(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20241112BHJP
G03B 11/00 20210101ALI20241112BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20241112BHJP
G03B 17/08 20210101ALI20241112BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 A
G03B11/00
G03B17/02
G03B17/08
G03B30/00
(21)【出願番号】P 2019232770
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 章
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156954(WO,A1)
【文献】特開2012-083439(JP,A)
【文献】特開2006-184543(JP,A)
【文献】特開2017-138523(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G03B 11/00
G03B 17/02
G03B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置する第1レンズと、この第1レンズとその像側で隣り合う第2レンズとを有し、
前記鏡筒
の前記内側収容空間に、前記第1レンズと前記第2レンズとの
間隔を規制する中間スペーサが
収納保持され、
前記第2レンズ
の外径は前記第1レンズ
の外径より小径でかつ
前記第2レンズの外周部が前記中間スペーサ
の内周部に保持固定され、
前記第1レンズと前記第2レンズと前記中間スペーサとによって囲まれたレンズ間空間を有し、
前記第1レンズと前記中間スペーサ、および前記中間スペーサと前記第2レンズは、それぞれ前記レンズ間空間内が外部に対して密閉されるように互いに接着されていることによって、前記レンズ間空間内への水蒸気の侵入が抑えられていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記第1レンズと前記中間スペーサとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体によって接着され、
前記中間スペーサと前記第2レンズとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体によって接着されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記対向面に、当該対向面に塗布された接着媒体の前記レンズ間空間内への流れを抑止する抑止部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記中間スペーサはカシメ部を有し、
前記カシメ部は、前記第2レンズの前記対向面を前記中間スペーサの前記対向面に光軸方向において押し付けるようにしてカシメられていることを特徴とする請求項2または3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成し得るレンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車載カメラ用のレンズユニットでは、少なくとも一部が車外に設置される場合、防水および防塵のため、
図13に示すように、鏡筒111の内側収容空間内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、レンズ群Lの最も物体側に位置する第1レンズ112と鏡筒111との間にOリング135が介挿され、鏡筒111の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。
この場合、第1レンズ112の傾斜面112aと、鏡筒111の内周面と、中間スペーサ(中間環)120の上面との間に、断面三角形状の環状の空洞部が設けられており、この空洞部にОリング(シール部材)135が収容されている。Оリング135は、傾斜面112a、鏡筒111の内周面および中間スペーサ120の上面によって、径方向および光軸方向に圧し潰された状態で空洞部に収容されており、この状態において、Оリング135は傾斜面112a、鏡筒111の内周面および中間スペーサ120の上面に密着していることにより、鏡筒111の物体側端部が封止された状態となっている。
【0004】
さらに、第1レンズ112が鏡筒111の物体側の端部に設けられたフランジ部130に当接され、最も像側に位置するレンズ116が光学フィルタ127を介して鏡筒111の像側の開口部に螺合して設けられた押え部材125によって、フランジ部130側に向けて押圧されることにより、鏡筒111の内部に第1レンズ112、第2レンズ113、第3レンズ114、第4レンズ115および第5レンズ116、中間環120~122、絞り部材126,128および光学フィルタ127をそれらの光軸方向の位置決めを行いながら、確実に収納している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようにOリング135によって防水対策を行なっても、湿気(水蒸気)は様々な経路を通じてレンズユニット内に侵入し得る。そのため、外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなると、レンズユニット内の水蒸気が凝縮してレンズ表面に結露が生じる。特に、外部との温度差の影響が最も大きい第1レンズ112とこれに隣り合う第2レンズ113と中間スペーサ120とで囲まれたレンズ間空間S1内で、とりわけ第1レンズ112の裏面112cに結露が生じ易い。
【0007】
外気温とレンズユニット内の温度との間の差が大きくなる要因としては、外気が冷たい冬期にレンズユニット内の温度が上昇すること、例えばレンズユニットを通じて集光される光を受光して電気信号に変換するための常時通電されたイメージセンサ(撮像素子)から伝わる熱によりレンズユニット内の温度が上昇すること、あるいは、前記イメージセンサや周囲環境(例えば車両のエンジン)からの熱によりレンズユニット内の温度が高い状態で第1レンズ112の表面112dが雨に晒されたり路面上の水溜りの水しぶきを受けるなどして第1レンズ112が冷却されることなどが挙げられる。
【0008】
また、レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路としては、例えば、鏡筒111と第1レンズ112との間の隙間からOリング135の周囲の一部並びに第1レンズ112と鏡筒111および/または中間スペーサ120、さらに中間スペーサ120と第2レンズ113との間の隙間を通じてレンズ間空間S1等へと至る経路、あるいは、鏡筒102やレンズを形成する透湿性の樹脂などを挙げることができる。
【0009】
いずれにしても、このような経路を通じて水蒸気がレンズユニット内に侵入し、上述したような要因により外気とレンズユニット内との間で温度差が生じると、レンズ間空間S1内で、とりわけ第1レンズ112の裏面112cに結露が起こり、撮像画像がぼやけて、所望の解像度が得られなくなる(視認性が悪化する)。したがって、レンズユニットの気密性を更に一層確保して、レンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を抑制することが求められる。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、最も物体側に位置するレンズとこれに隣り合う第2レンズと、中間スペーサで囲まれたレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制してレンズ表面結露を防止できるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記レンズ群は、最も物体側に位置する第1レンズと、この第1レンズとその像側で隣り合う第2レンズとを有し、
前記鏡筒に、前記第1レンズと前記第2レンズとの間において中間スペーサが設けられ、
前記第1レンズと前記第2レンズと前記中間スペーサとによって囲まれたレンズ間空間を有し、
前記第1レンズと前記中間スペーサ、および前記中間スペーサと前記第2レンズは、それぞれ前記レンズ間空間内が外部に対して密閉されるように互いに接着されていることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、第1レンズと中間スペーサ、および中間スペーサと第2レンズがそれぞれレンズ間空間内が外部に対して密閉されるように互いに接着されているため、高湿環境下であっても、最も結露が生じ易いレンズ間空間内への水蒸気の侵入を、ひいてはさらに像側へのレンズユニット内への水蒸気の侵入も抑えて(気密性を向上させて)、レンズ間空間内の水蒸気量を低下させ、レンズ表面結露、とりわけ、第1レンズの像側の表面(裏面)に結露が生じることを抑制できる。すなわち、このようなレンズどうしの接着形態によれば、信頼性の高い密閉状態をレンズ間空間で確保できる。
【0013】
また、上記構成において、前記第1レンズと前記中間スペーサとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体によって接着され、
前記中間スペーサと前記第2レンズとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体によって接着されていてもよい。
【0014】
このような構成によれば、第1レンズと中間スペーサとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体(接着剤)によって接着され、中間スペーサと第2レンズとは、光軸方向で互いに対向する対向面どうしが接着媒体によって接着されているので、接着媒体(接着剤)は、第1レンズと中間スペーサの線膨張係数差および中間スペーサと第2レンズの線膨張係数差に伴う温度変化時の第1レンズと中間スペーサの膨張収縮量の違いおよび中間スペーサと第2レンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズの径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」(温度変化に伴うレンズの膨張(収縮)後にレンズ接着界面に加わる径方向の応力に十分に耐え得る柔軟性)、および/または、高温環境下におけるレンズ間空間の内圧上昇に伴う第1レンズと中間スペーサとの光軸方向での離間および中間スペーサと第2レンズとの光軸方向での離間に起因して接着界面が剥離しないようにする良好な「密着性」(第1レンズと中間スペーサの対向面に対する接着媒体の密着性および中間スペーサと第2レンズの対向面に対する接着媒体の密着性)、あるいは、光軸方向での第1レンズと中間スペーサ間の離間変位および中間スペーサと第2レンズ間の離間変位に追従できる「光軸方向追従性」を有することにより、第1レンズおよび第2レンズに「径方向追従性」および「光軸方向追従性」を得ることができる。
【0015】
また、上記構成において、前記対向面に、当該対向面に塗布された接着媒体の前記レンズ間空間内への流れを抑止する抑止部が設けられていてもよい。
ここで、前記抑止部としては、例えば、対向面の少なくとも一方の一部に、接着媒体(接着剤)を充填するために設けられた凹部であってもよいし、接着媒体のレンズ間空間内への流れを抑止する凸部であってもよい。
【0016】
このような構成によれば、対向面に抑止部が設けられているので、対向面に塗布された接着媒体のレンズ間空間内への流れを抑止部によって抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0017】
なお、接着媒体(接着剤)としては、例えば、アクリル系、エポキシ系の接着剤、粘着性を有する(例えばゲル状の)弾性材料などを挙げることができ、また、このような接着媒体は、レンズの有効径の外側(光線が通らない光学面外部位)に設けられる。また、これらの接着媒体は併用や混合などの形態で使用しても良い。
また、上記構成において、第1レンズと鏡筒との間をシールするシール部材が設けられることが好ましい。そのようなシール部材は、レンズユニット内への水蒸気の侵入を許容する経路中でシール性能(防水性能)を確保し、第1および第2レンズどうしの間のレンズ間空間の密閉状態の形成に寄与し得る。
また、接着剤(接着媒体)の吸水率は、5.0wt%(JIS K6911(煮沸1時間))以下であることが好ましい。このように接着媒体の吸水率を低く設定すれば、レンズ間空間内への水蒸気の浸入を効果的に抑えることができる。
【0018】
また、上記構成において、鏡筒は、径方向内側にカシメられることにより内側収容空間内に組み込まれるレンズ群の第1レンズを光軸方向で固定するためのカシメ部を有することが好ましい。
そのようなカシメ部は、第1レンズを中間スペーサに対して押し付ける光軸方向の力を生起するため、第1レンズと中間スペーサとの接着界面の密着性、特に上述した接着媒体に求められる密着性に寄与し得る。
なお、カシメに限らず、別部材である固定キャップを使用し、固定キャップをねじ込むことでレンズを固定する構造としてもよい。キャップを使用する場合には、レンズに光軸方向の圧縮荷重が生じるようにキャップねじ込み荷重を高くすることが望ましく、これにより、前記レンズどうしの接着界面の密着性を向上させることができる。
【0019】
また、上述した接着媒体に求められる「径方向追従性」は、接着媒体の硬度をショア硬度でA10~A100(ショアA硬度10~100)の範囲内またはショア硬度でD10~D90(ショアD硬度10~90)の範囲内に設定することによって実現できる。さらには、A30~A95またはD10~D60の範囲内にすることが望ましい。また、このような「径方向追従性」は、接着媒体の硬度をこのような値の範囲内に設定することに加えまたは代え、接着媒体の厚さ(接着媒体層の層厚)を所定以上に確保することによっても実現し得る。接着媒体の厚さを所定以上に確保する(接着媒体層の径方向に沿う動き代を確保する)ための手段としては、例えば、接着媒体中にフィラーを含ませ、これらのフィラーの最大長さを5~500μmに設定することが挙げられる。接着媒体中におけるフィラーの配向にもよるが、フィラーが接着媒体中で光軸方向側に向けて延在していれば、その延在するフィラーの長さによって接着媒体層の層厚(光軸方向の寸法)が規定され得る。
【0020】
また、上述した接着媒体に求められる「密着性」または「光軸方向追従性」は、第1レンズと中間スペーサの少なくとも一方の対向面および中間スペーサと第2レンズの少なくとも一方の対向面の表面粗さを二乗平均粗さRqで0.01μm~200μmに設定することによって実現できる。
これは、特に、上述した「径方向追従性」を敢えて考慮しなくて済むガラスによって第1および第2レンズが形成される場合に有益である。ガラスの場合には、高温環境下におけるレンズ間空間の内圧上昇に伴う第1レンズと中間スペーサ間の接着界面の剥離および第2レンズと中間スペーサ間の接着界面の剥離を特に懸念する必要があるからである。
【0021】
また、上記構成において、前記中間スペーサはカシメ部を有し、
前記カシメ部は、前記第2レンズの前記対向面を前記中間スペーサの前記対向面に光軸方向において押し付けるようにしてカシメられていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、カシメ部によって第2レンズの対向面が中間スペーサの対向面に押し付けられるので、第2レンズと中間スペーサとの接着界面の密着性、特に上述した接着媒体に求められる密着性に寄与し得る。
【0023】
また、上記構成において、第1レンズと、スペーサおよび第2レンズとは、その一方がガラス製であるとともに他方が樹脂製であってもよく、あるいは、第1レンズ、中間スペーサおよび第2レンズは、いずれも樹脂製であるとともに、互いの線膨張係数の差が40×10-6/K(m)以上(線膨張係数の異なるレンズどうしの組み合わせ)であってもよい。
上述したように、第1レンズと中間スペーサどうしの接着および中間スペーサと第2レンズどうしの接着が接着媒体を用いて行なわれる場合、その接着媒体は、レンズ(第1レンズおよび第2レンズ)と中間スペーサどうしの線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズおよび中間スペーサの膨張収縮量の違いに起因するレンズどうしの径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」を有し得るため、このように線膨張係数の異なるレンズどうしの組み合わせであっても、信頼性の高い密閉状態をレンズ間空間で確保できる。
【0024】
また、上記構成では、第1レンズと第2レンズと中間スペーサで囲まれたレンズ間空間内の圧力が常温20度で大気圧以下であることが好ましい。このように、レンズ間空間内の圧力が大気圧以下であれば、高温環境下であってもレンズ間空間の内圧上昇を生起させないで済むため、内圧上昇に伴うレンズ(第1レンズおよび第2レンズ)と中間スペーサとの光軸方向での離間に起因して接着界面が剥離してしまうといった問題を解消できる。なお、レンズ間空間内の圧力が大気圧以下となるようにレンズ(第1レンズおよび第2レンズ)と中間スペーサの対向面どうしを接着する手法としては、例えば、真空雰囲気下でレンズと中間スペーサの対向面どうしの接着を行なう、レンズ間空間を吸引脱気しながら接着を行なうことなどを挙げることができる。
【0025】
また、本発明に係るカメラモジュールは、前記レンズユニットを備えることを特徴とする。
このような構成によれば、上述のレンズユニットの作用効果をカメラモジュールで得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、最も物体側に位置する第1レンズとこれに隣り合う第2レンズと中間スペーサとで囲まれたレンズ間空間内への水蒸気の侵入を抑制してレンズ表面結露を防止できる
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態を示すもので、レンズユニットの概略断面図である。
【
図2】同、
図1に示すレンズユニットを有するカメラモジュールの概略断面図である。
【
図3】同、
図1に示すレンズユニットの要部の拡大断面図である。
【
図4】同、第1レンズと中間スペーサとの第1例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図5】同、第1レンズと中間スペーサとの第2例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図6】同、第1レンズと中間スペーサとの第3例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】同、第2レンズと中間スペーサとの第1例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図8】同、第2レンズと中間スペーサとの第2例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図9】同、第2レンズと中間スペーサとの第3例の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図10】同、第1レンズと中間スペーサとの第1例の他の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図11】同、第1レンズと中間スペーサとの第2例の他の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図12】同、第1レンズと中間スペーサとの第3例の他の接着状態を模式的に示す断面図である。
【
図13】従来のレンズユニットの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、上述した
図7を含む全ての図においてレンズおよび中間スペーサについてはハッチングを省略している。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施形態のレンズユニット11は、例えば樹脂製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側(
図1において上側)から、第1レンズ13、第2レンズ14、第3レンズ15、第4レンズ16および第5レンズ17から成る5つのレンズと、4つの絞り部材22a,22b,22c,22dとを備えている。
4つの絞り部材22a,22b,22c,22dのうちの物体側から1番目の絞り部材22aは、第2レンズ14と第3レンズ15との間に配置されている。物体側から2番目の絞り部材22bは、第3レンズ15と第4レンズ16との間に配置されている。物体側から3番目の絞り部材22cは、第4レンズ16と第5レンズ17との間に配置されている。物体側から4番目の絞り部材22dは第5レンズ17と内側フランジ部24との間に配置されている。
絞り部材22a,22b,22c,22dは透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0030】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置する第1レンズ13は、物体側に平坦面を有するとともに像側に凹面を有する球面ガラスレンズであり、第2レンズ14は物体側および像側にそれぞれ凸曲面を有する球面ガラスレンズである。その他のレンズ15,16,17は樹脂レンズであるが、これに限定されない(例えば、第1レンズ13および第2レンズ14が樹脂レンズであっても構わない;第1および第2レンズ13,14が樹脂製の場合、第1レンズ13および第2レンズ14は、例えば、互いの線膨張係数の差が40×10-6/K(m)以上であってもよい)。
【0031】
本実施形態を含む本発明は、鏡筒12に、第1レンズ13と第2レンズ14との間において中間スペーサ30が設けられ、第1レンズ13と第2レンズ14と中間スペーサ30とによって囲まれたレンズ間空間S1を有し、第1レンズ13と中間スペーサ30、および中間スペーサ30と第2レンズ14は、それぞれレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように互いに接着されていることを特徴としており、レンズの数、スペーサの数やレンズ、スペーサおよび鏡筒の素材等については用途等に応じて任意に設定できる。
なお、これらのレンズ13,14,15,16,17の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0032】
また、本実施形態において、最も物体側に位置する第1レンズ13と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1レンズ13の外周面13dに、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13eが設けられ、この縮径部13eにOリング26が装着されて、第1レンズ13の外周面13dと鏡筒12の内周面12aとの間でOリング26が径方向で圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部が封止された状態となっている。
なお、第1レンズ13と鏡筒12との間に介挿されるシール部材は、Oリング26に限定されず、第1レンズ13と鏡筒12との間をシールできる環状体であればどのような形態であっても構わない。
【0033】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(
図1において上端部)のカシメ部23が径方向内側に熱的にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置する第1レンズ13をこのカシメ部23により鏡筒12の物体側端部に光軸方向で固定している。この場合、安定したカシメを行なえるように、カシメ部23が圧接されるガラスレンズ13の部位は平面状に斜めにカットされた平坦部13bとして形成される。
【0034】
また、鏡筒12の像側の端部(
図1において下端部)には、第5レンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16,17と絞り部材22a,22b,22c,22dとが光軸方向で保持固定されている。
【0035】
鏡筒12は、その内径が物体側から像面側に向かって段階的に小さくなっている。これに対応して、レンズ13,15,16,17は、物体側から像面側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。基本的に、レンズ13,15,16,17それぞれの外径と、鏡筒12の各レンズ13,15,16,17が支持される部分それぞれの内径とは略等しくなっている。
また、第2レンズ14はレンズ13,15,16,17より小径に形成され、中間スペーサ30に保持固定されている。
なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0036】
図2は、
図1に示すレンズユニット11を有する本実施形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、フィルタ105が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
【0037】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0038】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12dとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0039】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0040】
以上のような構成を成すレンズユニット11およびカメラモジュール300において、
図1および
図3に示すように、最も物体側に位置する第1レンズ13およびこの第1レンズ13とその像側で隣接する中間スペーサ30はそれぞれ、光軸方向で互いに対向する対向面13a,30aを有しており、これら対向面13a,30aどうしは、第1レンズ13と第2レンズ14と中間スペーサ30とで囲まれたレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体(接着剤)48によって接着されている。
【0041】
中間スペーサ30は円筒状に形成され、その物体側(
図1および
図3において上側)の端面が環状の対向面30aとなっている。また、中間スペーサ30の内周面には、光軸方向と直交する対向面30bが環状に形成されるとともに、光軸方向と平行な円筒状の対向面30cが形成されている。対向面30bと対向面30cとは断面視において直角に配置されている。
一方、第2レンズ14には、前記対向面30bと対向する対向面14aが環状に形成されるとともに、前記対向面30cと対向する対向面14cが円筒状に形成されている。対向面14aは第2レンズ14の有効径の外側(光線が通らない光学面外部位)に、物体側(
図1および
図3において上側)を向いて設けられている。対向面14cは第2レンズ14の最外径を形成する円筒面である。対向面14a,14cは断面視において直角に配置されている。
そして、対向面30b,14aどうし、および対向面30c,14cどうしはレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように接着媒体48によって接着されており、当該接着媒体48は対向面30b,30c,14a,14cに密着している。
【0042】
また、中間スペーサ30はその内径側の下端縁にカシメ部31を有し、このカシメ部31は、第2レンズ14の対向面14aを中間スペーサ30の対向面30bに光軸方向において押し付けるようにして径方向内側に熱的にカシメられている。
このように、カシメ部31によって第2レンズ14の対向面14aが中間スペーサ30の対向面30bに押し付けられるので、第2レンズ14と中間スペーサ30との接着界面の密着性、特に上述した接着媒体に求められる密着性に寄与し得る。
【0043】
ここで、本実施形態で用いられる接着媒体(接着剤)としては、例えば、アクリル系、エポキシ系の接着剤、粘着性を有する(例えばゲル状の)弾性材料などを挙げることができ、また、このような接着媒体は、レンズ13,14の有効径の外側(光線が通らない光学面外部位の対向面13a,14a)に設けられ、さらに、レンズ14の対向面14cにも設けられる。また、これらの接着媒体は併用や混合などの形態で使用しても良い。
【0044】
また、本実施形態において、対向面13a,30a、対向面30b,14aおよび対向面30c,14cどうしの接着に用いられる接着媒体(接着剤)は、レンズ13,14、中間スペーサ30の線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズ13,14どうしの径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」(温度変化に伴うレンズ13,14および中間スペーサ30の膨張(収縮)後にレンズ13と中間スペーサ30およびレンズ14と中間スペーサ30の接着界面に加わる径方向の応力に十分に耐え得る柔軟性)、および/または、高温環境下におけるレンズ間空間S1の内圧上昇に伴うレンズ13と中間スペーサ30どうしの光軸O方向での離間およびレンズ14と中間スペーサ30どうしの光軸方向O方向での離間に起因してレンズ13と中間スペーサ30間およびレンズ14と中間スペーサ30間の接着界面が剥離しないようにする良好な「密着性」(対向面13a,30aおよび対向面14a,30bに対する接着媒体の密着性)、あるいは、光軸O方向でのレンズ13と中間スペーサ30間およびレンズ14と中間スペーサ30間の離間変位に追従できる「光軸方向追従性」を有している。
【0045】
接着媒体(接着剤)に求められる「径方向追従性」は、接着剤の硬度をショア硬度でA10~A100(ショアA硬度10~100)の範囲内またはショア硬度でD10~D90(ショアD硬度10~90)の範囲内に設定することによって実現できる。特に、A30~A95またはD10~D60の範囲内でより好適な結果が得られる。また、このような「径方向追従性」は、接着媒体の硬度をこのような値の範囲内に設定することに加えまたは代え、接着媒体48の厚さ(層厚)を所定以上に確保することによっても実現し得る。接着媒体48の厚さを所定以上に確保する(接着媒体48の径方向に沿う動き代を確保する)ための手段としては、例えば、接着媒体中にフィラーを含ませ、これらのフィラーの最大長さを5~500μmに設定することが挙げられる。接着媒体中におけるフィラーの配向にもよるが、フィラーが接着媒体中で光軸O方向側に向けて延在していれば、その延在するフィラーの長さによって接着媒体48の厚さ(光軸O方向の寸法)が規定され得る。
【0046】
また、本実施形態において、第1レンズ13および中間スペーサ30の対向面13a,30aの少なくもいずれか一方に、対向面13a,30aに塗布された接着剤(接着媒体)のレンズ間空間S1内への流れを抑止する抑止部が設けられていてもよい。
この抑止部としては、対向面13a,30aの少なくとも一方の一部に、接着剤を充填するために設けられた凹部であってもよいし、接着剤のレンズ間空間S1内への流れを抑止する凸部であってもよい。
【0047】
例えば
図4に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面13a,30aのうちの対向面30aの一部に抑止部としての凸部60が、対向面30aの中心回りに円環状に設けられている。なお、凸部60は対向面13aに設けてもよい。
凸部60は、対向面30aの内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられ、凸部60の内周縁は対向面13aの内周縁と一致している。凸部60の高さは5~500μm程度が好ましい。このような凸部60は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、別体に設けてもよい。
対向面30aに設けられた凸部60は対向面13aに当接している。したがって、凸部60によって接着媒体48の厚さを設定でき、さらに、接着媒体48の径方向の領域(接着剤の充填領域)を設定できる。
また、凸部60を設けることによって、対向面30aに塗布された接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0048】
なお、対向面30aの径方向外側に、同様の凸部60(図示略)を設けてもよい。このようにすると、接着媒体の厚さをより正確に設定できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0049】
また、
図5に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面30aの一部に抑止部としての凹部61が、対向面30aの中心回りに円環状に設けられている。
凹部61は、対向面30aにその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられている。凹部61の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹部61は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、対向面30aに設けてもよい。
対向面13a,30aには接着媒体が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体は凹部61に流入するため、当該接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0050】
また、
図6に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面30aの一部に抑止部としての凹溝62が、対向面30aの中心回りに円環状に設けられている。また、凹溝62は対向面30aの中心に対して放射状に設けてもよい。この場合、周方向に隣り合う凹溝62,62は等間隔であってもよいし、不当間隔であってもよい。
凹溝62は、対向面30aにその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置から対向面30aの外周縁まで設けられている。凹溝62の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹溝62は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、対向面30aに設けてもよい。
対向面13a,30aには接着媒体が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体は凹溝62に流入するため、当該接着媒体のレンズ間空間S1内への流れをさらに抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0051】
また、本実施形態において、中間スペーサ30および第2レンズ14の対向面30b,14aの少なくもいずれか一方に、対向面30b,14aに塗布された接着剤(接着媒体)のレンズ間空間S1内への流れを抑止する抑止部が設けられていてもよい。
この抑止部としては、対向面30b,14aの少なくとも一方の一部に、接着媒体を充填するために設けられた凹部であってもよいし、接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止する凸部であってもよい。
【0052】
例えば
図7に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面14a,30bのうちの対向面30bの一部に抑止部としての凸部70が、対向面30bの中心回りに円環状に設けられている。なお、凸部70は対向面14aに設けてもよい。
凸部70は、対向面30bの内周縁部に設けられ、凸部70の内周縁は対向面14aの内周縁と一致している。凸部70の高さは5~500μm程度が好ましい。このような凸部70は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、別体に設けてもよい。
対向面30b,14a間および対向面30c,14c間には接着媒体48が充填され、当該接着媒体48は対向面30b,14aおよび対向面30c,14cに密着している。
対向面30bに設けられた凸部70は対向面14aに当接している。したがって、凸部70によって接着媒体48の厚さを設定でき、さらに、接着媒体48の径方向の領域(接着剤の充填領域)を設定できる。
また、凸部70を設けることによって、対向面30bに塗布された接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体48の塗布も容易となる。
【0053】
なお、
図7~
図9では、第2レンズ14および中間スペーサ30の上下方向を
図1~
図3に示すものに対して上下逆にして示している。これは、第2レンズ14および中間スペーサ30を鏡筒12に挿入する前に、予め一体化するため、説明の都合上、上下逆にして示している。
第2レンズ14および中間スペーサ30を一体化する場合、
図7に示すように、カシメ部31をカシメる前に(カシメる前のカシメ部31を二点鎖線で示す。)、中間スペーサ30の対向面30bに所定量の接着媒体48を充填する(塗布する)。対向面30bの内周縁部には凸部70が設けられているので、接着媒体48は凸部70によって堰き止められて、レンズ間空間S1内への流入が防止される。
【0054】
次に、中間スペーサ30の内径側に第2レンズ14を上方から挿入するとともに、その対向面14aを中間スペーサ30の対向面30bに接着媒体48を介して当接させる。これによって対向面14a,30b間および対向面14c,30c間に接着媒体が充填されるとともに、当該接着媒体48が対向面14a,30bおよび対向面14c,30cに面接触して密着する。なお、第2レンズ14の小径部14dは中間スペーサ30の内径側に挿入される。
【0055】
最後にカシメ部31を径方向内側に向けてカシメる。これによって、第2レンズ14は中間スペーサ30の径方向中央部側および対向面30b側に向けて押圧されるとともに、第2レンズ14の対向面14aが中間スペーサ30の対向面30bに光軸方向(
図8において上下方向)において押し付けられるので、第2レンズ14は中間スペーサ30に光軸方向および径方向に位置決めされ、接着媒体48によって強固に接着される。なお、接着媒体48として熱硬化性のもの使用することによって、一体化された第2レンズ14および中間スペーサ30を高温室等に一定時間保持することによって、接着媒体48が硬化して第2レンズ14および中間スペーサ30は強固に一体化される。
【0056】
また、
図8に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面30bの一部に抑止部としての凹部71が、対向面30bの中心回りに円環状に設けられている。
凹部71は、対向面30bにその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられている。凹部71の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹部71は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、対向面30bに設けてもよい。
対向面30b,14a間および対向面30c,14c間には接着媒体48が充填され、当該接着媒体48は対向面30b,14aおよび対向面30c,14cに密着している。
対向面14a,30bには接着媒体48が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体48は凹部71に流入するため、当該接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0057】
また、
図9に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面30bの一部に抑止部としての凹溝72が、対向面30bの中心回りに円環状に設けられている。また、凹溝72は対向面30bの中心に対して放射状に設けてもよい。この場合、周方向に隣り合う凹溝72,72は等間隔であってもよいし、不当間隔であってもよい。
凹溝72は、対向面30bにその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置から対向面30bの外周縁まで設けられている。凹溝72の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹溝72は、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成した後、対向面30aに設けてもよい。
対向面30b,14a間および対向面30c,14c間には接着媒体48が充填され、当該接着媒体48は対向面30b,14aおよび対向面30c,14cに密着している。
対向面14a,30bには接着媒体が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体は凹溝72に流入するため、当該接着媒体48のレンズ間空間S1内への流れをさらに抑止できるとともに、接着媒体48の塗布も容易となる。
【0058】
また、上述した接着媒体48に求められる「密着性」または「光軸方向追従性」は、第1レンズ13および中間スペーサ30の少なくとも一方の対向面13a(30a)および第2レンズ14および中間スペーサ30の少なくとも一方の対向面14a(30b)の表面粗さを二乗平均粗さRqで0.01μm~200μmに設定することによって実現できる。これは、特に、上述した「径方向追従性」を敢えて考慮しなくて済むガラスによって第1および第2レンズ13,14、中間スペーサ30が形成される場合に有益である。ガラスの場合には、高温環境下におけるレンズ間空間S1の内圧上昇に伴う第1レンズ13と中間スペーサ30間および第2レンズ14と中間スペーサ30間の接着界面の剥離を特に懸念する必要があるからである。
【0059】
また、本実施形態においては、さらに、接着媒体の吸水率が5.0wt%(JIS K6911(煮沸1時間))以下であることが好ましい。このように接着媒体の吸水率を低く設定すれば、レンズ間空間S1内への水蒸気の浸入を効果的に抑えることができる。また、本実施形態では、接着媒体が黒色である(接着媒体の光透過率が450nm~650nmの波長領域で20%以下である)ことが好ましい。このように接着媒体を黒色にしてその光透過率を抑えれば、遮光、ゴースト防止のための墨塗り処理を省くことも可能になる(接着媒体が墨を兼ねることができる)。
【0060】
また、本実施形態では、レンズ間空間S1内の圧力が常温20度で大気圧以下であることが好ましい。このように、レンズ間空間S1内の圧力が大気圧以下であれば、高温環境下であってもレンズ間空間S1の内圧上昇を生起させないで済むため、内圧上昇に伴うレンズ13,14と中間スペーサ30の光軸O方向での離間に起因してレンズ13と中間スペーサ30間およびレンズ14と中間スペーサ30間の接着界面が剥離してしまうといった問題を解消できる。なお、レンズ間空間S1内の圧力が大気圧以下となるように対向面13a,14aと対向面30a,30bと接着する手法としては、例えば、真空雰囲気下で対向面13a,14aと対向面30a,30bとの接着を行なう、レンズ間空間S1を吸引脱気しながら接着を行なうことなどを挙げることができる。
【0061】
また、本実施の形態では第1レンズ13の対向面13aと中間スペーサ30の対向面30aとの間に接着媒体48によって1層の接着媒体層50を形成したが、これに代えて、
図10~
図12に示すように、接着媒体層50を、第1レンズ13側に位置する第1接着媒体層51と、中間スペーサ30側に位置する第2接着媒体層52とを有する構成とし、第1接着媒体層51と第2接着媒体層52との間に薄板状介在物55を介在させてもよい。
【0062】
図10に示すように、第1接着媒体層51は、第1レンズ13の対向面13aの後述する凸部60以外の全域に亙って塗布され、第2接着媒体層52は中間スペーサ30の対向面30aの凸部60以外の全域に亙って塗布されている。対向面13aおよび対向面30aはそれぞれ同形同大の円環状に形成されている。
また、第1接着媒体層51と第2接着媒体層52との間に介在されている薄板状介在物55は円環状に形成され、外径は対向面13a,30aと等しくなっており、内径は対向面13a,30aより凸部60の分だけ短くなっている。
そして、第1接着媒体層51の上面(光軸方向物体側の表面)は対向面13aに密着し、下面(光軸方向像側の表面)は薄板状介在物55の上面に密着している。また、第2接着媒体層52の下面(光軸方向像側の表面)は対向面30aに密着し、上面(光軸方向物体側の表面)は薄板状介在物55の下面に密着している。
【0063】
薄板状介在物55としては、例えば、遮光性有する遮光板、ヒータまたはゴムシートを使用する。
薄板状介在物55が遮光板(例えば、厚さが1mm以下のSUS板)である場合、接着媒体層50を形成する接着媒体として、透明または透光性を有する比較的接着強度の高い(黒色接着剤より接着強度の高い)ものを使用することができるとともに、遮光性を確実に確保できる。
黒色接着剤としては、例えば接着剤の光透過率が450nm~650nmの波長領域で20%以下であるものが好ましい。接着剤を黒色にしてその光透過率を抑えれば、遮光、ゴースト防止のための墨塗り処理を省くことも可能になる一方、接着強度が低下する虞があるが、本実施形態では、第1接着媒体層51と第2接着媒体層52との間に遮光板が介在されているので、黒塗り処理を省いても遮光性等を確保できるともに、透明または透光性を有する比較的接着強度の高い接着剤を使用できるので、所定の接着強度を確保できる。また、黒塗りを行わないことによって、第1レンズ13の対向面13aと薄板状介在物55の表面との間からの水分の混入を抑制できる。
【0064】
薄板状介在物55がヒータである場合、当該ヒータによって第1レンズ13および中間スペーサ30を加熱することができるので、レンズ間空間S1内における結露を抑制できる。また、接着媒体層50の劣化によって水分が混入した場合でも、ヒータによってこの水分を加熱することによってレンズ表面結露を解消できる。
なお、ヒータとしては、例えば厚さが1~2mm程度の平板状のセラミックヒータを使用できる。
【0065】
薄板状介在物55がゴムシートである場合、第1レンズ13と中間スペーサ30との線膨張係数差に伴う温度変化時のレンズの膨張収縮量の違いに起因するレンズ13と中間スペーサ30との径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」がさらに向上する。すなわち、第1レンズ13と中間スペーサ30との膨張収縮量に差があった場合、この差をゴムシートによって緩和できるので、「径方向追従性」がさらに向上すとともに、接着媒体層50の接着面の剥がれを防止できる。なお、ゴムシートの厚さは、50~150μm程度であるのが好ましい。
【0066】
また、本実施形態では、第1接着媒体層51を形成する接着媒体と、第2接着媒体層52を形成する接着媒体とは異なる種類であってもよい。
例えば、第1レンズ13がガラスレンズ、中間スペーサ30が樹脂製である場合に、ガラスレンズ(第1レンズ13)と薄板状介在物55とを強固に接着できる接着媒体および樹脂製の中間スペーサ30と薄板状介在物55とを強固に接着できる接着媒体を容易に選択できるので、第1レンズ13と中間スペーサ30とをより強固に接着できる。
【0067】
また、本実施形態において、第1レンズ13および中間スペーサ30の対向面13a,30aの少なくもいずれか一方に、対向面13a,30aに塗布された接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止する抑止部が設けられていてもよい。
この抑止部としては、対向面13a,30aの少なくとも一方の一部に、接着媒体を充填するために設けられた凹部であってもよいし、接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止する凸部であってもよい。
【0068】
例えば
図10に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面13a,30aの双方の一部に抑止部としての凸部60が、対向面13a,30aの中心回りに円環状に設けられている。
凸部60は、対向面13aではその内周縁に設けられ、対向面30aではその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられている。凸部60の高さは5~500μm程度が好ましい。このような凸部60は、第1レンズ13をガラスモールドによって形成する際および中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、第1レンズおよび中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、第1レンズ13および中間スペーサ30を形成した後、別体に設けてもよい。
【0069】
対向面13aに設けられた凸部60は、対向面13aに対向する薄板状介在物55の一方の表面に当接し、対向面30aに設けられた凸部60は薄板状介在物55の他方の表面に当接している。したがって、凸部60,60によって薄板状介在物55の接着媒体層50の厚さ方向の位置決めを行えるとともに、第1接着媒体層51および第2接着媒体層52の層厚(厚さ)を設定でき、さらに、対向面13a,30aにおける第1接着媒体層51および第2接着媒体層52の径方向の領域(接着媒体の充填領域)を設定できる。
また、凸部60を設けることによって、対向面13a,30aに塗布された接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0070】
なお、対向面13a,30aの径方向外側に、同様の凸部60(図示略)を設けてもよい。このようにすると、第1接着媒体層51および第2接着媒体層52の層厚をより正確に設定できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0071】
また、
図11に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面13a,30aの双方の一部に抑止部としての凹部61が、対向面13a,30aの中心回りに円環状に設けられている。
凹部61は、対向面13aではその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられ、対向面30aではその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置に設けられ、凹部61,61は光軸方向において対応している。凹部61の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹部61は、第1レンズ13をガラスモールドによって形成する際および中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、第1レンズ13および中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、第1レンズ13および中間スペーサ30を形成した後、別体に設けてもよい。
【0072】
対向面13a,30aには接着媒体が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体は凹部61に流入するため、当該接着媒体のレンズ間空間S1内への流れを抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0073】
また、
図12に模式的に示すように、本実施形態では、円環状の対向面13a,30aの双方の一部に抑止部としての凹溝62が、対向面13a,30aの中心回りに円環状に設けられている。また、凹溝62は対向面13a,30aの中心に対して放射状に設けてもよい。この場合、周方向に隣り合う凹溝62,62は等間隔であってもよいし、不当間隔であってもよい。
凹溝62は、対向面13aではその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置から対向面13aの外周縁まで設けられ、対向面30aではその内周縁から所定長さだけ外径側に寄った位置から対向面30aの外周縁まで設けられている。凹溝62の深さは5~500μm程度が好ましい。このような凹溝62は、第1レンズ13をガラスモールドによって形成する際および中間スペーサ30を樹脂射出成形によって形成する際に、第1レンズ13および中間スペーサ30と一体的に設けてもよいし、第1レンズ13および中間スペーサ30を形成した後、別体に設けてもよい。
【0074】
対向面13a,30aには接着媒体が所定の厚さに塗布されるが、余剰の接着媒体は凹溝62に流入するため、当該接着媒体のレンズ間空間S1内への流れをさらに抑止できるとともに、接着媒体の塗布も容易となる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1レンズ13と中間スペーサ30、および中間スペーサ30と第2レンズ14は、それぞれレンズ間空間S1内が外部に対して密閉されるように互いに接着されているため、高湿環境下であっても、最も結露が生じ易いレンズ間空間S1内への水蒸気の侵入を、ひいてはさらに像側へのレンズユニット内への水蒸気の侵入も抑えて(気密性を向上させて)、レンズ間空間S1内の水蒸気量を低下させ、レンズ表面結露、とりわけ、第1レンズ13の像側の表面(裏面)13cに結露が生じることを抑制できる。すなわち、このようなレンズ13,14と中間スペーサ30との接着形態によれば、信頼性の高い密閉状態をレンズ間空間S1で確保できる。
【0076】
また、第1レンズ13と中間スペーサ30とは、光軸方向で互いに対向する対向面13a,30aどうしが接着媒体(接着剤)48によって接着され、中間スペーサ30と第2レンズ14とは、光軸方向で互いに対向する対向面30b,14aどうしが接着媒体48によって接着されているので、接着媒体48は、第1レンズ13と中間スペーサ30の線膨張係数差および中間スペーサ30と第2レンズ14の線膨張係数差に伴う温度変化時の第1レンズ13と中間スペーサ30の膨張収縮量の違いおよび中間スペーサ30と第2レンズ14の膨張収縮量の違いに起因するレンズ13,14の径方向の相対変位に追従できる「径方向追従性」(温度変化に伴うレンズの膨張(収縮)後にレンズ接着界面に加わる径方向の応力に十分に耐え得る柔軟性)、および/または、高温環境下におけるレンズ間空間S1の内圧上昇に伴う第1レンズ13と中間スペーサ30との光軸方向での離間および中間スペーサ30と第2レンズ14との光軸方向での離間に起因して接着界面が剥離しないようにする良好な「密着性」(第1レンズ13と中間スペーサ30の対向面13a,30aに対する接着媒体48の密着性および中間スペーサ30と第2レンズ14の対向面30b,14aに対する接着媒体の密着性)、あるいは、光軸方向での第1レンズ13と中間スペーサ30間の離間変位および中間スペーサ30と第2レンズ14間の離間変位に追従できる「光軸方向追従性」を有することにより、第1レンズ13および第2レンズ14に「径方向追従性」および「光軸方向追従性」を得ることができる。
【0077】
また、第1レンズ13と中間スペーサ30の対向面13a,30aに抑止部60,61,62が設けられ、第2レンズ14と中間スペーサ30の対向面14a,30bに抑止部70,71,72が設けられているので、対向面に塗布された接着媒体48のレンズ間空間S1内への流れを抑止部によって抑止できるとともに、接着媒体48の塗布も容易となる。
【0078】
また、接着媒体層50は第1レンズ13側に位置する第1接着媒体層51と、中間スペーサ30側に位置する第2接着媒体層52とを有し、第1接着媒体層51と第2接着媒体層52との間に薄板状介在物55が介在されているので、第1接着媒体層51を形成する接着媒体と第2接着媒体層52を形成する接着媒体とを異なる種類とすることができる。このため、例えば、第1レンズ13がガラスレンズ、中間スペーサ30が樹脂製である場合に、ガラスレンズ(第1レンズ13)と薄板状介在物55とを強固に接着できる接着媒体および樹脂製の中間スペーサ30と薄板状介在物55とを強固に接着できる接着媒体を容易に選択できる。
また、第1接着媒体層51の層厚および第2接着媒体層52の層厚を容易に設定できるので、上述した「径方向追従性」を容易に設定できるとともに、高めることができる。
【0079】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、中間スペーサ、鏡筒などの形状、並びに、突起および凹部の形状等は、上述した実施形態に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上述した実施形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、上述した実施形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0080】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1レンズ
13a 対向面
14 第2レンズ
14a 対向面
30 中間スペーサ
30a,30b 対向面
31 カシメ部
48 接着媒体
60,70 凸部(抑止部)
61,71 凹部(抑止部)
62,62 凹溝(抑止部)
300 カメラモジュール
L レンズ群
O 光軸
S 内側収容空間
S1 レンズ間空間