(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ガスエンジンの再着火処理装置、再着火方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241112BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20241112BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20241112BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 368S
F02D45/00 345
F02D19/02 D
F02D41/04
F02D43/00 301H
F02D43/00 301Y
(21)【出願番号】P 2019201065
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純之介
(72)【発明者】
【氏名】三橋 真人
(72)【発明者】
【氏名】坪川 浩明
(72)【発明者】
【氏名】小圷 孝弘
【合議体】
【審判長】八木 誠
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 19/02
F02D 41/04
F02D 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて
、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許
可するよう構成された実行許可部
であって、
前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、
前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、
前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、
前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、
前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、
前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を備えるガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項2】
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、
前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、
前記失火発生シリンダでの前記再着火処理の実行指示を外部から受信するよう構成された受信部と、を備え、
前記実行許可部は、
前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、
前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、
前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、
前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たすとともに、
さらに、前記受信部が前記実行指示を外部から受信した場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成されている、
ガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項3】
前記ガスエンジンは、シリンダヘッドと前記複数のシリンダの各々の内部に摺動自在に設置されるピストンとで画定される複数の主室と、前記複数の主室の各々毎に噴孔を介して連通する副室とを有しており、
前記失火発生シリンダの前記主室、および該主室に連通される前記副室への燃料ガスの供給は停止されるように構成されており、
前記再着火実行部は、前記再着火処理の開始時に前記失火発生シリンダの前記主室に供給される前記燃料ガスである対象主室ガスの流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダの前記主室にそれぞれ供給される前記燃料ガスである参照主室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定するよう構成された燃料量決定部を有する請求項1または2に記載のガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項4】
前記ガスエンジンは、前記複数の主室にそれぞれ供給される前記燃料ガスの流量を調整弁によって調整可能に構成されており、
前記再着火実行部は、決定された前記対象主室ガスの流量に対応する弁開度を前記調整弁に送信するよう構成された弁開度指令部を、さらに有する請求項3に記載のガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項5】
前記ガスエンジンは、シリンダヘッドと前記複数のシリンダの各々の内部に摺動自在に設置されるピストンとで画定される複数の主室と、前記複数の主室の各々毎に噴孔を介して連通する副室とを有しており、
前記失火発生シリンダの前記主室、および該主室に連通される前記副室への燃料ガスの供給は停止されるように構成されており、
前記再着火実行部は、前記再着火処理の開始時に前記失火発生シリンダの前記副室に供給される前記燃料ガスである対象副室ガスの流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダの前記副室にそれぞれ供給される前記燃料ガスである参照副室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定するよう構成された燃料量決定部を有する請求項1または2に記載のガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項6】
前記ガスエンジンは、前記複数の副室にそれぞれ供給される前記燃料ガスの流量を調整弁によって調整可能に構成されており、
前記再着火実行部は、決定された前記対象副室ガスの流量に対応する弁開度を前記調整弁に送信するよう構成された弁開度指令部を、さらに有する請求項5に記載のガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項7】
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、
前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、
前記再着火処理の実行中に所定の中止条件が満たされた場合に実行中の前記再着火処理を中止させるよう構成された実行中止部と、を備え、
前記実行許可部は、
前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、
前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、
前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、
前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たすとともに、
さらに、前記運転履歴に前記再着火処理が中止されたことを示す実行履歴が含まれていない場合に、前記再着火処理を許可するように構成されている
ガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項8】
前記再着火処理が実行されている前記失火発生シリンダの再着火を検出するよう構成された再着火検出部と、
前記失火発生シリンダが前記再着火した後に前記再着火処理が中止された場合には、前記制御装置に対して、該失火発生シリンダに対する前記再着火処理の中止時の前記燃焼制御の条件の維持を指示するよう構成される指示部と、をさらに備える請求項7に記載のガスエンジンの再着火処理装置。
【請求項9】
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火方法であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて
、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許
可するステップ
であって、
前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、
前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、
前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、
前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、
前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するステップと、
前記実行を許
可するステップにおいて前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するステップと、を備えるガスエンジンの再着火方法。
【請求項10】
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火プログラムであって、
コンピュータに、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて
、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許
可するよう構成された実行許可部
であって、
前記損傷診断結果において、前記ガスエンジンを構成するエンジン本体、着火装置、および燃料供給系の損傷が発見されず、
前記制御装置の記憶部に記憶されている履歴情報であって、前記燃焼診断の結果および前記燃焼診断の結果に基づいて行った制御内容に関する履歴情報が、予め定めた特定のアラーム情報を含んでおらず、
前記運転履歴が、過去に再着火処理が実行されていないことを示す履歴、あるいは再着火処理の実行回数が所定回数以下であることを示す履歴、を含んでおり、
前記運転状態が、前記失火が発生した時の前記ガスエンジンの負荷が一定でなかったこと、あるいは、再着火処理の実行時の前記ガスエンジンの負荷が一定であること、の少なくとも一方である許可条件を満たす場合に、
前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行を許可するよう構成された実行許可部と、
前記実行許可部によって前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を実現させるための再着火プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のシリンダを備えるガスエンジンに関し、特に、ガスエンジンの運転を停止させることなく、失火が生じたシリンダを個別に再着火する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスエンジンは複数のシリンダを備えており、例えば発電などの用途で使用される。この種のガスエンジンは通常は副室式であり、シリンダの内部を摺動するピストンと、シリンダヘッドとでそれぞれ画定される主室(主燃焼室)と、この主室に噴孔を介して連通する副室(副燃焼室)とを、シリンダの数だけ備える。そして、複数のシリンダの各々の主室に燃料ガスと空気とを予混合した希薄混合気を送り込み、各主室にそれぞれ設けられた副室を有する着火装置で生成した燃焼火炎(トーチ)によって主室の希薄混合気を着火燃焼させる。なお、着火装置は、副室内に液体燃料(パイロット燃料)を噴射し副室内の燃料ガスを着火するパイロット着火方式、および点火プラグにより副室内の燃料ガスを着火する火花点火方式が知られている。
【0003】
このようにガスエンジンは希薄混合気燃焼であることから、ディーゼルエンジン等に比べて失火や燃焼不良(異常燃焼)が発生する可能性が高い。ガスエンジンで失火が発生すると、燃焼不良によるエンジン出力の低下や、回転変動の増大による運動部分の故障等の不具合を誘発する。ところが、例えば発電用途などのガスエンジンでは電力供給のために運転を継続する必要があり、一つないし複数のシリンダで失火が発生したとしてもガスエンジンの運転を停止するのは容易ではない。一方、失火が発生した状態で運転を継続するためには、稼働しているシリンダの過負荷を抑制するために機関出力を下げる必要があるため、ガスエンジンの運転停止が次に行われ再度全筒着火するまでの間は、デマンドオーバーに至るリスクを抱えて運転を継続することになる。
【0004】
このような課題に対して、例えば特許文献1では、失火発生を検知すると共に、その検知後にガスエンジンの運転を停止することなく失火が発生しているシリンダ(以下、失火発生シリンダ)で再度の着火を行う手法が開示されている。具体的には、パイロット着火方式のガスエンジンにおいて失火の発生を検知すると、失火発生シリンダの健全性を確認した後、副室内へのパイロット燃料の噴射量と噴射タイミングを調整することでその着火条件を求める。その後、ガス燃料の噴射量の設定を変えながら主室の混合気の空気過剰率を調整し、再着火を行う。上記の空気過剰率の調整は、ガスエンジンの回転数と負荷とによって設定される正規運転時のガス燃料の投入量よりも少量のガス燃料噴射量(噴射期間)を初期値とすることが記載されている。これによって、燃焼を確認できる空気過剰率を設定することが可能とされる。また、特許文献2には、シリンダ毎に失火の発生を判定し、失火発生シリンダへの燃料ガスの供給停止を行い、複数シリンダで同時に失火が生じた場合にガスエンジンを停止させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4823103号公報
【文献】特開2013-174146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、失火が一過性のものではなく、ガスエンジンに定常的に生じた何らかの異常(故障)が原因である場合には、再着火を繰返し行うと、機関損傷につながる可能性がある。また、このような場合には、失火発生シリンダの再着火処理の実行が、他のシリンダの失火や異常燃焼を誘発する可能性もあり、さらなるエンジン出力低下や危急停止をせざるを得ない事態になるなど、ガスエンジンの稼働状態を悪化させる可能性もある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、失火の原因が一過性のものと判定される場合に再着火を行うガスエンジンの再着火処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンの再着火処理装置は、
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火処理装置であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行の許可判定を行うよう構成された実行許可部と、
前記許可判定によって前記再着火処理の実行が許可された前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を備える。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンの再着火方法は、
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火方法であって、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行の許可判定を行うステップと、
前記許可判定によって前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するステップと、を備える。
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンの再着火プログラムは、
複数のシリンダを有するガスエンジンの運転中にシリンダの再着火処理を実行するガスエンジンの再着火プログラムであって、
コンピュータに、
前記複数のシリンダのうちの少なくとも1つの前記シリンダで失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダの筒内圧力に基づく損傷診断結果、前記ガスエンジンの燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置の異常の有無、前記失火発生シリンダに関する運転履歴、および、前記ガスエンジンの運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理の実行の許可判定を行うよう構成された実行許可部と、
前記許可判定によって前記再着火処理の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダに対する前記再着火処理を実行するよう構成された再着火実行部と、を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、失火の原因が一過性のものと判定される場合に再着火を行うガスエンジンの再着火処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスエンジンの構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るガスエンジンの制御装置を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る再着火処理装置の機能を概略的に示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る再着火処理の実行シーケンスを示す図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係るシリンダの再着火処理によって主室に供給される燃料ガスの流量の時間推移を示す図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る再着火処理によって副室に供給される燃料ガスの流量の時間推移を示す図であり、時間軸は
図5Aに対応する。
【
図6】本発明の一実施形態に係る再着火処理装置の他の機能を概略的に示すブロック図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るガスエンジンの再着火方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るガスエンジン6の構成を概略的に示す模式図である。
図2は、本発明の一実施形態に係るガスエンジン6の制御装置8を概略的に示す図である。
図1~
図2に示すように、ガスエンジン6は、燃料ガスGを燃料とする4サイクルの往復動機関であるエンジン本体7と、複数のシリンダ71の各々における燃焼制御などを実行するための制御装置8と、を備える。
【0015】
上記のエンジン本体7は、その内部に形成された複数のシリンダ71を有している。また、
図2に示すように、エンジン本体7は、各シリンダ71の内部に摺動可能に設置されたピストン72の上面とシリンダヘッド73の下面とによって画定される複数の主室7m(主燃焼室)と、各主室7m(シリンダ71)に対してそれぞれ設けられる着火装置76とを備えている。各主室7mには、エンジン本体7に接続された給気管75iの内部に形成された給気通路を通って、燃料ガスGと給気(空気A)との混合気(希薄混合気)が供給され、着火装置76によって着火燃焼されるように構成される。
【0016】
より詳細には、
図1に示すように、給気管75i(給気通路)は、複数のシリンダ71の各々の主室7mに個別に給気通路が接続されるように、その途中(
図1では空気冷却器79の下流)から、複数のシリンダ71の数と同数の数だけ分岐している。この給気管75iから分岐した複数の分岐管には、それぞれ、燃料ガスGの供給源(不図示)の燃料ガスGを導く燃料供給主管96から分岐された主室ガス供給管96mが主室用ガス供給電磁弁91(調整弁)を介して接続されている。この主室用ガス供給電磁弁91の弁開度が制御装置8により制御されることで、各主室7mへ供給される燃料ガスGの流量が調整される。そして、主室用ガス供給電磁弁91から給気通路に供給された燃料ガスGと、給気通路における主室ガス供給管96mの上流側から主室7mに向けて流れる空気Aとが混合されて、主室7mに供給される。このように主室用ガス供給電磁弁91がシリンダ71毎に設けられることで、ガスエンジン6は、エンジン本体7が備える複数の主室7mにそれぞれ供給される燃料ガスGの流量を独立して個別に調整可能となっている。
【0017】
他方、各着火装置76の内部には副室7sが形成されている。また、各着火装置76は、副室7sの内部と外部(主室7m内)とを連通させる噴口7hが主室7mの中央部に位置するように、シリンダヘッド73に設置されている。そして、制御装置8による制御によって、副室7s内に供給された燃料ガスGが着火されることで、副室7sで生じた燃焼火炎が噴口7hから主室7m内に噴射されて、主室7m内の混合気を燃焼させる。これによって、希薄な混合気(混合ガス)に対しても確実に着火して燃焼させることが可能とされる。
【0018】
図1~
図2に示す実施形態では、着火装置76は火花点火方式であり、副室7s内に供給された燃料ガスGを着火するために、点火コイル76cが装着された点火プラグ76pが取り付けられており(
図2参照)、制御装置8からの点火信号に応じて点火プラグ76pが火花を発するようになっている。また、各着火装置76には、上記の燃料供給主管96から分岐された副室ガス供給管96sが接続されており、各副室ガス供給管96sにそれぞれ設置された副室用ガス供給電磁弁92により個別に調整された流量の燃料ガスGが副室7sに供給されるようになっている。この副室用ガス供給電磁弁92の弁開度は、制御装置8によって制御されるようになっている。
【0019】
なお、
図2に示すように、シリンダヘッド73には、主室7mと給気通路との連通状態を制御するための給気弁74iと、シリンダヘッド73に接続される排気管75eなどにより形成される排気通路と主室7mとの連通状態を制御するための排気弁74eが設けられている。また、燃料供給主管96上には、シリンダ71へ供給される燃料ガスGを所定の圧力に調圧するレギュレータ(図示略)が配設されている。さらに、燃料供給主管96には燃料ガスGのエンジン本体7への供給を停止可能な遮断弁94が設置されている。
【0020】
また、
図1~
図2に示すように、ガスエンジン6は、過給機77(排気ターボ過給機)を備えても良い。
図1~
図2に示す実施形態では、過給機77は、排気通路を通って導入される排ガスEによって駆動されるタービン77t及び該タービン77tと同軸の空気圧縮用のコンプレッサ77cで構成される。このタービン77tの排気出口には排気出口管78が接続されており、排気管75eにおけるタービン77tの排気入口側から分岐したバイパス管77bが、タービン77tを迂回するようにして排気出口管78に接続されている。このバイパス管77bには、タービン77tへ流れる排ガスEの流量を調整する排気バイパス弁77vが設けられている。また、給気管75iにおける過給機77(コンプレッサ77c)の下流側には、コンプレッサ77cから排出された圧縮空気を冷却するための空気冷却器79が設けられている。この空気冷却器79には、空気冷却器79をバイパスして流れる冷却水の流量を調整するための給気温度調整弁79vを有しており、その弁開度によって空気冷却器79の冷却能力を調整可能になっている。
【0021】
ただし、本実施形態に本発明が限定されない。本実施形態では、エンジン本体7は4つのシリンダ71を有しているが、例えば10以上のシリンダ71を備えるなど、シリンダ71の数は複数であれば良い。また、着火装置76は、副室7sに燃料噴射弁を設けて、該燃料噴射弁から副室7sの内部に形成された空気流の中に軽油等の液体燃料を噴射して該液体燃料を着火燃焼させることで、噴口7hから燃焼火炎を噴出するパイロット着火方式としても良い。また、本実施形態では、ガスエンジン6の駆動対象は、複数のピストン72の往復動を回転に変換するクランク軸6sに連動される発電機6tであるが、他の幾つかの実施形態では発電機6t以外であっても良い。
【0022】
一方、制御装置8は、
図2に示すように、各主室7mおよび各副室7sの各々に対する燃料ガスGの供給および遮断、さらには燃料ガスGの供給量を制御するガス供給コントローラ81と、上述した着火装置76を制御することによって副室7s内の着火を制御する着火制御コントローラ82と、ガスエンジン6に設置された各種のセンサの検出値に基づいて、主室7m内における燃焼状態を診断する燃焼診断部83と、この燃焼診断部83による各シリンダ71の燃焼診断結果を参照しつつ、ガス供給コントローラ81および着火制御コントローラ82に対して、各シリンダ71に対する運転指令を出力するエンジンコントローラ84と、を有して構成されている。これらの構成は、全てが同一の装置で実現されても良いし、少なくとも一部が他の装置で実現されても良い。
【0023】
より詳細には、上記の燃焼診断部83は、各シリンダ71における失火の発生の有無や、ノッキング等の異常燃焼の発生の有無を検知することで、上記の燃焼状態を診断する。この診断は、周知な手法により行えば良い。異常燃焼は、筒内圧力Pなどに基づいて検出する手法が知られている。また、例えば各シリンダ71における失火発生の検出は、発電機6tの負荷を検出する負荷検出器95Lで検出した負荷値Lの変動値、ガスエンジン6の回転数を検出可能な回転数検出器95Nで検出した回転数Nの変動値、または、各シリンダ71にそれぞれ設置されて(
図1参照)、設定されたシリンダ71の筒内圧力Pを検出可能な筒内圧力検出器95Pで検出した筒内圧力Pの上昇率や変動値に基づいて行っても良い。あるいは、各シリンダ71における失火発生の検出は、筒内圧力検出器95Pから入力される筒内圧力Pの検出値と、不図示のクランク角検出器から入力されるクランク角の検出値とに基づいて行っても良い。
【0024】
そして、燃焼診断部83によって失火の発生が判定されると、エンジンコントローラ84は、ガス供給コントローラ81に対して、失火が検出されたシリンダ71(以下、失火発生シリンダ71t)の主室7mおよび、その主室7mに対応して設けられた着火装置76の内部の副室7sへの燃料供給の停止(シリンダカット)を指示する。また、エンジンコントローラ84は、着火制御コントローラ82対して、失火発生シリンダ71tの主室7m内の混合気を燃焼させるための着火装置76の着火動作(火花の生成、パイロット燃料の噴射)の停止を指示しても良い。例えば火花点火式の場合には、着火装置76の着火動作を継続させていても良い。
【0025】
なお、失火発生シリンダ71tにおいては、燃料供給の停止によってその主室7mおよび副室7sにおける燃焼は停止されるが、失火が発生していない残りのシリンダ71によるガスエンジン6の運転が継続して行われている限り(減筒運転時)、クランク軸6sは回される。このため、失火発生シリンダ71tのピストン72は、クランク軸6sによって往復運動させられた状態となる。
【0026】
図1~
図2に示す実施形態では、燃焼診断部83は、失火発生の有無の診断結果や、失火以外のノッキング等の異常燃焼の診断結果をエンジンコントローラ84に入力するようになっており、エンジンコントローラ84は燃焼診断結果Mの結果に基づいて燃焼制御を実行するようになっている。また、これらの燃焼診断結果Mおよび燃焼診断結果に基づいて行った制御内容は、時刻情報と共に制御装置8が備える記憶部8mに履歴情報Hとして記憶するようになっている。具体的には、異常燃焼を検出した際に、その異常燃焼が検出されたシリンダ71への燃料供給を停止した場合には、この制御内容が履歴情報Hとして記憶される。
【0027】
また、制御装置8は、自装置で検出可能な、例えば自装置(81~84など)のハードやソフト異常や、筒内圧力検出器95Pなどの各種センサ(95P、95L、95Nなど)の異常などのアラーム情報を、時刻情報と共に履歴情報Hとして記憶部8mに記憶するようになっている。このさらに、制御装置8には、上述した負荷検出器95Lで検出した負荷値L、回転数検出器95Nで検出したガスエンジン6の回転数Nなどのガスエンジン6の運転状態Ddを反映した情報も入力されるようになっており、これらの情報のうちの必要なものが、時刻情報と共に履歴情報Hとして記憶部8mに記憶されるようになっている。そして、この履歴情報Hは、エンジンコントローラ84や後述する再着火処理装置1などから参照可能になっている。
【0028】
上述した構成を備えるガスエンジン6は、失火が発生したシリンダ71(以下、失火発生シリンダ71t)の再着火を実行する再着火処理装置1をさらに備えている。
図1~
図2に示す実施形態では、
図2に示すように、再着火処理装置1は制御装置8の一部を構成しており、燃焼診断部83から入力される失火発生の有無の診断結果に基づいて、複数のシリンダ71のうちの少なくとも1つのシリンダ71で失火が発生したのを検知すると、次に説明するように、失火発生シリンダ71tを再着火するための再着火処理(再着火シーケンス)の実行の可否の判定を経て、その実行を開始する。
【0029】
以下、ガスエンジン6の再着火処理装置1について、
図3~
図6を用いて説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る再着火処理装置1の機能を概略的に示すブロック図である。また、
図4は、本発明の一実施形態に係るシリンダの再着火処理Sの実行シーケンスを示す図である。
【0030】
ガスエンジン6の再着火処理装置1(以下、単に、再着火処理装置1)は、複数のシリンダ71を有するガスエンジン6の運転中に、失火が発生したシリンダ71を再着火させるためのシリンダの再着火処理S(以下、単に再着火処理S)を実行する装置である。
図3(後述する
図6も同様)に示すように、再着火処理装置1は、実行許可部2と、再着火実行部3と、を備える。
再着火処理装置1が備える機能部について、それぞれ説明する。
【0031】
なお、再着火処理装置1は、コンピュータで構成されていても良く、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMなどの記憶部12を備えている。そして、メモリ(主記憶装置)にロードされたプログラム(再着火プログラム)の命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、上記の各機能部を実現する。換言すれば、上記のプログラムは、コンピュータに後述する各機能部を実現させるためのソフトウェアであり、コンピュータによる読み込みが可能な記憶媒体に記憶されても良い。
【0032】
実行許可部2は、複数のシリンダ71のうちの少なくとも1つのシリンダ71で失火が発生すると、失火が発生した失火発生シリンダ71tの筒内圧力Pに基づく損傷診断結果Da、ガスエンジン6の燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置8の異常の有無、失火発生シリンダ71tに関する運転履歴Dc、および、ガスエンジン6の運転状態Ddに基づいて、失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの実行の許可判定を行うよう構成された機能部である。
【0033】
つまり、実行許可部2は、損傷診断結果Daが正常で、制御装置8に異常がなく、かつ、運転履歴Dcおよび運転状態Ddに再着火処理Sを不許可にすべき理由がない場合には、許可条件が満たされたとして再着火処理Sの実行を許可し、そうでない場合には再着火処理Sの実行を許可しない。例えば失火発生シリンダ71tが複数ある場合には、その各々毎に再着火処理Sの実行の許可判定がなされる。シーケンシャルに実行しても良いし、並列に実行しても良い。そして、再着火処理Sの実行が許可された失火発生シリンダ71tに対して再着火処理Sが実行され、再着火処理Sの実行が許可されない失火発生シリンダ71tには再着火処理Sが実行されない。
【0034】
より詳細には、上記の筒内圧力Pに基づく損傷診断は、失火発生シリンダ71tの主室7m、副室7sへの燃料供給を停止させ、かつ、その着火装置76による着火動作(
図1~
図2では火花の発生)を実行させた状態で行っても良い。この状態で筒内圧力Pの変化を監視することで、燃料供給の停止中にもかかわらず生じるような意図しない燃焼(爆発)を検知でき、燃料供給系統での異常など、ガスエンジン6の損傷の有無の診断が可能となる。また、上記の損傷診断は、失火発生シリンダ71tの主室7m、副室7sへの燃料供給、および、その着火装置76による着火動作の両方を停止させた状態で行っても良い。この状態で筒内圧力Pの変化を監視することで、ピストン72の往復運動に伴う圧縮圧力の低下等の異常の検出が可能であり、エンジン本体7や着火装置76の物理的な損傷の有無などの診断が可能となる。これらの手法の両方を損傷診断として順次に実行しても良いし、上記の手法に代えて、あるいは上記の手法に加えて、他の周知な損傷診断の手法を適用しても良い。そして、損傷診断結果Daが正常でない場合には、これを理由に再着火処理Sの実行を不許可にする。
【0035】
また、上記の制御装置8の異常の有無については、上述した履歴情報Hに、予め定めた特定のアラーム情報がないことを許可条件としても良い。そして、履歴情報Hに上記の特定アラーム情報があれば制御装置8に異常が有りと判定し、これを理由に再着火処理Sの実行を不許可にする。
【0036】
上記の失火発生シリンダ71tに関する運転履歴Dcによる許可判定は、例えばその運転履歴Dcに、過去に再着火処理Sが実行されたことを示す履歴の有無に基づいて行っても良い。具体的には、この場合の運転履歴Dcに基づく許可条件は、過去に再着火処理Sが実行されていない、あるいは再着火処理Sの実行回数が所定回数以下であることを許可条件としても良い。この場合には、失火発生シリンダ71tの運転履歴Dcに再着火処理Sの実行の履歴があれば、あるいは所定回数よりも多ければ、これを理由に再着火処理Sの実行を不許可にする。この運転履歴Dcは、再着火処理装置1が、自装置が備える記憶部12に記憶しても良い。
【0037】
上記のガスエンジン6の運転状態Ddに基づく許可判定は、失火時のガスエンジン6の負荷が一定であったこと、あるいは、再着火処理の実行時のガスエンジン6の負荷が一定であることの少なくとも一方を許可条件としても良い。負荷が一定でない場合にシリンダ71の失火が生じた場合には、この失火が負荷変動に起因する問題により生じた可能性がある。また、負荷が一定でない場合に再着火処理Sを実行すると、負荷変動が原因で再着火処理Sが失敗する可能性がある。よって、この許可条件によって、このような負荷変動に起因する問題との干渉の防止が可能となる。この場合には、シリンダ71の失火時に負荷が変化していなかった場合、または再着火処理Sの実行中に負荷変動があると予想される場合に、これを理由に再着火処理Sの実行を不許可にする。なお、失火時の負荷値Lは、上述した履歴情報Hから取得しても良い。また、再着火処理の実行時の負荷値Lについては、運転計画や過去の履歴などに基づく予測などによって取得しても良い。
【0038】
また、上記のガスエンジン6の運転状態Ddに基づく許可判定では、同時に失火している失火発生シリンダ71tの総数が閾値以下(例えば1以下、2以下など)であることを許可条件としても良い。ガスエンジン6は、規定数のシリンダ71で同時に失火が発生すると一旦停止する必要があるが、上記の閾値は、ガスエンジン6の停止(再起動)が必要な上記の規定数よりも小さな数を設定しても良い。これによって、失火発生シリンダ71tの再着火処理Sの実行により他のシリンダ71の失火が生じた場合でも、ガスエンジン6が停止する状況に陥ることのないように図れる。
【0039】
なお、上述した失火発生シリンダ71tに関する運転履歴Dcに基づく許可判定、および、ガスエンジン6の運転状態Ddに基づく許可判定は、それぞれが含む確認すべき許可条件のうちの少なくとも1つの許可条件が満たされない場合には、これを理由に再着火処理Sの実行を不許可にする。
【0040】
図1~
図3に示す実施形態では、制御装置8は、上述した筒内圧力Pに基づく損傷診断を実行する損傷診断部85を備えており、損傷診断部85による損傷診断結果Daが再着火処理装置1に入力されるようになっている。また、制御装置8の異常の有無、運転状態Ddの各々に基づくに基づく許可判定は、制御装置8の記憶部8mに記憶された情報に基づいて判定するようになっている。
【0041】
再着火実行部3は、上述した実行許可部2によって行われた許可判定によって再着火処理Sの実行が許可された失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sを実行するよう構成された機能部である。再着火実行部3は、エンジンコントローラ84の機能を用いて、ガス供給コントローラ81および着火制御コントローラ82に対して、再着火処理Sの実行シーケンスに従って指令を行うことで、再着火処理Sを実行しても良い。あるいは、再着火実行部3は、エンジンコントローラ84を介することなく、ガス供給コントローラ81および着火制御コントローラ82に対して上記の指令を直接行うことで、再着火処理Sを実行しても良い。また、複数の失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの実行が許可されている場合には、シーケンシャルに実行しても良いし、並列に実行しても良い。
【0042】
この再着火処理Sは、例えば
図4に示すフローに従って実行しても良い。なお、本実施形態では、失火の検知により、失火発生シリンダ71tの主室7mおよびその副室7sへの燃料供給の停止(シリンダカット)されている。また、点火プラグ76pによる点火も停止されているものとする。
【0043】
図4のステップS41において、失火発生シリンダ71tの着火装置76を作動させる。
図1~
図2に示す実施形態では、点火プラグ76pによる点火を開始することで、着火装置76による着火動作が開始される。なお、失火中でも、着火装置76による着火動作は継続されていても良い。この場合には、ステップS41を省略しても良い。
【0044】
ステップS42において、再着火実行部3は、失火発生シリンダ71tの主室7mおよび副室7sにそれぞれ供給する燃料ガスGの流量を決定する。具体的には、主室7mに供給する燃料ガスGの流量については例えば後述するように決定しても良い。また、副室7sに供給する燃料ガスの流量については、ガスエンジン6の運転状態に応じて決定しても良いし、例えば後述するように決定しても良い。
【0045】
ステップS43において、失火発生シリンダ71tの主室7mおよび副室7sへの、ステップS42で決定した流量の燃料ガスGの供給を開始する。ステップS44において、失火発生シリンダ71tの筒内圧力Pを監視し、その筒内圧力Pの変化に基づいて再着火の有無を判定する。そして、再着火を確認した場合(ステップS45のYes)には、ステップS46において、対象主室ガスGtの流量を、ガスエンジン6の運転状態に応じた通常制御による量に復帰させると共に、空燃比の設定値および点火時期等も徐々に通常制御に復帰させる(後述する
図5Aの時刻t4以降参照)。逆に、ステップS45において、規定時間内などで再着火を確認できない場合には、再着火処理Sが失敗したとして、ステップS47において失火発生シリンダ71tのシリンダカットを実行するようになっている。
【0046】
なお、ステップS41とステップS42との順番は逆であっても良い。また、失火発生シリンダ71tの主室7mおよび副室7sへの燃料ガスGの供給タイミングは、同時であっても良いし、副室7sへの燃料ガスGの供給開始を、主室7mのものよりも、例えば1~2サイクルなど所定サイクルだけ早く実行しても良い(後述する
図5A~
図5B参照)。主室7mでの着火は、副室7sで生じた燃焼火炎により行われることから、排気通路に流出する未燃ガスの低減化を図ることが可能となる。
【0047】
また、
図1~
図3に示す実施形態では、再着火実行部3は実行許可部2に接続されており、実行許可部2から再着火処理Sの許可通知Inが入力されると、エンジンコントローラ84に上記の指令を行うことで、再着火処理Sを実行するようになっている。
【0048】
上記の構成によれば、失火が発生したシリンダ71(失火発生シリンダ71t)を再着火させるための再着火処理Sを、失火の発生後に無条件に行うではなく、再着火処理Sの実行の許可判定により失火の原因が一過性のものであるか否かの判定などを通して、一過性と判定された場合に実行する。具体的は、許可判定を実行することで、失火発生シリンダ71tの主室7mやその副室7sなどのハード的な問題の有無、ガスエンジン6の燃焼制御および失火の判定や異常燃焼などの燃焼診断を行う機能(ソフト/ロジック)のソフト的な問題の有無、失火発生シリンダ71tに関する過去の再着火処理Sの実行の有無などの運転履歴による上記以外の問題の失火発生シリンダ71tに固有の問題の有無、および、失火時あるいは再着火処理Sの実行時のガスエンジン6の負荷条件や、同時失火のシリンダ71数などの運転状態から、負荷変動に起因する問題の有無をそれぞれ判定する。
【0049】
これによって、失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sを繰り返すことなく、より確実に、失火発生シリンダ71tを再着火させることができる。よって、ガスエンジン6に生じた一過性ではない定常的な問題(故障)により失火が発生している場合に、失火発生シリンダ71tに対して再着火処理Sが繰返し行われることによる機関損傷や、他のシリンダ71の失火や異常燃焼を誘発するなどに伴うエンジン出力低下や危急停止などの稼働状態の悪化の防止を図ることができる。
【0050】
また、幾つかの実施形態では、
図3(後述する
図6も同様)に示すように、再着火処理装置1は、失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの実行指示Ceを外部から受信するよう構成された受信部4を、さらに備えても良い。この場合、上述した実行許可部2は、上記の実行指示Ceの受信の有無に基づいて、上述した許可判定を行う。つまり、オペレータからの実行指示Ceが受信されなければ、上述したような他の許可条件が満たされる場合であっても再着火処理Sの実行が許可されない。これによって、ガスエンジン6に不測の事態が生じないように図ることができる。
【0051】
図3に示す実施形態では、受信部4は、オペレータが操作する端末14に通信可能に接続されると共に、実行許可部2に接続されている。そして、受信部4は、端末14から実行指示Ceが入力されると、その旨を実行許可部2に通知するようになっている。
【0052】
次に、上述した再着火処理Sに関する幾つかの実施形態について、
図5A~
図5Bを用いて説明する。
図5Aは、本発明の一実施形態に係る再着火処理Sによって主室7mに供給される燃料ガスGの流量の時間推移を示す図である。
図5Bは、本発明の一実施形態に係る再着火処理Sによって副室7sに供給される燃料ガスGの流量の時間推移を示す図であり、時間軸は
図5Aに対応する。
【0053】
幾つかの実施形態では、
図3に示すように、上述した再着火実行部3は、再着火処理Sの開始時に失火発生シリンダ71tの主室7mに供給される燃料ガスG(以下、対象主室ガスGt)の流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の主室7mにそれぞれ供給される燃料ガスG(以下、参照主室ガス)の流量に基づいて決定しても良い。
図3に示す実施形態では、再着火実行部3は、対象主室ガスGtの流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の参照主室ガスの流量に基づいて決定するよう構成された燃料量決定部31を有している。
【0054】
例えば、幾つかの実施形態では、再着火実行部3(燃料量決定部31)は、対象主室ガスGtの流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の主室7mにそれぞれ供給される参照主室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定しても良い。具体的には、例えば、対象主室ガスGtの流量を、上記の参照主室ガスの流量の平均値に所定の割合(例えば90%)などを乗算した値に決定しても良い。これによって、上記の再着火処理Sの許可判定によっても検知できない問題をガスエンジン6が有している場合において、再着火処理Sの実行による異常燃焼が発生した場合であっても、機関への影響(ダメージ)を低減することができる。
【0055】
上記の構成によれば、再着火処理Sの開始時に再開する、失火発生シリンダ71tの主室に供給する燃料ガスG(対象主室ガスGt)の流量(単位時間当たりの燃料ガスGの量)を、失火が発生していない減筒運転中の残りのシリンダ71にそれぞれ供給されている燃料ガスG(参照主室ガス)の流量に基づいて決定する。これによって、対象主室ガスGtの流量を、ガスエンジン6の運転条件(ガス性状変動も含む)に応じて最適値に設定することができる。
【0056】
また、幾つかの実施形態では、
図3に示すように、上述した再着火実行部3は、上記の燃料量決定部31によって決定された対象主室ガスGtの流量に対応する弁開度を調整弁(
図1~
図2の主室用ガス供給電磁弁91)に送信するよう構成された弁開度指令部32を、さらに有しても良い。
図3に示す実施形態では、弁開度指令部32は、燃料量決定部31に接続されている。そして、燃料量決定部31から入力された対象主室ガスGtの流量となるのに必要な弁開度(設定弁開度Vt)を算出し、算出した設定弁開度Vtを、失火発生シリンダ71tの主室用ガス供給電磁弁91に送信するように構成されている。
【0057】
より詳細には、弁開度指令部32は、設定弁開度Vt、およびこの設定弁開度Vtの設定先となる主室用ガス供給電磁弁91を指定した弁開度設定指令Ivをガス供給コントローラ81に送信する。ガス供給コントローラ81は、弁開度設定指令Ivを受信すると、弁開度設定指令Ivで指定されている主室用ガス供給電磁弁91に信号を送り、その弁開度を設定弁開度Vtに最短時間で設定する。これによって、
図5Aに示すように、主室用ガス供給電磁弁91の弁開度が設定弁開度Vtに設定されることで、設定された設定弁開度Vtに応じた流量が、失火発生シリンダ71tの主室7mに即座に供給される。
【0058】
図5Aのグラフの横軸は時間であり、縦軸は燃料ガスGの流量である(
図5Bも同様)。弁開度を設定弁開度Vtに段状に一気に設定することで、対象主室ガスGtも決定した流量に一気に変化している。これと同様に、副室用ガス供給電磁弁92についても決定された流量に対応する弁開度に最短時間で設定されることで、
図5Bに示すように、副室7sへ供給される燃料ガスGの流量も決定した流量に一気に変化する。これによって、副室7s内の空燃比が着火に適した値に短時間に到達し、時刻t3において着火も迅速に行われている。なお、失火発生シリンダ71tの主室7mに燃料ガスGの供給が開始された時刻である時刻t2は、その副室7sに燃料ガスGの供給が開始された時刻である時刻t1よりも、1~2サイクルだけ遅くなっている(t1<t2<t3<t4)。
【0059】
上記の構成によれば、再着火処理Sの開始時において、失火発生シリンダ71tの主室への対象主室ガスGtの流量を調整するための調整弁の弁開度を、閉弁状態から、決定された対象主室ガスGtの流量を主室に供給可能な弁開度(設定弁開度Vt)に設定する。つまり、上記の調整弁の弁開度を、制御により段階的に設定弁開度Vtまで開弁してくのではなく、設定弁開度Vtを即座に設定する。本発明者らは、決定された対象主室ガスGtの流量を即座に調整弁に反映させることによって一定量の燃料ガスGを主室7mに投入すれば、より時間をかけて段階的に流量を増やしていくよりも、対象主室ガスGtの投入後に速やかに再着火できることを見出している。このように速やかに再着火を行うことで、対象主室ガスGtが着火せずに未燃ガスとして排気通路に流出するのを抑制することができ、煙道爆発などの未燃ガスの流出による問題の防止を図ることができる。
【0060】
また、幾つかの実施形態では、
図3に示すように、上述した再着火実行部3は、再着火処理Sの開始時に失火発生シリンダ71tの副室7sに供給される燃料ガスG(以下、対象副室ガスGs)の流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の副室7sにそれぞれ供給される燃料ガスG(以下、参照副室ガス)の流量に基づいて決定しても良い。具体的には、再着火実行部3は、対象副室ガスGsの流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の参照副室ガスの流量に基づいて決定するよう構成された燃料量決定部31を有している。
図3に示す実施形態では、燃料量決定部31は、対象主室ガスGtの流量および対象副室ガスGsの流量をそれぞれ決定するようになっている。
【0061】
例えば、幾つかの実施形態では、再着火実行部3(燃料量決定部31)は、対象副室ガスGsの流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の副室7sにそれぞれ供給される参照副室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定しても良い。具体的には、例えば、対象副室ガスGsの流量を、上記の参照副室ガスの流量の平均値に所定の割合(例えば90%)などを乗算した値に決定しても良い。これによって、上記の再着火処理Sの許可判定によっても検知できない問題をガスエンジン6が有している場合において、再着火処理Sの実行による異常燃焼が発生した場合であっても、機関への影響(ダメージ)を低減することができる。
【0062】
上記の構成によれば、再着火処理Sの開始時に再開する、失火発生シリンダ71tの副室7sに供給する燃料ガスG(対象副室ガスGs)の流量(単位時間当たりの燃料ガスGの量)を、失火が発生していない減筒運転中の残りのシリンダ71の副室7sにそれぞれ供給されている燃料ガスG(参照副室ガス)の流量に基づいて決定する。これによって、対象副室ガスGsの流量を、ガスエンジン6の運転条件(ガス性状変動も含む)に応じて最適値に設定することができる。
【0063】
また、幾つかの実施形態では、
図3に示すように、上述した再着火実行部3は、上記の燃料量決定部31によって決定された対象副室ガスGsの流量に対応する弁開度を調整弁(
図1~
図2の副室用ガス供給電磁弁92)に送信するよう構成された弁開度指令部32を、さらに有しても良い。具体的には、弁開度指令部32は、燃料量決定部31に接続されている。そして、燃料量決定部31から入力された対象副室ガスGsの流量となるのに必要な弁開度(設定弁開度Vs)を算出し、算出した設定弁開度Vsを、失火発生シリンダ71tの副室用ガス供給電磁弁92に送信するように構成されている。
図3に示す実施形態では、弁開度指令部32は、主室用ガス供給電磁弁91および副室用ガス供給電磁弁92に対して、設定弁開度(Vt、Vs)をそれぞれ送信するようになっている。
【0064】
より詳細には、弁開度指令部32は、設定弁開度Vs、およびこの設定弁開度Vsの設定先となる副室用ガス供給電磁弁92を指定した弁開度設定指令Iv(Vs)をガス供給コントローラ81に送信する。ガス供給コントローラ81は、弁開度設定指令Ivを受信すると、弁開度設定指令Ivで指定されている副室用ガス供給電磁弁92に信号を送り、その弁開度を設定弁開度Vsに最短時間で設定する。これによって、
図5Bに示すように、副室用ガス供給電磁弁92の弁開度が設定弁開度Vsに設定されることで、設定された設定弁開度Vsに応じた流量が、失火発生シリンダ71tの副室7sに即座に供給される(
図5B参照)。
【0065】
図5Bのグラフの横軸は時間であり、縦軸は燃料ガスGの流量である。弁開度を設定弁開度Vsに段状に一気に設定することで、
図5Bに示すように、副室7sへ供給される燃料ガスGの流量も決定した流量に一気に変化する。これによって、副室7s内の空燃比が着火に適した値に短時間に到達し、時刻t3において着火も迅速に行われている。
【0066】
上記の構成によれば、再着火処理Sの開始時において、失火発生シリンダ71tの副室7sへの対象副室ガスGsの流量を調整するための調整弁の弁開度を、閉弁状態から、決定された対象副室ガスGsの流量を副室7sに供給可能な弁開度(設定弁開度Vs)に設定する。つまり、上記の調整弁の弁開度を、制御により段階的に設定弁開度Vsまで開弁してくのではなく、設定弁開度Vsを即座に設定する。本発明者らは、決定された対象副室ガスGsの流量を即座に調整弁に反映させることによって一定量の燃料ガスGを副室7sに投入すれば、より時間をかけて段階的に流量を増やしていくよりも、対象副室ガスGsの投入後に速やかに再着火できることを見出している。このように速やかに再着火を行うことで、対象副室ガスGsが着火せずに未燃ガスとして排気通路に流出するのを抑制することができ、煙道爆発などの未燃ガスの流出による問題の防止を図ることができる。
【0067】
次に、再着火処理装置1に関するその他の実施形態について、
図6を用いて説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る再着火処理装置1の他の機能を概略的に示すブロック図である。なお、
図6には、説明に関連する再着火処理装置1の機能部のみ記載し、それ以外の記載は省略している。
【0068】
幾つかの実施形態では、再着火処理装置1は、上述し再着火実行部3による再着火処理Sの実行中に所定の中止条件が満たされた場合に、実行中の再着火処理Sを中止させるよう構成された実行中止部51をさらに備えても良い。この実行中止部51によって再着火処理Sが途中で停止された場合には、その実行履歴が、その途中停止の再着火処理Sの対象であったシリンダ71の運転履歴Dcに記録されるようになっている。そして、上述した実行許可部2は、運転履歴Dcに再着火処理Sが中止されたことを示す実行履歴が含まれていない場合に、再着火処理Sを許可するように構成されても良い。
【0069】
上記の中止条件は、再着火処理Sが実行されている失火発生シリンダ71tに異常燃焼が生じた場合、あるいは、制御装置8の異常が検出された場合の少なくとも一方の条件を含んでも良い。上記の異常燃焼の発生の有無、制御装置8に異常の有無の検出手法は既に述べたのと同様であり、省略する。
【0070】
より詳細には、上記の実行中止部51は、中止条件に応じて定まる実行中の再着火処理Sを中止させるよう構成されても良い。複数のシリンダ71で同時に失火が生じた場合には、その各々の失火発生シリンダ71t毎に上述した再着火処理Sの実行の許可判定がなされる。この際、上記の異常燃焼は、シリンダ71の個別の原因によって生じ得るので、シリンダ71の個別の原因による場合には、異常燃焼が生じた失火発生シリンダ71tの再着火処理Sのみを中止しても良い。また、制御装置8の異常が、個別の再着火処理Sに影響する場合には影響する再着火処理Sのみ中止し、全ての再着火処理Sに影響する場合には、全ての再着火処理Sを中止しても良い。後者の場合において、複数の再着火処理Sを順次に実行する場合には、中止された再着火処理Sの後に実行が予定されている再着火処理Sの実行を行わないようにしても良い。複数の再着火処理Sを並行に実行する場合には、1つの再着火処理Sで中止が決定されたことを契機に、他の再着火処理Sを、中止条件の確認をすることなしに中止させても良い。
【0071】
図6に示す実施形態では、実行中止部51には、燃焼診断部83による燃焼診断結果Mの結果や、再着火処理Sの実行中に生じたアラーム情報が入力されるようになっている。そして、実行中止部51は、中止条件として上記の2つの条件を監視するように構成されている。また、実行中止部51は、再着火実行部3に接続されている。そして、中止条件が満たされると、再着火実行部3に中止指令Isを送信すると共に、中止された再着火処理Sの実行対象となっていたシリンダ71に関する運転履歴Dcにその旨を記録する。これによって、その後に生じた失火発生シリンダ71tについて実行許可部2が許可判定をする際には、運転履歴Dcを確認することで、再着火処理Sが過去にトライされたか否かを判別できるようになる。
【0072】
他方、再着火実行部3は、実行中止部51から中止指令Isを受信すると、再着火処理Sを中止する。例えば、再着火実行部3は、再着火処理Sの中止と共に、その失火発生シリンダ71tに対するシリンダカットを実行しても良く、これを、中止された再着火処理Sの対象であった失火発生シリンダ71tが再着火されていない場合にのみ実行しても良い。
【0073】
上記の構成によれば、上述した実行許可部2は、過去に失火が生じたことがあり、かつ、再着火処理Sの実行中に再着火処理Sが中止されたことのあるシリンダについては、失火が検知されても再着火処理Sの実行を許可しない。これによって、上記の再着火処理Sの許可判定によっても検知できない問題をガスエンジンが有している場合において、再着火処理Sの実行が繰り返し実行(リトライ)されることによる損傷の拡大を抑制できる。
【0074】
また、幾つかの実施形態では、
図6に示すように、再着火処理装置1は、再着火実行部3により再着火処理Sが実行されている失火発生シリンダ71tの再着火を検出するよう構成された再着火検出部52と、失火発生シリンダ71tが再着火した後に再着火処理Sが中止された場合には、制御装置8に対して、再着火処理Sが中止された失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの中止時の燃焼制御の条件の維持を指示するよう構成される指示部53と、をさらに備えても良い。
【0075】
例えば、
図4のステップS45のYes以降であって、ステップS46が完了する前に中止条件が満たされるのを検出すると、指示部53による上記の指示(維持指令Ic)が実行される。制御装置8は、指示部53からの指示を受信すると、その際に再着火処理Sを実行している失火発生シリンダ71tへ供給している燃料ガスGの流量や、点火時期、空燃比、負荷上限で運転を継続する。また、再着火の有無は、失火発生シリンダ71tの筒内圧力Pの変化に基づいて判定しても良い。
【0076】
図6に示す実施形態では、指示部53は、上述した実行中止部51および再着火検出部52にそれぞれ接続されている。そして、指示部53には、実行中止部51から再着火処理Sの中止指令Isが入力され、再着火検出部52からは再着火の有無の検出結果(再着火検出結果R)が入力されるようになっている。そして、指示部53は、再着火処理Sの中止指令Isの入力の有無および再着火検出結果Rに基づいて、中止指令Isが受信された際に再着火済みである場合に、エンジンコントローラ84へ維持指令Icを送信するようになっている。
【0077】
なお、再着火検出部52は、筒内圧力Pが入力されることで、再着火の有無を検出しても良いし、燃焼診断部83の失火の有無の診断結果が入力されることで、再着火の有無を検出しても良い。
【0078】
上記の構成によれば、失火発生シリンダ71tの再着火できた後に中止条件が満たされた場合には、中止条件が満たされた際の運転状態を維持する。具体的には、積極的には対象主室ガスの供給停止(シリンダカット)を行わず、空燃比等を完全には復帰させない状態をキープする。これによって、再着火された状態の失火発生シリンダ71tを含めたガスエンジン6の運転を継続できるので、発電用途時のデマンドオーバーといった出力低下によるリスクを低減できる。
【0079】
以下、上述した再着火処理装置1による処理に対応する再着火方法を、
図7を用いて説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係るガスエンジンの再着火方法を示す図である。
ガスエンジン6の再着火方法は、複数のシリンダ71を有するガスエンジン6の運転中に、失火が発生したシリンダ71を再着火させるための再着火処理Sを実行する方法である。
図7に示すように、ガスエンジン6の再着火方法(以下、単に、再着火処理装置1)は、実行許可ステップ(S1)と、再着火実行ステップ(S2)と、を備える。これらのステップについて説明する。
【0080】
実行許可ステップ(S1)は、複数のシリンダ71のうちの少なくとも1つのシリンダ71で失火が発生すると、失火が発生した失火発生シリンダ71tの上述した損傷診断結果Da、上述した制御装置8の異常の有無、失火発生シリンダ71tに関する運転履歴Dc、および、ガスエンジン6の運転状態Ddに基づいて、失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの実行の許可判定を行うステップである。実行許可ステップは、既に説明した実行許可部2が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0081】
再着火実行ステップ(S2)は、上述した実行許可ステップによって行われた許可判定によって再着火処理Sの実行が許可された失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sを実行するステップである。再着火実行ステップは、既に説明した再着火実行部3が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0082】
つまり、ステップS1において実行許可ステップを実行し、実行許可がなされた場合(ステップS2でYes)に、再着火実行ステップを実行するようになっている。
図7に示す実施形態では、実行許可ステップは、オペレータから実行指示Ceが受信の有無に基づいても、上述した許可判定を行うようになっているが、他の許可条件を全て満たす場合に、オペレータに実行指示Ceの実行の可否を確認し、実行指示Ceが受信された場合に、ステップS2を実行しても良い。また、再着火実行ステップは、既に説明した
図4に従って行うようになっている。
【0083】
この際、幾つかの実施形態では、上述した再着火実行ステップは、再着火処理Sの開始時に失火発生シリンダ71tの対象主室ガスGtおよび対象副室ガスGsの少なくとも一方の流量を、失火が発生していない残りのシリンダ71の主室7mにそれぞれ供給される参照主室ガスの流量に基づいて決定する燃料量決定ステップ(不図示)を有しても良い。また、幾つかの実施形態では、再着火実行ステップは、決定された対象主室ガスGtおよび対象副室ガスGsの流量に対応する弁開度を調整弁(
図1~
図2の主室用ガス供給電磁弁91および副室用ガス供給電磁弁92)に送信する弁開度指令ステップ(不図示)を有しても良く、これによって、この弁開度がそのまま調整弁に設定される。幾つかの実施形態では、これらの実施形態を組み合わせても良い。これらの燃料量決定ステップ、弁開度指令ステップは、それぞれ、既に説明した燃料量決定部31、弁開度指令部32が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0084】
また、幾つかの実施形態では、再着火方法は、上述した再着火実行ステップによる再着火処理Sの実行中に所定の中止条件が満たされた場合に、実行中の再着火処理Sを中止させる実行中止ステップ(不図示)をさらに備えても良い。また、幾つかの実施形態では、再着火方法は、再着火実行ステップ(S2)により再着火処理Sが実行されている失火発生シリンダ71tの再着火を検出する再着火検出ステップ(不図示)と、失火発生シリンダ71tが再着火した後に再着火処理Sが中止された場合には、制御装置8に対して、再着火処理Sが中止された失火発生シリンダ71tに対する再着火処理Sの中止時の燃焼制御の条件の維持を指示する指示ステップ(不図示)と、をさらに備えても良い。これらの実行中止ステップ、再着火検出ステップ、指示ステップは、それぞれ、既に説明した実行中止部51、再着火検出部52、指示部53が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0085】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
(付記)
【0086】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジン(6)の再着火処理装置(1)は、
複数のシリンダ(71)を有するガスエンジン(6)の運転中にシリンダ(71t)の再着火処理(S)を実行するガスエンジン(6)の再着火処理装置(1)であって、
前記複数のシリンダ(71)のうちの少なくとも1つの前記シリンダ(71)で失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダ(71t)の筒内圧力(P)に基づく損傷診断結果(Da)、前記ガスエンジン(6)の燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置(8)の異常の有無、前記失火発生シリンダ(71t)に関する運転履歴、および、前記ガスエンジン(6)の運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)の実行の許可判定を行うよう構成された実行許可部(2)と、
前記許可判定によって前記再着火処理(S)の実行が許可された前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)を実行するよう構成された再着火実行部(3)と、を備える。
【0087】
上記(1)の構成によれば、失火が発生したシリンダ(71t)を再着火させるための再着火処理(S)を、失火の発生後に無条件に行うではなく、再着火処理(S)の実行の許可判定により失火の原因が一過性のものであるか否かの判定などを通して、一過性と判定された場合に実行する。具体的は、許可判定を実行することで、失火発生シリンダ(71t)の主室(7m)やその副室(7s)などのハード的な問題の有無、ガスエンジン(6)の燃焼制御および失火の判定や異常燃焼などの燃焼診断を行う機能(ソフト/ロジック)のソフト的な問題の有無、失火発生シリンダ(71t)に関する過去の再着火処理(S)の実行の有無などの運転履歴による上記以外の問題の失火発生シリンダ(71t)に固有の問題の有無、および、失火時あるいは再着火処理(S)の実行時のガスエンジン(6)の負荷条件や、同時失火のシリンダ(71)数などの運転状態から、負荷変動に起因する問題の有無をそれぞれ判定する。
【0088】
これによって、失火発生シリンダ(71t)に対する再着火処理(S)を繰り返すことなく、より確実に、失火発生シリンダ(71t)を再着火させることができる。よって、ガスエンジン(6)に生じた一過性ではない定常的な問題(故障)により失火が発生している場合に、失火発生シリンダ(71t)に対して再着火処理(S)が繰返し行われることによる機関損傷や、他のシリンダ(71)の失火や異常燃焼を誘発するなどに伴うエンジン出力低下や危急停止などの稼働状態の悪化の防止を図ることができる。
【0089】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)の実行指示(Ce)を外部から受信するよう構成された受信部(4)を、さらに備え、
前記実行許可部(2)は、前記実行指示(Ce)の受信の有無に基づいて、前記許可判定を行う。
【0090】
上記(2)の構成によれば、オペレータからの実行指示(Ce)の有無に基づいて、許可判定が実行される。つまり、オペレータからの実行指示(Ce)が受信されなければ、他の許可条件が満たされる場合であっても再着火処理(S)の実行が許可されない。これによって、ガスエンジン(6)に不測の事態が生じないように図ることができる。
【0091】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記ガスエンジン(6)は、シリンダヘッド(73)と前記複数のシリンダ(71)の各々の内部に摺動自在に設置されるピストン(72)とで画定される複数の主室(7m)と、前記複数の主室(7m)の各々毎に噴孔を介して連通する副室(7s)とを有しており、
前記失火発生シリンダ(71t)の前記主室(7m)、および該主室(7m)に連通される前記副室(7s)への燃料ガス(G)の供給は停止されるように構成されており、
前記再着火実行部(3)は、前記再着火処理(S)の開始時に前記失火発生シリンダ(71t)の前記主室(7m)に供給される前記燃料ガス(G)である対象主室ガス(Gt)の流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダ(71)の前記主室(7m)にそれぞれ供給される前記燃料ガス(G)である参照主室(7m)ガスの流量に基づいて決定するよう構成された燃料量決定部(31)を有する。
【0092】
上記(3)の構成によれば、再着火処理(S)の開始時に再開する、失火発生シリンダ(71t)の主室(7m)に供給する燃料ガス(Gt)の流量(単位時間当たりの燃料ガス(G)の量)を、失火が発生していない減筒運転中の残りのシリンダ(71)にそれぞれ供給されている燃料ガス(G)(参照主室ガス)の流量に基づいて決定する。これによって、対象主室ガス(Gt)の流量を、ガスエンジン(6)の運転条件(ガス性状変動も含む)に応じて最適値に設定することができる。
【0093】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記燃料量決定部(31)は、前記対象主室ガス(Gt)の流量を、前記参照主室(7m)ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定する。
【0094】
上記(4)の構成によれば、再着火処理(S)の開始時の対象主室ガス(Gt)の流量を、通常時よりも少なくする。これによって、上記の再着火処理(S)の許可判定によっても検知できない問題をガスエンジン(6)が有している場合において、再着火処理(S)の実行による異常燃焼が発生した場合であっても、機関への影響(ダメージ)を低減することができる。
【0095】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)~(4)の構成において、
前記ガスエンジン(6)は、前記複数の主室(7m)にそれぞれ供給される前記燃料ガス(G)の流量を調整弁(91、92)によって調整可能に構成されており、
前記再着火実行部(3)は、決定された前記対象主室ガス(Gt)の流量に対応する弁開度を前記調整弁(91)に送信するよう構成された弁開度指令部(32)を、さらに有する。
【0096】
上記(5)の構成によれば、再着火処理(S)の開始時において、失火発生シリンダ(71t)の主室(7m)への対象主室ガス(Gt)の流量を調整するための調整弁の弁開度を、閉弁状態から、決定された対象主室ガス(Gt)の流量を主室(7m)に供給可能な弁開度(Vt)に設定する。つまり、上記の調整弁の弁開度を、制御により段階的に設定弁開度(Vt)まで開弁してくのではなく、設定弁開度(Vt)を即座に設定する。本発明者らは、決定された対象主室ガス(Gt)の流量を即座に調整弁に反映させることによって一定量の燃料ガス(G)を主室(7m)に投入すれば、より時間をかけて段階的に流量を増やしていくよりも、対象主室ガス(Gt)の投入後に速やかに再着火できることを見出している。このように速やかに再着火を行うことで、対象主室ガス(Gt)が着火せずに未燃ガスとして排気通路に流出するのを抑制することができ、煙道爆発などの未燃ガスの流出による問題の防止を図ることができる。
【0097】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)~(5)の構成において、
前記ガスエンジン(6)は、シリンダヘッド(73)と前記複数のシリンダ(71)の各々の内部に摺動自在に設置されるピストン(72)とで画定される複数の主室(7m)と、前記複数の主室(7m)の各々毎に噴孔を介して連通する副室(7s)とを有しており、
前記失火発生シリンダ(71t)の前記主室(7m)、および該主室(7m)に連通される前記副室(7s)への燃料ガス(G)の供給は停止されるように構成されており、
前記再着火実行部(3)は、前記再着火処理(S)の開始時に前記失火発生シリンダ(71t)の前記副室(7s)に供給される前記燃料ガス(G)である対象副室ガス(Gs)の流量を、前記失火が発生していない残りのシリンダ(71)の前記副室(7s)にそれぞれ供給される前記燃料ガス(G)である参照副室ガスの流量に基づいて決定するよう構成された燃料量決定部(31)を有する。
【0098】
上記(6)の構成によれば、再着火処理(S)の開始時に再開する、失火発生シリンダ(71t)の副室(7s)に供給する燃料ガス(Gs)の流量(単位時間当たりの燃料ガス(G)の量)を、失火が発生していない減筒運転中の残りのシリンダ(71)にそれぞれ供給されている燃料ガス(G)(参照副室ガス)の流量に基づいて決定する。これによって、対象副室ガス(Gs)の流量を、ガスエンジン(6)の運転条件(ガス性状変動も含む)に応じて最適値に設定することができる。
【0099】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記燃料量決定部(31)は、前記対象副室ガス(Gs)の流量を、前記参照副室ガスの流量の平均値よりも少ない量に決定する。
【0100】
上記の構成によれば、再着火処理(S)の開始時に再開する、失火発生シリンダ(71t)の副室(7s)に供給する燃料ガス(対象副室ガスGs)の流量(単位時間当たりの燃料ガスGの量)を、失火が発生していない減筒運転中の残りのシリンダ(71)の副室(7s)にそれぞれ供給されている燃料ガス(参照副室ガス)の流量に基づいて決定する。これによって、対象副室ガス(Gs)の流量を、ガスエンジン6の運転条件(ガス性状変動も含む)に応じて最適値に設定することができる。
【0101】
(8)幾つかの実施形態では、上記(6)~(7)の構成において、
前記ガスエンジン(6)は、前記複数の副室(7s)にそれぞれ供給される前記燃料ガス(G)の流量を調整弁(91、92)によって調整可能に構成されており、
前記再着火実行部(3)は、決定された前記対象副室ガス(Gs)の流量に対応する弁開度を前記調整弁(92)に送信するよう構成された弁開度指令部(32)を、さらに有する。
【0102】
上記の構成によれば、再着火処理(S)の開始時において、失火発生シリンダ(71t)の副室7sへの対象副室ガス(Gs)の流量を調整するための調整弁(92)の弁開度を、閉弁状態から、決定された対象副室ガス(Gs)の流量を副室(7s)に供給可能な弁開度(設定弁開度Vs)に設定する。つまり、上記の調整弁(92)の弁開度を、制御により段階的に設定弁開度(Vs)まで開弁してくのではなく、設定弁開度(Vs)を即座に設定する。本発明者らは、決定された対象副室ガス(Gs)の流量を即座に調整弁に反映させることによって一定量の燃料ガス(G)を副室(7s)に投入すれば、より時間をかけて段階的に流量を増やしていくよりも、対象副室ガス(Gs)の投入後に速やかに再着火できることを見出している。このように速やかに再着火を行うことで、対象副室ガス(Gs)が着火せずに未燃ガスとして排気通路に流出するのを抑制することができ、煙道爆発などの未燃ガスの流出による問題の防止を図ることができる。
【0103】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)~(8)の構成において、
前記再着火処理(S)の実行中に所定の中止条件が満たされた場合に、前記中止条件に応じて定まる実行中の前記再着火処理(S)を中止させるよう構成された実行中止部(51)をさらに備え、
前記実行許可部(2)は、前記運転履歴に前記再着火処理(S)が中止されたことを示す実行履歴が含まれていない場合に、前記再着火処理(S)を許可するように構成されている。
【0104】
上記(9)の構成によれば、上述した実行許可部(2)は、過去に失火が生じたことがあり、かつ、再着火処理(S)の実行中に再着火処理(S)が中止されたことのあるシリンダ(71)については、失火が検知されても再着火処理(S)の実行を許可しない。これによって、上記の再着火処理(S)の許可判定によっても検知できない問題をガスエンジン(6)が有している場合において、再着火処理(S)の実行が繰り返し実行(リトライ)されることによる損傷の拡大を抑制できる。
【0105】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、
前記再着火処理(S)が実行されている前記失火発生シリンダ(71t)の再着火を検出するよう構成された再着火検出部(52)と、
前記失火発生シリンダ(71t)が前記再着火した後に前記再着火処理(S)が中止された場合には、前記制御装置(8)に対して、該失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)の中止時の前記燃焼制御の条件の維持を指示するよう構成される指示部(53)と、をさらに備える。
【0106】
上記(10)の構成によれば、失火発生シリンダ(71t)の再着火できた後に再着火処理(S)が中止された場合には、中止条件が満たされた際の燃焼制御状態を維持する。具体的には、積極的には対象主室ガス(Gt)の供給停止(シリンダカット)を行わず、空燃比等を完全には復帰させない状態をキープする。これによって、再着火された状態のシリンダ(71)を含めたガスエンジン(6)の運転を継続できるので、発電用途時のデマンドオーバーといった出力低下によるリスクを低減できる。
【0107】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジン(6)の再着火方法は、
複数のシリンダ(71)を有するガスエンジン(6)の運転中にシリンダの再着火処理(S)を実行するガスエンジン(6)の再着火方法であって、
前記複数のシリンダ(71)のうちの少なくとも1つの前記シリンダ(71)で失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダ(71t)の筒内圧力(P)に基づく損傷診断結果(Da)、前記ガスエンジン(6)の燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置(8)の異常の有無、前記失火発生シリンダ(71t)に関する運転履歴、および、前記ガスエンジン(6)の運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)の実行の許可判定を行うステップと、
前記許可判定によって前記再着火処理(S)の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)を実行するステップと、を備える。
【0108】
上記(11)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0109】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジン(6)の再着火プログラムは、
複数のシリンダ(71)を有するガスエンジン(6)の運転中にシリンダの再着火処理(S)を実行するガスエンジン(6)の再着火プログラムであって、
コンピュータに、
前記複数のシリンダ(71)のうちの少なくとも1つの前記シリンダ(71)で失火が発生すると、前記失火が発生した失火発生シリンダ(71t)の筒内圧力(P)に基づく損傷診断結果(Da)、前記ガスエンジン(6)の燃焼制御および燃焼診断を実行する制御装置(8)の異常の有無、前記失火発生シリンダ(71t)に関する運転履歴、および、前記ガスエンジン(6)の運転状態に基づいて、前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)の実行の許可判定を行うよう構成された実行許可部(2)と、
前記許可判定によって前記再着火処理(S)の実行が許可された場合に、前記失火発生シリンダ(71t)に対する前記再着火処理(S)を実行するよう構成された再着火実行部(3)と、を実現させるためのプログラムである。
【0110】
上記(12)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0111】
1 再着火処理装置
12 記憶部
14 端末
2 実行許可部
3 再着火実行部
31 燃料量決定部
32 弁開度指令部
4 受信部
51 実行中止部
52 再着火検出部
53 指示部
6 ガスエンジン
6s クランク軸
6t 発電機
7 エンジン本体
7h 噴口
7m 主室
7s 副室
71 シリンダ
71t 失火発生シリンダ
72 ピストン
73 シリンダヘッド
74e 排気弁
74i 給気弁
75e 排気管
75i 給気管
76 着火装置
76c 点火コイル
76p 点火プラグ
77 過給機
77b バイパス管
77c コンプレッサ
77t タービン
77v 排気バイパス弁
78 排気出口管
79 空気冷却器
79v 給気温度調整弁
8 制御装置
81 ガス供給コントローラ
82 着火制御コントローラ
83 燃焼診断部
84 エンジンコントローラ
85 損傷診断部
91 主室用ガス供給電磁弁
92 副室用ガス供給電磁弁
94 遮断弁
95L 負荷検出器
95N 回転数検出器
95P 筒内圧力検出器
96 燃料供給主管
96m 主室ガス供給管
96s 副室ガス供給管
A 空気
Ce 実行指示
M 燃焼診断結果
E 排ガス
G 燃料ガス
Gt 対象主室ガス
Gs 対象副室ガス
H 履歴情報
Da 損傷診断結果
Dc 失火発生シリンダの運転履歴
Dd ガスエンジンの運転状態
In 許可通知
Is 中止指令
Ic 維持指令
Iv 弁開度設定指令
L 負荷値
M 燃焼診断結果
N 回転数
P 筒内圧力
S 再着火処理
Vt 設定弁開度(主室用ガス供給電磁弁の弁開度)
Vs 設定弁開度(副室用ガス供給電磁弁の弁開度)