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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】粉状乾燥固形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
C08J3/12 A CEP
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020133227
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029757
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391011157
【氏名又は名称】株式会社トウペ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 道隆
(72)【発明者】
【氏名】高村 幸司
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230716(WO,A1)
【文献】特開2019-136668(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018524(WO,A1)
【文献】特開2017-057391(JP,A)
【文献】特開2018-065988(JP,A)
【文献】特表2014-530946(JP,A)
【文献】特開2020-128476(JP,A)
【文献】特開2018-026253(JP,A)
【文献】国際公開第2020/086466(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと粒子とが複合化した粉状乾燥固形物の製造方法であり、
前記粒子は、炭酸カルシウム、酸化チタンまたはカーボンブラックのうち少なくともいずれか一種を含み、
前記セルロースナノファイバー(固形分)と前記粒子との配合割合(質量比)は、セルロースナノファイバー(固形分):粒子=1:100~90:10であり、
セルロースナノファイバーの水系分散体に、粒子を分散させた混合液を調製する混合液調製工程と、
前記混合液を、熱媒体を用いて蒸発乾燥し、薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、前記薄膜状乾燥固形物を粉状に粉砕する、乾燥粉砕工程と、を含む、粉状乾燥固形物の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥粉砕工程は、前記混合液を、内部に熱媒体を投入した回転するドラムの表面に供給して蒸発乾燥することにより前記薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、前記薄膜状乾燥固形物を、ナイフで連続的にドラム表面から掻き取ることにより粉状に粉砕する工程である、請求項1記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【請求項3】
前記粒子のレーザ回折/散乱法による体積平均粒子径は、0.001~100μmである、請求項1または2のいずれか1項に記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【請求項4】
前記粒子は、炭酸カルシウムまたは酸化チタンのうち少なくともいずれか一方を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子は、カルボキシル基、ヒドラジド基、ヒドラジン基および1級アミノ基のうち少なくともいずれか1種を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉状乾燥固形物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、セルロースナノファイバーを含み、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性のよい粉状乾燥固形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロースナノファイバーは、水素結合に代表される相互作用により、微細繊維間に凝集が起こりやすい。そのため、セルロースナノファイバーは、水系分散体として調製され、取り扱われる場合がある。しかしながら、水系分散体は、安定性を確保するために、セルロースナノファイバーに対して、数倍~数百倍の重量の水が必要となる。そこで、特許文献1には、セルロースナノファイバーの乾燥固形物の製造方法が提案されている。また、特許文献2には、セルロースナノファイバーと水溶性高分子との乾燥固形物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-95664号公報
【文献】特開2017-8176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、セルロースナノファイバーを短繊維化する工程を要する。その結果、製造方法が煩雑であり、かつ、得られるセルロースナノファイバーの繊維長が制限される。短繊維化されたセルロースナノファイバーは、強度が低下しやすい。また、特許文献2に記載の方法は、得られたセルロースナノファイバー乾燥固形物を塗料等に配合した場合に耐水性が劣る。また、特許文献2に記載の方法は、セルロースナノファイバーに対して多量の水溶性高分子を配合する必要がある。そのため、添加し得るセルロースナノファイバーの量が制限されやすい。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、簡便な製造方法であり、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性のよい乾燥固形物を得ることのできる粉状乾燥固形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の粉状乾燥固形物の製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)セルロースナノファイバーと粒子とが複合化した粉状乾燥固形物の製造方法であり、セルロースナノファイバーの水系分散体に、粒子を分散させた混合液を調製する混合液調製工程と、前記混合液を、熱媒体を用いて蒸発乾燥し、薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、前記薄膜状乾燥固形物を粉状に粉砕する、乾燥粉砕工程と、を含む、粉状乾燥固形物の製造方法。
【0008】
このような構成によれば、本発明の製造方法は、セルロースナノファイバーの短繊維化等の工程が必須でなく、簡便である。また、本発明の製造方法により得られる粉状乾燥固形物は、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集が生じにくい。そのため、粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性がよい。
【0009】
(2)前記粒子は、無機粒子である、(1)記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【0010】
このような構成によれば、得られる粉状乾燥固形物は、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集がより生じにくい。そのため、粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性がさらによい。
【0011】
(3)前記乾燥粉砕工程は、前記混合液を、内部に熱媒体を投入した回転するドラムの表面に供給して蒸発乾燥することにより前記薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、前記薄膜状乾燥固形物を、ナイフで連続的にドラム表面から掻き取ることにより粉状に粉砕する工程である、(1)または(2)記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【0012】
このような構成によれば、本発明の製造方法は、上記工程を採用するドラム乾燥装置によって、簡便に実施され得る。
【0013】
(4)前記粒子のレーザ回折/散乱法による体積平均粒子径は、0.001~100μmである、(1)~(3)のいずれかに記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【0014】
このような構成によれば、本発明の製造方法は、上記体積平均粒子径の粒子が使用されることにより、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集がより生じにくい。
【0015】
(5)前記粒子は、炭酸カルシウムまたは酸化チタンのうち少なくともいずれか一方を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【0016】
このような構成によれば、本発明の製造方法は、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集がより生じにくい。
【0017】
(6)前記セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子は、カルボキシル基、ヒドラジド基、ヒドラジン基および1級アミノ基のうち少なくともいずれか1種を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の粉状乾燥固形物の製造方法。
【0018】
このような構成によれば、得られる粉状乾燥固形物は、再分散性が優れ、塗料組成物を調製しやすい。得られる塗料組成物は、上記セルロース分子から構成されるセルロースナノファイバーが用いられていることにより、住居などの室内空間における生活臭に対して、優れた消臭効果を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡便な製造方法であり、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性のよい乾燥固形物を得ることのできる粉状乾燥固形物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施例(実施例2)において製造された粉状乾燥固形物の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、比較例1において製造された粉状乾燥固形物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<粉状乾燥固形物の製造方法>
本発明の一実施形態の粉状乾燥固形物の製造方法(以下、単に本実施形態の製造方法ともいう)は、セルロースナノファイバーと粒子とが複合化した粉状乾燥固形物の製造方法である。本実施形態の製造方法は、セルロースナノファイバーの水系分散体に、粒子を分散させた混合液を調製する混合液調製工程と、混合液を、熱媒体を用いて蒸発乾燥し、薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、薄膜状乾燥固形物を粉状に粉砕する、乾燥粉砕工程とを含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0022】
(混合液調製工程)
混合液調製工程は、セルロースナノファイバーの水系分散体に、粒子を分散させた混合液を調製する工程である。
【0023】
・セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、セルロース繊維をフィブリル化した微細繊維である。セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーの水系分散体として提供される。セルロースナノファイバーの原料は特に限定されない。一例を挙げると、セルロースナノファイバーの原料は、木材等の植物性材料に由来するものであってもよく、ホヤなどの動物性材料やバクテリアなどの微生物に由来するものであってもよい。植物性材料は、たとえば、木材、藁、竹、バガス、笹、葦、籾殻等である。また、植物性材料の原料を用いるセルロースナノファイバーの作製方法は、たとえば、原料に化学的処理を施して解繊しやすい状態にした後に機械的なせん断力による物理的処理を施して原料を解繊し製造する化学解繊による方法や、高圧ホモジナイザー法、グラインダー摩砕法、凍結粉砕法、強剪断力混練法、ボールミル粉砕法など公知の機械的な高せん断力を用いた機械解繊による方法等である。
【0024】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は特に限定されない。一例を挙げると、セルロースナノファイバーの平均繊維径は、2~1000nm程度であることが好ましく、5~300nm程度であることがより好ましい。このような平均繊維径のセルロースナノファイバーは、工業的に製造しやすい。なお、平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を用いてセルロース繊維を観察することにより算出し得る。
【0025】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は特に限定されない。一例を挙げると、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、0.5~10000μm程度であることが好ましく、10~3000μm程度であることがより好ましい。このような平均繊維長のセルロースナノファイバーは、工業的に製造しやすい。なお、平均繊維長は、走査型電子顕微鏡を用いてセルロース繊維を観察することにより算出し得る。
【0026】
セルロースナノファイバーのアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は特に限定されない。一例を挙げると、セルロースナノファイバーのアスペクト比は、3~10000程度であることが好ましく、5~1000程度であることがより好ましい。このようなアスペクト比のセルロースナノファイバーは、工業的に製造しやすい。
【0027】
セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子は、カルボキシル基、ヒドラジド基、ヒドラジン基および1級アミノ基のうち少なくともいずれか1種を有することが好ましい。このようなセルロースナノファイバー(変性セルロースナノファイバー)が用いられることにより、得られる塗料組成物は、住居などの室内空間における生活臭に対して、優れた消臭効果を示す。
【0028】
カルボキシル基は、セルロース分子の構成単位であるグルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されたものであることが好ましい。グルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されたセルロース繊維は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いることにより容易に合成し得る。セルロース分子とTEMPOとを反応させることにより、グルコース単位のC6位の1級水酸基を選択的に酸化させてカルボキシル基を導入し得る。
【0029】
このとき、セルロース分子におけるカルボキシル基の含有量は、セルロースナノファイバー1gあたり、0.1mmol以上であることが好ましく、0.5mmol以上であることがより好ましい。カルボキシル基の含有量が上記範囲内であることにより、得られるセルロースナノファイバーは、アンモニアまたはアミンに対して優れた吸着性能を示し得る。一方、カルボキシル基の含有量は、セルロースナノファイバー1gあたり、5mmol以下であることが好ましい。上記含有量は、滴定法により算出し得る。
【0030】
また、カルボキシル基は、アンモニアまたはアミンと容易に結合する。そのため、得られるセルロースナノファイバーを含む塗料組成物は、アンモニアやアミンの吸着材として好適である。
【0031】
ヒドラジド基、ヒドラジン基を有するセルロース分子を含むセルロースナノファイバーは、セルロース繊維と含窒素化合物とを混合して反応させて、セルロース分子と含窒素化合物とを結合させることで得ることができる。好適な製造方法は、平均繊維径が2~1000nm程度のセルロースナノファイバーと、ヒドラジド基またはヒドラジン基を有する含窒素化合物とを混合して反応させる方法である。
【0032】
含窒素化合物は、ヒドラジド基またはヒドラジン基を有するものであれば特に限定されない。ヒドラジド基を有する含窒素化合物は、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物などである。これらの中でも、分子中に2個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物が好適であり、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物がより好適である。
【0033】
ジヒドラジド化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ジヒドラジド化合物は、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等である。これらの中でも、ジヒドラジド化合物は、アジピン酸ジヒドラジドであることが好ましい。
【0034】
ヒドラジン基を有する含窒素化合物は特に限定されない。一例を挙げると、ヒドラジン基を有する含窒素化合物は、分子中に1個のヒドラジン基を有するモノヒドラジン化合物、分子中に2個以上のヒドラジン基を有するポリヒドラジン化合物等である。これらの中でも、ヒドラジン基を有する含窒素化合物は、分子中に1個のヒドラジン基を有するモノヒドラジン化合物であることが好ましい。
【0035】
ヒドラジド基またはヒドラジン基は、アルデヒドと容易に結合する。そのため、得られるセルロースナノファイバーを含む塗料組成物は、アルデヒドの吸着材として好適である。
【0036】
1級アミノ基を有するセルロース分子を含むセルロースナノファイバーは、セルロース繊維と、複数の1級アミノ基を有する含窒素化合物とを混合して反応させる方法により調製し得る。
【0037】
含窒素化合物は特に限定されない。一例を挙げると、含窒素化合物は、複数の1級アミノ基を有する化合物であればよく、複数の1級アミノ基を有する脂肪族ポリアミン化合物が好ましく、分子中に1級アミノ基(-NH2)を2個以上有する脂肪族ポリアミン化合物がより好ましい。
【0038】
脂肪族ポリアミン化合物は、分子中に2級アミノ基(-NHR1)や3級アミノ基(-NR12)を有していてもよい。R1およびR2は、任意の一価の置換基である。R1およびR2は互いに同じでも異なっていてもよい。また、上記脂肪族ポリアミン化合物は、本実施形態のセルロースナノファイバーの効果を阻害しない範囲において、アミノ基以外の官能基を有していてもよい。このような官能基は、水酸基、ハロゲン基、エステル基、アミド基、ニトロ基、ニトリル基等である。
【0039】
脂肪族ポリアミン化合物の炭素鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。ここで、脂肪族ポリアミン化合物は、1級アミノ基がメチレン基に結合した化合物(-CH2NH2)であることが好ましい。この場合、得られるセルロースナノファイバーは、-CH2NH2を含む。脂肪族ポリアミン化合物は、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンなどのジアミンおよびこれらの誘導体;トリス(2-アミノエチル)アミン(TAEA)、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン(PEI)などのアミノ基を3つ以上有するポリアミンおよびこれらの誘導体が好適である。これらの中でも、脂肪族ポリアミン化合物は、アミノ基を3つ以上有するポリアミンが好適であり、TAEAまたはPEIがより好適である。
【0040】
ポリアミンの分子量は、100000以下であることが好ましい。ポリアミンの分子量は、脂肪酸の吸着性能が優れる点から、分子量は50000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、5000以下であることがさらに好ましい。ポリアミンの分子量は、通常、50以上である。
【0041】
1級アミノ基は、カルボキシル基と容易に反応する。そのため、得られるセルロースナノファイバーを含む塗料組成物は、悪臭の原因となる脂肪酸に対して優れた吸着性能を示し得る。
【0042】
吸着される脂肪酸は、たとえば、炭素数8以下の短鎖脂肪酸であり、より具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ヘキセン酸(たとえば、(E)-3-メチル-2-ヘキセン酸)およびこれらの構造異性体である。これらの脂肪酸は、悪臭の原因物質として知られている。そのため、1級アミノ酸を含むセルロースナノファイバーを含む塗料組成物は、これら悪臭の原因となる物質を吸着しやすく、特にイソ吉草酸に対して優れた吸着性能を示す。
【0043】
水系分散体におけるセルロースナノファイバーの含有量(固形分換算)は特に限定されない。一例を挙げると、セルロースナノファイバーの含有量は、水系分散体中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、セルロースナノファイバーの含有量は、水系分散体中、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。水系分散体におけるセルロースナノファイバーの含有量が上記範囲内であることにより、本実施形態の製造方法は、乾燥粉砕工程において、セルロースナノファイバーの水系分散体に粒子を分散させた混合液を蒸発乾燥しやすく、製造効率が優れる。また、本実施形態の粉状乾燥固形物は、このように、セルロースナノファイバーの含有量を多くすることができる。これは、後述するように、本実施形態の粉状乾燥固形物を製造する際に、粒子が併用されていることにより、得られる粉状乾燥固形物のセルロースナノファイバーの繊維に粒子が付着し、セルロースナノファイバーの個々の繊維同士が接触しにくくなるためである。これにより、セルロースナノファイバーは、繊維間の凝集が抑えられ、高配合され得る。
【0044】
水系分散体を構成する、水や、水と有機溶媒の混合溶媒が好ましい。有機溶媒は、水と混和するものであれば特に限定されない。一例を挙げると、有機溶媒は、アルコール類が好ましく、エタノールがより好ましい。
【0045】
・粒子
本実施形態の粒子は、セルロースナノファイバーとともに複合化するために配合される。粒子が配合されることにより、得られる粉状乾燥固形物において、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集が生じにくい。具体的には、セルロースナノファイバーの繊維に粒子が付着することにより、セルロースナノファイバーの個々の繊維同士が接触しにくくなる。これにより、乾燥固形物を得る際に繊維同士の凝集が阻害される。なお、本実施形態において、「複合化」とは、セルロースナノファイバーの繊維に粒子が吸着し、一体化している状態をいう。また、粒子は、一次粒子であってもよく、2以上の粒子の集合体である二次粒子であってもよい。
【0046】
粒子は特に限定されない。一例を挙げると、粒子は、本実施形態の混合液調製工程における熱処理等に耐えうる無機粒子または有機粒子であればよい。
【0047】
無機粒子は、特に限定されない。一例を挙げると、無機粒子は、バリウムフェライトなどの金属粒子、酸化チタン、酸化銅、酸化ケイ素(シリカ)、酸化鉄などの金属酸化物粒子、シリカ(酸化ケイ素)、炭酸カルシウム、タルク、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カオリナイト、カーボンブラックなどの無機顔料等である。
【0048】
有機粒子は、特に限定されない。一例を挙げると、有機粒子は、有機フィラーとして有用な、合成樹脂粒子、天然高分子粒子等、有機顔料等である。有機粒子は、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンイミン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、デンプン、キチン、キトサン等の樹脂の粒子等である。有機顔料は、フタロシアニン顔料、ピロロピロール顔料、キナクリドン顔料等である。
【0049】
本実施形態の製造方法は、上記粒子の中でも、無機粒子を含むことが好ましく、炭酸カルシウムまたは酸化チタンのうち少なくともいずれか一方を含むことがより好ましい。これらは顔料として多種の塗料に汎用的に用いられるため、得られる粉状乾燥固形物は、多種の塗料へ適用でき、塗料への汎用性が高い。
【0050】
粒子の体積平均粒子径は、0.001μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましい。また、粒子の体積平均粒子径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。粒子の体積平均粒子径が上記範囲内であることにより、得られる粉状乾燥固形物は、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集がより生じにくい。そのため、粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性がさらによい。なお、体積平均粒子径は、レーザ回折/散乱法により算出され得る。体積平均粒子径の測定は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA-910、(株)堀場製作所製)を用いて算出され得る。
【0051】
混合液調製工程の説明に戻り、上記した水系分散体および粒子を分散させた混合液を調製する方法は特に限定されない。一例を挙げると、混合液は、セルロースナノファイバーを含む水系分散体に、粒子を混合し、ディスパーによって攪拌することにより調製され得る。得られた混合液は、次いで、乾燥粉砕工程が実施される。
【0052】
(乾燥粉砕工程)
乾燥粉砕工程は、混合液を、熱媒体を用いて蒸発乾燥し、薄膜状乾燥固形物を得て、次いで、薄膜状乾燥固形物を粉状に粉砕する工程である。乾燥粉砕後の乾燥固形物の水分量は、一例として5質量%以下である。
【0053】
乾燥粉砕工程は、市販の乾燥機によって実施されてもよい。一例を挙げると、乾燥粉砕工程は、電導加熱型のドラム乾燥機(D-0405、カツラギ工業(株)製)を用いることにより実施され得る。これにより、本実施形態の製造方法は、簡便に実施され得る。混合液は、内部に熱媒体を投入した回転するドラムの表面に供給され、短時間のうちに蒸発乾燥される。これにより、水系分散体の溶媒が除去された薄膜状乾燥固形物が得られる。次いで、薄膜状乾燥固形物は、ドラム乾燥機に付帯するナイフによって、粉砕される。具体的には、ドラムが1回転する間に形成された上記薄膜上の乾燥固形物は、ナイフによって、連続的にドラム表面から掻き取られる。このドラム乾燥機の場合、ナイフの形状を調整することにより、おがくず状、球状、ペレット状等の粉状の乾燥固形物が得られる。また、乾燥粉砕工程は、セルロースナノファイバーの短繊維化の工程が必須ではない。そのため、本実施形態の製造方法は、従来と比較して、短繊維化の工程を省略でき、簡便である。乾燥粉砕工程における上記ドラム乾燥機を用いる他の製造方法として、横型薄膜乾燥機や縦型薄膜乾燥機による製造方法、下部から熱せられた金属プレートの上部に混合液を供給し、金属プレート上に得られた乾燥固形物をナイフにより金属プレートの表面から掻き取られる製造方法、ドラムの外部を熱媒体で覆った回転するドラムの内部に混合液を供給し、ドラム内部表面に得られた乾燥固形物をナイフで掻き取り乾燥固形物を得る製造方法によっても、簡便に実施され得る。ドラム乾燥機の場合と同様、ナイフの形状を調整することにより、おがくず状、球状、ペレット状等の粉状の乾燥固形物が得られる。また、乾燥粉砕工程は、セルロースナノファイバーの短繊維化の工程が必須ではない。そのため、本実施形態の製造方法は、従来と比較して、短繊維化の工程を省略でき、簡便である。
【0054】
熱媒体は特に限定されない。一例を挙げると、熱媒体は、蒸気、水、油等である。熱媒体が蒸気である場合、蒸気は、水蒸気である。これにより、ドラム表面は、100~200℃程度に加熱されており、供給された混合液を、短時間で蒸発乾燥させ得る。
【0055】
ドラム乾燥機の仕様は特に限定されない。一例を挙げると、ドラム乾燥機は、常圧式であってもよく、真空式であってもよい。また、ドラム乾燥機は、ダブルドラム型、ツインドラム型、シングルドラム型のいずれであってもよい。
【0056】
ドラム乾燥機におけるドラムの回転数は特に限定されない。一例を挙げると、ドラムの回転数は、1~6rpmである。これにより、ドラムが1回転する間に、ドラム表面に供給された混合液が蒸発乾燥され、薄膜状乾燥固形物が作製やすい。
【0057】
混合液を供給する方式は特に限定されない。一例を挙げると、混合液は、ディップ式、スプレー式、スプラッシュ式、上部ロール式(単段、多段)、サイドロール式、下部ロール式等であってもよい。これらの方式が採用されることにより、混合液は、ドラム表面に均一に適量が供給されやすい。
【0058】
なお、本実施形態では、乾燥粉砕工程を実施するための装置として、混合液の乾燥と、得られた薄膜状乾燥物の粉砕とを連続的に行うドラム乾燥機を例示した。本実施形態の乾燥粉砕工程を実施するための装置は、上記したドラム乾燥機に限定されない。すなわち、本実施形態の乾燥粉砕工程は、混合液の乾燥を行う乾燥装置と、得られた薄膜状乾燥物を粉砕する粉砕装置とが、別々に設けられてもよい。
【0059】
以上、本実施形態の製造方法によれば、セルロースナノファイバーの短繊維化等の工程が必須でなく、簡便である。また、得られる粉状乾燥固形物は、粒子が配合されていることにより、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集が高度に抑制されている。そのため、粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性がよい。
【0060】
粉状乾燥固形物の寸法は、特に限定されない。一例を挙げると、寸法は、粒度10メッシュ(目開き1.70mm)以下である。このような寸法の粉状乾燥固形物は、軽量であり、かつ、他の粉状の化学品等とも混合しやすい。たとえば、粉状乾燥固形物は、塗料組成物等として好適に配合され得る。
【0061】
また、上記のとおり、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子が、カルボキシル基、ヒドラジド基、ヒドラジン基および1級アミノ基のうち少なくともいずれか1種を有する場合には、このようなセルロースナノファイバーを含む粉状乾燥固形物は、消臭効果を示す塗料組成物等として好適に採用され得る。すなわち、粉状乾燥固形物は、悪臭の原因となりうる物質に対して優れた吸着性能を有するため、たとえば住居(特にトイレなど)、化学工場、清掃工場、下水処理場、病院、介護施設、農産物加工場、畜産加工場などの室内空間の壁面や天井の塗材として使用する塗料組成物として好適である。これにより、塗料組成物は、たとえば、上記種々の適用場所において、優れた消臭効果を発揮し得る。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0063】
使用した原料を以下に示す。
<セルロースナノファイバー>
セルロースナノファイバー1:AAn-CAT、真庭バイオケミカル(株)製、アジピン酸ジヒドラジドが結合したセルロースナノファイバー、平均繊維径20~200nm、平均繊維長500μm
セルロースナノファイバー2:i-CAT、真庭バイオケミカル(株)製、1級アミノ基が結合したセルロースナノファイバー、平均繊維径5~300nm、平均繊維長500μm、
セルロースナノファイバー3:CNF混合物、真庭バイオケミカル(株)製、セルロースナノファイバー1、2および4の等量混合物、平均繊維径20~200nm、平均繊維長500μm
セルロースナノファイバー4:セルフィム(CNF)C-100、モリマシナリー(株)製、平均繊維径20~200nm、平均繊維長500μm、機械解繊
セルロースナノファイバー5:レオクリスタ、第一工業製薬(株)製、平均繊維径3nm、平均繊維長150~3000nm、化学解繊
なお、表1中の含有量は、いずれも、これらセルロースナノファイバーを固形分が1質量%となるよう分散した水系分散体(溶媒:水)である。
<粒子>
炭酸カルシウム:サンライトSL-300、竹原化学工業(株)製、重炭酸カルシウム、体積平均粒子径5μm
酸化チタン:Ti-Pure R-706、ケマーズ(株)製、体積平均粒子径0.36μm
カーボンブラック:MA100、三菱ケミカル(株)製、体積平均粒子径13~76μm
【0064】
(実施例1)
100質量部の炭酸カルシウムと、100質量部のセルロースナノファイバー1の水系分散体(固形分1質量%)とを混合し、ディスパーで攪拌して混合液を作製した(混合液調製工程)。得られた混合液を蒸気圧0.3MPa・G、ドラム回転数2rpmの条件で、ドラム乾燥機(D-0405型、カツラギ工業(株)製、熱媒体:水蒸気)を用いて蒸発乾燥させて薄膜状乾燥固形物を作製し、ドラム乾燥機に固定されたスクレーパーナイフにより、薄膜状乾燥固形物をドラム表面から掻き取って、おがくず状の乾燥固形物(粒度10メッシュ以下)を得た。
【0065】
(実施例2~15)
以下の表1に記載の配合(質量部)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、薄膜状乾燥固形物を得た。
【0066】
(比較例1)
100質量部のセルロースナノファイバー4の水系分散体(固形分1質量%)を蒸気圧0.3MPa・G、ドラム回転数2rpmの条件で、ドラム乾燥機(D-0405型、カツラギ工業(株)製、熱媒体:水蒸気)を用いて蒸発乾燥させて薄膜状乾燥固形物を作製し、ドラム乾燥機に固定されたスクレーパーナイフにより、薄膜状乾燥固形物をドラム表面から掻き取って、おがくず状の乾燥固形物(粒度10メッシュ以下)を得た。
【0067】
(比較例2)
100質量部の炭酸カルシウムに100質量部のセルロースナノファイバー1の水系分散体(固形分1質量%)を送液速度8g/分のスプレーにて吹き付ける転動流動層造粒装置(SPIR-A-FLOW SFC-MINI、フロイント産業(株)製)を用いて、おがくず状の乾燥固形物(粒度10メッシュ以下)を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
得られた粉状乾燥固形物を、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製、二次電子像、5000倍)を用いて観察した。図1は、実施例2において製造された粉状乾燥固形物の走査型電子顕微鏡写真である。図1において、参照符号1は、セルロースナノファイバーの繊維を示す。参照符号2は、粒子(炭酸カルシウム)を示す。図1に示されるように、実施例2の粉状乾燥固形物では、セルロースナノファイバーの繊維1は、繊維間における凝集が生じにくく、凝集のない繊維が多数見られた。また、実施例1、3~15で製造された粉状乾燥固形物に関しても顕微鏡観察を行ったところ、同様の外観であり、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集が緩和された部位が多数見られた。このように、本発明の製造方法によれば、セルロースナノファイバーの繊維間の凝集が抑制されることから、得られる粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくく、取り扱い性が優れると考えられた。また、実施例3や実施例4にみられるように、粉状乾燥固形物は、セルロースナノファイバーの割合(固形分)を多く含む。そして、このような場合であっても、粉状乾燥固形物は、水系分散体を調製する際に凝集を生じにくい。したがって、たとえばこのような粉状乾燥固形物を用いて塗料組成物を調製する場合に、塗料組成物は、多くのセルロースナノファイバーを含有し得る。
【0070】
一方、図2は、比較例1において製造された粉状乾燥固形物の走査型電子顕微鏡写真である。図2において、参照符号3は、凝集したセルロースナノファイバーの繊維を示す。図2に示されるように、比較例1の粉状乾燥固形物では、セルロースナノファイバーの繊維が強固に凝集していた。このような繊維が凝集したセルロースナノファイバーの乾燥固形物は、水系分散体を調製する際にも凝集を生じやすく、取り扱い性が劣ると考えられた。
【0071】
また、実施例1~15における乾燥固形物の製造にかかった処理時間は、1~2分/kgであった。一方、比較例2における粉状乾燥固形物の製造にかかった処理時間が、90分/kgであった。そのため、本発明の製造方法は、処理時間も速く、効率的であった。
図1
図2