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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】燃料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
C10L1/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020136678
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2022032664
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】青柳 良和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智至
(72)【発明者】
【氏名】大森 敬朗
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴将
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165365(JP,A)
【文献】特開2019-214696(JP,A)
【文献】特開2020-117591(JP,A)
【文献】特開2020-117592(JP,A)
【文献】特開2021-031624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接脱硫重油である基材Aと、
水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、
を含む燃料組成物であって、
硫黄分が0.5質量%以下であり、
50℃における動粘度が20mm/s以上であり、
前記燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たし、
下記式(A)~(C)から算出される貯蔵安定性指数Yが、0.00~0.18である、燃料組成物。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、前記直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
Y=B(s)・a+C(s) …(A)
B(s)=-0.1007s +0.065s-0.0107 …(B)
C(s)=1.2324s -0.6297s+0.4204 …(C)
[式(A)~(C)中、aは、前記燃料組成物の全芳香族分(容量%)を示し、sは、前記直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
【請求項2】
前記直接脱硫重油は、潜在セジメントが0.20質量%以下であり、50℃における動粘度が20.0mm/s以上であり、芳香族分が17.3~35.5質量%であり、
前記基材Bは、硫黄分が0.78質量%以下である、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項3】
燃料組成物を製造する方法であって、
直接脱硫重油である基材Aと、水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、を、
前記燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たし、
下記式(A)~(C)から算出される貯蔵安定性指数Yが、0.00~0.18となり、前記燃料組成物の硫黄分が0.5質量%以下となり、前記燃料組成物の50℃における動粘度が20mm/s以上となるように配合する、燃料組成物の製造方法。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、前記直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
Y=B(s)・a+C(s) …(A)
B(s)=-0.1007s +0.065s-0.0107 …(B)
C(s)=1.2324s -0.6297s+0.4204 …(C)
[式(A)~(C)中、aは、前記燃料組成物の全芳香族分(容量%)を示し、sは、前記直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
【請求項4】
前記直接脱硫重油は、潜在セジメントが0.20質量%以下であり、50℃における動粘度が20.0mm/s以上であり、芳香族分が17.3~35.5質量%であり、
前記基材Bは、硫黄分が0.78質量%以下である、請求項3に記載の燃料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油精製工場で得られる残さ油で船舶用燃料油が製造されており、例えば、減圧蒸留装置の残さ油、脱硫した残さ油及びFCC(Fluid Catalytic Cracking)装置の分解残油などを主体とする基材に、軽油留分や分解軽油を混合し、動粘度や硫黄分が調整された燃料油が製造されている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0003】
近年では、船舶に対するNOx、SOx及びPMの排出規制によって船舶用燃料油の低硫黄化が進んでおり、2020年以降に一般海洋で使用される低硫黄燃料油は、硫黄分を0.50質量%以下に低減することが求められている。
【0004】
また、船舶用燃料油の動粘度については、50℃における動粘度を20mm/s以上にすることが望ましい。これはエンジン入り口における動粘度を、主なエンジンメーカーが設定している最低動粘度である2mm/sを下回らないように設定されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-2339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、残さ油等の重質基材はセジメント(析出物)を生じやすく、燃料油におけるセジメント量が多くなると燃料油フィルタの目詰まり等の不具合が発生する場合がある。また、燃料油が貯蔵される環境は常温より高い温度になることがあり、燃料油にはそのような環境においてもセジメントが生成しにくいことが求められる。
【0007】
本発明は、高温で貯蔵された場合であってもセジメントが生成しにくい貯蔵安定性に優れた燃料組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討したところ、上記特許文献1においては重油組成物における潜在セジメントを所定値以下に調整することが開示されているが、製造直後の潜在セジメントが少なくても長期間貯蔵された後のセジメント量は必ずしも十分に抑制されていない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、特定の重質基材と特定の別の基材とを配合して硫黄分及び動粘度を調節した燃料油組成物について、60℃で4ヶ月貯蔵する貯蔵安定性試験を行うことにより、燃料組成物における特定の性状から60℃で4ヶ月貯蔵後の燃料組成物の実在セジメントを予測する計算式を考案した。そして、本発明者らは、この計算式に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一側面は、直接脱硫重油である基材Aと、水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、を含む燃料組成物であって、
硫黄分が0.5質量%以下であり、
50℃における動粘度が20mm/s以上であり、
燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たす、燃料組成物を提供する。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す]
【0010】
上記の燃料組成物は、上記構成を満たすことにより、重質基材を含有しながらも、高温で貯蔵された場合であってもセジメントが生成しにくいものになり得る。例えば、60℃で4ヶ月の長期にわたって貯蔵された場合であっても、セジメント量を十分少なくすることができる。
【0011】
直接脱硫重油は、潜在セジメントが0.20質量%以下、50℃における動粘度が20mm/s以上、芳香族分が17.3~35.5質量%であってもよく、基材Bは、硫黄分が0.78質量%以下であってもよい。
【0012】
本発明の別の側面は、燃料組成物を製造する方法を提供する。当該燃料組成物の製造方法は、直接脱硫重油である基材Aと、水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、を、燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たし、燃料組成物の硫黄分が0.5質量%以下となり、燃料組成物の50℃における動粘度が20mm/s以上となるように配合する。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
【0013】
上記の燃料組成物の製造方法によれば、高温で貯蔵された場合であってもセジメントが生成しにくい貯蔵安定性に優れた燃料組成物を製造することができる。
【0014】
上記の燃料組成物の製造方法において、直接脱硫重油は、潜在セジメントが0.20質量%以下、50℃における動粘度が20mm/s以上、芳香族分が17.3~35.5質量%であってもよく、基材Bは、硫黄分が0.78質量%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温で貯蔵された場合であってもセジメントが生成しにくい貯蔵安定性に優れた(特には、4ヶ月経過後もセジメント量が十分抑制される長期貯蔵安定性を有する)燃料組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<燃料組成物>
本実施形態の燃料組成物は、直接脱硫重油である基材Aと、水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、を含む。
【0018】
直接脱硫重油は、常圧残油や減圧残油を脱硫して得られる重質な留分である。例えば、直接脱硫装置(Residue Hydrodesulfurizing plant;RDS)から得られる脱硫ボトム油を用いることができる。
【0019】
直接脱硫重油は、組成物としての硫黄分規制値を満たしやすくする観点から、硫黄分が0.6質量%以下であってもよく、0.1~0.55質量%であってもよく、0.15~0.55質量%であってもよい。
【0020】
本明細書において、硫黄分とは、JIS K2541-4「原油及び石油製品-硫黄分試験方法 第4部:放射線式励起法」に従って測定される値を意味する。
【0021】
直接脱硫重油は、4ヶ月間の長期の貯蔵安定性を確保しやすくする観点から、潜在セジメントが0.0~0.20質量%であってもよく、0.0~0.17質量%であってもよく、0.0~0.12質量%であってもよい。
【0022】
本明細書において、潜在セジメントとは、ISO 10307-2(2009)に従って測定される値を意味する。
【0023】
直接脱硫重油は、十分な発熱量を確保しやすくする観点から、15℃における密度が、0.9001~0.9423g/cmであってもよく、0.9107~0.9391g/cmであってもよく、0.9213~0.9359g/cmであってもよい。
【0024】
本明細書において、15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に従って測定される値を意味する。
【0025】
直接脱硫重油は、最終的な組成物としての望ましい動粘度を確保しやすくする観点から、50℃における動粘度が、20.0~874mm/sであってもよく、30.0~874mm/sであってもよく、33.6~874mm/sであってもよい。
【0026】
本明細書において、50℃における動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に従って測定される値を意味する。
【0027】
直接脱硫重油は、セジメント生成を抑制し長期の貯蔵安定性を確保しやすくする観点から、芳香族分が、17~40質量%であってもよく、17.3~35.5質量%であってもよく、20.0~35.0質量%であってもよく、23.0~32.0質量%であってもよい。
【0028】
本明細書において、直接脱硫重油の芳香族分は、JPI-5S-22-83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析法」に従って測定した値を意味する。
【0029】
直接脱硫重油は、燃焼性を確保しやすくする観点から、CCAIが、780~810であってもよく、785~805であってもよく、788~800であってもよい。
【0030】
本明細書において、CCAIは、下記式で算出される値を意味する。
CCAI=D-140.7log{log(V+0.85)}-80.6
ここで、Dは密度(kg/m@15℃)、Vは動粘度(mm/s@50℃)を示す。
【0031】
直接脱硫重油は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。基材Aが2種以上の直接脱硫重油からなる場合、基材Aが上述した性状を有していればよい。
【0032】
燃料組成物における基材Aの含有量は、最終的組成物としての必要な動粘度を確保しやすくする観点から、燃料組成物全量を基準として、50~99容量%であってもよく、55~95容量%であってもよく、55~90容量%であってもよい。
【0033】
次に、基材Bについて説明する。
【0034】
水素化分解重油は、常圧残油を減圧蒸留して得られる減圧軽油を水素化分解装置に供給して得られる重油留分である。水素化分解装置としては、例えば、重質な留出油を脱硫装置で硫黄分を除き、高温・高圧化で触媒を用いて水素により重質油をナフサ(ガソリン)、灯油、軽油留分に分解するプロセスを実施できるものを用いることができる。
【0035】
水素化分解軽油は、上記のプロセスにおいて得られる軽油留分である。
【0036】
水素化分解灯油は、上記のプロセスにおいて得られる灯油留分である。
【0037】
直接脱硫軽油は、常圧残油や減圧残油を脱硫して得られる軽油留分である。例えば、直接脱硫装置から得られる軽油を用いることができる。
【0038】
接触分解軽油及び接触分解灯油は、脱硫した減圧軽油および残さ油を分解触媒で分解反応を選択的に行うことにより得られる中間留分(灯軽油留分)である。例えば、重質油からガソリン、灯油、軽油等を製造するFCC(Fluid Catalytic Cracking)装置から得られる中間留分(灯軽油留分)を用いることができる。
【0039】
熱分解軽油は、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置の残さ油を分解して得られる軽油留分である。例えば、残さ油を分解する装置であるディレードコーカーから得られる軽油留分を用いることができる。ディレードコーカーとしては、残さ油を加熱炉コイルで急熱して、バッチ方式のドラムで液相熱分解反応させ、留出油を製造し、さらに脱硫して低硫黄にする方式のものが挙げられる。
【0040】
直留軽油及び直留灯油は、原油を蒸留分離して得られる中間留分(灯軽油留分)である。
【0041】
基材Bは、組成物としての硫黄分規制値を満たしやすくする観点から、硫黄分が、1.5質量%以下であってもよく、0.78質量%以下であってもよく、0.0~0.5質量%であってもよく、0.0~0.38質量%であってもよい。
【0042】
基材Bは、十分な発熱量を確保しやすくする観点から、15℃における密度が、0.8279~0.9500g/cmであってもよく、0.8300~0.9500g/cmであってもよく、0.8700~0.9500g/cmであってもよい。
【0043】
基材Bは、基材Aと混合して得られる最終燃料組成物が必要な動粘度範囲を満たしやすくする観点から、50℃における動粘度が、1.640~35.70mm/sであってもよく、1.65~31.00mm/sであってもよく、1.650~27.77mm/sであってもよい。
【0044】
基材Bは、芳香族分が、9.0~85.0容量%であってもよく、10.0~82.0容量%であってもよく、10.0~79.0容量%であってもよい。
【0045】
本明細書において、基材Bの芳香族分は、JPI-5S-49「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法で測定される値を意味する。ただし、水素化分解重油は、JPI-5S-22-83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析法」に従って測定される。基材Bが、芳香族分Ar1(質量%)の水素化分解重油を含む場合、Ar1(質量%)=Ar1(容量%)と近似して、基材Bの芳香族分(容量%)を算出する。
【0046】
基材Bは、燃焼性の観点から、CCAIが、775~903であってもよく、780~845であってもよく、789~845であってもよい。
【0047】
燃料組成物における基材Bの含有量は、基材Aと混合して得られる最終燃料組成物が必要な動粘度範囲を満たしやすくする観点から、燃料組成物全量を基準として、1.0~50.0容量%であってもよく、5.0~45.0容量%であってもよく、10.0~45.0容量%であってもよい。
【0048】
燃料組成物における基材A及び基材Bの合計含有量は、燃料組成物全量を基準として、80容量%以上であってもよく、100容量%であってもよい。
【0049】
本実施形態の燃料組成物は、燃料組成物の硫黄分規制を満たす観点から、硫黄分が0.5質量%以下であり、0.49質量%以下であってもよく、0.48質量%以下であってもよい。
【0050】
本実施形態の燃料組成物は、エンジンへのダメージを回避する観点から、50℃における動粘度が20mm/s以上であり、20.0~250.0mm/sであってもよく、20.0~216.0mm/sであってもよい。
【0051】
ところで、従来の残さ油主体で製造されていた舶用燃料油は120℃程度に加熱して使用されていたが、一部の内航船舶ではこの加熱温度を120℃以下にコントロールできないものが存在する。本実施形態の燃料組成物は、上記の動粘度を有することにより、そのような船舶においても、従来と同様に120℃又はこれを超える温度に加熱しても動粘度を2mm/s以上に保つことができ、エンジンへのダメージを回避することができる。
【0052】
本実施形態の燃料組成物は、燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たすことができる。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す]
【0053】
芳香族分がAr(質量%)である直接脱硫重油を含む燃料組成物の全芳香族分a(容量%)は、Ar(質量%)=Ar(容量%)と近似して算出する。燃料組成物が水素化分解重油を含む場合についても同様にして燃料組成物の全芳香族分a(容量%)を算出する。
【0054】
本実施形態においては、下記式(A)~(C)から算出される貯蔵安定性指数Yが、0.19以下であってもよく、0.00~0.18であってもよく、0.0~0.17であってもよい。
Y=B(s)・a+C(s) …(A)
B(s)=-0.1007s+0.065s-0.0107 …(B)
C(s)=1.2324s-0.6297s+0.4204 …(C)
上記式中、aは、燃料組成物の全芳香族分(容量%)を示し、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。
【0055】
また、本実施形態の燃料組成物は、セジメント生成を抑制し、長期の貯蔵安定性を確保しやすくする観点から、全芳香族分が21.5~70容量%であってもよく、22.0~50.0容量%であってもよく、23.1~41.6容量%であってもよい。
【0056】
本実施形態の燃料組成物は、燃焼性の観点から、CCAIが、771~836であってもよく、784~832であってもよく、796~827であってもよい。
【0057】
本実施形態の燃料組成物は、船舶用等の内燃機関用燃料油、電力、化学、紙パルプ工業等のボイラー用の燃料油として用いることができる。
【0058】
また、本実施形態の燃料組成物は、C重油相当の重油組成物として利用することができる。
【0059】
<燃料組成物の製造方法>
本実施形態の燃料組成物の製造方法は、直接脱硫重油である基材Aと、水素化分解重油、水素化分解軽油、水素化分解灯油、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、直留軽油、接触分解灯油、及び直留灯油からなる群より選択される少なくとも1種の基材Bと、を、燃料組成物の全芳香族分a(容量%)が下記式(1)を満たし、燃料組成物の硫黄分が0.5質量%以下となり、燃料組成物の50℃における動粘度が20mm/s以上となるように配合する工程を備える。
a×(-0.1007s+0.065s-0.0107)+(1.2324s-0.6297s+0.4204)≦0.19 …(1)
[式(1)中、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。]
【0060】
上記工程は、
配合前の基材Aの潜在セジメント(質量%)、芳香族分(質量%)、硫黄分及び50℃における動粘度を測定するステップS1と、
配合前の基材Bの芳香族分(容量%)、硫黄分及び50℃における動粘度を測定するステップS2と、
ステップS1で得られた潜在セジメントs(質量%)及び上記式(1)から、燃料組成物の全芳香族分a(容量%)の下限値aminを求めるステップS3と、
ステップS1で得られた基材Aの芳香族分(質量%)、硫黄分及び50℃における動粘度、並びに、ステップS2で得られた基材Bの芳香族分(容量%)、硫黄分及び50℃における動粘度に基づいて、燃料組成物の硫黄分が0.5質量%以下、50℃における動粘度が20mm/s以上、且つ、全芳香族分a(容量%)が下限値amin以上となるように、基材A及び基材Bの配合割合を設定するステップS4と、
を含むことができる。
【0061】
基材A及び基材Bは上述した燃料組成物における基材A及び基材Bと同様のものを用いることができる。
【0062】
また、上記ステップS4において、燃料組成物の全芳香族分a(容量%)及び直接脱硫重油の潜在セジメントs(質量%)と上記式(A)~(C)から算出される貯蔵安定性指数Yが、0.19以下、0.00~0.18、又は0.00~0.17となるように基材A及び基材Bの配合割合を設定してもよい。
【0063】
全芳香族分a(容量%)が上記式(1)を満たし、硫黄分が0.5質量%以下となり、50℃における動粘度が20mm/s以上となる燃料組成物を効率よく製造する観点から、基材Aは、潜在セジメントが0.20質量%以下であり、50℃における動粘度が20.0mm/s以上であり、芳香族分が17.3~35.5質量%であり、基材Bは、硫黄分が0.78質量%以下であるものを用いることができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<燃料油組成物の製造>
(実施例1~13、比較例1)
表1~2に記載の基材を表3~4に記載の配合割合(容量%)で混合して、燃料組成物をそれぞれ得た。なお、表1~4に記載されている性状等は下記のように測定した。
【0066】
潜在セジメント: ISO 10307-2(2009)に従って測定した。
【0067】
硫黄分:JIS K2541-4「原油及び石油製品-硫黄分試験方法 第4部:放射線式励起法」に従って測定した。
【0068】
密度(15℃):JIS K 2249「原油及び石油製品-密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に従って測定した。
【0069】
動粘度(50℃):JIS K 2283「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に従って測定した。
【0070】
基材の芳香族分:直接脱硫重油及び水素化分解重油については、JPI-5S-22-83「アスファルトのカラムクロマトグラフィー法による組成分析法」に従って芳香族分(質量%)を測定し、この値を容量%として用いた。
他の基材については、JPI-5S-49「石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフ法で芳香族分(容量%)を測定した。
【0071】
全芳香族分a:上記で得られる各基材の芳香族分及び各基材の配合割合に基づく加重平均値を算出し、全芳香族分aとした。
【0072】
CCAI:次式で算出される。
CCAI=D-140.7log{log(V+0.85)}-80.6
ここで、Dは密度(kg/m@15℃)、Vは動粘度(mm/s@50℃)を示す。
【0073】
得られる燃料組成物について、下記式(A)~(C)から算出される貯蔵安定性指数Yを表に示した。
Y=B(s)・a+C(s) …(A)
B(s)=-0.1007s+0.065s-0.0107 …(B)
C(s)=1.2324s-0.6297s+0.4204 …(C)
上記式中、aは、燃料組成物の全芳香族分(容量%)を示し、sは、直接脱硫重油の潜在セジメント(質量%)を示す。
【0074】
<燃料組成物の貯蔵安定性>
燃料組成物を60℃で4ヶ月間貯蔵し、貯蔵後の燃料組成物についてISO 10307-1(2009)に従って実在セジメントを測定した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
貯蔵安定性指数Yが0.19以下となるように配合された実施例1~13の燃料組成物は、60℃で4ヶ月間貯蔵した後の実在セジメントが0.002~0.19質量%であり、貯蔵安定性に優れていることが確認された。
【0080】
また、実施例1~13の燃料組成物においては、実在セジメントが貯蔵安定性指数Y以下となっており、本発明によれば、直接脱硫重油の潜在セジメントに応じて全芳香族分を調整した燃料油組成物を製造することで、得られる燃料組成物の貯蔵安定性を予測管理することが可能となる。なお、CCAIが燃料油の芳香族性を表すことは知られている。しかし、実施例3及び実施例7と同等のCCAIを有するが、潜在セジメントs及び全芳香族分aに基づき算出される貯蔵安定性指数Yが0.232である比較例1は、実施例3及び実施例7と比較して実在セジメントが多くなっており、セジメントの発生を抑制する管理においては、本願発明に係る貯蔵安定性指数YがCCAIよりも優れているといえる。