCRI-3、CRI-5及びCRI-8に対してより高いVP1タンパク質の取り込み量を有する。この現象を引き起こす原因は、VP1タンパク質の発現量が比較的高いためである。VP1タンパク質の相対発現量は、イントロンのスプライシング効率に依存する。イントロンの配列を調整し、イントロンのスプライシング効率を変化させることにより、異なるVP1取り込み量のウイルス粒子を得ることができる。
【0105】
本実施例では、Q-PCRにより得られたrAAVウイルスのパッケージング率を検出した。rAAVパッケージング率の検出は、ITR配列を標的とする1対のプライマー(Q-ITR-F: GGAACCCCTAGTGATGGAGTT及びQ-ITR-R:CGGCCTCAGTGAGCGA)を用いて行った。rAAV感染力価の検出は、本社の特許CN112280801Aに記載の検出方法により行った。具体的な操作方法は、同特許に記載のプラスミドによるAAV感染力価の検出方法をご参照されたい。検出結果を表2に示す。
【0106】
【0107】
表2及び
図15から分かるように、本発明で調製された組換えAAVバクミドCRI-1からCRI-8を昆虫細胞にトランスフェクションすることによって、組換えバキュロウイルスにパッケージングすることができ、パッケージング率及びウイルスの感染力価は高かった。また、対照cap遺伝子発現カセットを含む組換えAAVバクミドCRI-0が生産したウイルス粒子に相当し、又は対照CRI-0よりも高かった。CRI-4、CRI-6及びCRI-7は、それぞれCRI-3、CRI-5及びCRI-8に対してより高いウイルス感染力価を有し、それらのVP1取り込み量も比較的高かった。
【0108】
実施例11:異なるAAV血清型のイントロン調節作用の検証
上記のイントロン調節方式が異なるAAV血清型中において作用できることを検証した。実施例1の方法によりそれぞれAAV血清2型のcap遺伝子発現カセット2K-1、AAV血清5型のcap遺伝子発現カセット5K-1及びAAV血清8型のcap遺伝子発現カセット8K-1を構築した。実施例3の方法によりそれぞれAAV血清2型のcap遺伝子発現カセット2K-2、AAV血清5型のcap遺伝子発現カセット5K-2及びAAV血清8型のcap遺伝子発現カセット8K-2を構築した。実施例5の方法によりそれぞれAAV血清2型のcap遺伝子発現カセット2K-3、AAV血清5型のcap遺伝子発現カセット5K-3及びAAV血清8型のcap遺伝子発現カセット8K-3を構築した。前記の構築物2K-1、2K-2、2K-3、5K-1、5K-2、5K-3、8K-1、8K-2及び8K-3のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号27から配列番号35に示される。AAV血清2型のRepタンパク質が様々な血清型rAAVの調製に適用できるためであるため、本実施例では、rep遺伝子発現カセットとしてAAV血清2型を使用した。
【0109】
本実施例では、実施例8を参照して9種類の異なる組換えAAVバクミドを構築した。それらはいずれもcap遺伝子発現カセット、rep遺伝子発現カセット及びITRコアエレメントを含む。詳細を表3に示す。
【0110】
【0111】
本実施例では、実施例9及び実施例10を参照して前記組換えAAVバクミドを宿主細胞にトランスフェクションし、精製して得られた組換えAAVウイルス粒子をSDS-PAGE銀染色により検出した。実験結果を
図16A、16B、16Cに示す。異なる血清型の組換えAAVバクミドで産生したrAAVの細胞パッケージング率及びウイルス感染力価を検出した。検出結果を表4に示す。
【0112】
【0113】
表4及び
図17の結果から分かるように、本発明では、イントロンスプライシング作用により昆虫細胞におけるVP1、VP2及びVP3タンパク質の相対的に適切な比率での発現を調節し、様々なAAV血清型に適用し、いずれもrAAVウイルス粒子を大規模に生産することができる。
【0114】
上記は本発明の好ましい実施例にすぎず、本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨及び原則内で行った任意の修正、同等置換及び改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれることを当業者が理解できる。
【配列表】