IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山洋電気株式会社の特許一覧

特許7586631回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法
<>
  • 特許-回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法 図1
  • 特許-回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法 図2
  • 特許-回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法 図3
  • 特許-回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法 図4
  • 特許-回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】回転電機のアーマチュア及びその絶縁方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/04 20060101AFI20241112BHJP
   H02K 1/28 20060101ALI20241112BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H02K1/04 Z
H02K1/28 Z
H02K15/02 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019099183
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020195199
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-03-04
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉石 大悟
(72)【発明者】
【氏名】坂井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正司
(72)【発明者】
【氏名】山浦 一仁
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 俊博
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】河本 充雄
【審判官】大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-79996(JP,A)
【文献】特開平6-253522(JP,A)
【文献】特開平9-163641(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150354(WO,A1)
【文献】特開2015-61374(JP,A)
【文献】特開2011-66987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/04
H02K15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の内周側に回転可能に支持されたアーマチュアであって、
所定形状のそれぞれが一定の厚さを有する板体であるコアシートを複数枚積層したアーマチュアコアと、
前記アーマチュアコアに巻回された絶縁性の被覆を備える巻線と、
前記アーマチュアコアの表面に、前記アーマチュアコアの前記表面から順に第一層及びその上層に形成された第二層からなる絶縁被覆層と、を備え、
前記第一層は、下地処理層であって、前記アーマチュアコアの前記表面を覆うとともに、前記表面に通じる前記コアシート間のクリアランスに侵入して、前記コアシート同士を固着し、前記表面への出口を封止する第一の絶縁性材料からなり、
前記第二層は、絶縁処理層であって、前記下地処理層の表面に形成される第二の絶縁性材料からなる、ことを特徴とする回転電機のアーマチュア。
【請求項2】
前記第一の絶縁性材料は、電着塗装材料からなる、請求項1に記載の回転電機のアーマチュア。
【請求項3】
前記第一の絶縁性材料は、嫌気性接着材料からなる、請求項1に記載の回転電機のアーマチュア。
【請求項4】
前記第二の絶縁性材料は、粉体塗装材料からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュア。
【請求項5】
前記第一層は、前記第二層より、その厚さが薄く形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュア。
【請求項6】
前記第一層又は前記第二層は、さらに複数の層から構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュア。
【請求項7】
回転電機の内周側に回転可能に支持されたアーマチュアであって、
所定形状のそれぞれが一定の厚さを有する板体であるコアシートを複数枚積層したアーマチュアコアと、
前記アーマチュアコアに巻回された絶縁性の被覆を備える巻線と、
前記アーマチュアコアの表面に形成された絶縁被覆層と、を備えた回転電機のアーマチュアの絶縁方法において、
前記アーマチュアコアを、第一の絶縁性材料により、前記アーマチュアコアの前記表面を覆うとともに、前記表面に通じる前記コアシート間のクリアランスに侵入し、前記コアシート同士を固着し、前記表面への出口を封止する下地処理層からなる第一層を形成し、
前記下地処理層からなる前記第一層の上層に、第二の絶縁性材料により、絶縁処理層からなる第二層を形成し、
前記絶縁被覆層を前記第一層及び前記第二層から構成する、ことを特徴とする回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項8】
前記第一の絶縁性材料が、電着塗装材料である、請求項7に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項9】
前記第一の絶縁性材料が、含浸される嫌気性接着材料である、請求項7に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項10】
含浸される前記嫌気性接着材料により、前記コアシート間の前記クリアランスの少なくとも一部において、前記コアシート同士を固着する、請求項9に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項11】
前記第二の絶縁性材料が、粉体塗装材料である、請求項7~10のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項12】
前記第一層を、前記第二層より、その厚さを薄く形成する、請求項7~11のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【請求項13】
前記第一層又は前記第二層を、さらに複数の層に分けて形成する、請求項7~12のいずれか一項に記載の回転電機のアーマチュアの絶縁方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に用いられるアーマチュア及びその絶縁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DCサーボモータ、タコジェネレータ等の回転電機に使用されるアーマチュア(電機子)には、従来、電磁鋼板からなるコアシートを積層したアーマチュアコアに、巻線部との絶縁を目的として、電気絶縁用エポキシレジンによる粉体塗装により絶縁処理層の形成が行われていた。
【0003】
この電気絶縁用エポキシレジンによる粉体塗装は、通常、流動浸漬法等によって実施されている。流動浸漬法は、流動槽に粉体塗料を入れ、圧縮空気等を圧送することにより、粉体塗料を舞い上げて流動状態にある流動層を形成し、この流動層に塗料の溶融温度以上に予熱したワークであるアーマチュアコアを浸漬し、その表面に接触した粉体塗料が溶融して絶縁性の塗膜を形成し、次いで、塗膜が付着したワークを流動層から取り出して別の恒温槽に移し、その恒温槽において最終的な加熱硬化処理が行うものである(特許文献1等)。
【0004】
しかしながら、従来のアーマチュア及びその製造方法においては、アーマチュアコアがコアシートを積層して構成されているため、積層した電磁鋼板のスキマに残存する空気や、コア打ち抜き時の抜き油、水分等が塗膜形成時の加熱により揮発した気体により気泡が発生することがある。
【0005】
このような気泡が発生すると、気泡が塗膜中に混在し、気泡の存在する部分にピンホールやアーマチュアコアの一部が露出する箇所が点在したり、塗装が十分に付着しなかったり、塗装部の膨れが生じたりするおそれがあった。
【0006】
このような、アーマチュアコアの表面の塗膜の欠陥は、アーマチュアコアに巻線を巻いた際の絶縁性の低下につながり、短絡等による性能低下や故障が生じるおそれがあった。
【0007】
また、アーマチュアコアに巻回される巻線は、通常、エナメル塗料により被覆された絶縁性が確保された電線が用いられているが、その絶縁性は必ずしも十分ではなく、例えば、電線の巻回等の操作時に曲げ部においてエナメルが剥離したり、他部材との接触によるエナメルの欠損等が生じたりする可能性もあり、かかる絶縁性の低下した部分がアーマチュアコアの絶縁性が低下した部分に接触すると、上記と同様にアーマチュアコアの絶縁性が低下し、同様の問題が生じるおそれがあった。
【0008】
これらの問題の発生を回避するために、従来は、粉体塗装後に気泡部分を点検し、絶縁性が低下している部分には、絶縁ワニス等を塗布して補修を行うなど、煩雑な工程を追加することが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-231191号公報
【文献】特開平8-19755号公報
【文献】特開2005-39255号公報
【0010】
特許文献2には、固定電極への粉体処理技術の例として、絶縁膜の形成のための手法として、流動浸漬式粉体塗装、静電式流体浸漬粉体塗装、静電式吹き付け粉体塗装がとられた場合に、絶縁被膜内に気泡を残さないようにする粉体塗装技術が開示されている。これらは、硬化加熱工程で粉体塗料の完全硬化に必要な比較的高い温度の加熱を行うため、粉体塗料の溶融からゲル化までの時間を短くせざるを得ず、塗装工程で巻き込んだ空気が排出されないまま気泡として絶縁膜内に残ってしまう問題を解決するというものである。
【0011】
そのため、特許文献2に開示された技術では、塗装工程と熔融工程を幾度か繰り返すという手段を採用している。この技術は塗料中に含まれてしまった気泡を上記工程の繰り返しにより極力排出を目指そうとするものであり、製造工程又は製造時間の増加、ワーク又は処理槽の移動工程の煩雑化などの問題を含み得るものであった。また、絶縁膜を形成する対象物は、静電型スピーカユニットであり、積層したコアシートからなるアーマチュアコアのコアシート間の気体により生じる気泡の問題に対して解決手段は提示されていない。
【0012】
特許文献3には、回転機の希土類磁石への粉体処理技術の例として、電着塗装と粉体処理技術を併用する技術が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示された技術は、通常なら不要であるにも関わらず、特定の組成の永久磁石を用いた場合に初めて問題となる永久磁石の表面の耐食性を改善するためのものであって、特許文献2と同様に、積層されたコアシートからなるアーマチュアコアにおいて生じる気泡の問題に対して解決手段を提示するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記したような電磁鋼板からなるコアシートを積層して構成されるアーマチュアコアの絶縁塗装において生じる絶縁性の低下による短絡や故障等の問題を改善するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、かかる課題を解決するために、以下の構成を採用した。
【0015】
すなわち、回転電機の内周側に回転可能に支持されたアーマチュアであって、所定形状のコアシートを複数枚積層したアーマチュアコアと、前記アーマチュアコアに巻回された絶縁性の被覆を備える巻線と、前記アーマチュアコアの表面に、前記アーマチュアコアの前記表面から順に第一層及びその上層に形成された第二層からなる絶縁被覆層と、を備え、前記第一層は、下地処理層であって、前記アーマチュアコアの前記表面を覆うとともに、前記表面に通じる前記コアシート間のクリアランスの出口を封止する第一の絶縁性材料からなり、前記第二層は、絶縁処理層であって、前記下地処理層の表面に形成される第二の絶縁性材料からなる、回転電機のアーマチュアとする構成を採用したものである。
【0016】
この構成により、積層されたコアシートから構成されるアーマチュアのコアシート間のクリアランスに含まれた空気や、コア打ち抜き時の抜き油、水分等が塗膜形成時の加熱により揮発した気体により気泡が発生しても、下地処理層によりクリアランス間に封じ込められているので絶縁処理層に気泡が混じることを防ぐことができ、それによって生じるピンホールの発生などを減少させ、アーマチュアコアの絶縁性の低下による短絡や故障等の問題を改善することが可能となる。
【0017】
また、別の構成として、回転電機の内周側に回転可能に支持されたアーマチュアであって、所定形状のコアシートを複数枚積層したアーマチュアコアと、前記アーマチュアコアに巻回された絶縁性の被覆を備える巻線と、前記アーマチュアコアの表面に形成された絶縁被覆層と、を備えた回転電機のアーマチュアの絶縁方法において、前記アーマチュアコアを、第一の絶縁性材料により、前記アーマチュアコアの前記表面を覆うとともに、前記表面に通じる前記コアシート間のクリアランスの出口を封止する下地処理層からなる第一層を形成し、前記下地処理層からなる前記第一層の上層に、第二の絶縁性材料により、絶縁処理層からなる第二層を形成し、前記絶縁被覆層を前記第一層及び前記第二層から構成する、回転電機のアーマチュアの絶縁方法を採用した。
【0018】
この方法により、積層されたコアシートから構成されるアーマチュアのコアシート間のクリアランスに含まれた空気や、コア打ち抜き時の抜き油、水分等が塗膜形成時の加熱により揮発した気体により気泡が発生しても、下地処理層によりクリアランス間に封じ込められて絶縁処理層に気泡が混じることを防ぐことができ、それによって生じるピンホールの発生などを減少させ、アーマチュアコアの塗装工程の後の気泡部分の補修工程を省略又は簡素化が可能とし、また、絶縁性の高いアーマチュアコアを容易に製造することができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明により、積層されたコアシートから構成されるアーマチュアコアにおいて生じる絶縁性の低下による短絡や故障等の問題を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】回転電機であるDCサーボモータを側方から見た半縦断面図
図2】コアシート及びそれを積層した状態を示す斜視図
図3】粉体塗装後のアーマチュアコアの側面図
図4】アーマチュアコアの表面の絶縁被覆層の状態を示す模式図
図5】アーマチュアを製造する一過程を示すフロー図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)図1において、モータ2の外周側には、ステータ5が配置されており、ステータ5と相対峙してモータ2の内周側にアーマチュア1が回転軸8を介して回転可能に支持されている。ステータ5とアーマチュア1の間には適宜距離のクリアランスが設けられている。
【0022】
アーマチュアコア4には、アーマチュアコア4に形成された回転磁極を構成する突極6(後述)に巻回された絶縁性の被覆を備えるエナメル線等の巻線7が備えられている。
【0023】
巻線7に適宜タイミングで通電されてアーマチュアコア4に生じる電磁力と、ステータ5の磁力とにより、モータ2の回転軸8は回転する。
【0024】
図2において、それぞれが一定の厚さを有する板体であるコアシート3は、同形状に加工された複数枚のコアシート3と積層されてアーマチュアコア4を構成している。コアシート3は、薄板状の電磁鋼板から構成されており、その材料や方法が特段限定されるものではないが、プレス打ち抜き等周知の加工手段により製造されるものである。
【0025】
なお、図2に示す実施の態様では、コアシート3が単純に積層された形状で示されているが、回転電機の磁力特性を考慮して、後述の図3に見られるような回転磁極である複数の突極6の積層方向を回転軸8の軸線Xに対して傾斜する方向Yに配置しても差支えない。そのようにする場合には、コアシート3のそれぞれを円周位置に僅かにずらしつつ積層してアーマチュアコア4を構成することとなる。
【0026】
コアシート3は、回転軸8の軸線Xを中心とする外形円形のものであり、その中心に回転軸8の挿入、圧入等のための円形の孔12が形成され、さらに、巻線7を収める複数の溝13が形成されている。複数の溝13の底部は、コアシートの円形の孔12よりも大径の仮想円14(全ての溝13の最底部を包絡する線でコアシート3の最外径より小さい径の円)上に位置し、かつ周方向に見て均等の間隔となるよう全方位に向けて形成されている。
【0027】
コアシート3の最外径と仮想円14との間に形成された溝13と溝13との間には、仮想円14から半径方向外方にコアシート3の最外径まで伸びる複数の突極6が設けられている。突極6の根本端は、略コ字状の底部とされているが、コアシート3の最外径に位置する部分には、円周方向両側に伸びる鍔部15が形成されている。この鍔部15で一側が位置決めされて、複数の突極6がそれぞれ回転磁極を構成するように、エナメル線等の電線7が突極6に巻回されて回転磁極が構成されることとなる。
【0028】
図3において、出来上がったアーマチュア1の全体構造が示されている。アーマチュアコア4の各回転磁極には前記したエナメル線等の電線7が巻回されており、アーマチュアコア4は回転軸8に圧入や嵌入により固定され、アーマチュア1の軸線X方向一側には、アーマチュアコア4に巻回されて巻線を形成する電線7に接続された整流子9が配置されている。
【0029】
図3に示すアーマチュア1は、図1に示すとおり、ステータ5の内周側に配置され、外部からの電力が整流ブラシ(図示せず)を介して整流子9に通電され、整流子9から通電されて各回転磁極が順に磁力を発生してアーマチュア1及び回転軸8を回転させて、DCモータ2が稼働されることとなる。
【0030】
以上は、DCサーボモータ2をもって本発明の前提部分の一例を説明したに過ぎず、これらの記載は、本発明の範囲を限定するものと解されるものではなく、積層したコアシート3から構成されるアーマチュアコア4を用いる回転電機であれば、いかなる機器であっても、本発明が適用され得ることはいうまでもない。たとえば、発電機、モータジェネレータはもちろん、タコメータその他のアーマチュアコア4を用いて物理量を測定するセンサ等にも適用可能である。
【0031】
図4にアーマチュアコア4の表面に形成される絶縁被覆層10の構造を示す。説明の便宜上、積層される電磁鋼板からなるコアシート3は薄く、それら電磁鋼板からなるコアシート3同士の間に形成されるクリアランスCは厚く誇張して示している。
【0032】
アーマチュアコア4の表面に形成される絶縁被覆層10は、アーマチュアコア4の表面から順に第一層10a及び第一層10aのさらに上層に形成された第二層10bからなる。
【0033】
アーマチュアコア4の表面に形成される絶縁被覆層10のうち、アーマチュアコア4の表面に接する第一層10aについて説明すると、電磁鋼板からなる積層されたコアシート3の表面には、第一層10aとして、第一の絶縁性材料である電着塗装材料からなる下地処理層10aが形成されている。
【0034】
一方、コアシート3の間に形成される微小なクリアランスCには、外周側端部が電着塗装材料で封止されて、クリアランスC間に存在するかあるいは同所に発生する空気その他の気体が同所からアーマチュアコア4の外空間側にほとんど流出しないようにその出口11が塞がれている。
【0035】
通常、クリアランスCにおいては、空気の残存、コア打ち抜き時の抜き油、水分等の塗膜形成時の加熱による揮発により、気泡が発生することがある。本発明では、クリアランスCの出口11が塞がれているため、気泡がアーマチュアコア4の外周面部の絶縁被覆層10の第一層10aである下地処理層10a内部に含まれたり、後述する第二層10bである絶縁処理層10bに到達したりすることはない。
【0036】
また、クリアランスCの外周側端部には僅かではあるが、電着塗装材料が浸入している。この浸入量は、下地処理層10aの材質や処理方法により異なるが、電着塗装材料を用いた場合には、ごく僅かである。クリアランスCの出口11が電着塗装材料で塞がれれば、クリアランスCの出口11の封止が可能となって本発明の作用効果を期待できる。電着塗装材料が僅かでも浸入する方が好適ではあるが、封止さえできればよいことはいうまでもない。
【0037】
この電着塗装材料の塗布量(膜厚)は必要以上に厚くする必要はない。クリアランスCの出口11を封止できていれば、その厚さは限定されない。しかし、電着塗装自体、数μmから数十μmの膜厚であり、膜厚を大きくしてアーマチュアコア4に求められる絶縁性を確保することは困難であるので、後述する第二層10bである絶縁処理層10bと併せて、アーマチュアコア4に必要な絶縁性(絶縁耐圧)を確保することが必要となってくる。
【0038】
なお、第一の絶縁性材料である電着塗装材料としては、例えば、アミノ変性エポキシ樹脂等が用いられるが、電着塗装材料として用いられる材料であれば、カチオンタイプまたはアニオンタイプから選定されたいずれの方式でもよく、塗装材料、すなわち絶縁性材料としては、本発明の目的に適う限り、エポキシウレタン系、エポキシ系、アクリル系から選定された材料など、如何なるものであってもよい。
【0039】
次に、アーマチュアコア4の表面に形成される絶縁被覆層10のうち、アーマチュアコア4の第一層10aのさらに上層に形成される第二層10bについて説明すると、アーマチュアコア4の下地処理層10aのさらに外周側には第二の絶縁性材料からなる第二層10bとしての絶縁処理層10bが形成されている。下地処理層10a自体が絶縁性を有しているので、これにより、絶縁機能を有する層が下地処理層10aと絶縁処理層10bとで複層化されることとなり、アーマチュアコア4の絶縁耐圧は向上する。特に、第二層10bである絶縁処理層10bは、絶縁性の高い材料や膜厚を選択し易いので、アーマチュアコア4の絶縁耐圧への影響は大きい。しかも、本発明では、気泡を封じ込める目的のために下地処理層10aを用いており、例えば、巻線7との摩擦・損耗によるアーマチュアコア4の絶縁性の低下が生じたり、巻線7の屈曲や他部材との接触によるその絶縁被覆であるエナメルの欠損等により絶縁性の低下が生じたりする場合であっても、複数層の絶縁作用により、好適な絶縁を図ることができる。
【0040】
また、仮に、衝撃等により、第二層10bである絶縁処理層10bの剥離等があって第二層10bの絶縁性が損なわれた場合であっても、第一層10aである下地処理層10aが絶縁性においてフェールセーフ層となり、アーマチュアコア4の絶縁性の維持が可能である。
【0041】
第二の絶縁性材料である絶縁処理材料としては、粉体塗装材料が採用されている。粉体処理塗装材料としては、エポキシ/ポリエステル系、ポリエステル系、アクリル/ポリエステル系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系等が用いられるが、粉体塗装材料として用いられるものであれば如何なるものであってもよい。
【0042】
なお、粉体塗装処理においては、塗装工程時の空気の巻き込みによる気泡の発生により、気泡部分での絶縁性の低下が心配される場合もあるが、本発明においては、下地処理層10aにより、アーマチュアコア4の塗装で生じる気泡の主たる給源となるコアシート3間のクリアランスCに存在するかあるいは同所に発生する空気その他の気体が封じ込められているので、気泡が絶縁処理層10bまで到達して混入することはない。
【0043】
アーマチュアコア4の下地処理層10aと絶縁処理層10bの厚さの関係については、製造条件や要求性能に応じて適宜変更が可能であるが、一般的には、それぞれの塗装方式の作用機序からして、第一層10aである下地処理層10aは数十μm程度まで、第二層10bである絶縁処理層10bは数十μmから100μm以上となり、第一層10aの厚さは第二層10bのそれより薄く形成されることが多い。
【0044】
なお、上記の説明では、第一の絶縁性材料と第二の絶縁性材料との両者について説明したが、本発明の目的を達成できる限り、両者の絶縁性材料が同じものとなることを妨げるものではない。
【0045】
(実施の形態2)この実施の形態は、下地処理層10aを、嫌気性接着材料から構成したものである。以下の説明においては、実施の形態1と共通する部分は省略する。
【0046】
下地処理層10aは、コアシート3を積層し、積層方向に圧縮したアーマチュアコア4を、浸漬槽内に貯留させた嫌気性接着材料に浸漬することにより形成されている。
【0047】
嫌気性接着材料を用いる場合には、その粘性、表面張力の低さから、毛細管現象によりコアシート3間の各クリアランスCへの嫌気性接着材料の浸入量が大きくなり、かつ接着剤自体が気体等を封じ込める作用が生じる。加えて、積層されるコアシート3同士をクリアランスC内の接着剤が固定されるという作用が生じるので、アーマチュアコア4を積層した状態で取り扱うことが容易となり、製造工程や製造装置の簡素化を図ることも可能となる。
【0048】
また、積層されるコアシート3の下地処理と同時にそれらを積層方向に圧縮した状態のまま固定することができるので、後の工程でのアーマチュアコア4の取り扱いがより容易となる。
【0049】
もちろん、コアシート3間のクリアランスCへの浸入量を大きくせずとも、実施の形態1と同等の作用が期待できることはいうまでもない。
【0050】
(実施の形態3)図5に、本発明のアーマチュア1の絶縁方法を含む製造工程の概要を示している。既に実施の態様1又は2に関して説明した事項の一部は説明を省略している。
【0051】
製造工程S1は、プレス加工工程を示す。ここでは、アーマチュアコア4を構成するコアシート3を、打ち抜き加工等により、図2に例示する如く、突極6、回転軸の孔12、巻線溝13、鍔15等を備える形状に加工する。
【0052】
製造工程S2は、コアシート積層工程を示す。ここでは、製造工程S1で製造された複数のコアシート3を重ね合わせて積層する。
【0053】
製造工程S3は、アーマチュアコア仮組み・本組み工程である。ここでは、積層されたコアシート3を、積層方向に圧縮力をかけてアーマチュアコア4の形態が維持されるよう仮組みする。場合に応じて、ボルト等で固定する本組みを行っても良い。
【0054】
製造工程S3において、複数枚のコアシート3を積層方向に圧縮するのは、コアシート3間のクリアランスCの隙間を減らすとともに、そのばらつきも減らし、アーマチュア1の磁気特性が向上させるためのものである。
【0055】
上記したとおり、複数枚のコアシート3の積層は、回転軸8の軸線Xに対して傾斜する方向Yに配置するものであってもよい。その場合は、コアシート3をそれぞれ円周方向に僅かにずらしつつ積層することとなる。なお、その場合の積層されたコアシート3の圧縮方向については、回転軸の軸線Xの方向と同じにしても差支えないが、上記傾斜する方向Y側にずれるものであっても良い。
【0056】
製造工程S4は、下地処理工程である。ここでは、仮組みされた複数の電磁鋼板からなるコアシート3を積層されたアーマチュアコア4が、第一の絶縁性材料である電着塗装に適用可能な下地処理材料が満たされた電着槽に浸漬され、次いで所定時間通電が行われることで、電着塗装が行われ、その全面に下地処理層10aが形成される。
【0057】
アーマチュアコア4への電着塗装の一例は次のとおりである。塗料としては、エポキシ系樹脂としてアミノ変性エポキシ樹脂をビヒクルとしたカチオン性塗料を用いた。被塗装体であるアーマチュアコア4をカソード側とし、電着槽容器をアノード側として、60Vの直流電圧を印加した。この時の、電着液(塗料液)の温度は27~29℃であり、浸漬時間は約4分間であった。その後、アーマチュアコア4を電極で保持したまま、乾燥炉中で、190~200℃の温度で約120分間加熱して本硬化を行った。この結果得られた下地処理層の厚さは、常法(3点測定)により測定した平均膜厚が5~15μmであった。また、電着塗装後のアーマチュアコア4の表面観察を行ったところ、コアシート3同士の間のクリアランスCの出口11にはピンホール等の欠陥が減少した。
【0058】
なお、上記電着塗装方法は本発明の一態様を示したに過ぎず、例えば、乾燥炉での温度、通電時間等は、本発明の目的に資する限り、適宜変更することが可能である。
【0059】
下地処理材料として、絶縁性のある嫌気性接着材料を第一の絶縁性材料として用いる場合には、嫌気性接着剤が満たされた接着剤槽で毛細管現象によりコアシート3同士の間の各クリアランスCに嫌気性接着剤が浸入するよう含浸させ、その後の接着剤の硬化により、同様にアーマチュアコア4の全面に下地処理層10aが形成されることとなる。
【0060】
なお、下地処理材料として、絶縁性のある嫌気性接着材料を第一の絶縁材料として用いる場合には、必ずしも接着剤槽で含浸させる方法だけではなく、同様に必要な箇所にかかる嫌気性接着材料を到達させ得る限り、噴霧、塗布等その他の含浸方法によって行うことが可能であることはいうまでもない。
【0061】
製造工程S5は、絶縁処理工程である。製造工程S4の下地処理工程を終えたアーマチュアコア4は、その全面に第一層10aである下地処理層10aが形成されている。この絶縁処理工程においては、第二の絶縁性材料を用いた粉体塗装が行われ、アーマチュアコア4に求められる絶縁性が確保されるように、第一層10aである下地処理層10aのさらに上層に第二層10bである絶縁処理層10bが形成される。なお、粉体塗装により形成された絶縁処理層10bは、塗装後に恒温安定処理工程を経て、次工程に移行する。なお、図示される製造工程S5は、かかる恒温安定処理工程も含んでいる。
【0062】
製造工程S6は、アーマチュア組立工程である。製造工程S5の絶縁処理工程を経たアーマチュアコア4には、その突極6にエナメル等の絶縁被覆を有する電線7が巻回される。
【0063】
その後、電線7は、場合に応じて他の巻回部分の電線7(すなわち巻線7)に接続されたり、整流子9等に接続されたりするが、その接続の態様は任意のものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0064】
アーマチュアコア4への回転軸8の圧入など、その余の工程については、周知のアーマチュア1の製造工程と同様であり、特段限定された工程を要するものではない。
【0065】
アーマチュアコア4の製造工程は、必ずしも上記した実施の態様に限定されるものではなく、要は、下地処理工程時に、アーマチュアコア4のコアシート3間のクリアランスCに、空気の残存や、コア打ち抜き時の抜き油、水分等の塗膜形成時の加熱による揮発で気体が生じても、コアシート3のクリアランスCの出口11が封止されて塞がれていればよい。そのようにすることで、第二層10bである絶縁処理層10bの形成時に、アーマチュアコア4のコアシート3間のクリアランスCから生じる気泡がアーマチュアコア4の外周面の絶縁被覆層10、特に絶縁処理層10bに混入することを考慮することなく塗工できるようになる。
【0066】
以上の製造工程による方法によれば、絶縁処理層10bの気泡処理工程の省略・簡素化が可能となり、アーマチュア1の製造工程数が減少し、自動化が容易となり、製造コストの低減に寄与する。
【0067】
なお、上記説明では、第一層及び第二層がそれぞれ単一の層であることを前提に説明をしたが、それぞれあるいはいずれか一方がさらに複数の層から構成されたアーマチュア1又はその絶縁方法であっても、本発明の目的を達成することができる限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 回転電機のアーマチュア
2 DCサーボモータ
3 アーマチュアのコアシート
C コアシート3間のクリアランス
4 アーマチュアコア
5 ステータ
6 突極(回転磁極)
7 電線、巻線
8 回転軸
X 回転軸の軸線
10 絶縁被覆層
10a 第一層(下地処理層)
10b 第二層(絶縁処理層)
11 クリアランスCの出口
12 円形の孔
13 溝
14 仮想円
15 鍔部
図1
図2
図3
図4
図5