(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ゲート駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2021028659
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】山田 卓司
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176130(JP,A)
【文献】国際公開第2016/030998(WO,A1)
【文献】特開2020-078239(JP,A)
【文献】特開2018-057072(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052214(WO,A1)
【文献】特開2019-068691(JP,A)
【文献】特開2005-065460(JP,A)
【文献】特開2008-211703(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0081371(US,A1)
【文献】特開2018-068097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00 - 3/44
H02M 7/42 - 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アームおよび下アームにそれぞれ配置され負荷に対して正負の通電経路を形成する整流素子を備えた半導体スイッチング素子のゲート駆動を行うゲート駆動装置であって、
前記半導体スイッチング素子のゲートを第1駆動能力および前記第1駆動能力よりも高い第2駆動能力のいずれかで駆動する駆動回路(20、20a、20b、20c。20d)と、
前記半導体スイッチング素子の駆動タイミングでは、前記駆動回路に対して、前記半導体スイッチング素子の動作状態が通常モードでは前記第1駆動能力によりゲート駆動を実施させ、前記半導体スイッチング素子の動作状態が同期整流モードでは前記第2駆動能力によりゲート駆動を実施させる制御回路(50、50a、50c)と
、
前記半導体スイッチング素子の動作タイミングにおける動作状態が同期整流モードであるか否かを、前記半導体スイッチング素子の端子間電圧およびゲート電圧が共にローレベルであることにより判定して設定する同期整流判定回路(60)と、
を備え
、
前記同期整流判定回路は、前記同期整流モードであることを判定した場合に、前記半導体スイッチング素子のターンオフ後に判定の結果を前記同期整流モードではないという結果に変更して通常動作状態に戻すゲート駆動装置。
【請求項2】
前記同期
整流判定回路は、前記同期整流モードであるか否かの判定を、前記半導体スイッチング素子のオンオフの指示信号の
出力毎に実施する請求項
1に記載のゲート駆動装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、前記第1駆動能力および前記第2駆動能力の設定を、駆動電圧もしくは駆動電流を変更設定することで行うように構成されている請求項1
または2に記載のゲート駆動装置。
【請求項4】
前記駆動回路は、前記第1駆動能力を設定する第1インピーダンス回路と、前記第2駆動能力の設定を設定する第2インピーダンス回路とを有する請求項1
または2に記載のゲート駆動装置。
【請求項5】
前記半導体スイッチング素子をオフ状態に保持するオフ保持回路を備え、
前記制御回路は、前記第2駆動能力により前記半導体スイッチング素子をターンオフさせる場合に、前記オフ保持回路を用いる請求項1から
4のいずれか一項に記載のゲート駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路やスイッチング電源回路などにおいては、MOSトランジスタなどの半導体スイッチング素子を上下アームにそれぞれ配置して負荷に対して正負の通電経路を形成している。
【0003】
また、ボディダイオードを備えるMOSトランジスタでは、オフ期間にボディダイオードに電流が流れる期間が生じ、順方向電圧による損失が発生する。この損失は、半導体スイッチング素子として、特にSiCを用いたMOSトランジスタにおいては、ボディダイオードのオン電圧つまり順方向電圧が高いため損失が大きくなり、ボディダイオード通電劣化の問題がある。
【0004】
このため、ボディダイオードに電流が流れる期間に半導体スイッチング素子をオン状態となるように制御する同期整流が行われている。この場合、上下アームの短絡が発生しないように2つの半導体スイッチング素子のいずれもがオフ状態となるデッドタイムを設定する必要がある。
【0005】
そこで、このようなデッドタイムの設定の手法としてはさまざまなものが提案されている。しかしながら、通常の駆動時にサージ電圧やdV/dtが耐量を超えないように設定するため、同期整流時のスイッチング速度が遅くなってボディダイオードの通電時間が長くなり、その結果、損失やリカバリ電流が大きくなる。
【0006】
また、設定するデッドタイムは、使用する半導体スイッチング素子のスイッチング速度の素子ばらつきを考慮して決める必要があるため、実デッドタイムがばらつきに起因して生じるため、実デッドタイムをゼロにすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-127145号公報
【文献】特開2020-72616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、同期整流時に半導体スイッチング素子を迅速に駆動することができるようにしてボディダイオードに電流が流れる期間を極力短くすることができるようにしたゲート駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のゲート駆動装置は、上アームおよび下アームにそれぞれ配置され負荷に対して正負の通電経路を形成する整流素子を備えた半導体スイッチング素子のゲート駆動を行うゲート駆動装置であって、前記半導体スイッチング素子のゲートを第1駆動能力および前記第1駆動能力よりも高い第2駆動能力のいずれかで駆動する駆動回路(20、20a、20b、20c。20d)と、前記半導体スイッチング素子の駆動タイミングでは、前記駆動回路に対して、前記半導体スイッチング素子の動作状態が通常モードでは前記第1駆動能力によりゲート駆動を実施させ、前記半導体スイッチング素子の動作状態が同期整流モードでは前記第2駆動能力によりゲート駆動を実施させる制御回路(50、50a、50c)と、前記半導体スイッチング素子の動作タイミングにおける動作状態が同期整流モードであるか否かを、前記半導体スイッチング素子の端子間電圧およびゲート電圧が共にローレベルであることにより判定して設定する同期整流判定回路(60)と、備えている。前記同期整流判定回路は、前記同期整流モードであることを判定した場合に、前記半導体スイッチング素子のターンオフ後に判定の結果を前記同期整流モードではないという結果に変更して通常動作状態に戻す。
【0010】
上記構成において、半導体スイッチング素子が同期整流となる場合には、印加されている電圧がボディダイオードの順方向電圧となるため通常時よりも低くなる。このため、同期整流時に高速スイッチング動作を行ってもサージ電圧や電圧変化率dv/dtが素子の耐量を超えない状態とすることができる。
【0011】
このことを利用して、制御回路により、半導体スイッチング素子の動作状態が通常動作状態であるか同期整流動作状態であるかに応じて駆動能力を切り替え、通常動作状態には第1駆動能力でゲート駆動を行い、同期整流動作状態には高い駆動能力の第2駆動能力でゲート駆動を行う。
【0012】
これにより、同期整流状態でのオン遅延時間を短くできるので、デッドタイムを短くすることができ、また、オン遅延時間およびオフ遅延時間が短くなるため、半導体スイッチング素子の特性ばらつきに対するデッドタイムのばらつきの絶対値も小さくすることができる。さらに、デッドタイムを小さくすることができることで、ボディダイオードへの通電時間を短くでき、損失を低減することができ、ボディダイオードに対するストレスを低減して通電劣化の信頼性向上を図ることができ、加えて、リカバリ電流を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】第1実施形態を示すリカバリ電流の特性を示す作用説明図
【
図5】第1実施形態を示すゲート電圧波形を示す作用説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
電気的構成を示す
図1において、制御対象となる半導体スイッチング素子は、正負の電源端子間に直列接続された2個のMOSトランジスタ1、2で、これらにより上下アームが構成される。MOSトランジスタ1、2は、共にSiCにより構成されたNチャンネル型のもので、それぞれボディダイオード1a、2aを有している。MOSトランジスタ1および2の共通接続点は、出力端子として負荷であるコイル3に接続されている。
【0015】
MOSトランジスタ1、2は、それぞれに設けられた同様の構成のゲート駆動装置10によりゲート駆動制御がなされる。ここでは、下アームに配置されるMOSトランジスタ1のゲート駆動制御を行うゲート駆動装置10を
図1に示している。
【0016】
ゲート駆動装置10は、MOSトランジスタ1のゲートにゲート駆動出力を与える駆動回路20を備える。駆動回路20は、通常用駆動回路30および同期整流用駆動回路40を有する。ゲート駆動装置10は、さらに制御回路50および同期整流判定回路60などを備える。
【0017】
制御回路50は、外部からMOSトランジスタ1、2に対するオンオフの指示信号Sxが与えられるとともに、同期整流判定回60から同期整流の判定信号Syが与えられる。制御回路50は、与えられた指示信号Sxおよび判定信号Syに応じて駆動回路20を駆動制御する。
【0018】
駆動回路20において、通常用駆動回路30は、2個のMOSトランジスタ31、32および2個の抵抗33、34を有する。MOSトランジスタ31は、Pチャンネル型でボディダイオード31aを有する。MOSトランジスタ32は、Nチャンネル型でボディダイオード32aを有する。
【0019】
2個のMOSトランジスタ31、32は、直流電源VCCから、MOSトランジスタ31、抵抗33、34、MOSトランジスタ32を直列に接続した状態で、直流電源70を介してMOSトランジスタ1のソース端子に接続されている。抵抗33および34の共通接続点はMOSトランジスタ1のゲートに接続される。
【0020】
なお、この実施形態においては、オフ時にゲート電位をソース電位よりも負電位-VEEに保持してオフ保持をするため、直流電源70を用いているが、直流電源70を用いずに、MOSトランジスタ1のソース電位に保持する構成とすることもできる。
【0021】
同期整流用駆動回路40は、2個のMOSトランジスタ41、42を有する。MOSトランジスタ41は、Pチャンネル型でボディダイオード41aを有する。MOSトランジスタ42は、Nチャンネル型でボディダイオード42aを有する。
【0022】
2個のMOSトランジスタ41、42は、直流電源VCCから、MOSトランジスタ41、42を直列に接続した状態で、直流電源70を介してMOSトランジスタ1のソース端子に接続されている。MOSトランジスタ41および42の共通接続点はMOSトランジスタ1のゲートに接続される。
【0023】
制御回路50は、外部から与えられるオンオフの指示信号Sxに応じて、駆動回路20に対して制御信号S1~S4を出力してMOSトランジスタ1のオンオフ駆動制御を行う。この場合、制御回路50は、通常の駆動制御においては通常用駆動回路30にオンオフの制御信号S1またはS3を出力して通常すなわち低速スイッチング制御を行い、同期整流判定回路60から同期整流のハイレベルの判定信号Syが与えられた状態では、同期整流時と判断して、同期整流用駆動回路40にオンオフの制御信号S2またはS4を出力して同期整流時の高速スイッチング制御を行う。
【0024】
同期整流判定回路60は、制御対象であるMOSトランジスタ1のドレイン端子Dのドレイン電圧Vdsおよびゲート端子Gのゲート電圧Vgsを入力し、これらの電圧レベルに応じて通常動作の通常モードであるか同期整流動作の同期整流モードであるかを判断し、同期整流モードである場合には、同期整流のハイレベルの判定信号Syを制御回路50に出力する。
【0025】
次に、上記構成の作用について、
図2および
図3も参照して説明する。
MOSトランジスタ1および2のそれぞれに対応して設けられたゲート駆動装置10は、それぞれ外部からオンオフの指示信号Sxが与えられ、交互にオンオフ駆動動作をさせるように構成されている。この場合、負荷であるコイル3への通電および断電で通常の通電が行われる状態と、同期整流が行われる状態とがある。
【0026】
例えば、上アームのMOSトランジスタ2をオン駆動している状態では、直流電源からMOSトランジスタ2を通じてコイル3に通常動作により通電される。この後、MOSトランジスタ2がオフ駆動されると、コイル3には電流が流れ続けようとするため、オフ状態のMOSトランジスタ1のボディダイオード1aを通じて負電位側から電流が流れる状態となる。
【0027】
この状態では、MOSトランジスタ1のドレイン電位は負電位となり、MOSトランジスタ1をオン駆動することでボディダイオード1aに流れる電流をオン抵抗の小さいMOSトランジスタ1側に流す同期整流状態とすることができる。これによってボディダイオード1aにかかる順方向電圧をMOSトランジスタ1のオン電圧に低下させることができる。
【0028】
同様に、下アームのMOSトランジスタ1をオン駆動している状態では、コイル3側からの電流がMOSトランジスタ1を通じて負電位側に通常動作により通電される。この後、MOSトランジスタ1がオフ駆動されると、コイル3には電流が流れ続けようとするため、オフ状態のMOSトランジスタ2のボディダイオード2aを通じてコイル3側から直流電源側に電流が流れる状態となる。
【0029】
この状態では、MOSトランジスタ2のドレイン電位はソース電位に対して負電位となり、MOSトランジスタ2をオン駆動することでボディダイオード2aに流れる電流をMOSトランジスタ2側に流す同期整流状態とすることができる。これによってボディダイオード2aにかかる順方向電圧をMOSトランジスタ2のオン電圧に低下させることができる。
【0030】
上記の同期整流動作を実行する場合に、本実施形態におけるゲート駆動装置10は、次のように動作する。ゲート駆動装置10は、MOSトランジスタ1、2が通常モードの場合には通常用駆動回路30により通常時の低速のスイッチング速度でゲート駆動を行い、同期整流モードでは同期整流用駆動回路40により通常時よりも高速のスイッチング速度でゲート駆動を行う。
【0031】
この場合、通常用駆動回路30は、直流電源VCCあるいは直流電源70による負電圧をそれぞれ抵抗33あるいは34を介した状態でMOSトランジスタ1のゲートに与える通常モードで動作するものである。通常モードでの駆動能力は第1駆動能力に相当する。
【0032】
また、同期整流用駆動回路40は、直流電源VCCあるいは直流電源70による負電圧を、抵抗を介すことなく直接MOSトランジスタ1のゲートに与える同期整流モードで動作するものである。同期整流モードでの駆動能力は通常モードの駆動能力よりも高く設定され第2駆動能力に相当している。
【0033】
ここで、同期整流モードでは、MOSトランジスタ1に内蔵されたボディダイオード1aを通じて電流が流れることで、ダイオードの順方向電圧Vfが発生するので、通電時間が長くなると損失が増大する。このため、同期整流モードでは、制御回路50により、同期整流用駆動回路40から駆動制御することで、MOSトランジスタ1を高速スイッチング動作させてオン状態とすることで、ボディダイオード1aへの通電時間を極力低減するようにしている。
【0034】
同期整流判定回路60は、上記の動作切り換えを行うために、MOSトランジスタ1の動作状態が通常モードであるか同期整流モードであるかを判定する。同期整流判定回路60は、上アームのMOSトランジスタ2がオフとなり、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vdsがローレベル(L)になった後、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsがしきい値電圧Vth以下のローレベルになった時点で、同期整流モードと判断してハイレベルの判定信号Syを制御回路50に出力する。
【0035】
制御回路50は、これを受けて、駆動回路20の同期整流用駆動回路40に対して、駆動信号S2またはS4を出力してMOSトランジスタ1をオンまたはオフさせて同期整流動作を行わせる。このとき、MOSトランジスタ1は、同期整流用駆動回路40により抵抗を介すことなく高速スイッチング動作させるので、急速にゲート電位を変化させることができ、オン/オフの駆動が迅速に行われる。
【0036】
図2は、制御回路50による駆動回路20の駆動制御に際して、これに先立って実施するモード判定処理の流れを示している。制御回路50は、上記の判定処理をオンオフの指示信号Sxが与えられる毎に実施する。制御回路50は、MOSトランジスタ1の駆動モードとして、高速スイッチング制御を行うか低速スイッチング制御を行うかを同期整流判定回路60からの同期整流の判定信号Syに基づいて実施する。
【0037】
制御回路50は、ステップS100で、モード判定を行い、ハイレベルの判定信号Syが与えられた同期整流モードか、ハイレベルの判定信号Syが与えられていない通常モードかを判定する。制御回路50は、ステップS100でYESの場合には、ステップS110に移行し、高速スイッチング制御を実施する。また、制御回路50は、ステップS100でNOの場合には、ステップS120に移行し、通常スイッチング制御を実施する。
【0038】
図3は、MOSトランジスタ1および2がオンオフ指示信号Sxに応じて動作する場合におけるゲート駆動装置10の各部の信号変化の状態を示すタイミングチャートである。
図3に示す状態を、下アームのMOSトランジスタ1が通常側から同期整流側に移行するもので、上アームのMOSトランジスタ2が通常側である場合で説明する。
【0039】
また、タイミングチャートでは、MOSトランジスタ2に対応して設けられたゲート駆動装置10の波形も対比して示している。なお、
図3中、太実線は本実施形態の特性を示しており、破線は比較のために示す従来相当の特性波形を示している。
【0040】
図3に示す状態で、時刻t0以前においては、通常側のMOSトランジスタ2がオン状態であってコイル3に直流電源から通電をしている状態であり、MOSトランジスタ1はオフ状態である。この状態では、MOSトランジスタ2に対して上アーム側のゲート制御装置10により、オン状態となるように駆動制御している。
【0041】
また、MOSトランジスタ1に対して下アーム側のゲート駆動装置10の制御回路50により、駆動回路20にハイレベルのオフ信号S3を出力して通常駆動回路30のMOSトランジスタ31がオン駆動されている。また、他の信号S1、S2、S4はローレベルであり、MOSトランジスタ32、同期整流用駆動回路40のMOSトランジスタ41、42はオフ状態に保持されている。なお、この状態では上下アームの2つのMOSトランジスタ1、2はいずれも通常状態で制御された状態である。
【0042】
次に、時刻t0で通常側のMOSトランジスタ2が指示信号Sxによってオフ駆動されると、この時点からMOSトランジスタ2のゲート電圧Vgsが低下してゆき、時刻t1でオフ状態に移行する。MOSトランジスタ2がオフ状態に移行することに伴い、ドレイン電圧Vdsは上昇していく。これによってMOSトランジスタ2のソース電位すなわち下アームのMOSトランジスタ1のドレインはグランドレベルに向かって低下する。
【0043】
一方、下アームのゲート駆動装置10は、この時点t1までMOSトランジスタ1のゲートにオフ状態の駆動信号を与えているので、時刻t1で同期整流判定回路60は同期整流モードの判定をしてハイレベルの判定信号Syを制御回路50に出力する。この時点t1から、コイル3側に流れようとする電流は、MOSトランジスタ1側のボディダイオード1aを通じて順方向電流Ifとして流れるようになる。また、ボディダイオード1aに電流Ifが流れることで、その順方向電圧Vf分だけドレイン電圧Vdsは負の電位となる。
【0044】
制御回路50は、この後、デッドタイムを経て時刻t2でオン指示の駆動信号Sxが与えられると、同期整流モードの判定信号Syが与えられていることから、MOSトランジスタ1のゲート駆動を同期整流用駆動回路40により制御する。制御回路50は、同期整流用駆動回路40のMOSトランジスタ41をオン駆動してボディダイオード1a側に流れていた電流IfをMOSトランジスタ41にソースからドレインに向けて逆方向の電流Isd流すことで同期整流を行う。
【0045】
このとき、同期整流用駆動回路40は、MOSトランジスタ41から抵抗を介することなくMOSトランジスタ1のゲートに通電するので、高速スイッチング動作を行わせることができる。これは、同期整流モードでのスイッチング時には、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vdsがボディダイオード1aの順方向電圧Vfであるため低く、高速スイッチングを行ってもサージ電圧やdV/dtがMOSトランジスタ1の耐量を超えることがないからである。
【0046】
この結果、MOSトランジスタ1は、時刻t3でオン状態に移行し、ボディダイオード1aに流れる電流Ifは短期間(t1-t3間)に抑えることができる。これにより、斜線領域で示している電流Ifが流れる期間で発生する損失を小さくすることができる。
【0047】
なお、
図3中に破線で示しているように、高速スイッチングを行わない場合には、MOSトランジスタ1のゲート電圧Vgsの立ち上がりが遅く、これによってボディダイオード1aに流れる電流Ifの時間が長くなり、この期間中に発生する損失が本実施形態の場合よりも大きいことがわかる。
【0048】
この後、制御回路50は、MOSトランジスタ1のオン期間が終了する時刻t4でオフ指示の駆動信号Sxが与えられると、同期整流モードの判定信号Syが与えられた状態であるので、MOSトランジスタ1の駆動を同期整流用駆動回路40によりオフ駆動制御する。制御回路50は、同期整流用駆動回路40のMOSトランジスタ41をオフ駆動するとともに、MOSトランジスタ42をオン駆動する。
【0049】
このとき、同期整流用駆動回路40は、MOSトランジスタ42から抵抗を介することなくMOSトランジスタ1のゲートに接続するので、ゲート電荷を急速に放電して高速スイッチング動作を行わせることができる。この結果、MOSトランジスタ1は、時刻t5でオフ状態に移行し、ボディダイオード1aに流れる電流Ifは短期間(t4-t6間)に抑えることができる。これにより、斜線領域で示している電流Ifが流れる期間で発生する損失を小さくすることができる。
【0050】
次に、時刻t5で通常側のMOSトランジスタ2がオン/オフ指示によって通常制御によりオン駆動されると、この時点からゲート電圧Vgsが徐々に上昇してゆき、MOSトランジスタ2は時刻t6でオン状態に移行する。MOSトランジスタ2がオン状態に移行することに伴い、ドレイン電圧Vdsは低下していく。
【0051】
なお、MOSトランジスタ2がオン状態に移行した時刻t6から短期間MOSトランジスタ2のドレイン電流Idsは所定電流レベルよりも高くなるようにリカバリ電流が流れ、リカバリ電流が無くなると所定電流に戻る。
【0052】
このときのリカバリ電流のレベルは、MOSトランジスタ1のボディダイオード1aに流れた順方向電流Ifの通電時間に起因しており、
図4に示すように、通電時間が長いとボディダイオード1aに残留するキャリアが多くなるため大きくなる。この実施形態においては、ボディダイオード1aの電流Ifが流れる期間が短くなるので、リカバリ電流も少なくできている。
そして、制御回路50は、同期整流用駆動回路40によりMOSトランジスタ1をオフ駆動した後に、同期整流判定信号Syをリセットしてローレベルとする。
【0053】
以上のような同期整流時の動作に対して、同期整流判定回路60から通常モードであってハイレベルの判定信号Syが入力されない場合には、制御回路50は、駆動回路20の通常用駆動回路30を駆動制御してMOSトランジスタ1のオンオフ制御を実施する。これは、上アームのMOSトランジスタ2が同期整流状態でオンしている状態からオフ状態に移行し、この後、下アームのMOSトランジスタ1を通常動作でオン駆動する場合である。
【0054】
この場合には、同期整流判定回路60においては、MOSトランジスタ1のドレイン電圧Vdsがハイレベルの状態が保持されているので、通常モードの状態を判定し、ローレベルの判定信号Syの状態を保持する。制御回路50は、オン動作の指示Sxを受けると、これに応じて、駆動回路20の通常用駆動回路30のMOSトランジスタ31もしくは32を駆動してMOSトランジスタ1のオンオフ制御を実施する。
【0055】
通常用駆動回路30によりMOSトランジスタ31あるいは32がオン駆動されると、いずれも抵抗33あるいは34を介してMOSトランジスタ1のゲートに通電されるので、同期整流モードの高速スイッチングに比べて低速でスイッチングする。これにより、MOSトランジスタ1に高電圧が印加された状態である場合には、サージ電圧やdV/dtが耐量を超えないスイッチング速度で駆動させることができる。
【0056】
このような本実施形態によれば、同期整流判定回路60を設け、同期整流モードであるか否かを判定し、同期整流モードでは同期整流用駆動回路40を用いてMOSトランジスタ1を迅速に駆動することができ、この間にボディダイオード1aに流れる電流Ifを極力低減することができる。これによって、ボディダイオード1aによる損失やリカバリ電流を低減することができる。
【0057】
また、従来方式において設定するデッドタイムは、使用するMOSトランジスタ1、2のスイッチング速度の素子ばらつきを考慮して決める必要があるため、従来では
図5に示しているように、ばらつきに応じてスイッチング時間に大きく差が生ずる結果、マージンを長い時間に設定する必要があった。
【0058】
これに対して、本実施形態では、同期整流モードにおいては高速スイッチング動作をさせるので、スイッチング速度にばらつきがある場合でも、同じく
図5に示しているように、短期間の範囲にすることができ、これによって、設定するマージンも小さくして全体としてデッドタイムを短くすることができ、ボディダイオード1a、2aへの通電時間を短縮することができる。
【0059】
さらに、同期整流モードが終了すると、制御回路50により通常モードに戻すようにして、キャリア毎に同期整流判定回路60により同期整流のモード判定を行うようにしているので、通常モードで誤って高速スイッチング動作が行われることがなくなる。
【0060】
(第2実施形態)
図6は第2実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ゲート駆動装置10aは、駆動回路20に代わる駆動回路20aおよび制御回路50に代わる制御回路50aを備える。駆動回路20aは、通常用駆動回路30と可変電圧直流電源21、22を備える構成である。通常用駆動回路30の一方の給電端子には可変電圧直流電源21の正極が接続され、他方の給電端子は可変電圧直流電源22の負極が接続される。可変電圧直流電源21および22は共通接続点がグランドに接続される。
【0061】
可変電圧直流電源21および22は、通常動作においては第1実施形態と同等の電圧を出力するように設けられ、同期整流判定回路60からハイレベルの同期整流判定信号Syが与えられると大きい電圧の設定状態となるように変更設定される。制御回路50aは、オンオフ指令の信号Sxに応じて駆動回路30に駆動信号S1またはS3を出力して、MOSトランジスタ31または32をオンオフの駆動制御を行う。
【0062】
この場合、通常時の駆動では、第1実施形態と同様に抵抗33あるいは34を介してMOSトランジスタ1のゲートに通電され、低速スイッチング動作が行われる。また、同期整流時の駆動では、抵抗33あるいは34を介してMOSトランジスタ1のゲートに通電されるが、このときの印加電圧が同期整流判定回路60により設定された通常時のVCCあるいはVEEよりも大きい電圧が印加されるので、抵抗を介さない状態と同等の駆動能力に設定することができ、高速スイッチング動作が行われる。
したがって、このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0063】
(第3実施形態)
図7は第3実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ゲート駆動装置10bは、駆動回路20に代わる駆動回路20bを備える。駆動回路20bは、通常用駆動回路30bおよび同期整流用駆動回路40bを備える。
【0064】
駆動回路20bにおいて、通常用駆動回路30bは、2個の定電流回路35、36および2個のスイッチ37、38を有する。2個の定電流回路35、36は、通常駆動時に対応した第1駆動能力でMOSトランジスタ1のゲートを駆動する定電流をそれぞれスイッチ37、38がオン状態で供給するように設定されている。スイッチ37、38は制御回路50からの駆動信号S1、S3によりオンオフの駆動制御がなされる。
【0065】
同期整流用駆動回路40bは、2個の定電流回路43、44およびスイッチ45、46を有する。2個の定電流回路43、44は、同期整流駆動時に対応した第2駆動能力でMOSトランジスタ1のゲートを駆動する定電流をそれぞれスイッチ45、46がオン状態で供給するように設定されている。スイッチ45、46は制御回路50からの駆動信号S2、S4によりオンオフの駆動制御がなされる。
【0066】
上記構成とすることにより、通常時の駆動では、通常用駆動回路30bにより第1駆動能力でMOSトランジスタ1のゲートに通電され、低速スイッチング動作が行われる。また、同期整流時の駆動では、同期整流用駆動回路40bにより第2駆動能力でMOSトランジスタ1のゲートに通電され、高速スイッチング動作が行われる。
したがって、このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
(第4実施形態)
図8は第4実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ゲート駆動装置10cは、駆動回路20に代わる駆動回路20cおよび制御回路50に代わる制御回路50aを備える。駆動回路20cは、可変電流源23、24およびスイッチ25、26を備える構成である。
【0068】
可変電流源23および24は、通常モードの動作においては第1駆動能力の電流値で通電するように設けられ、同期整流判定回路60から同期整流モードのハイレベルの判定信号Syが与えられると同期整流モードの第2駆動能力の電流値で通電するように変更設定される。制御回路50aは、オンオフの指令信号Sxに応じて駆動回路20cに駆動信号S1またはS3を出力して、スイッチ25または26に対してオンオフの駆動制御を行う。
【0069】
上記構成とすることにより、通常モードの駆動では、可変電流源23あるいは24により第1駆動能力でMOSトランジスタ1のゲートに通電され、低速スイッチング動作が行われる。また、同期整流モードの駆動では、可変電流源23あるいは24により設定される第2駆動能力の電流でMOSトランジスタ1のゲートに通電され、高速スイッチング動作が行われる。
したがって、このような第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0070】
(第5実施形態)
図9から
図12は第5実施形態を示すもので、以下、第1から第4実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、
図9から
図12に示す構成は、それぞれ第1実施形態から第4実施形態と同等の方式で制御するもので、この場合に、同期整流判定信号が、同期整流判定回路60ではなく、オンオフの指示信号Sxを指示する外部のマイコンなどから与えられる場合に対応している。
【0071】
図9に示すゲート駆動装置10dは、第1実施形態のゲート駆動装置10に対して同期整流判定回路60を省いた構成としており、外部から与えられる同期整流モードの判定信号Syに基づいて動作するものである。制御回路50bによる制御動作については、第1実施形態と同様である。
【0072】
図10に示すゲート駆動装置10eは、第2実施形態のゲート駆動装置10aに対して同期整流判定回路60を省いた構成としており、外部から与えられる同期整流モードの判定信号Syに基づいて動作するものである。制御回路50aによる制御動作については、第2実施形態と同様である。
【0073】
図11に示すゲート駆動装置10fは、第3実施形態のゲート駆動装置10bに対して同期整流判定回路60を省いた構成としており、外部から与えられる同期整流モードの判定信号Syに基づいて動作するものである。制御回路50による制御動作については、第3実施形態と同様である。
【0074】
図12に示すゲート駆動装置10gは、第4実施形態のゲート駆動装置10cに対して同期整流判定回路60を省いた構成としており、外部から与えられる同期整流モードの判定信号Syに基づいて動作するものである。制御回路50による制御動作については、第4実施形態と同様である。
したがって、上記した第5実施形態においても、第1から第4実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0075】
(第6実施形態)
図13は第6実施形態を示すもので、以下、第1実施形態と異なる部分について説明する。この実施形態では、ゲート駆動装置10hは、制御対象となるMOSトランジスタ1をオフ状態に保持するためのオフ保持回路80を備えた構成を対象としている。
【0076】
この実施形態では、ゲート駆動装置10hは、駆動回路20dとして、通常用駆動回路30よび同期整流用駆動回路40cを備えている。通常用駆動回路30は、第1実施形態と同じ構成であり、同期整流用駆動回路40cは、第1実施形態の同期整流用駆動回路40のうちの一方のMOSトランジスタ41のみを備えた構成とし、MOSトランジスタ42は省略した構成としている。
【0077】
オフ保持回路80は、同期整流用駆動回路40で設けていたMOSトランジスタ42と同等のNチャンネル型のMOSトランジスタ81を備え、ドレインはMOSトランジスタ1のゲートに接続され、ソースは負電源となる直流電源70を介してグランドに接続される。オフ保持回路80は、MOSトランジスタ1を通常動作によりオフ駆動した後、オフ状態を保持するため、MOSトランジスタ1のゲートをソースよりも負電圧に保持して確実にオフ状態を保持するようにした回路である。
【0078】
上記構成において、オフ保持回路80は、同期整流モードでの動作によりMOSトランジスタ1をオフ駆動する場合と同等の駆動能力つまり第2駆動能力で通電するので、同期整流モードでの動作時にオフ保持回路80を動作させることで、高速スイッチング動作を行うことができる。
【0079】
このような第6実施形態によっても第1実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、ゲート駆動装置10hがオフ保持回路80を有する構成であることを利用して同期整流時のオフ動作を行わせることができるので、同期整流駆動回路40cの構成を1個のMOSトランジスタ41で構成することができる。
【0080】
(他の実施形態)
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば、以下のように変形または拡張することができる。
【0081】
半導体スイッチング素子として、MOSトランジスタは、炭化シリコン(SiC)のものを用いた例としたが、一般的なシリコン(Si)製のものに適用することもできるし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのゲート駆動型のスイッチング素子に適用することができる。
【0082】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0083】
図面中、1、2はMOSトランジスタ、1a、2aはボディダイオード、3はコイル(負荷)、10、10a~10hはゲート駆動装置、20、20a~20dは駆動回路、21、22は可変電圧直流電源、23、24は可変電流源、30、30a、30bは通常用駆動回路、40、40a~40cは同期整流用駆動回路、50、50a~50cは制御回路、60は同期整流判定回路、70は直流電源、80はオフ保持回路である。