(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20241112BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20241112BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20241112BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20241112BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20241112BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241112BHJP
C09D 125/06 20060101ALI20241112BHJP
C09D 165/00 20060101ALI20241112BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20241112BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20241112BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20241112BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08J3/02 A CET
C08J3/02 A CEZ
C08J7/044
C08L25/18
C08L65/00
C09D5/24
C09D7/20
C09D125/06
C09D165/00
H01B1/12 F
H01B1/20 A
H01B5/14 A
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
(21)【出願番号】P 2020140071
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝則
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171920(JP,A)
【文献】特開2010-090397(JP,A)
【文献】特開2008-171761(JP,A)
【文献】国際公開第2014/155421(WO,A1)
【文献】特開2013-152850(JP,A)
【文献】特開2014-72044(JP,A)
【文献】特開2005-206839(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107082873(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109734932(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102408574(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/02
C08J 7/044
C08L 25/18
C08L 65/00
C09D 5/24
C09D 7/20
C09D 125/06
C09D 165/00
H01B 1/12
H01B 1/20
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液で、前記モノマーを重合して、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含む導電性高分子分散液を得た後、前記導電性高分子分散液を分散処理することを含
み、前記分散処理において、得られた導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時の、25℃における粘度が35cP以上45cP以下となるように分散する導電性高分子分散液の製造方法
であって、
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸であり、
前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)であり、前記ポリアニオンの重量平均分子量Mwが20万以上100万以下であり、
前記分散処理を行う前の前記導電性高分子分散液を14℃以上25℃以下に調整した第一の容器に保持し、前記第一の容器から前記導電性高分子分散液を分散機本体に徐々に導入して、前記導電性高分子分散液中に高速のせん断力を生じさせることにより前記分散処理を行い、
前記分散処理を行っている間の前記導電性高分子分散液の液温を14℃以上25℃以下に調整し、
前記分散処理を行った前記導電性高分子分散液を前記分散機本体から14℃以上25℃以下に調整した第二の容器へ順次導出して捕集する、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記分散処理を経た前記導電性高分子分散液中の前記導電性複合体の濃度を0.13質量%に調整した時の、25℃における粒度が500nm未満である、請求項1に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により前記導電性高分子分散液を製造する工程と、
フィルム基材の少なくとも一方の面に、
前記導電性高分子分散液、又は
前記導電性高分子分散液及び水溶性有機溶剤を含む塗料を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液及びその製造方法、塗料、並びに導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、π共役系導電性高分子にポリアニオンがドープした導電性複合体を含む導電性高分子分散液を使用することがある。例えば、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は水に対して分散し難いが、これにポリスチレンスルホン酸がドープしてPEDOT-PSSを形成することにより、水に対する分散性が高まる。特許文献1には、導電性複合体を水に分散させた後、180日以上経過させることにより、導電性複合体の親水性を向上させたり、エポキシ化合物に対する反応性を向上させたりする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、導電性複合体にエポキシ化合物を反応させた後、有機溶剤に溶解した塗料とすることにより、疎水性のフィルム基材に対する濡れ性を高めている。このように導電性複合体をエポキシ化合物との反応によって疎水化しない場合、導電性高分子分散液にアルコール等の水溶性有機溶剤を添加して、フィルム基材に対する濡れ性を高めることが通常行われる。しかし、水溶性有機溶剤を添加した塗料中における導電性複合体の分散安定性は必ずしも高くなく、水溶性有機溶剤の添加後に数十時間で分散性が低下することがある。分散性が低下した塗料を塗布して形成される導電層の導電性も低下する。このため、分散処理を行った導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を添加して塗料を得た後、その塗料中における導電性複合体の分散性を維持することが求められている。
【0005】
そこで、本発明者は、塗料を調製する前の導電性高分子分散液の段階で分散処理を工夫することにより、導電性複合体の分散性を高めた導電性高分子分散液を得る方法、及び、水溶性有機溶剤を添加して塗料とした後でも導電性複合体の分散性の経時的な低下が抑制される導電性高分子分散液を製造する方法を鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、分散処理後の安定性が向上した導電性高分子分散液及びその製造方法を提供する。また、前記導電性高分子分散を含む塗料と、前記導電性高分子分散液又は前記塗料を用いた導電性フィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有し、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)であり、前記ポリアニオンの重量平均分子量Mwが20万以上100万以下である導電性高分子分散液であって、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時の、25℃における粘度が35cP以上45cP以下である、導電性高分子分散液。
[2] 前記導電性複合体の濃度を0.13質量%に調整した時の、25℃における粒度が500nm未満である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] [1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液と、水溶性有機溶剤とを含む、塗料。
[5] 前記水溶性有機溶剤がメタノール及びイソプロパノールの少なくとも一方を含む、[4]に記載の塗料。
[6] π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液で、前記モノマーを重合して、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含む導電性高分子分散液を得た後、前記導電性高分子分散液を分散処理することを含む導電性高分子分散液の製造方法であって、前記分散処理において、得られた導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時の、25℃における粘度が35cP以上45cP以下となるように分散する、導電性高分子分散液の製造方法。
[7] 前記分散処理を行っている間の前記導電性高分子分散液の液温を14℃以上25℃以下に調整する、[6]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[8] 前記分散処理を行う前の前記導電性高分子分散液を14℃以上25℃以下に調整した第一の容器に保持し、前記第一の容器から前記導電性高分子分散液を分散機本体に徐々に導入して前記分散処理を行い、前記分散処理を行った前記導電性高分子分散液を前記分散機本体から14℃以上25℃以下に調整した第二の容器へ順次導出して捕集する、[6]又は[7]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[9] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液、又は[4]若しくは[5]に記載の塗料を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[10] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液、又は[4]若しくは[5]に記載の塗料の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性高分子分散液にあっては、所定条件で測定されたときの粘度が特定の範囲にあることにより、分散安定性が向上している。
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、上記のように分散安定性が高められた導電性高分子分散液を、容易に製造することができる。
本発明の塗料によれば、導電性複合体の分散安定性が向上しているので、塗料を作製して1日以上静置した後においても導電性が良好な導電層を形成することができる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性が良好な導電層を備えた導電性フィルムを容易に形成することができる。
【0009】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有し、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)であり、前記ポリアニオンの重量平均分子量Mwが20万以上100万以下である導電性高分子分散液であって、前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時の、25℃における粘度が35cP以上45cP以下である、導電性高分子分散液である。
【0012】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0015】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは、20万以上100万以下であり、30万以上100万以下が好ましく、40万以上100万以下がより好ましく、50万以上100万以下がさらに好ましく、60万以上100万以下が一層好ましく、70万以上100万以下がより一層好ましく、80万以上100万以下が特に好ましく、90万以上100万以下が最も好ましい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として求めた質量基準の平均分子量(質量平均分子量と呼んでもよい)である。
重量平均分子量Mwが上記の好適な範囲であると、本態様の導電性高分子分散液および後述する第二態様の塗料における導電性複合体の分散安定性がより向上する。
【0016】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0017】
前記導電性複合体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:2)~(1:5)であり、(1:2)~(1:4.5)が好ましく、(1:2)~(1:4)がより好ましく、(1:2)~(1:3)がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンによるドープ効果が充分に発揮され、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
上記範囲の上限値以下であると、導電性が優れた導電層を形成することができる。
【0018】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下が特に好ましい。
上記範囲であると、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
【0019】
本態様の導電性高分子分散液の25℃における粘度は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時に、35cP以上45cP以下である。
上記粘度の測定の際、前記導電性高分子分散液に含まれる分散媒はイオン交換水のみであることが好ましい。また、前記導電性複合体以外の添加剤を含まないことが好ましい。
上記粘度の測定は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して、25℃で測定された値である。
上記粘度の範囲は、35~45cPが好ましく、38~42cPがより好ましい。これらの好適な範囲であると、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
【0020】
本態様の導電性高分子分散液の25℃における粒度は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を0.13質量%に調整した時に、500nm未満であることが好ましく、300nm以上480nm以下が好ましく、350nm以上460nm以下がより好ましく、380nm以上440nm以下がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
上記粒度の測定の際、前記導電性高分子分散液に含まれる分散媒はイオン交換水のみであることが好ましい。また、前記導電性複合体以外の添加剤を含まないことが好ましい。
上記粒度は、動的光散乱法によって、キュムラント平均粒径を測定した値として求められる。
【0021】
≪塗料≫
本発明の第二態様は、第一態様の導電性高分子分散液と、水溶性有機溶剤とを含む、塗料である。本態様の塗料において、前記導電性複合体は分散状態にある。
【0022】
本態様の塗料は、水と水溶性有機溶剤とを含む。水と水溶性有機溶剤の混合液を水系分散媒ということがある。
【0023】
水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
本態様の塗料のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましく、アルコール系溶剤がより好ましい。
【0024】
水系分散媒の総質量に対する水溶性有機溶剤の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。前記水溶性有機溶剤の含有量は、90質量%以下が好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様の塗料における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制しつつ、フィルム基材に対する濡れ性を向上させることができる。
【0025】
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましく、25質量%以上35質量%以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様の塗料における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制しつつ、フィルム基材に対する濡れ性を向上させることができる。
【0026】
本態様の塗料の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.005質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましく、0.03質量%以上0.05質量%以下が特に好ましい。
上記の好適な範囲であると、本態様の塗料における導電性複合体の分散安定性の低下を抑制することができ、フィルム基材に塗工して良好な導電性の導電層を形成することができる。
【0027】
<バインダ成分>
本態様の塗料は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0028】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の塗料が含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0029】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、本態様の塗料をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0030】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0031】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0032】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0033】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0034】
本態様の塗料におけるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、本態様の塗料をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であれば、導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0035】
(その他の添加剤)
本態様の塗料には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の塗料が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0036】
本態様の塗料は、第一態様の導電性高分子分散液に、水、水溶性有機溶剤、バインダ成分、その他の添加剤等を適宜添加し、常法により混合して製造することができる。
【0037】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
本発明の第三態様は、π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、ポリアニオンと、水とを含む反応液で、前記モノマーを重合して、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含む導電性高分子分散液を得た後、前記導電性高分子分散液を分散処理することを含む導電性高分子分散液の製造方法であって、前記分散処理において、得られた導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.3質量%に調整した時の、25℃における粘度が35cP以上45cP以下となるように分散する、導電性高分子分散液の製造方法である。
【0038】
前記モノマーと、前記ポリアニオンとを特定の含有比で含む水溶液(前記反応液)を調製し、前記モノマーを重合させることにより、π共役系導電性高分子を形成する。前記反応液において、π共役系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、π共役系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。形成された導電性複合体に含まれる、π共役系導電性高分子:ポリアニオンの含有比(質量基準)は、前記水溶液中に重合開始直前に含まれていた前記モノマーの含有量と、前記ポリアニオンの含有量の比率と同じである。つまり、前記反応液中に配合したモノマーとポリアニオンの含有比が、形成した導電性複合体におけるπ共役系導電性高分子とポリアニオンの含有比に反映される。
【0039】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:2)~(1:5)であり、(1:2)~(1:4.5)が好ましく、(1:2)~(1:4)がより好ましく、(1:2)~(1:3)がさらに好ましい。
上記範囲であると、前述した第一態様の導電性高分子分散液を容易に形成することができる。
【0040】
前記反応液には触媒を添加してもよい。前記触媒は、前記モノマーを重合させるものであれば特に制限されず、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。なかでも、室温におけるモノマーの重合が安定に進むことから、鉄を含む触媒を使用することが好ましい。
前記触媒とともに、酸化剤を含有させることが好ましい。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
【0041】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記モノマーの含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が安定に進み、導電性の良い導電性複合体を容易に得ることができる。
【0042】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記触媒の含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.001質量%以上2質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が安定に進み、導電性の良い導電性複合体を容易に得ることができる。
【0043】
重合開始直前の前記反応液に含まれる前記ポリアニオンの含有量は、前記モノマーに対する前記含有比に基づいて設定されることが好ましい。
【0044】
前記反応液に含有させるポリアニオンの重量平均分子量Mwは20万以上100万以下とすることが好ましい。つまり、前記反応液において前記ポリアニオンの重量平均分子量は変化しないことが好ましい。
特定の重量平均分子量Mwのポリアニオンを合成する方法として、例えば、後述する実施例で示すように、ポリアニオンを構成するモノマーを重合する酸化剤の添加量を調整することにより重量平均分子量Mwを調整することができる。具体的には、酸化剤の濃度を高くすると、モノマーの重合により形成されるポリアニオンの重量平均分子量を小さくすることができる。この方法により、例えば、重量平均分子量Mwが10万以上120万以下のポリスチレンスルホン酸を得ることができる。
【0045】
以上の方法により、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有し、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)であり、前記ポリアニオンの重量平均分子量Mwが20万以上100万以下である導電性高分子分散液が得られる。
【0046】
次に、導電性高分子分散液を分散機にて分散することにより、第一態様の導電性高分子分散を容易に得ることができる。
【0047】
本態様で使用する分散機としては、例えば、分散試料を貯留するホールディングタンク(第一の容器)から、分散試料の一部を取り出して分散機本体へ送り込み、分散した後、別のタンク(捕集窯;第二の容器)に回収する分散機が挙げられる。
【0048】
本態様の導電性高分子分散液の製造方法において、分散処理を行う導電性高分子分散液の温度を制御することにより、目的の粘度や粒度を備えた導電性高分子分散液を得ることが容易になる。
【0049】
第一態様で説明した粘度や粒度を備えた導電性高分子分散液を得る観点から、分散処理に供する導電性高分子分散液の液温(入口温度)、分散中の導電性高分子分散液の液温、及び前記分散機の本体(分散試料が撹拌される中心部)から吐出される導電性高分子分散液の液温(出口温度)を14℃以上25℃以下に調整することが好ましく、15℃以上20℃以下に調整することがより好ましい。この際、分散処理を行った後の捕集窯内に貯留する分散試料の温度(窯内溶液温度)も同様に14℃以上25℃以下に調整することが好ましく、15℃以上20℃以下に調整することがより好ましい。
【0050】
上記温度設定にて分散機で導電性高分子分散液を分散する場合、分散処理の時間は特に制限されず、分散した導電性高分子分散液の粘度や粒度をモニターしながら、目的の粘度や粒度に達するまで分散処理を繰り返せばよい。
【0051】
上記のように分散中及び分散前後の導電性高分子分散液の温度制御が容易になることから、本態様における分散処理は次のように行うことが好ましい。すなわち、前記分散処理を行う前の前記導電性高分子分散液を14℃以上25℃以下に調整した第一の容器に保持し、前記第一の容器から前記導電性高分子分散液を分散機本体に徐々に導入して前記分散処理を行い、前記分散処理を行った前記導電性高分子分散液を前記分散機本体から14℃以上25℃以下に調整した第二の容器へ順次導出して捕集することが好ましい。
第一の容器に保持した導電性高分子分散液を少しずつ分散機本体へ送り込んで分散するとともに、分散機本体から分散処理後の導電性高分子分散液を少しずつ第二の容器に回収することによって、分散処理における液温と分散度の制御がより確実となる。なお、1回の分散処理(1パス)で不充分な場合は、再度同じように分散処理を行ってもよい。
【0052】
以上の方法により、第一態様の導電性高分子分散液を得ることができる。
なお、分散処理終了後の分散液が第一態様の導電性高分子分散液であるために、分散処理に供する導電性高分子分散液の分散媒は、前述したように水又は水系分散媒であることが好ましく、水であることがより好ましい。
【0053】
分散処理に供する導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0054】
分散処理に供する導電性高分子分散液から、前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を、分散処理を行う前に予め除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0055】
≪導電性フィルム及びその製造方法≫
本発明の第三態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子分散液又は第二態様の塗料を塗工し、塗膜を形成する工程を有する導電性フィルムの製造方法である。
【0056】
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子分散液又は第二態様の塗料の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0057】
(導電性フィルム)
本態様の導電性フィルムが備える導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する。
フィルム基材に塗布した導電性高分子分散液が、バインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分若しくはバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、優れた導電性を示し、前記上限値以下であれば、フィルム基材から剥離し難い導電層となる。
導電層の平均厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0058】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子分散液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0059】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0060】
(塗工工程)
前記塗工工程において導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。
前記導電性高分子分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0061】
(乾燥工程)
前記塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
前記導電性高分子分散液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm2以上が好ましい。照度が100mW/cm2未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【実施例】
【0062】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として、上記で得たポリスチレンスルホン酸(PSS)の重量平均分子量Mwを測定した結果、重量平均分子量20万であった。
重量平均分子量の測定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ装置Prominenceを使用し、溶媒として0.1%NaNO3水溶液を使用し、カラムとしてShodex OHpack SB-806M HQを使用し、検出器としてRID-20Aを使用し、溶媒温度40℃に設定し、流速0.6ml/minに設定し、試料100μlを注入し、試料中のPSS濃度0.1質量%にして、解析ソフトウェアLabSolutions(島津製作所製)を使用して、行った。
次に、得られたポリスチレンスルホン酸10gをイオン交換水90gに溶解して10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0063】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸の製造
製造例1において1.14gの過硫酸アンモニウムを0.86gに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量50万の10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0064】
(製造例3)ポリスチレンスルホン酸の製造
製造例1において1.14gの過硫酸アンモニウムを0.57gに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量100万の10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0065】
(製造例4)ポリスチレンスルホン酸の製造
製造例1において1.14gの過硫酸アンモニウムを1.71gに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量10万の10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0066】
(製造例5)ポリスチレンスルホン酸の製造
製造例1において1.14gの過硫酸アンモニウムを0.29gに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量120万の10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0067】
(実施例1)
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1の重量平均分子量20万のポリスチレンスルホン酸水溶液1.5gと、イオン交換水89.5gとを混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、0.03gの硫酸第二鉄を4.97gのイオン交換水に溶かした酸化剤溶液と、1.1gの過硫酸アンモニウムを8.9gのイオン交換水に溶かした触媒溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、分散媒である水とを含む導電性高分子分散液を得た。ここで得た導電性複合体におけるPEDOT:PSS(質量比)=1:3である。
【0068】
この導電性高分子分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去された導電性高分子分散液を得た。ここで得た導電性高分子分散液における導電性複合体濃度は約1.7質量%である。
【0069】
得られた導電性高分子分散液を分散機であるパイプラインホモミクサー(プライミクス株式会社製)を用いて10000rpmの回転数で分散した。この際、分散機本体へ供給する前の導電性高分子分散液を貯留するホールディングタンク内温度(分散試料温度)を14℃に設定し、パイプラインホモミクサー(分散機本体)の冷却水温度を10℃として、出口温度14℃の導電性高分子分散液を得た。上記分散において、ホールディングタンク(第一の容器)に投入された導電性高分子分散液がパイプラインホモミクサー(分散機本体)へ徐々に供給されて分散された後、上記出口温度でパイプラインホモミクサーから順次吐出されて捕集窯(第二の容器)に捕集される。この分散処理の間、ホールディングタンク及び捕集窯の冷却水温を14℃として、導電性高分子分散液の温度を14℃としたまま全量分散した。
1パスの分散処理を経て得られた導電性高分子分散液の固形分(不揮発成分)を測定し、イオン交換水を加えて、固形分が1.3質量%になるように調整し、得られた導電性高分子分散液の粘度と粒度を後述の方法で測定した。その結果を表1Aに示す。
【0070】
次に、粘度及び粒度を測定した導電性高分子分散液1gに、イオン交換水6.5gと、メタノール7.5gと、イソプロパノール15gとを添加し、塗料を得た。
上記の塗料を、#4のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60)上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。ここで、製造直後の導電性フィルムの表面抵抗値を後述の方法で測定した。その結果を表1Aに示す。
続いて、上記の塗料を25℃で24時間放置した後、#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。ここで、製造直後の導電性フィルムの表面抵抗値を後述の方法で測定した。その結果を表1Aに示す。
【0071】
[粘度の測定方法]
上述のように水を分散媒とする濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を試料として、音叉振動式粘度計(型番:SV-10、A&D社製)を用い、25℃にてJIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定方法)に準拠して測定した。1Pa・s(パスカル秒)=1000cP(センチポアズ)として換算した。
【0072】
[粒度の測定方法]
上述のように水を分散媒とする濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を蒸留水で10倍に希釈したものを試料(つまり濃度0.13質量%)として、動的光散乱法によって、25℃でキュムラント平均粒径を測定した値である。(ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ-2000ZS、大塚電子社製)
【0073】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「1.0E+09」は「1.0×109」を意味し、他も同様である。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、製造例1のポリスチレンスルホン酸水溶液10gと、イオン交換水94.5gとを用いることにより、PEDOT:PSSの質量比を1:2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Aに示す。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、製造例1のポリスチレンスルホン酸水溶液25gと、イオン交換水79.5gとを用いることにより、PEDOT:PSSの質量比を1:5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Aに示す。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、製造例1のポリスチレンスルホン酸水溶液5gと、イオン交換水99.5gとを用いることにより、PEDOT:PSSの質量比を1:1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液の作製を試みた。しかし、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、塗料を作製できなかったので、中止した。
【0077】
(比較例2)
実施例1において、製造例1のポリスチレンスルホン酸水溶液37.5gと、イオン交換水67gとを用いることにより、PEDOT:PSSの質量比を1:7.5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Aに示す。
【0078】
<結果のまとめ(1)>
本発明に係る実施例1~3の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、分散機を用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、4倍以下に抑制されている。これと比べて、後述する比較例7~9では、R1/R0が12倍以上に上昇している。
比較例1では、PEDOT:PSSの質量比が低すぎるために、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、導電層を形成できなかった。
比較例2では、PEDOT:PSSの質量比が高すぎるために、導電層の導電性が測定不能なほどに高抵抗な膜となった。
【0079】
(実施例4~6、比較例3~4)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を15℃として、出口温度20℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を20℃としたこと以外は、実施例1~3、比較例1~2と同様に試験した。その結果を表1Aに示す。
【0080】
<結果のまとめ(2)>
本発明に係る実施例4~6の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、分散機を用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、3倍以下に抑制されている。これと比べて、後述する比較例7~9では、R1/R0が12倍以上に上昇している。
比較例3では、PEDOT:PSSの質量比が低すぎるために、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、導電層を形成できなかった。
比較例4では、PEDOT:PSSの質量比が高すぎるために、導電層の導電性が測定不能なほどに高抵抗な膜となった。
【0081】
(実施例7~9、比較例5~6)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を20℃として、出口温度25℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を25℃としたこと以外は、実施例1~3、比較例1~2と同様に試験した。その結果を表1Aに示す。
【0082】
<結果のまとめ(3)>
本発明に係る実施例7~9の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、分散機を用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、2倍以下に抑制されている。これと比べて、後述する比較例7~9では、R1/R0が12倍以上に上昇している。
比較例5では、PEDOT:PSSの質量比が低すぎるために、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、導電層を形成できなかった。
比較例6では、PEDOT:PSSの質量比が高すぎるために、導電層の導電性が測定不能なほどに高抵抗な膜となった。
【0083】
(比較例7~11)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を5℃として、出口温度10℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を10℃としたこと以外は、実施例1~3、比較例1~2と同様に試験した。その結果を表1Aに示す。
【0084】
<結果のまとめ(4)>
比較例7~9では、所定条件で測定したときの粘度が35cP未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が大きく上昇し、12倍以上に上昇している。
比較例10では、PEDOT:PSSの質量比が低すぎるために、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、導電層を形成できなかった。
比較例11では、PEDOT:PSSの質量比が高すぎるために、導電層の導電性が測定不能なほどに高抵抗な膜となった。
【0085】
【0086】
(比較例12~16)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を25℃として、出口温度30℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を30℃としたこと以外は、実施例1~3、比較例1~2と同様に試験した。その結果を表1Bに示す。
【0087】
<結果のまとめ(5)>
比較例12~14では、所定条件で測定したときの粘度が45cP超となっており、粒度が500nm以上になっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して導電層を形成することが可能であったが、調製後24時間放置した塗料では、PEDOT-PSSがゲル化しており、分散状態が劣化したので、中止した。
比較例15では、PEDOT:PSSの質量比が低すぎるために、PEDOT-PSSを充分に分散させることができず、導電層を形成できなかった。
比較例16では、PEDOT:PSSの質量比が高すぎるために、導電層の導電性が測定不能なほどに高抵抗な膜となった。
【0088】
(実施例10)
製造例2の重量平均分子量50万のポリスチレンスルホン酸水溶液15gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Bに示す。
【0089】
(実施例11)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を15℃として、出口温度20℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を20℃としたこと以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を表1Bに示す。
【0090】
(実施例12)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を20℃として、出口温度25℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を25℃としたこと以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を表1Bに示す。
【0091】
(比較例17)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を5℃として、出口温度10℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を10℃としたこと以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を表1Bに示す。
【0092】
(比較例18)
パイプラインホモミクサーの冷却水温度を25℃として、出口温度30℃の導電性高分子分散液を得て、ホールディングタンク及び捕集窯内溶液の温度を30℃としたこと以外は、実施例10と同様に試験した。その結果を表1Bに示す。
【0093】
<結果のまとめ(6)>
本発明に係る実施例10~12の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、分散機を用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、3倍以下に抑制されている。
比較例17では、所定条件で測定したときの粘度が35cP未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が10倍に上昇した。
比較例18では、所定条件で測定したときの粘度が45cP超となっており、粒度が500nm以上になっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して導電層を形成することは可能であったが、調製後24時間放置した塗料では、PEDOT-PSSがゲル化しており、分散状態が劣化したので、中止した。
【0094】
(実施例13~15、比較例19~20)
製造例3の重量平均分子量100万のポリスチレンスルホン酸水溶液を用いたこと以外は、実施例10~12、比較例17~18と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Bに示す。
【0095】
<結果のまとめ(7)>
本発明に係る実施例13~15の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、分散機を用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、1倍以下に抑制されている。
比較例19では、所定条件で測定したときの粘度が35cP未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が10倍に上昇した。
比較例20では、所定条件で測定したときの粘度が45cP超となっており、粒度が500nm以上になっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して導電層を形成することは可能であったが、調製後24時間放置した塗料では、PEDOT-PSSがゲル化しており、分散状態が劣化したので、中止した。
【0096】
(比較例21~23)
製造例4の重量平均分子量10万のポリスチレンスルホン酸水溶液を用いたこと以外は、実施例10~12と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Bに示す。
【0097】
<結果のまとめ(8)>
比較例21~23では、所定条件で測定したときの粘度が35cP未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が10倍以上に上昇した。
【0098】
(比較例24~26)
製造例5の重量平均分子量120万のポリスチレンスルホン酸水溶液を用いたこと以外は、実施例10~12と同様にして、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表1Bに示す。
【0099】
<結果のまとめ(9)>
比較例24~26では、所定条件で測定したときの粘度が45cP超となっており、粒度が500nm以上になっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して導電層を形成することは可能であったが、分散後24時間放置した後では、PEDOT-PSSがゲル化しており、分散状態が劣化したので、中止した。
【0100】
【0101】
(実施例16)
実施例1と同様にして、PEDOT-PSSを合成し、分散媒である水を含む導電性高分子分散液を調製して、イオン交換樹脂を用いて酸化剤及び触媒を除去した導電性高分子分散液を得た。
得られた導電性高分子分散液を、ナノヴェイタ(吉田機械興業株式会社製)を用いて分散した。ナノヴェイタは、流体をノズル(微小孔)に高速・高圧で通過させることにより、通過した流体に発生する乱流のせん断力を利用し、流体中の微粒子を分散するホモジナイズ装置である。ノズルにおける分散圧力は150MPaに設定した。ノズルに供給する前の導電性高分子分散液を貯留するホールディングタンク内温度(分散試料温度)を14℃に設定し、ノズル周囲の冷却水温(ホモジナイザー冷却水温)を10℃に設定し、ノズルから吐出された導電性高分子分散液の出口温度及びこれを捕集する窯内温度(窯内溶液温度)を14℃に設定して、1パスの分散処理を行った。
分散処理を経て得られた導電性高分子分散液の固形分(不揮発成分)を測定し、イオン交換水を加えて、固形分が1.3質量%になるように調整し、得られた導電性高分子分散液の粘度と粒度を前述の方法で測定した。その結果を表2に示す。
また、分散処理を経て得られた導電性高分子分散液を用いて、実施例1と同様にして塗料を調製し、2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0102】
(実施例17)
前記ホールディングタンク内温度(分散試料温度)を20℃に設定し、ナノヴェイタのノズル周囲の冷却水温(ホモジナイザー冷却水温)を15℃に設定し、ノズルから吐出された導電性高分子分散液の出口温度及びこれを捕集する窯内温度(窯内溶液温度)を20℃に設定して、1パスの分散処理を行ったこと以外は、実施例16と同様にして、導電性高分子分散液を得て塗料を調製し、さらに2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0103】
(実施例18)
前記ホールディングタンク内温度(分散試料温度)を25℃に設定し、ナノヴェイタのノズル周囲の冷却水温(ホモジナイザー冷却水温)を20℃に設定し、ノズルから吐出された導電性高分子分散液の出口温度及びこれを捕集する窯内温度(窯内溶液温度)を25℃に設定して、1パスの分散処理を行ったこと以外は、実施例16と同様にして、導電性高分子分散液を得て塗料を調製し、さらに2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0104】
(比較例27)
前記ホールディングタンク内温度(分散試料温度)を10℃に設定し、ナノヴェイタのノズル周囲の冷却水温(ホモジナイザー冷却水温)を5℃に設定し、ノズルから吐出された導電性高分子分散液の出口温度及びこれを捕集する窯内温度(窯内溶液温度)を10℃に設定して、1パスの分散処理を行ったこと以外は、実施例16と同様にして、導電性高分子分散液を得て塗料を調製し、さらに2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0105】
(比較例28)
前記ホールディングタンク内温度(分散試料温度)を30℃に設定し、ナノヴェイタのノズル周囲の冷却水温(ホモジナイザー冷却水温)を25℃に設定し、ノズルから吐出された導電性高分子分散液の出口温度及びこれを捕集する窯内温度(窯内溶液温度)を30℃に設定して、1パスの分散処理を行ったこと以外は、実施例16と同様にして、導電性高分子分散液を得て塗料を調製し、さらに2回に分けて導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。その結果を表2に示す。
【0106】
<結果のまとめ(10)>
本発明に係る実施例16~18の導電性高分子分散液にあっては、PEDOT:PSSの質量比が1:2~1:5であり、PEDOT-PSSのPSSの重量平均分子量Mwが20万~100万の範囲であり、ナノヴェイタを用いて所定温度で分散したものであるので、所定条件で測定したときの粘度が35cP~45cPとなり、粒度が500nm未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が優れており、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が低減され、4倍以下に抑制されている。
比較例27では、所定条件で測定したときの粘度が35cP未満となっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R0と比べて、調製後24時間放置した塗料を塗布して形成した導電層の表面抵抗値R1の上昇(R1/R0)が30倍に上昇した。
比較例28では、所定条件で測定したときの粘度が45cP超となっており、粒度が500nm以上になっている。このため、導電性高分子分散液の分散安定性が劣り、調製した直後の塗料を塗布して導電層を形成することは可能であったが、調製後24時間放置した後では、PEDOT-PSSがゲル化しており、分散状態が劣化したので、中止した。
【0107】