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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/00 20060101AFI20241112BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B28C7/00
B28C7/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021030336
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131401
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】阿武 稔也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸一
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-298737(JP,A)
【文献】特表2016-510274(JP,A)
【文献】特開2016-002747(JP,A)
【文献】特開2014-213479(JP,A)
【文献】特開2020-163821(JP,A)
【文献】特開平11-324324(JP,A)
【文献】特開2019-081311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 1/00 - 9/04
C04B 28/00 - 28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び炭酸含有水を含むセメント組成物の製造方法であって、
上記炭酸含有水に、上記セメントの一部である、上記セメントの全量(100質量%)中の1.2~20.0質量%の量のセメントを供給する第一の供給工程と、
上記第一の供給工程の後に、上記炭酸含有水と上記セメントの一部を混合して、pHが7.0以上である混合物を得る第一の混合工程と、
上記第一の混合工程で得られた上記混合物に、上記セメントの残部を供給する第二の供給工程と、
上記第二の供給工程の後に、上記混合物と上記セメントの残部を混合して、セメント組成物を得る第二の混合工程と
を含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
上記セメント組成物が骨材を含み、
上記第一の混合工程、及び、上記第二の混合工程の少なくともいずれか一方の工程において、さらに上記骨材を混合する請求項1に記載のセメント組成物の混合方法。
【請求項3】
上記第一の混合工程で得られた上記混合物のpHが7.0~11.5である請求項1又は2に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。
これに関して、セメント製造工場で発生する排ガスから回収された二酸化炭素を、コンクリート等に固定化する技術が検討されている。
例えば、特許文献1には、粉体成分として、γ-CS(記号γ)、製鋼スラグ粉末(記号B)の1種または2種と、ポルトランドセメント(記号C)を含有し、上記γ、B、Cの合計含有量に占めるγ、Bの合計が25~95質量%であり、水セメント比W/Cが80~250%である配合のコンクリート混練物を型枠に打設し、脱型後に当該コンクリートの固化体に通気可能な1または2以上の孔を穿ち、そのコンクリート固化体をCO濃度5~95%の雰囲気中で炭酸化養生することにより表面(前記孔内部の表面を除く)から深さ20mm以上の部位(ただし肉厚が20mm未満の部分は肉厚全体)に炭酸化領域を形成させるとともに、前記孔内部の表面からも炭酸化領域を形成させる、CO吸収プレキャストコンクリートの製造方法が記載されている。該方法では、炭酸化養生において、工場や施設から排出される燃焼排ガスを利用することができ、二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0003】
また、コンクリートに炭酸ガスを混合、固定化する方法として、特許文献2には、コンクリートへ炭酸ガスを混合するための混合方法であって、炭酸ガス貯留施設から圧送される液化炭酸ガスの圧力を低下制御して粉末状ドライアイスとした後に、この粉末状ドライアイスをコンクリート中に吹き出して混合することを特徴とするコンクリートへの炭酸ガスの混合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-168436号公報
【文献】特開平11-324324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート等に二酸化炭素を固定化する目的で、コンクリート等の製造において、炭酸水等の二酸化炭素を含む水を使用した場合、セメント組成物の流動性が著しく低下するという問題がある。
本発明の目的は、二酸化炭素を含む水を用いた場合であっても、流動性に優れ、かつ、より多くの二酸化炭素が固定化されたセメント組成物を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭酸含有水に、セメントの一部である、セメントの全量(100質量%)中の1.2~20.0質量%の量のセメントを供給する工程と、炭酸含有水とセメントの一部を混合して、pHが7.0以上である混合物を得る工程と、混合物に、セメントの残部を供給する工程と、混合物とセメントの残部を混合して、セメント組成物を得る工程とを含むセメント組成物の製造方法によれば、上記目的を達成できること見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] セメント及び炭酸含有水を含むセメント組成物の製造方法であって、上記炭酸含有水に、上記セメントの一部である、上記セメントの全量(100質量%)中の1.2~20.0質量%の量のセメントを供給する第一の供給工程と、上記第一の供給工程の後に、上記炭酸含有水と上記セメントの一部を混合して、pHが7.0以上である混合物を得る第一の混合工程と、上記第一の混合工程で得られた上記混合物に、上記セメントの残部を供給する第二の供給工程と、上記第二の供給工程の後に、上記混合物と上記セメントの残部を混合して、セメント組成物を得る第二の混合工程とを含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
[2] 上記セメント組成物が骨材を含み、上記第一の混合工程、及び、上記第二の混合工程の少なくともいずれか一方の工程において、さらに上記骨材を混合する前記[1]に記載のセメント組成物の混合方法。
[3] 上記第一の混合工程で得られた上記混合物のpHが7.0~11.5である前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント組成物の製造方法によれば、二酸化炭素を含む水を用いた場合であっても、流動性に優れ、かつ、より多くの二酸化炭素が固定化されたセメント組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント及び炭酸含有水を含むセメント組成物の製造方法であって、炭酸含有水に、上記セメントの一部である、上記セメントの全量(100質量%)中の1.2~20.0質量%の量のセメントを供給する第一の供給工程と、第一の供給工程の後に、炭酸含有水とセメントの一部を混合して、pHが7.0以上である混合物を得る第一の混合工程と、第一の混合工程で得られた混合物に、セメントの残部を供給する第二の供給工程と、第二の供給工程の後に、混合物とセメントの残部を混合して、セメント組成物を得る第二の混合工程とを含むものである。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0009】
[第一の供給工程]
本工程は、炭酸含有水に、本発明の製造方法で製造されるセメント組成物に含まれるセメントの一部である、上記セメントの全量(100質量%)中の1.2~20.0質量%の量のセメントを供給する工程である。
ここで、本明細書中、炭酸含有水とは、炭酸ガス(気体の二酸化炭素)を含む水を意味する。具体的には、炭酸水、二酸化炭素無気泡溶解水、ドライアイスを水に投入し飽和させてなる水、炭酸ガスを含む気泡を有する二酸化炭素ファインバブル水(例えば、二酸化炭素マイクロバブル水、二酸化炭素ウルトラファインバブル水等)等が挙げられる。
炭酸水は、例えば、高圧下で水に炭酸ガスを吹き込む方法によって得ることができる。
二酸化炭素無気泡溶解水は、例えば、常圧下で水に炭酸ガスを吹き込む方法によって得ることができる。
上記炭酸ガスや、ドライアイスの原料として用いられる炭酸ガスとして、セメント製造等において発生した排ガスから二酸化炭素を分離回収したガス等を用いてもよい。該ガスを用いることで、セメント製造等における二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0010】
ファインバブル水とは、気泡を含み、かつ、該気泡の全体積(100体積%)中、100μm未満の粒径を有する気泡の割合が50体積%以上である水である。
炭酸ガスを含む気泡を有する二酸化炭素ファインバブル水としては、気泡の全体積(100体積%)中、1μm未満の粒径を有する気泡の割合が50体積%以上である二酸化炭素ウルトラファインバブル水、気泡の全体積(100体積%)中、1μm以上、100μm未満の粒径を有する気泡の割合が50体積%以上である二酸化炭素マイクロバブル水等が挙げられる。
上記気泡を構成する気体は炭酸ガスを含むものである。上記気泡を構成する気体中の炭酸ガスの含有率は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは20体積%以上、特に好ましくは40体積%以上である。該含有率が5体積%以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより多くすることができる。上記気泡を構成する気体として、セメント製造等において発生した排ガスや、該排ガスから二酸化炭素を分離回収したガス等を用いてもよい。上記排ガスや、上記排ガスから二酸化炭素を分離回収したガス等を用いることで、セメント製造等における二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【0011】
炭酸含有水中の炭酸ガスの量は、好ましくは500~10,000mg/リットル、より好ましくは1,000~9,000mg/リットル、さらに好ましくは1,500~8,000mg/リットル、特に好ましくは3,000~7,000mg/リットルである。該濃度が500mg/リットル以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより多くすることができる。該量が10,000mg/リットル以下であれば、セメント組成物を混合する際のpHが過度に低くならず、セメント組成物の流動性の低下を防ぐことができる。
炭酸含有水の量は、ペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物における一般的な水の量であればよく、例えば、炭酸含有水とセメントの質量比(炭酸含有水/セメント)が0.2~0.6となる量である。
【0012】
上記セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本工程において、炭酸含有水に供給されるセメントの一部の量は、セメント組成物に含まれるセメントの全量(100質量%)中、1.2~20.0質量%、好ましくは1.3~18.0質量%、より好ましくは1.4~16.0質量%、さらに好ましくは1.8~12.0質量%、特に好ましくは2.5~8.0質量%の量である。上記量が1.2質量%未満であると、第一の混合工程で得られる混合物のpHが7.0未満となる場合があり、セメントの全量と炭酸含有水を混合した場合と比較して、セメント組成物の流動性が向上する効果が小さくなる。上記量が20.0質量%を超える場合、セメント組成物の流動性及び強度発現性が低下する。
本工程において、炭酸含有水にセメントの一部を供給する方法は特に限定されず、例えば、ミキサ等に炭酸含有水を投入した後、セメントの一部を投入してもよく、ミキサ等に炭酸含有水とセメントの一部を同時に投入してもよい。
【0014】
[第一の混合工程]
本工程は、第一の供給工程の後に設けられる工程であって、炭酸含有水とセメントの一部を混合して、pHが7.0以上である混合物を得る工程である。
炭酸含有水とセメントの一部を混合してなる混合物のpHは、7.0以上、好ましくは7.2~11.5、より好ましくは7.6~11.3、さらに好ましくは8.5~11.0、特に好ましくは9.0~10.7である。上記pHが7.0未満であると、セメントの全量と炭酸含有水を混合した場合と比較して、セメント組成物の流動性が向上する効果が小さくなる。
また、上記混合は、前工程において、炭酸含有水にセメントの一部を供給した後から、好ましくは5秒間以上、より好ましくは8~30秒間、特に好ましくは10~20秒間行われる。上記混合を5秒間以上行うことで、セメント組成物の流動性をより向上することができる。
【0015】
[第二の供給工程]
本工程は、前工程で得られた混合物に、セメントの残部を供給する工程である。セメントの残部とは、本発明の製造方法で製造されるセメント組成物に含まれるセメントの全量から、第一の供給工程で使用されたセメントの量を減じた量のセメントである。
[第二の混合工程]
本工程は、第二の供給工程の後に設けられる工程であって、第一の混合工程で得られた混合物とセメントの残部を混合してセメント組成物を製造する工程である。
【0016】
本発明において製造の対象となるセメント組成物は、骨材を含まないペーストであってもよく、骨材を含むモルタル又はコンクリートであってもよい。
セメント組成物に含まれる骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。また、天然骨材、人工骨材、再生骨材のいずれも用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材、またはこれらの混合物等が挙げられる。
粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材、又はこれらの混合物等が挙げられる。
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は特に限定されず、モルタルやコンクリートにおける一般的な配合量であればよい。
【0017】
セメント組成物が骨材を含む場合、第一の混合工程及び第二の混合工程の少なくともいずれか一方の工程において、他の材料と骨材を混合すればよい。
例えば、第一の混合工程において骨材を混合する場合、炭酸含有水とセメントの一部と骨材を混合する。各材料の混合方法は、特に限定されるものではなく、炭酸含有水とセメントの一部を混合した後、骨材を添加して混合してもよく、炭酸含有水とセメントの一部と骨材を、同時に混合してもよい。
また、第二の混合工程において骨材を混合する場合、第一の混合工程で得られた混合物とセメントの残部と骨材を混合する。各材料の混合方法は、特に限定されるものではなく、上記混合物とセメントの残部を混合した後、骨材を添加して混合してもよく、上記混合物とセメントの残部と骨材を、同時に混合してもよい。
また、骨材を、第一の混合工程と第二の混合工程の二回に分けて混合してもよい。
中でも、製造の容易性等の観点から、第二の混合工程において、上記混合物とセメントの残部を混合した後に、骨材を添加して混合する方法が好ましい。
【0018】
また、セメント組成物は、必要に応じて他の材料を含んでいてもよい。必要に応じて含まれる他の材料としては、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤等の各種混和剤や、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等の各種混和材等が挙げられる。他の材料の混合方法は、特に限定されないが、各種混和材については、第一の混合工程で得られる混合物のpHに影響を与えない観点から、第二の混合工程において混合されることが好ましい。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメント
(2)水;炭酸水(炭酸ガスの量:6,000mg/リットル)
(3)細骨材;山砂
(4)AE減水剤;ポゾリス社製、商品名「マスターポリヒード 15SR」
【0020】
[実施例1~6]
使用するセメント100質量%中、表1に示す割合となる量のセメント(セメントの一部)と、予め、AE減水剤を混合してなる炭酸水をミキサに同時に投入した後、10秒間混合して、pHが表1に示す数値(表1中、「セメントの一部投入後」と示す。)である混合物を得た。なお、セメントの一部を投入する前の炭酸水のpHは4.7であった。次いで、ミキサ内の混合物に、セメントの残部(セメント100質量%から、表1に示す割合を減じた割合の量のセメント)を投入した後、30秒間混合して、混合物を得た。次いで、ミキサ内の混合物に細骨材を投入して、30秒間混合した後、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とし、さらに60秒間混合してモルタルを製造した(表1中、上述したモルタルの製造方法を、混練方法「II」と示す。)。なお、上記混合は、20℃の環境下で行った。
また、各材料の配合量は、炭酸水とセメントの質量比(炭酸水/セメント)が0.5となり、細骨材とセメントの質量比(細骨材/セメント)が2.44となる量にした。また、AE減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して1.0質量部となる量にした。
【0021】
得られたモルタルの混合終了直後、混合終了後30分経過時点、及び混合終了後60分経過時点における15打フロー値、並びに、材齢1日、7日、28日におけるモルタル圧縮強さを、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
また、モルタルに固定化されている二酸化炭素の質量を、モルタルに含まれるセメント1トン当たりの質量として、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を用いて求めた。具体的には、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)の測定結果から、550~800℃付近の吸熱ピーク範囲における質量の減少を、上記モルタルに含まれている炭酸カルシウムの脱炭酸によるものと判断し、上記減少の量から上記二酸化炭素の量を算出した。
【0022】
[比較例1]
セメントの全量と、予め、AE減水剤を混合してなる水をミキサに同時に投入した後、30秒間混合した。次いで、ミキサ内の混合物に細骨材を投入して、30秒間混合した後、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とし、さらに60秒間混合して、モルタルを製造した(表1中、上述したモルタルの製造方法を、混練方法「I」と示す。)。なお、セメントを投入する前の水のpHは8.0であり、上記混合は、20℃の環境下で行った。
また、各材料の配合量は、水とセメントの質量比(水/セメント)が0.5となり、細骨材とセメントの質量比(細骨材/セメント)が2.44となる量にした。また、AE減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して1.0質量部となる量にした。
得られたモルタルの15打フロー値等を実施例1と同様にして測定した。
【0023】
[比較例2]
水の代わりに炭酸水を使用する以外は、比較例1と同様にしてモルタルを製造した。
得られたモルタルの15打フロー値等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例3]
セメントの一部として、表1に示す割合となる量のセメントを用い、セメントの残部として、セメント100質量%から、表1に示す割合を減じた割合の量のセメントを用いる以外は実施例1と同様にしてモルタルを製造した。
得られたモルタルの15打フロー値等を実施例1と同様にして測定した。
【0024】
実施例1~6及び比較例1~3の各々について、15打フロー値、材齢1日、7日、及び28日におけるモルタル圧縮強さ、並びに、炭酸水から取り込まれてモルタルに固定化された二酸化炭素の量を表2に示す。
なお、実施例1~6及び比較例1~3において、TG-DTAの測定から算出した二酸化炭素量には、モルタルの原料であるセメントに含まれている石灰石の炭酸カルシウム由来のものも含まれている。
実施例1~6及び比較例1~3で用いられているセメントの種類及び量は同じであるため、比較例1の二酸化炭素の量(全て、セメントに含まれている石灰石由来のものであって、セメント1トン当たりの二酸化炭素の質量は、材齢1日で35.4kg、材齢7日で35.0kg、材齢28日で35.3kgである。)を、実施例1~6及び比較例2~3の各々の二酸化炭素の量から減ずることで、炭酸水から取り込まれてモルタルに固定化された二酸化炭素の量を算出することができる。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2から、比較例1と比較例2(水の代わりに炭酸水を用いる以外は比較例1と同様にしたもの)を比較すると、比較例2の15打フロー値(直後:178mm、30分経過後:163mm、60分経過後:159mm)は、比較例1の15打フロー値(直後:232mm、30分経過後:210mm、60分経過後:204mm)よりも小さく、水の代わりに炭酸水を用いた場合、セメント組成物の流動性が低下することがわかる。
一方、実施例1~6において、モルタルの15打フロー値(直後:195~230mm、30分経過後:187~216mm、60分経過後:175~199mm)は、比較例2(炭酸水を使用し、混練方法「I」によってモルタルを製造したもの)、及び、比較例3(セメントの一部として1.0質量%となる量のセメントを使用し、かつ、セメントの一部と炭酸水を混合した後のpHが6.7である以外は、実施例1~3と同様に混練方法「II」によってモルタルを製造したもの)の、モルタルの15打フロー値(直後:178~180mm、30分経過後:163~170mm、60分経過後:159~162mm)よりも大きく、本発明の製造方法によれば、炭酸水を用いているにも関わらず、セメント組成物の流動性を向上できることがわかる。
また、実施例1~6において、炭酸水から取り込まれてモルタルに固定化された、セメント1トン当たりの二酸化炭素の質量(1日:18.9~20.7kg/トン、7日:19.9~21.3kg/トン、28日:19.6~20.3kg/トン)は、比較例2~3において、炭酸水から取り込まれてモルタルに固定化された、セメント1トン当たりの二酸化炭素の質量(1日:12.7~14.9kg/トン、7日:13.4~15.6kg/トン、28日:12.8~14.5kg/トン)よりも大きいことがわかる。