(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸系共重合体
(51)【国際特許分類】
C02F 5/10 20230101AFI20241112BHJP
C08F 216/14 20060101ALI20241112BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C02F5/10 620D
C02F5/10 620G
C02F5/10 620B
C08F216/14
C08F220/06
(21)【出願番号】P 2021010853
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】張替 尊子
(72)【発明者】
【氏名】池内 義貴
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025160(JP,A)
【文献】特開2014-047352(JP,A)
【文献】特開2016-065147(JP,A)
【文献】特開2013-212435(JP,A)
【文献】特開2016-216745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/06
C08F 228/00-228/02
C08F 216/00-216/38
C02F 5/00- 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位と、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位とを含む共重合体であって、
該スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位は一般式(1)で表され、
全単量体由来の構造100モル%に対して、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位が13モル%以上であり、共重合体の少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有し、重量平均分子量が28000以上56000以下である
(メタ)アクリル酸系共重合体
を含むシリカスケール防止剤。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但しX、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す。
)アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)
【請求項2】
前記スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位が3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸もしくはその塩に由来する構造単位である、請求項1
に記載のシリカスケール防止剤。
【請求項3】
前記共重合体は、全単量体由来の構造100モル%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位が50モル%以上、87モル%以下である、請求項1又は2に記載のシリカスケール防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸系共重合体に関する。より詳しくは、シリカスケールなどのスケールの抑制に用いられる(メタ)アクリル酸系共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、地熱発電や、工業用冷却水、海水の淡水処理化等において、炭酸カルシウムやシリカなどのスケールの発生が問題になる。
例えば特許文献1に記載のスルホン酸基含有単量体由来の構造単位が2モル%以上、9モル%以下であり、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位が91モル%以上98モル%以下であり、少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有し重量平均分子量が7000から100000である共重合体はカルシウムイオン補足能、炭酸カルシウム分散性に優れ、炭酸カルシウムスケール防止剤として好適に用いることが出来ることが開示されている。
例えば、特許文献2に記載のスルホン酸基含有単量体由来の構造単位が5モル%以上、22モル%以下であり、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位が78モル%以上95モル%以下であり、少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有し重量平均分子量が13000から50000である共重合体は耐ゲル性優れ、高いカルシウムイオンのキレート能を有することから、スケール防止剤などの水処理剤として好適に用いることが出来ることが開示されている。
例えば、特許文献3に記載のスルホン酸基含有単量体由来の構造単位が16モル%以上、24モル%以下であり、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位が76モル%以上84モル%以下であり、を含み、少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有し重量平均分子量が1000から18000である共重合体は耐ゲル性優れ、高いカルシウムイオンのキレート能を有することから、スケール防止剤などの水処理剤として好適に用いることが出来ることが開示されている。
例えば、特許文献4に記載の共重合体は、疎水粒子の分散性を向上させ、また、カルシウムイオンへの優れたキレート能を発揮するため、地熱発電装置の配管や装置内部に対して極めて良好なスケール防止能を発揮することが可能となることから、地熱発電装置用スケール防止剤として好適に用いることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2014/054707号公報
【文献】特開2012-188586号公報
【文献】国際公開2013/147171号公報
【文献】特開2016-064382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおりスケール防止剤などの水処理剤が提案されているが、シリカスケールの抑制能をさらに向上させる要望があり、また、入手が容易である汎用の単量体を用いて製造する重合体による、様々な水処理用途でのシリカスケール防止に適用可能であるシリカスケール防止剤が望まれていた。本発明は、シリカスケールの抑制能に優れることから、例えばシリカスケールの防止剤として好適に使用することが可能な(メタ)アクリル酸系共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち本開示の(メタ)アクリル酸系共重合体は、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位と、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位とを含む共重合体であり、全単量体由来の構造100モル%に対してスルホン酸(塩)基含有単量体が13モル%以上であり、該共重合体の重量平均分子量が28000以上、56000以下であり、共重合体の少なくとも一つの主鎖末端がスルホン酸(塩)基である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の(メタ)アクリル酸系共重合体は、シリカ成分などのスケール析出に対し、良好な抑制能を発現する。よって、本開示の(メタ)アクリル酸系共重合体は、シリカスケールなどのスケール抑制に用いる水処理剤や、スケール防止剤として好ましく使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
[本開示の(メタ)アクリル酸系共重合体]
本開示の(メタ)アクリル酸系共重合体は、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位と、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位含み、全単量体由来の構造100モル%に対してスルホン酸(塩)基含有単量体が13モル%以上であり、該共重合体の重量平均分子量が28000以上、56000以下であり、共重合体の少なくとも一つの主鎖末端がスルホン酸(塩)基である。なお、上記共重合体を、本開示の共重合体と呼ぶことがある。
【0009】
<(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位>
本開示において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらの塩をいう。
上記塩としては、特に制限はないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、アンモニウム塩などが例示される。
本開示において、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位とは、(メタ)アクリル酸(塩)の炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造単位を表す。例えば、アクリル酸、CH2=CH(COOH)、であれば、アクリル酸由来の構造単位は、-CH2-CH(COOH)-、で表すことができる。(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位は、例えば、(メタ)アクリル酸(塩)をラジカル重合することにより形成することができる。なお、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位は、(メタ)アクリル酸(塩)の炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造と同じ構造であればよく、(メタ)アクリル酸(塩)が重合することにより形成された構造単位に限定されず、例えば重合後の後反応により形成された構造単位であってもよい。
【0010】
本開示の共重合体における、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位の含有量は、本開示の共重合体を構成するすべての単量体に由来する構造単位100モル%に対し、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。また、好ましくは87モル%以下、より好ましくは86モル%以下、さらに好ましくは82モル%以下である。なお、上記(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位の含有量は、(メタ)アクリル酸換算で算出する。(メタ)アクリル酸換算とは、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位が(メタ)アクリル酸塩由来の構造単位である場合でも、(メタ)アクリル酸として質量計算することをいう。上記範囲であることにより、本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤のシリカスケール抑制能が向上する傾向にある。
【0011】
<スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位>
本開示において、スルホン酸(塩)基含有単量体とは、少なくとも1つの炭素炭素二重結合と、スルホン酸(塩)基とを含む化合物をいう。上記少なくとも1つの炭素炭素二重結合は、通常はラジカル重合性を有する。
上記塩としては、特に制限はないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、アンモニウム塩などが例示される。
本開示において、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位とは、スルホン酸(塩)基含有単量体の少なくとも一つの炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造単位を表す。なお、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位は、スルホン酸(塩)基含有単量体の少なくとも1つの炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造と同じ構造であればよく、スルホン酸(塩)基含有単量体が重合することにより形成された構造単位に限定されず、例えば重合後の後反応により形成された構造単位であってもよい。
スルホン酸(塩)基含有単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩、(メタ)アリルスルホン酸及びその塩、3-(メタ)アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸及びその塩、3-(メタ)アリルオキシ-1-ヒドロキシプロパンスルホン酸及びその塩、2-(メタ)アリルオキシエチレンスルホン酸及びその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。
【0012】
例えば、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位は下記一般式(1)で表される。
(一般式(1)中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す。スルホン酸(塩)とは、スルホン酸、スルホン酸塩をいう。スルホン酸塩における塩とは、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩である。具体的には、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;鉄の塩等の遷移金属塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モノエチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;エチレンジアミン塩、トリエチレンジアミン塩等のポリアミン等の有機アミンの塩;等が挙げられる。この中でもナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。アスタリスクは、一般式(1)で表される構造単位が結合している同種もしくは異種の他の構造単位に含まれる原子を表す。)上記アスタリスクが表す原子が含まれる構造単位としては、特に制限はないが、単量体由来の構造単位、開始剤由来の構造単位、連鎖移動剤に由来する構造単位等が例示される。
本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤のスケール抑制能が向上する傾向にあることから、3-(メタ)アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸及びその塩であることが好ましく、より好ましくは、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩である
【0013】
本開示の共重合体における、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位の含有量は、本開示の共重合体を構成するすべての単量体に由来する構造単位100質量%に対し、13モル%以上、好ましくは14モル%以上、より好ましくは14.5モル%以上である。また、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下であるである。なお、上記スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位の含有量は、ナトリウム塩換算で算出する。上記ナトリウム塩換算で算出するとは、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位に含まれるスルホン酸(塩)基が例えば酸型のスルホン酸基である場合でも、スルホン酸基のナトリウム塩であるとして計算することをいう。上記範囲であることにより、本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤のシリカスケール抑制能が向上する傾向にある。
【0014】
<その他の単量体由来の構造単位>
本開示の共重合体は、所望に応じて、(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位、スルホン酸(塩)基含有単量体由来の構造単位以外の単量体に由来する構造単位(その他の単量体に由来する構造単位ともいう)を有していてもよい。
本開示において、その他の単量由来の構造単位とはその他の有単量の少なくとも一つの炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造単位を表す。なお、その他の単量体由来の構造単位は、その他の単量体の少なくとも1つの炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造と同じ構造であればよく、その他の単量体が重合することにより形成された構造単位に限定されず、例えば重合後の後反応により形成された構造単位であってもよい。
本開示の共重合体における、その他の単量体に由来する構造単位の含有量は、本開示の共重合体を構成するすべての単量体に由来する構造単位100モル%に対し、0モル%以上、15モル%以下、好ましくは0モル%以上、10モル%以下、より好ましくは0モル%以上、5モル%以下であり、さらに好ましくは0モル%以上、3モル%以下であり、特に好ましくは0モル%以上、2モル%以下であり、最も好ましくは0モル%である。
【0015】
前記その他の単量体としては、マレイン酸、イタコン酸、及びこれらの塩等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の不飽和アルコール及びこれらにアルキレンオキサイドを付加した単量体、アルコキシアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環式芳香族炭化水素基を有するビニル芳香族系単量体;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアリルアミン、ジアリルジメチルアミン等のジアリルアルキルアミン等のアリルアミン等のアミノ基含有単量体及びこれらの四級化物;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルオキサゾリドン等のN-ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド等のアミド系単量体;(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有単量体;ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル系単量体;スチレン、インデン、ビニルアニリン等のビニルアリール単量体;イソブチレン、酢酸ビニル等;エーテル結合含有単量体としては、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルメタリルエーテル、ブチルメタリルエーテル、ベンジルメタリルエーテル等の(メタ)アリルエーテル;エチルイソプレニルエーテル、ブチルイソプレニルエーテル、ベンジルイソプレニルエーテル等のイソプレニルエーテル等が挙げられる。
【0016】
<その他の構造単位>
本開示の共重合体は、重合体の主鎖の少なくとも一つの末端にスルホン酸(塩)基を有することを特徴としている。重合体の主鎖の少なくとも一つの末端にスルホン酸(塩)基を有するとは、1又は2以上の主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有することをいう。例えば直鎖状の重合体であれば、主鎖末端が2か所存在し、そのうちの1つ又は両方にスルホン酸基を有していてもよく、例えば分岐構造を持つ重合体であれば3以上の主鎖末端が存在し、そのうちの1つ又は2つ以上にスルホン酸基を有していても良い。少なくとも一つの鎖末端にスルホ酸(塩)基を有することにより、シリカスケール抑制能が向上する共重合体100質量%に対する、共重合体の主鎖末端のスルホン酸基の質量%が0.01%以上、10%以下であることが好ましく、0.01%以上、5%以下がより好ましい。なお、スルホン酸基の換算は酸基で計算するものとする。
【0017】
<本開示の共重体の物性等>
本開示の共重合体は、重量平均分子量(Mw)が28000以上、56000以下であり、30000以上、50000以下であることがより好ましく、37000以上、49000以下であることがさらに好ましい。上記範囲であることにより、本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤のシリカスケール抑制能がより向上する傾向にある。
本開示の共重合体は、カルボン酸(塩)基やスルホン酸(塩)基などの酸基を含むが、本開示の共重合体の酸基は中和されていても良い。好ましくは酸基の合計の中和率は1モル%以上、90モル%以下であることが好ましい。なお、上記中和率は、例えば通常の酸塩基滴定などにより算出することができる。
【0018】
<本開示の共重合体の製造方法>
本開示の共重合体の製造方法は、特に制限されないが、通常は(メタ)アクリル酸(塩)、スルホン酸(塩)基含有単量体、必要に応じてその他の単量体に由来する構造単位を重合することにより製造することが好ましい。本開示の共重合体の製造工程においては、単量体の重合において重合開始剤を用いることが出来る。本開示の共重合体の製造工程において、分子量の調整のために必要に応じて連鎖移動剤を用いることが出来る。
【0019】
<本開示の連鎖移動剤>
本開示の連鎖移動剤は、分子量の調整のために用いることが出来る。例えば重亜硫酸(塩)類である重亜硫酸、メタ重亜硫酸、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)などが挙げられる。
【0020】
これらのうち本開示にかかる共重合体の製造においては少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸基を含有するために、重亜硫酸(塩)類を用いることが好ましい。これにより得られる共重合体の少なくとも一つの主鎖末端に効率よくスルホン酸基を導入することが出来る。連鎖移動剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を用いても良い。連鎖移動剤の添加量は、単量体が良好に重合可能である量であれば制限されないが、好ましくは共重合に供する単量体混合物1モルに対して、好ましくは0.001モルから0.02モルである。
【0021】
<本開示の重合開始剤>
本開示の共重合体を製造する工程において、通常は重合開始剤を使用する。重合開始剤としては公知のものが使用出来る。例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素、ジメチル2,2-’アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等を用いることが出来る。これらの中でも過硫酸塩であることが好ましく、上記連鎖移動剤を組み合わせることで、重合体主鎖末端にスルホン酸基を効率よく導入することが出来る。
【0022】
[本開示の共重合体の用途]
本開示の共重合体は、水系用途において高い性能を発揮でき、地熱発電プロセス、油井やガス井のプロセス、正浸透膜もしくは逆浸透膜を用いた海水淡水化プロセスもしくは廃液濃縮プロセス、ボイラー水循環系、冷却水の循環系などに用いるスケール抑制剤として好ましく適用できる。
本開示の共重合体は、例えばシリカスケールや炭酸カルシウムのスケール抑制剤として好ましく適用できる。シリカスケールのスケール抑制剤として最も好ましく適用できる。
【0023】
[本開示の水処理薬剤]
本開示の水処理薬剤は、本開示の共重合体を含む。本開示の水処理薬剤は、本開示の共重合体を例えば、1質量%から70質量%含むことが好ましい。より好ましくは1質量%から50質量%、さらに好ましくは1質量%から40質量%、最も好ましくは1質量%から30質量%、さらに最も好ましくは1質量%から20質量%である。
本開示の水処理薬剤は、本開示の共重合体以外の成分を含んでいても良い。本開示の共重合体以外の成分としては、水などの溶剤;アルカリや酸などのpH調整剤;脱酸素剤;防食剤;キレート剤;アミノトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、およびこれらの塩などのホスホン酸(塩);本開示の共重合体以外のカルボキシ基含有重合体;界面活性剤;消泡剤;ピッチコントロール剤;スライムコントロール剤などが例示される。
本開示の水処理薬剤は、特に制限はないが、例えば各種用水において発生するスケールのスケール抑制剤として好ましく適用できる。
【0024】
[本開示のスケール防止剤]
本開示のスケール防止剤は、本開示の共重合体を含む。本開示のスケール防止剤は、本開示の共重合体を例えば1質量%以上、100質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは、1質量%以上、80質量%以下であり、最も好ましくは、1質量%以上、50質量%以下である。
本開示のスケール防止剤は、本開示の共重合体以外の成分を含んでいても良い。本開示の共重合体以外の成分としては、水などの溶剤;アルカリや酸などのpH調整剤;脱酸素剤;防食剤;キレート剤;アミノトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、およびこれらの塩などのホスホン酸(塩);本開示の共重合体以外のカルボキシ基含有重合体;界面活性剤;消泡剤;ピッチコントロール剤;スライムコントロール剤などが例示される。
本開示のスケール防止剤は、特に制限はないが、例えばシリカスケールや炭酸カルシウムのスケール抑制剤として好ましく適用できる。本開示のスケール防止剤は、特にシリカスケール抑制能にすぐれるため、シリカスケール防止剤として好ましく適用できる。
【0025】
[本開示のスケール防止方法]
本開示のスケール防止方法は、本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤あるいは本開示の共重合体を使用する。本開示のスケール防止方法は、好ましくは、スケール防止の対象となる系に、本開示の水処理薬剤あるいはスケール防止剤あるいは本開示の共重合体を添加する工程を含む。また、好ましくは、スケール防止の対象となる系中の、本開示の共重合体の存在量が、所定の範囲内となるように制御する工程を含む。スケール防止の対象となる系中の、本開示の共重合体の含有量は、0.1ppm以上、500ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以上、300ppmであることがより好ましい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
<重量平均分子量の測定条件(GPC)>
装置:東ソー株式会社製HLC8320
カラム:株式会社昭和電工製 SHODEX Asahipak GF-310-HQ、
GF-710-HQ、GF-1G-7B
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
検量線:American Polymer Standards Corporaion社製 Polyacrylic acid standard
溶離液:0.1N酢酸ナトリウム
【0027】
<合成例1>
還流冷却器、攪拌機(パドル翼)を備えた容量3LのSUS製反応容器に、純水251.5g及びモール塩0.031gを仕込み、攪拌しながら85℃まで昇温して重合反応系とした。次に、攪拌下、85℃に保持された重合反応系中に、80%アクリル酸水溶液(以下、「80%AA」とも称する。)517.5g、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウムの40%水溶液(以下、「40%HAPS」とも称する。)533.2g、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、「15%NaPS」とも称する。)179.3g、及び、32.5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(以下、「32.5%SBS」とも称する。)18.6gを、それぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は、80%AAについては180分間、40%HAPSについては140分間、15%NaPSについては200分間、32.5%SBSについては170分間とした。また、各溶液の滴下速度は一定とし、各溶液の滴下は連続的に行った。15%NaPSの滴下終了後、更に30分間、前記反応溶液を85℃に保持(熟成)して重合を終了した。このようにして、固形分濃度44.8%の重合体水溶液(1)を得た。重合体(1)の重量平均分子量は37000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0028】
<合成例2>
還流冷却器、攪拌機(パドル翼)を備えた容量3LのSUS製反応容器に、純水250.78g、及びモール塩0.031gを仕込み、攪拌しながら、85℃まで昇温して重合反応系とした。次に、攪拌下、85℃に保持された重合反応系中に、80%AA508.9g、40%HAPS524.3g、15%NaPS176.3g、及び、10%SBS39.7gを、それぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は、80%AAについては180分間、40%HAPSについては140分間、15%NaPSについては200分間、10%SBSについては170分間とした。また、各溶液の滴下速度は一定とし、各溶液の滴下は連続的に行った。15%NaPSの滴下終了後、更に30分間、上記反応溶液を85℃に保持(熟成)して重合を終了した。
このようにして、固形分濃度44.5%の重合体水溶液(2)を得た。重合体(2)の重量平均分子量は49000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0029】
<合成例3>
還流冷却器、攪拌機(パドル翼)を備えた容量3LのSUS製反応容器に、純水250.8g、及びモール塩0.031gを仕込み、攪拌しながら、85℃まで昇温して重合反応系とした。次に、攪拌下、85℃に保持された重合反応系中に、80%AA457.2g、40%HAPS609.7g、15%NaPS165.2g、及び、32.5%SBS17.2gを、それぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は、80%AAについては180分間、40%HAPSについては140分間、15%NaPSについては200分間、32.5%SBSについては170分間とした。また、各溶液の滴下速度は一定とし、各溶液の滴下は連続的に行った。15%NaPSの滴下終了後、更に30分間、上記反応溶液を85℃に保持(熟成)して重合を終了した。
このようにして、固形分濃度43.6%の重合体水溶液(3)を得た。重合体(3)の重量平均分子量は37000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0030】
<合成例4>
流冷却器、攪拌機(パドル翼)を備えた容量3LのSUS製反応容器に、純水462.6g、及びモール塩0.031gを仕込み、攪拌しながら、85℃まで昇温して重合反応系とした。次に、攪拌下、85℃に保持された重合反応系中に、80%AA674.3g、40%HAPS238.0g、15%NaPS103.1g、及び、32.5%SBS21.9gを、それぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は、80%AAについては180分間、40%HAPSについては155分間、15%NaPSについては200分間、32.5%SBSについては170分間とした。また、各溶液の滴下速度は一定とし、各溶液の滴下は連続的に行った。80%AAの滴下終了後、更に30分間、上記反応溶液を85℃に保持(熟成)し、重合を終了した。このようにして、固形分濃度43.6%の重合体水溶液(4)を得た。重合体(4)の重量平均分子量は44000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0031】
<合成例5>
還流冷却器、攪拌機を備えた容量5LのSUS製反応容器に、イオン交換水611.3gを仕込み、攪拌しながら沸点還流状態まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に、80%AA57.6g、37%アクリル酸ナトリウム(以下「37%SA」とも称する)1145・9g、40%HAPS502.9g、15%NaPS132.2g、35%過酸化水素水(以下、「35%H2O2」とも称する)19.0g、イオン交換水367.9gをそれぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は80%AAおよび37%SAが120分、40%HAPS、イオン交換水が90分、15%NaPSが140分、35%H2O2が120分であった。このようにして、固形分50.2%の重合体水溶液(5)を得た。重合体(5)の重量平均分子量は5000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0032】
<合成例6>
還流冷却器、攪拌機を備えた容量5LのSUS製反応容器に、イオン交換水1620gを仕込み、攪拌しながら沸点還流状態まで昇温した。次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に、80%AA455g、15%NaPS133gをそれぞれ別々のノズルより滴下した。各溶液の滴下時間は80%AAが180分、15%NaPSが185分、イオン交換水が170分であった。15%NaPS溶液滴下終了後、更に30分間、上記反応液を沸点還流状態に保持(熟成)し、重合を完結させた。このようにして固形分45.7%の重合体水溶液(6)を得た。重合体(6)の重量平均分子量は10000であった。なお、仕込みと生成した重合体の組成比は同じである。
【0033】
<シリカスケール抑制率評価試験>
珪酸ナトリウム水溶液:メタケイ酸ナトリウム9水和物(Aldrich社製)2.129gにイオン交換水を加えて合計150gとなるように調整する。
硫酸マグネシウム水溶液:硫酸マグネシウム7水和物(和光純薬株式会社製)8.115gにイオン交換水を加えて合計1000gとなるように調整する。
ホウ酸バッファー:ホウ酸(関東化学株式会社製)7.42g、ホウ酸ナトリウム・10水和物)(和光純薬株式会社製)19.07gを混合し、ホウ酸バッファーを調製する。
容器に脱イオン水73gを入れ攪拌しながら上記ホウ酸バッファー2g、上記珪酸ナトリウム水溶液10g、重合体濃度が1000ppmになるように希釈した重合体水溶液5g、上記の硫酸マグネシウム水溶液10gを添加し、60℃の温浴につけ5h放置した。5h放置後、吸引ろ過装置に0.1μm目開きの濾紙を使用して、試験液を吸引ろ過した。得られた濾液をXR-Fで測定してSi濃度をSiO2換算で測定した。
シリカスケール抑制率(%)=試験後SiO2(ppm)/試験前SiO2濃度(ppm)×100
シリカスケール抑制率は以下の基準で判定した。
<抑制率評価基準>
90%以上:◎
70~90%:○
30~70%:△
30%未満:×
<実施例1>
合成例1で得られた重合体(1)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率価試験を行った。
<実施例2>
合成例2で得られた重合体(2)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率評価試験を行った。
<実施例3>
合成例3で得られた重合体(3)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率評価試験を行った。
<比較例1>
合成例4で得られた重合体(4)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率評価試験を行った。
<比較例2>
合成例5で得られた重合体(5)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率評価試験を行った。
<比較例3>
合成例6で得られた重合体(6)の1000ppm水溶液5gについて、上記シリカスケール抑制率評価試験を行った。
<比較例4>
重合体水溶液を添加しない以外は上記シリカスケール抑制率評価試験と同様に評価試験を行った。
【0034】
実施例1から実施例3、比較例1から比較例4の実験結果を表1に記載した。
【0035】
【表1】
表1中、「組成」は、アクリル酸(塩)に由来する構造単位/スルホン酸(塩)基に由来する構造単位を表す。
表1の結果から、本開示の共重合体は、シリカスケール抑制能に優れることがわかった。