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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】端子及び端子対
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/11 20060101AFI20241112BHJP
   H01R 13/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01R13/11 A
H01R13/11 C
H01R13/04 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020149894
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044326
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】弓立 隆博
【審査官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153687(JP,A)
【文献】特開2015-210949(JP,A)
【文献】特開2006-172877(JP,A)
【文献】特開2015-210862(JP,A)
【文献】特開2008-210755(JP,A)
【文献】特開2017-134933(JP,A)
【文献】特開2019-071176(JP,A)
【文献】特開2003-229193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/00-13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手側端子に接触して導通されることになる接点部を有する端子であって、
前記接点部は、
前記相手側端子に面することになる凸状に湾曲した表面領域に環状に開口する空洞を画成する空洞箇所を有し、前記相手側端子と導通接続されるとき、前記空洞箇所の開口周縁の少なくとも一部が前記相手側端子に押圧接触することになる、ように構成され、
前記接点部は、
前記相手側端子に向けて突出し且つ前記空洞箇所を有する突起部と、前記空洞箇所の前記開口周縁の全体が前記相手側端子に押圧接触するように前記突起部を前記相手側端子に対して弾性的に押圧するバネ部と、を有し、
前記突起部は、前記相手側端子に面する側の面である表面において前記相手側端子に向けて半球状に突出し且つ前記相手側端子と反対側の面である裏面において前記相手側端子に向けて半球状に窪む部分であり、
前記突起部の頂部の前記表面には、前記相手側端子から遠ざかる側に円柱状に延びて窪む前記空洞箇所としての凹部が、前記突起部の中心軸心と同軸的に位置するように形成され、前記突起部の前記頂部の前記裏面は、前記相手側端子に近付く向きに窪むように湾曲している、
端子。
【請求項2】
請求項1に記載の端子において、
前記バネ部は、固定端から自由端側へ向けて延び且つ前記自由端側に向かうほど前記相手側端子に近付く向きに傾斜する平板状の第1平板部と、前記自由端から前記固定端側へ向けて延び且つ前記固定端側に向かうほど前記相手側端子に近付く向きに傾斜する平板状の第2平板部と、前記第1平板部及び前記第2平板部を連結すると共に前記相手側端子側に突出する曲板形状の連結部と、からなり、
前記突起部は、前記連結部に形成されている、
端子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の端子と、平板状の形状の板状部を有する相手側端子と、を備える端子対であって、
前記端子が有する前記接点部は、
前記端子と前記相手側端子とが導通接続されるとき、前記空洞箇所の前記開口周縁の少なくとも一部が前記相手側端子の前記板状部に押圧接触する、ように構成される、
端子対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手側端子に接触して導通されることになる接点部を有する端子、及び、その端子を用いる端子対に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、平板状の形状を有する相手側端子(例えば、オス端子)に押圧接触する接点部を有する端子(例えば、メス端子)が提案されている。この種の端子では、一般に、実際の使用時には、端子を構成するメッキ等の摩耗粉が端子の接点部と相手側端子との間に介在することで接触抵抗が大きくなり、端子と相手側端子との間の導通性能が低下することが知られている。そこで、従来の端子の一つでは、端子の接点部に複数の微小な角柱状の突起を設けることで、上述した摩耗粉を端子の接点部から排除するようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-266990号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】R.Holm著 「Electric Contacts」 Springer-Verlag Berlin Heidelberg出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、突起状の接点部(いわゆるインデント部)を有する端子を相手側端子に押し付けて接点部における導通接続を図る場合、通常、突起部の頂点において生じる面間圧力が最も大きく、突起部の頂点から離れるにつれて、面間圧力が徐々に小さくなる。そのため、突起部と相手側端子との摺動摩擦等に起因して突起部の頂点近傍で生じた摩耗粉は、面間圧力が小さくなる向きに徐々に押し出されることで、突起部の頂点を取り囲むように堆積する。このような堆積状態を考慮すれば、摩耗粉は、実際には突起部を介した導通には大きな影響を及ぼさないようにも思われる。
【0006】
しかし、発明者が行った更に詳細な考察によれば、以下の点が明らかになった。電流密度式等(非特許文献1を参照)を考慮すれば、このような突起部を介した導通では、突起部の頂点の電流密度よりも、突起部の外周部の電流密度が高い。換言すると、突起部の外周部を通じた導通の寄与度が高い。そのため、上述したように突起部の頂点の周りに摩耗粉が堆積していると、本来であれば高い電流密度での導通がなされるはずの突起部の外周部において、摩耗粉が導通に悪影響を及ぼすことになる。なお、この現象は、突起状の接点部に限らず、面間圧力が最大となる箇所から周辺に向けて徐々に低下するような形状を有する接点部においても、同様に生じると考えられる。このような観点から、端子間の導通への実際の寄与度が高い箇所への摩耗粉の堆積を考慮した上で、端子の形状等を定めることが望ましい。
【0007】
本発明の目的の一つは、導通性能に優れた端子、及び、その端子を用いた端子対の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る端子および端子対は、下記[1]~[3]を特徴としている。
[1]
相手側端子に接触して導通されることになる接点部を有する端子であって、
前記接点部は、
前記相手側端子に面することになる凸状に湾曲した表面領域に環状に開口する空洞を画成する空洞箇所を有し、前記相手側端子と導通接続されるとき、前記空洞箇所の開口周縁の少なくとも一部が前記相手側端子に押圧接触することになる、ように構成され、
前記接点部は、
前記相手側端子に向けて突出し且つ前記空洞箇所を有する突起部と、前記空洞箇所の前記開口周縁の全体が前記相手側端子に押圧接触するように前記突起部を前記相手側端子に対して弾性的に押圧するバネ部と、を有し、
前記突起部は、前記相手側端子に面する側の面である表面において前記相手側端子に向けて半球状に突出し且つ前記相手側端子と反対側の面である裏面において前記相手側端子に向けて半球状に窪む部分であり、
前記突起部の頂部の前記表面には、前記相手側端子から遠ざかる側に円柱状に延びて窪む前記空洞箇所としての凹部が、前記突起部の中心軸心と同軸的に位置するように形成され、前記突起部の前記頂部の前記裏面は、前記相手側端子に近付く向きに窪むように湾曲している、
端子であること。
[2]
上記[1]に記載の端子において、
前記バネ部は、固定端から自由端側へ向けて延び且つ前記自由端側に向かうほど前記相手側端子に近付く向きに傾斜する平板状の第1平板部と、前記自由端から前記固定端側へ向けて延び且つ前記固定端側に向かうほど前記相手側端子に近付く向きに傾斜する平板状の第2平板部と、前記第1平板部及び前記第2平板部を連結すると共に前記相手側端子側に突出する曲板形状の連結部と、からなり、
前記突起部は、前記連結部に形成されている、
端子であること。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載の端子と、平板状の形状の板状部を有する相手側端子
と、を備える端子対であって、
前記端子が有する前記接点部は、
前記端子と前記相手側端子とが導通接続されるとき、前記空洞箇所の前記開口周縁の少
なくとも一部が前記相手側端子の前記板状部に押圧接触する、ように構成される、
端子対であること。
【0009】
上記[1]及び上記[2]の構成の端子によれば、端子の接点部の凸状に湾曲した表面領域に環状に開口する空洞を画成する空洞箇所を設け、空洞箇所の開口周縁の少なくとも一部を相手側端子に押圧接触させる。これにより、空洞箇所が無く凸状に湾曲した端子表面がそのまま相手側端子に接触する場合に比べ、実際に電流密度が高く導通に寄与する箇所(即ち、空洞箇所の開口周縁)での面間圧力が高まる。その結果、導通に寄与する箇所(即ち、空洞箇所の開口周縁)から離れるように摩耗粉を押し出すことで、その箇所への摩耗粉の堆積を抑制できる。よって、長期間にわたって端子を使用しても、優れた導通性能を維持できる。したがって、本構成の端子は、導通性能に優れている。
【0011】
更に、上記[1]及び上記[2]の構成の端子によれば、相手側端子に向けて突出する突起部(いわゆるインデント部)に空洞箇所を設け、空洞箇所の開口周縁の全体を相手側端子に押圧接触させる。これにより、電流密度が高くなる箇所(即ち、空洞部の開口周縁)への摩耗粉の堆積を効果的に抑制できる。
【0012】
上記[3]の構成の端子対によれば、端子の接点部の凸状に湾曲した表面領域に環状に開口する空洞を画成する空洞箇所を設け、空洞箇所の開口周縁の少なくとも一部を相手側端子に押圧接触させる。これにより、空洞箇所が無く凸状に湾曲した端子表面がそのまま相手側端子に接触する場合に比べ、実際に電流密度が高く導通に寄与する箇所(即ち、空洞箇所の開口周縁)での面間圧力が高まる。その結果、導通に寄与する箇所(即ち、空洞箇所の開口周縁)から離れるように摩耗粉を押し出すことで、その箇所への摩耗粉の堆積を抑制できる。よって、長期間にわたって端子対を使用しても、優れた導通性能を維持できる。したがって、本構成の端子対は、導通性能に優れている。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、導通性能に優れた端子、及び、その端子を用いた端子対を提供できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、相手側端子であるオス端子と本発明の実施形態に係るメス端子とが分離した状態にある、本発明の実施形態に係る端子対の斜視図である。
図2図2(a)は、メス端子の接点部を示すためにメス端子の筒状部の一部を除去した図1に示す端子対の斜視図であり、図2(b)は、メス端子の接点部に形成された突起部を上方からみた拡大図である。
図3図3(a)は、図2(a)のA-A断面図であり、図3(b)は、オス端子のメス端子への挿入完了状態における図2(a)のA-A断面に相当する図である。
図4図4(a)は、図3(b)のB部の拡大図であり、図4(b)は、突起部におけるオス端子との接触領域を説明するための図であり、図4(c)は、突起部におけるオス端子との押圧接触に起因する面間圧力の分布を示すグラフであり、図4(d)は、突起部における電流密度の分布を示すグラフであり、図4(e)は、図4(a)のC部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るメス端子1、及び、相手側端子であるオス端子2からなる、本発明の実施形態に係る端子対について説明する。以下、説明の便宜上、図1に示すように、「前後方向」、「幅方向」、「上下方向」、「前」、「後」、「上」、及び「下」を定義する。「前後方向」、「幅方向」及び「上下方向」は、互いに直交している。
【0017】
<端子対の構成>
以下、メス端子1及びオス端子2の構成について説明する。まず、オス端子2の構成について説明する。オス端子2は、図1図3に示すように、前後方向に延びる平板状の板状部40を備える。板状部40は、メス端子1の後述する筒状部10に挿入されることで、メス端子1の後述する接点部30に導通されるオス端子2側の接点部として機能する。オス端子2は、本例では、銅又は銅合金等からなる1枚の金属板に対して、プレス加工及び曲げ加工等を加えた後に、その表面にメッキ処理を施すことで形成されている。メッキ処理としては、例えば、錫(Sn)メッキ層を最表面に形成する処理などが挙げられる。
【0018】
次いで、メス端子1の構成について説明する。メス端子1は、図1図3に示すように、オス端子2の板状部40が挿入される筒状部10と、筒状部10の後側に連続して形成されると共に電線(図示省略)が圧着されるバレル部20と、筒状部10の内部に形成されると共に挿入された板状部40に導通される接点部30と、を備える。メス端子1は、本例では、銅又は銅合金等からなる1枚の金属板に対して、プレス加工及び曲げ加工等を加えた後に、その表面にメッキ処理を施すことで形成されている。メッキ処理としては、例えば、錫(Sn)メッキ層を最表面に形成する処理などが挙げられる。
【0019】
筒状部10は、本例では、前後方向に延びる角筒状の形状を有する。筒状部10は、底壁部11と、底壁部11の幅方向両端縁部から上側へ起立する一対の側壁部12と、幅方向一方側の側壁部12の上端縁部から幅方向他方側へ延びる上壁部及び幅方向他方側の側壁部12の上端縁部から幅方向一方側へ延びる上壁部が上下方向に積層されてなる上壁部13と、を備える。なお、上壁部13は、一対の側壁部12の上端縁部から幅方向内側へそれぞれ延びて幅方向内側の端面同士が接触する一対の上壁部から構成されてもよいし、幅方向一方側の側壁部12の上端縁部から幅方向他方側へ延びる1枚の上壁部のみによって構成されてもよい。
【0020】
上壁部13には、前後方向に延びる凹凸部14が形成されている(図1及び図3参照)。凹凸部14は、上面(外面)にて下方に窪み且つ下面(内面)にて下方に突出する部分である。凹凸部14の下面(内面)の頂面(前後方向且つ幅方向に延び且つ前後方向に長い平面)は、オス端子2の板状部40の上面41(平面)が当接するオス端子当接面15として機能する(図3(b)参照)。
【0021】
バレル部20は、筒状部10の後端の後側に隣接配置された一対の芯線加締め片21と、一対の芯線加締め片21の後側に隣接配置された一対の被覆加締め片22と、を備える。一対の芯線加締め片21は、メス端子1に接続される電線の先端部における被覆を除去して露出した芯線を加締め固定する部分である。一対の被覆加締め片22は、メス端子1に接続される電線の先端部における被覆を加締め固定する部分である。
【0022】
図2及び図3に示すように、接点部30は、筒状部10の底壁部11の前端から連続して上後方へ屈曲する部分である固定端31から、固定端31より後側に位置する自由端32まで延びる片持ち梁状の板バネであり、上下方向に弾性変形可能となっている。
【0023】
接点部30は、固定端31から後側(且つ若干上側)へ延びる平板状の平板部33と、自由端32から前側(且つ若干上側)へ延びる平板状の平板部34と、平板部33及び平板部34を前後方向に連結すると共に上側に突出する(上に凸の)曲板形状の連結部35と、からなる。連結部35の幅方向中央部には、突起部36(いわゆるインデント部)が形成されている。
【0024】
突起部36は、半球状(ドーム状)に、上面にて上方に突出し且つ下面にて上方に窪む部分である。突起部36の頂部(上面)の詳細な形状については後に詳述する。接点部30のうちで突起部36の頂部が最も上側に位置している。接点部30の非弾性変形時にて、突起部36の頂部とオス端子当接面15との間隔は、オス端子2の板状部40の板厚より小さい。
【0025】
よって、図3(a)に示すように、オス端子2の板状部40の筒状部10への挿入を開始すると、まず、板状部40の先端部が、突起部36とオス端子当接面15との間に進入し、板状部40の下面42が突起部36(即ち、接点部30)を下方に押し下げる。この結果、下方に弾性変形した接点部30の上向きの弾性復元力によって、突起部36が板状部40の下面42を上向きに押圧することで、板状部40が、突起部36とオス端子当接面15とで押圧されて挟持される。
【0026】
このように、接点部30の弾性復元力によって板状部40が突起部36とオス端子当接面15とで押圧かつ挟持された状態が維持されながら、板状部40の筒状部10への挿入が進行していく。よって、板状部40の挿入の進行に伴い、板状部40の上面41が、オス端子当接面15に押圧接触した状態で摺動し、板状部40の下面42が、接点部30の突起部36に押圧接触した状態で摺動する。このため、これらの摺動に起因する摩擦力に抗して、板状部40の挿入が進行していく。
【0027】
図3(b)に示すように、板状部40の筒状部10への挿入完了状態では、接点部30の弾性復元力によって突起部36と板状部40の下面42とが押圧接触した状態に維持されることで、突起部36及び板状部40(即ち、メス端子1及びオス端子2)が導通された状態に維持される。
【0028】
<突起部の頂部の詳細形状>
次いで、メス端子1の接点部30に形成された突起部36の頂部(上面)の詳細な形状について説明する。図2及び図3(特に、図2(b)、並びに、図4(a)に示すように、半球状(ドーム状)に上方に突出する突起部36の頂部には、下方に窪み且つ上方に開口する円柱状の有底の凹部37が、突起部36の中心軸心と同軸的に位置するように形成されている。凹部37は、円形の開口37aを有している(図2(b)参照)。
【0029】
凹部37は、上述したプレス加工によって突起部36を形成する際に同時に形成されてもよいし、プレス加工後の上述したメッキ処理の際に、突起部36の頂部のみにマスキングを行って、突起部36の頂部のみにメッキ処理を施さないことで形成されてもよい。
【0030】
突起部36の頂部に凹部37が形成されていることで、オス端子2の板状部40の筒状部10への挿入完了状態において、突起部36では、凹部37の開口37aの周縁部のみが、全周に亘って板状部40に押圧接触している(図4(a)参照)。この結果、図4(b)に示すように、突起部36における板状部40との接触領域Rは、円環状の形状を有している。
【0031】
接触領域Rの内縁(即ち、開口37a)の半径aは、接触領域Rの外縁の半径bの0.8倍以下であること(a≦0.8b)が好適である。なお、半径aは、上述したプレス加工やメッキ処理に起因する表面粗さ相当の凹凸の大きさより大きい。また、凹部37の深さは、上述したプレス加工やメッキ処理に起因する表面粗さ相当の凹凸の深さより大きい。
【0032】
突起部36の頂部に凹部37が形成されていることで、このような凹部37が形成されない場合と比べて、突起部36と板状部40との接触面積が小さくなる。このため、図4(c)に示すように、凹部37の開口37aの周縁部と板状部40との押圧接触に起因する面間圧力が大きくなる。
【0033】
発明者による電流密度式等を用いた考察によれば、図4(d)に示すように、突起部36を通じた導通では、突起部36の頂点(突起部36の中心軸心上の位置)よりもその周囲に(突起部36の中心軸心から離れて)位置する凹部37の開口37aの周縁部にて、電流密度が高く、且つ、導通の寄与度が高い。換言すれば、本例では、導通の寄与度が高い凹部37の開口37aの周縁部にて、板状部40との面間圧力が大きくなっている。
【0034】
オス端子2の板状部40の筒状部10への挿入完了状態では、板状部40の筒状部10への挿入時の擦動摩耗、並びに、端子対の使用時における外部振動等に因る突起部36及び板状部40間の微擦動摩耗等に起因して、凹部37の開口37aの周縁部と板状部40との接触面間にて、突起部36側からの摩耗粉36a(図4(e)参照)、及び、板状部40側からの摩耗粉40a(図4(e)参照)が不可避的に発生する。しかしながら、本例では、上述のように、凹部37の開口37aの周縁部と板状部40との面間圧力が大きいため、接触面間にて発生した摩耗粉36a,40aは、面間圧力が小さくなる径方向外向きへ押し出され、図4(e)に示すように、凹部37の開口37aの周縁部と板状部40との接触部の外周を取り囲むように堆積する。このため、導通の寄与度が高い凹部37の開口37aの周縁部と板状部40との接触面間への摩耗粉36a,40aの堆積を抑制できる。換言すれば、摩耗粉36a,40aは、導通の寄与度が高い凹部37の開口37aの周縁部を通じた導通の妨げとはならない。よって、長期間にわたって端子対を使用しても導通性能の低下が抑制され、優れた導通性能を維持できる。
【0035】
<作用・効果>
以上、本実施形態に係るメス端子1及び端子対によれば、メス端子1の接点部30の突起部36の頂部に凹部37を設け、凹部37の開口37aの周縁部の全体をオス端子2の板状部40に押圧接触させることで、突起部36のうちの実際に電流密度に高くなる箇所(即ち、開口37aの周縁部)での面間圧力を高め、その箇所への摩耗粉の堆積を抑制できる。よって、長期間にわたってメス端子1及び端子対を使用しても導通性能の低下が抑制され、優れた導通性能を維持できる。したがって、本実施形態に係るメス端子1及び端子対は、導通性能に優れている。
【0036】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0037】
例えば、上記実施形態では、突起部36の頂部に、「空洞箇所」として、有底の凹部37が形成されている。これに対し、突起部36の頂部に、「空洞箇所」として、突起部36の板厚方向に貫通する貫通孔が形成されてもよい。更には、上記実施形態において、凹部37の開口37aの周縁部が、全周に亘って環状に隆起していてもよい。
【0038】
更に、上記実施形態では、凹部37の開口37aの周縁部が全周に亘ってオス端子2の板状部40に押圧接触している。これに対し、凹部37の開口37aの周縁部の周方向の一部が窪んでいることで、凹部37の開口37aの周縁部における前記一部以外の周方向の部分のみがオス端子2の板状部40に押圧接触するように構成されてもよい。
【0039】
更に、上記実施形態では、メス端子1側の接点部30(突起部36)に「空洞箇所」が設けられているが、オス端子2側の接点部(板状部40)に「空洞箇所」が設けられていてもよい。更には、メス端子1及びオス端子2側の双方の接点部(突起部36及び板状部40)に「空洞箇所」が設けられていてもよい。
【0040】
更に、上記実施形態では、オス端子2として、電線が接続される端子が想定されている。これに対し、オス端子2として、電線が接続されない端子(電子機器に直接接続される端子)が採用されてもよい。
【0041】
ここで、上述した本発明に係る端子及び端子対の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[3]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
相手側端子(2)に接触して導通されることになる接点部(30)を有する端子(1)であって、
前記接点部(30)は、
前記相手側端子(2)に面することになる凸状に湾曲した表面領域に環状に開口する空洞を画成する空洞箇所(37)を有し、前記相手側端子(2)と導通接続されるとき、前記空洞箇所(37)の開口周縁(37a)の少なくとも一部が前記相手側端子(2)に押圧接触することになる、ように構成される、
端子(1)。
[2]
上記[1]に記載の端子(1)において、
前記接点部(30)は、
前記相手側端子(2)に向けて突出し且つ前記空洞箇所(37)を有する突起部(36)と、前記空洞箇所(37)の前記開口周縁(37a)の全体が前記相手側端子(2)に押圧接触するように前記突起部(36)を前記相手側端子(2)に対して弾性的に押圧するバネ部(33,34,35)と、を有する、
端子(1)。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載の端子(1)と、平板状の形状の板状部(40)を有する相手側端子(2)と、を備える端子対(1,2)であって、
前記端子(1)が有する前記接点部(30)は、
前記端子(1)と前記相手側端子(2)とが導通接続されるとき、前記空洞箇所(37)の開口周縁(37a)の少なくとも一部が前記相手側端子(2)の前記板状部(40)に押圧接触する、ように構成される、
端子対(1,2)。
【符号の説明】
【0042】
1 メス端子(端子)
2 オス端子(相手側端子)
30 接点部
33 平板部(バネ部)
34 平板部(バネ部)
35 連結部(バネ部)
36 突起部
37 凹部(空洞箇所)
37a 開口(開口周縁)
40 板状部
図1
図2
図3
図4