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  • 特許-水処理装置の運転方法および水処理装置 図1
  • 特許-水処理装置の運転方法および水処理装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】水処理装置の運転方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20241112BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D71/56
B01D69/02
B01D61/58
B01D65/02 530
C02F1/44 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020106368
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001345
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】野中 啓司
【審査官】本間 友孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188438(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163468(WO,A1)
【文献】特開2013-071032(JP,A)
【文献】特開2016-172238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00 - 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる懸濁物質を除去する除濁装置と、前記除濁装置の下流側に設けられ、前記除濁装置を通過した被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置と、前記逆浸透膜装置の上流側に設けられ、前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を加圧するポンプと、を有し、前記逆浸透膜装置は、補正フラックスが1.40m/d/MPa、at25℃以上のポリアミド系逆浸透膜を有する、水処理装置の運転方法であって、
前記除濁装置を通過する前または通過した後の被処理水に、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を添加しながら、前記濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならないように前記逆浸透膜装置による前記分離を行い、前記透過水を処理水タンクに貯留する工程と、
前記逆浸透膜装置による前記分離を停止した後、前記除濁装置を通過した被処理水で前記逆浸透膜装置の一次側をフラッシングする工程と、を含む、水処理装置の運転方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜装置が、圧力容器内に収容された単一の逆浸透膜エレメントを有する逆浸透膜モジュールからなる、請求項1に記載の水処理装置の運転方法。
【請求項3】
前記逆浸透膜装置の一次側をフラッシングしている間、前記除濁装置を通過した被処理水の導電率と前記濃縮水の導電率とを検出する工程と、
前記検出された導電率に基づいて、前記フラッシングを終了するか否かを判定する工程と、をさらに含む、請求項1または2に記載の水処理装置の運転方法。
【請求項4】
前記除濁装置が、精密ろ過膜を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理装置の運転方法。
【請求項5】
被処理水に含まれる懸濁物質を除去する除濁装置と、
前記除濁装置の下流側に設けられ、前記除濁装置を通過した被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置であって、補正フラックスが1.40m/d/MPa、at25℃以上のポリアミド系逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置の上流側に設けられ、前記逆浸透膜装置に供給される被処理水を加圧するポンプと、
前記逆浸透膜装置の上流側に設けられ、前記除濁装置を通過する前または通過した後の被処理水に、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を添加する薬注装置と、
請求項1から4のいずれか1項に記載の運転方法を実行する制御装置と、を有する水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置の運転方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水に含まれる不純物を除去する水処理装置として、逆浸透膜(RO膜)を有するものが知られている。この装置では、所定の供給圧力でRO膜に供給された被処理水(原水)が、RO膜により透過水と濃縮水とに分離される。これにより、不純物が除去された処理水(透過水)を得ることができる。
【0003】
RO膜を有する水処理装置では、長期にわたり安定した運転を行うことが求められており、そのためには、RO膜の膜面に原水中のシリカが析出してスケールが発生することを抑制することが重要となる。これに対し、従来から、シリカスケールの発生を抑制する方法として、濃縮水のpHを6以下に調整することで、濃縮水のシリカ濃度がシリカ溶解度以上であってもシリカの析出を遅らせる方法(例えば、特許文献1参照)や、原水のpHを9.5以上に調整することで、シリカ溶解度を上昇させる方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3187629号公報
【文献】特許第4496795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したいずれの方法においても、透過水のpH調整を行ったり、下流側にさらに別のRO膜を設置したりするなど、追加の対策を行う必要がある。特に中小規模の水処理装置では、設置スペースやコストの点から、そのような追加の対策を行うには限界がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、シリカスケールによる逆浸透膜の閉塞を抑制して、長期にわたり安定した運転を可能にする水処理装置の運転方法および水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の水処理装置の運転方法は、被処理水に含まれる懸濁物質を除去する除濁装置と、除濁装置の下流側に設けられ、除濁装置を通過した被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置と、逆浸透膜装置の上流側に設けられ、逆浸透膜装置に供給される被処理水を加圧するポンプと、を有し、前記逆浸透膜装置は、補正フラックスが1.40m/d/MPa、at25℃以上のポリアミド系逆浸透膜を有する、水処理装置の運転方法であって、除濁装置を通過する前または通過した後の被処理水に、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を添加しながら、濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならないように逆浸透膜装置による分離を行い、透過水を処理水タンクに貯留する工程と、逆浸透膜装置による分離を停止した後、除濁装置を通過した被処理水で逆浸透膜装置の一次側をフラッシングする工程と、を含んでいる。
【0008】
また、本発明の水処理装置は、被処理水に含まれる懸濁物質を除去する除濁装置と、除濁装置の下流側に設けられ、除濁装置を通過した被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜装置であって、補正フラックスが1.40m/d/MPa、at25℃以上のポリアミド系逆浸透膜を有する逆浸透膜装置と、逆浸透膜装置の上流側に設けられ、逆浸透膜装置に供給される被処理水を加圧するポンプと、逆浸透膜装置の上流側に設けられ、除濁装置を通過する前または通過した後の被処理水に、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を添加する薬注装置と、上記に記載の運転方法を実行する制御装置と、を有している。
【0009】
このような水処理装置の運転方法および水処理装置によれば、追加の対策を行うための設置スペースを確保したり、余計なコストをかけたりすることなく、シリカスケールの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、シリカスケールによる逆浸透膜の閉塞を抑制して、長期にわたり安定した運転が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る水処理装置の構成を示す概略図である。
図2】実施例および比較例におけるフラックス保持率の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理装置の構成を示す概略図である。
【0014】
本実施形態の水処理装置10は、原水(被処理水)に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であり、除濁装置11と、逆浸透膜(RO膜)装置12と、処理水タンク13とを有している。除濁装置11は、原水に含まれる懸濁物質を捕捉して除去する除濁膜を有している。除濁膜としては、精密ろ過膜(MF膜)が用いられるが、懸濁物質を除去できるものであればこれに限定されず、例えば、限外ろ過膜(UF膜)を用いてもよい。RO膜装置12は、除濁装置11の下流側に設けられ、除濁装置11で懸濁物質が除去された除濁水を、不純物を含む濃縮水と、不純物が除去された透過水とに分離するものであり、RO膜を有している。具体的には、RO膜装置12は、RO膜モジュールからなり、円筒状のベッセル(圧力容器)内に収容されたRO膜エレメントを有している。
【0015】
本実施形態の水処理装置10は、中小規模の水処理装置としての使用が想定され、設置スペースや原水の給水圧力が制限されることがある。そのため、RO膜装置12のRO膜モジュールとしては、単一のベッセル内に単一のRO膜エレメントを収容したものが用いられる。また、RO膜エレメントのRO膜としては、低い操作圧力で十分な透過水量が得られる極超低圧用のポリアミド系RO膜が用いられる。具体的には、温度25℃、濃度500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液を0.7MPaの操作圧力で透過させたときの補正フラックス(補正透過流束)が1.40m/d/MPa、at25℃以上のポリアミド系RO膜が用いられる。なお、「補正フラックス(補正透過流束)」とは、JIS K 3802:2015(膜用語)に準拠したものであり、ここでは、単位圧力(1MPa)および単位膜面積(1m)当たりの透過水量(m/d)を水温が25℃のときの値に換算したものを意味する。このような膜エレメントとしては、例えば、オルガノ株式会社製のRO膜エレメント(品番:OFR-670)を用いることができる。処理水タンク13は、RO膜装置12で分離されてユースポイントに供給される透過水(処理水)を一時的に貯留するものである。
【0016】
また、水処理装置10は、原水や処理水などが流通する複数のラインL1~L5を有している。すなわち、除濁装置11に原水を供給する原水ラインL1と、除濁装置11を通過した除濁水をRO膜装置12に供給する給水ラインL2と、RO膜装置12からの透過水を流通させて処理水タンク13に供給する透過水ラインL3と、RO膜装置12からの濃縮水を流通させて外部に排出する排水ラインL4と、処理水タンク13内の処理水をユースポイントに送水する送水ラインL5とを有している。なお、除濁装置11には、原水ラインL1の上流側に設けられた活性炭ろ過器(図示せず)で残留遊離塩素が除去された原水が供給される。
【0017】
さらに、水処理装置10は、給水ラインL2に設けられた加圧ポンプ14と、同じく給水ラインL2に設けられた給水導電率計15と、排水ラインL4に設けられた濃縮水導電率計16と、処理水タンク13に設けられた水位センサ17とを有している。加圧ポンプ14は、原水ラインL1に設けられた給水ポンプ(図示せず)と共に、RO膜装置12に供給される除濁水を加圧する機能を有しており、換言すると、RO膜装置12への給水圧力(操作圧力)を調整する圧力調整手段として機能する。給水導電率計15および濃縮水導電率計16は、それぞれ給水ラインL2を流れる除濁水および排水ラインL4を流れる濃縮水の導電率を検出するものであり、後述するフラッシング工程を終了するタイミングを判定するために用いられる。水位センサ17は、処理水タンク13内の水位を検出するものであり、後述する採水運転モードを終了および再開するタイミングを判定するために用いられる。また、透過水ラインL3と排水ラインL4には、それぞれ三方弁V1および流量調整弁V2が設けられている。透過水ラインL3には、三方弁V1を介してブローラインL6が接続され、三方弁V1は、RO膜装置12からの透過水を処理水タンク13に供給する第1の位置と、ブローラインL6を通じて外部に排出する第2の位置とに切り替え可能である。なお、RO膜12として、例えば、上述した極超低圧用のRO膜が用いられる場合には、低い操作圧力でも十分な透過水量が得られるため、加圧ポンプ14を省略し、給水ポンプのみでRO膜装置12に供給される除濁水を加圧するようになっていてもよい。
【0018】
加えて、水処理装置10は、水処理装置10の運転を制御する制御装置18を有している。制御装置18は、具体的には、水処理装置10の通常運転時に行われる採水工程から待機工程に移行する際に、RO膜装置12の一次側をフラッシングするフラッシング工程を一定時間実行するものである。以下、これら3つの工程について説明する。
【0019】
採水工程は、水位センサ17で検出された処理水タンク13内の水位が所定の下限水位以下になるか、あるいは、ユースポイントからの採水要求があった場合に開始される。採水工程では、加圧ポンプ14が作動し、三方弁V1が第1の位置に切り替えられるとともに流量調整弁V2の開度が調整されることで、RO膜装置12による分離が行われ、透過水(処理水)が処理水タンク13に貯留される。
【0020】
このとき、RO膜装置12による分離は、RO膜の膜面にシリカが析出してスケールが付着することを抑制するために、濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならない条件で行われる。具体的には、予め測定された除濁水のシリカ濃度から、濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならないような回収率(透過水の流量と濃縮水の流量との和に対する透過水の流量の割合)が設定され、設定された回収率になるように、排水ラインL4を流れる濃縮水の流量が調整される。ここで、濃縮水の流量調整は、排水ラインL4に設けられた流量調整弁V2によって行われ、その設定流量は、回収率の設定値と、RO膜装置12の操作圧力の設定値から推定される透過水の流量とに基づいて決定される。なお、中性条件におけるシリカ溶解度S(mg/L)は、水温をT(K)とすると、以下の式(1)で表されることが知られている。
logS=a+bT-1+cT+dlogT (1)
ここで、a=-3.697、b=-485.24、c=-2.268×10-6、d=3.608である。
【0021】
ところで、本実施形態では、除濁装置11で懸濁物質が除去された除濁水が加圧ポンプ14により十分な膜面線速度でRO膜装置12に供給され、RO膜装置12では、濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならない条件で採水工程が行われる。したがって、本来であれば、RO膜の膜面にシリカスケールが発生するはずはなく、運転時間が長期にわたっても安定した運転が可能になるはずである。しかしながら、実際には、本発明者らの検証により、採水工程を停止した後の待機工程の間にRO膜の膜間差圧(膜の一次側と二次側の圧力差)が上昇することがあり、その結果、後述する比較例に示すように、フラックス保持率が運転時間と共に低下することがあることが確認されている。このことは、極超低圧用のRO膜が用いられるためであると考えられるが、本実施形態では、そのような膜間差圧の上昇を抑制するために、上述した採水工程を停止した直後、待機工程が開始されるまでの間、フラッシング工程が実施される。なお、採水工程は、水位センサ17で検出された処理水タンク13内の水位が所定の上限水位以上になるか、あるいは、ユースポイントからの採水要求がなくなった場合に停止される。
【0022】
フラッシング工程では、加圧ポンプ14が作動した状態で、三方弁V1が第2の位置に切り替えられるとともに流量調整弁V2が全開にされることで、RO膜装置12のRO膜の一次側に供給された除濁水は、RO膜を通過することなく、排水ラインL4から外部に排出される。こうして、RO膜装置12による分離を停止して採水工程を停止した直後に、除濁水でRO膜装置12の一次側をフラッシングすることで、後述する実施例で示すように、運転時間と共にフラックス保持率が低下することを抑制することができる。
【0023】
フラッシング工程が一定時間行われた後、加圧ポンプ14が停止されてフラッシング工程が終了し、待機工程が開始される。待機工程は、水位センサ17で検出された処理水タンク13内の水位が所定の下限水位以下になるまで、あるいは、ユースポイントからの採水要求があるまで実施される。そして、待機工程が終了すると、加圧ポンプ14が作動するとともに流量調整弁V2の開度が調整されることで、待機工程の間にRO膜の二次側に滞留した水がブローラインL6を通じて外部に排出される。その後、三方弁V1が第1の位置に切り替えられることで、透過水が処理水タンク13に貯留される採水工程が再開される。
【0024】
フラッシング工程を実施する時間は、特に限定されず、典型的には2分~12時間であるが、運転コスト削減の観点からは、できるだけ短時間であることが好ましい。そこで、フラッシング工程の間、除濁水の導電率とフラッシング排水の導電率を検出し、これら検出された導電率に基づいて、フラッシング工程を終了するか否かを判定してもよい。具体的には、給水導電率計15による検出値と濃縮水導電率計16による検出値とを比較し、例えば、後者(フラッシング排水の導電率)が前者(除濁水の導電率)の±5%の範囲に入った時点でフラッシング工程を終了してもよい。なお、導電率計15,16の代わりに比抵抗計を設置し、検出された比抵抗に基づいて、同様の判定を行ってもよい。
【0025】
本実施形態では、RO膜装置12のRO膜モジュールとして、単一のベッセル内に単一のRO膜エレメントを収容したものが用いられるが、RO膜装置12全体でのRO膜エレメントの数は1つに限定されず、複数であってもよい。すなわち、RO膜装置12のRO膜モジュールとしては、単一のベッセル内に複数のRO膜エレメントを収容したものであってもよい。また、RO膜装置12は、複数のベッセルからなるRO膜モジュールユニットであってもよく、各ベッセル内には、単一のRO膜エレメントが収容されていても、複数のRO膜エレメントが収容されていてもよい。ただし、本実施形態のフラッシング工程は、RO膜装置12全体として複数のRO膜エレメントを有する場合に比べて、エレメント1本当たりの回収率が高くなりやすい単一のRO膜エレメントを有する場合により効果的である。
【0026】
また、本実施形態では、RO膜の膜面にシリカやカルシウムなどのスケール成分が析出することをより確実に抑制するために、原水または除濁水に対して、スケール防止剤を薬注ポンプによって添加するようになっていてもよい。スケール防止剤の種類としては、特定ものに限定されず、例えば、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸などのホスホン酸とその塩類などのホスホン酸系化合物;正リン酸塩、重合リン酸塩などのリン酸系化合物;ポリマレイン酸、マレイン酸共重合物などのマレイン酸系化合物;アクリル酸系ポリマーなどが挙げられ、アクリル酸系ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/スルホン酸、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマーなどのコポリマーや、(メタ)アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマー、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アルキルスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アリールスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーなどが挙げられる。ターポリマーを構成する(メタ)アクリル酸としては、例えば、メタアクリル酸およびアクリル酸と、それらのナトリウム塩などの(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。ターポリマーを構成するアクリルアミド-アルキルスルホン酸としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とその塩などが挙げられる。また、ターポリマーを構成する置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0027】
これらの中でも、ホスホン酸系化合物とアクリル酸系ポリマーのうち少なくとも1種類を含むものを用いることが好ましい。また、カルシウムとシリカに由来するスケールを同時に抑制するためには、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を用いることが特に好ましい。
【0028】
なお、RO膜用の市販のスケール防止剤としては、オルガノ株式会社製の「オルパージョン」シリーズ、BWA Water Additives社製の「Flocon(登録商標)」シリーズ、Nalco社製の「PermaTreat(登録商標)」シリーズ、ゼネラル・エレクトリック社製の「Hypersperse(登録商標)」シリーズ、栗田工業株式会社製の「クリバーター(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0029】
(実施例)
次に、具体的な実施例を挙げて、本発明の効果について説明する。
【0030】
本実施例では、図1に示す水処理装置を用いて、採水工程から待機工程に移行する際に2分間のフラッシング工程を実施しながら、採水工程と待機工程の繰り返し運転を100日間行い、10時間ごとに上述の補正フラックスを測定した。原水として地下水を用い、その水温は17℃、シリカ濃度は49mg/Lであった。また、RO膜装置のRO膜エレメントとして、測定開始前の補正フラックスが1.46m/d/MPa、at25℃であったオルガノ株式会社製のRO膜エレメント(品番:OFR-670)を用い、RO膜装置の操作圧力を0.75MPaとし、回収率を40%とした。したがって、上記式(1)から、濃縮水のシリカ溶解度は99mg/Lであった。また、スケール防止剤として、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるものを用いた。そして、そのようなスケール防止剤を、濃縮水中の濃度が30mg/Lになるように除濁水に添加した。なお、待機工程から採水工程に移行する際には、3分間のブロー工程(待機工程の間にRO膜の二次側に滞留した水を外部に排出する工程)を実施した。採水工程の一日あたりの合計実施時間は、約6~12時間であった。
【0031】
また、比較例として、採水工程から待機工程に移行する際にフラッシング工程を実施しないことを除いて、実施例と同様の条件で測定を行った。
【0032】
図2は、実施例および比較例における測定結果を示すグラフである。なお、グラフの縦軸に示すフラックス保持率は、運転開始時の補正フラックスを100%としたときの相対値である。
【0033】
図2から明らかなように、比較例では、濃縮水のシリカ濃度が予め測定された水温でのシリカ溶解度以上にならない条件で採水工程を行ったにもかかわらず、運転時間と共にフラックス保持率が徐々に低下していることが確認された。比較例で用いられた極超低圧用のRO膜は、膜面流速に対して透過水量が多くなる分、膜面近傍での濃縮度が高くなる傾向があるが、比較例におけるフラックス保持率の低下はこのためであり、RO膜の膜面にシリカが析出し、それによりRO膜の膜面が閉塞したためであると考えられる。
【0034】
一方で、実施例では、比較例と同様に極超低圧用のRO膜が用いられているにもかかわらず、フラックス保持率の大幅な低下は見られず、安定した運転が継続可能であることが確認された。これは、採水工程を停止する度に除濁水でRO膜の一次側をフラッシングしたことにより、RO膜の膜面近傍での濃縮度の高まりが緩和され、シリカスケールの発生による膜面の閉塞が抑制されたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1 水処理装置
11 除濁装置
12 逆浸透膜(RO膜)装置
13 処理水タンク
14 加圧ポンプ
15,16 導電率計
17 水位センサ
L1 原水ライン
L2 給水ライン
L3 透過水ライン
L4 排水ライン
L5 送水ライン
V1 三方弁
V2 流量調整弁
図1
図2