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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/00 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
F01M11/00 R
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021020794
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123463
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大文
(72)【発明者】
【氏名】森 順平
(72)【発明者】
【氏名】三宅 浩
(72)【発明者】
【氏名】玉田 祥吾
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-127165(JP,A)
【文献】特開2008-088865(JP,A)
【文献】特開2008-184924(JP,A)
【文献】特開2003-328719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/00-13/06
F02F 1/00- 1/42、 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸線方向から見て左右の側壁と前後の端壁とを有するオイルパンと、前記オイルパンの溜油部に溜まったオイルを吸い上げるオイルポンプとを備えて、前記両端壁は左右全長に亙って同じ高さになっており
前記オイルパンにおける前後一対の端壁のうちいずれか一方の端壁を前記左右側壁及び底部の前端面又は後端面よりも内側にずらすことにより、クランク軸線方向から見て前方又は後方に開口したオイルポンプ格納室を形成されていて、前記オイルポンプ格納室に配置された前記オイルポンプが前記一方の端壁に設けられている内燃機関であって、
前記一方の端壁に、油面よりも低い位置で前記オイルパンの溜油部に向けて開口したオイル吸い込み口と、前記オイル吸い込み口よりも高い位置に配置された前記オイルポンプ格納室に開口したオイルポンプ行き通路と、前記オイル吸い込み口と前記オイルポンプ行き通路とに連通した中間通路とが形成されている、
内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、オイルパンとオイルポンプとを備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、潤滑等のオイルを溜めるオイルパンが設けられており、オイルパンに溜まったオイルはオイルポンプで吸い上げられて各部位に圧送されている。オイルポンプの構造や配置態様、オイルの吸い込み態様などは様々であり、オイルポンプの駆動方式について見ると、ロータがクランク軸に直結されているタイプや、特許文献1に開示されているように、クランク軸で駆動されるチェーンを介してロータが回転するタイプがある。
【0003】
特許文献1について更に述べると、特許文献1では、オイルパンの前壁にオイルポンプのポンプケースを一体に形成して、ポンプケースの外面にポンプハウジングを固定している。従って、ポンプハウジングはオイルパンの前端面から前方に突出しており、チェーンカバーによって覆われている。
【0004】
また、特許文献1では、ポンプケースのうちオイルパンの内部に位置した部位の上部にストレーナ取付部を設け、このストレーナ取付部にオイルストレーナを接続している。従って、特許文献1では、オイルは、ストレーナ取付部からポンプケースのポンプ室に吸い込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-107728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、オイルパンの一部をオイルポンプの一部に兼用すると、オイルポンプの構造を簡単化できる利点がある。また、特許文献1では、クランク軸はオイルパンの上方に配置されているため、オイルパンの前後端壁は左右全長に亙って同じ高さになっており、このため、オイルパンの剛性を向上できる利点がある。
【0007】
しかし、特許文献1ではストレーナをポンプケースに接続しているため、ストレーナを含めたオイル吸い上げ装置の全体が大型化することは否めず、オイルパンをオイルポンプの一部に兼用したことによるコンパクト化の利点が没却され兼ねない。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は内燃機関に係り、この内燃機関は、
「クランク軸線方向から見て左右の側壁と前後の端壁とを有するオイルパンと、前記オイルパンの溜油部に溜まったオイルを吸い上げるオイルポンプとを備えて、前記両端壁は左右全長に亙って同じ高さになっており
前記オイルパンにおける前後一対の端壁のうちいずれか一方の端壁を前記左右側壁及び底部の前端面又は後端面よりも内側にずらすことにより、クランク軸線方向から見て前方又は後方に開口したオイルポンプ格納室を形成されていて、前記オイルポンプ格納室に配置された前記オイルポンプが前記一方の端壁に設けられている」
という基本構成であり、この基本構成に、
前記一方の端壁に、油面よりも低い位置で前記オイルパンの溜油部に向けて開口したオイル吸い込み口と、前記オイル吸い込み口よりも高い位置に配置された前記オイルポンプ格納室に開口したオイルポンプ行き通路と、前記オイル吸い込み口と前記オイルポンプ行き通路とに連通した中間通路とが形成されている」
という特徴が付加されている。
【0010】
本願発明において、一方の端壁に形成した通路にフィルターを配置するのが好ましい。この場合は、フィルターが装着される部分を上向きに開口させて、上端はプラグで塞ぐのが好ましい。また、特許文献1と同様に、一方の端壁にオイルポンプのポンプ室(渦室)を形成して、一方の端壁をオイルポンプの構成部材の一部に兼用できる。
【0011】
また、本願発明では、一方の端壁に、オイルパンの内部に向けて突出したブロック部を一体に形成して、このブロック部にオイル通路やポンプ室を形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、オイル吸い込み口が一方の端壁に形成されているため、特許文献1のような大きなストレーナは不要であり、これにより、オイル吸い込み装置を著しくコンパクト化できる。また、オイル吸い込み口からオイルポンプまでの距離は短いため、圧損を抑制して燃費の向上に貢献できる。
【0013】
また、前後の端壁は左右全長に亙って同じ高さになっているため、オイルパンの剛性を高めて内燃機関の振動や騒音の抑制に貢献できるが、本願発明では、オイルポンプ格納室はクランク軸線方向に突出した側壁及び底部で囲われており、これら側壁及び底部の突出部のリブ効果により、オイルパンの剛性を更に向上できる。その結果、内燃機関の振動及び騒音の抑制効果を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の平面図である。
図2】実施形態の正面図である。
図3】破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1).実施形態の基本構成
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両用の横置き式3気筒内燃機関に適用している。本願では、方向に関して前後・左右の文言を使用するが、請求項に記載したとおり、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線と直交した水平方向(オイルパンの幅方向)である。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置されている側を前、変速機が配置されている側を後ろとしている。念のため、図1,2に方向を明示している。
【0016】
内燃機関は、従来と同様にシリンダブロック(図示せず)の下面に固定されたオイルパンを備えている。オイルパンは、左右側壁1と後ろ壁2とを備えており、これらに設けたフランジ1a,2aがボルト(図示せず)でシリンダブロックの下面に固定されている。従って、フランジ1a,2aには多数のボルト挿通穴3が空いている。本実施形態のオイルパンは、アルミ等の金属よりなるダイキャスト品又は鋳造品である(合成樹脂製品も採用可能である)。
【0017】
図2に一点鎖線で示すように、オイルパンの前面にはフロントカバー(タイミングチェーンカバー)4の下部がボルトの群で固定される。このため、オイルパンの前面にはタップ穴5が多数形成されている。なお、オイルパンの後面には、ミッションケースの下部がボルトの群によって固定されている。
【0018】
オイルパンは、請求項に記載した端壁としての前壁6と後ろ壁2とを有しているが、本実施形態では、クランク軸はオイルパンの上に配置されているため、前壁6の上面及び後ろ壁2の上面は、左右全長に亙ってフランジ1a,2aと同一面を成している。このため、曲げや捩れに強い頑丈な構造になっている。既述のとおり、本実施形態の内燃機関は、クランク軸を車幅方向に長い姿勢と成した横置きでエンジンルームに搭載されており、かつ、排気側を車両の前進方向前方に向けている。
【0019】
オイルパンの底部のうち後半部は段違い状の浅底部7になっており、前半部に最深溜油部8が形成されている。浅底部7に流下したオイルは最深溜油部8に流れ落ちて、オイルは専ら最深溜油部8に溜まるようになっている。
【0020】
最深溜油部8は、前後長手のセンターエリア8aと左右長手のフロントエリア8bとを有しているが、フロントエリア8bは、センターエリア8aの前端から排気側に向かって延びている(逆向きでもよい。)。従って、最深溜油部8は、平面視で略L形の形態を成している。そして、最深溜油部8のセンターエリア8aは、オイルパンを左右に二分する前後長手の中心線9aよりもやや吸気側(車両の後ろ側)にずれている。
【0021】
最深溜油部8のセンターエリア8aは左右側壁1よりも内側に寄っているため、オイルパンの前半部には、浅底部7から連続して前向きに延びるサイド肩部10が形成されている。浅底部7及びサイド肩部10には、補強用のリブ11が形成されている。
【0022】
(2).オイル吸い上げ構造
本実施形態では、前壁6が請求項に記載した一方の端壁に相当しており、前壁6に、最深溜油部8から立ち上がった状態で連続したブロック部13が一体に形成されている。すなわち、オイルパンに、ブロック部13を一部として有する前壁6が形成されている。
【0023】
ブロック部13は、平面視では前壁6の板状部から後ろ向きに突出しており、後端部は平面視略円形のボス部13aになっている。そして、ボス部13aに、略鉛直姿勢の中間通路14が上向きに開口するように形成されており、更に、ボス部13aの下端に、中間通路14と連通して左右方向に開口した1つのオイル吸い込み口15が形成されている。
【0024】
ブロック部13は、最深溜油部8におけるセンターエリア8aの中心線9bに対して若干の寸法だけ吸気側にずれており、このため、ブロック部13は吸気側のサイド肩部10に連続して、最深溜油部8は、ブロック部13よりも排気側においてセンターエリア8aとフロントエリア8bとが広がっている。そこで、オイル吸い込み口15は、最深溜油部8のセンターエリア8aに開口するように形成されている。
【0025】
なお、図示の例ではオイル吸い込み口15は排気側に開口しているが、これに加えて又は代えて、後ろ向きに開口したオイル吸い込み口15を形成することも可能である。或いは、3つ以上のオイル吸い込み口15を形成することも可能である。
【0026】
図3に示すように、中間通路14には濾過用のフィルター16が配置されており、ブロック部13には、フィルター16の箇所において中間通路14と連通しつつ前向きに向いたオイルポンプ行き通路17が形成されている。オイルポンプ行き通路17は、必然的にオイル吸い込み口15よりも高い高さになっており、前壁6の前面に開口している。
【0027】
なお、中間通路14及びオイルポンプ行き通路17は鋳造又はダイキャスト時に形成してもよいし、ドリルを使用して後加工で形成してもよい。ダイキャストによって成形時に形成する場合は、金型に装着したスライドピンを使用したらよい。オイル吸い込み口15も、スライドピンを使用して加工することは可能である。
【0028】
前壁6は左右側壁1及び底部の前端面よりも少し後ろにずれており、これにより、オイルパンの前端部に、後ろ向きに凹んだ(前向きに開口した)オイルポンプ格納室(凹所)18が形成されており、この凹所18にオイルポンプ19を設けている。従って、オイルポンプ格納室18は、オイルパンの前向き突出部18aによって左右及び下方から囲われている。
【0029】
オイルポンプ19は、前壁6及びブロック部13に形成されたポンプハウジング20と、前壁6に固定されたカバーハウジング21とを備えている。従って、前壁6には、カバーハウジング21を固定するためのタップ穴22の群が形成されている。ポンプハウジング20は、インナーロータ及びアウターロータ(いずれも図示せず)が回転自在に配置されたポンプ室23と、ポンプ室23から下向きに延びる流入通路24と、ポンプ室23から排気側に向けて斜め上向きに延びる吐出通路25とを有している(これらの通路24,25はカバーハウジング21にも形成されている。)。
【0030】
流入通路24は、オイルポンプ行き通路17と連通している。他方、吐出通路25の上端は、フロントカバー4に形成された中継通路と連通している。そこで、カバーハウジング21には、吐出通路25と中継通路とを繋ぐ通路が形成されたボス部26を形成しており、ボス部26は、フロントカバー4の内面とシールリングを介して密着している。なお、圧送後のオイルを濾過するオイルフィルターは、フロントカバー4に装着されている。
【0031】
既述のとおり、ポンプ室23にはインナーロータとアウターロータとが配置されているが、インナーロータに固定された回転軸にチェーンスプロケット27が固定されており、チェーンスプロケット27に、クランク軸で駆動されるチェーン28が巻き掛けられている。図3では、回転軸が嵌まる軸受け穴23aを表示しているが、ポンプ室23の表示は省略している。
【0032】
なお、図1,3に示す符号29はバッフルプレートを固定するためのボス部であり、図2に示す符号30は、オイルポンプ格納室18に溜まったオイルをオイルパンの内部に戻す還流穴である(オイルの戻りをスムース化するため、オイルポンプ格納室18の箇所では、底部は最深溜油部8よりも高くなっている。)。
【0033】
(3).まとめ
本実施形態は以上の構成であり、オイルは、最深溜油部8からオイル吸い込み口15と中間通路14とオイルポンプ行き通路17とを経由してオイルポンプ19に吸い上げられる。従って、特許文献1のようなストレーナは不要であり、これにより、オイル吸い上げ装置を著しくコンパクト化できる。
【0034】
また、本実施形態では、前後壁6,2は左右全長に亙って側壁1と同じ高さになっており(オイルパンの上端面は全周に亙って同一面を成しており)、従って、前後壁にクランク軸が入り込む態様に比べて剛性を向上できるが、本実施形態では、オイルポンプ格納室18がオイルパンの前向き突出部18aで囲われていることによるリブ効果と、前壁6にブロック部13が形成されていることによる補強効果とにより、オイルパンの剛性を格段に向上できる。その結果、内燃機関の振動抑制に大きく貢献できる。
【0035】
更に、ブロック部13の補強効果について付言すると、本実施形態では、オイル吸い込み口15や中間通路14の前後位置を適正化するために、ブロック部13は後ろ向きに長く突出していることから、前壁6と底部との一体性が格段に高くなっており、その結果、前壁6と底部との変形防止効果が格段に向上している。従って、内燃機関の振動防止に大きく貢献できると共に、クランク軸の曲がりを大幅に低減して、メカロスの抑制に貢献できる。また、前壁6をオイルポンプ19のポンプハウジングに兼用した場合、変形を防止して円滑な回転を確保できる利点もある。
【0036】
本実施形態において、オイル吸い込み口15は最深溜油部8のセンターエリア8aに位置しているが、最深溜油部8のセンターエリア8aはオイルパンの左右中間部近傍に位置しており、オイルに気泡は殆ど存在していないため、気泡を含んだオイルがオイル吸い込み口15から吸い上げられることを防止又は著しく抑制できる。
【0037】
すなわち、シリンヘッドから流下したオイルはオイルパンの側壁1を伝って流下する一方、ピストン冷却用等のオイルはバッフルプレート(図示せず)の案内作用によって側壁1の側からオイル溜まりに流下しており、いずれにしても、側壁1の箇所ではオイルの流れによって気泡が発生することがあっても、オイルが最深溜油部8のセンターエリア8aに届く頃には気泡は消えており、従って、気泡が混入していないオイルをオイルポンプ19に吸い上げて、潤滑等を支障なく行える。
【0038】
さて、横置き式の車両用内燃機関の場合、車両の発進・減速による動きによってオイルは車両の前後方向に振れ動き、車両の方向変換やローリングによってオイルは車幅方向に振れ動く。
【0039】
しかるに、実施形態のように、最深溜油部8をセンターエリア8aとフロントエリア8bとからなるL形に形成すると、オイルが車両の前後方向(図1の方向では左右方向)に振れ動いても、オイルが車幅方向(図1の方向では前後方向)に振れ動いても、オイルの動きが抑制されるため、最深溜油部8での液位の変化をできるだけ少なくできる。従って、空吸い現象を防止して、オイル吸い込み口15からオイルを常に吸い上げできる利点がある。
【0040】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、オイル吸い込み口の位置や開口方向などは必要に応じて変更できる。また、前壁等の一方の端壁は、側壁よりも低い高さに設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明は、内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 側壁
2 後ろ壁
4 フロントカバー
6 前壁
8 最深溜油部
13 ブロック部
13a ボス部
14 中間通路
15 オイル吸い込み口
16 フィルター
17 オイルポンプ行き通路
18 オイルポンプ格納室
18a オイルポンプ格納室を囲う前向き突出部
19 オイルポンプ
20 ポンプハウジング
21 カバーハウジング
23 ポンプ室(渦室)
27 チェーンスプロケット
28 駆動用チェーン
図1
図2
図3