(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】軟質部材の取付構造及び熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
B43L 19/00 20060101AFI20241112BHJP
B43K 29/02 20060101ALI20241112BHJP
B43K 23/12 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B43L19/00 C
B43K29/02 F
B43K23/12
(21)【出願番号】P 2020214938
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019239963
(32)【優先日】2019-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020160227
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅也
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112896(JP,A)
【文献】特開2014-097670(JP,A)
【文献】特開2018-192660(JP,A)
【文献】特開2013-139135(JP,A)
【文献】特開2009-214515(JP,A)
【文献】特開2012-232484(JP,A)
【文献】特開2012-091473(JP,A)
【文献】特開2016-087864(JP,A)
【文献】特開2018-089947(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116767(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/096357(WO,A1)
【文献】米国特許第7730578(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 - 31/00
B43L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙面に付着した熱変色性インキを摩擦熱によって熱変色させるために用いられる軟質部材を、熱変色性筆記具に取り付けるための軟質部材の取付構造であって、
前記熱変色性筆記具を構成する軸筒の後端部又はキャップの頂部を縦方向の中心軸に沿って貫通するように設けられ、上端及び下端に位置する2つの開口の間に内周面を有する取付孔と、
熱変色に用いられる前記軟質部材の大径部の下方に位置し、前記大径部の直径よりも小さく、且つ前記取付孔に挿入されることが可能な直径を有する取付部と、
前記軟質部材の縦方向の中心軸に沿って設けられ、少なくとも前記軟質部材の下端で開口する真直ぐな内孔と、
前記内孔に挿入されることが可能な外径、前記内孔に収まる長さ、及び前記内孔の内周面に接触する外周面を有する棒状の中芯と、を含み、
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入されることにより、前記軟質部材が前記取付孔に取り付けられるように構成された軟質部材の取付構造。
【請求項2】
前記取付部が、前記軟質部材と同じ材料により前記大径部の下方に一体に形成され、
前記内孔が、前記軟質部材における前記取付部から前記大径部に達する位置まで設けられ、
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が前記取付孔の内周面に対応する位置に保持されることにより、前記取付部が前記中芯の外周面と前記取付孔の内周面との間に挟持されるように構成された請求項1に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項3】
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口を超える長さを有する請求項2に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項4】
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口までの長さを有する請求項2に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項5】
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口に達しない長さを有する請求項2に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項6】
前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯の上端が、前記取付孔の上端の開口を超える位置まで前記内孔に挿入された請求項4又は5に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項7】
前記中芯の最大外径が、前記内孔の内径と略同一又は前記内孔の内径よりも大きく、前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯の外周面と前記内孔の内周面とが互いに圧接する請求項2~6
のいずれか1項に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項8】
前記中芯の外周面と前記内孔の内周面との間に潤滑剤が介在される請求項7に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項9】
前記内孔が、前記軟質部材の下端で開口し、且つ前記軟質部材の上端で開口しない一方が塞がれた孔であり、前記中芯が前記内孔に挿入される過程において、前記内孔内の空気を排出するために、前記中芯に通気部が設けられた請求項1~8
のいずれか1項に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項10】
前記通気部が、前記中芯の縦方向の中心軸に沿って、前記中芯の一端から他端に貫通する貫通孔である請求項9に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項11】
前記通気部が、前記中芯の外周面に沿って、前記中芯の一端から他端に連続する少なくとも1つの溝又は突起である請求項9に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項12】
前記中芯の下端に、前記内孔の内径よりも大きい直径を有する鍔部が設けられ、前記中芯が前記内孔に挿入されたときに、前記鍔部が、前記取付部の下端に当接する請求項2~11のいずれか1項に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項13】
前記取付孔の内周面に、前記取付孔の内側に向かって突出する内向突起が形成され、
前記取付部の外周面に、前記取付部の外側に向かって突出する外向突起が形成され、
前記取付部が前記取付孔に挿入されたときに、前記外向突起が前記内向突起を乗り越えることにより、前記外向突起と前記内向突起とが互いに係止され、
前記中芯が前記取付孔の内周面に対応する位置に保持されることにより、前記取付部が前記中芯の外周面と前記取付孔の前記
内向突起との間に挟持される請求項2~12のいずれか1項に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の軟質部材の取付構造によって、前記軟質部材が前記軸筒の後端部又は前記キャップの頂部に取り付けられた熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙面に付着した熱変色性インキを摩擦熱によって熱変色させるために用いられる軟質部材を、熱変色性筆記具に取り付けるための軟質部材の取付構造に関する。また、本発明は、この軟質部材の取付構造によって、軟質部材が軸筒の後端部又はキャップの頂部に取り付けられた熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、1975年に温度によって色が変化する熱変色性インキの開発に成功し、熱変色性インキを内蔵した最初の熱変色性筆記具を2002年に発売した。その後、本出願人は、2005年に熱変色性インキの温度変化の幅を約80度(-20℃~65℃)まで拡大することに成功し、欧州において、製品名「フリクションボール(登録商標)」の熱変色性筆記具を2006年に発売した。現在、本出願人の製造販売する「フリクション(登録商標)」シリーズの熱変色性筆記具は、世界中に広く普及している。
【0003】
熱変色性インキは、加熱又は冷却することによって、有色から別の有色へ、有色から無色へ、又は無色から有色へ変化させる。従来の熱変色性筆記具は、紙面に筆記された熱変色性インキの筆跡を熱変色させるための摩擦部を備える。摩擦部は、ゴムやエラストマーなどの弾性材料で形成され、紙面との間に摩擦熱を生じさせる。熱変色性インキの筆跡を摩擦部によって擦過したときに生じた摩擦熱により、熱変色性インキの筆跡を熱変色させることができる。従来は、以下に例示するような取付構造によって、熱変色性筆記具に摩擦部を取り付けていた。
【0004】
国際公開第2011/096357号には、軸筒の後端に摩擦部を取り付けるための構造が開示されている。軸筒の後端には、取付孔が設けられる。取付孔の内周面には、取付孔の内側に向かって突出する内向突起が形成される。一方、摩擦部は、大径部と小径部とで構成される。大径部は、熱変色性インキの筆跡を熱変色させるために用いられる。小径部は、摩擦部を軸筒の後端に取り付けるために用いられる。小径部の外周面には、小径部の外側に向かって突出する外向突起が形成される。小径部を取付孔に挿入することによって、外向突起と内向突起とが互いに係止される。これにより、摩擦部が軸筒の後端に取り付けられる。
【0005】
特開2012-232484号公報には、摩擦部の硬さを変化させることが可能な摩擦部の取付構造が開示されている。この取付構造は、操作部及び可動体を備える。操作部は、軸筒の後端に回転可能に設けられる。可動体は、操作部の内部に収容され、操作部の回転によって、中心軸に沿って前後方向に移動する。摩擦部の内部には、大径部と小径部とからなる空洞が設けられる。摩擦部の空洞には、可動体に設けられた棒状の芯部が挿入される。操作部を回転させることによって、摩擦部の空洞に挿入される芯部の長さが変化する。これにより、摩擦部の硬度を変化させることができる。
【0006】
特開2009-214515号公報には、軸筒又はキャップに摩擦部を簡単に取り付けることができる摩擦部の取付構造が開示されている。この取付構造は、軸筒又はキャップに設けられた突部と、摩擦部を貫通する取付孔とを備える。突部を取付孔に挿入することにより、摩擦部を軸筒又はキャップに簡単に取り付けることができる。
【0007】
また、摩擦部の取付構造ではないが、特開2013-139135号公報には、軸筒又はキャップに消去部材を簡単に取り付けることができる消去部材の取付構造が開示されている。この取付構造は、軸筒又はキャップに設けられた嵌合部及び接続部と、消去部材を貫通する嵌合孔とを備える。接続部は、軸筒又はキャップの端部から突出する。嵌合部は、接続部の上端に設けられ、突出部よりも広い幅を有する。消去部材の嵌合孔は、嵌合部及び接続部を受容することが可能な大きさを有する。嵌合部及び接続部を嵌合孔に挿入するときには、嵌合部と嵌合孔との間に摩擦抵抗が生じるが、接続部と嵌合孔との間に摩擦抵抗が生じない。これにより、軸筒又はキャップに消去部材を簡単に取り付けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2011/096357号
【文献】特開2012-232484号公報
【文献】特開2009-214515号公報
【文献】特開2013-139135号公報
【文献】国際公開第2018/116767号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
<新たな熱変色性筆記具の開発>
国際公開第2018/116767号に開示されているように、本出願人は、金属光沢顔料が配合された熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具の製品化を試みている。金属光沢顔料は、例えば、芯材となる粒子の表面を金属酸化物で被覆した構成となっており、インキの色にメタリック調の光沢を与える。熱変色性インキに配合された金属光沢顔料の粒子は、それぞれが光を反射して煌めくことによって、装飾性に富んだ筆跡を形成する。ところが、熱変色性筆記具に金属光沢顔料を配合することにより、熱変色性筆記具に特有の技術的な課題が生じた。以下に、本発明が解決しようとする複数の課題を列挙する。
【0010】
<金属光沢顔料の消去>
熱変色性筆記具に内蔵される熱変色性インキが、加熱することによって有色から無色へ熱変色する性質を有する場合、従来の摩擦部では、筆跡に含まれる金属光沢顔料を紙面から消去することができない。すなわち、従来の摩擦部は、紙面に筆記された熱変色性インキの筆跡を有色から無色に熱変色させることにより、熱変色性インキの筆跡を紙面から化学的に消去することができる。しかし、熱変色性インキに配合された金属光沢顔料は、金属、鉱物又はガラスなどの粒子で構成されているので熱変色性を有しない。このため、金属光沢顔料は、摩擦部の摩擦熱によって紙面から消去することができず、紙面に残留してしまう。さらに、摩擦部によって擦過された金属光沢顔料は、紙面に散らばり、熱変色性インキを消去した後の紙面を汚してしまう。
【0011】
<摩擦部の軟質化>
そこで、国際公開第2018/116767号に開示されているように、本出願人は、摩擦部の材料に粘弾性体を加え、且つ摩擦部の硬度を従来よりも低下させることを発明した。このような新規の摩擦部は、摩擦熱を生じさせて熱変色性インキを化学的に消去することができるとともに、紙面から金属光沢顔料の粒子を剥離させて物理的に消去することが可能である。
【0012】
ところが、粘弾性体を加えることによって軟質化された摩擦部は、熱変色性インキの筆跡を擦過するときの変形量が大きい。すなわち、熱変色性インキの筆跡を擦過するときには、摩擦部の頂部を筆跡に接触させて往復運動させる。摩擦部が軟質化されると、摩擦部の頂部が往復運動に追従して動きにくくなり、摩擦部全体が大きく撓んでしまう。摩擦部全体の大きな撓みは、紙面上における摩擦部の頂部の移動量及び移動速度を減少させ、摩擦熱の発生を妨げる。このため、従来よりも軟質化された摩擦部では、熱変色性インキを効率よく熱変色させるための十分な摩擦性能が得られない。
【0013】
<従来の摩擦部の取付構造>
国際公開第2011/096357号に開示された摩擦部の取付構造は、摩擦部の外向突起と、取付孔の内向突起とを係止させることにより、摩擦部を軸筒の後端に取り付けている。摩擦部には、摩擦部を変形しやすくするための内孔が設けられる。内孔を設けたことにより、摩擦部の小径部が変形しやすくなり、外向突起と内向突起とを容易に係止させることができる。しかし、仮に、内孔が設けられた摩擦部を軟質化させた場合は、さらに摩擦部が変形しやすくなる。このため、筆跡を擦過するときの往復運動に抵抗して、外向突起と内向突起との係止を維持することができなくなり、摩擦部が取付孔から外れやすくなる。
【0014】
特開2012-232484号公報に開示された摩擦部の取付構造は、可動体に設けられた芯部を、摩擦部の空洞に挿入させることにより、摩擦部の硬度を変化させる構成となっている。しかし、真直ぐな棒状の芯部に対して、摩擦部の空洞は、摩擦部と同様の大径部と小径部とからなる。摩擦部の大径部の内周面に接触できるのは、芯部の先端のみである。芯部の先端以外の部分は、摩擦部の大径部の内周面に接触できない。このため、摩擦部の大径部における頂部以外の部分は、空洞によって変形しやすく、熱変色性インキを効率よく熱変色させるために必要な摩擦部の剛性が得られない。仮に、空洞が設けられた摩擦部を軟質化させた場合は、摩擦部の大径部における頂部と頂部以外の部分との剛性の差が大きくなり、熱変色性インキを効率よく熱変色させることが困難となる。
【0015】
特開2009-214515号公報に開示された摩擦部の取付構造は、軸筒又はキャップに設けられた突部を、摩擦部の取付孔に挿入する構成となっている。しかし、摩擦部の大径部は、その中心を貫通する取付孔によって変形しやすい。仮に、取付孔が貫通する摩擦部を軟質化させた場合は、大径部がさらに変形しやすくなり、熱変色性インキを効率よく熱変色させるために必要な摩擦部の剛性が得られない。これに加え、取付孔が、摩擦部の頂部で開口しているために、摩擦部の頂部によって摩擦熱を生じさせることができない。
【0016】
特開2013-139135号公報に開示された消去部材の取付構造は、軸筒又はキャップに設けられた嵌合部に、消去部材の嵌合孔を嵌合させる構成となっている。しかし、上述した特開2009-214515号公報と同様に、消去部材は、その中心を貫通する取付孔によって変形しやすい。仮に、嵌合孔が貫通する消去部材を軟質化させた場合は、大径部がさらに変形しやすくなり、熱変色性インキを効率よく熱変色させるために必要な消去部材の剛性が得られない。これに加え、嵌合孔が、消去部材の頂部で開口しているために、消去部材の頂部によって摩擦熱を生じさせることができない。
【0017】
<摩擦部の摩耗>
粘弾性体を加えることによって軟質化された摩擦部は、紙面を擦過することによって摩耗しやすくなる。特開2012-232484号公報に開示された摩擦部は、空洞を設けたことにより、大径部の肉厚が薄い。仮に、空洞が設けられた摩擦部を軟質化させた場合は、短期間の使用によって摩擦部の頂部が摩耗してしまう。これにより、摩擦部の頂部に接触していた芯部の先端が、外部に露出してしまい、紙面を傷つけるおそれがある。
【0018】
特開2009-214515号公報に開示された摩擦部は、その中心を貫通する取付孔を設けたことにより、大径部を構成する材料の量が取付孔の分だけ少ない。特開2013-139135号公報に開示された消去部材もまた、その中心を貫通する嵌合孔を設けたことにより、大径部を構成する材料の量が嵌合孔の分だけ少ない。仮に、これらの摩擦部及び消去部材を軟質化させた場合は、短期間の使用によって大径部が摩耗してしまい、熱変色性インキの筆跡を消去することができなくなる。
【0019】
<取付作業の困難性>
特開2013-139135号公報に開示された消去部材の取付構造は、円筒状の支持壁に囲まれた嵌合部に、消去部材の嵌合孔を嵌合させる構成となっていた。嵌合部の最大径は、嵌合孔の最小径よりも大きい。また、消去部材の挿入部には、支持壁の内周面に当接する係合突部が設けられる。消去部材を取り付けるためには、消去部材の嵌合孔に嵌合部を挿入させながら、消去部材の挿入部を円筒状の支持壁の中に押し込む。このとき、消去部材の挿入部には、嵌合部から支持壁の内周面に向かう力と、支持壁の内周面から嵌合部に向かう力とが加えられる。すなわち、消去部材の挿入部を支持壁の中に押し込む過程において、嵌合部は、嵌合孔の内周面を押圧することにより、支持壁の内周面に向かう力を嵌合孔に加える。一方、支持壁の内周面は、係合突部を押圧することにより、嵌合部に向かう力を挿入部に加える。このように、消去部材の挿入部を支持壁の中に押し込むためには、挿入部の内外に加えられる対向する方向の力を超える大きな力が必要である。このため、消去部材の取付作業が困難であり、特に、自動組立機によって消去部材を取り付けることは難しい。
【0020】
<本発明の目的>
本発明の軟質部材の取付構造及び熱変色性筆記具は、下記a)~d)を目的とする。
a)軟質化させた摩擦部の剛性を向上させ、摩擦部の変形を抑止することにより、摩擦部に良好な摩擦性能を発揮させる。
b)軟質化させた摩擦部の取付部の内外を対向する方向の力によって強固に固定することができ、且つ摩擦部の取付作業には大きな力を必要としない。
c)軟質化させた摩擦部が摩耗しても紙面を傷つけることがない。
d)金属光沢顔料を配合した熱変色性インキの筆跡を化学的及び物理的に消去することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の軟質部材の取付構造は、紙面に付着した熱変色性インキを摩擦熱によって熱変色させるために用いられる軟質部材を、熱変色性筆記具に取り付けるための軟質部材の取付構造であって、前記熱変色性筆記具を構成する軸筒の後端部又はキャップの頂部を縦方向の中心軸に沿って貫通するように設けられ、上端及び下端に位置する2つの開口の間に内周面を有する取付孔と、熱変色に用いられる前記軟質部材の大径部の下方に位置し、前記大径部の直径よりも小さく、且つ前記取付孔に挿入されることが可能な直径を有する取付部と、前記軟質部材の縦方向の中心軸に沿って設けられ、少なくとも前記軟質部材の下端で開口する真直ぐな内孔と、前記内孔に挿入されることが可能な外径、前記内孔に収まる長さ、及び前記内孔の内周面に接触する外周面を有する棒状の中芯と、を含み、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入されることにより、前記軟質部材が前記取付孔に取り付けられるように構成される。
【0022】
(2)好ましくは、上記(1)の軟質部材の取付構造において、前記取付部が、前記軟質部材と同じ材料により前記大径部の下方に一体に形成され、前記内孔が、前記軟質部材における前記取付部から前記大径部に達する位置まで設けられ、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が前記取付孔の内周面に対応する位置に保持されることにより、前記取付部が前記中芯の外周面と前記取付孔の内周面との間に挟持されるように構成される。
【0023】
(3)好ましくは、上記(2)の軟質部材の取付構造において、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口を超える長さを有する。
【0024】
(4)好ましくは、上記(2)の軟質部材の取付構造において、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口までの長さを有する。
【0025】
(5)好ましくは、上記(2)の軟質部材の取付構造において、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯が、前記内孔の下端の開口から前記取付孔の上端の開口に達しない長さを有する。
【0026】
(6)好ましくは、上記(4)又は(5)の軟質部材の取付構造において、前記取付部が前記取付孔に挿入され、且つ前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯の上端が、前記取付孔の上端の開口を超える位置まで前記内孔に挿入される。
【0027】
(7)好ましくは、上記(2)~(6)のいずれかの軟質部材の取付構造において、前記中芯の最大外径が、前記内孔の内径と略同一又は前記内孔の内径よりも大きく、前記中芯が前記内孔に挿入された状態において、前記中芯の外周面と前記内孔の内周面とが互いに圧接する。
【0028】
(8)好ましくは、上記(7)の軟質部材の取付構造において、前記中芯の外周面と前記内孔の内周面との間に潤滑剤が介在される。
【0029】
(9)好ましくは、上記(1)~(8)のいずれかの軟質部材の取付構造において、前記内孔が、前記軟質部材の下端で開口し、且つ前記軟質部材の上端で開口しない一方が塞がれた孔であり、前記中芯が前記内孔に挿入される過程において、前記内孔内の空気を排出するために、前記中芯に通気部が設けられる。
【0030】
(10)好ましくは、上記(9)の軟質部材の取付構造において、前記通気部が、前記中芯の縦方向の中心軸に沿って、前記中芯の一端から他端に貫通する貫通孔である。
【0031】
(11)好ましくは、上記(9)の軟質部材の取付構造において、前記通気部が、前記中芯の外周面に沿って、前記中芯の一端から他端に連続する少なくとも1つの溝又は突起である。
【0032】
(12)好ましくは、上記(2)~(11)のいずれかの軟質部材の取付構造において、前記中芯の下端に、前記内孔の内径よりも大きい直径を有する鍔部が設けられ、前記中芯が前記内孔に挿入されたときに、前記鍔部が、前記取付部の下端に当接する。
【0033】
(13)好ましくは、上記(2)~(12)のいずれかの軟質部材の取付構造において、前記取付孔の内周面に、前記取付孔の内側に向かって突出する内向突起が形成され、前記取付部の外周面に、前記取付部の外側に向かって突出する外向突起が形成され、前記取付部が前記取付孔に挿入されたときに、前記外向突起が前記内向突起を乗り越えることにより、前記外向突起と前記内向突起とが互いに係止され、前記中芯が前記取付孔の内周面に対応する位置に保持されることにより、前記取付部が前記中芯の外周面と前記取付孔の前記外向突起との間に挟持される。
【0034】
(14)上記の目的を達成するために、本発明の熱変色性筆記具は、上記(1)~(13)のいずれかの軟質部材の取付構造によって、前記軟質部材が前記軸筒の後端部又は前記キャップの頂部に取り付けられた構成となっている。
【0035】
ここで、本発明の軟質部材の取付構造において、取付孔についての「上」は、軸筒の後端部の方向又はキャップの頂部の方向を意味し、取付孔についての「下」は、これらと反対の方向を意味する。一方、軟質部材についての「上」は、大径部の方向を意味し、軟質部材についての「下」は、取付部の方向を意味する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の軟質部材の取付構造及び熱変色性筆記具は、下記a)~d)の効果を奏する。
a)軟質化させた摩擦部の剛性を向上させ、摩擦部の変形を抑止することにより、摩擦部に良好な摩擦性能を発揮させる。
b)軟質化させた摩擦部の取付部の内外を対向する方向の力によって強固に固定することができ、且つ摩擦部の取付作業には大きな力を必要としない。
c)軟質化させた摩擦部が摩耗しても紙面を傷つけることがない。
d)金属光沢顔料を配合した熱変色性インキの筆跡を化学的及び物理的に消去することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態に係る軟質部材の取付構造を構成する軟質部材と、軸筒の後端部に設けられた取付孔とを示すものであり、軟質部材の取付部を取付孔に挿入する前の状態を示す断面図である。
【
図2】軟質部材の取付部を取付孔に挿入する過程の仮挿入状態を示す断面図である。
【
図3】軟質部材の取付孔への挿入が完了した状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る軟質部材の取付構造を示すものであり、
図3の軟質部材の内孔に、第1実施形態に係る中芯を挿入した状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る軟質部材の取付構造を示すものであり、
図3の軟質部材の内孔に、第2実施形態に係る中芯を挿入した状態を示す断面図である。
【
図6】
図5の軟質部材の内孔と中芯との間に潤滑剤を介在させた状態を示す断面図である。
【
図7】
図5の軟質部材の内孔と中芯との間に潤滑剤を介在させた状態を示す断面図である。
【
図8】
図5の中芯の上端が、取付孔の上端の開口を超える位置まで内孔に挿入された状態を示す断面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る軟質部材の取付構造を示すものであり、
図3の軟質部材の内孔に、第3実施形態に係る中芯を挿入した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る軟質部材の取付構造及び熱変色性筆記具について、図面を参照しつつ説明する。
【0039】
1.概要
本実施形態の軟質部材の取付構造は、紙面に付着した熱変色性インキを摩擦熱によって熱変色させるために用いられる軟質部材を、熱変色性筆記具に取り付けるためのものである。
図1~
図9において、熱変色性筆記具の全体は図示せず、熱変色性筆記具を構成する軸筒の後端部のみを図示する。
【0040】
本実施形態の軟質部材の取付構造は、主として、
図1~
図3に示される取付孔2、取付部5、内孔31、及び
図4~
図9に示される中芯7で構成される。取付孔2は、軸筒1の後端部に設けられる。取付部5は、軟質部材3の大径部4の下方に一体に形成される。内孔31は、軟質部材3における取付部5から大径部4の中央に達する位置まで設けられる。中芯7は、軸筒1及び軟質部材3から独立した1つの部品である。
図3及び
図4に示されるように、中芯7は、軟質部材3の取付部5が軸筒1の取付孔2に完全に挿入された状態において、軟質部材3の内孔31に挿入される。以下、軟質部材3の取付構造について詳細に説明する。
【0041】
2.取付孔
図1に示されるように、軸筒1の後端部には、取付孔2が設けられる。取付孔2は、縦方向の中心軸に沿って軸筒1の後端部を貫通する。取付孔2は、上端及び下端に位置する2つの開口の間に内周面を有する。取付孔2の内周面の下方には、環状の内向突起21が形成される。内向突起21の外周面には、逆円錐状のテーパー面であるガイド面21aが形成される。ガイド面21aの直径は、上から下に向かうに従い次第に小さくなる。ガイド面21aの下端は、取付孔2の下端の開口である最小
内径部21bの垂直な外周面に連続する。このような取付孔2の横方向の断面形状は、直径の異なる円形である。
【0042】
ここで、軸筒1は、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)を射出成形することによって製造される。取付孔2及び内向突起21は、射出成形によって軸筒1の後端部に一体成形される。なお、取付孔2は、軸筒1の後端部に限らず、例えば、熱変色性筆記具を構成するキャップの頂部に設けてもよい。
【0043】
3.軟質部材
図1に示されるように、本実施形態の軟質部材3は、砲弾型の大径部4の下方に、大径部4よりも直径の小さい取付部(小径部)5を一体成形した構成となっている。大径部4は、熱変色性筆記具の摩擦部32としての機能を果たす部分であり、紙面に付着した熱変色性インキを摩擦熱によって熱変色させるために用いられる。さらに、本実施形態の大径部4は、熱変色性インキに配合された金属光沢顔料を紙面から吸着して剥離する機能を有する。取付部5は、軟質部材3を軸筒1の取付孔2に取り付けるために用いられる。
【0044】
3.1 大径部(摩擦部)
大径部4の外周面は、様々な傾き角で紙面に接触することが可能な凸曲面となっている。大径部4の下端の直径は、取付孔2の上端の開口の直径よりも大きく、好ましくは、軸筒1の後端面の直径よりも小さい。大径部4と取付部5との境界には、軸筒1の後端面に当接する環状面41が形成される。取付部5を取付孔2に取り付けたときに、大径部4は、軸筒1の後端面よりも上方に突出する。
【0045】
3.2 取付部
取付部5は、筒状の壁部からなり、大径部4の下端の直径よりも小さく、且つ取付孔2に挿入されることが可能な直径を有する。取付部5の外周面の中央には、環状の外向突起51が形成される。取付部5の外周面における外向突起51の上方には、環状の膨出部52が形成される。取付部5における外向突起51の下方は、円筒部53になっている。
【0046】
外向突起51の外周面には、逆円錐状のテーパー面であるガイド面51aが形成される。ガイド面51aの直径は、下から上に向かうに従い次第に大きくなる。ガイド面51aの上端は、外向突起51の最大外径部51bの垂直な外周面に連続する。最大外径部51bの垂直な外周面の上端は、水平な環状の上端面に連続する。
【0047】
ここで、外向突起51の最大外径部51bの直径は、上述した取付孔2の内向突起21の最小内径部21bの直径よりも大きく、且つ取付孔2の上端の開口の直径よりも小さい。例えば、最大外径部51bと最小内径部21bとの寸法差は0.5mm~2.0mmの範囲内、好ましくは0.5mm~1.0mmの範囲内とする。このような寸法差によって、取付部5が取付孔2に挿入される過程において、外向突起51が内向突起21をスムーズに通過するようになり、外向突起51と内向突起21とを容易に係止させることが可能となる(
図2及び
図3を参照)。
【0048】
膨出部52は、取付部5が取付孔2に完全に挿入されたときに、取付孔2の上端の開口の内周面に接触する(
図3を参照)。これにより、軟質部材3の径方向のぐらつきが抑えられる。膨出部52の直径は、取付孔2の上端の開口の直径と略同一とする。また、膨出部52の直径は、大径部4の下端の直径より小さく、且つ外向突起51の最大外径部51bの直径よりも大きい。
【0049】
円筒部53の直径は、上述した取付孔2の内向突起21の最小内径部21bの直径よりも小さい。円筒部53は、取付部5を取付孔2に対して仮挿入状態にするためのものである。この仮挿入状態は、
図2に示される。このような円筒部53によって、軟質部材3の取付作業が容易になる。すなわち、軟質部材3を取付孔2に向かって落下させることにより、
図2に示される仮挿入状態とすることができる。その後、軟質部材3を取付孔2に向かって押し込むことにより、取付部5が取付孔2に完全に挿入され、これと同時に、外向突起51と内向突起21とが係止される(
図3を参照)。なお、取付部5における外向突起51の下方の外周面は、円筒部53の円周面に限定されるものではなく、例えば、逆円錐状のテーパー面としてもよい。
【0050】
3.3 環状空間の形成
取付部5の中間部(膨出部52と外向突起51との間の部分)の外径は、取付孔2の入口付近(内向突起21よりも上方の部分)の内径よりも小さい。これにより、
図2に示される仮挿入状態において、取付部5と取付孔2との間に環状空間6が形成される。この環状空間6によって、取付部5の中間部が、取付孔2の入口付近の内周面に圧接しなくなる。すなわち、
図2に示される仮挿入状態の後、取付部5の外向突起51は、取付孔2の内向突起21を乗り越える。このとき、外向突起51が内向突起21に強く圧接されることにより、取付部5の中間部が弾性変形して径方向外側に膨らむ。仮に、取付部5の中間部が、取付孔2の入口付近の内周面に圧接すれば、取付部5の挿入を妨げる摩擦抵抗が生じてしまう。環状空間6は、径方向外側に膨らんだ取付部5の中間部を収容することによって、取付部5の中間部が取付孔2の入口付近の内周面に圧接しないようにしている。
【0051】
3.4 軸方向のクリアランス
図1に示されるように、取付部5の上端から外向突起51の上端までの長さAは、取付孔2の上端から内向突起21の下端までの長さBよりも僅かに大きい。これにより、外向突起51の全体が、内向突起21を確実に通過するようになる。すなわち、仮に、長さA、Bが同一であったならば、外向突起51と内向突起21との間に生じる摩擦抵抗によって、外向突起51の最大外径部51bの上端面が、内向突起21を通過することができない場合が起こり得る。取付部5の長さAを、取付孔2の長さBよりも僅かに大きくすることにより、大径部4の環状面41が軸筒1の後端に当接した後も、外向突起51の全体が内向突起21を通過することができるようになる。これにより、外向突起51と内向突起21との間に摩擦抵抗が生じた場合でも、外向突起51の全体が、内向突起21を確実に通過するようになる。ここで、長さA、Bの寸法差は、
図3に示される外向突起51と内向突起21との間のクリアランスCとして現れる。クリアランスCは、0.05mm~1.0mmの範囲内が好ましく、0.1mm~0.5mmの範囲内がより好ましい。このような僅かなクリアランスCであれば、軟質部材3が中心軸の方向に動いたり、外向突起51と内向突起21との係止が緩んだりすることはない。
【0052】
3.5 内孔
軟質部材3の内部には、内孔31が設けられる。内孔31は、軟質部材3の中心軸に沿って設けられた真直ぐな孔であり、少なくとも軟質部材3の下端で開口する。本実施形態の内孔31は、取付部5の下端から大径部4の中央に達し、且つ軟質部材3の上端で開口しない一方が塞がれた孔である。内孔31は、取付部5の下端から少なくとも外向突起51の上端に達する位置まで設けられる。このような内孔31によって、外向突起51が径方向内側へ変形しやすくなる。これにより、外向突起51と内向突起21とを容易に係止させることができる。さらに、内孔31には、後述する中芯7が挿入される。
【0053】
3.6 軟質部材の硬度及び粘性
軟質部材3を構成する材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。
【0054】
ここで、本実施形態の軟質部材3は、後述する熱変色性インキに配合された金属光沢顔料を紙面から物理的に消去するために、従来の摩擦部よりも低い硬度を有する。硬度の低い軟質部材3は、紙面に形成された筆跡の凹みの中に入り込むことが可能である。
【0055】
軟質部材3の硬度は、例えば、日本工業規格のJIS K 7215-1986に規定された「プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法」に準拠して測定されるショアA硬度値により表される。ショアA硬度値の測定に用いられるデュロメータは、スプリングによって付勢された押針を備え、測定物に対する押針の押し込み量をショアA硬度値として表示する。ショアA硬度値は、測定物が軟らかいほど小さくなり、測定物が硬いほど大きくなる。
【0056】
JIS K 7215-1986に準拠した試験方法によって測定される軟質部材3のショアA硬度値が、下記i)、ii)の条件を満たすことが好ましい。
i)押針接触開始直後のショアA硬度値が60以上85以下である。
ii)下式で定義されるΔHSの値が0以上5未満である。
ΔHS=(押針接触開始直後のショアA硬度値)-(押針接触開始から15秒後のショアA硬度値)
なお、上記i)、ii)における「押針接触開始直後」とは、押針が測定物に接触してから1秒以内の時間を意味する。
【0057】
上記i)における押針接触開始直後のショアA硬度値は、60以上80以下が好ましく、65以上75以下がより好ましい。上記i)、ii)の条件を満たすために、軟質部材3を構成する材料に粘弾性体を添加してもよい。粘弾性体として、例えば、ゴム成分、樹脂成分、エラストマー成分などの高分子材料を添加してもよい。特に、αオレフィン系コポリマーにパラフィン系オイルが添加されてなる粘性の高いαオレフィン系コポリマー組成物を主成分とするものが好ましい。具体的には、粘性の高いαオレフィン系コポリマー組成物を主成分とし、そこに弾性体であるポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、さらに、弾性の少ない結晶性ポリオレフィンを適宜溶融混合する。これらの材料の混合比率は、摩擦熱の発生効率、金属光沢顔料の剥離性、軟質部材の加工性を考慮して選択する。
【0058】
上記i)のショアA硬度値が満たされることによって、軟質部材3の摩擦熱の発生効率が高くなる。これにより、軟質部材3は、熱変色性インキの筆跡を容易に熱変色させることが可能となる。また、上記i)のショアA硬度値を満たす軟質部材3は、従来の摩擦部よりも軟らかく、紙面に形成された筆跡の凹みの中に入り込むことができる。さらに、軟質部材3が、上記ii)のΔHSの値を満たすことにより、筆跡の凹みの中から金属光沢顔料を吸着して剥離することが可能となる。
【0059】
上記ii)におけるΔHSの値は、軟質部材3に一定の歪みを与えたときの応力緩和(応力の時間変化)の緩和時間を示す。応力緩和の緩和時間は、物質が弾性体、粘弾性体又は粘性体のいずれであるかを区別する基準となる。上記ii)のΔHSの値を満たす軟質部材3は、金属光沢顔料を吸着することを可能とする適度な粘性を備えた弾性体であるといえる。一方、ΔHSの値が5以上の物質は、粘弾性体又は粘性体であるといえる。仮に、軟質部材3が粘弾性体又は粘性体であるならば、熱変色性インキの筆跡を擦過したときの変形量が大きくなりすぎ、十分な摩擦性能が得られない。したがって、軟質部材3のΔHSの値は、0以上5未満であることが好ましい。
【0060】
なお、上記i)、ii)におけるショアA硬度値は、JIS K 7215-1986に準拠した試験方法によって測定される軟質部材3のショアD硬度値を、ショアA硬度値に換算したものであってもよい。
【0061】
3.7 軟質部材の摩耗量
熱変色性インキに配合された金属光沢顔料を紙面から物理的に消去するために、軟質部材3は、紙面を摩擦することによって削れ、少量の摩耗屑(消し屑)を生じさせるものが好ましい。軟質部材3は、自らを摩耗させながら金属光沢顔料を摩耗屑に付着させて包み込むことにより、金属光沢顔料を紙面から取り除く。
【0062】
軟質部材3の摩耗量は、例えば、日本工業規格のJIS K 6251:2017に規定された「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して算出される切断時引張強さTb及び切断時伸びEbにより表される。切断時引張強さTbは、測定物が切断したときに記録される引張力を、測定物の試験前の断面積で除した値である。切断時伸びEbは、測定物が切断したときの伸びであって、測定物の試験前の長さに対する比率(%)で表される。
【0063】
本発明者は、軟質部材3の摩耗量がTb×Ebの値に反比例する、との知見を得た。すなわち、軟質部材3の摩耗量は、材料の機械的強さと伸び率とに影響を受ける。切断時引張強さTb及び切断時伸びEbの適切な値の組み合わせにすることにより、軟質部材3の摩耗量を制御することができる。Tb×Ebの値は、軟質部材3を摩耗させるために必要なエネルギーを表す。したがって、Tb×Ebの値は、測定物が摩耗しやすいほど小さくなり、測定物が摩耗しにくいほど大きくなる。
【0064】
JIS K 6251:2017に準拠した求め方によって算出される軟質部材3のTb×Ebの値が、下記iii)の条件を満たすことが好ましい。
iii)5,000≦Tb×Eb≦18,000
なお、上記iii)における切断時引張強さTbの単位は「MPa」であり、切断時伸びEbの単位は「%」であるが、これらを他の単位に換算してもよい。
【0065】
上記iii)において、8,000≦Tb×Eb≦16,000が好ましく、10,000≦Tb×Eb≦14,000がより好ましい。上記iii)の条件を満たす軟質部材3は、人の手による通常の摩擦動作によって、適度な量の摩耗屑を生じさせる。これにより、熱変色性インキに配合された金属光沢顔料を摩耗屑に付着させて包み込むことが可能となる。
【0066】
上記iii)において、Tb×Ebの値が18,000を超える場合は、人の手による通常の摩擦動作によって、軟質部材3を摩耗させることが困難になる。このため、軟質部材3を摩耗させながら金属光沢顔料を摩耗屑に付着させて包み込むことができない。
【0067】
一方、上記iii)において、Tb×Ebの値が、5,000よりも小さい場合は、人の手による通常の摩擦動作によって、軟質部材3が容易に削れてしまう。このため、軟質部材3によって生じさせた摩擦熱が摩耗屑とともに失われてしまい、熱変色性インキを効率よく熱変色させることが困難になる。
【0068】
4.中芯
中芯7は、軟質部材3よりも硬い合成樹脂又は金属によって形成される。中芯7を構成する材料については後述する。このような軟質部材3の内孔31に中芯7を挿入することによって、軟質部材3の剛性を向上させ、軟質部材3の変形を抑止することが可能となる。これにより、軟質部材3の硬度を低下させた場合でも、良好な摩擦性能を発揮させることができる。
【0069】
図4に示される第1実施形態の中芯7は、内孔31の下端の開口から大径部4の中央に達する長さを有する。このような長さの中芯7を内孔31に挿入させることよって、大径部4及び取付部5の両方の剛性を向上させ、摩擦動作による変形を抑止することができる。
【0070】
中芯7は、内孔31の内径と略同一の外径を有する小さな円柱形状の部品である。円柱形状の中芯7の外周面は、その全長にわたって内孔31の内周面に接触する。好ましくは、中芯7が、内孔31の内径よりも大きな外径を有し、中芯7の外周面が、その全長にわたって内孔31の内周面に圧接する構成とする。本実施形態では、中芯7の上半分を上方芯部72と呼び、中芯7の下半分を下方芯部73と呼ぶ。
【0071】
4.1 上方芯部
上方芯部72は、大径部4の内側に接触又は圧接し、大径部4の剛性を向上させる。上方芯部72によって、摩擦動作による大径部4の変形が抑止される。特に、上方芯部72は、軟質部材3のショアA硬度値を85超、又はΔHSの値を5以上にした場合に、大径部4全体の変形に有効な抑止効果を発揮する。すなわち、本実施形態の大径部4は、外周面が凸曲面となっており、様々な傾き角で紙面に接触することが可能である。大径部4の頂部、頂部近傍及び側面のどの部分で紙面を擦過したとしても、大径部4の変形が上方芯部72によって抑止され、熱変色に必要な摩擦熱を生じさせることができる。なお、大径部4が、摩擦動作によって変形しない程度の剛性を有する場合は、軟質部材3の全長を短くすることにより、上方芯部72が大径部4の内側に接触しない構成としてもよい(
図5を参照)。
【0072】
4.2 下方芯部
下方芯部73は、取付部5の内側に接触又は圧接し、取付部5の剛性を向上させる。下方芯部73は、軟質部材3を軸筒1の後端部に取り付けることに関して、以下に述べる2つの重要な力学的効果を奏する。
【0073】
第1に、下方芯部73は、取付部5の内方への変形を抑止して、外向突起51と内向突起21との係止が外れてしまうことを防止する。すなわち、本実施形態の軟質部材3は、内孔31を設けたこと、及び硬度を低くしたことによって全体的に変形しやすくなっている。特に、取付部5は、肉厚の薄い筒状であるため、摩擦動作によって内側方向に変形しやすい。下方芯部73は、取付部5の内側に接触又は圧接することにより、取付部5の内方への変形を抑止する。これにより、外向突起51と内向突起21との係止が、摩擦動作によって外れてしまうことがない。
【0074】
第2に、下方芯部73は、取付部5を外方へ押圧し、外向突起51と内向突起21との係止を強固にする。すなわち、下方芯部73は、取付部5の内側に接触又は圧接することにより、取付部5の全体を外方に押圧する。下方芯部73の押圧力によって、取付部5の外向突起51は外方に付勢される。一方、取付孔2の内向突起21は、下方芯部73の押圧力を受けて反力を生じさせ、取付部5を内方に押圧する。このような内外方向の力によって、外向突起51と内向突起21との係止がより強固になる。
【0075】
4.3 通気部
本実施形態の内孔31は、軟質部材3の下端で開口し、且つ軟質部材3の上端で開口しない一方が塞がれた孔である。一方、中芯7は、内孔31の内径以上の外径を有する小さな円柱形状の部品である。このような中芯7を、一方が塞がれた内孔31に挿入すると、内孔31内の空気が中芯7によって圧縮され、中芯7を内孔31にスムーズに挿入できない場合がある。そこで、中芯7には、通気部71が設けられる。本実施形態の通気部71は、中芯7の縦方向の中心軸に沿って、中芯7の一端から他端に貫通する貫通孔である。中芯7を内孔31に挿入する過程において、内孔31内の空気は、通気部71を通過して外部に排出される。このような通気部71により、中芯7を内孔31に挿入する作業が容易となり、自動組立機によって中芯7の挿入作業を行うことが可能となる。
【0076】
なお、通気部71は、
図4に示される構成に限定されるものではない。例えば、通気部71の断面形状は、円形に限定されるものではなく、円形以外の形状であってもよい。また、通気部71は、中芯7の中心軸からシフトして設けられていてもよい。さらに、通気部71は、貫通孔に限定されるものではなく、例えば、中芯7の外周面に設けられた少なくとも1つの溝又は突起であってもよい。通気部71としての溝又は突起は、直線状であってもよいし、直線以外の形状であってもよい。例えば、通気部71は、円柱形状の中芯7の外周面における0°、90°、180°、270°の位置に設けられた4つの溝又は4つの突起であってもよい。また例えば、通気部71は、中芯7の外周面に沿って設けられた螺旋状の溝又は突起であってもよい。螺旋状の溝又は突起は、内孔31から中芯7が抜け出すことを防止する滑り止めの効果を奏する。さらに、中芯7に通気部71を設ける代わりに、上述した溝又は突起を、内孔31の内周面に設けてもよい。
【0077】
4.4 中芯の形状
中芯7は、
図4に示されるように、横方向の中心軸を基準にして上下対称の形状であることが好ましい。中芯7を上下対称の形状とすることによって、中芯7の上下の区別がなくなり、中芯7の上下のどちらからでも内孔31に挿入することができる。
【0078】
これとは逆に、中芯7は、上下非対称の形状であってもよい。例えば、中芯7の少なくとも上端のエッジ部分を面取りして、内孔31への挿入を容易にしてもよい。また、上方芯部72を細くし、下方芯部73を太くしてもよい。例えば、上方芯部72の外径は、内孔31の内径と略同一にする。一方、下方芯部73の外径は、内孔31の内径よりも大きくし、下方芯部73の外周面が内孔31の内周面に圧接するようにする。このような構成とした場合は、細い上方芯部72によって、中芯7を内孔31に容易に挿入することができる。また、太い下方芯部73によって、外向突起51と内向突起21とを強固に係止させることが可能となる。
【0079】
4.5 中芯の保持
内孔31に挿入された中芯7が容易に抜け出さないようにするために、中芯7の外周面に滑り止めを設けることができる。滑り止めとして、例えば、中芯7の外周面を粗面に加工して、内孔31の内周面に対する摩擦抵抗を大きくしてもよい。また、中芯7の外周面に微小な突起を設けて滑り止めにしてもよい。さらに、中芯7の外径を内孔31の内径よりも顕著に大きくすることによって、中芯7が内孔31から容易に抜け出さないようにしてよい。
【0080】
4.6 中芯の材料
中芯7は、軟質部材3よりも硬い合成樹脂又は金属によって形成される。合成樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル、ナイロン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等を用いることができる。また、合成樹脂として、軟質部材3よりも硬いゴム又はエラストマーを用いてもよい。ゴム又はエラストマーとして、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)を用いることができる。さらに、金属として、例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、黄銅等を用いることができる。合成樹脂製の中芯7は、例えば、切削加工又は射出成形などによって製造することができる。一方、金属製の中芯7は、例えば、切削加工又は塑性加工などによって製造することができる。
【0081】
5.軟質部材の取付方法
次に、本実施形態に係る軟質部材3の取付方法について、
図1~
図4を参照しつつ説明する。
【0082】
図1に示されるように、軟質部材3は、軸筒1の後端部の取付孔2の上方に配置された後、そのまま取付孔2に向かって落下される。すると、
図2に示されるように、取付部5の円筒部53が、取付孔2の最小内径部21bに入り、取付部5が取付孔2に対して仮挿入状態となる。このとき、取付部5のガイド面51aが取付孔2のガイド面21aに当接することにより、取付部5の仮挿入状態が安定的に保たれる。
【0083】
次いで、仮挿入状態の軟質部材3を取付孔2に押し込む。すると、取付部5の外向突起51が、取付孔2の内向突起21を乗り越える。このとき、外向突起51が内向突起21に強く圧接されることにより、取付部5の中間部が弾性変形して径方向外側に膨らむ。径方向外側に膨らんだ取付部5の中間部は、取付孔2内の環状空間6に収容される。これにより、取付部5の中間部は、取付孔2の入口付近の内周面に圧接せず、取付部5の挿入の妨げにならない。したがって、外向突起51が内向突起21をスムーズに通過し、外向突起51と内向突起21とが係止される。これにより、取付部5の取付孔2への挿入が完了する(
図3を参照)。
【0084】
その後、
図4に示されるように、軟質部材3の内孔31に中芯7が挿入される。中芯7を内孔31に挿入する過程において、内孔31内の空気は、通気部71を通過して外部に排出される。このような通気部71により、中芯7を内孔31に容易に挿入することができる。内孔31に挿入された中芯7は、取付部5を外方へ押圧し、外向突起51と内向突起21との係止を強固にする。これにより、軟質部材3の軸筒1の後端部への取り付けが完了する。
【0085】
このような本実施形態の軟質部材3の取付方法によれば、内孔31に中芯7を挿入する前の段階において、柔軟性に富んだ取付部5を取付孔2に挿入し、外向突起51と内向突起21とを容易に係止させることができる。その後、内孔31に中芯7を挿入することによって、取付部5に内外方向の力が作用し、外向突起51と内向突起21との係止が強固に維持される。また、取付部5を取付孔2に挿入した後に、中芯7を内孔31に挿入するので、
図1~
図4に示される軟質部材3の取付作業には、大きな力を必要としない。
【0086】
6.第2実施形態に係る中芯
次に、第2実施形態に係る中芯7について、
図5を参照しつつ説明する。
図5は、取付部5が、軸筒1の後端部の取付孔2に挿入され、且つ本実施形態の中芯7が内孔31に挿入された状態を示す。
図5において、中芯7以外の構成は、
図4と同一である。
【0087】
図5に示されるように、第2実施形態に係る中芯7は、内孔31の下端の開口から取付孔2の上端の開口までの長さを有する。内孔31に挿入された中芯7の上端は、取付孔2の上端の開口を超えず、大径部4の内側に達しない。つまり、中芯7は、取付孔2の内周面に対応する位置に保持されており、大径部4の内側に全く接触しない。
【0088】
軟質部材3のショアA硬度値が上記i)、ii)の条件を満たす場合であっても、大径部4の頂部、頂部近傍及び側面の肉厚を厚くすることにより、大径部4の剛性を高くすることができる。大径部4が摩擦動作によって変形しない程度の剛性を有する場合は、中芯7の全長を短くすることができる。
【0089】
第2実施形態の中芯7によれば、取付部5を取付孔2に強固に固定することができ、さらに、軟質部材3が摩耗しても紙面を傷つけることがない。すなわち、本実施形態の軟質部材3は、上記iii)の摩耗量の条件を満たしており、大径部4が使用によって摩耗する。大径部4が摩耗した場合であっても、中芯7の上端が、取付孔2の上端の開口より上に突出することがない。これにより、大径部4が摩耗しても、中芯7の上端によって紙面を傷つけることがない。
【0090】
7.潤滑剤
図6及び
図7に示されるように、中芯7の外周面と内孔31の内周面との間に潤滑剤が介在される構成としてもよい。
図6及び
図7において、中芯7と内孔31との間の太線は潤滑剤付着部74を示す。潤滑剤によって、軟質部材3の内孔31に中芯7を挿入するために必要な押圧力が低減し、内孔31に中芯7を容易に挿入することができる。
【0091】
例えば、
図6に示されるように、潤滑剤は、内孔31に中芯7を挿入する前に、中芯7の外周面に塗布される。中芯7のみに潤滑剤を塗布するだけで、内孔31にも潤滑剤を付着させることができるので、軟質部材3の取付工程が削減される。また、潤滑剤が、摩擦部32である大径部4に付着することがないので、摩擦動作によって紙面に潤滑剤が付着することがない。
【0092】
また例えば、
図7に示されるように、潤滑剤は、内孔31に中芯7を挿入する前に、内孔31の内周面に塗布される。軟質部材3の外周面、及び中芯7の外周面のいずれにも潤滑剤が付着しないので、これら部品の取り扱いが容易であり、軟質部材3の取り付けをスムーズに行うことができる。
【0093】
潤滑剤として、例えば、シリコーン系化合物、フッ素系化合物及び界面活性剤等の液状の潤滑剤、又はこれら以外の粉体の潤滑剤を用いることができる。
【0094】
シリコーン系化合物として、例えば、シリコーンオイル、シリコーンガム等を用いることができる。フッ素系化合物として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等を用いることができる。界面活性剤として、例えば、アニオン系、カチオン系、ノニオン系又は両性の界面活性剤を用いることができる。これらを主成分とする帯電防止剤を用いてもよい。
【0095】
粉体の潤滑剤としては、例えば、二硫化モリブデン、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ステアリルエルカアマイド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、n-オレイルベヘニン酸アミド、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、窒化硼素、メラミンシアヌレート、メチルシリコーン等を用いることができる。これらの粉体の潤滑剤は、熱変色性インキ又はその他の筆記具のインキに対して不活性である、という利点がある。
【0096】
8.内孔内における中芯の位置
図8は、上述した
図5の中芯7の上端が、取付孔2の上端の開口を超える位置まで内孔31に挿入された状態を示す。軟質部材3の取付部5を取付孔2に強固に固定する観点からすれば、中芯7は、少なくとも取付孔2の全体と、取付部5の外向突起51とに対応する位置にあればよい。したがって、
図5に示される短い中芯7を、
図8に示される位置まで内孔31に挿入させても、取付部5の固定が弱くなったり、中芯7の先端が紙面を傷つけたりするデメリットはない。むしろ、中芯7の上端が、大径部4の基部の内側に接触又は圧接することにより、基部を支点とする大径部4の変形が抑止されるメリットがある。
【0097】
9.中芯の位置決め
内孔31に挿入された中芯7の位置を常に一定にするために、
図9に示される鍔部74を中芯7の後端に設けてもよい。鍔部74は、内孔31に中芯7を挿入したときに、取付部5の下端に当接する。これにより、中芯7の下端の位置が、内孔31の下端の開口に一致し、内孔31に挿入された中芯7の位置が常に一定となる。このような鍔部74によって、中芯7を取付孔2の全体と、取付部5の外向突起51とに対応させることができ、中芯7の先端の位置を一定にすることも可能である。
【0098】
10.熱変色性筆記具
熱変色性筆記具は、万年筆、マーキングペン、ボールペン、シャープペンシル及び鉛筆等の熱変色性インキを適用することが可能な筆記具が広く含まれる。
【0099】
10.1 熱変色性インキ
熱変色性インキは、液体又は固体のいずれか一方の形態で熱変色性筆記具に適用される。例えば、熱変色性筆記具が万年筆、マーキングペン及びボールペンである場合は、液体の熱変色性インキが用いられる。一方、熱変色性筆記具がシャープペンシル及び鉛筆である場合は、鉛芯に加工された固体の熱変色性インキが用いられる。
【0100】
熱変色性インキは、加熱することによって消色又は変色する性能を備える。熱変色性インキ中に配合される着色剤として、電子供与性呈色性有機化合物と、電子受容性化合物と、及びこれら化合物の呈色反応の生起温度を決めるための反応媒体との三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物を用いることが好ましい。特に、可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた構成のマイクロカプセル顔料が、着色剤として有効である。
【0101】
マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、例えば、0.05μm以上5.0μm以下の範囲内とし、好ましくは0.1μm以上4.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上3.0μm以下とする。マイクロカプセル顔料の平均粒子径を0.05μm以上5.0μm以下の範囲内とすることにより、良好な筆記性能と筆跡濃度とが得られる。さらに、マイクロカプセル顔料の平均粒子径を2.0μm以上とした場合は、本実施形態の軟質部材3による熱変色性インキの化学的消去と、金属光沢顔料の物理的消去とが可能となる。
【0102】
上記のマイクロカプセル顔料の平均粒子径は、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いて測定された等体積球相当の粒子の平均粒子径の値である。なお、大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、ベックマン・コールター株式会社製の製品名「Multisizer 4e」を用いて、等体積球相当の粒子の平均粒子径の値を測定することも可能である。
【0103】
10.2 金属光沢顔料
本実施形態の熱変色性インキには、上述したマイクロカプセル顔料に加えて金属光沢顔料が配合される。金属光沢顔料は、インキの色にメタリック調の光沢を与える。金属光沢顔料の平均粒子径は、10μm以上が好ましい。金属光沢顔料の平均粒子径を10μm以上とすることにより、光輝性の高い筆跡が得られ、且つ軟質部材3による物理的消去が良好になる。
【0104】
金属光沢顔料として、例えば、透明性金属光沢顔料が好ましい。透明性金属光沢顔料は、マイクロカプセル顔料が無色に熱変色したときに完全に消去したように視覚される。透明性金属光沢顔料として、例えば、天然雲母、合成雲母、偏平ガラス片、薄片状酸化アルミニウム等から選ばれる材料を芯物質とし、前記芯物質を金属酸化物で被覆した光輝顔料、コレステリック液晶型光輝顔料が挙げられる。
【0105】
天然雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面に酸化チタンを被覆したもの、この酸化チタンの上層に酸化鉄や非熱変色性染顔料を被覆したものが好ましい。例えば、メルク社製の製品名「イリオジン」、エンゲルハード社製の製品名「ルミナカラーズ」を用いることができる。
【0106】
合成雲母を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものが好ましい。例えば、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を用いることができ、特に、酸化チタンを主成分とする金属酸化物が好ましい。例えば、日本光研工業(株)製の製品名「アルティミカ」を用いることができる。
【0107】
偏平ガラス片を芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものが好ましい。例えば、日本板硝子(株)製の製品名「メタシャイン」を用いることができる。
【0108】
薄片状酸化アルミニウムを芯物質とする光輝顔料は、その表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したものを用いることができる。金属酸化物として、例えば、チタン、ジルコニウム、クロム、バナジウム、鉄等の金属酸化物を用いることができ、特に、酸化チタンを主成分とする金属酸化物が好ましい。例えば、メルク社製の製品名「シラリック」を用いることができる。
【0109】
コレステリック液晶型光輝顔料として用いられる液晶ポリマーは、光の干渉効果により、一部のスペクトル領域の光を反射させ、これ以外のスペクトル領域の光を全て透過させる性質を有する。コレステリック液晶型光輝顔料は、優れた金属光沢と、視点により色相が変化するカラーフロップ性と、透明性とを有する。コレステリック液晶型光輝顔料として、例えば、ワッカーケミー社製の製品名「ヘリコーンHC」を用いることができる。
【0110】
フィルムに金、銀等金属を真空蒸着させた後、箔を剥離して細かく粉砕した光輝性材料として、例えば、尾池工業(株)製の製品名「エルジーneo」を用いることができる。
【0111】
金属光沢顔料の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下の範囲内とし、好ましくは2μm以上40μm以下とし、より好ましくは10μm以上40μm以下とする。金属光沢顔料の平均粒子径を0.1μm以上50μm以下の範囲内とすることにより、良好な筆記性能と光輝性の筆跡とが得られる。金属光沢顔料の平均粒子径は、例えば、(株)堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-300」を用いて粒子径分布を測定し、その数値に基づいて体積基準で平均粒子径(メジアン径)を算出する。
【0112】
11.作用効果
上述した軟質部材3の取付構造は、内孔31に中芯7を挿入することによって、軟質化させた摩擦部32(大径部4)の剛性を向上させ、摩擦部32の変形を抑止することにより、摩擦部32に良好な摩擦性能を発揮させることができる。また、軟質部材3の取付部5を内外方向の力によって強固に固定することができ、且つ軟質部材3の取付作業には大きな力を必要としない。さらに、軟質化させた摩擦部32が摩耗しても紙面を傷つけることがない。これに加え、軟質化させた摩擦部32によって、金属光沢顔料を配合した熱変色性インキの筆跡を化学的及び物理的に消去することが可能となる。
【0113】
12.その他
本発明の軟質部材の取付構造は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、軟質部材3を取り付ける場所は、熱変色性筆記具を構成する軸筒1の後端部に限定されるものではない。例えば、本発明の軟質部材の取付構造によって、熱変色性筆記具を構成するキャップの頂部に軟質部材3を取り付けることができる。
【0114】
本実施形態の中芯7は、いずれも内孔31の下端の開口から取付孔の上端の開口に達する長さを有する。中芯7は、上述した実施形態の長さに限定されるものではない。中芯7は、内孔31の下端の開口から取付孔の上端の開口に達しない長さであってもよい。中芯7は、少なくとも取付孔2の内周面に対応する長さを有していればよい。
【0115】
取付部5の外向突起51と、取付孔2の内向突起21とは、本発明の軟質部材の取付構造の必須の構成ではない。例えば、取付部5の外周面と、取付孔2の内周面とは、いずれも単一の直径を有する円周面であってもよい。
【0116】
本発明における「軟質部材」は、熱変色性筆記具の摩擦部に限定されるものではない。「軟質部材」には、例えば、シャープペンシルに取り付けられる消しゴム、又はタッチパネルの入力に用いられるタッチペンに取り付けられる入力部などが含まれる。つまり、本発明の軟質部材の取付構造は、柔軟な消しゴム及び入力部などを強固に固定することができ、且つこれらの取付作業には大きな力を必要としない。
【符号の説明】
【0117】
1 軸筒
2 取付孔
21 内向突起
21a ガイド面
21b 最小内径部
3 軟質部材
31 内孔
32 摩擦部
4 大径部
41 環状面
5 取付部(小径部)
51 外向突起
51a ガイド面
51b 最大外径部
52 膨出部
53 円筒部
6 環状空間
7 中芯
71 通気部
72 上方芯部
73 下方芯部
74 潤滑剤付着部
A 取付部の上端から外向突起の上端までの長さ
B 取付孔の上端から内向突起の下端までの長さ
C 内向突起と外向突起との間のクリアランス