(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241112BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C23C14/34 T
C23C14/34 M
H01L21/203
(21)【出願番号】P 2020194401
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大澤 篤史
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-298151(JP,A)
【文献】特開昭63-076868(JP,A)
【文献】特開2019-065336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の公転軸線の周方向に沿って並ぶスパッタ空間およびプラズマ空間を有する処理空間を形成するチャンバと、
前記スパッタ空間内に設けられたターゲットを含み、前記スパッタ空間において開口する第1給気口から前記処理空間にスパッタガスを供給しつつ、前記スパッタガスをプラズマ化して前記ターゲットにイオンを衝突させるスパッタ部と、
前記プラズマ空間において開口する第2給気口から前記処理空間に反応性ガスを供給しつつ、前記反応性ガスをプラズマ化させるプラズマ部と、
基板を保持しつつ、前記基板を前記公転軸線のまわりで公転させて、前記基板を前記スパッタ空間および前記プラズマ空間に交互に移動させる基板保持部と、
前記処理空間において、前記ターゲットよりも前記第2給気口に近い位置で開口する吸引口を有し、前記吸引口から前記処理空間内のガスを吸引する吸引機構と
を備え、
前記基板の公転経路と前記吸引機構の前記吸引口とは前記公転軸線に沿う軸方向において向かい合う位置にそれぞれ設けられ、前記吸引機構の前記吸引口の開口方向は前記軸方向に沿って前記基板保持部に向かう方向であり、
前記吸引機構の前記吸引口は、前記軸方向において、前記基板保持部に対して前記プラズマ部の前記第2給気口と同じ側に設けられ、
前記プラズマ部は、プラズマ発生部を含み、当該プラズマ発生部と前記第2給気口は前記吸引口の外側に設けられ、
前記第2給気口からの前記反応性ガスは前記プラズマ発生部によってプラズマ化しつつ前記基板保持部に向かって流れて一部が前記基板に作用し、Uターンして前記吸引口に向かって流れる、スパッタリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリング装置であって、
前記プラズマ発生部は誘導結合アンテナを含む、スパッタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスパッタリング装置であって、
前記誘導結合アンテナは、U字状の導電部材を含み、前記導電部材の両端が前記周方向に沿う姿勢で設けられている、スパッタリング装置。
【請求項4】
請求項1
から請求項3のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタ部は、
前記ターゲットと向かい合う位置に開口を有し、前記ターゲットの周囲を囲む第1囲み部材をさらに含み、
前記吸引機構の前記吸引口は前記第1囲み部材よりも外側に設けられる、スパッタリング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記第2給気口は複数設けられ、
当該複数の第2給気口は前記公転軸線の径方向において互いに異なる位置に設けられる、スパッタリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のスパッタリング装置であって、
前記複数の第2給気口は2つの給気口を含み、当該2つの給気口は前記吸引口の中心を挟んで互いに反対側に設けられている、スパッタリング装置。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記プラズマ空間内に設けられた筒状の第2囲み部材をさらに備え、
前記第2囲み部材には、前記基板保持部側の端部において開口が形成され、
前記プラズマ部の前記第2給気口および前記吸引機構の前記吸引口は前記第2囲み部材の内部に設けられる、スパッタリング装置。
【請求項8】
請求項
7に記載のスパッタリング装置であって、
前記第2囲み部材の前記開口は、前記公転軸線の径方向の外側に向かうほど幅広となる、スパッタリング装置。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記第1給気口は複数設けられ、
当該複数の第1給気口は、前記ターゲットの周囲から前記ターゲットの主面近傍の空間に向けて前記スパッタガスを吐出する、スパッタリング装置。
【請求項10】
請求項
9に記載のスパッタリング装置であって、
当該複数の第1給気口は、平面視において前記ターゲットのまわりを囲むように並んで設けられる、スパッタリング装置。
【請求項11】
請求項1から請求項
10のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタ部は、前記反応性ガスの流量よりも大きい流量で前記スパッタガスを供給する、スパッタリング装置。
【請求項12】
請求項1から請求項
11のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記基板保持部は、前記基板を前記公転軸線のまわりで公転させつつ、前記基板を自転させる、スパッタリング装置。
【請求項13】
請求項1から請求項
12のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタ部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、
前記プラズマ部は、
前記プラズマ空間内に設けられた導電部材と、
前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源と
を含み、
成膜処理において、前記基板保持部は前記基板を常時公転させつつ、前記第1電源および前記第2電源は常時、それぞれ前記第1電圧および前記第2電圧を出力する、スパッタリング装置。
【請求項14】
請求項1から請求項
12のいずれか一つに記載のスパッタリング装置であって、
前記スパッタ部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、
前記プラズマ部は、
前記プラズマ空間内に設けられた導電部材と、
前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源と
を含み、
前記基板保持部が前記スパッタ空間内で前記基板を停止させた状態で、前記第1電源は前記第1電圧を出力し、
前記基板保持部が前記プラズマ空間内で前記基板を停止させた状態で、前記第2電源は前記第2電圧を出力し、
前記基板保持部は、前記第1電源および前記第2電源がそれぞれ前記第1電圧および前記第2電圧の出力を停止した状態で、前記基板を公転させる、スパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板の表面に薄膜を形成するスパッタリング装置が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1では、スパッタリング装置は基板の表面にIII族窒化物半導体層を形成する。スパッタリング装置はチャンバと回転治具とターゲットと第1プラズマ発生手段と第2プラズマ発生手段とを含む。
【0003】
チャンバ内には、ターゲットチャンバおよび窒素チャンバが設けられる。ターゲットチャンバおよび窒素チャンバは所定の回転軸線のまわりで交互に設けられる。回転治具は、チャンバ内において、基板Wを所定の回転軸線まわりで公転させる。これにより、基板Wはターゲットチャンバから窒素チャンバへ移動し、また、窒素チャンバからターゲットチャンバへ移動する。
【0004】
ターゲットはターゲットチャンバ内に設けられる。第1プラズマ発生手段はターゲットチャンバ内にアルゴンの第1プラズマを発生させる。アルゴンイオンはターゲットに衝突し、この衝突により、ターゲットから原料粒子が飛び出す。この原料粒子は基板に供給され、基板上に積層される。
【0005】
第2プラズマ発生手段は窒素チャンバに設けられる。第2プラズマ発生手段は窒素チャンバ内において窒素の第2プラズマを発生させる。これにより反応性の高い窒素が基板の原料粒子と反応する。
【0006】
ターゲットチャンバおよび窒素チャンバは周方向で連通しており、回転治具の回転によって基板がターゲットチャンバおよび窒素チャンバを通過する。基板がターゲットチャンバを通過しているときに、基板上にIII族元素の原料粒子が積層し、基板が窒素チャンバを通過しているときに、窒素が基板上の原料粒子と反応する。これにより、基板にIII族窒化物半導体を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
チャンバ内において窒素がターゲットと反応すると、ターゲットが窒化する。このようにターゲットが反応性ガスと反応すると、ターゲットの品質が低下する。よって、当該ターゲットを用いた成膜処理では、基板に形成される薄膜の品質が劣化し、成膜レートも低下する。
【0009】
そこで、本願は、ターゲットと反応性ガスとの反応を抑制することができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
スパッタリング装置の第1の態様は、所定の公転軸線の周方向に沿って並ぶスパッタ空間およびプラズマ空間を有する処理空間を形成するチャンバと、前記スパッタ空間内に設けられたターゲットを含み、前記スパッタ空間において開口する第1給気口から前記処理空間にスパッタガスを供給しつつ、前記スパッタガスをプラズマ化して前記ターゲットにイオンを衝突させるスパッタ部と、前記プラズマ空間において開口する第2給気口から前記処理空間に反応性ガスを供給しつつ、前記反応性ガスをプラズマ化させるプラズマ部と、基板を保持しつつ、前記基板を前記公転軸線のまわりで公転させて、前記基板を前記スパッタ空間および前記プラズマ空間に交互に移動させる基板保持部と、前記処理空間において、前記ターゲットよりも前記第2給気口に近い位置で開口する吸引口を有し、前記吸引口から前記処理空間内のガスを吸引する吸引機構とを備え、前記基板の公転経路と前記吸引機構の前記吸引口とは前記公転軸線に沿う軸方向において向かい合う位置にそれぞれ設けられ、前記吸引機構の前記吸引口の開口方向は前記軸方向に沿って前記基板保持部に向かう方向であり、前記吸引機構の前記吸引口は、前記軸方向において、前記基板保持部に対して前記プラズマ部の前記第2給気口と同じ側に設けられ、前記プラズマ部は、プラズマ発生部を含み、当該プラズマ発生部と前記第2給気口は前記吸引口の外側に設けられ、前記第2給気口からの前記反応性ガスは前記プラズマ発生部によってプラズマ化しつつ前記基板保持部に向かって流れて一部が前記基板に作用し、Uターンして前記吸引口に向かって流れる。
スパッタリング装置の第2の態様は、第1の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記プラズマ発生部は誘導結合アンテナを含む。
スパッタリング装置の第3の態様は、第2の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記誘導結合アンテナは、U字状の導電部材を含み、前記導電部材の両端が前記周方向に沿う姿勢で設けられている。
【0011】
スパッタリング装置の第4の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタ部は、前記ターゲットと向かい合う位置に開口を有し、前記ターゲットの周囲を囲む第1囲み部材をさらに含み、前記吸引機構の前記吸引口は前記第1囲み部材よりも外側に設けられる。
【0014】
スパッタリング装置の第5の態様は、第1から第4のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第2給気口は複数設けられ、当該複数の第2給気口は前記公転軸線の径方向において互いに異なる位置に設けられる。
スパッタリング装置の第6の態様は、第5の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記複数の第2給気口は2つの給気口を含み、当該2つの給気口は前記吸引口の中心を挟んで互いに反対側に設けられている。
【0015】
スパッタリング装置の第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記プラズマ空間内に設けられた筒状の第2囲み部材をさらに備え、前記第2囲み部材には、前記基板保持部側の端部において開口が形成され、前記プラズマ部の前記第2給気口および前記吸引機構の前記吸引口は前記第2囲み部材の内部に設けられる。
【0016】
スパッタリング装置の第8の態様は、第7の態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第2囲み部材の前記開口は、前記公転軸線の径方向の外側に向かうほど幅広となる。
【0017】
スパッタリング装置の第9の態様は、第1から第8のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記第1給気口は複数設けられ、当該複数の第1給気口は、前記ターゲットの周囲から前記ターゲットの主面近傍の空間に向けて前記スパッタガスを吐出する。
【0018】
スパッタリング装置の第10の態様は、第9の態様にかかるスパッタリング装置であって、当該複数の第1給気口は、平面視において前記ターゲットのまわりを囲むように並んで設けられる。
【0019】
スパッタリング装置の第11の態様は、第1から第10のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタ部は、前記反応性ガスの流量よりも大きい流量で前記スパッタガスを供給する。
【0020】
スパッタリング装置の第12の態様は、第1から第11のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記基板保持部は、前記基板を前記公転軸線のまわりで公転させつつ、前記基板を自転させる。
【0021】
スパッタリング装置の第13の態様は、第1から第12のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタ部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、前記プラズマ部は、前記プラズマ空間内に設けられた導電部材と、前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源とを含み、成膜処理において、前記基板保持部は前記基板を常時公転させつつ、前記第1電源および前記第2電源は常時、それぞれ前記第1電圧および前記第2電圧を出力する。
【0022】
スパッタリング装置の第14の態様は、第1から第12のいずれか一つの態様にかかるスパッタリング装置であって、前記スパッタ部は、前記ターゲットに第1電圧を印加する第1電源を含み、前記プラズマ部は、前記プラズマ空間内に設けられた導電部材と、前記導電部材に第2電圧を印加する第2電源とを含み、前記基板保持部が前記スパッタ空間内で前記基板を停止させた状態で、前記第1電源は前記第1電圧を出力し、前記基板保持部が前記プラズマ空間内で前記基板を停止させた状態で、前記第2電源は前記第2電圧を出力し、前記基板保持部は、前記第1電源および前記第2電源がそれぞれ前記第1電圧および前記第2電圧の出力を停止した状態で、前記基板を公転させる。
【発明の効果】
【0023】
スパッタリング装置の第1から第3の態様によれば、吸引口がターゲットよりもプラズマ部の第2給気口の近くに設けられている。よって、反応性ガスがターゲットに向かって流れにくい。よって、ターゲットが反応性ガスと反応する可能性を低減させることができる。しかも、吸引口と第2給気口との間に基板保持部が介在しないので、吸引機構は、第2給気口から吐出された反応性ガスを吸引しやすい。よって、ターゲットに向かって流れる反応性ガスの量をさらに低減させることができる。また、反応性ガスが第2給気口から遠ざかるほど、吸引口への吸引によって反応性ガスの速度が低下し、反応性ガスはUターンして吸引口に引き戻される。これにより、給気口からの反応性ガスの流出範囲を効果的に制限することができる。
【0024】
スパッタリング装置の第4の態様によれば、第1囲み部材の内部に流入する反応性ガスの量を低減させることができる。
【0027】
スパッタリング装置の第5および第6の態様によれば、複数の第2給気口は、基板の移動方向(周方向)に直交する方向(径方向)において互いに異なる位置に設けられるので、基板の主面に対してより均一に反応性ガスを供給できる。
【0028】
スパッタリング装置の第7の態様によれば、反応性ガスが第2囲み部材の外側に流出しにくいので、ターゲットに向かって流れる反応性ガスの量をさらに低減させることができる。
【0029】
スパッタリング装置の第8の態様によれば、反応性ガスを基板の主面に対してより均一に供給することができる。
【0030】
スパッタリング装置の第9の態様によれば、ターゲットの主面近傍の空間をスパッタガスでパージすることができる。よって、反応性ガスがターゲットに到達しにくく、ターゲットが反応性ガスと反応する可能性をさらに低減させることができる。
【0031】
スパッタリング装置の第10の態様によれば、ターゲットにスパッタガスをより均一に供給することができる。
【0032】
スパッタリング装置の第11の態様によれば、スパッタ空間内の圧力をプラズマ空間内の圧力よりも高くすることができる。よって、ターゲットに向かって流れる反応性ガスの流量をさらに低減させることができる。
【0033】
スパッタリング装置の第12の態様によれば、基板の主面に対してより均一に薄膜を形成することができる。
【0034】
スパッタリング装置の第13の態様によれば、簡易な制御でスパッタリング装置を動作させることができる。
【0035】
スパッタリング装置の第14の態様によれば、基板が停止した状態で、基板の主面にスパッタ粒子を積層することができ、基板が停止した状態で、基板の主面にプラズマ粒子を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第2の実施の形態にかかるスパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。
【
図2】第2の実施の形態にかかるスパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図3】基板保持部およびヒータの構成の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図4】制御部の構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図5】スパッタリング装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施の形態にかかるスパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。
【
図7】プラズマ部の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図8】第3の実施の形態にかかるスパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す側面図である。
【
図9】自公転機構の構成の一例を模式的に示す平面図である。
【
図10】第4の実施の形態にかかるスパッタリング装置の構成の一例を概略的に示す平面図である。
【
図11】基板保持部の公転動作と、第1電源および第2電源の出力電圧との一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付の図面を参照しながら、実施の形態について説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本開示の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法または数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0038】
相対的または絶対的な位置関係を示す表現(例えば「一方向に」「一方向に沿って」「平行」「直交」「中心」「同心」「同軸」など)は、特に断らない限り、その位置関係を厳密に表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる範囲で相対的に角度または距離に関して変位された状態も表すものとする。等しい状態であることを示す表現(例えば「同一」「等しい」「均質」など)は、特に断らない限り、定量的に厳密に等しい状態を表すのみならず、公差もしくは同程度の機能が得られる差が存在する状態も表すものとする。形状を示す表現(例えば、「四角形状」または「円筒形状」など)は、特に断らない限り、幾何学的に厳密にその形状を表すのみならず、同程度の効果が得られる範囲で、例えば凹凸または面取りなどを有する形状も表すものとする。一の構成要素を「備える」「具える」「具備する」「含む」または「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的表現ではない。「A,BおよびCの少なくともいずれか一つ」という表現は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A,BおよびCのうち任意の2つ、ならびに、A,BおよびCの全てを含む。
【0039】
<第1の実施の形態>
<スパッタリング装置の概要>
図1は、第1の実施の形態にかかるスパッタリング装置100の構成の一例を概略的に示す側面図である。
図2は、スパッタリング装置100の構成の一例を概略的に示す平面図である。
図1は、
図2のA-A断面を示している。
【0040】
スパッタリング装置100は、反応性スパッタリングによる成膜処理を基板Wに対して行う成膜装置である。基板Wは、例えばサファイア等の基板である。基板Wは例えば円板形状を有する。なお、基板Wの材質および形状はこれらに限らず、適宜に変更し得る。
【0041】
スパッタリング装置100はチャンバ1とスパッタ部2とプラズマ部3と基板保持部4と吸引機構5と制御部6とを含む。以下、各構成を概説した後に詳述する。
【0042】
チャンバ1は箱形の中空形状を有している。チャンバ1の内部空間は、基板Wに対する成膜処理を行う処理空間に相当する。チャンバ1は真空チャンバとも呼ばれ得る。
【0043】
吸引機構5は吸引口5aを有しており、吸引口5aは処理空間において開口する。吸引機構5は制御部6によって制御される。吸引機構5は吸引口5aからガスを吸引することにより、チャンバ1内の圧力を低下させ、当該圧力を所定の減圧範囲内に調整する。
【0044】
チャンバ1内の処理空間は、所定の公転軸線Q1の周方向に沿って並ぶスパッタ空間1aとプラズマ空間1bとを有する。公転軸線Q1は、鉛直方向に沿う軸である。なお、スパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを区画するための物理的な構造体(例えば仕切板)がチャンバ1内に設けられてもよいし、設けられていなくてもよい。
【0045】
後述のように、スパッタ空間1aにはスパッタ部2のターゲット21が設けられ、ターゲット21に対するスパッタリングが行われる。また後述のように、プラズマ空間1bにはプラズマ部3によって反応性ガスが供給され、プラズマ部3によって当該反応性ガスがプラズマ化する。
【0046】
基板保持部4はチャンバ1内に設けられる。基板保持部4は基板Wを保持しつつ、基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させて、基板Wをスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bに交互に移動させる。
図3は、基板保持部4および後述のヒータ11の構成の一例を概略的に示す斜視図である。
図3の例では、基板保持部4は、複数の基板Wを公転軸線Q1の周方向に沿って並べた状態で保持する。
図2および
図3の例では、複数の基板Wとして6枚の基板Wが示されている。基板保持部4は各基板Wを水平姿勢で保持する。ここでいう水平姿勢とは、基板Wの厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢である。複数の基板Wが基板保持部4によって保持された状態で、各基板Wの主面(図では下面)Waはチャンバ1内において露出する。基板保持部4は複数の基板Wを保持しつつ、当該複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させる。つまり、複数の基板Wは、公転軸線Q1を中心とした仮想円上を周回する。
【0047】
基板保持部4が基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させることにより、各基板Wはスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを交互に通過する。後述のように、基板Wがスパッタ空間1aを通過する際に、ターゲット21からのスパッタ粒子が基板Wの主面Waに積層し、基板Wがプラズマ空間1bを通過する際に、反応性ガスのプラズマ化により生成されたプラズマ粒子が基板Wの主面Waのスパッタ粒子と反応する。これにより、基板Wの主面Waに所定の薄膜が形成される。
【0048】
以下では、基板Wが周回する経路を公転経路R1とも呼ぶ(
図3も参照)。また、以下では、公転軸線Q1が延びる方向を軸方向とも呼び、公転軸線Q1についての周方向および径方向をそれぞれ単に周方向および径方向とも呼ぶ。
【0049】
図1の例では、スパッタリング装置100はヒータ11も含む。ヒータ11はチャンバ1内において基板保持部4よりも鉛直上側に設けられている。ヒータ11は制御部6によって制御され、基板保持部4によって保持された複数の基板Wを加熱する。ヒータ11は基板Wの温度を、成膜処理に適した温度範囲内に調整する。ヒータ11は例えば公転軸線Q1を中心とした円環形状を有する。ヒータ11は公転経路R1と軸方向において向かい合う程度の大きさの円環形状を有するとよい。これにより、複数の基板Wをより均一に加熱することができる。ヒータ11は、例えば電熱線を含む電気抵抗式のヒータであってもよく、あるいは、加熱用の光(例えば赤外線)を基板Wに照射する光源を含む光学式のヒータであってもよい。
【0050】
スパッタ部2はターゲット21とスパッタガス供給部23と第1プラズマ発生部25とを含む。なお
図2の例では、図面の煩雑を避けるために、スパッタガス供給部23および第1プラズマ発生部25の図示を省略している。
【0051】
ターゲット21はスパッタ空間1a内に設けられ、軸方向において基板保持部4と向かい合う。より具体的には、ターゲット21は、基板Wの公転経路R1のうち周方向の一部と軸方向において向かい合う位置に設けられる。
図1の例では、ターゲット21は基板保持部4よりも鉛直下側に設けられる。
【0052】
ターゲット21は例えば板状の形状を有しており、
図2の例では、平面視において矩形形状を有している。ターゲット21はターゲット保持部22によって保持される。ターゲット保持部22はターゲット21の主面(ここでは上面)21aが基板保持部4を向いた水平姿勢で、ターゲット21を保持する。ここでいう水平姿勢とは、ターゲット21の厚み方向が鉛直方向に沿う姿勢である。ターゲット21がターゲット保持部22によって保持された状態で、ターゲット21の主面21aはチャンバ1内に露出する。
【0053】
ターゲット21の材料は、基板Wの主面Waに形成する薄膜の種類に応じて選定される。例えば、窒化ガリウム膜または酸化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合、ターゲット21はガリウムを含む。より具体的な一例として、ターゲット21はガリウム製の金属ターゲットである。ガリウムの融点は29.8度であるのに対して、ターゲット21の温度はスパッタリングによる加熱によって数百度程度になり得る。よって、ターゲット21を冷却しなければ、ターゲット21は液化する。ターゲット保持部22は、液化したターゲット21を保持することが可能である。例えばターゲット保持部22は鉛直上側に開口する凹形状を有し、液化したターゲット21を貯留する。
【0054】
スパッタ部2は、スパッタ空間1aにおいて開口する第1給気口23aからスパッタガスを処理空間に供給しつつ、当該スパッタガスをプラズマ化してターゲット21の主面21aにイオンを衝突させる。具体的には、スパッタ部2はスパッタガス供給部23と第1プラズマ発生部25とを含む。スパッタガス供給部23は第1給気口23aを有しており、第1給気口23aからチャンバ1内にスパッタガスを供給する。第1給気口23aはターゲット21の周辺に設けられる。よって、スパッタガスはターゲット21の周辺に供給される。スパッタガスは不活性ガスであり、例えばアルゴンガスまたはキセノンガスなどの希ガスである。
【0055】
第1プラズマ発生部25はスパッタ空間1a内においてスパッタガスをプラズマ化させ、そのプラズマ中のイオン(例えばアルゴンイオン)をターゲット21の主面21aに衝突させる。当該衝突によって、スパッタ粒子(例えばガリウム粒子)がターゲット21の主面21aから飛び出す。当該スパッタ粒子は基板保持部4に向かって鉛直上側に移動する。
【0056】
基板保持部4が複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させると、基板Wが順にスパッタ空間1aを通過する。より具体的には、基板Wが順にターゲット21の直上を横切る。各基板Wがスパッタ空間1aを通過する際に、スパッタ粒子が基板Wの主面Waに到達して、主面Waに積層される。
【0057】
図1の例では、スパッタ部2はチムニー(第1囲み部材に相当)27も含んでいる。チムニー27はスパッタ空間1a内に設けられる。チムニー27は箱形の中空形状を有し、ターゲット21の周囲を囲む。
図1の例では、チムニー27は庇部271と側壁272とを含んでいる。側壁272はターゲット21を取り囲む筒状形状を有し、側壁272の下端はチャンバ1の底面に連結されている。庇部271は板状形状を有しており、その外周縁が側壁272の上端に連結されている。庇部271の下面は、ターゲット21の主面21aよりも鉛直上側に位置している。庇部271は、ターゲット21と軸方向において向かい合う位置に開口27aを有している。開口27aは庇部271を軸方向において貫通する。ターゲット21の主面21aから飛び出したスパッタ粒子は開口27aを通過して基板保持部4に向かって移動する。
【0058】
図1の例では、スパッタガス供給部23の第1給気口23aはチムニー27の内部空間に設けられている。これにより、スパッタガス供給部23はターゲット21に近い位置でスパッタガスを供給することができる。よって、ターゲット21に近い位置でプラズマを発生させることができ、ターゲット21にイオンを衝突させやすい。
【0059】
プラズマ部3は、プラズマ空間1bにおいて開口する第2給気口31aを有し、第2給気口31aからチャンバ1内の処理空間に反応性ガスを供給する。また、プラズマ部3はチャンバ1内の反応性ガスをプラズマ化させる。具体的には、プラズマ部3は反応性ガス供給部31と第2プラズマ発生部33とを含む。
【0060】
反応性ガス供給部31は第2給気口31aを有する。第2給気口31aはプラズマ空間1b内に設けられるので、スパッタ空間1a内のターゲット21、第1給気口23aおよびチムニー27とは異なる周方向の位置に設けられる。
【0061】
図1に示すように、第2給気口31aは、軸方向において、基板保持部4に対してターゲット21と同じ側(ここでは鉛直下側)に設けられる。反応性ガス供給部31は第2給気口31aからチャンバ1内に反応性ガスを供給する。第2給気口31aは基板保持部4側に開口しており、第2給気口31aから供給された反応性ガスは基板保持部4に向かって流れる。
【0062】
反応性ガスとしては、基板Wの主面Waに形成する薄膜の種類に応じたガスを採用することができる。例えば窒化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合、窒素を含むガスを反応性ガスとして採用する。具体的な一例として、反応性ガスは、窒素(N2)ガスおよびアンモニア(NH3)ガスの少なくともいずれかを含む。酸化ガリウム膜を基板Wの主面Waに形成する場合には、反応性ガスとして、酸素を含むガスを採用する。酸素を含む反応性ガスとしては、例えば、酸素(O2)ガスを採用し得る。
【0063】
なお、以下では主として、ターゲット21としてガリウムを採用し、反応性ガスとして窒素ガスを採用した場合について述べる。
【0064】
第2プラズマ発生部33は、第2給気口31aからチャンバ1内に供給された窒素ガスをプラズマ化させる。プラズマ化によって生成された反応性の高い窒素粒子(イオンまたはラジカル)は基板保持部4に向かって移動する。
【0065】
基板保持部4が複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させると、基板Wが順にプラズマ空間1bを通過する。各基板Wがプラズマ空間1bを通過する際に、窒素粒子が基板Wの主面Waのガリウムと反応して、当該ガリウムを窒化する。これにより、窒化ガリウム膜が基板Wの主面Waに形成される。
【0066】
図2の例では、複数のスパッタ空間1aおよび複数のプラズマ空間1bが周方向において交互に形成され、各スパッタ空間1aに対応してスパッタ部2が設けられ、各プラズマ空間1bに対応してプラズマ部3が設けられている。よって、
図2の例では、チャンバ1内においてスパッタ部2およびプラズマ部3が周方向において交互に配置される。
【0067】
基板保持部4が複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させることにより、各基板Wはスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを交互に横切る。各基板Wがスパッタ空間1aを通過する際には、基板Wの主面Waにはガリウム粒子が積層され、各基板Wがプラズマ空間1bを通過する際には、窒素粒子が基板Wの主面Waのガリウムと反応する。このように、ガリウム粒子の積層と、積層されたガリウムの窒化とが交互に行われ、基板Wの主面Waに窒化ガリウム膜が形成される。
【0068】
ところで、もし窒素がターゲット21と反応すると、ターゲット21が窒化する。このようにターゲット21が反応性ガスと反応すると、ターゲット21の品質が低下し、基板Wに対する成膜処理の成膜レートの低下、および、基板Wの主面Waに形成される薄膜の品質低下を招く。
【0069】
しかも、ターゲット21がガリウム製の金属ターゲットである場合、その融点が低いので、成膜処理中にターゲット21は液化し得る。液化したターゲット21が窒素と反応すると、対流により窒素がターゲット21の内部に取り込まれ、ターゲット21の表面のみならず、その内部でも窒素濃度が高くなる。窒素濃度が高くなったターゲット21を用いると、成膜レートは大きく低下し、薄膜の品質も大きく低下してしまう。
【0070】
そこで、スパッタリング装置100においては、吸引機構5の吸引口5aは、スパッタ部2のターゲット21よりもプラズマ部3の第2給気口31aに近い位置に設けられている。言い換えれば、吸引口5aはチャンバ1内の処理空間において、ターゲット21よりも第2給気口31aに近い位置で開口する。
図1および
図2の例では、プラズマ部3の第2給気口31aの近傍に吸引機構5の吸引口5aが設けられている。窒素ガスは第2給気口31aからチャンバ1内を広がって基板保持部4に向かって流れつつ基板Wの主面Waに到達する。そして、基板Wの主面Waを経由した窒素ガスは、吸引機構5による吸引によって吸引口5aに向かって流れる。
【0071】
このように吸引口5aがターゲット21よりも第2給気口31aに近い位置に設けられているので、窒素ガスはターゲット21側には流れにくい。つまり、ターゲット21に到達する窒素ガスの量を低減させることができる。したがって、ターゲット21と窒素とが反応する可能性を低減させることができる。よって、ターゲット21の品質の低下を抑制することができる。ひいては、成膜レートの低下および薄膜の品質の低下を抑制することができる。
【0072】
次に各構成について詳述する。
【0073】
<基板保持部>
基板保持部4は保持具41と回転機構42とを含む。保持具41は複数の基板Wを周方向において並べた状態で保持する。また保持具41は、基板Wの主面Waを露出させた水平姿勢で各基板Wを保持する。保持具41の具体的な構造は特に制限されないものの、例えば保持具41は、公転軸線Q1を中心とした円板形状を有している。保持具41には、複数の貫通孔41aが形成されてもよい。複数の貫通孔41aは例えば周方向に沿って等間隔に形成され、保持具41を軸方向に貫通する。各貫通孔41aは鉛直下側に向かうにつれて狭くなる段差形状を有しており、各基板Wが当該貫通孔41a内に配置される。保持具41は各貫通孔41aの段差部において各基板Wの周縁を支持する。
【0074】
回転機構42は制御部6によって制御され、保持具41を公転軸線Q1のまわりで回転させる。これにより、保持具41によって保持された複数の基板Wが公転軸線Q1のまわりで公転する。回転機構42は例えばモータとシャフトとを含む。モータはシャフトを介して保持具41に連結される。シャフトの上端は保持具41の下面に連結され、公転軸線Q1に沿って延在する。モータがシャフトを公転軸線Q1のまわりで回転させることにより、保持具41を公転軸線Q1のまわりで回転させることができる。これにより、保持具41によって保持された複数の基板Wが公転軸線Q1のまわりで公転する。
【0075】
<スパッタガス供給部>
スパッタガス供給部23はチャンバ1内にスパッタガスを供給する。
図1の例では、スパッタガス供給部23は給気管231とバルブ232と流量調整部233とを含む。
【0076】
給気管231は環状管2311と中継管2312とを含んでいる。環状管2311は平面視においてターゲット21の周囲を囲む。ターゲット21は平面視において矩形形状を有しているので、環状管2311も平面視で矩形の環状形状を有する。チムニー27が設けられる場合には、環状管2311はチムニー27の内部空間において、チムニー27の庇部271と軸方向で向かい合うように設けられる。
【0077】
図1の例では、環状管2311の軸方向における位置は、ターゲット21の主面21aよりも開口27a側(ここでは鉛直上側)である。具体的には、環状管2311はチムニー27の庇部271とターゲット21との間の高さ位置に設けられている。
【0078】
環状管2311の内周部分には、第1給気口23aが形成される。環状管2311の内周部分には、複数の第1給気口23aが周方向において間隔を空けて並んで形成されてもよい。言い換えれば、複数の第1給気口23aはターゲット21のまわりを囲むように並んで設けられてもよい。複数の第1給気口23aはターゲット21のまわりで等間隔で設けられてもよい。環状管2311は平面視においてターゲット21の周囲を囲むので、第1給気口23aもターゲット21の周囲に位置する。言い換えれば、第1給気口23aは平面視においてターゲット21の周縁よりも外周側に位置する。第1給気口23aの開口方向は、ターゲット21の主面21a近傍の空間に向かう方向である。第1給気口23aの開口方向は水平方向に平行であってもよく、わずかに傾斜していてもよい。
【0079】
中継管2312は環状管2311とスパッタガス供給源234とを接続する。
図1の例では、中継管2312は複数の分岐管2313と共通管2314とを含む。複数の分岐管2313の下流端は環状管2311に接続される。例えば複数の分岐管2313は周方向において等間隔となる位置で環状管2311に接続される。複数の分岐管2313の上流端は共通管2314に接続される。共通管2314の上流端はスパッタガス供給源234に接続される。スパッタガス供給源234は共通管2314の上流端にスパッタガスを供給する。
【0080】
バルブ232は給気管231に介装される。
図1の例では、バルブ232は共通管2314に介装される。バルブ232は制御部6によって制御され、バルブ232が開くことにより、スパッタガス供給源234から給気管231を通じてチャンバ1内(より具体的にはチムニー27内)にスパッタガスが供給される。バルブ232が閉じることにより、スパッタガスの供給が停止する。
【0081】
流量調整部233は給気管231に介装される。
図1の例では、流量調整部233は共通管2314に介装される。流量調整部233は制御部6によって制御され、給気管231を流れるスパッタガスの流量を調整する。流量調整部233は例えばマスフローコントローラである。
【0082】
このようなスパッタガス供給部23によれば、複数の第1給気口23aはターゲット21の周囲からターゲット21の主面21a近傍の空間に向けてスパッタガスを吐出する。これにより、ターゲット21の主面21a近傍の空間をスパッタガスでパージすることができる。よって、窒素がチムニー27の外側から開口27aを通じてターゲット21の主面21aに向かって流れたとしても、スパッタガスが窒素の流れを阻害するので、窒素はターゲット21の主面21aに到達しにくい。よって、ターゲット21の窒化をさらに抑制することができる。
【0083】
また、上述の例では、複数の第1給気口23aがターゲット21のまわりで等間隔に配置されており、ターゲット21の中心に向けてスパッタガスを吐出する。これによれば、ターゲット21の主面21a近傍の空間により均一にスパッタガスを供給することができる。したがって、ターゲット21に対してより均一にスパッタリングを行うことができる。
【0084】
<第1プラズマ発生部>
第1プラズマ発生部25はスパッタガスをプラズマ化させる。
図1の例では、第1プラズマ発生部25は第1電源251を含んでいる。第1電源251はターゲット21にスパッタ用の直流または交流(高周波)の電力を供給する。ここでは、ターゲット21は導電性の金属ターゲットであるので、第1電源251として直流電源を採用することができる。この場合、第1電源251はターゲット21に直流電力を供給する。第1電源251は例えばターゲット21とチャンバ1との間に直流電圧(第1電圧に相当)を出力する。より具体的には、第1電源251は、ターゲット21に負電位が印加されるように直流電圧を出力する。
図1に例示するように、チャンバ1は接地されてもよい。また、基板保持部4はチャンバ1と電気的に接続されてもよい。
【0085】
第1電源251は例えばスイッチング電源回路(不図示)を含む。第1電源251の出力は制御部6によって制御される。第1電源251がターゲット21に直流電力を供給することにより、ターゲット21の周囲にはプラズマ用の電界が生じる。そして、当該電界がスパッタガスに作用することにより、スパッタガスが電離してプラズマ化する。当該プラズマ中のイオンはターゲット21の主面21aに衝突し、ターゲット21に対するスパッタリングが行われる。
【0086】
<反応性ガス供給部>
反応性ガス供給部31はチャンバ1内に反応性ガスを供給する。
図1の例では、反応性ガス供給部31は給気管311とバルブ312と流量調整部313とを含んでいる。
【0087】
給気管311の下流端は第2給気口31aとしてチャンバ1内で開口する。
図1の例では、給気管311の第2給気口31aの開口方向は軸方向に平行であり、基板保持部4に向かう方向である。
【0088】
図1の例では、複数の給気管311が設けられている。
図1の例では、複数の給気管311として2つの給気管311が設けられている。2つの第2給気口31aの径方向における位置は互いに相違する。具体的には、2つの給気管311は径方向において並んで設けられており、第2給気口31aも径方向において並んで設けられる。より具体的な一例として、一方の第2給気口31aは、基板Wの公転経路R1のうち内周側の部分と向かい合うように設けられ、他方の第2給気口31aは、公転経路R1のうち外周側の部分と向かい合うように設けられ得る。
【0089】
図1の例では、各給気管311の上流端は共通管314の下流端に共通して接続され、共通管314の上流端は反応性ガス供給源315に接続される。反応性ガス供給源315は共通管314の上流端に反応性ガスを供給する。
【0090】
図1の例では、バルブ312は共通管314に介装される。バルブ312は制御部6によって制御され、バルブ312が開くことにより、反応性ガス供給源315から共通管314および給気管311を通じてチャンバ1内に反応性ガスが供給される。バルブ312が閉じることにより、反応性ガスの供給が停止する。
【0091】
図1の例では、流量調整部313は共通管314に介装される。流量調整部313は制御部6によって制御され、給気管311を流れる反応性ガスの流量を調整する。流量調整部313は例えばマスフローコントローラである。
【0092】
<第2プラズマ発生部>
第2プラズマ発生部33は反応性ガスをプラズマ化させる。
図1の例では、第2プラズマ発生部33は誘導結合アンテナ331と第2電源332とを含んでいる。誘導結合アンテナ331はU字状の導電部材3311を含む。導電部材3311はその両端部分が鉛直下側に位置する姿勢でチャンバ1内に設けられ、より具体的には、チャンバ1の底部に取り付けられる。
図2の例では、導電部材3311は、その両端が周方向に沿って並ぶ姿勢で設けられている。導電部材3311の両端部分は例えばチャンバ1の底部を貫通し、当該両端が第2電源332に電気的に接続される。導電部材3311はプラズマ発生用の電極(アンテナ)として機能する。
【0093】
誘導結合アンテナ331は、導電部材3311を保護する誘電部材3312を含んでいるとよい。誘電部材3312は導電部材3311を覆う中空状のU字形状を有する。誘電部材3312が設けられることにより、導電部材3311がプラズマに曝されることを抑制できる。したがって、プラズマに起因した導電部材3311の損耗を抑制することができる。
【0094】
図1および
図2の例では、複数(ここでは2つ)の誘導結合アンテナ331が設けられており、各誘導結合アンテナ331は各給気管311の第2給気口31aの近傍に設けられている。
図1および
図2の例では、誘導結合アンテナ331は軸方向において給気管311の第2給気口31aと向かい合うように設けられている。言い換えれば、第2給気口31aは平面視において誘導結合アンテナ331(導電部材3311)の両端の間に位置している。
【0095】
第2電源332は誘導結合アンテナ331に高周波電力を供給する。第2電源332は例えばインバータ回路および整合回路を含み、制御部6によってその出力が制御される。第2電源332が誘導結合アンテナ331(導電部材3311)の両端に高周波電圧(第2電圧に相当)を印加することにより、誘導結合アンテナ331の周囲にはプラズマ発生用の高周波誘導磁界が生じ、これが反応性ガスに作用することにより、反応性ガスが電離してプラズマ化する。このような誘導結合プラズマは、電子の空間密度が3×1010個/cm3以上の高密度プラズマである。
【0096】
また、本実施形態のようにU字状の誘導結合アンテナ331は、巻数が一周未満の誘導結合アンテナに相当し、巻数が一周以上の誘導結合アンテナよりもインダクタンスが低い。このため、誘導結合アンテナ331の両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が特に低く抑えられる。これにより、基板Wへのダメージを低減することが可能となる。
【0097】
<吸引機構>
吸引機構5はチャンバ1内のガスを吸引する。この吸引機構5の吸引口5aはプラズマ空間1bにおいて開口する。言い換えれば、吸引口5aはチムニー27の外側に設けられる。
図1の例では、吸引機構5の吸引口5aは、軸方向において、基板保持部4に対してプラズマ部3の第2給気口31aと同じ側に設けられる。具体的な一例として、吸引機構5の吸引口5aは軸方向において、第2給気口31aに対して基板保持部4とは反対側(ここでは鉛直下側)に設けられ、例えばチャンバ1の底部に設けられる。
図1の例では、吸引口5aは第2給気口31aの近傍に設けられ、その開口方向は軸方向に平行であり、基板保持部4に向かう方向である。吸引機構5としては、例えば真空ポンプ、より具体的な一例としてターボ分子ポンプを採用することができる。
【0098】
図2の例では、複数の吸引機構5が設けられている。複数の吸引機構5は複数のプラズマ部3に対応して設けられる。
図2の例では、2つのプラズマ部3が設けられるので、2つの吸引機構5が設けられている。各吸引機構5の吸引口5aは、対応するプラズマ部3の第2給気口31aの近傍に設けられる。
【0099】
図2の例では、吸引口5aは軸方向において基板Wの公転経路R1と向かい合う位置に設けられており、2つの第2給気口31aがそれぞれ公転経路R1の内周側および外周側に設けられている。2つの第2給気口31aは平面視において吸引口5aの中心を挟んで互いに反対側に設けられている。
【0100】
反応性ガス供給部31の第2給気口31aからの窒素ガスは基板保持部4側へ広がって流れるものの、吸引機構5が吸引口5aからガスを吸引するので、窒素ガスの流速は基板保持部4に近づくにつれて低下する。また、第2給気口31aと基板保持部4との間には誘導結合アンテナ331の一部が存在するので、窒素ガスは誘導結合アンテナ331の周囲を経由して基板保持部4に向かって流れる。窒素ガスは誘導結合アンテナ331の周囲でプラズマ化し、その窒素粒子が基板Wの主面Waに到達すると、主面Waのガリウムと反応する。つまり、ガリウムを窒化する。これにより、基板Wの主面Waに窒化ガリウム膜が積層される。そして、窒素ガスおよび窒素粒子は基板Wの主面Waを経由しつつUターンして吸引口5aに向かって流れる。
【0101】
<制御部>
図4は、制御部6の構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御部6は電子回路機器であって、例えばデータ処理装置61および記憶媒体62を有していてもよい。データ処理装置61は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶媒体62は非一時的な記憶媒体621(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体622(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体621には、例えば制御部6が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。データ処理装置61がこのプログラムを実行することにより、制御部6が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部6が実行する処理の一部または全部が、論理回路などのハードウェア回路によって実行されてもよい。
【0102】
<スパッタリング装置の動作>
次にスパッタリング装置100の動作について説明する。
図5は、スパッタリング装置100の動作の一例を示すフローチャートである。まず、不図示の基板搬送部が未処理の複数の基板Wをチャンバ1内に搬送する(ステップS1)。これにより、基板保持部4が複数の基板Wを保持する。次に、吸引機構5がチャンバ1内のガスの吸引を開始し(ステップS2)、ヒータ11が基板Wを加熱させ始める(ステップS3)。吸引機構5はチャンバ1内の圧力を成膜処理に適した減圧範囲内に調整し、ヒータ11は基板Wの温度を成膜処理に適した温度範囲内に調整する。
【0103】
次に、スパッタガス供給部23がスパッタガスの供給を開始し、反応性ガス供給部31が反応性ガスの供給を開始しつつ、第1プラズマ発生部25および第2プラズマ発生部33がガスをプラズマ化させる(ステップS4)。具体的には、制御部6はバルブ232およびバルブ312を開く。これにより、チャンバ1内にスパッタガスおよび反応性ガスが並行して供給される。また、制御部6は第1電源251および第2電源332に電圧を出力させる。さらに回転機構42は保持具41を公転軸線Q1のまわりで回転させる(ステップS5)。これにより、複数の基板Wが公転軸線Q1のまわりで公転する。
【0104】
ここでは、成膜処理(ステップS5,S6)において、スパッタガス供給部23はスパッタガスを常時供給し、反応性ガス供給部31は反応性ガスを常時供給し、第1電源251および第2電源332は電圧を常時出力する。また、基板保持部4は基板Wを常時公転させる。
【0105】
基板Wが公転軸線Q1のまわりを公転することにより、各基板Wはスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを交互に通過する。これにより、基板Wの主面Waに対するガリウム粒子の積層、および、基板Wの主面Waのガリウムの窒化が交互に行われ、基板Wの主面Waには窒化ガリウム膜が形成される。
【0106】
成膜処理によって、基板Wに十分な膜厚で窒化ガリウム膜が形成されると、スパッタガスおよび反応性ガスの供給を停止し、第1電源251および第2電源332の電圧の出力を停止し、ヒータ11による加熱を停止し、吸引機構5による減圧を停止する(ステップS6)。次に、基板搬送部が処理済みの基板Wをチャンバ1から搬出する(ステップS7)。
【0107】
以上のように、スパッタリング装置100によって、基板Wの主面Waに窒化ガリウム膜を形成することができる。しかも、スパッタリング装置100においては、吸引機構5の吸引口5aはスパッタ部2のターゲット21よりもプラズマ部3の第2給気口31aに近い位置に設けられている。よって、第2給気口31aからチャンバ1内に供給された窒素ガスは、ターゲット21よりも吸引口5aに向かって流れやすい。言い換えれば、ターゲット21に向かって流れる窒素(窒素ガスおよび窒素粒子)の量を低減させることができる。よって、ターゲット21の窒化を抑制することができる。
【0108】
また、上述の例では、吸引機構5の吸引口5aはチムニー27の外側に設けられる。吸引機構5はチムニー27の外側の吸引口5aからガスを吸引するので、ガスはチムニー27の外側からチムニー27の内部には流入しにくい。よって、窒素はターゲット21の主面21aに到達しにくく、ターゲット21の窒化を抑制することができる。
【0109】
また、上述の例では、吸引機構5の吸引口5aは、軸方向において、基板保持部4に対して、プラズマ部3の第2給気口31aと同じ側(ここでは鉛直下側)に設けられている。ここで、比較のために、吸引機構5の吸引口5aが基板保持部4に対して鉛直上側に設けられた場合について考察する。この場合、吸引口5aと第2給気口31aとの間に基板保持部4が介在する。よって、吸引機構5が吸引口5aからガスを吸引すると、第2給気口31aから供給された窒素ガスは基板保持部4の外周側の狭い空間を通過して吸引口5aに流れる。ガスは狭い空間を通過するので、効率的にガスを吸引できず、窒素ガスがターゲット21側に流れやすくなる。これに対して、
図1の例では、第2給気口31aと吸引口5aとの間に基板保持部4が介在しない。よって、吸引機構5は、第2給気口31aから供給された窒素ガスを効率的に吸引口5aから吸引することができる。したがって、ターゲット21に流れる窒素の量を効率的に低減させることができる。
【0110】
また、上述の例では、プラズマ部3の第2給気口31aの開口方向は軸方向に沿って基板保持部4に向かう方向であり、吸引機構5の吸引口5aの開口方向も軸方向に沿って基板保持部4に向かう方向である。
【0111】
また、上述の例では、反応性ガス供給部31の第2給気口31aの開口方向は軸方向に平行であり、基板保持部4を向く方向である。よって、窒素ガスを基板Wの主面Waに到達させやすい。
【0112】
また、上述の例では、吸引口5aが平面視において第2給気口31aに隣接して設けられており、その開口方向は軸方向に平行であって、基板保持部4を向く方向である。これによれば、窒素ガスが第2給気口31aから流出する範囲を制御することができる。例えば吸引機構5の吸引力を高めることにより、窒素ガスは第2給気口31aから流出した直後に速やかにUターンするので、窒素ガスが流出する範囲が狭くなる。一方で、吸引機構5の吸引力を低めることにより、窒素ガスが流出する範囲が広くなる。このように窒素がチャンバ1内において広がる範囲を制御しやすい。よって、窒素ガスが基板Wの主面Waに到達しつつも、ターゲット21の主面21aには到達しにくくなるように、容易に窒素ガスの範囲を制御することができる。よって、成膜処理を適切に行いつつも、ターゲット21の窒化をさらに抑制することができる。
【0113】
また、上述の例では、複数(ここでは2つ)の第2給気口31aが径方向の異なる位置に設けられている。つまり、複数の第2給気口31aは、基板Wの移動方向(ここでは周方向)に直交する方向(ここでは径方向)において互いに異なる位置に設けられている。これによれば、基板Wの主面Waに対して窒素をより均一に供給することができる。
【0114】
また、上述の例では、吸引口5aは軸方向において基板Wの公転経路R1と向かい合う位置に設けられており、2つの第2給気口31aがそれぞれ公転経路R1の内周側および外周側に設けられている。これによれば、各第2給気口31aから流出する窒素ガスを単一の吸引口5aへ均等に吸引することができる。
【0115】
また、上述の例では、成膜処理において、基板保持部4は基板Wを常時公転させつつ、第1電源251および第2電源332は常時電圧を出力する。これによれば、簡易な制御でスパッタリング装置100を動作させることができる。
【0116】
また、上述の例では、ターゲット21の冷却機構を設けていない。よって、スパッタリング装置100の構成を簡易化でき、その製造コストも低減させることができる。
【0117】
<スパッタガスおよび反応性ガスの流量>
スパッタガス供給部23は反応性ガスの流量よりも大きな流量でスパッタガスを供給してもよい。つまり、制御部6は、スパッタガスの流量が反応性ガスの流量よりも大きくなるように、スパッタガス供給部23および反応性ガス供給部31を制御してもよい。より具体的には、制御部6はスパッタガスの流量が反応性ガスの流量よりも大きくなるように、流量調整部233および流量調整部313を制御する。各流量は例えば予め設定される。
【0118】
スパッタ空間1aに供給されるスパッタガスの流量が、プラズマ空間1bに供給される反応性ガスの流量よりも大きければ、処理空間内の圧力分布において、スパッタ空間1a内の圧力をプラズマ空間1b内の圧力よりも高めることができる。よって、プラズマ空間1bからスパッタ空間1aに流入する窒素の量を低減させることができる。したがって、ターゲット21の窒化をさらに抑制することができる。
【0119】
<ターゲットの種類>
上述の例では、複数のスパッタ部2が設けられている。この場合、各スパッタ部2のターゲット21の材料は互いに異なっていてもよい。例えば一方のスパッタ部2のターゲット21としてガリウム製のターゲットを採用し、他方のスパッタ部2のターゲット21としてアルミニウム製のターゲットを採用してもよい。これによれば、まずアルミニウム製のターゲット21を含むスパッタ部2を用いて、基板Wの主面Waに窒化アルミニウム膜を形成し、次に、ガリウム製のターゲット21を含むスパッタ部2を用いて基板Wの窒化アルミニウム膜の上に窒化ガリウム膜を形成することができる。窒化ガリウム膜は窒化アルミニウム膜の上に積層しやすいので、基板Wの主面Waに窒化ガリウム膜を容易に形成することができる。
【0120】
<第2の実施の形態>
図6は、第2の実施の形態にかかるスパッタリング装置100Aの構成の一例を概略的に示す側面図である。スパッタリング装置100Aはプラズマ部3の構成を除いて、スパッタリング装置100と同様の構成を有している。
【0121】
スパッタリング装置100Aにおいて、各プラズマ部3は第2囲み部材35をさらに含んでいる。第2囲み部材35はプラズマ空間1b内に設けられている。
図7は、プラズマ部3の構成の一例を概略的に示す平面図である。第2囲み部材35は例えば筒状形状を有している。第2囲み部材35の上端は開口35aとして基板保持部4側に開口し、第2囲み部材35の下端はチャンバ1の底部に連結される。なお、第2囲み部材35の上端は、第2囲み部材35の基板保持部4側の端部であるともいえる。
【0122】
図7に例示するように、プラズマ部3の第2給気口31aおよび誘導結合アンテナ331は第2囲み部材35の内部に設けられている。
図7の例では、プラズマ部3は2つの第2給気口31aおよび2つの誘導結合アンテナ331を含み、これら2つの第2給気口31aおよび誘導結合アンテナ331が第2囲み部材35の内部に設けられる。
図6の例では、第2囲み部材35の上端は、誘導結合アンテナ331の上端よりも基板保持部4側に位置している。つまり、第2囲み部材35は誘導結合アンテナ331よりも高い。第2囲み部材35の内周面は例えば軸方向に平行である。
【0123】
第2囲み部材35はスパッタ部2を囲っておらず、チムニー27よりも外側に設けられる。第2囲み部材35は平面視においてチムニー27と間隔を空けて設けられる。
【0124】
図6および
図7の例では、吸引機構5の吸引口5aは第2囲み部材35の内部に設けられている。具体的な一例として、吸引口5aは、チャンバ1の底部において第2囲み部材35によって囲まれた領域の一部に設けられている。
【0125】
第2給気口31aから吐出された窒素ガスは、第2囲み部材35の内部から開口35aを通じて基板保持部4に向かって流れる。そして、窒素ガスは基板Wの主面Waを経由しつつ、Uターンして、再び第2囲み部材35の内部を吸引口5aに向かって流れる。窒素ガスは第2囲み部材35によって遮られて、第2囲み部材35の外側に広がりにくいので、ターゲット21の主面21aに到達する窒素の量をさらに低減させることができる。
【0126】
第2囲み部材35は窒素ガスを基板保持部4に導くガイドとしても機能できる。これによれば、より多くの窒素ガスを基板保持部4に導くことができる。
【0127】
スパッタリング装置100Aの動作は第1の実施の形態と同様であり、その一例は
図5のフローチャートと同様である。
【0128】
スパッタリング装置100Aによっても、成膜処理において、基板Wはスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを交互に通過する。よって、基板Wの主面Waに対するガリウム粒子の積層、および、基板Wの主面Waのガリウムの窒化が交互に行われて、基板Wの主面Waに窒化ガリウム膜が形成される。
【0129】
しかも、スパッタリング装置100Aによれば、反応性ガス供給部31の第2給気口31aおよび吸引機構5の吸引口5aは第2囲み部材35の内部に設けられるので、窒素ガスは第2囲み部材35の外側に流出しにくい。よって、ターゲット21に向かって流れる窒素の量をさらに抑制することが低減させることができ、ターゲット21の窒化をさらに抑制することができる。
【0130】
また、
図7の例では、第2囲み部材35は側壁351~354を含んでいる。側壁351は径方向の外側に位置し、側壁352は径方向の内側に位置する。側壁351,352は径方向で互いに向かい合って配置される。側壁351,352は径方向の外側に膨らむ円弧形状を有しており、側壁351の円弧の長さは側壁352の円弧の長さよりも長い。側壁353は径方向に沿って延在しており、側壁351,352の周方向の一端同士を連結する。側壁354は径方向に沿って延在しており、側壁351,352の周方向の他端同士を連結する。このような第2囲み部材35の開口35aは、径方向の外側に向かうにつれて幅広となる。つまり、開口35aの周方向における幅は径方向の外側に向かうにつれて広くなる。
【0131】
さて、基板Wが周方向に沿って第2囲み部材35の直上を横切る際には、径方向の外側ほど移動速度が高くなる。
図7の例では、第2囲み部材35が囲む領域は径方向の外側ほど幅広となっているので、基板Wの主面Waの各位置は互いに同程度の期間で、第2囲み部材35の直上を横切る。言い換えれば、基板Wの主面Waの各位置が第2囲み部材35を横切るのに要する期間のばらつきを低減させることができる。よって、基板Wの主面Waにより均一に窒素ガスを供給することができる。
【0132】
<第3の実施の形態>
図8は、第3の実施の形態にかかるスパッタリング装置100Bの構成の一例を概略的に示す側面図である。スパッタリング装置100Bは基板保持部4の構成を除いて、スパッタリング装置100と同様の構成を有している。
【0133】
基板保持部4は複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させつつ、各基板Wを自転軸線Q2のまわりで自転させる。各自転軸線Q2は、対応する基板Wの中心を通り、かつ公転軸線Q1と平行な軸である。
【0134】
基板保持部4は、基板Wの公転および自転を行う機構として、自公転機構41Aを有する。
図9は、自公転機構41Aの構成の一例を模式的に示す平面図である。自公転機構41Aは例えば遊星歯車機構である。自公転機構41Aは太陽歯車411と複数の遊星歯車412と内歯車413とを含む。太陽歯車411は外歯車であって、公転軸線Q1を中心とした円板形状を有し、その外周面に複数の凹凸が形成されている。太陽歯車411は回転機構42によって公転軸線Q1のまわりで回転する。具体的には、回転機構42のシャフトが太陽歯車411に連結され、回転機構42のモータが当該シャフトを公転軸線Q1のまわりで回転させることにより、太陽歯車411を回転させる。
【0135】
内歯車413は間隔を空けて太陽歯車411を囲むように設けられている。内歯車413は、公転軸線Q1を中心とした円環形状を有しており、その内周面に複数の凹凸が形成されている。内歯車413はチャンバ1に固定される。
【0136】
複数の遊星歯車412は外歯車であって、太陽歯車411と内歯車413との間に設けられている。複数の遊星歯車412は公転軸線Q1の周方向に沿って並んで設けられる。ここでは、6つの遊星歯車412が設けられている。遊星歯車412は、対応する自転軸線Q2を中心とした円板形状を有し、その外周面に凹凸が形成されている。遊星歯車412は自転軸線Q2のまわりで回転可能に支持され、太陽歯車411および内歯車413に噛合する。また、遊星歯車412は、基板Wを保持する保持具414に連結される。保持具414は例えば基板Wの上面を吸着してもよく、基板Wの端部を保持してもよい。保持具41は基板Wの主面Waがチャンバ1内で露出するように、基板Wを水平姿勢で保持すればよい。
【0137】
回転機構42が太陽歯車411を回転させると、太陽歯車411が公転軸線Q1のまわりで回転する。これにより、太陽歯車411と噛合する各遊星歯車412が内歯車413とも噛合しつつ自公転する。つまり、遊星歯車412は公転軸線Q1のまわりで公転しつつ、自転軸線Q2のまわりで自転する。これにより、遊星歯車412に連結された保持具414、および、保持具414によって保持された基板Wが自公転する。
【0138】
スパッタリング装置100Bの動作は第1の実施の形態と同様である。ただし、スパッタリング装置100Bにおいては、成膜処理において、基板保持部4は複数の基板Wを公転軸線Q1のまわりで公転させつつ、各基板Wを各自転軸線Q2のまわりで自転させる。よって、基板Wは自転軸線Q2のまわりで自転しながらスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを通過する。したがって、ガリウム粒子および窒素粒子は基板Wの主面Waに対してより均一に作用し、基板Wの主面Waにより均一に窒化ガリウム膜を形成することができる。
【0139】
<第4の実施の形態>
図10は、第4の実施の形態にかかるスパッタリング装置100Cの構成の一例を概略的に示す平面図である。スパッタリング装置100Cは、基板保持部4が保持可能な基板Wの枚数を除いて、スパッタリング装置100と同様の構成を有している。スパッタリング装置100Cにおいて、基板保持部4が保持可能な基板Wの枚数は、スパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bの総数と同じである。ここでは、2つのスパッタ空間1aおよび2つのプラズマ空間1bが形成されるので、その総数は4である。したがって、基板保持部4は4枚の基板Wを保持する。
図10の例では、4つの基板Wとして基板W1~W4が例示されている。
【0140】
基板保持部4は周方向において等間隔で基板Wを保持する。4つの基板Wの各々は、公転軸線Q1まわりの所定の公転位置において、スパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bのいずれかに位置する。
図10の例では、基板W1,W3がスパッタ空間1a内に位置し、基板W2,W4がプラズマ空間1b内に位置する。より具体的には、基板W1,W3がそれぞれスパッタ部2のターゲット21と軸方向において向かい合う位置で停止し、基板W2,W4がそれぞれ吸引機構5の吸引口5aと軸方向において向かい合う位置で停止する。
【0141】
当該公転位置から90度間隔で4つの基板Wを順次に公転させた各公転位置でも、4つの基板Wはスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bのいずれかに位置する。例えば、4つの基板Wを90度公転させると、基板W1,W3はそれぞれプラズマ空間1b内に位置し、基板W2,W4はそれぞれスパッタ空間1a内に位置する。
【0142】
スパッタリング装置100Cの動作は、次の説明を除いて第1の実施の形態と同様である。すなわち、スパッタリング装置100Cでは、成膜処理において、基板保持部4は基板Wを常時公転させているのではなく、各公転位置で基板Wを停止させる。また、第1電源251および第2電源332は成膜処理において常時電圧を出力しているのではなく、基板Wの停止中に電圧を出力する。以下に、具体的に説明する。
【0143】
図11は、基板保持部4の公転動作と、第1電源251および第2電源332の出力電圧との一例を模式的に示すタイミングチャートである。
図11の例では、基板保持部4は各公転位置P1~P4において4つの基板Wを所定期間に亘って停止させる。公転位置P1は、例えば、基板W1,W3がスパッタ空間1a内に位置し、基板W2,W4がプラズマ空間1b内に位置するときの公転位置であり、例えば
図10に示す状態での公転位置である。公転位置P2~P4は、公転位置P1から90度ずつ順に基板Wを公転させた公転位置である。
【0144】
図11の例では、第1電源251は基板Wの停止中に直流電圧を出力し、第2電源332は基板Wの停止中に高周波電圧を出力する。また、第1電源251および第2電源332は基板Wの公転中において電圧の出力を停止する。以下、具体的に説明する。
【0145】
まず、基板保持部4は、第1電源251および第2電源332が電圧の出力を停止させた状態で、4つの基板Wを公転位置P1まで公転させる。基板保持部4が4つの基板Wを公転位置P1で停止させることにより、基板W1,W3がスパッタ空間1a内で停止し、基板W2,W4がプラズマ空間1b内で停止する。
【0146】
次に、第1電源251および第2電源332は、4つの基板Wが公転位置P1で停止した状態で、所定期間に亘って電圧を出力する。つまり、第1電源251は、ターゲット21に負電位を印加するように、直流電圧を出力し、第2電源332は誘導結合アンテナ331に高周波電圧を出力する。これにより、基板W1,W3の主面Waにはガリウム粒子が積層され、基板W2,W4の主面Waには窒素粒子が作用する。
【0147】
次に第1電源251および第2電源332は電圧の出力を停止する。基板保持部4は、第1電源251および第2電源332が電圧の出力を停止した状態で、4つの基板Wを公転位置P1から公転位置P2まで公転させる。基板保持部4が4つの基板Wを公転位置P2で停止させることにより、基板W2,W4がスパッタ空間1a内で停止し、基板W1,W3がプラズマ空間1b内に停止する。
【0148】
次に第1電源251および第2電源332は、4つの基板Wが公転位置P2で停止した状態で、所定期間に亘って電圧を出力する。これにより、基板W2,W4の主面Waにはガリウム粒子が積層され、基板W1,W3の主面Waには窒素粒子が作用する。
【0149】
以後、同様にして、基板保持部4は、第1電源251および第2電源332が電圧の出力を停止した状態で、各公転位置から他の公転位置に移動させる。そして、第1電源251および第2電源332は、基板保持部4が基板Wを公転位置で停止させた状態で、電圧を出力する。
【0150】
これによれば、基板保持部4が基板Wを停止させた状態で、基板Wの主面Waに対する成膜処理を行うことができる。
【0151】
<変形例>
上述の例では、ターゲット21はいわゆる平型ターゲットであるものの、回転型ターゲットであってもよい。また、ターゲット21の主面21aの近傍に磁界を形成する磁石が設けられてもよい。これにより、マグネトロンスパッタリングを行うことができる。
【0152】
また上述の具体例では、第2プラズマ発生部33は誘導結合プラズマを発生させているものの、必ずしもこれに限らず、他の手法により、プラズマを発生させてもよい。
【0153】
また上述の例では、基板保持部4は複数の基板Wを保持しているものの、必ずしもこれに限らない。基板保持部4は1枚の基板Wを保持していてもよい。これによっても、基板Wがスパッタ空間1aおよびプラズマ空間1bを交互に通過するので、基板Wの主面Waへのガリウム粒子の積層および基板Wの主面Waのガリウムの窒化とを交互に行うことができる。その一方で、基板保持部4が複数の基板Wを保持する場合には、処理のスループットを向上させることができる。
【0154】
基板保持部4が1枚の基板Wを保持する場合には、第4の実施の形態において、第1電源251は、基板保持部4が基板Wをスパッタ空間1a内に位置させた状態で電圧を出力し、第2電源332は基板保持部4が基板Wをプラズマ空間1b内に位置させた状態で電圧を出力し、基板保持部4は、第1電源251および第2電源332が電圧の出力を停止した状態で、基板Wを公転させるとよい。
【0155】
その一方で、基板保持部4が複数の基板Wを保持する場合には、処理のスループットを向上させることができる。
【0156】
以上のように、このスパッタリング装置100,100A~100Cは詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、このスパッタリング装置100,100A~100Cがそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0157】
1 チャンバ
1a スパッタ空間
1b プラズマ空間
100 スパッタリング装置
2 スパッタ部
23a 第1給気口
251 第1電源
3 プラズマ部
31a 第2給気口
332 第2電源
3311 導電部材
4 基板保持部
5 吸引機構
5a 吸引口
Q1 公転軸線
W 基板