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特許7586664鏡筒、レンズユニットおよびカメラモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】鏡筒、レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20241112BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20241112BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
G02B7/02 A
G02B7/02 D
G03B30/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020131292
(22)【出願日】2020-08-01
(65)【公開番号】P2022027669
(43)【公開日】2022-02-14
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 将俊
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054922(JP,A)
【文献】特開2001-033677(JP,A)
【文献】特開2019-204000(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0088297(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107884901(CN,A)
【文献】特開2015-210333(JP,A)
【文献】特開2020-098310(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0200990(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111338046(CN,A)
【文献】特開2016-206682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G03B 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向で互いに離間する2つ以上のゲートから金型内に溶融樹脂を流し込むことにより略筒状に成形されて、その内側収容空間内にレンズ群が組み込まれるようになっているとともに、径方向内側にカシメられることにより前記内側収容空間内に組み込まれる前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズを固定するためのカシメ部を物体側端部に有する鏡筒であって、
前記鏡筒の物体側端部には、前記ゲートの位置に対応する前記鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、前記物体側端部から像側へと前記カシメ部の根元を越えて前記最も物体側のレンズの外周側面が位置されるべき部位に沿って延在する切り欠きが設けられることを特徴とする鏡筒。
【請求項2】
前記切り欠きは、前記各ゲートから流入する溶融樹脂が前記金型内で合流するウェルド部の位置に対応して設けられることを特徴とする請求項1に記載の鏡筒。
【請求項3】
複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、前記レンズ群を組み込むための内側収容空間を有する鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記鏡筒は、周方向で互いに離間する2つ以上のゲートから金型内に溶融樹脂を流し込むことにより略筒状に成形されるとともに、径方向内側にカシメられることにより前記内側収容空間内に組み込まれる前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズを固定するためのカシメ部を物体側端部に有し、
前記レンズ群の最も物体側に位置される前記レンズは、物体側に面する表面と、像側に面する裏面と、前記表面と前記裏面とを接続するように前記光軸と略平行に延在する外周側面とを有し、
前記鏡筒の物体側端部には、前記ゲートの位置に対応する前記鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、前記物体側端部から像側へと前記カシメ部の根元を越えて前記最も物体側のレンズの前記外周側面に沿って延在する切り欠きが設けられることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
前記切り欠きは、前記各ゲートから流入する溶融樹脂が前記金型内で合流するウェルド部の位置に対応して設けられることを特徴とする請求項3に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記切り欠きには接着剤が充填されることを特徴とする請求項3または4に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記切り欠きを通じて外部に露出する前記レンズの露出部位への光の入射を遮断するための遮光手段を更に備えることを特徴とする請求項3からのいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項7】
遮光手段は、前記レンズの前記露出部位に塗られる墨により形成されることを特徴とする請求項に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記遮光手段は、前記切り欠きに充填される遮光性の接着剤により形成されることを特徴とする請求項に記載のレンズユニット。
【請求項9】
請求項3からのいずれか一項に記載のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズ群の結像位置に撮像素子が配置されることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成する鏡筒、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
レンズユニットを構成する鏡筒が樹脂製である場合には、一般に、金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで鏡筒が一体成形されるが、図5に示されるように、そのようなレンズユニット100の一体型の鏡筒112は、その内側収容空間S内に複数のレンズL1~L5(図5では、一例として5つのレンズ)からなるレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(図5において上端部)のカシメ部123が径方向内側に熱カシメされることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置されるレンズL1をこのカシメ部123で鏡筒112の物体側端部に固定する(図5においては、レンズのハッチングを省略している)。
【0004】
この場合、レンズ群Lを構成する複数のレンズL1,L2,L3,L4,L5は、像側(図5中の下側)から物体側(図5中の上側)へ向けて順に積み上げられるように鏡筒123の内側収容空間S内にその内面形状を利用して組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-231993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カシメ部123は、図5に加えて図6からも分かるように、物体側に向かって先細っており、カシメ前には円筒形状を成し、その全周が一度に径方向内側に熱カシメされて押し潰されるが、熱カシメ後、環境温度の変化の影響によりカシメ部123を含む鏡筒112が径方向で膨張収縮すると、カシメ部には、肉薄であるそのテーパ形状にも起因してクラックが生じる場合がある。そのようなクラックは、カシメ部123によるレンズL1のカシメ保持力を低下させ、そのため、カシメ部123により所望のカシメ強度でレンズL1を固定できなくなる場合があるとともに、迷光などの発生をもたらし、光学性能に悪影響を与える虞もある。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、環境温度変化に伴う従前のカシメ部でのクラックの発生を防止できる鏡筒、レンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、周方向で互いに離間する2つ以上のゲートから金型内に溶融樹脂を流し込むことにより略筒状に成形されて、その内側収容空間内にレンズ群が組み込まれるようになっているとともに、径方向内側にカシメられることにより前記内側収容空間内に組み込まれる前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズを固定するためのカシメ部を物体側端部に有する鏡筒であって、
前記鏡筒の物体側端部には、前記ゲートの位置に対応する前記鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、前記物体側端部から像側へと前記カシメ部を越えて延在する切り欠きが設けられることを特徴とする。
【0009】
また、前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、前記レンズ群を組み込むための内側収容空間を有する鏡筒とを備えるレンズユニットであって、
前記鏡筒は、周方向で互いに離間する2つ以上のゲートから金型内に溶融樹脂を流し込むことにより略筒状に成形されるとともに、径方向内側にカシメられることにより前記内側収容空間内に組み込まれる前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズを固定するためのカシメ部を物体側端部に有し、
前記鏡筒の物体側端部には、前記ゲートの位置に対応する前記鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、前記物体側端部から像側へと前記カシメ部を越えて延在する切り欠きが設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明者は、肉薄であるテーパ形状のカシメ部におけるクラックが特定の位置で生じ易いことを突き止めるとともに、その位置で生じ易い原因について鋭意研究した結果、クラックの発生要因として、金型内で溶融樹脂が合流するウェルド部が深くかかわっていることを知見した。すなわち、本発明者は、図6に示されるように、周方向で互いに離間する2つ以上(図6では4つ)のゲートG(図6には、ゲートG自体が示されておらず、ゲートGの位置に対応する鏡筒112の4つの部位が描かれている)から金型(図示せず)内に溶融樹脂200を流し込むことにより鏡筒112を略筒状に成形する際に、隣り合うゲードG,G間から流出した溶融樹脂が合流する部分に、密着不良に起因するウェルドラインを伴う脆弱部分であるウェルド部Wが形成されることに着目した。そして、これらのウェルド部Wが応力集中による強度低下および靭性低下などの原因となって、環境温度の変化の影響によりカシメ部123を含む鏡筒112が径方向で膨張収縮する際に、図6の(a)中に矢印で示されるような応力fをウェルド部Wの位置で薄肉のカシメ部123が受けてクラックをもたらすという結論を得た。そのため、これに基づき、本発明者は、ウェルド部が発生し得る位置、すなわち、ゲートの位置に対応する鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、鏡筒の物体側端部に切り欠きを設けるという本発明に至ったものである。
【0011】
このように、切り欠きによって脆弱部分であるウェルド部を排除できれば、クラックの発生を未然に防止でき、したがって、クラックに伴う問題、すなわち、カシメ部によるレンズのカシメ保持力を低下させ、そのため、カシメ部により所望のカシメ強度でレンズを固定できなくなるといった問題、および、迷光などの発生をもたらし、光学性能に悪影響を与えるといった問題を回避できる。この場合、切り欠きは、ウェルド部の存在を打ち消して鏡筒の物体側端部の脆弱部位を排除することにより応力発生時のクラックの発生を防止するためのものであることから、ウェルド部の形成領域にわたって物体側端部から像側へと少なくとも薄肉のカシメ部123を越えて長く延在することが重要である。
【0012】
なお、上記構成において、切り欠きは、鏡筒成形後に機械加工等によって設けられてもよく、あるいは、金型内で挿脱されるピン(入れ子)などを用いて鏡筒成形時に同時に形成されてもよい。後者の場合には、ピンが壁となって樹脂の流動を阻止することによりウェルド部の形成を事前に抑制できる。また、金型内への溶融樹脂の流入のためのゲートの数は限定されず、複数であれば、2点ゲート、3点ゲート、4点ゲートなど任意に設定でき、ゲートの数に応じた数の切り欠きを設ければよい。
【0013】
また、本発明の上記構成において、切り欠きは、各ゲートから流入する溶融樹脂が金型内で合流するウェルド部の位置に対応して設けられることが好ましい。これによれば、切り欠きによって脆弱なウェルド部を確実に排除して、クラックの発生を確実に防止できる。なお、ウェルド部の位置に対応して切り欠きを設けるに際し、ウェルド部の位置の特定は、例えば、樹脂の流動シミュレーションソフトなどを活用し、そのシミュレーション結果からなされることが好ましい。
【0014】
また、本発明の上記構成において、レンズ群の最も物体側に位置されるレンズは、物体側に面する表面と、像側に面する裏面と、表面と裏面とを接続するように光軸と略平行に延在する外周側面とを有する場合には、切り欠きが、カシメ部を越えてレンズの外周側面に沿って延在することが好ましい。これによれば、切り欠きの形成領域を大きく確保でき、クラック発生の可能性を格段に低下させることができる。
【0015】
また、本発明の上記構成において、切り欠きには接着剤が充填されることが好ましい。これによれば、切り欠きの形成によって低下し得るカシメ部によるレンズのカシメ保持力を接着剤により補って、カシメ部でのレンズの固定力を所望のレベルで確保できる。
【0016】
また、本発明の上記構成では、切り欠きを通じて外部に露出するレンズの露出部位への光の入射を遮断するための遮光手段が更に設けられることが好ましい。これによれば、切り欠きに伴う遮光不良を遮光手段によってカバーできる。すなわち、切り欠きを通じてレンズに側方から入射しようとする迷光を遮光手段により遮断して、ゴースト等の発生を防止できる。この場合、遮光手段は、レンズの露出部位に塗られる墨により形成されてもよく、あるいは、切り欠きに充填される遮光性の接着剤により形成されてもよい。遮光性の接着剤としては、例えば、光吸収性樹脂を挙げることができる。光吸収性樹脂とは、光を吸収できる性質を有する樹脂のことであり、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂などが好適である。特に、紫外線硬化樹脂としては、例えば、ケミテック株式会社が提供するケミシールU-2077が好ましい。
【0017】
また、本発明は、前述した鏡筒およびレンズユニットを備えるカメラモジュールも提供する。このような構成のカメラモジュールによっても前述した鏡筒およびレンズユニットの作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鏡筒の物体側端部に、ゲートの位置に対応する鏡筒の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、物体側端部から像側へとカシメ部を越えて延在する切り欠きが設けられるため、切り欠きによって脆弱部分であるウェルド部を排除でき、クラックの発生を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施の形態に係る鏡筒を有するレンズユニットの概略断面図である。
図2】(a)は、図1のレンズユニットを物体側から見た平面図、(b)は、図1のレンズユニットの斜視図である。
図3】(a)は、図1のレンズユニットを物体側から見た概略平面図、(b)は、(a)のA方向から見た一部断面(X-X線に沿う部分半断面)を伴う図1のレンズユニットの概略側面図である。
図4図1のレンズユニットを有する本発明の一実施の形態に係るカメラモジュールの概略断面図である。
図5】従来の一体成形型の鏡筒を有するレンズユニットの概略断面図である。
図6】(a)は、従来の一体成形型の鏡筒を有するレンズユニットを物体側から見た平面図、(b)は、(a)のレンズユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、樹脂製の円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15および第4のレンズ16から成る4つのレンズとを備えている。これらのレンズ13~16は、それらの一部同士の間にスペーサ22を介しつつ積み重ねられるように鏡筒12内に組み込まれている。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図1には示されないイメージセンサ(パッケージセンサ)を有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。なお、本実施の形態において、スペーサ22は、ゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」や、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0022】
鏡筒12の内側収容空間S内に組み込まれて収容保持される複数のレンズ13,14,15,16は、それぞれの光軸を一致させた状態で積み重ねられて配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。この場合、レンズ群Lを構成する最も物体側に位置される第1のレンズ13は、物体側に面するその表面13dが物体側に向けて凸状を成す凸面として形成されるとともに、第2のレンズ14と対向する(像側に面する)その裏面13eがレンズ内側に向けて凹む空洞部を形成する凹面を成す球面ガラスレンズであり、その他のレンズ14,15,16は樹脂レンズであるが、これに限定されない(例えば、第1のレンズ13が樹脂レンズであってもよい)。
【0023】
本実施の形態を含む本発明は、樹脂製の鏡筒12の物体側端部の形態に特徴があり、鏡筒およびレンズの形状、レンズの数および素材等については用途等に応じて任意に設定できる。また、これらのレンズ13,14,15,16の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0024】
また、本実施の形態において、最も物体側に位置される第1のレンズ13と鏡筒12との間にはシール部材としてのOリング26が介挿され、鏡筒12の内側のレンズ群L内に水や塵埃が侵入しないようにしている。この場合、第1のレンズ13の外周側面13aに、該レンズ13の像側部分で径が小さくなった段差状の縮径部13bが設けられ、この縮径部13bにOリング26が装着されて、第1のレンズ13の外周側面13aと鏡筒12の内周面12aとの間でOリング26が径方向で圧縮されることにより、鏡筒12の物体側端部が封止された状態となっている。なお、第1のレンズ13と鏡筒12との間に介挿されるシール部材は、Oリングに限定されず、第1のレンズ13と鏡筒12との間をシールできる環状体であればどのような形態であっても構わない。
【0025】
また、鏡筒12は、その内側収容空間S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(図1において上端部)のカシメ部(物体側に向かって先細るように全周にわたって延在する)23が径方向内側に熱的にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13をこのカシメ部23により鏡筒12の物体側端部に光軸方向で固定する。この場合、安定したカシメを行なえるように、カシメ部23が圧接されるガラスレンズ13の部位は平面状に斜めにカットされた平坦部13cとして形成される。
【0026】
また、鏡筒12の像側の端部(図1において下端部)には、第4のレンズ16よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13,14,15,16とスペーサ22とが光軸方向で保持固定されている。
【0027】
また、本実施の形態に係る鏡筒12は、図2からも分かるように、周方向で互いに離間する2つ以上(本実施の形態では、周方向に互いに90度の角度間隔を隔てた4つ)のゲートG(図2には、ゲートG自体が示されておらず、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の4つの部位12ba,12bb,12bc,12bdが描かれている;図3の(a)も同様)から図示しない金型内に溶融樹脂を流し込むことにより略筒状に成形されている。そして、鏡筒12の物体側端部には、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の隣り合う部位同士の間の周方向にわたる角度範囲の略中間に位置して、物体側端部から像側へとカシメ部23を越えて延在する切り欠き30が設けられている。具体的には、4点ゲートの本実施の形態では、図3の(a)にも示されるように、鏡筒12の物体側端部に、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の隣り合う部位12ba,12bb同士の間の周方向にわたる角度範囲R1の略中間に位置して切り欠き30が設けられ、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の隣り合う部位12bb,12bc同士の間の周方向にわたる角度範囲R2の略中間に位置して切り欠き30が設けられ、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の隣り合う部位12bc,12bd同士の間の周方向にわたる角度範囲R3の略中間に位置して切り欠き30が設けられ、ゲートGの位置に対応する鏡筒12の隣り合う部位12bd,12ba同士の間の周方向にわたる角度範囲R4の略中間に位置して切り欠き30が設けられている。
【0028】
これらの4つの切り欠き30は、特に本実施の形態では、各ゲートGから流入する溶融樹脂が金型(図示せず)内で合流するウェルド部の位置に対応して設けられる。この場合、ウェルド部の位置の特定は、例えば、樹脂の流動シミュレーションソフトなどを活用し、そのシミュレーション結果からなされることが好ましい。また、それぞれの切り欠き30は、熱カシメされるカシメ部23の光軸方向の全長にわたる深さまで切り欠かれるだけでなく、このカシメ部23を像側へと越えて、Oリング26の手前(例えば、段差状の縮径部13bの直前)まで延在される。すなわち、切り欠き30は、第1のレンズ13にカシメ保持力を作用させるカシメ領域の全域にわたって設けられるだけでなく、カシメ部23よりも更に像側へ深くまで延在され、カシメ部23の根元を越えて第1のレンズ13の表面13dと裏面13eとを接続するように光軸Oと略平行に延在する第1のレンズ13の外周側面13aに沿って延在する。
【0029】
また、本実施の形態では、切り欠き30の形成によって低下し得るカシメ部23による第1のレンズ13のカシメ保持力を補うべく、それぞれの切り欠き30に図示しない接着剤が充填される。
【0030】
また、本実施の形態のレンズユニット11には、切り欠き30を通じて外部に露出する第1のレンズ13の露出部位への光の入射を遮断するための遮光手段が更に設けられる。そのような遮光手段は、第1のレンズ13の前記露出部位に塗られる墨(図示せず)により形成されてもよく、あるいは、切り欠き30に充填される前述の接着剤に遮光性を持たせることによって成されてもよい。遮光性を有する接着剤としては、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂などから成る接着剤を挙げることができる。
【0031】
また、図4は、以上のような構成を成すレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、このカメラモジュール300は、フィルタ99が装着された図1のレンズユニット11を含んで構成される。
【0032】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303、および、レンズ群Lの結像位置に配置されるパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0033】
上ケース301は、鏡筒12の外周面12bに鍔状に設けられるフランジ部25に係合されるとともに、レンズユニット11の物体側の端部を露出させて他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12bとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0034】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態によれば、切り欠き30によって脆弱部分であるウェルド部を排除できるため、クラックの発生を未然に防止でき、したがって、クラックに伴う問題、すなわち、カシメ部23によるレンズ13のカシメ保持力を低下させ、そのため、カシメ部23により所望のカシメ強度でレンズを固定できなくなるといった問題、および、迷光などの発生をもたらし、光学性能に悪影響を与えるといった問題を回避できる。
【0036】
また、本実施の形態では、切り欠き30に接着剤が充填されているため、切り欠き30の形成によって低下し得るカシメ部23によるレンズ13のカシメ保持力を接着剤により補って、カシメ部23でのレンズ13の固定力を所望のレベルで確保できる。
【0037】
また、本実施の形態では、切り欠き30を通じて外部に露出する第1のレンズ13の露出部位への光の入射を遮断するための遮光手段が設けられているため、切り欠き30に伴う遮光不良を遮光手段によってカバーできる。
【0038】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒などの形状は、前述した実施の形態に限定されない。また、前述した実施の形態では、切り欠きの形状が光軸方向から見て矩形を成しているが、切り欠きの形状はこれに限定されない。また、切り欠きの数もゲートの数に応じて任意に設定できる。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0039】
11 レンズユニット
12 鏡筒
13 第1のレンズ(最も物体側に位置されるレンズ)
13a 外周側面
13d 表面
13e 裏面
23 カシメ部
30 切り欠き
300 カメラモジュール
O 光軸
L レンズ群
S 内側収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6