(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2020069038
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 慈浩
(72)【発明者】
【氏名】並木 弘介
【審査官】佐藤 賢斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-168016(JP,A)
【文献】特開2019-103613(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115194(WO,A1)
【文献】特開2015-198907(JP,A)
【文献】特開2010-022565(JP,A)
【文献】特開2011-000462(JP,A)
【文献】特開2020-039702(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051275(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/172756(WO,A1)
【文献】特開2006-051285(JP,A)
【文献】伊藤泉ほか,認知症予防のための検査特集 第五部 超音波検査 第1章 頸動脈超音波検査,医学検査,日本,日本臨床衛生検査技師会,2017年08月31日,Vol. 66, No. J-STAGE-2,pp. 62-73,DOI: 10.14932/jamt.17J2-9
【文献】日本超音波医学会用語・診断基準委員会,超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017,日本,日本超音波医学会,2017年,https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/jsum0515_guideline.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得する取得部と、
複数の第2超音波データ各々における頸動脈の
血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚
の最大値の位置とを含む情報と
、前記複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに前記第1超音波データを入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の
血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚
の最大値の位置とを含む情報を検出する検出部と、
前記検出されたトレースラインと前記最大値の位置とを含む情報を、前記第1超音波データに対応するBモード画像に重畳した重畳画像を生成する画像処理部と、
を備え、
前
記第2超音波データは、
信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかであり、
前記検出部は、信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかである前記第1超音波データを前記学習済みモデルに入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを含む情報を検出する、
装置。
【請求項2】
前記第1超音波データおよび前記第2超音波データは、ボリュームデータであって、
前記検出部は、前記学習済みモデルにより、前記第1超音波データに対応するボリュームデータにおける複数の断面各々の頸動脈の血管壁のトレースラインと前記内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを検出し、
前記検出されたトレースラインと前記最大値の位置とを、前記複数の断面に対応する複数のBモード画像にそれぞれ重畳することにより、複数の重畳画像を生成する画像処理部をさらに備えた、
請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
コンピュータに、
被検体の頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得し、
複数の第2超音波データ各々における頸動脈の
血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚
の最大値の位置とを含む情報と
、前記複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに前記第1超音波データを入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の
血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚
の最大値の位置とを含む情報を検出
し、
前記検出されたトレースラインと前記最大値の位置とを含む情報を、前記第1超音波データに対応するBモード画像に重畳した重畳画像を生成すること、
を実現させるプログラムであって、
前
記第2超音波データは、
信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかであり、
前記検出することは、信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかである前記第1超音波データを前記学習済みモデルに入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを含む情報を検出する、
プログラム。
【請求項4】
被検体の頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得する取得部と、
複数の第2超音波データ各々における頸動脈の内膜中膜複合体厚と前記複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに前記第1超音波データを入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の内膜中膜複合体厚を検出する検出部と、
を備え、
前記複数の第2超音波データは、前記超音波による走査断面と頸動脈とが非平行である超音波データと、プラークを有する頸動脈またはプラークを有さない頸動脈に関する超音波データと、プラークの厚みが頸動脈の血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データと、分岐部分を有する頸動脈または分岐部分を有さない頸動脈に関する超音波データと、信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データとを有する、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断装置において、頸動脈の2次元Bモード画像から、頸動脈の動脈壁の厚さを示す内膜中膜複合体厚(Intima Media Thickness:以下、IMTと呼ぶ)を、アルゴリズムによって自動的に検出するアルゴリズム(以下、自動IMT計測機能と呼ぶ)がある。自動IMT計測機能は、取得された2次元Bモード画像において、頸動脈のプラーク厚の計測に関するエリアがユーザにより指定されると、指定されたエリア内の輝度解析により血管壁を検出し、検出された血管壁からプラーク厚を計測する。
【0003】
自動IMT計測機能によるIMTの計測は、2次元Bモード画像に混入するノイズ、2次元Bモード画像における頸動脈領域でのプラークの有無、2次元Bモード画像における頸動脈の分岐部分の有無により、本来検出されるべき血管壁を正常に識別することができずに、ユーザが期待する計測値が得られないという問題がある。また、自動IMT計測機能では、ユーザが計測したい場所を指定する必要があり、操作が煩雑であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】クリストファー M. ビショップ(Christopher M. Bishop)著、「パターン認識と機械学習(Pattern recognition and machine learning)」、(米国)、第1版、スプリンガー(Springer)、2006年、P.225-290
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、頸動脈における内膜中膜複合体厚の計測において操作性および精度を向上することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る装置は、取得部と、検出部と、画像処理部とを備える。取得部は、被検体の頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得する。検出部は、複数の第2超音波データ各々における頸動脈の血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを含む情報と、前記複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに前記第1超音波データを入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを含む情報を検出する。画像処理部は、前記検出されたトレースラインと前記最大値の位置とを含む情報を、前記第1超音波データに対応するBモード画像に重畳した重畳画像を生成する。前記第2超音波データは、信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかである。検出部は、信号対雑音比が所定閾値未満である超音波データ、プラークを有する頸動脈に関する超音波データ、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ、分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの少なくとも何れかである前記第1超音波データを前記学習済みモデルに入力することで、前記第1超音波データにおける頸動脈の血管壁のトレースラインと当該トレースラインにおける前記頸動脈の内膜中膜複合体厚の最大値の位置とを含む情報を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示す図。
【
図2】
図2は、実施形態に係り、被検体の頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)の計測の運用時における学習済みモデルの入出力の関係の一例を示す図。
【
図3】
図3は、実施形態に係るIMT検出処理の手順の一例を示すフローチャート。
【
図4】
図4は、実施形態に係り、表示装置に表示された重畳画像の一例を示す図。
【
図5】
図5は、実施形態に係るモデル生成処理において、多層化のネットワークを学習させるデータの入出力の一例を示す図。
【
図6】
図6は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられる多ノイズデータの一例を示す図。
【
図7】
図7は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられるプラーク有無データのうちプラークを有さない頸動脈に関する超音波データの一例を示す図。
【
図8】
図8は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられるプラーク有無データのうちプラークを有する頸動脈に関する超音波データの一例を示す図。
【
図9】
図9は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられる厚み相違データの一例を示す図。
【
図10】
図10は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられる分岐有無データのうち分岐部分を有する頸動脈に関する超音波データの一例を示す図。
【
図11】
図11は、実施形態に係り、学習済みモデルの生成において用いられる非平行データの走査断面(被走査領域)と頸動脈との位置関係の一例を示す図。
【
図12】
図12は、実施形態の応用例に係るIMT検出処理の手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に関する装置およびプログラムについて説明する。説明を具体的にするために、本実施形態に係る装置として、超音波診断装置を例にとり説明する。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0010】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置100の構成例を示す図である。
図1に示すように、超音波診断装置100は、超音波プローブ1と、入力装置(入力部)3と、表示装置(表示部)5と、装置本体7とを有する。
【0011】
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子、圧電振動子に設けられる整合層、及び圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。超音波プローブ1は、装置本体7と着脱自在に接続される。複数の圧電振動子は、装置本体7における超音波送信回路71から供給された駆動信号に基づいて、超音波を発生する。なお、超音波プローブ1には、フリーズ操作などの各種操作の際に押下されるボタンが配置されてもよい。
【0012】
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射される。反射された超音波は、反射波信号(以下、エコー信号と呼ぶ)として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信されたエコー信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが移動している血流や心臓壁などの表面で反射された場合のエコー信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して周波数偏移を受ける。超音波プローブ1は、被検体Pからのエコー信号を受信して電気信号に変換する。本実施形態においては、超音波プローブ1は、例えば、複数の圧電振動子が所定の方向に沿って配列された1Dアレイプローブ、複数の圧電振動子が二次元マトリックス状に配列された2Dアレイプローブ、または圧電振動子列をその配列方向と直交する方向に機械的に煽りながら超音波走査を実行可能なメカニカル4Dプローブ等である。
【0013】
入力装置3は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路87に出力する。入力装置3は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等を有する。なお、本実施形態において、入力装置3は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパッド及びタッチパネルディスプレイ等の物理的な操作部品を備えるものに限られない。例えば、入力装置3とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路87へ出力する電気信号の処理回路も入力装置3の例に含まれる。また、入力装置3は、装置本体7に設けられてもよい。また、入力装置3は、装置本体7と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0014】
例えば、入力装置3における終了ボタンの押下やフリーズボタンの押下(以下、フリーズ操作と呼ぶ)に応答して、超音波の送受信は終了し、超音波診断装置100は、一時停止状態となる。また、フリーズ操作に応答して、超音波診断装置100は、超音波の送受信に伴って生成された超音波画像がリアルタイムに表示されるリアルタイム表示モードから、画像メモリ83に記憶された複数の超音波画像を時系列的に沿って連続的に表示(以下、シネ表示と呼ぶ)可能なシネ表示モードに移行する。このとき、操作者がトラックボール等を回転させると、超音波診断装置100は、トラックボールの回転方向に応じて、画像メモリ83に格納された複数フレーム分の超音波画像を、シネ表示する。当該トラックボールの回転は、フリーズ操作の入力後において時系列に沿った一連の超音波画像を時間方向に沿ってスクロールさせるスクロール操作に相当する。
【0015】
表示装置5は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は他の任意のディスプレイが、適宜、使用可能となっている。なお、表示装置5は、装置本体7に組み込まれてもよい。また、表示装置5は、デスクトップ型でもよいし、装置本体7と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
【0016】
表示装置5は、各種の情報を表示する。例えば、表示装置5は、処理回路87や画像生成回路79によって生成された超音波画像や、操作者からの各種操作を受け付けるためのユーザインタフェース(以下、GUI(Graphical User Interface)と呼ぶ)等を表示する。表示装置5は、シネ表示モードにおいて、入力装置3を介した操作者の指示により、時系列に沿って超音波画像を表示する。また、表示装置5は、フリーズ操作の入力後(シネ表示)においてスクロール操作が入力されると、スクロール操作の操作量に応じて、シネ表示におけるフレーム番号(収集順のインデックス)に対応する超音波画像を、コマ送り(またはコマ戻し)で表示する(シネめくりともいう)。
【0017】
装置本体7は、超音波プローブ1が受信したエコー信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。装置本体7は、
図1に示すように、超音波送信回路71、超音波受信回路73、Bモード処理回路75、ドプラ処理回路77、画像生成回路79、内部記憶回路(記憶部)81、画像メモリ83(シネメモリまたはキャッシュとも称される)、通信インタフェース85、及び処理回路87を有する。
【0018】
超音波送信回路71は、超音波プローブ1に駆動信号を供給するプロセッサである。超音波送信回路71は、例えば、トリガ発生回路、遅延回路、及びパルサ回路等により実現される。トリガ発生回路は、処理回路87におけるシステム制御機能871により、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。遅延回路は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、各レートパルスに対して与える。パルサ回路は、システム制御機能871により、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。遅延回路により各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面からの送信方向が任意に調整可能となる。
【0019】
超音波受信回路73は、超音波プローブ1が受信したエコー信号に対して各種処理を施し、受信信号を生成するプロセッサである。超音波受信回路73は、例えば、アンプ回路、A/D変換器、受信遅延回路、及び加算器等により実現される。アンプ回路は、超音波プローブ1が受信したエコー信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正されたエコー信号をデジタル信号に変換する。受信遅延回路は、デジタル信号に受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。加算器は、遅延時間が与えられた複数のデジタル信号を加算する。加算器の加算処理により、受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調された受信信号が生成される。
【0020】
Bモード処理回路75は、超音波受信回路73から受け取った受信信号に基づき、Bモードデータを生成するプロセッサである。Bモード処理回路75は、超音波受信回路73から受け取った受信信号に対して包絡線検波処理、及び対数増幅処理等を施し、信号強度を輝度の明るさで表現したデータ(以下、Bモードデータと呼ぶ)を生成する。生成されたBモードデータは、2次元的な超音波走査線上のBモードRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0021】
ドプラ処理回路77は、超音波受信回路73から受け取った受信信号に基づき、ドプラ波形、及びドプラデータを生成するプロセッサである。ドプラ処理回路77は、受信信号から血流信号を抽出し、抽出された血流信号からドプラ波形を生成すると共に、血流信号から平均速度、分散、及びパワー等の情報を多点について抽出したデータ(以下、ドプラデータと呼ぶ)を生成する。生成されたドプラデータは、2次元的な超音波走査線上のドプラRAWデータとして不図示のRAWデータメモリに記憶される。
【0022】
画像生成回路79は、操作者が入力装置3を介して各種指示を入力するためのGUIを生成する。画像生成回路79は、Bモード処理回路75及びドプラ処理回路77により生成されたデータに基づき、各種超音波画像のデータを生成する機能(スキャンコンバータ)を有するプロセッサである。画像生成回路79は、不図示の内部メモリを備える。画像生成回路79は、RAW-ピクセル変換を実行することで、ピクセルから構成される2次元の超音波画像のデータ(以下、第1超音波データと呼ぶ)を生成する。第1超音波データは、予め設定されたフレームレートに従い、フレーム単位で生成される。生成された第1超音波データは、フレーム単位で内部メモリに記憶される。以下、第1超音波データは、被検体Pの頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づいて生成されたデータ(Bモード画像)であるものとして説明する。
【0023】
画像生成回路79は、時間的に連続して生成された第1超音波データに対し、空間的な位置情報を加味した補間処理等を実行することで、所望の範囲のボクセルから構成されるボリュームデータを生成してもよい。なお、画像生成回路79は、RAWデータメモリに記憶されているBモードRAWデータに対し、空間的な位置情報を加味した補間処理を含むRAW-ボクセル変換を実行することで、ボリュームデータを生成してもよい。画像生成回路79は、生成されたボリュームデータを、内部記憶回路81に記憶させる。
【0024】
なお、画像生成回路79は、例えば各種ボリュームデータに対してレンダリング処理や多断面変換再構成(以下、MPR(Multi Planar Reconstruction)と呼ぶ)処理等を施し、レンダリング画像やMPR画像を生成してもよい。また、画像生成回路79は、生成された第1超音波データに対し、ダイナミックレンジ、輝度(ブライトネス)、コントラスト、γカーブ補正及びRGB変換等の各種画像処理を実行する。なお、画像生成回路15は、画像処理機能877により実行される後述の画像処理を、適宜実行してもよい。
【0025】
内部記憶回路81は、例えば、磁気的若しくは光学的記憶媒体、又は集積回路記憶装置等のプロセッサにより読み取り可能な記憶媒体等で実現される。例えば、内部記憶回路81は、種々の情報を記憶するHDD(Hard disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、半導体メモリ等に相当する。内部記憶回路17は、HDDやSSD等以外にも、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体や、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリ素子等との間で種々の情報を読み書きする駆動装置であってもよい。
【0026】
内部記憶回路81は、本実施形態に係る各種機能を実現するためのプログラム等を記憶する。内部記憶回路81は、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、ボディマーク生成プログラム、及び映像化に用いるカラーデータの範囲を診断部位ごとに予め設定する変換テーブルなどのデータ群を記憶する。内部記憶回路81に記憶された各種データは、システム制御機能871により、通信インタフェース21を介して外部装置へ転送される。内部記憶回路81は、学習済みモデルを記憶する。なお、学習済みモデルは、処理回路87自身のメモリに記憶されてもよい。学習済みモデルは、処理回路87における検出機能875により、被検体Pの頸動脈の内膜中膜複合体厚(Intima Media Thickness:以下、IMTと呼ぶ)の検出(計測)において運用される。
【0027】
図2は、IMTの計測の運用時における学習済みモデルの入出力の関係の一例を示す図である。
図2に示すように、学習済みモデルは、第1超音波データの入力により、当該第1超音波データにおける頸動脈のIMTを、IMT計測結果として出力する。すなわち、学習済みモデルは、第1超音波データを演算することにより、IMT計測結果を出力する。具体的には、学習済みモデルは、Bモード画像の入力により、当該Bモード画像における頸動脈の血管壁のトレースライン(IMTに関する複数の計測点)と、当該トレースラインにおけるIMTの最大値の位置(以下、最大位置と呼ぶ)とを出力する。IMTの計測において、学習済みモデルを用いてIMTを検出する処理(以下、IMT検出処理と呼ぶ)については、後程説明する。なお、学習済みモデルは、トレースラインと最大位置との出力に加えて、当該最大値をさらに出力してもよい。また、学習済みモデルは、Bモード画像の入力により、当該Bモード画像における頸動脈のトレースラインのみを出力してもよい。
【0028】
学習済みモデルは、第1超音波データとは異なる複数の第2超音波データ各々における頸動脈のIMTと当該複数の第2超音波データとを用いて、例えば多層化のネットワークに対して機械学習を実行することにより生成される。多層化のネットワークとは、例えば、ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network:以下、DNNと呼ぶ)、や畳み込みニューラルネットワーク(Convolution Neural Network:以下、CNNと呼ぶ)などの機械学習モデルである。多層化のネットワークに対する学習は、多層化のネットワークにおける複数のパラメータを調整することに相当する。上記複数の第2超音波データと複数の第2超音波データ各々における頸動脈のIMTとは、多層化のネットワークに対するトレーニングデータ(学習用データ)に相当する。
【0029】
なお、機械学習の対象となるモデルは、多層化のネットワークに限定されず、学習済みモデルに対する入出力の関係を維持できれば、任意のモデルが使用可能である。運用時において学習済みモデルに入力される第1超音波データがBモード画像である場合、学習時において用いられる第2超音波データはBモード画像となる。また、学習時において用いられる頸動脈のIMTすなわち正解データは、例えば、頸動脈のトレースラインと最大位置とを有する。なお、正解データは、IMTの最大値をさらに有していてもよいし、頸動脈のトレースラインのみであってもよい。正解データは、第2超音波データにおいて、トレースラインおよび最大位置等が医師等により指定されたデータに相当する。学習済みモデルの生成に関する処理(以下、モデル生成処理と呼ぶ)については、後程説明する。
【0030】
画像メモリ83は、例えば、プロセッサにより読み取り可能な半導体メモリ等の記録媒体等を有する。画像メモリ83は、例えば、キャッシュメモリにより実現される。画像メモリ83は、入力装置3を介して入力されるフリーズ操作直前の複数フレームに対応する各種画像のデータを保存する。具体的には、画像メモリ83は、シネ表示を行なうために、フリーズボタンが押下された瞬間から所定の過去の期間に亘る複数フレームの超音波画像を、他のデータで上書きされないように記憶する。なお、内部記憶回路81と画像メモリ83とは、一つの記憶装置として統合されてもよい。
【0031】
通信インタフェース85は、ネットワークを介して外部装置と接続される。通信インタフェース85は、ネットワークを介して、外部装置との間でデータ通信を行う。外部装置は、例えば、各種の医用画像のデータを管理するシステムである医用画像管理システム(PACS(Picture Archiving and Communication System)、医用画像が添付された電子カルテを管理する電子カルテシステム等である。なお、外部装置との通信の規格は、如何なる規格であっても良いが、例えば、DICOM(Digital Imaging and COmmunications in Medicine)が挙げられる。
【0032】
処理回路87は、例えば、超音波診断装置100の中枢として機能するプロセッサである。処理回路87は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサとROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。また、処理回路87は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、や単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されてもよい。
【0033】
処理回路87は、例えば、システム制御機能871、取得機能873、検出機能875、および画像処理機能877などの各種機能を有する。処理回路87は、内部記憶回路81に記憶されている各種プログラムを自身のメモリに展開して実行することで、当該プログラムに対応するシステム制御機能871、取得機能873、検出機能875、および画像処理機能877を実行する。なお、プログラムは、内部記憶回路81に保存される代わりに、当該プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、当該プロセッサは、当該回路内に組み込まれたプログラムを読み出して実行することで上記機能を実現する。
【0034】
システム制御機能871、取得機能873、検出機能875、および画像処理機能877をそれぞれ実行する処理回路87は、システム制御部、取得部、検出部、画像処理部に相当する。なお、システム制御機能871、取得機能873、検出機能875、および画像処理機能877各々は、単一の処理回路で実現される場合に限らない。複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより、システム制御機能871、取得機能873、検出機能875、および画像処理機能877を実現するものとしても構わない。
【0035】
処理回路87は、システム制御機能871により、超音波診断装置100の入出力等の基本動作を制御する。システム制御機能871が実行されると、処理回路87は、例えば入力装置3を介して、各種スキャンモードの入力を受け付ける。処理回路87は、受け付けたスキャンモードに応じ、各種超音波スキャンを実行し、各種超音波画像を生成する。例えば、スキャンモードがBモードである場合、処理回路87は、超音波送信回路71、超音波受信回路73、Bモード処理回路75、及び画像生成回路79を制御し、フレーム単位でBモード画像に対応する第1超音波データを生成する。
【0036】
処理回路87は、取得機能873により、被検体Pの頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得する。具体的には、処理回路87は、リアルタイム表示モードにおいて入力装置3を介してフリーズ操作が入力されると、表示装置5に表示された第1超音波データを取得する。処理回路87は、フリーズ操作の入力を契機として、内部記憶回路81から学習済みモデルを取得する。なお、処理回路87は、フリーズ操作の入力の代わりに、被検体Pの頸動脈のIMTを検出する指示(以下、IMT計測指示と呼ぶ)の入力を契機として、表示装置5に表示された第1超音波データを取得してもよい。また、学習済みモデルが処理回路87自身のメモリに記憶されている場合、処理回路87は、フリーズ操作の入力等を契機として、自身のメモリから学習済みモデルを取得する。
【0037】
処理回路87は、検出機能875により、学習済みモデルに第1超音波データを入力することで、当該学習済みモデルにより、第1超音波データにおける頸動脈のIMTを検出する。具体的には、処理回路87は、被検体PのBモード画像を第1超音波データとして学習済みモデルに入力することで、当該Bモード画像における頸動脈のトレースラインとIMTの最大値の位置とを検出する。学習済みモデルからの出力は、例えば、入力されたBモード画像における頸動脈のトレースラインの座標と当該トレースラインにおける最大位置の座標となる。処理回路87は、トレースラインの座標と最大位置の座標とに基づいて、当該トレースラインにおけるIMTの最大値を計算する。なお、学習済みモデルは、当該トレースラインにおけるIMTの最大値を出力してもよい。また、処理回路87は、学習済みモデルから出力されたトレースラインの座標と、トレースラインにおけるIMTの最大値と、当該トレースラインにおける当該最大位置の座標とを、学習済みモデルに入力された第1超音波データと関連づけて内部記憶回路81に記憶させてもよい。
【0038】
なお、処理回路87は、検出機能875により、被検体PのBモード画像を第1超音波データとして学習済みモデルに入力することで、当該Bモード画像における頸動脈のトレースラインを出力し、出力されたトレースラインの座標に基づいて、トレースラインにおけるIMTの最大位置の座標を検出してもよい。このとき、学習済みモデルからの出力は、入力されたBモード画像における頸動脈のトレースラインの座標のみとなる。処理回路87は、学習済みモデルから出力されたトレースラインの座標に基づいて、当該トレースラインに沿った複数のIMTを検出する。次いで、処理回路87は、検出された複数のIMTに基づいてIMTの最大値を検出し、検出された複数のIMTの座標と検出された最大値とに基づいて、当該最大位置の座標とを検出する。
【0039】
処理回路87は、画像処理機能877により、検出機能875により検出されたトレースラインと、トレースラインにおけるIMTの最大位置とを、第1超音波データに対応するBモード画像に重畳する。具体的には、処理回路87は、学習済みモデルから出力されたトレースラインの座標と最大位置の座標とを所定の表示態様でBモード画像に重畳することにより、重畳画像を生成する。所定の表示態様とは、例えば、太線や破線、所定の色相などである。処理回路87は、生成された重畳画像とIMTの最大値とを、表示装置5に出力する。処理回路87は、重畳画像を、IMTの最大値とともに表示装置5に表示させる。なお、重畳画像の生成に関する処理は、学習済みモデルに組み込まれてもよい。このとき、学習済みモデルは、検出機能875において、第1超音波データの入力により、重畳画像を出力する。なお、処理回路87は、検出機能875により検出されたトレースラインと、トレースラインにおけるIMTの最大位置とを、表示装置5に表示されたBモード画像に重畳してもよい。また、処理回路87は、画像生成回路79により実行される各種画像処理を、適宜実行してもよい。
【0040】
以下、IMT検出処理について、
図3を用いて説明する。
図3は、IMT検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。説明を具体的にするために、学習済みモデルは、被検体Pの頸動脈に関するBモード画像を第1超音波データとして入力し、当該Bモード画像における頸動脈のトレースラインの座標と最大位置の座標とを出力するものとする。加えて、学習済みモデルへのBモード画像の入力は、リアルタイム表示モードにおけるフリーズ操作を契機として実行されるものとする。
【0041】
(IMT検出処理)
(ステップS301)
被検体Pに対する超音波の送受信により、Bモード処理回路75は、BモードRAWデータを生成し、生成されたBモードRAWデータをRAWデータメモリに記憶する。画像生成回路79は、RAWデータメモリから読み出されたBモードRAWデータに基づいて、Bモード画像を生成する。表示装置5は、Bモード画像を表示する。なお、シネ表示モードが実行されている場合、本ステップにおいて、表示装置5は、スクロール操作に応じたシネめくりにより、Bモード画像を表示する。
【0042】
(ステップS302)
入力装置3を介してフリーズ操作が実行される(ステップS302のYes)と、ステップS303の処理が実行される。入力装置3を介してフリーズ操作が実行されなければ、(ステップS302のNo)と、ステップS301の処理が実行される。なお、シネ表示モードが実行されている場合、入力装置3を介してIMT計測指示が入力(例えば、IMT計測開始用のボタンの押下)されると、ステップS303に処理が実行される。また、シネ表示モードが実行されている場合、本ステップにおいて入力装置3を介してIMT計測指示が入力されなければ、ステップS301において上述したシネめくりが実行される。
【0043】
(ステップS303)
処理回路87は、取得機能873により、表示装置5に表示されているBモード画像を、内部記憶回路81または画像メモリ83から取得する。処理回路87は、内部記憶回路81から学習済みモデルを読み出す。
【0044】
(ステップS304)
処理回路87は、検出機能875により、取得されたBモード画像を学習済みモデルに入力する。これにより、処理回路87は、学習済みモデルからトレースラインの座標と最大位置の座標とを出力する。処理回路87は、最大位置の座標に基づいて、IMTの最大値を計算する。なお、処理回路87は、トレースラインに沿った複数のIMTの平均値などを計算してもよい。
【0045】
(ステップS305)
処理回路87は、画像処理機能877により、トレースラインの座標と最大位置の座標とを用いて、トレースラインと最大位置とを所定の表示態様で、取得されたBモード画像に重畳する。これにより、処理回路87は、重畳画像を生成する。
【0046】
(ステップS306)
表示装置5は、生成された重畳画像を、IMTの最大値とともに表示する。
図4は、表示装置5に表示された重畳画像SIの一例を示す図である。
図4では、重畳画像SIにおけるBモード画像として、右総頸動脈が表示されている。重畳画像SIには、右総頸動脈の近位壁と遠位壁とにおいて、IMTに関するトレースラインTLが点線で表示されている。また、重畳画像SIには、IMTの最大値や平均値が表示される。
【0047】
(ステップS307)
入力装置3を介してIMTの計測の終了指示が入力される(ステップS307のYes)と、IMT検出処理は終了する。入力装置3を介してIMTの計測の終了指示が入力されない場合(ステップS307のNo)と、ステップS301以降の処理が繰り返される。
【0048】
以下、学習済みモデルの生成に関するモデル生成処理について、
図5を用いて説明する。
図5は、モデル生成処理において、多層化のネットワークMLNを学習させるデータの入出力の一例を示す図である。学習済みモデルの生成は、例えば、本超音波診断装置100とは異なる学習装置により実行される。学習装置は、スタンドアローン(独立)型のコンピュータや、ネットワーク上に設けられたサーバ等により実現される。また、学習装置に搭載されたメモリや記憶装置、または学習データ保管装置には、上記トレーニングデータが記憶されているものとする。
【0049】
以下、説明を具体的にするために、トレーニングデータとして多層化のネットワークMLNに入力される複数の第2超音波データは、例えば、信号対雑音比(signal-to-noise ratio:以下、S/N比と呼ぶ)が所定閾値未満である超音波データ(以下、多ノイズデータと呼ぶ)と、プラークを有する頸動脈またはプラークを有さない頸動脈に関する超音波データ(以下、プラーク有無データと呼ぶ)と、プラークの厚みが血流方向に沿った位置に応じて異なる超音波データ(以下、厚み相違データと呼ぶ)と、分岐部分を有する頸動脈または分岐部分を有さない頸動脈に関する超音波データ(以下、分岐有無データと呼ぶ)と、超音波による走査断面と頸動脈とが非平行である超音波データ(以下、非平行データと呼ぶ)であるものとして説明する。なお、第2の超音波データは、プラーク有無データと、厚み相違データと、分岐有無データと、非平行データとのうち少なくとも一つを有していてもよい。
【0050】
図6は、学習済みモデルの生成において用いられる多ノイズデータNDの一例を示す図である。
図6に示すように多ノイズデータNDは、頸動脈CAを示すBモード画像において、靄のような多ノイズを有する。
図6に示す多ノイズデータNDに対応する正解データは、
図6に示す頸動脈CAのトレースラインTLと最大位置MPとを有する。
【0051】
図7は、学習済みモデルの生成において用いられるプラーク有無データのうちプラークを有さない頸動脈CAに関する超音波データNPDの一例を示す図である。
図7に示すように、超音波データNPDは、頸動脈CAに関するプラークの領域を有さない。
図7に示す超音波データNPDに対応する正解データは、
図7に示す頸動脈CAのトレースラインTLと最大位置MPとを有する。
【0052】
図8は、学習済みモデルの生成において用いられるプラーク有無データのうちプラークPLを有する頸動脈CAに関する超音波データPEDの一例を示す図である。
図8に示すように、超音波データPEDは、頸動脈CAに関するプラークPLの領域を有する。
図8に示す超音波データPEDに対応する正解データは、
図8に示す頸動脈CAのトレースラインTLと最大位置MPとを有する。
【0053】
図9は、学習済みモデルの生成において用いられる厚み相違データPPDの一例を示す図である。
図9に示すように、厚み相違データPPDにおいて、プラークPLの厚みは、血流方向BFDに沿った位置に応じて異なる。
図9に示す厚み相違データPPDに対応する正解データは、
図9に示す頸動脈CAのトレースラインTLと最大位置MPとを有する。
【0054】
図10は、学習済みモデルの生成において用いられる分岐有無データのうち分岐部分BPを有する頸動脈CAに関する超音波データBPDの一例を示す図である。
図10に示すように、超音波データBPDにおいて、頸動脈CAは、分岐部分BPを有する。
図10に示す超音波データBPDに対応する正解データは、
図10に示す頸動脈CAのトレースラインTLと最大位置MPとを有する。
【0055】
図11は、学習済みモデルの生成において用いられる非平行データNPADの走査断面(被走査領域)SSと頸動脈CAとの位置関係の一例を示す図である。
図11に示すように、非平行データNPADにおいて、頸動脈CAの両端部は、走査断面SSから外れている。なお、非平行データNPADにおいて、頸動脈CAの一端が、走査断面SSから外れていてもよい。
図11に示す非平行データNPADに対応する正解データは、
図11に示す頸動脈CAのトレースラインと最大位置とを有する。
【0056】
なお、多ノイズデータは、多くのノイズが重畳されている頸動脈のBモード画像であれば、いずれのデータであってもよい。また、第2超音波データは、非平行データと、プラーク有無データと、厚み相違データと、分岐有無データと、多ノイズデータとのうち少なくとも2つが組み合わされたデータであってもよい。
【0057】
(モデル生成処理)
図5に示すように、
図6乃至
図11に示すような第2超音波データが、多層化のネットワークMLNに入力される。学習装置は、多層化のネットワークMLNからの出力データと、多層化のネットワークMLNに入力された第2超音波データに対応する正解データとを差分する。学習装置は、当該差分(誤差)が略0となりように、多層化のネットワークMLNにおける複数のパラメータを、例えば、誤差逆伝搬法により調整する。学習装置は、複数のパラメータが調整された多層化のネットワークMLNに対して、当該調整に用いられた第2超音波データと異なる第2超音波データを入力する。以下同様にして、学習装置は、多層化のネットワークMLNにおける複数のパラメータをさらに調整する。多層化のネットワークMLNに対する学習処理は、例えば非特許文献1等に記載されている既存の方法を適宜利用することができるため、説明は省略する。
【0058】
以上に述べた実施形態に係る装置の一例としての超音波診断装置100によれば、被検体Pの頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得し、複数の第2超音波データ各々における頸動脈のIMTと複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに第1超音波データを入力することで、第1超音波データにおける頸動脈のIMTを検出することができる。複数の第2超音波データは、超音波による走査断面SSと頸動脈とが非平行である超音波データ(非平行データNPAD)と、プラークを有する頸動脈またはプラークを有さない頸動脈に関する超音波データ(プラーク有無データ)と、プラークの厚みが頸動脈の血流方向BFDに沿った位置に応じて異なる超音波データ(厚み相違データPPD)と、分岐部分BPを有する頸動脈または分岐部分BPを有さない頸動脈に関する超音波データ(分岐有無データ)と、S/N比が所定閾値未満である超音波データ(多ノイズデータ)と、を有する。なお、第2の超音波データは、プラーク有無データと、厚み相違データと、分岐有無データと、非平行データとのうち少なくとも一つを有していてもよい。
【0059】
具体的には、第1超音波データおよび第2超音波データは、Bモード画像に対応する。実施形態に係る超音波診断装置100によれば、学習済みモデルにより、第1超音波データにおける頸動脈の血管壁のトレースラインとIMTの最大値の位置とを検出し、検出されたトレースラインと最大値の位置とを、第1超音波データに対応するBモード画像に重畳することにより、重畳画像SIを生成することができる。
【0060】
以上のことから、実施形態に係る超音波診断装置100によれば、IMTの計測時において、IMTの計測範囲を指定することなく、簡便な操作で、IMTを検出することができ、重畳画像SIを表示装置5に表示することができる。これにより、本装置によれば、IMTの計測に関する検査のスループット(操作性)を向上させることができる。加えて、
図6乃至
図11に示すような第2音波波データをトレーニングデータとして用いて、IMT検出処理に用いられる学習済みモデルが生成されるため、IMTの計測に関するトレースラインおよび最大位置等の検出精度を向上させることができる。
【0061】
(応用例)
本応用例における第1超音波データおよび第2超音波データは、ボリュームデータである。このため、本応用例における習済みモデルは、実施形態における学習済みモデルと異なる。第1超音波データに対応するボリュームデータは、被検体Pに対する超音波の送受信により、画像生成回路79により生成される。応用例における学習済みモデルは、第1超音波データに対応するボリュームデータが入力されると、入力されたボリュームデータにおける複数の断面各々の頸動脈の血管壁のトレースラインとIMTの最大位置とを出力する。複数の断面は、例えば、頸動脈の短軸断面に直交し、頸動脈の芯線の少なくとも一部を含む画像である。
【0062】
具体的には、複数の断面は、ボリュームデータにおける1つの被走査領域に対応する基準面と、当該基準面を芯線周りに所定の角度で回転させた複数の面(以下、回転面と呼ぶ)とに対応する。基準面に対応する断面画像は、例えば、超音波プローブ1の直下における頸動脈の長軸に沿ったBモード画像に相当する。回転面に対応するBモード画像は、頸動脈の長軸に沿ったMPR画像に対応する。
【0063】
以下、説明を具体的にするために、複数の断面は、3つの断面(以下、3断面と呼ぶ)であるものとする。3断面は、基準面と2つの回転面とに対応する。また、所定の角度は、120°と240°とであるものとする。これらの場合、複数の断面における画像は、基準面におけるBモード画像と、基準面から芯線に周りに120°および240°をそれぞれ回転させた2つの回転面に対応する2つのBモード画像となる。
【0064】
処理回路87は、取得機能873により、リアルタイム表示モードにおいて入力装置3を介してフリーズ操作が入力されると、表示装置5に表示されたBモード画像(またはMPR画像)に関するボリュームデータを、第1超音波データとして取得する。なお、処理回路87は、IMT計測指示の入力を契機として、表示装置5に表示されたBモード画像(またはMPR画像)に関するボリュームデータを取得してもよい。
【0065】
処理回路87は、検出機能875により、第1超音波データに対応するボリュームデータを学習済みモデルに入力することで、当該学習済みモデルにより、3断面(基準面と2つの回転面)各々におけるトレースラインとIMTの最大位置とを検出する。学習済みモデルからの出力は、3断面における頸動脈のトレースラインの座標と当該トレースラインにおける最大位置の座標となる。処理回路87は、3断面における断面各々におけるトレースラインの座標と最大位置の座標とに基づいて、当該トレースラインにおけるIMTの最大値を計算する。
【0066】
処理回路87は、画像処理機能877により、MPR処理を用いて3断面のうち2つの回転面に対応する2つのBモード画像を生成する。処理回路87は、検出機能875により検出されたトレースラインと、トレースラインにおけるIMTの最大位置とを、3断面各々に対応するBモード画像に重畳する。具体的には、処理回路87は、学習済みモデルから出力されたトレースラインの座標と最大位置の座標とを、3断面のBモード画像各々に所定の表示態様で重畳することにより、3つの重畳画像を生成する。処理回路87は、生成された3つの重畳画像とIMTの最大値とを、表示装置5に出力する。処理回路87は、3つの重畳画像を、IMTの最大値とともに表示装置5に表示させる。なお、3つの重畳画像の生成に関する処理は、学習済みモデルに組み込まれてもよい。このとき、学習済みモデルは、検出機能875において、第1超音波データの入力により、3つの重畳画像を出力する。
【0067】
以下、本応用例におけるIMT検出処理について、
図12を用いて説明する。
図12は、IMT検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0068】
(IMT検出処理)
(ステップS1201)
被検体Pに対する超音波の送受信により、Bモード処理回路75は、BモードRAWデータを生成し、生成されたBモードRAWデータに基づいてボリュームデータを生成する。Bモード処理回路75は、生成されたボリュームデータを、内部記憶回路81に記憶させる。他の処理は、ステップS301と同様なため、説明は省略する。
【0069】
(ステップS1202)
入力装置3を介してフリーズ操作が実行される(ステップS1202のYes)と、ステップS1203の処理が実行される。入力装置3を介してフリーズ操作が実行されなければ、(ステップS1202のNo)と、ステップS1201の処理が実行される。他の処理は、ステップS302と同様なため、説明は省略する。
【0070】
(ステップS1203)
処理回路87は、取得機能873により、表示装置5に表示されているBモード画像に対応するボリュームデータを、内部記憶回路81から取得する。処理回路87は、内部記憶回路81から学習済みモデルを読み出す。処理回路87は、画像処理機能877により、3断面に対応する3つのBモード画像を生成する。
【0071】
(ステップS1204)
処理回路87は、検出機能875により、取得されたボリュームデータを学習済みモデルに入力する。これにより、処理回路87は、学習済みモデルから3断面各々におけるトレースラインの座標と最大位置の座標とを出力する。他の処理は、ステップS304と同様なため、説明は省略する。
【0072】
(ステップS1205)
処理回路87は、画像処理機能877により、トレースラインの座標と最大位置の座標とを用いて、トレースラインと最大位置とを所定の表示態様で、生成された3つのBモード画像に重畳する。これにより、処理回路87は、3つの重畳画像を生成する。
【0073】
(ステップS1206)
表示装置5は、生成された3つの重畳画像を、IMTの最大値とともに表示する。本応用例においては、
図4に示すようなBモード画像が、3断面について表示される。他の処理は、ステップS306と同様なため、説明は省略する。
【0074】
(ステップS1207)
入力装置3を介してIMTの計測の終了指示が入力される(ステップS1207のYes)と、IMT検出処理は終了する。入力装置3を介してIMTの計測の終了指示が入力されない場合(ステップS1207のNo)と、ステップS1201以降の処理が繰り返される。
【0075】
(モデル生成処理)
本応用例に関するモデル生成処理について、
図5を用いて説明する。トレーニングデータとして多層化のネットワークMLNに入力される複数の第2超音波データは、多ノイズデータを有するボリュームデータと、プラーク有無データを有するボリュームデータと、厚み相違データを有するボリュームデータと、分岐有無データを有するボリュームデータと、非平行データを有するボリュームデータである。また、第2超音波データは、非平行データと、プラーク有無データと、厚み相違データと、分岐有無データと、多ノイズデータとのうち少なくとも2つを有するボリュームデータであってもよい。
【0076】
また、学習時において用いられる正解データは、第2超音波データであるボリュームデータにおける複数の断面(例えば、3断面)各々について、頸動脈の血管壁のトレースラインとIMTの最大位置とを有する。なお、正解データは、複数の断面各々におけるIMTの最大値をさらに有していてもよいし、複数の断面各々における頸動脈のトレースラインのみであってもよい。正解データは、第2超音波データであるボリュームデータに関する複数の断面各々におけるBモード画像において、トレースラインおよび最大位置等が医師等により指定されたデータに相当する。
【0077】
図5に示すように、
図6乃至
図11に示すようなデータを有するボリュームデータが、第2超音波データとして多層化のネットワークMLNに入力される。学習装置は、多層化のネットワークMLNからの出力データと、多層化のネットワークMLNに入力された第2超音波データに対応する正解データとを差分する。学習装置は、当該差分(誤差)が略0となりように、多層化のネットワークMLNにおける複数のパラメータを、例えば、誤差逆伝搬法により調整する。学習装置は、複数のパラメータが調整された多層化のネットワークMLNに対して、当該調整に用いられた第2超音波データと異なる第2超音波データを入力する。以下同様にして、学習装置は、多層化のネットワークMLNにおける複数のパラメータをさらに調整する。多層化のネットワークMLNに対する学習処理は、例えば非特許文献1等に記載されている既存の方法を適宜利用することができるため、説明は省略する。
【0078】
以上に述べた実施形態の応用例に係る装置の一例としての超音波診断装置100によれば、学習済みモデルにより、第1超音波データに対応するボリュームデータにおける複数の断面各々の頸動脈の血管壁のトレースラインとIMTの最大値の位置とを検出し、検出されたトレースラインと最大値の位置とを、複数の断面画像に対応する複数のBモード画像にそれぞれ重畳することにより、複数の重畳画像を生成することができる。これにより、本応用例によれば、学習済みモデルへのボリュームデータの入力により、複数の断面にそれぞれ対応し、IMTの計測結果(頸動脈の血管壁のトレースラインとIMTの最大位置)を有する複数の重畳画像を表示することができる。他の効果は、実施形態と同様なため説明は省略する。
【0079】
また、本実施形態の変形例として、装置は、例えば、医用画像処理装置、医用画像処理サーバ装置、ワークステーションまたはクラウドコンピューティングにより実現されてもよい。医用画像装置、医用画像処理サーバ装置、ワークステーションまたはクラウドコンピューティングは、例えば、
図1に記載の点線の枠9内の構成を有する。なお、装置が医用画像処理サーバ装置、ワークステーションまたはクラウドコンピューティングとして実現される場合、入力装置3と表示装置5とは、例えば、クライアント装置として、ネットワークに接続されてもよい。このとき、例えば、内部記憶回路81と、画像メモリ83と、通信インタフェース85と、処理回路87とは、ネットワーク上のサーバに搭載されてもよい。
【0080】
本実施形態および本応用例における技術的思想を医用画像処理プログラムなどのプログラムで実現する場合、プログラムは、コンピュータに、被検体Pの頸動脈に対して超音波を送受信して得られたBモードデータに基づく第1超音波データを取得し、複数の第2超音波データ各々における頸動脈の内膜中膜複合体厚と複数の第2超音波データとを用いて学習された学習済みモデルに第1超音波データを入力することで、第1超音波データにおける頸動脈の内膜中膜複合体厚を検出すること、を実現させる。例えば、病院情報システムにおけるPACSサーバや統合サーバ、超音波診断装置100などにおけるコンピュータに当該プログラムをインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても、IMT検出処理を実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。プログラムにおける処理手順および効果は、実施形態と同様なため、説明は省略する。
【0081】
以上説明した少なくとも1つの実施形態および変形例等によれば、頸動脈における内膜中膜複合体厚の計測において操作性および精度を向上することができる。
【0082】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 超音波プローブ
3 入力装置
5 表示装置
7 装置本体
9 医用画像処理装置、医用画像処理サーバ装置、またはクラウドコンピューティング
71 超音波送信回路
73 超音波受信回路
75 Bモード処理回路
77 ドプラ処理回路
79 画像生成回路
81 内部記憶回路
83 画像メモリ
85 通信インタフェース
87 処理回路
100 超音波診断装置
871 システム制御機能
873 取得機能
875 検出機能
877 画像処理機能