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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ラジエータファンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/04 20060101AFI20241112BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241112BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
F01P7/04 A
F01P7/04 K
F02D29/02 F
F02D29/06 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021022076
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124354
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】左右田 佳宣
(72)【発明者】
【氏名】宇山 和輝
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216222(JP,A)
【文献】特開2006-299971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/02
F01P 7/02
B60K 11/04
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン冷却水と外気との間で熱交換を行うラジエータに冷却風を送る電動式のラジエータファンと、
エンジンにより駆動されて発電を行う発電機と、
前記エンジンの冷却水温度に基づいて前記ラジエータファンの起動、停止、及び、回転数を制御するとともに、前記ラジエータファンの駆動状態に応じて、前記発電機の発電量、及び、前記エンジンの出力トルクを調節する制御手段と、
前記制御手段により前記ラジエータファンの回転数の増大が開始されてからの経過時間を計時する計時手段と、を備え、
前記制御手段は、前記ラジエータファンの回転数を増大するときに、前記発電機の発電量を増大するとともに前記エンジンの出力トルクを増大し、前記ラジエータファンの回転数の増大を開始した後、前記ラジエータファンの停止要求を受けた場合に、前記計時手段により計時された前記経過時間が予め設定された所定時間を経過するまでは、前記ラジエータファンの停止を禁止し、前記経過時間が所定時間を経過したときに、前記ラジエータファンを停止し、
かつ、前記制御手段は、前記所定時間が経過する間に、増大させた前記発電機の発電量を減少させ、増大させた前記エンジンの出力トルクを減少させることを特徴とするラジエータファンの制御装置。
【請求項2】
前記計時手段は、前記ラジエータファンの回転数の最大回転数への移行が開始されてからの経過時間を計時し、
前記制御手段は、前記ラジエータファンの回転数の最大回転数への移行を開始した後、前記ラジエータファンの停止要求を受けた場合に、前記計時手段により計時された前記経過時間が予め設定された所定時間を経過するまでは、前記ラジエータファンの停止を禁止し、前記経過時間が所定時間を経過したときに、前記ラジエータファンを停止することを特徴とする請求項1に記載のラジエータファンの制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ラジエータファンの駆動状態に応じて、スロットルバルブの開度を調節して、前記エンジンに吸入される吸入空気量を調節し、前記エンジンの出力トルクを調節することを特徴とする請求項1又は2に記載のラジエータファンの制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、エアコンディショナの操作スイッチがオフされたときに、前記ラジエータファンの停止要求が出力されたと判断することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のラジエータファンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式のラジエータファンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、アイドリング時や、低速走行時、空調装置(エアコンディショナ、以下「エアコン」ともいう)稼働時などにおいて、ラジエータ(熱交換機)やエアコンディショナのコンデンサへの通風量を確保(増大)するため、ラジエータファン(冷却ファン)が用いられている。一般的に、ラジエータファンを用いてラジエータ内を流れる冷却水(冷却媒体)を冷却する自動車用の冷却装置では、ラジエータファンは、冷却水の温度に基づいて回転制御される。
【0003】
ここで、特許文献1、2には、このようなラジエータファンにおいて、ラジエータファンの周囲の雰囲気温度に合わせてラジエータファンの回転状態を制御する冷却ファン制御装置が提案されている。より具体的には、特許文献1、2に記載された冷却ファン制御装置は、ラジエータファン周囲の雰囲気温度を検出する雰囲気温センサを備え、雰囲気温センサで検出した雰囲気温度が所定温度未満の場合には、エンジン制御ECUからの水温制御信号を受けて、ラジエータファンを駆動する電動モータの回転数を制御する一方、雰囲気温度が所定温度以上になったときには、電動モータの回転数を増加制御(又は最大回転数制御)する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-299971号公報
【文献】特開平10-2222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ラジエータファンの回転数の増大(特に最大回転数への移行)を開始した直後に、例えば、エアコンディショナの操作スイッチがオフされることなどにより、ラジエータファンの停止要求が出力され、ラジエータファンが停止された場合に、車体振動が生じることがあった。
【0006】
本発明は、ラジエータファンを停止する際に発生し得る車体振動を抑制することが可能なラジエータファンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態のラジエータファンの制御装置は、エンジン冷却水と外気との間で熱交換を行うラジエータに冷却風を送る電動式のラジエータファンと、エンジンにより駆動されて発電を行う発電機と、エンジンの冷却水温度に基づいてラジエータファンの起動・停止・回転数を制御するとともに、ラジエータファンの駆動状態に応じて、発電機の発電量、及び、エンジンの出力トルクを調節する制御手段と、制御手段によりラジエータファンの回転数の増大が開始されてからの経過時間を計時する計時手段とを備え、制御手段が、ラジエータファンの回転数を増大するときに、発電機の発電量を増大するとともにエンジンの出力トルクを増大し、ラジエータファンの回転数の増大を開始した後、ラジエータファンの停止要求を受けた場合に、計時手段により計時された経過時間が予め設定された所定時間を経過するまでは、ラジエータファンの停止を禁止し、経過時間が所定時間を経過したときに、ラジエータファンを停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラジエータファンの回転数の増大(特に最大回転数への移行)が開始された直後に、停止要求があった場合でも、ラジエータファンを停止する際に発生し得る車体振動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るラジエータファンの制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係るラジエータファンの制御装置による、ラジエータファン制御の処理手順を示すフローチャートである。
図3】ラジエータファンが通常制御状態から最大回転数状態への移行が開始された後、停止状態に変化する間の、エアコンディショナの作動状態、ラジエータファンの作動状態、オルタネータ発電量、(オルタネータ用)エンジン目標トルク、スロットル目標開度、スロットル実開度、吸入空気量、出力トルク、エンジン回転数、及び、車体振動の変化の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明者達は、鋭意検討を重ねた結果、次の知見を得た。すなわち、一般的に、エンジンが出力するトルク(運動エネルギー)の一部は補機ベルトを介してオルタネータ(発電機)に伝達され、オルタネータによって運動エネルギーが電気エネルギー(電流)に変換(発電)されることで、電動部品(電装品)の作動に必要な電力が供給される。オルタネータの発電量は、電動部品(電装品)の作動状態(電気負荷の大きさ)に応じて制御(調節)される。また、電動部品(電装品)の作動状態やオルタネータの発電量の変動に合わせて、スロットルバルブの開度が制御(調節)されて、エンジン筒内に吸入される空気量が制御(調節)され、エンジンの出力トルクが調整される。
【0011】
ここで、ラジエータファンを駆動する電動モータが最大回転数(最大出力/Hi作動)状態への移行を開始すると、突入電流による電力消費に対応するため、一時的にオルタネータの発電量が増加される。また、それに合わせて、エンジンの出力トルクも増加するように制御される。このような状態から(すなわち、最大回転数への移行が開始された直後に)、例えば、ユーザによるエアコンディショナの操作スイッチのオフ操作などにより、速やかなラジエータファンの停止(OFF)が指示(要求)された場合、オルタネータは、突入電流分を発電している状態から発電量を急減させる。一方、発電量の急減に伴い、エンジンの目標出力トルクも減少させる必要があるが、インパルス的なショックの発生を抑制するために漸次的に減少させる必要があることから、発電に必要なトルクに対して目標出力トルク(目標スロットルバルブ開度)が一時的に過大となる。また、これに加えて、スロットルバルブの機械応答遅れや空気の応答遅れ等により、エンジン筒内に吸入される空気量が過剰となることにより、エンジン回転数および実出力トルクが過剰となり、その結果、エンジンを起震源とした車体振動が発生する、との知見を得た。
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
まず、図1を用いて、実施形態に係るラジエータファンの制御装置1の構成について説明する。図1は、ラジエータファンの制御装置1、及び、該ラジエータファンの制御装置1が適用されたエンジン10等の構成を示すブロック図である。
【0014】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。また、エンジン10は、シリンダ内(筒内)に燃料を直接噴射する筒内噴射式のエンジンである。エンジン10では、エアクリーナから吸入された空気が、吸気管15に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)13により絞られ、インテークマニホールド11を通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量は、エアクリーナとスロットルバルブ13との間に配置されたエアフローメータ14により検出される。また、インテークマニホールド11を構成するコレクター部(サージタンク)の内部には、インテークマニホールド11内の圧力(吸気マニホールド圧力)を検出するバキュームセンサ30が配設されている。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ31が配設されている。
【0015】
シリンダヘッドには、気筒毎に吸気ポート22と排気ポート23とが形成されている(図1では片バンクのみ示した)。各吸気ポート22、排気ポート23それぞれには、該吸気ポート22、排気ポート23を開閉する吸気バルブ24、排気バルブ25が設けられている。吸気バルブ24を駆動する吸気カム軸と吸気カムプーリとの間には、吸気カムプーリと吸気カム軸とを相対回動してクランク軸10aに対する吸気カム軸の回転位相(変位角)を連続的に変更して、吸気バルブ24のバルブタイミング(開閉タイミング)を進遅角する可変バルブタイミング機構26が配設されている。この可変バルブタイミング機構26により吸気バルブ24の開閉タイミングがエンジン運転状態に応じて可変設定される。
【0016】
同様に、排気カム軸と排気カムプーリとの間には、排気カムプーリと排気カム軸とを相対回動してクランク軸10aに対する排気カム軸の回転位相(変位角)を連続的に変更して、排気バルブ25のバルブタイミング(開閉タイミング)を進遅角する可変バルブタイミング機構27が配設されている。この可変バルブタイミング機構27により排気バルブ25の開閉タイミングがエンジン運転状態に応じて可変設定される。
【0017】
エンジン10の各気筒には、シリンダ内に燃料を噴射するインジェクタ12が取り付けられている。インジェクタ12は、高圧燃料ポンプ(図示省略)により加圧された燃料を各気筒の燃焼室内へ直接噴射する。
【0018】
また、各気筒のシリンダヘッドには、混合気に点火する点火プラグ17、及び該点火プラグ17に高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイル21が取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタ12によって噴射された燃料との混合気が点火プラグ17により点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管18を通して排出される。
【0019】
混合気の燃焼により発生した熱は、エンジン10のシリンダヘッド、及び、シリンダブロックに設けられたウォータジャケット内の冷却水に放出される。冷却水は、ウォータジャケットから冷却水通路(配管)を通り、ラジエータ(図示省略)に送られる。ラジエータは、冷却水と外気(大気)との間で熱交換を行う熱交換器である。チューブとフィンとで構成されたラジエータコア部を冷却水が通過するときに、冷却水の熱が大気に放出される。
【0020】
また、ラジエータには、強制的に冷却風を送りラジエータを冷却する電動式のラジエータファン(冷却ファン)40が設けられている。ラジエータファン40は、例えば、アイドリング時や、低速走行時、エアコンディショナ稼働時などにおいて、ラジエータやエアコンディショナのコンデンサへの通風量を確保(増大)する。ラジエータファン40は、後述する電子制御装置(以下「ECU」という)50により、例えば、エンジン冷却水の温度に基づいて回転制御される。なお、エンジン冷却水温度に加えて、車速、ラジエータファン40の周囲の雰囲気温度、及び、エアコンディショナの動作状態(状況)のうち、少なくともいずれか一つに基づいて、ラジエータファン40の起動・停止・回転数を制御することが好ましい。例えば、ラジエータファン40は、エアコンディショナの操作スイッチ(エアコンスイッチ)61がオフされたときに停止する。
【0021】
エンジン10のクランク軸10aの一方の端部に取り付けられたプーリには、駆動力を伝達するベルト(図示省略)が掛けられており、該ベルトを介してオルタネータ41(特許請求の範囲に記載の発電機に相当)が駆動可能に接続されている。エンジン10から出力された駆動力が、ベルトを介してオルタネータ41に伝達され、該オルタネータ41が駆動される。
【0022】
オルタネータ41は、エンジン10により駆動されて発電を行う。オルタネータ41の発電量は、後述するECU50により、例えば、ラジエータファン40を駆動する電動モータ40a等の電動部品(電装品)の作動状態(電気負荷の大きさ)に応じて制御(調節)される。
【0023】
上述したエアフローメータ14、バキュームセンサ30、スロットル開度センサ31に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサ32が取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト10a近傍には、クランクシャフト10aの回転位置を検出するクランク角センサ33が取り付けられている。ここで、クランクシャフト10aの他方の端部には、例えば、2歯欠歯した34歯の突起が10°間隔で形成されたタイミングロータ33aが取り付けられており、クランク角センサ33は、タイミングロータ33aの突起の有無を検出することにより、クランクシャフト10aの回転位置を検出する。カム角センサ32及びクランク角センサ33としては、例えば電磁ピックアップ式のものなどが用いられる。
【0024】
これらのセンサは、ECU50に接続されている。さらに、ECU50には、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ34、及び、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダル開度センサ35等の各種センサも接続されている。
【0025】
ECU50は、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エアコンECU(以下「A/C・ECU」という)60、及び、ビークルダイナミック・コントロールユニット(以下「VDCU」という)70等と相互に通信可能に接続されている。
【0026】
A/C・ECU60には、エアコン(コンプレッサ)の稼動・停止(オン・オフ)を切り替えるエアコンスイッチ61が接続されている。A/C・ECU60は、エアコンスイッチ61等を含むユーザの設定操作にしたがい、コンプレッサ等を駆動して、車内空調を調節する。なお、エアコンディショナ(空調装置)については公知のものを用いることができるので、ここでは、詳細な説明を省略する。A/C・ECU60は、エアコンスイッチ61の状態(オン/オフ)、及び、目標冷媒圧等の情報を、CAN100を介してECU50に送信する。
【0027】
VDCU70には、ブレーキペダルが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ71や、ブレーキアクチュエータ74のマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ72が接続されている。また、VDCU70には、車両の各車輪の回転速度(車速)を検出する車輪速センサ73等も接続されている。
【0028】
VDCU70は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータ74を駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ73、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン10のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。
【0029】
VDCU70は、検出したブレーキスイッチ71やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)や車輪速(車速)等を、CAN100を介してECU50などに送信する。
【0030】
ECU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。また、ECU50は、インジェクタ12を駆動するインジェクタドライバ、点火信号を出力する出力回路、及び、電子制御式スロットルバルブ13を開閉する電動モータ13aを駆動するモータドライバ等を備えている。さらに、ECU50は、ラジエータファン40を駆動する電動モータ40aのドライバ回路や、オルタネータ41の発電量を切替える回路等を備えている。
【0031】
ECU50では、カム角センサ32の出力から気筒が判別され、クランク角センサ33の出力から回転角速度およびエンジン回転数が求められる。また、ECU50では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、吸気管負圧、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及びエンジン10の水温や油温等の各種情報が取得される。また、ECU50は、CAN100を介して、車輪速(車速)、及び、エアコンスイッチ61の状態を示す情報等を受信する。そして、ECU50は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、及び、スロットルバルブ13等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。
【0032】
特に、ECU50は、ラジエータファン40の回転数の増大(特に最大回転数への移行)を開始した直後に、停止要求があった場合でも、ラジエータファン40を停止する際に発生し得る車体振動を抑制する機能を有している。そのため、ECU50は、計時部51及び制御部52を機能的に有している。ECU50では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、計時部51及び制御部52の各機能が実現される。
【0033】
計時部51は、例えばタイマからなり、制御部52によりラジエータファン40の回転数の増大が開始されてからの経過時間を計時する。特に、計時部51は、ラジエータファン40の回転数の最大回転数への移行が開始されてからの経過時間を計時する。すなわち、計時部51は、特許請求の範囲に記載の計時手段として機能する。なお、計時部51により計時された経過時間は制御部52に出力される。
【0034】
制御部52は、例えば、エンジン10の冷却水温度に基づいてラジエータファン40の起動・停止・回転数を制御する。すなわち、制御部52は、特許請求の範囲に記載の制御手段として機能する。なお、制御部52は、エンジン10の冷却水温度に加えて、車速、ラジエータファン40の周囲の雰囲気温度、及び、エアコンディショナの動作状態(目標冷媒圧等)のうち、少なくともいずれか一つに基づいて、ラジエータファン40の起動・停止・回転数を制御することが好ましい。
【0035】
また、制御部52は、ラジエータファン40の駆動状態(電気負荷の大きさ)に応じて、オルタネータ41の発電量を調節するとともに、エンジン10の出力トルクを調節する。
その際に、制御部52は、ラジエータファン40の駆動状態(電気負荷の大きさ)に応じて、スロットルバルブ13の開度を調節して、エンジン10に吸入される吸入空気量を調節し、エンジン10の出力トルクを調節する。
【0036】
制御部52は、例えば、冷却水の温度が所定温度よりも上昇した場合に、ラジエータファン40の回転数を増大(例えば最大回転数に移行)する。また、制御部52は、ラジエータファン40の回転数を増大(例えば最大回転数に移行)するときに、オルタネータ41の発電量を増大するとともに、エンジン10の出力トルクを増大する。
【0037】
そして、制御部52は、ラジエータファン40の回転数の増大(例えば最大回転数への移行)を開始した後(直後に)、ラジエータファン40の停止要求を受けた場合に、計時部51により計時された経過時間が予め設定された所定時間(例えば3~5秒)を経過するまでは(経過していないときは)、ラジエータファン40の停止を禁止する(駆動を継続する)。制御部52は、その後、経過時間が所定時間を経過したときに、ラジエータファン40を停止する。なお、制御部52は、例えば、エアコンスイッチ61がオフ操作されたときなどに、ラジエータファン40の停止要求が出力されたと判断する。
【0038】
制御部52は、上記所定時間が経過する間に、増大させたオルタネータ41の発電量を徐々に減少させ(定常状態に戻し)、増大させたエンジン10の出力トルクを徐々に減少させる(定常状態に戻す)。
【0039】
なお、ラジエータファン40の回転数の増加及びそれに伴うトルク増加が所定値以下であり、所定時間の経過を待つことなくラジエータファン40を停止したとしても、急激なトルク変動等が生じない(すなわち車体振動が生じない)と判断される場合には、所定時間の経過を待つことなくラジエータファン40を停止する構成としてもよい。
【0040】
次に、図2図3を併せて参照しつつ、ラジエータファンの制御装置1の動作について説明する。ここで、図2は、ラジエータファンの制御装置1による、ラジエータファン制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主として、ECU50において、所定のタイミングで繰り返して実行される。
【0041】
図3は、ラジエータファン40が通常制御状態から最大回転数状態への移行が開始された後、停止状態に変化する間の、エアコンディショナの作動状態、ラジエータファン40の作動状態、オルタネータ発電量、(オルタネータ用)エンジン目標トルク、スロットル目標開度、スロットル実開度、吸入空気量、出力トルク、エンジン回転数、及び、車体振動の変化の一例を示すタイミングチャートである。
【0042】
なお、図3の横軸は時刻であり、縦軸は、上段から順に、エアコンディショナの作動状態、ラジエータファン40の作動状態、オルタネータ発電量(KW)、(オルタネータ用)エンジン目標トルク(Nm)、スロットル目標開度(deg)、スロットル実開度(deg)、吸入空気量(g/s)、出力トルク(Nm)、エンジン回転数(rpm)、及び、車体振動(G)である。また、図3(時刻t2~)では、本実施形態のタイミングチャートを太い実線で示し、従来技術(比較例)のタイミングチャートを細い実線で示した。
【0043】
ステップS100では、例えば、冷却水温度に応じて、ラジエータファン40の回転数を増大(最大回転数まで増大)させるか否かの判断が行われる。ここで、ラジエータファン40の回転数を増大(最大回転数まで増大)させる場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、ラジエータファン40の回転数を増大(最大回転数まで増大)させないときには、本処理から一旦抜ける(図3の時刻t0~t1参照)。
【0044】
ステップS102には、ラジエータファン40の回転数の増大(最大回転数までの増大)が開始される。それに合わせて、オルタネータ41の発電量が増大されるとともに、エンジン10の出力トルクが増大される(図3の時刻t1~t2参照)。
【0045】
また、ステップS104では、ラジエータファン40の回転数の増大(最大回転数までの増大)が開始されてからの経過時間を計時するタイマが起動される。
【0046】
次に、ステップS106では、ラジエータファン40の停止要求があるか否か(例えばエアコンスイッチ61がオンからオフに変化したか否か)についての判断が行われる。ここで、ラジエータファン40の停止要求がある場合(図3の時刻t2)には、ステップS108に処理が移行する。一方、ラジエータファン40の停止要求がないときには、本処理から一旦抜ける。
【0047】
ステップS108では、ラジエータファン40の回転数の増大(最大回転数まで増大)が開始されてからの経過時間が、予め設定された所定時間(例えば3~5秒)を経過したか否かについての判断が行われる。ここで、所定時間を経過していないときには、ステップS110において、増大されたオルタネータ41の発電量が徐々に低減される(定常状態に戻される)とともに、増大されたエンジン10の出力トルクが徐々に低減され(定常状態に戻され)、その後、ステップS108に再び処理が移行する。そして、ラジエータファン40の回転数の増大(最大回転数までの増大)が開始されてからの経過時間が、予め設定された所定時間を経過するまで、ステップS108、及び、S110の処理が繰り返して実行される(図3の時刻t2~t4参照)。一方、所定時間を経過した場合(図3の時刻t4参照)には、ステップS112に処理が移行する。
【0048】
ステップS112では、ラジエータファン40が停止される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0049】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、ラジエータファン40の回転数が増大されるときに、オルタネータ41の発電量が増大されるとともに、エンジン10の出力トルクが増大される。そして、ラジエータファン40の回転数の増大が開始された後、ラジエータファン40の停止要求を受けた場合に、計時部51により計時された経過時間が予め設定された所定時間を経過するまでは(経過していないときは)ラジエータファン40の停止が禁止され(駆動が継続され)、経過時間が所定時間を経過したときにラジエータファン40が停止される。ここで、上記所定時間が経過すると、発電量および出力トルクが漸減しながら定常状態に近づくため、この状態で(すなわち所定時間経過後に)ラジエータファン40を停止すれば、発電量の減少に伴うエンジン10や車体の振動が発生し難くなる。その結果、ラジエータファン40の回転数の増大を開始した直後に、停止要求があった場合でも、回転数の増大を開始した後の一定時間(所定時間)を移行(停止)禁止期間とし、この間はラジエータファン40を停止しないよう制御することで、ラジエータファン40を停止する際に発生し得る車体振動を抑制することが可能となる(図3の時刻t4~参照)。
【0050】
特に、本実施形態によれば、ラジエータファン40の回転数の最大回転数への移行が開始されてからの経過時間が計時され、ラジエータファン40の回転数の最大回転数への移行が開始された後、ラジエータファン40の停止要求を受けた場合に、計時された経過時間が予め設定された所定時間を経過するまでは(経過していないときは)ラジエータファン40の停止が禁止され(駆動が継続され)、経過時間が所定時間を経過したときにラジエータファン40が停止される。そのため、最も車体振動が大きくなる条件(すなわち最大回転数への移行状態又は最大回転終状態からの停止時)において、効果的に車体振動を抑制することができる。
【0051】
本実施形態によれば、所定時間が経過する間に、増大されたオルタネータ41の発電量が減少されるとともに、増大されたエンジン10の出力トルクが減少される。そのため、ラジエータファン40が停止される際のオルタネータ41の発電量の急激な低下、及び、エンジン出力トルクの急激な低下(変動)が抑制されることにより、車体振動を抑制することができる。
【0052】
本実施形態によれば、ラジエータファン40の駆動状態に応じて、スロットルバルブ13の開度が調節されて、エンジン10に吸入される吸入空気量が調節され、エンジン10の出力トルクが調節される。そのため、ラジエータファン40の駆動状態(電気負荷の大きさ)に応じて、適切にエンジン10の出力トルクを調節することができる。
【0053】
本実施形態によれば、エアコンスイッチ61がオフされたときに、ラジエータファン40の停止要求が出力されたと判断される。そのため、エアコンディショナ(コンデンサ)の冷却が不要になった場合に、ラジエータファン40を停止して、電気負荷を軽減することができる。
【0054】
本実施形態によれば、エンジン10の冷却水温度に加えて、車速、雰囲気温度、及び、エアコンディショナの動作状態のうち、少なくともいずれか一つに基づいて、ラジエータファン40の起動・停止・回転数が制御される。そのため、ラジエータファン40の駆動(起動・停止・回転数)をより適切に制御することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、ECU50、A/C・ECU60、及び、VDCU70それぞれをCAN100で相互に通信可能に接続したが、システムの構成はこのような形態に限られることなく、例えば、機能的な要件やコスト等を考慮して、任意に変更することができる。例えば、エアコンスイッチ61をECU50で直接読み込む構成としてもよい。また、例えば、ECU50とA/C・ECU60とをハードウェア的に統合してもよい。
【0056】
上記実施形態では、エンジン10の吸入空気量を調節するために、電子制御式スロットルバルブ13の開度を調節したが、例えば、吸気管15をバイパスするバイパス配管及び、該バイパス配管を開閉するISC(アイドル・スピード・コントロールバルブ)を設け、該ISCの開度を調節する構成としてもよい。また、エンジン10の出力トルクを調節する際に、例えば、点火時期制御等を併用してもよい。
【0057】
上記実施形態では、本発明をガソリンエンジン車に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、ガソリンエンジン以外の駆動力源を有する車両、例えば、エンジンとモータ・ジェネレータ(MG)とを駆動力源とするハイブリッド車(HEV)などにも適用することができる。この場合、モータ・ジェネレータ(MG)が、特許請求の範囲に記載の発電機として機能する。
【符号の説明】
【0058】
1 ラジエータファンの制御装置
10 エンジン
13 スロットルバルブ
14 エアフローメータ
34 水温センサ
35 アクセルペダル開度センサ
40 ラジエータファン(冷却ファン)
41 オルタネータ(発電機)
50 ECU
51 計時部
52 制御部
60 A/C・ECU
61 エアコンスイッチ
70 VDCU
73 車輪速センサ
100 CAN
図1
図2
図3