(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】乾燥練物シート
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20241112BHJP
B41M 3/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A23L17/00 101E
B41M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020219562
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】茂山 恵里那
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧沢 秀樹
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-079862(JP,A)
【文献】特開平06-169731(JP,A)
【文献】特開2004-033037(JP,A)
【文献】特開2013-192557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に着色層を有する乾燥練物シートであって、
乾燥練肉シートの空隙率が21~26%であり、
且つ、着色層の厚みが50μm以上であることを特徴とする乾燥練物シート。
【請求項2】
単位空隙率が0.07~0.20%であることを特徴とする請求項1記載の乾燥練物シート。
【請求項3】
裏面に無地層を有することを特徴とする請求項1又は2記載の乾燥練物シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食インキで印刷された練物の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することのできる乾燥練物シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、練り製品の生地表面に着色する試みがなされている。例えば、練り製品に可食インキからなる絵柄を転写することで意匠性の高い練り製品を製造する方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の技術は、湯戻しにより喫食可能となる乾燥練物を想定したものではなかったため、練り製品を乾燥する際に生じる課題、具体的には、湯戻しによる絵柄の崩れや退色という課題を解決するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち本発明の課題は、可食インキで印刷された練物の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、表面に着色層を有する乾燥練物シートであって、乾燥練物シートの空隙率が21~26%であり、且つ、着色層の厚みが50μm以上であることを特徴とする乾燥練物シートにより上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の完成により、可食インキで印刷された練物シート上の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、カマボコに印刷した絵柄を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る乾燥練物シートを具体的に説明する。
【0010】
練物シート
本発明における練物シートとは、カマボコ、竹輪、さつま揚げ等の水産系の練り物、又はソーセージ、ハンバーグ等の畜肉系の練物シートを指す。練物シートの製造方法には特に制限はなく、周知の方法で製造することができる。
【0011】
練物の原料は、水分含有率が高いときには高粘度のペースト状であり、且つ乾燥により水分含有率が低下すると流動性の低い固形状となるものであればよい。具体的には、スケトウダラ、ホッケ、アジ等の魚肉、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉、その他、エビ、イカ、タコ、カニ、貝類などが使用できる。必要に応じて、大豆、小麦などの植物性原料を併用してもよい。
【0012】
乾燥練物シート
本発明の乾燥練物シートは、前記練物シートを水分含有率10%以下まで低下させることで長期保存を可能にしたものである。
【0013】
本発明では、乾燥練物シートの空隙率を21~26%とする必要があり、単位空隙率を0.07~0.20%とすることが好ましい。ここで、空隙率とは、「乾燥練物シートの表面積」に対する、「乾燥練物シートの表面にある全ての空隙の面積を足し合わせた面積」の割合である。また、単位空隙率とは「乾燥練物シートの表面積」に対する、「一つの空隙(孔)が占める面積」の割合である。
【0014】
本発明では、乾燥練物シートの空隙率を21~26%とする必要があり、22~25%が好ましく、23~24%がより好ましい。空隙率が低すぎると水分が浸透しにくく、湯戻りが悪い。一方、空隙率が高すぎると、湯戻りが早すぎるため、湯戻し後の練物シートが歪みやすい。また、乾燥練物シートの単位空隙率を0.07~0.20%とすることが好ましい。単位空隙率が低すぎると水分が浸透しにくく、湯戻りが悪い。一方、単位空隙率が高すぎると湯戻りに斑が生じやすく、練物シートが歪んだり、食感が悪化する。
【0015】
可食インキ
本発明における可食インキとは、食用色素を含む喫食可能、且つ印刷可能なインキを指す。食用色素としては、β-カロテン、リボフラビン等の天然系合成色素、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム等の天然色素誘導体などが挙げられる。また、本発明において、練物シートに可食インキが浸漬している領域を着色層と称する。
【0016】
本発明では、着色層の厚みを50μm以上とする必要があり、80μm以上が好ましく、90μm以上がより好ましく、100μm以上が極めて好ましい。着色層が薄いと可食インキが流出しやすくなるため、湯戻し後に絵柄がぼやけたり、色調が弱くなる。
【0017】
製造方法
本発明においては、印刷前の練物シートの水分含有率が13重量%以上であり、且つ、乾燥練物シートの水分含有率が10重量%以下であることが好ましい。乾燥後に可食インキを印刷するよりも、水分含有率の高い状態で印刷し、その後に乾燥させたほうが、湯戻しによる絵柄の崩れや退色を抑制することができる。色素は熱に弱いため、熱が加わる恐れの小さい乾燥後に印刷するのが一般的であるが、本発明ではこれと全く逆の方法を採用している点に特徴がある。ここで、本発明のメカニズムを説明するために、乾燥後の練物シートに可食インキで印刷した場合と、乾燥前の練物シートに印刷を行った場合について比較する。
【0018】
乾燥後の練物シートに印刷を行った場合には、湯戻しにより体積が大きくなるため絵柄も拡大する。すると、可食インキの密度が減少し、色調が弱まる(本発明においては、この現象も「退色」の一形態とする)。また、乾燥練物シート中に膨張率の異なる部位、例えば、空隙の多い部分と少ない部分が混在していると絵柄が崩れてしまう。
【0019】
一方、乾燥前の練り製品に印刷を行った場合には、乾燥により絵柄(着色層の面積)が縮小するが、湯戻しにより拡大し、元の大きさに近づく。色調については、乾燥により可食インキの濃度が上昇しており、湯戻ししたとしても元の色調に戻るだけである。したがって、乾燥練り製品に印刷を行った場合とは異なり、湯戻しによって退色する恐れは小さい。また、膨張率の異なる部位が存在していたとしても、湯戻し後は元の形状に戻るだけなので、絵柄は崩れにくい。したがって、乾燥前に練製品に印刷を行うことで、絵柄の意匠性(大きさ、色調、形状)を担保することができる。
【0020】
なお、印刷前の練り製品の水分含有率は、13重量%以上とすることが好ましく、25重量%以上がより好ましく、40重量%以上が極めて好ましい。
【0021】
乾燥条件
乾燥方法に特に制限はないが、乾燥温度が低く、乾燥時間が長い場合には絵柄の色調が悪化する傾向がある。一方、乾燥温度が高く、乾燥時間が短い場合には、湯戻ししにくく、湯戻し後のカマボコの形状が小さくなりやすい傾向がある。したがって、乾燥温度は50℃以上、70℃以下とすることが好ましい。
【0022】
印刷方式
印刷方式としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷などを用いることができるが、吐出部と基材(練り製品)を接触させずに印刷することができるインクジェット印刷が衛生性の観点においてより好ましい。
【0023】
なお、本発明における乾燥練物シートは裏面に無地層を有することが好ましい。従来の練物シートは、金太郎飴のようにどこの切断面でも同じ柄となるのが一般的であったが、本発明を用いることで、一方の面に好みに応じた柄を描くことが可能である。
【実施例】
【0024】
(練り製品)
印刷前にカマボコ(色相:白色、形態:厚み5mmのスライスカット、原料:スケトウダラ)を温風乾燥機(60℃)で乾燥させて水分含有率9重量%、14重量%、33重量%のカマボコ1~3を用意した。また、乾燥させていない水分含有率53重量%のカマボコ4を準備した。
【0025】
【0026】
インクジェットプリンター(ニューマインド社、NE-420F)を使って、可食インキ(東洋アドレ社製、天然色素インクカートリッジ(黒、青、マゼンタ、黄))を、カマボコ1~4に印刷した。なお、絵柄は、
図1の通り、各色相(10mm×10mm)を格子状に配置した柄である。
【0027】
印刷後にカマボコを、熱風乾燥機を用いて乾燥させて、水分含有率9重量%の乾燥カマボコ(試作例2~7)を製造した。また、乾燥方法を変更し、減圧乾燥機(60℃、12時間)で乾燥させた水分含有率9重量%の乾燥カマボコ(試作例8)を製造した。なお、試作例1については印刷のみを実施した。
【0028】
(空隙率・単位空隙率)
デジタルマイクロスコープ(日本電子株式会社、JCM-6000、100倍率)を用いて、乾燥カマボコの断面を撮影し、このデジタル画像をMedia Cybernetics 社製のImage-Pro Premier 9.2により画像解析した。サンプル数は5(N=5)である。
【0029】
画像解析では、面積が100μm2以上の細孔について、乾燥カマボコの断面に存在する細孔の数、単位面積1mm2あたりの細孔の数、空隙率(乾燥カマボコ断面の面積に対する細孔の合計面積の割合)(%)、単位空隙率(乾燥カマボコの断面の面積に対する細孔の平均面積の割合)(%)を求めた。なお、表2、3には、カマボコの色相・形状評価との相関性の強い空隙率と単位空隙率のみを記載した。
【0030】
(着色層)
デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス、VHX-5000、200倍率)を用いて、乾燥カマボコの断面を撮影し、着色層(マゼンタ)の厚さ(μm)を測定した。サンプル数は2(N=2)である。なお、表2、3に示したのはマゼンタ層の厚みであるが、他の色相についても着色層の厚みに大きな差はなかった。
【0031】
(湯戻し前の色調評価)
乾燥カマボコの湯戻し前の絵柄の色調を以下の基準に従って評価した。なお、試作例3を色調が“良好”な基準、試作例1を色調が“不良”な基準とし、試作例3よりも色調が良好だったものを“非常に良好”、試作例1と試作例3の中間の評価を“普通”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0032】
試作例1~7を99℃のお湯で3分間湯戻し、湯戻し後の絵柄の色調、及びカマボコの形状を評価した。
【0033】
(湯戻し後の色調評価)
湯戻し後の絵柄の色調を以下の基準に従って評価した。なお、試作例4を色調が“良好”な基準、試作例1を色調が“不良”な基準とし、試作例4よりも色調が良好なものを“非常に良好”、試作例1と試作例4の中間の評価を“普通(実用レベル)”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0034】
(湯戻し後の形状評価)
湯戻し後のカマボコの形状を以下の基準に従って評価した。なお、本評価においては、湯戻し後のカマボコの大きさが大きいほど好ましく、具体的には、試作例4を形状が“非常に良好”な基準、試作例6を形状が“普通(実用レベル)”な基準とし、試作例6よりも形状が悪いものを“不良”、試作例4と試作例6の中間の評価を“良好”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0035】
【0036】
【0037】
試作例4と試作例5(乾燥温度45℃、乾燥時間120分)の比較により、乾燥温度が低く、乾燥時間が長い場合には、湯戻し後の絵柄の色調が低下することがわかる。また、試作例4と試作例6(乾燥温度80℃、乾燥時間20分)の比較により、乾燥温度が高く、乾燥時間が短い場合には、湯戻りが悪く、カマボコの形状が小さくなりやすいことがわかる。また、試作例4と試作例7の比較により、熱風乾燥よりも減圧乾燥の方が湯戻し後の色調が向上することがわかる。
【0038】
試作例1~7より、空隙率が高いほど着色層の厚みが厚くなることがわかる。また、着色層の厚みが厚いほど湯戻し後の色調が良好なこともわかる。一方、試作例6より、空隙率が高すぎると湯戻し後の形状が悪化することがわかる。また、試作例1~7より、単位空隙率が0.07未満の場合には色調が悪化することがわかる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・カマボコ
11・・・マゼンタ
12・・・黒
13・・・青
14・・・黄