(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20241112BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20241112BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241112BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241112BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20241112BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20241112BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20241112BHJP
【FI】
B23K9/04 Z
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K31/00 K
B33Y10/00
B29C64/393
B29C64/118
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2021000993
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6765569(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/032
B23K 31/00
B33Y 10/00
B29C 64/393
B29C 64/118
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状から求めた前記溶着ビードの形状及び前記溶着ビードを形成するための前記トーチの軌道を定めた積層計画に基づいて、前記トーチを
始端から終端へ向かって移動させて前記溶着ビードを積層させる造形工程を含み、
前記造形工程において、
前記溶着ビードを積層させる際の前記トーチの移動予定位置における下地の高さを形状センサによって計測して計測高さを取得する下地計測処理と、
前記積層計画から前記トーチの移動予定位置における下地の計画高さを求め、前記下地計測処理で取得した前記計測高さと前記計画高さとを比較して差分高さを求め、前記差分高さを小さくするフィードバック補正における溶接条件を設定する溶接条件設定処理と、
予め
溶着ビードを積層する場所の形状特性に対応して設定しておいた複数の補正割合から選択し、選択した補正割合に基づいて前記溶接条件における補正割合を更新させる補正割合更新処理と、
を実行する
とともに、
前記トーチの移動予定位置が、前記溶着ビードを積層させる始端領域である場合は、溶接速度を変更させるために前記形状特性毎に設定された複数の補正割合から、前記始端領域の形状特性に対応した補正割合を選択して溶接条件を更新し、
前記トーチの移動予定位置が、前記溶着ビードを積層させる終端領域である場合は、前記複数の補正割合から、前記終端領域の形状特性に対応した補正割合を選択して溶接条件を更新し、
前記トーチの移動予定位置が、前記始端領域と前記終端領域との間の中間領域である場合は、前記補正割合を選択せず設定された溶接条件を維持する、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記
溶着ビードを屈曲させて積層させる際の屈曲部、前記溶着ビードを十字状に交差させて積層させる際の交差部の少なくともいずれかを、トーチの移動予定位置としての指定位置とし、前記指定位置に対応した前記補正割合を予め設定しておく、
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記複数の補正割合は、前記積層計画に基づいて指定した位置の形状特性に応じて予め設定されている、
請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記補正割合更新処理は、前記形状センサの計測結果から下地プロファイルを求め、前記下地プロファイルと前記積層計画から求めた目標プロファイルとから、前記トーチの移動予定位置の形状特性を求め、この形状特性に応じて、予め設定しておいた複数の前記補正割合から選択し、選択した補正割合に基づいて前記溶接条件における補正割合の更新を行う、
請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このような造形物を溶接で造形する技術として、特許文献1には、形成済みの造形物の高さを計測部によって計測し、計測位置に新たに積層するときの加工条件を計測結果に応じてフィードバック制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビードを積層して造形物を造形する際のフィードバック制御において、下地部分の高さのずれが局所的に想定よりも大きい場合、通常のフィードバック制御では加工条件の補正が間に合わず、安定してビードを積層することが困難となる場合がある。例えば、ビードの始端部分や終端部分では、下層のビードの高さのずれが大きくなる傾向があるため、通常のフィードバック制御での対応が困難となる。
【0006】
そこで本発明は、フィードバック制御を適切に行うことにより、溶着ビードを常に安定的に形成して良好な造形物を造形することが可能な積層造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状から求めた前記溶着ビードの形状及び前記溶着ビードを形成するための前記トーチの軌道を定めた積層計画に基づいて、前記トーチを移動させて前記溶着ビードを積層させる造形工程を含み、
前記造形工程において、
前記溶着ビードを積層させる際の前記トーチの移動予定位置における下地の高さを形状センサによって計測して計測高さを取得する下地計測処理と、
前記積層計画から前記トーチの移動予定位置における下地の計画高さを求め、前記下地計測処理で取得した前記計測高さと前記計画高さとを比較して差分高さを求め、前記差分高さを小さくするフィードバック補正における溶接条件を設定する溶接条件設定処理と、
予め設定しておいた複数の補正割合から選択し、選択した補正割合に基づいて前記溶接条件における補正割合を更新させる補正割合更新処理と、
を実行する、
積層造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、フィードバック制御を適切に行うことにより、溶着ビードを常に安定的に形成して良好な造形物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の製造方法で積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
【
図2】溶着ビードを積層させた壁部を示す図であって、(A)及び(B)はそれぞれ概略側面図である。
【
図3】溶着ビードを積層させて壁部を造形する造形工程を示す図であって、(A)~(E)は、それぞれ壁部の概略側面図である。
【
図4】溶接条件における補正割合を示すグラフである。
【
図5】溶着ビードの形状を示す図であって、(A)は屈曲部を有する溶着ビードの概略平面図、(B)は交差部を有する溶着ビードの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の製造方法で積層造形物を製造する製造システム100-の模式的な概略構成図である。
本構成の積層造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。
【0011】
溶接ロボット11は、多関節ロボットであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。この溶接ロボット11の先端軸には、トーチ23とともに形状センサ25が設けられている。
【0012】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0013】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート27上に溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビード29が形成される。
【0014】
ベースプレート27は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。このベースプレート27は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0015】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0016】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0017】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0018】
形状センサ25は、トーチ23に並設されており、トーチ23とともに移動される。この形状センサ25は、溶着ビードBを形成する際の下地となる部分の形状を計測するセンサである。この形状センサ25としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサが用いられる。なお、形状センサ25としては、3次元形状計測用カメラを用いてもよい。
【0019】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0020】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。これにより、駆動プログラムに応じてトーチ23を移動させ、作成した積層計画に基づいてベースプレート27上に複数層の溶着ビード29を積層することで、多層構造の積層造形物Wが造形される。また、制御部21には、データベース17が接続されている。このデータベース17には、フィードバック補正時の溶接条件における複数の補正割合のデータが予め格納されている。
【0021】
次に、製造システム100によって積層造形物Wを製造する場合について説明する。
図2は、ベースプレート27上に線状の溶着ビード29を積層させて壁部Woを造形した積層造形物の概略側面図である。
図3は、溶着ビード29を積層させて壁部Woを造形する造形工程を示す工程図である。
【0022】
図2の(A)に示すように、この壁部Woを造形する場合、一端(
図2の(A)における左端)側を始端とし、この始端からトーチ23を移動させて溶着ビード29の形成を開始し、トーチ23を他端(
図2の(A)における右端)側の終端まで移動させて溶着ビード29の形成を終了する。そして、この線状の溶着ビード29の形成を繰り返し、複数の線状の溶着ビード29が積層された壁部Woを造形する。このとき、制御部21は、トーチ23に並設されている形状センサ25によって下地の形状を計測し、その計測結果に基づいて溶接条件を補正するフィードバック補正を行う。
【0023】
ところで、
図2の(B)に示すように、トーチ23を始端から終端へ向かって移動させて溶着ビード29を形成する場合、溶着ビード29の始端部分と終端部分との間の中間部分では、トーチ23による溶着ビード29の形成が安定する。したがって、中間領域Amでは、積層計画に基づいた目標形状に沿った凹凸の少ない形状に造形することが可能である。これにより、この安定した厚さに形成することが可能な中間領域Amでは、通常のフィードバック補正で対応することが可能である。
【0024】
これに対して、始端領域As及び終端領域Aeでは、形成される溶着ビード29の厚さが不安定となる傾向がある。具体的には、始端領域Asでは溶着ビード29の厚さが厚くなって膨らむ傾向があり、終端領域Aeでは溶着ビード29の厚さが薄くなって垂れ下がる傾向がある。したがって、厚さが不安定となる始端領域As及び終端領域Aeでは、通常のフィードバック補正では、補正が間に合わないおそれがある。
【0025】
この場合、始端領域As及び終端領域Aeに対応させるために、フィードバック補正における溶接条件の補正割合を大きくすればよいが、溶着ビード29を安定的に形成可能な中間領域Amでは、急激な補正によってかえって大きな凹凸が生じてしまう。
【0026】
このため、本実施形態に係る製造方法では、溶着ビード29を積層させる造形工程において、下記のフィードバック補正を行う。
【0027】
(下地計測処理)
溶着ビード29を積層させる際のトーチ23の移動予定位置における下地の高さを形状センサ25によって計測する。そして、この形状センサ25によって計測した下地の高さである計測高さHrを取得する。
【0028】
(溶接条件設定処理)
積層計画からトーチ23の移動予定位置における下地の計画高さHpを求め、下地計測処理で取得した計測高さHrと計画高さHpとを比較して差分高さΔH(ΔH=Hr-Hp)を求め、差分高さΔHを小さくするように溶接条件を設定する。
【0029】
(補正割合更新処理)
トーチ23の移動予定位置の形状特性に応じて、予め設定しておいた複数の補正割合から選択する。この複数の補正割合は、例えば、実験等によって、様々な形状特性に対して安定して溶着ビード29を形成するために予め割り出したもので、データベース17に格納されている。そして、選択した補正割合に基づいて、溶接条件における補正割合(例えば、差分高さΔHに対する溶接速度の増減の割合)を更新させる。例えば、壁部Woを造形する際の始端領域Asや終端領域Aeなどの厚さが不安定となる部分では、これらの部分の形状特性に対応した補正割合をデータベース17から選択して引き出し、溶接条件の補正割合を選択した補正割合に更新させる。なお、この補正割合更新処理において、トーチ23の移動予定位置が、溶接条件の補正割合の更新が必要でない形状特性である場合は、補正割合を選択せず、溶接条件設定処理で設定した溶接条件における補正割合を維持する。例えば、壁部Woを造形する際の中間領域Amなどの厚さが安定した部分では、溶接条件設定処理で設定した溶接条件における補正割合を維持する。
【0030】
次に、壁部Woを造形する際の造形工程におけるフィードバック補正の例について説明する。
図4は、溶接条件における補正割合を示すグラフである。
図5は、溶着ビード29の形状を示す概略平面図である。
【0031】
(始端領域As)
図3の(A)に示すように、トーチ23に並設されている形状センサ25を、既に溶着ビード29を積層させた造形体WAの下地Uにおける始端部分に配置させ、形状センサ25及びトーチ23を造形体WAに沿って移動させる。そして、造形体WAにおける下地Uの始端領域Asの高さを形状センサ25によって計測し、計測高さHrを取得する(下地計測処理)。
【0032】
制御部21は、積層計画から下地Uの計画高さHpを求め、形状センサ25によって取得した計測高さHrと計画高さHpとを比較する。そして、計測高さHrと計画高さHpと差分高さΔH(ΔH=Hr-Hp)を求め、差分高さΔHを小さくするように溶接条件を設定する(溶接条件設定処理)。
【0033】
ここで、
図4は、フィードバック補正における差分高さΔHと溶接速度との補正割合を示すもので、制御部21は、例えば、通常のフィードバック補正時の補正割合Fa(
図4における実線)の溶接条件に設定する。
【0034】
次に、制御部21は、溶接条件における補正割合を更新する補正割合更新処理を行う。具体的には、始端領域Asが高さの変化量の大きい形状特性の領域であることから、データベース17に格納されている形状特性毎に設定された複数の補正割合から、始端領域Asの形状特性に対応した補正割合Fb(
図4における点線)を選択する。そして、溶接条件における補正割合Faを、選択した補正割合Fbに更新させる。この補正割合Fbは、補正割合Faよりも差分高さΔHに対して溶接速度の変化割合が大きいもので、この補正割合Fbに更新することにより、フィードバック補正における差分高さΔHに対して溶接速度を迅速に変更させることが可能となる。
【0035】
図3の(B)に示すように、形状センサ25及びトーチ23を造形体WAに沿って終端側へ向かって移動させ、トーチ23によって下地Uにおける始端領域Asへ溶着ビード29を積層させる。このとき、差分高さΔHに対して迅速に溶接速度を変更させることが可能な補正割合Fbによってフィードバック補正される。したがって、大きな差分高さΔHの形状変化に対して、トーチ23によって形成する溶着ビード29の高さを迅速に補正させることができる。
【0036】
(中間領域Am)
トーチ23による始端領域Asへの溶着ビード29の形成時に、トーチ23に並設されている形状センサ25が下地Uの中間領域Amの高さを引き続き計測する(下地計測処理)。そして、計測高さHrと計画高さHpとを比較し、差分高さΔH(ΔH=Hr-Hp)を求め、差分高さΔHを小さくするように、例えば、通常のフィードバック補正時の補正割合Fa(
図4における実線)の溶接条件に設定する(溶接条件設定処理)。
【0037】
次に、制御部21は、溶接条件における補正割合を更新する補正割合更新処理を行う。ここで、中間領域Amは、高さの変化量が比較的小さい安定した形状特性の領域であることから、制御部21は、補正割合更新処理において、データベース17から補正割合を選択せず、溶接条件設定処理で設定した溶接条件における補正割合Fa(
図4における実線)を維持させる。
【0038】
図3の(C)に示すように、形状センサ25及びトーチ23を造形体WAに沿って終端側へ向かって移動させ、トーチ23によって下地Uにおける中間領域Amに溶着ビード29を積層させる。このとき、差分高さΔHに対して緩やかに溶接速度を変更させる補正割合Faによってフィードバック補正される。したがって、小さな差分高さΔHの形状変化に対して、トーチ23によって形成する溶着ビード29の高さを円滑に補正させることができる。
【0039】
(終端領域Ae)
図3の(D)に示すように、形状センサ25が造形体WAの下地Uにおける終端領域Aeに達したら、終端領域Aeの高さを形状センサ25によって計測し、計測高さHrを取得する(下地計測処理)。そして、計測高さHrと積層計画から下地Uの計画高さHpとを比較し、差分高さΔH(ΔH=Hr-Hp)を求め、差分高さΔHを小さくするように、補正割合Fa(
図4における実線)の溶接条件に設定する(溶接条件設定処理)。
【0040】
次に、制御部21は、溶接条件における補正割合を更新する補正割合更新処理を行う。具体的には、制御部21は、終端領域Aeが高さの変化量の大きい形状特性の領域であることから、データベース17に格納されている形状特性毎に設定された複数の補正割合から、終端領域Aeの形状特性に対応した補正割合Fb(
図4における点線)を選択し、溶接条件における補正割合Faを、選択した補正割合Fbに更新させる。ここでは、終端領域Aeの形状特性に対応した補正割合を、始端領域Asの形状特性に対応した補正割合Fbとしている。なお、始端領域As及び終端領域Aeの形状特性に対応した補正割合は、それぞれ異なるものでもよい。
【0041】
図3の(E)に示すように、終端領域Aeに到達したトーチ23によって終端領域Aeへ溶着ビード29を積層させる。このとき、差分高さΔHに対して迅速に溶接速度を変更させることが可能な補正割合Fbによってフィードバック補正される。したがって、大きな差分高さΔHの形状変化に対して、トーチ23によって形成する溶着ビード29の高さを迅速に補正させることができる。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態に係る積層造形物の製造方法によれば、積層計画に基づく計画高さHpと実際に計測した計測高さHrとの差分高さΔHを小さくするフィードバック補正における溶接条件の補正割合を、予め設定して用意しておいた複数の補正割合から選択した補正割合に更新する。これにより、様々な高さのずれのケースに対して適切に選択した補正割合でフィードバック補正して安定的に溶着ビード29を形成することができる。
【0043】
例えば、平均的かつ緩やかな高さずれの位置においては、補正割合を小さく設定し、局所的かつ大きい高さずれに対しては補正割合を大きく設定することにより、溶着ビード29の造形部位の形状特性に応じて適切な制御モードで安定的に溶着ビード29を形成することができる。
【0044】
なお、補正割合は、形状特性に対応して予め複数設定する場合に限らない。複数の補正割合は、積層計画に基づいて指定した位置に応じて予め設定してもよい。この指定位置としては、例えば、枠部、枠部内の充填部、枠部の隅部、オーバーハング部などにおける局所的に変動しやすい位置などがある。
【0045】
例えば、
図5の(A)に示すように、溶着ビード29を屈曲させて積層させる際の屈曲部51や、
図5の(B)に示すように、溶着ビード29を十字状に交差させて積層させる際の交差部53などでは、溶着ビード29の積層高さが局所的に変動しやすい傾向がある。したがって、これらの屈曲部51や交差部53を指定位置とし、この指定位置に対応した補正割合を設定しておく。そして、溶着ビード29を形成する際に、屈曲部51や交差部53からなる指定位置において、指定位置に対応した補正割合を選択し、フィードバック補正の溶接条件における補正割合を選択した補正割合に更新する。これにより、屈曲部51や交差部53などの指定位置での急激な高さ変動に対応させながら溶着ビード29を形成することができる。
【0046】
また、トーチ23の移動方向前方側の形状センサ25の計測結果から下地プロファイルを求め、この下地プロファイルと積層計画から求めた目標プロファイルとから、トーチ23の移動予定位置の形状特性をリアルタイムで求めてもよい。そして、補正割合更新処理において、予め設定しておいた複数の補正割合から造形中に求めた形状特性に応じたものを選択し、選択した補正割合に基づいて溶接条件における補正割合の更新を行ってもよい。
【0047】
このようにすれば、溶着ビード29を形成する際に、リアルタイムで下地の形状をセンシングしながら、予期しない大きな高さずれや局所的な凹凸に対しても適切な制御モードで安定的に溶着ビード29を形成することができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、差分高さΔHに対して溶接速度の補正割合をフィードバック補正におけるパラメータとしたが、差分高さΔHに対する補正割合のパラメータとしては、溶接速度に限らず、溶加材Mの送給速度やアークを発生させるための入熱量でもよい。
【0049】
例えば、溶加材Mの送給速度をパラメータとした場合では、送給速度を増加させることで溶着ビード29の形成高さを高くすることができ、送給速度を減少させることで溶着ビード29の形成高さを低くすることができる。また、入熱量をパラメータとした場合では、入熱量を増加させることで溶着ビード29の形成高さを低くすることができ、入熱量を減少させることで溶着ビード29の形成高さを高くすることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、形状センサ25をトーチ23に並設させた場合を例示したが、形状センサ25は、必ずしもトーチ23に並設されていなくてもよい。例えば、溶接ロボット11とは別に形状センサ25を移動させるロボットを備え、このロボットによって、溶着ビード29を形成するトーチ23の移動方向の前方側の下地の形状を計測させてもよい。
【0051】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) トーチを移動させながら、前記トーチによって溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状から求めた前記溶着ビードの形状及び前記溶着ビードを形成するための前記トーチの軌道を定めた積層計画に基づいて、前記トーチを移動させて前記溶着ビードを積層させる造形工程を含み、
前記造形工程において、
前記溶着ビードを積層させる際の前記トーチの移動予定位置における下地の高さを形状センサによって計測して計測高さを取得する下地計測処理と、
前記積層計画から前記トーチの移動予定位置における下地の計画高さを求め、前記下地計測処理で取得した前記計測高さと前記計画高さとを比較して差分高さを求め、前記差分高さを小さくするフィードバック補正における溶接条件を設定する溶接条件設定処理と、
予め設定しておいた複数の補正割合から選択し、選択した補正割合に基づいて前記溶接条件における補正割合を更新させる補正割合更新処理と、
を実行する、積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、積層計画に基づく計画高さと実際に計測した計測高さとの差分高さを小さくするフィードバック補正における溶接条件の補正割合を、予め設定して用意しておいた複数の補正割合から選択した補正割合に更新する。これにより、様々な高さのずれのケースに対して適切に選択した補正割合でフィードバック補正して安定的に溶着ビードを形成することができる。
【0053】
(2) 前記複数の補正割合は、前記溶着ビードを積層する場所の形状特性に対応して設定されている、(1)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、例えば、平均的かつ緩やかな高さずれの位置においては、補正割合を小さく設定し、局所的かつ大きい高さずれに対しては補正割合を大きく設定することにより、溶着ビードの造形部位の形状特性に応じて適切な制御モードで安定的に溶着ビードを形成することができる。
【0054】
(3) 前記複数の補正割合は、前記積層計画に基づいて指定した位置の形状特性に応じて予め設定されている、(2)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、積層計画に基づいて予め把握できる位置に応じて適切な制御モードで安定的に溶着ビードを形成することができる。
【0055】
(4) 前記補正割合更新処理は、前記形状センサの計測結果から下地プロファイルを求め、前記下地プロファイルと前記積層計画から求めた目標プロファイルとから、前記トーチの移動予定位置の形状特性を求め、この形状特性に応じて、予め設定しておいた複数の前記補正割合から選択し、選択した補正割合に基づいて前記溶接条件における補正割合の更新を行う、(2)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、下地プロファイルと目標プロファイルとからトーチの移動予定位置の形状特性をリアルタイムで求め、この形状特性に応じて補正割合を選択する。つまり、リアルタイムで下地の形状をセンシングしながら、予期しない大きな高さずれや局所的な凹凸に対しても適切な制御モードで安定的に溶着ビードを形成することができる。
【符号の説明】
【0056】
23 トーチ
29 溶着ビード
25 形状センサ
Fa,Fb 補正割合
ΔH 差分高さ
M 溶加材
U 下地
W 積層造形物