(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】創傷治癒の方法と組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20241112BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20241112BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241112BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241112BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241112BHJP
A61L 15/22 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20241112BHJP
A61L 15/62 20060101ALI20241112BHJP
A61P 17/02 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
A61K9/70 ZNA
A61K33/24
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61L15/22 100
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L15/32 310
A61L15/44 100
A61L15/62 100
A61P17/02
(21)【出願番号】P 2020089038
(22)【出願日】2020-05-21
(62)【分割の表示】P 2018085665の分割
【原出願日】2013-11-05
【審査請求日】2020-06-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-26
(32)【優先日】2012-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515121564
【氏名又は名称】インベッド バイオサイエンシズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アガーワル,アンキット
(72)【発明者】
【氏名】アボット,ニコラス エル.
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】井上 千弥子
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0189287(US,A1)
【文献】特表平5-503924(JP,A)
【文献】特表2012-515726(JP,A)
【文献】特表2007-521112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷活性ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートであって、
創傷活性ナノスケールポリマー層の中に
抗バイオフィルム剤を組み込まれた前記創傷活性ナノスケールポリマー層と、
前記創傷活性ナノスケールポリマー層に隣接する第2のポリマー層と、
を含み、
前記
抗バイオフィルム剤は、ガリウムイオン、ガリウムイオン塩、
又はガリウムイオンナノ粒
子から選択さ
れ、
前記抗バイオフィルム剤は、1-10μg/cm
2
の濃度で前記創傷活性ナノスケールポリマー層の中に組み込まれ、
前記第2のポリマー層は、溶解可能な犠牲的ポリマー層であり、
前記マイクロシートが表面に適用された場合、前記第2のポリマー層が水分に曝されると溶解し、前記表面上に前記ナノスケールポリマー層を残し、
前記創傷活性ナノスケールポリマー層はポリマー多層であり、
前記ポリマー多層は、少なくとも1つの正電荷の高分子電解質の層と少なくとも1つの負電荷の高分子電解質の層とを交互にすることによって形成される、創傷活性ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシート。
【請求項2】
前記創傷活性ナノスケールポリマー層は厚さ約0.5nm~1000nmである、請求項1に記載のマイクロシート。
【請求項3】
前記創傷活性ナノスケールポリマー層は、高分子電解質、脂質、タンパク質、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、多糖、ポリ酸無水物、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、及びその組合せ又はその断片からなる群より選択されるポリマーを含む、請求項1に記載のマイクロシート。
【請求項4】
前記少なくとも1つの正電荷の高分子電解質は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリL-リジン(PLL)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(ヒスチジン)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチ
ルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、及びキトサン等の天然又は合成多糖からなる群より選択され、
前記少なくとも1つの負電荷の高分子電解質は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、デキストランスルフェート、ポリ(メタ)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアスパラギン酸、及びポリグルタミン酸からなる群より選択される、請求項1に記載のマイクロシート。
【請求項5】
前記創傷活性ナノスケールポリマー層に組み込まれた前記
抗バイオフィルム剤は、前記
抗バイオフィルム剤が前記ナノスケールポリマー多層の層内に散在するように、前記ナノスケールポリマー多層に組み込まれる、請求項1に記載のマイクロシート。
【請求項6】
前記第2のポリマー層は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、又はポリビニルアセテート(PVAc)からなる群より選択される、ポリマーを含む、請求項1に記載のマイクロシート。
【請求項7】
請求項1に記載のマイクロシートを含む、医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷治癒を調節する方法と組成物に関する。詳しくは、本発明は、生物活性剤を含むナノスケールポリマー層と、犠牲的ポリマー層上に担持されるナノスケールポリマー層を含むマイクロシートとに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷の治療の主要目的は、創傷閉鎖を完了させることである。開放皮膚創傷は、創傷の一主要範疇を成し、例えば、熱創傷、化学的(特にアルカリ性)熱創傷から生じる創傷、肉体的外傷から生じる創傷、神経障害性潰瘍、褥瘡、静脈うっ血性潰瘍、及び糖尿病性潰瘍が挙げられる。開放皮膚創傷は、通常、次の6つの主要構成要素を含む過程によって治癒する:i)炎症、ii)線維芽細胞増殖、iii)血管増殖、iv)結合組織合成、v)上皮化、vi)創傷収縮。創傷治癒は、これらの構成要素が、個別的にか全体的にか、いずれにしても適正に機能しないときに、障害される。例えば、栄養障害、様々な原因による全身衰弱、創傷感染、前駆細胞の局所性欠乏、局所性及び/又は全身性薬剤(例えば、多くの化学療法剤、アクチノマイシン、及びステロイド)、反復性局所性外傷、糖尿病及び他の内分泌/代謝性疾患(例えば、クッシング病)、並びに高齢等、但し、それに限定されない多くの要因が創傷治癒に影響を与え得る(Hunt and Goodson,1988,Current Surgical Diagnosis & Treatment,Appleton & Lange,pp.86-98)。加えて、惹起の原因にかかわらず、大きさの広がった創傷は、表面の完全性を復元するために再上皮化しなければならない表面積が大きいため、特別な困難を呈する。
【0003】
創傷治癒が遅れると、糖尿病をもった対象に相当の罹患を引き起こす。糖尿病は、多くの器官に損傷を与える、グルコース代謝及びホメオスタシスの慢性疾患である。それは、米国では主要死亡原因の第8位である(Harris et al.,1987,Diabetes 36:523)。糖尿病をもった個人では、血管性疾患、神経障害、感染、及び反復性外傷によって四肢、特に足に病的変化が生じやすくなる。これらの病的変化は、最終的に慢性潰瘍につながり、切断を必要とする可能性がある。慢性創傷、及び病的又は調節不全となった治癒での創傷は、健康上の大きな負担及び医療財源の消耗を意味する。慢性創傷は、患者の肉体的及び精神的健康、生産性、罹患率、死亡率、及び治療費に大きな影響を与える。最も一般的なタイプの慢性創傷は、全身性疾患、例えば、糖尿病や、静脈性高血圧等の血管性障害によって、また、動かないことによって誘発される褥瘡によって引き起こされ、これらで全慢性創傷の70%を占める。慢性創傷の罹患率に関する統計は種々あるが、複数の研究の報告によると、人口の0.2%~1%が静脈性潰瘍を、0.5%が圧迫潰瘍を患っており、糖尿病をもつ人々の5%~10%が神経障害性潰瘍を経験している、とのことである。米国における慢性創傷の経済的影響は、こういった状況に関してだけでも、年間150億ドルを優に超えると見積もられている。人口が高齢化するにともない、糖尿病の症例は増加し、これら患者の慢性創傷に付随する問題の重大さも増すであろう。
【0004】
通常の創傷治癒は、線維芽細胞、血管性細胞、細胞外マトリックス、及び上皮細胞の間の調和的相互作用を含む極めて複雑な過程であり、その結果、炎症性反応、創傷修復、拘縮、及び上皮性関門による被覆を経る途切れない進行のようなものとなっている。しかしながら、多くの患者においては、局所性創傷環境又は全身性疾患又は他の要因のいずれかにより、創傷治癒過程が、非同時性(即ち、前の細胞的事象に付随する引き金機構との接続性の喪失)になり得て、閉鎖にまで進行することができず、慢性潰瘍という結果になる。
【0005】
容易に治癒しない創傷は、多額の財務費用だけでなく、相当な肉体的、感情的、及び社会的苦悩を対象に引き起こす(Richey et al.,1989,Annals of Plastic Surgery 23:159)。正しく治癒できず、感染する創傷は、実際、患部組織の切除を必要とすることがある。創傷及び創傷治癒機序に対する科学者の基本的な理解が進むに従い、多くの治療法が開発されてきた。
【0006】
創傷治癒の助けとなる最も一般的に用いられる従来方法は、創傷被覆材の使用を伴う。1960年代に、湿潤閉鎖性被覆材を使った創傷治癒が、概して、乾燥した非閉鎖性被覆材よりも効果的であるということが発見された時に、創傷の手当てにおける主要な飛躍的進展が起こった(Winter,1962,Nature 193:293)。今日、多くの種類の被覆材が日常的に用いられ、例えば、フィルム(例えば、ポリウレタンフィルム)、親水コロイド(ポリウレタン発泡体に結合した親水性コロイド性粒子)、ハイドロゲル(少なくとも約60%の水分を含有する架橋ポリマー)、発泡体(親水性又は疎水性)、アルギン酸カルシウム(アルギン酸カルシウム由来繊維の不織複合物)、及びセロファン(可塑剤を使ったセルロース)が挙げられる(Kannon and Garrett,1995,Dermatol.Surg.21:583;Davies,1983,Burns 10:94)。残念ながら、或る種の創傷(例えば、糖尿病性潰瘍、褥瘡)と、或る種の対象(例えば、外因性副腎皮質ステロイドの使用者)の創傷は、かかる被覆材の使用では、適時性をもって治癒しない(又は全く治癒しない)。
【0007】
また、いくつかの薬物療法が、創傷治癒を改善する試みの中で利用されてきた。例えば、医師の中には、硫酸亜鉛を伴う治療計画を利用したものもいる。しかしながら、これらの治療計画の有効性は、それが亜正常血清亜鉛レベルの効果(例えば、宿主抵抗性の減少や細胞内殺菌力の変化)を逆転させることに主に因るものとされてきた(Riley,1981,Am.Fam.Physician 24:107)。他のビタミン及びミネラル欠乏症状もまた創傷治癒の低下に関連づけられてきたが(例えば、ビタミンA、C、D、並びにカルシウム、マグネシウム、銅、及び鉄の欠乏症)、これらの物質の血清レベルをその通常のレベルよりも上に増加させることが創傷治癒を実際に向上させるという有力な証拠はない。こうして、非常に限られた状況において以外、これらの剤を用いた創傷治癒の促進は、殆ど成功を見ていない。
【0008】
調節不全創傷の治癒を促進するために用いられる現行の臨床的方法としては、機械的外傷からの創傷床の保護(例えば、副子固定、包帯法)、表面微生物負荷(創傷病原体(例えば、スルファジアジン銀)を広く阻害する抗生物質、抗菌ペプチド、バクテリオファージ、防腐剤、及び他の抗菌性化合物)の細かい調節と可溶性細胞活性因子(上皮成長因子-EGF、外因性細胞外マトリックス成分、例えばフィブロネクチンを例として、但し、それに限定されない成長因子等)の局所的適用との組合せ、創縁又は創傷床全体の外科的切除、並びに、組織皮弁及び/又は自家移植片、同種移植片、及び異種移植片の外科的配置、が挙げられる。これらの方法の全ては、最も難易度の高い創傷の多くでは、最適治癒条件を促進するまでに至らない。これらの伝統的方法の失敗の原因となっている主な要因は、多くの症例で症状が長引いた大きな原因であると示されてきた、創傷床自体の内因性化学/構造を、伝統的方法は変化させないという事実である。加えて、全ての創傷を治療するのに単一の要因又は一連の要因を用いる伝統的な方法は、創傷床自体に見られる大きな不均一性と、個々の分子の活性を頻繁に調節する一群のシグナル分子を含有する創傷自体の複雑な環境とのために、しばしば不充分である。
【0009】
広域スペクトル殺菌剤のうち、銀は、銀に対する菌耐性を発生させる可能性が非常に低いと考えられ、したがって、殺菌剤として継続的に使用することができるので、特に好都合であると考えられる。しかしながら、銀を殺菌剤として創傷治療に応用する現在利用可能な方法は、充分ではない。例えば、0.5%硝酸銀溶液は、創傷表面炎症を低減する有利な効果を提供する、局所的熱創傷治療法に標準的で人気のある剤である。しかしながら、かかる製剤は高濃度の銀を有し、残効性がなく、頻繁な適用(例えば、1日に12回まで)を必要とし、臨床の諸設定において物資調達業務上厳しい負担を強いる。0.5%硝酸銀溶液の使用を通して放出される銀イオンは、2時間以内に、塩化物によって化学複合体を形成し、急速に不活性となる。頻繁に被覆材を用いることはまた、多量に過剰な銀が創傷に送られる結果となり、創傷変色及び有毒作用を引き起こす(Dunn et al.,2004,Burns 30(supplement 1):S1;なお、この文献はその全体が参照によって本明細書に援用されるものとする)。加えて、硝酸は、創傷及び哺乳類細胞に有毒である。硝酸の亜硝酸塩への還元はさらに、酸化剤誘導性の損傷を細胞に引き起こし、これは、中間層熱傷又はドナー部位における硝酸銀溶液の使用に伴う再上皮化障害の、最も可能性の高い原因として言及される。
【0010】
クリーム製剤(例えば、フラマジン(Flammazine)(登録商標)、シルバデン(silvadene)(登録商標))におけるスルファジアジン銀等、銀化合物はまた、創傷治療に用いられてきた。しかしながら、かかる製剤もまた残効性を制限してきたということがあり、1日に2回適用しなければならない。かかる製剤に対しては菌耐性が発生し、再上皮化障害も観察されている。スルファジアジン銀には、主としてそのプロピレングリコール成分により、骨髄毒性が観察されている。
【0011】
加えて、いくつかの方法においては、銀自体が、別個の製剤として適用されるのではなく、被覆材の中に組み込まれる。銀を制御して持続的に創傷へ放出することにより、被覆材交換の頻度低下が可能となる。しかしながら、被覆材には大量の銀を含浸させなければならず、この結果、哺乳類細胞に細胞傷害が生じる。ナノ結晶銀を含有する市販の創傷被覆材(アクチコート(Acticoat)(商標))から放出される銀(Dunn et
al.,2004,Burns 30(supplement 1):S1;なお、この文献はその全体が参照によって本明細書に援用されるものとする)は、角化細胞及び線維芽細胞のin vitro単層細胞培養物に対して有毒である(Poon et al.,2004,Burns 30:140;Trop et al.,2006,J.Trauma 60:648;尚、各文献はその全体が参照により本明細書に援用されるものとする)。
【0012】
病的創傷の複雑な性質、及び、現行の治療法に基づく臨床面での有意義な進歩の欠如は、新しい従来にない方法に対する喫緊の必要性を示す。必要とされるのは、慢性重症創傷の治癒を向上させる安全で効果的で相互作用的な手段である。その方法は、創傷の種類、又は、対象が属する患者集団の性質にかかわらず適合可能であるべきである。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、創傷治癒の調節、生物医学デバイスの表面特性の調節、及び、皮膚を含む組織の表面特性の調節の方法及び組成物に関する。詳しくは、本発明は、創傷床の内因性化学的組成物及び/又は物理的属性を変化させることによって創傷治癒を促進し向上させることに関する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、物理的な属性(コンプライアンス、組織分布、電荷)を変化させる製剤と、抗菌性化合物並びに細胞外マトリックスやその他の足場材料及び細胞活性剤を結合して創傷に送達する架橋共有結合性修飾分子と、を提供する。加えて、本発明は、創傷表面に高分子電解質層(例えば、多層)を形成する逆帯電高分子電解質を利用する方法及び組成物を提供する。本発明は、水素結合等、但し、これに限定されない相互作用を通して創傷床に非帯電ポリマーを組み込むことにさらに関する。本発明の範囲は、ナノ粒子及びマイクロ粒子を創傷床に組み込んで創傷床の物理特性及び化学組成を操作することを含む。本発明は、創傷活性剤を高分子電解質層(例えば、多層)、ナノ粒子、又はマイクロ粒子に組み込んで創傷に送達することにさらに関する。いくつかの実施形態では、本発明は製剤を提供し、この製剤は、好ましくて安定したpH、表面電荷、表面エネルギー、浸透圧環境、創傷治癒に対する良好な電流電磁効果を高める表面官能性、一酸化窒素の供給、を促進し、細胞にエネルギー源を供給し、及び/又は、MMP/他のペプチダーゼ/プロテアーゼ活性の均衡を提供する。
【0014】
本発明は、殺菌性の高い、しかし、哺乳類細胞(角化細胞、神経細胞、血管内皮細胞、及び線維芽細胞)の成長と生存能力を支える選択的有毒性創傷活性剤、を含む組成物、方法、及びキットを提供することにさらに関する。好適実施形態では、創傷活性剤は、例えば、銀ナノ粒子等、但し、これに限定されない銀である。特に好適な実施形態では、本発明のいくつかの実施形態の銀担持量は、0.35~0.4μg/cm2である。銀(例えば、銀ナノ粒子)を含む本発明の高分子電解質多層薄膜は、対象(例えば、ヒト患者)の身体に部分的、直接的、間接的、又は完全に接触するデバイスへのコーティング等、但し、それに限定されない創傷治療及び感染予防に用途がある。
一実施形態では、本発明の組成物及び方法は、特定の患者の健康創傷の種類及び対象中の解剖学的位置に合わせてカスタマイズ可能な主要細胞要素の示差的調節を最終的に可能とするために、病的創傷床自体の界面化学及び構造を変化させることによって病的創傷の治癒を促進する方法を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、創傷床に因子を共有結合固定化することを可能とする。いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を有する対象に、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと、少なくとも1つの創傷活性剤が創傷に共有結合するような条件下で創傷を少なくとも1つの共有結合性修飾剤及び少なくとも1つの創傷活性剤に接触させることと、を含む治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、対象はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は非ヒト脊椎動物である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、均質二官能性(homobifunctional)架橋剤である。他の実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、異質二官能性(heterobifunctional)架橋剤である。例えば、いくつかの実施形態では、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(例えば、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコールビス(スクシンイミジルサクシネート)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジル-サクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、及びN,N’-ジスクシンイミジルカルボネートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、均質二官能性架橋剤は、1ナノモル~10ミリモルの濃度である。いくつかの好適実施形態では、均質二官能性架橋剤は、10マイクロモル~1ミリモルの濃度である。他の実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、異質二官能性架橋剤(例えば、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3’-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、及びp-ニトロフェニルヨードアセテートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、異質二官能性架橋剤は官能基で修飾され、水性溶媒中に可溶性となり、水性溶液として送達できるようになる。さらに、いくつかの実施形態では、水性溶液は、添加剤(例えば、界面活性剤及びブロックコポリマーが挙げられ、但し、これに限定されない)を含有する。他の実施形態では、多くの異質二官能性架橋剤は、分子、ポリマー、又は粒子に結合させて、架橋剤として用いることができる。他の実施形態では、異質二官能性架橋剤は、有機溶媒(例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられ、但し、これに限定されない)に溶解する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、及び抗癌剤が挙げられ、但し、これに限定されない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は1つ又は複数の遊離-SH基を含有する。
【0016】
本発明はまた、創傷を有する対象を治療するためのキットを提供し、キットは、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、少なくとも1つの創傷活性剤、及び、少なくとも1つの創傷活性剤を創傷に共有結合させるように使用するためのキットの説明書を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、均質二官能性架橋剤である。いくつかの実施形態では、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(例えば、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコールビス(スクシンイミジルサクシネート)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジル-サクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、及びN,N’-ジスクシンイミジルカルボネートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、異質二官能性架橋剤(例えば、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3’-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、及びp-ニトロフェニルヨードアセテートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は、例えば、限定するものではないが、栄養素(例えば、ポリペプチド成長因子、神経ペプチド、ニューロトロフィン、細胞外マトリックス、及びそれらの個々の天然成分(例えば、限定するのものではないが、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、また、創傷治癒に好ましい細胞挙動を促進すると知られているこれらのタンパク質に見い出される選ばれたアミノ酸配列、例えば、インテグリン結合配列、例えば、限定するものではないがRGD、EILDV、VCAM-1、及びその再結合又は合成類似体、酵素、酵素阻害薬、ポリペプチド、抗菌ペプチド(例えば、限定するものではないが、ディフェンシン、マガイニン(magaignins)、カテリシジン(cathelocidins)、バクテネシン(bactenicin))銀含有化合物(例えば、イオンの銀、元素の銀、銀ナノ粒子、及びその製剤)を含む抗感染剤、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、一酸化窒素の生成/安定化を促進する化合物、細胞のエネルギー源、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、及び抗癌剤が挙げられる。他の実施形態では、キットは、創傷治癒プロセスに資する細胞挙動を促進できる低分子干渉RNA(siRNAはまた、マイクロRNAとも称す)を含む。他の実施形態では、キットは、好ましいpH、浸透圧環境、表面エネルギー、表面電荷、創傷治癒に対する良好な電流電磁効果を高める表面機能性、又はMMP/他のペプチダーゼ/プロテアーゼ活性の均衡、を促進/安定化する化合物を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を有する対象に、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと、少なくとも1つの創傷活性剤が、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質及び少なくとも1つのアニオン性高分子電解質によって形成される高分子電解質層に組み込まれることによって創傷に共有結合するように、創傷を少なくとも1つのカチオン性高分子電解質及び少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、並びに少なくとも1つの創傷活性剤に接触させることと、を含む治療方法を提供する。いくつかの好適実施形態では、高分子電解質は、創傷上に連続的で反復的な層を成し、次いで、少なくとも1つの共有結合性修飾剤と少なくとも1つの創傷活性剤が添加される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質(例えば、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)、及びポリ(アリルアミン塩酸塩、並びに種々のアミン基を提供する、デンドリマー及び分岐ポリマー等、但し、これに限定されない)が高分子電解質層の最上層である。さらに、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質は、少なくとも1つの共有結合性修飾剤が少なくとも1つのカチオン性高分子電解質に結合することを可能にする第1級アミン基を含む。例えば、いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質はポリリジンであり、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質はポリグルタミン酸である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質(例えば、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ(ナトリウム4-スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(マレイン酸-コ-プロピレン)、ヒアルロン酸、コンドロイチン、及びポリ(ビニルスルフェート)が挙げられ、但し、これに限定されない)は、高分子電解質層の最上層である。一好適実施形態では、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質はポリグルタミン酸である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、異質二官能性架橋剤(例えば、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3’-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、及びp-ニトロフェニルヨードアセテートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は均質二官能性架橋剤である。いくつかの実施形態では、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(例えば、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジル-プロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコールビス(スクシンイミジルサクシネート)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルサクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、及びN,N’-ジスクシンイミジルカルボネートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、1ナノモル~10ミリモルの濃度であり得る。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、10マイクロモル~1ミリモルの濃度である。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(例えば、1nM~10mMの濃度の水性溶液中)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの修飾剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステルを含む。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は、ペプチド配列gly-arg-gly-asp-ser-pro-lysを含有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、第1の少なくとも1つのアニオン性又はカチオン性高分子電解質を、創傷床及び逆帯電した少なくとも1つのカチオン性又はアニオン性高分子電解質と接触させる前に、少なくとも1つの共有結合性修飾剤及び少なくとも1つの創傷活性剤と接触させる。いくつかの好適実施形態では、第1の少なくとも1つのアニオン性高分子電解質はポリグルタミン酸であり、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はN-ヒドロキシスクシンイミジルエステルであり、少なくとも1つの創傷活性剤は第1級アミン(例えば、ペプチド配列gly-arg-gly-asp-ser-pro-lysが挙げられ、但し、これに限定されない)を含有する。いくつかの好適実施形態では、第1の少なくとも1つのカチオン性高分子電解質は、ポリリジンであり、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートであり、少なくとも1つの創傷活性剤はペプチド配列gly-arg-gly-asp-ser-pro-cysを含有する。
【0019】
本発明は、創傷を有する対象を治療するキットをさらに提供し、キットは、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、少なくとも1つの創傷活性剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤を少なくとも1つのカチオン性高分子電解質とアニオン性高分子電解質によって形成される高分子電解質層に組み込むことによって創傷に共有結合させるようにキットを使用するための使用説明書を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤の組み込みは、高分子電解質の連続的で反復的な層を成し、続いて、少なくとも1つの共有結合性修飾剤及び少なくとも1つの創傷活性剤を添加することによって、達成する。他の実施形態では、第1の少なくとも1つのアニオン性又はカチオン性高分子電解質を、創傷床及び逆帯電した少なくとも1つのカチオン性又はアニオン性高分子電解質と接触させる前に、少なくとも1つの共有結合性修飾剤及び少なくとも1つの創傷活性剤と接触させる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質としては、ポリ(L-リジン)、ポリ(エチレンイミン)、及びポリ(アリルアミン塩酸塩)が挙げられ、但し、これに限定されない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質としては、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ(ナトリウム4-スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(マレイン酸-コ-プロピレン)、及びポリ(ビニルスルフェート)が挙げられ、但し、これに限定されない。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は均質二官能性架橋剤である。いくつかの実施形態では、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(例えば、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコールビス(スクシンイミジルサクシネート)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジル-サクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、及びN,N’-ジスクシンイミジルカルボネートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。他の実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤は異質二官能性架橋剤(例えば、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3’-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、及びp-ニトロフェニルヨードアセテートが挙げられ、但し、これに限定されない)である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤としては、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤(例えば、銀(例えば、イオンの銀、元素の銀、銀ナノ粒子、及びその製剤)が挙げられ、但し、これに限定されない)、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、並びに抗癌剤が挙げられ、但し、これに限定されない。
【0020】
本発明はまた、創傷を有する対象に、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つのDNA送達剤、及び少なくとも1つのDNA種を提供することと、少なくとも1つのDNA種が創傷に送達されるような条件下で創傷を少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つのDNA送達剤、及び少なくとも1つのDNA種に接触させることとを含む、治療方法を提供する。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つのDNA種としては、血管内皮成長因子及び/又は上皮成長因子をコードするDNAが挙げられ、但し、これに限定されない。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質はポリリジンである。いくつかの実施形態では、本方法は、創傷を追加的創傷活性剤(例えば、限定するものではないが、抗感染剤(例えば、イオンの銀、元素の銀、銀ナノ粒子、及びその製剤))に接触させることをさらに含む。
【0021】
本発明は、創傷を有する対象を治療するキットをさらに提供し、キットは、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つのDNA送達剤、少なくとも1つのDNA種、及び少なくとも1つのDNA送達剤と、少なくとも1つのカチオン性及びアニオン性高分子電解質によって形成される高分子電解質層とを用いて少なくとも1つのDNA種を創傷に送達するようにキットを使用するための説明書を含む。いくつかの実施形態では、キットは、追加的創傷活性剤(例えば、抗感染剤(例えば、イオンの銀、元素の銀、銀ナノ粒子、及びその製剤)が挙げられ、但し、これに限定されない)をさらに含む。
【0022】
本発明はまた、治療方法を提供し、方法は、創傷を有する対象に、カチオン性及びアニオン性高分子電解質混合物、脱保護剤、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;創傷を高分子電解質混合物と接触させて創傷上に高分子電解質層を形成することと;脱保護剤を高分子電解質層に適用して、脱保護された高分子電解質層を形成することと;少なくとも1つの共有結合性修飾剤を、脱保護された高分子電解質層に適用して、脱保護され修飾された高分子電解質層を形成することと;少なくとも1つの創傷活性剤が創傷に共有結合するような条件下で少なくとも1つの創傷活性剤を、脱保護され修飾された高分子電解質層に適用することと、を含む。いくつかの好適実施形態では、アニオン性及びカチオン性高分子電解質混合物は、ポリ乳酸及びポリ(イプシロン-CBZ-L-リジン)を80:20の比率で混合したものからなる。いくつかの実施形態では、脱保護は酸加水分解によって起こる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はSP3である。本発明はまた、少なくとも1つの創傷活性剤に曝すことが可能な活性基を含有する少なくとも1つの共有結合性修飾剤で官能化した脱保護された高分子電解質を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、脱保護された高分子電解質は、ポリ乳酸及びポリ(イプシロン-CBZ-L-リジン)を80:20の比率で混合したものからなる。一好適実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はSP3である。
【0023】
本発明はまた、治療法を提供し、方法は、創傷を有する対象に、カチオン性及びアニオン性高分子電解質混合物、脱保護剤、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、第1のポリペプチド、及び、第2のポリペプチドに結合した少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;創傷を高分子電解質混合物に接触させて、創傷上に高分子電解質層を形成することと;脱保護剤を高分子電解質層に適用して、脱保護された高分子電解質層を形成することと;少なくとも1つの共有結合性修飾剤を、脱保護された高分子電解質層に適用して、脱保護され修飾された高分子電解質層を形成することと;第1のポリペプチドを、脱保護され修飾された高分子電解質層に適用して、第1のポリペプチドを、脱保護され修飾された高分子電解質層に共有結合させることと;少なくとも1つの創傷活性剤が第1のポリペプチドと第2のポリペプチドの間の特異的なタンパク質結合によって創傷に結合するような条件下で、第2のポリペプチドに結合した少なくとも1つの創傷活性剤を、第1のポリペプチドに共有結合した脱保護され修飾された高分子電解質層に適用することと、を含む。いくつかの好適実施形態では、特異的なタンパク質結合は、ビオチンとポリペプチド(例えば、アビジン、ニュートラアビジン、及びストレプトアビジンが挙げられ、但し、これに限定されない)の間で起こる。他の好適実施形態では、特異的なタンパク質結合は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼとグルタチオンの間で起こる。さらに他の好適実施形態では、特異的なタンパク質結合はニッケル-ニトリロ三酢酸及びポリヒスチジンの間で起こる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はSP3である。
【0024】
本発明は、脱保護された高分子電解質を含む組成物をさらに提供し、この高分子電解質は少なくとも1つの共有結合性修飾剤で官能化したものであり、この修飾剤は第1のポリペプチドに結合したものであり、この第1のポリペプチドは、少なくとも1つの創傷活性剤に結合した第2のポリペプチドと特異的な結合によって相互作用するものである。いくつかの好適実施形態では、特異的な結合は、ビオチンとポリペプチド(例えば、アビジン、ニュートラアビジン、及びストレプトアビジンが挙げられ、但し、これに限定されない)の間で起こる。他の好適実施形態では、特異的な結合は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼとグルタチオンの間で起こる。さらに他の好適実施形態では、特異的なタンパク質結合は、ニッケル-ニトリロ三酢酸とポリヒスチジンの間で起こる。
【0025】
本発明はまた、治療方法を提供し、方法は、創傷を有する対象に、カチオン性及びアニオン性高分子電解質混合物、脱保護剤、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、アジド基を含有する少なくとも1つの分子、並びに、アルキン基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;創傷を高分子電解質混合物に接触させて、創傷上に高分子電解質層を形成することと;高分子電解質層に脱保護剤を適用して、脱保護された高分子電解質層を形成することと;脱保護された高分子電解質層に少なくとも1つの共有結合性修飾剤を適用して、脱保護され修飾された高分子電解質層を形成することと;脱保護され修飾された高分子電解質層に、アジド基を含有する少なくとも1つの分子を適用して、アジド基を含有する少なくとも1つの分子を、脱保護され修飾された高分子電解質層に共有結合させることと;アジド基を含有する少なくとも1つの分子に共有結合した脱保護され修飾された高分子電解質層に、アルキン基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤を適用して、少なくとも1つの創傷活性剤がクリック化学によって創傷に結合するようにすることと、を含む。いくつかの好適実施形態では、アジド基を含有する少なくとも1つの分子は、式H2N(CH2CH2O)2N3を有する。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤はL-プロパルギルグリシンである。いくつかの好適実施形態では、反応はCu(I)の存在下で実施する。
【0026】
本発明は、アルキン基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤にクリック化学によって結合する少なくとも1つのアジド基含有分子に結合した少なくとも1つの共有結合性修飾剤で官能化した脱保護された高分子電解質を含む組成物をさらに提供する。
【0027】
本発明は、創傷を有する対象を治療するキットをさらに提供し、キットは、カチオン性及びアニオン性高分子電解質混合物、脱保護剤、少なくとも1つの共有結合性修飾剤、少なくとも1つの創傷活性剤、及び創傷に接触した高分子電解質混合物の脱保護と、続く、少なくとも1つの共有結合性修飾剤及び少なくとも1つの創傷活性剤の添加によって、少なくとも1つの創傷活性剤を創傷に共有結合させるようにキットを使用するための説明書を含む。いくつかの好適実施形態では、高分子電解質混合物は、ポリ乳酸及びポリ(イプシロン-CBZ-L-リジン)を含む。いくつかの好適実施形態では、脱保護剤は、高分子電解質混合物の酸加水分解によって脱保護を引き起こす。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの共有結合性修飾剤はSP3である。いくつかの実施形態では、キットはまた、特異的なタンパク質結合によってお互いと相互作用する第1及び第2のポリペプチドを含有する。いくつかの好適実施形態では、第1のポリペプチドは、少なくとも1つの共有結合性修飾剤又は少なくとも1つの創傷活性剤のいずれかに結合し、第2のポリペプチドは他方の少なくとも1つの共有結合性修飾剤又は少なくとも1つの創傷活性剤に結合する。いくつかの好適実施形態では、第1のポリペプチドはビオチンであり、第2のポリペプチドはアビジン、ニュートラアビジン、又はストレプトアビジンである。いくつかの他の好適実施形態では、第1のポリペプチドはグルタチオン-S-トランスフェラーゼであり、第2のポリペプチドはグルタチオンである。さらに他の好適実施形態では、第1のポリペプチドはニッケル-ニトリロ三酢酸であり、第2のポリペプチドはポリヒスチジンである。いくつかの実施形態では、キットは、アルキン基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤がクリック化学によって創傷に結合できるように、脱保護の後に高分子電解質混合物に結合する、アジド基を含有する少なくとも1つの分子を含有する。
【0028】
本発明は、治療方法をさらに提供し、方法は、創傷を有する対象に、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つの修飾剤、及び、アミノ末端システイン残基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;少なくとも1つの創傷活性剤が天然型化学的ライゲーションによって創傷に結合するように、創傷を高分子電解質、少なくとも1つの修飾剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤に接触させることと、を含む。いくつかの好適実施形態では、高分子電解質は、創傷上に連続的で反復的な層を成す。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質(例えば、ポリグルタミン酸が挙げられ、但し、これに限定されない)は高分子電解質層の最上層である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの修飾剤は二塩化エチレン及びHSCH2Phである。
【0029】
本発明はまた、アミノ末端システイン残基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤との天然型化学的ライゲーションに曝すことのできる少なくとも1つの修飾剤で官能化される高分子電解質層を含む組成物を提供する。
【0030】
本発明はまた、創傷を有する対象を治療するためのキットを提供し、キットは、少なくとも1つのカチオン性高分子電解質、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質、少なくとも1つの修飾剤、アミノ末端システイン残基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤、及び創傷上に高分子電解質層を形成し、続いて、少なくとも1つの修飾剤と、天然型化学的ライゲーションによる少なくとも1つの創傷活性剤の結合とで治療を行うようにキットを使用するための説明書を含む。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つのアニオン性高分子電解質はポリグルタミン酸である。いくつかの好適実施形態では、少なくとも1つの修飾剤は二塩化エチレン及びHSCH2Phである。
【0031】
いくつかの実施形態では、本発明は、a)創傷を有する対象に、少なくとも1つの創傷修飾剤、及び少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;b)少なくとも1つの創傷修飾剤に創傷を接触させて、修飾された創傷床を提供することと;c)修飾された創傷床に少なくとも1つの創傷活性剤が組み込まれて創傷治癒が向上するような条件下で、修飾された創傷床を少なくとも1つの創傷活性剤に接触させることと、を含む治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、修飾された創傷床は、少なくとも1つの創傷活性剤に対して反応性のある官能化表面を提供するよう修飾される。いくつかの実施形態では、修飾された創傷床に創傷活性剤を適用して、勾配を形成する。いくつかの実施形態では、創傷修飾剤は、コンプライアンス、pH、アルカリ度、酸化的又は還元的力、正味電荷、親水性、浸透力、ナノスケール又はサブミクロンの組織分布的特徴、電気伝導度、MMP産生、食作用、及びトランスグルタミナーゼ活性からなる群より選択される創傷床の特性を変化させる。いくつかの実施形態では、コーティング、スプリンクリング、シーディング、エレクトロスピニング、スパッタリング、スタンピング、スプレーイング、ポンピング、ペインティング、スミアリング、及びプリンティングからなる群より選択される方法によって創傷修飾剤を創傷に適用する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷修飾剤は少なくとも1つの架橋剤である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、均質二官能性架橋剤、異質二官能性架橋剤、異質及び均質の多官能性架橋剤、及び光活性化可能架橋剤、及びその組合せからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、異質二官能性架橋剤はアルキン基を含む。いくつかの実施形態では、創傷修飾剤は少なくとも1つのポリマーを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーを創傷床に適用してポリマー多層を形成する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーは、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、両性ポリマー、及びその組合せからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、上記方法は、ポリマー多層を架橋剤に接触させて、少なくとも1つの創傷活性剤に対して反応性のある官能化表面を形成することをさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーは、担体上に予め形成した高分子電解質多層であり、高分子電解質多層を担体から創傷床へ移して、修飾された創傷床を形成することができるようにする。いくつかの実施形態では、担体はエラストマー担体である。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、厚さ1nm~250nmである。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、3~500kPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、創傷修飾剤は、ナノ粒子及びマイクロ粒子からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ナノ粒子及びマイクロ粒子を官能化する。いくつかの実施形態では、官能化されたビーズはメゾスコピック架橋剤である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、及び抗癌剤からなる群より選択される。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を有する対象を治療するキットを提供し、キットは、a)少なくとも1つの創傷修飾剤と、b)少なくとも1つの創傷活性剤と、c)創傷床を少なくとも1つの創傷修飾剤で処理して、修飾された創傷床を準備し、修飾された創傷床に創傷活性剤を組み込むようにキットを使用するための説明書とを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷修飾剤は、共有結合性修飾剤、少なくとも1つの高分子電解質、マイクロ粒子、ナノ粒子、及びその組合せからなる群より選択される。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明は治療方法を提供し、方法は、a)創傷を有する対象に、i)カチオン性及びアニオン性高分子電解質混合物、ii)脱保護剤、iii)少なくとも1つの共有結合性修飾剤、iv)アジド基又はアルキン基を含有する少なくとも1つの分子、及びv)アジド基又はアルキン基のうち上記とは別のほうを含有する少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと;b)創傷を高分子電解質混合物に接触させて、創傷上に高分子電解質層を形成することと;c)高分子電解質層に脱保護剤を適用して、脱保護された高分子電解質層を形成することと;d)脱保護された高分子電解質層に少なくとも1つの共有結合性修飾剤を適用して、脱保護され修飾された高分子電解質層を形成することと;e)脱保護され修飾された高分子電解質層に、アジド基又はアルキン基を含有する少なくとも1つの分子を適用して、アジド又はアルキン基を含有する分子を、脱保護され修飾された高分子電解質層に共有結合させることと;f)少なくとも1つの創傷活性剤がクリック化学によって創傷に結合するような条件下で、アジド基を含有する分子に共有結合した脱保護され修飾された高分子電解質層に、アジド基又はアルキン基のうち上記とは別のほうを含有する少なくとも1つの創傷活性剤を適用することと、を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、脱保護された高分子電解質を含む組成物を提供し、この電解質は少なくとも1つの共有結合性修飾剤で官能化したものであり、この修飾剤は、アジド基を含有する少なくとも1つの分子に結合したものであり、この分子は、アルキン基を含有する少なくとも1つの創傷活性剤にクリック化学によって結合したものである。
【0035】
いくつかの実施形態では、本発明は、a)創傷を有する対象に、複数の官能化されたビーズ、及び少なくとも1つの細胞活性因子を提供することと、b)少なくとも1つの細胞活性因子が少なくとも1つの官能化された生体適合性ビーズに結合するように、少なくとも1つの細胞活性因子を少なくとも1つの官能化された生体適合性ビーズに接触させることと、c)少なくとも1つの細胞活性因子に結合した少なくとも1つの官能化された生体適合性ビーズを、対象の創傷床に適用することと、を含む方法を提供する。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明は治療方法を提供し、方法は、a)創傷を有する対象に、少なくとも1つのポリマー、及び少なくとも1つの創傷活性剤を提供することと、b)ポリマー多層が創傷上に形成されるように少なくとも1つのポリマーを創傷に適用することと、c)少なくとも1つのポリマーの適用中に少なくとも1つの創傷活性剤をポリマー多層に組み込むことであって、少なくとも1つの創傷活性剤がポリマー多層の中に勾配を形成する、ことと、を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は、生体適合性材料から形成されるマトリックスを含む物品を提供し、マトリックスは少なくとも1つの創傷活性剤を含み、マトリックスは厚さが1~500nmであり、3~500kPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、マトリックスは官能化される。いくつかの実施形態では、生体適合性材料は、タンパク質及びポリマーからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリアニオン性ポリマー、ポリカチオン性ポリマー、無電荷ポリマー、両性ポリマー、及びその組合せからなる群より選択され、ポリマーは多層を形成する。いくつかの実施形態では、タンパク質は、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、コラーゲン、及びその組合せからなる群より選択される細胞外マトリックスタンパク質である。いくつかの実施形態では、マトリックスは、シリコーン、シロキサンエラストマー、ラテックス、ナイロン、ナイロンメッシュ、生物組織、絹、ポリウレタン、テフロン、ポリビニルアルコール膜、及びポリエチレンオキシド膜からなる群より選択される固体担体によって担持される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤を、勾配が形成されるようにマトリックス上に分布させる。いくつかの実施形態では、マトリックスは少なくとも部分的にペグ化される。いくつかの実施形態では、本発明は、上述の物品を対象の創傷に適用することを含む方法を提供し、物品は創傷の治癒を向上させるものである。いくつかの実施形態では、本発明は、上述の物品を無菌包装の中に含むキットを提供する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、上述の組成物及び方法は創傷治癒を向上させる。本発明は、創傷治癒は種々の方法で向上させ得ることを企図する。いくつかの実施形態では、本組成物及び方法は、機能及び美容術に最も好都合となるよう、創傷の拘縮を最小にする。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は、機能及び美容に最も好都合となるよう、創傷の拘縮を促進する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は血管新生を促進する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は血管新生を阻害する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は線維症を促進する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は線維症を阻害する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は上皮被覆を促進する。いくつかの実施形態では、本発明組成物及び方法は上皮被覆を阻害する。いくつかの実施形態では、本発明の組成物及び方法は、創傷の環境又は創傷の直近において細胞の1つ又は複数の特性を調節する。調節、例えば、増強又は低減をする特性としては、接着、移動、増殖、分化、細胞外マトリックス分泌、食作用、MMP活性、収縮、及びその組合せが挙げられ、但し、これに限定されない。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書で上又は他に記載する組成物のいずれをも用いて、創傷治癒を向上させ、あるいは、創傷の環境又は創傷の直近において細胞の1つ又は複数の特性を調節することができるようにする。いくつかの実施形態では、本発明は、創傷修飾剤及び創傷活性剤の組合せを用いて、創傷治癒を向上させ、創傷治癒を向上させ、あるいは、創傷の環境又は創傷の直近において細胞の1つ又は複数の特性を調節することができるようにする。いくつかの実施形態では、本発明は、上述の物品を用いて、創傷治癒を向上させ、あるいは、創傷の環境又は創傷の直近において細胞の1つ又は複数の特性を調節することができるようにする。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明は、少なくとも1つのポリマーを含むポリマー多層を含む物品又は組成物を提供し、ポリマー多層には、ナノスケール粒子及びマイクロスケール粒子からなる群より選択される粒子が会合している。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーは、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、両性ポリマー、及びその組合せからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は厚さが1nm~500nm、好ましくは1nm~250nmである。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、3kPa~500kPa、3kPa~10MPa、又は3kPa~5GPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー粒子である。いくつかの実施形態では、粒子は、球形、卵形、及び円筒形の粒子からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、粒子の直径は、ポリマー多層の厚さよりも大きい。
【0041】
いくつかの実施形態では、物品又は組成物は、少なくとも1つの創傷活性剤を組成物に会合させて含む。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、抗菌、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、及び抗癌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、ポリマー多層の中に分散する。いくつかの実施形態では、創傷活性剤はポリマー多層に共有結合的に会合する。いくつかの実施形態では、粒子は官能化される。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は粒子に結合する。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は粒子内に含有される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ポリマー層は担体上に配置される。いくつかの実施形態では、担体はポリマー担体である。いくつかの実施形態では、ポリマー担体は、ポリマー多層とは異なるポリマー組成物である。いくつかの実施形態では、ポリマー担体はエラストマーポリマーである。いくつかの実施形態では、ポリマー担体とポリマー多層は、水溶性材料によって分離される。いくつかの実施形態では、ポリマー担体は水溶性である。いくつかの実施形態では、水溶性担体はポリビニルアルコールを含む。いくつかの実施形態では、担体は創傷被覆材である。いくつかの実施形態では、担体は生物創傷被覆材である。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、溶液からの吸着、スピンコーティング、及びスプレーコーティングからなる群より選択される方法によって担体上に堆積する。
【0043】
いくつかの実施形態では、粒子は約0.5~約10GPaの弾性係数を有する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層の中に散在又は分散する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層の表面上に表れる。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層の下にある。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層と担体の間にある。いくつかの実施形態では、粒子は、ポリマー多層の表面上にあり、ポリマー多層の厚さよりも大きい直径を有し、物品はさらに抗菌性銀組成物を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明は、表面を修飾する方法を提供し、方法は、少なくとも1つのポリマーを含むポリマー多層に表面を接触させることを含み、ポリマー多層には、ナノスケール粒子及びマイクロスケール粒子からなる群より選択される粒子が、ポリマー多層が表面に移されるような条件下で会合する。いくつかの実施形態では、表面への移行を生じさせるために圧力をポリマー多層に適用する。いくつかの実施形態では、圧力は約10~約500kPaである。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は担体上に配置される。いくつかの実施形態では、担体は、厚さ約1マイクロメーター~約10mmである。いくつかの実施形態では、表面は創傷被覆材である。いくつかの実施形態では、創傷被覆材は生物創傷被覆材である。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、溶液からの吸着、スプレーイング、及びスピンコーティングからなる群より選択される方法によって担体上に堆積する。いくつかの実施形態では、担体はエラストマー担体である。いくつかの実施形態では、表面は、軟質又は柔軟な表面である。いくつかの実施形態では、軟質表面は約10~約100kPaの弾性係数を有する。いくつかの実施形態では、軟質表面は生物表面である。いくつかの実施形態では、生物表面は、皮膚、創傷床、毛髪、組織表面、及び器官表面からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、生物表面は、タンパク質、脂質、炭水化物、及びその組合せからなる群より選択される分子を含む。いくつかの実施形態では、表面は、グリコサミノグリカン、コラーゲン及び/又はヒアルロン酸を含む(例えば、これで被覆されるかこれを呈する)。いくつかの実施形態では、表面は生物医学デバイス上の表面である。いくつかの実施形態では、表面はシリコーン表面である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリマーは、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、両性ポリマー、及びその組合せからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、厚さ1nm~500nmである。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、3kPa~500kPa、3kPa~10MPa、又は3kPa~5GPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー粒子である。いくつかの実施形態では、粒子の直径は、ポリマー多層の厚さよりも大きい。いくつかの実施形態では、粒子は、球形、卵形、及び円筒形の粒子からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は少なくとも1つの創傷活性剤を含む。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、抗菌剤、成長因子、オリゴペプチド、糖、多糖、生物成分を含む合成分子、金属粒子、電極、磁性粒子、ハチミツ、及び抗癌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、創傷活性剤はポリマー多層の中に分散する。いくつかの実施形態では、創傷活性剤はポリマー多層に共有結合的に会合する。いくつかの実施形態では、粒子は官能化される。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は粒子に結合する。いくつかの実施形態では、粒子は約0.5~約10GPaの弾性係数を有する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層の中に分散する。いくつかの実施形態では、粒子はポリマー多層の表面に表れる。
【0045】
いくつかの実施形態では、移行は、溶液又は液体溶媒の実質的不存在下で行われる。いくつかの実施形態では、移行は、実質的又は完全に乾燥下での移行である。いくつかの実施形態では、移行は気相中で行われる。いくつかの実施形態では、移行は、湿度が100%の飽和より少ない環境で行われる。いくつかの実施形態では、移行は、液体水の不存在下で行われる。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明は、ポリマー多層1cm2当り約100~約500μgの量で抗菌性銀組成物を充填したポリマー多層、又は、放出可能抗菌性銀組成物を中に組み込んだポリマー多層を含む物品又は組成物を提供し、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.01及び100μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.05及び100μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.05及び20μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.05及び5μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.05及び2μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.05及び1μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、ポリマー多層1日1cm2当り約0.1~0.5μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は銀ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子はゼロ価銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、組成物は、少なくとも99.99%の皮膚常在菌(Staphylococcus epidermis)の死滅を提供する。いくつかの実施形態では、物品は創傷治癒を実質的に障害しない。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は、NIH-3T3細胞の少なくとも90%の生存率を可能にする。いくつかの実施形態では、生存率は、増殖培地の存在下、組成物上でNIH-3T3細胞を24時間インキュベーションにかけた後、評価される。いくつかの実施形態では、物品はフィルムである。いくつかの実施形態では、物品は3次元物体であり、その少なくとも一部はポリマー多層で被覆される。いくつかの実施形態では、3次元物体は医療デバイスである。
【0047】
いくつかの実施形態では、物品は、ポリマー担体、エラストマー担体、創傷ケアデバイス、創傷被覆材、及び生物創傷被覆材からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、医療デバイスは対象に部分的に接触する。いくつかの実施形態では、医療デバイスは対象に完全に移植される。いくつかの実施形態では、ポリマーの少なくとも1つはポリ(アリルアミン塩酸塩)を含む。いくつかの実施形態では、ポリマーの少なくとも1つはポリ(アクリル酸)を含む。いくつかの実施形態では、物品又は組成物は少なくとも1つの追加的抗菌剤をさらに含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を有する対象を提供することと、創傷を上述のような物品又は組成物に接触させることとを含む、創傷の治療方法を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明は、上述のような物品又は組成物と、物品を創傷に適用する要領とを含む、対象の創傷を治療するキットを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、キットは、追加的創傷被覆材材料をさらに含む。いくつかの実施形態では、創傷被覆材材料は生物創傷被覆材である。
【0050】
いくつかの実施形態では、本発明は、放出可能抗菌性銀組成物を含む固体担体を含む物品又は組成物を提供し、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1cm2当り1~約500μgの量で充填され、及び/又は、固体担体1日1cm2当り約0.01及び100μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、固体担体は、ポリマー担体、エラストマー担体、ナノ粒子、マイクロ粒子、創傷被覆材、及び生物創傷被覆材からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、1固体担体1日1cm2当り約0.05及び100μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1日1cm2当り約0.05及び20μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1日1cm2当り約0.05及び5μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1日1cm2当り約0.05及び2μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1日1cm2当り約0.05及び1μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、放出可能抗菌性銀組成物は、固体担体1日1cm2当り約0.1~0.5μgの量で放出可能である。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は銀ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子はゼロ価銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、物品は創傷治癒を実質的に障害しない。いくつかの実施形態では、物品又は組成物は少なくとも1つの追加的抗菌性剤をさらに含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を有する対象を提供することと、創傷を上述のような物品又は組成物に接触させることとを含む、創傷を治療する方法を提供する。
【0052】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を治療する組成物を合成する方法を提供し、方法は、a)ポリマーの交互層を組み立ててフィルム又はコーティングを形成することと、b)組み立ての間に抗菌性銀組成物をポリマーの交互層に組み込むことと、を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、本発明は、創傷を治療する組成物を合成する方法を提供し、方法は、a)ポリマーの交互層を組み立ててフィルム又はコーティングを形成することと、b)フィルム又はコーティングを銀塩のバルク溶液中でインキュベートすることと、c)フィルム又はコーティングを還元剤に曝すことと、d)0.01及び100μg/cm2の銀担持量レベルを有するフィルム又はコーティングを使用のために選択することと、を含む。いくつかの実施形態では、ポリマーの少なくとも1つは、ポリ(アリルアミン塩酸塩)を含有する溶液を含む。いくつかの実施形態では、ポリマーの少なくとも1つは、ポリ(アクリル酸)を含有する溶液を含む。いくつかの実施形態では、銀塩のバルク溶液は硝酸銀を含む。いくつかの実施形態では、硝酸銀溶液中Ag+の濃度は、0.005mM~5mMである。いくつかの実施形態では、ポリ(アクリル酸)溶液のpHは2.5~7.5である。
【0054】
いくつかの実施形態では、本発明は、固体担体と、固体担体によって担持されるポリマー多層とを提供し、ポリマー多層は少なくとも1つの創傷活性剤を含む。いくつかの実施形態では、物品は、固体担体とポリマー多層の間に水溶性材料をさらに含む。いくつかの実施形態では、固体担体はポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ポリマーはエラストマーポリマーである。いくつかの実施形態では、エラストマーポリマーはシリコンポリマーである。いくつかの実施形態では、シリコンポリマーは、ポリジメチルシロキサン及び医療グレードシリコーンからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、約1nm~500nmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、約3kPa~5GPa、好ましくは約3kPa~500kPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、ナノスケール~マイクロスケール粒子を中に組み込んで含む。いくつかの実施形態では、粒子は、ポリマー多層の厚さより大きい直径を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は抗菌性銀組成物である。いくつかの実施形態では、高分子電解質多層の銀担持量は抗菌性銀組成物cm2当り約0.01~500μgである。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は銀ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子はゼロ価銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は、リン酸ジルコニウムに担持される多価銀イオンを含む。いくつかの実施形態では、固体担体は、発泡体、透明薄膜、ハイドロゲル、ハイドロファイバー(hydrofiber)、親水コロイド、アルギネート繊維、及びその組合せからなる群より選択される材料を含む。いくつかの実施形態では、固体担体は、高吸水性ポリマー(SAP)、シリカゲル、ナトリウムポリアクリレート、カリウムポリアクリルアミド、及びその組合せからなる群より選択される材料を含む。いくつかの実施形態では、固体担体は吸収材料を含む。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、溶媒の実質的な不存在下で担体に移される。いくつかの実施形態では、吸収材料は織物、例えば、綿又はナイロンガーゼ、及びポリマー発泡体からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、吸収材料は、抗接着性材料を含む第1の表面を含む。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、抗接着性材料を含む第1の表面に堆積する。いくつかの実施形態では、吸収材料は、粘着性材料に固定された第2の表面を含む。いくつかの実施形態では、粘着性材料は、吸収材料の1つ又は複数の縁部から延在するような大きさとされ、吸収材料が対象の皮膚に曝されるようにされる。いくつかの実施形態では、物品は取り外し可能シートをさらに含み、物品は取り外し可能シートに取り外し可能に添付される。いくつかの実施形態では、物品は無菌包装に包装される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は約1nm~500nmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、約3~500kPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、中にナノスケール~マイクロスケール粒子を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は抗菌性銀組成物である。いくつかの実施形態では、高分子電解質多層の銀担持量は、抗菌性銀組成物cm2当り約0.01~500gである。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は銀ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子は、ゼロ価銀ナノ粒子及び多価銀イオン(リン酸ジルコニウムで担持された)からなる群より選択される。
【0055】
いくつかの実施形態では、固体担体は生物創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態では、生物創傷被覆材には、コラーゲン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、及びその組合せ又は断片からなる群より選択される生物分子を含む(例えば、これで被覆されるかこれを呈する)。いくつかの実施形態では、バイオポリマーはシリコーンフィルム上に担持される。いくつかの実施形態では、シリコーンフィルムは織物担体を含む。いくつかの実施形態では、織物担体はナイロン織物担体である。いくつかの実施形態では、ポリマー多層はシリコーンフィルム上に堆積する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は約1nm~500nmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は約3~500kPaのコンプライアンスを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、中にナノスケール~マイクロスケール粒子を組み込んで含む。いくつかの実施形態では、粒子は、ポリマー多層の厚さより大きい直径を有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの創傷活性剤は抗菌性銀組成物である。いくつかの実施形態では、高分子電解質多層の銀担持量は、抗菌性銀組成物cm2当り約0.01~500μgである。いくつかの実施形態では、抗菌性銀組成物は銀ナノ粒子を含む。いくつかの実施形態では、銀ナノ粒子は、ゼロ価及び多価銀ナノ粒子からなる群より選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートの製造方法を提供し、方法は、a)基材上に厚さ約0.5nm~1000nmのナノスケールポリマー層を形成することと、b)ナノスケールポリマー層に生物活性剤を導入して生物活性ナノスケールポリマー層を提供することと、c)生物活性ナノスケールポリマー層上に犠牲的ポリマー層を形成することであって、犠牲的ポリマー層は溶解可能であることと、を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートの製造方法を提供し、方法は、a)基材上に厚さ約0.5nm~1000nmのナノスケールポリマー層を形成することと、b)ナノスケールポリマー層に生物活性剤を導入して生物活性ナノスケールポリマー層を提供することと、c)生物活性ナノスケールポリマー層上に第2のポリマー層を形成することであって、第2のポリマー層は、ナノスケールポリマー層とは異なるポリマーから形成されることと、を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートの製造方法を提供し、方法は、a)基材上に厚さ約0.5nm~1000nmのナノスケールポリマー層を形成することと、b)ナノスケールポリマー層上にスピンコーティングによって第2のポリマー層を形成することであって、第2のポリマー層は、ナノスケールポリマー層とは異なるポリマーから形成されることと、を含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、生物活性剤は創傷活性剤である。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマーマトリックスはポリマー多層である。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマーマトリックスは、少なくとも1つの正電荷の電解質の層と少なくとも1つの負電荷の高分子電解質の層を交互にすることによって形成される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの正電荷の高分子電解質は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリL-リジン(PLL)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(ヒスチジン)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、及び、キトサン等の天然又は合成多糖からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの負電荷の高分子電解質は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、デキストランスルフェート、ポリ(メタクリル酸)、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアスパラギン酸、及びポリグルタミン酸からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、ポリマー多層は、ポリマー溶液を基材上にスプレーすること、基材をポリマー溶液に浸漬コーティングすること、又は、基材上にポリマー溶液をスピンコーティングすることからなる群より選択される方法によって、少なくとも1つの正電荷の電解質及び少なくとも1つの負電荷の高分子電解質を適用することによって形成される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの正電荷の電解質及び少なくとも1つの負電荷の高分子電解質は合成高分子電解質である。
【0058】
いくつかの実施形態では、生物活性剤は、生物活性剤がナノスケールポリマー層の3次元構造内に散在するように、ナノスケールポリマー層に組み込まれる。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、生物活性剤が層即ちポリマー多層内に散在するようにナノスケールポリマー多層に組み込まれる。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、成長因子、止血剤、生物活性ペプチド、生物活性ポリペプチド、鎮痛剤、抗凝固剤、抗炎症剤、及び薬物分子又は薬物化合物からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、荷電小分子抗菌剤、抗菌性ポリペプチド、金属粒子、及び金属イオン抗菌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、金属イオン抗菌剤は、金属イオン、金属イオン塩、又は金属イオンナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属イオンナノ粒子は銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、荷電小分子抗菌性剤は、クロルヘキシジン、抗生物質、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ヨウ素、カデキソマーヨウ素、ポビドンヨウ素(PVI)、過酸化水素、及び酢(酢酸)からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、金属イオン抗バイオフィルム剤は、金属イオン、金属イオン塩、又は金属イオンナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属イオン抗バイオフィルム剤は、ガリウム塩、ガリウムナノ粒子、ガリウム合金、又はガリウムと銀の合金である。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、ナノスケールポリマー層の形成の間にナノスケールポリマー層に導入される。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、ナノスケールポリマー層の形成の後にナノスケールポリマー層に導入される。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層に生物活性剤を導入して生物活性ナノスケールポリマー多層を提供することは、銀イオンをナノスケールポリマー多層に導入することと、銀イオンを生体内原位置で還元して銀ナノ粒子を提供することと、を含む。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層に生物活性剤を導入して生物活性ナノスケールポリマー多層を提供することは、異なる電荷を有する高分子電解質層の間に荷電小分子抗菌性剤を導入することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、例えば、ナノスケールポリマー層に導入される生物活性剤の量の制御及び/又は増加のために、導入ステップの1~20回の反復を含む。いくつかの実施形態では、方法は、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートにおける生物活性剤の量を、ナノスケールポリマー層の数の制御、ナノスケールポリマー層を形成するpHの制御、及び/又は導入サイクルの数の制御によって制御することを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、厚さが約0.1μm~約100μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、厚さが約0.1μm~約50μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、厚さが約1μm~約20μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、厚さが約1μm~約10μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は水溶性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、水溶性犠牲的ポリマー層は、ポリビニルアルコール(PVA)からできており、かつ/又はそれを含む。いくつかの実施形態では、可溶性ポリマーは、22kDaより大きい分子量を有する。いくつかの実施形態では、水溶性ポリマーは腎臓ろ過によって除去可能である。
【0060】
いくつかの実施形態では、水溶性犠牲的ポリマー層は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、又はポリビニルアセテート(PVAc)でできている。いくつかの実施形態では、生物活性ナノスケールポリマー多層が表面に堆積するように、水溶性ポリマーを含む犠牲的ポリマー層は、表面上の水分に曝されたとき溶解する。いくつかの実施形態では、方法は、生物活性剤を犠牲的ポリマー層に導入することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、犠牲的ポリマー層にマイクロ粒子又はナノ粒子を導入することをさらに含む。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層のマイクロ粒子又はナノ粒子には、生物活性剤が充填される。いくつかの実施形態では、方法は、犠牲的ポリマー層に磁性マイクロ粒子又はナノ粒子を導入することをさらに含む。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、抗菌剤、成長因子、止血剤、生物活性ペプチド、生物活性ポリペプチド、鎮痛剤、抗凝固剤、抗炎症剤、及び薬物分子又は薬物化合物からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、荷電小分子抗菌剤、抗菌性ポリペプチド、金属粒子、及び金属イオン抗菌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、金属イオン抗菌試薬は、金属イオン、金属イオン塩、又は金属イオンナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属イオンナノ粒子は銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、小分子抗菌剤は、クロルヘキシジン、抗生物質、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ヨウ素、カデキソマーヨウ素、ポビドンヨウ素(PVI)、過酸化水素、酢(酢酸)からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、基材は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)基材、ガラス基材、プラスチック基材、金属基材、及びテフロン基材からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、基材は、官能化されて低エネルギー表面を提供する。いくつかの実施形態では、基材はオクタデシルトリクロロシランで官能化される。
【0061】
いくつかの実施形態では、本方法は、生物活性ナノスケールポリマー層及び会合した犠牲的ポリマー層を含むナノスケールポリマー層マトリックスマイクロシートを基材から取り外すステップをさらに含む。いくつかの実施形態では、生物活性ナノスケールポリマー層及び会合した犠牲的ポリマー層を含むナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートの90%より多く、95%より多く、97%より多く、98%より多く、又は99%より多くが前述の基材から除去される。いくつかの実施形態では、方法は、ナノスケールポリマー層にナノスケール又はマイクロスケール粒子又はビーズを組み込むことをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、ナノスケールポリマー層に磁性ナノ粒子又はマイクロ粒子を組み込むことをさらに含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層は、高分子電解質、脂質、タンパク質、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、多糖、ポリ酸無水物、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、及びその組合せ又はその断片からなる群より選択されるポリマーを含む。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、スピンコーティング、浸漬コーティング、又はスプレーコーティングによってナノスケールポリマー層に適用される。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートは、基材からの除去の後、約0.1GPa~約10GPaのヤング率を有する。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層を形成することは、正電荷の電解質及び負電荷の高分子電解質を堆積させて二層を形成することを含む。いくつかの実施形態では、方法は2~50の堆積ステップを含む。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層を形成することは、1.5~2.5のpH、6.5~8.5のpH、及び/又は4.5~6.5のpHを含む溶液条件を提供するステップを含む。いくつかの実施形態では、方法は、ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートを乾燥させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、ナノスケールポリマー層に第2又はそれより多くの生物活性剤を導入することをさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明は、上述の方法によって作製されたナノスケールポリマー層マトリックスマイクロシートを提供する。
【0064】
いくつかの実施形態では、厚さが約0.5nm~1000nmの創傷活性ナノスケールポリマー層を含んで、ナノスケール創傷活性ポリマー層の中には創傷活性剤を組み込んで有し、創傷活性ナノスケールポリマー層に隣接した犠牲的ポリマー層を含んで、犠牲的ポリマー層は水分表面に曝されたときに溶解可能であるものである、創傷活性ナノスケールポリマーマトリックスマイクロシートを、本発明は提供する。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層はポリマー多層である。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー多層は、少なくとも1つの正電荷の電解質の層と少なくとも1つの負電荷の高分子電解質の層を交互にすることによって形成される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの正電荷の高分子電解質は、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリL-リジン(PLL)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(ヒスチジン)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)、及びキトサン等の天然又は合成多糖からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの負電荷の高分子電解質は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、アルギネート、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、デキストランスルフェート、ポリ(メタ)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアスパラギン酸、及びポリグルタミン酸からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの正電荷の電解質及び少なくとも1つの負電荷の高分子電解質は合成高分子電解質である。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、創傷活性剤がナノスケールポリマー層の3次元構造内に散在するように、ナノスケールポリマー層に組み込まれる。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、ナノスケールポリマー多層の各層内に創傷活性剤が散在するように、ナノスケールポリマー多層に組み込まれる。
【0065】
いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、抗菌剤、成長因子、止血剤、生物活性ペプチド、生物活性ポリペプチド、鎮痛剤、抗凝固剤、抗炎症剤、及び薬物分子又は薬物化合物からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、小分子抗菌剤、荷電小分子抗菌性剤、抗菌性ポリペプチド、金属粒子、及び金属イオン抗菌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、金属イオン抗菌性試薬は金属イオン、金属イオン塩、又は金属イオンナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属イオンナノ粒子は銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、荷電小分子抗菌剤又は小分子抗菌剤は、クロルヘキシジン、抗生物質、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ヨウ素、カデキソマーヨウ素、ポビドンヨウ素(PVI)、過酸化水素、酢(酢酸)からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は厚さが約0.1μm~約100μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は厚さが約0.1μm~約50μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は厚さが約1μm~約20μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は厚さが約1μm~約10μmである。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は水溶性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は創傷活性剤を含む。いくつかの実施形態では、創傷活性剤は、抗菌剤、成長因子、止血剤、生物活性ペプチド、生物活性ポリペプチド、鎮痛剤、抗凝固剤、抗炎症剤、及び薬物分子又は薬物化合物からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、小分子抗菌剤、抗菌性ポリペプチド、金属粒子、及び金属イオン抗菌剤からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、金属イオン抗菌性試薬は金属イオン、金属イオン塩、又は金属イオンナノ粒子である。いくつかの実施形態では、金属イオンナノ粒子は銀ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、小分子抗菌剤はクロルヘキシジン、抗生物質、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ヨウ素、カデキソマーヨウ素、ポビドンヨウ素(PVI)、過酸化水素、及び酢(酢酸)からなる群より選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、マイクロシートは、ナノスケールポリマー層に組み込まれたナノスケール又はマイクロスケール粒子をさらに含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層は、高分子電解質、脂質、タンパク質、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、多糖、ポリ酸無水物、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、及びその組合せ又はその断片からなる群より選択されるポリマーを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、マイクロシートは、創傷活性剤を約0.01~100μg/cm2の濃度で含む。いくつかの実施形態では、生物活性剤は、創傷活性剤が1日当り約0.01及び100μg/cm2の率で放出されるような量で提供される。いくつかの実施形態では、マイクロシートは約0.2~600cm2の面積を有する。
【0069】
いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、均一な厚さを有し、断面で測定した場合に平均厚さの500、400、300、200、100、50、20、又は10%未満の変動を伴う。いくつかの実施形態では、マイクロシートは、例えば、基材からの除去の後、約0.1GPa~約10GPaのヤング率を有する。
【0070】
いくつかの実施形態では、物品が表面に適用される場合、犠牲的ポリマー層は、水分に曝されると溶解し、表面上にナノスケールポリマー層を残す。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層は、湿潤表面に適用されたとき、外因性病原体に対するバリアを形成する。いくつかの実施形態では、マイクロシートは、第2又はそれより多くの創傷活性剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、マイクロシートは半透明及び/又は透明である。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、上述のマイクロシートを含む医療デバイスを提供する。いくつかの実施形態では、デバイスは、マイクロシートに接触した表面を含む。いくつかの実施形態では、医療デバイスは、医療デバイス、創傷被覆材、移植可能医療デバイス、皮膚に接触する医療デバイス、カテーテル、ステント、膜、コンタクトレンズ、及び外科用メッシュからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、創傷被覆材は、生物創傷被覆材、非生物創傷被覆材、吸収材料、発泡体、透明薄膜、ハイドロゲル、ハイドロファイバー、親水コロイド、アルギネート繊維、シリカゲル、ナトリウムポリアクリレート、カリウムポリアクリルアミド、及びその組合せからなる群より選択される。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明は、上述のマイクロシートと医療デバイスを含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、医療デバイスは、医療デバイス、創傷被覆材、移植可能医療デバイス、皮膚に接触する医療デバイス、カテーテル、ステント、膜、コンタクトレンズ、及び外科用メッシュからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、創傷被覆材は、生物創傷被覆材、非生物創傷被覆材、吸収材料、発泡体、透明薄膜、ハイドロゲル、ハイドロファイバー、親水コロイド、アルギネート繊維、シリカゲル、ナトリウムポリアクリレート、カリウムポリアクリルアミド、及びその組合せからなる群より選択される。
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明は、上述のマイクロシートを対象の生物表面に適用することを含む、対象を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、生物表面は湿潤な表面である。いくつかの実施形態では、表面は、外部表面及び内部表面からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、表面は創傷である。
【0074】
いくつかの実施形態では、方法は、創傷被覆材をマイクロシートの上に適用することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、医療デバイスをマイクロシートの上に適用することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、外科用メッシュをマイクロシートの上に適用することをさらに含む。いくつかの実施形態では、犠牲的ポリマー層は、創傷活性ナノスケールポリマー層物品が表面に適用されると溶解して、創傷活性ナノスケールポリマー層を表面に残す。いくつかの実施形態では、ナノスケールポリマー層は、外因性病原体に対してバリアとして作用する。いくつかの実施形態では、対象は創傷を有し、マイクロシートの適用は創傷の閉鎖を向上させる。いくつかの実施形態では、創傷活性ナノスケールポリマー層は、創傷活性剤の徐放を可能にする。いくつかの実施形態では、方法は、マイクロシートを対象の創傷床の微細輪郭(microcontours)に適合させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、犠牲的ポリマー層を溶解させることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、犠牲的ポリマー層を溶解させた後30秒~1時間の時間内にマイクロシートを対象の創傷床の微細輪郭(microcontours)に適合させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、溶解は、30秒~1時間の時間の間に犠牲的ポリマー層の90%より多く、95%より多く、97%より多く、又は98%より多くを溶解させる。いくつかの実施形態では、マイクロシートの90%より多く、95%より多く、97%より多く、又は98%より多くが対象の生物表面に移される。いくつかの実施形態では、マイクロシートの80%より多く、85%より多く、90%より多く、又は95%より多くは、マイクロシートを被覆材で擦った後に対象の生物表面に適用された状態のままである。いくつかの実施形態では、創傷床の80%より多く、85%より多く、又は90%より多くは、1日後、2日後、3日後、4日後、又は5日後にマイクロシートによって被覆される。いくつかの実施形態では、マイクロシートを対象の生物表面に適用することは、対象の生物表面上の細菌数を少なくとも1、2、3、4、5、又は6log10減少させる。いくつかの実施形態では、マイクロシートを対象の生物表面に適用することは、対象の生物表面上のグラム陰性及び/又はグラム陽性細菌数を少なくとも5log10減少させる。
【0075】
いくつかの実施形態では、方法は、マイクロシートを前述の生物表面に適用した後にマイクロシートを通して創傷を観察することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、対象を創傷治癒及び/又は創傷感染について試験することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、第2又はそれより多くのマイクロシートを前述の対象の生物表面に適用することをさらに含む。いくつかの実施形態では、第2のマイクロシートは、試験ステップの結果に基づいた創傷活性剤の量を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、マイクロシートを対象の生物表面に適用することは、対象の上皮の細胞の正常な成長及び増殖に影響しない。いくつかの実施形態では、マイクロシートを適用することは創傷治癒を障害しない。いくつかの実施形態では、マイクロシートを適用することは創傷の過度の炎症を引き起こさない。
【0077】
いくつかの実施形態では、本発明は、所望の生物活性を医療デバイスに付与するプロセスを提供し、プロセスは、創傷活性ナノスケールポリマー物品を医療デバイスの表面に適用することを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明は、基材上で中に生物活性剤を組み込んだ厚さ約0.5nm~500nmの第1のナノスケールポリマー層と、生物活性ナノスケールポリマー層上の第2のポリマー層とを含むナノスケールポリマーマイクロシートを提供し、第2のポリマー層は、ナノスケールポリマー層とは異なるポリマーから形成される。いくつかの実施形態では、本発明は、基材上の厚さ約0.5nm~500nmの第1のナノスケールポリマー層と、ナノスケールポリマーマトリックス層上にスピンコーティング又は浸漬コーティングされた第2のポリマー層とを含むナノスケールポリマーマイクロシートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】高分子電解質多層を用いて修飾した創傷床の概略図である。
【
図2】共有結合修飾剤を用いて修飾された創傷床の概略図である。
【
図3】アミン末端化処置されたガラス表面のモデルを作製するためのタンパク質共有結合固定の例示である。
【
図4】高分子電解質のポリスチレンスルホネート(PSS)およびFITC標識ポリ(アリルアミン塩酸塩)(FITC-PAH)の多層堆積に対するex vivoの結果を示す。
【
図5】対照(野生型)マウスと比較した、糖尿病(db/db)マウスにおける全層皮膚創傷治癒における差異を示す。
【
図6】創傷床の治癒に対する、ビーズ使用の例である。この例において、カルボン酸末端化ビーズは、NHSおよびEDCを用いることによって、創傷床の外側で活性化される。活性化されたビーズは、創傷床に導入され、および、ビーズの活性化表面と、創傷床中に存在するアミン基との反応を介して、創傷床に固定される。成長因子は創傷床に導入され、および、活性化ビーズの露出面との反応を介して固定される。
【
図7-1】名称およびAMSDbデータベースID番号により特定される、抗菌性ポリペプチドのリストを示す。
【
図8】銀を担持した高分子電解質多層(PEM)上で、増殖培地中で24時間インキュベートした後の、NIH-3T3マウス線維芽細胞の生存率を示す(実施例13)。
【
図9】緩衝液中で、10
8cfu/mlの表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)と共に8時間インキュベートした後で、銀担持PEM上で検出された生菌を示す。バルクAg
+溶液を連続10倍希釈したものとインキュベートすることにより、様々な銀担持量のPEMを調製した。この図において示されるように、5mMのAg
+(硝酸銀)溶液とインキュベートしたPEMは、約0.38μg/cm
2を含有し(
図8において、NIH-3T3細胞に対する細胞毒性は観察されなかった)、残りのPEMの銀担持量は、元素分析分光器の検出限界未満であった。
【
図10】銀担持無し(a、c、e)および銀ナノ粒子有り(濃度は、(b)0.62、(d)0.48、または、(f)0.39μg/cm
2)のPEM(PAH
7.5/PAA
Xの10.5二層)でコートしたガラス表面上で24時間インキュベートした後のNIH-3T3細胞を示す。PEMは、pH5.5(a、b)、または、6.5(c、d)、または、7.5(e、f)のPAA溶液で調製した。
【
図11】マイクロスケールビーズを用いたポリマー多層の1つの実施形態の概略図を示す。
【
図12】マイクロスケールビーズが無いポリマー多層の移行と比較した、マイクロスケールビーズ含有ポリマー多層の軟表面への移行を表すグラフを示す。
【
図13】ポリマーナノフィルムおよび犠牲的キャストから構成されるマイクロシートの製造に関する図を示す。
【
図14】マイクロフィルム創傷被覆材としての、マイクロフィルムの適用に関する図を示す。マイクロフィルム被覆材の犠牲的キャストは、湿った傷で素早く溶け、創傷表面にポリマーナノフィルムを固定する。
【
図15】PVAの犠牲的水溶性キャストおよび、銀ナノ粒子を含有するPEMから作製されたナノフィルムから構成されるマイクロシートの画像を示す。(a)ガラスディッシュ上に置かれたマイクロシート(1″x1″)。(b)溶液中でマイクロシートの犠牲的キャストが溶解した後、水表面を浮遊するポリマーナノフィルム(1″x1″)。
【
図16】PAHおよびPAAのPEMとして基材上に堆積したポリマーナノフィルムのアセンブリーを示す略図を示す。PEMは、銀イオン(Ag+)および銀ナノ粒子(AgNP)を含浸している。
【
図17】酢酸クロルヘキシジンと共に、PAAおよびPAHのPEMとして基材上に堆積したポリマーナノフィルムのアセンブリーの略図を示す。
【
図18】11±2.1ug/cm2の銀ナノ粒子を含有する、PAHおよびPAAのPEMとしてアセンブリーされたポリマーナノフィルムからの、PBS中への銀イオンの徐放を示すグラフである。
【
図19】酢酸クロルヘキシジン分子を含有するPEMとして製造されたポリマーナノフィルムからの、PBS中へのクロルヘキシジン(CX)の徐放を示すグラフである。
【
図20】
図20AおよびBは、マウスにおける切除創傷に対する銀マイクロフィルム創傷被覆材の適用を示す画像を提示する。(A)マウス脇腹上の、6mm直径の全層に副子をされた創傷。(b)銀を含浸させたマイクロフィルム創傷被覆材による、傷の被覆。犠牲的キャストは、創傷面上の銀ナノフィルムを固定するために、湿った傷で溶解した。
【
図21】銀ナノ粒子を含有する銀マイクロフィルム創傷被覆材による、外科処置後3日目の、マウスにおける切除創傷の細菌のコロニー形成における減少を示すグラフを提示する。全ての創傷は、0日目で黄色ブドウ球菌(S. aureus)を接種され、Integra創傷被覆材で、または、Integra被覆材と共に銀マイクロフィルム創傷被覆材で、覆われた。
【
図22-1】銀マイクロフィルム創傷被覆材は、マウスにおいて、感染を阻害し、汚染された創傷の閉鎖を促進することを示す。2つの外科的創傷(6mm直径)を、各balb/cマウスの脇腹に作製し、2x10
5CFUの黄色ブドウ球菌(S. aureus)を接種し、(A)は、1群において生合成被覆材-Biobraneで覆い、または、(B)は、創傷にBiobraneを置く前に銀マイクロフィルム創傷被覆材で覆った。図は、外科処置後、9日目のA群およびB群における創傷画像の代表的なものを示す。
図22Cは、Biobrane被覆材のみ、または、銀マイクロフィルム創傷被覆材とBiobrane、のいずれかで処置されたマウスの創傷における、外科処置後9日目の(元々の創傷サイズのパーセンテージとしての)創傷の面積(平均±SEM)を示す(n=10匹のマウス/群、p<0.05)。
【
図22-2】
図22Dは、外科処置後9日目における、2群のマウスから採取された創傷生検における、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の微生物負荷量(平均±SEM)を示す。創傷の微生物コロニー形成は、銀マイクロフィルム被覆材で処置された群において、有意により少なかった(n=10匹のマウス/群、p<0.05;マン-ホイットニーU検定)。
図22Eは、外科処置後9日目における、(元々の創傷サイズのパーセンテージとしての)創傷閉鎖のパーセンテージを示す(平均±SEM)。創傷閉鎖は、銀マイクロフィルム被覆材で処置された群において、有意により高かった(n=10匹のマウス/群、p<0.05;マン-ホイットニーU検定)。
【
図23】たとえば外科用メッシュ、コンタクトレンズ、または創傷被覆材等の医療デバイスの表面修飾に対する、マイクロシート応用の略図である。マイクロシートの犠牲的キャストは、湿った表面上で素早く溶け、その上にポリマーナノフィルムを固定する。
【
図24】Integra創傷被覆材の湿潤コラーゲンマトリックスの表面上のマイクロシートによる、ポリマーナノフィルムの固定を示す画像を提示する。(A)Integra創傷被覆材のコラーゲンマトリックスの表面の顕微鏡写真。(B)マイクロシートの犠牲的キャスト溶解後の、Integra創傷被覆材のコラーゲンマトリックス上に固定された蛍光ポリマーナノフィルムの顕微鏡写真。スケールバーは、200um。
【
図25】Integra創傷被覆材の湿潤コラーゲンマトリックス上のマイクロシートによる、ミクロスフィア含有ポリマーナノフィルムの固定を示す画像を提示する。(A)エラストマーシート上でアセンブリーされた、2umサイズの蛍光ミクロスフィアを含有するポリマーナノフィルムを有するマイクロシートの顕微鏡写真。(B)マイクロシートの犠牲的キャスト溶解後に、Integra創傷被覆材の湿潤コラーゲンマトリックス上で固定されたポリマーナノフィルム(蛍光ミクロスフィアを有する)の顕微鏡写真。スケールバーは、20um。
【
図26】PVAの水溶性犠牲的キャストを有するマイクロシートを用いて、銀ナノフィルム(AgNP)により修飾されたIntegra創傷被覆材の表面上でインキュベートされた、溶液中の細菌コロニー形成の減少を示すグラフを提示する。検証被覆材上の溶液は、24時間毎に、繰り返し、10
7CFU/mlの黄色ブドウ球菌(S. aureus)を接種された。
【
図27】銀マイクロシートの機械的強度を示す、応力ひずみ曲線を提示する。
【
図28】本明細書に記述される技術の実施形態に従う、略図を示す。
図28aは、ナノメーターの厚さのPEMの多層アセンブリーに用いられた高分子電解質を示す。
図28bは、PEM/PVAマイクロフィルムの製造および創傷床への適用に用いられた手順の概略図である;(1)PEMは、PDMSシート上にアセンブリーされ、(2)製造後、PEMは銀イオンに含浸され、次いで、銀イオンは銀ナノ粒子に還元され、(3)PVA溶液は、銀担持PEM上にスピンコートされ、(4)PEM/PVAマイクロフィルムはPDMSシートから剥がされ、および(5)湿潤創傷床上に置かれる。(6)湿潤創傷中でのPVA層の溶解により、(7)創傷床上にPEMが固定される。
【
図29】シリコンウエハ上でアセンブリーされた、二層(n)の数の増加に従う、(FITC-PAH/PAA)のPEMの偏光解析による厚さを示すプロットである。データは、平均±SEM(n=12)として表されている。図で示されるように、PAA溶液(pH=2.5)を用いてアセンブリーされたPEMは、PAA溶液(pH=5.5)を用いて製造されたものよりも厚い。PAAのpHが低いと、電荷を帯びたポリカチオンとの静電結合に利用可能なイオン化カルボキシル基が少なくなる。ポリマーセグメント間のこの弱い静電相互作用により、ポリカチオン上の電荷を補うために、より多くのポリアニオンの堆積が必要となり、それによって、より厚い多層が形成される。PAA pH2.5でのポリマー多層は、直線的な増殖傾向(平均の厚さは、10.5二層に対し約1200Å)を示す一方で、PAA pH5.5での場合は、指数関数的な増殖傾向(平均の厚さは、10.5二層に対し約800Å)を示す。
【
図30】PEM/PVAのマイクロフィルムは、それらが組み立てられたPDMSシートから均一に剥がされ、銀担持を保持することを示す一連の蛍光顕微鏡画像である。
図30a、
図30b、および
図30bは、(FITC-PAH/PAA5.5)
10.5のPEMを有する6mm直径のPEM/PVAマイクロフィルムの代表的な蛍光顕微鏡写真を示す。
図30aは、剥がす前のPDMSシート上のPEMを示し;
図30bは、剥がした後のPDMSを示し;および、
図30cは、撮像のためにガラススライド上に置かれたPEMを示す。
【
図31】(AF-PAH/PAA5.5)
10.5(Alexa Fluor 560で標識されたPAHを用いてアセンブリーされた)のPEMは、非OTS官能基化シリコンウエハからは、PEM/PVAマイクロフィルムのように剥がすことができないが(
図31a、
図31b、および
図31c)、OTS官能基化シリコンウエハからは均一に剥がすことができる(
図31d、
図31e、および
図31f)ことを示す一連の蛍光顕微鏡写真である。
図31aおよび
図31dは、それぞれ、OTSで官能基化されていない、およびOTSで官能基化されている、Siウエハー基材上で組み立てられたAF-PEMを示す。
図31bおよび
図31eは、PEM/PVAマイクロフィルムとして剥がされた後の、それぞれ、OTSで官能基化されていない、およびOTSで官能基化されている、Siウエハー上に残されたPEMを示し、
図31cおよび
図31fは、それぞれ、OTSで官能基化されていない、およびOTSで官能基化されている、Siウエハー基材から剥がされ、撮像のためにガラススライド上に置かれたPEM/PVAマイクロフィルムを示す。
【
図32】PDMSシートからPEMを剥がす前後の、PEM/PVAマイクロフィルムの銀担持量を示すプロットであり、異なる銀担持量を有するPEMを用いて解説されている。データは、平均±SEM(n≧4)として表されている。
【
図33】大気温度で3か月間保存されたPEM中の銀担持量は、アセンブリーしたばかりのPEMと有意差が無いことを示すプロットである。データは、平均±SEM(n≧3)として表されている。
【
図34】ヒトの死体皮膚真皮(GammmaGraft)上のPEM/PVAマイクロフィルムから固定されたPEMの一連の蛍光顕微鏡画像、およびPEMの特徴を示すプロットである。
図34aは、PDMSシート上に、(FITC-PAH/PAA
2.5)
40.5のPEMを有するマイクロフィルムを示し、
図34bは、組織表面に面しているPEMを有する、皮膚真皮上に置かれたPEM/PVAマイクロフィルムを示し、
図34cは、1mLのPBSで繰り返しリンスされた後の、皮膚真皮上に固定されたPEMを示し、および、
図34dは、振とうプレート上で、過剰量のPBSに浸され、3日間継続的にインキュベートした後のヒト皮膚真皮上に保持されたPEMを示す。
図34eのプロットは、様々な銀担持量で含浸されたPEMで修飾された皮膚真皮から、PBS中への銀イオンの徐放を示す。データは、平均±SEM(n≧4)として表されている。
【
図35】PEM/PVAマイクロフィルム中のPVAキャストが10分以内に水溶液中で完全に溶解することを示すプロットである。プロットは、PVAに組み込まれ、および、3mLのPBS緩衝液でPVAキャストが溶解するに伴い放出されたマラカイトグリーン色素の、異なる時点での吸光度を表す。PBS中のマラカイトグリーン色素の吸光度は、595nmの波長で、UV-bis分光光度計で測定された。データは、平均±SEM(n≧5)として表されている。
【
図36】機械的圧力および摩耗に対する、皮膚真皮上に固定されたFITC-PEM(たとえば、(FITC-PAH/PAA
2.5)
40.5)の持続性を示す、一連の蛍光顕微鏡画像である。
図36aは、皮膚真皮上に固定されたFITC-PEMを示し、
図36は、約8kPaの機械的圧力を垂直にかけた後の、皮膚真皮上の無傷のFITC-PEMを示し、
図36cは、
図36bに記述される機械的圧力処置後に、Telfa被覆材を用いた側面摩耗(1mm/s)後の、皮膚真皮上に保持されたFITC-PEMを示す。
【
図37】40.5二層の(PAH/PAA
2.5)のPEMにひびが形成されたことを示す一連の蛍光顕微鏡画像である。
図37aは、5.5二層がエラストマーPDMSシート上に形成された(FITC-PAH/PAA
2.5)のPEMの蛍光顕微鏡画像である。
図37bは、10.5二層がエラストマーPDMSシート上に形成された(FITC-PAH/PAA
2.5)のPEMの蛍光顕微鏡画像である。
図37cは、40.5二層がエラストマーPDMSシート上に形成された(FITC-PAH/PAA
2.5)のPEMの蛍光顕微鏡画像である。
【
図38】様々な量の銀を有するPEM/PVAマイクロフィルムで修飾された、皮膚真皮上で、24時間または48時間、インキュベートされた黄色ブドウ球菌(S. aureus)の懸濁液中の抗菌活性を示すプロットである。修飾皮膚真皮は、37℃で、振とうプレート(150rpm)上において、100mLのHBSS緩衝液中、10
7CFUの黄色ブドウ球菌(S.aureus)とともに96ウェルプレート中でインキュベートされた。データは、平均±SEM(n≧4)として表されている。
【
図39】PEM/PVAマイクロフィルムを用いて、銀/PEM(2.9±0.1μg cm
-2の銀担持量を有する)で修飾された皮膚真皮上で24時間、インキュベートされた緑膿菌(Ps. aeruginosa)の懸濁液中の抗菌活性を示すプロットである。修飾皮膚真皮は、96ウェルプレート中に置かれ、37℃で、24時間、振とう(150rpm)させながら、100mL PBS緩衝液中で、10
7CFUの緑膿菌(Ps. aeruginosa)と共にインキュベートされた。インキュベートの後、細菌をリンスして流し、テストウェルから回収して、連続希釈を行い、血液寒天プレート上に置いた。データは、平均±SEM(n≧4)として表されている。
【
図40】マイクロフィルムを用いた銀/PEMでの、全層に副子をされたマウス創傷の修飾を示す一連の画像である。
図40aの写真は、ピンセットにより保持されたPEM/PVAマイクロフィルムと、副子をされたマウス創傷を示す。
図40bは、マウス創傷に付着したPEMを示す。
図40c、
図40d、および
図40eは、切除全層の表面に固定された、蛍光標識されたPEMの持続性を示す。
図40cは、移行前の、PDMSシート上で(FITC-PAH/PAA
2.5)
40.5のPEMを含有するPEM/PVAマイクロフィルムを示す蛍光顕微鏡画像である。
図40dは、1時間後、マウスから回収した創傷床上で(FITC-PAH/PAA
2.5)
40.5のPEMを含有するPEM/PVAマイクロフィルムを示す蛍光顕微鏡画像である。
図40eは、外科処置3日後のマウスから回収した創傷床上に(FITC-PAH/PAA
2.5)
40.5のPEMを含有するPEM/PVAマイクロフィルムを示す蛍光顕微鏡画像である。
【
図41】銀イオン交換および、銀ナノ粒子へのそれらの生体内原位置還元を3サイクル繰り返すことにより、16.8±0.5μg cm
-2まで調整された(PAH/PAA
2.5)
10.5のPEM中の銀担持量を示すプロットである。データは、平均±SEM(n≧4)として表されている。
【
図42】16.8±0.5μg cm
-2の銀担持量を有する(PAH/PAA
2.5)
10.5のPEMから、PBS中への銀イオンの徐放を示すプロットである。PEM中の銀担持量は、銀イオン交換と還元を3サイクル繰り返すことにより得られた。このPEM構築物を用いて、マウスの汚染創を処置した。データは、平均±SEM(n=3)として表されている。
【
図43】PEM/PVAマイクロフィルム(16.8±0.5μg cm
-2の銀担持量を有する)で処置された汚染マウス創傷における、微生物コロニー形成の阻害を示すプロットである。3.0x10
6CFU/cm
2の黄色ブドウ球菌(S. aureus)を局所的に接種された、6mm直径の副子を施された切除創傷は、PEM/PVAマイクロフィルムで処置され、生合成創傷被覆材Biobrane(登録商標)で覆われた。プロットは、外科処置の3日後に(Biobrane(登録商標)と共に)回収、およびホモジナイズされた創傷から採取された細菌数を示す(
*、P>0.05、
**、P<0.001、
***、P<0.03)。データは、平均±SEM(各群に対し、n=8匹のマウス(=16の創傷))を表している。
【
図44】PEM/PVAマイクロフィルム(17.63±3.13μg cm
-2の銀担持量を有する)で処置された汚染マウス創傷における、微生物コロニー形成の阻害を示すプロットである。2.71x10
6CFU/cm
2の黄色ブドウ球菌(S. aureus)を局所的に接種された、6mm直径の副子を施された切除創傷は、PEM/PVAマイクロフィルムで処置され、生合成創傷被覆材Biobrane(登録商標)で覆われた。プロットは、外科処置の3日後に(Biobrane(登録商標)と共に)回収、およびホモジナイズされた創傷から採取された細菌数を示す。データは、平均±SEM(各群に対し、n=10(=20の創傷))を表している(P<0.001)。
【
図45】PEM/PVAマイクロフィルムは、副子をされたマウス切除創傷における、正常な創傷治癒を促進することを示す一連の画像およびプロットである。
図45a、
図45b、および
図45cは、それぞれ、外科処置後0日目、7日目、および14日目における、銀/PEM(16.8±0.5μg cm
-2の銀担持量を有する)を用いた外科処置後に修飾された創傷の全体画像を示す。スケール上の各線は、1mmを表す。
図45dは、PEM処置を受けていない創傷および銀を含有しないPEMまたは16.8±0.5μg cm
-2の銀を含有するPEMのいずれかで修飾された創傷における、外科処置3、5、7、10および14日後の元々の創傷サイズのパーセンテージを示す。各データポイントは、相対創傷サイズの平均±SEMを表す。3、5、および7日目に対する試料サイズ(n)は、それぞれ、各群に対し、n=8、16および16であった。7日目に、組織病理学的検査のために一部の創傷を採取した。10日目および14日目における3群に対する試料サイズは、それぞれ、n=4、6および6であった。
【
図46】PEM/PVAマイクロフィルムは、副子をされたマウス切除創傷における正常な創傷治癒を促進することを示す一連の画像である。
図46a、
図46bおよび
図46cの顕微鏡写真は、それぞれ、PEMが無い創傷の全体画像であり、および、
図46d、
図46e、および
図46fの顕微鏡写真は、銀を含有しないPEMで修飾された創傷の全体画像である。
図46aおよび
図46dは、外科処置後0日目の画像であり、
図46bおよび
図46eは、外科処置7日後の画像であり、ならびに、
図46cおよび
図46fは、外科処置14日後の画像である。スケール上の各線は、1mmを表す。
【
図47】PEM/PVAマイクロフィルム(16.8±0.5μg cm
-2の銀を有する)は、副子をされたマウス切除創傷における未処置創傷と類似した上皮形成を促進する(組織病理学的に測定)ことを示す一連の画像およびプロットである。
図47aおよび
図47bは、それぞれ、銀/PEMで修飾された創傷における、外科処置後7日目および14日目の創傷の代表的なH&E染色切片を示す。元々の創傷の辺縁(矢印)、上皮突端の移動(矢頭)、肉芽組織(G)、および創傷マトリックス(W)に印をつけている。
図47cは、PEM処置を受けていない創傷の、外科的処置7日後および4日後の元々のサイズと、銀を含まないPEMで、または銀を含有するPEMで修飾された創傷のサイズのパーセンテージを示す。各データポイントは、相対創傷サイズの平均±SEMを表す。PEMが無い群、Agを有さないPEM/PVAを有する群、および、Agを有するPEM/PVAを有する群に対する、7日目の試料サイズ(n)は、それぞれ、n=4、9および7であった。14日目に対しては、各群に対し、n=3であった。
【
図48】PEM/PVAマイクロフィルムは、副子をされたマウス切除創傷における未処置創傷と類似した上皮形成を促進する(組織病理学的に測定される)ことを示す。
図48aおよび
図48bは、それぞれ、外科的処置の7日後および14日後における、PEMを伴わない創傷由来のH&E染色切片を示す顕微鏡写真である。
図48cおよび
図48dはそれぞれ、外科的処置の7日後および14日後における、銀を含有しないPEMで固定された創傷由来のH&E染色切片を示す顕微鏡画像である。元々の創傷の辺縁(矢印)、上皮突端の移動(矢頭)、肉芽組織(G)、および創傷マトリックス(W)に印を付けている。
【
図49】本明細書に提示されるマイクロフィルム銀被覆材の実施形態による創傷の被覆と、従来的な被覆材による創傷の被覆を比較する図である。
図49Aは、従来的な被覆材で覆われた創傷を示し、
図49Bは、本明細書に記述されるマイクロフィルム被覆材で覆われた創傷を示す。
【
図50】balb/cマウスの脇腹に作製され、2x10
5CFUの黄色ブドウ球菌(S. aureus)を接種された外科的処置後12日目のヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)で染色した創傷の顕微鏡写真を示す。
図50Aは、生合成Biobrane被覆材で覆われた創傷を示す。
図50Bは、創傷にBiobraneを置く前に、銀マイクロフィルム創傷被覆材で覆われた創傷を示す。
図50において、スケールは0.5mmを表す。
【
図51】Ga(NO
3)
3を有するTSB培地中における、48ウェルプレートの底にある緑膿菌(P. aeruginosa)のバイオフィルムの阻害を示すプロットである。データは、クリスタルバイオレット染色されたバイオフィルムの吸光度として表されている(n=4、平均±標準偏差)。
【
図52】創傷床上で、銀ナノ粒子を含有するポリマー多層ナノフィルム(PEM)に付着する、水溶性ポリマーキャスト(抗バイオフィルムGaを有する)を含有するマイクロフィルム被覆材の実施形態を示す図である。
【
図53】16.1±0.8μg/cm
2のガリウムを含有する(PAA/PAH)
10のPEMから、PBS中への、Ga
3+の徐放を示すプロットである。
【
図54】シリコーンフィルム被覆材上にスタンピングすることによる、ガリウム(Ga)または銀のナノ粒子(AgNP)を含有するPEMのナノコーティングの連続的な移行を示す図である。
図54Aは、シリコーンフィルム上への、ナノコーティングの連続的な堆積を示し、
図54Bは、スタンプを除去し、シリコーンフィルム上にナノコーティングが残ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0080】
定義
この後の開示で説明する本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を下に定義する。
【0081】
「創傷」という用語は、様々な状態で惹起され(例えば、床上安静が長引いたことによる褥瘡、外傷が誘発した創傷)種々の特性をもった、皮膚及び皮下組織への損傷を広く指す。本明細書に記載する方法と組成物は、内部及び外部組織の創傷を含め、全ての種類の創傷の治療に有用である。創傷は、創傷の深さによって4つのグレードの1つに分類することができる:i)グレードI:上皮に限られた創傷;ii)グレードII:真皮の中に及ぶ創傷;iii)グレードIII:皮下組織の中に及ぶ創傷;iv)グレードIV(即ち、全層創傷):骨(例えば、大転子又は仙骨等、骨圧点)が露出した創傷。
【0082】
「中間層創傷」という用語は、グレードI~IIIを包含する創傷を指し、中間層創傷の例としては、熱創傷、褥瘡、静脈うっ血性潰瘍、及び糖尿病性潰瘍が挙げられる。「深い創傷」という用語は、グレードIIIとグレードIVの創傷の両方を含むことを意図する。本発明は、深い創傷や慢性の創傷も含め、全ての種類の創傷を治療することを企図する。
【0083】
「慢性の創傷」という用語は、30日以内に治癒していない創傷を指す。
【0084】
「創傷治癒を促進する」、「創傷治癒を向上させる」、及び類似の語句は、創傷収縮の肉芽組織の形成の誘導、及び/又は上皮化の誘導(上皮における新しい細胞の生成)を指す。創傷治癒は、創傷面積の縮小によって簡便に測定される。
【0085】
「創傷活性剤」という用語は、創傷の治療及び治癒において有用な所望の薬理的、生理的効果を誘導する既知又は有望性化学的化合物を指し、効果は予防的であっても治療的であってもよい。用語はまた、本明細書に詳しく述べる活性剤の薬剤的に許容できる薬理学的活性誘導体を包含し、例としては、栄養素、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤(例えば、イオンの銀、元素の銀、及び銀ナノ粒子が挙げられ、但し、これに限定されない)、緩衝剤、ビタミン及びミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤、並びに抗癌剤が挙げられ、但し、これに限定されない。
【0086】
「ポリマー多層」という用語は、多層構造を形成するようにポリマー(複数含む)を連続的反復的に適用することによって形成する組成物を指す。例えば、高分子電解質多層は、アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質を創傷又は担体に交互に加えることによって形成するポリマー多層である。「ポリマー多層」という用語はまた、創傷又は固体担体にポリマー(複数含む)を連続的反復的に適用することによって形成する組成物を指す。加えて、「ポリマー層」という用語は、アニオン性又はカチオン性高分子電解質分子等のポリマー分子で構成され、多層内の1つの層として、又は創傷若しくは担体上ただ一種類の高分子電解質分子の単層として存在する、単層を指すことがある。創傷床又は担体へのポリマーの送達は、好適実施形態では連続的なものである一方、「ポリマー多層」という用語の使用は、得られるコーティングの構造の点で限定的ではない。高分子電解質等のポリマーの相互拡散が生じて、構造がアニオン性及びカチオン性高分子電解質の分布の点で充分に混合されたものとなる可能性がある、ということが当業者には充分理解される。高分子電解質という用語は、ポリマー種及びナノ粒子種を包含すること、及び、種が複数の荷電基又は部分的荷電基を有すると示すよりほかに範囲を限定するものではないこと、も理解される。多層構造は、例えば、静電気的相互作用やその他水素結合等、種々の相互作用によって形成することができる、ということも当業者によって充分に理解される。このようにして、「高分子電解質」という用語は、創傷床構築物の形成を生じさせる相互作用の点で限定的ではない。
【0087】
本明細書において「架橋結合の」という用語は、共有結合の形成から生じる、分子間架橋結合及び任意で分子内架橋結合を含有する組成物を指す。2つの架橋結合性成分間の共有結合は直接的でもよく、この場合、1つの成分の原子が他方の成分の原子に直接結合するか、結合は連結基を介して間接的でもよい。共有結合に加えて、架橋結合構造としてはまた、水素結合及び静電気(イオン)結合等、分子間及び/又は分子内非共有結合も挙げられ得る。
【0088】
「共有結合性修飾剤」という用語は、分子を互いに共有結合させるいずれの分子をも指す。共有結合性修飾剤としては、均質二官能性及び異質二官能性架橋剤並びに光活性化可能架橋剤が挙げられる。
【0089】
「均質二官能性架橋剤」という用語は、同一又は類似の分子を相互に共有結合させるために用いられる分子を指す。均質二官能性架橋剤は2つの同じ反応基を有し、そのため、均質二官能性架橋剤は同じ種類の分子のみを互いに結合させることができる。逆に、「異質二官能性架橋剤」は、異なる分子を互いに共有結合させるために用いられる分子を指し、それは、種類の異なる種々の分子と相互作用できる2つ以上の異なる反応基を有するためである。異質及び均質多官能性架橋剤は、異質及び均質架橋結合官能基の両方をもった多価架橋剤を指す。活性化デンドリマーは多官能性架橋剤の一例である。
【0090】
「対象」という用語は、特定の治療を受けることになる任意の動物(例えば、哺乳類)を指し、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、及び類似のものが挙げられ、但し、これに限定されない。本明細書では、通常、「対象」及び「患者」という用語は互換的に用いられる。
【0091】
「界面活性剤」という用語は、液体又は固体の表面特性及び界面特性を修飾する両親媒性材料を指す。界面活性剤は、2つの液体間の表面張力を低減させることができる。洗浄剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、及び抑泡剤は全て界面活性剤である。
【0092】
「ブロックコポリマー」という用語は、少なくとも2つのモノマーからなるポリマーを指す。ブロックコポリマーにおいて、隣接するブロックは構造上異なる、即ち、隣接するブロックは、異なる種のモノマーから又は同じ種のモノマーではあるが構成単位の組成又は連鎖分布が異なるものから誘導される構成単位を含む。ブロックコポリマーは、2つのホモポリマーが末端で結合されたものと考えることができる。
【0093】
「溶媒」という用語は、物質を溶解させることのできる液体を指す。「有機溶媒」という用語は、石油系生成物から誘導される溶媒を指す。
【0094】
「高分子電解質」という用語は、カチオン及びアニオン等、多くの反復イオン構成単位を含有する水溶性高分子ポリマー物質を指す。
【0095】
「第1級アミン」という用語は、水素が炭化水素ユニットで置換された、アンモニアの誘導体を指す。第1級アミンは一般式RNH2を有し、例としては、アニリン、メチルアミン、及び1-プロピルアミンが挙げられ、但し、これに限定されない。
【0096】
「DNA送達剤」という用語は、特定した標的にDNAを接触させることのできるどのような分子をも指す。場合によっては、DNA送達剤は、in vitro又はin vivoで、1つ又は複数の細胞へのDNAの取り込みを起こす。DNA送達剤はウイルスの可能性もあり、例として、アデノウイルス及びレトロウイルスが挙げられ、但し、これに限定されない。DNA送達剤はまた、非ウイルス性剤の可能性もあり、例として、プラスミド、脂質、リポソーム、ポリマー、及びペプチドが挙げられ、但し、これに限定されない。
【0097】
「曝すことのできる」という用語は、曝すことのできるどのようなものをも指す。曝すことのできる表面又は分子とは、他の表面又は分子との相互作用に利用できるものである。例えば、本発明との関連でいえば、共有結合性修飾剤は創傷活性剤に曝すことができ、そうして、2つの剤はお互いと相互作用して共有結合を形成することができる。
【0098】
「官能化」という用語は、他の官能基(例えば、スルフヒドリル基)と反応して共有結合を形成することのできる新しい反応性官能基(例えば、マレイミド又はスクシンイミジル基)を生成又は導入する、既存の分子セグメントの修飾を指す。例えば、カルボン酸(--COOH)基を含有する成分は、既知の手順を用いてN-ヒドロキシ-スクシンイミド又はN-ヒドロキシスルホスクシンイミドと反応させることによって官能化し、活性化カルボキシレート(これは反応性求電子性基である)の形の新しい反応性官能基、即ち、それぞれN-ヒドロキシスクシンイミドエステル又はN-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステルを形成することができる。別の例では、カルボン酸基は、やはり既知の手順を用いて、ハロゲン化アシル、例えば、塩化アシルと反応させることによって官能化し、新しい反応性官能基を無水物の形で得ることができる。
【0099】
本明細書で使用する場合、「水溶液」という用語は、溶液、懸濁液、分散物、コロイド、及び、水を含有する類似のものを含む。
【0100】
本明細書で使用するとき、「クリック化学」という用語は、高エネルギー含量を内蔵した化学的構成要素を使用して、他の要素の適切な相補的部位との自発的及び不可逆的結合反応を推進することを指す。これらの化学反応(例えば、互いと容易に化合するアジド基及びアセチレン基の間の反応が挙げられ、但し、これに限定されない)は特異的で、2つの分子間に共有結合を生じる。
【0101】
「天然型化学的ライゲーション」という用語は、2つの無保護ペプチドセグメントの化学選択的反応を指す。反応は最初にチオエステル結合種を生じさせ、次いで、この過渡的中間体の自発的転位が起こり、連結部位に天然ペプチド結合をもった完全長生成物が得られる。
【0102】
「特異的タンパク質結合」という用語は、互いに高い親和性と特異性を有する2つ以上のタンパク質間の相互作用を指す。タンパク質は、機能するためには、それに特異的な他のタンパク質とin vivoで結合しなければならない。タンパク質は、通常in vivoに存在する数千のタンパク質の中のたった1つ又は数種の他のタンパク質に結合することを要求され、本発明ではこの相互作用を用いてin vitroで創傷活性剤を創傷に結合させる。本発明との関連においては、特異的なタンパク質結合相互作用としては、ビオチンとアビジン、ニュートラアビジン、又はストレプトアビジンとの間のもの;グルタチオン-S-トランスフェラーゼとグルタチオンの間のもの;ニッケル-ニトリロ三酢酸とポリヒスチジンの間のもの、が挙げられ、但し、これに限定されない。
【0103】
「デバイス」という用語は、治療的又は予防的目的のために対象の身体又は体液に接触する物体を指す。デバイスには、対象の身体又は体液に部分的又は間接的に接触するもの(例えば、カテーテル、透析管、診断センサー、薬物送達デバイス)もあるが、対象の身体に完全に吸収されるか取り込まれるかするもの(例えば、ステント、ペースメーカー、体内埋め込み除細動器、血管形成術用バルーン、整形外科デバイス、脊椎ケージ(spinal cage)、移植可能薬剤ポンプ、人工椎間板、耳ディスク(ear disc))もある。
【0104】
「選択毒性」という用語は、微生物細胞と対比した哺乳動物細胞が受ける特異的有毒性作用の特性を指す。例えば、選択毒性剤は、細菌細胞を効果的に殺菌し、同時に哺乳類細胞の成長及び生存を可能とする。
【0105】
「毒性」という用語は、対象、細胞、又は組織を、毒性物質投与前の同じ細胞又は組織と比較した場合の、それに対するどのような有毒又は有害な影響をも指す。
【0106】
本明細書で使用する場合、「ナノ粒子」及び「ナノスケール粒子」という用語は、互換的に用い、ナノメートル単位で測定されるサイズをもったナノスケール粒子、例えば、約1000未満、500未満、又は100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケール粒子を指す。ナノ粒子の例としては、ナノビーズ、ナノファイバー、ナノホーン、ナノオニオン、ナノロッド、及びナノロープが挙げられる。
【0107】
本明細書で使用する場合、「マイクロ粒子」及び「マイクロスケール粒子」は、互換的に用い、マイクロメーター単位で測定されるサイズをもったマイクロスケール粒子、例えば、約10マイクロメーター未満、5マイクロメーター未満、又は2マイクロメーター未満の少なくとも1つの寸法を有するマイクロスケール粒子を指す。
【0108】
「創傷被覆材」という用語は、吸収性、粘着性、保護性、浸透圧調節性、pH調節性、又は圧力誘起性の特性を有する創傷に隣接して置かれた材料を指す。創傷被覆材は、創傷に直接的又は間接的に接触してもよい。創傷被覆材はサイズ又は形状によって限定されない。実際、多くの創傷被覆材料は、創傷の寸法に合わせて切断又は構成してもよい。創傷被覆材料の例としては、ガーゼ、粘着テープ、包帯、及び市販の創傷被覆材が挙げられ、但し、これに限定されず、市販の創傷被覆材としては、Band-Aid(登録商標)系列の創傷被覆材の粘着包帯及びパッド、Nexcare(登録商標)系列の創傷被覆材の粘着包帯及びパッド、Kendall Curity Tefla(登録商標)系列の創傷被覆材の粘着包帯及び非粘着パッド、Tegaderm(登録商標)系列の創傷被覆材の粘着包帯及びパッド、Steri-Strip(登録商標)系列の創傷被覆材の粘着包帯及びパッド、COMFEEL(登録商標)系列の創傷被覆材、粘着包帯及びパッド、Duoderm(登録商標)系列の創傷被覆材、粘着包帯及びパッド、TEGADERM(商標)系列の創傷被覆材、粘着包帯及びパッド、OPSITE(登録商標)系列の創傷被覆材、粘着包帯、及びパッド、及び生物創傷被覆材が挙げられ、但し、これに限定されない。「生物創傷被覆材」は、創傷表面に接触するように置くことのできる細胞及び/又は1つ若しくは複数の生体分子若しくは生体分子の断片を含む、例えば、それで被覆されるかそれを組み込む、一種の創傷被覆材である。生体分子は、人工組織マトリックスの形式で提供してもよい。かかる生体分子の例としては、コラーゲン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、抗菌性ポリペプチド、及びその組合せが挙げられ、但し、これに限定されない。適切な生物創傷被覆材の例としては、BIOBRANE(商標)、Integra(商標)、Apligraf(登録商標)、Dermagraft(登録商標)、Oasis(登録商標)、Transcyte(登録商標)、Cryoskin(登録商標)、及びMyskin(登録商標)が挙げられ、但し、これに限定されない。
【0109】
本明細書で使用する場合、「抗菌性銀組成物」という用語は、銀を活性抗菌性剤として含む組成物を指す。「抗菌性銀組成物」の例としては、銀ナノ粒子、元素の銀、ゼロ価銀、リン酸ジルコニウムに担持された多価銀イオン(ZP-Ag)(例えば、Wound Repair and Regeneration,16:800-804参照)、及びスルファジアジン銀等の銀含有化合物、並びに関連化合物が挙げられ、但し、これに限定されない。「放出可能抗菌性銀組成物」という用語は、抗菌活性が観察できるように、材料、例えば、ポリマー多層固体担体から放出できる抗菌性銀組成物を指す。抗菌性銀組成物の放出は、材料に画定された領域又は空間から放出される組成物の量として定義できる。
【0110】
〔発明を実施するための形態〕
創傷は複雑な性質を有しており、および、最新の医療に基づいた著しい臨床技術的進歩が欠落しているため、新たな、従来とは異なるアプローチが早急に必要とされている。病的/慢性的な創傷床の微小環境は、細胞外マトリックスの構成物質、分解酵素、成長因子および他の細胞活性因子の活性変化により制御不全の状態にある。本発明により、たとえば、創傷治癒を加速するような好ましい細胞挙動を促進するよう、創傷床の界面化学/構造を変化させることにより、創傷床それ自身を操作する組成物および方法が提示される。一部の実施形態において、創傷床は、第一に、創傷面に、均一で反応性のある床をもたらすプライミング剤(すなわち、プライマー)を用いて処理される。プライムされた創傷床は、次いで、所望される剤(たとえば、創傷活性化剤)を用いて処置される。
【0111】
正常な創傷治癒においては、線維芽細胞、血管細胞、細胞外マトリックス成分、および上皮細胞の間の協調的な相互作用により、炎症反応、創傷修復、拘縮および上皮バリアによる被覆を介した、途切れない進行がもたらされる。しかしながら、制御不全の状態にある創傷微小環境、全身性の疾患、または他の交絡的な状況を有する対象の多くにおいては、創傷治癒プロセスは、非同期的なものとなり、無痛性の潰瘍が発生する(Pierce, 2001, Am. J. Pathol. 159:399)。他の対象においては、治癒の間の細胞の挙動を適切に調節するための制御応答が喪失または欠落することにより、実質的に当該対象にとって有害となる、過増殖応答が発生する。これは特に、ケロイドを形成する傾向を有する患者、または火傷を負った患者に当てはまり、過剰な線維芽細胞増殖とコラーゲン生成によって、外観を損ない、機能障害をもたらす瘢痕の形成が生じる。
【0112】
広範な非治癒創傷全体にわたり、様々な誘発メカニズムおよび創傷微小環境があることが明確である。これらの創傷は、閉鎖に向けた進行において、多くの接合点で病的状態を示す。血管新生の欠落、線維芽細胞の応答、および再度の上皮形成はすべて、慢性的な創傷において重要な役割を果たす。ゆえに、慢性的な創傷に対し、ただ1つの因子で処置を行っても、臨床環境中に存在する多くの異なる創傷全体に対する有益なアプローチとなる可能性は低い。そのような異種環境において、より良い戦略としては、細胞応答の特定の性状、創傷環境における反応を調節することができる成分の特定が挙げられ、それにより、個々の創傷および患者に適してカスタム化された治癒応答をもたらすことができる可能性がある。
【0113】
創傷環境域が異種であるため、創傷内の細胞応答を特異的に調節することによって、「望ましい」治癒応答が刺激されることを最良に実現することが企図される。本発明により、創傷応答内で内皮、線維芽細胞、および上皮の成分を特異的に調節するための、創傷床への固定候補リストからの、細胞活性成分のサブセットの選択が提示される。ゆえに、本発明により、様々な臨床状態における、高質な創傷応答を得ることができ、それによって、臨床医が直面する個別の創傷治癒の課題に対する、個別化された治療法のための創傷床の操作戦略が提示される可能性が提示される。創傷内の細胞応答を特異的に調節することにより、相当な利益を得ることができる具体的な例としては、糖尿病における慢性創傷または静脈うっ滞性の潰瘍が挙げられ、それらは細胞全体的な治癒応答の促進が望ましいが、特に、活発な血管新生応答が、創傷治癒の他の面の全てをサポートするためには必要とされる。言い換えれば、治癒した創傷の強度が重要な懸念事項である場合においては、正常な血管新生および上皮成分を伴う線維芽細胞の応答を促進するような調節が、望ましい。
【0114】
対照的に、一部の火傷(たとえば、深刻な第二度の熱傷であり、真皮および毛幹上皮の成分が、失われた組織を置換し続けている)においては、活発な血管新生および上皮応答が必要とされるが、瘢痕肥大、拘縮および外観の変形を減少させるためには、線維芽細胞反応は軽減されていることが望ましい。ケロイドを形成する傾向のある対象の治癒においても、同様に軽減されていることが望ましく、それらの創傷においては、増殖性の線維芽細胞応答は抑制されていなければならない。また、関節または開口部付近の創傷においては、急速な治癒が促進され、上皮で覆われることが望ましいが、組織の柔軟性の改善が維持されるよう、線維芽細胞の応答は調節されていることが望ましい。このように、線維芽細胞の応答を調節することにより、より良い臨床転帰が得られ、それにより、手足または他の重要な身体機能の回復を目的とした再建法は必要としなくなる可能性がある。そのような方法の実施可能性は従前に示されており、たとえば、切開創傷に対するトレチノインの効果に関する、Muehlbergerらによる報告がある(Muehlberger
et al., 2005, J. Am. Acad. Derm. 52:583)。この実験において、トレチノインの適用により、線維芽細胞増殖が増加する一方で、コラーゲンの産生は減少していた。
【0115】
表面修飾は、ここ10年ほど、移植、人工装具および人工臓器における応用に関して重要な課題となっており、それにより、移植および組織工学に対する幅広い医療応用が可能となる(Langer and Vacanti, 1993, Science 260:920);Peppas and Langer, 1994, Science 263:1715; Angelova and Hunkeler, 1999, Trends Biotechnol. 17:409)。移植の融合効率の改善に対しては、適切な骨-移植片インターフェースを得ることを目的とした、デバイス表面の物理化学的、形態学的、および生化学的な特性の改変を含む、いくつかの方法が研究されている。自己アセンブリー単分子層(SAM)または、Langmuir-Blodgett技法が、新たなインターフェースを生成するために普遍的に用いられている(Mrksich, 1997, Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 2:83;Loesche, 1997, Curr. Opin. Solid State Mater. Sci. 2:546)。
【0116】
最近では、多層化された高分子電解質フィルムの集積のために、ポリアニオンおよびポリカチオンの交互堆積に基づいた、自己アセンブリー構造の新たな汎用方法が開発されている(Decher, 1997, Science 277:1232)。様々なフィルムの厚さ、粗度、および多孔性に加え、官能基化された高分子をフィルム構造に組み込むことも可能である(Caruso et al., 1997, Langmuir 13:3427;Cassier et al.,1998, Supramol. Sci. 5:309)。また、多層堆積プロセスは、高分子電解質への適用性に限定されず、ウイルス、ナノ粒子、非イオン性ポリマー、タンパク質および他の微小物質(マイクロおよびナノレベル)の形態にも適用することができることが示されている。最近では、多層堆積方法により形成することができる、広範な種および界面構造に関する情報が報告されている。本明細書に記述される本発明の範囲は、高分子電解質に限定されず、多層堆積プロセスにより界面構造に組み込まれることが示されている全ての種が含まれる。
【0117】
本発明により、創傷床の組成を変化させるための様々な実施形態が提示される。一部の実施形態において、創傷修飾剤は、創傷床をプライムするのに適用される。以下に詳述されるように、創傷修飾剤は、創傷床に適用され、共有結合的に、または非共有結合的のいずれかで、創傷床を修飾する剤である。創傷修飾剤の例としては、均質二官能性リンカーおよび異質二官能性リンカー、高分子電解質、非イオン性ポリマー、高分子電解質と非イオン性ポリマーの組み合わせ、ならびに、ビーズと針を含むナノ粒子およびマイクロ粒子が挙げられる。一部の実施形態において、創傷修飾剤は、コンプライアンス、pH、アルカリ度、および、酸化強度または還元強度、正味荷電、親水性、浸透力、ナノスケールまたはサブミクロンの組織分布、導電率、MMP産生、食作用、および、トランスグルタミナーゼ活性からなる群から選択される、創傷床の特性を変化させる。好ましい実施形態においては、創傷修飾剤を用いて、創傷活性剤を組みこみ、創傷活性剤を創傷床に位置づける。創傷活性剤は、創傷修飾剤に共有結合的、または非共有結合的に結合されていても良い。さらに、創傷活性剤は、創傷修飾剤を介して、勾配を形成していてもよい。さらなる実施形態において、創傷修飾剤は、創傷床のコンプライアンスを変化させる。これらの実施形態において、ポリマーまたはナノ粒子またはマイクロ粒子は、既定の硬度を有している。さらなる実施形態において、ポリマー、ナノ粒子、またはマイクロ粒子により、異なるレベルの硬度でコンプライアンス勾配が形成されても良い。
【0118】
本発明の一部の実施形態において、創傷活性剤は、銀または銀の形態である。銀は、広範囲の細菌種(Yin et al., 1999, J. Burn Care Rehabil. 20:195。その全体において、参照により本明細書に援用される)、酵母種、真菌種(Wright et al., 1999, Am. J Infect. Control 27:344。その全体において、参照により本明細書に援用される)、およびウイルス類(Hussain et al., 1991, Biochem. Biophys. Res. Comm. 189:1444。その全体において、参照により本明細書に援用される)(いくつかの抗生物質耐性株を含む(Wright et al., 1998, Am. J. Infect. Control 26:572。その全体において、参照により本明細書に援用される))に対して作用する、非特異的な殺生剤として広く用いられている。しかしながら、銀イオンが非常に反応性に富んだ性質であるために、局所適用された銀剤は創傷中ですばやく不活化されてしまう。頻繁に創傷に塗布すれば、創傷に過剰量の銀イオンがもたらされてしまい、過剰摂取による毒性が現れる。in vitroの実験により、線維芽細胞(Poon et al., 2004, Burns 30:140;Hildago et al., Skin Pharmacol. Appl. Skin Physiol. 11:140。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)、角化細胞(Poon et al., 2004, Burns 30:140。参照により、その全体において本明細書に援用される)、肝細胞(Baldi et al., 1988, Toxicol. Lett. 41:261。参照により、その全体において本明細書に援用される)およびリンパ球(Hussain et al., 1991, Biochem. Biophys. Res. Comm. 189:1444。参照により、その全体において本明細書に援用される)に対する銀イオンの細胞毒性効果が示されている。
【0119】
銀イオンの高度な反応性によって、創傷床への送達が困難となっている。放出された銀イオンは、複雑な創傷液内のタンパク質および塩化物と容易に結合し、急速に不活化され(Mooney et al., 2006, Plastic and Reconstr. Surg. 117:666。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)、上皮細胞および汗腺に望ましくない銀イオンの吸着が発生する(Klasen, 2000, Burns 26:117。その全体において参照により本明細書に援用される)。創傷治癒のために臨床で現在用いられている、0.5%の硝酸銀等の銀ベースの局所用溶液、または1%のスルファジアジン銀クリーム等の軟膏は、最大3200ppmの濃度の銀を放出するが、これらの大部分は創傷中で化学的複合体を形成して速やかに不活化されるため(Dunn et al., Burns, 2004, 30(supplement 1):S1、その全体において参照により本明細書に援用される)、頻繁に塗布する必要がある(硝酸銀溶液については1日に最大12回、および、スルファジアジン銀クリームは1日に少なくとも2回)。頻繁に塗布することにより、創傷に過剰量の銀イオンがもたらされ、それによって、過剰摂取から生じる有毒作用および変色が生じる(Atiyeh et al., 2007, Burns 33:139;Trop et al., 2006, J. Trauma 60:648。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)。被覆材に組み込まれた銀を用いて創傷を被覆することは、近年になって導入された。それにより、創傷への銀の放出が延長され、被覆材を交換する頻度は減った。しかしながら、これらの保有被覆材は、多量の銀イオンに含浸させなければならず、それによって、細胞毒性が生じる。主要な市販の創傷被覆材であるActicoat(登録商標)(ナノ結晶の銀を含有する)(Dunn et al., Burns, 2004, 30(supplement 1):S1。その全体において、参照により本明細書に援用される)から放出される銀は、角化細胞および線維芽細胞のin vitro単層細胞培養に対して毒性があることが示されている(Poon et al., 2004, Burns 30:140;Trop et al., 2006, J. Trauma 60:648。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)。ゆえに、現在の局所適用銀抗菌物質に関する課題は、銀放出レベルの低さ、浸透性の欠落、銀イオンの急速な滅失、および、硝酸銀の存在または、炎症促進性であり、創傷治癒に負の影響を与えるクリーム基材にある。創傷汚染、電解質の不均衡、および患者の不快症状等の課題もまた存在している。
【0120】
ある実施形態において、本発明には、過剰量の銀を創傷に使用することを回避しつつ、抗菌活性を維持し、細胞毒性を減少させる、非細胞毒性レベルの抗菌性銀組成物を制御し、表面へ局所塗布するための新規方法が含まれる。本発明のある実施形態を開発する経過中に行われた実験において(実施例13)、ナノメーターの厚さのポリマーフィルムがアセンブリーされ、それらは細菌を殺傷する効果をもたらすレベルで銀ナノ粒子を組み込まれているが、当該フィルム上のマウス線維芽細胞の付着および増殖に対し細胞毒性作用が生じなかった。一部の実施形態において、ポリマーフィルムは、実施例13に記述される抗菌性銀組成物中で当該フィルムをインキュベートすることにより、抗菌性銀組成物が組み込まれている。他の実施形態において、抗菌性銀組成物は、多層の合成の間に、当該ポリマー多層に直接組み込まれる。たとえば、Langmuir. 2005 Dec 6;21(25):11915-21を参照のこと。
【0121】
本発明の一部の実施形態における、銀ナノ粒子含浸薄層フィルムは、創傷マトリックスへの銀の送達のために、異なる原理を活用している。フィルムは、露出した創傷床に直接適用することができ、それにより、銀イオンが創傷内に局所的に放出される。これにより、銀局所送達剤と比較して、フィルムに組み込む必要のある殺菌性銀の量が数桁減少し、銀イオンによる毒性が著しく減少する。本発明は任意の特定のメカニズムに限定されず、当該メカニズムの理解は本発明の実施に必ずしも必要ではないが、銀含浸被覆材および軟膏が、放出された銀の浸透を制限する創傷液中の銀イオンの急速な滅失を克服するため、高レベルの銀イオンを創傷床内に送達しなければならない一方で、本明細書に提示される、一部のポリマー薄層フィルム実施形態による創傷マトリックスへの銀の局所放出は、銀の多量担持の使用を回避することができることが企図される。
【0122】
本発明の実施形態の、一部の分子的に薄い合成フィルムは、0.4μg/cm2もの低さの可溶性銀を含有するよう調整することができ、緩衝液に総計で1ppm未満の銀イオンを放出することができる。そのようなフィルムは、哺乳類細胞に対し測定可能な細胞毒性をいずれも示すことなく、99.9999%の殺菌効果を示す。さらに、これらのレベルの銀を含有するフィルムは、哺乳類細胞(たとえば、NIH-3T3マウス線維芽細胞)の付着および増殖が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の1または10~約50、100、200、300、400、500または1000μg/cm2の量で担持され、および/または1日当たり、ポリマー多層の約0.01~100μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.05~100μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.05~20μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.05~5μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.05~2μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.05~1μg/cm2の量で放出が可能である。一部の実施形態において、放出可能な抗菌性銀組成物は、ポリマー多層の約0.1~0.5μg/cm2の量で放出が可能である。
【0123】
本発明の一部の実施形態を開発する経過中に実施された実験において、フィルム中の銀濃度の体系的変化が可能であり、その細胞毒性および抗菌効果は銀担持量に依存していることが示された。比較すると、市販の創傷被覆材であるActicoat(登録商標)中の可溶性銀の量は約100μg/cm2である(Dunn et al., 2004,
Burns 30(supplement 1):S1。その全体において、参照により本明細書に援用される)。Acticoat(登録商標)は、24時間で総量で120ppm超の水に溶解した銀を放出し(Taylor et al., 2005, Biomaterials 26:7221。その全体において、参照により本明細書に援用される)、角化細胞および線維芽細胞に対し細胞毒性があることが示されている(Poon et al., 2005, Burns 30:140;Trop et al., 2006, J. Trauma 60:648。各々、その全体において、参照により本明細書に援用される)。
【0124】
銀を含有し、溶液中に銀を放出することにより抗菌活性を示す高分子電解質合成フィルムに関するいくつかの報告がある(Lee et al., 2005, Langmuir 21:9651;Li et al., 2006, Langmuir 22:9820;Grunlan et al., 2005, Biomacromolecules 6:1149;Yu et al., 2007, Bioconj. Chem. 18:1521; Shi et al., 2006, J. Biomed. Mat. Res. Part A 76A:826。各々、その全体において、参照により本明細書に援用される)。しかしながら、これら実験のすべては、フィルム中の銀の体積率および濃度の制御に焦点が当てられていた。高い銀担持量を含有するフィルム(約5.5μg/cm2以上)が、抗菌活性を示すことが報告されている(Wang et al., 2002, Langmuir 18:3370;Logar et al., 2007, Nanotechnol. 18:325601。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)。そのような高分子電解質フィルムは、それら銀レベルで担持された場合、強い細胞毒性を示し、それらの上に播種されたNIH-3T3細胞を100%殺傷した(たとえば、実施例13)。
【0125】
本発明のある実施形態を開発する過程で行われた実験において(たとえば、実施例13)、細胞毒性を示すことなく、哺乳類細胞の付着を可能とする銀含浸抗菌分子薄層フィルムにつながるPEM中の銀担持レベルが特定され、および、得られた。当該フィルムには、他の局所送達剤で見られるような銀過剰摂取による毒性のリスクを軽減させ、創傷に殺菌性の銀を局所送達するための用途が見出される。一部の実施形態において、埋め込み型医療デバイスを、これら銀含浸薄層フィルムでコートし、最初にこれら表面に付着する間に殺菌され、移植失敗の主要な原因となる細菌のコロニー形成を阻害する。
【0126】
ゆえに、本発明の一部の実施形態の銀放出分子薄層混合フィルムは、1)臨床で現在用いられている他の局所銀送達剤、2)多量の銀を含有する創傷被覆材、および、3)多量の銀を含有する他の殺菌混合薄層フィルム(それらは、哺乳類細胞に対して細胞毒性があり、それらの上に哺乳類細胞は付着し、増殖することはできない)を超える利点を有する。
【0127】
創傷中に殺菌性銀の局所投与を行うための、銀ナノ粒子分子薄層フィルムを用いることにより、創傷治癒のための局所銀送達剤が直面している、銀関連毒性の問題が克服される(Poon et al., 2004, Burns 30:140;Baldi et al., 1988, Toxicol. Lett. 41:261;Atiyeh et al., 2007, Burns 33:139;Coombs et al., 1992, Burns 18:179。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)。さらに、これらの高分子電解質多層(PEM)は、均質で、高浸透性の超薄層ナノ混合フィルムであり、通常、1μm未満の厚さである(Decher,
1997, Science 277:1232;Hammond, 1999, Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 4:430。各々、その全体において参照により本明細書に援用される)。それらの浸透性構造および超分子構造により、DNA、酵素、ウイルス、デンドリマー、コロイド、無機粒子および色素を含む、様々な分子の組み込みが可能となる(Decher, 1997, Science 277:1232。その全体において、参照により本明細書に援用される)。ゆえに、一部の実施形態において、それらは、殺菌性銀と共に、創傷マトリックスの他の生物活性剤(たとえば、細胞動員成長因子、その様な成長因子をコードするDNAプラスミド等)の同時局所送達に用いることができる。PEMは任意のタイプ、サイズ、または形の基材(天然ポリマーおよび合成ポリマーを含む)を共形的にコートすることができるため(Hammond, 1999, Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 4:430。その全体において、参照により本明細書に援用される)、それらは、任意の創傷床または埋め込み型医療デバイス上に構築されることができる。
【0128】
1つの実施形態において、本発明により、たとえば高分子電解質多層またはビーズ等を使用することによる、細胞活性因子および細胞外マトリックス(ECM)の創傷床上への堆積および固定が提示される。
図1において、高分子電解質多層130が堆積されている創傷床110の概略
図100を示す。概略
図100には、創傷床110が、異なる化学部分を表す形状120により描画される異種面を含有することを示す。高分子電解質多層130は、官能基140が付着し、均質官能基化面150を形成することができる均質面を提示する。図示される実施形態においては、官能基は均一であるが、一部の好ましい実施形態においては、異なる官能基が用いられる。次いで、官能基140を介して様々な活性剤を面に付着させてもよい。他の実施形態において、創傷床は、共有結合修飾剤により共有結合的に修飾される。共有結合修飾剤としては、限定されないが、均質二官能性架橋剤および異質二官能性架橋剤、ならびに光活性化架橋剤が挙げられる。
図2において、異なる化学部分を表す形状220により描画される異種面を含有する創傷床210の概略
図200を提示する。創傷床は、比較的均質に官能基化された面250をもたらすために、異なる化学部分と共有結合修飾剤230を反応させることにより、共有結合的に修飾される。好ましい実施形態において、共有結合修飾剤230は、官能基240をもたらす。図示される実施形態において、官能基は均一であるが、しかし、一部の好ましい実施形態においては、異なる官能基が用いられる。次いで、官能基240を介して様々な活性剤を面に付着させても良い。これらの実施形態は以下に詳述される。
【0129】
創傷床は極めて不均一な環境であることが予期される。本発明の組成物および方法は、創傷床へ均一で予測可能な送達をもたらす、または創傷床に活性剤を均一に組み込む、均質な環境をもたらすために、創傷床を修飾するよう設計されている。驚くべきことに、この方法で創傷床を修飾することにより、必要とされる活性剤の量が大幅に低減されることが判明している(すなわち、必要とされる活性剤の有効量が減少する)。表面官能基化により、用いられる活性剤の量、または送達される活性剤の量の正確な制御が可能となり、さらに、創傷床上の活性剤の勾配形成も可能となる。一部の好ましい実施形態において、プライミング剤は、創傷床と反応するように最適化される。一部の実施形態において、プライミング剤により、活性剤の送達を増強または最適化するための最適面がもたらされる。一部の実施形態において、創傷床の化学的パラメータが変化する。たとえば、創傷床は、多少、酸性、塩基性、アルカリ、還元、または酸化するよう修飾されても良く、または、高イオン強度または低イオン強度を有するように修飾されても良い。
【0130】
慢性創傷の治癒を改善するための、様々な候補分子がある。たとえば、基底膜構成物質および成長因子が創傷治癒を促進する。一部の実施形態においては、堆積および固定された細胞外マトリックスが、天然型基底膜の構成物質である。天然型ECMは、糖タンパク質、プロテオグリカン、およびヒアルロン酸の混合物を含有する。これらの糖タンパク質およびプロテオグリカンとしては、限定されないが、フィブリン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、ニドゲンおよびコラーゲンが挙げられる。たとえば成長因子等の細胞活性因子もまた、ECMの一部である。一部の実施形態において、たとえばコラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン、またはヒアルロン酸等の細胞外マトリックス成分は、創傷床に堆積および固定される。一部の実施形態において、MATRIGEL(商標)等の合成マトリックスが創傷床に堆積される。MATRIGEL(商標)は、天然型基底膜の特徴(3次元ナノスケールの組織分布面を含む)の多くを有する、市販の基底膜様複合体である。本発明は、特定のメカニズムに限定されない。実際に、本発明の実施にメカニズムの理解は必要ではない。しかしながら、基底膜のナノスケールの組織分布的特徴が、移動、付着、増殖および分化を含む、基礎的な細胞挙動を調節することが企図される(Abrams et al., 2002, Biomimetic Materials and Design: Interactive Biointerfacial, Tissue Engineering, and Drug Delivery, Eds. Dillow and Lowman;Diehl
et al., 2005, J. Biomed. Mater. Res. A 75:603;Foley et al., 2005, Biomaterials 26:3639;Karuri et al., 2004, J. Cell Sci. 117:3153;Liliensiek et al., 2006, J. Biomed. Mater. Res. A 79:185)。一部の実施形態において、本発明により、創傷面のコンプライアンスを改変するための方法、製剤、組成物およびキットがさらに提示される。一部の実施形態において、局所のコンプライアンス(細胞レベルのコンプライアンス)は、たとえばMATRIGEL(商標)、または適切なハイドロゲル、または他の合成マトリックス等の細胞外マトリックス構成物質の薄層を固定することにより、または、創傷床を酵素で処置することにより、改変される。他の実施形態において、コンプライアンスは、すでに創傷床に存在している成分または意図的に創傷床に導入された成分を架橋するように架橋剤を創傷床に添加することにより改変される。また、Picartらは、架橋剤を添加することにより、高分子電解質から形成された多層構造のコンプライアンスを制御することができることを明らかにしている。
【0131】
一部の実施形態において、創傷床に堆積および固定される細胞活性因子としては、限定されないが、上皮細胞および血管内皮細胞の分裂促進因子、および創傷閉鎖の要因となる他の因子が挙げられる。たとえば、一部の実施形態において、たとえば血小板由来成長因子(PDGF)、および/または、上皮細胞の分裂を促進することが知られている上皮細胞成長因子(EGF)等の成長因子が、創傷床に堆積される。他の実施形態において、血管内皮細胞の分裂を促進することが知られている血管内皮細胞成長因子(VEGF)が、創傷床に固定される細胞活性因子を構成する。本発明は、創傷床に固定されるECM成分または細胞活性因子に限定されないことが企図され、実際のところ、創傷治癒を改善する任意の細胞外マトリックス成分および/または細胞活性因子も同様に適用可能である。組み込むことができる、さらなる細胞活性剤および創傷活性剤を、以下に提示する。
【0132】
I. 創傷床のプライミング
一部の実施形態において、本発明により、より後の修飾のための、均質な反応性表面をもたらすための、創傷床のプライミングのための組成物および方法が提示される。創傷床のプライミングのための適切な組成物としては、限定されないが、高分子電解質および、たとえばカルボキシ、チオール、アミド基および糖類等の、創傷床に存在する官能基と共有結合反応する化学的架橋剤が挙げられる。
【0133】
A.創傷床上への多層堆積
一部の実施形態において、本発明により、創傷床上への多層構造の堆積のための組成物、製剤、方法およびキットが提示される。一部の実施形態において、多層構造は高分子電解質を形成するポリマーの層を含有し、一方で、他の実施形態において、多層は、電荷を有していないポリマー(すなわち、非イオン性ポリマー)、または電荷を帯びたポリマー層と電荷を帯びていないポリマー層の組み合わせを含有する。一部の実施形態において、カチオン性およびアニオン性の高分子電解質層の吸着を交互に行うことによる、高分子電解質のフィルム組立により、制御された方法で創傷面を修飾するための、新規で、有望な技術が確立されることが企図される(Decher et al., 1992, Thin Solid Films 210/211:831;Decher, 1997,
Science 277:1232)。そのような多層の最も重要な特性のうちの1つは、過度に交互に並んだ正電荷と負電荷を示すことである(Caruso et al., 1999, J Am Chem Soc 121:6039;Ladam et al., 2000, Langmuir 16:1249)。これは、その組立の駆動力となるだけでなく(Joanny, 1999, Eur. Phys. J. Biol. 9:117)、その単なる接触により、たとえば色素、粒子(Cassagneau et al., 1998, J. Am. Chem. Soc. 120:7848;Caruso et al., 1999, Langmuir 15:8276;Lvov et al., 1997, Langmuir 13:6195)、クレイマイクロプレート(Ariga et al., 1999, Appl. Clay Sci. 15:137)、およびタンパク質(Keller et al., 1994, J. Am. Chem. Soc. 116:8817;Lvov et al., 1995, J. Am. Chem. Soc. 117:6117;Caruso et al., 1997, Langmuir 13:3427)等の非常に様々な成分を吸着することが可能となる。
【0134】
一部の実施形態において、たとえば高分子電解質多層等のポリマー多層は、ナノスケールの寸法である。従って、一部の実施形態においては、ポリマー多層は、約1nm~1000nmの厚さ、約1nm~500nmの厚さ、約1nm~100nmの厚さ、約1nm~25nmの厚さ、約1nm~10nmの厚さ、または、約500nm、100nm、25nm、または10nm未満の厚さである。ポリマー多層がナノスケールの寸法(すなわち、ナノスケールの厚さ)であることにより、より大きな厚さのマトリックス構造と比較して、有効量の活性剤(すなわち、対照と比較して創傷治癒を加速する活性剤の量)の供給を可能にしつつ、活性剤の総量を減少させて担持させることが可能となることが企図される。担持総量レベルの低下により、特に抗菌性成分がポリマー多層に組み込まれている場合において、創傷環境における毒性が低下することが企図される。
【0135】
一部の実施形態において、ポリマー多層のコンプライアンスは、創傷の細胞の移動を促進するために調節される。一部の実施形態において、ポリマー多層は、約3~約500kPa、約7~約250kPa、約10~約250kPA、または約10~約200kPaのコンプライアンス(キロパスカル(kPa)で測定される)を示す。
【0136】
1.高分子電解質層の形成
カチオン性高分子電解質ポリ(L-リジン)(PLL)は、細胞表面上のアニオン性部位および細胞外マトリックス中のアニオン性部位と相互作用する(Elbert and
Hubbell, 1998, J. Biomed. Mater. Res. 42:55)。一部の実施形態において、本発明により、カチオン性高分子電解質、アニオン性高分子電解質、および創傷活性剤を創傷に連続適用する、創傷を治療する方法が提示される。他の実施形態において、当該治療には、カチオン性高分子電解質、アニオン性高分子電解質、および創傷活性剤を創傷に連続的に、および繰り返し適用することが含まれる。
【0137】
高分子電解質の層は、アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質を表面に交互に適用して、高分子電解質の層を形成させることにより形成される。当該層を用いて、創傷活性剤を創傷に送達させることができる。好ましくは、少なくとも4つの層、およびより好ましくは、少なくとも6つの層を用いて、高分子電解質の多層を形成する。一部の実施形態においては、6より多い層が用いられる(たとえば、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50またはそれ以上の層)。一部の好ましい実施形態において、高分子電解質の多層は、10.5の層(たとえば、2つの成分の10の二重層と、2つの成分のうちの1つの追加の層を含む)を含有する。
【0138】
本発明の治療方法は、創傷表面上での使用に限定されない。創傷活性剤を含有する高分子電解質層の構造は、創傷活性剤の送達が望ましい任意の表面上に形成されても良い。
【0139】
一部の実施形態において、用いられるカチオン性高分子電解質は、PLLであり、用いられるアニオン性高分子電解質はポリ(L-グルタミン酸)(PGA)である。実際には、様々な高分子電解質の使用が企図され、限定されないが、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(ナトリウム4-スチレンスルホネート)(PSS)、ポリ(アクリル酸)(PAC)、ポリ(マレイン酸-コ-プロピレン)(PMA-P)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、およびポリ(硫酸ビニル)(PVS)が挙げられる。また、天然型高分子電解質(ヒアルロン酸および硫酸コンドロイチンを含む)を使用することも可能である。
【0140】
依然としてさらなる実施形態において、ポリマーは、デンドリマー、グラフトポリマー、または星状構造ポリマーである。他の実施形態において、多層は、電場(たとえば、創傷のいずれか側に電極を置くことにより形成された電場)の存在下で構造化され、または電場に応答する。
【0141】
一部の実施形態において(
図1を参照)、ポリマー多層130は、ポリスチレンスルホネート、両親媒性高分子電解質(創傷床の疎水性領域に親和性を有する)、および両性ポリマーから構成される。ポリマー多層は、好ましくは、均質な表面が提示されるよう、アルキンを提示する1以上の架橋剤を用いて官能基化されている(たとえば、
図1の140であり、xはアルキン基を表す)。この状態から、広く利用されているクリック化学を用いて、創傷の修飾表面に所望の創傷活性剤を添加することができる。一部の実施形態において、創傷修飾剤は、アジド複合物であり、または、アジド基を含有し、ヒュスゲン環化付加反応において創傷床上に提示されているアルキン基と反応する。
【0142】
高分子電解質の多層を調製するための他の適切な方法としては、たとえば、Cho and Char, Langmuir 20:4011-4016, 2004;Okamura et al., Adv. Mater. 21, 4388-92 (2009),Cho et al., Adv. Mat. 13(14):1076-1078 (2001);および、米国特許出願公開第2010/0062258号(それら各々の全内容は、参照により本明細書に援用される)に記述されているものが挙げられる。適切な方法としては、多層堆積、SAM上の形成、およびスピンコート補助アセンブリーが挙げられる。
【0143】
2.カチオン性ポリマー
本発明に有用なカチオン性ポリマーは、任意の生体適合性のある水溶性ポリカチオン性ポリマー(たとえば、ペンダント基として付着されたプロトン化複素環を有する任意のポリマー)であっても良い。本明細書において、「水溶性」とは、ポリマー全体が水性溶液(たとえば、緩衝生理食塩水または、共溶媒として少量の添加有機溶媒を含む緩衝生理食塩水等)に、20~37℃の温度で可溶性であることを意味する。一部の実施形態において、当該物質は、それ自身は水性溶液中で十分に可溶性でない(本明細書において、1リットル当たり少なくとも1gの程度まで可溶性であるとして定義される)が、たとえばポリエチレングリコール等の水溶性ポリ非イオン性物質とポリカチオン性ポリマーをグラフトすることにより、水溶性となることができる。
【0144】
代表的なカチオン性ポリマーとしては、中性pHでの正味正荷電を有する非天然型ポリアミノ酸および天然型ポリアミノ酸、正に荷電された多糖、および正に荷電された合成ポリマーが挙げられる。適切なポリカチオン性物質の例としては、ポリマー主鎖またはポリマー側鎖のいずれか上にアミン基を有するポリアミン(たとえば、ポリ-L-リジン(PLL))および天然型アミノ酸または合成アミノ酸またはアミノ酸混合物の他の正荷電ポリアミノ酸(限定されないが、ポリ(D-リジン)、ポリ(オルニチン)、ポリ(アルギニン)、およびポリ(ヒスチジン)、および、非ペプチドポリアミン(たとえば、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(N-メチルアミノアクリレート)、ポリ(N-エチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノアクリレート)、ポリ(アミノメタクリレート)、ポリ(N-メチルアミノ-メタクリレート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、たとえばポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)等の4級アミンのポリマー、およびキトサン等の天然型多糖または合成多糖)が挙げられる。一部の実施形態においては、PLLが好ましい物質である。一部の好ましい実施形態において、カチオン性ポリマーは、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)である。
【0145】
概して、ポリマーは、少なくとも5つの荷電を含有しなければならず、および、ポリカチオン性物質の分子量は、組織または他の表面へ所望される程度に結合するために十分でなければならない(少なくとも1000g/モルの分子量を有する)。
【0146】
3.アニオン性ポリマー
本発明に有用なポリアニオン性物質は、任意の生体適合性のある水溶性ポリアニオン性ポリマー(たとえば、ペンダント基として付着されているカルボン酸基を有する任意のポリマー)であっても良い。適切な物質としては、アルギネート、粉末寒天、ファーセレラン、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、デルマタンスルフェート、デキストランスルフェート、ポリ(メタ)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、およびクロスマルメロース(crosmarmelose)、合成ポリマー、ならびに、ペンダントカルボキシル基を含有するコポリマー(たとえば、主鎖にマレイン酸またはフマル酸を含有するもの)が挙げられる。主に負に荷電されているポリアミノ酸もまた適切である。これらの物質の例としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、および他の天然アミノ酸および非天然アミノ酸とそれらのコポリマーが挙げられる。たとえばタンニンおよびリグニン等のポリフェノール性の物質を、もし十分に生体適合性があれば、用いても良い。好ましい物質としては、アルギネート、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリンおよびヒアルロン酸が挙げられる。一部の好ましい実施形態において、アニオン性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)(PAA)である。
【0147】
4.非イオン性ポリマー
一部の実施形態において、多層構造は、非荷電のポリマーまたは荷電ポリマーと非荷電ポリマーの組み合わせから形成される。非荷電ポリマーの例としては、限定されないが、デキストラン、デキストランスルフェート、ジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストラン、ヒドロキシエチルセルロース、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、アクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドのコポリマー、PAANa、Ficoll、ポリビニルピロリドン、およびポリアクリル酸が挙げられる。
【0148】
5.両性ポリマー
一部の実施形態において、多層構造は、1以上の両性ポリマーから、単独で、または本明細書に記述される他のポリマーと組み合わせて、形成される。一部の実施形態において、両性ポリマーは、アクリル酸(AA)、DMAEMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、APA(2-アミノプロピルアクリレート)、MorphEMA(モルホリノエチルメタクリレート)、DEAEMA(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、t-ブチルAEMA(t-ブチルアミノエチルメタクリレート)、PipEMA(ピペリジノエチルメタクリレート)、AEMA(アミノエチルメタクリレート)、HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、MA(メチルアクリレート)、MAA(メタクリル酸)APMA(2-アミノプロピルメタクリレート)、AEA(アミノエチルアクリレート)のうちの1以上を含有する。一部の実施形態において、両性ポリマーは、(a)カルボン酸、(b)1級アミン、および(c)2級アミンおよび/または3級アミンを含有する。両性ポリマーは、4~8、好ましくは5~7の等電点を有し、10,000~150,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0149】
6.多層の適用
たとえばポリマー多層等の創傷修飾剤を、様々な方法により創傷に適用しても良い。一部の実施形態において、ポリマーまたはポリマー多層は、ポンプ(シリンジ、インクジェットプリンター、および電子ジェットを含む)またはエアロゾルスプレーのいずれかを用いて創傷に、好ましくは連続して適用されることが企図される。他の実施形態においては、粒子衝突が用いられる。他の実施形態においては、エアブラシを含むブラシの使用が企図される。他の実施形態においては、スポンジが用いられる。他の実施形態においては、固形支持体または、エラストマー物質等のスタンプ(たとえば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、シリコーン、ハイドロゲルまたはラテックス等)を用いて、創傷修飾剤を支持し、および、剤を創傷床へと機械的に移行する。これらの実施形態において、ポリマー多層は、スタンプ上で前もって形成される。さらなる実施形態において、ナノ粒子またはマイクロ粒子が、創傷への送達のためのスタンプ上に配置される。他の方法においては、電場または磁場を用いて、創傷床への創傷修飾剤の移行が促進される。
【0150】
一部の実施形態において、ポリマー多層は、支持基材(たとえば、PDMS)上で製造され、当該支持基材から取り除かれ、次いで、創傷上に置かれる。一部の実施形態において、ポリマー多層は、支持基材(たとえば、PDMS)上で製造され、たとえば生体適合性のあるポリマー(たとえば、ポリビニルアルコール(PVA))を含有する支持層(たとえば、犠牲的支持層(たとえば、水溶性犠牲的支持層))で覆われる。これらの実施形態において、犠牲的支持層は、支持基材からのポリマー多層の除去を容易にし、手動でポリマー多層を操作することを容易にし、および/または、創傷上にポリマー多層を適用することを容易にする。次いで、一部の実施形態においては、設置した後に、当該支持層を溶解させ、それにより創傷のマイクロ組織分布およびナノ組織分布にポリマー多層が付着することを容易にする。
【0151】
一部の実施形態において、ポリマーは、(たとえば、ポンプまたはエアロゾルデバイスを介して)スプレーにより創傷に適用される。一部の実施形態において、ポリマー層は、連続して適用される。1つの実施形態において、創傷修飾剤および創傷活性剤の溶液、分散液、または懸濁液が創傷上にスプレーされ、高分子電解質の多層を形成する。創傷修飾剤および創傷活性剤がエアロゾルとしてもたらされる場合の実施形態においては、推進剤を用いて、容器からの排出力を得る。一部の実施形態においては、創傷修飾剤または創傷活性剤、および推進剤は、組成物が一定して送達されるように単一の液相を形成する。
【0152】
概して、エアロゾル送達に対しては、組成物の成分は混合され、実質的に均質な溶液、スラリー、分散液等を形成する。2液系に対しては、各部が混合される。組成物は適切な容器内に置かれ、推進剤が標準的な技術(たとえば、冷充填法または圧力充填法)を用いて添加される。組成物は、市販のエアロゾルスプレー(たとえば、Preval(商標)エアロゾルスプレーユニット(Precision Valve Corporation, NY, USAから販売)。モジュラー式の電源装置と詰め替え可能な容器瓶を有する)を用いて送達されても良い。推進剤は、プロパン、イソブタン、およびジメチルエーテルの混合物である。
【0153】
組成物はまた、スプレーヘッドを装備したシリンジ、またはスプレーヘッドを装備したデュアルスプレーデバイス、および、任意選択的に、混合チャンバを用いて送達されても良い。デバイスは、適用される組成物の量を制御することができるよう、計器を含んでも良い。
【0154】
組成物の他の成分に対して化学的に不活性であれば、当分野公知の多くの推進剤の内の任意のものを用いてもよい。適切な推進剤としては、塩化ビニルおよび、塩化ビニルとジクロロジフルオロメタンの混合物、他のフルオロクロロ炭化水素(FreonsおよびGenetronsとして知られる)、ならびに、フルオロクロロ炭化水素、塩素化炭化水素および炭化水素のブレンドが挙げられる。フルオロクロロ炭化水素の例としては、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン、2-テトラフルオロエタン、1,1-ジクロロ-1,2,2-テトラフルオロエタン、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン、およびオクトフルオロシクロブタン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。炭化水素の例としては、プロパン、イソブタン、およびN-ブタン、ならびにそれらの混合物のような液化石油ガスが挙げられる。ジメチルエーテルは、別の推進剤である。好ましくは、非毒性、不燃性および不活性である圧縮ガス推進剤を用いても良い。例としては、二酸化炭素、亜酸化窒素、およびN2等が挙げられる。上述の混合物も良く用いられる。
【0155】
用いられる推進剤の量は、もし不十分な量が用いられると、容器から組成物全体を放出するための駆動力が欠けるということだけで、重要である。通常、組成物は、75~95重量%の推進剤を含有する。
【0156】
一部の実施形態において、本発明により、カチオン性高分子電解質を有する容器、アニオン性高分子電解質を含有する第2の容器、および少なくとも1つの創傷活性剤を含有する第3の容器、を含有するキットが企図される。さらに他の実施形態において、カチオン性高分子電解質を有する容器、アニオン性高分子電解質を含有する第2の容器、および少なくとも1つの創傷活性剤を含有する第3の容器、に加え、キットにより、高分子電解質および少なくとも1つの創傷活性剤を、創傷に投与するためのアプリケーションデバイスが提供される。一部の好ましい実施形態において、容器は、推進剤を含有する。他の実施形態において、容器はポンプを含有する。
【0157】
一部の実施形態において、接触には、反応チャンバ被覆材(RCD)を用いてポリマーおよび少なくとも1つの創傷活性剤を創傷に送達することが含まれる。一部の実施形態において、RCDは、創傷を完全に包囲する領域に固着された固相バリアを含有することが企図される。固相バリア内に、溶液容器からのチューブが接続される流入開口部および流出開口部が存在する。様々な固相バリアの使用が企図され、限定されないが、Gortex、ラテックス、テフロン、PVDF、プラスチックおよびゴムが挙げられる。
【0158】
一部の実施形態において、創傷修飾剤は、マイクロ流体工学プリンティング、マイクロスタンピング(米国特許第5,512,131号、第5,731,152号。それらは両方とも、その全体において参照により本明細書に援用される)、またはマイクロコンタクトプリンティング(PCR国際公開第96/29629号。その全体において参照により本明細書に援用される)により創傷に適用される。他の実施形態において、創傷修飾剤は、たとえばインクジェットプリンター等のパルスジェットを介して創傷に適用される。生物学的液体の適用のための適切なインクジェットプリンターの例としては、米国特許第7,128,398号、国際公開第95/25116号および国際公開第98/41531号(それら各々は、その全体において参照により本明細書に援用される)に記述されるものが挙げられる。他の実施形態において、創傷修飾剤は、たとえばピンの先端またはオープンキャピラリー等の液滴ディスペンサーにより適用され、および、基材表面にピンまたはキャピラリーが触れる。そのような方法は、米国特許第5,807,522号に記述されている。液体が表面に触れた際に、当該液体の一部が移る。他の実施形態において、創傷修飾剤は、ピペッティング、マイクロピペッティング、または、たとえばBiodot機器(Bio-Dot Inc., Irvine Calif., USAから市販)等の容積型ポンプにより適用される。
【0159】
好ましくは、1以上の創傷活性剤が、創傷修飾剤と共に創傷に適用される。一部の実施形態において、創傷活性剤は、創傷修飾剤に共有結合的に付着している。他の実施形態において創傷活性剤は、たとえば、ポリマー多層中のポリマー層の連続適用の間の適用により、創傷修飾剤に組み込まれている。他の実施形態において、創傷活性剤は、創傷修飾剤に関連して上述されている、マイクロアレイヤー、ピペット、容積型ポンプ、インクジェットプリンター、マイクロニードルアレイ、エラストマースタンプ、遺伝子銃、電子ジェット、またはエアブラシにより送達される。
【0160】
B.生体適合性粒子を用いた創傷床の修飾
一部の実施形態において、創傷修飾剤はナノ粒子またはマイクロ粒子である。一部の実施形態において、たとえば球体粒子(たとえばビーズ)、および/または、非球体粒子(たとえば、楕円形状構造、針状構造、立方構造、四面体構造、キノコ様構造、干し草山様構造)等の、ナノメーターサイズからサブミクロンサイズの生体適合粒子、または、電気紡糸ポリマーが創傷床に(直接または間接のいずれかで)適用され、それにより、3次元の組織分布的創傷床が生成される。たとえば、創傷床への生体適合粒子の適用により、創傷床中にこぶ、突起、スパイク、うねり等が生成される。マイクロビーズは、通常、約1~約500マイクロメーターの範囲にあるサイズを有し、ナノビーズは、通常、約1~約1000ナノメーターの範囲にあるサイズを有する。マイクロビーズはさらに、マイクロスケール(すなわち、1~100マイクロメーター)、またはナノスケール(0.1~1000ナノメーター)の特性をビーズ表面上に含有しても良い。ナノビーズはさらに、ナノスケールの特性(すなわち、0.1~500ナノメーターの特性)をビーズ表面上に含有してもよい。一部の実施形態において、創傷活性剤は、たとえば銀ナノ粒子等のビーズまたは粒子の形態で存在する。
【0161】
一部の実施形態において、生体適合性のある粒子は、生分解性である。一部の実施形態において、生体適合性のある粒子は、生分解性ではない。生体適合性のある粒子は、たとえば、本明細書にさらに記述される創傷活性剤、細胞外マトリックス成分、高分子電解質等の付着および固定を可能にする界面化学架橋剤で修飾されている。修飾生体適合性粒子の組み込みにより、たとえば、創傷の上皮被覆を支持するECM構成物質の提示が容易になり、創傷治癒のための細胞活性因子がもたらされ、および、創傷治癒を促進する細胞挙動を支持する組織分布的機能が導入されることが企図される。一部の実施形態において、生体適合性のある粒子は、たとえば、創傷床に広く共有結合的相互作用を可能とするために、メゾスコピックな架橋剤で官能基化されている。一部の実施形態において、架橋剤は、負に荷電された生体適合性粒子に付着されている。一部の実施形態において、生体適合性粒子は、創傷治癒のための複数の異なる構成物質の層を含有するか、または、創傷治癒のためのただ一つの構成物質を含有している。たとえば創傷床に置かれたビーズ等の球体の粒子は、上述される、創傷治癒のための高分子電解質、ECM剤、加水分解型結合を有するタンパク質、酵素開裂可能な結合を有するタンパク質等の混合種を1以上含有し、または層状化で含有する。一部の実施形態において、抗菌物質はまた、単独、または他の創傷治癒組成物と組み合わせて、生体適合性粒子に適用される。抗菌性物質としては、限定されないが、抗生物質、銀(たとえば、イオン性銀、銀元素、銀ナノ粒子)、銅、セレニウムを含有する金属ベースの抗菌性組成物、トリクロサンベースの抗菌物質、チアベンダゾールをベースにした抗菌物質、イソチアゾリノンをベースにした抗菌物質、亜鉛-ピリチオンをベースにした抗菌物質、および/または、10´-オキシビスフェノキサルシン(oxybisphenoxarsine)をベースにした抗菌物質(OBPA)が挙げられる。本発明は、使用される抗菌物質の種類に限定されない。
【0162】
一部の実施形態において、たとえばビーズ等の生体適合性粒子のサイズは、少なくとも1nm、少なくとも5nm、少なくとも10nm、少なくとも20nm、少なくとも50nm、少なくとも100nm、少なくとも200nm、少なくとも300nm、少なくとも500nm、または少なくとも800nmの直径である。一部の実施形態において、ビーズおよび他の球状または非球状の粒子は、それら自身の表面組織分布を含有している。たとえば、ビーズ表面は、うねり、ギザギザ、トンネル、穴、こぶ、突起等を含有しても良い。ビーズ等の球状粒子は、不活性であっても無くても良く、および、たとえば、磁性があっても良い。磁性ビーズは、たとえば、磁心または磁性粒子を含有する。異なるビーズ組成物の例は、たとえば、米国特許第5,268,178号、第6,458,858号、第6,869,858号、および第5,834,121号に見出される(それら各々は、参照によりその全体において本明細書に援用される)。
【0163】
一部の実施形態において、創傷治癒に用いられる本発明の生体適合性粒子は、高分子電解質、ECM成分、抗菌物質、加水分解型結合を有するタンパク質、酵素開裂可能な結合を有するタンパク質等、および他の創傷治癒組成物の層でコートされ、ここで、ビーズの表面コンプライアンスは、創傷治癒に最適であるように維持されている。たとえば、生体適合性粒子状に堆積された創傷治癒のための層のコンプライアンスは、創傷床内の細胞が最適に係留され、拡がるように、最適な剛性であることが企図される(たとえば、柔らかすぎず、硬すぎず)。Engler et al. (2004, Biophys. J. 86:617-628)は、細胞係留および拡散のための基材コンプライアンスについて考察している。一部の実施形態において、生体適合性粒子は、高分子電解質、ECM成分、抗菌性物質等で重ねられており、ここで、Engler et al. (2004)の方法を用いて測定される、少なくとも1kPa、少なくとも5kPa、少なくとも8kPa、少なくとも10kPa、少なくとも20kPa、少なくとも40kPa、少なくとも60kPa、少なくとも80kPaの基材剛性が得られる。好ましい実施形態において、生体適合性に適用される、創傷治癒組成物の基材コンプライアンスは、少なくとも8kPa~約80kPa、または100kPaである。これらの限界値内の硬度は、具体的にそのような硬度すべてが列記されていなくとも、企図されるものであり、たとえば、10、20、30、40、50、60または70kPaはすべて、上限または下限範囲として本発明により企図される。一部の実施形態において、高分子電解質、抗菌物質、および他の創傷治癒組成物と共に用いられるECM組成物は、好ましくは、コラーゲンである。
【0164】
一部の実施形態において、創傷床、または生体適合性粒子に適用される層は、創傷治癒組成物(たとえば、創傷活性剤)の勾配を含有する。たとえば、垂直に、より高い濃度の特定組成物が、創傷床の遠位よりも近位にあるような勾配で、組成物の濃度が、創傷床中にまたは生体適合性粒子上に重ねられている。組成物濃度が創傷床の近位よりも遠位でより高くなるような逆の場合もまた企図される。水平な勾配を設けるような、創傷床中の組成物濃度、または生体適合性粒子中の組成物濃度もまた企図される。組織分布的な勾配もまた企図され、ここで、組成物は、創傷床または生体適合性粒子中の組成物濃度が、基材の組織分布に従うように堆積されており、たとえば、より高い濃度の組成物は、うねりのピークと比較し、典型的な基材のうねりの谷間に堆積される。同様に、本発明により、様々な硬度のマイクロビーズまたはナノビーズを制御下で適用することにより、コンプライアンス勾配が創傷床中に形成されることが企図される。たとえば、1、2、3、4またはそれ以上の異なる硬度を有するビーズが適用され、創傷上に垂直の勾配(すなわち、深度勾配)が形成される、または水平の勾配(すなわち、創傷の長さまたは幅に沿った勾配)が形成される、または垂直勾配と水平勾配の組み合わせが形成される。水平勾配および垂直勾配はまた、1、2、3、4またはそれ以上の異なる創傷活性剤で官能基化されたビーズで形成されても良い。Ichinose et al., Biomaterials. Volume 27, Issue 18, June 2006, Pages 3343-3350;Stefonek et al., Immobilized gradients of epidermal growth factor promote accelerated and directed keratinocyte migration. Wound Repair and Regeneration (OnlineEarly Articles). doi:10.1111/j.1524-475X.2007.00288.x;Kapur et al., Immobilized concentration gradients of nerve growth factor guide neurite outgrowth. Journal of Biomedical Materials Research Part A. Volume 68A, Issue 2, Pages 235-243;DeLong et al., Covalently immobilized gradients of bFGF on hydrogel scaffolds for directed cell migration. Biomaterials 26 (2005) 3227-3234;Liu, et al., 2007 Sep 25; 17892312 Endothelial Cell Migration on Surface-Density Gradients of Fibronectin, VEGF, or Both Proteins、を参照のこと。
【0165】
一部の実施形態において、創傷床または生体適合性粒子(たとえば、ビーズ、針等)に適用される創傷治癒組成物は、当該創傷床または生体適合性粒子に適用されている創傷治癒組成物がある期間(たとえば、3時間、5時間、10時間、1日、数日、1週、数週等)にわたり放出されるよう、徐放され、それにより、短期間および/または長期間、創傷床が治療される。
【0166】
一部の実施形態において、本発明の創傷床治癒適用に用いられる生体適合粒子はたとえば、上述されたような球状ではないが、たとえば楕円形、針、キノコのような構造、干し草山様の構造の形態をとる。一部の実施形態において、生体適合性粒子の形状は、好ましくは、針状である。本発明の実施形態に有用な針の製造は、たとえばMcAllister et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. 100:13755-13760にあるような微細加工技術を用いて行うことができる。一部の実施形態において、生体適合性粒子は、本明細書に記述される、創傷治癒組成物、抗菌物質、加水分解型開裂が可能なタンパク質、酵素開裂が可能なタンパク質、抗菌物質等を用いてコートされる、および/または層状化される。一部の実施形態において、コートされた生体適合性粒子、および/または、層状化された生体適合性粒子は、スタンピング、スプレー、または本明細書に記述される他の方法により創傷床に適用される。
【0167】
一部の実施形態において、本明細書に記述される創傷治癒組成物の層は、静電結合により、創傷床または生体適合性粒子に堆積される。他の組成物においては、非静電的相互作用(たとえば、ファンデルワールス相互作用、金属イオン-リガンド配位、または水素結合等)が利用される。一部の実施形態において、本明細書に記述される創傷治癒組成物の層は、たとえば、米国特許6,368,079号、およびSumerel et al., 2006, Biotechnol. J. 1:976-987に記述される方法およびシステムを用いて、圧電応用により堆積される。他の実施形態において、創傷治癒組成物は、電気ジェット技術(電気押出(electroextrusion)、および電気スプレーおよびエレクトロスピニングを含む)を用いることにより創傷床に直接、または間接的に堆積される。一部の実施形態において、堆積された層は、1以上の創傷治癒組成物を含有する。一部の実施形態において、層は、創傷治癒組成物と混合された生体適合性粒子(たとえば、球状ビーズ、針等)である。他の実施形態において、層状化堆積は、連続的なものである。たとえば、創傷治癒組成物単独の連続堆積、または創傷治癒組成物の後に生体適合性粒子、その後に創傷治癒組成物等の連続的な堆積である。本発明は、生体適合性粒子上の堆積層を構成する構成物質に限定されず、創傷治癒組成物と生体適合性粒子の層形成の多くの置換が、当業者に明らかであろう。
【0168】
一部の実施形態において、創傷床または生体適合性粒子上または創傷床に添加される他の基材上への層堆積は、「スタンピング」(「接触プリンティング」とも呼称される)により行われる。スタンプ基材は、スタンプ基材の表面に共有結合または非共有結合された、1以上の実体または組成物(高分子電解質、ECM成分、加水分解型もしくは酵素開裂可能な結合を有するタンパク質等)の他の表面への移行に用いることが出来る任意の基材である。適切なスタンプ基材の例としては、限定されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)および他のエラストマー(たとえば、柔軟な)物質が挙げられる。一部の実施形態において、異なる濃度の、同じ創傷治癒組成物が、スタンプ基材の異なる領域に配置される。他の実施形態において、様々な異なる組成物が、スタンプ基材表面上に配置される。一部の実施形態においては、複数の濃度の複数の創傷治癒組成物が、スタンプ基材表面に配置される。次いで、創傷治癒組成物は、スタンプ基材表面に導入され、それらは順に、創傷床または、創傷床への導入のための他の基材(たとえば、生体適合性粒子)上へとスタンプされる。
【0169】
他の実施形態において、たとえば針等の生体適合性粒子は、創傷治癒組成物、抗菌物質、加水分解型開裂が可能なタンパク質、酵素開裂が可能なタンパク質等でコートされ、および/または、層状化され、ならびに、創傷に後に適用されるパッドに適用される。パッドとしては、限定されないが、バンドエイド、ガーゼ、外科手術用パッキング等が挙げられる。一部の実施形態において、パッドは、創傷治癒組成物、抗菌物質、加水分解型開裂が可能なタンパク質、酵素開裂が可能なタンパク質等で含浸されている。一部の実施形態において、(たとえば、創傷治癒組成物、抗菌物質、加水分解型開裂が可能なタンパク質、酵素開裂が可能なタンパク質等で被覆された、および/または、層状化された)生体適合性粒子は、創傷にパッドを適用する前に、取り外し可能な、または取り外し不可能な様式でパッドに添付されている。一部の実施形態において、パッドが創傷から取り外された際に、生体適合性粒子はパッド上に維持されており(たとえば、取り外されておらず)、一方で、他の実施形態においては、パッドが創傷から取り外された際に、ナノ構造が創傷床内で維持されている(たとえば、取り外されている)。たとえば、パッドは、記述される組成物で含浸され、さらに、創傷治癒のためとして記述されている組成物でコートされ、および/または層状化されている、生体適合性粒子が添付されている。生体適合性粒子を有するパッドは、創傷に適用され、パッドが創傷床の表面にありながら、それらの上にある生体適合性粒子は、パッドの位置と比較して、創傷床に近接にまで達する。パッドは、創傷の表面上で、または表面近くで、含浸された創傷治癒組成物を(たとえば、短期間または徐放の様式のいずれかで)放出し、一方で、添付された生体適合性粒子は、創傷床にさらに近接して、コートされた、および/または層状化された創傷治癒組成物を(たとえば、短期間または徐放の様式のいずれかで)放出する。あるいは、添付された生体適合性粒子を有するパッド(上述の創傷治癒組成物を含有するパッドおよびナノ構造の両方)は、第一に創傷床に適用される。パッドは、次いで除去されるが、しかし、取り外し可能な生体適合性粒子は、創傷床内に維持される。パッドは、創傷床に創傷治癒組成物を送達するだけでなく、たとえば針等の生体適合性粒子を創傷床内に送達する目的も果たす。創傷床に残された生体適合性粒子は、たとえば、さらなる治癒のために、創傷床に創傷治癒組成物を放出し続ける。一部の実施形態において、上述の含浸された創傷治癒組成物を含有する新たな(第2、第3、第4等の)パッドが、創傷に再適用され、創傷内には、最初のパッド/ナノ構造の元々の適用により保持されている生体適合性粒子が存在している。新たなパッドの適用は、たとえば、新たな創傷治癒組成物を創傷にもたらすだけでなく、創傷床に近接して(短期間または徐放の様式のいずれかで)放出される新たな創傷治癒組成物を有する生体適合性粒子での再コートにもなる。
【0170】
本発明は、特定のメカニズムに限定されない。実際のところ、本発明の実施に、メカニズムの理解は必要ではない。しかしながら、負に荷電した高分子種およびビーズは、容易には細胞膜を通過せず、ゆえに、毒性のない創傷床の治癒手段となることが企図される。同様に、用いられるビーズのサイズが、創傷床のナノ構造を決定し、それにより、個別化された、創傷床治癒療法が可能となる。
図6において、創傷床治癒のためのビーズに使用に関する例示的な実施形態を提示する。しかしながら、本発明は、ビーズのサイズ、ビーズ上に存在する反応基(たとえば、カルボン酸基、チオール基、アミン基等)、用いられる架橋剤、または細胞活性因子、およびビーズと関連している他の創傷治癒組成物に限定されない。実際のところ、創傷治癒のための化合物(たとえば、小分子、ペプチド、タンパク質、薬剤等)の無数の組み合わせが、創傷床に適用されるビーズとの使用について企図される。
【0171】
一部の実施形態において、粒子は、創傷床に電場または磁場を適用した後に、創傷応答を調節する。従って、一部の実施形態において、粒子は、電場または磁場において、粒子が移動または再編成するように、電荷を帯びているか、または磁気を帯びている。他の実施形態において、ビーズは誘電性であり、そのため、当該ビーズはAC電場において誘電泳動にかけられる。他の実施形態において、ビーズは磁性であり、磁場に曝されると、移動および/または機械力を伝達する。他の実施形態において、ビーズは荷電されており、そのため、たとえば創傷のいずれか側に電極を置くことにより電場が適用されると、創傷床に機械力が適用される。
【0172】
一部の実施形態において、ナノビーズまたはマイクロビーズが、マイクロ流体工学プリンティング、マイクロスタンピング(米国特許第5,512,131号および第5,731,152号。それらは両方とも、その全体において参照により本明細書に援用される)、またはミクロ接触プリンティング(PCT国際公開第96/29629号。その全体において、参照により本明細書に援用される)により、創傷に適用される。他の実施形態において、ナノビーズまたはマイクロビーズは、たとえばインクジェットプリンター当のパルスジェットを介して、創傷に適用される。生物学的液体の適用に適したインクジェットプリンターの例としては、米国特許第7,128,398号、国際公開第95/25116号および国際公開第98/41531号(それら各々が、その全体において、参照により本明細書に援用される)に記述されているものが挙げられる。他の実施形態において、ナノビーズまたはマイクロビーズは、たとえばピンの先端またはオープンキャピラリーチューブ等の液滴ディスペンサーにより適用され、および、基材表面にピンまたはキャピラリーチューブが触れる。そのような方法は、米国特許第5,807,522号に記述されている。液体が表面に触れた際に、当該液体の一部が移る。他の実施形態において、創傷修飾剤は、ピペッティング、マイクロピペッティング、または、たとえばBiodot機器(Bio-Dot Inc., Irvine Calif., USAから市販)等の容積型ポンプにより適用される。さらに他の実施形態において、ナノビーズまたはマイクロビーズは、マイクロニードルアレイを介して創傷に適用される。
【0173】
C.共有結合修飾剤を用いた修飾
一部の実施形態において、本発明により、創傷床への因子の共有結合固定が提示される。一部の好ましい実施形態において、共有結合修飾は、均質二官能性リンカーまたは異質二官能性リンカーにより発生する。一部の実施形態において、共有結合修飾剤を用いて、創傷床に共有結合することにより、創傷床を直接修飾する。一部の実施形態において、共有結合修飾剤を用いて、創傷床に、1、2、3、4またはそれ以上の異なる創傷活性剤を共有結合させる。一部の実施形態において、共有結合修飾剤を用いて、創傷に対し、垂直面に、または水平面に、1、2、3、4またはそれ以上の異なる創傷活性剤の勾配を確立する。一部の実施形態において、共有結合修飾剤は、上述のポリマー層またはビーズと共に用いられる。一部の実施形態において、共有結合修飾剤を用いて、創傷活性剤をポリマー層またはビーズに付着させ、一方で、他の実施形態においては、共有結合修飾剤を用いて、ポリマーまたはビーズを架橋させる。
【0174】
一部の実施形態において、本発明により、創傷を有する対象に、少なくとも1つの共有結合修飾剤および少なくとも1つの創傷活性剤をもたらし、ならびに、当該少なくとも1つの創傷活性剤が当該創傷に共有結合されるような条件下で、当該創傷と、当該少なくとも1つの共有結合修飾剤および当該少なくとも1つの創傷活性剤とを、接触させることを含む、治療方法が提示される。一部の実施形態において、対象は、ヒトである。他の実施形態において、対象は、非ヒトの脊椎動物である。一部の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤は、均質二官能性架橋剤である。他の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤は、異質二官能性架橋剤である。たとえば、一部の実施形態において、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(たとえば、限定されないが、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコビス(スクシンイミジル-スクシネート、エチレングリコビス(スルホスクシンイミジル-スクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、および、N,N’-ジスクシンイミジルカルボネートを含む)である。一部の実施形態において、均質二官能性架橋剤は、1ナノモル~10ミリモルの濃度である。一部の好ましい実施形態において、均質二官能性架橋剤は、10マイクロモル~1ミリモルの濃度である。他の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤は、異質二官能性架橋剤である(たとえば、限定されないが、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3´-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、および、p-ニトロフェニルヨードアセテート)が挙げられる)。一部の実施形態において、異質二官能性架橋剤は官能基で修飾され、それにより、水性溶媒中に可溶性となり、水性溶液として送達される。さらに、一部の実施形態において、水性溶液は、添加剤(たとえば、限定されないが、界面活性剤およびブロックコポリマーが挙げられる)を含有する。他の実施形態においては、多様な異質二官能性架橋剤が、分子、ポリマーまたは粒子に付着し、架橋剤として機能することができる。他の実施形態において、異質二官能性架橋剤は、有機溶媒(たとえば、限定されないが、ジメチルスルホキシドが挙げられる)に溶解される。一部の実施形態において、少なくとも1つの創傷活性剤は、限定されないが、栄養因子、細胞外マトリックス、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤(限定されないが、銀(たとえば、イオン性銀、銀元素、銀ナノ粒子が挙げられる))、緩衝剤、ビタミンおよびミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤および抗癌剤を含有する。一部の実施形態において、少なくとも1つの創傷活性剤は、1以上の遊離-SH基を含有する。
【0175】
一部の実施形態において、共有結合修飾剤は、光活性化架橋剤である。適切な光活性化架橋剤としては、限定されないが、アリールアジドN-((2-ピリジルジチオ)エチル)-4-アジドサリチルアミド、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸、スクシンイミジルエステル、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸、STPエステル、ベンゾフェノンマレイミド、4-ベンゾイル安息香酸のスクシンイミジルエステル、N-5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸、および、(4-[p-アジドサリチルアミド]ブチルアミン)が挙げられる。
【0176】
再度、
図2に関し、空間的不均質が形状720により創傷中に描かれており、形状720は、たとえばアミン基およびスルフヒドリル基等の創傷床中に存在する異なる化学部分を描写している。創傷中の典型的な領域では、アミンおよび/またはスルフヒドリルに富んでいる。一部の実施形態において、活性化された酸を含有する架橋剤(たとえば、
図2の230)を用いて、たとえばnHS(n-ヒドロキシスクシンイミジル)等のアミン基と反応させ、および、マレミドを含有する第2の架橋剤(たとえば、
図2の235)を用いてスルフヒドリル基と反応させる。一部の実施形態において、マリミドおよび活性酸は、均質な表面が提示されるよう、アルキンに結合されている(たとえば、
図2の240であり、xはアルキン基を表す)。この状態から、広く利用されているクリック化学を用いて、創傷の修飾表面に所望の創傷活性剤を添加することができる。一部の実施形態において、創傷修飾剤は、アジド複合物であり、または、アジド基を含有し、ヒュスゲン環化付加反応において創傷床上に提示されているアルキン基と反応する。
【0177】
本発明はまた、創傷を有する対象を治療するためのキットを提示し、キットは、少なくとも1つの共有結合修飾剤、少なくとも1つの創傷活性剤、および、少なくとも1つの創傷活性剤を創傷に共有結合させるようにキットを使用するための説明書を含有する。一部の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤は、上述の均質二官能性架橋剤、異質二官能性架橋剤、または光活性化架橋剤である。一部の実施形態において、少なくとも1つの創傷活性剤は、限定されないが、以下に詳述される創傷活性剤を含有する。
【0178】
本発明はまた、創傷を有する対象を治療するためのキットを提示し、キットは、少なくとも1つの共有結合修飾剤、少なくとも1つの創傷活性剤、および、創傷に少なくとも1つの創傷活性剤を共有結合させるようにキットを使用するための説明書を含有する。一部の実施形態において、当該少なくとも1つの共有結合修飾剤は、均質二官能性架橋剤である。一部の実施形態において、均質二官能性架橋剤は、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(たとえば、限定されないが、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジル-スクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、および、N,N’-ジスクシンイミジルカルボネートを含む)である。一部の実施形態において、当該少なくとも1つの共有結合修飾剤は、異質二官能性架橋剤(たとえば、限定されないが、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3´-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、および、p-ニトロフェニルヨードアセテート)が挙げられる)である。一部の実施形態において、当該少なくとも1つの創傷活性剤は、限定されないが、栄養因子(ポリペプチド成長因子、神経ペプチド、ニューロトロフィンが挙げられる)、細胞外マトリックス、およびそれらの個々の天然成分(限定されないが、例示的なものとしてはラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン)、また、創傷治癒に好ましい細胞挙動を促進することが知られているこれらのタンパク質中に存在する選択アミノ酸配列(たとえば、限定されないが、RGD、EILDV、VCAM-1およびそれらの組換え類似体または合成類似体により例示されるインテグリン結合配列)、酵素、酵素阻害剤、ポリペプチド、抗菌ペプチド(限定されないが、例示的なものはディフェンシン、マガイニン(magaignins)、カテリシジン(cathelocidins)、バクテネシン(bactenicin))、抗感染剤(限定されないが、銀(たとえば、イオン性銀、銀元素、銀ナノ粒子が挙げられる))、緩衝剤、ビタミンおよびミネラル、一酸化窒素生成/安定化を促進する化合物、細胞のエネルギー源、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤および抗癌剤を含有する。他の実施形態において、キットは、創傷治癒プロセスに資する細胞挙動を促進することができる低分子干渉RNA(siRNA、マイクロRNAともまた呼称される)を含有する。他の実施形態において、キットは、好ましいpH、浸透圧環境、表面エネルギー、表面荷電、創傷治癒に対する、良好な電流電磁効果を高める表面機能性、または、MMP/他のペプチダーゼ/プロテアーゼ活性の平衡、を促進/安定化する化合物(すなわち、阻害剤/促進剤)を含有する。
【0179】
II.創傷活性剤
一部の実施形態において、創傷活性剤は、上述のシステムを用いて、創傷床に送達され、または、創傷床に組み込まれる。一部の実施形態において、創傷活性剤は、高分子電解質層、ビーズ、非共有結合修飾剤等と、共有結合または非共有結合される。本発明は、創傷活性剤が高分子電解質層、ビーズ、非共有結合修飾剤等に結合する特定のメカニズムに限定されない。
【0180】
一部の実施形態において、高分子電解質層、ビーズまたは非共有結合修飾剤は、1以上の創傷活性剤を創傷に送達するための薬剤の送達足場として機能しても良い。送達が望ましい創傷活性剤としては、限定されないが、栄養因子、細胞外マトリックス(ECM)、ECM断片または合成構築物、酵素、酵素阻害剤、ディフェンシン、ポリペプチド、抗感染剤(抗菌物質、抗ウイルス物質、および抗真菌物質が挙げられる)、緩衝剤、ビタミンおよびミネラル、鎮痛剤、抗凝固剤、凝固因子、抗炎症剤、血管収縮剤、血管拡張剤、利尿剤および抗癌剤が挙げられる。さらに、創傷活性剤としては、クロルヘキシジン、ヨウ素をベースにした抗菌物質(たとえば、PVP-ヨウ素);セレニウムをベースにした抗菌物質(たとえば、7-アザベンジソセレナゾール-3(2H)-オン、セレニウムジスルフィド、およびセレン化物);および銀をベースにした抗菌物質(たとえば、銀スルファジアジン、イオン性銀、銀元素、銀ナノ粒子)が挙げられる。セレン化物に関しては、典型的なタンパク質および炭水化物付着化学を標準的に、および変化させて使用し、カルボキシルおよびアミノを含有するセレン化物を定常的に多くのポリマー、ペプチド、抗体、ステロイドおよび薬剤に付着させても良い。セレン化物が付着したポリマーおよび他の分子は、生物学的溶液中で、細胞中で、または、たとえばシリコーン等の不溶性のマトリックスに付着して、用量依存的にスーパーオキシドを生成する。
【0181】
様々な創傷活性剤を、高分子電解質層、ビーズ、または共有結合修飾剤もしくは非共有結合修飾剤へと組み込むことができる。本発明は、1以上の創傷活性剤が、高分子電解質層、ビーズ、または共有結合修飾剤もしくは非共有結合修飾剤から創傷へと放出される特定のメカニズムに限定されることはない。実際のところ、メカニズムの理解は、本発明の実施に必要ではない。しかしながら、一部の実施形態において、本発明により、1以上の組み込まれた剤が、高分子電解質層、ビーズ、または非共有結合修飾剤から創傷へと、高分子電解質層からの分散により放出されることが企図される。他の実施形態において、1以上の創傷活性剤が、高分子電解質層、ビーズ、または非共有結合修飾剤から、時間と共に、または環境状態に応じて、放出されてもよい。1以上の創傷活性剤は、たとえば加水分解または酵素分解を介した分解に影響を受ける結合等の、分解可能な結合により付着されていても良い。結合は、たとえば、あるpHでの分解に影響を受けるものであっても良い。
【0182】
一部の実施形態において、1以上の創傷活性剤が適用され、創傷修飾剤に対して勾配を形成する。概して、勾配は、創傷修飾剤が創傷に適用された後、第一に所望される創傷中の位置の1以上で、より高濃度の創傷活性剤が存在し、および、創傷修飾剤が創傷に適用された後、創傷中の1つの位置、または第2の位置で、より低濃度の創傷活性剤が存在する。たとえば、垂直に、より高い濃度の特定組成物が、創傷床の遠位よりも近位にあるような勾配で、創傷活性剤の濃度が、創傷床に層状化されている。組成物濃度が創傷床の近位よりも遠位でより高くなるような逆の場合もまた企図される。水平勾配を設けるような、創傷床中の組成物濃度もまた企図される。組織分布的な勾配もまた企図され、ここで、組成物は、創傷床中または生体適合性粒子上の組成物濃度が、基材の組織分布に従うように堆積されており、たとえば、より高い濃度の組成物は、うねりのピークと比較し、典型的な基材のうねりの谷間に堆積される。
【0183】
一部の実施形態において、勾配は、創傷修飾剤の中心においてより高い濃度の創傷活性剤を有し、創傷修飾剤の中心から離れると、創傷活性剤の濃度が低くなる。従って、創傷修飾剤が創傷に適用された際、勾配により、創傷の中心により高濃度の創傷活性剤がもたらされ、創傷の辺縁に行くに従い、創傷活性剤の濃度はより低くなる。一部の実施形態において、勾配は、創傷修飾剤の中心においてより低い濃度の創傷活性剤を有し、創傷修飾剤の中心から離れると、創傷活性剤の濃度がより高くなる。従って、勾配により、創傷の中心により低濃度の創傷活性剤がもたらされ、創傷の辺縁に行くに従い、創傷活性剤の濃度はより高くなる。もし2以上の創傷活性剤が用いられる場合、同様の勾配で存在してもよく、または、当該2以上の創傷活性剤の濃度が創傷全体で変化するように、勾配が変化しても良い。高濃度、または低濃度の勾配は、マトリックスおよび勾配が、様々な創傷の形状に合うように、たとえば円、正方形、長方形、卵型、楕円形等の任意の形状であっても良い。たとえば、長く切開されたタイプの創傷に対しては、勾配は、創傷の長さに沿って伸びる長軸上に中心を置いてもよく、および、創傷の中心にあっても良い。別の例において、大体は円状または卵形である、開放型の創傷、火傷、ただれ、および潰瘍に対し適用を行う場合には、勾配は、円状または卵形であっても良い。他の実施形態において、勾配は、あるパターンで配置された一連の特性を有している。たとえば、勾配は、マトリックスの長軸に沿った、一連の縞模様または1以上の創傷活性剤の高濃度および低濃度を形成しても良い。あるいは、勾配は、市松模様のパターン、アレイ、同心円、重複円または卵形等を形成しても良い。
【0184】
本発明により、創傷に様々な創傷活性剤を送達することが企図される。一部の実施形態において、本発明により、栄養因子(限定されないが、アグリン、アンフィレグリン、アルテミン、カルジオトロフィン-1、上皮成長因子(EGFを含む);線維芽細胞成長因子(たとえば、FGF-1、FGF-2、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6およびFGF-7);LIF、CSF-1、CSF-2、CSF-3、エリスロポエチン、内皮細胞成長因子(ECGFを含む);FGF関連成長因子およびECGF関連成長因子(たとえば、内皮細胞刺激血管新生因子、腫瘍血管新生因子、網膜由来成長因子(RDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、脳由来成長因子(BDGF-AおよびB)、星状膠細胞成長因子(AGF1および2)、腹膜網由来成長因子、線維芽細胞刺激因子(FSF)、および胎生期癌由来成長因子(ECDGF));神経栄養成長因子(たとえば、神経成長因子(NGF)、ニュールツリン、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、および繊毛神経栄養因子(CNTF));グリア成長因子(たとえば、GGF-I、GGF-II、GGF-III、グリア成熟因子(GMF)、およびグリア由来神経栄養因子(GDNF));肝成長因子(たとえば、ヘパトポエチンA、ヘパトポエチンBおよび肝細胞成長因子(HGFを含む));前立腺成長因子(前立腺由来成長因子(PGF)を含む);乳腺成長因子(乳腺由来成長因子1(MDGF-1)および乳腺腫瘍由来因子(MTGF)を含む);心成長因子(非筋細胞由来成長因子(NMDGF)を含む);メラノサイト成長因子(メラノサイト刺激ホルモン(MSH)およびメラノーマ増殖刺激活性(MGSA)を含む);血管新生因子(たとえば、アンギオゲニン、アンギオトロピン、血小板由来ECGF、VEGF、およびプレイオトロフィン);形質転換成長因子(TGFα、およびTGFβを含む);TGF様成長因子(たとえば、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、GDF1、CDGF、腫瘍由来TGF様因子、ND-TGF、およびヒト上皮細胞形質転換因子);成長因子様特性を有する制御性ペプチド(たとえば、ボンベシンおよびボンベシン様ペプチドラナテンシン(ranatensin)およびリトリン(litorin)、アンギオテンシン、エンドテリン、心房ナトリウム利尿性因子、血管作動性腸ペプチド、およびブラジキニン);血小板由来成長因子(PDGF-A、PDGF-B、およびPDGF-ABを含む);神経ペプチド(たとえば、サブスタンスP、カルシトニン遺伝子制御ペプチド(CGRP)、および神経ペプチドY);神経伝達物質およびそれらの類似体(ノルエピネフリン、アセチルコリンおよびカルバコールを含む);ヘッジホッグ、へレグリン/ニューレグリン、IL-1、破骨細胞活性化因子(OAF)、リンパ球活性化因子(LAF)、肝細胞刺激因子(HSF)、B細胞活性化因子(BAF)、腫瘍阻害因子2(TIF-2)、角化細胞由来T細胞成長因子(KD-TCGF)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、間質細胞由来サイトカイン(SCDC)、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、インスリン、インスリン様成長因子(IGF-1、IGF-2およびIGF-BPを含む);INF-α、INF-β、およびINF-γを含むインターフェロン;レプチン、ミドカイン、腫瘍壊死因子(TNFαおよびβ)、ネトリン、サポシン、セマホリン、ソマトレム、ソマトロピン、幹細胞因子、VVGF、骨マクロファージタンパク質(BMP)、付着分子、他のサイトカイン、ヘパリン結合成長因子、およびチロシンキナーゼ受容体リガンド)の送達が提示される。一部の実施形態において、創傷活性剤は、たとえば、AcEEED(α平滑筋アクチンに対するN末端ペプチドであり、筋線維芽細胞の収縮能力を阻害することが示されている)等のペプチドである。
【0185】
一部の実施形態において、本発明により、ECM(限定されないが、以下に挙げるものの天然構築物、天然構築物の断片および合成類似体を含む:細胞外マトリックスタンパク質、真核細胞株由来の再構成基底膜様複合体、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、VCAM-1、ビトロネクチンおよびゼラチン、細菌性の細胞外マトリックス、ゲルマトリックス、およびポリマーマトリックス)の送達が提示される。一部の実施形態において、創傷活性剤は、限定されないが、RGD、EILDV、VCAM-1、およびそれらの組換え体または合成類似体に例示されるインテグリン結合配列、酵素、酵素阻害剤およびポリペプチドである。
【0186】
一部の実施形態において、本発明により、酵素(限定されないが、エキソペプチダーゼおよびエンドペプチダーゼ(プロテアーゼおよびプロテイナーゼとも知られる)(限定されないが、セリンプロテイナーゼ、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、およびカリクレインを含む)、細菌性酵素、システインプロテアーゼパパイン、アクチニン、ブロメライン、カテプシン、細胞基質カルパイン、寄生性プロテアーゼ、アスパラギンプロテイナーゼ、プロテアーゼペプシンのペプシンファミリー、およびキモシン、リソソームカテプシンD、レニン、真菌性プロテアーゼ、ウイルス性プロテアーゼ、AIDSウイルスレトロペプシン、およびメタロプロテイナーゼ(MMP)、コラゲナーゼ、Maggott酵素、MMP1、MMP2、MMP8、MMP13、ゼラチナーゼ、MMP2、MMP9、MMP3、MMP7、MMP10、MMP11、およびMMP12が挙げられる)の送達が提示される。
【0187】
一部の実施形態において、本発明により、酵素阻害剤(限定されないが、カプトプリル、チオルファン、ホスホラミドン、テプロチド、プロテアーゼおよびプロテイナーゼ阻害剤、メタロプロテイナーゼ阻害剤、およびエクソペプチダーゼ阻害剤が挙げられる)の送達が提示される。
【0188】
一部の実施形態において、本発明により、ディフェンシン(限定されないが、αディフェンシン HNP1、2、3および4、ならびに、βディフェンシン HBD-1およびHBD-2が挙げられる)の送達が提示される。
【0189】
一部の実施形態において、本発明により、ポリペプチド(限定されないが、フィブロネクチン、セロトニン、PAF、PDEGF、TNFa、IL1、IL6、IGF、IGF-1、IGF-2、IL-1、PDGF、FGF、KGF、VEGF、ブラジキニン、プロサイモシンαおよびサイモシンα1が挙げられる)の送達が提示される。
【0190】
一部の実施形態において、本発明により、抗菌物質(限定されないが、マガイニン(たとえば、マガイニンI、マガイニンII、ゼノプシン、ゼノプシン前駆体断片、セルレイン前駆体断片)、マガイニンIおよびIIの類似体(たとえば、PGLa、マガイニンA、マガイニンG、ペキシガニン(pexiganin)、Z-12、酢酸ペキシガイニン(pexigainin)、D35、MSI-78A、MG0(K10E、K11E、F12W-マガイニン2)、MG2+(K10E、F12W-マガイニン-2)、MG4+(F12W-マガイニン2)、MG6+(f12W、E19Q-マガイニン2アミド)、MSI-238、逆位マガイニンII 類似体(たとえば、53D、87-ISM、およびA87-ISM)、Ala-マガイニンIIアミド、マガイニンIIアミド)、セクロピンP1、セクロピンA、セクロピンB、インドリシジン、ナイシン、ラナレキシン(ranalexin)、ラクトフェリシンB、ポリ-L-リジン、セクロピンA(1-8)-マガイニンII(1-12)、セクロピンA(1-8)-メリチン(1-12)、CA(1-13)-MA(1-13)、CA(1-13)-ME(1-13)、グラミシジン、グラミシジンA、グラミシジンD、グラミシジンS、アラメチシン、プロテグリン、ヒスタチン、デルマセプチン、レンチウイルス両親媒性ペプチドまたは類似体、パラシンI、ライコトキシン(lycotoxin)IまたはII、グロボマイシン、グラミシジンS、スルファクチン、ラリノマイシン(ralinomycin)、バリノマイシン、ポリミキシンB、PM2((+/-)1-(4-アミノブチル)-6-ベンジルインダン)、PM2c((+/-)-6-ベンジル-1-(3-カルボキシプロピル)インダン)、PM3((+/-)1-ベンジル-6-(4-アミノブチル)インダン)、タキプレシン、ブフォリン(buforin)IまたはII、ミスグリン(misgurin)、メリチン、PR-39、PR-26、9-フェニルノニルアミン、(KLAKKLA)n、(KLAKLAK)n(ここで、n=1、2、または3)、(KALKALK)3、KLGKKLG)n、およびKAAKKAA)n(ここでN=1、2、または3)、パラダキシン、Bac 5、Bac 7、セラトキシン、ムデリン(mdelin)1および5、ボンビン(bombin)様ペプチド、PGQ、カテリシジン、HD-5、Oabac5アルファ、ChBac5、SMAP-29、Bac7.5、ラクトフェリン、グラニュリシン、チオニン、ヘベインおよびノッチン様ペプチド、MPG1、1bAMP、スナキン(snakin)、脂質転移タンパク質、および植物ディフェンシンが挙げられる)の送達が提示される。上述の化合物の例示的な配列を、表1に示す。一部の実施形態において、抗菌ペプチドは、Lアミノ酸から合成され、一方で、他の実施形態においては、当該ペプチドは、Dアミノ酸から合成され、またはDアミノ酸を含有する。本発明で使用される、さらなる抗菌ポリペプチドは、
図7に列挙される。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
一部の実施形態において、本発明により、抗菌性物質(限定されないが、ロラカルベフ、セファレキシン、セファドロキシル、セフィキシム、セフチブテン、セフプロジル、セフポドキシム、セフラジン、セフロキシム、セファクロル、ネオマイシン/ポリミキシン/バシトラシン、ジクロキサシリン、ニトロフラントイン、ニトロフラントイン巨結晶、ニトロフラントイン/ニトロフランmac、ジリスロマイシン、ゲミフロキサシン、アンピシリン、ガチフロキサシン、ペニシリンVカリウム、シプロフロキサシン、エノキサシン、アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラネートカリウム、クラリスロマイシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、アジスロマイシン、スパルフロキサシン、セフジニル、オフロキサシン、トロバフロキサシン、ロメフロキサシン、メテナミン、エリスロマイシン、ノルフロキサシン、クリンダマイシン/ベンゾイルパーオキシド、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、ドキシサイクリン、硫酸アミカシン、バンコマイシン、カナマイシン、ネチルミシン、ストレプトマイシン、硫酸トブラマイシン、硫酸ゲンタマイシン、テトラサイクリン、フラマイセチン、ミノサイクリン、ナリジクス酸、デメクロサイクリン、トリメトプリム、ミコナゾール、コリスティメタート、ピペラシリンナトリウム/タゾバクタムナトリウム、パロモマイシン、コリスチン/ネオマイシン/ヒドロコルチゾン、抗アメーバ薬、スルフィソキサゾール、ペンタミジン、スルファジアジン、リン酸クリンダマイシン、メトロニダゾール、オキサシリンナトリウム、ナフシリンナトリウム、バンコマイシン塩酸塩、クリンダマイシン、セフォタキシムナトリウム、コトリモキサゾール、チカルシリン二ナトリウム、ピペラシリンナトリウム、チカルシリン二ナトリウム/クラブラネートカリウム、ネオマイシン、ダプトマイシン、セファゾリンナトリウム、セフォキシチンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、ペニシリンGカリウムおよびナトリウム、セフトリアキソンナトリウム、セフタジジム、イミペネム/シラスタチンナトリウム、アズトレオナム、シノキサシン、エリスロマイシン/スルフィソキサゾール、セフォテタン二ナトリウム、アンピシリンナトリウム/スルバクタムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、セファマンドールナフェート、ゲンタマイシン、スルフィソキサゾール/フェナゾピリジン、トブラマイシン、リンコマイシン、ネオマイシン/ポリミキシンB/グラミシジン、クリンダマイシン塩酸塩、ランソプラゾール/クラリスロマイシン/アモキシシリン、アラトロフロキサシン、リネゾリド、次サリチル酸ビスマス/メトロニダゾール/テトラサイクリン、エリスロマイシン/ベンゾイルパーオキシド、ムピロシン、ホスホマイシン、ペンタミジンイセチオネート、イミペネム/シラスタチン、トロレアンドマイシン、ガチフロキサシン、クロラムフェニコール、シクロセリン、ネオマイシン/ポリミキシンB/ヒドロコルチゾン、エルタペネム、メロペネム、セファロスポリン、フルコナゾール、セフェピム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾール/トリメトプリム、ネオマイシン/ポリミキシンB、ペニシリン、リファンピン/イソニアジド、エリスロマイシンエストレート、エリスロマイシンエチルスクシネート、エリスロマイシンステアレート、アンピシリン三水和物、アンピシリン/プロベネシド、スルファサラジン、スルファニラミド、ナトリウムスルファセタミド、ダプソン、ドキシサイクリンハイクレート、トリメトプリム/スルファ、メテナミンマンデレート、抗プラスモジウム薬、ピリメタミン、ヒドロキシクロロキン、リン酸クロロキン、抗トリコモナス薬、駆虫薬、アトバクオン、バシトラシン、バシトラシン/ポリミキシンb、ゲンタマイシン、ネオマイシン/ポリミキシン/デキサメト、ネオマイシンスルフ/デキサメト、スルファセタミド/プレドニゾロン、スルファセタミド/フェニレフリン、硫酸トブラマイシン/デキサメト、ビスマストリブロモフェネート、銀イオン化合物、銀ナノ粒子、ゼロ価銀、多価銀、銀元素ならびに、たとえばスルファジアジン銀および関連化合物等の銀含有化合物を含む)の送達が提示される。
【0202】
一部の実施形態において、本発明により抗ウイルス薬(限定されないが、アマンタジン、アシクロビル、ホスカルネット、インジナビル、リバビリン、エンフビルチド、エムトリシタビン、ラミブジン、硫酸アバカビル、ホミビルセン、バラシクロビル、テノホビル、シドホビル、アタザナビル、アンプレナビル、デラビルジンメシレート、ファムシクロビル、アデホビル、ジダノシン、エファビレンツ、トリフルリジン、イニジナビル、ラミブジン、ビダラビン、ロピナビル/リトナビル、ガンシクロビル、ザナミビル、アバカビル/ラミブジン/ジドブジン、ラミブジン/ジドブジン、ネルフィナビル、ネルフィナビルメシレート、ネビラピン、リトナビル、サキナビル、サキナビルメシレート、リマンタジン、スタブジン、ドコサノール、ザルシタビン、イドクスウリジン、ジドブジン、ジドブジン/ジダノシン、バルガンシクロビル、ペンシクロビル、ラミブジン、およびオセルタミビル、を含む)の送達が提示される。
【0203】
一部の実施形態において、本発明により、抗真菌薬(限定されないが、アンホテリシンB、ナイスタチン、ナイスタチン/トリアムシノロン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、スルコナゾール、クロトリマゾール、クロトリマゾール/ベタメタゾン、エニルコナゾール、エコナゾール、オキシコナゾール、チオコナゾール、テルコナゾール、ブトコナゾール、チアベンダゾール、フルシトシン、ブテナフィン、シクロピロックス、ハロプロジン、ナフチフィン、トルナフテート、ナタマイシン、ウンデシレン酸、マフェニド、ダプソン、クリオキノール、クリオキノール/ヒドロコルチゾン、ヨウ化カリウム、スルファジアジン銀、ゲンチアナバイオレット、石炭酸フクシン、シロフンギン、セルタコナゾール、ボリコナゾール、フルコナゾール、テルビナフィン、カスポファンギン、他の局所アゾール薬、およびグリセオフルビン、を含む)の送達が提示される。
【0204】
一部の実施形態において、本発明により、緩衝剤(限定されないが、マレイン酸、リン酸、グリシン、クロロ酢酸、ギ酸、安息香酸、酢酸、ピリジン、ピペラジン、MES、Bis-Tris、炭酸塩、ACES、ADA MOPSO、PIPES、リン酸、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、トリエタノールアミン、HEPSO、トリス、トリシン、ビシン、TAPS、ホウ酸塩、アンモニア、CHES、エタノールアミン、CAPSO、グリシン、炭酸塩、CAPS、メチルアミン、ピペリジン、およびリン酸、を含む)の使用および送達が提示される。
【0205】
一部の実施形態において、本発明により、ビタミンおよびミネラル(限定されないが、ビタミンA、カルテノイド、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC/アスコルビン酸、B1/チアミン、B2/リボフラビン、B3/ナイアシン、B5/パントテン酸、B6/ピリドキシン、B12/コバラミン、ビオチン、カルシウム、マグネシウム、リン、ナトリウム、塩素、カリウム、ホウ素、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マンガン、セレニウムおよび亜鉛、を含む)の送達が提示される。
【0206】
一部の実施形態において、本発明により、鎮痛剤(限定されないが、アセトアミノフェン、アニレリジン、アセチルサリチル酸、ブプレノルフィン、ブトルファノール、フェンタニル、クエン酸フェンタニル、コデイン、ロフェコキシブ、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、塩酸ヒドロモルフォン、レボルファノール、塩酸アルフェンタニル、メペリジン、塩酸メペリジン、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、アヘン、レボメタジル、ヒアルロン酸ナトリウム、クエン酸スフェンタニル、カプサイシン、トラマドール、レフルノミド、オキシコドン、オキシモルフォン、セレコキシブ、ペンタゾシン、プロポキシフェン、ベンゾカイン、リドカイン、デゾシン、クロニジン、ブタルビタール、フェノバルビタール、テトラカイン、フェナゾピリジン、スルファメトキサゾール/フェナゾピリジン、およびスルフィソキサゾール/フェナゾピリジン、を含む)の送達が提示される。
【0207】
一部の実施形態において、本発明により、抗凝固剤(限定されないが、クマリン、1,3-インダンジオン、アニシンジオン、フォンダパリヌクス、ヘパリン、レピルジン、抗トロンビン、ワーファリン、エノキサパリン、ジピリダモール、ダルテパリン、アルデパリン、ナドロパリン、およびチンザパリン、を含む)の送達が提示される。
【0208】
一部の実施形態において、本発明により、凝固因子(限定されないが、因子I(フィブリノーゲン)、因子II(プロトロンビン)、因子III(トロンボプラスチン、組織因子)、因子IV(カルシウム)、因子V(不安定因子)、因子VII(安定因子)、因子VIII(抗血友病グロブリン、抗血友病グロブリン、抗血友病因子A)、因子IX(血漿トロンボプラスチン成分、クリスマス因子、抗血友病因子B)、因子X(スチュアート因子、プロワー因子、スチュアート-プロワー因子)、因子XI(血漿トロンボプラスチン前駆物質、抗血友病因子C)、因子XII(ハーゲマン因子、表面因子、接触因子)、および因子XIII(フィブリン安定化因子、フィブリン安定化酵素、フィブリ-ナーゼ)を含む)の送達が提示される。
【0209】
一部の実施形態において、本発明により、抗炎症剤(限定されないが、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)(ジクロフェナク(Voltaren、Abitren、Allvoran、Almiral、Alonpin、Anfenax、Artrites、Betaren、Blesin、Bolabomin、Cataflam、Clofec、Clofen、Cordralan、Curinflam、Diclomax、Diclosian、Dicsnal、Difenac、Ecofenac、Hizemin、Inflamac、Inflanac、Klotaren、Lidonin、Monoflam、Naboal、Oritaren、Remethan、Savismin、Silino、Staren、Tsudohmin、Voltarol、Voren、Voveran、およびVurdonとしても知られる)が挙げられる)、ジフルニサル(Dolobid、Adomal、Diflonid、Diflunil、Dolisal、Dolobis、Dolocid、Donobid、Dopanone、Dorbid、Dugodol、Flovacil、Fluniget、Fluodonil、Flustar、Ilacen、Noaldol、Reuflos、および、Unisalとしても知られる)、エトドラク(Lodineとしても知られる)、フェノプロフェン(Nalfon、Fenoprex、Fenopron、Fepron、Nalgesic、および、Progesicとしても知られる)、フルルビプロフェン(Ansaid、および、Ocuflurとしても知られる)、イブプロフェン(Rufen、Motrin、Aches-N-Pain、Advil、Nuprin、Dolgesic、Genpril、Haltran、Ibifon、Ibren、Ibumed、Ibuprin、Ibupro-600、Ibuprohm、Ibu-Tab、Ibutex、Ifen、Medipren、Midol 200、Motrin-IB、Cramp End、Profen、Ro-Profen、Trendar、Alaxan、Brofen、Alfam、Brufen、Algofen、Brufort、Amersol、Bruzon、Andran、Buburone、Anflagen、Butacortelone、Apsifen、Deflem、Artofen、Dolgit、Artril、Dolocyl、Bloom、Donjust、Bluton、Easifon、Ebufac、Emflam、Emodin、Fenbid、Fenspan、Focus、Ibosure、Ibufen、Ibufug、Ibugen、Ibumetin、Ibupirac、Imbun、Inabrin、Inflam、Irfen、Librofen、Limidon、Lopane、Mynosedin、Napacetin、Nobafon、Nobgen、Novogent、Novoprofen、Nurofen、Optifen、Paduden、Paxofen、Perofen、Proartinal、Prontalgin、Q-Profen、Relcofen、Remofen、Roidenin、Seclodin、Tarein、および、Zofenとしても知られる)、インドメタシン(Indameth、Indocin、Amuno、Antalgin、Areumatin、Argilex、Artherexin、Arthrexin、Artrinovo、Bavilon、Bonidon、Boutycin、Chrono-Indocid、Cidalgon、Confortid、Confortind、Domecid、Durametacin、Elemetacin、Idicin、Imbrilon、Inacid、Indacin、Indecin、Indocap、Indocen、Indocid、Indoflex、Indolag、Indolar、Indomed、Indomee、Indometacinum、Indometicina、Indometin、Indovis、Indox、Indozu、Indrenin、Indylon、Inflazon、Inpan、Lauzit、Liometace、Metacen、Metindon、Metocid、Mezolin、Mobilan、Novomethacin、Peralgon、Reflox、Rheumacid、Rheumacin、Salinac、Servindomet、Toshisan、および、Vonumとしても知られる)、ケトプロフェン(Orudis、Alrheumat、Alrheumun、Alrhumat、Aneol、Arcental、Dexal、Epatec、Fastum、Keduril、Kefenid、Keprofen、Ketofen、Ketonal、Ketosolan、Kevadon、Mero、Naxal、Oruvail、Profenid、Salient、Tofen、および、Treosinとしても知られる)、ケトロラク(Toradolとしても知られる)、メクロフェナム酸(Meclofen、Meclomen、および、Movensとしても知られる)、メフェナム酸(Ponstel、Alpain、Aprostal、Benostan、Bonabol、Coslan、Dysman、Dyspen、Ecopan、Lysalgo、Manic、Mefac、Mefic、Mefix、Parkemed、Pondex、Ponsfen、Ponstan、Ponstyl、Pontal、Ralgec、および、Youfenamとしても知られる)、ナブメトン(Relafenとしても知られる)、ナプロキセン(Naprosyn、Anaprox、Aleve、Apranax、Apronax、Arthrisil、Artrixen、Artroxen、Bonyl、Congex、Danaprox、Diocodal、Dysmenalgit、Femex、Flanax、Flexipen、Floginax、Gibixen、Headlon、Laraflex、Laser、Leniartil、Nafasol、Naixan、Nalyxan、Napoton、Napren、Naprelan、Naprium、Naprius、Naprontag、Naprux、Napxen、Narma、Naxen、Naxid、Novonaprox、Nycopren、Patxen、Prexan、Prodexin、Rahsen、Roxen、Saritilron、Sinartrin、Sinton、Sutony、Synflex、Tohexen、Veradol、Vinsen、およびXenarとしても知られる)、オキサプロジン(Dayproとしても知られる)、ピロキシカム(Feldene、Algidol、Antiflog、Arpyrox、Atidem、Bestocam、Butacinon、Desinflam、Dixonal、Doblexan、Dolonex、Feline、Felrox、Fuldin、Indene、Infeld、Inflamene、Lampoflex、Larapam、Medoptil、Novopirocam、Osteral、Pilox、Piraldene、Piram、Pirax、Piricam、Pirocam、Pirocaps、Piroxan、Piroxedol、Piroxim、Piton、Posidene、Pyroxy、Reucam、Rexicam、Riacen、Rosic、Sinalgico、Sotilen、Stopen、およびZundenとしても知られる)、スリンダク(Clinoril、Aflodac、Algocetil、Antribid、Arthridex、Arthrocine、Biflace、Citireuma、Clisundac、Imbaral、Lindak、Lyndak、Mobilin、Reumofil、Sudac、Sulene、Sulic、Sulindal、Suloril、および、Sulreumaとしても知られる)、トルメチン(Tolectin、Donison、Midocil、Reutol、および、Safitexとしても知られる)、セレコキシブ(Celebrexとしても知られる)、メロキシカム(Mobicとしても知られる)、ロフェコキシブ(Vioxxとしても知られる)、バルデコキシブ(Bextraとしても知られる)、アスピリン(Anacin、Ascriptin、Bayer、Bufferin、Ecotrin、およびExcedrinとしても知られる)、が挙げられる)、および、ステロイド系抗炎症剤(コルチゾン、プレドニゾン、およびデキサメタゾンが挙げられる)が挙げられる)の送達が提示される。
【0210】
一部の実施形態において、本発明により、血管収縮剤(限定されないが、エピネフリン(アドレナリン、Susphrine)、塩酸フェニレフリン(Neo-Synephrine)、塩酸オキシメタゾリン(Afrin)、ノルエピネフリン(Levophed)、およびカフェイン、が挙げられる)の送達が提示される。
【0211】
一部の実施形態において、本発明により、血管拡張剤(限定されないが、ボセンタン(Tracleer)、エポプロステノール(Flolan)、トレプロスチニル(Remodulin)、シタクスセンタン、ニフェジピン(Adalat、Procardia)、ニカルジピン(Cardene)、ベラパミル(Calan、Covera-HS、Isoptin、Verelan)、ジルチアゼム(Dilacor XR、Diltia XT、Tiamate、Tiazac、Cardizem)、イスラジピン(DynaCirc)、ニモジピン(Nimotop)、アムロジピン(Norvasc)、フェロジピン(Plendil)、ニソルジピン(Sular)、ベプリジル(Vascor)、ヒドララジン(Apresoline)、ミノキシジル(Loniten)、イソソルビド二硝酸塩(Dilatrate-SR、Iso-Bid、Isonate、Isorbid、Isordil、Isotrate、Sorbitrate)、イソソルビド一硝酸塩(IMDUR)、プラゾシン(Minipress)、シロスタゾル(Pletal)、トレプロスチニル(Remodulin)、シクランデラート、イソクスプリン(Vasodilan)、ニリドリン(Arlidin)、ナイトレート(Deponit、Minitran、Nitro-Bid、Nitrodisc、Nitro-Dur、Nitrol、Transderm-Nitro)ベナゼプリル(Lotensin)、ベナゼプリルおよびヒドロクロロチアジド(Lotensin HCT)、カプトプリル(Capoten)、カプトプリルおよびヒドロクロロチアジド(Capozide)、エナラプリル(Vasotec)、エナラプリルおよびヒドロクロロチアジド(Vaseretic)、ホシノプリル(Monopril)、リシノプリル(Prinivil、Zestril)、リシノプリルおよびヒドロクロロチアジド(Prinzide、Zestoretic)、モエキシプリル(Univasc)、モエキシプリルおよびヒドロクロロチアジド(Uniretic)、ペリンドプリル(Aceon)、キナプリル(Accupril)、キナプリルおよびヒドロクロロチアジド(Accuretic)、ラミプリル(Altace)、トランドラプリル(Mavik)、パパベリン(Cerespan、Genabid、Pavabid、Pavabid HP、Pavacels、Pavacot、Pavagen、Pavarine、Pavased、Pavatine、Pavatym、Paverolan)が挙げられる)の送達が提示される。
【0212】
一部の実施形態において、本発明により、利尿剤(限定されないが、アセタゾラミド(Diamox)、ジクロルフェナミド(Daranide)、メタゾラミド(Neptazane)、ベンドロフルメチアジド(Naturetin)、ベンズチアジド(Exna)、クロロチアジド(Diuril)、クロルタリドン(Hygroton)、ヒドロクロロチアジド(Esidrix、HydroDiuril、Microzide)、ヒドロフルメチアジド(Diucardin)、インダパミド(Lozol)、メチクロチアジド(Enduron)、メトラゾン(Zaroxolyn、Mykrox)、ポリチアジド(Renese)、キネタゾン(Hydromox)、トリクロルメチアジド(Naqua)、ブメタニド(Bumex)、エタクリン酸(Edecrin)、フロセミド(Lasix)、トルセミド(Demadex)、アミロリド(Midamor)、アミロリドおよびヒドロクロロチアジド(Moduretic)、スピロノラクトン(Aldactone)、スピロノラクトンおよびヒドロクロロチアジド(Aldactazide)、トリアムテレン(Dyrenium)、トリアムテレンおよびヒドロクロロチアジド(Dyazide、Maxzide)が挙げられる)の送達が提示される。
【0213】
一部の実施形態において、本発明により抗癌剤(限定されないが、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アリトレチノイン、アロプリノール、アルトレタミン、アミホスチン、アナグレリド、アナストロゾール、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、ベキサロテン、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブスルファン、カルステロン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダルベポエチンアルファ、ダウノルビシン、ダウノマイシン、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エポエチンアルファ、エストラムスチン、エトポシド、リン酸エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フロクスウリジン、フルダラビン、フルタミド、フルベストラント、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシウレア、イブリツモマブ チウキセタン、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブメシレート、インターフェロンαー2a、インターフェロンαー2b、イリノテカン、レフルノミド、レトロゾール、ロイコボリン、レバミゾール、ロムスチン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、酢酸メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、メトクスサレン、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、ミコフェノール酸モフェチル、ナンドロロンフェンプロピオネート、ニルタミド、ノフェツモマブ、オプレルベキン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペガデマーゼ、ペガスパルガーゼ、ペグフィルグラスチム、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プロカルバジン、キナクリン、ラスブリカーゼリツキシマブ、サルグラモスチム、ストレプトゾシン、タクロリムス、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トレミフェン、トシツモマブ、トラスツズマブ、トレチノイン、ウラシルマスタード、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、および、ゾレドロネート、が挙げられる)の送達が提示される。
【0214】
他の実施形態において、創傷活性剤は、siRNAである。本発明のRNAi構築物は、ds RNA RNA領域を形成する塩基対をなすRNAを発現する遺伝子(複数含む)である。RNAは、同じ分子または異なる分子の一部であってもよい。好ましい実施形態において、RNAi構築物は、ループ配列により分離された2つの相補的な配列をコードする核酸配列に操作可能に連結されたプロモーターを含有する。相補的な領域は、ループ配列により分離された標的RNA配列に対応する。RNAi構築物が発現された際に、得られたRNA分子対の相補的な領域は、互いに対を形成し、二本鎖RNA領域を形成する。本発明は、任意の特定の長さのループ配列に限定されることはない。一部の好ましい実施形態において、ループ配列は、約4~約20ヌクレオチドの長さの範囲にある。より好ましい実施形態において、ループ配列は、約6~約12ヌクレオチドの長さである。他の好ましい実施形態において、dsRNA領域は、約19~約23の長さである。
【0215】
他の実施形態において、dsRNAは、2つの異なる鎖として、ベクターから転写されたRNAから形成される。他の実施形態において、dsRNAを形成するために用いられるDNAの2つの鎖は、各々が、少なくとも部分的に相補的な配列のDNA鎖と形成する同じ二本鎖、または2つの異なる二本鎖に属していても良い。そのようにdsRNAが生成された際、転写されるDNA配列は、2つのプロモーター(1つは、鎖のうちの1つの転写を制御し、他方は、その相補鎖を制御する)に隣接している。これら2つのプロモーターは同一であっても、異なっていても良い。一部の実施形態において、プロモーター配列が各末端にあるDNA二本鎖は、既定された長さのRNAを直接生成してもよく、および、それらは、二つ一組となり、dsRNAを形成する。たとえば、米国特許第5,795,715号を参照のこと(参照により、本明細書に援用される)。RNA二本鎖の形成は、細胞の中、または外のいずれかで開始されてもよい。
【0216】
プロセッシングの後で、得られたsiRNAは2つの平滑末端、平滑末端を1つとオーバーハング末端を1つ、または、オーバーハングの末端を2つ、含有してもよいことが認識される。一部の実施形態において、オーバーハングの末端(複数含む)は、1または2のヌクレオチドいずれかのオーバーハングを含有する。非限定的な例として、23ヌクレオチドの長さのsiRNAは、各末端に2つのヌクレオチドオーバーハングを有する、2つの19merを含有する。別の非限定的な例として、21ヌクレオチドの長さのsiRNAは、各末端に1つのヌクレオチドオーバーハングを有する、2つの19merを含有する。さらに別の非限定的な例として、22ヌクレオチドの長さのsiRNAは、各末端にオーバーハングを有さない、2つの22merを含有する。
【0217】
阻害とは、RNAの二本鎖領域に対応するヌクレオチド配列が、遺伝的阻害を目的として標的化されるという点で、配列特異的である。阻害に好ましいのは、標的遺伝子の一部と同一なヌクレオチド配列を含有するRNA分子である。標的配列と比較し、挿入、欠失、および一塩基変異を有するRNA配列もまた、阻害に有効であることが判明している。ゆえに、配列同一性は、当分野公知の配列比較およびアライメントのアルゴリズム(Gribskov and Devereux, Sequence Analysis Primer, Stockton Press, 1991およびそれらに引用されている参照文献を参照のこと。)により、および、たとえば、デフォルトのパラメータを用いた、BESTFITソフトウェアプログラム中に実装された、Smith-Watermanアルゴリズム(たとえば、University of Wisconsin Genetic Computing Group)により、ヌクレオチド配列間の差異パーセントを算出することにより、最適化されてもよい。阻害性RNAと標的遺伝子の一部の間に、90%を超える配列同一性、または、100%の配列同一性があることが好ましい。あるいは、RNAの二本鎖領域は、標的遺伝子の転写物の一部とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列として、機能的に規定されても良い。
【0218】
用いることができるdsRNAの長さに上限値は無い。たとえば、dsRNAは、遺伝子の約21塩基対(bp)から、遺伝子の全長またはそれ以上の範囲にあっても良い。1つの実施形態において、本発明の方法に用いられるdsRNAは、約1000bpの長さである。別の実施形態において、dsRNAは、約500bpの長さである。さらに別の実施形態において、dsRNAは、約22bpの長さである。一部の好ましい実施形態において、RNAiを介在する配列は、約21~約23ヌクレオチドである。本発明の単離iRNAは、標的RNAの分解を介在する。
【0219】
本発明の二本鎖RNAは、標的RNAに対するRNAiを介在する能力を有するように十分に天然型RNAに類似していることのみが必要とされる。1つの実施形態において、本発明は、様々な長さのRNA分子であって、それら配列が対応する特異的なmRNAの開裂を導く、RNA分子に関する。配列に完全に相補的である必要はないが、RNAが、標的mRNAのRNAi開裂を導くことができるよう、十分な対応性がなければならない。特定の実施形態において、本発明のRNA分子は、3´ヒドロキシル基を含有する。
【0220】
III. ナノスケールのポリマーマトリックス組成物
一部の実施形態において、本発明により、創傷、生物組織、角膜、水晶体、骨、腱、外科用メッシュ、創傷被覆材、生物医学的デバイス、ヘルスケアに用いられるデバイス、または他の表面に適用することができる、ナノスケールのポリマーマトリックスを含有する組成物が提示される。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、官能基化されている。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、官能基化されていない。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、1以上のポリマー(好ましくは生体適合性があるか、または1以上のタンパク質から形成されたか、またはポリマーとタンパク質の組み合わせである)を含有する。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマー層は、たとえば合成高分子電解質等の合成ポリマーから形成される。他の実施形態において、ナノスケールのポリマー層は、たとえば多糖等の天然ポリマーから合成される。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、共有結合的相互作用が可能となるように、および/または、創傷床もしくは組織表面への結合が可能となるように、または、ナノスケールのポリマーマトリックスへの生物活性剤の適用が可能となるように、官能基化される。一部の実施形態において、たとえば抗菌剤(銀、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、クロルヘキシジンもしくはヨウ化化合物、または抗生物質等)等の生物活性剤が、ナノスケールのポリマーマトリックスに組み込まれる。生物活性剤は、好ましくは、ナノスケールのポリマーマトリックスの3次元構造の全体にわたり、含浸され、含有され、または散在されている。たとえば、もしナノスケールのポリマーマトリックスが高分子電解質の多層(PEM)である場合、生物活性剤は、好ましくは、ポリマー多層の間、または中に組み込まれる。
【0221】
一部の実施形態において、ポリマーマトリックス(たとえば、ナノスケールのポリマーマトリックス、および/または、第2の(たとえば、犠牲的および/または非犠牲的)ポリマー層)は、抗バイオフィルム剤を含有する。当該技術は、デバイスおよび関連方法、キットの実施形態、ならびに、治療方法の実施形態において用いられている抗バイオフィルム剤に限定されない。たとえば、一部の実施形態において、抗バイオフィルム剤は、小分子抗バイオフィルム剤、荷電小分子抗バイオフィルム剤、抗バイオフィルムポリペプチド、抗バイオフィルム酵素(たとえば、ディスパーシン(Dispersin)B)、金属製粒子、または金属イオン抗バイオフィルム剤(たとえば、金属イオン、金属イオンの塩、または金属イオンのナノ粒子)である。さらに、一部の実施形態において、金属イオンの抗バイオフィルム剤は、ガリウムイオン、ガリウムイオンの塩、ガリウムイオンのナノ粒子、ガリウム合金、またはガリウムと銀の合金である。
【0222】
一部の実施形態において、たとえばポリマー多層等のナノスケールのポリマーマトリックスは、ナノスケール~マイクロスケールの大きさである。従って、一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、約1nm~1000nmの厚さ、約1nm~500nmの厚さ、約1nm~100nmの厚さ、約1nm~約25nmの厚さ、約1nm~約10nmの厚さ、または、約500nm、100nm、25nm、または10nmの厚さ未満である。ナノスケールの大きさのマトリックス(すなわち、ナノスケールの厚さ)は、より大きな厚さのマトリックス構造と比較して、有効量(すなわち、対照と比較して創傷治癒を加速する活性剤の量)の活性剤を送達しつつ、担持される活性剤の総量を低くすることができることが企図される。総担持レベルを低くすることにより、特に、抗菌性化合物がポリマー多層に組み込まれている場合に、創傷環境中の毒性が低減される。
【0223】
一部の実施形態において、たとえばポリマー多層等のナノスケールのポリマーマトリックスのコンプライアンスは、創傷中の細胞の移動を促進するように調節される。一部の実施形態において、マトリックスは、100Pa~約500kPa、約7~約250kPa、約10~約250kPA、または、約10~約200kPaのコンプライアンス(キロパスカル(kPa)で測定される)を有する。一部の実施形態において、ポリマー多層等のマトリックスは、約3kPa~5、4、3、2、1、0.5、0.1および0.05Gpa(ギガパスカル)のコンプライアンスを有する。
【0224】
一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、固形支持体上に形成され、または置かれる。固形支持体は、マトリックスを創傷に適用した後に、外側に透過性の、半透過性の、または不透過性のバリアを形成することができ、または、創傷にマトリックスを移し、適用した後に、支持体を除去するための、除去支持体として役立つことができる。本発明は、任意の特定の固形支持体に限定されない。実際のところ、様々な固形支持体(限定されないが、たとえばPDMS、ナイロン、Teflon(登録商標)、Gortex(登録商標)、絹、ポリウレタン、シリコン、好ましくは医療グレードのシリコン、ガラス、プラスチック、PVDF等のエラストマー物質から形成される固形支持体、および、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニル酢酸(PVAc)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニル酢酸(PVAc)、およびポリエチレンオキシドから形成される固形支持体、を含む)が企図される。
【0225】
一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、第2のポリマー層(たとえば、非犠牲的ポリマー層)により支持される。たとえば、一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、ハイドロゲル、親水コロイド、および/またはコラーゲンを支持体として含有する第2のポリマー層(たとえば、非犠牲的ポリマー層)によって支持される。一部の実施形態において、第2の(たとえば、非犠牲的な)ポリマーマトリックス支持体は、適用する前に、および/または、適用した後に、デバイスから剥がされる。
【0226】
他の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、犠牲的ポリマー層、好ましくは、たとえば溶解可能なポリマー等の、分解可能な、または溶解可能な支持物質から形成された犠牲的ポリマー層上に支持される。一部の実施形態において、最初に、ナノスケールのポリマーマトリックスを固形支持体上で形成し、次いで、当該ナノスケールのポリマーマトリックス上に犠牲的ポリマー層物質を、たとえばスピンコーティング、スプレーまたはキャスティング等を行うことにより、当該ナノスケールのポリマーマトリックス上に犠牲的ポリマー層を形成する。好ましい実施形態において、犠牲的ポリマー層物質は、水性環境中、または、水分が存在している環境(たとえば、創傷床、身体内部の面、上皮表面等の湿潤な表面)中で、溶解可能である。好ましい実施形態において、犠牲的ポリマー層物質は、表面上にナノスケールのポリマーマトリックスを適用した後に、水性溶液中で溶解可能である。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、マイクロスケールの大きさであり、および、0.2μm~1000μm、0.2μm~500μm、0.2μm~200μm、0.2μm~100μm、1μm~50μm、1μm~20μm、0.2μm~10 μm、または1μm~10μmの範囲であってもよく、および、好ましくは、100、50、20、または10μm未満の厚さである。ゆえに、本発明により、2つの層(第1のナノスケールのポリマーマトリックス層は、犠牲的ポリマー層に隣接している)を含有する物品が提示される。この物品は、マイクロシートとも呼称されうる。一部の実施形態において、湿潤表面に適用された際に、犠牲的ポリマー層は、ナノスケールのポリマーマトリックスが、湿潤表面と接触した状態に保たれるよう、溶解する。一部の実施形態において、表面に付着された際、ナノスケールのポリマーマトリックスは、外来性病原体の環境中から表面への侵入に対するバリアを形成する。一部の実施形態において、マイクロシートは、少なくとも2つの層を含有し、第1の層は、犠牲的ポリマー層であり、第2の層は、ナノスケールのポリマーマトリックスであり、当該ナノスケールのポリマーマトリックスは露出される(すなわち、ナノスケールのポリマーマトリックスは、追加の層の間に挟まれていない)。好ましい実施形態において、所望される表面がマイクロシートと接触した際に、露出したナノスケールのポリマーマトリックスが当該表面と接触する。一部の実施形態において、本発明のマイクロシートは、本質的に、犠牲的ポリマー層と、ナノスケールのポリマー層からなる。
【0227】
本発明の一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層を用いて、ナノスケールのポリマーマトリックスは創傷または組織へと移行され、犠牲的ポリマー層は、創傷または組織に移行された後に、ナノスケールのポリマーマトリックスの上面に置かれる。本発明の一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層を用いて、ナノスケールのポリマーマトリックスは創傷または組織へと移行され、犠牲的ポリマー層は、創傷または組織に移行された後に、ナノスケールのポリマーマトリックスの底面に置かれる。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層が水性の液体中で溶解、または部分的に溶解する前または後に、当該犠牲的ポリマー層の上面に創傷被覆材が置かれる。一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、創傷または組織表面に移行され、および、治療された創傷または組織上に置かれた創傷被覆材と、当該創傷または組織上のナノスケールのポリマーマトリックスとの間に、不溶性のポリマーマイクロフィルムは無い。一部の実施形態において、PEMで作製されたナノスケールのポリマーマトリックス、および可溶性の犠牲的キャストは、創傷または組織表面へと移行され、犠牲的キャストは、創傷中で完全に溶解し、PEMが、創傷組織、および当該創傷上に置かれた第1/第2の創傷被覆材と直接接触する。一部の実施形態において、第1の被覆材は、生物学的な被覆材であり、ナノスケールのポリマーマトリックスは、創傷床中で生物学的被覆材が一体化することを妨害しない。
【0228】
一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、当該ナノスケールのポリマーマトリックスを覆う、不溶性のポリマーマイクロフィルムを有さない可溶性のマイクロフィルムを用いて、生物医学的デバイスの表面に移行される。
【0229】
本発明の一部の実施形態において、1以上の生物活性剤を含有するナノスケールのポリマーマトリックスは、犠牲的なポリマー層を用いて、創傷または組織へと移行され、犠牲的ポリマー層は、創傷または組織に移行された後、ナノスケールのポリマーマトリックスの上層に置かれる。一部の実施形態において、創傷被覆材は、犠牲的ポリマー層が水性液体中に溶解、または部分的に溶解する前または後に、当該犠牲的ポリマー層の上面に置かれる。一部の実施形態において、1以上の生物活性剤を含有するナノスケールのポリマーマトリックスは、創傷または組織表面へと移行され、および、治療された創傷または組織上に置かれた創傷被覆材と、当該創傷または組織上の1以上の生物活性剤を含有するナノスケールのポリマーマトリックスとの間に、不溶性のポリマーマイクロフィルムは無い。一部の実施形態において、1以上の生物活性剤を含有する、PEMで作製されたナノスケールのポリマーマトリックス、および可溶性の犠牲的キャストは、創傷または組織表面へと移行され、犠牲的キャストは、創傷中で完全に溶解し、PEMが、創傷組織、および当該創傷上に置かれた第1/第2の創傷被覆材と直接接触する。一部の実施形態において、第1の被覆材は、生物学的な被覆材であり、ナノスケールのポリマーマトリックスは、創傷床中で生物学的被覆材が一体化することを妨害しない。
【0230】
一部の実施形態において、1以上の生物活性剤を含有するナノスケールのポリマーマトリックスは、当該1以上の生物活性剤を含有するナノスケールのポリマーマトリックスを覆う、不溶性のポリマーマイクロフィルムを有さない可溶性のマイクロフィルムを用いて、生物医学的デバイスの表面に移行される。
【0231】
本特許出願に記述されるナノスケールのポリマーマトリックスの一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、高分子電解質多層(PEM)である。
【0232】
一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスを用いて、たとえば創傷被覆材等の医療デバイスを改変する。以下に記述されるマトリックスの添加により改変することができる市販の創傷被覆材の例としては、限定されないが、Biobrane(登録商標)、Integra(商標)Matrix Wound Dressing、ガーゼ、粘着テープ、たとえばBand-Aids(登録商標)等の絆創膏、および、他の市販の創傷被覆材(限定されないが、COMPEEL(登録商標)、DUODERM(商標)、TAGADERM(商標)、およびOPSITE(登録商標)が挙げられる)が挙げられる。一部の好ましい実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスを有するマイクロシートが最初に表面(たとえば、創傷または他の湿潤な身体表面)に適用され、次いで、創傷被覆材が適用される。
【0233】
一部の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスを用いて、たとえば外科用メッシュ等の医療デバイスを改変する。以下に記述されるマトリックスの添加により改変することができる市販の外科用メッシュの例としては、限定されないが、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンメッシュ、または吸収性のバイオメッシュ、または、限定されないが、ULTRAPRO(商標)メッシュ、PROCEED(商標)メッシュ、PROLENE(商標)ポリプロピレンメッシュ、Ethicon Physiomesh(商標)、MERSILENE(商標)ポリエステルメッシュ、PARIETEX(商標)メッシュ、DOLPHIN(商標)ポリプロピレンメッシュ、GORE INFINIT(商標)メッシュ、PERFIX(商標)、KUGEL(商標)、3DMAX(商標)、BARD(商標)、VISILEX(商標)、XENMATRIX(商標)、ALLOMAX(商標)、SURGISIS BIODESIGN(商標)、および、TIGR MATRIX(商標)を含む生物学的メッシュ(バイオメッシュ)が挙げられる。
【0234】
一部の実施形態において、マイクロシートの犠牲的ポリマー層は、生物活性剤、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、マイクロ粒子、ナノ粒子、磁性粒子を含有する。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層中のマイクロ粒子またはナノ粒子は、生物活性剤または抗菌剤を含有する。
【0235】
一部の実施形態において、ポリマーマトリックス(たとえば、第2の(たとえば、犠牲的および/または非犠牲的な)ポリマーマトリックス)は、抗バイオフィルム剤を含有する。当該技術は、デバイスおよび関連方法、キットの実施形態ならびに、治療方法の実施形態に用いられる抗バイオフィルム剤に限定されない。たとえば、一部の実施形態において、抗バイオフィルム剤は、小分子抗バイオフィルム剤、荷電小分子抗バイオフィルム剤、抗バイオフィルムポリペプチド、抗バイオフィルム酵素(たとえば、ディスパーシン(Dispersin)B)、金属製粒子、または金属イオン抗バイオフィルム剤(たとえば、金属イオン、金属イオンの塩、または金属イオンのナノ粒子)である。さらに、一部の実施形態において、金属イオンの抗バイオフィルム剤は、ガリウムイオン、ガリウムイオンの塩、ガリウムイオンのナノ粒子、ガリウム合金、またはガリウムと銀の合金である。
【0236】
好ましい実施形態において、マイクロシートの犠牲的ポリマー層は、水溶性である。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、非毒性ポリマーから作製されており、および、一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、ポリビニルアルコール(PVA)である。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリスチレン(PS)、PMMAポリメチルメタクリレート(PMMA)、またはポリビニル酢酸(PVAc)から作製される。
【0237】
A.ポリマーマトリックスの物質
一部の実施形態において、マトリックスは、ポリマー多層である。一部の実施形態において、多層構造は、高分子電解質の層を含有し(すなわち、高分子電解質の多層を形成する)、一方で、他の実施形態においては、多層は、電荷を有さないポリマー(すなわち、非イオン性ポリマー)を含有し、または、電荷を有するポリマー層と、電荷を有さないポリマー層の組み合わせを含有する。一部の実施形態において、カチオン性およびアニオン性の高分子電解質層の吸着を交互に行うことによる、高分子電解質のフィルム組立により、制御された方法で創傷面を修飾するための、新規で、有望な技術が確立されることが企図される(Decher et al., 1992, Thin Solid Films 210/211:831;Decher, 1997, Science 277:1232)。そのような多層の最も重要な特性のうちの1つは、過度に交互に並んだ正電荷と負電荷を示すことである(Caruso et al., 1999, J Am
Chem Soc 121:6039;Ladam et al., 2000, Langmuir 16:1249)。これは、その組立の駆動力となるだけでなく(Joanny, 1999, Eur. Phys. J. Biol. 9:117)、その単なる接触により、たとえば色素、粒子(Cassagneau et al., 1998, J. Am. Chem. Soc. 120:7848;Caruso et al., 1999, Langmuir 15:8276;Lvov et al., 1997, Langmuir 13:6195)、クレイマイクロプレート(Ariga et al., 1999, Appl. Clay Sci. 15:137)、およびタンパク質(Keller et al., 1994, J. Am. Chem. Soc. 116:8817;Lvov et al., 1995, J. Am. Chem. Soc. 117:6117;Caruso et al.,
1997, Langmuir 13:3427)等の非常に様々な成分を吸着することが可能となる。
【0238】
高分子電解質層は、アニオン性高分子電解質とカチオン性高分子電解質を交互に表面に適用し、高分子電解質多層を形成することにより形成される。一部の実施形態において、たとえば上述の1以上の創傷活性剤が、多層に組み込まれる。好ましくは、少なくとも4つの層、より好ましくは少なくとも6つの層を用いて、高分子電解質多層を形成する。
【0239】
本発明に有用なカチオン性高分子電解質は、たとえば、任意の生体適合性のある水溶性ポリカチオン性ポリマー(たとえば、ペンダント基として付着されたプロトン化複素環を有する任意のポリマー)であっても良い。本明細書において、「水溶性」とは、ポリマー全体が水性溶液(たとえば、緩衝生理食塩水または、共溶媒として少量の添加有機溶媒を含む緩衝生理食塩水等)に、20~37℃の温度で可溶性であることを意味する。一部の実施形態において、当該物質は、それ自身は水性溶液中で十分に可溶性でない(本明細書において、1リットル当たり少なくとも1gの程度まで可溶性であるとして定義される)が、たとえばポリエチレングリコール等の水溶性ポリ非イオン性物質とポリカチオン性ポリマーをグラフトすることにより、水溶性となることができる。
【0240】
代表的なカチオン性高分子電解質としては、中性pHでの正味正荷電を有する非天然型ポリアミノ酸および天然型ポリアミノ酸、正に荷電された多糖、および正に荷電された合成ポリマーが挙げられる。適切なポリカチオン性物質の例としては、ポリマー主鎖またはポリマー側鎖のいずれか上にアミン基を有するポリアミン(たとえば、ポリ-L-リジン(PLL))および天然型アミノ酸または合成アミノ酸またはアミノ酸混合物の他の正荷電ポリアミノ酸(限定されないが、ポリ(D-リジン)、ポリ(オルニチン)、ポリ(アルギニン)、およびポリ(ヒスチジン)、および、非ペプチドポリアミン(たとえば、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(N-メチルアミノアクリレート)、ポリ(N-エチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノアクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノアクリレート)、ポリ(アミノメタクリレート)、ポリ(N-メチルアミノメタクリレート)、ポリ(N-エチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジメチルアミノメタクリレート)、ポリ(N,N-ジエチルアミノメタクリレート)、ポリ(エチレンイミン)、たとえばポリ(N,N,N-トリメチルアミノアクリレートクロライド)、ポリ(メチルアクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド)等の4級アミンのポリマー、およびキトサン等の天然型多糖または合成多糖)が挙げられる。
【0241】
概して、ポリマーは、少なくとも5つの荷電を含有しなければならず、および、ポリカチオン性物質の分子量は、組織または他の表面へ所望される程度に結合するために十分でなければならない(少なくとも1000g/モルの分子量を有する)。
【0242】
本発明に有用なポリアニオン性物質は、任意の生体適合性のある水溶性ポリアニオン性ポリマー(たとえば、ペンダント基として付着されているカルボン酸基を有する任意のポリマー)であっても良い。適切な物質としては、アルギネート、粉末寒天、ファーセレラン、ペクチン、キサンタン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパランスルフェート、コンドロイチンスルフェート、ポリアクリル酸(PAA)、デルマタンスルフェート、デキストランスルフェート、ポリ(メタ)アクリル酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、およびクロスマルメロース(crosmarmelose)、合成ポリマー、ならびに、ペンダントカルボキシル基を含有するコポリマー(たとえば、主鎖にマレイン酸またはフマル酸を含有するもの)が挙げられる。主に負に荷電されているポリアミノ酸もまた適切である。これらの物質の例としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、および他の天然アミノ酸および非天然アミノ酸とそれらのコポリマーが挙げられる。たとえばタンニンおよびリグニン等のポリフェノール性の物質を、もし十分に生体適合性があれば、用いても良い。好ましい物質としては、アルギネート、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリンおよびヒアルロン酸が挙げられる。
【0243】
一部の実施形態において、用いられるカチオン性高分子電解質は、PLLであり、用いられるアニオン性高分子電解質はポリ(L-グルタミン酸)(PGA)である。実際には、様々な高分子電解質の使用が企図され、限定されないが、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)、ポリ(ナトリウム4-スチレンスルホネート)(PSS)、ポリ(アクリル酸)(PAC)、ポリ(マレイン酸-コ-プロピレン)(PMA-P)、およびポリ(硫酸ビニル)(PVS)が挙げられる。また、天然型高分子電解質(ヒアルロン酸および硫酸コンドロイチンを含む)を使用することも可能である。依然としてさらなる実施形態において、ポリマーはデンドリマー、グラフトポリマー、または星状構造ポリマーである。
【0244】
一部の実施形態において、多層構造は、非荷電のポリマーまたは荷電ポリマーと非荷電ポリマーの組み合わせから形成される。非荷電ポリマーの例としては、限定されないが、デキストラン、デキストランスルフェート、ジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストラン、ヒドロキシエチルセルロース、エチル(ヒドロキシエチル)セルロース、アクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドのコポリマー、PAANa、Ficoll、ポリビニルピロリドン、およびポリアクリル酸が挙げられる。
【0245】
一部の実施形態において、多層構造は、1以上の両性ポリマーから、単独で、または本明細書に記述される他のポリマーと組み合わせて、形成される。一部の実施形態において、両性ポリマーは、アクリル酸(AA)、DMAEMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、APA(2-アミノプロピルアクリレート)、MorphEMA(モルホリノエチルメタクリレート)、DEAEMA(ジエチルアミノエチルメタクリレート)、t-ブチルAEMA(t-ブチルアミノエチルメタクリレート)、PipEMA(ピペリジノエチルメタクリレート)、AEMA(アミノエチルメタクリレート)、HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、MA(メチルアクリレート)、MAA(メタクリル酸)APMA(2-アミノプロピルメタクリレート)、AEA(アミノエチルアクリレート)のうちの1以上を含有する。一部の実施形態において、両性ポリマーは、(a)カルボン酸、(b)1級アミン、および(c)2級アミンおよび/または3級アミンを含有する。両性ポリマーは、4~8、好ましくは5~7の等電点を有し、10,000~150,000の範囲の数平均分子量を有する。
【0246】
ポリマー層は、様々な方法により形成されても良い。一部の実施形態において、ポリマー層は、以下に詳述されるように固形支持体上に形成される。一部の実施形態において、ポリマー、またはポリマー多層は、ポンプ(シリンジ、インクジェットプリンター、および電子ジェットが挙げられる)、またはスプレー(たとえば、エアロゾルスプレー)、または浸漬コーティングのいずれかを用いて、ポリマーを連続適用することにより形成されることが企図される。他の実施形態においては、粒子衝突が用いられる。他の実施形態においては、エアブラシを含むブラシの使用が企図される。他の実施形態においては、スポンジが用いられる。他の実施形態においては、固形支持体または、エラストマー物質等のスタンプ(たとえば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、シリコーン、ハイドロゲルまたはラテックス等)を用いて、ポリマー層を支持し、ポリマー層を創傷床内、または創傷床上へと機械的に移行する。さらに他の実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、固形支持体上に形成され、犠牲的ポリマー層は、当該ナノスケールのポリマーマトリックス上に形成され、および、それにより得られたマイクロシートは、固形支持体から剥がされる。
【0247】
一部の実施形態において、マトリックスは、1以上のタンパク質を含有する。好ましい実施形態において、タンパク質はハイドロゲルを形成する。一部の好ましい実施形態において、マトリックスは、1以上の細胞外マトリックスタンパク質を含有する。一部の実施形態において、マトリックスは、コラーゲン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、およびそれらの組み合わせの内の少なくとも1つを含有する。上述のように、タンパク質マトリックスは、好ましくは、様々な方法により形成されても良い。一部の実施形態において、タンパク質マトリックスは、以下に詳述されるように固形支持体上に形成される。一部の実施形態において、タンパク質マトリックスは、タンパク質、またはタンパク質の溶液もしくはゲルを、ポンプ(シリンジ、インクジェットプリンター、および電子ジェットが挙げられる)またはスプレー(たとえばエアロゾルスプレー等)のいずれかを用いて適用することにより形成されることが企図される。他の実施形態において、ブラシ(エアブラシを含む)の使用が企図される。他の実施形態においては、スポンジが利用される。他の実施形態においては、固形支持体または、エラストマー物質等のスタンプ(たとえば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、シリコーン、ハイドロゲルまたはラテックス等)を用いて、タンパク質マトリックスを支持し、タンパク質マトリックスを創傷床内、または創傷床上へと機械的に移行する。
【0248】
一部の実施形態において、マトリックスは、細胞(限定されないが、幹細胞、角化細胞、3-D皮膚構築物、角膜上皮細胞、結膜細胞、角膜縁幹細胞、ヒト胚性幹細胞、多能性幹細胞、成人誘導性幹細胞、造血幹細胞、肝細胞、すい臓細胞等が挙げられる)を含むよう、さらに修飾される。一部の実施形態において、本明細書に記述される組成物および方法を用いて、採取および処理された(凍結、凍結乾燥、固定、および湿潤保存または乾燥保存、直接移植のための新鮮な組織)動物およびヒト組織(ブタ/ヒト大動脈弁、採取されたヒト羊膜、ヒト死体皮膚、採取された強膜および角膜、採取された死体の骨、採取された血管等)を官能基化する。一部の実施形態において、本明細書に記述される組成物および方法を用いて、皮膚構築物(限定されないが、自家移植皮膚(すなわち、患者から皮膚を採取し、本明細書に記述されるように官能基化して、当該患者に戻す)、器官型培養されたヒト皮膚同等物、および、たとえばDermagraft(商標)等の他の角化細胞製品、が挙げられる)を官能基化する。
【0249】
B.マイクロスケールビーズまたはナノスケールビーズに関連したポリマー多層
一部の実施形態において、本発明により、ナノスケールの粒子、またはマイクロスケールの粒子を含有するポリマー多層が提示される。一部の実施形態において、粒子は、ポリマー多層中(たとえば、ポリマー層の間)に分散される。他の実施形態において、粒子は、たとえばポリマー多層の上面、または底面等の表面に提示される。一部の実施形態において、粒子は、前述のポリマー多層中に散在または分散させる;前述のポリマー多層上に提示させる;およびポリマー多層の底面、からなる群から選択される様式で、前述のポリマー多層に関連している。
【0250】
一部の実施形態において、ポリマー多層は、上述のように形成される。一部の好ましい実施形態において、粒子は、たとえば、長さや幅等の、直径または他の直線的測定の特性を有しており、それは、ポリマー多層の厚さよりも大きい。一部の実施形態において、直径、または他の直線的測定値は、約1、1.5、2、3または4倍から、約5、10、または20倍まで、ポリマー多層の厚さよりも大きい。
【0251】
一部の実施形態において、ナノメーターからマイクロメーターのサイズの生体適合性粒子(たとえば、球体粒子(たとえばビーズ)、および/または、非球体粒子(たとえば、楕円形状構造、針状構造、立方構造、四面体構造、キノコ様構造、干し草山様構造)等)の粒子または電気紡糸ポリマー)がポリマー多層中、またはポリマー多層上で用いられる。マイクロビーズは、マイクロビーズは、通常、約1~約500マイクロメーターの範囲にあるサイズを有し、一方で、ナノビーズは、通常、約1~約1000ナノメーターの範囲にあるサイズを有する。マイクロビーズはさらに、マイクロスケール(たとえば、1~100マイクロメーター)、またはナノスケール(たとえば、0.1~1000ナノメーター)の特性をビーズ表面上に含有しても良い。ナノビーズはさらに、ナノスケールの特性(たとえば、0.1~500ナノメーターの特性)をビーズ表面上に含有してもよい。一部の実施形態において、創傷活性剤は、たとえば銀ナノ粒子等のビーズまたは粒子の形態で存在する。一部の実施形態において、生体適合性粒子は、生分解性である。一部の実施形態において、生体適合性粒子は、たとえば、本明細書の他所に記述される創傷活性剤、細胞マトリックス成分等を、付着および固定することができる、界面化学架橋剤を用いて修飾される。一部の実施形態において、たとえばビーズ等の生体適合性粒子のサイズは、少なくとも1nm、少なくとも5nm、少なくとも10nm、少なくとも20nm、少なくとも50nm、少なくとも100nm、少なくとも200nm、少なくとも300nm、少なくとも500nm、または少なくとも800nmの直径である。一部の実施形態において、ビーズおよび他の球状または非球状の粒子は、それら自身の表面組織分布を含有している。たとえば、ビーズ表面は、うねり、ギザギザ、トンネル、穴、こぶ、突起等を含有しても良い。ビーズ等の球状粒子は、不活性であっても無くても良く、および、たとえば、磁性があっても良い。磁性ビーズは、たとえば、磁心または磁性粒子を含有する。異なるビーズ組成物の例は、たとえば、米国特許第5,268,178号、第6,458,858号、第6,869,858号、および第5,834,121号に見出される(それら各々は、参照によりその全体において本明細書に援用される)。一部の実施形態において、粒子は、創傷活性剤を含有、または創傷活性剤で含浸されている。
【0252】
たとえば上述のようなポリマー多層は、基材表面を化学的に、および組織分布的に操作する機会をもたらすことが企図される。既存技術を用いて、それら表面上に(ポリマー多層のような)ナノ構造または有機フィルムを構築し、および、それらに活性剤を添加しなければならない。これらの手順は多くの時間と労力を要するものであり(20の層を含有する多層フィルムを組み立てるためには6時間かかり、たとえば創傷治療に対しては極めて長いものである)、きつい化学薬品、非生理学的なpHを有する溶液を含む可能性、および機械的せん断力が生じる可能性があるため、それらが形成される基材(特に、生物学的組織および繊細な生物医学デバイス)を損ない、傷つけうる。これらの制限を克服するため、一部の実施形態において、本発明のポリマー多層は、エラストマースタンプ(たとえば、PDMSスタンプ)上で前もって組み立てられ、次いで、対象の基材上でスタンプを行うことにより、対象の基材上へ機械的に移行する。硬い基材(顕微鏡スライド、シリコンウエハ)上で、前もって組み立てられたナノ構造およびマイクロ構造を接触プリンティングするというコンセプトが電子機械システムの微細加工に用いられているが、そのような方法は、柔らかい基材、特に、生物学的組織の範囲に多くみられる機械的特性を有する基材に用いる際には上手くいかない。
【0253】
本発明により、ポリマー多層を含む有機薄層フィルムおよび無機薄層フィルムの適合基材(生物学的組織と同等の機械的特性(弾性係数E´は、約1~500kPa、好ましくは約10~100kPa)を有する軟らかい基材を含む)上への移行を可能にする方法および組成物を提示する。有機薄層を、様々な界面化学を有する、ガラスのような固い基材(E´、約65GPa)上へ移すことが可能と、文献中に記載される既存の方法は、柔らかい表面(E´、約100kPa)上で用いる場合には上手くいかない。
図11に、これらの観察結果を示す。実施例14および
図12に示される方法により、柔らかい表面(皮膚移植片およびマウスの皮を含む、生物学的組織が挙げられる)へとポリマー多層を移すことが容易になる。ヒト皮膚移植片、または生物医学グレードの軟シリコーンエラストマー(E´、約100kPa)上にスタンプを行う際、エラストマースタンプ上のポリマー多層のアセンブリー内に、ポリマーミクロスフィア(E´、約3GPa)を組み込むことにより、固いミクロスフィアおよび当該ミクロスフィアと接触しているポリマー多層を実質的に完全に移行することができる。
【0254】
この方法により、前もって組み立てられた官能基化ポリマー多層を、表面上に接触プリンティングすることにより、軟基材(E´、約100kPa)の表面を操作することが可能となる。これにより、生物学的組織および生物医学グレードのシリコーンのような柔らかい埋め込み型生物医学デバイスの表面を化学的に、および組織分布的に修飾し、および、ナノメーターのスケールで機能性、化学的構造、および組織分布が調製された表面を生成する機会が大幅に広がる。これは、2つの観点から、たとえば創傷床を操作する、またはパターン形成するための汎用性のある解決法である。第一に、製品開発の観点から、本方法に用いられるポリマー多層の組立および官能基化は、ロボットを用いる製造環境中で、容易に自動化することができる。第二に、応用の観点から、エンドユーザーは、基材上に多層を調製する代わりに、基材上のスタンプから物質を単に接触プリンティングするのみである。
【0255】
従って、本発明により、前もって組み立てられた、ナノメーターの厚さの有機フィルム(活性剤を含浸されている)を、基材上へ機械的に移行することにより、軟基材の界面化学およびナノ構造化された組織分布を調製する方法が提示される。この技術により、いくつか存在する既存の競合技術を超える、前例のない利点がもたらされる。第一に、前もって組み立てられたポリマー多層フィルムを、電気機械システムの微細加工に関連して基材上にスタンピングすることに関する、過去の文献に記載された技術では、生物学的組織に関した機械的強度を有する軟基材上にそれらを移行することはできない。ゆえに、本発明により、前もって組み立てられた官能基化ポリマーフィルムを接触プリンティングすることにより、全く新しい、広範な軟基材の表面を操作することができる可能性が開ける。本技術の直接の商業化に関連した、このような軟基材の一部として、生物学的組織、創傷床、および埋め込み型生物医学デバイス(生物医学グレードのシリコーン等)が挙げられる。さらに、本発明の間に行われた実験により、基材の機械的特性が、有機フィルムをそれらの上に機械的に移行するにあたって影響を与えること-これら新たな機械的移行の本質を用いて、たとえば、パターン模様のある柔らかな領域、および硬い領域を有する基材上に、有機フィルムを選択的に移行することができるという新たな知見が得られた。
【0256】
第二に、既存技術を用いて軟基材(E´、約100kPa)の表面を化学的に、または組織分布的に修飾するためには、これら表面上にナノ構造または有機フィルム(ポリマー多層等)を構築し、および、それらを活性剤に浸漬しなければならない。これらの手順には大抵、きつい化学薬品、非生理学的なpHを含み、および機械的せん断力が生じる可能性があるため、繊細な基材、特に、生物学的組織および繊細な生物医学デバイスを破壊しうる。本明細書に記述される発明により、それら基材上にアセンブリーする代わりに、活性剤を含浸した、前もって組み立てられたポリマー多層を軟基材上に接触プリンティングすることが可能となる。さらに、前もって組み立てられたポリマー多層を基材上に直接スタンピングすることにより、ポリマー多層の2次元配置および3次元配置に関する正確な制御がもたらされる。当該技術を用いて、複数の、前もって組み立てられたポリマー多層を連続的にスタンピングすることにより、複数レベルおよび複数成分のパターン構造を、簡便にデバイス表面上に導入することができる。ゆえに、本発明により、軟基材の表面修飾に関する、ナノメーターレベルでの新規な制御がもたらされる。
【0257】
第三に、創傷治癒に関し、最近の臨床的な創傷管理方法には、軟膏または被覆材中で、創傷に活性剤を送達することが含まれている。創傷被覆材は、活性剤の保有体であり、創傷液を通り、活性剤を拡散させ、活性が必要とされる創傷床にまで到達させるためには、高担持濃度が必要とされる。高濃度の活性剤は細胞毒性があり、それにより、組織毒性が生じ、創傷治癒が阻害される。
【0258】
本発明により、活性剤を含浸する、前もって組み立てられたナノ構造ポリマー多層をスタンピングすることにより、創傷床の表面上に活性剤を固定することが可能となる。創傷床上に、そのようにポリマー多層中の活性剤を固定することにより、1)創傷床上への正確な送達と、最小担持量での活性分子が可能となり、それにより、低コストで、細胞毒性作用無く、有効な創傷治療がもたらされ、2)創傷床中での活性剤の生体利用可能性が延長され、頻繁に被覆する必要が無く、ゆえに、患者の疼痛が減少し、創傷管理全体のコストが減少する。これは特に、治癒までに数か月かかる慢性的な創傷の治療において、有意義である。3)生物活性分子の送達が、空間的および時間的の両方とも、制御される。これにより、活性分子の創傷床全体の分布が制御され、それらの勾配を生成することができる。たとえば、in vitro実験により、成長因子の勾配をつけることにより、創傷治癒に関与する細胞の創傷床への移動が促進され、創傷閉鎖を早めることが示されている。4)活性分子を直接、細胞の微細環境中へと置くことができ、それにより、局所濃度が上がり、物質移動限界の問題、または、放出系で直面する複合体凝集の問題を回避することができる。5)マトリックス中で活性分子を局所に維持し、遠隔部位への望ましくない潜在的な拡散または、任意の浸透性の消失を限定することができる。
【0259】
本発明を用いた、創傷治癒に対するこの方法は、「創傷床を操作する」ことを試みるという意味で、根本的に新規なものである。創傷床の表面を、最小限の濃度の活性剤を含浸する、ナノメーターの厚さの有機フィルムを用いて化学的に、および組織分布的に修飾する。これは、現在行われている方法(創傷全体に、高濃度の生物活性剤を振り掛けることにより創傷を治療しようとする方法)とは対照を成している
従って、一部の実施形態において、本発明により、少なくとも1つのポリマーを含有するポリマー多層が提示され、当該ポリマー多層は、ナノスケールの粒子およびマイクロスケールの粒子からなる群から選択される粒子と関連する。一部の実施形態において、ポリマー多層は、1nm~1000nmの厚さであり、好ましい実施形態においては、約1~約250nmの厚さである。一部の実施形態において、ポリマー多層は、3~500kPaのコンプライアンスを有する。一部の実施形態において、ポリマー多層は、支持体上に配置される。一部の実施形態において、ポリマー多層は、支持体上に形成される。一部の好ましい実施形態において、支持体は、エラストマーの支持体である。
【0260】
一部の実施形態において、本発明により、上述のポリマー多層と表面を、前述のポリマー多層が前述の表面に移行されるような条件下で接触することを含む、表面を修飾する方法が提示される。一部の実施形態において、表面は、軟表面である。一部の実施形態において、表面は、約1~約500kPa、好ましくは約10~約100kPaの弾性係数を有する。一部の実施形態において、表面は、生物学的な表面である。一部の実施形態において、生物学的な表面は、タンパク質、脂質、および/または、炭水化物を含有する。一部の実施形態において、生物学的な表面は、皮膚、創傷床、毛髪、組織表面、および器官表面からなる群から選択される。一部の実施形態において、表面は、生物学的に適合性のある表面、または生物医学デバイスの表面である。一部の実施形態において、表面は、シリコーン表面である。
【0261】
C.ナノスケールのポリマーマトリックスおよび犠牲的ポリマー層を含有するマイクロシート
上に詳述のように、一部の実施形態において、本発明により、少なくとも2つの層を含有するマイクロシートが提示され、第1の層は、ナノスケールのポリマーマトリックスであり、および、第2の層は、犠牲的ポリマー層である。マイクロシートを作製するための例示的なマイクロシートおよび方法を、
図13、16、および17に示す。
図13に関しては、ナノスケールのポリマーマトリックスは、好ましくは、たとえばPDMS等の固形支持体上に形成されても良い。ナノスケールのポリマーマトリックスは、上に詳述される任意のポリマーを含有しても良い。さらなる支持物質は、以下に詳述する。一部の実施形態において、創傷活性剤は、マトリックスの形成の間にナノスケールのポリマーマトリックスに組み込まれる。また、生物活性のあるナノスケールのポリマーマトリックスをもたらすために、マトリックスの形成の後、マトリックスへの含浸がなされてもよい。上述のように、創傷活性剤は、好ましくは、マトリックスの3次元構造内に組み込まれ、または散在される。
図16に、銀イオンおよびナノ粒子がPAH/PAAのナノスケールの高分子電解質多層(PEM)マトリックスの3次元構造内に散在された、本発明の好ましい実施形態を図示する。好ましい実施形態において、ナノスケールのポリマーマトリックスは、銀イオンを含浸するために、硝酸銀溶液に含浸される;次いで、マトリックスは還元剤溶液中でインキュベートされ、マトリックス内に銀ナノ粒子を形成する。
図17において、正荷電の抗菌剤であるクロルヘキシジンが、PAH/PAAのナノスケールの高分子電解質多層(PEM)マトリックスの負荷電高分子電解質(PAA)層の間に散在された、本発明の別の好ましい実施形態を図示する。
【0262】
図13に関して、一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層が、次いで、ナノスケールのポリマーマトリックス上にキャストされる。犠牲的ポリマー層は、好ましくは、上述のように、分解可能または溶解可能な物質を含有する。一部の好ましい実施形態において、犠牲的ポリマー層は、ポリビニルアルコール(PVA)を含有する。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、またはポリビニル酢酸(PVAc)から作製される。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、好ましくは、浸漬コーティング、スピンコーティング、またはスプレーによりキャストされる。浸漬コーティング、スピンコーティング、またはスプレーにより、均質な厚さの犠牲的ポリマー層がもたらされることが企図される。一部の好ましい実施形態において、マイクロシートは、約0.2cm
2~約600cm
2である。一部の実施形態において、犠牲的ポリマー層は、断面で測定した場合に平均厚さの500、400、300、200、100、50、20または10%未満の厚さの変動をマイクロシート全体にわたって有する。さらに
図13に関して、マイクロシートは、たとえばデバイスまたは創傷組織等の表面(ぞれぞれ、
図13および
図14に図示される)に適用することができる、自立したマイクロシートをもたらすために、固形支持体から剥がされてもよい。本発明のマイクロシートは、微視的に薄いものであっても、優れた機械的強度を有し、手、または機械により扱うことができる。一部の実施形態において、マイクロシートは、約0.1GPa~約10GPaのヤング率を有する。
図13および
図14から明らかであるように、露出されたナノスケールのポリマーマトリックスは、デバイス表面または創傷表面に直接接触する。水分の存在下で、犠牲的ポリマー層は、ナノスケールのポリマーマトリックスを提示させたままで、またはナノスケールのポリマーマトリックスを表面に付着させたままで、溶解する。
【0263】
D.官能基化剤
一部の実施形態において、上述のマトリックスは、官能基化されている。好ましい実施形態において、マトリックスは、1以上の共有結合修飾剤で官能基化されている。一部の好ましい実施形態において、架橋剤は、適切なクリック化学が利用できるよう、アジド基またはアルキン基のいずれかを含有する。一部の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤が、均質二官能性架橋剤である。他の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤が、異質二官能性架橋剤である。たとえば、一部の実施形態において、均質二官能性架橋剤が、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(たとえば、限定されないが、ジスクシンイミジルエステル、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジスクシンイミジルタルタレート、ジスルホスクシンイミジルタルタレート、ビス[2-(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、エチレングリコビス(スクシンイミジル-スクシネート、エチレングリコビス(スルホスクシンイミジル-スクシネート)、ジスクシンイミジルグルタレート、および、N,N’-ジスクシンイミジルカルボネートが挙げられる)である。一部の実施形態において、均質二官能性架橋剤は、1ナノモル~10ミリモルの濃度である。一部の好ましい実施形態において、均質二官能性架橋剤は、10マイクロモル~1ミリモルの濃度である。他の実施形態において、少なくとも1つの共有結合修飾剤は、異質二官能性架橋剤である(たとえば、限定されないが、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スルホスクシンイミジル6-(3´-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート、スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン、スルホスクシンイミジル-6-[α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシ-スルホスクシンイミドエステル、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スルホ-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、スクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、スルホスクシンイミジル-4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル、N-(γ-マレイミドブチリルオキシ)スルホスクシンイミドエステル、スクシンイミジル6-((ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル6-(6-(((4-ヨードアセチル)アミノ)ヘキサノイル)アミノ)ヘキサノエート、スクシンイミジル4-(((ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、スクシンイミジル6-((((4-ヨードアセチル)アミノ)メチル)シクロヘキサン-1-カルボニル)アミノ)-ヘキサノエート、および、p-ニトロフェニルヨードアセテート)が挙げられる)。一部の実施形態において、異質二官能性架橋剤は官能基で修飾され、それにより、水性溶媒中に可溶性となり、水性溶液として送達される。さらに、一部の実施形態において、水性溶液は、添加剤(たとえば、限定されないが、界面活性剤およびブロックコポリマーが挙げられる)を含有する。他の実施形態においては、多様な異質二官能性架橋剤が、分子、ポリマーまたは粒子に付着し、架橋剤として機能することができる。他の実施形態において、異質二官能性架橋剤は、有機溶媒(たとえば、限定されないが、ジメチルスルホキシドが挙げられる)に溶解される。
【0264】
一部の実施形態において、共有結合修飾剤は、光活性化架橋剤である。適切な光活性化架橋剤としては、限定されないが、アリールアジドN-((2-ピリジルジチオ)エチル)-4-アジドサリチルアミド、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸、スクシンイミジルエステル、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸、STPエステル、ベンゾフェノンマレイミド、4-ベンゾイル安息香酸のスクシンイミジルエステル、N-5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジドベンゾエート、N-ヒドロキシスクシンイミジル-4-アジドサリチル酸、および、(4-[p-アジドサリチルアミド]ブチルアミン)が挙げられる。
【0265】
共有結合修飾剤は、任意の適切な方法によりマトリックスに適用されても良い。一部の実施形態において、共有結合修飾剤は、ポンプ(シリンジ、インクジェットプリンター、および電子ジェットを含む)またはたとえばエアロゾルスプレー等のスプレーを用いて適用されることが企図される。他の実施形態においては、エアブラシを含むブラシの使用が企図される。他の実施形態においては、スポンジが用いられる。
【0266】
共有結合修飾剤をマトリックスに適用した後、官能基化マトリックスが形成される。一部の実施形態において、官能基化マトリックスは、1以上の反応性部分(たとえば、アジド部分、スクシンイミジル部分、アルキン部分、または上述の化合物の任意の他の反応基等)を提示する。
【0267】
一部の実施形態において、マトリックスは、ポリエチレングリコールを用いてPEG化することにより修飾される。PEG化を用いて、マトリックスと創傷床の相互作用を制御し、所望の場合には、非特異的吸着を防ぐことができることが企図される。またPEG化を用いて、マトリックスからの創傷活性剤の送達を制御することができる。
【0268】
E.創傷活性剤
一部の実施形態において、マトリックスは、上に詳述の1以上の創傷活性剤を含有する。一部の実施形態において、創傷活性剤(複数含む)は、マトリックスに非共有結合的に組み込まれている。一部の好ましい実施形態において、銀含有抗菌物質は、官能基化マトリックス(たとえば、上述の高分子電解質多層)へと組み込まれる。一部の実施形態において、創傷活性剤(複数含む)は、たとえば、共有結合修飾剤を介して、マトリックス上に共有結合的に固定される。
【0269】
一部の実施形態において、1以上の創傷活性剤を適用し、創傷修飾剤に対して勾配を形成する。通常、勾配は、創傷に創傷修飾剤を適用した後、創傷中の第一に所望される位置の1つ以上に、より高濃度の創傷活性剤があり、および、創傷にマトリックスが適用された後、創傷中の1つの位置、または第2の位置で、より低濃度の創傷活性剤が存在する。たとえば、垂直に、より高い濃度の特定組成物が、創傷床の遠位よりも近位にあるような勾配で、創傷床中に創傷活性剤の濃度が層状化されている。組成物濃度が創傷床の近位よりも遠位でより高くなるような逆の場合もまた企図される。水平勾配を設けるような、創傷床中の組成物濃度もまた企図される。組織分布的な勾配もまた企図され、ここで、組成物は、創傷床中または生体適合性粒子上の組成物濃度が、基材の組織分布に従うように堆積されており、たとえば、より高い濃度の組成物は、うねりのピークと比較し、典型的な基材のうねりの谷間に堆積される。
【0270】
一部の実施形態において、勾配は、マトリックスの中心においてより高い濃度の創傷活性剤を有し、マトリックスの中心から離れると、創傷活性剤の濃度がより低くなる。従って、マトリックスが創傷に適用された際、勾配により、創傷の中心により高濃度の創傷活性剤がもたらされ、創傷の辺縁に行くに従い、創傷活性剤の濃度はより低くなる。一部の実施形態において、勾配は、マトリックスの中心においてより低い濃度の創傷活性剤を有し、マトリックスの中心から離れると、創傷活性剤の濃度がより高くなる。従って、勾配により、創傷の中心により低濃度の創傷活性剤がもたらされ、創傷の辺縁に行くに従い、創傷活性剤の濃度はより高くなる。もし2以上の創傷活性剤が用いられる場合、それらは同様の勾配で存在してもよく、または、当該2以上の創傷活性剤の濃度が創傷全体で変化するように、勾配が変化しても良い。高濃度、または低濃度の勾配は、マトリックスおよび勾配が、様々な創傷の形状に合うように、たとえば円、正方形、長方形、卵型、楕円形等の任意の形状であっても良い。たとえば、長く切開されたタイプの創傷に対しては、勾配は、創傷の長さに沿って伸びる長軸上に中心を置いてもよく、および、創傷の中心にあっても良い。別の例において、大体は円状または卵形である、開放型の創傷、火傷、ただれ、および潰瘍に対し適用を行う場合には、勾配は、円状または卵形であっても良い。他の実施形態において、勾配は、あるパターンで配置された一連の特性を有している。たとえば、勾配は、マトリックスの長軸に沿った、一連の縞模様または1以上の創傷活性剤の高濃度および低濃度を形成しても良い。あるいは、勾配は、市松模様のパターン、アレイ、同心円、重複円または卵形等を形成しても良い。
【0271】
F.支持物質
一部の実施形態において、マトリックスは支持物質上に形成される。適切な支持物質としては、限定されないが、ポリマー物質、エラストマー物質(たとえば、PDMS、ナイロン、Teflon(登録商標)、Gortex(登録商標)、絹、ポリウレタン、およびシリコン、好ましくは医療グレードのシリコン、PVDF、ポリエチレンオキシド等)から形成された固形支持体、および水溶性物質およびポリマー(たとえば、ポリビニルアルコール等)が挙げられる。一部の実施形態において、ポリマー多層を形成するために用いられるポリマー(複数含む)は、支持体を形成するポリマー(複数含む)とは異なる。一部の実施形態において、たとえば水溶性物質またはポリマー等の、追加の物質の層は、ポリマー多層および支持体の間に配置される。一部の実施形態において、固形支持体は、マトリックス物質の添加による官能基化に対応する創傷被覆材または生物学的創傷被覆材である。以下に記述されるマトリックスの添加により修飾することができる市販の創傷被覆材としては、限定されないが、Biobrane(商標)、ガーゼ、粘着テープ、たとえばBand-Aids(登録商標)等の絆創膏、および、他の市販の創傷被覆材(限定されないが、COMPEEL(登録商標)、DUODERM(商標)、TAGADERM(商標)、およびOPSITE(登録商標)が挙げられる)が挙げられる。一部の実施形態において、支持体は、シリコンウエハ、たとえば疎水性自己アセンブリーされた単層でコートされたガラスまたはシリコンウエハ等の表面、ナイロン繊維等の繊維、吸収性物質、発砲体、透明な薄層フィルム、ハイドロゲル、ハイドロファイバー、親水コロイド、アルギン酸繊維、シリカゲル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドカリウム、およびそれらの組み合わせである。一部の実施形態において、支持体は、コラーゲン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、およびそれらの組み合わせまたは断片からなる群から選択される生物学的分子を含有する(たとえば、それらでコートされる、またはそれらを提示する)。
【0272】
上述のマトリックスは、支持物質上で直接合成されてもよく、または、合成の後で、たとえば適切な支持体(たとえば、エラストマー支持体)から移行もしくはスタンピングを行うことにより、支持物質へと移行されても良い。支持体上にポリマー多層を配置するために用いることができる、いくつかの異なる方法がある。一部の実施形態において、ポリマー多層は、溶液からの吸着により、スプレーにより、またはスピンコーティングにより、支持体上に堆積される。上述のように、マトリックスは、好ましくは、たとえば高分子電解質多層等のポリマー多層である。一部の実施形態において、マトリックスは、好ましくは、上述の創傷活性剤、および/または、上述のナノスケールのビーズもしくはマイクロスケールビーズの1以上を含有する。一部の好ましい実施形態において、創傷活性剤は、銀ナノ粒子、銀元素、ならびに、たとえばスルファジアジン銀および関連化合物等の銀含有化合物(好ましくは、上述の濃度範囲で含有される)のうちの1以上である。
【0273】
一部の実施形態において、本発明により、たとえば軟表面等の、所望される表面へ、ポリマー多層を移行するための方法が提示される。そのような軟表面としては、限定されないが、皮膚、創傷床、組織、人工組織(人工皮膚組織(たとえば器官型培養が行われた皮膚組織)が挙げられる)、Apligraf(登録商標)、Dermagraft(登録商標)、Oasis(登録商標)、Transcyte(登録商標)、Cryoskin(登録商標)、およびMyskin(登録商標)、人工組織マトリックス、生体分子を含有するゲル、創傷被覆材、および生物学的創傷被覆材が挙げられる。一部の実施形態において、所望される表面は、たとえば支持体上に支持されたポリマー多層等のポリマー多層と接触し、および、支持体から所望される表面へ、当該ポリマー多層が効率的に移行されるよう、圧力がかけられる。一部の実施形態において、圧力は、約10~約500kPaである。一部の実施形態において、移行は、実質的に溶液が無い中で、または完全に溶液が無い中で行われる。そのような乾燥移行プロセスには、生物学的成分の活性に影響を与えうる種を含有する水性溶液に、所望される表面の生物学的成分を露出させることは含まれない。一部の実施形態において、移行は、ガス相を介して行われる。一部の実施形態において、移行は、湿度が飽和の100%未満である環境で行われる。一部の実施形態において、移行は、液体水の非存在下で行われる。
【0274】
従って、一部の実施形態において、本発明により、創傷の方向を向いた表面を有する支持物質を含有する創傷被覆材が提示され、当該創傷の方向を向いた表面は、本発明のマトリックス物質で修飾される。創傷に適用される際に、マトリックス物質で修飾された支持物質の表面を、創傷床に接触させる。
【0275】
一部の実施形態において、支持体は、生物学的な創傷被覆材である。一部の実施形態において、生物学的創傷被覆材は、細胞(たとえば、角化細胞または線維芽細胞、およびそれらの組み合わせ)、および/または、創傷表面に接触しておくことができる生体分子もしくは生体分子の断片の1つ以上を含有する(たとえば、それらでコートされ、またはそれらを組み込む)創傷被覆材である。生体分子は、1以上の生体分子を含有する人工組織マトリックスの形態でもたらされてもよい。そのような生体分子の例としては、限定されないが、コラーゲン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ラミニン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ケラチン、抗菌性ポリペプチド、およびそれらの組み合わせが挙げられる。適切な生物学的創傷被覆材の例としては、BIOBRANE(商標)、Integra(商標)、Apligraf(登録商標)、Dermagraft(登録商標)、Oasis(登録商標)、Transcyte(登録商標)、Cryoskin(登録商標)、および、Myskin(登録商標)が挙げられる。
【0276】
一部の実施形態において、支持物質は、たとえば繊維(好ましくは、ナイロン繊維等のポリマー繊維)等の支持物質上に支持されたエラストマーフィルム(たとえば、シリコーンフィルム)で構築された生合成創傷被覆材である。一部の実施形態において、繊維は、フィルム(たとえば、BioBrane(商標))内に少なくとも部分的に組み込まれている。一部の実施形態において、エラストマーフィルムは、1以上のバイオ物質(たとえば、コラーゲン、ケラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンおよびそれらの組み合わせ)でコートされている。従って、繊維は、バイオ物質(たとえば、コラーゲン)が結合(好ましくは化学結合)されている、複合体3次元構造を、創傷床に提示する。一部の実施形態において、創傷に提示された表面はさらに、上述のマトリックス物質で修飾される。一部の好ましい実施形態において、マトリックス物質は、創傷活性剤(好ましくは、銀ナノ粒子、銀元素、ならびにスルファジアジン銀および関連化合物等の銀含有化合物のうちの1以上から選択され、および、好ましくは、上述の濃度範囲で含有されている)を含有する高分子電解質膜である。一部の好ましい実施形態において、マトリックスはさらに、ナノスケールの粒子またはマイクロスケールの粒子を含有する。マトリックスは、コラーゲン修飾された表面上で直接合成されてもよく、または、上述のようにスタンピングにより、コラーゲン修飾された表面に移行されても良い。
【0277】
一部の実施形態において、支持物質は、粘着部分(たとえば、粘着ストリップ)および、好ましくは、創傷への接着を防ぐために物質(すなわち、非接着性の物質)で処置もしくはコートされている吸着剤、または、創傷に接触する吸収パッドの表面上に非接着物質(たとえば、Teflon(登録商標))の層を含有する吸着剤を含有する粘着包帯である。一部の実施形態において、支持物質は、好ましくは、創傷と接触する吸収パッドの表面上に、たとえばTeflon(登録商標)または他の適切な物質等の非接着性物質の層を含有する吸収パッド(たとえば、ガーゼパッドまたはポリマー発砲体)、または、創傷への接着を防ぐ物質(すなわち、非接着性物質)で処置もしくはコートされた吸収パッド(たとえば、ガーゼパッドまたはポリマー発砲体)である。一部の好ましい実施形態において、非接着性物質または層は、通気性がある。一部の好ましい実施形態において、創傷被覆材は、ゲル形成剤(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の親水コロイド)を含有する。一部の実施形態において、吸収パッドまたはゲル形成剤は、ウォータープルーフの、および/または、通気性のある、物質に添付されている。例としては、限定されないが、半透過性のポリウレタンフィルムが挙げられる。ウォータープルーフの、および/または、通気性のある、物質はさらに、粘着包帯を対象の皮膚に固定するための粘着性物質を含有する。ウォータープルーフの、および/または、通気性のある、物質は、好ましくは、粘着包帯またはパッドの外側の面を形成する(すなわち、創傷に接触するマトリックスを含有する面の反対側の面)。そのような粘着包帯および吸収性パッドの例としては、限定されないが、創傷被覆材のBand-Aid(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のNexcare(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のKendall Curity Tefla(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のTegaderm(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のSteri-Strip(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のCOMFEEL(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のDuoderm(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のTEGADERM(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のOPSITE(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のAllevyn(商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のDuoderm(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、創傷被覆材のXeroform(登録商標)の系列の粘着包帯およびパッド、が挙げられる。
【0278】
一部の実施形態において、本発明により、上述の物品を製造するための方法およびシステムが提示される。一部の実施形態において、高分子電解質多層は、上に詳述の任意の方法により固形支持体上に直接堆積される。一部の実施形態において、高分子電解質多層は、たとえばPDMS等のスタンプ物質上に堆積され、次いで、上に詳述のスタンピングプロセスにより、固形支持体に移行される。
【0279】
一部の実施形態において、本技術は、シリコーンフィルムを含有する創傷被覆材に関連する。薄層シリコーンフィルム半閉鎖性創傷被覆材は、従来のガーゼ被覆材と比較して、湿潤創傷治癒を促進し(Thomas S. Vapour-permeable film dressings. Journal of Wound Care. 1996;5:271-4)、痂皮の形成を防ぎ、および、早い速度で表皮再生が促進されるよう、火傷および外傷に普遍的に用いられている(Madden et al. Comparison of an occlusive and a semi-occlusive dressing and the effect of the wound
exudate upon keratinocyte proliferation. The Journal of Trauma. 1989; 29:924-31)。シリコーンフィルムを有する、従来的な創傷被覆材の例としては、Biobrane(登録商標)(Smith & Nephew, Hull, UK)、Integra wound matrix(登録商標)(Integra Lifesciences,
Plainsboro, NJ)、およびたとえば、Stratamed(登録商標)(Stratpharma, Switzerland)等のシリコーンゲルフィルム、および、Mepitel(登録商標)(Molnlycke Health Care, Northcross, GA)が挙げられる。シリコーン薄層フィルムは、水蒸気および酸素に対して透過性である(Queen D et al. Evaluation of gaseous transmission (O2 and CO2) through burn wound dressings. Burns. 1987;13:357-64)が、水および微生物に対しては透過性ではない。それらは創傷中の湿度バランスを維持し、創傷表面の脱水を阻害し、生理学的な創傷分泌液中に、露出された神経末端を浸すことにより、疼痛緩和をもたらすことができる(Thomas S et
al. A study to compare two film dressings used as secondary dressings. Journal of Wound Care. 1997;6:333-6)。
【0280】
中程度の酸素透過性を有するポリウレタン薄層フィルム被覆材と比較して、たとえば、Tegaderm(登録商標)(3M, St. Paul, MN)、およびOpsite(登録商標)(Smith & Nephew)等、シリコーンフィルムは、高いガス透過性を有している。66μmの厚さのTegaderm(登録商標)を通し、確認された酸素透過速度は、2.74cc/m2/日であり、250μmの厚さの医療グレードのシリコーンフィルムのそれは、20cc超/m2/日であった(Sirvio L et al. The Effect of Gas Permeability of Film Dressings on Wound Environment and Healing. Journal of Investigative Dermatology. 1989;93:528-31)。
【0281】
Tegaderm(登録商標)は、組織培養プレート中で哺乳類細胞を増殖させるために十分な酸素透過をもたらしたこと(Perlman D.米国特許第5,858,770号)、および、ブタの中間層創傷において正常な上皮形成を促進したこと(Sirvio L et al. The Effect of Gas Permeability of Film Dressings on Wound Environment
and Healing. Journal of Investigative Dermatology. 1989;93:528-31)が報告されていることから、ポリマーナノフィルムでコートされたシリコーン薄層フィルムを含有する本発明の実施形態により、少なくとも、Tegaderm(登録商標)と類似した酸素透過性(たとえば、2.74cc/m2/日)が可能である。一部の実施形態においては、市販されている(Bioplexus, Ventura, CA)医療グレードのシリコーンフィルム(0.01インチの厚さ、たとえば、250μm)が含まれる。
【0282】
G.マトリックスの使用
一部の実施形態において、上述のマトリックスは、創傷治癒(創傷収縮により計測される)が加速されるような条件下で創傷に適用される。一部の実施形態において、マトリックスは、創傷に適用される直前に官能基化される一方、他の実施形態においては、マトリックスは滅菌パッケージで提供され、官能基化されており、滅菌パッケージから取り出した後に容易に適用される。一部の実施形態において、創傷は、官能基化マトリックスにより提示された官能基化剤と反応する、共有結合修飾剤を用いて前処理され、または、プライムされる。たとえば、創傷は、上に詳述のように、反応性のアジド基を提示する共有結合修飾剤を用いて修飾されてもよく、一方で、マトリックスが、アルキン基を提示する共有結合修飾剤を用いて修飾されても良い。概して、創傷は、反応性基Xを提示する共有結合修飾剤Aで修飾されてもよく、マトリックスは、反応性基Yを提示する共有結合修飾剤Bを提示し、ここで、XおよびYは互いに反応して、共有結合を形成する。
【0283】
一部の実施形態において、マトリックスは、キットとして提供され、好ましくは、マトリックスは滅菌パッケージ内にある。一部の実施形態において、キット中のマトリックスは、前もって官能基化されており、一方、他の実施形態においては、マトリックスは官能基化されておらず、キットは、少なくとも1つの官能基化剤と共に、マトリックスを官能基化する方法に関する説明書を含有する。一部の実施形態において、キットは、マトリックスに適用する前に創傷床を官能基化するための官能基化剤を含有する。一部の実施形態においいて、キット中に備えられたマトリックスは、少なくとも1つの創傷活性剤を含有する。他の実施形態において、キットは、創傷活性剤、および、創傷に適用する前にマトリックスに創傷活性剤を適用するための説明書を含有する。
【0284】
IV 創傷を治療する方法
上述の1以上の創傷活性剤またはマトリックスを有する創傷修飾剤は、全てのタイプの創傷に適用することができる。さらに、本発明の組成物は、全てのタイプの創傷に適用することができる。さらに、1以上の創傷活性剤を有する創傷修飾剤は、損傷を受けた、皮膚、粘膜、体腔に適用することができ、および、骨、組織等の内部表面に適用することができる。1以上の創傷活性剤を有する創傷修飾剤は、たとえば、切り傷、擦り傷、潰瘍、外科手術の切開部、火傷等の創傷に用いることができ、および、他のタイプの組織損傷の治療に用いることができる。本発明の一部の実施形態において、上述の組成物および方法により、創傷治癒が強化される。本発明により、創傷治癒が様々な方法で強化されうることが企図される。一部の実施形態において、当該組成物および方法により、機能及び美容術に最も好都合となるよう、創傷の拘縮を最小化する。一部の実施形態において、組成物および方法により、機能及び美容術に最も好都合となるよう、創傷の拘縮を促進する。一部の実施形態において、組成物および方法は、血管新生を促進する。一部の実施形態において、組成物および方法は、血管新生を阻害する。一部の実施形態において、組成物および方法は、線維症を促進する。一部の実施形態において、組成物および方法は、線維症を阻害する。一部の実施形態において、組成物および方法は、上皮被覆を促進する。一部の実施形態において、組成物および方法は、上皮被覆を阻害する。一部の実施形態において、本発明の組成物および方法は、創傷環境中の細胞、または、創傷近傍の細胞の1つ、または特性を調節する。調節される(たとえば、増加または減少される)特性としては、限定されないが、付着、移動、増殖、分化、細胞外マトリックスの分泌、食作用、MMP活性、収縮、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0285】
本発明の組成物は、たとえば、もし層の保護が望ましい場合、または、さらに湿潤な吸収作用をもたらすことが望ましい場合には、第2の被覆材または絆創膏を用いて被覆されても良い。
【0286】
もし所望であれば、1以上の創傷活性剤を有する創傷修飾剤を、その後に再度適用してもよい。創傷治癒の異なるステージでは、異なる組成の創傷活性剤を有する創傷修飾剤が望ましい場合がある。
【0287】
一部の実施形態において、たとえば、高分子電解質を用いて創傷床に固定された細胞活性因子およびマトリックスの固定は、in vitroおよびin vivoで評価される。一部の実施形態において、細胞増殖を増加させる、細胞活性因子の能力を実験することを含む、in vitro分析が、角膜上皮細胞およびヒト血管内皮細胞において評価される。一部の実施形態において、in vitro分析には創傷床を模倣する合成表面の組立が含まれ、ここで、前述の表面は、たとえば、創傷床に存在する様々な化学官能基の代表である、1級アミン基、カルボン酸およびチオール基等の界面化学を含有するよう、生成されている。たとえば、ECM構成物質および細胞活性因子が、当該合成表面に適用され、および、固定は、たとえば、ECMに対する蛍光標識抗体により確認され、それにより、細胞活性因子が固定される。さらに、in vitro分析としては、限定されないが、合成表面上の細胞活性因子およびECMの増殖用量応答が挙げられる。一部の実施形態において、in vitro分析を用いて、創傷床中の特定の細胞増殖を阻害する細胞活性因子を評価し、それにより、創傷治癒および組織機能の急速な回復に対して最適な細胞型が優先的に補充され、および増殖し、ならびに、拮抗する細胞種が補充されないようにすることが可能となる。
【0288】
1つの実施形態において、固定戦略を評価するアッセイは、ex vivoで行われる。一部の実施形態において、皮膚の創傷は、マウスから採取される。たとえば、6mmの外科処理された皮膚の穴を用いて、皮膚欠損の事後評価を行い、その後、創傷床全体を取り出す(たとえば、下にある間質筋成分とともに)。上述のin vitroモデル系と類似して、ex vivoモデル系には、リンカー化学等が含まれ、および、固定戦略は、たとえば、蛍光標識タンパク質を用いて評価される。一部の実施形態において、ex vivoモデル系には、ビオチン化BSAの固定が含まれる。一部の実施形態において、創傷床の表面は、たとえば、1mM BS3に曝すことにより、NHSエステルで活性される。ビオチン化BSA(たとえば、2mg/ml)が、次いで、活性化創傷床に添加され、2時間、付着される。ビオチン化BSA固定は、FITC標識抗ビオチン抗体により測定される。従って、固定が、(蛍光検出を介して)確認された時点で、創傷床固定に対して最適化学機能性の評価が、測定される。たとえば、化学機能性は、本明細書に記述される異質二官能性架橋剤(たとえば、創傷床に存在するカルボン酸、アミンおよびチオール基等と反応する)を有するex vivoモデル系中でBS3を置き換えることにより測定される。さらに、最適架橋剤の測定で、本明細書に記述される細胞活性剤および細胞外マトリックス化合物の固定が評価される(たとえば、固定化合物に対する蛍光標識抗体を用いて)。ex vivo評価を成功させるための重要なパラメータとしては、限定されないが、全ての固定組成物の濃度、緩衝系およびインキュベーション時間が挙げられることが企図される。ex vivo評価は、in vivoの創傷床治癒系の追加の検証となる。
【0289】
1つの実施形態において、in vivo実験でさらに、本明細書に記述される創傷床治癒方法を検証する。一部の実施形態において、糖尿病トランスジェニックマウスdb/dbを用いる(糖尿病マウスの表現型は、創傷治癒が損なわれているため)。本明細書に記述される高分子電解質、細胞活性剤、および細胞外マトリックスを、創傷治癒の最適化のためにdb/dbマウスに適用する。本発明は、特定のメカニズムに限定されない。実際のところ、本発明の実施にメカニズムの理解は必要ではない。しかしながら、糖尿病マウスにおける最適化創傷治癒は、正常な、皮膚創傷に対する創傷治癒と関連するモデル系を提供することが企図される。1つの例において、皮膚創傷は、外科皮膚パンチを用いて、糖尿病マウス上に縦一列に作製される。創傷を作製した後、検証化合物を創傷のうちの1つに固定し、他は対照として、そのままにする(たとえば、BSAのみ)。検証化合物は、たとえば、実施例3に記述されるように評価され、それにより、創傷床治癒に有用なin vivo組成物に関するさらなる情報がもたらされる。創傷治癒に対する、検証化合物の効果に関する情報はまた、たとえば、上皮被覆、肉芽組織形成の程度、コラーゲン含量、炎症、線維芽細胞群、および血管新生に対して創傷床を評価することによっても得られる。検証化合物としては、限定されないが、本明細書に記述される高分子電解質、細胞外マトリックス成分(たとえば、コラーゲン、ラミニン、MATRIGEL、フィブロネクチン等)、および細胞活性剤(たとえば、EGF、VEGF、PDGF)が挙げられる。創傷床のさらなる特徴解析のために、共焦点顕微鏡を用いて、3次元空間で細胞成分を可視化し、それにより、自然の状態における創傷床治療の可視化が可能となる。
【0290】
一部の実施形態において、本発明により、創傷治癒に対する、個別化治療プロトコールの開発が提示される。たとえば、創傷治癒に対する本明細書に記述される組成物は、各創傷床に固有の、たとえば環境因子、インキュベーション時間、適用動態、創傷床構造、関連疾患の状態(たとえば、糖尿病等)等を考慮して、各個人の創傷に適合される。そのようにして、本発明は、本明細書に記述される組成物および方法を用いた、各固有の創傷床に対する界面化学/構造の変化を提示する。
【0291】
本明細書に検討され、実施例により支持されているように、本技術の実施形態は、銀ナノ粒子を担持するPEM、および溶解可能なPVA層を含有するマイクロフィルムを用いた、創傷床の修飾を提示する。PVAの溶解の後、創傷床にPEMが等角で接触することにより、銀が創傷に局所送達される(たとえば、
図49を参照のこと)。従来的な銀被覆材は創傷の上に置かれ、創傷滲出液中に拡散し、創傷床上の微生物を殺すために、高濃度の銀イオンを放出しなければならない(たとえば、
図49Aを参照のこと)。放出された銀イオンのほとんどが、創傷滲出物中で不活化される。対照的に、マイクロフィルム銀被覆材は、創傷の微細な輪郭周辺に順応し、それによって活性銀イオンと創傷床が密着し、創傷床上の微生物の殺傷に必要な銀は、従来的な被覆材よりも100倍、少ない(
図49Bを参照のこと)。そのため、マイクロフィルム被覆材は創傷浸出液中の銀イオンの消失を減少させ、それにより、銀の細胞毒性および組織染色を低減させる。
【0292】
本改善技術により、創傷滲出液中での銀の消失が減少し、それにより、ナノフィルム中に大量の銀が必要とはされなくなった(A. Agarwal, T. L. Weis, M. J. Schurr, N. G. Faith, C. J. Czuprynski, J. F. McAnulty, C. J. Murphy, N. L. Abbott, Biomaterials 2010, 31, 680)。本技術の実施形態を開発する間に行われた実験から、従来的な銀被覆材よりも、最大100倍少ない銀を放出するPEMは(たとえば、ナノ結晶の銀を有するActicoat(登録商標)被覆材は、1日当たり約100μg/cm-2を放出する)(P. L. Taylor, a L. Ussher, R. E. Burrell, Biomaterials 2005, 26, 7221)、汚染されたマウス創傷中の微生物のコロニー形成を効果的に減少させることが示されている。従来的な銀被覆材(Acticoat(登録商標)を含む)は、マウスの添え木を当てられた切除創傷の再上皮形成を有意に阻害する(A. Burd, C. H. Kwok, S. C. Hung, H. S. Chan, H. Gu, W. K. Lam, L. Huang, Wound Repair. Regen. 2007, 15, 94)が、銀を含有する本明細書に記述される技術の実施形態においては、類似したマウスの創傷モデルにおいて、創傷の再上皮形成を阻害せず、過度の炎症ももたらさなかった。従って、PEM/PVAマイクロフィルムは、たとえば、微生物感染を予防するための、清浄な外科処置創傷への積極的応用としての用途が見出される。対照的に、従来的な銀被覆材は、「危機的なコロニー形成」が確立するまでは、そのような用途は推奨されない(M. H. Hermans, Am. J. Nurs. 2006, 106, 69)。
【0293】
創傷微生物管理に対し、本明細書に用いられたPEM/PVAマイクロフィルム構築物は、臨床で有用な、改良された、および/または、新規な特性を多く備えている。(1)マイクロフィルム構築物の実施形態は、機械的強度があり、および半透明であるため、臨床医がフィルムを操作し、および、それを通じて観察することが可能になり、それにより、創傷床に簡単に配置することができる。対照的に、従来的な銀被覆材は、不透明であり、通常、創傷を検証するためには取り除かなければならない。従って、本明細書に記述されるPEM/PVAマイクロフィルムの実施形態は、患者の疼痛を減らし、看護時間を減らし、被覆材交換に関連したコストを軽減する。(2)上述のように、従来的な銀被覆材は、創傷液中のタンパク質で消失する銀イオンを補完するために、高濃度の銀を放出するように設計されている(M. Trop, M. Novak, S. Rodl, B. Hellbom, W. Kroell, W. Goessler, J. Trauma 2006, 60, 648;E. K. Mooney, C. Lippitt, J. Friedman, Plast. Reconstr. Surg.
2006, 117, 666)。これにより、上皮に過剰な銀凝集体が蓄積され、組織が染まり、炎症が発生し(B. S. Atiyeh, M. Costagliola, S. N. Hayek, S. A. Dibo, Burns 2007, 33, 139)、および、再上皮形成が阻害される(A. Burd, C. H. Kwok, S. C. Hung, H. S. Chan, H. Gu, W. K. Lam, L. Huang, Wound Repair. Regen. 2007, 15, 94)。対照的に、本明細書に記述される実施形態のポリマーナノフィルムからは、低い率で銀が放出されるため、創傷中の銀の蓄積が有意に減少し、組織染色および炎症の可能性が低減する。(3)上述のように、PEMは、一連の生物活性剤および抗菌剤を含浸ことができる(T. Boudou, T. Crouzier, K. Ren, G. Blin, C. Picart, Adv. Mater. 2010, 22, 441;J. a. Lichter, K. J. Van Vliet, M. F. Rubner, Macromolecules 2009, 42, 8573)。本明細書に提示される実施形態の技術は、構築物のナノフィルム成分の効果を失うことなく、臨床環境において実用的である。従って、本方法は汎用化可能であり、よって、異なる様々な創傷に適用可能な実施形態を提供し、一部の実施形態においては、創傷床に複数の生物活性剤を同時放出し、異なるフェーズの創傷治癒をサポートすることが可能である。本技術からは、複数の生物活性剤を含有するPEMを用いた、創傷床の修飾が企図される。
【0294】
本技術により、いくつかの面で、従来の技術を著しく超える改善がもたらされる。たとえば、いくつかの従来技術では、創傷にポリマーナノフィルムを移すために、犠牲的ポリマー層を使用する(R. Vendamme, S.-Y. Onoue, A. Nakao, T. Kunitake, Nat. Mater. 2006, 5, 494;W. Cheng, M. J. Campolongo, S. J. Tan, D. Luo, Nano Today 2009, 4, 482)。特に、一部の従来技術では、キトサンおよびアルギン酸ナトリウムから構成されるPEMを使用し、創傷にPEMを移す。一部の従来法では、抗生物質が含有され、微生物量を管理する。特に、従来技術は、(i)基材上でのPEM形成および、PVAフィルムを用いたPEMのコーティング;(ii)PEM/PVAの機械的除去、構築物の反転、およびPEM表面が曝されている基材上へのPEM/PVA構築物の置換付着、(iii)PEM表面上への、アセトンからの抗生物質(テトラサイクリン、TC)の堆積、および、疎水性ポリビニル酢酸の層により、アセトン堆積層の内包化、を含有する製造プロセスが用いられている。構築物からのTCの放出は、ポリビニル酢酸層の厚さに依存する様式で、6時間にわたり発生した(200nmを超える厚さのポリビニル酢酸の層は、実験の間に、剥離することが報告された)。
【0295】
対照的に、本明細書に提示される実施形態の技術により、従来技術を著しく超える改善をもたらす、生物活性剤の送達が可能となるPEMを調製するための新規製造方法がもたらされる(T. Fujie, A. Saito, M. Kinoshita, H. Miyazaki, S. Ohtsubo, D. Saitoh, S. Takeoka, Biomaterials 2010, 31, 6269;A. Saito, H. Miyazaki, T. Fujie, S. Ohtsubo, M. Kinoshita, D. Saitoh, S. Takeoka, Acta Biomater. 2012, 8, 2932)。具体的には、本方法の実施形態は、1つの表面上で発生し、製造の間に、機械的除去と構築物の置換を必要としない。さらに、本技術の実施形態により、30日(創傷治癒に通常、必要とする時間を包含する期間)を超えて、生物活性剤が制御放出される。一部の実施形態においては、特定の抗生物質に対する抗生物質耐性菌に関する懸念が増加しているため、たとえばTC等の抗生物質よりも、日常的に微生物量の管理に対しては、広範なスペクトラムの抗菌剤(たとえば、銀)が使用できることが利点である。一部の実施形態においては、本明細書に提示される銀担持PEMは、従来的なPEMと比較して、in vitro(銀およびTCのそれぞれに対し、5.8および2.7log10CFUの細菌量減少)およびin vivo(銀およびTCのそれぞれに対し、2.4および1log10CFUの細菌量減少)の両方で、細菌のコロニー形成をより効果的に減少させる。
【0296】
本明細書に記述される技術の開発の間に行われた実験により、汚染創における、Biobrane(登録商標)被覆材の下の抗菌性銀ナノフィルムの有効性が示された。実験において、Biobraneは、患者に創傷感染が高率発生する生合成被覆材の例として使用した(K. Nichols, Z. Moaveni, A. Alkadhi, W. Mcewan, ANZ J. Surg. 2009, 79, A7)。Bionraneは高感染率の一次被覆材の例示であり、回収されたデータから、銀ナノフィルムを用いた創傷治療は概して、たとえば、シリコンフィルム、コラーゲン足場、ハイドロゲルシート、ハイドロファイバー、および親水コロイド等の、広範な湿潤創傷被覆材を組み合わせて、微生物量を管理するのに有用であることが示されている。本技術から、これらの一次創傷被覆材と銀ナノフィルムを組み合わせた用途が企図され、それにより、汚染創の微生物量を減少し、たとえば、汚染創の微生物コロニー形成を減少することにより、非修飾創傷と比較して、創傷閉鎖が早まる。
【0297】
実験
下の実施例は、本発明をさらに例証するのに役立ち、本明細書にクレームする化合物、組成物、物品、デバイス、及び/又は方法の作製及び評価方法の全開示及び説明を当業者に提供するのに役立ち、但し、本発明の範囲を限定することは意図しない。実施例は、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【実施例】
【0298】
〔実施例1〕
表面へのタンパク質の共有結合固定化
タンパク質をモデル表面に共有結合で固定化することができることを実証するために、モデル系におけるタンパク質としてウシ血清アルブミン(BSA)を用いた。ウシ血清アルブミンをビオチン化し(BSAを対照として使用し)、均質二官能性二官能性架橋剤BS3を用いて(1mM、15分間)、ガンマ-アミノプロピルシラン(GAPS)処理ガラス表面に共有結合させた。BS3は、8炭素スペーサーアーム(spacer arm)の各末端にアミン-反応性N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)エステルを含有する。NHSエステルをpH7~9で第1級アミンと反応させて安定アミド結合を形成し、併せてN-ヒドロキシスルホスクシンイミド脱離基を放出する。検出目的のために、ビオチン化BSAをFITC標識抗ビオチン抗体で標識し、BSA対照をFITC抗ヤギ抗体を用いて精査した。
【0299】
図3に見る通り、対照(垂直線模様、対角線模様、煉瓦模様)と比較して、ビオチン化BSA及びFITC抗ビオチン抗体(ダイヤモンド模様)で処理した表面からの蛍光信号が大きいことは、ビオチン化BSAが表面に共有結合していることを確認する。
【0300】
〔実施例2〕
ex vivo創傷床における高分子電解質の多層堆積
マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を実施した。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取した。切除した創傷を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)及びFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)で逐次的に処理した。吸着のステップとステップの間に、創傷をPBSですすいで処理した。FITC-PAHによる各処理の後、蛍光強度を記録した。
図4に見る通り、PSS及びFITC-PAHによる各処理サイクルの後に蛍光が増加することは、対照の処理の場合よりも、創傷床上に多層高分子電解質フィルムが成長したことを実証する。
【0301】
〔実施例3〕
ex vivo創傷床におけるメゾスコピック架橋剤の使用
外科用皮膚パンチを用いて、糖尿病マウスに皮膚創傷を縦に並べて作製する。創傷を作製した後、その創傷の1つを、表面がカルボン酸基末端の直径10マイクロメーターの活性化ポリスチレンビーズに接触させて処理する。カルボン酸基の活性化を、リン酸緩衝食塩水(PBS)(10mMリン酸塩、120mM NaCl、2.7mM KCl;pH7.6)のEDC/NHS溶液(200mM/50mM)中、室温で1時間のインキュベーションによって、行う。活性化に続いて、ビーズを創傷ビーズへピペットで入れ、創傷床内で1時間インキュベートした。インキュベーションの後、創傷床をPBSで充分洗浄し、次いで、コラーゲン(PBS中10マイクロモル)でインキュベートした。残りの創傷を対照として用い、上述の通り処理し、但し、ビーズをNHS/EDCで活性化することはしない。創傷のサイズを2、4、6、8、及び10日後に測定する。処理した創傷は、対照の創傷よりも速くサイズが減少することが観察される。
【0302】
〔実施例4〕
エアロゾルスプレー剤を用いた創傷修飾剤の送達
マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を、エアロゾルスプレー剤を用いて実施する。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取する。切除した創傷を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)又はFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)のスプレーによって(エアロゾルスプレー缶を用いて)逐次的に処理する。スプレーのステップとステップの間に、創傷をPBSですすいで処理する。FITC-PAHによる各処理の後、蛍光強度を記録する。PSS及びFITC-PAHによる各処理サイクルの後に蛍光が増加することを測定することは、対照の処理の場合よりも、創傷床上に多層高分子電解質フィルムが成長することを実証する。
【0303】
〔実施例5〕
ポンプを用いた創傷修飾剤の送達
マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を、ポンプを用いて創傷治癒剤を創傷床に逐次的に送達することによって、実施する。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取する。蠕動ポンプ(Fischer Scientific)を用いて液体をポンプする。切除した創傷を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)又はFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)のポンピングによって逐次的に処理する。高分子電解質を含むポンピングのステップとステップの間に、ポンプを用いて創傷をPBSですすいで処理する。FITC-PAHによる各処理の後、蛍光強度を記録する。PSS及びFITC-PAHによる各処理サイクルの後に蛍光の増加が測定されることは、対照の処理の場合よりも、創傷床上に多層高分子電解質フィルムが成長することを実証する。
【0304】
〔実施例6〕
スタンプを用いた創傷修飾剤の送達
マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を、エラストマースタンプから創傷床へ高分子電解質をスタンピングすることによって実施する。エラストマースタンプを、Dow-Corningから購入したキットのパートA及びBを用いてPDMSから調製する。スタンプを100℃で12時間オーブン中で硬化した後、PDMSスタンプの表面を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)又はFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)でインキュベートする。高分子電解質を含むインキュベーションのステップとステップの間に、PDMSスタンプをPBSですすぐ。PSSとPAHを10層ずつスタンプの上に堆積させた後、安楽死させたマウスから採集した皮膚創傷にスタンプを機械的に接触させた。スタンプを創傷床から取り外した後、創傷床の蛍光強度を記録する。対照の処理(高分子電解質のないPBSをスタンプとともにインキュベート)との比較による蛍光の測定は、創傷床への創傷修飾剤の堆積を確認する。
【0305】
〔実施例7〕
インクジェット技術を用いた、表面への創傷修飾剤の送達
インクジェット技術を用いて創傷修飾剤を表面に送達することができることを実証するために、FITC標識コラーゲンの水溶液(PBS中)を、均質二官能性二官能性架橋剤BS3(1mM、15分間)を用いて活性化したガンマ-アミノプロピルシラン(GAPS)処理ガラス表面上にインクジェットプリントする。BS3は、8炭素スペーサーアームの各末端にアミン-反応性N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)エステルを含有する。NHSエステルをpH7~9で第1級アミンと反応させて安定アミド結合を形成し、併せてN-ヒドロキシスルホスクシンイミド脱離基を放出する。表面をPBSで充分洗浄する。表面の蛍光強度は、FITC標識コラーゲンのインクジェットプリンティングの前に活性化表面をBSA(PBS中1mg/ml、2時間)に予め曝した対照実験に比較した場合の、表面へのFITC標識コラーゲンの結合を示す測定値である。
【0306】
〔実施例8〕
エアブラシを用いた、創傷修飾剤の送達
マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を、エアブラシを用いて実施する。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取する。切除した創傷を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)又はFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)のエアブラシングによって逐次的に処理する。エアブラシは、水性高分子電解質溶液をエアブラシに注ぐことによって準備する。ブラシングのステップとステップの間に、創傷をPBSですすぐ。FITC-PAHによる各処理の後、蛍光強度を記録する。PSS及びFITC-PAHによる各処理サイクルの後に蛍光の増加が測定されることは、高分子電解質のないPBS溶液を表面にエアブラシングする対照の処理の場合よりも、創傷床上に多層高分子電解質フィルムが成長することを実証する。
【0307】
〔実施例9〕
創傷床の組織分布を修飾する方法
外科用皮膚パンチを用いて、糖尿病マウスに皮膚創傷を縦に並べて作製する。創傷を作製した後、その創傷の1つを、表面がカルボン酸基末端の直径100ナノメーターと1マイクロメーターの活性化ポリスチレンビーズの、1:1比の混合物に接触させて処理する。カルボン酸基の活性化を、リン酸緩衝食塩水(PBS)(10mMリン酸塩、120mM NaCl、2.7mM KCl;pH7.6)のEDC/NHS溶液(200mM/50mM)中、室温で1時間のインキュベーションによって、行う。活性化に続いて、ビーズの混合物を創傷ビーズへピペットで入れ、創傷床内で1時間インキュベートする。インキュベーションの後、創傷床をPBSで充分洗浄し、次いで、アルブミン(PBS中10マイクロモル)でインキュベートした。残りの創傷を対照として用い、上述の通り処理し、但し、ビーズをNHS/EDCで活性化することはしない。創傷のサイズを2、4、6、8、及び10日後に測定する。処理した創傷は、対照の創傷よりも速くサイズが減少することが観察される。
【0308】
〔実施例10〕
高分子電解質及び共有結合性架橋剤の組合せを用いた、創傷床の共有結合修飾方法
外科用皮膚パンチを用いて、糖尿病マウスに皮膚創傷を縦に並べて作製する。創傷を作製した後、その創傷の1つを、表面がカルボン酸基末端の直径1マイクロメーターの活性化ポリスチレンビーズに接触させて処理する。カルボン酸基の活性化を、リン酸緩衝食塩水(PBS)(10mMリン酸塩、120mM NaCl、2.7mM KCl;pH7.6)のEDC/NHS溶液(200mM/50mM)中、室温で1時間のインキュベーションによって、行う。活性化に続いて、ビーズを創傷床へピペットで入れ、創傷床内で1時間インキュベートする。インキュベーションの後、創傷床をPBSで充分洗浄し、次いで、PAHでインキュベートし、次いで、再度PBS中で洗浄した。PAHの後、創傷床を、PSS及びFITC標識PAHで逐次的に処理する(上述の通り)。吸着の各ステップとステップとの間に、創傷床をPBSですすぐ。各FITC-PAH吸着ステップ後の創傷床の蛍光測定で、創傷床へのPSSとPAHの固定化を確認する。
【0309】
〔実施例11〕
創傷床の機械的コンプライアンスを変更する方法
創傷床の機械的コンプライアンスを、創傷床に高分子電解質を堆積させ、高分子電解質フィルムを架橋することによって変更する。マウスからの創傷床移植片に高分子電解質を堆積させる実験を、実施する。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取する。切除した創傷を、ポリスチレンスルホネート(PSS、1mg/ml)及びFITC標識ポリアリルアミン塩酸塩(FITC-PAH、1mg/ml)を含有する水溶液(0.5M NaCl、pH7.0のPBS)で逐次的に処理する。吸着のステップとステップとの間に、創傷をPBSで処理し、すすぐ。高分子電解質での処理の後、BS3(PBS中1mM)を創傷床に加え、1時間インキュベートする。スパチュラの先端で突くと、創傷床の硬さは、最終架橋ステップなしに高分子電解質で処理した創傷床よりも顕著に大きい。硬さの増加(コンプライアンスの減少)を原子間力顕微鏡によって確認する。
【0310】
〔実施例12〕
創傷床の内因性コンプライアンスを変更する方法
創傷床の機械的コンプライアンスを、細胞外マトリックスの成分を分解することができる酵素(複数含む)を制御して適用することによって変更する。安楽死させたマウスから皮膚創傷を採取する。濃度10μMのコラゲナーゼを創傷に適用し、室温で0分~1時間の範囲の時間インキュベートする。次いで、創傷床をPBSで充分すすぐ。創傷床のWet Field原子間力顕微鏡検査で、分解酵素の適用が創傷床のコンプライアンスを時間依存的に増加させる(硬さを減少させる)ことを確認する。
【0311】
〔実施例13〕
細菌成長に対して選択毒性を示し、哺乳類細胞成長を支持する、ナノメートル単位の厚さの銀含浸ポリマーフィルム
ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)及びポリ(アクリル酸)(PAA)等の弱ポリ酸により交互に静電気的に組み立てた高分子電解質多層を調整して、組み立て後のものに銀ナノ粒子を含浸し、含浸のレベルは、銀ナノ粒子が細菌を効果的に殺菌し、なおかつ、測定可能程度の細胞毒性なしにフィルムへの哺乳類細胞の接着を可能とするレベルとした。フィルムに銀イオン(Ag+)を組み込み、それは、フィルムを銀塩(例えば、硝酸銀)のバルク溶液でインキュベートすることによって行った。本発明はいずれの特定の機構にも限定されものではなく、本発明を実践するに当り機構の理解は必ずしも要しないが、Ag+イオンが、酸性プロトンとのイオン交換によってフィルム中のPAAの遊離カルボン酸基と結合するということが企図される。結合後、フィルム中のAg+は、還元剤の水溶液を用いることによってゼロ価Agナノ粒子に還元した。高分子電解質組み立て溶液のpHを変化させることによって、組み立て後PEM中の非イオン化カルボン酸基(したがって、組み込まれた銀の量)の数を、効果的に制御した。次いで、これらナノメートル単位の厚さの銀含浸フィルムを調べ、それらと、粘着性の高いネズミ線維芽細胞系であるNIH-3T3細胞との相互作用、並びに皮膚上及び粘膜中に頻繁に生じるグラム陽性細菌である表皮ブドウ球菌との相互作用を見た。
【0312】
PEMへの銀担持量は、約24.2μg/cm
2~0.4μg/cm
2の間で異なり得た。これらのフィルムに播種したNIH-3T3細胞に対する細胞毒性は、PEM中可溶性銀の濃度と相関関係があり、
図8に示す通り、より高い銀濃度では毒性は増加した。比較的よりイオン化したPAAで調製したPEMは、取り込んだ銀の量がより少なく、細胞毒性を低くすることを例証した。さらに、イオンで強力に架橋したその構造は、
図10に示す通り、弱くイオン化されたPAAを用いて調製したPEMよりも、線維芽細胞の結合及び拡散がよくなることができた。PEMの殺菌効率は、フィルムに取りこまれた銀の量に相関関係があり(
図9)、銀を約0.4μg/cm
2しか含有しないPEMが水性アッセイで99.9999%まで殺菌をもたらした。さらに、この銀担持量PEMは、NIH-3T3細胞に測定可能な細胞毒性を示さなかった。
【0313】
〔実施例14〕
マイクロスケールビーズをもった軟質表面への移行
ポリマー多層に硬質微小球を導入すると、それが市販のヒト皮膚移植片であるGammaGraft(登録商標)の真皮層へ移行することが容易になる。PAH(PAA/PAH)
10多層を蛍光PAHで、PAH(PAA/PAH)
5(PSμ球)(PAH/PAA)
5PAH多層を蛍光PS微小球で、皮膚移植片上にスタンプした。多層の、移植片に結合した部分を、蛍光顕微鏡と画像法によってアクセス(access)した。その結果(
図12)によると、マイクロスケールビーズをもったポリマー多層は、マイクロスケールビーズをもたないポリマー多層よりも、皮膚移植片への移行が大いに良好であることを示した。
【0314】
〔実施例15〕
犠牲的ポリマー層(マイクロシート)を使ったナノスケールポリマーマトリックスの合成と使用
図13に示す通り、ポリジメチルシロキサン(PDMS)シートの上にポリマー多層ナノフィルムとしてポリマーマトリックスを組み立て;組み立て後、水溶性ポリマーポリビニルアルコール(PVA)の犠牲的ポリマー層をナノフィルムの上に(スピンコーティングによって)キャストし;マイクロシートをPDMSシートから剥がし;マイクロシートの犠牲的キャストはデバイス表面上に置いたとき水滴の中に素早く溶解し;ポリマーナノフィルムをデバイス表面上に固定化する。この方法で合成して銀ナノ粒子又はクロルヘキシジンを充填したポリマーナノフィルムを、in vitroと、in vivo創傷治癒モデルとで試験した。
【0315】
材料と方法
銀ナノ粒子をもったPEMの合成
逆帯電高分子電解質、ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)(MW 70kDa;Sigma Aldrich,St.Louis,MO)、及びポリ(アクリル酸)(PAA)(MW 60kDa;Polysciences,Warrington,PA)の高分子電解質多層(PEM)をエラストマーポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(Dow Chemical,Midland,MI)シート上、又は、プラズマ洗浄シリコンウエハ上に、他に詳細に記載する通り、「多層」堆積によって組み立てた。手短に言えば、所望の数の多層をもったPEMを、StratoSequence Robot(nanoStrata Inc,Tallahassee,FL)を用いてPDMSシート上に、PAA(pH2.5~pH7.5)及びPAH(pH7.5)の溶液(反復単位ごと0.01 M)それぞれでの10分の逐次的インキュベーションによって組み立てた。PDMSの上にPEMを形成することを、PAHの吸着によって始めた。PDMSシートを、各高分子電解質溶液に浸漬した後、DI水で3回、1分間ずつすすいだ。組み立て後、PEMを60℃で1時間真空乾燥した。組み立てた二層の数(n)は、(PAH/PAA)nで表す。蛍光標識したPEMをフルオレセイン-5-イソチオチアネート(FITC)(Ext/Em-492/518)標識したPAHを用いて組み立てた。PEMはナノメートル単位の厚さ(10~200nm)であった。その多孔性超分子構造は、それに、組み立て後又は組み立て中に一連の生物活性剤を含浸させることを可能とする。
【0316】
PEM内への銀ナノ粒子の合成を、PDMS上に予備組み立てしたPEMをAgNO3(10mM)の水溶液中で1時間インキュベートすることによって開始し、続いて水中ですすいだ。銀イオン(Ag+)はPEM中に拡散し、PAAのカルボキシルプロトンと交換する。次いでその後、PEM内のカルボキシレート結合銀イオン(Ag+)を還元し、PEMをNaBH4(2mM)水溶液(pH7.0)中10分間インキュベートして再度水で洗浄することによって、Ag(0)ナノ粒子を形成した。AgNPを形成することに加えて、この還元条件は、PEM内にカルボン酸基を再生する。したがって、追加的なAg+をPEMに充填することができた。この、PEM内銀イオン交換及び還元方法を繰り返して、所望の銀担持量のPEMを得た。PEM内銀担持量を、銀イオンをPEMから2%硝酸へ24時間抽出することによって決定した。PEMから抽出したAg+の濃度を、誘導結合型プラズマ(ICP)発光質量分析計(Perkin Elmer Optima 3000DV)を328.068nmの波長で用いた元素分析によって測定した。
【0317】
いくつかのPEMには、組み立て中、マイクロ粒子又はナノ粒子を含浸させた。負電荷で直径2μmの、深紅蛍光(Ext/Em-625/645nm)カルボキシレート修飾ポリスチレン(PS)微小球(カタログ番号F8816、Invitrogen,Carlsbad,CA)を、他に記載の通り、PEMに組み込んだ。手短に言えば、PDMSシートに堆積させ、正電荷のPAH層で終わらせたPAH(PAA/PAH)10多層を、微小球の1重量%懸濁液で2時間インキュベートし、次いで、水で3回洗浄した。引き続き、別の(PAH/PSS)2多層一式を微小球(PSS=ポリ(スチレンスルホネート)、MW 70kDa、Sigma)上に堆積させた。これに続けて、正電荷で直径20nmの、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)被覆した銀ナノ粒子(NanoAmorInc,Houston,TX)22~24の層を堆積させた。手短に言えば、水溶液中ナノ粒子の0.2重量%懸濁液を、希釈硝酸を用いてpH2.0に調整し、均質的懸濁液とするために数回、30分間超音波処理及びボルテックスした。次いで、懸濁液を、負電荷のPSSで終わらせたPEMの上で2分間インキュベートし、次いで、水で3回すすいだ。PEM中銀担持量を増やすために、PSS(PAH/PSS)2多層の別の一式を銀ナノ粒子の第1の層上に堆積させ、続いて、銀ナノ粒子の第2の層を堆積させた。最後に、PEMを一式の(PAA/PAA)2多層で完成させた。
【0318】
PEMの最終構造を、PAH(PAA/PAH)10(PS-微小球)(PAH/PSS)2(Ag-NP)PSS(PAH/PSS)2(Ag-NP)(PAA/PAH)2で表した。
【0319】
クロルヘキシジンをもったPEMの合成
PAA(MW 60kDa)をPolysciences(Warrington,PA)から入手した。PAH(MW 70kDa)、クロルヘキシジンジアセテート(CX)(MW 625Da)、及び他の全ての試薬をSigmaAldrich(St.Louis,MO)から入手した。所望の数の多層をもったPEMをポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)シート上又はプラズマ洗浄シリコンウエハ上に、StratoSequence Robot(nanoStrata Inc,Tallahassee,FL)を用い、PAA及びPAH(反復単位ごとに0.01M)並びに/又はクロルヘキシジンジアセテート(0.1mM)の溶液で10分間ずつ逐次的にインキュベートすることによって、組み立てた。高分子電解質溶液を、1M HCL又は1M NaOHのいずれかを用いて所望のpHに調整した;例えば、PAH(pH7.5に調整)、PAA(pH5.5に調整)、及びCX(pH約8.0)。PDMS上へのPEMの形成を、PAHの吸着によって開始した。スタンプを、各高分子電解質溶液に浸漬させた後、DI水で3回、各1分間すすいだ。組み立て後、PEMを60℃で1時間真空乾燥した。
【0320】
CXをもったPEMを種々の構造、例えば、CXとPAAの連続的堆積をもった(PAH/PAA)5(CX/PAA)n構造や、交互に重なるPAH及びPAA二層の層間にカチオン性クロルヘキシジン分子を組み込んだ(PAH/PAA/CX/PAA)n)の「四層」構造、で組み立てた。
【0321】
フルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC)(Ext/Em-488/510)(カタログ番号F1906,Invitrogen,Carlsbad,CA)で標識したPAHを用いて蛍光フィルムを調製した。深紅蛍光(Ext/Em-625/645)FluoSpheres(登録商標)カルボキシレート修飾ポリスチレン(PS)微小球、直径2μm(カタログ番号F8816,Invitrogen)、又は非蛍光カルボキシルラテックス微小球、直径2μm(カタログ番号C37274,Invitrogen)、を用いて、微小球を含有するPEMを調製した。微小球をエッペンドルフチューブ中DI水で3回、9000gで5分間遠心することによって洗浄し、使用の前に、新しいDI水中、超音波処理及びボルテックスによって再懸濁した。PEM上に微小球の単層を堆積させるために、カチオン性PAH層で終わるPAH/PAA多層を、負電荷の微小球の懸濁液で2時間インキュベートし、次いで、水で3回洗浄した。高分子電解質の追加的な層を微小球の上に続けて組み立てた。
【0322】
PEMから溶液中クロルヘキシジンの放出特性を決定するために、PEMを含有する基材を直径2cmの断片に切り分け、12ウェル(非組織培養処理済み)のポリスチレンプレート中PBS緩衝液(pH7.4)2mLでインキュベートした。定義した時点で、溶液全体をプレートのウェルから収集し、新しい緩衝液で置換した。試料を、特徴が出るまで4℃で保管した。溶出溶液中クロルヘキシジン濃度のμg/mLでの生データに合計溶出体積を乗じ、基材の表面積で正規化して、単位表面積(μg/cm2)当りの薬物放出として記録した。水溶液中クロルヘキシジンの濃度を、UV-Vis分光光度計(Beckman Coulter,Fullerton,CA)により、波長255nmでUV吸光度を測定することによって定量化した。溶液中CX濃度の新しい標準校正曲線を各実験用に作成し、ここで、0.1μg/mL CXを最低標準濃度として用いた。
【0323】
PEMと犠牲的ポリマー層をもったマイクロシート
PEMをもったマイクロシートを組み立てるために、非有毒性ポリマー-ポリビニルアルコール(PVA)(Mw=22kDa)の水溶性犠牲的フィルムをPEM上に堆積させた。手短に言えば、PVA溶液(2.5重量%~25重量%)を10秒間スピンコーティングした(2000rpm;加速=27)。PEM/PVAマイクロシートを70℃で5~10分間オーブン乾燥した。ベーキングの後、PEM及びPVAフィルムをもったPVA/PEMマイクロシートを、担体PDMSシートからピンセットを用いて剥がした。自立したマイクロシートは機械的に堅固で、二次的デバイス又は組織表面上に要領よく配置できた。水溶性キャストは素早く、水溶液、又はデバイス表面上の水分、又は湿潤創傷組織に溶解し、ポリマーナノフィルムを溶液中で浮いたままかデバイス/組織表面に結合したままとした。
【0324】
in vitro抗菌アッセイ
黄色ブドウ球菌亜種aureus ATCC25923の菌株を米国菌培養収集所(American Type Culture Collection)(Manassas,VA)より入手した。細菌は、UV-vis質量分析計(Beckman Coulter,Fullerton,CA)で測定した光学密度(600nm)から測定して約4×109CFU/mLの細胞密度に到達するまで、Tryptic Soy Broth中、酵母エキス(BD,Franklin Lakes,NJ)で一夜37℃にて振盪しながら(200rpm)増殖させた。細菌懸濁液を2700rpmで10分間遠心分離し、ペレットを洗浄し、PBS中再懸濁した。抗菌性アッセイで、試験基材を96ウェルプレートのウェルに入れ、107CFUの黄色ブドウ球菌を含有する100μLのHBSS(ハンクス緩衝塩類溶液)(pH7.4)でインキュベートした。プレートを37℃で24時間振盪(200rpm)しながらインキュベートした。インキュベーションの後、各ウェルの流体を収集し、ウェルを200μLの氷冷PBSで2回すすぎ、各ウェルからの流体と洗浄液をプールし、PBS中1mLになるようにした。PBS中段階希釈の溶液をTrypticase Soy Blood Agar(#221261,BD,Franklin Lakes,NJ)プレート上に広げ、37℃でインキュベートした。生存細菌コロニーを、24時間のインキュベーションの後、寒天プレート上でカウントした。全てのアッセイを少なくとも3つの異なる日に実施し、各実験において各試験試料で3~6つの反復実験を行った。
【0325】
マウスの切除創傷の創傷治癒
全ての実験プロトコールは、ウィスコンシン大学マディソン校の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC))によって承認を受けた。表現型が正常な8~12週齢のオスのマウス(Leprdbに対してヘテロ接合,Jackson Laboratories,Inc.)を用いた。マウスを、試験の前一週間の気候順化期間中、集団で収容し、その後別々に収容した。試験期間中を通して、マウスは、標準的な明暗サイクルで温度制御設備中に維持した。全てのマウスに、環境富化と、自由に取れる食物及び水を与えた。マウスは、外科的処置の日、対照又は実験の群に無作為に割り当てた。創傷をつけるため、マウスに、誘発チャンバーを用いてイソフルランを吸入させて投与し、麻酔をかけた。マウスは、疼痛管理のためにブプレノルフィン(0.1mg/kg)を皮下注射し、頭蓋胸背領域を剃って、外科的処置のために無菌的に準備した。創傷に副子をして、創傷拘縮を防ぎ、上皮化によって創傷閉鎖を促進するようにした。シリコーンOリング(McMaster-Carr(登録商標)、内径11mm、外径15mm)を、背側正中線の各側で耳の付け根から尾側に4mmのところの皮膚に適用し、組織接着剤(Tissumend II)及び5-0断続ナイロン縫合6針で固定した。創傷がOリングで区分された皮膚の中央にくるようにした。6mmの生検パンチを用いて2つの対称的な創傷を作り出した。次いで、各創傷を、UV光で30分間滅菌した8mmディスク状試験被覆材(例えば、Biobrane(商標))で覆った。無菌の非接着性詰め物をBiobraneの上に置き、構築物全体をTegaderm(商標)で覆い、組織接着剤で固定した。マウスを加温パッドの上で麻酔から回復させた。術後1日目と、その後試験の終了まで2~3日ごとに、創傷をデジタルカメラで写真に取り、マウスの体重を記録した。試験が終わると、マウスは、麻酔導入後、Beuthanasia(登録商標)-D(Schering-Plough)溶液(0.5ml/マウス)の腹腔内注射によって殺した。
【0326】
試験期間中、副子と縫合を毎日モニターした。副子と皮膚の接触が失われているところがあれば、接着剤で修復した。縫合が切れたり無くなったりしていた場合は、上述の通り麻酔の下で交換し、疼痛管理のために一用量のブプレノルフィンを皮下投与した(0.1mg/kg)。24時間以内に2つ以上の縫合が切れたり無くなったりしていた場合は、創傷を分析からはずした。写真中の創傷をデジタル方式でトレースし、NIH ImageJソフトウェアを用いて面積を計算した。創傷閉鎖を、時点ごとに、元の創傷面積のパーセンテージとして計算した。
【0327】
微生物負荷試験のために、10μLのPBS中106CFUの黄色ブドウ球菌の細菌懸濁液を創傷に局所的に適用し、創傷被覆材(例えば、Biobrane)の適用前に15分間吸収させた。試験の終了時に、全てのマウスを安楽死させ、Biobraneの結合した創傷は、6mm生検パンチで無菌的に切除した。創傷とBiobraneは、1mLのPBS中で15分間ホモジナイズした。ホモジネートをPBS中段階希釈して、血液寒天上に薄くかぶせた。細菌定量化を創傷ごとに実施し、創傷表面積cm2当りのCFUとして記録した。創傷が細菌コロニーを生じなかった場合、統計的解析を目的として、cm2当り1.0CFUの値を創傷に割り当てた。各マウスの2つの創傷に対する細菌カウントから平均を取り、後者を各実験群において統計的解析に用いた。統計的解析は、SigmaPlot(登録商標)ソフトウェア(Systat Software,Inc.)を用いて実施した。全ての正規分布データをスチューデントt検定によって解析した。全ての非正規化分布データをマンホイットニーU検定によって解析した。有意性をp<0.05で設定した。
【0328】
結果
犠牲的支持層をもったマイクロシートとしてポリマーナノフィルムの合成は効率的であり、優れた生物活性をもったナノシートを生成した。
図15は、PVAの犠牲的水溶性キャストと、銀ナノ粒子を含有するPEMでできたナノフィルムとからなるマイクロシートの画像を提供する。パネルAは、ガラス皿に置いたマイクロシート(1”×1”)の画像を提供する。パネルBは、マイクロシートの犠牲的キャストが溶液中に溶解した後の、水表面に浮かぶポリマーナノフィルムマトリックス(1”×1”)の画像を提供する。
【0329】
ポリマーナノフィルムからの生物活性剤の徐放をin vitroでアッセイした。
図18は、11±2.1ug/cm
2の銀ナノ粒子を含有する、PAH及びPAAのPEMとして組み立てたポリマーナノフィルムからPBS中への銀イオンの徐放を例証する。
図19は、クロルヘキシジンアセテート分子を含有するPEMとして組み立てたポリマーナノフィルムからPBSへのクロルヘキシジン(CX)の徐放を例証する。
【0330】
生物活性ポリマーナノフィルムの使用を、マウス創傷モデルで、in vivoで評価した。
図20は、マウスの切除創傷にマイクロシートを銀マイクロフィルム創傷被覆材として適用したところの画像を提供する。(A)マウスのわき腹に副子固定した直径6mmの全層創傷(B)銀含浸したマイクロフィルム創傷被覆材による創傷の被覆。犠牲的キャストを湿潤創傷に溶解させ、銀ナノフィルムポリマーマトリックスを創傷表面に固定化した。
図21は、銀ナノ粒子を含有する銀マイクロフィルム創傷被覆材であるマイクロシートを用いたことによって、外科的処置後3日目にマウスの切除創傷の細菌コロニー形成が減少したことを示すデータを提供する。全ての創傷に0日目に黄色ブドウ球菌を接種し、Integra(商標)二層創傷被覆材で覆うか、Integra(商標)被覆材とともに銀マイクロフィルム創傷被覆材(マイクロシート)で覆った。生物活性ポリマーナノフィルムは、in vivoで創傷閉鎖を促進した。
【0331】
図22は、銀マイクロフィルム創傷被覆材(マイクロシート)が感染を予防し、マウスの汚染創の閉鎖を促進することを例証するデータを提供する。創傷に黄色ブドウ球菌を接種し、1グループ(
図22A参照)の生合成被覆材(Biobrane(商標))で覆うか、創傷にBiobrane(商標)を置く前に銀マイクロフィルム創傷被覆材(マイクロシート)で覆った(
図22B参照)。
図22A及び
図22Bは、外科的処置後9日目の群A及び群Bの創傷の代表的画像を示す。
図22Cにおいてプロットは、Biobrane被覆材のみか、銀マイクロフィルム創傷被覆材及びBiobraneか、どちらかで処理したマウス創傷における、外科的処置後9日目の創傷の面積(元の創傷サイズのパーセンテージとして)を示す(n=10マウス/群;p<0.05)。
図22Dにおいてプロットは、外科的処置後9日目に2群のマウスから採集した創傷生検材料中の黄色ブドウ球菌の微生物負荷量(平均±SEM)を示す。創傷の微生物コロニー形成は、銀マイクロフィルム被覆材で処理した群においてはかなり少なかった(n=10マウス/群;p<0.05;マンホイットニーU検定)。
図22Eにおいてプロットは、外科的処置後9日目の創傷閉鎖パーセンテージ(平均±SEM)(元の創傷サイズのパーセンテージとして)を示す。要約すれば、これらのデータは、銀マイクロフィルム被覆材で処理した群において、創傷閉鎖がかなり良好(速い)で、感染がかなり低いということを示した(n=10マウス/群;p<0.05;マンホイットニーU検定)。
【0332】
マイクロシートを用いて医療デバイスに医療表面を修飾することも、
図23に示す通り、評価した。
図24は、Integra(商標)二層創傷被覆材の湿潤コラーゲンマトリックスの表面にポリマーナノフィルムをマイクロシートによって固定化することを示す。(A)Integra(商標)創傷被覆材のコラーゲンマトリックスの表面の顕微鏡像。(B)マイクロシートの犠牲的キャストの溶解後、Integra(商標)創傷被覆材のコラーゲンマトリックス上に固定化した蛍光ポリマーナノフィルムの顕微鏡像。スケールバー=200um。
図25は、Integra創傷被覆材の湿潤コラーゲンマトリックスに、微小球を含有するポリマーナノフィルムをマイクロシートによって固定化したところを示す。(A)2μmサイズの蛍光微小球を含有するポリマーナノフィルムをもったマイクロシートをエラストマーシート上に組み立てたものの顕微鏡像。(B)マイクロシートの犠牲的キャストの溶解後、Integra被覆材の湿潤コラーゲンマトリックス上に固定化したポリマーナノフィルム(蛍光微小球をもつ)の顕微鏡像。スケールバー=20um。
【0333】
創傷被覆材等の医療デバイスを生物活性ナノスケールポリマー層で修飾することは、修飾したデバイスの使用後に細菌コロニー形成の低減を可能とする。
図26は、PVAの水溶性犠牲的キャストをもったマイクロシートを用いて銀ナノフィルム(AgNP)によって修飾したIntegra(商標)二層創傷被覆材表面上にインキュベートした溶液における細菌コロニー形成の減少を示す。試験被覆材上の溶液には、繰り返し24時間ごとに10
7CFU/mlの黄色ブドウ球菌を接種した。同様に、
図26は、銀ナノ粒子(AgNP)を含有する銀マイクロシートでコラーゲンマトリックス表面を修飾したIntegra(商標)二層創傷被覆材により、外科的処置後3日目にマウスの切除創傷の細菌コロニー形成が減少したことを示す。全ての創傷に0日目に黄色ブドウ球菌を接種し、Integra(商標)創傷被覆材か、銀マイクロシートで修飾したIntegra(商標)被覆材表面か、どちらかで覆った。
【0334】
〔実施例16〕
スプレーコーティングによるナノスケールポリマーマトリックスの組み立て
いくつかの例では、PAAとPAHのPEMを、多腕スプレーロボットを用いて高分子電解質をスプレーコーティングすることにより、PDMSシート、ガラス基材、及びシリコンウエハ上に組み立てた。自動化SPALAS(商標)(Spray Assisted Layer-by-layer Assembly)コーティングシステムを用いた。
【0335】
高分子電解質溶液、すすぎ水、及びエアーを4つの異なるスプレーノズルを通して基材に送った。この方法で、6”×10”までの基材をPEMで被覆した。PDMSシート上のPEM組み立てを、PAHをまずスプレーすることによって開始した。その後、負電荷の高分子電解質溶液(PAA)及び正電荷の高分子電解質溶液(PAH)を、水によるすすぎと乾燥の間欠的サイクルの選択的なサイクルでスプレーした。一例では、(PAH/PAA)20二層をもったPEMを組み立てた。続いてPEMに銀イオンを含浸させ、続いて後者は生体内原位置で銀ナノ粒子に還元した。PEM中の銀担持量を誘導結合型プラズマ発光分光法を用いて特徴付けると、1μg/cm2~21μg/cm2の範囲であった。シリコンウエハ上にスプレーコーティングで組み立て、エリプソメトリーを用いて特徴付けした(PAH/PAA)20ナノフィルムの厚さは、100~200nmの範囲であった。
【0336】
〔実施例17〕
マイクロシートの機械的強度
図27は、周波数0.1HzのDynamic Strain Sweep試験における25℃の銀マイクロシートの機械的強度を、Dynamic Mechanical Analyzer(DMA)でFilm及びFiberツールを用いて測定して示す、応力・歪曲線を提供する。ヤング貯蔵弾性率(E’)は約10
9Paで、損失弾性率(E”)は約10
8Paであった。マイクロシートは、銀ナノ粒子を含浸させた(PAH/PAA)
20のナノフィルム(PEM)上にPVAがキャストされたものでできていた。幅3mmの矩形マイクロシート細片をこの引張り試験に用いた。マイクロシートを試料の長さが10mmとなるように引張りクランプでクランプした。
【0337】
〔実施例18〕
銀ナノ粒子をもったポリマー多層ナノフィルムは汚染創における微生物負荷を減少させる
A.要約
本明細書に提供する技術の具体的な実施形態の開発の間に、抗菌剤を含むポリマー多層ナノフィルムは、自立型複合マイクロフィルム送達構築物の使用を通して創傷床に固定化した場合、創傷床内に抗菌剤の持続的で密接な接触をもたらす、ということを示すデータを収集した。この方法は、従来の被覆材においてよりも大幅に低い抗菌充填で治療的活性を提供した(そうして、組織毒性と治療コストの可能性を下げる)。具体的には、ナノメートル単位の厚さの高分子電解質多層(PEM)を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)シート上への浸漬コーティングによるポリ(アリルアミン塩酸塩)及びポリ(アクリル酸)の連続堆積によって、組み立てた。組み立て後、ナノフィルムに銀イオンを含浸させ、後者は続いて銀ナノ粒子に生体内原位置で還元される。いくつかの実施形態では、ポリ(ビニルアルコール)PVAの溶解可能キャストをPEM上にスピンコーティングして、PEM/PVA複合物を作り出し、これをその下の担体から剥がして、取扱いの容易なマイクロフィルムを作り出す。
【0338】
湿潤創傷に置いた場合、複合物マイクロフィルムのPVAキャストは溶解し、PEMを創傷床上に固定化したままであった(
図28)。in vitroで、マイクロフィルムによってヒト死体皮膚真皮上に固定化したPEM(30日までの間、銀イオンを1~2μgcm
-2毎日放出)は、24時間で5log
10CFUの病原体細菌黄色ブドウ球菌を殺した。BALB/cマウスにおいて、全層副子固定創傷に10
5CFUの黄色ブドウ球菌を局所的に接種し、コラーゲン被覆材(Biobrane(登録商標))で被覆したものは、3日間銀/マイクロフィルムで処理すると、修飾していない創傷に比べて、3log
10CFUまで低い細菌負荷を示した。非汚染創では、銀/マイクロフィルムは、再上皮化による正常で完全な創傷閉鎖を可能とした。これらの結果は、銀ナノ粒子を含有し、溶解可能マイクロフィルム構築物を用いて送達されるPEMで、創傷床を修飾することは、創傷治癒を障害せず、抗菌剤の低充填を用いた一次被覆材の下、微生物コロニー形成を効果的に減少させる、ということを示す。これらの実験の詳細を下に示す。
【0339】
B.材料と方法
材料:PAH(Mw=65kDa)、水素化ホウ素ナトリウム、及びPVA(Mw=13~23kDa、98%加水分解)はSigma Aldrich(St.Louis,MO)から、硝酸銀はAlfa Aesar(WardHill,MA)から、PAA(Mw=50kDa)はPolysciences(Warrington,PA)から、入手した。蛍光試験のために、他に記載の手順(J.K.Gupta,E.Tjipto,A.N.Zelikin,F.Caruso,N.L.Abbott,Langmuir 2008,24,5534)を用いてPAHをフルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC)(励起及び発光波長はそれぞれ492nm及び518nm)(Sigma Aldrich)で標識した。磨いたシリコンウエハをSilicon Sense(Nashua,NH)より購入した。最終的にガンマ照射したヒト死体皮膚同種移植片、GammaGraft(登録商標)をPromethean LifeSciences Inc,Pittsburgh,PAより入手した。GammaGraftをつかった全ての作業を空気流フード(hood)中、無菌条件下で実施した。
【0340】
シリコンウエハ又はガラススライドの洗浄:ガラス顕微鏡スライド及びシリコンウエハを、公表されている手順(J.J.Skaife,N.L.Abbott,Chem.Mater.1999,11,612)に従って、順次、酸性ピラニア溶液(70:30(% v/v)H2SO4:H2O2)及びアルカリ性ピラニア溶液(70:30(%v/v)KOH:H2O2)中、80℃で1時間洗浄した。必要な場合、洗浄したガラススライド及びシリコンウエハをオクタデシルトリクロロシラン(OTS)(他に記載の手順を用いて;例えば、J.M.Brake,N.L.Abbott,Langmuir 2002,18,6101参照)で被覆して低エネルギー表面を生成させた。
【0341】
PEMの調製:ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)シートを、OTS官能化シリコンウエハ又はガラススライド上にSylgard 184(基剤対触媒比10:1;Dow Chemical,Midland,MI)を60℃で24時間硬化させることによって組み立てた。24時間後、PDMSがシリコンウエハ/ガラススライドから放出され、PDMSの側面のうち先にOTS被覆シリコンウエハ/ガラススライドに接触していた側にPEMを組み立てた。OTS被覆シリコンウエハを用いて、各PDMSシート上に滑らかな表面の形成を確実に行った。高分子電解質の水溶液を、多層アセンブリーを得るために1M HCl又は1M NaOHを用いて所望のpHに調整した。PEMを、nanoStrata Inc,Tallahassee,FLより市販されるロボット浸漬機械、StratoSequence IVを用いてPDMSシート上に組み立てた。PDMSシートをまずPAH溶液(0.01M)に10分間浸漬し、続いて脱イオン水(Millipore,18.2MΩ)で1分間ずつ3回すすいだ。次に、基材をPAA溶液(0.01M)に10分間浸漬し、続いて上述のすすぎステップを行った。所望の数の多層が堆積するまで、他に記載の通り(A.Agarwal,K.M.Guthrie,C.J.Czuprynski,M.J.Schurr,J.F.McAnulty,C.J.Murphy,N.L.Abbott,Adv.Funct.Mater.2011,21,1863)、吸着及びすすぎステップを繰り返した。組み立て後、PEMを60℃で1時間真空乾燥し、次いで周囲条件で貯蔵した。
【0342】
PEMの特徴付け:Chroma Technology Corp.(Rockingham,VT)蛍光フィルターキューブを備えたOlympus IX70倒立顕微鏡を用いて蛍光PAHから蛍光を撮像した。画像を取り込み、Metavue バージョン7.1.2.0ソフトウェアパッケージ(Molecular Devices,Toronto,Canada)を用いて解析した。Gaertner LSE偏光解析装置(λ=632.8nm、ψ=70°)を用いて、シリコンウエハ上に作成されたPEMの厚さを測定した。効果的な基材パラメーター(ns=3.85、ks=-0.02)を、シリコンウエハに対する12測定値を平均して得た。PEMの屈折率を1.55(N.a.Lockwood,K.D.Cadwell,F.Caruso,N.L.Abbott,Adv.Mater.2006,18,850)と仮定した。
【0343】
PEMへの銀ナノ粒子の充填及びPEMからの銀放出の定量化:PEM内の銀ナノ粒子(AgNPs)の合成を、PDMSに組み立て済みのPEMをAgNO3(10mM)の水溶液中1時間インキュベートすることによって開始し、続いて水中ですすいだ。過去のレポート(T.C.Wang,M.F.Rubner,R.E.Cohen,Langmuir 2002,18,3370;S.Joly,R.Kane,L.Radzilowski,T.Wang,A.Wu,R.E.Cohen,E.L.Thomas,M.F.Rubner,Langmuir 2000,16,1354)に記載の通り、Ag+イオンがPEM中に拡散し、PAAのカルボキシルプロトンと交換する。続いて、PEM内のカルボキシレート結合Ag+イオンを還元して、PEMを水性NaBH4(2mM)溶液中1分間インキュベートすること及び再度水ですすぐことによって(M.Logar,B.Jancar,D.Suvorov,R.Kostanjshek,Nanotechnology 2007,18,325601)、Ag(0)ナノ粒子を形成した。AgNPを形成することに加えて、酸性溶液条件は、PEM内にカルボン酸基を再生成する。これにより追加的Ag+がPEMに充填されることが可能となる。Ag+溶液中で、続いて還元剤溶中で、繰り返しインキュベートすることで、PEM中銀の充填を増加させることができる。
【0344】
PEMに組み込まれた銀の充填を、銀をPEM(生検パンチを用いて打ち抜き、直径6mmの円形にしたもの)から2%硝酸5mLに24時間のインキュベーションによって抽出することによって決定した。PEMから抽出したAg+の濃度を、誘導結合型プラズマ(ICP)発光質量分析計(Perkin Elmer Optima 3000DV)を用い、328.068nmの波長で、元素分析によって測定した(Z.Shi,K.G.Neoh,S.P.Zhong,L.Y.L.Yung,E.T.Kang,W.Wang,J.Biomed.Mater.Res.A.2006,76,826)。この計測器の検出限界は仕様が約0.1ppbであった。分析方法に関する詳細は他に見出だすことができる(A.Agarwal,T.L.Weis,M.J.Schurr,N.G.Faith,C.J.Czuprynski,J.F.McAnulty,C.J.Murphy,N.L.Abbott,Biomaterials 2010,31,680)。
【0345】
同様に、PEMから水溶液への銀の放出をICPによって定量化した。試料基材を15mL遠心管に別々に入れ、3mLのPBSに浸漬させ、撹拌せずにインキュベートした。基材を毎日取り出し、3mLの新しいPBSを含有する新しいバイアルに入れて、シンク条件をシミュレートし、少なくとも3つの試料を実験群ごとに調製した。ICP分析のために、各バイアルからの溶液1mLを3%硝酸2mLと化合させた。
【0346】
in vitro抗菌活性:黄色ブドウ球菌(ATCC6538)及び緑膿菌(ATCC27853)をATCC(Manassas,VA)より入手した。細菌をTryptic Soy Broth Yeast Extract(TSBYE)(BD,Franklin Lakes,NJ)中、37℃で一夜、200rpmで振盪しながら、約4×109CFU/mLの細胞密度に達するまで、成長させた。細胞密度を、UV-Vis質量分析計(Beckman Coulter,Fullerton,CA)を用いて作成した、細菌懸濁液の光学密度(600nm)に対する標準曲線から計算した。細菌懸濁液を4000rpmで10分間遠心分離し、ペレットを洗浄し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)緩衝液中に再懸濁した。抗菌アッセイのため、試験試料:1)PEMなしのGammaGraft、2)GammaGraft上銀なしのPEM、及び3)GammaGraft上銀ありのPEM、を96ウェルプレートのウェルの底に入れ、107CFUの細菌を含有するPBS緩衝液(pH7.4)100μLでインキュベートした。プレートを37℃で24~48時間振盪しながら(150rpm)インキュベートした。インキュベーション期間の後、900μLの氷冷PBSを予め入れたエッペンドルフチューブ中に各ウェルの溶液を収集し、細菌の懸濁液1mLを作った。ウェルに存在する細菌の殆どを確実に収集するよう、先に収集した希釈細菌溶液200μLで各ウェルを2回すすいだ。洗液中生存細菌細胞を、表面寒天平板塗抹法(B.Herigstad,M.Hamilton,J.Heersink,J.Microbiol.Methods 2001,44,121)によって決定した。試料の希釈溶液をPBS中に調製し、各希釈溶液試料100μlをTrypticase Soy Blood Agarプレート(#221261,BD,Franklin Lakes,NJ)上に塗抹した。37℃インキュベーター中で24時間インキュベートした後、細菌コロニーをカウントして用い、ml当りのコロニー形成単位(CFU)の平均値を計算した。全てのアッセイを少なくとも3つの異なる日に実施し、それぞれの日に各試験試料の少なくとも3つの反復実験を実施した。
【0347】
マウス全層性創傷モデルにおけるin vivo抗菌及び創傷治癒試験:全ての実験プロトコールは、ウィスコンシン大学マディソン校獣医学部の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC))によって承認を受けた。表現型が正常な8~12週齢のオスのマウス(Leprdbに対してヘテロ接合,Jackson Laboratories,Inc.)又はBALB/cマウスをこの試験で用いた。他のマウスが創傷に触れるのを防ぐために、マウスを別々の換気されたケージに収容した。全てのマウスを外科的処置の前最低1週間気候順応させた。試験期間中を通して、マウスは、標準的な明暗サイクルで温度制御設備中に維持した。全てのマウスに、環境富化と、自由に取れる食物及び水を与えた。マウスは、外科的処置の日、対照又は実験の群に無作為に割り当てた。創傷をつけるため、マウスに、誘発チャンバーを用いてイソフルランを吸入させて投与し、麻酔をかけた。マウスにブプレノルフィン(0.001mg)(疼痛管理に使用)を送達した後、肩のすぐ背後にある左右の胸部の毛を電気クリッパーを用いて取った。領域を、4%クロルヘキシジングルコン酸外科スクラブと0.9%無菌食塩水を(3回ずつ)交互に用いて拭いた。続いて、シリコーンOリング(McMaster-Carr、内径11mm、外径15mm)を、背側正中線の各側で耳の付け根から尾側に4mmのところの皮膚に適用し、組織接着剤(Tissumend II)及び5-0断続ナイロン縫合6針で固定した。直径6mmの2つの全層切除創傷を、生検パンチを用いて各マウスの背中に作り出した。創傷がOリングで区分された皮膚の中央にくるようにした。Oリング副子適用を用いて、試験期間中、創縁の拘縮を減少させた(R.D.Galiano,J.Michaels,M.Dobryansky,J.P.Levine,G.C.Gurtner,Wound Repair.Regen.2004,12,485)。創傷をつけた後、直径8mmのPEM/PVA複合物マイクロフィルム(ピンセットでつまんで)を創傷床に置いた。創傷を本文中に記載の通り、二次被覆材で被覆した。マウスを加温パッドの上で麻酔から回復させた。術後1日目と、その後試験の終了まで2~3日ごとに、創傷をデジタルカメラで写真に取り、マウスの体重を記録した。試験が終わると、マウスは、麻酔をかけた後、Beuthanasia(登録商標)-D(Schering-Plough)溶液(0.5mL/マウス)の腹腔内注射によって安楽死させた。
【0348】
創傷治癒試験のため、試験期間中、副子と縫合を毎日モニターした。先の動物試験(K.M.Guthrie,A.Agarwal,D.S.Tackes,K.W.Johnson,N.L.Abbott,C.J.Murphy,C.J.Czuprynski,P.R.Kierski,M.J.Schurr,J.F.McAnulty,Ann.Surg.2012,256,371)同様、副子と皮膚の接触が失われているところがあれば、接着剤で修復した。縫合が切れたり無くなったりしていた場合は、上述の通り麻酔の下で交換し、疼痛管理のために一用量のブプレノルフィンを皮下投与した。24時間以内に2つ以上の縫合が切れたり無くなったりしていた場合は、創傷を分析からはずした。写真中の創傷をデジタル方式でトレースし、NIH ImageJソフトウェアを用いて面積を計算した。創傷閉鎖を、時点ごとに、元の創傷面積のパーセンテージとして計算した。
【0349】
抗菌有効性の評価のために、約106CFUの黄色ブドウ球菌を含有する細菌懸濁液10μLを各創傷に接種した。細菌懸濁液を創傷に15分間接種した後、PEM/PVAマイクロフィルム(直径8mm)を外科的処理部位に適用し、8mmディスク状のBiobrane(登録商標)(UDL Labs)で覆った。PEM/PVAマイクロフィルム(銀あり及びなし)及びBiobraneを、創傷に適用する前に30分間UV光によって滅菌した。無菌の非接着性詰め物(Telfa)をBiobraneの上に置き、被覆材構築物全体をTegaderm(3M)で覆った。これらの被覆を用いて、創傷を摩擦から保護し、湿潤環境を作り出して細菌の成長を促進する。マウスを加温パッドの上で麻酔から回復させた。3日後、マウスを安楽死させた。創傷(Biobrane被覆を含む)を、6mm生検パンチで採集し、1mLの無菌PBSをもったエッペンドルフチューブに入れ、ビュレットブレンダー(bullet blender)で15分間ホモジナイズした。ホモジネート中生存細菌細胞を、in vitroアッセイのところで記載した通り、表面寒天平板塗抹法によって決定した。
【0350】
組織学的検査:術後7日目に、マイクロフィルムなしの群、銀なしマイクロフィルムありの群、及び銀ありマイクロフィルムありの群からのそれぞれ2匹、5匹、及び5匹のマウスを安楽死させた。術後14日目に、各群からのそれぞれ2匹、3匹、及び3匹のマウスを安楽死させた。病理組織学的試験のために、正常な皮膚が隣接する創傷全体を切除し、10%緩衝液ホルマリン中に固定した。試料は、表皮、真皮、及び皮下の組織を含んだ。ホルマリンに固定した切除創傷部位を加工してパラフィンに埋め込み、創傷区画をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。光学顕微鏡で、H&E区画を搭載デジタルカメラ(Olympus DP72,Melville,NY)で写真に取り、画像を画像解析ソフトウェア(CellSence Dimension 1.4,Olympus,Melville,NY)を用いて解析して、再上皮化の長さ、上皮の間隙、真皮中線維血管増殖の量、及び炎症性応答を求めた。
【0351】
統計的解析:データを、3つ以上のデータポイントに対して計算した平均値の標準誤差をエラーバーとした方法で、示す。2つの群の間の有意差をスチューデントt検定によって評価し、2つを超える群の間の有意差は、1元配置分散分析とそれに続くチューキー法によって評価した。有意性のレベルをp<0.05で設定した。
【0352】
C.結果
自立型PEM/PVAマイクロフィルムの組み立て:本明細書に記載する技術の実施形態の開発の間に、多層堆積を用い、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)シートへのPAHの層の堆積から始めて、PAH(pH7.5)及びPAA(pH2.5及び5.5)からなるPEMを組み立てた(詳細は、B項の材料と方法を参照)。下に、記号(Poly1
pH1/Poly2
pH2)
nを用いてPEMを同定し、記号中、Poly1とPoly2は使用したポリマーであり、pH1とpH2は、それらのポリマーを吸着したそれぞれの溶液条件であり、nは二層の数であり、1つの二層はPoly1の1つの吸着層とPoly2の1つの吸着層を含むかそれらからなる。ここで、いくつかの実施形態では、かかる「二層」の層をPEM中で実質的に相互混合するということが理解される。ピラニア洗浄シリコンウエハ上の(PAH
7.5/PAA
2.5及び5.5)
10.5多層(組み立て後真空乾燥)の成長を、偏光解析厚さの測定を実施することによって確認した(
図29)。
【0353】
PVAは、ハイドロゲル等、生物材料の組み立てに広く用いられる非有毒性生物分解性ポリマーである(C.R.Nuttelman,S.M.Henry,K.S.Anseth,Biomaterials 2002,23,3617;R.H.Schmedlen,K.S.Masters,J.L.West,Biomaterials 2002,23,4325)。少しでも全身的に吸収されたポリマーがあれば腎臓ろ過を通して除去されるように、MW=22kDaのPVAをこれらの試験で用いた(Y.Jiang,A.Schaedlich,E.Amado,C.Weis,E.Odermatt,K.Maeder,J.Kressler,J.Biomed.Mater.Res.B.Appl.Biomater.2010,93,275)。マイクロフィルムを組み立てるために、2.5重量%PVA溶液25~50μLを、PDMSシート(直径6~8mm)上に担持したPEM上にピペットで移し、その全表面積を湿らせた。続いて、PDMSディスクを1500rpm(ac=27)で10秒間遠心して、PEM上に厚さの均一なPVAのマイクロフィルムを堆積することを容易にする。次に、マイクロフィルム構築物をオーブン中70℃で5分間乾燥した。乾燥後、PEM/PVA複合構築物を、例えば、ピンセットを用いて、PDMS表面から剥がした。電気デジタルマイクロメーター(Marathon Watch Co.,Richmond Hill,Ontario,Canada)を用いて、PVAマイクロフィルムの厚さが20~40μmであることを測定した。最終的なPEM/PVAマイクロフィルムが、1GPaのヤング貯蔵弾性率(E’)を有することを測定した(
図27)。マイクロフィルムは充分堅固で、容易に、手やピンセット等で取り扱うことができ、創傷表面や皮膚移植片上に置くことができた。
【0354】
PDMSシートからのPEMの除去の有効性を、フルオレセイン-5-イソチオシアネート(FITC)(Ext/Em-492/518)標識PAHで組み立てた(PAH/PAA
5.5)
10.5ナノフィルムを用いて定量化した。PEM/PVAマイクロフィルムのモンタージュ蛍光顕微鏡像を、PDMS基材から剥がす前後に得た(
図30a、
図30b、及び
図30c)。蛍光顕微鏡像(4×対物レンズを用いて撮像)を、Fijiソフトウェアの中にあるプラグインであるMosaicJを用いてつなぎ合わせ、大きい面積(直径約6mm)を覆うポリマーフィルムの合成画像を作り出した。結果は、PEMの99.3±1.1%がPDMSシートから剥がれたことを実証する(Fijiソフトウェアを用いて顕微鏡像から測定し、23試料で平均を取った蛍光面積を用いて定量化した)。
【0355】
これらの結果は、再現性が高く、PEM及びPVAの複数バッチを用いて得たものである。また、裸ガラス上に組み立て、PVAで被覆したPEMは、裸ガラス基材から剥がれることがなかった。そういうものとして、いくつかの実施形態では、ガラス基材は、PEMの堆積の前にオクタデシルトリクロロシラン(OTS)で官能化する。OTS官能化ガラスを用いれば、PEM/PVAマイクロフィルムを硬質基材から剥がすことが可能であった(
図31)。理論に拘束されるものではないが(そして、本明細書に提供する技術を実践するに当たり機構の理解は要しないが)、この結果は、PEMに弱くしか結合しない低エネルギー表面をガラスのOTS処理がもたらすということに整合する(A.D.Stroock,R.S.Kane,M.Weck,S.J.Metallo,G.M.Whitesides,Langmuir 2003,19,2466;T.Fujie,N.Matsutani,M.Kinoshita,Y.Okamura,A.Saito,S.Takeoka,Adv.Funct.Mater.2009,19,2560)。
【0356】
組み立て後、PEM中PAAのカルボキシル基のプロトンと銀イオンの交換によって、PEMに銀を含浸させた。続いて、PEMにおける銀イオンを生体内原位置で還元して、銀ナノ粒子を形成した(詳細は、B項の材料と方法を参照)。各PEMにおける銀担持量を以下の制御によって目的に合わせた:(i)PEM中二層の数、(ii)弱高分子電解質PAA(pH=5.5またはpH=2.5)の組み立て溶液のpH、(iii)銀イオン交換及び還元サイクルの数。in vitro試験のために、銀イオン交換及び還元のサイクルが単一のPEMを試験し、短期間(1~4日)の銀放出プロファイルと抗菌有効性の特徴付けを行った。in vitro試験から同定した構築物に、より高量の銀担持量を含浸させ、これには、複数の銀イオン交換及び還元サイクルを用いて、ネズミ創傷に抗菌性銀の長期(10日より長期)放出を提供することによった。
図32に示す通り、(PAH/PAA)
10.5のPEM中の銀の充填は、PAA組み立て溶液のpHをpH5.5~pH2.5に変化させることによって、0.04±<0.01~2.9±0.1μgcm
-2に体系的に変化させることができた。(PAH/PAA
2.5)
5.5から作成したPEMは、中間的な銀担持量(1.3±0.01μgcm
-2)を提供した。3つの異なる銀担持量をもったPEMを更なるin vitro抗菌性試験のために選んだ。対照として0.04±<0.01μgcm
-2の充填を選び、それは、PEMは同じ処理条件の下にあったが他の2つの充填は最小の活性剤を含有しているからである、ということに留意されたい。
図33は、PEM内の銀担持量が3ヶ月の貯蔵期間中不変であると測定されたことを示す。
【0357】
また、PDMSからPEM/PVA複合物マイクロフィルムを剥がした後にPDMSシート上に残った銀の量を定量化する実験も行った(
図32の第2棒)。この試験で用いた全ての銀担持量については、PDMS上にほんの微量の銀しか残っていないと決定した(上記3つの充填についてそれぞれ<0.01、0.05±<0.01、及び0.07±<0.01μgcm
-2)。自立型PEM/PVA複合物マイクロフィルム中の銀担持量は、それぞれ0.04±<0.01、1.2±0.04、及び2.7±0.2μgcm
-2であると決定した(
図32の第3棒)。これらの結果は、PDMS担体上PEM内に存在する銀の殆ど(それぞれ、93±3%、95±4%、及び94±8%)は、自立型PEM/PVAマイクロフィルム中に保持されたということを示す。
【0358】
皮膚移植片へのPEMの移行:本明細書に記載する技術の実施形態の開発の間、中間層創傷の機械的特性及び表面組織分布をシミュレートする実験を実施し、最終的に照射したヒト死体皮膚移植片(GammaGraft(登録商標),Promethean Lifesciences)の真皮側へのPEMの移行を評価する実験を行った。この目的のために、直径6mmのPEM/PVAマイクロフィルムをPDMSシートから剥がし、湿潤皮膚真皮(直径6又は8mm)上におき、PEMが組織表面に面するようにした。自立型PEM/PVAマイクロフィルムを置く前に、PBSを用いて皮膚真皮に水分を保持させ、湿潤創傷を模造した。PEM/PVAマイクロフィルムをピンセットによってつまみ取って(PEMの側が皮膚真皮に面するように)、真皮に接触させ、これは、まず、マイクロフィルムの端を皮膚真皮に接触するように置き、次いで、マイクロフィルムをピンセットから開放してマイクロフィルムの残りが皮膚真皮に結合できるようにすることによって行った。各マイクロフィルムのPVAキャストは湿潤真皮上に10分にわたって徐々に溶解することを観察し、PEMは真皮に結合することを観察した。
【0359】
PDMS担体から皮膚真皮へのPEMの移行の効率は、蛍光顕微鏡を用いて評価した。皮膚移植片のバックグラウンド自己蛍光に対して蛍光PEMを視覚化するために、40.5多層のFITC-PAHをもったPEMを組み立てた。PEMを皮膚真皮上に移した後直ちに蛍光画像法を実施した。移行効率の定量化を、Fijiソフトウェアを用いて実施し、これは、PDMSシート(
図34a)上のPEMの投射蛍光面積と、皮膚真皮(
図34b)上に移した後のPEMのそれとを、13試料で平均を取り、比較することによった。追試により、PDMSシート上にPEMによって投射された蛍光面積の99.7±0.5%が皮膚真皮上に移行したことを確認した。実験は、異なるバッチのマイクロフィルムを用いて何日か異なる日に実施した。
【0360】
複合物マイクロフィルム内のPVAキャストの溶解率を、キャストに用いるPVA溶液にマラカイトグリーン分光色素(0.01重量%色素)を混入して用い、過剰なPBSにおいて試験した。直径8mm複合物マイクロフィルムを、3mLPBS中、マルチウェルプレートでインキュベートし、
図35に示す通り、595nm波長で溶液の吸光度を測定することによって、PBS中に放出されたマラカイトグリーンの累積濃度をいくつか異なる時点で決定した。これらの測定値から、PVAキャストの約98%がPBSとの接触後10分以内に溶解すると結論付けた。
【0361】
PVAの溶解後皮膚真皮上に固定化されたPEMの残留性を、蛍光顕微鏡を用いて評価した。PEM上に1mlのPBS(各20μL)を繰り返しピペットで移した後、蛍光PEMが皮膚真皮に結合したままであることを観察した(
図34c)。続いて、修飾した皮膚真皮を振盪機プレート上のマルチウェルプレートで過剰PBS溶液中1~3日インキュベートした。蛍光顕微鏡像(n=21)は、PEMの98.4±1.4%が皮膚真皮に結合したままであることを示した(エラー!参照元が見つかりません。
図34d)。加えて、皮膚真皮上へのPEMの結合を、Telfa被覆材(一般的に用いられる非接着被覆材)の約1mm/sでの運動によって発生させる外部垂直加圧(約8kPa)及び側方摩擦に対して試験する(
図36)。全ての処理で、PEMの蛍光面積の>95%が皮膚真皮上で無傷なままであり、皮膚真皮へのPEMの良好な結合を示した。理論に拘束されるものではないが、軟質組織へのナノフィルムの強力な結合は、PEMと組織表面の間のファンデルワールス相互作用等による強い物理的相互作用に起因する(T.Fujie,N.Matsutani,M.Kinoshita,Y.Okamura,A.Saito,S.Takeoka,Adv.Funct.Mater.2009,19,2560)。しかしながら、技術を実践するに当り機構の理解は要しない。40.5二層の(PAH/PAA
2.5)をもったPEMにはいくつかの亀裂を観察した(
図37参照)。しかしながら、10.5二層の(PAH/PAA
2.5)のみをもったPEMにはかかる亀裂を観察しなかった。しかしながら、厚いPEM中に亀裂が存在しても、複合マイクロフィルムがPEMを皮膚真皮へ効率的に移行させることを妨げなかった。
【0362】
修飾皮膚真皮からPBS中への銀イオンの放出プロファイルを
図34eに示す。上記3つのPEM構築物で修飾された真皮から24時間の間に放出された銀の量は、それぞれ0.04±<0.01、0.20±0.01、及び0.44±0.04μgcm
-2であった。続いて、次の2日間真皮が放出した銀は、それぞれ、なし、0.07±0.01、又は0.18±0.03μgcm
-2/日であった。6日間にわたり、飽和状態で、放出された銀の合計量は、それぞれ、0.04±<0.01、0.41±0.01、及び0.80±0.03μgcm
-2であった。これらの結果は、以下のことを示す:
(i)修飾真皮からの銀イオンの放出率はPEM内銀担持量による、(ii)真皮から放出される銀の合計量は、PEMが真皮へ移行する前に決定されたPEM内の合計銀担持量よりも低かった。
【0363】
複合物PEM/PVAマイクロフィルムで修飾した皮膚真皮の抗菌性活性:
本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、PEM/PVAマイクロフィルムで修飾した皮膚真皮(GammaGraft)を用いて実験を実施し、グラム陽性細菌(黄色ブドウ球菌)又はグラム陰性細菌(緑膿菌)のいずれかの懸濁液に対する抗菌活性を試験した。手短に言えば、96ウェルプレートのウェルの底に置いた真皮の生検パンチ(直径6mm)を、加湿インキュベーター中、37℃、振盪機プレート(150rpm)上、約107CFUの細菌を含有する100μLのHBSSで、インキュベートした。各実験における負の対照は、皮膚真皮なし、非修飾皮膚真皮、及び銀なしPEMで修飾した皮膚真皮、であった。懸濁液に残る生存細菌数を、プレーティングにより決定し、コロニー形成単位(CFU)として記録する。
【0364】
24時間及び48時間インキュベーション後の懸濁液中細菌数を
図38にまとめる。銀なしPEM又は0.04±<0.01μgcm
-2の銀をもったPEMによって修飾した真皮は、懸濁液中の細菌数が非修飾皮膚真皮に類似する結果であった(
図38の最初の2つの棒に示す通り)。1.3±0.01μgcm
-2の銀を含有するPEMは、24時間内と48時間内に、それぞれ3log
10と5log
10CFUの減少を生じさせた。最後に、2.9±0.1μgcm
-2の銀を含有するPEMは、インキュベーション後24時間以内に5log
10CFUを超える減少を生じさせた。この後者の銀担持量をもったPEMはまた、緑膿菌の懸濁液中細菌数に5log
10CFUの減少を媒介した。(
図39)。実験は、2.9±0.1μgcm
-2の銀を含有するPEMで修飾した真皮では、24時間以内にPBS中に0.44±0.04μgcm
-2の銀の放出しか見られない、ということを示した(
図34参照)。この銀の量(約0.4μgcm
-2)は、NIH3T3マウス線維芽細胞の正常な成長と増殖を可能としながら強力な抗菌性効果を有するには十分である(A.Agarwal,T.L.Weis,M.J.Schurr,N.G.Faith,C.J.Czuprynski,J.F.McAnulty,C.J.Murphy,N.L.Abbott,Biomaterials 2010,31,680)。
【0365】
要約すれば、上記のin vitro実験は、ヒト死体皮膚真皮の表面に結合するPEM/PVAマイクロフィルムでは、24時間及び48時間以内に充分な銀を放出して、黄色ブドウ球菌及び緑膿菌の懸濁液の細菌数に>5log10CFUの減少を生じさせる、ということを実証する。続いて、これら(PAH/PAA2.5)10.5の構築物を一連の銀担持量(例えば、銀イオン交換及び還元サイクルの反復によって達成される、より多くの充填、上記参照)で調製して、後述の通り、汚染ネズミ創傷床からの抗菌性銀の持続的放出を提供する。
【0366】
PEM/PVAマイクロフィルムを用いたマウスの切除創傷の修飾:本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、PEM/PVAマイクロフィルムを用いたマウスの切除創傷の修飾を試験する実験を行った。全てのin vivo実験を、B項の材料と方法に記載する通り、マウスの切除全層性創傷モデルで実施した。手短に言えば、先に記載した通り、そして
図40aに示す通り、創傷(直径6~8mm)を、マウスの左右わき腹に外科的に作り出し、副子をした(R.D.Galiano,J.Michaels,M.Dobryansky,J.P.Levine,G.C.Gurtner,Wound Repair.Regen.2004,12,485)。創傷に「副子」をして、収縮による創傷閉鎖を最小にし、こうして、ヒト真皮の治癒におけるように創傷閉鎖が第一に上皮化によることを可能とした(R.D.Galiano,J.Michaels,M.Dobryansky,J.P.Levine,G.C.Gurtner,Wound Repair.Regen.2004,12,485)。最初のin vivo試験は、創傷床上のPEMの移行性と残留性を決定した。
図40aに示す通り、新たに調製した外科的創傷(直径6mm)を、5分間余分な流体が浸出するようにし、次いで、PEM/PVAマイクロフィルムで被覆し、PEMが創傷床に面するようにした。手短に述べれば、複合物マイクロフィルムの端部をピンセットでしっかりとつまみ取り、一端を創傷床に接触させた。ピンセットからマイクロフィルムを開放すると、残りのフィルムが創傷床に結合した。各マイクロフィルムのPVAキャストが湿潤創傷環境に接触した後ただちに溶解を始めることを観察した。
図40bに示す通り、PEMは、複合マイクロフィルムのPVAキャストの溶解後10分以内に創傷床に共形的に結合することが見られた。
【0367】
PEM/PVAマイクロフィルムを用いた創傷床へのPEMの移行を、蛍光顕微鏡と、FITC標識したPAHを用いて組み立てたPEMとを用いて定量化した(皮膚真皮を使った上記の試験におけるように)。
図40c、
図40d、及び
図40eにおけるFITC-PEMの蛍光顕微鏡像は、術後3日目までのネズミ創傷上のPEMの移行性と残留性を示す。創傷床に最初に結合したPEMの量を定量化するために、創傷を処理後30分以内に採集し、撮像して蛍光面積(n=4)を測定した。これらの測定により、PEMによって被覆する創傷面積は、創傷への移行前のPEM/PVAマイクロフィルム面積の107±5%であった(
図40c及び
図40dに示す通り)ということが明らかとなった。この結果は、採集と試料調製の間にPEMの伸長が少し弾性組織表面上に起こり得るということを示す。しかしながら、PEMは創傷床にしっかりと結合したままである。
【0368】
一組のマウスで、蛍光PEMで修飾した副子固定創傷を3日間癒えさせ、次いで、蛍光画像法にかけるために採集した。これらのPEMの堆積の後、創傷床をプラスチック製カバースリップで被覆し、それは、カバーガラスが創傷床に触れず、創傷床に対する外的障害(マウスによる引っ掻き等)を防ぐように行った。加えて、アルミ箔をカバーガラス上に糊付けして、光に対する露出を制限した。次いで、構築物全体をTegaderm(登録商標)で被覆した。
図40eに示す通り、創傷床の約90±2%(n=4)を固定化してから3日後に蛍光PEMで被覆した。蛍光PEMの約10%は、組織表面からなくなるか離れるかしていることが見られた。理論に拘束されるものではないが、PEMは、組織表面から離れ、組織の再生とともに顕微鏡の断片として分散するということが仮定される。しかしながら、技術を実践するに当り機構の理解は要しない。
【0369】
マイクロフィルムを用いた銀/PEMで修飾した汚染創における微生物コロニー形成の減少:本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、マイクロフィルムを用いた銀/PEMで修飾した汚染創における微生物コロニー形成の減少を試験する実験を行った。マウスの副子固定創傷に、10μlのPBS中約106CFUの黄色ブドウ球菌を局所的に接種した。細菌接種に続いて、創傷をPEM/PVAマイクロフィルム(直径8mm)で処理し、次いで、生合成創傷被覆材Biobrane(登録商標)(直径8mm)で被覆した。無菌非接着詰め物(Telfa)をBiobraneの上に置き、構築物全体をTegaderm(3M)で固定した。ここで、Biobrane(登録商標)は、熱創傷の治療のために病院で広く用いられる透明生合成被覆材である、ということに留意されたい(I.S.Whitaker,S.Prowse,T.S.Potokar,Ann.Plast.Surg.2008,60,333;E.M.Lang,C.a.Eiberg,M.Brandis,G.B.Stark,Ann.Plast.Surg.2005,55,485)。それは、コラーゲンペプチドで覆われたナイロン繊維をもったシリコーン膜でできている。Biobrane(登録商標)は創傷を密封し、組織成長を促進する。Biobraneの主要な長所は、それが創傷の中に融合し、そうして痛みを伴う被覆材交換を回避するということである(R.L.Klein,B.F.Rothmann,R.Marshall,J.Pediatr.Surg.1984,19,846;M.Tavis,J.Thornto,R.Bartlett,J.Roth,E.Woodroof,Burns 1980,7,123)。しかしながら、それはまた、創傷の中に創傷周囲及び/又は内在の細菌を密封し、被覆材を適用した場合の20%までが、細菌コロニー形成と治療の失敗を引き起こす(K.Nichols,Z.Moaveni,A.Alkadhi,W.Mcewan,ANZ J.Surg.2009,79,A7)。標準治療は、Biobraneの使用前に抗菌剤の局所用溶液で創傷を治療し、創傷床へ銀を送達する銀被覆材で、Biobrane全体への拡散によってBiobraneを被覆することである。したがって、銀/PEMで修飾した創傷床がBiobraneの下で創傷における細菌コロニー形成の防止及び/又は減少をもたらしたか否かを評価する実験を行った。次の通り、n=8マウスずつの3つの群(例えば、群当り合計16創傷)を用いた:非修飾創傷、銀なしのPEMで修飾した創傷、及び銀ナノ粒子を含有するPEMで修飾した創傷。
【0370】
in vitro研究から推定して、(PAH/PAA
2.5)
10.5のPEMをマウス実験で用いた。
図41に示す通り、14日間(直径6mmの創傷の完全閉鎖にかかる平均的時間)にわたる、ネズミ創傷における抗菌性銀の長期放出を確実にするために、(PAH/PAA
2.5)
10.5の銀担持量を、銀イオン交換及び還元を3サイクル用いて16.8±0.5μgcm
-2に増加させた。銀担持量サイクルを最後の銀イオン交換で終え、これは、PEMによる銀イオン(PAAのカルボキシル基に結合)の初期バースト放出を可能とし、続いて、PEMに取り込まれた銀ナノ粒子の溶解による銀イオンの持続的放出を可能とした。これらのPEMの典型的な銀放出プロファイル(PDMSシートからPBSへの)を
図42に示す。その通り、PEMは、最初の24時間で3.1±0.1μgcm
-2の銀の初期バースト放出と、続く4日間の約1.5μgcm
-2/日の銀放出と、その後約0.4μgcm
-2/日の放出率と、をもたらした。30日間にわたる銀の累積放出を測定すると、17.2±0.6μgcm
-2であった。
【0371】
いくつかの臨床研究は、Biobraneが創傷床に融合するのに48~72時間かかるということを実証してきた(R.L.Klein,B.F.Rothmann,R.Marshall,J.Pediatr.Surg.1984,19,846;M.Tavis,J.Thornto,R.Bartlett,J.Roth,E.Woodroof,Burns 1980,7,123)。この期間中に創傷が感染すれば、それは、被覆材が創傷床に融合しない浸出物ポケットをBiobraneの下に形成する(J.E.Greenwood,J.Clausen,S.Kavanagh,Eplasty 2009,9,243)。したがって、実験を行い、PEM/PVAマイクロフィルムによる汚染創の修飾が術後最初の3日以内にBiobraneの下で黄色ブドウ球菌のコロニー形成を減少させ、その後正常な創傷閉鎖を確実に行うということを実証するデータを収集した。その目的のために、全てのマウスを術後3日目に安楽死させ、創傷をBiobraneとともに採集し、細菌定量化のためにホモジナイズした。また、創傷は、マウスを安楽死させる前0日目と3日目に撮像した。
図43は、平均1.8×10
6CFU/cm
2の黄色ブドウ球菌を術後3日目に非修飾創傷から回収したことを示す。同様に、3.1×10
5CFU/cm
2の黄色ブドウ球菌を、銀を含有しないPEMで修飾された創傷から回収した。これら2つの群における創傷の細菌負荷は有意的に異ならなかった(p>0.05)。対照的に、PEM/PVA複合マイクロフィルムを用いて銀/PEMによって修飾した創傷は、平均わずか6.1×10
3CFU/cm
2の黄色ブドウ球菌を有し、例えば、非修飾創傷に比較して、Biobrane下における創傷の細菌負荷が平均2.4log
10の低減であった。異なるバッチの銀/PEMとより大きいサイズのn=10マウス/群とで行った追試は、Biobrane下で創傷の微生物負荷が同様に減少する証拠を提供した(
図44)。全体として、これらの結果は、銀/PEMで創傷床を修飾することは、Biobrane下で汚染創の細菌コロニー形成を減少させる点において効果的であるということを示す。
【0372】
銀/PEMで修飾したマウス創傷の正常な治癒の促進:本技術の実施形態の開発の間、16.8±0.5μgcm-2の銀を含有する銀/PEM(例えば、汚染創の細菌コロニー形成を減少させる充填、上記参照)で創傷床を修飾することは、きれいに切れた外科創の正常な治癒を障害しないことを実証する実験を実施した。具体的には、再上皮化による完全な創傷閉鎖まで創傷治癒をモニターする実験を行った(全試験群で14日以内に観察した)。これらの実験には、マウスを3つの群に分けた:非修飾創傷(n=4マウス)の対照群、銀なしのPEMによって修飾した創傷をもった別の対照群(n=8マウス)、及び銀/PEMで修飾した創傷をもった試験群(n=8マウス)。創傷を、副子上に置いたプラスチック製カバースリップで被覆し、構築物全体をTegaderm(登録商標)で被覆した。マウスを毎日モニターし、創傷を術後0、3、7、10、14日目に写真に取った。各群のマウスの半分を7日目に安楽死させて、病理組織学的分析のために創傷を採集した。
【0373】
術後0、7、14日目の、銀/PEMで処理した代表的な創傷の画像を
図45a、
図45b、及び
図45cに示す。対照群の同様の代表的画像を
図46に示す。これらの画像は、銀/PEMで修飾した創傷が対照と類似した創傷治癒率を示したことを、定性的に示す。創傷の上皮の被覆を創傷のデジタル画像から評価し、エラー!参照元が見つかりません
図45dに、元の創傷サイズに対する術後3、7、10、14日目のパーセンテージとして示す。結果は、全ての処理群で創傷閉鎖の率は、どの特定の観察日においても有意的に異ならなかった(p>0.05、ANOVAチューキー法)ということを実証する。
【0374】
術後7及び14日目の、銀/PEMで修飾した創傷の代表的な病理組織学的区画を、それぞれ
図47a及び
図47bに示す。対照創傷の同様の代表的な病理組織学的画像を
図48に示す。術後7日目の画像は、創傷端部に移動性再上皮化細胞層を明確に示す。加えて、銀/PEMで修飾した創傷の示した再上皮化は対照創傷のそれに類似した。再上皮化による完全な閉鎖を14日目に画像に観察した。全ての組織区画における肉芽組織の質と炎症の程度は、3つの試験群の間で有意的に異ならないことが見られ、創傷治癒の正常な進行を示した。創傷における上皮の間隙を、術後7及び14日目の病理組織学的画像から測定して、元の創傷サイズのパーセンテージとして
図47cに示す。これらのデータは、再上皮化の率は3つの治療群の間で有意的に異ならなかったことを示す(p>0.05、スチューデントt検定)。全体として、これらの結果は、銀を充填したPEM/PVAマイクロフィルム(16.8±0.5μgcm
-2の銀を含有)を用いて創傷床を修飾することは、過剰な組織炎症を起こさず、再上皮化による正常な創傷治癒を障害しない、ということを示す。
【0375】
さらに、追加試験では、外科創傷(直径6mm)をbalb/cマウスのわき腹に作り出し、そこに2x10
5CFUの黄色ブドウ球菌を接種した。一群のマウスでは、創傷をBiobrane生合成被覆材で被覆し(
図50A)、別の群では創傷にBiobraneを置く前に銀マイクロフィルム創傷被覆材を被覆させた(
図50B)。術後12日目の、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した創傷の顕微鏡像は、Biobraneのみで処理した創傷が約2.1mmの上皮化間隙を有することを示した(例えば、
図50Aの矢の間を参照)。対照的に、銀マイクロフィルム創傷被覆材で処理したマウスからのH&E染色顕微鏡像は、銀マイクロフィルム被覆材及びBiobraneで処理した創傷が完全な上皮化を有することを示した(例えば、
図50B参照、スケール=0.5mm)。表2は、術後12日目における2つの群の創傷の組織病理学的観察(有資格の病理学者による)をまとめる。銀マイクロフィルム被覆材で処理した創傷は、有意的に、より小さな上皮の間隙、より多いコラーゲン、及びより少ない炎症を有した(p<0.05、n=10;マンホイットニーのU検定)。
【0376】
【0377】
〔実施例19〕
創傷被覆材における遷移金属ガリウムの抗バイオフィルム剤としての使用
A.要約
従来の抗菌剤及び抗生物質は、バイオフィルム中で微生物に対して効果がない。具体的には、創傷の細菌コロニー形成は、細菌がバイオフィルム中で生きる慢性感染につながることがあり、それは、細胞外ポリマーマトリックスに包まれた表面会合細菌集団である(Rhoadsetal.Biofilmsinwounds:managementstrategies.JournalofWoundCare.2008;17:502-8)。バイオフィルム成長に固有の生理的変化により、バイオフィルム中の細菌は、プランクトンの(自由生活の)細菌よりも約1000倍、抗生物質及び/又は抗菌剤による殺菌に抵抗力がある(Stewart et al.Antibiotic resistance of bacteria in biofilms.The Lancet.2001;358:135-8)。バイオフィルムは、治療の失敗、四肢の喪失(例えば、糖尿病性足部潰瘍)、又は死亡を引き起こし、バイオフィルムは、従来の治療計画では、正常な創傷治癒の進行を可能とするために、通常、外科的創面切除を施す必要がある(Wolcott et al.Regular debridement is the
main tool for maintaining a healthy wound bed in most chronic wounds.Journal of
Wound Care.2009;18:54-6)。バイオフィルムの感染及び定着につながる過程は、創傷を起こす瞬間に始まり、創傷治療の開始のときに防ぐ必要がある(Kennedy et al.Burns,biofilm and a new appraisal of burn wound sepsis.Burns.2010;36:49-56)。したがって、急性感染におけるバイオフィルム形成を防止し、慢性創傷中バイオフィルムの細菌を抗菌剤に対して感作するより良い被覆材及び製剤に対して差し迫った必要性がある。
【0378】
遷移金属ガリウム(Ga)は、細菌成長を阻害し、バイオフィルム形成を防ぎ、定着したバイオフィルムを分散させる(Kaneko et al.The transition metal gallium disrupts Pseudomonas aeruginosa iron metabolism and has antimicrobial and antibiofilm activity.The Journal of Clinical Investigation.2007;117:877-88;Zhu et al.Pre-treatment with EDTA-gallium prevents the formation of biofilms on surfaces. Experimental and therapeutic medicine.2013;5:1001-4;Valappil et al.Effect of novel antibacterial gallium-carboxymethyl cellulose on Pseudomonas aeruginosa.Dalton Transactions.2013;42:1778-86;Halwani et al.Co-encapsulation of
gallium with gentamicin in liposomes enhances antimicrobial activity of gentamicin against Pseudomonas aeruginosa.Journal of Antimicrobial Chemotherapy.2008;62:1291-7)。Gaは、細菌成長に必要な主要酵素の機能化に必須である細菌の鉄(Fe)代謝を混乱させる(Kaneko et al.The transition metal gallium disrupts Pseudomonas aeruginosa iron metabolism and has antimicrobial and antibiofilm activity. The Journal of Clinical Investigation.2007;117:877-88)。自由Feレベルは、鉄を隔離して微生物感染を阻止する複合宿主防御により、創傷部位では既に極めて低い。細菌によって取り込まれるGaは、Fe反応性転写制御因子を抑制することによって細菌のFe取り込みをさらに減少させる(Kaneko et
al.The transition metal gallium disrupts Pseudomonas aeruginosa iron metabolism
and has antimicrobial and antibiofilm activity.The Journal of Clinical Investigation.2007;117:877-88)。Ga3+のイオン半径は、Fe3+のそれにほぼ等しく、多くの生物系はFe3+からGa3+を区別することができない(Chitambar et al.Targeting iron-dependent DNA synthesis with gallium and transferrin-gallium.Pathobiology:journal of immunopathology,molecular and cellular biology.1991;59:3-10)。Fe3+と違ってGa3+は生理的条件下で減少することがないため、FeをGaで置換することはFe依存的過程を混乱させる。そういうものとして、多くのFe媒介性生物機能に不可欠な連続的酸化還元ステップは、Ga3+によって阻害され、細菌細胞死という結果になる(Chitambar et al. Targeting iron-dependent DNA synthesis with gallium and transferrin-gallium.Pathobiology:Journal of Immunopathology,Molecular and Cellular Biology.1991;59:3-10)。さらに、研究は、Gaが、従来の抗菌剤及び抗生物質の効果が最も小さいバイオフィルムの中心で栄養分(及び、ゆえにFe)欠乏細胞に特に取り込まれ、Gaはバイオフィルム分散で特に有利であることを示している(Kaneko et al.The transition metal gallium disrupts Pseudomonas aeruginosa iron metabolism and has antimicrobial and antibiofilm activity.The Journal of Clinical Investigation.2007;117:877-88)。Gaが静脈内注射用としてFDA承認を受けている(悪性高カルシウム血症の治療のため)という事実とともに、Gaの優れた抗バイオフィルム特性のために(Bernstein.Mechanisms of Therapeutic Activity for Gallium.Pharmacological Reviews.1998;50:665-82)、殺菌性銀に対するバイオフィルム中微生物の感作についてマイクロフィルム創傷被覆材又はポリマーナノフィルムの成分としてGaを試験する実験を行った。
【0379】
B.結果
本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、バイオフィルム形成を阻害するGa(例えば、Ga(NO3)3として)の最低濃度を決定する実験を行った。詳しくは、Gaを、バイオフィルム成長培地(500μLの1%トリプシンダイズブロス(TSB))中緑膿菌の培養物に加えて、48ウェル組織培養プレートの底でのバイオフィルム形成の阻害を試験した。
【0380】
10
6CFU/mlの緑膿菌(ATCC 27853)の懸濁液から生じるバイオフィルム成長の定量化を、バイオフィルムをクリスタルバイオレットで染色し、続いて、先に記載した方法に従って、24、48、及び72時間後に行った(Brandenburg
et al.Tryptophan Inhibits Biofilm Formation by Pseudomonas aeruginosa.Antimicrobial Agents and Chemotherapy.2013;57:1921-5)。溶液中25μM Ga
3+は、72時間バイオフィルム形成を完全に阻害するのに充分である、ということを決定した(
図51)。
【0381】
溶液中の自由(プランクトン様)細菌数に減少はなく、Ga3+は、この濃度で殺菌性ではないが、銀等、他の殺菌剤に対してバイオフィルム中細菌を感作するよう使用できることが示された。例えば、他の試験は、TBS中100 μM Ga3+は定着したバイオフィルムを分散させ、(Kaneko et al.The transition metal gallium disrupts Pseudomonas aeruginosa iron metabolism and has antimicrobial and antibiofilm activity. The Journal of Clinical Investigation.2007;117:877-88)、1mMまでの濃度のGa3+は哺乳類細胞に対して細胞毒性でない(Chandler et al.Cytotoxicity of Gallium and Indium Ions Compared with Mercuric Ion.Journal of Dental Research.1994;73:1554-9)ことを示している。
【0382】
〔実施例20〕
犠牲的ポリマーキャスト中にガリウムをもったマイクロフィルム被覆材
本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、1)創傷中に抗バイオフィルム剤(例えば、遷移金属ガリウム)をバースト放出してバイオフィルム形成を阻害するステップと、それに続く2)細菌を殺し、微生物コロニー形成を防止する広域スペクトル抗菌性(例えば、銀)の持続的長期的放出と、を提供するマイクロフィルム被覆材を開発し評価する実験を行った。
【0383】
本明細書に記載する2つの異なるポリマー層を含むマイクロフィルム被覆材(例えば、厚さ100~200μm)の試験から、データを収集した。最上層は、水溶性ポリマーキャストを含み、底層は、生物活性剤及び/又は抗菌剤を含浸したポリマー多層ナノフィルム(例えば、厚さ50~200nm)を含む。この実施例では、マイクロフィルム被覆材は、ポリマーナノフィルムに銀ナノ粒子を、可溶性ポリマーキャストに抗バイオフィルム遷移金属ガリウムを含む(例えば、
図52参照)。
【0384】
理論に拘束されるものではないが(実際、技術を実践するに当り理論の理解は要しないが)、マイクロフィルム被覆材のポリマーキャストの溶解で、創傷にガリウムの初期バースト放出を行うことは、バイオフィルムを分散させ、微生物によるバイオフィルム形成を不可能にする、ということが考えられる。次に、銀ナノ粒子を含有し、創傷床上に固定化されたポリマーナノフィルムは、抗菌性銀イオンの持続的長期的放出を提供し、微生物コロニー形成を防止し、痛みを伴う被覆材交換の必要性を低減する。さらに、抗バイオフィルム剤(例えば、ガリウム)の初期バースト放出によるバイオフィルム中微生物の感作は、創傷感染の防止又は除去に当って必要とされる殺菌剤(例えば、銀)が非常に低濃度である、ということが考えられる。
【0385】
したがって、(PAH/PAA)20のPEMを、本明細書に記載の通り、スプレーコーティングによってPDMSシート上に組み立てた。組み立て後、本明細書に記載の通り、銀イオン交換及び生体内原位置での銀イオン還元の複合サイクルによって、PEMに銀ナノ粒子を含浸させた。続いて、ガリウム硝酸を含有する5重量/体積%PVA(MW 22kDa)溶液をスピンコーティング(1500rpmで10秒間)することによって、ポリビニルアルコール(PVA、MW 22kDa)のフィルムをPEM上に適用した。
【0386】
上記実施例19で収集したデータに基づき(
図51参照)、PEM上PVAキャスト中Ga
3+充填は、水中5%PVAキャスト溶液中のガリウム硝酸濃度を調整することによって、1~10μg/cm
2で制御した。PVAキャスト中Ga
3+充填を、2%硝酸への溶解と、続く、誘導結合型プラズマ発光分光法(ICPES)による元素分析とによって決定した(Valappil et al.Effect of novel antibacterial gallium-carboxymethyl cellulose on Pseudomonas aeruginosa.Dalton Transactions.2013;42:1778-86)。48ウェルプレートのウェル中水0.5mLに溶解したPVAキャストは、溶液中約28~280μMGa
3+/cm
2を放出する。
【0387】
〔実施例21〕
ガリウムをもったPEMはバイオフィルム形成を阻害する
本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、Gaを含むPEMをさらに試験する実験を行った。(PAH/PAA)
10のPMMをスプレーコーティングによってPDMSシート上に組み立て、次いで、組み立ての後、10mMGa(NO
3)
3溶液中インキュベーションによってGa
3+を1時間含浸させた。Ga
3+イオンを、ナノフィルム中PAAのカルボキシル基上でプロトンと交換した。続いて、PEMを水中ですすぎ、窒素下215℃で2時間ベーキングして、PAAとPAHの間の熱誘導アミド結合形成を通して熱架橋結合を可能とした(Harris et al.Synthesis of Passivating,Nylon-Like Coatings through Cross-Linking of Ultrathin Polyelectrolyte
Films.Journal of the American Chemical Society.1999;121:1978~9)。PEMの架橋結合はPBS中Ga
3+の持続的長期的放出を可能とすることを示すデータを収集した(
図53)。
【0388】
PEM中Ga
3+充填を、2%硝酸中抽出と、誘導結合型プラズマ発光分光法(ICPES)による元素分析とによって決定した(Valappil et al.Effect of novel antibacterial gallium-carboxymethyl cellulose on Pseudomonas aeruginosa.Dalton Transactions.2013;42:1778-86)。予備的試験では、PEMが1μg/cm
2のGa
3+を放出することは、溶液中25μM
Ga(NO
3)
3の効果と同様に、緑膿菌バイオフィルムの形成を完全に阻害した(実施例19;
図51)。これらのデータは、本明細書に記載の技術は、PEMが溶液中に抗バイオフィルム濃縮物を放出するように、Ga
3+の組み込みと、PEMからの放出とを可能にする、ということを示す。
【0389】
〔実施例22〕
銀及びガリウムを含有するナノフィルムコーティングをもったシリコーンフィルム被覆材
本明細書に記載する技術の実施形態の開発の間、生物活性剤を含有する前もって作製した厚さナノメートル単位のポリマーコーティングを、創傷被覆材及び代用皮膚の表面上に1ステップで一体化することを提供する、スタンピング技術を開発し試験する実験を行った。詳しくは、抗菌性銀ナノ粒子及び抗バイオフィルム遷移金属ガリウムの精密な充填を含有するポリマーナノフィルム(例えば、厚さ50~200nm)を、本明細書に記載する通り、エラストマースタンプ上に組み立て、高透過性シリコーンフィルム被覆材の創傷接触表面上へのスタンピングによって段階的に移した(
図54参照)。提供する生成物の実施形態は、抗菌剤を有する通気性(例えば、高通気性)シリコーンフィルム被覆材と、創傷を密封し、湿潤創傷治癒を促進し、そして、神経を鎮静化して痛みを軽減する抗バイオフィルム剤と、である。さらに、技術は、広域スペクトル多剤耐性微生物によって創傷のコロニー形成を積極的に防止し、創傷及び/又は治癒の初期に形成されるバイオフィルムを分散させることを可能とする。
【0390】
技術の実施形態の開発の間、ガリウムは、創傷中の微生物を感作してバイオフィルム形成を阻害し、既存のバイオフィルム中では細菌を分散させる、ということが仮定された。加えて、抗菌性銀イオンの同時放出によれば、ガリウムによって感作された細菌を殺すと考えられる。銀とガリウムの相乗効果は、従来の銀被覆材よりも非常に低い(例えば、非毒性の)濃度の銀を用い、そうして、銀細胞毒性、着色、刺激作用、及びコストを低減し、同時に患者の安楽の向上を提供する技術を提供する。
【0391】
〔実施例23〕
シリコーンフィルム被覆材へのPEMの移行
本明細書に提供する技術の実施形態の開発の間、シリコーンフィルム被覆材上へのPEMの移行を試験する実験を行った。PEMを、市販の医療グレードのシリコーンフィルム(厚さ0.01インチ;Bioplexus,Ventura,CA)上にスタンプした。PEMの移行を容易にするために、例えば、Plasma Therm 1441 RIE Instrument;8sccmO2,300秒,100W)を用いて、シリコーンフィルムをプラズマ酸化させた。PDMSシート上に組み立てたPEMを、即ち、水分の存在下、シリコーンフィルムの荷電表面上にスタンプした(例えば、Agarwal
et al.Polymeric multilayers that contain silver nanoparticles can be stamped onto biological tissues to provide antibacterial activity.Advanced Functional Materials.2011;21:1863-73参照、なお、その全体が参照により本明細書に援用される)。PEMと、プラズマ酸化されたシリコーンフィルムの荷電表面との間の強い静電気的相互作用は、PEMの移行を容易にし、PEMと、それが上に組み立てられているPDMSシートとの弱い疎水性相互作用を克服する。まず、銀ナノ粒子を含有するPEMを、続いて、ガリウムを含有するPEMを、シリコーンフィルム上にスタンプする。この順序は、殺菌性銀に対して細菌を感作することのできる溶液中へガリウムが初期放出されるのを容易にするよう、選ぶ。
【0392】
シリコーンフィルム被覆材の酸素透過率(OTR)を、標準的な方法(ASTM D3985)に従い、一定の温度(23℃)と相対湿度(50%RH)で、Oxygen Permeation Analyzer 8001(Systech Instruments,Johnsburg,IL)で測定した(例えば、Altiok et al.Physical,antibacterial and antioxidant properties of chitosan films incorporated
with thyme oil for potential wound healing applications.J Mater Sci:Mater Med.2010;21:2227-36参照、なお、その全体が参照によって本明細書に援用される)。手短に言えば、シリコーンフィルムを拡散チャンバー内でクランプに留めた。純酸素をチャンバーの上半分に導入し(21.33kPa(160mmHg))、キャリアガス(窒素)を下半分に流した。シリコーンフィルムを通って下のチャンバーに透過する酸素の分子を、キャリアガスによってセンサーに通し、cc/m2/日のOTRを直接測定することができるようにした。
【0393】
上述の通り、シリコーンフィルム被覆材上のPEMのナノ被覆の厚さを制御して(例えば、堆積した二層の数を制御することによって)、少なくとも2.74cc/m2/日のOTRを提供し、これは、哺乳類細胞成長を可能とし(例えば、米国特許第5、858、770号参照)、ブタ創傷中の正常な上皮化を可能とするものである(Sirvio et al.The Effect of Gas Permeability of Film Dressings on Wound Environment and Healing.Journal of Investigative Dermatology.1989;93:528-31)。
【0394】
上記明細書に述べる刊行物及び特許は全て、参照により本明細書に援用されるものとする。本発明の上述した方法及び系の種々の修正及び変形は、本発明の範囲及び精神から逸脱するものでなければ、当業者に明らかであるものとする。本発明は特定の好適実施形態に関連して記載したが、特許請求する本発明はかかる特定の実施形態に不当に限定されるべきではないと理解されたい。実のところ、関連分野の当業者に明白な、本発明を実施するための上述した方法の種々の修正は、以下の請求項の範囲内にあることを意図する。
【配列表】