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特許7586677可剥離塗膜形成用組成物、及び可剥離塗膜
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  • 特許-可剥離塗膜形成用組成物、及び可剥離塗膜 図1
  • 特許-可剥離塗膜形成用組成物、及び可剥離塗膜 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】可剥離塗膜形成用組成物、及び可剥離塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20241112BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20241112BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20241112BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241112BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/20
C09D175/04
C09D7/61
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020158931
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2021055074
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019177848
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 駿介
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 赳彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 友也
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 和也
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059084(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139171(WO,A1)
【文献】特開平02-053878(JP,A)
【文献】特開2015-229691(JP,A)
【文献】特表2007-523964(JP,A)
【文献】特開2016-023306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
C09D 5/20
C09D 175/04
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、アミノ変性シリコーンオイルと、を含有する可剥離塗膜形成用組成物であって、
前記可剥離塗膜形成用組成物により、膜を形成した場合の前記膜の引張試験による破断強度をF(N/20mm)とし、SUS304板表面に塗膜を形成した場合の前記塗膜とSUS304板とのピール接着力をF(N/20mm)としたとき、F/Fが1.5以上であり、
前記エラストマーがシリコーンエラストマーまたはウレタンエラストマーであり、
前記F 及びF は下記の方法により測定される、
可剥離塗膜形成用組成物。
(F の測定方法)
厚み75μmであるPET基材の表面に可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータを用いてWet厚み500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた後、幅10mm、長さが100mmである矩形にカットしたものを試験片とし、作製した試験片の長手方向両端を、掴み間距離が20mm、引張速度が300mm/min、且つ室温という条件下で引張試験機を用いて引っ張ることにより、破断点応力を測定し、試験片の幅を20mmとしたものとして換算した値を破断強度F とする。
(F の測定方法)
表面が2B処理されたSUS304板の表面に、可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータを用いてWet厚みが500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた後、SUS304板の上で幅が20mmとなるように塗膜をカットすることにより作製し、そして、引張試験機を使用して、室温で、剥離角度が180°、剥離速度が300mm/minという条件下でSUS304板から試験片を引きはがすときの応力を測定し、ピール接着力F とする。
【請求項2】
更に、フィラーを含有する、請求項1に記載の可剥離塗膜形成用組成物。
【請求項3】
前記エラストマーの含有量が、組成物全質量に対して、20~98質量%であり、かつ、前記アミノ変性シリコーンオイルの含有量が、前記エラストマー100重量部に対して、2~100重量部である、請求項1又は2に記載の可剥離塗膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の可剥離塗膜形成用組成物からなる可剥離塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可剥離塗膜形成用組成物、及び可剥離塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物に対する汚れの付着及び擦傷等を防止するために、構造物及び構造部材の表面を防汚塗膜により保護する方法が用いられている。上記の防汚塗膜は、所定のタイミングまでは構造物等に接着されて、表面を保護しており、必要に応じて容易に剥離されること(可剥離性)が要求される。例えば、特許文献1~5には、剥離性を向上させることを目的として、シリコーン等が含有された保護膜又は組成物が開示されている。
【0003】
ところで、工場内等において、防汚塗膜が塗布された構造部材等(被着体)を取り扱う場合に、防汚塗膜を塗り替える、又は剥離するタイミングより前に、意図せず防汚塗膜の表面に塗料や接着剤、溶媒等(以下、接着剤等ともいう)が付着することがある。この場合には、塗膜表面に付着した接着剤等を除去する清掃作業が必要となる。また、付着した接着剤等に含有される溶剤により、塗膜が膨潤することがあり、これにより、被着体と塗膜との接着性が著しく低下する。
【0004】
耐溶剤性が優れた塗膜としては、例えば、特許文献6に、耐溶剤性、塗り重ね性、落書き除去性、又は落書き防止性が優れた塗料組成物が開示されている。上記特許文献6に記載された塗料組成物は、液状オルガノシロキサン化合物、有機金属系触媒、1級アミノ基又は2級アミノ基を有するアルコキシ基含有有機シラン化合物、アミノ変性シリコーンオイル及びアミノ基含有オルガノシロキサン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、1分子中に2つ以上のグリシジル基を有する化合物、グリシジル基含有シラン化合物及びグリシジル基含有シリコーンオリゴマーから選ばれる少なくとも1種の化合物、を必須成分として含有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-249981号公報
【文献】特開平11-172160号公報
【文献】特表2018-524446号公報
【文献】特開2018-59084号公報
【文献】特開昭60-137975号公報
【文献】特許第4721667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~5に記載の従来の防汚塗膜(保護膜)は、膜表面に接着剤等が付着した場合に、塗膜と接着剤等との接着力が高いため、接着剤等を容易に除去することが困難であり、作業効率が著しく低下する。
【0007】
一方、上記特許文献6に記載の塗料組成物は、この組成物により形成される塗膜の表面の易清掃性は良好であるが、被着体と塗膜との密着性が高く、必要に応じて容易に剥離することができない。
【0008】
このように、従来においては、可剥離性と易清掃性とを同時に満足する塗膜又は塗膜用組成物は開発されていない。
【0009】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、塗膜と被着体との可剥離性、及び塗膜表面の易清掃性を向上させることができると共に、ヘキサン等の溶剤に対する耐性が優れた塗膜を得ることができる可剥離塗膜形成用組成物、及び該組成物からなる可剥離塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、塗膜形成用組成物の主成分としてシリコーンエラストマーやウレタンエラストマー等のエラストマーを用いることが、可剥離性と易清掃性に優れた塗膜を得るために効果的であり、室温でも強固な塗膜になることを見出した。しかし、エラストマーを主成分とする塗膜であっても、その表面に付着する接着剤等の種類によっては塗膜そのものが膨潤すると共に、易清掃性が低下する可能性がある。そこで、本願発明者らは、上記組成物にアミノ変性シリコーンオイルを含有させることにより、接着剤等に含まれる溶剤に対して耐性を得ることができ、易清掃性を維持することができることを見出した。
【0011】
更に、本願発明者らは、塗膜のピール接着力に対する破断強度の比を可剥離性の指標とし、可剥離性をより優れたものにするために、上記組成物にフィラーを添加することが効果的であることを見出した。
本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0012】
即ち、本発明の課題は、下記〔1〕~〔4〕により達成可能である。
〔1〕
エラストマーと、アミノ変性シリコーンオイルと、を含有する可剥離塗膜形成用組成物であって、
前記可剥離塗膜形成用組成物により、膜を形成した場合の前記膜の引張試験による破断強度をF(N/20mm)とし、SUS304板表面に塗膜を形成した場合の前記塗膜とSUS304板とのピール接着力をF(N/20mm)としたとき、F/Fが1.5以上である、
可剥離塗膜形成用組成物。
〔2〕
更に、フィラーを含有する、〔1〕に記載の可剥離塗膜形成用組成物。
〔3〕
前記エラストマーがシリコーンエラストマーまたはウレタンエラストマーである、〔1〕又は〔2〕に記載の可剥離塗膜形成用組成物。
〔4〕
〔1〕~〔3〕の何れか1に記載の可剥離塗膜形成用組成物からなる可剥離塗膜。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、組成物中にエラストマーと、アミノ変性シリコーンオイルと、を含有し、該組成物からなる膜の破断強度と該組成物からなる塗膜と被着体とのピール接着力との比を適切に限定している。そのため、塗膜と被着体との可剥離性、及び塗膜表面の易清掃性を向上させることができると共に、ヘキサン等の溶剤に対する耐性が優れた塗膜を得ることができる可剥離塗膜形成用組成物、及び該組成物からなる可剥離塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態に係る可剥離塗膜が形成された構造部材を示す断面図である。
図2図2は、表面に接着剤等が付着した可剥離塗膜を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る可剥離塗膜が形成された構造部材を示す断面図である。図1に示すように、構造部材(被着体)31の表面上に、本発明の実施形態に係る可剥離塗膜形成用組成物を塗布した後、乾燥することにより、可剥離塗膜21が形成される。この可剥離塗膜21は、所望のタイミングで構造部材31から剥離される。本願明細書では、可剥離塗膜21の構造部材31からの剥がしやすさを「可剥離性」という。また、本願明細書では、「可剥離塗膜」とは、塗膜が割れずにシート状に剥離可能な塗膜をいう。
【0016】
また、図2は表面に接着剤等が付着した可剥離塗膜を示す断面図である。工場内等で構造部材31を取り扱う際に、可剥離塗膜21の表面上に接着剤等22が付着することがある。接着剤等22は、可剥離塗膜21を構造部材31から剥離するタイミングよりも前に、除去する必要がある。本願明細書では、接着剤等22を可剥離塗膜21の表面から除去するときの除去のしやすさを「易清掃性」という。なお、図2では、可剥離塗膜21の表面全面に接着剤等22が付着しているが、接着剤等22は可剥離塗膜21の表面の一部のみに付着する場合もある。
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物について、以下に詳細に説明する。
【0017】
[可剥離塗膜形成用組成物]
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物は、エラストマーと、アミノ変性シリコーンオイルと、を含有する可剥離塗膜形成用組成物である。また、上記可剥離塗膜形成用組成物により、膜及びSUS304板表面に塗膜を形成し、上記膜の引張試験による引張破断強度(以下、破断強度ともいう)をF(N/20mm)、上記塗膜とSUS304板とのピール接着力をF(N/20mm)としたとき、F/Fが1.5以上であるものである。
可剥離塗膜形成用組成物に含有される各成分について、更に詳細に説明する。
【0018】
(エラストマー)
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物は、エラストマーを含有する。上記の通り、塗膜形成用組成物の主成分としてエラストマーを含有することにより、上記組成物により形成した塗膜の可剥離性及び易清掃性を向上させることができる。
【0019】
エラストマーとしては、特に制限されず、任意の適切なエラストマーを用いることができる。エラストマーとしては、例えば、シリコーンエラストマー、ウレタンエラストマー、アクリルエラストマー、ゴム状重合体、ポリアミドエラストマー、ポリエチレンエラストマー、スチレンエラストマー、及びブタジエンエラストマー等が挙げられる。エラストマーは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0020】
なかでも、塗膜の可剥離性及び易清掃性向上の観点から、シリコーンエラストマーまたはウレタンエラストマーが好ましい。
【0021】
本実施形態において用いることができるシリコーンエラストマーとしては、付加型シリコーンエラストマー、縮合型シリコーンエラストマー、UV硬化型シリコーンエラストマー等があり、塗布後、加熱あるいは乾燥、UV照射等で架橋被膜を形成するもの等が挙げられる。
【0022】
また、このようなシリコーンエラストマーは単独で乾燥させる1液型のシリコーンエラストマーであっても良く、硬化剤を配合する2液型のシリコーンエラストマーであっても良い。さらに、エマルションタイプでも良い。
【0023】
例えば、信越化学工業(株)製のKE-1950-10(A/B)、KE-1950-20(A/B)、KE-1950-30(A/B)、KE-1950-35(A/B)、KE-1950-40(A/B)、KE-1950-50(A/B)、KE-1950-60(A/B)、KE-1950-70(A/B)、KE-1987(A/B)、KE-1988(A/B)、旭化成ワッカーシリコーン(株)製のLR7665シリーズ、LR3033シリーズ、モメンティブ(株)製のTSE3032シリーズ、LSRシリーズ、東レ・ダウコーニング(株)製のSM8706EX、SM7036EX、SM7060EX、SM7025EX、SM490EX、SM8701EX、SM8709SR、SM8716SR、IE-7045、IE-7046T、SH7024、BY22-744EX、BY22-818EX、FZ-4658、FZ-4634EX、FZ-4602等が挙げられる。
【0024】
エマルションタイプとしては、例えば、信越化学工業(株)製のPOLON-MF-56、KM-9771、KM-9774、KM-2002-T、KM-2002-L-1、KM-9772等が挙げられる。
【0025】
また、本実施形態において用いることができるウレタンエラストマーとしては、例えば、イソシアネート基とポリオールを反応させて鎖延長されたポリウレタンエラストマーが挙げられる。かかるポリウレタンエラストマーは、ポリオールの一部にカルボキシル基含有ポリオールを使用して得られたカルボキシル基を有するもの、末端に水酸基を有するものが挙げられる。カルボキシル基を有するポリウレタンエラストマーは、塩基性物質を用いて中和するものが好ましい。市販品としては、第一工業製薬社製の商品名「スーパーフレックスシリーズ110」、「スーパーフレックスシリーズ150」、「スーパーフレックスシリーズ460S」、「スーパーフレックスシリーズ470」、アビシア社製の商品名「ネオレッツR9649」、「ネオレッツR966」、DIC社製の商品名「ハイドランWLS-210」、「ハイドランWLS-250」、三洋化成工業社製の商品名「パーマリンUA-310」が挙げられる。
【0026】
ウレタンエラストマーを用いることにより、フィラーを添加せずとも、後述する膜の破断強度Fのピール接着力Fに対する比であるF/Fを1.5以上にすることができ好ましい。
【0027】
アクリルエラストマーは、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、アロン化成社製の製品名「高耐熱グレード XBシリーズ」、昭和電工社製の商品名「ポリゾールAP―4780N」、「ポリゾールAP―609」、「ポリゾールAP―691」、「ポリゾールAP―4795」等が挙げられる。
【0028】
スチレンエラストマーとしては、例えば、ハードセグメントであるポリスチレンと、ソフトセグメントであるポリブタジエン、ポリイソプレンおよびポリブタジエンとポリイソプレンとの共重合体と、を含むエラストマーや、これらの水素添加物等が挙げられる。
【0029】
上記組成物中のエラストマーの含有量は、組成物全質量に対して、20~98質量%であることが好ましく、30~95質量%であることがより好ましい。このような範囲であると、より優れた可剥離性及び易清掃性を有する塗膜を得ることができる。
【0030】
(アミノ変性シリコーンオイル)
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物は、上記エラストマーの他に、アミノ変性シリコーンオイルを含有する。アミノ変性シリコーンオイルをエラストマーと共に含有する組成物により形成された塗膜は、接着剤等に含まれるヘキサン等の溶剤に対する耐性(耐溶剤性)が優れたものとなり、上記塗膜が溶剤に曝された場合に、塗膜の膨潤を防止することができる。これは、種々の変性シリコーンオイルのうち、アミンは極性が高いため、ヘキサン等の溶剤に対する耐性が上昇すると考えられる。
【0031】
アミノ変性シリコーンオイルはシリコーンオイルのメチル基の一部をアミノアルキル基に置き換えた構造を持つシリコーンオイルである。なお、変性部位は側鎖、片末端、両末端、側鎖両末端のいずれでも良い。また、エマルションタイプでも良い。
【0032】
アミノ変性シリコーンオイルとしては、一般的に市販されているアミノ変性シリコーンオイルをそのまま用いることができる。特に下記の一般式(1)で表されるアミノ変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。この式(1)で表されるアミノ変性シリコーンオイルを用いることにより、高い信頼性を得ることができる。
【0033】
【化1】
【0034】
上記式(1)において、R,R,Rはアミノ変性アルキル基、またはアミノ基であり、例えば、-C-NH、-C-NH,-C-NH-C-NH、-C-NH-CH3、-NH等が挙げられる。そして、R,R,Rは相互に同じであっても異なっていてもよい。また、R,R,Rはアルキル基、エポキシ基、カルボキシル基、メタクリル基、カルビノール基、水酸基、メルカプト基、ポリエーテル基、フェニル基、フルオロアルキル基、アラルキル基、水素のいずれか1種または2種以上を含んでいても良い。
【0035】
また、上記式(1)において、繰り返し数mは0~50の正数であり、繰り返し数nは0~50の正数である。特に好ましくはm=0~20の範囲、n=0~20の範囲である。
【0036】
更に、上記式(1)で表されるアミノ変性シリコーンオイルとしては、式(1)において、通常m=0~40、n=0~40の両末端アミノプロピル基変性ジメチルポリシロキサンが特に好ましく用いられる。なかでも好ましくは、m=0~20、n=0~20の両末端アミノプロピル基変性ジメチルポリシロキサンが用いられる。
【0037】
上記一般式(1)で表されるアミノ変性シリコーンオイル等のアミノ変性シリコーンオイルは、従来公知の製法により得ることができる。
【0038】
アミノ変性シリコーンオイルとしては、例えば、信越化学工業(株)製のKF-868,KF-865,KF-864,KF-859,KF-393,KF-860,KF-877,KF-880,KF-8004,KF-8002,KF-8005,KF-867,X-22-3820W,KF-869,KF-861,X-22-3939A,PAM-E,KF-8010,X-22-161A,X-22-161B,KF-8012,KF-8008,X-22-1660B-3,KF-857,KF-8001,KF-862,X-22-9192,KF-858、東レ・ダウコーディング(株)製のBY16-205,FZ-3760,SF8417,BY16-849,BY16-892,FZ-3785,BY16-872,BY16-213,BY16-203,BY16-898,BY16-890,BY16-891,BY16-893,BY16-871,BY16-853U、チッソ;FM-3311,FM-3321,FM-3325、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(株)製のTSF4702,TSF4703,TSF4704,TSF4705,TSF4706,TSF4707,TSF4708,TSF4709,XF42-B1989,XF42-B8922,XF42-C0330,XF49-C1109,SILSOFT A-553,SILSOFT A-843,SILSOFT A-858,XF42-A3335、旭化成ワッカーシリコーン(株)製のWACKER L652,WACKER L653,WACKER L655,WACKER L656,WACKER FINISH WR1100,WACKER FINISH WR1200,WACKER FINISH WR1300,WACKER FINISH WR1600,WACKER FINISH WT1250,WACKER FINISH WT1650等が挙げられる。
【0039】
エマルションタイプとしては、例えば、信越化学工業(株)製のPolonMF-14、PolonMF-14D、PolonMF-14EC、PolonMF-29、PolonMF-39、PolonMF-44、PolonMF-52、KM907、X-52-2265、PolonMF-51、KM9771、日本ユンカー(株)製のFZ-4632、FZ-4635、FZ-4640、FZ-4645、FZ-4658、FZ-4671、FZ-4678、東レ・ダウコーディング(株)製のSM8704C/SM8904等が挙げられる。
【0040】
上記組成物中のアミノ変性シリコーンオイルの含有量は、エラストマー100重量部に対して、2~100重量部であることが好ましく、5~80重量部であることがより好ましい。このような範囲であると、耐溶剤性をより一層向上させることができる。アミノ変性シリコーンオイルは1種類でも良いし、2種類以上組み合わせて使用しても良い。
【0041】
<膜の破断強度F/塗膜のピール接着力F:1.5以上>
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物により膜を形成した場合における引張試験による膜の破断強度と、SUS304板に塗膜を形成した場合における塗膜とSUS304板とのピール接着力との比は、塗膜の可剥離性を表す指標とすることができる。従って、上記破断強度とピール接着力との比を適切に調整することにより、優れた可剥離性を有する塗膜を形成するための組成物を得ることができる。以下、破断強度とピール接着力との比の限定理由について、更に詳細に説明する。
【0042】
引張試験により測定される破断強度は、本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物からなる膜の両端部を互いに離れる方向に引っ張った場合の、膜の破断しにくさを示す強度である。破断強度が低いと、塗膜を被着体から剥離する際に、塗膜が破断し、剥離が困難になってしまう。また、塗膜と被着体との接着力が高すぎると、被着体から塗膜を剥離するために必要な力が大きくなり、その結果、塗膜が破断しやすくなる。従って、塗膜を破断させずに容易に剥離するためには、ピール接着力Fに対する破断強度Fの比が所定の値以上であることが必要となる。
【0043】
本発明において、破断強度は、試料となる可剥離塗膜形成用組成物により引張試験用の試験片を作製し、引張試験を実施した場合の破断点応力を測定することにより算出する。破断強度の測定は、まず、厚み75μmであるPET基材(東レ(株)製、「ルミラーS10#75」)の表面に試料となる可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚み500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた後、幅10mm、長さが100mmである矩形にカットしたものを試験片とする。そして、室温にて試験片の両端を引っ張り試験機により引っ張り、試験片の破断点応力を測定し、試験片の幅を20mmとしたものとして換算した値を破断強度F(N/20mm)とする。このとき、引っ張り速度は300mm/minとし、掴み間距離は20mmとする。
【0044】
なお、破断強度の上限については特に限定されないが、塗膜を被着体から剥離する際に、塗膜の破断を防止するためには、0.3(N/20mm)以上であることが好ましく、0.8(N/20mm)以上であることがより好ましい。
【0045】
また、ピール接着力Fの測定は、まず、表面が2B処理されたSUS304板の表面に、試料となる可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚みが500μmとなるように塗布する。塗布した上記組成物を35℃で3日間乾燥させた後、SUS304板の上で幅が20mmとなるように塗膜をカットしたものを試験片とする。そして、引っ張り試験機を使用して、SUS304板から試験片を引きはがすときの応力の測定値をピール接着力Fとする。なお、ピール接着力の測定は室温で行い、剥離角度は180°、剥離速度は300mm/minとする。
【0046】
なお、ピール接着力については、所望のタイミングまで被着体と塗膜との接着力を維持することができると共に、塗膜を被着体から容易に剥離することができる接着力として、例えば、0.2~15(N/20mm)であることが好ましい。より好ましくは0.5~12(N/20mm)、更に好ましくは1.0~10(N/20mm)である。
【0047】
上記破断強度F(N/20mm)の、上記ピール接着力F(N/20mm)に対する比、F/Fが1.5未満であると、所望のタイミングで被着体から塗膜を剥離しようとしたときに、塗膜が破断しやすくなる。従って、本発明においては、F/Fを1.5以上とし、好ましくは1.8以上、更に好ましくは2.0以上とする。これにより、被着体から容易に剥離することができ、作業性が良好である塗膜を得ることができる。F/Fは、可剥離塗膜形成用組成物の組成を適宜設計し、破断強度F及びピール接着力Fを調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0048】
(フィラー)
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物は、フィラーを含有することが好ましい。フィラーは塗膜の硬度を向上させることができる成分であり、上記F/Fを調整し、塗膜の可剥離性を向上させるために、フィラーの添加が効果的である。
【0049】
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物にフィラーを添加する場合、上記組成物中のフィラーの含有量は、エラストマーに100重量部に対して、0~150重量部、好ましくは0~100重量部であることが好ましい。このような範囲であると、塗膜の可剥離性をより一層向上させることができる。フィラーの含有量は、エラストマー100重量部に対して、2重量部以上であってもよく、5重量部以上であってもよい。
【0050】
なお、フィラーとしては、例えば、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカ、カオリン、タルク、カーボンブラック、層状ケイ酸塩、粘度鉱物、珪藻土などが挙げられる。また、粒子の大きさとしては、好ましくは、平均粒径が5nm~5000nmである。粒子の大きさを上記範囲内に調整することにより、塗膜と被着体との接着性をより一層向上させることができる。また、フィラーは、粉末タイプまたは水分散タイプのいずれを用いることもできる。
【0051】
また、フィラーとしては、市販品を用いることができる。シリカ粒子として、例えば、スノーテックス(登録商標)シリーズ(例えば、スノーテックス(登録商標)-XL、スノーテックス(登録商標)-YL、スノーテックス(登録商標)-ZL、スノーテックス(登録商標)PST-2、スノーテックス(登録商標)20、スノーテックス(登録商標)30、スノーテックス(登録商標)30L、スノーテックス(登録商標)C、スノーテックス(登録商標)O、スノーテックス(登録商標)50。以上水分散タイプ、日産化学工業社製)、アデライトシリーズ(例えば、アデライト(登録商標)AT-40、アデライト(登録商標)AT-50。以上水分散タイプ、ADEKA社製)、アエロジル(AEROSIL)(登録商標)シリーズ(例えば、アエロジル(登録商標)RXシリーズ(RX50、RX200、RX300など)、アエロジル(登録商標)RXシリーズ(RY50、RY200、RY200Sなど)、AEROSIL(登録商標)NY50シリーズ、AEROSIL(登録商標)NAXシリーズ、AEROSIL(登録商標)Rシリーズ、粉末タイプ、日本アエロジル社製)等が挙げられる。
【0052】
上記可剥離塗膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他のオイルを含んでいてもよい。このような他のオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイルなどの各種シリコーンオイル、流動パラフィン、界面活性剤、液状炭化水素、フッ化オイル、ワックス、ペトロラタム、動物脂類、脂肪酸、などが挙げられる。これらは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0053】
可剥離塗膜形成用組成物が、このような他のオイルを含む場合、可剥離塗膜の易清掃性をより一層向上させることができる場合がある。
【0054】
上記可剥離塗膜形成用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、顔料、色素、レベリング剤、増粘剤等が挙げられる。
【0055】
本実施形態の可剥離塗膜形成用組成物は、被着体に塗布し、乾燥させることにより、塗膜を形成することができる。室温(25℃)下の乾燥でも均一性の高い塗膜を得ることができる。
【0056】
塗布方法としては、スプレー、ハケ塗り、ローラー、カーテンフロー、ロール、ディップ、コーターなどの公知の塗布方法により任意の被着体に直接塗布することができる。
【0057】
被着体としては、具体的には、金属製品、木工製品、プラスチック製品、ガラス製品、医療用部材(例えば、カテーテル、ステント、手袋、ピンセット、容器、ガイド、トレー等)、塗装関連部材(例えばロボットアーム、塗装ブース、ハンガー、カバー材、オーブン等)、建造物(内外壁面、床面、及び天井面)、電子機器、運輸機器(例えば、自動車、二輪車及び鉄道等の車両、並びに船舶等)等、様々な構造物、並びにこれらを構成する構造部材が挙げられる。
【0058】
<可剥離塗膜>
本実施形態の可剥離塗膜は、上述した可剥離塗膜形成用組成物からなるものであり、塗膜と被着体との可剥離性、及び塗膜表面の易清掃性を向上させることができると共に、耐溶剤性が優れた塗膜である。
【0059】
塗膜の厚みは、用途や使用環境などによって、任意の適切な厚みを採用し得る。塗膜の厚みは、好ましくは50μm~1000μm、更に好ましくは80μm~500μmである。塗膜の厚みが50μm以上であれば、被着体を保護する効果を十分に得ることができる。また、塗膜の厚みが1000μm以下であれば、塗膜を形成する際の作業効率が優れたものとなる。
上記塗膜の膜厚は、例えば、PEAKOCK社製 RI-205を用いて測定することできる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0061】
[可剥離塗膜形成用組成物の調製]
可剥離塗膜形成用組成物としては、シリコーンエラストマー(シリコーンエマルションエラストマーKM2002T:信越化学工業(株)製)又はウレタンエラストマー(ウレタンエマルションエラストマースーパーフレックス470:第一工業製薬(株)製)100質量部と、下記表1に示す種々の種類及び配合量のシリコーンオイル及びフィラーとを混合して可剥離塗膜形成用組成物を調製した。
【0062】
〔可剥離性の評価〕
[破断強度Fの測定]
得られた可剥離塗膜形成用組成物により引張試験用の試験片を作製し、引張試験を実施することにより破断点応力を測定し、破断強度Fを求めた。
破断強度の測定では、まず、厚み75μmであるPET基材(東レ(株)製、「ルミラーS10#75」)の表面に試料となる可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚み500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた後、幅10mm、長さが100mmである矩形にカットしたものを試験片とした。
作製した試験片の長手方向両端を、引張試験機(AUTOGRAPH AGS-J/H 1kN:(株)島津製作所製)を用いて引っ張ることにより、破断点応力(MPa)を測定した。なお、本実施例においては、掴み間距離を20mm、引張速度を300mm/minとして、室温にて破断点応力を測定し、試験片の幅を20mmとしたものとして換算した値を破断強度F(N/20mm)とした。
また、試験片が破断する直前の試験片の伸びの長さλを測定し、これを試験片の初期長さ(チャック間距離)Lで除することにより、破断点ひずみ(%)を算出した。
【0063】
[ピール接着力Fの測定]
得られた可剥離塗膜形成用組成物によりピール接着力測定用の試験片を作製し、ピール接着力を測定した。
試験片は、表面が2B処理されたSUS304板の表面に、上記可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚みが500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた後、SUS304板の上で幅が20mmとなるように塗膜をカットすることにより作製した。そして、引張試験機(AUTOGRAPH AGS-J/H 1kN:(株)島津製作所製)を使用して、SUS304板から試験片を引きはがすときの応力を測定し、ピール接着力F(N/20mm)とした。なお、ピール接着力の測定は室温で行い、剥離角度は180°、剥離速度は300mm/minとした。
更に、上記破断強度Fの上記ピール接着力Fに対する比を算出することにより、可剥離性を評価した。
【0064】
〔易清掃性の評価〕
[接着剤剥離力の測定]
得られた可剥離塗膜形成用組成物により接着剤剥離力測定用の試験片を作製し、接着剤-はく離接着強さ試験を実施することにより、接着剤剥離力を測定した。
試験片の作製方法としては、まず、厚みが2mmであり、表面が2B処理されたSUS304板の表面に、上記可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚みが500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた。次に、乾燥後の塗膜上に接着剤(GP100:コニシ(株)製)を30mmの幅で塗布し、更に35℃で24時間乾燥させた。その後、上記接着剤の表面に両面テープ(No.5000NS:日東電工(株)製)を貼付し、更に、上記両面テープを介して接着剤と接着されるように、PET(PolyEthylene Terephthalate)板(ルミラー(登録商標)S10#75:東レ(株)製)を貼付することにより、試験片を作製した。
【0065】
そして、JIS K 6854-2に準拠して、引張試験機(AUTOGRAPH AGS-J/H 1kN:(株)島津製作所製)により、SUS304板とPET板とを引っ張り、接着剤-はく離接着強さ試験を実施することにより、接着剤剥離力を測定した。なお、接着剤剥離力の測定は室温で行い、剥離角度は180°、剥離速度は100mm/minとした。
【0066】
[ヘキサン浸漬後における接着剤剥離力の測定]
得られた可剥離塗膜形成用組成物によりヘキサン浸漬後における接着剤剥離力測定用の試験片を作製し、接着剤-はく離接着強さ試験を実施することにより、ヘキサン浸漬後における接着剤剥離力を測定した。
試験片の作製方法としては、まず、厚みが2mmであり、表面が2B処理されたSUS304板の表面に、上記可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚みが500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させた。次に、表面に塗膜が形成されたSUS304板をヘキサンに1時間浸漬させた後、これを60℃で24時間乾燥させた。その後、乾燥後の塗膜上に接着剤(GP100:コニシ(株)製)を30mmの幅で塗布し、更に35℃で24時間乾燥させた。その後、上記接着剤の表面に両面テープ(No.5000NS:日東電工(株)製)を貼付し、更に、上記両面テープを介して接着剤と接着されるように、PET(PolyEthylene Terephthalate)板(ルミラー(登録商標)S10#75:東レ(株)製)を貼付することにより、試験片を作製した。
【0067】
そして、JIS K 6854-2に準拠して、引張試験機(AUTOGRAPH AGS-J/H 1kN:(株)島津製作所製)により、SUS304板とPET板とを引っ張り、接着剤-はく離接着強さ試験を実施することにより、ヘキサン浸漬後における接着剤剥離力を測定した。なお、接着剤剥離力の測定は室温で行い、剥離角度は180°、剥離速度は100mm/minとした。また、引張試験機により、SUS304板とPET板とを引っ張った際に、塗膜がSUS304板から剥離した場合は、塗膜とSUS304板とを両面テープ(No.5000NS:日東電工(株)製)により接着した後に、接着剤-はく離接着強さ試験を実施した。
【0068】
〔耐溶剤性の評価〕
[ヘキサン浸漬後における塗膜の状態の観察]
得られた可剥離塗膜形成用組成物により耐溶剤性観察用の試験片を作製し、ヘキサン浸漬後における塗膜の状態を観察することにより、耐溶剤性を評価した。
試験片は、厚みが2mmであり、表面が2B処理されたSUS304板の表面に、上記可剥離塗膜形成用組成物を、アプリケータ(YBAベーカーアプリケータ:ヨシミツ精機(株)製)を用いてWet厚みが500μmとなるように塗布し、35℃で3日間乾燥させることにより作製した。そして、得られた試験片をヘキサンに10分間浸漬させた後、塗膜の膨潤の有無やSUS304板からの塗膜の剥離の有無を観察した。
【0069】
上記可剥離性、易清掃性及び耐溶剤性の評価結果を下記表2に示す。なお、耐溶剤性の評価基準としては、塗膜の膨潤及び塗膜の剥離が全く観察されなかったものを〇、塗膜の膨潤又は塗膜の剥離が少しでも観察されたものを×とした。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
上記表1中における品名の詳細は以下の通りである。なお、KF6016、SilwetL7600、及びSilwetL7602はHLB値(Hydrophilic-Lipophilic Balance:浸水親油バランス)を併せて示す。
【0073】
<ポリマー>
・KM2002T:信越化学工業(株)製、シリコーンエマルションエラストマー
・スーパーフレックス470:第一工業製薬(株)製、ウレタンエマルションエラストマー
【0074】
<シリコーンオイル>
・POLON-MF-51:信越化学工業(株)製、アミノ変性シリコーンオイル
・POLON-MF-14EC:信越化学工業(株)製、アミノ変性シリコーンオイル(低粘度)
・KF6016:信越化学工業(株)製、ポリエーテル変性シリコーンオイル(HLB値:4.5)
・SilwetL7600:東レ・ダウコーニング(株)製、ポリエーテル変性シリコーンオイル(HLB値:14.3)
・SilwetL7602:東レ・ダウコーニング(株)製、ポリエーテル変性シリコーンオイル(HLB値:7.3)
・X-51-1264:信越化学工業(株)製、エポキシ変性シリコーンオイル
・KM9769:信越化学工業(株)製、メルカプト変性シリコーンオイル
・KM9739:信越化学工業(株)製、フェニル変性シリコーンオイル
・KM862T:信越化学工業(株)製、ジメチルシリコーンオイル
【0075】
<フィラー>
・STC:日産化学(株)製、スノーテックスC
・HOMOCAL-D:白石工業(株)製、炭酸カルシウム、
【0076】
上記表1及び2に示すように、実施例1~5は、シリコーンエラストマー及びアミノ変性シリコーンオイルが含有された組成物を用いて塗膜を形成したものであり、膜の破断強度Fのピール接着力Fに対する比、F/Fが1.5以上である。そのため、可剥離性及び易清掃性が優れており、ヘキサンに浸漬することにより評価される耐溶剤性も良好な結果となった。
【0077】
また、実施例6、7は、ウレタンエラストマー及びアミノ変性シリコーンオイルが含有された組成物を用いて塗膜を形成したものであり、ウレタンエラストマー由来の弾性効果によりシリコーンエラストマーよりも破断点強度が上昇し、フィラーを添加せずに膜の破断強度Fのピール接着力Fに対する比、F/Fを1.5以上にすることができる。そのため、可剥離性及び易清掃性が優れており、ヘキサンに浸漬することにより評価される耐溶剤性も良好な結果となった。また、実施例7ではアミノ変性シリコーンオイルの量を増やすことで接着剤剥離力はより低下して易清掃性が良好な結果となった。
【0078】
一方、比較例1及び3は、組成物にシリコーンオイルが含有されていないので、耐溶剤性が低下し、特に比較例3は易清掃性も低下した。比較例2は塗膜をSUS304板から剥離することができなかった。比較例4及び6~10は、組成物にシリコーンオイルが含有されているものの、アミノ変性シリコーンオイルではないので、耐溶剤性が低下し、溶剤によって膜が膨潤した。また、膨潤により、シリコーンオイル又はシリコーンエラストマー中に含まれる成分が塗膜から流出することがあるため、易清掃性試験において塗膜の剥がれが生じたり、剥離不可となるもの、又は剥離力の測定値が著しく上昇することによって剥離困難となるものがあった。比較例5は、耐溶剤性は良好であったが、破断点応力が著しく低下して、剥離が不可能となった。
【符号の説明】
【0079】
21 可剥離塗膜
22 接着剤等
31 構造部材
図1
図2