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特許7586710熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物の硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物及びその製造方法、熱硬化性樹脂組成物の硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241112BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241112BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20241112BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K5/00
C08J3/215 CER
C08J3/215 CEZ
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020563235
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050263
(87)【国際公開番号】W WO2020137936
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018246101
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005979
【氏名又は名称】三菱商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100190355
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 紀央
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】栗谷 真澄
(72)【発明者】
【氏名】高 宇
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-016466(JP,A)
【文献】特開2004-182771(JP,A)
【文献】特開2004-331929(JP,A)
【文献】特表2018-518541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体Aとフラーレンとを混合し、前記媒体Aと前記フラーレンを含むフラーレン分散体を得る工程と、
前記フラーレン分散体を、100℃以上250℃以下で熱処理する工程と、を含み、
熱硬化性樹脂に添加する熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法であって、
前記媒体Aは、熱硬化性樹脂の原料であり、
前記熱硬化性樹脂の原料は、重合性モノマー、重合性オリゴマー及び反応性成分からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記重合性モノマーあるいは前記重合性オリゴマーは、硬化剤や光硬化剤が存在する条件で、加熱や光照射により、重合し、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミドを生成するものであり、
前記反応性成分は、直鎖または分岐した炭化水素、不飽和2重結合を有する炭化水素、アルキルを有する芳香族炭化水素、多環芳香環の炭化水素、エーテル結合を有する化合物、エステル基を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、ジ-p-トリルジスルフィド、フェノール水酸を有する化合物、ジアゾ化合物及びシリコーンからなる群から選択される少なくとも1種である熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項2】
前記フラーレン分散体を得る工程において有機溶剤を混合する請求項1に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項3】
前記フラーレン分散体を熱処理する工程を、低酸素雰囲気下で行う請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項4】
前記フラーレン分散体中の酸素濃度を10質量ppm以下とする請求項3に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項5】
前記フラーレン分散体を熱処理する工程において、
前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程を含み、
前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程は、
加熱状態にある前記フラーレン分散体における前記フラーレンの濃度を一定時間毎に測定して、前記フラーレン分散体における前記フラーレンの濃度と前記フラーレン分散体の加熱時間の関係を示す検量線を作成する工程と、
前記検量線に基づいて、前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程とを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項6】
前記フラーレンが、C60、C70並びにC60及びC70を含む混合物のいずれかである請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項7】
前記フラーレン分散体から、不溶成分を除去する工程をさらに含む請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂添加組成物から、揮発成分を除去する工程をさらに含む請求項1~7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法。
【請求項9】
媒体Aとフラーレン付加体とを含み、
前記媒体Aは、熱硬化性樹脂の原料であり、
前記熱硬化性樹脂の原料は、重合性モノマー、重合性オリゴマー及び反応性成分からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記重合性モノマーあるいは前記重合性オリゴマーは、硬化剤や光硬化剤が存在する条件で、加熱や光照射により、重合し、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミドを生成するものであり、
前記反応性成分は、直鎖または分岐した炭化水素、不飽和2重結合を有する炭化水素、アルキルを有する芳香族炭化水素、多環芳香環の炭化水素、エーテル結合を有する化合物、エステル基を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、ジ-p-トリルジスルフィド、フェノール水酸を有する化合物、ジアゾ化合物及びシリコーンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記フラーレン付加体は、フラーレンに前記媒体Aに含まれている成分由来の構造が付加された化合物であり、熱硬化性樹脂に添加する、熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物の製造方法により樹脂添加組成物を得る工程と、得られた樹脂添加組成物と媒体Bとを混合する工程と、を含み、
前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料を含む請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の熱硬化性樹脂用樹脂添加組成物と媒体Bとの混合物であり、
前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の硬化剤を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料を含む請求項12に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加組成物及びその製造方法、樹脂組成物及びその製造方法に関する。
本願は、2018年12月27日に、日本に出願された特願2018-246101号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
樹脂にフラーレンを充分に分散した効果として、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性及び耐電圧性が向上することが知られている。
特許文献1には、フラーレン類をポリエステル系樹脂中に均一に分散させ、ポリエステル系樹脂組成物を製造する方法が開示されている。この製造方法の一実施形態は、フラーレン類を溶剤に溶解させてフラーレン類溶液を調製する工程と、フラーレン類溶液にポリエステル系樹脂を添加して、ポリマードープ溶液を調製する工程と、ポリマードープ溶液から溶媒を除去する工程とを含む。また、この製造方法のその他の実施形態は、フラーレン類を溶媒に溶解させてフラーレン類溶液を調製する工程と、フラーレン類溶液にポリエステルの原料またはそのオリゴマーを加え、重合反応を行い、ポリエステル系樹脂組成物を製造する工程とを含む。この製造方法により得られたポリエステル系樹脂組成物により、ポリエステル系樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性を向上させている。
特許文献2には、ポリオレフィン中にフラーレンを分散させた樹脂組成物を用いて樹脂シートを作製することにより、樹脂シートの絶縁破壊電圧を向上させる技術が開示さている。
特許文献3には、フラーレン誘導体を含む有機溶媒溶液と樹脂を混合することにより、樹脂に対するフラーレンの分散性を向上させる技術が開示さている。そのフラーレン誘導体は、樹脂と親和性の高い有機溶媒への溶解性が向上するような置換基をフラーレンに導入してなるフラーレン誘導体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-117760号公報
【文献】特開2018-104549号公報
【文献】国際公開第2016/063972号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、フラーレン類を溶解してフラーレン類溶液を調製するとともに、フラーレン類溶液とポリエステル系樹脂の混合、または、フラーレン類溶液中におけるポリエステル系樹脂の重合に使用できる溶媒は、ベンゼンやトルエン等の一部の芳香族系溶媒に限られる。
特許文献2に記載された方法では、フラーレン類を分散できる樹脂がポリエステル系樹脂に限定されている。
特許文献3に記載された方法では、フラーレン誘導体として、インデン付加体が開示されている。インデン付加体は、例えば、ポリエステル、エポキシ樹脂等の樹脂の骨格とは基本的に構造が異なるために、これらの樹脂との親和性が充分ではなく、これらの樹脂に対する分散性が充分ではない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性及び耐電圧性を向上する樹脂添加組成物及びその製造方法、樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]媒体Aとフラーレンとを混合し、前記媒体Aと前記フラーレンを含むフラーレン分散体を得る工程と、前記フラーレン分散体を熱処理する工程と、を含み、前記媒体Aは、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂の原料及び熱硬化性樹脂の原料からなる群から選択される少なくとも1種である樹脂添加組成物の製造方法。
[2]前記フラーレン分散体を得る工程において有機溶剤を混合する[1]に記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[3]前記フラーレン分散体を熱処理する工程を、低酸素雰囲気下で行う[1]または[2]に記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[4]前記フラーレン分散体中の酸素濃度を10質量ppm以下とする[3]に記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[5]前記フラーレン分散体を熱処理する工程において、前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程を含み、前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程は、加熱状態にある前記フラーレン分散体における前記フラーレンの濃度を一定時間毎に測定して、前記フラーレン分散体における前記フラーレンの濃度と前記フラーレン分散体の加熱時間の関係を示す検量線を作成する工程と、
前記検量線に基づいて、前記フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定する工程とを含む[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[6]前記フラーレンが、C60、C70並びにC60及びC70を含む混合物のいずれかである[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[7]前記フラーレン分散体から、不溶成分を除去する工程を含む[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[8]前記樹脂添加組成物から、揮発成分を除去する工程を含む[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法によって製造される樹脂添加組成物。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂添加組成物の製造方法により樹脂添加組成物を得る工程と、得られた樹脂添加組成物と媒体Bとを混合する工程と、を含み、前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料、熱硬化性樹脂の硬化剤または熱可塑性樹脂である樹脂組成物の製造方法。
[11][10]に記載の樹脂組成物の製造方法によって製造される樹脂組成物。
[12]前記媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料、または熱硬化性樹脂の硬化剤である場合、前記[11]に記載の樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性及び耐電圧性を向上する樹脂添加組成物及びその製造方法、樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した樹脂添加組成物及びその製造方法、樹脂組成物及びその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0009】
[樹脂添加組成物]
本実施形態の樹脂添加組成物は、後述する樹脂添加組成物の製造方法で製造されるものであり、媒体Aと、フラーレンと、フラーレン付加体とを含む。前記フラーレン付加体は、前記フラーレンに、前記媒体Aに含まれている成分の由来構造を付加してからなる化合物である。本実施形態の樹脂添加組成物は、後述する本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法において、媒体Aと、フラーレンとの混合物(フラーレン分散体)を熱処理してなる。
【0010】
(媒体A)
本実施形態の樹脂添加組成物に含まれる媒体Aは、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂の原料及び熱硬化性樹脂の原料からなる群から選択される少なくとも1種である。より具体的には、本実施形態の樹脂添加組成物を熱可塑性樹脂に用いる場合、媒体Aは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂の原料である。熱可塑性樹脂の原料としては、熱可塑性樹脂のモノマー、熱可塑性樹脂添加剤及び反応性成分からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、本実施形態の樹脂添加組成物を熱硬化性樹脂に用いる場合、媒体Aは、熱硬化性樹脂の原料である。熱硬化性樹脂の原料としては、重合性モノマー、重合性オリゴマー及び反応性成分からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0011】
熱可塑性樹脂は、一般的に溶融温度を超える状態では、主に炭素、酸素、窒素、シリコン原子を主鎖に有する分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、分子量が低下するものである。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アリル酸エチル、アクリル酸ブチル、酢酸ビニル、スチレン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のモノマーの重合体、及びこれらモノマーの共重合体が挙げられる。
【0012】
熱可塑性樹脂の原料であるモノマーは前出のものが挙げられる。
【0013】
熱可塑性樹脂の原料である熱可塑性樹脂添加剤は、特に限定されない。熱可塑性樹脂添加剤としては、例えば、市販の酸化防止剤が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂添加剤としては、芳香族環を有するものがより好ましい。
芳香族環を有する酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ブチルフェノール(DTP)、ビス(3、5-ジブチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン(BDBA)、2,4,6-トリブチルフェノール(TBP、3-アリールベンゾフラン-2-オン(ヒドロキシカルボン酸の分子内環状エステル)、フェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0014】
熱硬化性樹脂の原料である重合性モノマーあるいは重合性オリゴマーとしては、以下のような原料モノマーあるいはオリゴマーであれば特に制限なく用いることができる。この原料モノマーあるいはオリゴマーは、硬化剤や光硬化剤が存在する条件で、加熱や光照射により、重合し、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等を生成する。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の具体例は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、シリコンエポキシ樹脂等を含む。
【0015】
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の原料である反応性成分は、媒体A及び後述する媒体Bと溶解性の点で親和性が高い化合物であることが好ましい。
反応性成分は、媒体A及び媒体Bと溶解性の点で親和性が高いという点では、媒体A及び媒体Bの主成分と化学構造が類似する化合物であることがさらに好ましい。
さらに、製造のし易さの観点から、反応性成分は、媒体Bに含まれる成分であることが好ましく、また、約200℃以下で後述するフラーレンに化学結合する化合物であることが好ましい。
反応性成分としては、例えば、パラフィン、オレフィン、ナフテン、芳香族等の炭化水素、エーテル、エステル等の骨格を有する化合物が好ましい。
【0016】
また、反応性成分は、約200℃以下でフラーレンに化学結合させるという点では、例えば、側鎖や環を有する飽和炭化水素、ジエンや芳香族等の不飽和炭化水素が好ましい。その芳香族が、環を複数有してもよく、アルキル側鎖を有してもよい。また、このような反応性成分のその他の好ましい例は、エーテル結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物、リン酸エステル結合を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、フェノール水酸を有する化合物、及びシリコーンを含む。
【0017】
このような反応性成分としては、具体的には、直鎖または分岐した炭化水素(、不飽和2重結合を有する炭化水素、アルキルを有する芳香族炭化水素、多環芳香環の炭化水素、エーテル結合を有する化合物、エステル基を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、ジ-p-トリルジスルフィド、フェノール水酸を有する化合物、ジアゾ化合物、シリコーン、等が挙げられる。さらに、これらの組み合わせが挙げられる。これらの化合物は、加熱することにより分子が開裂し、フラーレンと反応して、フラーレン付加体を形成すると考えられる。
直鎖または分岐した炭化水素の例は、ヘキサン、デカン、シクロヘキサン、イソブタン、デカリン等を含む。不飽和2重結合を有する炭化水素の例は、ヘキサセン、ペンタセン、シクロヘキセン、デセン、テレピン油、テルペン誘導体、α-オレフィン等を含む。アルキルを有する芳香族炭化水素の例は、ドデシルベンゼン、ヘキサベンゼン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、クメン、メチルナフタレン含む。多環芳香環の炭化水素の例は、アントラセン、ブタセン、ヘキサセンなどを含む。エーテル結合を有する化合物の例は、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラヒロドフラン等を含む。エステル基を有する化合物の例は、酢酸エチル、酢酸オクチル、γ-ブチロラクトン、脂肪(脂肪酸グリセリンエステル)などを含む。リン酸エステル結合を有する化合物の例は、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリフェニル(TPP)、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(DTP)等を含む。ジスルフィド結合を有する化合物の例は、ジベンジルジサルファイド(DBDS)、ジ-p-トリルジスルフィド(DTDS)等を含む。フェノール水酸を有する化合物の例は、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ブチルフェノール(DTP)、ビス(3、5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン(BDBA)、2,4,6-トリブチルフェノール(TBP)等を含む。
【0018】
前記反応性成分がフラーレンに化学結合(付加)してフラーレン付加体を形成する。このようなフラーレン付加体では、フラーレン骨格の表面に上記の反応性成分の分子(基)が存在する。したがって、フラーレン付加体は、その表面に存在する反応性成分より得られる基により、樹脂との親和性に優れる。よって、樹脂添加組成物がフラーレン付加体を含むことにより、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる。
【0019】
反応性成分がフラーレンに化学結合して、フラーレン付加体を形成していることは、液体クロマトグラフィー質量分析法(Liquid Chromatography Mass Spectrometry、LC-MS)により確認することができる。
【0020】
媒体Aとフラーレンとを含むフラーレン分散体を得る工程では、有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤を用いることで、媒体Aの熱可塑性樹脂添加剤が室温で固体である場合に、これらを有機溶剤に溶解させることにより液状とすることがで、液体として取り扱うことが可能となり、後述の樹脂添加組成物の製造を容易にする。
また、有機溶剤を用いることで、フラーレンの分散を高めることができ、後述の樹脂添加組成物の製造を容易にする。媒体Aの熱可塑性樹脂添加剤、重合性モノマー、重合性オリゴマー等にフラーレンを分散し難い場合に、これらの混合物に有機溶剤を添加することにより、フラーレンの分散を高めることができる。
【0021】
有機溶剤としては、例えば、芳香族溶剤、デカリン、N-メチルピロリドン、ポリプロビレングリコール等が挙げられる。その中に、芳香族溶剤が特に好ましい。芳香族溶剤の例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチルナフタレン等を含む。
【0022】
(フラーレン)
本実施形態の樹脂添加組成物に含まれるフラーレンは、構造や製造法が特に限定されず、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC60やC70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、有機溶剤や樹脂への溶解性の高さの点から、C60及びC70が好ましく、着色が少ない点から、C60がより好ましい。混合物の場合は、C60が50質量%以上含まれることが好ましい。
【0023】
(フラーレン付加体)
本実施形態の樹脂添加組成物は、その製造過程において、媒体Aとフラーレンとを含むフラーレン分散体における熱処理後のフラーレンの濃度が、熱処理前のフラーレンの濃度よりも低くなる。すなわち、本実施形態の樹脂添加組成物は、熱処理によって、フラーレンに、媒体Aに含まれていてもよい反応性成分が化学結合してなるフラーレン付加体を含む。フラーレン付加体は、フラーレンに付加した以下の化合物であることが好ましい。この化合物は、炭化水素、エーテル結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物、リン酸エステル結合を有する化合物、ジスルフィド結合を有する化合物、フェノール水酸を有する化合物及びシリコーンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0024】
本実施形態の樹脂添加組成物は、後述する樹脂添加組成物の製造方法により製造される樹脂添加組成物である。
【0025】
本実施形態の樹脂添加組成物によれば、媒体Aとフラーレンとフラーレン付加体とを含み、媒体Aとフラーレンとの分散体が熱処理されてなる。そのため、フラーレンの樹脂への溶解性が向上することにより、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる。
【0026】
本実施形態の樹脂添加組成物は、熱硬化性繊維樹脂強化プラスチック(FRP)、熱可塑性繊維樹脂強化プラスチック(FRTP)、熱硬化性炭素繊維樹脂強化プラスチック(CFRP)、熱可塑性炭素繊維樹脂強化プラスチック(CFRTP)、放熱樹脂、電気絶縁樹脂、オーリングパッキン、電線被覆材等の各種用途に使用することができる。
【0027】
例えば、FRP、FRTP、CFRP、CFRTP、放熱樹脂、電気絶縁樹脂の用途において、基材となる樹脂(以下、「樹脂基材」と言うこともある。)を、本実施形態の方法で作製すれば、得られたFRP、CFRP、放熱樹脂、電気絶縁樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる。
この場合、樹脂基材としては、熱可硬化性樹脂が用いられ、例えば、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0028】
例えば、CFRTP、FRTP、オーリングパッキン、電線被覆材などのシール樹脂の用途において、基材となる樹脂(以下、「樹脂基材」と言うこともある。)を、本実施形態の方法で作製すれば、得られたFRP、シール材の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる。
この場合、樹脂基材としては、熱可塑性樹脂が用いられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、ポリスチレン、ブチルゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0029】
[樹脂添加組成物の製造方法]
本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法は、上述の本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法であって、媒体Aとフラーレンとを混合し、フラーレンの溶解成分を媒体A中に溶解し、媒体Aとフラーレンの混合物を得る工程(以下、「第一工程」という。)と、フラーレン分散体を熱処理する工程(以下、「第二工程」という。)と、を含む。
さらに、本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法は、第一工程後に、混合物に含まれる不溶成分を除去し、フラーレンの混合物を得る工程(以下、「第三工程」という。)を含んでもよい。第一工程あるいは第二工程を経たフラーレンと媒体Aの混合物をフラーレン分散体(以下、単に「フラーレン分散体」と言うことがある。)を得る。
さらに、本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法は、第三工程の後に、樹脂添加組成物に含まれる有機溶剤等の揮発分を除去する工程(以下、「第四工程」という。)を含んでもよい。
【0030】
以下、本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0031】
(第一工程)
媒体Aが室温で液体の場合、または媒体Aが固体の場合で有機溶剤に溶解された溶液状態の場合は、原料のフラーレンを媒体A(の溶液)に投入して攪拌機等の分散手段を用いて、室温付近または必要に応じて加温しながら1時間~48時間の分散処理を施す。媒体Aが室温で固体であり、加熱により溶融する場合は、溶融温度の温度で攪拌機器、混錬機器等の分散手法を用いて、1時間~48時間の分散処理を施す。
原料のフラーレンの仕込み量は、例えば、最終的に調製したい樹脂添加組成物のフラーレン濃度を考慮して、計算上、媒体Aに対して所望のフラーレンの濃度が得られるフラーレン量の1.1倍~200倍、より好ましくは1.1倍~20倍とする。1.1倍より低いと、抽出可能な溶解成分の量が少なくて、所望のフラーレンの濃度を満たすことができない可能性がある。200倍より高いと、不溶成分を除去する第二工程において、フィルタリング途中で濾過速度の低下が生じ、実施時間が長くなる。さらに、フラーレンの原料コストが上がる。
【0032】
媒体Aにフラーレンを分散させるための分散手段としては、例えば、撹拌機、超音波分散装置、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、三本ロール、ニーダー等が挙げられる。
前記フラーレン分散体は、フラーレンの濃度が1質量ppm(0.0001質量%)以上10000質量ppm(1.0質量%)以下であることが好ましく、5質量ppm(0.0005質量%)以上2000質量ppm(0.2質量%)以下であることがより好ましく、10質量ppm(0.001質量%)以上500質量ppm(0.05質量%)以下であることがさらに好ましい。
フラーレンの濃度が上記範囲であれば、フラーレンの添加による、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性の効果を長期間維持することができる。また、フラーレンの劣化等による、フラーレンの濃度の低下を補うことができる。
【0033】
(第二工程)
第一工程で得たフラーレン分散体を熱処理し、樹脂添加組成物を得る。なお、第二工程の前に、フラーレン分散体に含まれる不溶成分を除去し、フラーレンの混合物を得る第三工程を行ってもよい。具体的には、第一工程で得たフラーレン分散体をろ過する第三工程を行ってもよい。
【0034】
第一工程(あるいは第三工程)で得られたフラーレン分散体は、第一工程(あるいは第三工程)で大気に曝されるため、内部の酸素濃度が大気中の酸素と平衡状態になっている。そのため、第二工程は、混合物中の酸素濃度を、大気中に放置した状態よりも低下させる操作を含むことが好ましい。具体的には、混合物中の酸素濃度を、10質量ppm以下とすることが好ましく、5質量ppm以下とすることがより好ましく、1質量ppm以下とすることがさらに好ましい。その後、酸素濃度を低下させたフラーレン分散体を、再び大気に触れさせることなく、熱処理する。
【0035】
第二工程では、フラーレン分散体を熱処理することにより、反応性成分をフラーレンに化学結合させて、フラーレン付加体を形成する。そのため、熱処理後に得られる樹脂添加組成物におけるフラーレンの濃度は、熱処理前のフラーレン分散体におけるフラーレンの濃度よりも低くなる。言い換えれば、熱処理後により、フラーレン付加体が形成されるので、フラーレンは消費され、その濃度は、熱処理前よりも低くなる。
【0036】
第二工程の熱処理は、低酸素濃度雰囲気(O濃度1体積%以下)で行うことが望ましい。そのためには、熱処理の前に、前述の通り酸素濃度を低下させることが好ましい。酸素濃度を低下させるより好ましい方法としては、例えば、下記の4つ方法が挙げられる。
【0037】
第一の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第一工程(あるいは第三)で得たフラーレン分散体を収容した後、容器を密閉する。
次いで、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のフラーレン分散体を不活性ガスでバブリングすることにより、フラーレン分散体を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、フラーレン分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体を熱処理する。
第一の方法では、フラーレン分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0038】
第二の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第二工程で得たフラーレン分散体を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、フラーレン分散体中の酸素濃度を低下させる。
次いで、フラーレン分散体中の酸素濃度を低下させた状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体を熱処理する。
第二の方法では、フラーレン分散体中の酸素濃度を低下させた状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0039】
第三の方法を説明する。
気密可能なステンレス等の金属製容器内に、第二工程で得たフラーレン分散体を収容した後、容器を密閉する。
次いで、容器を減圧して、フラーレン分散体中の酸素濃度を低下させる。
次いで、窒素ガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、あるいは、さらに容器内のフラーレン分散体を不活性ガスでバブリングすることにより、フラーレン分散体を不活性ガスと平衡状態にする。
次いで、フラーレン分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体を熱処理する。
第三の方法では、フラーレン分散体と不活性ガスの平衡状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン分散体の熱処理を、低酸素雰囲気下で行う。
【0040】
フラーレン分散体の加熱温度が高い程、加熱時間が短くなる。しかしながら、加熱温度が高過ぎると、媒体Aの成分が蒸発したり、媒体Aが劣化・変質したりする。
そこで、フラーレン分散体の加熱温度の上限は、媒体Aが蒸発してフラーレン分散体の重量が減少しすぎない温度の上限となる。ただし、この温度を超えても、蒸発成分を冷却管等で回収し、媒体Aに戻す操作を行う場合、あるいは、圧力容器内で圧力をかけて蒸発を抑えた状態で熱処理する場合には、フラーレン分散体の加熱温度を媒体Aが蒸発する温度よりも高くすることができる。
【0041】
また、フラーレン分散体が室温で固体の場合は、加熱により溶融状態となることが好ましく、加熱温度は溶融温度より高くすることが好ましい。
混合物の加熱温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下であることがより好ましく、120℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0042】
フラーレン分散体の加熱温度が低い程、加熱時間が長くなる。
加熱温度が100℃以上であれば、樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性の向上が見られる。工業的に樹脂添加組成物を製造する場合には、フラーレン分散体の加熱温度は、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
加熱温度が高くなる程、フラーレン分散体の熱処理が早く進むため、加熱時間が短くなる。
【0043】
フラーレン分散体中の酸素濃度が高い程、フラーレン分散体の熱処理において、媒体Aの熱劣化が進行するため、樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上し難い。フラーレン分散体中の酸素濃度が高いと、フラーレン分散体の熱処理において、媒体Aが酸化により劣化する。これにより、媒体Aが着色したり、媒体Aの粘度が上昇あるいは低下したり、揮発成分が増えて揮発性が増すなどして樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が低下したりすることがある。
【0044】
なお、フラーレン分散体が10分以上大気に触れると、フラーレン分散体中の酸素濃度が、大気との平衡状態の濃度に近くなる。このようなフラーレン分散体を熱処理すると、媒体Aの酸化に起因する劣化が生じるため、樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が低下する。すなわち、フラーレン分散体中の酸素濃度が低い程、媒体Aの熱劣化が抑制され、樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上する。フラーレン分散体中の酸素の濃度は、大気中の酸素濃度よりも低いことが好ましく、大気中の酸素濃度の10分の1以下であることがより好ましい。具体的には、フラーレン分散体中の酸素濃度を、10質量ppm以下とすることが好ましく、5質量ppm以下とすることがより好ましく、1質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
フラーレン分散体中の酸素濃度は、溶存酸素計を用いて測定することができる。なお、酸素濃度が低い場合には、工業的には、酸素濃度を正確に測定することが難しいため、製造条件を調整することにより、フラーレン分散体中の酸素濃度を所定の範囲とする。
【0046】
第二工程では、熱処理後に得られる樹脂添加組成物におけるフラーレンの濃度は、熱処理前のフラーレン分散体におけるフラーレンの濃度よりも低くなる。
このように濃度が低下するのは、媒体Aに含まれる分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、開裂した分子がフラーレンに付加することでフラーレン分子がフラーレン付加体へと変化するためと考えられる。前記反応生成物が生じるため、得られる樹脂添加組成物は、耐熱性、表面平滑性、力学特性及び耐電圧性を向上すると推定される。
【0047】
熱処理前のフラーレン分散体及び熱処理直後の樹脂添加組成物におけるフラーレンの濃度は、実施例に記載の高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)を用いた手法により測定することができる。
【0048】
フラーレン分散体の熱処理によるフラーレンの消失量は、熱処理前後のフラーレンの濃度の差、すなわち、熱処理前後のフラーレンの濃度差=[熱処理前のフラーレン濃度]-[熱処理後のフラーレン濃度]から算出することができる。
【0049】
前記濃度差は、5質量ppm以上であることが好ましく、10質量ppm以上であることがより好ましく、50質量ppm以上であることがさらに好ましい。つまり、フラーレンの含有量が50質量ppm以下のフラーレン分散体では、熱処理によりフラーレンが検出されなくなる場合がある。また、フラーレンの含有量が50質量ppmを超える場合でも、熱処理を継続することにより、フラーレンの消失量が50質量ppmを超えるため、フラーレンが検出できなくなる場合がある。
フラーレンの消失量が5ppm以上であれば、樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる。
【0050】
フラーレンの消失量が500質量ppmを超えた場合、あるいは、それ以下であっても、既に消失するフラーレンが残存しない状態に達した後も熱処理を継続することができる。しかしながら、熱処理時間の割りに、得られる樹脂添加組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性がさらに向上し難くなる。そのため、フラーレンの消失量は、500質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましく、50質量ppm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
フラーレン分散体の熱処理条件を決定するためには、以下の方法でグラフ(検量線)を作成する。後述する実施例1における装置を用いて、一定時間毎に、加熱状態にあるフラーレン分散体を採取する。そして、その溶液に含まれるフラーレンの濃度を定量して、フラーレン分散体におけるフラーレンの濃度と混合物の加熱時間の関係を示すグラフ(検量線)を作成する。このグラフから、フラーレン分散体の加熱温度と加熱時間を決定することができる。なお、前記決定される加熱時間が、操作のしやすさなどの観点から所望するより短い場合はより低い加熱温度で、逆に、所望するより長い場合はより高い加熱温度で、再度検量線を作成して加熱温度と加熱時間を決定してもよい。
【0052】
(第三工程)
第一工程で得られた混合物には、不溶成分として、原料のフラーレン由来の不純物であるフラーレンの凝集物、未溶解のフラーレン、媒体Aの不純物、製造過程で混入した粒子等が含まれる場合がある。そのため、その混合物をそのまま用いると、樹脂添加組成物と接触している摺動部等が摩耗する等の不具合が生じることがある。そこで、第一工程の後に、不溶成分を除去する第三工程(フィルタリング)を設けることができる。
【0053】
第三工程としては、例えば、(1)メンブランフィルターを用いた除去工程、(2)遠心分離器を用いた除去工程、(3)メンブランフィルターと遠心分離器を組み合わせて用いる除去工程等が挙げられる。これらの除去工程の中でも、濾過時間の点から、少量の樹脂添加組成物を得る場合は(1)メンブランフィルターを用いた除去工程が好ましく、大量の樹脂添加組成物を得る場合は(2)遠心分離器を用いた除去工程が好ましい。
【0054】
(1)メンブランフィルターを用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた媒体Aとフラーレンの混合物を、目の小さいメッシュのフィルター(例えば、0.1μm~1μmメッシュのメンブランフィルター)を用いて濾過し、フラーレン分散体として回収する。濾過時間の短縮を図るには、濾過時に減圧することが好ましい。
(2)遠心分離器を用いた除去工程では、例えば、第一工程で得られた媒体Aとフラーレンの混合物に対して遠心分離処理を施し、上澄みをフラーレン分散体として回収する。
【0055】
(第四工程)
第四工程では、第三工程の後に、樹脂添加組成物に含まれる有機溶剤等の揮発分を除去する。
揮発分を除去する方法としては、例えば、加熱または減圧下で加熱して揮発分を蒸発させる方法等が挙げられる。
第四工程は、第三工程に連続して行うことができる。例えば、第三工程の第一方法~第三方法では、加熱を終えた後に、真空ポンプ等を用いて、容器の圧力を大気圧より小さくすることで、樹脂添加組成物に含まれる有機溶剤等の揮発分を除去することができる。
【0056】
本実施形態の樹脂添加組成物の製造方法によれば、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を向上することができる樹脂添加組成物が得られる。
【0057】
[樹脂組成物、及びその製造方法]
本実施形態の樹脂組成物は、媒体Bと前記樹脂添加組成物とを含み、媒体Bと上記の樹脂添加組成物とを混合することで得られる。 本実施形態の樹脂組成物に含まれる媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料、熱硬化性樹脂の硬化剤または熱可塑性樹脂である。より具体的には、樹脂添加組成物に用いる媒体Aが熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂の原料である場合、媒体Bは熱可塑性樹脂である。また、樹脂添加組成物に用いる媒体Aが熱硬化性樹脂の原料である場合、媒体Bは、重合性モノマー、重合性オリゴマー、熱硬化促進剤、熱硬化性樹脂の硬化剤及びこれらの混合物である。
【0058】
媒体Bと上記の樹脂添加組成物とを混合する方法としては、特限定されず、熱混練法等の方法が用いられる。
【0059】
熱硬化性樹脂を用いる場合の硬化剤は、通常用いられるものが制限なく使用できる。例えば、脂肪族ポリアミン系としてトリエチレンテトラミン、芳香族ポリアミン系としてジアミノジフェニルメタン、酸無水物系として4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、フェノールノボラック系としてフェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド系としてジシアンジアミド等が挙げられる。
【0060】
硬化性樹脂を用いる場合の硬化促進剤は、通常用いられるものが制限なく使用できる。例えば、アミン系としてトリスジメチルアミノメチルフェノール、イミダゾール系として1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、ホスフィン系としてトリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0061】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法によれば、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性に優れる樹脂組成物が得られる。
[樹脂組成物の硬化物]
本実施形態の樹脂組成物に含まれる媒体Bは、熱硬化性樹脂の原料である場合、加熱硬化処理により樹脂組成物の硬化物が得られる。加熱硬化処理の条件は特に限定されなく、例えば、大気雰囲気で、50~150℃、2~20時間で加熱する方法が挙げられる。硬化物の形状は特に限定されなく、例えば、シート状が挙げられる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0063】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
(樹脂添加組成物の調製)
<第一工程>
媒体Aとして、エポキシ樹脂A(ビスフェノールF(三菱化学社製、JER806)10gに、有機溶剤としてトルエン40gを混合し、室温で1時間攪拌した。次に、得られた溶液と、フラーレンであるナノム(登録商標)ミックス(フロンティアカーボン社製、C6061質量%、C7028質量%、C70より大きい高次のフラーレン11質量%を含有する混合物)0.05gとを混合し室温で6時間攪拌したことで、フラーレン分散体を得た。
このフラーレン分散体には、C60が600質量ppm、C70が250質量ppm含まれることを、HPLC法で確認した。
【0065】
<第二工程>
このフラーレン分散体を耐圧ステンレス製の容器内に移した。この容器の蓋の部分に2つのガス注入口を取り付けた。この容器の容量は250mLであった。この容器の内部を、ガス注入口の一方から窒素ガスを流し、もう一方から容器内のガスを排気するようにして、10分間放置した。その後に、窒素注入を中止して、密栓した。この状態で、容器を140℃のオイルバスにつけて放置した。
ここで、フラーレン分散体に溶存する酸素濃度を次の手順で測定した。
まず、あらかじめ、n-ドデカン(和光純薬工業株式会社製)100mLを250mLビーカーに取り出し、ここに10分間空気でバブリングした。
次に、溶存酸素計(製品名:B-506、飯島電子工業株式会社製)を用いてこの溶液の酸素濃度を基準(飽和度100%)に設定した。
次に、上記ステンレス容器内のフラーレン分散体の飽和酸素濃度を測定した。その結果、窒素ガスを流す前は、飽和酸素濃度は150%、流した後は7%であった。
次に、ドデカンの空気中での飽和酸素濃度を73質量ppmとし、この数値と先の150%及び7%とから、フラーレン分散体の溶存酸素濃度を110質量ppmと5ppmとそれぞれ算出した。
反応容器内のフラーレン分散体は、2時間おきに0.1mLを抜き取り、これに含まれるC60とC70の量をHPLCにより定量し、C60が60ppm、C70が20ppmにまで減少した時点でオイルバスの温度を100℃に下げた。
フラーレン分散体には、熱処理前にC60が600質量ppm、C70が250質量ppm含まれ、熱処理後にC60が60質量ppm、C70が20質量ppmに減少した。これは加熱によりエポキシ樹脂の一部が開裂し、これがフラーレンに付加したためにフラーレンの量が1/10以下に減少したと推定される。
【0066】
第四工程として、後に、容器のガス注入口の一方に真空ポンプを接続して、容器内部を減圧状態にした。この状態で1時間放置したことで、容器内部のトルエン等の揮発性成分を除去した。容器内部から高粘性の液体を取り出し、樹脂添加剤組成物を得た。得られた樹脂添加剤組成物の質量は、10gであり、有機溶剤のトルエンが除去された状態であった。
【0067】
(樹脂組成物の作製)
前記樹脂添加剤組成物と、媒体Bとして、エポキシ樹脂の硬化剤であるHN-2200(日立化成株式会社製)8g、及び開始硬化促進剤である1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)1gを混合した。本実施例の樹脂組成物が得られた。
本実施例の樹脂組成物を1mm厚のシートが作製できる枠に流し入れて、大気雰囲気で70℃、12時間の加熱をし、硬化させて、シート状の樹脂組成物の硬化物を作製した。
【0068】
(耐電圧の評価)
絶縁破壊試験装置YST-243-100RH0(ヤマヨ試験器株式会社製)を用い、JIS C2110-1に準拠し、20秒段階法で耐電圧を測定した。
まず、シートを室温のシリコン油浴中に入れて、シートの厚み方向から上下に直径25mmの電極で挟みだ。次に、所定の電圧で20秒間絶縁破壊されなければ、昇圧ステップを繰り返し、絶縁破壊される前の電圧に設定した電圧を耐電圧とした。なお、20kVまでは1kVずつ昇圧し、20kV以降は2kVずつ昇圧した。
得られた耐電圧を表1に示す。
【0069】
(耐熱性の評価)
シートの耐熱性は、熱天秤(島津製作所株式会社製、DTG-60A)を用いて、熱重量変化法により測定した。
まず、シートから0.5ミリメートル角の樹脂片を切り出し天秤上に置いた。次に、天秤を室温から500℃までに毎分10℃で温度を高めていき、その時の樹脂片の重量変化を測定した。樹脂片は加熱により、空気中の酸素で燃焼することで、重量が減少した。樹脂の重量が10%低下した時点の温度を耐熱温度とした。
得られた耐熱温度を表1に示す。
【0070】
(機械強度の評価)
シートの強度は、引っ張り試験装置(エー・アンド・ティー株式会社製、RTF-1210)を用いて、引っ張り試験法により測定した。
まず、シートから幅10ミリメートル、長さ100ミリメートルの樹脂片を切り出し、これを引っ張り試験装置にセットした。次に、毎分1ミリメートルで引っ張り、樹脂片が破断するまでの間、引っ張り強度を測定した。引っ張り強度の最大値を引っ張り強度とした。
得られた引っ張り強度を表1に示す。
【0071】
(表面平滑性の評価)
シートの表面平滑性は、表面粗さ計(ブルカー株式会社製、DektakXT)を用いて、算術平均高さ(Ra)により測定した。
まず、シートから幅10ミリメートル、長さ10ミリメートルの樹脂片を切り出し、これを表面粗さ計にセットした。次に、5mmの長さを測定し、算術平均高さ(Ra)を算出した。
得られた表面平滑性を表1に示す。
【0072】
(HPLCによるフラーレン定量方法)
フラーレンの濃度の測定は、以下の測定条件において、高速液体クロマトグラフを用い、樹脂添加組成物に含まれるフラーレンの量を定量した。
装置:アジレント・テクノロジー株式会社製 1200シリーズ
カラム:株式会社ワイエムシィ製カラム YMC-Pack ODS-AM(150mm×4.6)
展開溶媒:トルエンとメタノールの1:1(体積比)混合物
検出:吸光度(波長309nm)。
【0073】
[実施例2]
実施例1で、フラーレン分散体を熱処理する工程で窒素ガスを流す工程を省いた以外は実施例1の操作で樹脂添加組成物を作製した。得られた樹脂添加組成物を用いて、実施例1と同様な方法で樹脂組成物を作製し、シート状樹脂組成物の硬化物を作成した。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
【0074】
[比較例1]
比較サンプルとして、フラーレン分散体を熱処理する工程を省いた以外は実施例1の操作で樹脂添加組成物を作製した。得られた樹脂添加組成物を用いて、実施例1と同様な方法で樹脂組成物を作製し、シート状樹脂組成物の硬化物を作成した。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
表1の結果から、実施例1及び実施例2と、比較例1とを比較した。、実施例1及び実施例2で作製した樹脂組成物は、比較例1で作製した樹脂組成物より、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。実施例1及び実施例2において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工した後に、樹脂組成物を作製とした。これに対して、比較例1において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工することなく、樹脂組成物を作製した。
実施例2を実施例1と比較すると、熱処理時に窒素雰囲気とすることにより、窒素雰囲気とすることなく作製した樹脂組成物より、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。
実施例1及び実施例2の樹脂添加組成物には、媒体Aに含まれるエポキシモノマー分子が加熱により開裂し、これがフラーレンに付加したために、フラーレンがエポキシ樹脂に親和性が高まった結果、樹脂組成物のフラーレン溶解性が向上したためと考えられる。
【0075】
[実施例3]
実施例1で、媒体Aをポリオキシエチレン(ユニスターMB-881、日油株式会社製)20gとし、トルエンを添加せずに樹脂添加組成物を得たこと;第四工程(揮発分=トルエンの除去)を行わなかったこと;及び、媒体Bとして、エポキシ樹脂B(三菱化学株式会社製、JER828)100g、硬化剤としてHN-2200(日立化成株式会社製)100g、及び開始硬化促進剤である1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール(和光純薬工業株式会社製)10gを混合した物を用いること以外は、実施例1で示した方法で、樹脂組成物及びそのシート状硬化物を得た。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
【0076】
[比較例2]
比較サンプルとして、フラーレン分散体を熱処理する工程を省いた以外は実施例2の操作で樹脂添加組成物を作製した。得られた樹脂添加組成物を用いて、実施例1と同様な方法で樹脂組成物を作製し、シート状樹脂組成物の硬化物を作成した。得られたシートの耐電圧、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
表1の結果から、実施例3と比較例2とを比較すると、実施例3で作製した樹脂組成物は、比較例2で作製した樹脂組成物より、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。実施例3において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工した後に、樹脂組成物を作製した。これに対して、比較例2において、ラーレンを樹脂添加剤組成物に加工することなく、樹脂組成物を作製した。
実施例3の樹脂添加組成物には、媒体Aに含まれるポリオキシエチレン分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、これがフラーレンに付加したために、フラーレンがエポキシ樹脂に親和性が高まった結果、樹脂組成物のフラーレン溶解性が向上したためと考えられる。
【0077】
[実施例4]
実施例1で、媒体Aをエポキシ樹脂C(共栄社化学株式会社製、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エポライト1500NP)5gと溶剤としてキシレン45gを用いて樹脂添加組成物を得たこと;および、媒体Bとして、エポキシ樹脂Cの量を5gとしたこと以外は、実施例1で示した方法で、樹脂組成物及びそのシート状硬化物を得た。樹脂組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
【0078】
[比較例3]
比較サンプルとして、フラーレン分散体を熱処理する工程を省いた以外は実施例3の操作で樹脂組成物及びそのシート状硬化物を作製した。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
表1の結果から、実施例4と比較例3とを比較すると、実施例4で作製した樹脂組成物は、比較例3で作製した樹脂組成物より、耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。実施例4において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工した後に、樹脂組成物を作製した。これに対して、比較例3において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工することなく、樹脂組成物を作製した。
実施例4の樹脂添加組成物には、媒体Aに含まれるネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、これがフラーレンに付加した。そのために、フラーレンがエポキシ樹脂に親和性が高まった。その結果、樹脂組成物のフラーレンの溶解性が向上したためと考えられる。
【0079】
[実施例5]
(熱可塑性樹脂)
媒体Aをポリメタクリル酸メチル(東京化成株式会社製)75gとパラジクロロベンゼン(東京化成株式会社製)25gとしたことを除き、実施例1の操作で樹脂添加組成物を得た。
樹脂組成物の作製は、前記樹脂添加組成物を取り出し、媒体Bとして、ポリメタクリル酸メチル(東京化成株式会社製)350gとを、二軸押出装置(株式会社東洋精機製作所製、ラボプラストミル4C150)を用いて混練した。混練条件は、小型二軸セグメント押出機(型式:2D15W)を用い、噛合型同方向回転、L/D=17(Dはスクリュー径、Lはスクリュー長さ、D=15mm)とし、140℃で混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を厚さ1mmのシート状に成型し、シート状硬化物を得た。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
【0080】
[比較例4]
比較サンプルとして、フラーレン分散体を熱処理する工程を省いた以外は実施例5の操作で樹脂組成物及びそのシート状硬化物を作製した。得られたシートの耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
表1の結果から、実施例5と比較例4とを比較すると、実施例5で作製した樹脂組成物は、比較例4で作製した樹脂組成物より、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。また、耐熱性はわずかに向上した。実施例5において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工した後に、樹脂組成物を作製した。これに対して、比較例4において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工することなく、樹脂組成物を作製した。 実施例5の樹脂添加組成物については、以下のことが考えられる。媒体Aに含まれるポリメタクリル酸メチル分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、これがフラーレンに付加した。そのために、フラーレンがメタクリル酸メチル樹脂に親和性が高まった。その結果、樹脂組成物のフラーレン溶解性が向上した。
【0081】
[実施例6]
(熱可塑性樹脂)
実施例5で、媒体Aをトリメチルベンゼン(東京化成株式会社製)10gとし、パラジクロロベンゼンを用いずに樹脂添加組成物を得たこと;および、媒体Bとして、樹脂添加剤組成物とポリメタクリル酸メチル(東京化成株式会社製)25gとしたこと以外は、実施例5で示した方法で、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
【0082】
[比較例5]
比較サンプルとして、フラーレン分散体を熱処理する工程を省いた以外は実施例6の操作で樹脂添加剤を作製した。得られた樹脂組成物の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性を表1に示す。
表1の結果から、実施例6と比較例5とを比較すると、実施例6で作製した樹脂組成物は、比較例5で作製した樹脂組成物より、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上した。また、耐熱性はわずかに向上した。実施例6において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工した後に、樹脂組成物を作製した。これに対して、比較例5において、フラーレンを樹脂添加剤組成物に加工することなく、樹脂組成物を作製した。
実施例6の樹脂添加組成物には、媒体Aに含まれるトリメチルベンゼン分子を構成する化学結合が徐々に開裂し、これがフラーレンに付加した。そのために、フラーレンがメタクリル酸メチル樹脂に親和性が高まった。その結果、樹脂組成物のフラーレン溶解性が向上したためと考えられる。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、媒体Aとフラーレンとを含み、熱処理されてなるフラーレン含有樹脂添加組成物により、樹脂の耐熱性、表面平滑性、力学特性、及び耐電圧性が向上することができる。