IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7586672残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム
<>
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図1
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図2
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図3
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図4
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図5
  • -残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/20 20230101AFI20241112BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20241112BHJP
   C02F 1/36 20230101ALI20241112BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C02F1/20 A
C02F3/28 A
C02F1/36
B01D19/00 C
B01D19/00 F
B01D19/00 101
B01D19/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020151664
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045838
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126665(JP,A)
【文献】特開2006-281171(JP,A)
【文献】特開2008-168264(JP,A)
【文献】特表2003-523823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/20-1/38
C02F3/28-3/34
B01D19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去するシステムであって、
前記嫌気処理で生じたメタンの燃焼により生じたガスを前記処理水に導入する気体導入手段を備えることを特徴とする、残存メタン除去システム。
【請求項2】
前記気体導入手段は、前記ガスの温度を調整する温度調整機構を備えることを特徴とす る請求項1に記載の残存メタン除去システム。
【請求項3】
前記処理水に対して超音波を照射する超音波照射手段、且つ/又は、前記処理水を減圧する減圧手段を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の残存メタン除去システム。
【請求項4】
被処理水に対する嫌気処理を行う嫌気処理槽と、
請求項1~のいずれか一項に記載の残存メタン除去システムと、を備えることを特徴とする、嫌気処理システム。
【請求項5】
被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去する方法であって、
前記嫌気処理で生じたメタンの燃焼により生じたガスを前記処理水に導入する気体導入工程を備えることを特徴とする、残存メタン除去方法。
【請求項6】
前記処理水に対して超音波を照射する超音波照射工程、又は/且つ、前記処理水を減圧する減圧工程を備えることを特徴とする、請求項に記載の残存メタン除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法に関するものである。また、本発明は、残存メタン除去システムを備える嫌気処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む排水を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。特に、嫌気的な環境下での生物処理(以下、「嫌気処理」と呼ぶ)は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入に係るメリットが高いことが挙げられる。
【0003】
このような嫌気処理としては、メタン発酵処理が知られている。メタン発酵処理は、嫌気的な環境下における嫌気性微生物の働きにより、排水中の有機物をメタンと二酸化炭素に分解する嫌気処理であり、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、嫌気処理として広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、嫌気処理におけるメタンガス発生量を向上させるために、担体の存在下で有機物を含む被処理水を嫌気処理する際に、可溶化処理した汚泥を供給する被処理水の処理装置及び処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-221491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、嫌気処理におけるメタンガス発生量を向上させ、メタンガスの回収効率を高めることは知られている。
メタンガスは燃料源として有益である一方、二酸化炭素以上の温室効果を有するため、嫌気処理により発生したメタンを確実に回収する必要がある。しかしながら、嫌気処理により発生したメタンは全てがガス化して回収されるものではなく、嫌気処理後の処理水中にメタンが残存することがある。そのため、処理水を河川などに放流した際、処理水中に残存したメタンが大気中に放出されることとなる。
【0007】
近年、環境への影響を鑑み、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出規制が厳しくなっている。このため、嫌気処理後の処理水中に残存しているメタンを除去する必要性が高まってきている。特に、被処理水を嫌気処理した後の大量の処理水に対し、イニシャルコストやランニングコストをかけずに残存したメタンを処理する技術が求められている。
【0008】
本発明の課題は、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを、低コストで除去することができる残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、嫌気処理された後の処理水に対し、比較的簡易な手段によりメタンのガス化を促進することで、処理水中の残存メタンを低コストで除去することが可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムである。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の残存メタン除去システムは、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去するシステムであって、加温した気体を処理水に導入する気体導入手段を備えるという特徴を有する。
【0011】
本発明の残存メタン除去システムは、処理水に対して加温した気体を導入することで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【0012】
また、本発明の残存メタン除去システムの一実施態様としては、加温した気体は、燃焼により生じたガスであるという特徴を有する。
この特徴によれば、気体を加温するコストが不要となり、ランニングコストを大幅に低減させることが可能となる。また、燃焼により生じたガスはメタンをほとんど含まないため、処理水中に残存したメタンをより効果的に気相に移動させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の残存メタン除去システムの一実施態様としては、ガスは、嫌気処理で生じたメタンの燃焼により生じるものであるという特徴を有する。
この特徴によれば、燃焼により生じたガスを容易に得ることができるとともに、嫌気処理工程内で生成する成分を有効活用することが可能となる。また、メタンガス活用に係る燃焼装置など、既設の設備を利用することができる。これにより、本発明の残存メタン除去システムのために、新たに設備を設ける必要がなく、イニシャルコストを大幅に低減することが可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の残存メタン除去システムの別態様としては、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去するシステムであって、処理水に対して超音波を照射する超音波照射手段、且つ/又は、前記処理水を減圧する減圧手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、処理水に対して超音波照射や減圧処理を行うことで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の嫌気処理システムとしては、被処理水に対する嫌気処理を行う嫌気処理槽と、上記残存メタン除去システムとを備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理システムは、嫌気処理槽と残存メタン除去システムとを備えることで、排水処理における一連の処理過程の中で残存メタンの除去を実施することが可能となる。これにより、設備を大型化することなく、効率的な残存メタン除去を行うことが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の残存メタン除去方法としては、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去する方法であって、加温した気体を前記処理水に導入する気体導入工程を備えるという特徴を有する。
本発明の残存メタン除去方法は、処理水に対して加温した気体を導入することで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【0017】
また、上記課題を解決するための本発明の残存メタン除去方法の別態様としては、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを除去する方法であって、処理水に対して超音波を照射する超音波照射工程、且つ/又は、処理水を減圧する減圧工程を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、処理水に対して超音波照射や減圧処理を行うことで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被処理水が嫌気処理された後の処理水に残存しているメタンを、低コストで除去することができる残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施態様における嫌気処理システム及び残存メタン除去システムの概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様における嫌気処理システムの別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様における残存メタン除去システムの別態様を示す概略説明図である。
図4】本発明の第2の実施態様における嫌気処理システム及び残存メタン除去システムの概略説明図である。
図5】本発明の第3の実施態様における嫌気処理システム及び残存メタン除去システムの概略説明図である。
図6】本発明の第3の実施態様における嫌気処理システムに係る処理設備の一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムの実施態様を詳細に説明する。本発明における残存メタン除去方法は、本発明における残存メタン除去システムの作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムについては、本発明に係る残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムを説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の残存メタン除去システム及び嫌気処理システムにおいて、嫌気処理対象である被処理水は、嫌気処理が可能な物質を含有するものであれば特に限定されない。具体的な被処理水の例としては、例えば、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や、下水などの生活排水などが挙げられる。
【0022】
〔第1の実施態様〕
[嫌気処理システム]
図1は、本発明の第1の実施態様における嫌気処理システム及び残存メタン除去システムの構造を示す概略説明図である。
本実施態様における嫌気処理システム1Aは、図1に示すように、嫌気処理槽2と、嫌気処理槽2から排出された処理水W1に残存しているメタンを除去する残存メタン除去システム10Aを備えるものである。また、嫌気処理システム1Aは、嫌気処理槽2に被処理水Wを導入する導入配管L1と、嫌気処理槽2と残存メタン除去システム10Aを接続し、嫌気処理槽2で被処理水Wが処理された後の処理水W1を残存メタン除去システム10Aに供給する接続配管L2と、残存メタン除去後の処理水W2を残存メタン除去システム10Aから排出する排出配管L3とを備えている。
【0023】
本実施態様における嫌気処理システム1Aは、嫌気処理槽2で被処理水Wを嫌気処理した後、嫌気処理槽2で発生したメタンが残存(溶存)する処理水W1に対し、残存メタン除去システム10Aにより、処理水W1中のメタンをガス化して除去するものである。
【0024】
(嫌気処理槽)
嫌気処理槽2は、被処理水Wに対して嫌気処理を行うための槽である。
嫌気処理槽2で行う処理は、被処理水W中に含まれる処理対象に合った嫌気処理であれば、特に制限されない。特に、本発明の効果をより発揮するという観点から、処理後の処理水W1中にメタンを比較的多く含むものが好ましい。このような嫌気処理としては、メタン発酵が挙げられる。
【0025】
嫌気処理槽2としては、メタン発酵を進行させることができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。例えば、処理対象である被処理水Wの性質に応じて適宜選択することができる。例えば、被処理水Wが液体成分を多く含む場合や、固形成分を多く含む場合などに応じ、好適な嫌気処理槽2の構造を選択することができる。
また、嫌気処理槽2としては、単槽あるいは2槽以上の複数槽からなるものとすることができる。例えば、図1に示すように、嫌気処理槽2を単槽とする場合、いわゆる消化槽として知られる構造を用いることができる。一方、嫌気処理槽2を複数槽とする場合、酸生成槽及びメタン発酵槽を備えるものとすること等が挙げられる。
【0026】
図1に示すように、嫌気処理槽2を単槽とする場合、嫌気的条件の維持のために密閉容器とした槽内部に、撹拌機構を設けるものとすることが挙げられる。そして、導入配管L1により嫌気処理槽2内に導入された被処理水Wと嫌気性菌とが反応し、嫌気処理槽2内でメタン及び二酸化炭素を主成分とするガスが発生するとともに、ガス化せずに残存しているメタンを含む処理水W1が生成する。
嫌気処理槽2内で発生したガスは、ガス回収配管L4を介して槽外に放出又は回収される。また、嫌気処理槽2内で生成された処理水W1は接続配管L2を介して、残存メタン除去システム10Aに導入される。
【0027】
一方、嫌気処理槽2を複数槽とした場合の構造の一例について説明する。
図2は、本実施態様の嫌気処理システムにおける嫌気処理槽2の別態様を示す概略説明図である。
嫌気処理槽2を複数槽とする場合の一例として、図2には、酸生成槽21及びメタン発酵槽22を備えるものを示している。酸生成槽21及びメタン発酵槽22は、内部に収容する微生物により、被処理水Wを嫌気処理するための反応槽である。なお、酸生成槽21及びメタン発酵槽22は、嫌気的条件の維持のために、天井を有し、閉じた空間を形成していることが好ましい。
【0028】
酸生成槽21は、導入配管L1により導入される被処理水Wに対し、内部に収容する酸生成菌(主として嫌気性の酸生成菌)により、糖、蛋白質及び油分などの固体や高分子有機物を分解して、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸を生成する酸生成処理を行うものである。酸生成槽21で処理された被処理水Wは、接続配管L5を介してメタン発酵槽22へ供給される。
【0029】
なお、酸生成槽21は、内部の水温調整手段、pH調整剤の投入手段、菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい(不図示)。
【0030】
メタン発酵槽22は、接続配管L5により供給される酸生成槽21で処理された被処理水Wに含まれる単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸等からメタンを生成するメタン発酵処理を行うものである。メタン発酵処理は、浮遊法、固定床法、流動床法、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)法等により保持されたメタン生成菌により溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行うものである。
【0031】
メタン発酵槽22には、嫌気処理に適した嫌気性菌が存在するグラニュール層が形成される。そして、酸生成槽21から被処理水Wがメタン発酵槽22内に導入されると、グラニュール層に含まれる嫌気性菌によってメタン発酵が行われる。その結果、メタン発酵槽22内では、メタン及び二酸化炭素を主成分とするガスが発生するとともに、ガス化せず
に残存しているメタンを含む処理水W1が生成する。また、メタン発酵槽22の内部には気固液分離手段であるセトラー23が設けられていてもよい。
なお、メタン発酵槽22は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、内部の水温調整手段、pH調整剤の投入手段、菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい(不図示)。
【0032】
メタン発酵槽22内で発生したガスは、ガス回収配管L6を介して槽外に放出又は回収される。また、嫌気処理槽2内で生成された処理水W1は接続配管L2を介して、残存メタン除去システム10Aに導入される。
【0033】
本実施態様の嫌気処理システム1Aは、ガス回収配管L4、L6を介して槽外に放出又は回収されたガスのうち、メタンガスの回収、精製及び貯留を行う手段を備えるものとすることが好ましい。これにより、被処理水Wから有用なエネルギー源であるメタンガスを回収して有効利用することが可能となる。また、図1及び図2に示すように、メタンガスの活用として、ガス燃焼による発電を行うための燃焼装置Cを備えることが好ましい。これにより、後述する残存メタン除去システム10Aにおいて、このガス燃焼に用いる燃焼装置から排出される排ガスを活用することが可能となる。
【0034】
[残存メタン除去システム]
残存メタン除去システム10Aは、嫌気処理槽2から排出された処理水W1中の残存メタンを除去するためのものである。
本実施態様の残存メタン除去システム10Aは、図1及び図2に示すように、貯留部11、気体導入手段12、ガス回収機構13を備えている。
【0035】
貯留部11は、接続配管L2を介して導入された処理水W1を貯留することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、貯留部11としては、槽の高さが槽幅よりも大きい槽とすることが挙げられる。これにより、貯留部11内における気体の移動時間(浮上に係る時間)を長くすることができ、気体導入手段12により導入される気体と処理水W1中の残存メタンの接触効率を高めることが可能となる。
【0036】
気体導入手段12は、加温した気体を貯留部11内の処理水W1に導入するものである。気体導入手段12は、貯留部11内に加温した気体を導入し、加温した気体と処理水W1を接触させることができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
気体導入手段12としては、例えば、図1及び図2に示すように、貯留部11と接続する配管12aを備えること等が挙げられる。なお、配管12aは、貯留部11の下部と接続するように設けることが好ましい。これにより、貯留部11内における気体の移動時間を長くすることができ、気体と処理水W1中の残存メタンの接触効率を高めることが可能となる。
また、気体導入手段12としては、曝気処理に使用される構造を活用し、図1及び図2に示すように、散気部12bを備えることが好ましい。これにより、貯留部11内に導入する気体と処理水W1の接触効率をより高めることが可能となる。散気部12bの構造は特に限定されないが、散気板として知られる公知の構造を用いることが挙げられる。
【0037】
気体導入手段12により、加温した気体と処理水W1を接触させることで、処理水W1内に溶存している残存メタンを気相に移動させることが可能となる。特に、加温した気体を用いることで、単に気体と処理水W1を接触させることよりも効果的に残存メタンを気相に移動させ、メタンのガス化を促進することが可能となる。
【0038】
気体導入手段12により導入される加温した気体としては、気体の成分については特に限定されないが、メタンを含まない気体であることが好ましい。また、加温した気体としては、空気やその他の混合ガスを加温機構で加温して用いるものとしてもよいが、燃焼によって生じたガスを用いることが好ましい。燃焼により生じたガスは一定以上の温度を有するため、常温の気体を加温する必要がなく、ランニングコストを大幅に低減させることが可能となる。また、燃焼により生じたガスはメタンをほとんど含まないため、処理水W1中に残存したメタンを効果的に気相に移動させることが可能となる。
【0039】
また、気体導入手段12により導入される加温した気体として、燃焼により生じたガスを用いる場合、気体導入手段12と接続する燃焼装置C自体の構造や、燃焼装置Cで燃焼させる対象などについては特に限定されない。燃焼装置Cとしては、物質の燃焼を行うことができる公知の構成を用いることができる。
ここで、燃焼装置Cとしては、本実施態様における残存メタン除去システム10Aのために新設するものとしてもよいが、コスト面を鑑み、既設の燃焼装置を利用することが好ましい。例えば、ごみ焼却施設における燃焼装置のほか、バイオガス等のガス燃焼による発電施設における燃焼装置などが挙げられる。
【0040】
例えば、気体導入手段12により導入される加温した気体として、燃焼により生じたガスを用いる場合、嫌気処理の処理過程で生じた排出物を燃焼する燃焼装置から発生するガスを用いることが挙げられる。このとき、上述したように、嫌気処理槽2で発生したメタンガスを用いた発電に用いられる燃焼装置から発生するガスを、本実施態様における加温した気体として用いることが特に好ましい。これにより、燃焼により生じたガスを容易に得ることができるとともに、嫌気処理工程内で生成する成分を有効活用することが可能となる。また、メタンガス活用に係る燃焼装置のように、既設の設備を利用することができる。したがって、本実施態様の残存メタン除去システム10Aのために、新たに設備を設ける必要がなく、イニシャルコストを大幅に低減することが可能となる。なお、燃焼装置で燃焼される嫌気処理の処理過程で生じた排出物は、メタンガスに限定されるものではなく、その他の例としては、嫌気処理で生じた汚泥などが挙げられる。
【0041】
ガス回収機構13は、処理水W1中から放出されたガス化したメタンと加温した気体の混合ガスを回収するためのものである。
ガス回収機構13は、貯留部11の上部に設けられたガス回収配管13aと、回収したガスを処理するガス処理設備13bとを備えている。
【0042】
ガス処理設備13bとしては、ガス回収配管13aにより回収した混合ガスの処理を行うものであればよく、具体的な設備については特に限定されない。例えば、混合ガスの成分などに応じて公知の処理設備を選択することができる。より具体的には、混合ガスを貯蔵する設備のほか、化学変換・膜分離などの処理を行う設備や燃焼を行う設備などが挙げられる。
例えば、気体導入手段12により、燃焼により生じたガスを導入した場合、ガス回収配管13aにより回収される混合ガスはメタンと二酸化炭素の混合ガスとなる。このとき、ガス処理設備13bとして、混合ガスに空気を加えて燃焼させる設備とすることが挙げられる。これにより、メタンの処理ができるとともに、ガス処理設備13bの燃焼により生じたガスを、気体導入手段12で用いる加温した気体として再度活用することが可能となる。
【0043】
本実施態様の残存メタン除去システム10Aの別の態様としては、燃焼により生じたガスの温度を調整するための機構を備えるものとしてもよい。
燃焼装置で生じたガスの温度は、100度を超えることもあることが知られている。一方、本実施態様における残存メタン除去システム10Aは、処理水W1と気体を接触させるものであり、100度を超えるガスをそのまま供給すると、貯留部11内の処理水W1が蒸発(気化)することで、ガス回収配管13aにより回収する混合ガス中に水蒸気が多く含まれることとなり、ガス処理設備13bにおける処理が困難になるなど、熱による不具合が発生するおそれがある。したがって、燃焼により生じたガスの温度を調整し、貯留部11に供給することが好ましい。
【0044】
図3は、本実施態様における残存メタン除去システム10Aの別態様を示す概略説明図である。なお、図3は、残存メタン除去システム10Aに対し、ガスの温度を調整する機構を設けた際の概略説明図であり、嫌気処理槽2については図示を省略している。
【0045】
図3に示すように、ガスの温度を調整する機構として、気体導入手段12の配管12a上に温度調整機構14を設け、ガスの温度調整を行うことが挙げられる。より具体的には、温度調整機構14により、ガスの温度を100度以下に冷却すること等が挙げられる。これにより、ガスを貯留部11内に供給した際に、熱による不具合が発生することを抑制することが可能となる。
【0046】
温度調整機構14としては、ガスの温度調整が可能なものであればよく、公知の構成を用いることができる。温度調整機構14の一例としては、空気等の気体や冷却水等の液体を用いた熱交換器が挙げられる。また、温度調整機構14の他の例としては、本実施態様の嫌気処理システム1Aにおける嫌気処理槽2に対し、燃焼により生じたガスを用いた加温が可能となるようにガスの配管等の配置を行うことが挙げられる。これにより、嫌気処理槽2を加温処理した後に冷却されたガスを、配管12aを介して貯留部11に供給することで、嫌気処理システム1A全体としての省エネルギー化が可能となる。
【0047】
以上のように、本実施態様の残存メタン除去システム10Aにより、処理水に対して加温した気体を導入することで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
特に、加温した気体として、燃焼により生じたガスを用いることで気体を加温するコストが不要となり、ランニングコストを大幅に低減させることが可能となる。また、燃焼により生じたガスはメタンをほとんど含まないため、処理水中に残存したメタンをより効果的に気相に移動させることが可能となる。
また、嫌気処理で生じた排出物(メタンなど)の燃焼により生じるガスを用いることで、嫌気処理工程内で生成する成分の有効活用が可能となるとともに、既設の設備を利用することができる。これにより、本実施態様における残存メタン除去システムのために、新たに設備を設ける必要がなく、イニシャルコストを大幅に低減することが可能となる。
【0048】
また、本実施態様における嫌気処理システム1Aは、嫌気処理槽と残存メタン除去システムとを備えることで、排水処理における一連の処理過程の中で残存メタンの除去を実施することが可能となる。これにより、設備を大型化することなく、効率的な残存メタン除去を行うことが可能となる。
【0049】
〔第2の実施態様〕
図4は、本発明の第2の実施態様における嫌気処理システム及び残存メタン除去システムを示す概略説明図である。
第2の実施態様に係る嫌気処理システム1Bは、第1の実施態様における残存メタン除去システム10Aにおける気体導入手段12に代えて、超音波照射手段15と減圧手段16が設けられた残存メタン除去システム10Bを備えるものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
また、図4においては、嫌気処理槽2が単槽からなるものを図示しているが、これに限定されるものではない。本実施態様における嫌気処理システム1Bにおける嫌気処理槽2については、第1の実施態様で示した嫌気処理槽2であればよく、単槽に代えて複数槽からなるものとしてもよい。
【0050】
本実施態様における残存メタン除去システム10Bは、図4に示すように、超音波照射手段15と減圧手段16を備えている。
【0051】
超音波照射手段15は、貯留部11内の処理水W1に対して超音波を照射するものである。超音波照射手段15による超音波照射の効果により、処理水W1中に残存しているメタンがエネルギーを得ることで活性化し、メタンのガス化が促進される。
また、減圧手段16は、貯留部11内の処理水W1を減圧するものである。減圧手段16により処理水W1が減圧条件下となることで、処理水W1中に残存しているメタンのガス化が促進される。
【0052】
超音波照射手段15及び減圧手段16により、処理水W1に対して超音波照射や減圧処理を行うことで、処理水W1中に残存(溶存)したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水W1中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【0053】
なお、超音波照射手段15と減圧手段16はいずれか片方を備えるものであればよいが、処理水W1中のメタンをガス化する効率を鑑み、図4に示すように、両方を備えることが好ましい。
【0054】
超音波照射手段15の具体例としては、図4に示すように、貯留部11内に超音波照射装置15aを設けることが挙げられる。これにより、処理水W1に対して効果的に超音波を照射することが可能となる。また、超音波照射装置15aの設置箇所は貯留部11内に限定されるものではなく、貯留部11外に超音波照射装置15aを設け、貯留部11内の処理水W1に超音波を照射するものとしてもよい。これにより、超音波照射装置15aのメンテナンス作業が容易となる。
【0055】
減圧手段16の具体例としては、図4に示すように、ガス回収配管13a上に減圧ポンプ16aを設けることが挙げられる。これにより、部品点数を少なくすることが可能となる。また、減圧ポンプ16aの設置箇所はガス回収配管13a上に限定されるものではない。他の例としては、貯留部11に対してガス回収配管13a以外の配管を設け、減圧ポンプ16aを設けるものとすることなどが挙げられる。
【0056】
以上のように、本実施態様の残存メタン除去システム10Bにより、処理水に対して超音波照射や減圧処理を行うことで、処理水中に残存したメタンを気相中に効果的に移動させることができ、メタンガスとして処理水中から除去することが可能となる。これにより、比較的簡易な設備により、大量の処理水に対して効率的に処理を行うことが可能となり、低コストで残存しているメタンを除去することが可能となる。
【0057】
また、本実施態様における嫌気処理システム1Bは、上述した嫌気処理システム1Aと同様に、嫌気処理槽と残存メタン除去システムとを備えることで、排水処理における一連の処理過程の中で残存メタンの除去を実施することが可能となる。これにより、設備を大型化することなく、効率的な残存メタン除去を行うことが可能となる。
【0058】
〔第3の実施態様〕
図5は、本発明の第3の実施態様における嫌気処理システムを示す概略説明図である。
第3の実施態様に係る嫌気処理システム1Cは、図5に示すように、嫌気処理槽2の後段、且つ残存メタン除去システム10の前段に、処理設備3を備えるものである。嫌気処理槽2と処理設備3は、接続配管L7を介して接続されており、処理設備3と残存メタン除去システム10は、接続配管L8を介して接続されている。なお、本実施態様における残存メタン除去システム10としては、上述した残存メタン除去システム10A、10Bを適宜選択することができ、図5には残存メタン除去システム10Aの構造を示している。また、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0059】
本実施態様における嫌気処理システム1Cは、嫌気処理槽2により嫌気処理された処理水W1が、さらに処理設備3による処理を経た後、残存メタン除去システム10に導入されて残存メタンが除去されるものである。
【0060】
ここで、処理設備3としては、一般的な嫌気処理において設けられる付帯設備とすることが挙げられる。このような付帯設備の例としては、固液分離設備などが挙げられる。
また、処理設備3の他の例としては、嫌気処理により生成した排出物を用いたエネルギーの効率的な回収・利用や有害物質の除去に係る設備を設けることが挙げられる。
【0061】
嫌気処理により生成した排出物を用いたエネルギーの効率的な回収・利用や有害物質の除去に係る処理設備3の一例について説明する。
嫌気処理槽2における嫌気処理によって、被処理水Wを処理した後の排出物(処理水W1)中には、メタンのほか、硫化水素、水素、アンモニア等が生成する。これら生成物(以下、「還元性物質」と呼ぶ)を電子供与体として機能させた電極反応を行うことで、発電や脱硫処理が可能となる。
【0062】
図6は、本実施態様の嫌気処理システムにおける処理設備の一例を示す概略説明図である。なお、図6において、嫌気処理槽2及び残存メタン除去システム10(残存メタン除去システム10A)については一部図示を省略している。
処理設備3の具体的な構造の一例としては、図6に示すように、第1のセル31a及び第2のセル31bと、セル31a、31bの間を仕切るように設けられたイオン交換体32と、セル31a、31bにそれぞれ配置された電極33a、33bとを備えるものが挙げられる。ここで、第1のセル31aは、嫌気処理槽2から接続配管L7を介して導入された処理水W1が電極33aに接触するように形成されており、第1のセル31aに配置された電極33aはアノードとして機能する。一方、第2のセル31bは、酸素を含む気体や酸化剤の水溶液などからなる電子受容体を貯留ないしは供給するように形成されており、第2のセル31bに配置された電極33bはカソードとして機能する。また、電極33a、33bは導線により外部回路と接続されている(不図示)。これにより、処理設備3において、処理水W1中の還元性物質を電子供与体として作用させることで発生する電気エネルギーの回収及び利用が可能となるとともに、処理水W1中の還元性物質として硫化水素を含む場合、脱硫処理も可能となる。
【0063】
処理設備3において電極反応に供された処理水W1は接続配管L8を介して、残存メタン除去システム10に導入される。このとき、処理水W1中の還元性物質は、電極反応により消費されているが、メタンは残存したままの状態である。したがって、処理設備3から排出された処理水W1に対して、残存メタン除去システム10によるメタン除去処理を行うことで、排出配管L3から排出される処理水W2は、還元性物質及びメタンが除去された状態で系外に排出される。
【0064】
以上のように、本実施態様における嫌気処理システム1Cは、嫌気処理槽以外の処理設備を設け、且つ残存メタン除去システムを最後段に配置することにより、河川などの環境下に放流する前に、残存メタンを含む処理水W1に対する残存メタン除去処理を実施し、処理水W1から確実にメタンを除去した処理水W2として放流することが可能となる。また、処理設備を経由することにより処理水W2の水質向上を図ることが可能となる。
【0065】
なお、上述した実施態様は、残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムの一例を示すものである。本発明に係る残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムは、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法並びに嫌気処理システムを変形してもよい。
【0066】
例えば、本実施態様における残存メタン除去システムは、処理設備と一体化するものとしてもよい。例えば、処理設備として図6に示したような電極反応を行う構造を用いた場合、第1のセルに対して気体導入手段により加温した気体を導入することで、処理設備内で電極反応と残存メタン除去処理を行うこと等が挙げられる。これにより、設備の小型化が可能となり、システムの低コスト化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の残存メタン除去システム及び残存メタン除去方法は、被処理水を嫌気処理する排水処理において、処理水中にガス化しなかったメタンが残存するものに対し、好適に利用される。
【0068】
また、本発明の嫌気処理システムは、被処理水を嫌気処理する排水処理における一連の処理過程の中で、処理水中の残存メタンの除去を行うことのできる嫌気処理システムとして好適に利用される。
【符号の説明】
【0069】
1A,1B,1C 嫌気処理システム、10A,10B 残存メタン除去システム、11 貯留部、12 気体導入手段、12a 配管、12b 散気部、13 ガス回収機構、13a ガス回収配管、13b ガス処理設備、14 温度調整機構、15 超音波照射手段、15a 超音波照射装置、16 減圧手段、16a 減圧ポンプ、2 嫌気処理槽、21 酸生成槽、22 メタン発酵槽、23 セトラー、3 処理設備、31a 第1のセル、31b 第2のセル、32 イオン交換体、33a,33b 電極、C 燃焼装置、L1 導入配管、L2,L5,L7,L8 接続配管、L3 排出配管、L4,L6 ガス回収配管、W 被処理水、W1,W2 処理水
図1
図2
図3
図4
図5
図6